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JP5981357B2 - 耐熱鋼および蒸気タービン構成部品 - Google Patents

耐熱鋼および蒸気タービン構成部品 Download PDF

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Description

本発明の実施形態は、クリープ破断強度に優れた耐熱鋼、およびこの耐熱鋼で構成された蒸気タービン構成部品に関する。
火力発電システムでは、発電効率を一層高効率化するために、蒸気タービンの蒸気温度を上昇させる傾向にある。その結果、蒸気タービンに使用される耐熱鋼に要求される高温特性も一層厳しくなる。
これまでにも、蒸気タービンに使用される耐熱鋼として多くの提案がなされている。しかしながら、これらの耐熱鋼でも、長期間クリープ破断強度は必ずしも十分でない。蒸気タービンに使用される耐熱鋼として、一層の発電効率の向上に貢献するためには、長時間クリープ破断寿命をより一層向上させる必要がある。
特開平8−176749号公報 特許第4284010号
本発明が解決しようとする課題は、長時間クリープ破断寿命の向上を図ることができ、高温特性や耐久性等に優れた耐熱鋼および蒸気タービン構成部品を提供することである。
実施形態の耐熱鋼は、質量%で、C:0.05〜0.13%、Si:0.01〜0.10%、Mn:0.45%を超えて1.00%以下、Ni:0.8%以下、Cr:9〜11.5%、Mo:0.05〜0.50、V:0.15〜0.30%、Co:0.5〜1.5
%、W:1〜3%、N:0.01〜0.03%、Nb:0.15%以下、B:0.005〜0.015%、Re:0.005〜0.1%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、JIS Z 2271に記載された方法に準じて、625℃、20kgf/mm の条件で測定されるクリープ破断時間が10540.6時間以上である
実施形態の耐熱鋼は、長時間クリープ破断寿命の向上を図ることができる。
本発明に係る実施の形態において、発明者らは、発電システムにおける発電効率の高効率化や、蒸気タービンの長期耐久性の向上等を可能にするため、蒸気タービンの動翼やタービンロータなどの蒸気タービン構成部品に用いる耐熱鋼について、長期間クリープ破断寿命の向上を図るべく鋭意研究を進めた結果、上記特性の向上を図るためには、Cr含有量およびRe含有量の適正化を図ることが有効であることを見出した。
実施形態の耐熱鋼は、質量%で、C:0.05〜0.13%、Si:0.01〜0.10%、Mn:0.45%を超えて1.00%以下、Ni:0.8%以下、Cr:9〜11.5%、Mo:0.05〜0.50、V:0.15〜0.30%、Co:0.5〜1.5%、W:1〜3%、N:0.01〜0.03%、Nb:0.15%以下、B:0.005〜0.015%、Re:0.1%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
上記した実施の形態の耐熱鋼における各組成成分範囲の限定理由を説明する。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り質量%とする。
耐熱鋼における不可避的不純物としては、例えばPおよびSなどが挙げられる。
(1)C(炭素)
Cは、焼入性を確保し、マルテンサイト変態を促進させるとともに、合金中のFe、Cr、MoなどとM23型の炭化物を形成したり、Nb、V、NなどとMX型炭窒化物を形成して、析出強化により高温クリープ強度を高めるために不可欠な元素である。Cは、耐力の向上にも寄与するとともに、δフェライトやBN生成の抑制にも不可欠な元素である。これらの効果を発揮させるために、Cを0.05%以上含有することが必要である。一方、Cの含有率が0.13%を超えると、炭化物や炭窒化物の凝集や粗大化が起こりやすくなり高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Cの含有率を0.05〜0.13%とした。同様の理由により、Cの含有率を0.08〜0.12%とすることが好ましい。
(2)Si(ケイ素)
