JP5977966B2 - アーク溶接方法 - Google Patents
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Description
例えば、図9に示すように、板厚の厚い第1鋼板A100に板厚の薄い第2鋼板B100を突合わせ、第2鋼板B100側の鉛直上側に開口したレ型の開先D100を設け、この開先D100の底部に裏当金S100を当てて溶接を行った場合、第1鋼板A100と第2鋼板B100は全断面で溶接されるので、継手としての静的な引張強度を確保することができる。
静的引張強度、耐震性及び耐疲労特性に優れた継手品質を得るためには、裏当金S100(図9参照)を用いない溶接方法が必要である。この目的のために最も好適とされる溶接方法は、図10(a)に示すように、開先D200を表側と裏側に二分したK型にして、ルートギャップを設けない両面溶接法である。この溶接方法では、図10(b)に示すように、開先D200の表側を溶接した後、図10(c)に示すように、鋼板A200,B200を天地反転させる。そして、図10(d)に示すように、ルートギャップ無しで溶接することに伴って生じ易い溶込み不良部分、及び、溶接割れ部分をガウジング等によって抉り取った後、図10(e)に示すように、開先D200の表側(上側)を溶接して仕上げる。
しかし、両側溶接法は、天地反転作業が不可欠であり、鉄骨現場での組立作業で物理的に反転が不可能な場合も多く、使用される場所が限定されるという問題点がある。
例えば、非特許文献1に記載された裏当てビード工法では、図11(a)に示すように、裏当材S300をバネなどの力で開先D300の裏側(下側)に仮固定し、表側(上側)から溶接を行って開先D300に溶融金属を充填している。この場合、裏当材S300は、金属に対して溶接されない特性を持つ材料が使用され、溶接後に開先D300の溶接ビードF300から容易に外すことができる。
しかし、非特許文献1でも指摘されているとおり、裏当材S300は、図11(c)に示すように、熱伝導速度が遅いことに起因して、溶接ビードF300に割れE300が発生し易い。割れE300が生じた場合は、補修しない限りそのまま残存して切欠部として作用するため、耐震性及び耐疲労特性を著しく劣化させるという問題点がある。
その他の溶接方法としては、広いルートギャップが存在した場合に、非開先側に肉盛溶接を行って架橋させる建築鉄鋼構造物の柱梁接合部の溶接方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
その理由には、次の3点がある。
第1の理由は、従来の逆極性と汎用溶接ワイヤの組み合せに比べた場合、形状面の改善がなされているものの、図12(b)に示すように、特許文献2,3の溶接方法で溶接した場合、継手形状の上下非対称性が著しく、裏側の溶接ビードF410の全体が応力集中箇所になっていることである。
振幅応力Pの動作点から見て、裏側の止端部B401にかかるモーメントMB401[力×距離]は、表側の止端部F401にかかるモーメントMF401よりも距離が長い分だけ大きくなり、伝達バランスが上下不均等であるため、裏側に大きく作用する。
このため、前記した諸問題を究明して改善し、大きな地震に対する耐震性や、周期的な応力に対する耐疲労特性を向上させることができると共に、効率よく溶接することができるアーク溶接方法が要望されていた。
また、アーク溶接方法は、第2鋼材側の表側を下向溶接で片側開先の充填溶接と余盛溶接とを行うことによって、溶接ビードにかかる外力に対する強度及び応力伝達性を向上させることができる。
また、アーク溶接方法は、上向溶接と下向溶接とによって形成される母材−溶接金属境界線の角度が、135度以下になるように溶接することにより、母材−溶接金属境界線に沿って亀裂が発生するのを抑制することができると共に、発生する亀裂を母材−溶接金属境界線に追従できなくして、亀裂が発生してもその速度を遅くすることができる。
また、アーク溶接方法は、ルートギャップの裏側を上向溶接して架橋後に、さらに裏側に溶接ビードを重ねるように積層することによって、ルートギャップを確実に閉塞することができる。このため、開先の表側を下向溶接する際に、溶落ちすることがないので、溶接作業の作業効率を向上させることができると共に、溶接部に外力がかかったときの応力伝達性を良好にして亀裂を発生し難くし、さらには亀裂が生じた後の伝播をも遅らせることができる。
なお、実施形態の説明において、第1鋼板A、第2鋼板Bは、溶接する際の被溶接部材の配置状態等によって左右の向きが変化する。このため、本発明の実施形態では、便宜上、図面に対して上側を「表」、下側を「裏」、左側を「左」、右側を「右」として説明する。
第1鋼板A,A1(第1鋼材)及び第2鋼板B(第2鋼材)は、例えば、建築用鉄骨等に使用される鋼材を溶接して構造物を建造する際に使用される被溶接部材である。
