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JP6029706B1 - 流体噴射弁およびこれを備えた噴霧生成装置並びにエンジン - Google Patents

流体噴射弁およびこれを備えた噴霧生成装置並びにエンジン Download PDF

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JP6029706B1 JP2015082181A JP2015082181A JP6029706B1 JP 6029706 B1 JP6029706 B1 JP 6029706B1 JP 2015082181 A JP2015082181 A JP 2015082181A JP 2015082181 A JP2015082181 A JP 2015082181A JP 6029706 B1 JP6029706 B1 JP 6029706B1
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Abstract

【課題】スイッチング噴霧を利用して扇状の偏平噴霧を含む中空状全体噴霧を変形させることが可能な流体噴射弁および噴霧生成装置並びにエンジンを得る。【解決手段】複数のスリット噴孔390により生成される複数の偏平噴霧6Aは、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において仮想閉曲面となる中空状全体噴霧60を形成し、スイッチング噴孔391は該仮想閉曲面の内側にスイッチング噴霧5Aを生成する。スイッチング噴霧5Aは、スイッチング噴孔391から下流の所定の距離においてアクシス−スイッチング現象による断面形状の変形を生じた後、特定のスリット噴孔390−1により生成された偏平噴霧6A−1との間にコアンダ効果が生じて該偏平噴霧6A−1と近接化または集合化し、断面形状が非対称な略五角形の中空状全体噴霧60を形成する。【選択図】図2

Description

本発明は、複数の噴孔から流体を噴射し噴霧を生成する流体噴射弁およびこれを備えた噴霧生成装置並びにエンジンに関する。
近年、車両用エンジンにおいては、燃料噴霧の微粒化によるエンジン冷機時の排出ガス低減や、燃焼性改善による燃費向上の研究開発が積極的に進められている。例えば、燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を搭載した火花点火式直噴エンジンにおける成層燃焼コンセプトの研究開発が知られている。
火花点火式直噴エンジンにおける燃料噴霧は、点火プラグ近傍を指向する噴霧と、点火プラグ近傍を指向しない噴霧とで構成されており、前者は特に点火プラグ付近での成層燃焼を実現し、後者は成層燃焼や均質燃焼での燃焼室内全体の混合気形成を実現する。燃焼室の中心部に点火プラグが装着され、吸気弁を跨いだ位置に燃料噴射弁が装着される場合、点火プラグと燃料噴射弁は対向していない。このため、点火プラグ近傍を指向する噴霧と、点火プラグ近傍を指向しない噴霧とでは、要求される噴霧仕様が異なる。燃焼室の中心部に燃料噴射弁を装着した場合も同様の状況となる。
また、圧縮着火式直噴エンジンの燃焼室内においても、ピストン上昇時とピストン下降時に要求される全体噴霧の噴霧仕様は異なる。ピストン上昇時に圧縮着火燃焼を成立させるのに好都合なのは、所望の断面形状の濃い混合気であり、貫徹力が抑制されたコンパクトな噴霧である。ピストン下降時においては、燃焼室全体に拡散する噴霧が求められる。このように、燃焼室の形状や筒内空気流動、さらに燃料噴射弁取り付け位置や方向等により、燃料噴射弁の噴霧数を含めた噴霧形態への要求仕様は異なるものとなる。
一方、噴霧の微粒化については、液滴の分裂の前段階である液糸を細くすることが有効であり、液糸を細くするためには液糸の分裂の前段階である液膜を薄くしたり液柱を細くしたりすることが有効である。さらに、液膜の方が液柱よりも有利であることが分かっている。また、液膜流形成手法として、噴孔に流入する前の燃料流に旋回流を与えて噴孔内に液膜流を形成する方法や、噴孔を細長いスリット形状として、そのスリット形状に応じた扇形の薄膜流を形成する方法等が知られている。
上記のような微粒化手法は、燃料噴射弁に適用されつつあるが、所謂ホールノズルの微粒化の技術の主流は小噴孔径化と多噴孔化であり、噴霧になる前の噴流同士が干渉すると微粒化レベルを期待値通りに実現できないことから、隣り合う噴孔からの噴流が互いに干渉しないように設計される。具体的には、噴孔中心軸線あるいは噴流方向が下流になるほど離れていくように、噴孔配置と噴孔径、傾き、および長さ等の噴孔仕様が設定されるため、噴霧の微粒化とコンパクトな噴霧は両立しにくい。
上記のような従来技術に関連する先行特許として、特許文献1では、主噴孔と、噴射中心が主噴孔の噴射中心と異なる方向を指向する副噴孔とを備え、主噴孔の入口と出口の断面積が異なるように設定することで、噴射量を一定にしたままで噴霧角を広げ、噴霧の燃料密度を分散させたマルチホールインジェクタが提示されている。
また、特許文献2では、噴孔内の燃料の流れる方向に縮小する第1テーパ部においてキャビテーション気泡を発生させ、発生したキャビテーション気泡が崩壊することにより燃料を微粒化させると共に、微粒化された燃料を流れ方向に拡大する第2テーパ部により拡散して貫徹力を低下させるようにした燃料噴射弁が提示されている。
また、特許文献3では、複数の噴霧流の少なくとも一つのグループにおいて、噴孔部材の噴霧軸に直交し噴孔部材から噴射方向に所定距離に位置する仮想平面と噴孔の流路軸を燃料噴射方向に延長した仮想直線との交点が、外側に凸状の多角形上または円上に位置する外側交点だけでなく、その内側に少なくとも一つの内側交点が位置するように噴孔から燃料を噴射する燃料噴射弁が提示されている。
また、特許文献4では、複数の噴孔の流路軸が噴射方向に向かうにしたがい噴射軸から離れ、且つ燃料噴射方向に向かうにしたがい互いに離れている燃料噴射ノズルが提示されている。この先行例では、各噴孔から噴射される燃料が衝突せず各噴霧が均一に微粒化され、且つ各噴霧がコアンダ効果により互いに引き合いながら進み、噴霧流の進行方向のばらつきを防止するようにしている。
また、特許文献5では、スリット状に形成された噴孔を二つのスリット部に分断し、燃料温度によって各スリット部からの燃料噴霧の広がり角が変化することを利用して、燃料温度が低温時には二つの偏平噴霧を干渉させて一つの偏平な噴霧とし、燃料温度が高温時には二つの独立した偏平噴霧として噴霧形状の自由度を向上させている。
一方、流体工学において、噴孔から噴射された断面形状が長円形状のスイッチング噴霧の長軸と短軸との方向が、下流において変化するアクシス−スイッチング(axis−switching)現象が知られている(非特許文献1−6)。このアクシス−スイッチング現象は、噴霧の断面形状が長円形状でなくてもよく、少なくとも短軸に対して長軸がほぼ線対称である形状のものであれば成立する。
すなわち、アクシス−スイッチング現象を生じるためには、噴孔の噴孔径、長さ、および傾きを含む噴孔仕様が、短軸に対して長軸が線対称なスイッチング噴霧を生成する仕様となっている必要がある。また、スイッチング噴霧がアクシス−スイッチング現象を生じるか否かは、噴射圧や噴霧量等の噴射条件や雰囲気圧力等の外的要因によって制御することが可能である。
例えば非特許文献1には、噴孔仕様の違いにより様々な非円形渦構造が形成されること、非円形ノズルから発生した非円形渦構造が、非一様曲率による自己誘起速度の影響により変形すること等が記載されている。また、非特許文献2には、アクシス−スイッチングの程度がノズル噴孔のアスペクト比(縦横比)に大きく依存することが記載されている。
本願発明者による特許文献6では、アクシス−スイッチング現象により変形するスイッチング噴霧を生成するスイッチング噴孔と、各単噴霧がコアンダ効果で集合した集合噴霧を形成する集合噴孔とを備えた流体噴射弁を提示している。
特開2007−315276号公報 特開2012−145048号公報 特開2008−169766号公報 特開2000−104647号公報 特開2010−151109号公報 特許第5491612号公報
日本機械学会論文集(B編)55巻514号、pp1542−1545、「非円形噴流中の渦構造に関する研究」(豊田他) ILASS−Europe2010、"An experimental investigation of discharge coefficient and cavitation length in the elliptical nozzles"(Sung RyoulKim) 生産研究50巻1号、pp69−72、"Numerical Simulation of Complex Turbulent Jets:Origin of Axis-Switching"(Ayodeji O.DEMUREN) 噴流工学、森北出版、pp41−42 日本機械学会論文集(第2部)25巻156号、pp820−826、「ディーゼル機関燃料噴霧の到達距離に関する研究」(和栗ら) 日本機械学会論文集(B編)62巻599号、pp2867−2873「ディーゼル噴霧構造に与える雰囲気粘性の影響」(段ら)
