以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両Vに動力源として搭載されたガソリンエンジンであり、その燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)3aによる燃料噴射動作や、点火プラグ(図示せず)による点火動作が、後述するECU2によって制御される(図9参照)。
図1に示すように、本発明の第1実施形態による動力伝達装置は、エンジン3と車両Vの駆動輪DW、DWとの間で動力を伝達するものであり、互いに並列に設けられた第1変速装置T1及び第2変速装置T2を備えている。
第1変速装置T1は、四節リンクの原理を応用した無段変速装置であり、エンジン3の動力を無段階に変速し、駆動輪DW、DWに伝達する。図2及び図3に示すように、第1変速装置T1は、互いに平行な入力軸11及び出力軸12と、入力軸11と出力軸12の間に設けられた複数の(本例では4つの)変速ユニット10を備えている。
入力軸11は、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)に直結され、同軸状に延びている。入力軸11には、中空の回転軸13が回転自在に嵌合しており、入力軸11と回転軸13の間には、変速アクチュエータ14が設けられている。この変速アクチュエータ14は、モータと遊星歯車機構(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、モータを回転させると、その回転角度に応じて、入力軸11に対する回転軸13の相対角度が変化するように構成されている。また、入力軸11に動力が伝達されると、回転軸13は、入力軸11に対する相対角度が保たれた状態で、入力軸11と一体に回転する。
出力軸12は、中空状のものであり、発進クラッチ5を介して差動装置DFに連結され、さらに左右のドライブシャフトDS、DSを介して、駆動輪DW、DWに連結されている(図1参照)。一方のドライブシャフトDSは、出力軸12の内部に同軸状に通されている。発進クラッチ5は、出力軸12と差動装置DFの間を、締結時に接続し、解放時に遮断する。図9に示すように、発進クラッチ5は、ECU2に接続されており、ECU2によって、発進クラッチ5の動作が制御される。
4つの変速ユニット10は、入力軸11に沿って並ぶように配置されており、互いに同じ構成を有する。各変速ユニット10は、入力軸11に一体に設けられた第1ピニオン15と、回転軸13に一体に設けられたキャリア16と、キャリア16に支持された2つの第2ピニオン17、17と、偏心ディスク18と、コネクティングロッド19を備えている。
キャリア16は、第1ピニオン15を取り囲むとともに、回転軸13から径方向の一方の側に偏って延びるクランク状のものである。図2に示すように、このキャリア16の回転軸13からの延び方向は、4つの変速ユニット10の間で互いに90°ずつずれている。例えば、図2において、最も左側のキャリア16は上方に延び、左から2つ目のキャリア16は図面の奥側に延び、左から3つ目のキャリア16は下方に延び、最も右側のキャリア16は図面の手前側に延びている。
第2ピニオン17、17は、第1ピニオン15と同じ径及び歯数を有し、キャリア16に一体に設けられたピニオンピン16a、16aに回転自在に支持されている。以上の構成により、第1ピニオン15及び第2ピニオン17、17は、入力軸11と垂直な平面内に、それらの3つの中心同士が正三角形を形成するように配置されている。
偏心ディスク18は、円形の偏心孔18aを有し、その周面にはリングギヤ18bが形成されている。第1ピニオン15及び第2ピニオン17、17は、偏心孔18a内に収容されるとともに、リングギヤ18bに噛み合っている。
コネクティングロッド19は、三角形状のロッド部19aと、ロッド部19aの一端側に設けられたリング部19bによって構成され、このリング部19bが、ボールベアリング20を介して偏心ディスク18の外周部に回転自在に嵌合している。
変速ユニット10はさらに、出力軸12側に、アウタリング21と、インナシャフト22と、ばね24及びローラ25を有するワンウェイクラッチ23と、を備えている。アウタリング21は、出力軸12の外側に回動自在に設けられており、コネクティングロッド19のロッド部19aの他端部に、ピン19cを介して回動自在に連結されている。
インナシャフト22は、出力軸12に一体に設けられ、アウタリング21の内側に配置されている。また、インナシャフト22は、外方に突出し、アウタリング21に接する4つの突部を有する。インナシャフト22とアウタリング21の間には、インナシャフト22の隣り合う各2つの突部によって形成されるL形の平面と、アウタリング21の内周の円弧面とによって、4つのくさび形の空間が画成されている。これらのくさび形空間に、ワンウェイクラッチ23のばね24及びローラ25がそれぞれ収容されており、ローラ25は、ばね24によって、くさび形空間のテーパ部側に付勢されている。
次に、上記の構成の第1変速装置T1の動作を説明する。まず、1つの変速ユニット10の動作について述べる。入力軸11が回転していない状態で変速アクチュエータ14のモータを回転させると、その回転角度に応じて、回転軸13が入力軸11に対して相対的に回転するのに伴い、回転軸13と一体のキャリア16、及びキャリア16に支持された第2ピニオン17、17が、入力軸11の軸線(以下「入力軸線」という)L1まわりに回転する。これに伴い、第1ピニオン15と第2ピニオン17、17によって形成される正三角形の中心(以下「キャリア中心」という)OCが、回転軸13と同じ角度だけ、入力軸線L1まわりに回転する。
その結果、第1ピニオン15及び第2ピニオン17、17にリングギヤ18bを介して係合する偏心ディスク18の偏心孔18aの中心もまた、回転軸13と同じ角度、回転し、それに伴い、偏心ディスク18の中心ODと入力軸線L1との距離、すなわち入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量Dが変更される。
例えば、図3及び図5は、偏心ディスク18の中心ODが、キャリア中心OCに対して、入力軸線L1と反対側にある状態を示している。この状態では、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量Dが最大になり、第1変速装置T1は、出力軸12の回転速度が最大で、変速比が最小であるトップ状態になる。一方、図4及び図6は、偏心ディスク18の中心ODが入力軸線L1に一致した状態を示している。この状態では、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量Dが0になり、第1変速装置T1は、出力軸12の回転速度が0で、変速比が無限大であるニュートラル状態になる。
次に、第1変速装置T1が図3のトップ状態に設定されているときの動作を、図5を参照しながら説明する。このトップ状態において、エンジン3の動力が伝達されるのに応じて、入力軸11が同図の反時計方向に回転すると、入力軸11と一体に第1ピニオン15が回転(自転)する。また、回転軸13は入力軸11と一体に回転し、それに伴い、キャリア16に支持された第2ピニオン17、17が、入力軸線L1のまわりを入力軸11と同じ方向に同じ速度で回転(公転)する。その結果、偏心ディスク18は、入力軸11が1回転するごとに、入力軸線L1のまわりを偏心しながら、反時計方向(矢印A方向)に1回転する。
図5(a)及び(c)は、偏心ディスク18の中心ODがアウタリング21から最も遠い位置及び最も近い位置にある状態をそれぞれ示している。入力軸11の回転に伴い、偏心ディスク18が上記の位置(a)から中間の位置(b)を経て位置(c)まで回転すると、その間に、偏心ディスク18に回転自在に嵌合するコネクティングロッド19は、アウタリング21側に移動し、先端部のピン19cを介してアウタリング21を押圧し、反時計方向(矢印B方向)に回動させる。
このようにアウタリング21が矢印B方向に回動すると、ワンウェイクラッチ23の各ローラ25が、アウタリング21とインナシャフト22の間のくさび形空間のテーパ部に噛み込むことによって、アウタリング21がインナシャフト22に接続される。これにより、アウタリング21の回転がインナシャフト22を介して出力軸12に伝達されることによって、出力軸12がアウタリング21と同じ反時計方向に回転する。
その後、入力軸11がさらに回転するのに伴い、偏心ディスク18が位置(c)から中間の位置(d)を経て位置(a)まで回転すると、その間に、コネクティングロッド19は、アウタリング21と反対側に移動し、ピン19cを介してアウタリング21を引っ張り、時計方向(矢印B’方向)に回動させる。
このようにアウタリング21が矢印B’方向に回動すると、ワンウェイクラッチ23の各ローラ25が、ばね24を圧縮しながら、くさび形空間のテーパ部から外れることによって、アウタリング21がインナシャフト22から遮断され、アウタリング21の回転は出力軸12には伝達されない。
以上のように、入力軸11の回転に伴い、偏心ディスク18が、入力軸線L1のまわりを偏心しながら回転することによって、コネクティングロッド19が往復運動し、アウタリング21が図5の位置(a)と位置(c)との間で揺動する。そして、ワンウェイクラッチ23により、アウタリング21が位置(a)から位置(c)に向かって反時計方向に回動するときのみ、入力軸11の回転が出力軸12に間欠的に伝達される。
一方、第1変速装置T1が図4のニュートラル状態に設定されているときには、偏心ディスク18の中心ODは入力軸線L1に一致しており、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量Dは0になっている。このため、図6に示すように、入力軸11の回転に伴い、キャリア16及び第2ピニオン17、17が回転するのに応じて、偏心ディスク18は入力軸線L1のまわりを回転するものの、偏心ディスク18の中心ODの位置はまったく変わらない。その結果、コネクティングロッド19の往復運動及びアウタリング21の揺動は生じないので、入力軸11の回転は出力軸12に伝達されず、出力軸12の回転速度は0になる。
以上の動作から明らかなように、偏心ディスク18の偏心量Dは、四節リンク機構の入力リンクの長さに相当し、この偏心量Dに応じて、アウタリング21の揺動角度が定まり、第1変速装置T1の変速比が定まる。したがって、変速アクチュエータ14のモータにより、入力軸11に対する回転軸13の相対角度を変更し、偏心ディスク18の偏心量Dを変更することによって、第1変速装置T1の変速比は、図3に示すトップ状態(最小変速比)と図4に示すニュートラル状態(無限大変速比)との間で、無段階に設定される。図9に示すように、変速アクチュエータ14は、ECU2に接続されており、ECU2によって、変速アクチュエータ14の動作が制御される。
また、前述したように、4つの変速ユニット10の間では、回転軸13からのキャリア16の延び方向、すなわち偏心ディスク18の位相が、互いに90°ずつずれている。このため、入力軸11から出力軸12への動力の伝達が、各変速ユニット10ではワンウェイクラッチ23によって間欠的に行われるものの、4つの変速ユニット10の間で交互に行われる結果、第1変速装置T1の全体として、入力軸11から出力軸12への動力の伝達が途切れなく連続的に行われる。
次に、前記第2変速装置T2について説明する。第2変速装置T2は、エンジン3と駆動輪DW、DWの間で動力を段階的に変速して伝達するものである。上述した第1変速装置T1の動作から明らかなように、駆動輪DW、DWからエンジン3への動力の伝達が、出力軸12とアウタリング21の間に設けられたワンウェイクラッチ23によって遮断される。このため、第2変速装置T2は、主として、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWにエンジンブレーキを作用させるべく、駆動輪DW、DWからエンジン3に動力を伝達するために用いられる。また、第1変速装置T1の故障時に、車両Vを走行させるべく、エンジン3から駆動輪DW、DWに動力を伝達するために用いられる。
図1及び図7に示すように、第2変速装置T2は、第1スプロケットSP1、第2スプロケットSP2及びチェーンCHと、互いに同軸状に設けられた第1回転軸51、第1遊星歯車装置61、第2遊星歯車装置71及び第3遊星歯車装置81を有している。第1〜第3遊星歯車装置61、71、81は、第1変速装置T1と差動装置DFの間に配置されており、左側からこの順で並んでいる。前述した第1変速装置T1の入力軸11及び出力軸12は、第2変速装置T2の入力軸及び出力軸として、それぞれ併用されている。なお、図7では、便宜上、チェーンCHを省略している。このことは、後述する他の実施形態の図32、図52、図75、図95及び図97についても同様である。
図1に示すように、第1スプロケットSP1は、入力軸11に同軸状に一体に設けられており、入力軸11及びエンジン3のクランクシャフトと一体に回転自在である。また、図1及び図7に示すように、第2変速装置T2の第1回転軸51は、中空に形成されており、その内部に、第1変速装置T1の出力軸12が回転自在に配置されている。さらに、第1回転軸51には、第2スプロケットSP2が同軸状に一体に設けられており、両者51、SP2は一体に回転自在である。第2スプロケットSP2は、前述した第1スプロケットSP1よりも大きな径を有しており、両スプロケットSP1、SP2には、チェーンCHが巻き掛けられている。
図7に示すように、第1遊星歯車装置61は、シングルピニオン式の遊星歯車装置であり、第1サンギヤ62と、第1サンギヤ62の外周に設けられた第1リングギヤ63と、両ギヤ62、63に噛み合う複数のピニオンギヤ64と、ピニオンギヤ64を回転自在に支持する、回転自在の第1キャリア65を有している。
また、第2遊星歯車装置71は、ダブルピニオン式の遊星歯車装置であり、第2サンギヤ72と、第2サンギヤ72の外周に設けられた第2リングギヤ73と、第2サンギヤ72に噛み合う複数の第1ピニオンギヤ74と、第1ピニオンギヤ74及び第2リングギヤ73に噛み合う複数の第2ピニオンギヤ75と、第1及び第2ピニオンギヤ74、75を回転自在に支持する、回転自在の第2キャリア76を有している。第2リングギヤ73の歯数と第2サンギヤ72の歯数との偏差に対する、第2サンギヤ72の歯数の比は、第1リングギヤ63の歯数に対する第1サンギヤ62の歯数の比よりも大きな値に設定されている。
第1及び第2サンギヤ62、72は、中空の第2回転軸52に同軸状に一体に設けられており、第2回転軸52と一体に回転自在である。第2回転軸52は、第1回転軸51と差動装置DFの間に位置し、第1回転軸51及び出力軸12と同軸状に配置されており、その内部に、第1変速装置T1の出力軸12が回転自在に配置されている。また、第1キャリア65は、フランジなどを介して出力軸12に同軸状に連結されており、第2リングギヤ73は、フランジなどを介して第1キャリア65に同軸状に連結されている。以上により、第2リングギヤ73、第1キャリア65及び出力軸12は、互いに一体に回転自在である。
前記第3遊星歯車装置81は、第2遊星歯車装置71と同様、ダブルピニオン式の遊星歯車装置であり、第3サンギヤ82と、第3リングギヤ83と、第3サンギヤ82に噛み合う複数の第1ピニオンギヤ84と、第1ピニオンギヤ84及び第3リングギヤ83に噛み合う複数の第2ピニオンギヤ85と、第1及び第2ピニオンギヤ84、85を回転自在に支持する、回転自在の第3キャリア86を有している。
第3サンギヤ82は、第1回転軸51に同軸状に一体に設けられており、第1回転軸51と一体に回転自在である。また、第3リングギヤ83は、フランジなどを介して、上記の第2回転軸52に同軸状に連結されており、第2回転軸52、第1及び第2サンギヤ62、72と一体に回転自在である。
また、第1リングギヤ63には第1ブレーキ91が、第2キャリア76には第2ブレーキ101が、それぞれ取り付けられている。第1ブレーキ91は、係合解除機構が設けられたローラ式のワンウェイクラッチを2つ組合わせ、これらの2つのワンウェイクラッチにより阻止される回転方向が互いに逆方向になるように構成されたものである。また、第2ブレーキ101は、係合解除機構が設けられたローラ式のワンウェイクラッチなどで構成されている。まず、構成がより単純な第2ブレーキ101について説明する。
図8に示すように、第2ブレーキ101は、インナー102、アウター103、複数のローラ104及び電磁石105を有している。なお、便宜上、図8では、ハッチングを省略している。インナー102は、第2キャリア76に同軸状に一体に設けられている。インナー102の外周部には、上記のローラ104と同じ数の凹部102aが形成されており、各凹部102aには、ローラ104と、ローラ104を周方向に付勢するための復帰ばね102bが収容されている。アウター103は、磁性材で構成され、リング状に形成されるとともに、ケースCAに回転自在に支持されており、インナー102の外周に、インナー102との間に若干の隙間を存した状態で設けられている。また、電磁石105は、ケースCAに一体に設けられており、アウター103と所定の間隙を存した状態で対向している。
以上の構成の第2ブレーキ101では、電磁石105に電流が供給されると、それにより電磁石105の電磁力が発生することによって、アウター103がケースCAに固定される。この状態では、第2ブレーキ101は、一般的な機械式のワンウェイクラッチとして機能する。具体的には、インナー102に正転させる動力が伝達されると、ローラ104が、インナー102の凹部102aの壁部とアウター103の内周面とに当接し、両者102、103に係合する(図8参照)。これにより、インナー102が、ローラ104及びアウター103を介して、ケースCAに接続されることによって、インナー102及びこれと一体の第2キャリア76の正転が阻止される。なお、図8は、インナー102の正転方向を太い矢印で示している。
一方、インナー102に逆転させる動力が伝達されると、ローラ104が、復帰ばね102bの付勢力に抗して凹部102a内を移動し、インナー102及びアウター103と係合しなくなり、それにより、インナー102とケースCAの間が遮断されることによって、インナー102及びこれと一体の第2キャリア76の逆転が許容される。
また、電磁石105への電流の供給が停止されると、アウター103がケースCAに対して回転自在になり、それにより、インナー102及びこれと一体の第2キャリア76の正転及び逆転の双方が許容される。以上のように、この第2ブレーキ101では、第2キャリア76の正転を阻止(制動)するとともに、逆転を許容する正転阻止動作と、第2キャリア76の回転(正転・逆転)を許容するために正転阻止動作を解除する解除動作を実行可能である。図9に示すように、第2ブレーキ101は、ECU2に接続されており、ECU2からの駆動信号が入力されているときには、上述した正転阻止動作を実行し、駆動信号が入力されていないときには、解除動作を実行する。
第1ブレーキ91は、前述したように係合解除機構が設けられたローラ式のワンウェイクラッチを2つ組合わせたものであり、その基本的な構成は第2ブレーキ101と同じであるので、以下、この第1ブレーキ91について簡単に説明する。第1ブレーキ91の各ワンウェイクラッチは、図示は省略するものの、第2ブレーキ101と同様、インナーや、アウター、ローラ、電磁石を有しており、インナーは、第1リングギヤ63に一体に設けられている。
図9に示すように、第1ブレーキ91は、ECU2に接続されており、ECU2からの第1及び第2駆動信号が第1ブレーキ91に入力されているときには、両方のワンウェイクラッチのアウターがケースCAに固定される。この場合、第1ブレーキ91が、前述したように2つのワンウェイクラッチにより阻止される回転方向が互いに逆方向になるように構成されているので、両方のワンウェイクラッチのインナー及びこれと一体の第1リングギヤ63の正転及び逆転の双方が阻止される。すなわち、この場合には、第1ブレーキ91は、第1リングギヤ63の正転及び逆転の双方を阻止する機械式のツーウェイクラッチとして機能する。
また、第1ブレーキ91に、第1駆動信号が入力されるとともに、第2駆動信号が入力されていないときには、一方のワンウェイクラッチのアウターがケースCAに固定されるとともに、他方のワンウェイクラッチのアウターがケースCAに対して回転自在になる。これにより、両方のワンウェイクラッチのインナー及びこれと一体の第1リングギヤ63の正転が阻止されるとともに、逆転が許容される。すなわち、この場合には、第1ブレーキ91は、第1リングギヤ63の正転のみを阻止する機械式のワンウェイクラッチとして機能する。
また、第1ブレーキ91に、第2駆動信号が入力されるとともに、第1駆動信号が入力されていないときには、他方のワンウェイクラッチのアウターがケースCAに固定されるとともに、一方のワンウェイクラッチのアウターがケースCAに対して回転自在になる。これにより、両方のワンウェイクラッチのインナー及びこれと一体の第1リングギヤ63の逆転が阻止されるとともに、正転が許容される。すなわち、この場合には、第1ブレーキ91は、第1リングギヤ63の逆転のみを阻止する機械式のワンウェイクラッチとして機能する。
また、第1ブレーキ91に、第1及び第2駆動信号の双方が入力されていないときには、両方のワンウェイクラッチのアウターがケースCAに対して回転自在になる。これにより、両方のワンウェイクラッチのインナー及びこれと一体の第1リングギヤ63の正転及び逆転の双方が許容される。
以上のように、この第1ブレーキ91は、第1リングギヤ63の正転を阻止(制動)するとともに、逆転を許容する正転阻止動作と、第1リングギヤ63の逆転を阻止(制動)するとともに、正転を許容する逆転阻止動作と、第1リングギヤ63の回転(正転・逆転)を許容するために正転及び逆転阻止動作を解除する解除動作を実行可能である。
また、第3キャリア86には、制動力を変更可能なブレーキ111が取り付けられている。ブレーキ111は、電磁クラッチなどで構成されており、第3キャリア86に一体に設けられたインナーと、不動のケースCAに一体に設けられたアウターを有している。ブレーキ111は、その締結時には、第3キャリア86とケースCAの間を接続することで第3キャリア86を制動する一方、解放時には、第3キャリア86とケースCAの間を遮断することで第3キャリア86の制動を解除する。図9に示すように、ブレーキ111はECU2に接続されており、ブレーキ111の締結度合すなわち制動力は、ECU2によって制御される。
また、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間には、ワンウェイクラッチOWが設けられている。ワンウェイクラッチOWは、ローラ式の一般的なワンウェイクラッチであり、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間を、第1キャリア65の回転数が第1サンギヤ62の回転数よりも高くなるときには接続し、第1キャリア65の回転数が第1サンギヤ62の回転数よりも低いときには遮断する。
以上のように、第2変速装置T2では、第1及び第2遊星歯車装置61、71の第1及び第2サンギヤ62、72同士が、第1キャリア65及び第2リングギヤ73同士が、それぞれ一体に回転自在である。また、周知のように、シングルピニオン式の第1遊星歯車装置61では、第1サンギヤ62の回転数、第1キャリア65の回転数及び第1リングギヤ63の回転数は、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たしている。さらに、ダブルピニオン式の第2遊星歯車装置71では、第2サンギヤ72の回転数、第2リングギヤ73の回転数及び第2キャリア76の回転数は、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たしている。さらに、第2リングギヤ73の歯数と第2サンギヤ72の歯数との偏差に対する、第2サンギヤ72の歯数の比は、第1リングギヤ63の歯数に対する第1サンギヤ62の歯数の比よりも大きな値に設定されている。
以上から、第1及び第2サンギヤ62、72の回転数と、第1キャリア65及び第2リングギヤ73の回転数と、第1リングギヤ63の回転数と、第2キャリア76の回転数は、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たしている。このように、第1及び第2遊星歯車装置61、71によって、回転数が互いに共線関係にある4つの回転要素が構成されている。
また、ダブルピニオン式の第3遊星歯車装置81では、第2遊星歯車装置71と同様、第3サンギヤ82、第3リングギヤ83及び第3キャリア86の回転数は、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たしている。このように、第3遊星歯車装置81によって、回転数が互いに共線関係にある3つの回転要素が構成されている。さらに、第3リングギヤ83、第1及び第2サンギヤ62、72は、互いに一体に回転自在である。
