図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御
部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体2aを有している。ヘッド本体2aの下面は、液体を吐出する多数の吐出孔が設けられている吐出孔面4−1となっている。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2には図示しない外部液体タンクから液体が供給される。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は、液体吐出孔面に開口しており、一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙Pの搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、例えば、それぞれ、マゼンタ(
M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、液体吐出ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体2aから印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に、本発明の液体吐出ヘッド2について説明する。図2は、ヘッド本体2aの平面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した平面図である。図4は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため図3とは異なる一部の流路を省略した図である。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべきしぼり6、吐出孔8、加圧室10などを実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。図6は、図2〜5で示したヘッド本体2aの拡大平面図であり、加圧室10、個別電極25および接続電極26の関係を示したものである。また、図4の吐出孔8は、位置を分かりやすくするため、実際の径よりも大きく描いてある。
液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外にリザーバや、金属製の筐体を含んでいる。また。ヘッド本体2aは、流路部材4と、変位素子(加圧部)30が作り込まれている圧電アクチュエータ基板21とを含んでいる。
ヘッド本体2aを構成する流路部材4は、マニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備え、加圧室10は流路部材4の上面に開口しており、流路部材4の上面が加圧室面4−2となっている。また、流路部材4の上面にはマニホールド5と繋がる開口5aを有し、この開口5aより液体が供給されるようになっている。
また、流路部材4の上面には、変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21が接合されており、各変位素子30が加圧室10上に位置するように設けられている。また、圧電アクチュエータ基板21には、各変位素子30に信号を供給するための配線基板であるFPC(Flexible Printed Circuit)などの信号伝達部92が接続されている。図2には、2つの信号伝達部92が圧電アクチュエータ基板21に繋がる状態が分かるように、信号伝達部92の圧電アクチュエータ基板21に接続される付近の外形を点線で示した。信
号伝達部92の圧電アクチュエータ基板21に対向している領域には、多数の配線が、ヘッド本体2aの短手方向に沿って配置されており、図2の左右の図示されていない部分にまで繋がっている。制御部100から送られた信号は、必要に応じて他の回路基板などを経た後、信号伝達部92を伝わって、変位素子30に供給される。信号伝達部92の配線の圧電アクチュエータ基板21側は、圧電アクチュエータ基板21に電気的に接続されている電極になっており、この電極は、信号伝達部92の端部に、矩形状に配置されている。2つの信号伝達部92は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部にそれぞれの端がくるように接続されている。2つの信号伝達部92は、中央部から圧電アクチュエータ基板21の長辺に向かって伸びている。
また、信号伝達部92にはドライバICが実装されている。ドライバICは金属製の筐体に押し付けられるように実装されており、ドライバICの熱は、金属製の筐体に伝わり、外部に放散される。圧電アクチュエータ基板21上の変位素子30を駆動する駆動信号は、ドライバIC内で生成される。駆動信号の生成を制御する信号は、制御部100で生成され、信号伝達部92の圧電アクチュエータ基板21と接続された側と反対側の端から入力される。制御部100と信号伝達部92との間には、必要に応じて、液体吐出ヘッド2内に回路基板などが設けられる。
ヘッド本体2aは、平板状の流路部材4と、流路部材4上に接続された変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21を1つ有している。圧電アクチュエータ基板21の平面形状は長方形状であり、その長方形の長辺が流路部材4の長手方向に沿うように流路部材4の上面に配置されている。
流路部材4の内部には2つのマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向の一端部側から、他端部側に延びる細長い形状を有しており、その両端部において、流路部材4の上面に開口しているマニホールドの開口5aが形成されている。マニホールド5の両端部から流路部材4へ液体を供給することにより、液体の供給不足が起り難くできる。また、マニホールド5の一端から供給する場合と比較して、マニホールド5を液体が流れる際に生じる圧力損失の差を約半分にできるため、液体吐出特性のばらつきを少なくできる。
