以下において、フレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)やフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)等からなる信号伝送媒体の接続を行うべく印刷配線基板上に実装して使用される電気コネクタに本発明を適用した実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
[電気コネクタの全体構成について]
図1〜図20に示されている本発明の一実施形態にかかる電気コネクタ10は、いわゆるノン・ジフ(NON−ZIF)タイプのワンアクションオートロック機構を備えた電気コネクタからなるものであって、絶縁ハウジング11の前端縁部(図6の左端縁部)に設けられた媒体挿入口11aを通して、上述した信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの端末部分が絶縁ハウジング11内の所定位置まで差し込むようにして挿入された際に、当該信号伝送媒体Fのロックが自動的に行われるように構成されている。
[絶縁ハウジングについて]
このときの絶縁ハウジング11は、細長状に延在する中空枠体状の絶縁部材から形成されているが、当該絶縁ハウジング11における長手の横幅方向を、以下において「コネクタ長手方向」と呼び、また信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの端末部分を差し込むようにして挿入し又は離脱させるように抜去する方向を「コネクタ前後方向」と呼ぶことする。さらに、これらの「コネクタ長手方向」及び「コネクタ前後方向」の双方に直交する方向を「コネクタ上下方向」と呼ぶこととする。
その絶縁ハウジング11の前端縁部分(図6左端縁部分)には、上述したようにフレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)やフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)等からなる信号伝送媒体Fの端末部分が差し込まれる媒体挿入口11aが、コネクタ長手方向に沿って細長状をなすように設けられている。媒体挿入口11aは、媒体挿入通路をなすようにコネクタ後方側(図6の右方側)に向かって延出している。その媒体挿入通路は、絶縁ハウジング11の内壁面により囲まれるように形成された空間部分からなり、当該媒体挿入通路における上下の内壁面が、絶縁ハウジング11の天井壁板11b及び底面壁板11cにより形成されている。
また、媒体挿入通路のコネクタ長手方向における両側の内壁面は、絶縁ハウジング11のガイド側壁板11d,11dによって形成されている。これらの各ガイド側壁板11dは、媒体挿入口11aから差し込まれて挿入される信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの板幅方向の両側端面に接触する配置関係になされており、当該ガイド側壁板11dに沿って信号伝送媒体Fの両側端面が滑動しながら円滑な移動が行われる構成になされている。これらの各ガイド側壁板11dは、コネクタ長手方向において比較的薄肉をなす板状部材から形成されており、当該ガイド側壁板11dに対してコネクタ長手方向の外方側の部位に隣接して、後述するロック部材13の支持片部13d3が、ガイド側壁板11dの補強部材をなすように配置されている。
このように、絶縁ハウジング11の媒体挿入通路内に信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが挿入されるにあたっては、信号伝送媒体Fの片側表面(上表面)が、絶縁ハウジング11の天井壁板11bに対して下方側から対面するように配置されるとともに、信号伝送媒体Fの他方側表面(下表面)が、絶縁ハウジング11の底面壁板11cに対して上方側から対面し、また信号伝送媒体Fの板幅方向の両側端面は、両ガイド側壁板11d,11dに沿って移動する。そして、図18に示されるように、媒体挿入通路の内壁面を形成している絶縁ハウジング11には、媒体挿入通路の上側の内壁部を形成している天井壁板11bに、信号伝送媒体Fの片側表面(上表面)に上方側から当接する端縁押圧板11eが形成されている。
その端縁押圧板11eは、絶縁ハウジング11の天井壁板11bにおけるコネクタ長手方向の両側部分にそれぞれ配置されており、両ガイド側壁板11d,11dの内壁面に対して一体的に連結されている。そして、それらの各端縁押圧板11eの下面には基準当接面11e1が形成されており、当該基準当接面11e1が、媒体挿入通路内に挿入された信号伝送媒体Fの片側表面(上表面)のうち、板幅方向(コネクタ長手方向)の両側端縁部分に対して上方側から対面して当接する配置関係になされている。また、それらの端縁押圧板11e,11eに対応して、絶縁ハウジング11の底面壁板11cは、コネクタ長手方向の両側部分において下方への段差形状をなして窪むように形成されており、底面壁板11cにおけるコネクタ長手方向の両側領域が、信号伝送媒体Fの下面との間において空間的な余裕が形成されている。