第1鋼板A,A1は、第2鋼板Bに対して、図1(a)に示す第1鋼板Aのように、水平方向(突合せ方向)に向けて配置されるか、あるいは、図1(b)に示す第1鋼板A1のように、鉛直方向(突合せ方向に直交する直交方向)に向けて配置されて、第2鋼板Bに接合される部材からなる。第1鋼板A,A1は、第2鋼板Bよりも板厚が大きく形成されている。つまり、第1鋼板A,A1は、図1(a)に示すように、第2鋼板Bよりも板厚の厚い厚板(第1鋼板A)、あるいは、図1(b)に示すように、第2鋼板Bに対して直交方向に延設された平板材あるいは柱状部材(第1鋼板A1)からなる。
図2(a)、(b)に示すように、溶接トーチ1に取り付けられる溶接ワイヤ2(溶接材料)は、開先Dを裏側(下側)から上向溶接する際に、フラックス入りワイヤが用いられることが望ましい。上向溶接に用いられるフラックス入りワイヤは、極性を正極性とし、フラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを合計0.5〜10質量%含有する溶接ワイヤ2で、炭酸ガスシールドと組み合わせたガスシールドアーク溶接法で溶接されることが望ましい。
また、図2(b)に示すように、溶接ワイヤ2は、表側(上側)から下向溶接する際に、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤが用いられる。
一般的に下向溶接には全姿勢溶接用のような溶接ビードFbの垂れ防止機能を重視する必要が無い。このため、溶接ワイヤ2として、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤ共に適用できる。継手溶接部の大部分の面積を占めるこれらの溶接ワイヤ2には、大気からの窒素の混入を防ぎ、高品質な溶接金属を得るためにCO2、または、CO2とArあるいはO2との混合ガスなどのシールドガスを適用するのが望ましい。
これに対して、本発明の上向溶接で使用する溶接材料は、正極性で配電され、内包されるフラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを含有するものが望ましい。正極性とフッ化物を組み合わせると、上向姿勢でも、溶融池が垂れ難くなり、止端部Baの馴染み性が改善して応力集中を緩和させることができる。また、アークの安定性も改善することができる。また、溶込みが浅くなり、上向溶接の最終パスによって制御する「溶込み交差角度θ135度以下」を容易に得ることができる。
フラックスに含有させるフッ化物としては、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムが最も好適である。外周の鋼部分も合わせた全ワイヤ重量換算でフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムが0.5質量%未満では、アークが不安定となり、溶接が困難となる。なお、その含有率が10質量%を超えるとスパッタが多く発生するので、溶接が困難となる。
したがって、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムは、合計0.5〜10質量%とする。
正極性+フッ化物のフラックス入りワイヤは、さらに、アルミニウム等を適量添加するとシールドガスが不要で溶接が可能となる。しかし、ノーガス溶接では、溶接金属中に大気から窒素が混入し、靭性が低くなって、亀裂伝播速度が高くなる。このため、炭酸ガスをシールドガスとして用いることにより、窒素の混入を防ぎ、高靭性な溶接金属を得ることで、亀裂伝播速度を遅くすることができる。
なお、フラックス入りワイヤは、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムの他に、溶接金属調質のための脱酸材、あるいは、アーク安定剤としてとしてC,Si,Mn,Mg,Ti,Al,Zr,P,S,K,Na,Ca等を単体元素あるいは化合物としてさらに添加して適用することができる。
次に、第1鋼板Aと第2鋼板Bとを溶接する場合を例に挙げてアーク溶接方法を説明する。
アーク溶接方法は、例えば、建築用鉄骨等に使用される第1鋼板A,A1と第2鋼板Bとを溶接して構造物を建造する際に利用される溶接方法であり、溶接する際に、天地反転作業が不可能な場合であっても溶接することができる。
第1鋼板Aと第2鋼板Bとをアーク溶接する際は、まず、図2(a)に示すように、溶接機の溶接トーチ1を上向きにして第1鋼板A及び第2鋼板Bの下方に配置し、溶接ワイヤ2と開先Dの下部との間に、溶接電源(図示省略)からの電圧を印加すると、アーク電流が流れてアークが生成され、溶接が行われる。そして、開先Dの裏側(下側)を第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に上向溶接して、1パス目でルートギャップGを架橋する。これにより、開先D内の下端部が溶接ビードFによって閉塞される。
次に、1パス目と同様に、溶接トーチ1を上向きにした状態で、開先Dの裏側(下側)を第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に1パス以上上向溶接して、1パス目と合わせて合計、第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上上向溶接する。