また、第3サンギヤ82は、第1回転軸51、第2スプロケットSP2、チェーンCH、第1スプロケットSP1、及び入力軸11を介して、クランクシャフトに連結されており、第1及び第2スプロケットSP1、SP2による減速を無視すれば、エンジン3及び第3サンギヤ82の回転数は、互いに等しい。さらに、第1キャリア65及び第2リングギヤ73は、出力軸12、差動装置DF及び左右のドライブシャフトDS、DSを介して、左右の駆動輪DW、DWに連結されている。このため、差動装置DFによる減速を無視すれば、第1キャリア65及び第2リングギヤ73の回転数は、駆動輪DW、DWの回転数と等しい。
以上から、エンジン3、駆動輪DW、DW及び第2変速装置T2における各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図10〜図12に示す共線図のように表される。これらの共線図において、太い実線が、第1及び第2遊星歯車装置61、71によって構成される4つの回転要素の間の回転数の関係を示しており、太い一点鎖線が、第3遊星歯車装置81によって構成される3つの回転要素の間の回転数の関係を示している。
これらの共線図から明らかなように、第3サンギヤ82に伝達されたエンジン3の動力は、第3キャリア86に作用するブレーキ111の制動力を反力として、第3リングギヤ83に伝達され、さらに第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。したがって、ブレーキ111の制動力を変更することによって、エンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72との間で伝達される動力が変化する。例えば、ブレーキ111を解放したときには、エンジン3の動力が第3サンギヤ82に伝達されても、第3キャリア86が空転するので、第3リングギヤ83、第1及び第2サンギヤ62、72にはエンジン3の動力が伝達されない。すなわち、この場合には、エンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72との間の動力の伝達が、第3遊星歯車装置81及びブレーキ111によって遮断される。
また、図10に示すように、第2変速装置T2の変速比(入力軸11の回転数/出力軸12の回転数)は、ブレーキ111の締結により第3キャリア86を制動し、ワンウェイクラッチOWで第1サンギヤ62及び第1キャリア65の間を遮断し、第2ブレーキ101の解除動作により第2キャリア76の回転を許容するとともに、第1ブレーキ91の正転又は逆転阻止動作により第1リングギヤ63の回転(正転・逆転)を阻止したときに、最大(最低速側)になり、その変速段が1速段になる。
また、図11に示すように、ブレーキ111の締結により第3キャリア86を制動し、ワンウェイクラッチOWで第1サンギヤ62及び第1キャリア65の間を遮断し、第1ブレーキ91の解除動作により第1リングギヤ63の回転を許容するとともに、第2ブレーキ101の正転阻止動作により第2キャリア76の正転を阻止したときに、第2変速装置T2の変速比は、中速側の値になり、その変速段が2速段になる。
さらに、図12に示すように、ブレーキ111の締結により第3キャリア86を制動し、第1及び第2ブレーキ91、101により第1リングギヤ63及び第2キャリア76の回転をそれぞれ許容するとともに、ワンウェイクラッチOWで第1サンギヤ62及び第1キャリア65の間を接続したときに、第2変速装置T2の変速比は、最小(最高速側)になり、その変速段が3速段になる。
なお、図10から明らかなように、エンジン3のトルクは、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ63を逆転させるように作用し、慣性による駆動輪DW、DWのトルクは、エンジンブレーキによる制動力を反力として、第1リングギヤ63を正転させるように作用する。このため、上述した第2変速装置T2の1速段は、第1ブレーキ91の逆転阻止動作の実行中で、かつ、エンジン3から第2変速装置T2を介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達中に成立し、第1ブレーキ91の正転阻止動作の実行中で、かつ、駆動輪DW、DWから第2変速装置T2を介したエンジン3への動力の伝達中に成立する。
また、第2ブレーキ101は、第2キャリア76の逆転を許容するのに対し、図11から明らかなように、エンジン3のトルクは、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第2キャリア76を逆転させるように作用する。このため、前述した第2変速装置T2の2速段は、エンジン3から第2変速装置T2のみを介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達中には成立せず、駆動輪DW、DWから第2変速装置T2を介したエンジン3への動力の伝達中にのみ、成立する。
さらに、ワンウェイクラッチOWは、前述したように駆動輪DW、DWに連結された第1キャリア65の回転数がエンジン3に連結された第1サンギヤ62の回転数よりも低いときに、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間を遮断する。このため、ワンウェイクラッチOWは、エンジン3から第2変速装置T2のみを介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達中に締結されることはなく、駆動輪DW、DWから第2変速装置T2を介したエンジン3への動力の伝達中にのみ締結される。したがって、前述した第2変速装置T2の3速段は、駆動輪DW、DWから第2変速装置T2を介したエンジン3への動力の伝達中にのみ、成立する。
また、図9に示すように、ECU2には、エンジン回転数センサ41から、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを表す検出信号が、スロットル弁開度センサ42から、エンジン3のスロットル弁(図示せず)の開度(以下「スロットル弁開度TH」という)を表す検出信号が、それぞれ出力される。また、ECU2には、第1回転数センサ43から、入力軸11の回転数を表す検出信号が、第2回転数センサ44から、出力軸12の回転数を表す検出信号が、それぞれ出力される。ECU2は、検出された入力軸11の回転数及び出力軸12の回転数に基づいて、入力軸11の回転数と出力軸12の回転数との比(入力軸11の回転数/出力軸12の回転数)である変速比RATIOを算出する。
さらに、ECU2には、アクセル開度センサ45から、車両Vのアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、車速センサ46から、車両Vの車速VPを表す検出信号が、それぞれ出力される。また、ECU2には、エンジン3を始動するためのイグニッションスイッチ(以下「IG・SW」という)47から、そのON信号及びOFF信号がイグニッション信号IGとして出力される。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、このROMに記憶された制御プログラムに従い、上述した各種のセンサ41〜46からの検出信号及びIG・SW47からのイグニッション信号IGに応じて、エンジン3や、第1及び第2変速装置T1、T2の動作を制御する。
具体的には、ECU2は、車両Vの走行中には、エンジン3の動力を、第1変速装置T1を介して、無段階に変速して駆動輪DW、DWに伝達する。この場合、第1変速装置T1の変速比RATIOは、変速アクチュエータ14を介して、目標変速比になるように制御される。この目標変速比は、検出された車速VP及びスロットル弁開度THに応じたマップ検索によって算出され、それにより、基本的には、車速VPが高いほど、より小さな値(高速側)に設定される。また、車両Vの走行中、後述する第2変速装置T2の制御によって、第2変速装置T2を介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。さらに、車両Vの停止中以外には、基本的には、発進クラッチ5を締結状態に保持する。
また、車両Vの減速走行中には、インジェクタ3aを制御することによって、エンジン3への燃料の供給を停止する減速フューエルカット運転を実行する。車両Vの減速走行中であるか否かの判定は、検出されたアクセル開度APが所定開度APREF以下であるか否かを判別することによって行われる。また、この減速フューエルカット運転は、その実行中、検出されたエンジン回転数NEが所定の復帰回転数(例えば1000rpm)を下回ったときに、終了され、それにより、インジェクタ3aによるエンジン3への燃料の供給が再開される。
さらに、車両Vの減速走行中、前述したように、第1変速装置T1のワンウェイクラッチ23によって、駆動輪DW、DWから第1変速装置T1を介したエンジン3への動力の伝達が遮断される。このため、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWにエンジンブレーキを作用させるべく、第2変速装置T2の動作を制御するために、図13に示す処理を実行する。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。
まず、図13のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、減速フューエルカットフラグF_F/Cが「1」であるか否かを判別する。この減速フューエルカットフラグF_F/Cは、上述した減速フューエルカット運転の実行中であるときに「1」に設定されるものである。
上記ステップ1の答がNO(F_F/C=0)のときには、そのまま本処理を終了する一方、YESで、減速フューエルカット運転中であるときには、算出された変速比RATIOが所定の第3変速比r3以下であるか否かを判別する(ステップ2)。この第3変速比r3は、第2変速装置T2の前述した3速段(図12)による変速比に設定されている。このステップ3の答がYESで、変速比RATIOが第3変速比r3以下のとき、すなわち、変速比RATIOが第2変速装置T2の最も高速側の変速比以下(高速側)のときには、後述する第1制御モードを実行し(ステップ3)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ2の答がNO(RATIO>r3)のときには、変速比RATIOが第2変速比r2以下であるか否かを判別する(ステップ4)。この第2変速比r2は、第2変速装置T2の前述した2速段(図11)による変速比に設定されている。このステップ4の答がYESのとき、すなわち、変速比RATIOが3速段の変速比よりも大きく(低速側)、かつ、2速段の変速比以下(高速側)のときには、第2制御モードを実行し(ステップ5)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ4の答がNO(RATIO>r2)のときには、変速比RATIOが第1変速比r1以下であるか否かを判別する(ステップ6)。この第1変速比r1は、第2変速装置T2の前述した1速段(図10)による変速比に設定されている。このステップ6の答がYESのとき、すなわち、変速比RATIOが2速段の変速比よりも大きく(低速側)、かつ、1速段の変速比以下(高速側)のときには、第3制御モードを実行し(ステップ7)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ6の答がNO(RATIO>r1)で、変速比RATIOが1速段の変速比よりも大きい(低速側)ときには、第4制御モードを実行し(ステップ8)、本処理を終了する。
[第1制御モード]
次に、図14を参照しながら、図13のステップ3の第1制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図14のステップ21及び22においてそれぞれ、第2変速装置T2の変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作を実行する。
次いで、アクセル開度APが所定開度APREFよりも大きいか否かを判別する(ステップ23)。この答がNOで、アクセルペダルが踏み込まれていないときには、ブレーキ111を締結し(ステップ24)、本処理を終了する。このステップ24の実行により、第3キャリア86に対するブレーキ111の制動力が漸増し、当該実行が繰り返される結果、第3キャリア86が完全に制動される。
一方、上記ステップ23の答がYESで、アクセルペダルが踏み込まれたときには、ブレーキ111を解放し(ステップ25)、本処理を終了する。
次に、図15及び図16を参照しながら、上述した第1制御モードにおける第2変速装置T2の動作について説明する。図15は、第1制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図16は、第1制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第1制御モードが、前述したように変速比RATIOが第3変速比r3以下のときに実行される(図13のステップ2、3)ことから明らかなように、第1制御モードを開始する直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは第3変速比r3以下である。
図15に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比r3以下のとき(高速側)には、その後の第1制御モードの開始時に第2変速装置T2の変速段を3速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が実行されるとともに、ブレーキ111が解放される。
このブレーキ111の解放により、前述したようにエンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72との間の動力の伝達が遮断されることによって、第2変速装置T2を介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されるので、第3サンギヤ82に伝達されたエンジン3の動力は、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、この場合には、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、上述した第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作により、第1リングギヤ63及び第2リングギヤ76の回転(正転・逆転)が許容されることと、変速比RATIOが第3変速比r3以下であることによって、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも低くなる。その結果、両者62、65の間が、前述したワンウェイクラッチOWによって接続され、それにより、第1及び第2遊星歯車装置61、71によって構成される4つの回転要素が、一体に回転する。図15において、細い一点鎖線は、第2変速装置T2の変速段が3速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第1制御モードが実行されると、図16に示すように、第2変速装置T2の変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が引き続き実行される(図14のステップ21、22)。また、第3キャリア86に対するブレーキ111の制動力を漸増させる(ステップ24)。これにより、第3キャリア86の回転数が値0になる。
図16において、中抜きの矢印は、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成された4つの回転要素の間におけるトルクの釣合関係を、ハッチング付きの矢印は、第3遊星歯車装置81で構成された3つの回転要素の間におけるトルクの釣合関係を、それぞれ示している。このことは、後述する他の共線図についても同様である。また、BEはエンジンブレーキによる制動トルクを、RBはブレーキ111の反力トルクを、R83は、第3リングギヤ83に作用する反力トルクを、それぞれ示している。さらに、B62は、エンジンブレーキが作用するのに伴って第1及び第2サンギヤ62、72に作用する制動トルクを、TDWは、駆動輪DW、DWの慣性トルクを、それぞれ示している。これらの反力トルクR83及び制動トルクB62は、互いに等しい。
図16から明らかなように、エンジンブレーキによる制動力は、ブレーキ111の制動力を反力として、第3遊星歯車装置81を介して、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。これにより、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも低くなることで、両者62、65の間がワンウェイクラッチOWで接続されることによって、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成される4つの回転要素が、一体に回転する。その結果、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されたエンジンブレーキによる制動力がさらに、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2を介してエンジン3に伝達される。
この場合、第3サンギヤ82の歯数をZS3とし、第3リングギヤ83の歯数をZR3とすると、図16から明らかなように、エンジンブレーキによる制動力は、ZR3/ZS3倍に増大された状態で駆動輪DW、DWに伝達される。したがって、より大きな制動力を駆動輪DW、DWに作用させることができる。
また、第1制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれ、アクセル開度APが所定開度APREFを上回ると(図14のステップ23:YES)、ブレーキ111が解放され(ステップ25)、それにより、前述した車両Vの走行中と同様、第2変速装置T2を介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図15に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第2制御モード]
次に、図17を参照しながら、前述した図13のステップ5の第2制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図17のステップ31及び32においてそれぞれ、第2変速装置T2の変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作を実行するとともに、続くステップ33において、ブレーキ111を締結し、本処理を終了する。
図18は、第2制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図19は、第2制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第2制御モードが、前述したように変速比RATIOが第3変速比r3よりも大きく、かつ、第2変速比r2以下のときに実行される(図13のステップ4、5)ことから明らかなように、第2制御モードの開始直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは、第2変速装置T2の3速段の変速比である第3変速比r3よりも大きく、かつ、2速段の変速比である第2変速比r2以下である。
図18に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比r3よりも大きく、かつ、第2変速比r2以下のときには、その後の第2制御モードの開始時に第2変速装置T2の変速段を3速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が実行されるとともに、ブレーキ111が締結される。
前述したように、第2変速装置T2の変速段が3速段であるときには、ブレーキ111の制動により第3キャリア86の回転数が値0になるとともに、ワンウェイクラッチOWの締結により第1及び第2遊星歯車装置61、71により構成される4つの回転要素が一体に回転する(図12参照)。また、変速段が2速段であるときには、ブレーキ111の制動により第3キャリア86の回転数が値0になるとともに、第2ブレーキ101の正転阻止動作により第2キャリア76の回転数が値0になる(図11参照)。図18において、細い一点鎖線は、変速段が3速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、細い二点鎖線は、2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
これに対して、図18に示す車両Vの走行中、前述したブレーキ111の締結により、第3キャリア86がブレーキ111で制動されることによって、第3キャリア86の回転数が値0になり、また、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作によって、第1リングギヤ63及び第2キャリア76の回転(正転・逆転)が許容される。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2の3速段の第3変速比r3と2速段の第2変速比r2との間にあることから、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも高くなり、それにより両者62、65の間がワンウェイクラッチOWで遮断されるとともに、第1リングギヤ63及び第2キャリア76が正転方向に空転する。
この場合、エンジン3の動力が、ブレーキ111の制動力を反力として、第3遊星歯車装置81を介して第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されるものの、第1リングギヤ63及び第2キャリア76が空転するので、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジン3の動力は、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、この場合にも、前述した図15に示す車両Vの走行中の場合と同様、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第2制御モードが実行されると、図19に示すように、第2変速装置T2の変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が実行される(図17のステップ31、32)とともに、ブレーキ111が締結される(ステップ33)。このブレーキ111の締結によって、図18に示す車両Vの走行中の場合と同様、第3キャリア86の回転数が値0になる。なお、図19に示す各種のパラメータは、図16を参照して説明したとおりである。
図19から明らかなように、エンジン回転数NEが低下するのに伴い、エンジンブレーキによる制動力が第3サンギヤ82に伝達されると、第3サンギヤ82に伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、前述した第1制御モードの場合(図16)と同様、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。これにより、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも低くなることで、両者62、65の間がワンウェイクラッチOWで接続されることによって、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成される4つの回転要素が、一体に回転する。その結果、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されたエンジンブレーキによる制動力が、さらに第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2を介してエンジン3に伝達される。
また、第2制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれることによって、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、それにより発生したエンジン3のトルクは、図19から明らかなように、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ63及び第2キャリア76を逆転させるように作用する。これにより、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも高くなることによって、ワンウェイクラッチOWにより両者62、65の間が遮断される結果、再度、前述した図18に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第3制御モード]