Siは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。Si含有率が0.10%を超えると、鋼塊内部の偏析が増加し、焼戻し脆化感受性が極めて高くなる。そして、切欠靭性が損なわれ、高温で長時間保持することにより、析出物形態の変化が助長され、靭性が経時劣化する。一方、Siは、極微量を含有することにより、逆に偏析が低下するため、これらの効果を発揮させるために、Siを0.01%以上含有することが必要である。そのため、Siの含有率を0.01〜0.10%とした。同様の理由により、Siの含有率を0.03〜0.10%とすることが好ましい。
(3)Mn(マンガン)
Mnは、溶解時の脱酸剤や脱硫剤として有効であり、また焼入性を高めて強度を向上させるのにも有効な元素である。また、Mnは、δフェライトの生成を抑制するため、これらの効果を発揮させるために、Mnを0.45%を超えて含有させることが必要である。一方、Mnの含有率が1.00%を超えると、MnはSと結びついてMnSの非金属介在物を形成して、靭性を低下させるとともに、靭性の経時劣化を助長し、また高温クリープ破断強度を低下させる。そのため、Mnの含有率を0.45%を超えて1.00%以下とした。同様の理由により、Mnの含有率を0.50〜0.90%とすることが好ましい。
(4)Ni(ニッケル)
Niの含有率が0.8%を超えると、炭化物やラーべス相の凝集や粗大化が助長され、高温クリープ破断強度を低下させたり、焼戻脆性を助長させる。そのため、Niの含有率を0.8%以下とした。一方、Niはδフェライトの生成を抑制し、靭性の向上に有用な元素であるため、0.01%以上含有することが好ましい。同様の理由により、Niの含有率を0.01〜0.4%とすることが好ましい。
(5)Cr(クロム)
Crは、耐酸化性および高温耐食性を高め、また、M23型炭化物による析出強化により高温クリープ破断強度を高めるために必要不可欠の元素である。これらの効果を発揮させるために、Crを9%以上含有することが必要である。一方、Crの含有量が高くなるにつれて、室温における引張強度や、高応力側の短時間クリープ破断強度は強くなるが、その反面、低応力側の長時間クリープ破断強度は低くなる傾向にある。これは、低応力側の長時間クリープ破断寿命の屈曲現象の一因とも考えられている。Cr含有量が多くなると、長時間域でMX型炭窒化物の消失が加速すること、M23型炭化物の凝集粗大化が加速することにより、マルテンサイト組織の下部組織(微細組織)の顕著な変化が生じ、下部組織のサブグレイン化が著しく進むことがその原因である。これらの傾向は、Cr含有量が11.5%を超えると急速に強まる。そのため、Crの含有率を9〜11.5%とした。同様の理由により、Crの含有率を9〜11%とすることが好ましい。
(6)Mo(モリブデン)
Moは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させるとともに、微細炭化物や微細なラーベス相を生成して高温クリープ破断強度を向上させる。また、Moは、焼戻脆化の抑制にも有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Moを0.05%以上含有することが必要である。一方、Moの含有量が0.50%を超えると、δフェライトを生成して、靱性を著しく低下させる。そのため、Moの含有率を0.05〜0.50%とした。同様の理由により、Mo含有率を0.05〜0.40%とすることが好ましい。
(7)V(バナジウム)
Vは、微細な炭化物や炭窒化物を形成して、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を発揮させるために、Vを0.15%以上含有することが必要である。一方、Vの含有率が0.30%を超えると、炭化物の過度の析出が生じ、高温クリープ破断強度の低下を招く。そのため、Vの含有率を0.15〜0.30%とした。同様の理由により、Vの含有率を0.17〜0.27%とすることが好ましい。
(8)Co(コバルト)
Coは、δフェライトの生成を抑制し、固溶強化により高温引張強度や高温クリープ破断強度を向上させる。これは、Coの添加によってAc変態点がほとんど変化しないためである。これらの効果を発揮させるために、Coを0.5%以上含有することが必要である。一方、Coは、Wの固溶限を減少させることにより、ラーベス相やμ相の凝集粗大化を促進し、長時間クリープ強度の低下を引き起こす原因となる。そのため、長時間クリープ強度の低下を抑制する観点から、Co含有率を1.5%以下とした。同様の理由により、Coの含有率を0.5〜1%とすることが好ましい。