さらに、第2鋼板B側の裏面架橋済み溶接部を突合せ方向に1パス以上上向溶接する。
こうすることで、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向(突合せ方向)に架橋するのに必要なパス+架橋後1パス以上」が満足する。
この場合、モーメントMBa,MBbの距離の理想的な上限は、表側の止端部BbにかかるモーメントMBbの距離と、裏側の止端部BaにかかるモーメントMBaの距離とが、同一となる距離である。
次に、図2(b)に示すように、溶接トーチ1を第2鋼板Bの表側(上側)に配置して、第2鋼板Bの表側を下向きで開先Dを溶接ビードFで埋めて蓋をするように充填溶接及び余盛溶接を行う。このため、ルートギャップGの架橋部位は、厚みを増すことができるので、溶接ビードFにかかる外力に対する強度及び応力伝達性を向上させることができる。
また、裏側を上向溶接して溶接ビードFaでルートギャップGを架橋した後に、表側を下向溶接する場合、上向溶接の溶接ビードFaによって架橋部位が形成されたことにより、高い電流条件を用いて溶接を行ったとしても溶落ちし難くなるため、溶接作業の高能率化を図ることができる。
図3は、本発明に係るアーク溶接方法でルートギャップGを溶接して架橋するときの積層例を示す説明図であり、(a)〜(d)はその第1積層例から第4積層例を示す。
次に、規定した上向溶接による「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向(突合せ方向)に架橋するのに必要なパス+架橋後1パス以上」の積層例1〜4について説明する。
図3(a)に示すように、第1積層例は、1パス目の溶接ビードF1でルートギャップGを架橋し、2パス目の溶接ビードF2で第1鋼板A側の端面の鉛直方向に1パスの溶接ビードF2を積層する。さらに、3パス目の溶接ビードF3を第2鋼板B側の裏側の水平方向に積層する。
第1積層例は、このようにして、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と第2鋼板B側の裏側水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」を実現している。
図3(b)に示すように、第2積層例は、1パス目の溶接ビードF1でルートギャップGを架橋し、2パス目の溶接ビードF2で広いウィービング溶接を行うことにより、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に+1パス」を兼用した溶接施工を行う。
第2積層例は、このようにして、第1鋼板A側の端面の鉛直方向に2パス以上」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に架橋必要パス+架橋後1パス以上」と、を実現させている。
図3(c)に示す第3積層例は、ルートギャップGが広すぎて1パスで架橋できない場合の積層例である。この場合は、まず、ルートギャップGの第1鋼板A側に1パス目の溶接ビードF1として上向溶接で肉盛溶接を行ってルートギャップGを狭める。
次に、2パス目の溶接ビードF2としてその肉盛溶接端面と第2鋼板B側の裏側端面間をさらに上向溶接によってルートギャップGを架橋する溶接を行う。ルートギャップGが広くても、この2パス目の溶接ビードF2によりルートギャップGが架橋される。
さらに、3パス目の溶接ビードF3を第1鋼板A側の端面の鉛直方向に1パス目の溶接ビードF1に積層して、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」を行う。
さらに、4パス目として、4パス目の溶接ビードF4を第2鋼板B側の裏側の水平方向に積層して完了する。
第3積層例は、このようにして、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と「第2鋼板B側の裏側水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」を実現させている。
図3(d)に示すように、第4積層例は、まず、ルートギャップGの第1鋼板A側に4パス目として上向溶接で肉盛溶接を行って、1パス目の溶接ビードF1でルートギャップGを狭める。
2パス目として1パス目の溶接ビードF1を土台として第1鋼板Aと第2鋼板Bを繋ぐように2パス目の溶接ビードF2を上向溶接で積層する。これでルートギャップGの架橋が完了されて、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」が行われたことになる。
さらに、3パス目として、第1鋼板A側の裏側の水平方向に上向溶接して3パス目の溶接ビードF3を積層する。
第3積層例は、このようにして、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」が実現される。なお、ルートギャップGがさらに広く2パスで架橋できない場合は、さらに上向溶接で肉盛溶接を水平方向(突合せ方向)に重ねて行う。