上述のように、従来の流体噴射弁においては、噴霧の微粒化向上と、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力、および噴射量分布等の設計自由度向上とを両立させることが難しく、上記特許文献1−5にも、それらを両立させることが可能な方策は示されていない。特に、噴霧の微粒化、噴霧形状、および貫徹力は互いに相関を持つ特性であるが、それらを考慮して最適な噴霧仕様を十分に実現することができていなかった。このため、噴霧の微粒化とコンパクトな噴霧を両立させることが難しく、また、噴霧の貫徹力を所定距離のところで急速に減衰させる手法も確立されていなかった。
具体的には、特許文献1のようなノズルでは、実際には噴孔上流のサック(キャビティ)内部の流れ方によって各噴孔への燃料の流入の仕方が変わるため、噴孔入口と出口の断面積を異ならせた場合に、必ずしも噴射量を一定にしたままで噴霧角を広げられるとは限らない。特に、複数の噴孔がインジェクタ中心軸を対称にして配置されていない場合は、各噴孔内の流れパターンは同じとならないことが多いが、特許文献1ではこれらのことが考慮されていない。また、特許文献2では、燃料圧力や剥離状況等によるキャビテーションへの影響が示されていないため、微粒化のレベルが不明である。微粒化のレベルが異なれば噴霧全体が保有する運動量も異なり貫徹力にも影響する。
また、特許文献3に記載の燃料噴射弁は、噴霧が干渉するのを避けているに過ぎず、複数の噴霧から形成される噴霧パターンや全体噴霧の形状は、幾何学的に考えれば必然的に拡がり気味となってその設計自由度は小さいものとなり、適用できる燃焼室形状や吸気弁配置に制約が生じる。また、混合気形成を促進させたり、噴霧貫徹力を小さくして燃焼室内での噴霧付着を抑制したりするためには、各噴霧を拡げて微粒化させる必要があり、全体噴霧はさらに拡がる。
また、特許文献4に記載の燃料噴射ノズルのように、各噴霧が拡がり過ぎないようにコアンダ効果を作用させ、且つ一方では各噴霧が集まらないようにコアンダ効果を抑制することは、静的な雰囲気条件下であっても噴霧方向のバランス維持が難しい。まして吸気ポート内では、周囲空気圧力、温度、吸気流動、噴霧体積(重量)流量、噴霧速度等の影響を受けるため、過渡運転時の非定常状態の多いガソリンエンジン用の噴射系システムで実現するのは非常に難しい。
また、特許文献5に記載の燃料噴射装置は、スリット状噴孔により生成された噴霧の形状を燃料温度の変化を利用して変化させているので、燃料温度調整手段としてのヒーターおよびヒーター制御回路の設置が必要となり、さらに、燃料噴射弁の本体内部にヒーターを埋め込む手段や信頼性確保等も必要であることから、大幅なコスト上昇に繋がると考えられる。
なお、特許文献5に示されたようなスリット状の噴孔は、扇状の薄膜流を確実に実現することができ微粒化に有利であるが、三次元的な燃焼室形状と二次元的な偏平噴霧の組合せでは十分とは言えない。複数の偏平噴霧を含む中空状の全体噴霧を燃焼室内に拡散させ、さらにその全体噴霧を燃焼室形状に適合した噴霧形態となるように変形させることが望まれるが、そのような先行技術は見当たらない。引用文献6のスイッチング噴霧を利用して全体噴霧の設計を行う技術においても、扇状に広がった偏平噴霧を含む全体噴霧には言及しておらず、設計自由度向上の余地がある。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧を利用して、スリット噴孔により生成される偏平噴霧を含む中空状全体噴霧を変形させることを可能とし、噴霧の微粒化と、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力、および噴射量分布のうちいずれか一つ以上の設計自由度の向上とを両立させた流体噴射弁、およびこの流体噴射弁を備えた噴霧生成装置を得ることを目的とする。
また、上記の流体噴射弁を備えることにより、燃焼室の形状や吸気流動に適した中空状全体噴霧を実現することが可能なエンジンを得ることを目的とする。
本発明に係る流体噴射弁は、流体が流れる通路の途中に設けられた弁座と、弁座との当接、離間により通路の開閉を制御する弁体と、弁座の下流に設けられた噴孔体とを備え、噴孔体に配置された複数の噴孔から流体を噴射し所望の形態の噴霧を生成する流体噴射弁であって、複数の噴孔は、各々が扇状に広がった偏平噴霧を生成する複数のスリット噴孔と、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において長軸と短軸の長さが異なるスイッチング噴霧を生成するスイッチング噴孔を含み、複数のスリット噴孔は、各々から生成される複数の偏平噴霧が流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において多角形の中空状全体噴霧を形成するように配置され、スイッチング噴孔は、複数のスリット噴孔に囲まれるように配置され、多角形の内側にスイッチング噴霧を生成し、該スイッチング噴霧は、スイッチング噴孔から下流の所定位置においてアクシス−スイッチング現象を生じることにより長軸と短軸の方向を変化させ、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じ得るものであり、この変形を生じた後、特定のスリット噴孔により生成された偏平噴霧との間にコアンダ効果が生じて該偏平噴霧と近接化または集合化し、該偏平噴霧を含む中空状全体噴霧を変形させるものである。
また、本発明に係る噴霧生成装置は、上記流体噴射弁と、流体噴射弁に流体を供給する流体供給手段と、流体噴射弁の動作を制御する制御手段とを備えたものである。
また、本発明に係るエンジンは、燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁として上記流体噴射弁を備え、燃焼室内に配置された点火プラグにより火花を発生させ、燃焼室内の混合気に着火する火花点火式を採用したエンジンであって、スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧が燃料の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じるか否かにより、中空状全体噴霧の仕様が可変なものである。
また、本発明に係るエンジンは、燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁として上記流体噴射弁を備え、燃焼室内の混合気をピストンで圧縮し自着火を行わせる圧縮着火式を採用したエンジンであって、スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧が燃料の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じるか否かにより、中空状全体噴霧の仕様が可変なものである。
本発明に係る流体噴射弁およびこれを備えた噴霧生成装置によれば、スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧がスイッチング噴孔から下流の所定位置において長軸と短軸の方向を変化させることによる断面形状の変形を利用して、特定のスリット噴孔により生成される偏平噴霧を変形させ、該偏平噴霧を含む中空状全体噴霧を三次元的に変形させることが可能であるので、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力、および噴射量分布のうちいずれか一つ以上の設計自由度が向上する。また、変形後のスイッチング噴霧と特定の偏平噴霧がコアンダ効果により近接化または集合化することにより、噴霧の実効的な表面積が増大し微粒化が進むと共に、貫徹力を急速に減衰させることが可能である。これらのことから、噴霧の微粒化と、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力および噴射量分布のうちの少なくとも一つ以上の設計自由度の向上とを両立させることができる。
本発明に係る流体噴射弁を備えたエンジンによれば、スイッチング噴霧が断面形状の変形を生じるか否か、さらに生じた変形の度合により中空状全体噴霧の仕様が三次元的に可変であるため、燃焼室の形状や吸気流動に適した中空状全体噴霧を実現することが可能である。
本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁の全体構成を示す断面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁の先端部を示す拡大断面図および平面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁におけるスイッチング噴霧の挙動を説明する側面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁におけるスイッチング噴霧の挙動を説明する断面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁におけるスイッチング噴霧の挙動を説明する側面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁において二分割噴射した場合のスイッチング噴霧の挙動を説明する図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁において二分割噴射した場合のスイッチング噴霧の挙動を説明する側面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁において三分割噴射した場合のスイッチング噴霧の挙動を説明する側面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁におけるスイッチング噴霧と一つの偏平噴霧の挙動を説明する側面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁におけるスイッチング噴霧と一つの偏平噴霧の挙動を説明する断面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁における中空状全体噴霧の挙動を説明する断面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁における別の中空状全体噴霧の挙動を説明する断面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁における別の中空状全体噴霧の挙動を説明する断面図である。 本発明の実施の形態1に係る燃料噴射弁において分割噴射した場合のスイッチング噴霧と偏平噴霧の挙動を説明する図である。 本発明の実施の形態3に係る火花点火式直噴エンジンを模式的に示す図である。 本発明の実施の形態4に係る圧縮着火式直噴エンジンを模式的に示す図である。