次に、図20を参照しながら、図13のステップ7の第3制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図20のステップ41及び42においてそれぞれ、第2変速装置T2の変速段を2速段に設定するために、第1ブレーキ91の解除動作及び第2ブレーキ101の正転阻止動作を実行するとともに、続くステップ43において、ブレーキ111を締結し、本処理を終了する。
また、図21は、第3制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図22は、第3制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第3制御モードが、前述したように変速比RATIOが第2変速比r2よりも大きく、かつ、第1変速比r1以下のときに実行される(図13のステップ6、7)ことから明らかなように、第3制御モードの開始直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは、第2変速装置T2の2速段の第2変速比r2よりも大きく、かつ、1速段の第1変速比r1以下である。
図21に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第2変速比r2よりも大きく、かつ、第1変速比r1以下のときには、その後の第3制御モードの開始時に第2変速装置T2の変速段を2速段に迅速に設定するために、第1ブレーキ91の解除動作及び第2ブレーキ101の正転阻止動作が実行されるとともに、ブレーキ111が締結される。
前述したように、第2変速装置T2の変速段が2速段であるときには、ブレーキ111の制動により第3キャリア86の回転数が値0になり、第2ブレーキ101の正転阻止動作により第2キャリア76の回転数が値0になる(図11参照)。また、変速段が1速段であるときには、ブレーキ111の制動により第3キャリア86の回転数が値0になるとともに、第1ブレーキ91の正転・逆転阻止動作により第1リングギヤ63の回転数が値0になる(図10参照)。図21において、細い一点鎖線は、変速段が2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示し、細い二点鎖線は、1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
これに対して、図21に示す車両Vの走行中、前述したブレーキ111の締結により、第3キャリア86がブレーキ111で制動されることによって、第3キャリア86の回転数が値0になり、また、第1ブレーキ91の解除動作によって、第1リングギヤ63の回転(正転・逆転)が許容されるとともに、第2ブレーキ101の正転阻止動作によって、第2キャリア76の逆転が許容される。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2の2速段の第2変速比r2と1速段の第1変速比r1との間にあることから、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも高くなり、それにより両者62、65の間がワンウェイクラッチOWで遮断されるとともに、第1リングギヤ63が正転方向に、第2キャリア76が逆転方向に、それぞれ空転する。
この場合にも、前述した図18に示す車両Vの走行中の場合と同様、エンジン3の動力が、ブレーキ111の制動力を反力として、第3遊星歯車装置81を介して第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されるものの、第1リングギヤ63及び第2キャリア76が空転するので、エンジン3から第1サンギヤ62などに伝達された動力は、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第3制御モードが実行されると、図22に示すように、第2変速装置T2の変速段を2速段に設定するために、引き続き、第1ブレーキ91の解除動作が実行され(図20のステップ41)、第2ブレーキ101の正転阻止動作が実行される(ステップ42)とともに、ブレーキ111が締結される(ステップ43)。このブレーキ111の締結によって、第3キャリア86の回転数が、図21に示す車両Vの走行中の場合と同様に値0になる。なお、図22において、RB2は、第2ブレーキ101の反力トルクを示している。
図22から明らかなように、エンジン回転数NEが低下するのに伴い、エンジンブレーキによる制動力が第3サンギヤ82に伝達されると、第3サンギヤ82に伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、前述した第1及び第2制御モードの場合(図16、図19)と同様、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。第1キャリア65及び第2リングギヤ73に伝達された駆動輪DW、DWの慣性トルクは、上述したように第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力を反力として、第1リングギヤ63及び第2キャリア76に伝達され、両者76、63を正転させるように作用する。これにより、それまで図21に示すように逆転していた第2キャリア76の回転数が値0になる。また、それに伴い、第2ブレーキ101の上述した正転阻止動作によって、第2キャリア76の正転が阻止される。
そして、上述したように第2キャリア76の正転が阻止されると、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第2ブレーキ101から第2キャリア76に作用する制動力を反力として、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2を介してエンジン3に伝達される。
また、第3制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれることによって、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、それにより発生したエンジン3のトルクは、図22から明らかなように、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ63及び第2キャリア76を逆転させるように作用する。これにより、第2ブレーキ101から第2キャリア76に制動力が作用しなくなる結果、再度、前述した図21に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第4制御モード]
次に、図23を参照しながら、前述した図13のステップ8の第4制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図23のステップ51及び52においてそれぞれ、第2変速装置T2の変速段を1速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作を実行するとともに、続くステップ53において、ブレーキ111を締結し、本処理を終了する。
また、図24は、第4制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図25は、第4制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第4制御モードが、変速比RATIOが第1変速比r1よりも大きいときに実行される(図13のステップ6、8)ことから明らかなように、第4制御モードの開始直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは、第2変速装置T2の1速段の第1変速比r1よりも大きい。
図24に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第1変速比r1よりも大きいときには、その後の第4制御モードの開始時に第2変速装置T2の変速段を1速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作が実行されるとともに、ブレーキ111が締結される。
前述したように、第2変速装置T2の変速段が1速段に設定されているときには、ブレーキ111の制動により第3キャリア86の回転数が値0になるとともに、第1ブレーキ91の正転・逆転阻止動作により第1リングギヤ63の回転数が値0になる(図10参照)。図24において、細い一点鎖線は、変速段が1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
これに対して、図24に示す車両Vの走行中、前述したブレーキ111の締結により、第3キャリア86がブレーキ111で制動されることによって、第3キャリア86の回転数が値0になり、また、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作によって、第1リングギヤ63及び第2キャリア76の逆転が許容される。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2の1速段の第1変速比r1よりも大きいことから、第1サンギヤ62の回転数が第1キャリア65の回転数よりも高くなり、それにより両者62、65の間がワンウェイクラッチOWで遮断されるとともに、第1リングギヤ63及び第2キャリア76が逆転方向に空転する。
この場合にも、前述した図18及び図21に示す車両Vの走行中の場合と同様、エンジン3の動力が、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されるものの、第1リングギヤ63及び第2キャリア76が空転するので、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジン3の動力は、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第4制御モードが実行されると、図25に示すように、第2変速装置T2の変速段を1速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作が実行される(図23のステップ51、52)とともに、ブレーキ111が締結される(ステップ53)。このブレーキ111の締結によって、第3キャリア86の回転数が、図24に示す車両Vの走行中の場合と同様に値0になる。なお、図25において、RB1は、第1ブレーキ91の反力トルクを示している。
図25から明らかなように、エンジン回転数NEが低下するのに伴い、エンジンブレーキによる制動力が第3サンギヤ82に伝達されると、第3サンギヤ82に伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、前述した第1〜第3制御モードの場合(図16、図19、図22)と同様、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。第1キャリア65及び第2リングギヤ73に伝達された駆動輪DW、DWの慣性トルクは、上述したように第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力を反力として、第1リングギヤ63及び第2キャリア76に伝達され、両者76、63を正転させるように作用する。これにより、それまで図24に示すように逆転していた第1リングギヤ63の回転数が値0になる。また、それに伴い、第1ブレーキ91の上述した正転阻止動作によって、第1リングギヤ63の正転が阻止される。
また、上述したように第1リングギヤ63の正転が阻止されると、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第1ブレーキ91から第1リングギヤ63に作用する制動力を反力として、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2を介してエンジン3に伝達される。
さらに、第4制御モードにおいて、前述したように、第2ブレーキ101の解除動作ではなく、第2ブレーキ101の正転阻止動作が実行されるのは、次の理由による。すなわち、図13に示す処理の実行内容から明らかなように、車両Vの減速走行中、エンジンブレーキの作用により変速比RATIOが小さくなるのに伴って、第2変速装置T2を制御するための制御モードの切換が行われる。この場合、例えば、車両Vの減速走行の開始に伴って第4制御モードが選択されていたときには、第4制御モードの実行中、それまで第1変速比r1よりも大きかった変速比RATIOが、エンジンブレーキの作用によって、第1変速比r1以下になることによって、図13のステップ6の答がYESになり、それにより、第3制御モードが実行される(ステップ7)ことになる。
このように、第2変速装置T2の制御モードが第3制御モードに切り換えられたときに、その切換を待って、第2ブレーキ101を正転阻止動作に切り換えるのではなく、第2ブレーキ101の正転阻止動作を前もって実行することで、制御モードの切換を迅速に行うためである。また、この場合、第4制御モードの実行中、第2キャリア76が逆転し、当該第2キャリア76の逆転が第2ブレーキ101により許容されるので、第2ブレーキ101の正転阻止動作を実行しても、第4制御モードの動作に何ら支障はない。
また、第4制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれることによって、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、それにより発生したエンジン3のトルクは、図25から明らかなように、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ63及び第2キャリア76を逆転させるように作用する。これにより、第1ブレーキ91から第1リングギヤ63に制動力が作用しなくなる結果、再度、前述した図24に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
なお、第4制御モードにおいて、第2ブレーキ101の正転阻止動作に代えて、解除動作を実行してもよい。
次に、図26を参照しながら、車両Vの減速走行中におけるエンジン3のアイドリングを停止(アイドルストップ)するための処理について説明する。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに、前述した第1〜第4制御モードに優先して、繰り返し実行される。まず、図26のステップ61では、減速フューエルカットフラグF_F/Cが「1」であるか否かを判別する。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YESのとき、すなわち、減速フューエルカット運転中であるときには、車速VPが所定車速VPREF(例えば10km/h)以下であるか否かを判別する(ステップ62)。
このステップ62の答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YES(VP≦VPREF)で、車速VPが非常に低いときには、ブレーキ111を解放する(ステップ63)とともに、エンジン3を停止し(ステップ64)、本処理を終了する。このステップ64の実行により、車両Vの走行中のエンジン3のアイドリングが停止される。当該エンジン3のアイドリングの停止は、前述したエンジン回転数NEと復帰回転数との比較結果に基づく減速フューエルカット運転からのエンジン3への燃料供給の再開に優先して、実行される。
なお、図26に示す処理において、第1及び第2ブレーキ91、101は、ステップ62(VP≦VPREF)の答がYESになる直前に制御されていた状態に保持される。例えば、ステップ62の答がYESになる直前に、前述した第1制御モードが実行されていたときには、第1及び第2ブレーキ91、101は、第1制御モードの場合と同様、解除動作を実行するように制御される。
図27は、前述した第2制御モードの実行中に、図26のステップ63及び64が実行された場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。図27に示すように、ブレーキ111が解放される(図26のステップ63)ことによって、第2変速装置T2を介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されるので、慣性による駆動輪DW、DWの動力が第2変速装置T2を介して伝達されることによるエンジン3の不要なクランキングを防止することができる。また、車両Vの減速走行中、車速VPが所定車速VPREF以下のときに、減速フューエルカット運転からのエンジン3への燃料供給の再開に優先して、エンジン3のアイドルストップを適切に行うことができる。
なお、図27は、第2制御モードの実行中にエンジン3のアイドルストップが実行された場合を示しているが、あくまで一例であり、他の制御モードの実行中にも、上記ステップ61及び62の答がYESになり、ステップ63及び64が実行されれば、それにより、車両Vの減速走行中のエンジン3のアイドルストップを適切に行うことができる。
また、ECU2は、第1変速装置T1の故障を判定するとともに、第1変速装置T1が故障していると判定されているときに、エンジン3の動力を第2変速装置T2を介して駆動輪DW、DWに伝達するように、第2変速装置T2の動作を制御する。
図28は、第1変速装置T1の故障を判定するための処理を示している。まず、図28のステップ71では、第1変速装置T1の故障を判定するための所定の条件が成立しているか否かを判別する。この所定の条件には、次の条件(a)〜(d)が含まれる。なお、ここでいう第1変速装置T1の故障とは、エンジン3から第1変速装置T1を介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達を適切に行うことができない状況のことである。
(a)変速比RATIOと目標変速比との偏差が、所定値よりも大きいこと。
(b)第1変速装置T1からエンジン3の始動用のスタータに作用するフリクションが、所定値よりも大きいこと。
(c)エンジンストールの回数が所定値よりも大きいこと。
(d)変速アクチュエータ14に供給される電流の検出値が、上限値よりも大きいこと。
ここで、第1変速装置T1からスタータに作用するフリクションは、スタータの回転数や、スタータに供給される電流の検出値に基づいて算出される。また、エンジンストールの回数は、エンジン回転数NEや前述したイグニッション信号IGなどに基づいて、算出される。
上記ステップ71の答がYESで、所定の条件が成立しているときには、第1変速装置T1が故障していると判定するとともに、そのことを表すために、第1変速装置故障フラグF_T1NGを「1」に設定し(ステップ72)、本処理を終了する。一方、ステップ71の答がNOのときには、第1変速装置T1が故障していないと判定するとともに、第1変速装置故障フラグF_T1NGを「0」に設定し(ステップ73)、本処理を終了する。
次に、図29を参照しながら、第1変速装置T1の故障中に第2変速装置T2の動作を制御するための処理について説明する。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。まず、図29のステップ81では、前述したイグニッション信号IGがONであるか否かを判別する。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YESでイグニッション信号IGがONであるときには、図28のステップ72又は73で設定された第1変速装置故障フラグF_T1NGが「1」であるか否かを判別する(ステップ82)。
このステップ82の答がNO(F_T1NG=0)のときには、そのまま本処理を終了する一方、YESのとき、すなわち、第1変速装置T1が故障しているときには、ブレーキ111を解放する(ステップ83)。次いで、第1ブレーキ91の逆転阻止動作を実行する(ステップ84)とともに、第2ブレーキ101の解除動作を実行する(ステップ85)。
次いで、イグニッション信号の前回値IGZがOFFであるか否かを判別する(ステップ86)。この答がYESのとき、すなわち、今回のループが、IG・SW47がOFFからONになった直後のループであるときには、エンジン3を始動するために、スタータや、エンジン3のインジェクタ3aなどの動作を制御し(ステップ87)、続くステップ88に進む。一方、ステップ86の答がNOのときには、ステップ87をスキップし、ステップ88に進む。
このステップ88では、アクセル開度APが所定開度APREFよりも大きいか否かを判別する。この答がNOのとき(AP≦APREF)、すなわち、アクセルペダルが踏み込まれていないときには、そのまま本処理を終了する。一方、このステップ88の答がYESで、アクセルペダルが踏み込まれたときには、車両Vを発進させるべく、エンジン3の動力を第2変速装置T2を介して駆動輪DW、DWに伝達するために、ブレーキ111を締結し(ステップ89)、本処理を終了する。このステップ89では、ブレーキ111の締結度合を漸増させ、それにより、ブレーキ111の制動力が漸増する。
図30は、上述した図29に示す処理により車両Vの停止中にエンジン3を始動した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。上述したように、エンジン3の始動時(ステップ86:YES)には、ブレーキ111が解放状態に保持される(ステップ83)。これにより、エンジン3から駆動輪DW、DWへの第2変速装置T2を介した動力の伝達が遮断される。したがって、図30に示すように、第1変速装置T1の故障中、駆動輪DW、DWの回転数が値0のままで、すなわち車両Vを停止したままで、エンジン3の始動を適切に行うことができる。また、アクセルペダルが踏み込まれない限り(ステップ88:NO)、ブレーキ111が解放状態に保持されるので、エンジン3のアイドル運転を適切に行うことができる。
また、図31は、図29に示す処理により車両Vを発進させた場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。前述したように、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ88:YES)、それまで解放されていたブレーキ111が締結されるとともに、その制動力を漸増させる。これにより、図31に示すように、第3キャリア86の回転数が値0になる。また、第1ブレーキ91の逆転阻止動作が実行される(ステップ84)とともに、第2ブレーキ101の解除動作が実行される(ステップ85)。
ここで、図31において、TEはエンジン3のトルクを示しており、T62は、エンジン3のトルクが伝達されるのに伴って第1サンギヤ62に伝達されるトルクを、RDWは、駆動輪DW、DWの反力トルクを、それぞれ示している。その他のパラメータは、図16を参照して説明したとおりである。なお、第3リングギヤ83に作用する反力トルクR83と、第1サンギヤ62に伝達されるトルクT62は、互いに等しい。
図31から明らかなように、エンジン3のトルクは、ブレーキ111の制動力を反力として、第3遊星歯車装置81を介して、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されたトルクは、第1ブレーキ91から第1リングギヤ63に作用する制動力を反力として、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して駆動輪DW、DWに伝達される。以上により、第1変速装置T1の故障中、エンジン3の動力は、第2変速装置T2の1速段の変速比で減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。したがって、より大きなトルクを駆動輪DW、DWに伝達することができる。
この場合、ブレーキ111の制動力を漸増させるので、エンジン3から第2変速装置T2を介して駆動輪DW、DWに伝達されるトルクを漸増させることができ、それにより、エンジンストールを発生させることなく、車両Vを適切に発進させることができる。
また、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第1実施形態における変速アクチュエータ14、偏心ディスク18、アウタリング21及びワンウェイクラッチ23が、本発明におけるアクチュエータ、入力側部材、出力側部材及び第1ワンウェイクラッチにそれぞれ相当する。
また、第1実施形態における第1及び第2遊星歯車装置61、71が、本発明における第1差動装置に相当するとともに、第1実施形態における第3遊星歯車装置81が、本発明における第2差動装置に相当する。さらに、第1実施形態における第1及び第2サンギヤ62、72が、本発明における第1回転要素に相当し、第1実施形態における第1キャリア65及び第2リングギヤ73が、本発明における第2回転要素に、第1実施形態における第1リングギヤ63及び第2キャリア76が、本発明における第3及び第4回転要素に、それぞれ相当する。