このように絶縁ハウジング11の天井壁板11bは、コネクタ長手方向の両側部分に端縁押圧板11e,11eを有しているが、それらの各端縁押圧板11eの下面を構成している基準当接面11e1は、天井壁板11bの他の部位、すなわちコネクタ内方側(コネクタ中心側)に延在している天井壁板11bが有している一般的な内壁面(下面)に対して、やや下方に突出するように形成されている。このように各端縁押圧板11eの基準当接面11e1が下方に位置ズレした配置関係になされており、天井壁板11bの一般内壁面(下面)との間に形成されている段差の量(高さ)t1は、使用される信号伝送媒体Fが有する最小の厚さt2に基づいて決定されている。
この点を具体的に説明すると、まず、前述したように信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが挿入される絶縁ハウジング11の媒体挿入通路は、絶縁ハウジング11の端縁押圧板11eを含む天井壁板11bと、底面壁板11cとの間の空間部分として形成されているが、そのときの媒体挿入通路におけるコネクタ長手方向の両端部分は、端縁押圧板11eの基準当接面11e1が有する下方への段差t1分だけ、コネクタ長手方向の中央部分における開口高さt3よりも高さ方向に狭められた開口高さ(t3−t1)となっている。そして、媒体挿入通路内に挿入される信号伝送媒体Fは、絶縁ハウジング11の基準当接面11e1と底面壁板11cで決定される高さ(t3−t1)を有する開口空間を通して内方に差し込まれることとなる。ここで、本実施形態においては、その基準当接面11e1と底面壁板11cとで決定される開口高さ(t3−t1)が、信号伝送媒体Fが有する最小厚さt2と等しいか、あるいは僅かに隙間がある程度で、信号伝送媒体Fがスムーズに入るように設定されており((t3−t1)=t2)、そのような高さ関係を実現するように、上述した段差t1、すなわち端縁押圧板11eの基準当接面11e1と天井壁板11bの一般内壁面(下面)との間の位置ズレ量(高さ)が決定されている。
このような基準当接面11e1を有する媒体挿入通路に対して、最小厚さt2を有する信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが差し込まれるにあっては、信号伝送媒体Fの厚さt2が、基準当接面11e1と底面壁板11cとで形成される媒体挿入通路の開口高さ(t3−t1)と等しい状態となるため((t3−t1)=t2)、当該信号伝送媒体Fは、略水平に延在した通常状態で挿入されていく。一方、それより厚い通常厚さt4を有する信号伝送媒体Fが差し込まれる場合にあっては、基準当接面11e1と底面壁板11cとで形成される媒体挿入通路の開口高さ(t3−t1)より信号伝送媒体Fの厚さt4が大きくなる(t4>(t3−t1))ことから、当該信号伝送媒体Fの両側縁部分が、基準当接面11e1との当接力によって下方に押し下げられることとなり、図16中の一点鎖線で示されるように両側縁部分が湾曲状をなすように変形される。
以上のように本実施形態においては、絶縁ハウジング11の媒体挿入通路内に信号伝送媒体Fが差し込まれるにあたって、信号伝送媒体Fの厚さにバラツキがあったとしても、端縁押圧板11eの基準当接面11e1に対して信号伝送媒体Fの片側表面(上表面)が、常に当接する配置関係になされている。
このような構成としておけば、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが絶縁ハウジング11の媒体挿入通路内に差し込まれるようにして挿入されるにあたって、絶縁ハウジング11の天井壁板11bにより形成されている媒体挿入通路の内壁面の一部をなす基準当接面11e1が、他の部位(コネクタ中心側領域)よりも信号伝送媒体Fの片側表面(上面)に近接した位置関係になされる。従って、信号伝送媒体Fの片側表面(上面)は、少なくとも媒体挿入通路の基準当接面11e1に対して当接した状態で挿入されることとなり、当該信号伝送媒体Fの片側表面(上面)は、基準当接面11e1を基準として厚さ方向(高さ方向)に位置決めされた状態になされる。
一方、係止ロック部13aは、信号伝送媒体Fの片側表面(上面)に対して上方側から接触した状態から下方に移動して係合位置に移動してくることから、上述したように信号伝送媒体Fの片側表面(上面)が基準当接面11e1により位置決めされていることで、信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faに対する係止ロック部13aの係合量(引っ掛かり量)が、信号伝送媒体Fの厚さのバラツキにかかわらず一定に維持されることとなる。その結果、係止ロック部13aによる信号伝送媒体Fの保持力が安定化されるとともに、係止ロック部13aの係合状態を解除するために必要な当該係止ロック部13aの移動量が一定化されることとなり、信号伝送媒体Fの厚さのバラツキを考慮することなく電気コネクタ10全体の小型化が可能となる。
