本実施例は、本発明を、運転者の直接視界を遮る位置に置かれた映像表示部に、進行方向前方の映像に仮想物体を表す静止画像や動画像を重畳して表示することにより、車両走行中に、運転者に対して、仮想的な危険場面を高い現実感をもって再現することができる、車両用危険場面再現装置に適用したものである。
本実施例に係る車両用危険場面再現装置1は、図1に示す通り、車両10に設置され、進行方向を撮影する映像撮影部100と、予め作成された、歩行者や車両等の仮想物体を表す画像を、静止画像や動画像として記憶しておく画像情報記憶部130と、画像情報記憶部130に記憶された画像情報を、映像撮影部100によって撮影された映像に重畳する重畳映像作成部120と、道路に設置した基準マーカ142を映像撮影部100で撮影した結果に基づいて、車両10の位置と進行方向を算出する車両位置、進行方向算出部150と、車速センサ192とヨーレートセンサ193で算出した車速と角速度に基づいて、車両10の挙動を算出する車両挙動算出部160と、重畳映像作成部120にて重畳を開始するタイミングを算出する重畳タイミング算出部140と、重畳映像作成部120にて静止画像や動画像が重畳された映像を表示する映像表示部110と、車両の挙動を記録する車両情報記録部190と、運転者の挙動を記録する運転者情報記録部200と、運転者のホーン吹鳴操作を検出する操作検出部210と、ホーンスイッチ220と、車両10の進行方向前方に、車両10の進行方向と直交する方向の道路に設けられた、歩行者用信号機の作動状態を検出する交通環境検出部230と、からなる。
なお、映像撮影部100は、詳しくは、第1映像撮影部102と第2映像撮影部104と第3映像撮影部106からなり、具体的には3台のビデオカメラから構成される。
また、映像表示部110は、詳しくは、第1映像表示部112と第2映像表示部114と第3映像表示部116からなり、具体的には3台の長方形状の液晶モニタから構成される。
そして、重畳映像作成部120は、詳しくは、車両位置、進行方向算出部150と車両挙動算出部160で算出された車両状態に基づいて、静止画像や動画像を重畳する位置を算出する重畳位置算出部122と、静止画像や動画像の重畳サイズを算出する重畳サイズ算出部124と、静止画像や動画像を重畳する方向を算出する重畳方向算出部126と、実際に重畳を行う重畳処理部128とから構成される。
さらに、重畳タイミング算出部140は、詳しくは、車両10が走行する道路の路肩の所定位置に設置された、複数の基準マーカ142と、映像撮影部100で撮影された道路前方の映像の中から基準マーカ142の位置を抽出する基準マーカ抽出部144と、基準マーカ142の抽出結果に基づいて、映像撮影部100によって撮影された映像に、画像情報記憶部130に記憶された仮想物体を表す静止画像や動画像の重畳を開始するトリガ信号を、重畳映像作成部120に対して、出力するトリガ信号生成部146とからなる。
また、車両情報記録部190は、詳しくは、車両10の車速を測定する車速センサ192と、車両10の角速度を測定するヨーレートセンサ193と、車両10のピッチ角を測定するピッチ角センサ194と、車両10のロール角を測定するロール角センサ195と、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ196と、ブレーキ踏力を検出するブレーキ踏力センサ197と、これらのセンサで検出した値を取得して記録する車両情報取得部191とからなる。
そして、運転者情報記録部200は、詳しくは、運転者の顔の画像を撮影する運転者顔撮影カメラ202と、アクセルやブレーキを操作している運転者の足元を撮影する運転者足元撮影カメラ203と、運転者の視線方向を計測する運転者視線計測センサ204と、これらのカメラやセンサで得られたデータを取得して記録する運転者情報取得部201とからなる。
ここで、第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像撮影部106、第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116は、それぞれ、図2(1)、(2)に示すように車両10のボンネット上に設置されている。
具体的には、第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像撮影部106は、車両10のボンネット上に、第1映像撮影部102と第2映像撮影部104と第3映像撮影部106の光軸が、各々の撮影範囲が重ならないように、水平方向に所定の角度θをなして配置される。撮影範囲が重ならないようにするのは、第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像撮影部106で撮影した映像を、第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116に表示する際、同じ領域が重複して表示されるのを防ぐためである。