本発明のアーク溶接方法は、以上のような積層方法の改善によるマクロ形状的な応力集中を改善した効果と、下向溶接の能率向上の効果の他に、さらに、重要な規定が母材−溶接金属境界線Wの形状の改善による、亀裂発生後の伝播抵抗増加である。
これによって溶接止端部からの亀裂発生後に、その亀裂進展速度を低下させ、破断に至る時間を遅らせることができる。
さらに、図12(a)及び図4(a)〜(c)を主に参照しながら、亀裂の発生と、本発明が亀裂進展速度を低下させることができる点について、従来と比較して説明する。
これは、この部位が溶接時に最も急冷を受けることにより、硬くて脆い性質へ組織変化する性質があるためである。相対的に鋼板の非熱影響部や溶接金属よりも亀裂抵抗が小さいことから、大きい速度で伝播する。亀裂Cの方向が一直線であると、それは顕著となる。
例えば、図4(a)に示すように、表側の止端部Bbから亀裂C1が発生した場合は、母材−溶接金属境界線Wに沿って進行した後、途中で境界部から溶接金属を通り、進展速度が小さく減速された後、貫通に至る。
図4(b)に示すように、これとは逆に、裏側の止端部Baから亀裂C2が発生した場合は、止端部Baから母材と溶接金属との境界部に沿って進行して溶接金属、さらに母材原質部を通り、進展速度が小さく減速された後、貫通に至る。
図4(c)に示すように、母材−溶接金属境界線Wの角度θが135度を超えている場合は、亀裂C4が母材−溶接金属境界線Wに沿ってその方向に追従し、早期に破断に至る。
また、架橋後の最終パスの溶接条件から算出される入熱(電流×電圧×60/溶接速度、単位J/cm)も、過大であれば交差の角度θが135度を超える場合も生じるため、開先角度などを勘案して入熱抑制することで、交差の角度θが135度を満足させるようにする必要がある。
しかし、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」の溶接施工によって、溶接ビードFの厚みを増しておくと、溶接金属進展後の破断までに至る距離が大きいため、破断までの時間を稼ぐことができる。
しかし、図4(b)に示すように、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」溶接を行うことにより、亀裂C3が、高靭性な母材原質部を貫通するため、その亀裂C3の進展速度を遅くすることができる。
なお、溶込み交差角度θとして110度以下、さらに好ましくは90度以下になるようにすれば、耐震性及び耐疲労特性を向上させることができる。
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更は可能である。なお、既に説明した構成は同じ符号を付してその説明を省略する。
図5は、本発明の実施形態に係るアーク溶接方法の比較例及び変形例を示す図であり、(a)は比較例及び変形例を示す斜視図、(b)は(a)のX部(比較例)の拡大断面図、(c)は(a)のY部(変形例)の拡大断面図である。
比較例の第1鋼材A500は、高い耐震性や耐疲労性が要求される鉄骨建築の柱であり、角形鋼管からなるコラム部A510と、このコラム部A510に挿入結合された上通しダイヤフラムA520と、この上通しダイヤフラムA520の下方に挿入結合された下通しダイヤフラムA530と、を有する。
第2鋼材B500は、第1鋼材A500に溶接されるH形鋼からなる梁部材であり、コラム部A510に隅肉溶接される側面ウェブB510と、上通しダイヤフラムA520に裏当金S500を当てて下向溶接で完全溶込み接合される上フランジB520と、下通しダイヤフラムA530に裏当金S500を当てて下向溶接で完全溶込み接合される下フランジB530と、を有している。
つまり、上フランジB520がある部位の止端部B501に発生する応力集中は小さいものの、下フランジB530がある部位の止端部B502に発生する応力集中は大きく、破壊速度が下フランジB530側に律速となっている。このため、裏当金S500を用いる比較例では、耐震性や耐疲労特性が低い。
第1鋼材A2は、角形鋼管からなるコラム部A21と、このコラム部A21に設けた上通しダイヤフラムA22と、この上通しダイヤフラムA22の下側に設けた下通しダイヤフラムA23と、を有する角形鋼管からなる。
第2鋼材B2は、コラム部A21に隅肉溶接される側面ウェブB21と、上通しダイヤフラムA22に裏当金Sを当てて下向溶接で完全溶込み接合される上フランジB22と、下通しダイヤフラムA23に裏当金Sを使用せずに上向溶接して溶接ビードFaで架橋した後、下向溶接の溶接ビードFbで完全溶込み接合される下フランジB23と、を有するH形鋼からなる。
上フランジB22及び下フランジB23は、上通しダイヤフラムA22及び下通しダイヤフラムA23に対向する接合面がそれぞれ傾斜面に形成されて、レ型の開先を形成している。
このように、本発明のアーク溶接方法は、平らな鋼板同士の溶接だけでなく、柱部材と、梁部材との溶接にも適用することが可能である。
なお、上フランジB22にも、このアーク溶接方法を適宜同じように適用しても構わない。
図6は、本発明に係るアーク溶接方法の実施例1を示す要部拡大断面図である。