また、このとき、媒体挿入通路に差し込まれた信号伝送媒体Fが、ロック部材13に設けられた押圧部材13d1によって係止ロック部13a側、つまり上方に向かって押圧されることから、端縁押圧板11eの下面を構成している基準当接面11e1に対する信号伝送媒体Fの押し付けがより確実に行われる。
さらに、本実施形態によれば、媒体挿入通路に差し込まれた信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが、絶縁ハウジング11のガイド側壁板11dに沿って円滑に移動するとともに、絶縁ハウジング11のガイド側壁板11dが、係止ロック部13aに連設された支持片部13d3によって補強されることから、ガイド側壁部11dの薄型化が可能となり、その分だけ電気コネクタ10全体の小型化が可能となる。
一方、媒体挿入通路のコネクタ後端縁部(図6の右端縁部)には、後述する導電コンタクト12を装着するための部品取付口11fが、同じくコネクタ長手方向に沿って細長状をなすように設けられている。その部品取付口11fを通して媒体挿入通路内に挿入される導電コンタクト12が配列されているとともに、それら複数の導電コンタクト12の外方側、すなわち媒体挿入通路におけるコネクタ長手方向の両端部分に、ロック部材13がそれぞれ配置されている。
[導電コンタクトについて]
そのうちの導電コンタクト12は、適宜の形状をなす薄板状金属製部材により形成されていて、複数体の導電コンタクト12が、絶縁ハウジング11の後端側の部品取付口11fからコネクタ前方側(図6の左方側)に向かって挿入されており、絶縁ハウジング11の内部においてコネクタ長手方向に適宜の間隔をなして多極状に配置されている。これらの導電コンタクト12の各々は、信号伝送用又はグランド接続用のいずれかとして、印刷配線基板P(図9〜図13参照)上に形成された導電路に対して半田接合により実装された状態で使用される。
すなわち、上述したようにして絶縁ハウジング11の内部に装着された各導電コンタクト12の配置位置は、媒体挿入口11aを通して絶縁ハウジング11内に挿入される信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fに設けられた配線パターンに対応した設定になされている。その信号伝送媒体Fの配線パターンは、信号伝送用導電路(信号線パッド)又はシールド用導電路(シールド線パッド)を適宜のピッチ間隔で配置したものである。
各導電コンタクト12の構成を具体的に説明すると、当該導電コンタクト12は、信号伝送媒体Fの挿脱方向(図6の左右方向)であるコネクタ前後方向に沿って延在するように形成されている。この導電コンタクト12におけるコネクタ後端側部分は、絶縁ハウジング11のコネクタ後端部から後方に突出しており、その後方突出部分が、印刷配線基板P(図9〜図13参照)上に形成された導電路に半田接続される基板接続部12aとして形成されている。
さらに、上述した導電コンタクト12の基板接続部12aからは、細長状のビーム部材からなる可撓性アーム部12bがコネクタ前方側に向かって一体的に延出している。その可撓性アーム部12bは、基板接続部12aとの連接部分において略直角に立ち上がるように折り曲げ形成されているとともに、その立ち上り部分の上端部分において再びコネクタ前方側に向かって略直角に折り曲げられており、絶縁ハウジング11の天井壁板11bの内壁面に沿って片持ち状をなすように延出している。この導電コンタクト12の可撓性アーム部12bは、基板接続部12aとの連接部分又はその近傍を中心として、図6の紙面内において上下の方向に揺動する構成になされている。
また、可撓性ビーム部12bの延出側、つまりコネクタ前方側の部分(図6の左端側部分)は、斜め下方に向かって傾斜して延出しており、その延出端部分には、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fに形成された信号伝送用導電路又はシールド用導電路(配線パターン)のいずれかに対応して端子接触凸部12cが図示下向きの突形状をなすように設けられている。この導電コンタクト12に設けられた端子接触凸部12cは、上述したように絶縁ハウジング11の媒体挿入通路内に信号伝送媒体Fが差し込まれて来た際に、当該信号伝送媒体Fの配線パターン上に乗り上げる配置関係になされており、信号伝送媒体Fが最終位置まで挿入されたときに、可撓性ビーム部12bの弾性力によって両者が圧接されて電気的に接続された状態に維持される。
[ワンアクションオートロック機構について]
本実施形態にかかる電気コネクタ10は、前述したようにワンアクションオートロック機構を備えたものであるが、その前提として信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの端末部分には、特に図1に示されているように、幅方向両側の端縁部分に、切り欠き状の凹部からなる係合位置決め部Fa,Faが形成されている。そして、この信号伝送媒体Fに設けられた係合位置決め部Fa,Faに対応して電気コネクタ10側にロック部材13,13が設けられており、それらロック部材13,13の係止作用(ロック作用)によって信号伝送媒体Fの挿入状態が保持される構成になされている。