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1に係る流体噴射弁について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態1に係る燃料噴射弁を示す断面図、図2(a)は、本実施の形態1に係る燃料噴射弁の先端部を示す拡大断面図、図2(b)は、図2(a)中、矢印イで示す方向から見た噴孔プレートの平面図である。なお、各図において、図中、同一、相当部分には同一符号を付している。
本実施の形態1に係る噴霧生成装置は、流体噴射弁である燃料噴射弁1と、燃料噴射弁1に燃料を供給する燃料供給手段(図示省略)と、燃料噴射弁1の動作を制御する制御手段である制御装置(図示省略)とを備えている。以下の説明では、エンジンに取り付けられ燃料を噴射する燃料噴射弁1を例に挙げて説明する。
燃料噴射弁1は、電磁力を発生するソレノイド装置2と、ソレノイド装置2への通電により作動する弁装置3を備えている。ソレノイド装置2は、磁気回路のヨーク部分をなすハウジング21と、このハウジング21の内側に設けられた固定鉄心であるコア22と、コア22を囲うように設けられたコイル23と、コイル23の内側に設けられ往復移動する可動鉄心であるアマチュア24を備えている。
弁装置3は、円筒形状であってコア22の先端部の外径部に圧入、溶接された弁本体31と、弁本体31の内部の燃料が流れる通路の途中に設けられた弁座32を備えている。弁座32の下流には、燃料を噴射する噴孔39を有する噴孔体である噴孔プレート33と、弁本体31の内側に設けられ、弁座32との当接、離間により通路の開閉を制御する弁体35と、弁体35の上流に設けられた圧縮バネ36を備えている。
弁体35は、アマチュア24の内面に圧入、溶接された中空のロッド37と、ロッド37の先端部に溶接で固定されたボール38を有している。図2(a)に示すように、ボール38は、燃料噴射弁1のZ軸(図1中、矢印で示す)に平行な面取部38aと、噴孔プレート33と対向する平面部38bと、弁座32と線接触する曲面部38cとを有している。
なお、噴孔プレート33は、弁座32と一体的に形成されていても良い。また、弁体35は、ロッド37とボール38が一体的に形成されていても良く、ロッド37は中空である必要はない。さらに、ボール38は、弁座32に対してシートして流体をシールできるような形状であれば良く、例えばテーパで形成されたエッジ状のシート部でも良い。これらで形成されるデッドボリューム34の形状も、図示した形状に限定されるものではなく、後述の偏平噴霧6Aやスイッチング噴霧5Aに適した形状を選定すれば良い。
噴孔プレート33は、周縁部が下側に折曲されており、弁座32の先端面および弁本体31の内周側面に溶接されている。噴孔プレート33は、図2(b)に示すように、板厚方向に貫通する五つのスリット噴孔390−1、390−2、・・、390−5(総称してスリット噴孔390)と、一つのスイッチング噴孔391を有している。なお、以下の説明において、噴孔39とは、スリット噴孔390やスイッチング噴孔391を含む全ての噴孔の総称であり、それらを特に区別する必要のない場合に用いるものである。
スイッチング噴孔391は、噴孔プレート33の板厚方向(すなわちZ軸方向)に直角な断面形状が長軸と短軸を有する長円形の噴孔である。スイッチング噴孔391は、流体噴射方向に直角な面内の断面形状において長軸と短軸の長さが異なるスイッチング噴霧を生成する。スイッチング噴孔391は、短軸に対して長軸がほぼ線対称なスイッチング噴霧を生成するように、その噴孔径、長さ、および傾きを含む噴孔仕様が設定されている。
スイッチング噴霧は、スイッチング噴孔391から下流の所定位置において長軸と短軸の方向を変化させることにより、その断面形状の変形を生じ得る。
スリット噴孔390は、その形状に応じた扇状の薄膜流を形成するものであり、この扇状の薄膜流から生成される偏平噴霧は微粒化に適している。偏平噴霧は、基本的には、その偏平度合(燃料流の膜厚と膜の広がり角)と噴射速度(噴射燃圧)によって、微粒化レベル、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力や噴射量分布が決まる。なお、偏平噴霧は、スイッチング噴霧と同様に流体噴射方向に直角な面内の断面形状において長軸と短軸を有するとみなすこともできるが、スイッチング噴霧とはその挙動を全く異にしており、そのまま液糸に分裂していくような薄膜が扇状に広がっていくものである。従って、その長軸と短軸を変形させるような現象は生じない。
複数のスリット噴孔390は、各々から生成される複数の偏平噴霧が、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において仮想閉曲面(図2(b)に示す噴孔プレート33では略五角形)となる中空状全体噴霧を形成するように配置されている。スイッチング噴孔391は、複数のスリット噴孔390に囲まれるように配置され、複数の偏平噴霧により形成される仮想閉曲面の内側にスイッチング噴霧を生成する。
図2(b)に示す噴孔プレート33では、スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧が断面形状の変形を生じる前の長軸の方向が、スリット噴孔390−1により生成される偏平噴霧の長手方向と同じ方向になるように配置されている。なお、ここでいう中空状全体噴霧とは、噴霧の全体構造が実質的にほぼ中空とみなせることを意味しており、中空状全体噴霧を構成する複数の噴霧間に隙間があるかどうかは問題としない。
次に、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1の動作について説明する。エンジンの制御装置より燃料噴射弁1の駆動回路に動作信号が送られると、燃料噴射弁1のコイル23に電流が通電され、アマチュア24はコア22側へ吸引される。この結果、アマチュア24と一体構造であるロッド37およびボール38は、圧縮バネ36の弾性力に逆らって上方向に移動し、ボール38の曲面部38cが弁座面32aから離間し、両者に間隙が形成されて通路が形成され、燃料噴射が開始される。
一方、エンジンの制御装置より燃料噴射弁1の駆動回路に動作の停止信号が送られると、コイル23への通電が停止し、アマチュア24がコア22側に吸引される力は消失し、ロッド37は、圧縮バネ36の弾性力によって弁座32側に押され、ボール38の曲面部38cは弁座面32aに当接して閉状態となり、燃料噴射はこの時点で終了する。
本実施の形態1に係る燃料噴射弁1は、都度要求される燃料(流体)噴射量を複数回に分けて噴射する分割噴射を行うが、分割噴射を行わない場合にも適用可能である。分割噴射では、分割しない場合の本来の所定噴射期間よりも短い噴射期間で各噴射が行われる。要求される噴射量は、エンジンの回転数や負荷に応じて決まり、その時の運転条件と噴射量において要求される混合気形成に応じた噴霧形態を実現する必要がある。
なお、分割噴射は、噴射率形状を変化させたり、噴霧形態の自由度を向上させたりすることができるため、ディーゼルエンジンにおいては以前から行われている。分割噴射を行うことにより、混合気形成の状況を改善してPM(Particulate Mattar)やNO発生を抑制する可能性や、均質燃焼や成層燃焼に適した噴霧形態の形成を実現できる可能性がある。
前述のように、スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧は、スイッチング噴孔391から下流の所定位置において長軸と短軸の方向を変化させることによる断面形状の変形を生じ得るものである。さらに、燃料の噴射条件として設定される複数のパラメータの少なくとも一つは、スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧の断面形状の変形が生じる場合と生じない場合とを場合分けすることが可能な閾値を有するものであり、この閾値に基づいて分割噴射の各噴射における噴射条件が設定あるいは調整される。すなわち、分割噴射の各噴射における噴射条件を閾値に基づいて調整することにより、中空状全体噴霧の仕様が可変である。
このような閾値を有するパラメータとしては、分割噴射の各噴射における噴射期間、噴射量、噴射圧力等がある。複数のパラメータを設定した場合、実現することができる噴霧形態の種類は、分割噴射回数とパラメータの組み合わせの積となる。
