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JP5943177B2 - パン用米粉 - Google Patents

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本発明は米粉を主原料として作られるパン用米粉及びその米粉を含む米粉組成物に関するものである。詳細には、湿熱処理をした米粉に関するものである。
通常、発酵パンの主原料として利用されているのは、小麦粉又はライ麦粉である。小麦粉は、水を加えて練り合わせることにより、小麦中に含まれる蛋白質のグリアジンとグルテニンが粘り気と弾力性に富むグルテンを形成し、生地に粘りが出る。グルテンは網目状の弾力のある構造で、パン酵母による発酵により生じる炭酸ガスを生地内に閉じ込める役割を有し、発酵パンの容積拡大に関与している。
我が国では小麦は輸入に頼らざるを得ない一方で、米は長年主食として用いられ、国内で唯一自給できる穀物であり、国内で容易に入手可能な原料である。近年の食生活の欧米化や多様化により米の消費は年々低下しているが、将来予測される食糧不足の問題を解消する為にも自給可能で、小麦よりも単位面積あたりの収量の多い米の用途を拡大して消費を促進し食糧自給率を上げることが望まれている。
このため、発酵パンの原料として米粉を使用することが提案されている。しかし従来和菓子や米菓子原料などに使用されてきた上新粉や上用粉などの米粉を小麦粉の代替えとしてそのまま利用しても、米には上記グルテンの前駆体タンパクが含まれないこと、粒子径の違い、水分量や吸水性の違い、澱粉のアミロース組成の違い等から、小麦粉のみを使用した場合のようには発酵生地が得られず、外観や食感、食味についても劣ったものしか得られなかった。
特に米粉にバイタルグルテンや小麦粉を加える等して発酵パンの原料として米粉を使用した場合、小麦粉のみの生地に比べ生地の吸水が多く、製パン作業時にべたついて作業性が悪い、焼成時のへこみ(ケービング)が起こり外観が損なわれる、歯切れの悪い食感になる等の問題点があった。
近年製パンに適した米粉の改良に関する多くの研究結果から、米粉の吸水性には米粉の粒径や損傷澱粉等の粉体特性に加え、米粉中に含まれる澱粉の特性や蛋白質等の成分特性が総合的に関連していると考えられている。
その為、微粉砕化した米粉を使用する方法、例えばロール粉砕機で荒粉砕した後に気流粉砕機で微粉砕して200メッシュの篩を通過する区分(粒径が88μm未満)を90%以上にした米粉を使用する方法(特許文献1)が提案されている。
また小麦粉澱粉のアミロース組成(約25%)に近い高アミロース米を使用する方法(非特許文献1)、乾燥α化米を粉砕して得た米粉を使用する方法(特許文献2)などが提案されている。
さらに米粉に増粘剤、乳化剤、酵素などの副原料を添加してパンを製造することによる改善も提案されている(特許文献3)。
しかしながら製パン作業性、食感については依然改良が求められている。
特開平4−63555 特開2005−323536 特開2005−245409
日本食品化学工学会誌第56巻第7号394−402(2009)
そこで本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、澱粉等の食品材料に対し、耐熱性、耐酸性、機械耐性及び粘度の経時安定性等の特性を改変する目的とした、化学薬品の添加を伴わない物理的加工方法として知られている湿熱処理に着目し、うるち米粉に湿熱処理を施すことで、べたつきの少ない優れた生地性を示し、歯切れが良い食感でかつケービングを防ぎ優れた外観を有する米粉パンが得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
すなわち本発明は
(1)うるち米粉を、常圧下で70〜130℃の範囲で5〜60分間湿熱処理することを特徴とするパン用米粉の製造方法。
(2)前記(1)の製造方法により製造されるパン用米粉。
(3)前記(2)のパン用米粉を用いて製パンすることを特徴とするパン類の製造方法。
である。
本発明の湿熱処理を施した米粉を使用することで、滑らかでしっかりしており、べたつきの少ない優れた生地性で、歯切れが良い食感でかつ優れたボリュームとなる米粉パンを得ることができる。
本発明のパン用米粉に使用する原料米としてはうるち米であれば特に限定されず、アミロース含量が18%〜22%である「あきたこまち」や「コシヒカリ」などの普通品種からアミロース含量が23%以上である「越のかおり」や「モミロマン」等の高アミロース米を使用することができ、また同一の品種を原料とする場合であっても異なる品種を原料とするものが配合された場合であっても、いずれも使用することができる。
本発明のパン用米粉に用いる米粉は米粉の粒径や、水分量の差によらず湿熱処理によって改質効果を得ることができる。
本発明におけるパン用米粉の調製方法や入手法等は特に制限されないが、例えば原料であるうるち米を胴搗き製粉、ロール製粉、気流粉砕製粉、高速回転打撃製粉等などを単独又は組み合わせることにより得ることができる。また必要に応じて粉砕前に水浸漬や酵素液処理等の前処理や、得られた米粉の粉砕物を篩い分けや空気分級等の分級手段を用いて粒度分布の調整を行っても良い。本発明においては湿式気流粉砕製粉で得られた米粉が望ましい。
本発明において、湿熱処理とは、飽和水蒸気、熱水又は過熱蒸気等を熱媒体として高湿度雰囲気例えば湿度70%以上の雰囲気で対象物を加熱する方法である。熱媒体を直接加熱対象物に接触させても良く、また対象物を高湿度雰囲気下において間接的に加熱しても良い。オートクレーブやスチームオーブン等の装置で実施可能であるが、これに限られない。具体的には、常圧下、温度70〜130℃で、5〜60分間処理する。好ましくは常圧下、温度90〜110℃で5〜30分間処理する。米粉を湿熱処理する本発明の方法は、原料米を処理する乾燥α化米を粉砕して得る米粉と比較して、米粉に直接強い熱がかかるため、米粉品質をより大きく効果的に改質可能である。
本発明のパンの製造方法は、本発明のパン用米粉を用いる以外は、常法の製パン方法を用いることができる。例えば直捏法や中種法が挙げられる。