(9)W(タングステン)
Wは、M23型炭化物の凝集・粗大化を抑制する。また、Wは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させ、ラス境界等にラーベス相を分散析出させ、高温引張強度や高温クリープ破断強度の向上に有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Wを1%以上含有することが必要である。一方、Wの含有率が3%を超えると、δフェライトや粗大なラーベス(Laves)相が生成しやすくなり、延性や靭性が低下するとともに、高温クリープ破断強度も低下する。そのため、Wの含有率を1〜3%とした。同様の理由により、Wの含有率を1.7〜2.5%とすることが好ましい。
(10)N(窒素)
NはC、Nb、Vなどと結びついて炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。Nの含有率が0.01%未満では、十分な引張強度や高温クリープ破断強度を得ることができない。一方、Nは、Bとの結びつきが強く、Nの含有率が0.03%を超えると、BNの窒化物が生成されることにより、健全な鋼塊の製造が困難になり、熱間加工性が低下し、延性や靭性が低下する。また、BN相の析出により高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するので、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Nの含有率を0.01〜0.03%とした。同様の理由により、Nの含有率を0.012〜0.025%とすることが好ましい。
(11)Nb(ニオブ)
Nbは、室温での引張強度の向上に有効であるとともに、微細炭化物や炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。また、Nbは、微細なNbCを生成して結晶粒の微細化を促進し、靭性を向上させる。Nbの一部は、V炭窒化物と複合したMX型炭窒化物を析出して、高温クリープ破断強度を向上させる効果もある。これらの効果を発揮させるために、Nbを0.01%以上含有することが好ましい。一方、Nbの含有率が0.15%を超えると、粗大な炭化物や炭窒化物が析出し、延性や靭性を低下させる。そのため、Nbの含有率を0.15%以下とした。同様の理由により、Nbの含有率を0.01〜0.1%とすることが好ましい。
(12)B(ホウ素)
Bは、微量の添加で焼入性が増大し、靭性が向上する。また、Bは、オーステナイト結晶粒界およびその下部組織のマルテンサイトパケット、マルテンサイトブロック、マルテンサイトラス内の炭化物、炭窒化物およびラーベス相の凝集や粗大化を高温下で長時間にわたって抑制する効果を有している。さらに、Bは、WやNbなどと複合添加することによって、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Bを0.005%以上含有させることが必要である。一方、Bの含有率が0.015%を超えると、BとNが結合してBN相が析出し、熱間加工性が損なわれたり、高温クリープ破断延性や靭性が大きく低下する。また、BN相の析出により、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するため、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Bの含有率を0.005〜0.015%とした。同様の理由により、Bの含有率を0.007〜0.012%とすることが好ましい。
(13)Re(レニウム)
Reは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させるとともに、マトリックス中のWの固溶量を向上させるのに有効な元素である。また、Reは、高温でのWの拡散を抑制し、ラーベス(Laves)相の析出や凝集粗大化を遅延させることにより、高温クリープ特性を高いままで長時間維持することに寄与することに寄与する元素である。これらの効果を発揮させるために、Reを0.005%以上含有させることが好ましい。また、Reの含有量を0.1%未満とすることで、これらの効果を顕著に発現することができる。そのため、Reの含有率を0.1%未満とした。同様の理由により、Reの含有率を0.01〜0.05%とすることが好ましい。