[ロック部材について]
上述したように絶縁ハウジング11のコネクタ長手方向における両側部分に配置された一対のロック部材13,13同士は、コネクタ長手方向において互いに対称的な構造になされていることから、以下における説明は一方のロック部材13についてのみ行い、他方については省略することとする。
ロック部材13は、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fに対するロック機構及びロック解除機構を構成するものであるが、上述した絶縁ハウジング11の媒体挿入通路におけるコネクタ長手方向の両側壁面を形成しているガイド側壁板11dの近傍において、コネクタ前方側から後方側に向かって差し込まれるようにして取り付けられており、後述するように当該ロック部材13の先端部分に設けられた係止ロック部13aが、ガイド側壁板11dに連結されている端縁押圧板11eに対してコネクタ内方側(コネクタ中心側)に隣接した位置に配置されている。
そして、電気コネクタ10の内部に信号伝送媒体Fが差し込まれた際に、当該ロック部材13の一部、より具体的には後述の係止ロック部13aに対して信号伝送媒体Fの挿入側先端縁が当接し、それによって信号伝送媒体Fの表面上に係止ロック部13aが乗り上げるように弾性変位した状態となり(図10参照)、さらに信号伝送媒体Fの挿入に伴って、その係止ロック部13aが、信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faに落ち込んで係合状態(ロック状態)になされるように構成されている。(図11参照)
このときのロック部材13の全体は、特に図15〜図17に示されているように、薄肉板状の金属部材からなる一体折曲げ構造体から形成されており、上述した係止ロック部13aを有する細長状ビーム部材からなる可動ビーム部13bが、連結支柱部13cを介して固定基板13dに一体的に連設されている。そのうちの固定基板13dは、平面略矩形状をなす板状部材から形成されており、上述した絶縁ハウジング11の媒体挿入通路の底面壁板11cの上面に載置されるように配置されている。
固定基板13dの略中央領域には、バネ状部材からなる押圧部材13d1が、当該固定基板13dに対して一体的に形成されている。この押圧部材13d1は、コネクタ後方側に向かって片持ち状をなすように延出する板バネ片から形成されており、その延出側先端部分には、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fのグランド導電路に接続される接点凸部13d2が上方側に突出するように形成されている。
そして、この押圧部材13d1に設けられた接点凸部13d2が、信号伝送媒体Fの下面に対して下方側から上方に向かって接触することで、当該押圧部材13d1の弾性付勢力が信号伝送媒体Fに付与され、それによって信号伝送媒体Fが、厚さ方向の上方側に向かって押し上げられるようになっている。このとき、当該押圧部材13d1は、後述する係止ロック部13aとコネクタ上下方向に対向するように配置されており、この押圧部材13d1の弾性付勢力によって信号伝送媒体Fが、係止ロック部13a側に向かって押し付けられる構成になされている。
また、上述した固定基板13dのコネクタ前端縁部分には、コネクタ外方側に向かって張り出す支持片部13d3が一体的に連設されている。この支持片部13d3は、固定基板13dの外方側縁部から、下方段差を介してコネクタ長手方向の外方側に向かって略水平に延出した後、コネクタ上方側に向かって略直角に折れ曲がるようにして立ち上げられており、更にその上端部分からコネクタ後方側に向かって略直角に折れ曲がって略水平に延出している。このときの支持片部13d3は、上述した媒体挿入口11aよりコネクタ長手方向の外方側において絶縁ハウジング11の壁部に圧入されており、当該支持片部13d3の圧入による固定力で、ロック部材13全体が絶縁ハウジング11に対して固定されている。
また、このロック部材13に設けられた支持片部13d3は、前述したように媒体挿入通路のコネクタ長手方向における両側壁面を形成している絶縁ハウジング11のガイド壁部11cに対してコネクタ外方側に隣接するように配置されており、比較的薄肉の板状部材から形成されているガイド壁部11cに対して、支持片部13d3がコネクタ外方側から補強部材をなすように配置されている。
さらに、その固定基板13dのコネクタ後端縁部分には、上述した連結支柱部13cが一体的に連接されている。連結支柱部13cは、細幅の板状部材から形成されており、コネクタ後方側に向かって略水平に延出した後、コネクタ長手方向の外方側に向かって略直角に折れ曲がって延び、更にその外端部分から上方に向かって略直角に折れ曲がるようにして立ち上げられている。そして、その連結支柱部13cの上端部分に、上述した可動ビーム部13bが略水平に延在した状態で連結されている。