例えば上記3つのパラメータを設定する場合、パラメータの組み合わせは(1)噴射期間、(2)噴射量、(3)噴射圧力、(4)噴射期間と噴射量、(5)噴射期間と噴射圧力、(6)噴射量と噴射圧力、(7)噴射期間と噴射量と噴射圧力、の7通りが考えられる。分割噴射回数が2回の場合、設定可能な噴射条件は14種類となり、それぞれの噴射条件による噴霧形態を実現することができる。実際には、噴射期間、噴射量、噴射圧力ともに、その数値を含めた組合せがあるので、さらに多くの噴霧形態を実現可能である。
また、図2(b)に示す噴孔プレート33は、一つのスイッチング噴孔391を有しているが、複数のスイッチング噴孔391を有する場合、噴孔径、長さ、および傾きを含む噴孔仕様(諸元)が同等のスイッチング噴孔391の閾値はほぼ同等である。言い換えると、異なる噴孔仕様の場合、同じ噴射の機会においてある一つの閾値に対し異なる結果が得られる。例えば、あるスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧は変形を生じ、別のスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧は変形を生じないようにすることができる。このような場合、それぞれのスイッチング噴孔391に関して、予め噴射期間、噴射量、噴射圧力等のパラメータの影響を調査し、三次元マップのデータを作成しておくと良い。
次に、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1において、アクシス−スイッチング現象および分割噴射を利用し、スリット噴孔390により生成される偏平噴霧とスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧で形成される中空状全体噴霧の仕様(噴霧形状、濃度分布等の噴霧構造、貫徹力、噴射量分布および噴霧方向)を制御する手法について説明する。
本実施の形態1に係る燃料噴射弁1によって生成される中空状全体噴霧は、閾値に基づいて設定された噴射条件により長軸と短軸の方向を変化させ断面形状の変形を生じ得るスイッチング噴霧を含んで構成される。すなわち、閾値に基づいて設定された噴射条件により長軸と短軸の方向を変化させない噴霧を含んで構成することもできる。
本実施の形態1に係る燃料噴射弁1において、一つのスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aの基本的な挙動について、図3〜図8を用いて説明する。図3は、スイッチング噴孔からの噴流および噴霧の挙動を説明する図であり、図3は、図2(b)中、矢印ロで示す方向から見たスイッチング噴霧を示す側面図である。また、図4は、図3中、E−E、F−F、・・・、L−Lで示す部分における断面図である。なお、図3中、ΔL1、ΔL2は、貫徹力の差を示し、図4中、矢印Lは長軸の方向、矢印Sは短軸の方向を示している。
図3および図4において、(a)は、噴射条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に達していないスイッチング噴霧5Aの場合、(b)は、噴射条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に達しているスイッチング噴霧5Aの場合、(c)は、二分割噴射において前段のスイッチング噴霧5A−1の噴射条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に達している場合の挙動をそれぞれ示している。なお、(c)に示す二分割噴射では、(a)、(b)に示す本来の所定噴射期間よりも短い噴射期間で各噴射がなされている。
スイッチング噴孔391から噴射された燃料の噴流5aは、所定の距離a(ブレーク長さ)下流に進むと、噴射方向に直角な面内の断面形状において長軸Lと短軸Sの長さが異なるスイッチング噴霧5Aを生成する。スイッチング噴孔391より生成されるスイッチング噴霧5Aは、該スイッチング噴孔391から所定の距離でアクシス−スイッチング現象を生じて長軸Lと短軸Sの方向を変化させて変形するように制御することが可能である。
図3(a)の例では、スイッチング噴孔391からの噴流5aおよびスイッチング噴霧5Aの諸条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に到達せず、アクシス−スイッチング現象を生じないままとなっている。この場合、図4(a)に示すように、長軸Lと短軸Sが逆転するような変化はしない。
図3(b)の例では、スイッチング噴孔391からの噴流5aおよびスイッチング噴霧5Aの諸条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に到達し、アクシス−スイッチング現象を生じている。この場合、図4(b)に示すように、長軸Lと短軸Sの方向が変化して逆転し、断面形状が変形している。また、この際、長軸Lと短軸Sの変化や変形は非対称性に伴う周囲空気との大きな運動量交換に起因していることから、噴霧が持つ運動量が大幅に周囲空気に移動し、スイッチング噴霧5Aの貫徹力は途中から急速に低下し、図3(a)よりも貫徹力が小さくなる。
さらに、図3(c)の例では、前段のスイッチング噴霧5A−1は、スイッチング噴孔391からの噴流5aおよびスイッチング噴霧5A−1の諸条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に到達している。ただし、後段のスイッチング噴霧5A−2は、アクシス−スイッチング現象を生じるようにしても、生じないようにしても、どちらでも構わない。
前段のスイッチング噴霧5A−1は、アクシス−スイッチング現象を生じて大きな運動量を失った上に、噴射期間が短いために分断された噴霧となっている。このような場合は、後続流からの運動量の補充がなくなるため、噴霧が持つ運動量に比べて周囲空気と干渉して移動する運動量の比率が大きくなり、噴霧の断面形状が変化して変形することによる運動量移動に加え、噴霧が持つ運動量が低下する。この結果、図3(b)よりもさらに貫徹力が小さくなる。
図5(a)は、図3(a)に示す噴霧の時間経過に伴う噴霧の変化の様子を示し、図5(b)は、図3(b)に示す噴霧の時間経過に伴う噴霧の変化の様子を示している。図5(a)に示すように、アクシス−スイッチング現象を生じないスイッチング噴霧5Aの場合、時刻t1に対し、時刻t5における噴霧(貫徹力L1)は、基本的な形態を維持したままで、周囲空気との混合(運動量移動)による若干の拡がりを持って下流に移動している。この様子は、従来の噴霧に関する通常の知見から容易に推測できるものである。
また、図5(b)に示すように、アクシス−スイッチング現象を生じたスイッチング噴霧5Aの場合、図5(a)に比べて時刻t1における噴霧形態が拡がり気味であり、さらに時刻t5においては全体噴霧(貫徹力L2)の拡がり率が大きくなる傾向がある。ただし、図5(a)と同様に基本的な形態を維持しており、やはり従来の噴霧に関する通常の知見から容易に推測できるものである。
図6(a)は、図3(c)に示す二分割噴射における各噴霧の時間経過に伴う全体噴霧の変化の様子を示し、図6(b)は、図6(a)中、時刻t5において矢印イで示す方向から見た全体噴霧を示している。図6(a)に示すように、前段のスイッチング噴霧5A−1は、貫徹力が極めて低下しているので、噴射方向への拡がりが抑制され、噴射方向に直角な方向への拡がりが大きくなっている。一方、後段のスイッチング噴霧5A−2は、アクシス−スイッチング現象を生じさせない場合、貫徹力の大きな低下はなく、次第に前段の噴霧に接近して近接化、集合化させることが可能である(貫徹力L3<L2<L1)。
この場合、例えば噴射方向に直角なある断面の形状、あるいは噴射方向に直角な面内の投影形状や噴射量分布(積分値)を、図6(b)に示すような略十字形とすることが可能である。条件的には、例えば前段のスイッチング噴霧5A−1は所定燃圧での少し長めの噴射期間の分割噴射として噴霧が保有する運動量を確保し、後段のスイッチング噴霧5A−2は前段のスイッチング噴霧5A−1による噴射燃圧低下が回復しきらないうちに少し短めの噴射期間の分割噴射とする。これにより、各スイッチング噴霧5A−1、5A−2が保有する運動量に差をつけることができ、前述の挙動が実現可能となる。
図6(a)に示すように、長軸と短軸の方向を変化させて変形するスイッチング噴霧5A−1と、長軸と短軸の方向を変化させないスイッチング噴霧5A−2とは、分割噴射の各噴射後の所定時刻における貫徹力が異なることを利用して、分割噴射の休止時間間隔を所定値に設定することにより、下流の所定位置において各噴射による噴霧を近接化あるいは集合化させた全体噴霧を形成することができる。
分割噴射の各噴射による噴霧を近接化または集合化させた全体噴霧は、分割噴射による合計噴射量を1回の噴射で行った時の全体噴霧に比べて拡がりが抑制され、貫徹力が減少する。また、この全体噴霧は、流体噴射方向に直角な面内の断面形状あるいは投影形状が、略十字状または略菱形または略四角形となる時刻が存在する。
また、図7は、二分割噴射において、図6とは異なるアクシス−スイッチング現象を設定した場合の各噴霧の時間経過に伴う全体噴霧の変化の様子を示している。図7の例では、偏平な形状のスイッチング噴霧5A−1、5A−2を縦に積み重ねたような全体噴霧を形成する(貫徹力L4<L2<L1)。また、分割噴射の条件や噴霧同士の干渉レベルを考慮することにより、積み重なり方、すなわち近接化あるいは集合化のレベルを変更することができる。