直捏法は、全材料を最初から混ぜて生地を製造する方法である。例えば全材料を配合、混捏し、生地をつくり、該生地を発酵した後、適当な大きさに分割し、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成する。
中種法は、材料を2段階に分けて混ぜ、生地を製造する方法である。例えば小麦粉の一部にイーストと水を加えて中種生地をつくり1次発酵を行ない、残りの材料と混捏し、生地をつくる。その後室温でフロアータイムをとり、適当な大きさに分割した後、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成する。
本発明のパン類の製造方法においては、さらにライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉などの穀粉類;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常パン製造に用いる副原料を使用することができる。
本発明の製造方法により得られるパン類としては、食パン、ロールパン、菓子パン、ドーナツ、調理パン等が挙げられる。食パンとしては白食パン、フランスパン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン等が挙げられ、ロールパンとしては、テーブルロール、バターロール、コッペパン、スィートロール、バンズ等が挙げられ、菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、メロンパン、レーズンパン、デニッシュペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ等が挙げられ、調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、ピザ等が挙げられる。
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
試験例1 [米粉の湿熱処理]
加熱水蒸気が米粉全体にまんべんなく当たるように、米粉をバットの上に厚さ1cmに広げ、スチームオーブン(ラショナル社製)内で、常圧下、表2−1および表2−2の上部に記載した処理温度及び処理時間で湿熱処理し、実施例1〜8および、比較例1〜5の湿熱処理米粉を得た。
試験例2 [製パン試験1(直捏法)]
実施例1〜8および、比較例1〜5のパン用米粉を用いて、製パン試験を行った。詳細には、下記の工程で製造した。
米粉80質量部、バイタルグルテン20質量部、イースト2.5質量部、塩2質量部、砂糖5質量部および水70質量部を加えた後、低速で2分間、次いで中速で5分間混捏した。そこへショートニング5質量部を加えた後、さらに低速で2分間、次いで中速で5分間混捏して生地を調製した。得られた生地を分割し、室温で15分放置した。
次にこの生地を成型して温度38℃および湿度85%の条件下で50分間最終発酵させた後、210度で30分間焼成した。
1時間の放冷後、ビニール袋に梱包した。
得られた各パンについて、表1に示す評価基準により、作業性、外観(ケービング)および食感を10名のパネラーで評価した。得られた結果を下記の表2に示す。
Figure 0005943177
Figure 0005943177
Figure 0005943177
上記表2の結果から、実施例1〜8では、作業性、製品外観、製品食感ともに優れたパン類が得られることが確認された。
一方、処理温度が70度より低い比較例1、処理時間が5分より短い比較例2、処理温度が130度よりも高く、処理時間が5分より短い比較例4については、作業性、製品外観、製品食感ともに劣っていた。また、処理時間が60分より長い比較例3及び5は製品食感が劣っていた。
試験例3 [製パン試験2(中種法)]
処理温度100℃及び処理時間10分間で湿熱処理した実施例4のパン用米粉を用いて、製パン試験を行った。詳細には、下記の工程で製造した。
小麦粉70質量部、イーストフード0.1質量部、イースト2.2質量部、水40質量部を加えた後、低速で2分間、中速で2分間、混捏し生地を調製した(捏上げ温度24.0℃)。得られた生地を温度27℃および湿度75%の条件下で4時間発酵させて中種生地を得た。
この中種生地に、米粉30質量部、食塩2質量部、砂糖5質量部、脱脂粉乳2質量部および水26質量部を加えて低速で2分間、中速で3分間混捏した後、ショートニング5質量部を加え、さらに低速で2分間、中速で3分間、高速で3分間混捏して本捏生地を得た(捏上げ温度27.0℃)。
得られた本捏生地を温度27℃および湿度75%の条件下で15分間発酵させ、次に1個220gに分割した後、20分間ベンチタイムをとった。次にこの生地を型詰めで成形し、温度38℃および湿度85%の条件下で45分間ホイロをとった後、温度210℃の条件下で25分間焼成して食パンを得た。
得られた各パンについて、試験例2と同様に、表1に示す評価基準により、作業性、外観(ケービング)および食感を10名のパネラーで評価したところ、作業性4.9点、外観(ケービング)4.9点、食感4.7点となり、優れた品質の食パンを得ることができた。

Claims (4)

  1. 小麦粉またはバイタルグルテンを使用するパン類の製造の為のパン用米粉の製造方法であって、うるち米粉を常圧下で70〜130℃の範囲で5〜60分間湿熱処理する工程からなる前記製造方法
  2. 請求項1に記載の製造方法で製造されたパン用米粉を用いて製パンすることを特徴とする、小麦粉またはバイタルグルテンを使用するパン類の製造方法。
  3. うるち米粉を常圧下で70〜130℃の範囲で5〜60分間湿熱処理する工程及び前記工程により得た米粉にバイタルグルテンを配合する工程を含むパン用米粉組成物の製造方法
  4. 請求項3に記載の製造方法で製造されたパン用米粉組成物を用いて製パンすることを特徴とする、パン類の製造方法。
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