添付の図面を参照しつつ本発明について以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
図1に本発明の第1の実施形態に係る前照灯制御システム11が搭載された車両10の全体構成を模式的に示す。前照灯制御システム11は、前照灯装置12、統合制御部14、車輪速センサ16、操舵角センサ17、カメラ18、およびナビゲーションシステム19を備えている。
統合制御部14は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM等を備え、車両10における様々な制御を実行する。
車輪速センサ16は、車両10に組み付けられる左右の前輪および後輪の4つの車輪の各々に対応して設けられている。車輪速センサ16の各々は統合制御部14と通信可能に接続されており、車輪の回転速度に応じた信号を統合制御部14に出力する。統合制御部14は、車輪速センサ16から入力された信号を利用して車両10の速度を算出する。
操舵角センサ17は、ステアリングホイールに設けられて統合制御部14と通信可能に接続されている。操舵角センサ17は、運転手によるステアリングホイールの操舵回転角に対応した操舵角パルス信号を統合制御部14に出力する。統合制御部14は、操舵角センサ17から入力された信号を利用して車両10の進行方向を算出する。
カメラ18は、例えばCCD(Charged Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の撮像素子を備え、車両前方を撮影して画像データを生成する。カメラ18は統合制御部14と通信可能に接続されており、生成された画像データは統合制御部14に出力される。
ナビゲーションシステム19は統合制御部14と通信可能に接続されており、車両10が走行している場所を示す情報等を統合制御部14に出力する。
前照灯装置12は、前照灯制御部20、右前照灯ユニット22R、および左前照灯ユニット22Lを備えている。以下、右前照灯ユニット22Rと左前照灯ユニット22Lを、必要に応じて前照灯ユニット22と総称する。前照灯制御部20は、CPU、ROM、およびRAM等を有し、前照灯ユニット22による光の照射を制御する。前照灯制御部20は、本発明における制御手段の少なくとも一部として機能する。
上記の右前照灯ユニット22Rを水平面で切断して上方から見た断面を図2に示す。右前照灯ユニット22Rは、透光カバー30、ランプボディ32、エクステンション34、第1灯具ユニット36、および第2灯具ユニット38を備えている。
透光カバー30は透光性を有する樹脂等によって形成されている。透光カバー30は、ランプボディ32に装着されて灯室を区画形成している。第1灯具ユニット36および第2灯具ユニット38は灯室内に配置されている。
エクステンション34は、第1灯具ユニット36および第2灯具ユニット38からの照射光を通過させるための開口部を有し、ランプボディ32に固定されている。第1灯具ユニット36は第2灯具ユニット38よりも車両外側に配置されている。
第1灯具ユニット36は、いわゆるパラボラ型の灯具ユニットであり、後述するロービーム用配光パターンを形成する。第1灯具ユニット36は、光源42としてハロゲンランプ等のフィラメントを有する白熱灯や、メタルハライドランプ等のHID(High Intensity Discharge)ランプを用いている。第1灯具ユニット36の構成は公知であるため、詳細な説明は省略する。
第2灯具ユニット38は、ホルダ46、投影レンズ48、発光素子ユニット49、基板50、およびヒートシンク54を備えている。
投影レンズ48は、筒状に形成されたホルダ46の一方の開口部に装着されている。投影レンズ48は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであり、その後側焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。
発光素子ユニット49は基板50の前方側表面に設けられており、ヒートシンク54は基板50の後方側表面に設けられている。ヒートシンク54は、アルミニウム等の金属により多数の放熱フィンを有する形状に形成されている。
図3に発光素子ユニット49を車両前方から見た構成を示す。発光素子ユニット49は、基板50上に実装された下側発光素子アレイ52Lおよび上側発光素子アレイ52Uを備えている。
下側発光素子アレイ52Lは、車両右側から左側に向かって配列された第1下側発光素子52L−1〜第13下側発光素子52L−13を備えている。上側発光素子アレイ52Uは、車両右側から左側に向かって配列された第1上側発光素子52U−1〜第13上側発光素子52U−13を備えている。
各発光素子は、同一の高さと同一の幅を有する直方体状に形成されている。図示は省略しているが、各発光素子は光源および薄膜を有している。光源は1mm角程度の発光面を有する白色LED(発光ダイオード)であり、薄膜はこの発光面を覆うように設けられている。
図3においては各発光素子に番号を記し、第1下側発光素子52L−1、第13下側発光素子52L−13、第1上側発光素子52U−1、第13上側発光素子52U−13以外の発光素子については参照番号の表示を省略している。例えば下側発光素子アレイ52Lにおいて番号7が記された発光素子は、第7下側発光素子52L−7を意味し、上側発光素子アレイ52Uにおいて番号12が記された発光素子は、第12上側発光素子52U−12を意味している。