また、マニホールド5は、少なくとも加圧室10に繋がっている領域である長さ方向の中央部分が、幅方向に間隔を開けて設けられた隔壁15で仕切られている。隔壁15は、加圧室10に繋がっている領域である長さ方向の中央部分では、マニホールド5と同じ高さを有し、マニホールド5を複数の副マニホールド5bに完全に仕切っている。このようにすることで、平面視したときに、隔壁15と重なるように、吐出孔8および吐出孔8から加圧室10に繋がっているディセンダを設けることができる。
図2では、マニホールド5の両端部を除く全体が隔壁15で仕切られている。このようにする以外に、両端部のうちのどちらか一端部以外が隔壁15で仕切られているようにしてもよい。また、流路部材4の上面に開口している開口5a付近のみが仕切られておらず、開口5aから流路部材4の深さ方向に向かう間に隔壁が設けられるようにしてもよい。いずれにしても、仕切られていない部分があることにより、流路抵抗が小さくなり、液体の供給量を多くできるので、マニホールド5の両端部が隔壁15で仕切られていないのが好ましい。
複数に分けられた部分のマニホールド5を副マニホールド5bと呼ぶことがある。本実施例においては、マニホールド5は独立して2本設けられており、それぞれの両端部に開口5aが設けられている。また、1つのマニホールド5には、7つの隔壁15が設けられており、8つの副マニホールド5bに分けられている。副マニホールド5bの幅は、隔壁
15の幅より大きくなっており、これにより副マニホールド5bに多くの液体を流すことができる。また、7つの隔壁15は、幅方向の中央に近いほど、長さが長くなっており、マニホールド5の両端において、幅方向の中央に近い隔壁15ほど、隔壁15の端がマニホールド5の端に近くなっている。これにより、マニホールド5の外側の壁により生じる流路抵抗と、隔壁15により生じる流路抵抗との間のバランスがとれ、各副マニホールド5bのうち、加圧室10に繋がる部分である個別供給流路14が形成されている領域の端における液体の圧力差を少なくできる。この個別供給流路14での圧力差は、加圧室10内の液体に加わる圧力差につながるため、個別供給流路14での圧力差を少なくすれば、吐出ばらつきを低減できる。
流路部材4は、複数の加圧室10が2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、角部にアールが施されている、2つの鋭角部10aと2つの鋭角部10bを有するほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。
加圧室10は1つの副マニホールド5bと個別供給流路14を介して繋がっている。1つの副マニホールド5bに沿うようにして、この副マニホールド5bに繋がっている加圧室10の列である加圧室行11が、副マニホールド5bの両側に1列ずつ、合計2列設けられている。したがって、1つのマニホールド5に対して、16列の加圧室11が設けられており、ヘッド本体2a全体では32列の加圧室行11が設けられている。各加圧室行11における加圧室10の長手方向の間隔は同じであり、例えば、37.5dpiの間隔となっている。
各加圧室行11の端にはダミー加圧室16が設けられている。このダミー加圧室16は、マニホールド5とは繋がっているが、吐出孔8とは繋がっていない。また、32列の加圧室行11の外側には、ダミー加圧室16が直線状に並んだダミー加圧室行が設けられている。このダミー加圧室16は、マニホールド5および吐出孔8のいずれとも繋がっていない。これらのダミー加圧室により、端から1つ内側の加圧室10の周囲の構造(剛性)が他の加圧室10の構造(剛性)と近くなることで、液体吐出特性の差を少なくできる。なお、周囲の構造の差の影響は、距離の近い、長さ方向に隣接する加圧室10の影響が大きいため、長さ方向には、両端にダミー加圧室を設けてある。幅方向については、影響が比較的小さいため、ヘッド本体21aの端に近い方のみに設けている。これにより、ヘッド本体21aの幅を小さくできる。
1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、液体吐出ヘッド2の長手方向である行方向と短手方向である列方向とに沿って、行上および列上で、それぞれ略等間隔で配置されている。行方向は、菱形形状の加圧室10の鈍角部10b同士を結ぶ対角線に沿った方向であり、鈍角部10bを対向させて並んでいる加圧室10の面積重心を結んでできる方向でもある。加圧室10の菱形形状は、辺の長さが10%程度異なっていてもよい。また、鈍角部10b同士を結ぶ対角線の方向と行方向とは、加圧室10が平面内で回転した状態で配置されていたり、辺の長さが異なることにより、10度以下程度の角度がついていていてもよい。列方向は、菱形形状の加圧室10の鋭角部10a同士を結ぶ対角線に沿った方向であり、鋭角部10aを対向させて並んでいる加圧室10の面積重心を結んでできる方向でもある。鋭角部10a同士を結ぶ対角線の方向と列方向とは、加圧室10が平面内で回転した状態で配置されていたり、辺の長さが異なることにより、10度以下程度の角度がついていていてもよい。つまり、加圧室10の菱形形状の対角線が行方向および列方向となす角度が小さい状態になっている。加圧室10を格子状に配置し、そのような角度の菱形形状の加圧室10を配置することにより、クロストークを小さくできる。これは1つの加圧室10に対して、行方向、列方向のいずれの方向においても、角部同士が対向する状態になっているため、辺同士で対向して場合よりも、流路部材4を通じて、振動が伝わり難いためである。なお、ここで、鈍角部10b同士を長手方向に対向させるこ
とにより、長手方向における加圧室10の密度を高くして配置でき、これにより、長手方向の吐出孔8の密度を高くでき、高解像度の液体吐出ヘッド2とすることができる。行上および列上での加圧室10の間隔は、等間隔にすれば、間隔が他より狭いところがなくなりクロストークを小さくできるが、間隔は±20%程度異なるようにしてもよい。