なお、第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像撮影部106の撮影範囲が重ならないように配置するのが困難な場合は、実際に撮影した映像を第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116に表示して、表示された映像を目視確認しながら、違和感が生じないように、第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像表示部116の設置位置を調整すればよい。
もしくは、撮影視野が互いに重複した複数の映像を合成して、パノラマ映像を生成する画像処理を行うことによって、重複のない映像を生成し、これを第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116に表示してもよい。
また、第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116は、車両10のボンネット上に、第1映像表示部112の短辺(縦辺)と第2映像表示部114の短辺(縦辺)が略接し、第2映像表示部114の短辺(縦辺)と第3映像表示部116の短辺(縦辺)が略接するように配置されている。そして、各々の映像表示面が、地面に対して略鉛直になるように設置されている。
さらに、第2映像表示部114の映像表示面は、走行中に前方を注視した運転者に略正対するように設置され、第1映像表示部112の長辺(横辺)と第2映像表示部114の長辺(横辺)、および、第2映像表示部114の長辺(横辺)と第3映像表示部116の長辺(横辺)とは、それぞれ所定の角度θをなすように設置されている。
ここで、第1映像表示部112の長辺と第2映像表示部114の長辺とがなす角度θは、第1映像撮影部102と第2映像撮影部104の光軸がなす角度θと略等しく、また、第2映像表示部114の長辺と第3映像表示部116の長辺とがなす角度θは、第2映像撮影部104と第3映像撮影部106の光軸がなす角度θと略等しいことが望ましい。
ただし、車両10のボンネットのスペース不足やボンネットの形状等の制約によって、映像表示部110の設置スペースが不足している場合には、第1映像表示部112の長辺と第2映像表示部114の長辺とがなす角度、および、第2映像表示部114の長辺と第3映像表示部116の長辺とがなす角度をθに設定できない場合もある。このような場合は、第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116に表示される映像を確認しながら、違和感が生じないよう、適切な角度をなして、第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116を配置すればよい。
なお、第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116は、運転者から見て、視野角が左右各55°以上の範囲を表示するように設置するのが望ましい。これは、運転者の左右の視線の動きが大きくなる右左折時であっても、運転者の視線の方向に、映像撮影部100で撮影した映像が表示されるようにするためである。
運転者は、このようにして配置された第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像撮影部106によって撮影され、略リアルタイムで第1映像表示部112、第2映像表示部114、第3映像表示部116に表示される映像を見ながら、車両10を実際に走行させることができる。
次に、本実施例に係る車両用危険場面再現装置1の作用について、図9のフローチャートと図3〜8に基づいて説明する。本実施例に係る車両用危険場面再現装置1は、図8に示すように、交差点の手前にある壁801の影から、歩行者803や移動車両804が現れる場面を再現する装置に、本発明を適用したものである。
車両10は、予め用意されたテストコースを走行しているものとする。このテストコースは、他の交通の流れが制限されており、安全な状態で、以下に説明するように仮想的な危険場面を再現することができる。
まず、第1映像撮影部102と第2映像撮影部104と第3映像撮影部106が、車両10の前方の映像を同時に撮影する(図9のステップS1)。