図8は、三分割噴射における各噴霧の時間経過に伴う全体噴霧の変化の様子を示している。この例では、各段のスイッチング噴霧5A−1、5A−2、5A−3において、アクシス−スイッチング現象による長軸と短軸の変化による変形を小さくし、分割噴射数を増やしている。このように、分割噴射の各噴射による噴霧が近接化あるいは集合化した全体噴霧は、分割噴射による合計噴射量を1回の噴射で行った時の全体噴霧に比べて拡がりが抑制され、貫徹力が減少する(貫徹力L5<L2<L1)。
このように、アクシス−スイッチング現象の利用有無、利用有無の順序、分割回数、分割休止時間、閾値(噴射期間、噴射量、噴射圧力等)の組み合わせにより、図6(b)に示すような三次元的な全体噴霧形状および噴霧濃度分布等の構造の種類や、全体噴霧の貫徹力のレベル等を自在に実現し、また、変更することが可能となる。
なお、噴霧の長軸と短軸の方向を変化させ断面形状を変形させる方法としては、アクシス−スイッチング現象の利用以外に、燃料粒子に電荷を帯びさせて、下流の所定位置でその電荷を利用して燃料粒子の飛翔方向をコントロールする方法がある。例えば、図3(a)に示すスイッチング噴霧5Aの粒子に電荷を帯びさせ、紙面の右側あるいは左側から電荷を帯びた燃料粒子を誘引あるいは反発させることにより、図3(b)のように長軸と短軸の方向を変化させて断面形状を変形させることができる。
次に、本実施の形態1におけるスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aと、スリット噴孔390−1により生成される偏平噴霧6A−1の挙動について図9および図10を用いて説明する。図9において、(a)は、図2(b)の矢印ロで示す方向から見たスイッチング噴孔391とスリット噴孔390−1からの噴霧の側面図(一部は断面図)、(b)は、図2(b)の矢印ハで示す方向から見たスリット噴孔390−1からの噴霧の正面図である。また、図10は、図9(a)中、G−G、J−J、K−K、L−Lで示す部分における断面図であり、図中、矢印Lは長軸の方向、矢印Sは短軸の方向を示している。
図9(a)および図10に示すように、間隔xで配置されたスリット噴孔390−1とスイッチング噴孔391は、スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aが断面形状の変形を生じる前の長軸Lの方向が、スリット噴孔390−1により生成される偏平噴霧6A−1の長手方向と同じ方向になるように配置される。スイッチング噴霧5Aは、偏平噴霧6A−1と対向しつつ、その断面形状が長軸Lおよび短軸Sの両方向に若干拡大しながら、ほぼスイッチング噴孔391直下での初期の流れ方向を維持して下流に流れる。
その後、スイッチング噴孔391から所定の距離においてアクシス−スイッチング現象が生じ、断面J−Jに示すように、スイッチング噴霧5Aの長軸Lと短軸Sの方向が変化し始める。なお、この位置では、スイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6A−1との隙間c1は、コアンダ効果が作用する閾値よりも大きく、コアンダ効果は生じていない。
断面J−Jから断面K−Kへと下流になるにつれて、スイッチング噴霧5Aの長軸Lと短軸Sの方向が変化する変形が進み、スイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6A−1が近接してくる。これは、スイッチング噴霧5Aにアクシス−スイッチング現象が生じたことにより、スイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6A−1の隙間が小さくなり、それに伴いスイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6A−1との間にコアンダ効果が作用したことによる。
断面K−Kにおいて、スイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6A−1の隙間c2は、コアンダ効果が作用する閾値よりも小さくなっている。断面L−Lでは、スイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6A−1の向かい合う端部が変形、移動して干渉し始める。その結果、燃料噴射後の所定時間経過後に、スリット噴孔390−1およびスイッチング噴孔391から所定の距離において、偏平噴霧6A−1がスイッチング噴霧5A側に凸形状に変形した集合噴霧50が形成される。この凸形状あるいは変形の度合は、スイッチング噴霧5Aおよび偏平噴霧6A−1の各特性や配置を変更することにより変更することができる。
また、スイッチング噴霧5Aは、長軸Lと短軸Sの方向が変化して変形することによって周囲空気との運動量交換が大きく進み、貫徹力が小さくなる。さらに、スイッチング噴霧5Aが偏平噴霧6A−1と干渉することで、偏平噴霧6A−1の各粒子や各粒子に引きずられている空気流の動きに抑制がかかり、偏平噴霧6A−1の貫徹力も抑制される。
図9に示す偏平噴霧6A−1の端部d1は、コアンダ効果が作用していない部分である。また、偏平噴霧6A−1の端部の屈曲部d2はコアンダ効果が作用している部分である。偏平噴霧6A−1は、スイッチング噴霧5Aとの干渉によって変形して貫徹力が低下し、その先端の伸びが単独の場合よりも短縮される(時刻t1における貫徹力L10<(L10−1))。
また、変形によって偏平噴霧6A−1の実効的な表面積が増大するので、微粒化がさらに進むと共に、周囲空気と混合し易くなって均質混合気を早期に形成することができる。さらに、変形により、偏平噴霧6A−1の先端部の幅W1が広がり過ぎるのを抑制することもできる。
次に、図2(b)に示す噴孔プレート33により形成される全体噴霧、すなわちスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aと、五つのスリット噴孔390により生成される偏平噴霧6A−1、6A−2、・・、6A−5(総称して偏平噴霧6A)を含む中空状全体噴霧60の挙動について、図11を用いて説明する。図11(a)は、図9(a)中、G−Gに相当する位置における断面図、(b)は、図9(a)中、L−Lに相当する位置における断面図である。
中空状全体噴霧60の噴霧形状、貫徹力、噴射量分布および噴霧方向の各特性のうち少なくとも一つは、スイッチング噴霧5Aがアクシス−スイッチング現象を生じる所定位置より下流において定められる。本実施の形態1では、スイッチング噴霧5Aがアクシス−スイッチング現象を生じる所定位置より下流において、スリット噴孔390−1により生成される偏平噴霧6A−1とコアンダ効果により近接して偏平噴霧6A−1を変形させる。その他の四つの偏平噴霧6A−2、・・、6A−5には、スイッチング噴霧5Aとの間でコアンダ効果を生じないように設定される。
図11(a)に示すように、断面G−Gにおいては、スイッチング噴霧5Aは、偏平噴霧6A−1と対向しつつ、その断面形状が長軸Lおよび短軸Sの両方向に若干拡大しながら、ほぼスイッチング噴孔391直下での初期の流れ方向を維持して下流に流れる。
その後、スイッチング噴孔391から所定の距離においてスイッチング噴霧5Aにアクシス−スイッチング現象が生じ、スイッチング噴霧5Aと向かい合う偏平噴霧6A−1の端部はコアンダ効果により変形、移動する。その結果、図11(b)に示す断面L−Lにおいては、偏平噴霧6A−1がスイッチング噴霧5A側に凸形状に変形する。これにより、スリット噴孔390−1により生成される偏平噴霧6A−1も含めた状態で噴射方向に直角な断面が非対称な略五角形の中空状全体噴霧60が形成される。
このような中空状全体噴霧60の内側に凸形状に変形した一辺を、例えば火花点火式直噴エンジンの燃焼室における点火プラグ側に向けることにより、点火プラグと噴霧との干渉を回避しながら点火プラグ近傍に噴霧を適度に配置することが可能となる。火花点火式直噴エンジン以外のエンジンについても、燃焼室形状、筒内空気流動に応じて最適な中空状全体噴霧60の形状となるように、偏平噴霧6Aとスイッチング噴霧5Aの仕様を決定すれば良い。
なお、本実施の形態1では、五つの偏平噴霧6Aと一つのスイッチング噴霧5Aを組み合わせて断面が非対称な略五角形の中空状全体噴霧60を形成したが、中空状全体噴霧60を形成する噴霧の組み合わせはこれに限定されるものではない。複数のスリット噴孔390の各々から生成される複数の偏平噴霧が、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において仮想閉曲面となるように、噴霧の数および配置について適宜設定することができる。スイッチング噴霧5Aを複数含むようにしても良いし、非スイッチング噴霧を含んでいても良い。
本実施の形態1に係る燃料噴射弁1によって形成される別の中空状全体噴霧の例を図12および図13に示す。図12および図13において、(a)は、図9(a)中、G−Gに相当する位置における断面図、(b)は、図9(a)中、L−Lに相当する位置における断面図である。
図12に示す例では、(a)に示すG−G相当位置においては、八つの偏平噴霧6Aにより断面形状が略八角形の中空状全体噴霧61が形成されている。その後、スイッチング噴孔391から下流の所定位置においてスイッチング噴霧5Aにアクシス−スイッチング現象が生じ、スイッチング噴霧5Aと向かい合う偏平噴霧6A−1、6A−8の端部はコアンダ効果により変形、移動する。その結果、(b)に示すL−L相当位置においては、一つのスイッチング噴霧5Aによって隣り合う二つの偏平噴霧6A−1、6A−8が変形され、断面が非対称な中空状全体噴霧61が形成される。