加圧室10を格子状の配置にして、圧電アクチュエータ基板21を、行および列に沿った外辺を有する矩形状にすると、圧電アクチュエータ基板21の外辺から、加圧室10の上に形成されている個別電極25が等距離に配置されることになるので、個別電極25を形成する際に、圧電アクチュエータ基板21に変形が生じ難くできる。圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを接合する際に、この変形が大きいと外辺に近い変位素子30に応力が加わり、変位特性にばらつきが生じるおそれがあるが、変形を少なくすることで、そのばらつきを低減できる。また、最も外辺に近い加圧室行11の外側にダミー加圧室16のダミー加圧室行が設けられているために、変形の影響をより受け難くできる。加圧室行11に属する加圧室10は等間隔で配置されており、加圧室行11に対応する個別電極25も等間隔で配置されている。加圧室行11は短手方向に等間隔で配置されており、加圧室行11に対応する個別電極25の列も短手方向に等間隔で配置されている。これにより、特にクロストークの影響が大きくなる部位をなくすことができる。
流路部材4を平面視したとき、1つの加圧室行11に属する加圧室10が、隣接する加圧室行11に属する加圧室10と、液体吐出ヘッド2の長手方向において、重ならないように配置することにより、クロストークを抑制できる。一方、加圧室行11の間の距離を離すと、液体吐出ヘッド2の幅が大きくなるので、プリンタ1に対する液体吐出ヘッド2の設置角度の精度や、複数の液体吐出ヘッド2を使用する際の、液体吐出ヘッド2の相対位置の精度が印刷結果に与える影響が大きくなる。そこで、隔壁15の幅を副マニホールド5bよりも小さくすることで、それらの精度が印刷結果に与える影響を少なくできる。
1つの副マニホールド5bに繋がっている加圧室10は、2行の加圧室行11を構成しており、1つの加圧室行11に属する加圧室10から繋がっている吐出孔8は、1つの吐出孔行9を構成している。2行の加圧室行11に属する加圧室10に繋がっている吐出孔8はそれぞれ、副マニホールド5bの異なる側に開口している。図4では隔壁15には、2列の吐出孔行9が設けられているが、それぞれの吐出孔行9に属する吐出孔8は、吐出孔8に近い側の副マニホールド5bに加圧室10を介して繋がっている。隣接する副マニホールド5bに加圧室行11を介して繋がっている吐出孔8と液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路間のクロストークが抑制できるので、さらにクロストークを小さくすることができる。加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路全体が、液体吐出ヘッド2の長手方向において重ならないように配置されていると、さらにクロストークを小さくすることができる。
また、平面視において、加圧室10と副マニホールド5bとが重なるように配置することにより、液体吐出ヘッド2の幅を小さくできる。加圧室10の面積に対する、重なっている面積の割合が80%以上、さらに90%以上にすることで、液体吐出ヘッド2の幅をより小さくできる。また、加圧室10と副マニホールド5bとが重なっている部分の加圧室10の底面は、副マニホールド5bと重なっていない場合と比較して剛性が低くなっており、その差により吐出特性がばらつくおそれがある。加圧室10全体の面積に対する、副マニホールド5bと重なっている加圧室10の面積の割合を、各加圧室10で略同じにすることで、加圧室10を構成する底面の剛性が変わることによる吐出特性のばらつきを少なくすることができる。ここで略同じとは、面積の割合の差が、10%以下、特に5%以下であることを言う。
1つのマニホールド5に繋がっている複数の加圧室10により加圧室群が構成されてお
り、マニホールド5が2つあるため、加圧室群は2つある。各加圧室群内における吐出に関わる加圧室10の配置は同じで、短手方向に平行移動させた配置されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に、加圧室群間などの少し間隔が広くなった部分があるものの、ほぼ全面にわたって配列されている。つまり、これらの加圧室10によって形成された加圧室群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接合されることで閉塞されている。
加圧室10の個別供給流路14が繋がっている角部と対向する角部からは、流路部材4の下面の吐出孔面4−1に開口している吐出孔8に繋がるディセンダが伸びている。ディセンダは、平面視において、加圧室10から離れる方向に伸びている。より具体的には、加圧室10の長い対角線に沿う方向に離れつつ、その方向に対して左右にずれながら伸びている。これにより、加圧室10は各加圧室行11内での間隔が37.5dpiになっている格子状の配置にしつつ、吐出孔8は、全体で1200dpiの間隔で配置することができる。
これは別の言い方をすると、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、図4に示した仮想直線のRの範囲に、各マニホールド5に繋がっている16個の吐出孔8、全部で32個の吐出孔8が、1200dpiの等間隔となっているということである。これにより、すべてのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に1200dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている1個の吐出孔8は、仮想直線のRの範囲で600dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で2色の画像が形成可能となる。この場合、2つの液体吐出ヘッド2を用いれば、600dpiの解像度で4色の画像が形成可能となり、600dpiで印刷可能な液体吐出ヘッドを用いるよりも、印刷精度が高くなり、印刷のセッティングも簡単にできる。