(14)P(リン)、S(硫黄)
P、Sは、実施の形態の耐熱鋼においては、不可避的不純物に分類されるものである。これらの不可避的不純物は、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが好ましい。
上記した組成成分範囲の耐熱鋼は、例えば、蒸気タービンの構成部品を構成する材料として好適である。蒸気タービンの構成部品として、例えば、動翼、高温タービンロータ(高圧タービンロータ、中圧タービンロータ、高中圧タービンロータなど)などの鍛造部品が挙げられる。高温タービンロータには、タービンディスクが設けられていてもよい。
上記した蒸気タービンの構成部品のすべての部位を上記した耐熱鋼で構成してもよいし、構成部品の一部の部位を上記した耐熱鋼で構成してもよい。
また、上記した組成成分範囲の耐熱鋼では、長時間クリープ破断寿命の向上を図ることができるため、この耐熱鋼を用いて、例えば、蒸気タービンの高温タービンロータ(高圧タービンロータ、中圧タービンロータ、高中圧タービンロータ)、動翼、タービンディスクなどの蒸気タービンの構成部品を構成することで、高温環境下においても高い信頼性を有する蒸気タービンの構成部品を提供することができる。
上記した組成成分範囲の耐熱鋼は、特に高温域での長時間クリープ破断寿命に優れることから、600℃以上、例えば、550〜650℃の高温域で使用される動翼を構成する耐熱鋼に適しており、具体的には、例えば、定常時の最高蒸気温度が566〜610℃の高温下で使用される動翼やタービンロータ、タービンディスクなどの構成部品、または定常時の最高蒸気温度が593〜630℃の高温下で使用される動翼やタービンロータ、タービンディスクなどの構成部品を構成する耐熱鋼に適している。
ここで、実施の形態の耐熱鋼、およびこの耐熱鋼を用いて製造される蒸気タービンの構成部品(鍛造品)の製造方法について説明する。
本実施の形態の耐熱鋼は、例えば、次のように製造される。
上記した耐熱鋼を構成する組成成分を得るために必要な原材料を、アーク式電気炉、真空誘導電気炉などの溶解炉で溶解し、精錬、脱ガスを行う。その後、所定サイズの型に注湯し、時間をかけて凝固させ鋼塊を形成する。凝固が完了した鋼塊は、1100〜1250℃に加熱され鍛造処理(熱間加工)が施され、その後、焼入処理および焼戻処理が施される。このような工程を経て、耐熱鋼が製造される。
蒸気タービンの動翼やタービンロータなどの構成部品は、例えば、次のように製造される。
まず、蒸気タービンの構成部品を構成する、上記した耐熱鋼を構成する組成成分を得るために必要な原材料を、アーク式電気炉、真空誘導電気炉などの溶解炉で溶解し、精錬、脱ガスを行う。その後、所定サイズの型に注湯し、時間をかけて凝固させ鋼塊を形成する。なお、真空環境中で注湯させる場合には、真空脱ガスが行われることから鋼塊中のガス成分がより低減化され、非金属介在物の低減にもつながる。
凝固が完了した鋼塊は1100〜1250℃に加熱され、大型プレスによりタービン翼やタービンロータなどの各構成部品の形状にまで鍛造処理(熱間加工)が行われる。鍛造処理後、焼入処理および焼戻処理が施される。このような工程を経て、蒸気タービンのタービン翼やタービンロータなどの構成部品が製造される。
ここで、鍛造処理における加熱温度を1100〜1250℃の温度範囲とすることが好ましいのは、温度が1100℃未満では、材料の熱間加工性が十分に得られず、構成部品の中心部における鍛造効果が十分でなかったり、鍛造変形中に鍛造割れを発生させる原因となる可能性があり、温度が1250℃を超えると、結晶粒の粗大化や結晶粒の不均一性が顕著になり、鍛造による変形が不均一になることや鍛造後に行われる焼入処理時の結晶粒粗大化や不均一性の原因となるからである。
ここで、焼入処理および焼戻処理について説明する。
(焼入処理)
焼入加熱によって、材料中に生成していた炭化物や炭窒化物のほとんどを、一旦マトリックス中に固溶させ、その後の焼戻処理によって炭化物や炭窒化物を微細均一にマトリックス中に析出させることによって、高温クリープ破断強度を向上させるとともに、クリープ破断延性や靭性を向上させることができる。