また、図13に示す例では、(a)に示すG−G相当位置においては、四つの偏平噴霧6Aにより断面形状が略長方形の中空状全体噴霧62が形成されている。この時、スイッチング噴霧5Aの長軸は、中空状全体噴霧62の中心で長辺方向となるように設定されている。その後、スイッチング噴霧5Aにアクシス−スイッチング現象が生じ、スイッチング噴霧5Aと向かい合う偏平噴霧6A−1、6A−3の端部はコアンダ効果により同時に変形、移動する。その結果、(b)に示すL−L相当位置においては、一つのスイッチング噴霧5Aによって対向する長辺側の偏平噴霧6A−1、6A−3が変形された中空状全体噴霧62が形成される。
本実施の形態1において形成される中空状全体噴霧60、61、62は、中空状噴霧の拡がりによる空気との均質混合に有利なスワール噴霧の特徴を有している。偏平噴霧6Aとスイッチング噴霧5Aは、スイッチング噴霧5Aの変形によりコアンダ効果が作用し近接化または干渉することにより貫徹力が急速に減衰する。さらに、スイッチング噴霧5Aは、貫徹力が低下し周囲空気との混合が大幅に進むことにより微粒化が向上し、偏平噴霧6Aの微粒化レベルとの差が小さくなる。このため、スリット噴孔390およびスイッチング噴孔391から下流の所定位置において、微粒化された中空状全体噴霧60、61、62が形成される。
仮に、スリット噴孔390に隣接してスイッチング噴孔391を配置せず、スイッチング噴霧5Aを利用しなかった場合には、偏平噴霧6Aと隣り合う噴霧の近接化はさらに下流にならないと始まらない。従って、各噴霧は拡がり続けると共に、貫徹力は低下しない。その結果、噴霧が保有する運動量は空気流に移動しにくく微粒化も不十分となる。
また、図2(b)に示す噴孔プレート33を用いて分割噴射した場合について、図14を用いて説明する。図14(a)は、二分割噴射における各噴霧の時間経過に伴う全体噴霧の変化の様子を示し、図14(b)は、図14(a)中、時刻t3において矢印イで示す方向から見た全体噴霧を示している。なお、図14に示す例では、前段のスイッチング噴霧5A−1はアクシス−スイッチング現象を生じ、後段のスイッチング噴霧5A−2はアクシス−スイッチング現象を生じないように、閾値に基づいて噴射条件を設定している。この場合、分割噴射しない場合に比べて貫徹力をさらに抑制することができる(時刻t1における貫徹力L11<(L10−1))。
なお、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1において、噴孔プレート33に設けられる複数の噴孔39は、少なくともスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aがアクシス−スイッチング現象を生じるまでは、隣接する噴霧との近接化を誘起するコアンダ効果が互いに作用しないように、それらの噴孔径、長さ、および傾きを含む噴孔仕様およびそれらの間隔が設定される。
また、複数の噴孔39により生成される各噴霧は、少なくともスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aがアクシス−スイッチング現象を生じるまでは、隣接する噴霧との近接化を誘起するコアンダ効果が互いに作用しない流速、粒径、および粒子数密度に設定される。
隣接する噴霧の間でコアンダ効果が作用することを抑制する方法として、例えばスイッチング噴霧5Aと偏平噴霧6Aの特性に差を設けて、コアンダ効果が生じるタイミングを遅らせる方法がある。具体的には、スリット噴孔390およびスイッチング噴孔391から同じ距離におけるスイッチング噴霧5Aの平均粒径を偏平噴霧6Aの平均粒径よりも大きくする方法、あるいはスイッチング噴霧5Aのブレーク長さを偏平噴霧6Aのブレーク長さよりも長くする方法、さらにはスイッチング噴霧5Aの貫徹力を偏平噴霧6Aの貫徹力よりも大きく設定する方法等がある。
これらの方法を実現するには、噴孔形状の違いによって縮流のレベルや方向が変わることを利用し、噴孔39内での圧力損失(噴流速度)、噴流の断面積、断面形状、配置、および方向等を異ならせることにより、コアンダ効果が作用する隙間の閾値を変更することができる。また、この閾値は、各噴霧の流速、微粒化レベル、粒子数密度、および雰囲気圧力等によっても変わるため、これらを調整することにより所望の閾値に設定することができる。
以上のように、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1およびこれを備えた噴霧生成装置によれば、スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aがスイッチング噴孔391から下流の所定位置において長軸と短軸の方向を変化させることによる断面形状の変形を利用して、特定のスリット噴孔390により生成される偏平噴霧6Aを変形させることにより、該偏平噴霧6Aを含む中空状全体噴霧60を変形させることが可能であるので、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力、および噴射量分布のうちいずれか一つ以上の設計自由度が向上する。
また、スリット噴孔390は、扇状の薄膜流を確実に実現することができ微粒化に有利であることに加え、変形後のスイッチング噴霧5Aと特定の偏平噴霧6Aがコアンダ効果により近接化または集合化することにより、噴霧の実効的な表面積が増大し微粒化がさらに進むと共に、貫徹力を急速に減衰させることが可能である。これらのことから、噴霧の微粒化と、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力および噴射量分布のうちの少なくとも一つ以上の設計自由度の向上とを両立させることができる。
また、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1において分割噴射する場合は、スイッチング噴霧5Aの断面形状の変形が生じる場合と生じない場合とを場合分けすることが可能な閾値に基づいて、分割噴射の各噴射における噴射条件を設定することにより噴霧形状が可変であり、噴霧形状、噴霧方向、貫徹力および噴射量分布の設計自由度がさらに向上する。よって、本実施の形態1に係る燃料噴射弁1をエンジンに適用した場合には、三次元的な燃焼室形状に適した中空状全体噴霧を形成することができ、さらに要求される噴霧形態となるように中空状全体噴霧を変形させることができる。
実施の形態2.
上記実施の形態1と同様の燃料噴射弁1において、分割噴射により微少噴射量を噴射して、巧妙な混合気形成や燃焼に寄与するためには、微少噴射期間の噴射動作を安定して実現することが必要である。噴射期間を小さくしていくと、弁体35が全閉状態から全開状態までのフルリフトをしない領域になる。本実施の形態2では、分割噴射において弁全開に至らずに閉弁する場合において、上記実施の形態1と同様に、スイッチング噴霧の断面形状の変形が生じる場合と生じない場合の場合分けが可能な閾値を見出し、分割噴射の各噴射における噴射条件をこの閾値に基づいて設定する。
具体的な方策としては、フルリフトをしない領域についても弁体動作を検出することにより、噴射量を推測することが可能である。この領域の噴射を組み合わせることで、より巧妙な噴射制御が可能となる。さらに、フルリフトしない領域の噴射条件を絞り込むことによって、アクシス−スイッチング現象による長軸と短軸の方向の変化による変形を生じさせることが可能である。例えば、噴射時間が短く噴射量が少なくなると噴霧が持つ運動量が小さくなる。これを補うためには、噴射期間をさらに短縮して噴射圧力を上げることにより噴射速度を増大させれば良い。
上記実施の形態1では、本発明に係る基本の噴霧パターンとして、以下の(ア)〜(ウ)の噴霧について説明した。(ア)噴射条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に達していないスイッチング噴霧(図3(a))、(イ)噴射条件がアクシス−スイッチング現象を生じる閾値に達しているスイッチング噴霧(図3(b))、(オ)偏平噴霧とスイッチング噴霧にコアンダ効果が作用し集合した噴霧(図9)。
これらの(ア)〜(ウ)の基本の噴霧パターンにおいて、噴霧の数、種類、および配置を任意に組み合わせて配列し、さらに、分割噴射における分割数、噴射期間、噴射休止時間、噴射量、噴射圧力等の仕様を任意に組み合わせることにより、従来は実現できなかった任意の三次元的な全体噴霧形状や噴霧濃度分布等の構造、噴霧貫徹力(分割噴射毎の貫徹力設定を含む)、噴射量分布等を時間経過による変化設定も含めて実現することが可能となる。
なお、噴霧パターンについては、1スプレーのみならず、2スプレーや、3スプレー等のマルチスプレーにおいて、全体噴霧の形状がそれぞれ異なる仕様の燃料噴射弁を提供することができる。また、燃料噴射弁1の駆動源は、電磁式以外の方式でもよく、ピエゾ式、機械式等であっても良い。また、間欠噴射弁、連続噴射弁のどちらにも適用することができる。
なお、本発明に係る流体噴射弁は、燃料噴射弁1以外にも、塗装、コーティング、農薬散布、洗浄、加湿、スプリンクラー、殺菌、冷却等の各種スプレーとして、一般産業用、農業用、設備用、家庭用、個人用等の用途があり、それぞれに要求される噴霧形態を実現することができる。本発明に係る流体噴射弁を組み入れることにより、駆動源やノズル形態、噴霧流体に関わらず、従来にない噴霧形態を実現することが可能な噴霧生成装置が得られる。
実施の形態3.