さらに、液体吐出ヘッド2には、マニホールドの開口5aからの液体の供給を安定させるように流路部材4に、リザーバを接合してもよい。リザーバには、外部から供給された液体を分岐させて、2つの開口5aに繋がる流路が設けられることにより、2つの開口に液体を安定して供給できる。分岐してからの流路長をほぼ等しくすることで、外部から供給される液体の温度変動や圧力変動が、マニホールド5の両端の開口5aに、少ない時間差で伝わるため、液体吐出ヘッド2内の液滴の吐出特性のばらつきをより少なくできる。リザーバにダンパを設けることで、さらに液体の供給が安定化できる。さらに、液体中の異物などが流路部材4に向かうのを抑制するように、フィルタを設けてもよい。またさらに、流路部材4に向かう液体の温度を安定化させるようにヒータを設けてもよい。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極25がそれぞれ形成されている。個別電極25は、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでおり、個別電極25は、加圧室10と同じように、個別電極列および個別電極群を構成している。引出電極25bは、一端部が個別電極本体25aに接続されており、他端部が加圧室10の鋭角部10aを通り、加圧室10の外側で、加圧室10の2つの鋭角部10aを結ぶ対角線を延長した列と重ならない領域に引き出されている。これによりクロストークが低減できる。引出電極25bの形状については、後で詳述する。
また、圧電アクチュエータ基板21の上面には、共通電極24とビアホールを介して電
気的に接続されている共通電極用表面電極28が形成されている。共通電極用表面電極28は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部に、長手方向に沿うように2列形成され、また、長手方向の端近くで短手方向に沿って1列形成されている。図示した、共通電極用表面電極28は直線上に断続的に形成されたものであるが、直線上に連続的に形成してもよい。
圧電アクチュエータ基板21は、後述のようにビアホールを形成した圧電セラミック層21a、共通電極24、圧電セラミック層21bを積層し、焼成した後、個別電極25および共通電極用表面電極28を同一工程で形成するのが好ましい。個別電極25と加圧室10との位置ばらつきは吐出特性に大きく影響を与えこと、個別電極25を形成した後、焼成すると圧電アクチュエータ基板21に反りが生じるおそれがあり、反りが生じた圧電アクチュエータ基板21を流路部材4に接合すると、圧電アクチュエータ基板21に応力が加わった状態になり、その影響で変位がばらつくおそれがあることから、個別電極25は、焼成後に形成される。共通電極用表面電極28も同様に反りを生じされるおそれがあることと、個別電極25と同時に形成した方が、位置精度が高くなり、工程も簡略化できるので、個別電極25と共通電極用表面電極28は同一工程で形成される。
このような圧電アクチュエータ基板21を焼成する際に生じるおそれのある、焼成収縮によるビアホールの位置ばらつきは、主に圧電アクチュエータ基板21の長手方向に生じるので、共通電極用表面電極28が偶数個あるマニホールド5の中央、別の言い方をすれば、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央に設けられており、共通電極用表面電極28が圧電アクチュエータ基板21の長手方向に長い形状をしていることにより、ビアホールと共通電極用表面電極28とが位置ずれにより電気的に接続されなくなることを抑制できる。
圧電アクチュエータ基板21には、2枚の信号伝達部92が、圧電アクチュエータ基板21の2つの長辺側から、それぞれ中央に向かうように配置され、接合される。その際、圧電アクチュエータ基板21aの引出電極25bおよび共通電極用表面電極28の上に、それぞれ、接続電極26および共通電極用接続電極を形成して接続することで、接続が容易になる。また、その際、共通電極用表面電極28および共通電極用接続電極の面積を接続電極26の面積よりも大きくすれば、信号伝達部92の端部(先端および圧電アクチュエータ基板21の長手方向の端)にける接続が、共通電極用表面電極28上の接続により強くできるので、信号伝達部92が端からはがれ難くできる。
また、吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置されたマニホールド5と対向する領域を避けた位置に配置されている。さらに、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔8は、1つの群として圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子30を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。
ヘッド本体2aに含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、ベースプレート4b、アパーチャ(しぼり)プレート4c、サプライプレート4d、マニホールドプレート4e〜j、カバープレート4kおよびノズルプレート4lである。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔の形成精度を高くできる。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5を構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体2aは、加圧室10は流路部材4の上面に、マニホールド5は内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路12を構成する各部分が異なる位置に互いに