可動ビーム部13bは、絶縁ハウジング11の媒体挿入通路内において当該媒体挿入通路の底面壁板11cから上方側に適宜の間隔をなしてコネクタ前後方向に延在しており、上述した連結支柱部13cとの連結部分から、コネクタ前方側およびコネクタ後方側の反対側双方に分岐するように延在している。そして、連結支柱部13cが有している弾性可撓性に基づいて、当該可動ビーム部13bが弾性変位可能になされており、連結支柱部13c又はその近傍を回動中心として可動ビーム部13bが揺動可能となるように構成されている。そのときの可動ビーム部13bの揺動は、図7の紙面内において上下の方向に行われることとなる。
また、上述したように揺動部材として構成された可動ビーム部13bの前端側部分(図10の左端側部分)には、フック状部材からなる係止ロック部13aが設けられている。その係止ロック部13aは、下方に向かって略三角形状に突出する板状部材から形成されており、当該係止ロック部13aの下端側に頂点部を有しているとともに、その下端側頂点部から前方側上方に向かって斜めに延在する傾斜案内辺が設けられている。このような構成を有する係止ロック部13aは、信号伝送媒体Fの端末部分に設けられた係合位置決め部Faの直上位置に配置されたときに、当該係合位置決め部Faの内部に向かって落ち込んで引っ掛かり状態になされ、そのときの係止ロック部13aの係合力によって信号伝送媒体Fの挿入状態が保持される構成になされている。
ここで、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの挿入から係合までの状態を具体的に説明すると、まず図10に示されているように、絶縁ハウジング11の媒体挿入口11aを通して信号伝送媒体Fが絶縁ハウジング11の媒体挿入通路内に差し込まれるようにして挿入が行われると、その信号伝送媒体Fの挿入側の先端縁部が、ロック部材13に設けられた係止ロック部13aの傾斜案内辺に当接し、その傾斜案内辺に生じる上方分力によって係止ロック部13aが信号伝送媒体Fの表面上に乗り上げる。これにより、上述したロック部材13の可動ビーム部13bが、図10に示されているように連結支柱部13c近傍の揺動支点を中心として上方側に押し上げられるように弾性変位される。さらに、信号伝送媒体Fの端末部分がコネクタ後方側に向かって押し込まれると、当該信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faが係止ロック部13aの直下位置まで移動したときに、図11に示されているように、可動ビーム部13bの弾性復元力によって係止ロック部13aが信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faの内部に落ち込むように揺動される。その結果、信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faに対して係止ロック部13aが引っ掛かって係合状態となり、信号伝送媒体Fがコネクタ前方側に抜け落ちることのないように保持される。
このように信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fがロック部材13によって係合状態(ロック状態)になされるにあたっては、上述した係止ロック部13aを含む可動ビーム部13bのコネクタ前方側部分が上方に押し上げられるように弾性変位されることとなるが、そのときの可動ビーム部13bの上方側への弾性変位は、媒体挿入通路の上壁面を形成している絶縁ハウジング11の天井壁板11bに形成されたスリット部によって許容される。このスリット部は、絶縁ハウジング11の天井壁板11bを貫通する細長状の穴部から形成されたものであって、上述した可動ビーム部13bの上方側部分において連結支柱部13cから係止ロック部13aに至るまでの部位を包含する長さを有しているとともに、当該可動ビーム部13bの板厚よりもやや大きな隙間を有する細長状の空間部分から形成されている。
そして、前述したように絶縁ハウジング11の内部に信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが挿入される際に、当該信号伝送媒体Fの表面上にロック部材13の係止ロック部13aが乗り上げることによってロック部材13の可動ビーム部13bが上方側に押し上げられるように弾性変位されると、その上方弾性変位された可動ビーム部13bにおける前方側部分が、上述したロック確認手段としてのスリット部の内部に入り込み、それによって可動ビーム部13bの上方弾性変位が許容されるとともに、当該可動ビーム部13bの上方弾性変位が目視される構成になされている。