本発明の実施の形態3および後述の実施の形態4では、筒内直噴エンジンにおいて、上記実施の形態1および実施の形態2に係る燃料噴射弁1を採用し、所望の噴霧形態を実現した例について説明する。
図15は、本実施の形態3に係る火花点火式直噴エンジンを模式的に示す図であり、(a)は成層燃焼時(ピストン上昇中)、(b)は均質燃焼時(ピストン下降中)の状態を示している。本実施の形態3に係る火花点火式直噴エンジン100は、燃焼室7に燃料を噴射する燃料噴射弁として、上記実施の形態1または上記実施の形態2に係る燃料噴射弁1を備え、図2(b)に示す噴孔プレート33を有している。
火花点火式直噴エンジン100の燃焼室7には、吸気ポート8と排気ポート9が連通しており、各々の燃焼室7側の開口部には、ピストン10と連動して開閉する吸気弁11と排気弁12が設けられている。また、燃焼室7の天井の略中央部には燃料噴射弁1が配置され、その側方には点火プラグ13が配置される。なお、燃料噴射弁1および点火プラグ13の配置は、図15に示す配置に限定されるものではない。
火花点火式直噴エンジン100の燃料噴射弁1は、上記実施の形態1で説明したように、スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aが燃料の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じるか否かにより、中空状全体噴霧60の仕様が可変である。本実施の形態3において、スイッチング噴霧5Aは、アクシス−スイッチング現象を利用して噴霧の長軸と短軸の方向を変化させ断面形状の変形を生じるものである。
スイッチング噴霧5Aがアクシス−スイッチング現象を生じるか否かは、燃焼室7内の圧力または空気流動により制御される。本実施の形態3および後述の実施の形態4において、アクシス−スイッチング現象を生じさせようとしている筒内状態は、市場にある各社ガソリン筒内直噴エンジンにおいて通常用いられている条件で、吸気行程の「大気圧より少し低い圧力で常温の筒内状態」、および圧縮行程の比較的前半の「大気圧より少し高い圧力で温度が少し高い筒内状態」を想定している。
なお、圧縮行程の筒内圧力は徐々に上昇していくが、噴射する時は0.3MPa〜0.5MPa程度で筒内空気流動の影響もわずかであり、貫徹力が普通あるいは大きい噴霧の場合、その貫徹力はほとんど低下しない。このため、常温常圧雰囲気下と同様にアクシス−スイッチング現象を生じさせることが可能である。
本実施の形態3では、燃料噴射弁1は、五つの偏平噴霧6Aと一つのスイッチング噴霧5Aにより、断面形状が略五角形の中空状全体噴霧60を燃焼室7内に形成する(図11(a)参照)。また、スイッチング噴霧5Aは、アクシス−スイッチング現象により特定の偏平噴霧6A−1と近接化または集合化し、中空状全体噴霧60の断面形状を非対称に変形させる(図11(b)参照)。この断面形状が非対称の中空状全体噴霧60は、点火プラグ13近傍を指向しながらも、点火プラグ13と干渉することを回避することが可能である。
本実施の形態3に係る火花点火式直噴エンジン100における成層燃焼時と均質燃焼時の中空状全体噴霧の状態について、図15を用いて説明する。図15(a)に示す成層燃焼時においては、ピストン10の上昇により燃焼室7の空気が圧縮され、燃焼室7内の圧力が上昇する。このため、偏平噴霧6Aおよびスイッチング噴霧5Aの貫徹力は均質燃焼時よりも小さくなる。
スイッチング噴霧5Aは、点火プラグ13近傍を通過する過程でアクシス−スイッチング現象を生じ、点火プラグ13を指向しながらも点火プラグ13との干渉を回避する。同時に貫徹力が大幅に低下し、点火プラグ13近傍を通過した時点で特定のスリット噴孔390−1により生成された偏平噴霧6A−1との近接化または集合化により貫徹力を失い、点火プラグ13近傍で滞留する。すなわち、噴射位置から点火プラグ13近傍までの所望の距離で、スイッチング噴霧5Aの貫徹力を急減衰させ、点火プラグ13近傍において所望の濃い混合気を形成することができる。このことは、成層燃焼を成立させるのに好都合である。
また、偏平噴霧6Aは、成層燃焼に適した混合燃焼状態となるように指向させると共に、シリンダライナー14やピストン10表面への衝突が抑制されるように貫徹力を設定される。これにより、スイッチング噴霧5Aと特定の偏平噴霧6Aが近接化または集合化した中空状全体噴霧60は、シリンダライナー14やピストン10表面への衝突を抑制され、且つ、点火プラグ13近傍に成層燃焼に適した濃い混合気を形成する。
一方、図15(b)に示す均質燃焼時においては、ピストン10の下降と共に吸気弁11が開となるため、タンブル流等の強い空気流動が燃焼室7内に生じる。スイッチング噴霧5Aは、点火プラグ13近傍を通過する過程で燃焼室7内の空気流動に追随し、アクシス−スイッチング現象を生じず、燃焼室7内全体に拡散する。この時、スイッチング噴霧5Aは、スリット噴孔390により生成される偏平噴霧6Aと、コアンダ効果による集合化を生じない。偏平噴霧6Aは、燃焼室7内全体に拡散して均質な混合気を形成する。
このように、本実施の形態3に係る火花点火式直噴エンジン100によれば、成層燃焼時においてはスイッチング噴霧5Aのアクシス−スイッチング現象を利用して特定の偏平噴霧6A−1と近接化あるいは集合化させ、断面形状が非対称な略五角形の中空状全体噴霧60を形成するようにしたので、点火プラグ13近傍を指向しながら点火プラグ13との衝突を回避し、点火プラグ13近傍で滞留する成層燃焼に適した混合気を形成することができる。また、均質燃焼時においては、スイッチング噴霧5Aを空気流動に追随させ、アクシス−スイッチング現象を生じず偏平噴霧6Aと共に燃焼室7全体に拡散させることができる。
本実施の形態3によれば、火花点火式直噴エンジン100における成層燃焼時と均質燃焼時に求められる燃焼性能ひいてはエンジン性能を両立させることが可能となる。また、これらの噴霧を分割噴射することにより、特に成層燃焼時における噴霧の設計自由度がさらに向上する。
実施の形態4.
図16は、本発明の実施の形態4に係る圧縮着火式直噴エンジンを模式的に示す図であり、(a)はピストン上昇時、(b)はピストン下降時の状態を示している。本実施の形態4に係る圧縮着火式直噴エンジン101は、燃焼室7に燃料を噴射する燃料噴射弁として、上記実施の形態1または上記実施の形態2に係る燃料噴射弁1を備え、図2(b)に示す噴孔プレート33を有している。
圧縮着火式直噴エンジン101の燃焼室7には、吸気ポート8と排気ポート9が連通しており、各々の燃焼室7側の開口部には、ピストン10と連動して開閉する吸気弁11と排気弁12が設けられている。また、燃焼室7の天井の略中央部には燃料噴射弁1が配置される。なお、燃料噴射弁1の配置は、これに限定されるものではない。
本実施の形態4では、燃料噴射弁1のスイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aは、アクシス−スイッチング現象を生じた後、特定のスリット噴孔390により生成される偏平噴霧6Aとコアンダ効果による近接化または集合化を生じることにより、中空状全体噴霧60を燃焼室7内での混合気形成または燃焼に適した形状とする。スイッチング噴霧5Aがアクシス−スイッチング現象を生じるか否かは、燃焼室7内の圧力または空気流動により制御される。
本実施の形態4に係る圧縮着火式直噴エンジン101におけるピストン上昇時とピストン下降時の全体噴霧の状態について、図16を用いて説明する。図16(a)に示すピストン上昇時において燃料噴射を行う場合、ピストン10の上昇により燃焼室7の空気が圧縮され、燃焼室7内の圧力が上昇する。このため、偏平噴霧6Aおよびスイッチング噴霧5Aの貫徹力は大気圧下よりも小さくなる。
スイッチング噴孔391により生成されるスイッチング噴霧5Aは、筒内を通過する過程でアクシス−スイッチング現象を生じて変形し、該スイッチング噴霧5Aと特定のスリット噴孔390により生成される偏平噴霧6Aとの間でコアンダ効果による近接化または集合化を生じる。これにより、各噴霧の貫徹力は大幅に低下し、圧縮上死点付近の燃焼室7内において、コンパクトな中空状全体噴霧60を形成する。
なお、圧縮着火式直噴エンジンは、圧縮上死点付近における圧縮温度および圧力が非常に高くなり、この状態で燃料が噴射された場合、適切な混合気が形成される前に着火し、局所的で不均一な燃焼が起こることがある。これに対し、本実施の形態4に係る圧縮着火式直噴エンジン101は、噴射位置からシリンダ内面までの所望の距離でスイッチング噴霧5Aの貫徹力を急減衰させ、所望の断面形状の濃い混合気を形成することができ、筒内に噴霧を拡げて圧縮着火燃焼を成立させるのに好都合である。
また、各噴霧は、圧縮着火燃焼に適した混合状態となるように指向されると共に、シリンダライナー14やピストン10表面への衝突が抑制されるように貫徹力を設定される。これにより、中空状全体噴霧60は、シリンダライナー14やピストン10表面への衝突を抑制され、且つ、圧縮着火燃焼に適した混合気を形成する。
一方、図16(b)に示すピストン下降時においては、ピストン10の下降と共に吸気弁11が開となるため、タンブル流等の強い空気流動が燃焼室7内に生じる。スイッチング噴霧5Aは、燃焼室7内を通過する過程で空気流動に追随し、アクシス−スイッチング現象を生じず、燃焼室7内全体に拡散する。この時、スイッチング噴霧5Aは、スリット噴孔390により生成される偏平噴霧6Aと、コアンダ効果による近接化あるいは集合化を生じない。偏平噴霧6Aは、燃焼室7内全体に拡散して均質な混合気を形成する。
このように、本実施の形態4に係る圧縮着火式直噴エンジン101によれば、ピストン上昇時においてはスイッチング噴霧5Aのアクシス−スイッチング現象を利用して特定の偏平噴霧6Aと近接化あるいは集合化させ、圧縮着火燃焼に適した濃い混合気を形成することができる。また、ピストン下降時においては、スイッチング噴霧5Aを空気流動に追随させ、アクシス−スイッチング現象を生じず偏平噴霧6Aと共に燃焼室7全体に拡散させることができる。
本実施の形態4によれば、圧縮着火式直噴エンジン101における成層燃焼時と均質燃焼時に求められる燃焼性能ひいてはエンジン性能を両立させることが可能となる。また、これらの噴霧を分割噴射することにより、特に成層燃焼時における噴霧の設計自由度がさらに向上する。