仮想的な危険場面の再現は、テストコースの所定の地点で行われる。所定の地点で確実に仮想的な危険場面を再現するため、図3に示す図柄の基準マーカ142を、図4に示すように、道路の複数の所定位置(M1〜M6)に設置し、第1映像撮影部102と第2映像撮影部104と第3映像撮影部106で撮影された映像の中から、基準マーカ抽出部144において、少なくとも2個の基準マーカ142を抽出して(図9のステップS2、S3)、2個の基準マーカ142が抽出されたとき(図9のステップS4がYESのとき)には、抽出された基準マーカ142の種類と、映像の中の基準マーカ142のサイズ(横辺長)と中心座標とから、車両位置、進行方向算出部150にて、車両の道路上での位置と進行方向とを算出する(図9のステップS7、S9)。
なお、配置されている基準マーカ(142−1〜142−6)の図柄は互いに異なっており、どの位置にどの図柄の基準マーカ142が設置されているかは、図4に示す道路モデルとして、予め車両位置、進行方向算出部150に記憶されているため、抽出された基準マーカ142の種類がわかれば、車両10の現在位置を算出することができる。
ここで、図3〜5を用いて、基準マーカ142の抽出方法を説明する。
ここでは、車両10が図4に示された位置を走行しており、第1映像撮影部102で撮影された映像の中から、道路左側に設置された車両10に最も近い基準マーカ142−1を抽出し、第3映像撮影部106で撮影された映像の中から、道路右側に設置された車両10に最も近い基準マーカ142−2を抽出するものとする。
基準マーカ142には、図3に示すように、黒地の正方形の中に描かれた白地の正方形の中に、基準マーカ142毎に異なる黒い2次元パターン(前述した図柄)が描かれている。
また、第1映像撮影部102、第2映像撮影部104、第3映像撮影部106を構成するビデオカメラは、それぞれ、路面に水平に、路面から高さHの位置に設置されており、基準マーカ142は、道路の左右路肩の高さHの位置に、道路の進行方向に直交する方向に、車両10側を向いて設置されているものとする。
基準マーカ抽出部144の中には、基準マーカ142の各々の図柄とその周囲の白地の正方形と黒地の正方形を1つのテンプレートとして、このテンプレートが、基準マーカ142の種類分だけ予め記憶されており、撮影された映像に対してテンプレートマッチングが行われて、基準マーカ142が写っている位置と、そこに写っている基準マーカ142の種類が検出される。
例えば、第1映像撮影部102では、図5に示す映像が撮影される。
図5の映像に対して、用意されたテンプレートをそれぞれ当てはめてテンプレートマッチングを行い、基準マーカ142が写っている場所を検出する。
なお、基準マーカ142の中心は、映像撮影部100の設置条件、および基準マーカ142の設置条件により、路面からの高さHに対応した位置、すなわち、撮影された映像の縦方向の中央付近(線分GG’上)に写るから、テンプレートマッチングは、映像の縦方向の中央付近のみで行えばよい。
また、基準マーカ142は、車両10から遠方になるほど小さく写るので、予め用意しておくテンプレートとして、サイズの異なるテンプレートを揃えておく。そして、テンプレートの種類とサイズを変えながら、テンプレートマッチングを行う。
なお、このテンプレートマッチングは、映像撮影部100で撮影された濃淡画像で構成される映像に対して行ってもよいし、映像撮影部100で撮影された濃淡画像で構成される映像を、基準マーカ142の図柄がその周辺の白地と識別できるように設定されたしきい値で2値化して、この2値化された映像に対して行ってもよい。なお、2値化された映像に対してテンプレートマッチングを行う方が、計算量が低減できるため、処理の高速化が図れる。
こうして、基準マーカ142の位置と図柄が検出された後で、車両10に最も近い位置にある基準マーカ、すなわち、抽出された最も大きな基準マーカ142−1の中心座標(x0、y0)と、最外部の黒地の正方形の横辺長L0を算出する。
同様にして、第3映像撮影部106で撮影された映像に対しても、基準マーカ抽出部144で、道路右側にある基準マーカ142の抽出を行い、車両10に最も近い位置にある基準マーカ、すなわち、抽出された最も大きな基準マーカ142−2の中心座標(x1、y1)と、最外部の黒地の正方形の横辺長L1を算出する。
このとき、検出された基準マーカ142の図柄から、基準マーカ142−1と142−2が抽出されたことがわかる。
なお、基準マーカ142の抽出方法は、前記した画像処理手法に限るものではない。すなわち、例えば、二次元バーコードリーダの読み取りに使われている信号処理を適用して、基準マーカ142を抽出してもよい。
次に、車両位置、進行方向算出部150において、第1映像撮影部102で撮影された映像から抽出された、道路左側の基準マーカ142−1の横辺長L0から、第1映像撮影部102と基準マーカ142−1との距離d0を算出し、さらに、第3映像撮影部106で撮影された映像から抽出された、道路右側の基準マーカ142−2の横辺長L1から、第3映像撮影部106と基準マーカ142−2との距離d1を算出する。