また、第1実施形態における第3遊星歯車装置81及びブレーキ111が、本発明における動力伝達変更装置に相当するとともに、第1実施形態における第3サンギヤ82、第3リングギヤ83及び第3キャリア86が、本発明における第5回転要素、第6回転要素及び第7回転要素にそれぞれ相当する。さらに、第1実施形態におけるワンウェイクラッチOWが、本発明におけるクラッチ及び第2ワンウェイクラッチに相当する。また、第1実施形態における第1及び第2ブレーキ91、101が、本発明における第3及び第4ワンウェイクラッチにそれぞれ相当する。
以上のように、第1実施形態によれば、四節リンクの原理を応用した無段変速式の第1変速装置T1と並列に、有段変速式の第2変速装置T2が設けられており、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWとエンジン3との間の動力の伝達が、第2変速装置T2を介して行われる。この場合、図13〜図25を参照して詳述したように、変速比RATIOが小さい(高速側)ほど、すなわち、駆動輪DW、DWの回転数が高いほど、第2変速装置T2の変速段をより高速側の変速段に設定するので、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWにエンジンブレーキを適切に作用させることができ、それによりドライバビリティを向上させることができるとともに、エンジン3の過回転を防止することができる。
さらに、車両Vの走行中、エンジン3の動力を第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達しているときには、第3遊星歯車装置81及びブレーキ111によりエンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72との間の動力の伝達を遮断することによって、第2変速装置T2を介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を遮断することができる。これにより、第1変速装置T1を介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を、支障なく行うことができる。
また、図16及び図19を参照して説明したように、車両Vの減速走行中、変速比RATIOが比較的小さいとき、すなわち駆動輪DW、DWの回転数が高いときには、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間がワンウェイクラッチOWによって自動的に接続され、それにより第2変速装置T2の変速段が3速段に設定される。また、車両Vの減速走行中、変速比RATIOが比較的大きいとき、すなわち駆動輪DW、DWの回転数が低いときには、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間がワンウェイクラッチOWによって自動的に遮断される。したがって、上述した動作を行う上で、ワンウェイクラッチOW自体の特別な制御は不要である。
さらに、図22及び図25を参照して説明したように、車両Vの減速走行中、第2ブレーキ101による第2キャリア76の正転の阻止、及び第1ブレーキ91による第1リングギヤ63の正転の阻止が、第1〜第3遊星歯車装置61、71、81へのエンジンブレーキによる制動力の伝達に伴って自動的に行われる。したがって、ON/OFF式のクラッチを用いた場合と異なり、上述した動作を行う上で、第1リングギヤ63及び第2キャリア76の回転数を常に監視する必要がない。
また、図16及び図19を参照して説明したように、第2変速装置T2の変速段を3速段に設定するために、第1及び第2遊星歯車装置61、71の4つの回転要素を一体に回転させる場合に、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作によって、第1リングギヤ73及び第2キャリア76の正転を許容でき、したがって、上述したワンウェイクラッチOWを用いた3速段への変速段の設定動作を支障なく行うことができる。
さらに、図28〜図31を参照して説明したように、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、車両Vの停止中で、かつエンジン3を始動するときには、エンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72の間の動力の伝達が、第3遊星歯車装置81及びブレーキ111によって遮断される。したがって、第1変速装置T1の故障中で、かつ車両Vの停止中、エンジン3の始動を、駆動輪DW、DWを駆動せずに適切に行うことができる。また、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、車両Vの停止中、アクセルペダルが踏み込まれない限り、上述したエンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72の間の動力の伝達の遮断が保持される。したがって、第1変速装置T1の故障中で、かつ車両Vの停止中、エンジン3のアイドル運転を、駆動輪DW、DWを駆動せずに適切に行うことができる。
さらに、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の運転中で、かつ車両Vを発進させるときには、第1ブレーキ91の逆転阻止動作により第1リングギヤ63の逆転が阻止され、第2ブレーキ101の解除動作が実行されるとともに、エンジン3から駆動輪DW、DWに伝達される動力が漸増するように、ブレーキ111の制動力を漸増させる。これにより、第1変速装置T1の故障中、エンジン3から第2変速装置T2を介して駆動輪DW、DWに動力を伝達できるとともに、当該駆動輪DW、DWに伝達される動力を漸増させることができるので、エンジンストール及びショックを発生させることなく、車両Vを適切に発進させることができる。
また、この場合、第1ブレーキ91により第1リングギヤ63を制動するので、第2ブレーキ101により第2キャリア76を制動した場合と比較して、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達されたトルクに対する第1キャリア65及び第2リングギヤ73に伝達されたトルクの比を、大きくすることができる。したがって、第2変速装置T2を介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達により車両Vを発進させるときに、より大きなトルクを駆動輪DW、DWに伝達でき、ひいては、車両Vの発進性を向上させることができる。
次に、図32を参照しながら、本発明の第2実施形態による動力伝達装置について説明する。図32に示すように、第2実施形態による動力伝達装置は、第1実施形態と比較して、ワンウェイクラッチOWに代えて、電磁クラッチであるクラッチCLが設けられていることと、第1及び第2ブレーキ121、131がいずれも電磁クラッチ式のブレーキで構成されている点が、主に異なっている。図32において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図33に示すように、クラッチCL、第1及び第2ブレーキ121、131は、ECU2に接続されており、それらの締結度合は、ECU2によって制御される。上述した第1実施形態との構成の違いから、第2実施形態における第2変速装置T2Aの動作は、第1実施形態のそれと異なっているので、以下、この点について、図34〜図51を参照しながら説明する。
[第1制御モード]
図34は、第1実施形態で述べた第1制御モードを実行するための処理を示している。同図において、第1実施形態(図14)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。まず、図34のステップ91及び92においてそれぞれ、第2変速装置T2Aの変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ121、131を解放し、続くステップ93において、クラッチCLを締結する。次いで、第1実施形態で述べたステップ23〜25を実行し、本処理を終了する。これにより、アクセルペダルが踏み込まれていないとき(ステップ23:NO)には、ブレーキ111の制動力を漸増させ(ステップ24)、踏み込まれたとき(ステップ23:YES)には、ブレーキ111が解放される(ステップ25)。
図35は、第1制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図36は、第1制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第1実施形態で述べた図15及び図16と、これらの図35及び図36との対比から明らかなように、これらの場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係は、第1実施形態のそれと同様である。
図35に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比r3以下のときには、その後の第1制御モードの開始時に第2変速装置T2Aの変速段を3速段に設定するために、ブレーキ111、第1及び第2ブレーキ121、131が解放されるとともに、クラッチCLが締結される。
このブレーキ111の解放により、第1実施形態と同様、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力が、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。また、上述した第1及び第2ブレーキ121、131の解放により、第1リングギヤ63及び第2キャリア76の回転(正転・逆転)が許容されることと、クラッチCLの締結により、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間がクラッチCLで接続されることによって、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成される4つの回転要素が一体に回転する。図35において、細い一点鎖線は、第2変速装置T2Aの変速段が3速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第1制御モードが実行されると、図36に示すように、第2変速装置T2Aの変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ121、131が解放される(図34のステップ91、92)とともに、クラッチCLが締結される(ステップ93)。また、第1実施形態と同様、第3キャリア86に対するブレーキ111の制動力を漸増させる(ステップ24)。これにより、第3キャリア86の回転数が値0になる。図36における各種のパラメータは、図16を参照して第1実施形態で説明したとおりである。
図36から明らかなように、第1実施形態と同様、エンジンブレーキによる制動力は、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。また、クラッチCLの締結により、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間が接続されることによって、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成される4つの回転要素が、一体に回転する。その結果、第1実施形態と同様、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力がさらに、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第1制御モードの実行中、第1実施形態と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ23:YES)、ブレーキ111が解放され(ステップ25)、それにより、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図35に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第2制御モード]
次に、図37を参照しながら、第2制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図37のステップ101及び102においてそれぞれ、第2変速装置T2Aの変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ121、131を解放し、続くステップ103において、クラッチCLを締結する。次いで、ステップ104〜106において、前記ステップ23〜25と同様、ブレーキ111の動作を、アクセル開度APと所定開度APREFとの比較結果に応じて制御し、本処理を終了する。
具体的には、ステップ104において、アクセル開度APが所定開度APREFよりも大きいか否かを判別し、この答がNOで、アクセルペダルが踏み込まれていないときには、ステップ105において、ブレーキ111を締結し、本処理を終了する。このステップ105の実行により、ブレーキ111の制動力が漸増する。一方、ステップ104の答がYESで、アクセルペダルが踏み込まれたときには、ステップ106において、ブレーキ111を解放し、本処理を終了する。
図38は、第2制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図39は、第2制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図38に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比r3よりも大きく、かつ、第2変速比r2以下のときには、その後の第2制御モードの開始時に第2変速装置T2Aの変速段を3速段に迅速に設定するために、ブレーキ111、第1及び第2ブレーキ121、131が解放されるとともに、クラッチCLが締結される。
このブレーキ111の解放により、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力が、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。また、図38に示すように、上述した第1及び第2ブレーキ121、131の解放並びにクラッチCLの締結によって、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成される4つの回転要素が一体に回転する。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2Aの3速段の第3変速比r3よりも大きいことから、第3キャリア86が逆転する。図38において、細い一点鎖線は、変速段が3速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、細い二点鎖線は、2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第2制御モードが実行されると、図39に示すように、第2変速装置T2Aの変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ121、131が解放される(図37のステップ101、102)とともに、クラッチCLが締結される(ステップ103)。また、第3キャリア86に対するブレーキ111の制動力を漸増させる(ステップ105)。これにより、第3キャリア86の回転数が値0になる。
図39から明らかなように、第1実施形態と同様、エンジンブレーキによる制動力は、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。また、クラッチCLの締結によって、第1及び第2遊星歯車装置61、71で構成される4つの回転要素が一体に回転する結果、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力がさらに、第1及び第2遊星歯車装置61、71を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第2制御モードの実行中、図34に示す第1制御モードの場合と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ104:YES)、ブレーキ111が解放され(ステップ106)、それにより、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図38に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第3制御モード]
次に、図40を参照しながら、第3制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図40のステップ111及び112においてそれぞれ、第2変速装置T2Aの変速段を2速段に設定するために、第1ブレーキ121及びクラッチCLを解放し、続くステップ113において、第2ブレーキ131を締結する。次いで、ステップ114〜116において、前記ステップ23〜25と同様、ブレーキ111の動作を、アクセル開度APと所定開度APREFとの比較結果に応じて制御し、本処理を終了する。
図41は、第3制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図42は、第3制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図41に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第2変速比r2よりも大きく、かつ、第1変速比r1以下のときには、その後の第3制御モードの開始時に第2変速装置T2Aの変速段を2速段に迅速に設定するために、第1ブレーキ121が解放され、第2ブレーキ131が締結されるとともに、クラッチCLが解放される。
このブレーキ111の解放により、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。また、上述した第1ブレーキ121の解放によって、第1リングギヤ63の回転が許容され、さらに、第2ブレーキ131の締結により、第2キャリア76が第2ブレーキ131で制動されることによって、第2キャリア76の回転数が値0になるとともに、クラッチCLの解放によって、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間が遮断される。これらのことと、変速比RATIOが第2変速装置T2Aの2速段の第2変速比r2よりも大きいことから、図41に示すように、第3キャリア86が逆転する。図41において、細い一点鎖線は、第2変速装置T2Aの変速段が2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、細い二点鎖線は、1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第3制御モードが実行されると、図42に示すように、第2変速装置T2Aの変速段を2速段に設定するために、引き続き、第1ブレーキ121及びクラッチCLが解放される(図40のステップ111、112)とともに、第2ブレーキ131が締結される(ステップ113)。また、第3キャリア86に対するブレーキ111の制動力を漸増させる(ステップ115)。これにより、第3キャリア86の回転数が値0になる。図42において、RB2Aは、第2ブレーキ131の反力トルクを示している。
図42から明らかなように、第1実施形態と同様、エンジンブレーキによる制動力は、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。また、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第2キャリア76に作用する第2ブレーキ131の制動力を反力として、第1キャリア65及び第2リングギヤ73を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第3制御モードの実行中、図34に示す第1制御モードの場合と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ114:YES)、ブレーキ111が解放され(ステップ116)、それにより、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図41に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第4制御モード]
次に、図43を参照しながら、第4制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図43のステップ121及び122においてそれぞれ、第2変速装置T2Aの変速段を1速段に設定するために、第2ブレーキ131及びクラッチCLを解放し、続くステップ123において、第1ブレーキ121を締結する。次いで、ステップ124〜126において、前記ステップ23〜25と同様、ブレーキ111の動作を、アクセル開度APと所定開度APREFとの比較結果に応じて制御し、本処理を終了する。
図44は、第4制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図45は、第4制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図44に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第1変速比r1よりも大きいときには、その後の第4制御モードの開始時に第2変速装置T2Aの変速段を1速段に迅速に設定するために、第1ブレーキ121が締結されるとともに、第2ブレーキ131及びクラッチCLが解放される。
このブレーキ111の解放により、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。また、上述した第1ブレーキ121の締結により、第1リングギヤ63が第1ブレーキ121で制動されることによって、第1リングギヤ63の回転数が値0になり、さらに、第2ブレーキ131の解放によって、第2キャリア76の回転が許容されるとともに、クラッチCLの解放によって、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間が遮断される。これらのことと、変速比RATIOが第2変速装置T2Aの1速段の第1変速比r1よりも大きいことから、図44に示すように、第3キャリア86が逆転する。図44において、細い一点鎖線は、変速段が1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第4制御モードが実行されると、図45に示すように、第2変速装置T2Aの変速段を1速段に設定するために、引き続き、第2ブレーキ131及びクラッチCLが解放される(図40のステップ121、122)とともに、第1ブレーキ121が締結される(ステップ123)。また、第3キャリア86に対するブレーキ111の制動力を漸増させる(ステップ125)。これにより、第3キャリア86の回転数が値0になる。図45において、RB1Aは、第1ブレーキ121の反力トルクを示している。
図45から明らかなように、第1実施形態と同様、エンジンブレーキによる制動力は、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達される。また、第1サンギヤ62などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第1リングギヤ63に作用する第1ブレーキ121の制動力を反力として、第1キャリア65及び第2リングギヤ73を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第4制御モードの実行中、図34に示す第1制御モードの場合と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ124:YES)、ブレーキ111が解放され(ステップ126)、それにより、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図44に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第2実施形態では、車両Vの減速走行中におけるエンジン3のアイドリングを停止(アイドルストップ)するための処理が、第1実施形態(図26)と同様にして実行される。図46は、前述した第2制御モードの実行中に、本処理が実行された場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