図6に示すように、鋼板A(第1鋼材)は、材質がSN490B(建築構造用圧延鋼材)、板厚が32mmで、溶接する側の端面が垂直の板材からなる。鋼板B(第2鋼材)は、材質がSN490B、板厚が22mmで、溶接する側の端面が35度の傾斜角度θ1でレ型の開先D1を形成する板材からなる。鋼板Aと鋼板Bとは、それぞれの中心線を揃えてルートギャップGが1〜10mmで突合わせて、完全溶込み溶接を行った。
ワイヤWF2は、0.06質量%C+0.7質量%Si+2.0質量%Mn+2質量%Tiであり、種類がフラックス入りワイヤ(フッ化物無添加)である。
ワイヤWF3は、0.10質量%C+0.2質量%Si+1.2質量%Mn+1質量%CaF+5質量%Al+0.5質量%Mg+0.5質量%CaCO3であり、種類はフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF4は、0.05質量%C+1.0質量%Si+1.6質量%Mn+5質量%BaF+0.2質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF5は、0.03質量%C+0.1質量%Si+2.6質量%Mn+0.5質量%CaF+0.4質量%Mg+0.5質量%Al+0.2質量%CaCO3であり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF6は、0.05質量%C+0.5質量%Si+2.0質量%Mn+10.0質量%CaF+1質量%Al+0.5質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF7は、0.05質量%C+0.5質量%Si+2.0質量%Mn+11.0質量%CaF+1質量%Al+0.5質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤ(フッ化物超)である。
ワイヤWS1は、0.05質量%C+0.8質量%Si+1.7質量%Mn+0.18質量%Tiであり、種類がソリッドワイヤである。
ワイヤWS2は、0.05質量%C+0.5質量%Si+1.5質量%Mn+0.09質量%Tiであり、種類がソリッドワイヤである。
つまり、実施例No.1では、上向溶接の際にリソッドワイヤを使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが136度で、疲労試験による破断回数が2×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.2では、上向溶接の際にフラックスコアードワイヤ(FCW)の組成外の溶接ワイヤを使用して逆極で溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が4×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.3では、上向溶接の際にフラックスコアードワイヤ(FCW)の組成外の溶接ワイヤを使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが94度で、疲労試験による破断回数が3×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.5では、上向溶接の際にシールドガス無しでワイヤWF3を使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が5×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.6では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが76度で、疲労試験による破断回数が12×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.8では、上向溶接の際にワイヤWF4を使用して総パス数が3パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが60度で、疲労試験による破断回数が16×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.9では、上向溶接の際にワイヤWF5を使用して総パス数が4パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが95度で、疲労試験による破断回数が7×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.11では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が7×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.12では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで、鋼板Bの方向への最終パスの入熱を18[kJ/cm]に上げて溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が9×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