すなわち、映像撮影部100で、予め基準マーカ142の映像を、基準マーカ142までの距離を所定量ずつ変化させながら撮影して、基準マーカ142までの距離と撮影された基準マーカの横辺長との関係を測定しておく。
この測定結果を車両位置、進行方向算出部150に格納しておき、この格納されたデータに基づいて、算出された基準マーカ142−1の横辺長L0から基準マーカ142−1までの距離d0を算出し、基準マーカ142−2の横辺長L1から基準マーカ142−2までの距離d1を算出する(図9のステップS5)。
ここで、算出された距離d0、もしくはd1のうち、少なくともどちらか一方が、予め決めておいた所定距離dthよりも小さいとき(図9のステップS6がYESのとき)は、基準マーカ142の抽出結果に基づいて、車両の現在位置(xc、yc)が算出される(図9のステップS7)。
ここで、第1映像撮影部102の設置位置、第2映像撮影部104の設置位置、第3映像撮影部106の設置位置は、全て等しいものとする。すなわち、それらの設置位置は、図2(2)の点Qにあるとする。
このとき、図6に示すように、道路左側にある基準マーカ142−1を中心とする距離d0を半径とする円P1と、道路右側にある基準マーカ142−2を中心とする距離d1を半径とする円P2の交点のうち、車両10に近い側の点C0として、車両10の位置(xc、yc)が一意に定まる。そして、点C0は、点Qと一致する。
次に、車両位置、進行方向算出部150において、車両10の方向ωが算出される(図9のステップS9)。
ここでは、まず、基準マーカ142−1の中心座標(x0、y0)の値から、その点の、映像の中央位置(線分VV’上)から横方向への変位量xh0を算出する。
すなわち、xh0は、(式1)で算出される。
xh0=m/2−x0 (式1)
ここで、mは第1映像撮影部102で撮影された映像の横方向の画素数を表す。
そして、算出された変位量xh0の値から、基準マーカ142−1の中心から第1映像撮影部102の光軸に下ろした垂線長(図7のdx0)を算出する。
なお、垂線長dx0は、予め実験によって求めたデータを用いて算出する。
すなわち、映像撮影部100で、映像撮影部100から複数の距離の位置に置かれた基準マーカ142を、映像撮影部100の光軸方向φを水平方向に所定量ずつ変化させながら撮影して、映像撮影部100から基準マーカ142の中心までの距離dと、映像撮影部100の光軸方向φと、そのときに撮影される基準マーカ142の中心座標(x0、y0)、もしくは、変位量xh0との関係を測定する。
この測定結果を車両位置、進行方向算出部150に格納して、この格納されたデータに基づいて、基準マーカ142−1の中心座標(x0、y0)、もしくは変位量xh0から、基準マーカ142−1の中心から第1映像撮影部102の光軸に下ろした垂線長dx0を算出する。
このようにして算出された垂線長dx0と、先に算出した基準マーカ142−1の中心までの距離d0と、車両10の現在位置(xc、yc)と、第1映像撮影部102の光軸と第2映像撮影部104の光軸のなす角度θとから、車両10の方向ωが、(式2)によって算出される。
ω=tan-1{dx0/(d02−dx0 2)1/2}−sin-1(xc/d0)+θ (式2)
一方、ステップS5で算出された、基準マーカ142−1までの距離d0と基準マーカ142−2までの距離d1のどちらも、予め決めておいた所定距離dthより大きいときは、車両挙動算出部160において、車速センサ192で算出した車速を積分し、また、ヨーレートセンサ193で算出したヨーレートを積分する。
そして、抽出した基準マーカ142の位置に基づいて算出した車両10の直近の位置(xc、yc)と直近の方向ωに、車速の積分値と、ヨーレートの積分値とに基づいて算出した車両10の移動軌跡を加え合わせて、車両10の位置(xc’、yc’)と方向ω’を算出し(図9のステップS8)、その後ステップS10に移行する。
なお、車両挙動算出部160において算出された車両10の現在位置(xc’、yc’)、方向ω’は、車両位置、進行方向算出部150において算出された車両10の現在位置(xc、yc)、方向ωと区別するため、異なる符号で表す。
ここで、基準マーカ142までの距離に応じて、車両10の位置と方向の算出方法を変更するのは、基準マーカ142までの距離が大きいと、距離の算出誤差が増大する可能性があるためである。
したがって、そのようなときには、車速とヨーレートの積分値に基づいて車両10の移動軌跡を算出し、こうして算出した車両10の移動軌跡を、基準マーカ142の位置に基づいて算出した、直近の車両10の位置と方向に加え合わせることによって車両10の位置と方向とを更新する訳である。
そして、所定距離以内に基準マーカ142が検出されたときに、再び基準マーカ142の位置に基づいて、車両10の位置と方向を算出し、補正するものとする。