各発光素子は制御線53を介して前照灯制御部20との間に電流回路を形成している。図3においては、第1下側発光素子52L−1、第13下側発光素子52L−13、第1上側発光素子52U−1、第13上側発光素子52U−13以外の発光素子については制御線53の図示を省略している。前照灯制御部20は、制御線53を通じて供給される電流の量を調整することにより、各発光素子の点消灯および点灯時における光度を制御することができる。
図2に示すように、基板50がホルダ46の他方の開口部に装着されることにより、発光素子ユニット49がホルダ46の内部に配置される。発光素子ユニット49が備える複数の発光素子が各々発光することにより、それぞれの像が灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影される。複数の発光素子は、本発明における複数の光源として機能する。
左前照灯ユニット22Lは右前照灯ユニット22Rと左右対称に構成されており、詳細な説明は省略する。なお右前照灯ユニット22Rにおいても、第1下側発光素子52L−1〜第13下側発光素子52L−13、および第1上側発光素子52U−1〜第13上側発光素子52U−13は車両右側から車両左側に向かって配列されている。すなわち第2灯具ユニット38の内部構成に関しては、左前照灯ユニット22Lと右前照灯ユニット22Rは左右対称でない。
図4の(a)は、右前照灯ユニット22Rおよび左前照灯ユニット22Lから前方に照射される光により、例えば車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示している。
ロービーム用配光パターンPLは、右前照灯ユニット22Rおよび左前照灯ユニット22Lの第1灯具ユニット36からの照射光の合成によって形成される。ロービーム用配光パターンPLは左配光のロービーム用配光パターンであり、その上端縁に第1カットオフラインCL1〜第3カットオフラインCL3を有している。第1カットオフラインCL1〜第3カットオフラインCL3は、灯具正面方向の消点を通る鉛直線であるV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延在している。
第1カットオフラインCL1は対向車線カットオフラインとして利用される。第3カットオフラインCL3は、第1カットオフラインCL1の左端部から左上方に向かって斜めに延在している。第2カットオフラインラインCL2は、第3カットオフラインCL3とH−H線との交点から左側においてH−H線上に延在している。すなわち第2カットオフラインCL2は自車線側カットオフラインとして利用される。
ロービーム用配光パターンPLにおいて、第1カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eをやや左寄りに囲むようにして高光度領域であるホットゾーンHZが形成されている。
付加配光パターンPAは本発明における照射レンジに対応し、右前照灯ユニット22Rおよび左前照灯ユニット22Lの第2灯具ユニット38が備える全ての発光素子からの照射光によって形成される配光パターンとして定義される。付加配光パターンPAは水平線(H−H線)を含み、下端が第1カットオフラインCL1上に位置するよう水平方向に延在する帯状に形成される。よって第2灯具ユニット38は、ハイビーム用の光源として機能するものであってもよい。
図4の(b)に付加配光パターンPAと、下側発光素子アレイ52Lおよび上側発光素子アレイ52Uの関係を示す。この例では、付加配光パターンPAは各々略同一の形状と面積を有する26個の部分領域に分割されており、上側部分領域U1〜U13と下側部分領域L1〜L13とを含んでいる。下側部分領域L1〜L13はH−H線近傍に位置し、上側部分領域U1〜U13はその上方に位置している。
下側部分領域L1は、右前照灯ユニット22Rの第1下側発光素子52L−1および左前照灯ユニット22Lの第1下側発光素子52L−1を光源像とした投影像の合成として形成される。換言すると、これらの発光素子からの照射光の合成によって形成される。他の部分領域についても同様に、左右の前照灯ユニット22の対応する発光素子からの照射光の合成によって形成される。
例えば下側部分領域L9は、左右の第9下側発光素子52L−9からの照射光の合成によって形成される。また上側部分領域U11は、左右の第11上側発光素子52U−11からの照射光の合成によって形成される。各発光素子からの照射光は投影レンズ48を通過するため、部分領域の配列と図3に示した発光素子の配列とは上下左右が逆転している。
次に、上記の構成を有する前照灯制御システム11による調光制御について図5を参照しつつ説明する。
本実施形態の前照灯制御システム11は、車両10の操舵角変化に追従して前照灯による照射領域を付加配光パターンPA内で水平左右方向に移動させ、操舵先を照射する電子スイブル制御動作を可能としている。