近接して配設され、加圧室10を介してマニホールド5と吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート4aに形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端からマニホールド5へと繋がる個別供給流路14を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート4c(詳細にはマニホールド5の出口)までの各プレートに形成されている。なお、この個別供給流路14には、アパーチャプレート4cに形成されている、流路の断面積が小さくなっている部位であるしぼり6が含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート4l(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。ノズルプレート4lの孔は、吐出孔8として、流路部材4の外部に開口している径が、例えば10〜40μmのもので、内部に向かって径が大きくなっていくものが開けられている。第4に、マニホールド5を構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート4e〜jに形成されている。マニホールドプレート4e〜jには、副マニホールド5bを構成するように隔壁15が残るように孔が形成されている。各マニホールドプレート4e〜jにおける隔壁15は、マニホールド5となる部分全体を孔にすると、保持できない状態になるので、隔壁15は、ハーフエッチングしたタブで各マニホールドプレート4e〜jの外周と繋がった状態にされる。
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、マニホールド5からの液体の流入口(マニホールド5の出口)から吐出孔8に至る個別流路12を構成している。マニホールド5に供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、マニホールド5から上方向に向かって、個別供給流路14に入り、しぼり6の一端部に至る。次に、しぼり6の延在方向に沿って水平に進み、しぼり6の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータ基板21は、圧電体である2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の圧電セラミック層21aの下面から圧電セラミック層21bの上面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層21a、21bは、例えば、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極24およびとAu系などの金属材料からなる個別電極25を有している。個別電極25は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている個別電極本体25aと、そこから引き出された引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極26が形成されている。接続電極26は例えばガラスフリットを含む銀−パラジウムからなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極26は、信号伝達部92に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極25には、制御部100から信号伝達部92を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極24は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24の厚さは2μm程度である。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極25からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28に、圧電セラミック層21bに形成されたビアホールを介して繋がっていて、接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、多数の個別電極25と同様に、信号伝達部92上の別の電極と接続されている。
なお、後述のように、個別電極25に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極25に対応する加圧室10の体積が変わり、加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路12を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子30に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする圧電アクチュエータ基板である変位素子30が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極24、圧電セラミック層21b、個別電極25により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には加圧部である変位素子30が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は1.5〜4.5pl(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極25は、個別に電位を制御することができるように、それぞれが信号伝達部92および配線を介して、個別に制御部100に電気的に接続されている。個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部100により個別電極25を共通電極24に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極25を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、21bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極25に供給することになる。このパルス幅は、圧力波がしぼり6から吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、加圧
室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
また、階調印刷においては、吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐
出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。なお、この場合後から吐出される液滴の速度が速くなると考えられるが、その方が複数の液滴の着弾点が近くなり、好ましい。
以上のような、液体吐出ヘッド2におけるクロストークについて詳述する。前述したように、加圧室10の振動が流路部材4を伝わって隣の加圧室10に伝わるクロストークは、菱形形状の加圧室10を、格子状に、かつ角部同士が対向するように配置することで低減できる。
クロストークには、さらに引出電極25bの配置が影響する。変位素子30の構造あるいは圧電アクチュエータ基板21の製造工程を簡単にするために、引出電極25b直下の圧電セラミック層21bは分極されており、個別電極本体25aに電圧を加えると、引出電極25b直下の圧電セラミック層21も圧電変形する。
加圧室10内の引出電極25b直下の圧電セラミック層21bの圧電変形は、変位素子30の変位量に影響を与える。例えば、個別電極本体25a直下の圧電セラミック層21bを平面方向に収縮させて、変位素子30を加室10側に撓み変形させる場合、加圧室10内の引出電極25b直下の圧電セラミック層21bも平面方向に収縮することになるので、変位量が小さくなってしまう。引出電極25bを、加圧室10bの鋭角部10aから引き出すことにより、この変位低下量を小さくできる。これは、個別電極本体25a直下の圧電セラミック層21bが平面方向に変形する際に、その変形が鋭角部10a付近で起きるため、同じ変形の力が発生しても、変位素子30の変位量は小さくなるので、変位素子30を本来変形させようとしている方向の変位と合わせた結果の変位量の低下は小さくなる。これに対して、引出電極25bを加圧室10の菱形形状の辺の途中で引き出すと、その部分の変形は、変位素子30を変位させ易いので変位量は大きくなるので、変位素子30を本来変形させようとしている方向の変位と合わせた結果の変位量の低下は大きくなる。例えば、図6に示した平面形状の変位素子30では、引出電極25bを鋭角部10aから引き出した場合と比較して、辺の途中から引き出した場合は、変位量が1%程度低下する。
また、加圧室10の外側に引き出された引出電極25b直下の圧電セラミック層21も圧電変形する。引出電極25bによる圧電変形は、その引出電極25bが繋がっている変位素子30の変位、および隣接する変位素子30の変位に影響を与える。まず、前者に関して説明する。
引出電極25bによる圧電変形は、すべての引出電極25bに起きるが、その影響は、引出電極25bのある位置によって異なる。すなわち、引出電極25bのうち、加圧室10とマニホールド5とが重なっている第1の領域から引き出されているものは、引出電極25b直下のマニホールド5までのプレートの厚さが薄いので、駆動された場合の圧電変形が比較的大きくなる。これに対して、引出電極25bのうち、加圧室10とマニホールド5とが重なっていない第2の領域から引き出されているものは、引出電極25b直下が隔壁15となっており、ディセンダなどの小径の孔は開いているものの基本的には中実となっているので、駆動されても、圧電変形はし難い。このため、引出電極25b直下の圧電セラミック層21bが駆動された場合の影響は、第1の領域から引き出されているものの方が大きい。この影響は、引出電極25b直下がマニホールド5になっているために、
その部分にプレートがないので、引出電極25b直下の圧電セラミック層21bの平面方向への伸縮が変位素子30に伝わり易くなること、圧電変形した場合に、直下のマニホールド5中の液体に振動を与えやすいことなどにより、変位量や吐出特性を変動させる。
変位素子30が圧電セラミック層21bの平面方向への収縮により生じている場合、周りの圧電セラミック層21bの一部が収縮すると、収縮が阻害され、変位量が低下する。これにより吐出速度が低下したり、吐出量が少なくなったりする。また、一般的に、駆動波形や駆動タイミングは、できるだけ吐出速度を速くしたり、吐出量を多くするように調整されるので、そのように調整された状態からずれると、吐出速度が低下したり、吐出量が少なくなったりする方向に向かうことになる。本実施形態の場合では、変位量に低下は2〜5%程度、吐出速度の低下も2〜5%程度生じる。
そのため、第1の領域から引き出される引出電極25bと、第2の領域から引き出される引出電極25bとが混在すると、ヘッド中で吐出特性のばらつきが大きくなり、印刷精度が低下するおそれがある。そのため、引出電極25bは、すべて第1の領域から引き出されるか、すべて第2の領域から引き出されるか、のいずれかにする。ここで、どこから引き出されているかを考慮しているのは、引き出されている部分は、当然ながら変位素子30に近いので、変位素子30に与える影響が大きいからである。引出電極25bの面積の80%以上、さらに90%以上、特に全体が、すべて第1の領域にあるか、すべて第2の領域にあるかのいずれかであるのが、より好ましい。
本実施形態では、クロストークを少なくするために加圧室10が角部で隣り合うように配置しており、副マニホールド5aから加圧室10までの流路の長さを考慮すると、副マニホールド5aに繋がる加圧室10の行は、2行となっている。また、角部で隣り合うように配置されているため、短手方向の幅が大きくなりやすいので、加圧室10は、一部が副マニホールド5aと重なるように配置することで幅を小さくしている。また、クロストークの影響が小さくなるので、相対的に上述の引出電極25b直下の圧電変形が、引出電極25bが繋がっている変位素子30に与える影響が、相対的に大きくなっているので、この影響を考慮する必要性が高くなっている。
引き出されている元が、第2の領域であれば、上述のように、変位量の低下や、吐出速度どの低下が少ないので好ましい。
続いて、引出電極25b直下の圧電セラミック層21bの変形の、隣り合う範囲素子30への影響を説明する。この影響は、振動が伝わることによるものと、圧電セラミック層21bが複数の加圧室10を覆う形状をしているため、引出電極25b直下の圧電セラミック層21bが平面方向に伸縮した場合に、隣接する変位素子30の圧電セラミック層21bに応力が加わることによるものがある。以下に示すクロストークの低減は、圧電セラミック層21bが隣接する変位素子30の間で繋がっている圧電アクチュエータ基板21で特に有用である。