焼入温度は、1040〜1120℃の温度範囲に設定されることが好ましい。焼入温度が1040℃未満では、鍛造過程までに析出している比較的粗大な炭化物や炭窒化物のマトリックスへの固溶が十分ではなく、その後の焼戻処理後においても粗大な未固溶炭化物や未固溶炭窒化物として残る。そのため、良好な、高温クリープ破断強度、延性および靭性を得ることが困難である。
また、実施形態に係る耐熱鋼においては、マトリックス中にMX型炭窒化物を微細に析出させて高温クリープ破断強度を向上させるために、Nbが添加されている。このNbの効果を十分に発揮させるには、焼入温度に加熱保持する際に、オーステナイトマトリックス中にNbを完全に固溶させることが必要である。しかしながら、焼入温度が1040℃未満では、Nbが、凝固時に生じた粗大炭窒化物として未固溶状態で残存し、クリープ破断強度を向上させる効果を十分に得られず、また延性、靭性の低下や疲労強度の低下を生じさせる可能性がある。このような粗大炭窒化物を一旦固溶させて、焼入れ後の微細な炭窒化物として多量に有効析出させるために、焼入温度を1040℃以上とすることが必要である。
一方、焼入温度が1120℃を超えると、オーステナイト相中にδフェライト相が生成するとともに、結晶粒が粗大化して、延性や靭性が大幅に低下する。
焼入処理において、焼入後、鍛造素材は、所定の微細組織とするために、空冷またはそれ以上の冷却速度で冷却されることが好ましい。焼入処理における冷却速度としては、焼入れ後、100℃/時以上の冷却速度で冷却されることがより好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、油冷などを採用することができる。
上記した冷却速度は、鍛造素材において最も冷却速度が小さくなる部位の冷却速度とすることができる。また、鍛造素材がタービンロータなどの場合には、冷却速度は、例えば鍛造素材の中心部の冷却速度として定義してもよい。この場合、鍛造素材の中心部とは、例えば、その中心軸上で、かつ軸方向の中央をいう。
また、鍛造素材が所定の肉厚を有する構造体からなるものであれば、鍛造素材の中心部とは、その肉厚の中心部としてもよい。
(焼戻処理)
焼戻処理によって、上記した焼入処理によって生じた残留オーステナイト組織を分解し、焼戻マルテンサイト組織とし、炭化物や炭窒化物をマトリックス中に均一に分散析出させるとともに転位組織を適正レベルに回復させる。これによって、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性が得られる。
この焼戻処理は、2回実施されることが好ましい。1回目の焼戻処理(第一段焼戻処理)は、残留オーステナイト組織を分解させることを目的としており、焼き入れ後の残留オーステナイトを可能な限り完全に除去する観点から、540〜600℃の温度範囲で行われることが好ましい。
すなわち、焼入処理が施された金属組織は、多くはマルテンサイト変態し、焼入れマルテンサイト組織となっているが、一部オーステナイト組織が残留している。第一段焼戻処理によって、焼入れマルテンサイト組織は焼戻しマルテンサイト組織となり、また、第一段焼戻処理によって、残留オーステナイト組織は焼入れマルテンサイト組織となり、残留オーステナイト組織は消滅する。
第1段焼戻処理の温度が540℃未満では、残留オーステナイト組織の分解が十分に行われず、残留オーステナイト組織から焼入れマルテンサイト組織への変態が不十分となる可能性がある。一方、第一段焼戻処理の温度が600℃を超えると、MX型炭窒化物の析出サイトが減少し、粗大なMX型炭窒化物が析出しやすくなる。また、炭化物や炭窒化物が残留オーステナイト組織中よりもマルテンサイト組織中に優先的に析出しやすくなり、析出物が不均一に分散析出することになり、高温クリープ破断強度が低下する。
2回目の焼戻処理(第二段焼戻処理)は、材料全体を焼戻マルテンサイト組織にすることにより、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性を得ることを目的とし、650〜730℃の温度範囲で行われることが好ましい。
すなわち、第一段焼戻処理により、材料中に一部残留していた残留オーステナイト組織は焼入れマルテンサイト組織に変態するが、このままでは延性、靭性に劣るため、さらに第二段焼戻処理を行って、焼戻しマルテンサイト組織とすることが必要である。
なお、第一段焼戻処理と第二段焼戻処理は、連続的に行うことができる。