図46に示すように、ブレーキ111が解放されることによって、第2変速装置T2Aを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されるので、慣性による駆動輪DW、DWの動力が第2変速装置T2Aを介して伝達されることによるエンジン3の不要なクランキングを防止することができる。また、第1実施形態と同様、車両Vの減速走行中、車速VPが所定車速VPREF以下のときに、減速フューエルカット運転からのエンジン3への燃料供給の再開に優先して、エンジン3のアイドルストップを適切に行うことができる。
また、第2実施形態では、第1実施形態と同様、第1変速装置T1の故障が判定される(図28)とともに、第1変速装置T1が故障していると判定されているときに、第2変速装置T2Aを介してエンジン3の動力を駆動輪DW、DWに伝達するように、第2変速装置T2Aの動作が制御される。図47は、第1変速装置T1の故障中に第2変速装置T2Aの動作を制御するための処理を示している。同図において、第1実施形態(図29)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。以下、第1実施形態と異なる実行内容を中心として説明する。
図47に示すように、前記ステップ83に続くステップ131及び132ではそれぞれ、クラッチCL及び第2ブレーキ131を解放する。次いで、第1ブレーキ121を締結し(ステップ133)、前記ステップ86以降を実行する。
図48は、上述した図47に示す処理により車両Vの停止中にエンジン3を始動した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。上述したように、第1実施形態と同様、エンジン3の始動時(ステップ86:YES)には、ブレーキ111が解放状態に保持される(ステップ83)。これにより、第1変速装置T1の故障中、エンジン3から駆動輪DW、DWへの第2変速装置T2Aを介した動力の伝達が遮断されるので、図48に示すように、駆動輪DW、DWの回転数が値0のままで、エンジン3の始動を適切に行うことができるとともに、エンジン3のアイドル運転を適切に行うことができる。
また、図49は、図47に示す処理により車両Vを発進させた場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。前述したように、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ88:YES)、それまで解放されていたブレーキ111が締結されるとともに、その制動力を漸増させる。これにより、図49に示すように、第3キャリア86の回転数が値0になる。また、第2ブレーキ131が解放される(ステップ132)とともに、第1ブレーキ121が締結される(ステップ133)。図49において、RB1Aは、図45を参照して説明したように、第1ブレーキ121の制動トルクを示しており、その他のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。
図49から明らかなように、第1実施形態と同様、エンジン3のトルクは、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達され、さらに、第1ブレーキ121から第1リングギヤ63に作用する制動力を反力として、駆動輪DW、DWに伝達される。以上により、エンジン3の動力は、第2変速装置T2Aの1速段の変速比で減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
また、第2実施形態では、第1変速装置T1の故障中、エンジン3の動力を第2変速装置T2Aを介して駆動輪DW、DWに伝達しているときに、変速段の変更が行われる。図50は、第2変速装置T2Aの変速段を1速段から2速段に変更するための処理を示している。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。
まず、図50のステップ141では、第1実施形態で述べた第1変速装置故障フラグF_T1NGが「1」であるか否かを判別する。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YESのとき、すなわち、第1変速装置T1が故障しているときには、シフトアップ要求フラグF_UPRATIOが「1」であるか否かを判別する(ステップ142)。このシフトアップ要求フラグF_UPRATIOは、第2変速装置T2Aの変速段を1速段から2速段にシフトアップすべきと判定されたときに、シフトアップ要求があるとして、「1」に設定されるものである。この判定は、車速VP、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに応じて、行われる。
上記ステップ142の答がNOのときには、そのまま本処理を終了する一方、YES(F_UPRATIO=1)で、第2変速装置T2Aの変速段を1速段から2速段に変更するように要求されているときには、2速段に変速段を変更するために、続くステップ143〜147の処理を実行する。
すなわち、それまで解放状態にあったクラッチCL(図47のステップ131参照)を引き続き解放状態に保持し(ステップ143)、それまで締結状態にあったブレーキ111及び第1ブレーキ91(図47のステップ83及びステップ133参照)を解放する(ステップ144、145)。次いで、解放状態にあった第2ブレーキ101(図47のステップ132参照)を締結する(ステップ146)とともに、ブレーキ111を締結し(ステップ147)、本処理を終了する。これらのステップ146及び147における第2ブレーキ101及びブレーキ111の締結は、両者101、111の制動力が漸増するように、行われる。
また、図51は、上述した図50に示す処理により第2変速装置T2Aの変速段を2速段にシフトアップしたときの車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。図51において、RB2Aは、図42を参照して説明したように、第2ブレーキ131の反力トルクを示している。
図51から明らかなように、エンジン3のトルクは、ブレーキ111の制動力を反力として、第1及び第2サンギヤ62、72に伝達され、さらに、第2ブレーキ131から第2キャリア76に作用する制動力を反力として、駆動輪DW、DWに伝達される。以上により、エンジン3の動力は、第2変速装置T2Aの2速段の変速比で減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
なお、図示しないものの、第2変速装置T2Aの3速段への変速段の切換も同様にして行うことができる。この場合、3速段への変速段の設定のためのブレーキ111、第1及び第2ブレーキ121、131の制御は、第1及び第2制御モードの場合と同様にして行われる。
また、第2実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第2実施形態におけるECU2が、本発明における故障判定手段及び故障時用制御手段に相当する。その他の対応関係は、本発明における第2〜第4ワンウェイクラッチを除き、第1実施形態と同様である。
以上のように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、車両Vの減速走行中、第1変速装置T1と並列に設けられた第2変速装置T2Aを介して、駆動輪DW、DWとエンジン3との間の動力の伝達が行われる。この場合、図34〜図45を参照して詳述したように、変速比RATIOが小さいほど、すなわち、駆動輪DW、DWの回転数が高いほど、第2変速装置T2Aの変速段をより高速側の変速段に設定するので、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWにエンジンブレーキを適切に作用させることができ、それによりドライバビリティを向上させることができるとともに、エンジン3の過回転を防止することができる。
また、車両Vの走行中、エンジン3の動力を第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達しているときには、第3遊星歯車装置81及びブレーキ111によりエンジン3と第1及び第2サンギヤ62、72との間の動力の伝達を遮断することによって、第2変速装置T2Aを介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を遮断することができる。これにより、第1変速装置T1を介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を、支障なく行うことができる。
さらに、図47〜図51を参照して説明したように、第1実施形態と同様、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、車両Vの停止中、エンジン3の始動及びアイドル運転を、駆動輪DW、DWを駆動せずに適切に行うことができる。また、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の運転中で、かつ車両Vを発進させるときに、エンジン3から第2変速装置T2Aを介して駆動輪DW、DWに動力を伝達できるとともに、当該駆動輪DW、DWに伝達される動力を漸増させることができる。したがって、第1変速装置T1の故障中、エンジンストール及びショックを発生させることなく、車両Vを適切に発進させることができる。この場合、第1ブレーキ121により第1リングギヤ63を制動するので、より大きなトルクを駆動輪DW、DWに伝達でき、ひいては、車両Vの発進性を向上させることができる。
また、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の運転中で、かつ車両Vの走行中には、エンジン3から第1及び第2サンギヤ62、72に動力が伝達されるように、ブレーキ111が制御され、第1ブレーキ121による制動が解除されるとともに、第2ブレーキ131により第2キャリア76が制動される。これにより、第1ブレーキ121により第1リングギヤ63を制動する場合と比較して、駆動輪DW、DWに連結された第1キャリア65などの回転数に対する第1サンギヤ62などの回転数の比が小さくなり、エンジン3から第2変速装置T2Aを介して駆動輪DW、DWに伝達される動力の減速比を小さくすることができ、ひいては、駆動輪DW、DWの回転数を上昇させることができる。
次に、図52を参照しながら、本発明の第3実施形態による動力伝達装置について説明する。第3実施形態による動力伝達装置は、第1実施形態と比較して、第2変速装置T2Bの構成が主に異なっている。図52において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図52に示すように、第2変速装置T2Bは、第1遊星歯車装置141、第2遊星歯車装置151、第3遊星歯車装置161、クラッチ171及び第3ブレーキ181に加え、第1実施形態で述べた第1及び第2ブレーキ91、101を備えている。
第1遊星歯車装置141は、シングルピニオン式の遊星歯車装置であり、第1サンギヤ142と、第1サンギヤ142の外周に設けられた第1リングギヤ143と、両ギヤ142、143に噛み合う複数のピニオンギヤ144と、ピニオンギヤ144を回転自在に支持する、回転自在の第1キャリア145を有している。第2遊星歯車装置151は、第1遊星歯車装置141と同様、シングルピニオン式の遊星歯車装置であり、第2サンギヤ152と、第2リングギヤ153と、両ギヤ152、153に噛み合う複数のピニオンギヤ154と、ピニオンギヤ154を回転自在に支持する、回転自在の第2キャリア155を有している。
また、第3遊星歯車装置161は、ダブルピニオン式の遊星歯車装置であり、第3サンギヤ162と、第3リングギヤ163と、第3サンギヤ162に噛み合う複数の第1ピニオンギヤ164と、第1ピニオンギヤ164及び第3リングギヤ163に噛み合う複数の第2ピニオンギヤ165と、第1及び第2ピニオンギヤ164、165を回転自在に支持する、回転自在の第3キャリア166を有している。第1リングギヤ143の歯数に対する第1サンギヤ142の歯数の比は、第2リングギヤ153の歯数に対する第2サンギヤ152の歯数の比よりも小さな値に設定されている。
第1〜第3サンギヤ142、152、162は、第1実施形態で述べた中空の第2回転軸52に一体に同軸状に設けられており、第2回転軸52と一体に回転自在である。第1及び第2キャリア145、155は、互いに一体に設けられており、出力軸12に同軸状に連結されている。また、第3リングギヤ163は、フランジなどを介して、第2キャリア155に同軸状に連結されている。以上により、第3リングギヤ163、第1及び第2キャリア145、155は、出力軸12と一体に回転自在である。
また、第1実施形態で述べた第1回転軸51と第2回転軸52の間に、前記クラッチ171が設けられている。クラッチ171は、電磁式のクラッチであり、図53に示すように、ECU2に接続されており、その締結度合がECU2によって制御される。さらに、前記第3ブレーキ181は、一般的なワンウェイクラッチと不動のケースCAの組合わせで構成されており、第3キャリア166に取り付けられている。第3ブレーキ181は、第3キャリア166に正転させる動力が伝達されたときに、第3キャリア166とケースCAの間を接続することによって、第3キャリア166の正転を阻止する一方、第3キャリア166に逆転させる動力が伝達されたときに、第3キャリア166とケースCAの間を遮断することによって、第3キャリア166の逆転を許容する。
以上のように、第2変速装置T2Bでは、第1〜第3サンギヤ142、152、162が、互いに一体に回転自在である。また、第3リングギヤ163、第1及び第2キャリア145、155が、互いに一体に回転自在である。さらに、第1リングギヤ143の歯数に対する第1サンギヤ142の歯数の比は、第2リングギヤ153の歯数に対する第2サンギヤ152の歯数の比よりも小さな値に設定されている。
以上から、第1〜第3サンギヤ142、152、162の回転数と、第3リングギヤ163、第1及び第2キャリア145、155の回転数と、第1リングギヤ143の回転数と、第2リングギヤ153の回転数と、第3キャリア166の回転数は、共線図において単一の直線上にこの順で並ぶ共線関係を満たしている。このように、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161によって、回転数が互いに共線関係にある5つの回転要素が構成されている。
また、図1及び図52に示すように、第1〜第3サンギヤ142、152、162は、第2回転軸52、クラッチ171、第1回転軸51、第2スプロケットSP2、チェーンCH、第1スプロケットSP1及び第1変速装置T1の入力軸11を介して、クランクシャフトに連結されている。このため、クラッチ171の締結時、第1及び第2スプロケットSP1、SP2による減速を無視すれば、第1〜第3サンギヤ142、152、162及びエンジン回転数NEは、互いに等しい。さらに、第3リングギヤ163、第1及び第2キャリア145、155は、出力軸12、差動装置DF及び左右のドライブシャフトDS、DSを介して、左右の駆動輪DW、DWに連結されている。このため、差動装置DFによる減速を無視すれば、第3リングギヤ163、第1及び第2キャリア145、155の回転数は、駆動輪DW、DWの回転数と等しい。
以上から、クラッチ171の接続中におけるエンジン3、駆動輪DW、DW及び第2変速装置T2Bにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図54に示す共線図のように表される。この共線図から明らかなように、第2変速装置T2Bの変速比(入力軸11の回転数/出力軸12の回転数)は、第3ブレーキ181で第3キャリア181の逆転を許容し、第2ブレーキ101の解除動作により第2リングギヤ153の回転を許容し、第1ブレーキ91の正転又は逆転阻止動作により第1リングギヤ143の回転(正転・逆転)を阻止したときに、最大(最低速側)になり、その変速段が1速段になる。
また、図55に示すように、第3ブレーキ181で第3キャリア181の逆転を許容し、第2ブレーキ101の正転阻止動作により第2リングギヤ153の正転を阻止し、第1ブレーキ91の解除動作により第1リングギヤ143の回転を許容したときに、中速側の値になり、その変速段が2速段になる。さらに、図56に示すように、第3ブレーキ181で第3キャリア181の正転を阻止し、第2ブレーキ101の解除動作により第2リングギヤ153の回転を許容し、第1ブレーキ91の解除動作により第1リングギヤ143の回転を許容したときに、最小(最高速側)になり、その変速段が3速段になる。
なお、図54から明らかなように、エンジン3のトルクは、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ143を逆転させるように作用し、慣性による駆動輪DW、DWのトルクは、エンジンブレーキによる制動力を反力として、第1リングギヤ143を正転させるように作用する。このため、上述した第2変速装置T2Bの1速段は、第1ブレーキ91の逆転阻止動作の実行中で、かつ、エンジン3から第2変速装置T2Bを介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達中に成立し、第1ブレーキ91の正転阻止動作の実行中で、かつ、駆動輪DW、DWから第2変速装置T2Bを介したエンジン3への動力の伝達中に成立する。
また、第2及び第3ブレーキ101、181は、第2リングギヤ153及び第3キャリア166の逆転を許容するのに対し、図55及び図56から明らかなように、エンジン3のトルクは、駆動輪DW、DWからの負荷を反力として、第2リングギヤ153及び第3キャリア166を逆転させるように作用する。このため、上述した第2変速装置T2Bの2速段及び3速段は、エンジン3から第2変速装置T2Bのみを介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達中には成立せず、駆動輪DW、DWから第2変速装置T2Bを介したエンジン3への動力の伝達中にのみ、成立する。
第3実施形態による第2変速装置T2Bの構成は、上述したように第1実施形態の第2変速装置T2のそれと異なっているため、車両Vの減速走行中における第2変速装置T2Bの動作を制御するための処理も、第1実施形態のそれと異なっている。以下、この処理について、図57を参照しながら、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。同図では、第1実施形態と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。
図57に示すように、前記ステップ1の答がYESのときには、続くステップ151以降において、第1実施形態と同様、変速比RATIOに応じて、第2変速装置T2Bを制御するための制御モードを実行する。具体的には、変速比RATIOが所定の第3変速比R3以下であるか否かを判別する(ステップ151)。この第3変速比R3は、第2変速装置T2Bの前述した3速段の変速比に設定されている。
このステップ151の答がYESで、変速比RATIOが第3変速比R3以下のとき、すなわち、変速比RATIOが第2変速装置T2Bの最も高速側の変速比以下(高速側)のときには、後述する第1制御モードを実行し(ステップ152)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ151の答がNO(RATIO>R3)のときには、変速比RATIOが第2変速比R2以下であるか否かを判別する(ステップ153)。この第2変速比R2は、第2変速装置T2Bの前述した2速段の変速比に設定されている。このステップ153の答がYESのとき、すなわち、変速比RATIOが3速段の変速比よりも大きく(低速側)、かつ、2速段の変速比以下(高速側)のときには、第2制御モードを実行し(ステップ154)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ153の答がNO(RATIO>R2)のときには、変速比RATIOが第1変速比R1以下であるか否かを判別する(ステップ155)。この第1変速比R1は、第2変速装置T2Bの前述した1速段の変速比に設定されている。このステップ155の答がYESのとき、すなわち、変速比RATIOが2速段の変速比よりも大きく(低速側)、かつ、1速段の変速比以下(高速側)のときには、第3制御モードを実行し(ステップ156)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ155の答がNO(RATIO>R1)で、変速比RATIOが第2変速装置T2Bの1速段の変速比よりも大きい(低速側)ときには、第4制御モードを実行し(ステップ157)、本処理を終了する。
[第1制御モード]
次に、図58を参照しながら、図57のステップ152の第1制御モードを実行するための処理について説明する。図58において、第1実施形態と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。同図に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を前述した3速段に設定するために、前記ステップ21及び22の実行により、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作をそれぞれ実行する。
次いで、前記ステップ23の答がNO(AP≦APREF)で、アクセルペダルが踏み込まれていないときには、クラッチ171を締結し(ステップ161)、本処理を終了するこのステップ161の実行により、クラッチ171の締結度合が漸増し、当該実行が繰り返される結果、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が完全に接続される。
一方、ステップ23の答がYESで、アクセルペダルが踏み込まれたときには、クラッチ171を解放し(ステップ162)、本処理を終了する。これにより、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が、クラッチ171で遮断されるので、第2変速装置T2Bを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。したがって、アクセルペダルの踏み込みに伴って発生したエンジン3の動力は、第2変速装置T2Bを介して駆動輪DW、DWに伝達されず、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
次に、図59及び図60を参照しながら、上述した第1制御モードにおける第2変速装置T2Bの動作について説明する。図59は、第1制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図60は、第1制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第1制御モードが、前述したように変速比RATIOが第3変速比R3以下のときに実行される(図57のステップ151、152)ことから明らかなように、第1制御モードを開始する直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは第3変速比R3以下である。
図59に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比R3以下のとき(高速側)には、その後の第1制御モードの開始時に第2変速装置T2Bの変速段を3速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が実行されるとともに、クラッチ171が解放される。
このクラッチ171の解放により、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が遮断されることによって、第2変速装置T2Bを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。したがって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して伝達される。なお、この場合、クラッチ171により、エンジン3と第1サンギヤ142などとの間が遮断されるため、図59では、エンジン3をカッコ書きで示すとともに、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。
また、上述した第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作により第1及び第2リングギヤ143、153の回転が許容されることと、第3ブレーキ181が第3キャリア166の正転のみを阻止する機械式のワンウェイクラッチであることから、第1及び第2リングギヤ143、153が正転するとともに、第3キャリア166が逆転する。図59において、細い一点鎖線は、第2変速装置T2Bの変速段が3速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第1制御モードが実行されると、図60に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が引き続き実行される(図58のステップ21、22)。また、クラッチ171の締結度合を漸増させる(ステップ161)。図60において、RB3は、第3ブレーキ181の反力トルクを示しており、その他のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。