まず、個別電極25の形状について、図6の中央下側の個別電極25を用いて説明する。ここでは、すべての引出電極25bが、加圧室10とマニホールド5(副マニホールド5a)とが重なっていない第2の領域から引き出されている。別の言い方をすれば、隔壁15の直上にある、鋭角部10aから引き出されている。個別電極25の鋭角部10a側から引き出された引出電極25bは、外部と接続するために一定の面積の端子となる部分を確保しようとすると、ある程度加圧室10から離れた位置まで引き出す必要がある。この際、引出電極25bの、個別電極本体25aと接続されている一端部と反対側の他端部を、鋭角部10a同士を結ぶ対角線を延長した列(仮想線LB1)と重ならないようにすることで、鋭角部10a側で隣り合う変位素子30との間の距離を大きくできるので、ク
ロストークを小さくできる。このようにするため、引出電極25bは、鋭角部10aから引き出される際に向かっていた列方向から、行方向に向かうように曲げられて引き出されている。図6では、引出電極25bの引き出され方は、行方向になるまで約90度曲げられているが、曲げられる角度は90度より小さくてもよいし、90度より大きくてもよい。
特に、引出電極25bが、引出電極25bが引き出されている加圧室10の前記一方の鋭角部10aを通り、加圧室10の鈍角部10b同士を結ぶ対角線に平行な仮想線LA1上または仮想線LA1よりも加圧室10側には配置することにより、引出電極25bと鋭角部10a側で隣り合う加圧室10との距離を大きくできるので、クロストークを小さくできる。さらに詳しくは、鋭角部10a側で隣り合う加圧室10からの距離を比較した場合、引出電極25bの他端部(引出電極25bの引き出された先端であり、通常、端子となる部分)と同じ形状S(この場合円形)を鋭角部10aの先に配置したときの、形状Sの鋭角部10a側で隣り合う加圧室10に最も近い部分よりも、引出電極25b全体を、鋭角部10a側で隣り合う加圧室10より遠くにすることで、クロストークを低減できる。これは、加圧室10の鋭角部10aの直近に端子を設けた場合よりも、引出電極25bを、鋭角部10a側で隣り合った加圧室10からの距離が大きい状態(LA2よりも、引出もとの加圧室10側に近い側に配置する状態)にすることで、クロストークを小さくできるということである。
引出電極25bが、引出電極25bが引き出されている加圧室10の鈍角部10b側で隣り合う加圧室10よりも、引出電極25bが引き出されている加圧室10に近い領域に形成されていることにより、鈍角部10b側で隣り合う変位素子30とのクロストークを小さくできる。これはより具体的に説明すれば、引出電極25bが引き出されているもとの加圧室10の鈍角部10bを通り、鋭角部10a同士を結ぶ対角線と平行な仮想線LB2と、その鈍角部10bに対向している、隣の加圧室10の鈍角部10bを通る、仮想線LB2と平行な仮想線LB3とを考えた場合、引出電極25bは、それら仮想線の中間の仮想線LB4より引き出しもとの加圧室10に近い領域に配置されるということである。
さらに、図7(a)、(b)および図8を用いて、個別電極の形状および配置について説明する。図7(a)、(b)の引出電極225a、325aは、同じ行上に配置されている加圧室10から引き出されているものは、引き出されてから行方向に曲がられる際に、同じ側に曲げられている。これにより、行方向に隣り合う引出電極225aが重なり合わないようにしながら、加圧室10の行方向の配置の間隔を短くできる。
図7(a)の引出電極225aは、隣り合う同じ行上に配置されている加圧室10から引き出されているものは、引き出されてから行方向に曲がられる際に、反対の側に曲げられている。これにより、列方向に隣りあう変位素子30の引き出し引出電極225a間の距離が長くなり、クロストークが低減できる。
図7(b)の引出電極325aは、隣り合う同じ行上に配置されている加圧室10から引き出されているものは、引き出されてから行方向に曲がられる際に、同じ側に曲げられている。
続いて、図8を用いて、引出電極425bを引き出す角度について説明する。個別電極425は、平面視したときに、加圧室10内に納まっている個別電極本体425aと個別電極425aから加圧室10の外に引き出されている引出電極425bとを含んでいる。
個別電極本体425aは、2つの鋭角部425aaおよび2つの鈍角部425abを有する菱形形状をしている。個別電極本体425aの2つの鋭角部425aa同士を結ぶ線
は、加圧室10の2つの鋭角部10a同士を結ぶ線と角度および位置が一致している。また、個別電極本体425aの2つの鈍角部425ab同士を結ぶ線は、加圧室10の2つの鈍角部10b同士を結ぶ線と角度および位置が一致している。これにより、変位素子の変位量を大きくできる。それぞれの線の位置は加圧室の最大幅の10%以下ずれていてもよいし、角度も10度以下ずれていてもよい。また、個別電極本体425aの面積は、加圧室10の面積の50〜90%、より好ましくは60〜80%にすることで、変位量を大きくできる。
引出電極425bは、個別電極本体425aと、一方の鋭角部425aで繋がっている。繋がっている部分は、加圧室10の鋭角部10aに位置している。引出電極425bは、鋭角部10aの外側(加圧室10と重ならない領域)で、折り返すように、すなわち、90度より大きく180度以下の角度で曲がっており、そこから接続電極426が形成されている端部までが、直線状の直線状部425baとなっている。これにより、引出電極425bの端部は、列方向の位置が、引出元である加圧室10の鋭角部10aよりも、引き出されている個別電極本体425aに近くなっている。これにより、列方向に並んでいる他の加圧室10との距離を離すことができ、クロストークが低減できる。
次に直線状部425baの角度について説明する。直線状部425ba(仮想直線LCは、直線状部425baと同じ角度で延長した線である)と行方向に伸びる仮想直線LA3との成す角の角度をCとする。引出電極425bが繋がっている引出電極425aの鋭角部425aaを挟んでいる菱形形状の2辺を延長した仮想直線がLD1、LD2であり、これらと行方向に伸びる仮想直線LA3との成す角の角度をそれぞれD1、D2とする。なお角度C、D1、D2は、鋭角側の角度であり、90度以下である。