車両位置、進行方向算出部150、もしくは車両挙動算出部160において、車両10の位置と方向が算出されると、トリガ信号生成部146から重畳映像作成部120に対して、重畳の実行を指示するトリガ信号が出力される。
トリガ信号が出力されると(図9のステップS10がYESのとき)、重畳位置算出部122において、画像情報記憶部130に記憶された、仮想物体を表す静止画像、もしくは動画像を、映像撮影部100で撮影された映像のどの位置に重畳するかが算出される(図9のステップS11)。
なお、重畳する静止画像や動画像は、予め、次のようにして作成しておく。
すなわち、実際の道路環境で、安全を確認した上で、見通しの悪い交差点から飛び出す歩行者803や、目の前を横切る移動車両804の映像を撮影し、撮影された映像から、歩行者の領域のみを抽出する画像処理や車両の領域のみを抽出する画像処理を行って、抽出された歩行者803のみが写っている動画像、また、抽出された移動車両804のみが写っている動画像を生成して、画像情報記憶部130に記憶しておく。
このとき、歩行者803や移動車両804以外の画素には、重畳すべき情報でないことを表すため、予め決められた特定の値を格納しておく。
また、交差点の手前に配置する壁801や802は、静止画像として作成しておく。なお、これはコンピュータグラフィックス(CG)によって作成しても構わない。そして、壁801や802以外の画素には、重畳すべき情報でないことを表すため、予め決められた特定の値を格納しておく。
さらに、仮想物体を表す静止画像や動画像は、車両10の向きに応じて、様々な方向から見た映像を生成できるように、多方向から撮影した映像を、その撮影方向の情報とともに記憶しておく。
重畳位置算出部122では、図4の道路モデルの中で、仮想的な危険場面を再現する位置に、所定の仮想物体(歩行者803、移動車両804、壁801と802)を配置して、算出された車両10の位置(xc、yc)もしくは(xc’、yc’)と、方向ωもしくはω’に基づいて、それらの仮想物体を映像撮影部100で撮影したときに、映像表示部110のどの位置に表示されるかが算出される。
この重畳位置を算出する演算は、映像撮影部100と対象物との位置関係が明確になっているため、簡単な幾何計算によって実行することができる。
次に、重畳サイズ算出部124において、車両10と仮想物体との位置関係に基づいて、重畳する仮想物体のサイズが算出される(図9のステップS12)。
具体的には、映像撮影部100と仮想物体との距離に応じて、画像情報記憶部130に記憶された静止画像、もしくは動画像に、適切な倍率を乗算し、遠方に重畳するときには小さく重畳され、近接した位置に重畳するときには大きく重畳されるように、仮想物体のサイズが算出される。
さらに、重畳方向算出部126において、仮想物体の重畳方向が算出される(図9のステップS13)。
この重畳方向は、具体的には、車両位置、進行方向算出部150、もしくは車両挙動算出部160で算出された映像撮影部100の方向と、重畳すべき仮想物体との位置関係に基づいて、各映像撮影部(102、104、106)に写る、仮想物体の方向として算出される。
次に、重畳処理部128において、重畳方向算出部126で算出された方向から見た仮想物体の画像が生成され、その画像が、重畳サイズ算出部124で算出されたサイズに変形されて、重畳位置算出部122で算出された位置に重畳される(図9のステップS14)。
なお、この重畳処理は、具体的には、映像撮影部100から入力された映像の、ステップS11で算出された位置に、ステップS13で算出された方向から見た仮想物体の画像が、ステップS12で算出されたサイズに変形されて重ね合わせられ、重ね合わせた画像の中で、特定の値以外の値を持った画素の画素値を、重ね合わせられた映像の画素の画素値と置き換える処理によって行われる。
仮想物体を表す画像が重畳された映像は、略リアルタイムで、第1映像表示部112と第2映像表示部114と第3映像表示部116に表示される(図9のステップS15)。
この表示を見た車両10の運転者は、壁801の陰から、歩行者803や移動車両804が飛び出したことに気づくと、即座に制動や操舵等の回避行動を行う。
ここで、操作検出部210において、運転者がホーンスイッチ220を押下することによってホーン吹鳴操作を行ったことが検出されたときには、割り込み処理が起動して、図10のフローチャートに示した処理が実行される。
すなわち、操作検出部210によって、運転者がホーンスイッチ220を押下したことが検出されたときに、重畳処理部128において、歩行者803、もしくは移動車両804が重畳されているときには(図10のステップS17がYESのとき)、さらに、重畳処理部128において、ホーン吹鳴時に対応した歩行者803や移動車両804の描画制御が行われる(図10のステップS18)。