図60から明らかなように、クラッチ171によるエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間の接続によって、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。それに伴い、第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163に伝達された駆動輪DW、DWの慣性トルクが、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力を反力として、第3キャリア166に伝達され、第3キャリア166を正転させるように作用する。これにより、それまで図59に示すように逆転していた第3キャリア166の回転数が値0になる。それに伴い、第3ブレーキ181によって、第3キャリア166の正転が阻止される。
そして、上述したように第3キャリア166の正転が阻止されると、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第3ブレーキ181から第3キャリア166に作用する制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2Bを介してエンジン3に伝達される。
また、第1制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれ、アクセル開度APが所定開度APREFを上回ると(図58のステップ23:YES)、クラッチ171が解放され(ステップ162)、それにより、前述した車両Vの走行中と同様、第2変速装置T2Bを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述した運転者のアクセルペダルの操作により、減速フューエルカット運転が終了されると、再度、前述した図59に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第2制御モード]
次に、図61を参照しながら、前述した図57のステップ154の第2制御モードを実行するための処理について説明する。同図において、第1実施形態と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。図61に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を3速段に設定するために、前記ステップ31及び32の実行により、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作をそれぞれ実行するとともに、続くステップ171において、クラッチ171を締結し、本処理を終了する。
また、図62は、第2制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図63は、第2制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第2制御モードが、前述したように変速比RATIOが第3変速比R3よりも大きく、かつ、第2変速比R2以下のときに実行される(図57のステップ153、154)ことから明らかなように、第2制御モードの開始直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは、第2変速装置T2Bの3速段の変速比である第3変速比R3よりも大きく、かつ、2速段の変速比である第2変速比R2以下である。
図62に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比R3よりも大きく、かつ、第2変速比R2以下のときには、その後の第2制御モードの開始時に第2変速装置T2Bの変速段を3速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が実行されるとともに、クラッチ171が締結される。
前述したように、第2変速装置T2Bの変速段が3速段であるときには、第3ブレーキ171による第3キャリア166の正転の阻止により、第3キャリア86の回転数が値0になる(図56参照)。また、変速段が2速段であるときには、第2ブレーキ101の正転阻止動作により、第2リングギヤ153の回転数が値0になる(図55参照)。図62において、細い一点鎖線は、変速段が3速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、細い二点鎖線は、2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
これに対して、図62に示す車両Vの走行中、前述した第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作によって、第1及び第2リングギヤ143、153の回転(正転・逆転)が許容されるとともに、上述したクラッチ171の締結によって、エンジン3の動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2Bの3速段の第3変速比R3と2速段の第2変速比R2との間にあることから、第1及び第2リングギヤ143、153が正転方向に空転するとともに、第3キャリア166が逆転方向に空転する。
この場合、エンジン3の動力が第1サンギヤ142などに伝達されるものの、第1及び第2リングギヤ143、153並びに第3キャリア166がいずれも空転するので、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジン3の動力は、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第2制御モードが実行されると、図63に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作が実行される(図61のステップ31、32)とともに、クラッチ171が締結される(ステップ171)。図63に示す各種のパラメータは、図60を参照して説明したとおりである。
図63から明らかなように、上述したクラッチ171の締結によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続された状態で、エンジン回転数NEが低下すると、それに伴い、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。また、前述した図60に示す第1制御モードの場合と同様、第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163に伝達された駆動輪DW、DWの慣性トルクが、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力を反力として、第3キャリア166に伝達され、第3キャリア166を正転させるように作用する。これにより、それまで図62に示すように逆転していた第3キャリア166の回転数が値0になる。それに伴い、第3ブレーキ181によって、第3キャリア166の正転が阻止される。
そして、上述したように第3キャリア166の正転が阻止されると、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第3ブレーキ181から第3キャリア166に作用する制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2Bを介してエンジン3に伝達される。
また、第2制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれることによって、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、それにより発生したエンジン3のトルクは、図63から明らかなように、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ143、第2リングギヤ153及び第3キャリア166を逆転させるように作用する。これにより、第3ブレーキ181から第3キャリア166に制動力が作用しなくなる結果、再度、前述した図62に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第3制御モード]
次に、図64を参照しながら、前述した図57のステップ156の第3制御モードを実行するための処理について説明する。同図において、第1実施形態と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。図64に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を2速段に設定するために、前記ステップ41及び42の実行により、第1ブレーキ91の解除動作及び第2ブレーキ101の正転阻止動作をそれぞれ実行し、続くステップ181において、クラッチ171を締結し、本処理を終了する。
また、図65は、第3制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図66は、第3制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第3制御モードが、前述したように変速比RATIOが第2変速比R2よりも大きく、かつ、第1変速比R1以下のときに実行される(図57のステップ155、156)ことから明らかなように、第3制御モードの開始直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは、第2変速装置T2Bの2速段の変速比である第2変速比R2よりも大きく、かつ、1速段の変速比である第1変速比R1以下である。
図65に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第2変速比R2よりも大きく、かつ、第1変速比R2以下のときには、その後の第3制御モードの開始時に第2変速装置T2Bの変速段を2速段に迅速に設定するために、第1ブレーキ91の解除動作及び第2ブレーキ101の正転阻止動作が実行されるとともに、クラッチ171が締結される。
前述したように、第2変速装置T2Bの変速段が2速段であるときには、第2ブレーキ101の正転阻止動作により、第2リングギヤ153の回転数が値0になる(図55参照)。また、変速段が1速段であるときには、第1ブレーキ91の正転阻止動作により、第1リングギヤ143の回転数が値0になる(図54参照)。図65において、細い一点鎖線は、変速段が2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、細い二点鎖線は、1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
これに対して、図65に示す車両Vの走行中、上述した第1ブレーキ91の解除動作によって、第1リングギヤ143の回転(正転・逆転)が許容され、第2ブレーキ101の正転阻止動作によって、第2リングギヤ153の逆転が許容されるとともに、クラッチ171の締結によって、エンジン3の動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2Bの2速段の第2変速比R2と1速段の第1変速比R1との間にあることから、第1リングギヤ143が正転方向に空転するとともに、第2リングギヤ153及び第3キャリア166が、逆転方向に空転する。
この場合にも、前述した図62に示す車両Vの走行中の場合と同様、エンジン3の動力が第1サンギヤ142などに伝達されるものの、第1及び第2リングギヤ143、153並びに第3キャリア166がいずれも空転するので、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジン3の動力は、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第3制御モードが実行されると、図66に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1ブレーキ91の解除動作及び第2ブレーキ101の正転阻止動作が実行される(図64のステップ41、42)とともに、クラッチ171が締結される(ステップ181)。
図66から明らかなように、前述した図63に示す第2制御モードの場合と同様、上述したクラッチ171の締結によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続された状態で、エンジン回転数NEが低下すると、それに伴い、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。また、第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163に伝達された駆動輪DW、DWの慣性トルクが、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力を反力として、第2リングギヤ153に伝達され、第2リングギヤ153を正転させるように作用する。これにより、それまで図65に示すように逆転していた第2リングギヤ153の回転数が値0になる。それに伴い、第2ブレーキ101によって、第2リングギヤ153の正転が阻止される。
そして、上述したように第2リングギヤ153の正転が阻止されると、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第2ブレーキ101から第2リングギヤ153に作用する制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2Bを介してエンジン3に伝達される。
また、第3制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれることによって、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、それにより発生したエンジン3のトルクは、図66から明らかなように、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ143、第2リングギヤ153及び第3キャリア166を逆転させるように作用する。これにより、第2ブレーキ101から第2リングギヤ153に制動力が作用しなくなる結果、再度、前述した図65に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第4制御モード]
次に、図67を参照しながら、前述した図57のステップ157の第4制御モードを実行するための処理について説明する。同図において、第1実施形態と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。図67に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を1速段に設定するために、前記ステップ51及び52の実行により、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作をそれぞれ実行するとともに、続くステップ191において、クラッチ171を締結し、本処理を終了する。
また、図68は、第4制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図69は、第4制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。第4制御モードが、前述したように変速比RATIOが第1変速比R1よりも大きいときに実行される(図57のステップ155、157)ことから明らかなように、第4制御モードの開始直前の車両Vの走行中、変速比RATIOは、第2変速装置T2Bの1速段の変速比である第1変速比R1よりも大きい。
図68に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第1変速比R1よりも大きいときには、その後の第4制御モードの開始時に第2変速装置T2Bの変速段を1速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作が実行されるとともに、クラッチ171が締結される。
前述したように、第2変速装置T2Bの変速段が1速段であるときには、第1ブレーキ91の正転阻止動作により、第1リングギヤ143の回転数が値0になる(図54参照)。図68において、細い一点鎖線は、変速段が1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
これに対して、図68に示す車両Vの走行中、上述した第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作によって、第1及び第2リングギヤ143、153の逆転が許容されるとともに、クラッチ171の締結によって、エンジン3の動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。このことと、変速比RATIOが第2変速装置T2Bの1速段の第1変速比R1よりも大きいことから、第1リングギヤ143、第2リングギヤ153及び第3キャリア166が、逆転方向に空転する。
この場合にも、前述した図62及び図65に示す車両Vの走行中の場合と同様、エンジン3の動力が第1サンギヤ142などに伝達されるものの、第1及び第2リングギヤ143、153並びに第3キャリア166がいずれも空転するので、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジン3の動力は、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達されない。したがって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第4制御モードが実行されると、図69に示すように、第2変速装置T2Bの変速段を1速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ91、101の正転阻止動作が実行される(図67のステップ51、52)とともに、クラッチ171が締結される(ステップ191)。図69に示す各種のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。
図69から明らかなように、前述した図63及び図66の場合と同様、上述したクラッチ171の締結によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続された状態で、エンジン回転数NEが低下すると、それに伴い、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。また、第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163に伝達された駆動輪DW、DWの慣性トルクが、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力を反力として、第1リングギヤ143に伝達され、第1リングギヤ143を正転させるように作用する。これにより、それまで図68に示すように逆転していた第1リングギヤ143の回転数が値0になる。それに伴い、第1ブレーキ91によって、第1リングギヤ143の正転が阻止される。
そして、上述したように第1リングギヤ143の正転が阻止されると、第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第1ブレーキ91から第1リングギヤ143に作用する制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達される。換言すれば、慣性による駆動輪DW、DWの動力が、第2変速装置T2Bを介してエンジン3に伝達される。
なお、前述したように、第2ブレーキ101の解除動作ではなく、第2ブレーキ101の正転阻止動作が実行されるのは、第1実施形態で述べたのと同じ理由による。すなわち、図57に示す処理の実行内容から明らかなように、車両Vの減速走行中、エンジンブレーキの作用により変速比RATIOが小さくなるのに伴って、第2変速装置T2Bを制御するための制御モードの切換が行われる。この場合、例えば、車両Vの減速走行の開始に伴って第4制御モードが選択されていたときには、第4制御モードの実行中、それまで第1変速比R1よりも大きかった変速比RATIOが、エンジンブレーキの作用によって、第1変速比R1以下になることによって、図57のステップ155の答がYESになり、それにより、第3制御モードが実行される(ステップ156)ことになる。
このように、第2変速装置T2Bの制御モードが第3制御モードに切り換えられたときに、その切換を待って、第2ブレーキ101を正転阻止動作に切り換えるのではなく、第2ブレーキ101の正転阻止動作を前もって実行することで、制御モードの切換を迅速に行うためである。また、この場合、第4制御モードの実行中、第2リングギヤ153が逆転し、当該第2リングギヤ153の逆転が第2ブレーキ101により許容されるので、第2ブレーキ101の正転阻止動作を実行しても、第4制御モードの動作に何ら支障はない。
また、第4制御モードの実行中、アクセルペダルが踏み込まれることによって、減速フューエルカット運転が終了され、エンジン3への燃料の供給が再開されると、それにより発生したエンジン3のトルクは、図69から明らかなように、駆動輪DW、DWの負荷を反力として、第1リングギヤ143、第2リングギヤ153及び第3キャリア166を逆転させるように作用する。これにより、第1ブレーキ91から第1リングギヤ143に制動力が作用しなくなる結果、再度、前述した図68に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
なお、第4制御モードにおいて、第2ブレーキ101の正転阻止動作に代えて、解除動作を実行してもよい。
次に、図70を参照しながら、車両Vの減速走行中におけるエンジン3のアイドリングを停止(アイドルストップ)するための処理について説明する。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに、前述した第1〜第4制御モードに優先して、繰り返し実行される。図70において、第1実施形態(図26)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。図70に示すように、前記ステップ62の答がYESで、車速VPが所定車速VPREF以下のときには、クラッチ171を解放し(ステップ201)、前記ステップ64を実行する。
なお、図70に示す処理において、第1及び第2ブレーキ91、101は、第1実施形態と同様、前記ステップ62(VP≦VPREF)の答がYESになる直前に制御されていた状態に保持される。例えば、ステップ62の答がYESになる直前に、前述した第1制御モードが実行されていたときには、第1及び第2ブレーキ91、101は、第1制御モードの場合と同様、第1及び解除動作をそれぞれ実行するように制御される。
図71は、前述した第2制御モードの実行中に、図70のステップ201及び64が実行された場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。図71に示すように、クラッチ171が解放されることによって、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が遮断されるので、慣性による駆動輪DW、DWの動力が第2変速装置T2Bを介して伝達されることによるエンジン3の不要なクランキングを防止することができる。また、車両Vの減速走行中、車速VPが所定車速VPREF以下のときに、減速フューエルカット運転からのエンジン3への燃料供給の再開に優先して、エンジン3のアイドルストップを適切に行うことができる。
なお、この場合、クラッチ171によりエンジン3と第1サンギヤ142などとの間が遮断されるため、図71では、エンジン3をカッコ書きで示しており、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。また、図71は、第2制御モードの実行中にエンジン3のアイドルストップが実行された場合を示しているが、あくまで一例であり、他の制御モードの実行中にも、上記ステップ61及び62の条件の成立によりステップ201及び64が実行されれば、それにより、エンジン3のアイドルストップを適切に行うことができる。
また、第1実施形態と同様、第1変速装置T1の故障が判定される(図28)とともに、第1変速装置T1が故障していると判定されているときに、第2変速装置T2Bを介してエンジン3の動力を駆動輪DW、DWに伝達するように、第2変速装置T2Bの動作が制御される。