.14では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が6パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが72度で、疲労試験による破断回数が14×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.15では、上向溶接の際にワイヤWF5を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが87度で、疲労試験による破断回数が11×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.17では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が3パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが85度で、疲労試験による破断回数が10×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.18では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が3パスで、鋼板Bの方向への最終パスの入熱を5[kJ/cm]に下げて溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが61度で、疲労試験による破断回数が17×105回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
比較例1では、裏当金付の下向溶接施工法であり、裏当金と母材間に不可避的に生じる切欠き形状によって、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例2では、セラミック製の裏当材を取り付けて溶接を行い、その後外したが、溶接金属中央部に高温割れが発生した。このため、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例3では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものだが、架橋目的である上向溶接のパスの回数が1パスで少なく、架橋が十分に形成されなかったため、下向溶接時に溶落ちが発生した。また、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例5では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものだが、鋼板B側の裏面に架橋後のパスの積層を適切に行ったため、溶込み交差角度θも良好で継手疲労強度の改善が認められた。しかし、鋼板A側の端面を2層積層していないので、下向溶接時に溶け落ちた。
比較例6では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板B側の裏面への架橋後の1パスの積層を行った。しかし、鋼板B側の裏面への架橋後の最終パスは入熱が高かったことから、母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度を超え、継手の耐疲労特性は悪かった。
比較例8では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、ルートギャップGが広いことから、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板BのルートギャップGを架橋する溶接を行った。しかし、比較例8では、架橋後の積層を行わなかったため、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例9では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、上向溶接にソリッドワイヤを用いた。ルートギャップGが広いことから、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板BのルートギャップGを架橋する溶接を行った。しかし、比較例9では、架橋後の積層を行わなかったため、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例10では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、上向溶接の鋼板A側の端面を2層に積層することにより、下向溶接時に溶落ちしなかった。1パス目の入熱調整で母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度以下とはなったが、架橋後の積層を行わなかったため、上下モーメントのバランスが悪く、応力集中が裏側に集中して改善しなかったため、継手の耐疲労特性は悪かった。