角度D1+角度D2の値は、鋭角部425aaが鋭角であるから90度以上である。角度D1と角度D2は同じでなくよい。すなわち、個別電極本体425aの菱形形状の鋭角部425aaを結ぶ線および鈍角部425abを結ぶ線の角度は、加圧室10の行方向および列方向の角度とずれていてもよい。角度のずれは20度以下にすれば、列方向に隣接する加圧室10と辺同士が向かい合うようにはならないので、クロストークを小さくできる。
角度D1およびD2は、55〜75度にすることで、変位量を大きくしつつ、行方向の寸法を小さくできるので、印刷の解像度を高くするように行方向の配置を高密度にすることができる。角度Cを角度D1およびD2より小さくすることで、直線状部425baの形成精度を高くでき、形成ばらつきにより生じるおそれのある、形成位置のばらつきや抵抗値のばらつきに起因する吐出特性のばらつき、および断線などを生じさせ難くできる。
個別電極425は、スクリーン印刷した導体ペーストを焼成することにより形成するのが安価で、生産性も高くなり好ましい。スクリーン印刷は長方形状の枠に金属製のワイヤーなどを格子状に編んだメッシュを貼り、そのメッシュに付けたレジストに開口部を形成し、スキージで、その開口部から導体ペーストを押し出すことにより印刷を行なう。なお、このような印刷を行なうと、開口部に対応した部分の個別電極425の厚さが、格子状に厚くなったり、個別電極425の外周の形状がわずかに格子状にずれたりする。
スクリーン印刷では、スキージが移動する間に、印刷対象物とスキージとがスクリーンを介して当たる長さが変わったり、スクリーンの枠に対する位置が変わると、印刷条件が変わることにより、印刷状態がばらつくので、基本的に、スクリーンの枠に対して、スキージは平行に移動するようにし、印刷対象物は、スクリーンの移動方向に幅の変化が少ないようにされる。また、スクリーンの枠に対する格子状のメッシュの角度は、0度であると印刷を繰り返すと、スキージにより、スクリーンが印刷方向へのずれる影響が大きくな
るため、ある程度角度が付けられる。
また、印刷において、ワイヤーが存在する部分は、導体ペーストが直接供給されず、周囲から導体ペーストが流れ込むことで印刷される。このため、導体パターンの外周とワイヤーの角度が近くなり、その位置も近くなると、導体ペーストの供給がワイヤーの方側からだけになるので、導体パターンの形状がばらつきやすくなる。そこで、特に位置精度が要求される個別電極本体425aの外周の印刷精度が良くなるように、メッシュの角度を調整するのが良い。
メッシュの角度は、個別電極本体425aの菱形形状の辺の角度と、角度D1、D2とが一致しないように差を付けるのが好ましい。つまり、メッシュの直交するワイヤーの角度は、いずれも角度(90−D1)および角度(90−D2)よりも大きく、角度D1およびD2よりも小さくすれば良く45度にするのが好ましい。そして、直線状部425baの角度Cは、直線状部425baを隣に合う加圧室10から離して、クロストークが小さくなるように、大きくする方がよい。直線状部425baは、個別電極本体425aと比較すれば、形成精度は低くしても構わないため、そこで、角度Cを(90−D1)度および(90−D2)度以上にすることで、クロストークを小さくできる。他方45度を超えると形成精度は悪くなるので、45度以下にするのが好ましい。より好ましい角度Cの範囲は、(90−D1)度および(90−D2)度よりの5度以上大きく、45度よりは5度以上小さくものであり、95−D1≦C、95−D2≦C、C≦40度である。
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極24となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、必要に応じてグリーンシートの一部にビアホールを形成し、その内部にビア導体を充填する。
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着した後、長方形状に切断し、さらに、高濃度酸素雰囲気下で焼成する。焼成の圧電アクチュエータ基板素体の表面に有機金ペーストをスクリーン印刷で印刷し、焼成して個別電極25を形成した。スクリーン印刷は、枠に対して45度の角度でメッシュを貼りつけてあるスクリーンを用いて、長方形状の圧電アクチュエータ基板素体をスクリーンの枠と平行になるように置き、スキージを圧電アクチュエータ基板素体の長手方向に平行に移動させて印刷した。その後、Agペーストを用いて接続電極26を印刷し、焼成することにより、圧電アクチュエータ基板21を作製する。
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート4a〜lを、接着層を介して積層して作製する。プレート4a〜lに、マニホールド5、個別供給流路14、加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
これらプレート4a〜lは、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電アクチュエータ基板21や流路部材4への影響をおよぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なく
とも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータ基板21と流路部材4とを加熱接合することができる。
次に圧電アクチュエータ基板21と制御回路100とを電気的に接続するために、接続電極26に銀ペーストを供給し、あらかじめドライバICを実装した信号伝達部92であるFPCを載置し、熱を加えて銀ペーストを硬化させて電気的に接続させる。なお、ドライバICの実装は、FPCに半田で電気的にフリップチップ接続した後、半田周囲に保護樹脂を供給して硬化させた。
続いて、必要に応じて、開口5aから液体を供給できるようにリザーバを接着し、金属の筐体を、ねじ止めした後、接合部を封止剤で封止することで液体吐出ヘッド2を作製することができる。