なお、本発明に係る燃料噴射弁1が適用されるエンジンは、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、複合燃料エンジン等を問わず、また点火(着火)方式も問わない。本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
本発明は、流体噴射弁、特にエンジンに搭載される燃料噴射弁、およびこれを備えた噴霧生成装置並びにエンジンとして利用することができる。
1 燃料噴射弁、2 ソレノイド装置、3 弁装置、5a 噴流、5A スイッチング噴霧、6A 偏平噴霧、7 燃焼室、8 吸気ポート、9 排気ポート、10 ピストン、11 吸気弁、12 排気弁、13 点火プラグ、14 シリンダライナー、21 ハウジング、22 コア、23 コイル、24 アマチュア、31 弁本体、32 弁座、32a 弁座面、33 噴孔プレート、34 デッドボリューム、35 弁体、36 圧縮バネ、37 ロッド、38 ボール、38a 面取部、38b 平面部、38c 曲面部、39 噴孔、50 集合噴霧、60、61、62 中空状全体噴霧、100 火花点火式直噴エンジン、101 圧縮着火式直噴エンジン、390 スリット噴孔、391
スイッチング噴孔

Claims (18)

  1. 流体が流れる通路の途中に設けられた弁座と、前記弁座との当接、離間により前記通路の開閉を制御する弁体と、前記弁座の下流に設けられた噴孔体とを備え、前記噴孔体に配置された複数の噴孔から流体を噴射し所望の形態の噴霧を生成する流体噴射弁であって、前記複数の噴孔は、各々が扇状に広がった偏平噴霧を生成する複数のスリット噴孔と、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において長軸と短軸の長さが異なるスイッチング噴霧を生成するスイッチング噴孔を含み、
    前記複数のスリット噴孔は、各々から生成される複数の偏平噴霧が流体の噴射方向に直角な面内の断面形状において多角形の中空状全体噴霧を形成するように配置され、前記スイッチング噴孔は、前記複数のスリット噴孔に囲まれるように配置され、前記多角形の内側にスイッチング噴霧を生成し、該スイッチング噴霧は、前記スイッチング噴孔から下流の所定位置においてアクシス−スイッチング現象を生じることにより前記長軸と前記短軸の方向を変化させ、流体の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じ得るものであり、この変形を生じた後、特定の前記スリット噴孔により生成された偏平噴霧との間にコアンダ効果が生じて該偏平噴霧と近接化または集合化し、該偏平噴霧を含む中空状全体噴霧を変形させることを特徴とする流体噴射弁。
  2. 要求される流体噴射量を複数回に分けて噴射する分割噴射を行い所望の形態の噴霧を生成する流体噴射弁であって、流体の噴射条件として設定されるパラメータの少なくとも一つは、前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧の前記断面形状の変形が生じる場合と生じない場合とを場合分けすることが可能な閾値を有し、前記分割噴射の各噴射における噴射条件が前記閾値に基づいて設定されることを特徴とする請求項1記載の流体噴射弁。
  3. 前記閾値を有する前記パラメータは、前記分割噴射の各噴射における噴射期間、噴射量、および噴射圧力の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2記載の流体噴射弁。
  4. 前記分割噴射の休止時間間隔は、前記噴孔から下流の所定位置において前記分割噴射の各噴射による噴霧を近接化または集合化させるように設定されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の流体噴射弁。
  5. 前記弁体が弁全開に至らずに閉弁する場合における前記パラメータの前記閾値を求め、前記弁体が弁全開に至らずに閉弁する噴射における噴射条件を前記閾値に基づいて設定することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の流体噴射弁。
  6. 前記スイッチング噴孔は、前記短軸に対して前記長軸が線対称なスイッチング噴霧を生成するように、その噴孔径、長さ、および傾きを含む噴孔仕様が設定されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の流体噴射弁。
  7. 前記スイッチング噴孔は、前記噴孔体の板厚方向に直角な断面形状が長円形であることを特徴とする請求項6記載の流体噴射弁。
  8. 前記スイッチング噴孔と前記特定のスリット噴孔は、前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧が前記断面形状の変形を生じる前の前記長軸の方向が、前記特定のスリット噴孔により生成される偏平噴霧の長手方向と同じ方向になるように配置されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の流体噴射弁。
  9. 前記複数のスリット噴孔により形成される中空状全体噴霧の噴霧形状、貫徹力、噴射量分布および噴霧方向の各特性のうち少なくとも一つは、前記スイッチング噴霧がアクシス−スイッチング現象を生じる所定位置より下流において定められることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の流体噴射弁。
  10. 前記複数の噴孔は、少なくとも前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧がアクシス−スイッチング現象を生じるまでは、隣接する噴霧との近接化を誘起するコアンダ効果が互いに作用しないように、それらの噴孔径、長さ、および傾きを含む噴孔仕様およびそれらの間隔が設定されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の流体噴射弁。
  11. 前記複数の噴孔により生成される各噴霧は、少なくとも前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧がアクシス−スイッチング現象を生じるまでは、隣接する噴霧との近接化を誘起するコアンダ効果が互いに作用しない流速、粒径、および粒子数密度に設定されることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の流体噴射弁。
  12. 請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の流体噴射弁と、前記流体噴射弁に流体を供給する流体供給手段と、前記流体噴射弁の動作を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする噴霧生成装置。
  13. 燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁として請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の流体噴射弁を備え、前記燃焼室内に配置された点火プラグにより火花を発生させ、前記燃焼室内の混合気に着火する火花点火式を採用したエンジンであって、
    前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧が燃料の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じるか否かにより、中空状全体噴霧の仕様が可変であることを特徴とするエンジン。
  14. 前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧は、アクシス−スイッチング現象により前記断面形状の変形を生じるものであり、アクシス−スイッチング現象を生じるか否かは、前記燃焼室内の圧力または空気流動により制御されることを特徴とする請求項13記載のエンジン。
  15. 前記燃焼室において均質燃焼を行う場合、前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧は、前記点火プラグ近傍を通過する過程で前記燃焼室内の空気流動に追随し、アクシス−スイッチング現象を生じずに前記燃焼室内に拡散し、前記均質燃焼よりも前記燃焼室内の圧力が上昇する成層燃焼を行う場合、前記スイッチング噴霧は前記点火プラグの近傍を通過する過程でアクシス−スイッチング現象を生じて前記点火プラグを指向すると共に前記特定のスリット噴孔により生成された偏平噴霧との近接化または集合化により貫徹力が低下し、前記点火プラグの近傍を通過した時点で貫徹力を失い前記点火プラグの近傍で滞留することを特徴とする請求項14記載のエンジン。
  16. 燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁として請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の流体噴射弁を備え、前記燃焼室内の混合気をピストンで圧縮し自着火を行わせる圧縮着火式を採用したエンジンであって、
    前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧が燃料の噴射方向に直角な面内の断面形状の変形を生じるか否かにより、中空状全体噴霧の仕様が可変であることを特徴とするエンジン。
  17. 前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧は、アクシス−スイッチング現象により前記断面形状の変形を生じるものであり、アクシス−スイッチング現象を生じるか否かは、前記燃焼室内の圧力または空気流動により制御されることを特徴とする請求項16記載のエンジン。
  18. 前記燃焼室において前記ピストンの上昇時に燃料噴射を行う場合、前記スイッチング噴孔により生成されるスイッチング噴霧は、アクシス−スイッチング現象を生じて前記特定のスリット噴孔により生成された偏平噴霧との近接化または集合化により貫徹力が低下し、圧縮上死点付近の前記燃焼室内においてコンパクトな中空状全体噴霧を形成し、前記燃焼室において前記ピストンの下降時に燃料噴射を行う場合、前記スイッチング噴霧は、前記燃焼室内の空気流動に追随し、アクシス−スイッチング現象を生じず前記燃焼室内に拡散することを特徴とする請求項17記載のエンジン。
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