図72は、第1変速装置T1の故障中に第2変速装置T2Bの動作を制御するための処理を示している。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。図72において、第1実施形態(図29)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。同図に示すように、前記ステップ82の答がYES(F_T1NG=1)のとき、すなわち、第1変速装置T1が故障していると判定されているときには、クラッチ171を解放し(ステップ211)、前記ステップ84以降を実行する。また、前記ステップ88の答がYES(AP>APREF)で、アクセルペダルが踏み込まれたときには、クラッチ171を締結し(ステップ212)、本処理を終了する。このステップ212の実行により、クラッチ171の締結度合が漸増し、当該実行が繰り返されることにより、クラッチ171が完全に締結される。
図73は、上述した図72に示す処理により車両Vの停止中にエンジン3を始動した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。上述したように、エンジン3の始動時(ステップ86:YES)には、クラッチ171が解放状態に保持される(ステップ211)。これにより、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が遮断されるので、エンジン3から駆動輪DW、DWへの第2変速装置T2Bを介した動力の伝達が遮断される。したがって、図73に示すように、駆動輪DW、DWの回転数が値0のままで、すなわち車両Vを停止したままで、エンジン3の始動を適切に行うことができるとともに、エンジン3のアイドル運転を適切に行うことができる。
なお、この場合、クラッチ171によりエンジン3と第1サンギヤ142などとの間が遮断されるため、図73では、エンジン3をカッコ書きで示すとともに、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。
また、図74は、図72に示す処理により車両Vを発進させた場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。同図における各種のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。
前述したように、アクセルペダルが踏み込まれると(図72のステップ88:YES)、それまで解放されていたクラッチ171が締結されるとともに、その締結度合を漸増させる。これにより、図74に示すように、エンジン3のトルクが第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。第1サンギヤ142などに伝達されたエンジン3のトルクは、第1ブレーキ91から第1リングギヤ143に作用する制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して駆動輪DW、DWに伝達される。以上により、エンジン3の動力は、第2変速装置T2Bの1速段の変速比で減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。したがって、より大きなトルクを駆動輪DW、DWに伝達することができる。
この場合、クラッチ171の締結度合を漸増させるので、エンジン3から第2変速装置T2Bを介して駆動輪DW、DWに伝達されるトルクを漸増させることができ、それにより、エンジンストールを発生させることなく、車両Vを適切に発進させることができる。
また、第3実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第3実施形態における第1〜第3遊星歯車装置141、151、161が、本発明における第1差動装置に相当する。また、第3実施形態における第1〜第3サンギヤ142、152、162が、本発明における第1回転要素に相当し、第3実施形態における第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163が、本発明における第2回転要素に相当する。さらに、第3実施形態における第1リングギヤ143、第2リングギヤ153及び第3キャリア166が、本発明における第3回転要素、第4回転要素及び第5回転要素にそれぞれ相当し、第3実施形態におけるクラッチ171が、本発明における動力伝達変更装置に相当するとともに、第3実施形態における第3ブレーキ181が、本発明における第2ワンウェイクラッチに相当する。その他の第1変速装置T1に関する対応関係は、第1実施形態と同様である。
以上のように、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様、車両Vの減速走行中、第1変速装置T1と並列に設けられた第2変速装置T2Bを介して、駆動輪DW、DWとエンジン3との間の動力の伝達が行われる。この場合、図57〜図69を参照して詳述したように、変速比RATIOが小さいほど、すなわち、駆動輪DW、DWの回転数が高いほど、第2変速装置T2Bの変速段をより高速側の変速段に設定するので、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWにエンジンブレーキを適切に作用させることができ、それによりドライバビリティを向上させることができるとともに、エンジン3の過回転を防止することができる。
また、車両Vの走行中、エンジン3の動力を第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達しているときには、クラッチ171によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間の動力の伝達を遮断することによって、第2変速装置T2Bを介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を遮断することができる。これにより、第1変速装置T1を介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を、支障なく行うことができる。
さらに、図60及び図63を参照して説明したように、車両Vの減速走行中、変速比RATIOが比較的高いとき、すなわち駆動輪DW、DWの回転数が高いときには、第3キャリア166の正転が、ワンウェイクラッチで構成された第3ブレーキ181によって自動的に阻止され、それにより第2変速装置T2Bの変速段が3速段に設定される。また、車両Vの減速走行中、変速比RATIOが比較的低いとき、すなわち駆動輪DW、DWの回転数が低いときには、第3キャリア166が逆転し、当該第3キャリア166の逆転が第3ブレーキ181によって自動的に許容される。したがって、上述した動作を行う上で、第3ブレーキ181自体の特別な制御は不要である。
さらに、図66及び図69を参照して説明したように、車両Vの減速走行中、第2ブレーキ101による第2リングギヤ153の正転の阻止、及び第1ブレーキ91による第1リングギヤ143の正転の阻止が、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161へのエンジンブレーキによる制動力の伝達に伴って自動的に行われる。したがって、ON/OFF式のクラッチを用いた場合と異なり、上述した動作を行う上で、第1及び第2リングギヤ143、153の回転数を常に監視する必要がない。
また、図60及び図63を参照して説明したように、第2変速装置T2Bの変速段を3速段に設定するために、第3ブレーキ181で第3キャリア166を制動する場合に、第1及び第2ブレーキ91、101の解除動作によって、第1及び第2リングギヤ143、153の正転を許容でき、したがって、上述した動作を支障なく行うことができる。
さらに、図72〜図74を参照して説明したように、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、車両Vの停止中で、かつエンジン3を始動するときには、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間の動力の伝達が、クラッチ171によって遮断される。したがって、第1変速装置T1の故障中で、かつ車両Vの停止中、エンジン3の始動を、駆動輪DW、DWを駆動せずに適切に行うことができる。また、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、車両Vの停止中、アクセルペダルが踏み込まれない限り、上述したエンジン3と第1サンギヤ142などとの間の動力の伝達の遮断が保持される。したがって、第1変速装置T1の故障中で、かつ車両Vの停止中、エンジン3のアイドル運転を、駆動輪DW、DWを駆動せずに適切に行うことができる。
さらに、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の運転中で、かつ車両Vを発進させるときには、第1ブレーキ91の逆転阻止動作により第1リングギヤ143の逆転が阻止され、第2ブレーキ101の解除動作が実行されるとともに、エンジン3から駆動輪DW、DWに伝達される動力が漸増するように、クラッチ171の締結度合が漸増される。これにより、第1変速装置T1の故障中、エンジン3から第2変速装置T2Bを介して駆動輪DW、DWに動力を伝達できるとともに、当該駆動輪DW、DWに伝達される動力を漸増させることができるので、エンジンストール及びショックを発生させることなく、車両Vを適切に発進させることができる。
また、この場合、第1ブレーキ91により第1リングギヤ143を制動するので、第2ブレーキ101により第2リングギヤ153を制動した場合と比較して、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達されたトルクに対する第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163に伝達されたトルクの比を、大きくすることができる。したがって、第2変速装置T2Bを介した駆動輪DW、DWへの動力の伝達により車両Vを発進させるときに、より大きなトルクを駆動輪DW、DWに伝達でき、ひいては、車両Vの発進性を向上させることができる。
次に、図75を参照しながら、本発明の第4実施形態による動力伝達装置について説明する。図75に示すように、第4実施形態による動力伝達装置は、第3実施形態と比較して、第1〜第3ブレーキ121、131、211がいずれも電磁クラッチ式のブレーキで構成されている点が、主に異なっている。図75において、第2及び第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
図76に示すように、第1〜第3ブレーキ121、131、211は、ECU2に接続されており、それらの締結度合は、ECU2によって制御される。上述した第3実施形態との構成の違いから、第4実施形態における第2変速装置T2Cの動作は、第3実施形態のそれと異なっているので、以下、この点について、図77〜図94を参照しながら説明する。
[第1制御モード]
図77は、第3実施形態で述べた第1制御モードを実行するための処理を示している。同図において、第3実施形態(図58)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。まず、図77のステップ221及び222においてそれぞれ、第2変速装置T2Cの変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ121、131を解放する。次いで、第3ブレーキ211を締結し(ステップ223)、第3実施形態で述べたステップ23、161及び162を実行し、本処理を終了する。これにより、アクセルペダルが踏み込まれていないとき(ステップ23:NO)には、クラッチ171の締結度合を漸増させ(ステップ161)、踏み込まれたとき(ステップ23:YES)には、クラッチ171が解放される(ステップ162)。
図78は、第1制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図79は、第1制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図78に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比R3以下のときには、その後の第1制御モードの開始時に第2変速装置T2Cの変速段を3速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ121、131が解放され、第3ブレーキ211が締結されるとともに、クラッチ171が解放される。
第3実施形態と同様、上述したクラッチ171の解放により、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。なお、この場合、クラッチ171によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が遮断されるため、図78では、エンジン3をカッコ書きで示すとともに、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。また、上述した第1及び第2ブレーキ121、131の解放によって、第1及び第2リングギヤ143、153の回転(正転・逆転)が許容されるとともに、第3ブレーキ211の締結により、第3キャリア166が第3ブレーキ211で制動されることによって、第3キャリア166の回転数が値0になる。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第1制御モードが実行されると、図79に示すように、第2変速装置T2Cの変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ121、131が解放される(図77のステップ221、222)とともに、第3ブレーキ211が締結される(ステップ223)。また、第3実施形態と同様、クラッチ171の締結度合を漸増させる(ステップ161)。これにより、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。図79において、RB3Aは、第3ブレーキ211の反力トルクを示しており、その他のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。
図79から明らかなように、第3実施形態と同様、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第3ブレーキ211の制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第1制御モードの実行中、第3実施形態と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ23:YES)、クラッチ171が解放され(ステップ162)、それにより、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図78に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第2制御モード]
次に、図80を参照しながら、第2制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図80のステップ231及び232においてそれぞれ、第2変速装置T2Cの変速段を3速段に設定するために、第1及び第2ブレーキ121、131を解放するとともに、続くステップ233において、第3ブレーキ211を締結する。次いで、ステップ234〜236において、前記ステップ23、161及び162と同様、クラッチ171の動作を、アクセル開度APと所定開度APREFとの比較結果に応じて制御し、本処理を終了する。
具体的には、ステップ234において、アクセル開度APが所定開度APREFよりも大きいか否かを判別し、この答がNOで、アクセルペダルが踏み込まれていないときには、ステップ235において、クラッチ171を締結し、本処理を終了する。このステップ235の実行により、クラッチ171の締結度合が漸増する。一方、ステップ234の答がYESで、アクセルペダルが踏み込まれたときには、ステップ236において、クラッチ171を解放し、本処理を終了する。
図81は、第2制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図82は、第2制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図81に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第3変速比R3よりも大きく、かつ、第2変速比R2以下のときには、その後の第2制御モードの開始時に第2変速装置T2Cの変速段を3速段に迅速に設定するために、第1及び第2ブレーキ121、131が解放され、第3ブレーキ211が締結されるとともに、クラッチ171が解放される。
このクラッチ171の解放によって、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。なお、この場合、クラッチ171によりエンジン3と第1サンギヤ142などとの間が遮断されるため、図81では、エンジン3をカッコ書きで示すとともに、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。また、同図において、細い一点鎖線は、第2変速装置T2Cの変速段が2速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第2制御モードが実行されると、図82に示すように、第2変速装置T2Cの変速段を3速段に設定するために、引き続き、第1及び第2ブレーキ121、131が解放される(図80のステップ231、232)とともに、第3ブレーキ211が締結される(ステップ233)。また、クラッチ171の締結度合を漸増させる(ステップ235)。図82における各種のパラメータは、図79を参照して説明したとおりである。
図82から明らかなように、上述したクラッチ171の締結によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続された状態で、エンジン回転数NEが低下すると、それに伴い、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第3ブレーキ211の制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第2制御モードの実行中、図77に示す第1制御モードの場合と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ234:YES)、クラッチ171が解放され(ステップ236)、それにより、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図81に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第3制御モード]
次に、図83を参照しながら、第3制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図83のステップ241及び242においてそれぞれ、第2変速装置T2Cの変速段を2速段に設定するために、第1及び第3ブレーキ121、211を解放するとともに、続くステップ243において、第2ブレーキ131を締結する。次いで、ステップ244〜246において、前記ステップ23、161及び162と同様、クラッチ171の動作を、アクセル開度APと所定開度APREFとの比較結果に応じて制御し、本処理を終了する。
図84は、第3制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図85は、第3制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図84に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第2変速比R2よりも大きく、かつ、第1変速比R1以下のときには、その後の第3制御モードの開始時に第2変速装置T2Cの変速段を2速段に迅速に設定するために、第1及び第3ブレーキ121、211が解放され、第2ブレーキ131が締結されるとともに、クラッチ171が解放される。
クラッチ171の解放により、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。なお、この場合、クラッチ171によりエンジン3と第1サンギヤ142などとの間が遮断されるため、図84では、エンジン3をカッコ書きで示すとともに、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。
また、上述した第1及び第3ブレーキ121、211の解放によって、第1リングギヤ143及び第3キャリア166の回転(正転・逆転)が許容されるとともに、第2ブレーキ131の締結により、第2リングギヤ153が第2ブレーキ131で制動されることによって、第2リングギヤ153の回転数が値0になる。図84において、細い一点鎖線は、第2変速装置T2Cの変速段が1速段のときの各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第3制御モードが実行されると、図85に示すように、第2変速装置T2Cの変速段を2速段に設定するために、引き続き、第1及び第3ブレーキ121、211が解放される(図83のステップ241、242)とともに、第2ブレーキ131が締結される(ステップ243)。また、クラッチ171の締結度合を漸増させる(ステップ245)。図85において、RB2Aは、第2実施形態で説明したように第2ブレーキ131の反力トルクを示している。
図85から明らかなように、上述したクラッチ171の締結によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続された状態で、エンジン回転数NEが低下すると、それに伴い、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第2ブレーキ131の制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第3制御モードの実行中、図77に示す第1制御モードの場合と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ244:YES)、クラッチ171が解放され(ステップ246)、それにより、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図84に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
[第4制御モード]
次に、図86を参照しながら、第4制御モードを実行するための処理について説明する。まず、図86のステップ251及び252においてそれぞれ、第2変速装置T2Cの変速段を1速段に設定するために、第2及び第3ブレーキ131、211を解放するとともに、続くステップ253において、第1ブレーキ121を締結する。次いで、ステップ254〜256において、前記ステップ23、161及び162と同様、クラッチ171の動作を、アクセル開度APと所定開度APREFとの比較結果に応じて制御し、本処理を終了する。
図87は、第4制御モードを開始する直前の車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係を示しており、図88は、第4制御モードの実行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図87に示すように、車両Vの走行中、変速比RATIOが第1変速比R1よりも大きいときには、その後の第4制御モードの開始時に第2変速装置T2Cの変速段を1速段に迅速に設定するために、第1ブレーキ121が締結され、第2及び第3ブレーキ131、211が解放されるとともに、クラッチ171が解放される。
このクラッチ171の解放により、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断されることによって、エンジン3の動力は、第1変速装置T1のみを介して駆動輪DW、DWに伝達される。なお、この場合、クラッチ171によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が遮断されるため、図87では、エンジン3をカッコ書きで示すとともに、エンジン回転数NEを表す白丸を破線で示している。
また、上述した第1ブレーキ121の締結により、第1リングギヤ143が第1ブレーキ121で制動されることによって、第1リングギヤ143の回転数が値0になるとともに、第2及び第3ブレーキ131、211の解放により、第2リングギヤ153及び第3キャリア166の回転(正転・逆転)が許容される。