第二段焼戻処理の温度が650℃未満では、炭化物や炭窒化物などの析出物が安定状態に析出しないため、高温クリープ破断強度も延性、靭性も所定の特性が得られない。また、第二段焼戻処理の温度が650℃未満では、焼入れマルテンサイト組織の焼戻しマルテンサイト組織への変態が十分に進行しないうえ、炭化物や炭窒化物の析出が十分に平衡状態まで到達せず、600℃を超える高温下でクリープが進行したときに、凝集、粗大化が顕著となる。
一方、第二段焼戻処理の温度が730℃を超えると、炭化物や炭窒化物の粗大析出となり、必要とする高温クリープ破断強度が得られない。また、第二段焼戻処理の温度が730℃を超えると、焼戻処理が過度に進行し、引張強さや耐力などの強度特性が必要な値を満足しなくなる。
上記した温度範囲のうち、特に650〜690℃で第二段焼戻処理を施した場合は、高応力側の条件下で優れたクリープ強度を示す耐熱鋼を得ることができ、690〜730℃で第二段焼戻処理を施した場合は、低応力側の条件下で優れたクリープ強度を示す耐熱鋼を得ることができる。このように、650〜730℃の温度範囲において、処理温度を適宜選択して第二段焼戻処理を行うことで、使用用途に適した耐熱鋼を得ることが可能である。
第二段焼戻処理において、第二段焼戻後、鍛造素材は、冷却時に形状変化部位などの応力集中部にひずみを発生させないように、20〜60℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。
第二段焼戻処理における冷却速度は、焼入処理で述べたのと同様に定義することができる。
なお、蒸気タービンの構成部品を作製する方法は、上記した方法に限定されるものではない。
上記した実施の形態の耐熱鋼によれば、耐熱鋼を構成する化学組成を上記した範囲とすることで、クリープ破断寿命の向上を図ることができるため、この耐熱鋼を用いて、例えば、蒸気タービンの高温タービンロータ(高圧タービンロータ、中圧タービンロータ、高中圧タービンロータなど)、動翼、タービンディスクなどの蒸気タービンの構成部品を構成することで、高温環境下においても高い信頼性を有する蒸気タービンの構成部品を提供することができる。したがって、これら構成部品を適用することで、蒸気タービンにおいて、蒸気温度の高温化が可能となり、発電効率を向上させることができる。
以下に、本発明に係る一実施の形態の耐熱鋼が、高温クリープ破断寿命に優れていることを説明する。
(試料)
表1は、材料特性評価に用いた各試料(試料1〜試料48)の化学組成成分を示す。なお、試料1〜試料40は、本発明に係る実施の形態の耐熱鋼の実施例であり、試料41〜試料48は、本発明に係る実施の形態の耐熱鋼の化学組成範囲にない耐熱鋼であり、比較例である。
Figure 0005981357
これらの試料を次のように形成した。
各試料を構成する原材料を、真空誘導溶解炉(VIM)で溶解し、脱ガスを行い、金型内に注湯した。そして、金型内で凝固させて、20kgの鋼塊を作製した。
続いて、凝固した各鋼塊を1200℃に加熱し、鍛造比が3の加工比で鍛造処理を行った。続いて、焼入処理、第一段焼戻処理および第二段焼戻処理を行った。
ここで、鍛造比とは、鍛造処理を施す前における、鍛造被対象物が伸長される方向に垂直な鍛造被対象物の断面積を、鍛造処理後における、鍛造被対象物が伸長された方向に垂直な鍛造被対象物の断面積で除したものである。
焼入処理では、1070℃の温度で5時間鋼塊を加熱保持し、その後、鋼塊を冷却速度100℃/時(鋼塊の中心部における冷却速度)で冷却した。第一段焼戻処理では、焼入処理後の鋼塊を、570℃の温度で20時間加熱保持した。第二段焼戻処理では、第一段焼戻処理後の鋼塊を、680℃の温度で20時間加熱保持し、その後、鋼塊を冷却速度50℃/時で冷却した。なお、ここでは、第二段焼戻処理後における冷却速度を、鋼塊の中心部における冷却速度とした。
(クリープ破断試験)
上記した試料1〜試料48を用いて、625℃、20kgf/mmの条件でクリープ破断試験を実施した。試験片は、上記した各鋼塊から作製した。
クリープ破断試験は、JIS Z 2271(金属材料のクリープおよびクリープ破断試験方法)に準じて実施した。表2には、各試料におけるクリープ破断試験の結果が示されている。なお、表2には、クリープ破断試験の結果として、クリープ破断寿命(時間)が示されている。
Figure 0005981357