また、上述した係止ロック部13aの上縁部からは、コネクタ長手方向の内方側(コネクタ中心側)に向かってストッパ片13a1が鍔状をなすように延出している。この鍔状をなすストッパ片13a1は、絶縁ハウジング11の上面部を窪ませるように形成された支持受け部11gの上方側に対面するように配置されており、上述したように係止ロック部13aが、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの係合位置決め部Faに係合したときに、当該ストッパ片13a1が絶縁ハウジング11の支持受け部11gに対して上方側より当接し、それによってストッパ片13a1の下方移動位置が一定位置に規制されるようになっている。
このように、係止ロック部13aにストッパ片13a1を設けておけば、当該ストッパ片13a1の係止作用によって、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fに対する係止ロック部13aの係合位置が、絶縁ハウジング11の上表面を基準として常時同じ状態に維持されることとなり、信号伝送媒体Fの厚さのバラツキや種類の変更があっても、信号伝送媒体Fに対する係止ロック部13aの係合量が一定に維持され、信号伝送媒体Fの保持力が安定的に得られる。
[ロック解除機構について]
一方、前述したように係止ロック部13aが信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faに係合されて信号伝送媒体Fが保持された状態から、図13に示されているようにロック解除操作が行われると、ロック部材13の可動ビーム部13bの弾性力に抗して係止ロック部13aが上方側に持ち上げられるように揺動され、当該係止ロック部13aが信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faから離脱される。
すなわち、上述したロック部材13の可動ビーム部13bには、係止ロック部13aと反対側の部位、つまり連結支柱部13cから後方側に延出しているビーム状部分にロック解除押圧部13eが設けられている。このロック解除押圧部13eは、前述した係止ロック部13aとは逆方向に揺動する構成になされているが、絶縁ハウジング11におけるコネクタ後方側の端面(以下において単に後端面という。)11iから更に後方側外方に向かって突出するように形成されている。そして、このロック解除押圧部13eが下方に押し下げられることによって、可動ビーム部13bの前端側に配置されている係止ロック部13aが上方側に押し上げられる構成になされている。
このようなロック解除押圧部13eに対応して、絶縁ハウジング11の後端部分におけるコネクタ長手方向の両端部分には、一対のロック操作カバー部11h,11hが設けられている。それらの各ロック操作カバー部11hは、上述したロック部材13のロック解除押圧部13eの直上位置において絶縁ハウジング11の長手方向両端面から片持ち状をなすようにしてコネクタ外方側に突出した後に、後方に向かって平面略L字状をなすように折れ曲がるようにして延出しており、ロック解除押圧部13eに対して上方側から重合する配置関係にされている。また、それらの各ロック操作カバー部11hは、比較的幅広をなす板状部材から形成されており、その比較的幅広になされたロック操作カバー部11hが、幅狭な板厚を有するロック解除押圧部13eの上縁部を上方側から覆う配置関係になされている。
このようなロック操作カバー部11hの上表面には、凹凸状の滑り止め部が形成されており、当該ロック操作カバー部11hが作業者の指先等により下方に押し下げられることで、上述したロック部材13のロック解除押圧部13eも同様に下方に押し下げられ、それによって可動ビーム部13bの反対側に設けられた係止ロック部13aが上方に押し上げられる。その結果、それまで信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faに係合されていた係止ロック部13aが係合位置決め部Faから上方に離脱し、信号伝送媒体Fが自由状態となって前方側へ向かって抜去可能な状態になされる。
このようにロック部材13に対してロック解除操作が施される際には、上述したように係止ロック部13aを含む可動ビーム部13bの前方側部分が上方に押し上げられるように弾性変位されることとなるが、そのときの可動ビーム部13bの上方側弾性変位は、前述した信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの挿入時と同様に、絶縁ハウジング11に設けられたスリット部によって許容されるとともに、その可動ビーム部13bの上方側突出部分がスリット部を通して上方に突出するように構成されており、その可動ビーム部13bの上方突出部分が外方から目視されることによって、ロック部材13の変位状態が容易に確認されるようになっている。