ここでは、車両10の運転者が、歩行者803の飛び出しや移動車両804の接近に気づいてホーンを吹鳴させたときに、あたかも、歩行者803がホーンの吹鳴に気づいて立ち止まった場面、あるいは、移動車両804がホーンの吹鳴に気づいて減速した場面、を再現するように、重畳処理部128において、仮想物体である歩行者803や移動車両804の動きを制御した重畳が行われる。そして、ステップS18実行後は、図9のフローチャートに復帰して動作が継続する。
なお、前記した仮想物体の動きを制御する方法には様々なものが考えられるが、そのいずれの方法によって行ってもよい。
すなわち、仮想物体を表す動画像の中で、隣り合った画像の間を補間する画像を新たに生成して、この補間された画像を含めた動画像を再生することによって、仮想物体の動きを遅くすることができる。
また、逆に、仮想物体を表す動画像の中から、所定のフレーム数毎に、動画像を形成する画像を削除して(間引きして)、こうして得られた動画像を再生することによって、仮想物体の動きを速くすることができる。
あるいは、予め仮想物体を表す動画像を作成して画像情報記憶部130に記憶する際に、仮想物体が種々の速度で動く複数の動画像を作成して、動きの速度を表す情報とともに記憶しておき、この複数の動画像の中から、場面に適した動きの速度を有する動画像を選択して再生するようにしてもよい。
さらに、仮想物体を表す動画像を再生するフレームレートを変更することによって、仮想物体の動きを制御するようにしてもよい。
一方、運転者がホーンスイッチ220を押下したときに、歩行者803、もしくは移動車両804が重畳されていないとき(図10のステップS17がNOのとき)は、何の処理も行わずに、図9のフローチャートに復帰して動作が継続する。
そして、図9において、車両10のエンジンが停止する等の終了指示を検出したときに、処理を終了する(図9のステップS16がYESのとき)。
このように、運転者の操作に応じて仮想物体の重畳方法を制御することによって、より一層、自然な運転場面を再現することができる。
なお、操作検出部210では、ホーンスイッチ220の押下を検出する構成として説明したが、ホーンスイッチ220の押下以外の操作を検出して、描画制御を行うようにしてもよい。
例えば、図示しない前照灯スイッチによって、運転者がパッシングを行ったことを検出して、これに応じた描画制御を行うこともできる。
さらに、重畳処理部128において行われる描画制御は、操作検出部210の出力以外に基づいて行うこともできる。
例えば、車両10が走行している道路における、歩行者用信号機の作動状態を検出する交通環境検出部230を設けて、その交通環境検出部230の出力に基づいて、歩行者803の描画制御を行うこともできる。
すなわち、車両10が、車両10の進行方向と直交する方向の道路に設けられた歩行者用信号機に所定距離以内にまで接近しており、なおかつ、歩行者用信号機の作動状態を検出する交通環境検出部230によって、歩行者用信号機が、青信号の点滅状態になっていることが検出されたときには、割り込み処理を起動して、図11のフローチャートに示した処理を実行する。
すなわち、交通環境検出部230を構成する車載カメラによって、歩行者用信号機が青信号の点滅状態であることが検出されたときに、重畳処理部128において、歩行者803が重畳されているときには(図11のステップS19がYESのとき)、さらに、重畳処理部128において、重畳された歩行者803が急に駆け出すような描画制御が行われる(図10のステップS20)。なお、具体的な描画制御の方法は、前記した通りである。
そして、ステップS20実行後は、図9のフローチャートに復帰して動作が継続する。
そして、図9において、車両10のエンジンが停止する等の終了指示を検出したときに、処理を終了する(図9のステップS16がYESのとき)。
このようにして、歩行者803が、歩行者用信号機が青信号の点滅状態であることを認知して、道路の横断を急ごうとして急に駆け出した場面を再現することができるため、より一層、実際の道路環境に近い場面を再現することができる。
そして、そのような場面に遭遇したときの、車両10の運転者の挙動を、詳しく分析することができる。
なお、前記した実施例では、交通環境検出部230を構成する車載カメラによって、歩行者用信号機が青信号の点滅状態であることを検出したが、実施形態は、それに限定されるものではない。
すなわち、交通環境検出部230に、車両10の内部と外部との間の通信機能を備えて、歩行者用信号機が、車両10の交通環境検出部230から出力される通信信号を受信して、車両10の接近を検知したときに、青信号の点滅を開始するように構成することもできる。
また、交通環境検出部230には、歩行者用信号機の作動状態を検出する機能の他に、レーザレーダのような測距機能を設けてもよい。