また、走行中の車両Vが減速走行に移行し、エンジン3の減速フューエルカット運転が実行されるのに伴って、第4制御モードが実行されると、図88に示すように、第2変速装置T2Cの変速段を1速段に設定するために、引き続き、第2及び第3ブレーキ131、211が解放される(図86のステップ251、252)とともに、第1ブレーキ121が締結される(ステップ253)。また、クラッチ171の締結度合を漸増させる(ステップ255)。図88において、RB1Aは、第2実施形態で説明したように、第1ブレーキ121の反力トルクを示している。
図88から明らかなように、上述したクラッチ171の締結によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続された状態で、エンジン回転数NEが低下すると、それに伴い、エンジンブレーキによる制動力が、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達される。第1サンギヤ142などに伝達されたエンジンブレーキによる制動力は、第1ブレーキ121の制動力を反力として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を介して、駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第4制御モードの実行中、図77に示す第1制御モードの場合と同様、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ254:YES)、クラッチ171が解放され(ステップ256)、それにより、第2変速装置T2Cを介したエンジン3と駆動輪DW、DWの間の動力の伝達が遮断される。また、上述したアクセルペダルの踏み込みにより、エンジン3への燃料の供給が再開されると、再度、前述した図87に示す車両Vの走行中の動作が行われ、エンジン3の動力が、第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達される。
また、第4実施形態では、車両Vの減速走行中におけるエンジン3のアイドリングを停止(アイドルストップ)するための処理が、第3実施形態(図70)と同様にして実行される。図89は、前述した第2制御モードの実行中に、本処理が実行された場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。
図89に示すように、クラッチ171が解放されることによって、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が遮断されるので、慣性による駆動輪DW、DWの動力が第2変速装置T2Cを介して伝達されることによるエンジン3の不要なクランキングを防止することができる。また、第1実施形態と同様、車両Vの減速走行中、車速VPが所定車速VPREF以下のときに、減速フューエルカット運転からのエンジン3への燃料供給の再開に優先して、エンジン3のアイドルストップを適切に行うことができる。
また、第4実施形態では、第1実施形態と同様、第1変速装置T1の故障が判定される(図28)とともに、第1変速装置T1が故障していると判定されているときに、第2変速装置T2Cを介してエンジン3の動力を駆動輪DW、DWに伝達するように、第2変速装置T2Cの動作が制御される。図90は、第1変速装置T1の故障中に第2変速装置T2Cの動作を制御するための処理について説明する。同図において、第1及び第3実施形態(図29、図72)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。以下、第1及び第3実施形態と異なる実行内容を中心として説明する。
図90に示すように、前記ステップ211に続くステップ261及び262ではそれぞれ、第2及び第3ブレーキ131、211を解放する。次いで、第1ブレーキ121を締結し(ステップ263)、前記ステップ86以降を実行する。
図91は、上述した図90に示す処理により車両Vの停止中にエンジン3を始動した場合における各種の回転要素の間の回転数の関係を示している。上述したように、第3実施形態と同様、エンジン3の始動時(ステップ86:YES)には、クラッチ171が解放状態に保持される(ステップ211)。これにより、エンジン3から駆動輪DW、DWへの第2変速装置T2Cを介した動力の伝達が遮断されるので、図91に示すように、駆動輪DW、DWの回転数が値0のままで、エンジン3の始動を適切に行うことができるとともに、エンジン3のアイドル運転を適切に行うことができる。
また、図92は、図90に示す処理により車両Vを発進させた場合における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。図92において、RB1Aは、図88を参照して述べたように、第1ブレーキ121の反力トルクを示しており、その他のパラメータは、第1実施形態で説明したとおりである。
前述したように、アクセルペダルが踏み込まれると(ステップ88:YES)、それまで解放されていたクラッチ171が締結されるとともに、その締結度合を漸増させる。これにより、エンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間が接続される。また、第2及び第3ブレーキ131、211が解放される(ステップ261、262)とともに、第1ブレーキ121が締結される(ステップ263)。
図92から明らかなように、第3実施形態と同様、エンジン3のトルクは、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達され、さらに、第1ブレーキ121の制動力を反力として、駆動輪DW、DWに伝達される。以上により、エンジン3の動力は、第2変速装置T2Cの1速段の変速比で減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
また、第4実施形態では、第2実施形態と同様、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の動力を第2変速装置T2Cを介して駆動輪DW、DWに伝達しているときに、変速段の変更が行われる。図93は、第2変速装置T2Cの変速段を1速段から2速段に変更するための処理を示している。同図において、第2実施形態(図50)と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。以下、第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
前記ステップ142の答がYES(F_UPRATIO=1)で、第2変速装置T2Cの変速段を1速段から2速段に変更するように要求されているときには、2速段に変速段を変更するために、続くステップ271〜275の処理を実行する。
すなわち、それまで解放状態にあったクラッチ171を引き続き解放状態に保持し(ステップ271)、それまで締結状態にあった第1ブレーキ121を解放する(ステップ272)。次いで、解放状態にあった第3ブレーキ211を引き続き解放する(ステップ273)とともに、解放状態にあった第2ブレーキ131を締結する(ステップ274)。次いで、クラッチ171を締結し(ステップ275)、本処理を終了する。これらのステップ274及び275における第2ブレーキ131及びクラッチ171の締結は、両者131、171の締結度合が漸増するように、行われる。
また、図94は、上述した図93に示す処理により第2変速装置T2Cの変速段を2速段にシフトアップしたときの車両Vの走行中における各種の回転要素の間の回転数の関係及びトルクの釣合関係を示している。
図94から明らかなように、エンジン3のトルクは、第1〜第3サンギヤ142、152、162に伝達され、さらに、第2ブレーキ131の制動力を反力として、駆動輪DW、DWに伝達される。以上により、エンジン3の動力は、第2変速装置T2Cの2速段の変速比で減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
なお、図示しないものの、第2変速装置T2Cの3速段への変速段の切換も同様にして行うことができる。この場合、3速段への変速段の設定のためのクラッチ171、第1〜第3ブレーキ121、131、211の制御は、第1及び第2制御モードの場合と同様にして行われる。
また、第4実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第4実施形態におけるECU2が、本発明における故障判定手段及び故障時用制御手段に相当する。その他の対応関係は、本発明における第2ワンウェイクラッチを除き、第3実施形態と同様である。
以上のように、第4実施形態によれば、第3実施形態と同様、車両Vの減速走行中、第1変速装置T1と並列に設けられた第2変速装置T2Cを介して、駆動輪DW、DWとエンジン3との間の動力の伝達が行われる。この場合、図77〜図88を参照して詳述したように、変速比RATIOが小さいほど、すなわち、駆動輪DW、DWの回転数が高いほど、第2変速装置T2Cの変速段をより高速側の変速段に設定するので、車両Vの減速走行中、駆動輪DW、DWにエンジンブレーキを適切に作用させることができ、それによりドライバビリティを向上させることができるとともに、エンジン3の過回転を防止することができる。
また、車両Vの走行中、エンジン3の動力を第1変速装置T1を介して駆動輪DW、DWに伝達しているときには、クラッチ171によりエンジン3と第1〜第3サンギヤ142、152、162との間の動力の伝達を遮断することによって、第2変速装置T2Cを介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を遮断することができる。これにより、第1変速装置T1を介した駆動輪DW、DWへのエンジン3の動力の伝達を、支障なく行うことができる。
さらに、図90〜図94を参照して説明したように、第3実施形態と同様、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、車両Vの停止中、エンジン3の始動及びアイドル運転を、駆動輪DW、DWを駆動せずに適切に行うことができる。また、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の運転中で、かつ車両Vを発進させるときに、エンジン3から第2変速装置T2Cを介して駆動輪DW、DWに動力を伝達できるとともに、当該駆動輪DW、DWに伝達される動力を漸増させることができる。したがって、第1変速装置T1の故障中、エンジンストール及びショックを発生させることなく、車両Vを適切に発進させることができる。この場合、第1ブレーキ121により第1リングギヤ143を制動するので、より大きなトルクを駆動輪DW、DWに伝達でき、ひいては、車両Vの発進性を向上させることができる。
また、第1変速装置T1が故障していると判定されている場合において、エンジン3の運転中で、かつ車両Vの走行中には、エンジン3から第1〜第3サンギヤ142、152、162に動力が伝達されるように、クラッチ171が制御され、第1ブレーキ121による制動が解除されるとともに、第2ブレーキ131により第2リングギヤ153が制動される。これにより、第1ブレーキ121により第1リングギヤ143を制動する場合と比較して、駆動輪DW、DWに連結された第1キャリア145などの回転数に対する第1サンギヤ142などの回転数の比が小さくなり、エンジン3から第2変速装置T2Cを介して駆動輪DW、DWに伝達される動力の減速比を小さくすることができ、ひいては、駆動輪DW、DWの回転数を上昇させることができる。
なお、本発明は、説明した第1〜第4実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1及び第2実施形態では、本発明における第1差動装置として、シングルピニオン式の第1遊星歯車装置61及びダブルピニオン式の第2遊星歯車装置71を組み合わせたものを用いているが、回転数が互いに共線関係にある第1〜第4回転要素を有する他の適当な差動装置を用いてもよい。例えば、図95に示すように、ダブルピニオン式の第1遊星歯車装置221と、第2遊星歯車装置71を組み合わせた差動装置を用いてもよい。
この第1遊星歯車装置221は、第1サンギヤ222と、第1リングギヤ223と、第1サンギヤ222に噛み合う第1ピニオンギヤ224と、第1ピニオンギヤ224及び第1リングギヤ223に噛み合う第2ピニオンギヤ225と、第1及び第2ピニオンギヤ224、225を回転自在に支持する、回転自在の第1キャリア226を有している。
第1サンギヤ222は、中空の第1回転軸231に同軸状に一体に設けられており、第1回転軸231と一体に回転自在である。また、第1回転軸231には、前述した第3リングギヤ83及び第2キャリア76が、フランジなどを介して連結されている。これにより、第1サンギヤ222、第1回転軸231、第2キャリア76及び第3リングギヤ83は、互いに一体に回転自在である。また、第1キャリア226には、前述した第1ブレーキ91が取り付けられている。
また、第1サンギヤ222と第1リングギヤ223の間には、前述したワンウェイクラッチOWが設けられている。ワンウェイクラッチOWは、第1サンギヤ222と第1リングギヤ223の間を、第1リングギヤ223の回転数が第1サンギヤ222の回転数よりも高くなるときには接続し、第1リングギヤ223の回転数が第1サンギヤ222の回転数よりも低いときには遮断する。さらに、第1及び第2リングギヤ223、73は、フランジなどを介して出力軸12に同軸状に一体に設けられており、出力軸12と一体に回転自在である。
また、第2サンギヤ72は、中空の第2回転軸232の一端部に、同軸状に一体に設けられている。第2回転軸232は、出力軸12と同軸状に配置されており、その内部に出力軸12が、その外部に上述した第1回転軸231が、それぞれ相対的に回転自在に配置されている。また、第2回転軸232の他端部には、前述した第2ブレーキ101が取り付けられている。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
以上の構成により、図95に示す第2変速装置T2Dにおける各種の回転要素の間の回転数の関係は、例えば図96に示す共線図のように表される。この共線図から明らかなように、この場合にも、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
また、上述したように第1及び第2遊星歯車装置221、71の組合わせによって第1差動装置を構成した場合において、第3サンギヤ82及び第3キャリア86と、エンジン3及びブレーキ111との連結関係を逆にしてもよい。すなわち、図97に示すように、第3サンギヤ82にブレーキ111を設けるとともに、第3キャリア86を、第2スプロケットSP2と一体に回転自在に設けてもよい。
なお、図95及び図97に示す変形例では、第1及び第2ブレーキ91、101並びにワンウェイクラッチOWを用いているが、第2実施形態で述べた電磁クラッチ式の第1及び第2ブレーキ121、131並びにクラッチCLを用いてもよいことは、もちろんである。
あるいは、第1差動装置として、回転数が互いに共線関係にある第1〜第4回転要素を有する他の適当な差動装置を用いてもよい。例えば、シングルピニオン式の遊星歯車装置とダブルピニオン式の遊星歯車装置のキャリアを共通化するとともに、リングギヤを共通化したラビニョウ式の遊星歯車装置を用いてもよい。
あるいは、互いに一体の第1及び第2ピニオンギヤで構成された2連ピニオンギヤを、回転自在のキャリア部材で回転自在に支持し、この第1ピニオンギヤに噛み合う回転自在の第1サンギヤ及び第1リングギヤと、第2ピニオンギヤに噛み合う回転自在の第2サンギヤ及び第2リングギヤとから成る4つの回転要素から3つの回転要素を選択するとともに、これらの3つの回転要素に上記のキャリア部材を加えた4つの回転要素を有する差動装置を用いてもよい。この場合、選択されなかった残りの回転要素は、省略可能である。また、第1サンギヤ又は第1リングギヤと第1ピニオンギヤの間に、別のピニオンギヤを設けるとともに、このピニオンギヤを、第1サンギヤ又は第1リングギヤ及び第1ピニオンギヤに噛み合わせてもよい。このことは、第2サンギヤ及び第2リングギヤについても同様である。
あるいは、特開平8−114255号公報に開示された、3連ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリア部材、及び、3連ピニオンギヤに噛み合う第1〜第3サンギヤから成る4つの回転要素を有する差動装置を用いてもよい。この場合、第1〜第3サンギヤの少なくとも1つに代えて、リングギヤを用いてもよく、3連ピニオンギヤと第1〜第3サンギヤの少なくとも1つの間にピニオンギヤを設けるとともに、このピニオンギヤを、少なくとも1つのギヤ及び第1ピニオンギヤに噛み合わせてもよい。
あるいは、互いに噛み合う第1及び第2ピニオンギヤを、回転自在のキャリア部材で回転自在に支持し、この第1ピニオンギヤに噛み合う回転自在の第1サンギヤ及び第1リングギヤと、第2ピニオンギヤに噛み合う回転自在の第2サンギヤ及び第2リングギヤとから成る4つの回転要素から3つの回転要素を選択するとともに、これらの3つの回転要素に上記のキャリア部材を加えた4つの回転要素を有する差動装置を用いてもよい。この場合、選択されなかった残りの回転要素は、省略可能である。また、第1サンギヤ又は第1リングギヤと第1ピニオンギヤの間に、別のピニオンギヤを設けるとともに、このピニオンギヤを、第1サンギヤ又は第1リングギヤ及び第1ピニオンギヤに噛み合わせてもよい。このことは、第2サンギヤ及び第2リングギヤについても同様である。
また、第1及び第2実施形態では、本発明における第2差動装置として、ダブルピニオン式の第3遊星歯車装置81を用いているが、回転数が互いに共線関係にある第5〜第7回転要素を有する他の適当な差動装置、例えば、シングルピニオン式の遊星歯車装置や、ベベルギヤ式の差動装置などを用いてもよい。
さらに、第3及び第4実施形態では、本発明における第1差動装置として、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161を組み合わせたものを用いているが、回転数が互いに共線関係にある第1〜第5回転要素を有する他の適当な差動装置を用いてもよい。例えば、前述したラビニョウ式の遊星歯車装置とシングルピニオン式又はダブルピニオン式の遊星歯車装置とを組み合わせたものを用いてもよい。
あるいは、前述した2連ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリア部材、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第2サンギヤ及び第2リングギヤから成る5つの回転要素を有する差動装置を用いてもよい。この場合にも、第1サンギヤ又は第1リングギヤと第1ピニオンギヤの間に、別のピニオンギヤを設けるとともに、このピニオンギヤを、第1サンギヤ又は第1リングギヤ及び第1ピニオンギヤに噛み合わせてもよい。このことは、第2サンギヤ及び第2リングギヤについても同様である。
あるいは、前述した3連ピニオンギヤに噛み合う第1〜第3サンギヤ及び第1〜第3リングギヤから成る6つの回転要素から選択された4つの回転要素と、3連ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリア部材とから成る5つの回転要素を有する差動装置を用いてもよい。この場合にも、3連ピニオンギヤと4つの回転要素の少なくとも1つの間にピニオンギヤを設けるとともに、このピニオンギヤを、少なくとも1つの回転要素及び3連ピニオンギヤに噛み合わせてもよい。
あるいは、前述した互いに噛み合う第1及び第2ピニオンギヤを回転自在に支持するキャリア部材、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第2サンギヤ及び第2リングギヤから成る5つの回転要素を有する差動装置を用いてもよい。この場合にも、前述した別のピニオンギヤを設けてもよいことは、もちろんである。
また、第1及び第2実施形態では、ブレーキ111は、電磁式のブレーキであるが、油圧式のブレーキなどでもよい。このことは、第2及び第4実施形態の第1及び第2ブレーキ121、131並びに第4実施形態の第3ブレーキ211についても、同様に当てはまる。さらに、第1及び第3実施形態では、第1ブレーキ91が、正転阻止動作に加え、逆転阻止動作を実行可能に構成されているが、第2ブレーキ101と同様、正転阻止動作のみを実行可能に構成してもよい。
また、第1及び第3実施形態では、第1及び第2ブレーキ91、101は、ローラ式のワンウェイ(ツーウェイ)クラッチであるが、スプラグ式のワンウェイ(ツーウェイ)クラッチなどでもよい。このことは、第1実施形態のワンウェイクラッチOW及び第3実施形態の第3ブレーキ181についても、同様に当てはまる。さらに、第2実施形態では、クラッチCLは、電磁式のクラッチであるが、油圧式のクラッチなどでもよい。このことは、第3及び第4実施形態のクラッチ171についても、同様に当てはまる。また、第1及び第2実施形態では、ワンウェイクラッチOW及びクラッチCLをそれぞれ、第1サンギヤ62と第1キャリア65の間に、すなわち第1回転要素と第2回転要素の間に設けているが、これらの2つの回転要素を、第1〜第4回転要素から自由に選択してもよい。この場合にも、第1回転要素の回転数が第2回転要素の回転数よりも高くなるときに、選択された2つの回転要素の間が、ワンウェイクラッチOWによって接続される。
さらに、第1実施形態では、第1及び第2ブレーキ91、101並びにワンウェイクラッチOWを用いているが、これらのうちの2つ又は1つに代えて、対応する第2実施形態の第1及び第2ブレーキ121、131並びにクラッチCLのうちの2つ又は1つを用いてもよい。また、第1及び第2実施形態では、ワンウェイクラッチOW及びクラッチCLをそれぞれ用いているが、両者OW、CLを省略してもよい。さらに、第3実施形態では、第1〜第3ブレーキ91、101、181を用いているが、これらのうちの2つ又は1つに代えて、対応する第4実施形態の第1〜第3ブレーキ112、113、211のうちの2つ又は1つを用いてもよい。
また、第1及び第2実施形態では、第3サンギヤ82をエンジン3のクランクシャフトに、第2及び第1スプロケットSP2、SP1並びにチェーンCHを介して連結しているが、複数のギヤなどを介して連結してもよく、あるいは、直結してもよい。このことは、第3及び第4実施形態の第1〜第3サンギヤ142、152、162についても、同様に当てはまる。さらに、第1及び第2実施形態では、第1キャリア65及び第2リングギヤ73をドライブシャフトDSに、出力軸12及び差動装置DFを介して連結しているが、複数のプーリなどを介して連結してもよく、あるいは、直結してもよい。このことは、第3及び第4実施形態の第1及び第2キャリア145、155並びに第3リングギヤ163についても、同様に当てはまる。
また、第1及び第2実施形態では、本発明における動力伝達変更装置として、第3遊星歯車装置81及びブレーキ111を用いているが、第3及び第4実施形態のクラッチ171を用いてもよい。同様に、第3及び第4実施形態では、本発明における動力伝達変更装置として、クラッチ171を用いているが、第1及び第2実施形態の第3遊星歯車装置81及びブレーキ111を用いてもよい。
さらに、第1〜第4実施形態では、本発明における第1ワンウェイクラッチは、ローラ式のワンウェイクラッチ23であるが、スプラグ式など、他のタイプのワンウェイクラッチでもよい。また、第1及び第2実施形態では、第1及び第2遊星歯車装置61、71によって構成される回転要素の数は4つであり、第3及び第4実施形態では、第1〜第3遊星歯車装置141、151、161によって構成される回転要素の数は5つであるが、6つ以上でもよい。この場合、加えた回転要素を制動するためのブレーキがさらに設けられる。このように、4つ以上の変速段を有する第2変速装置を用いてもよい。
さらに、第1〜第4実施形態では、第1変速装置T1は、入力側部材及び出力側部材が円板状に構成されたタイプの無段変速装置であるが、四節リンクの原理を応用した他の適当な無段変速装置、例えば、入力側部材及び出力側部材がアームで構成されたタイプの無段変速装置でもよいことは、もちろんである。また、第1〜第4実施形態では、第2変速装置T2、T2A、T2B、T2Cを制御するためのパラメータとして、入力軸11の回転数と出力軸12の回転数との比である変速比RATIOを用いているが、エンジン回転数NEと駆動輪DW、DWの回転数との比を表す他の適当な変速比パラメータ、例えばエンジン回転数NEそのものと駆動輪DW、DWの回転数そのものとの比(エンジン回転数NE/駆動輪DW、DWの回転数)を用いてもよい。
さらに、第1〜第4実施形態では、エンジン3は、ガソリンエンジンであるが、ディーゼルエンジンや、LPGエンジン、CNGエンジンなどでもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。