表2に示すように、試料1〜40は、試料41〜48と比較して、クリープ破断寿命が格段に長く、クリープ破断特性が向上していることがわかる。
(焼入温度および焼戻温度の影響)
焼入温度および焼戻温度が、クリープ破断寿命に及ぼす影響について調べた。
ここでは、試料13に示す組成の鋼塊を使用し、次に示す条件で焼入処理、焼戻処理を行った。焼入処理における焼入温度として、1020℃、1070℃、1100℃、1150℃の4条件について行い、それぞれの焼入温度に5時間加熱保持した。5時間加熱保持後、100℃/時の冷却速度(鋼塊の中心部における冷却速度)で冷却した。
第1第焼戻処理における第一段焼戻温度として、530℃、570℃、610℃の3条件について行い、それぞれの第一段焼戻温度に20時間加熱保持した。
第2第焼戻処理における第二段焼戻温度として、630℃、680℃、710℃、770℃の4条件について行い、それぞれの第二段焼戻温度に20時間加熱保持した。20時間加熱保持後、50℃/時の冷却速度で冷却した。なお、ここでは、第2第焼戻処理後における冷却速度を、鋼塊の中心部における冷却速度とした。
そして、各鋼塊から試験片を作製し、前述したのと同様の方法で、625℃、20kgf/mm、650℃、15kgf/mmの条件でクリープ破断試験を行い、クリープ破断寿命について評価した。表3は、クリープ破断試験の試験結果を示している。
Figure 0005981357
表3に示すように、焼入温度を1070℃または1100℃、第一段焼戻温度を570℃、かつ第二段焼戻温度を680℃または710℃として熱処理された試料においては、他の条件で熱処理された試料と比較して、クリープ破断寿命が長く、クリープ破断特性に優れていることがわかる。
このように、焼入処理および焼戻処理の熱処理条件によって、クリープ破断特性に影響が及ぼされ、適正な熱処理条件を適用することによって、クリープ破断特性について優れた耐熱鋼が得られることがわかる。
また、第二段焼戻処理において680℃で熱処理したものは、625℃、20kgf/mmのクリープ条件におけるクリープ破断寿命が特に優れた特性を示しており、第二段焼戻処理において710℃で熱処理したものは、650℃、15kgf/mmのクリープ条件におけるクリープ破断寿命が特に優れた特性を示していることがわかる。したがって、熱処理条件を適切に選択することにより、それぞれの使用用途に適合した、より優れた特性を有する耐熱鋼を得られることがわかる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.13%、Si:0.01〜0.10%、Mn:0.45%を超えて1.00%以下、Ni:0.8%以下、Cr:9〜11.5%、Mo:0.05〜0.50、V:0.15〜0.30%、Co:0.5〜1.5%、W:1〜3%、N:0.01〜0.03%、Nb:0.15%以下、B:0.005〜0.015%、Re:0.005〜0.1%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    JIS Z 2271に記載された方法に準じて、625℃、20kgf/mm の条件で測定されるクリープ破断寿命が10540.6時間以上である耐熱鋼。
  2. 質量%で、C:0.05〜0.13%、Si:0.01〜0.10%、Mn:0.45%を超えて1.00%以下、Ni:0.8%以下、Cr:9〜11.5%、Mo:0.05〜0.50%、V:0.15〜0.30%、Co:0.5〜1.5%、W:1〜3%、N:0.01〜0.03%、Nb:0.15%以下、B:0.005〜0.015%、Re:0.005〜0.1%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる耐熱鋼の製造方法であって、
    1040〜1120℃の温度範囲で焼入処理を行う工程と、
    前記焼入処理後、540〜600℃の温度範囲で第一段焼戻処理を行う工程と、
    前記第一段焼戻処理後、650〜730℃の温度範囲で第二段焼戻処理行う工程と、
    を有する耐熱鋼の製造方法
  3. 前記焼入処理における冷却速度を100℃/時以上とした請求項2に記載の耐熱鋼の製造方法
  4. 少なくとも所定部位が請求項1に記載の耐熱鋼からなる蒸気タービン構成部品。
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