そして、車両10の周囲に実際に存在する歩行者や車両との距離を測定して、この測定された距離に基づいて、重畳処理部128において、仮想物体である歩行者803や移動車両804の動きを制御した描画制御を行う機能を備えることもできる。
これにより、例えば、車両10の前方を実際に走行している先行車両に重なるように、移動車両804を重畳して、車両10と実際の先行車両との距離を、交通環境検出部230に備えたレーザレーダで測定し、測定された距離が所定値以下になった時に、重畳した移動車両804を、急減速したように描画制御して、仮想的な危険場面を再現することができる。
なお、この処理の具体的な動作フローチャートは図示しないが、図10や図11に沿った割り込み処理を行うことによって実現することができる。
すなわち、交通環境検出部230において、レーザレーダによる測距値が所定値を下回ることが検出されたときに、割り込み処理を起動させる。
そして、割り込み処理が起動されたときに移動車両804の重畳を行っているときには、重畳処理部128において、移動車両804が急減速する描画制御を行うことによって、上記した危険場面を再現することができる。
このように、交通環境検出部230に備える機能に応じて、より一層、実際の道路環境に近い場面を、高い現実感をもって再現することができる。
さらに、重畳された画像の動きを制御する例として、車両挙動算出部160において算出された車両10の挙動に基づいて、仮想物体である歩行者803や移動車両804の動きを制御する描画制御を行うようにしてもよい。
例えば、ヨーレートセンサ193によって、車両10が交差点で右折を開始したことを検出したときに、その交差点に向かって対向車線を走行している移動車両804が、車両10と同時に交差点に進入するように、重畳処理部128において、移動車両804の速度を調整する描画制御を行うことによって、右直事故に至る可能性のある場面を再現することができる。そして、これによって、危険場面における運転者の挙動を、安全な状態で詳細に分析することができる。
なお、この処理の具体的な動作フローチャートも図示しないが、図10や図11に沿った割り込み処理を行うことによって実現することができる。
すなわち、交通環境検出部230に、車両10の走行環境の地図データを備えておき、この地図データに基づいて、車両10が交差点付近にさしかかったことを検出する。
そして、車両10が交差点付近にさしかかった状態にあるとき、車両挙動算出部160において、ヨーレートセンサ193で計測された車両10のヨーレートを分析して、車両10が右折を開始したことを検出したときに、割り込み処理を起動させる。
割り込み処理が起動されたときに、その交差点に向かって対向車線を走行する移動車両804の重畳を行っているときには、重畳処理部128において、移動車両804が、車両10と同時に交差点に進入するように描画制御を行うことによって、上記した危険場面を再現することができる。
なお、図9のフローチャートには記載しないが、トリガ信号生成部146からトリガ信号が出力されたときには、車両情報記録部190において、車両の挙動を表す車速(車速センサ192で計測)、および、ヨー角(ヨーレートセンサ193で計測)、ピッチ角(ピッチ角センサ194で計測)、ロール角(ロール角センサ195で計測)、アクセル開度(アクセル開度センサ196で計測)、ブレーキ踏力(ブレーキ踏力センサ197で計測)が、車両情報取得部191に逐次取得されて記録される。
また、運転者情報記録部200において、運転者の挙動を表す顔面の映像(運転者顔撮影カメラ202で撮影)や足元の映像(運転者足元撮影カメラ203で撮影)、そして運転者の視線方向(運転者視線計測センサ204で計測)が、運転者情報取得部201に逐次取得されて記録される。
こうして記録された車両情報や運転者情報は、図9〜11の一連の処理が終了した後で、運転行動の分析に利用される。
なお、記録される情報は、ここに記載したものに留まらず、評価内容に沿って、適宜、所定の情報を取得する装置が実装されて、所定の情報が取得され、記録される。
また、仮想的な危険場面を再現するタイミングは、予め判っているので、トリガ信号の出力を待たずに、車両情報や運転者の挙動の記録を開始してもよい。これにより、仮想的な危険場面が再現される前から、車両情報や運転者情報を記録することができるため、危険場面に遭遇した際の車両や運転者の挙動の変化を、より詳細に分析することができる。
以上説明したように、本実施例に係る車両用危険場面再現装置によれば、運転者の直接視界を遮る位置に置かれた映像表示部に、車両の走行位置や進行方向に応じた位置に仮想物体を表す静止画像や動画像が重畳された、車両進行方向の映像を表示する構成としたため、実際に走行する車両において、車両の走行位置や進行方向によらずに、仮想的な危険場面を高い現実感をもって再現することができる。