これに対して、実施例1は、実施例No.1〜18の全てで、母材−溶接金属境界線の溶込み交差角度θが135度以下になり、溶接性及び継手の耐疲労特性が良好で、溶落ちがなかった。
図7は、実施例2の比較例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。図8は、本発明に係るアーク溶接方法の実施例2を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
まず、図7(a)〜(c)を参照して比較例を説明する。
図7(a)〜(c)に示すように、第1鋼材A600は、鉄骨建築の柱を形成する角形鋼管からなり、上下方向に延設されたコラム部A610と、コラム部A610に挿入結合された上通しダイヤフラムA620と、この上通しダイヤフラムA620の下方に挿入結合された下通しダイヤフラムA630と、を有する。
図8(a)、(b)に示すように、本発明の実施例2の基本的な構造は、前記した図7(a)〜(c)に示す実施例2の比較例と比較して、第1鋼材A3及び第2鋼材B3と、第1鋼材A600及び第2鋼材B600とが、同一である点で似ている。本発明の実施例2と比較例とは、実施例2が、下フランジB33と下通しダイヤフラムA33との溶接部の開先に裏当金を設けていない点と、その下フランジB33と下通しダイヤフラムA33との溶接部の開先の裏側を上向溶接して架橋した後、開先の表側を下向溶接で充填溶接と余盛溶接とを行う点と、が相違している。
第2鋼材B3は、コラム部(図示省略)に隅肉溶接された側面ウェブB31と、上通しダイヤフラムA32に裏当金Sを当てて下向溶接で完全溶込み接合された上フランジB32と、下通しダイヤフラムA33に上向溶接と下向溶接とで接合された下フランジB33とを有したH形鋼の梁からなる。
なお、下フランジB33と合わせて上フランジB32にも本発明のアーク溶接方法を用いることにより、さらに、耐震性及び耐疲労特性を向上できることは明らかである。
2 溶接ワイヤ
A 鋼板(第1鋼材)
A1 第1鋼板(第1鋼材)
A2,A3 第1鋼材
A22,A32 上通しダイヤフラム
A23,A33 下通しダイヤフラム
B 鋼板(第1鋼材)
B1 第2鋼板(第2鋼材)
B2,B3 第2鋼材
B22,B32 上フランジ
B23,B33 下フランジ
D,D1 開先
F 溶接ビード(溶接金属)
Fa 上向溶接の溶接ビード
Fb 下向溶接の溶接ビード
F1 1パス目の溶接ビード
F2 2パス目の溶接ビード
F3 3パス目の溶接ビード
F4 4パス目の溶接ビード
W 母材−溶接金属境界線
θ,θ2 母材−溶接金属境界線の角度
Claims (5)
- 第1鋼材と第2鋼材とを完全溶込みで継手溶接するアーク溶接方法であって、
前記第1鋼材は、前記第2鋼材に対して突合せ方向、または、前記突合せ方向に直交する直交方向に向けて配置されると共に、前記第2鋼材よりも板厚が大きく形成され、
前記第2鋼材は、前記第1鋼材に対して前記突合せ方向に向けて配置され、当該第2鋼材の表側に裏側よりも大きく開口する片側開先を有し、
前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する際、前記片側開先の裏側を前記第1鋼材側の端面の直交方向に2パス以上上向溶接し、かつ、前記第2鋼材側の裏面を前記突合せ方向に前記片側開先を架橋する上向溶接を行うと共に、架橋後1パス以上、非開先内である前記第2鋼材側の裏面に沿って水平方向に上向肉盛溶接した後、前記第2鋼材側の表側を下向溶接で前記片側開先の充填溶接と余盛溶接とを行い、
前記上向溶接と前記下向溶接とによって形成される溶接金属と前記第2鋼材の母材との母材−溶接金属境界線の角度が、135度以下になるように溶接することを特徴とするアーク溶接方法。 - 前記上向溶接には、フラックス入りワイヤが用いられ、
前記下向溶接には、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤが用いられることを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接方法。 - 前記上向溶接に用いられる前記フラックス入りワイヤは、極性を正極性とし、フラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを合計0.5〜10質量%含有していることを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接方法。
- 前記上向溶接に用いられる前記フラックス入りワイヤは、炭酸ガスシールドと組み合わせたガスシールドアーク溶接法からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアーク溶接方法。
- 前記第1鋼材は、柱部材からなり、
前記第2鋼材は、H形鋼から形成された梁部材からなると共に、前記柱部材に接合する際に接合される下フランジが形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のアーク溶接方法。
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