さらに、本実施形態におけるロック部材13の可動ビーム部13bには、上述したロック解除押圧部13eの後方側部分に引抜き防止部13fが一体的に形成されている。この引抜き防止部13fは、上述した係止ロック部13aの係合・離脱方向である上下方向に段差形状をなすように形成されていて、絶縁ハウジング11の後端面11iに対して、コネクタ後方側から近接するようにして対面する配置関係になされている。そして、例えば信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fがロック状態のまま抜去方向(コネクタ前方向)に引っ張られ、いわゆる無理抜きが行われること等によって、コネクタ前方側(図11の左方側)への作用力がロック部材13に付与された場合には、ロック部材13の全体がコネクタ前方側に移動しようとし、上述した段差形状をなす引抜き防止部13fが、絶縁ハウジング11の後端面11iに対してコネクタ後方側から当接することとなって、当該ロック部材13が、それ以上前方側に移動することのないように保持される構成になされている。
なお、このときのロック部材13に設けられた係止ロック部13aと、引抜き防止部13fとは、ロック部材13の長手方向であるコネクタ前後方向において互いに対向する配置関係になされている。
さらに、上述した引抜き防止部13fよりもコネクタ後方側の部位、すなわち信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの挿入方向の後方側の部位には、引抜き防止部13fの挿入ガイド部13f1を構成する傾斜辺が形成されている。この挿入ガイド部13f1の傾斜辺は、コネクタ後方側に向かって高さが連続的に低くなるように形成されており、絶縁ハウジング11に対するロック部材13の取り付けを行う際に、当該ロック部材13の全体がコネクタ前方側から後方側に向かって差し込まれていくとき、上述した挿入ガイド部13f1を構成している傾斜辺が、絶縁ハウジング11の天井壁板11b側に同じく傾斜面をなすように形成された受けガイド部11jの壁面に沿って円滑に移動されるようになっている。
このような引抜き防止部13fを有する本実施形態によれば、ロック解除操作を行うことなくロック係止部13aが信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fに係合されたまま、誤って当該信号伝送媒体Fをコネクタ前方側に引っ張ってしまい、いわゆる無理抜きが作業者により行われてしまった場合でも、ロック部材13に設けられた引抜き防止部13fが、絶縁ハウジング11の一部である後端面11iに当接して、ロック部材13が安定的に保持されることとなり、ロック部材の変形や破損が防止される。
また、その引抜き防止部13fを設けたことに対応して、固定基板13dから可動ビーム13bまで延在する連結支柱部13cを構成している板状部材の板幅寸法が調整されており、特に図16に示されているように、固定基板13dとの連結部分の板幅寸法W1よりも、可動ビーム13bとの連結部分の板幅寸法W2の方が幅広(W1<W2)となるように形成されている。このように連結支柱部13cの板幅を形成しておけば、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの抜去力が、引抜き防止部13fから連結支柱部13cを通して固定基板13dに伝達されるにあたって、連結支柱部13cにおいて応力が大きく付加される部位である可動ビーム13bとの連結部分の強度が増大されていることから、ロック部材13の変形等がより確実に防止されると共に、ロック解除操作が行われた際に応力が大きくなる部位である連結支持部と可動ビームとの連結部分への応力を分散させることができる。
さらに、本実施形態においては、ロック部材13に設けられた係止ロック部13aと、引抜き防止部13fとが、ロック部材13の長手方向であるコネクタ前後方向において互いに対向するように配置されていることから、係止ロック部13aに付加される信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fからの抜去力が、引抜き防止部13fに対して直接的に作用することとなり、無理抜きに対するロック部材13の強度が高められるようになっている。
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
例えば、上述した実施形態にかかる電気コネクタは、信号伝送媒体が差し込まれる際にコンタクト部材が軽接触する、いわゆるノン・ジフ(NON−ZIF)タイプの電気コネクタであるが、本発明は、信号伝送媒体が差し込まれる際にコンタクト部材が信号伝送媒体から離間した状態に配置される、いわゆるジフ(ZIF)タイプの電気コネクタに対しても同様に適用することが可能である。
さらに、上述した実施形態では、電気コネクタに固定される信号伝送媒体として、フレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)、及びフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)を採用しているが、その他の信号伝送用媒体等を用いた場合に対しても本発明は同様に適用することができる。
さらにまた、上述した実施形態にかかる電気コネクタには、同一形状の導電コンタクトが用いられているが、異なる形状の導電コンタクトを交互に配置した構造であっても本発明は同様に適用することが可能である。