また、本実施例に係る車両用危険場面再現装置によれば、車両位置、進行方向算出部で算出された車両の位置と進行方向、および車両挙動算出部で算出された車両の挙動に基づいて、重畳される画像の位置とサイズと方向とを決定する構成としたため、走行車線や走行速度などの制約を付けることなく運転している状態において、仮想的な危険場面を、高い現実感で再現することができる。したがって、より自然な運転状態において仮想的な危険場面を再現することができ、これによって、運転者の自然な反応を評価することができる。
なお、以下に説明する通り、本実施例の基本的な構成を変えることなく、同様の効果を有する様々な変形例を実現することができる。
まず、前記した説明では、車両挙動算出部160において、車速センサ192で測定した車速と、ヨーレートセンサ193で計測したヨー角に基づいて車両10の挙動を算出したが、さらに、ピッチ角センサ194で計測したピッチ角と、ロール角センサ195で計測したロール角を利用してもよい。
これによって、車両10のより細かい挙動に応じて、重畳する画像の位置、サイズ、方向を制御することができるため、より自然な重畳画像を表示することができる。
また、前記した説明では、撮影された基準マーカ142までの距離に応じて、距離が近いときには、撮影された基準マーカ142の位置に基づいて車両10の位置と方向を算出し、距離が遠いときには、基準マーカ142の位置に基づいて算出した車両10の直近の位置と方向に、車両挙動算出部160で算出された車速の積分値と、ヨーレートの積分値とに基づいて算出した車両10の移動軌跡を加え合わせて、車両10の位置と方向を算出したが、これは、車両挙動算出部160で算出された車両10の移動軌跡を加え合わせてから、車速の積分値で算出される車両10の移動距離が、所定値に達する範囲でのみ、車両挙動算出部160の算出結果に基づいた車両10の位置と方向の算出を行うようにしてもよい。
これによって、車両挙動算出部160の算出結果に基づいた車両10の位置と方向を算出しながら、基準マーカ142までの距離を算出して算出された距離の大きさを判断する必要がなくなるため、所定期間は基準マーカ142の抽出処理を中断でき、計算機負荷を低減することができる。
さらに、重畳タイミング算出部140において仮想的な危険場面を再現するタイミングの生成方法は、本実施例で説明した基準マーカ142を利用した方法に制限されるものではない。
すなわち、例えば、カーナビゲーションで用いられているGPS(Global Positioning System)、および車速センサ192、ヨーレートセンサ193を利用して車両10の位置と方向を特定し、特定された情報に基づいて、仮想的な危険場面を再現するための重畳タイミングを生成してもよい。
あるいは、路肩に設置した電波ビーコンや光ビーコンの送信機から発せられる情報を、車両10に設置した受信機で受信し、車両10の現在位置を特定して、特定された位置情報に基づいて、仮想的な危険場面を再現するための重畳タイミングを生成してもよい。
一方、車両10の位置だけでなく、運転者の挙動や車両の挙動に基づいて、仮想的な危険場面を再現するための重畳タイミングを生成してもよい。このときは、車両情報記録部190や運転者情報記録部200に備えられたセンサが利用される。
例えば、運転者視線計測センサ204によって、絶えず運転者の視線方向を計測しておき、計測された運転者の視線方向が道路から外れていたときは、運転者が脇見をしていると判断して、重畳を開始すれば、運転者の脇見をトリガとして仮想的な危険場面を再現することができる。
もしくは、車速センサ192で検出した車速が、所定値よりも大きいときに、仮想的な危険場面を再現する重畳の開始タイミングとすることも可能である。
このように、評価する内容や、再現する危険場面に応じて、適切な方法によって、重畳を行うタイミングを生成することが可能である。
また、本発明によって再現することができる仮想的な危険場面は、実施例で説明した、歩行者803や移動車両804の飛び出し場面に制限されるものではない。
すなわち、本発明によれば、評価したい運転者の挙動に基づいて設定された運転場面に応じて、適切な重畳物を設定することができ、重畳映像作成部120において、高い現実感を有する重畳映像を作成することができる。
なお、本発明の具体的構成要素は、同様の作用効果を有するものであれば、図1に示すものに限定されない。例えば、映像表示部110は、曲面ディスプレイによって構成してもよいし、車両10に設置したプロジェクタから、ボンネット上に設置したスクリーンに映像を投影してもよい。
また、特許請求の範囲を逸脱することなく、当業者の知識に基づいた変形や改良を施した態様で本発明を実施することができるのは言うまでもない。