統合制御部14は、車輪速センサ16および操舵角センサ17から入力された信号に基づき、前照灯制御部20を通じて左右の前照灯ユニット22の各発光素子に流れる電流の量を増減させることによって、照射光の光度を変化させる。これにより各部分領域の照度が調整され、付加配光パターンPA内における照度の分布が変化する。この調整を適宜に行なうことによって、照射状態とされている部分領域の集合である照射領域が付加配光パターンPA内を水平方向左右に移動し、各前照灯ユニット22の灯具光軸を機械的に旋回させるスイブル機構と同等の効果を得ることができる。
図5の(a)は、ある初期照射状態における付加配光パターンPA内の下側部分領域L1〜L13の照度分布を示す図である。棒グラフが長いほど照度が高いことを意味している。また各部分領域の照度と、当該部分領域に光を照射する発光素子に供給される電流の量とは対応関係にあるため、同図は各部分領域に対応する発光素子に供給される電流の値も表しており、棒グラフが長いほど供給される電流の値が大きくなる。
すなわち上記の初期照射状態においては、エルボ点Eの近傍が最も明るく照射され、当該エルボ点Eから水平方向左右に離れるにしたがって照度が低くなるように照射領域が形成されている。
図5の(b)は、上記の初期照射状態から車両10が旋回等した場合に、付加配光パターンPA内で照射領域を右方向に移動する電子スイブル制御を行なった場合を示す図である。車両10の旋回等に応じて照射領域内における照度が最も高い部分領域をL7からL12にスイブル移動し、操舵先の所定箇所が最も高い照度となるように光の照射を行なうようにしている。
灯具ユニットの灯具光軸を機械的に旋回させるスイブル機構とは異なり、電子スイブル制御においては付加配光パターンPAそのものは左右に移動しない。したがって図5の(a)に示す状態から照射領域内の照度分布を維持したまま、換言すると照射領域に含まれて隣接している部分領域間の照度差を保ったまま照射領域を右側に移動すると、図5の(b)において棒グラフの白色部分で示すように、照射領域の一部(当初の下側部分領域L9〜L13に対応する部分)が付加配光パターンPAの右端から外に出てしまう。
その結果、照射領域のうち当初の下側部分領域L9〜L13に含まれていた部分については発光素子による光の照射を行なうことができないため、照射領域全体として照度が低下する。運転手には電子スイブル動作の実行後に前方の操舵先の照度が低下したように認識されてしまう。
そこで本実施形態においては、各発光素子の光度を独立して制御できるという発光素子アレイの特性に鑑み、照射領域のスイブル移動によって照度が低下する分を別の部分領域に割り当てて当該部分領域の照度を上昇させ、照射領域全体の照度を維持する制御を行なっている。
図5の(b)において斜線を付した部分の総面積は、図5の(a)に示す下側部分領域L9〜L13における棒グラフの総面積に一致している。当該部分領域に対応する照射領域の一部は、電子スイブルによる照射領域の移動後においては照射することができないため、その分だけ照度領域全体の照度が低下する。
本実施形態の調光制御においては、この低下分を適宜配分して下側部分領域L5〜L11に割り当てることにより、下側部分領域L5〜L11の照度を各々斜線を付した部分だけ上昇させる。結果としてスイブル移動後の照射領域内の照度分布は、白色部分に斜線部分を加えたものとなる。照射領域全体では移動前の照度が維持されているため、照射先が暗くなったという運転手の認識を抑制することができる。
統合制御部14より電子スイブル制御の実行が指示されると、現在の照射領域の照度分布を維持したまま所望のスイブル角に対応する量だけ付加配光パターンPA内でスイブル移動させた場合の、移動前後における照射領域全体の照度の差分が求められる。具体的には、現在の照射領域に含まれる部分領域に光を照射している発光素子を駆動する電流の総量と、上記スイブル移動後の仮想的な照射領域の形成に必要な発光素子を駆動する電流の総量との差分を、前照灯制御部20が算出する。
差分が零の場合は、スイブル移動後の仮想的照射領域全体が引き続き付加配光パターンPA内に収まっていることを意味する。この場合は特段の追加的処理を要しないため、現在の照射領域が所定量だけ付加配光パターンPA内でスイブル移動するように、各下側部分領域L1〜L13に対応する第1下側発光素子52L−1〜第13下側発光素子52L−13の点消灯および光度が制御される。
差分が生じている場合は、図5の(b)のようにスイブル移動後の仮想的な照射領域の一部が付加配光パターンPAの外に出てしまっていることを意味する。この例の場合、図5の(a)に示す現在の照射領域のうち、下側部分領域L9〜L13に光を照射している発光素子を駆動する電流量が差分として算出されることになる。
前照灯制御部20は、この差分として算出された電流量に基づき、スイブル移動後の照射領域の現実の照度分布を決定する。具体的には、付加配光パターンPA内に位置する別の部分領域に対応する発光素子の駆動電流を、算出された差分電流量を適宜配分した量だけ増加することをもって、スイブル移動後の照射領域を形成する各発光素子の駆動電流とする。
図5の(b)の例では、棒グラフの斜線部分が上記処理によって増加された駆動電流の量に相当する。図5の(a)に示す現在の照射領域のうち下側部分領域L9〜L13に光を照射している発光素子を駆動する電流量は、下側部分領域L5〜L11に光を照射する発光素子の駆動電流として配分加算される。
前照灯制御部20は、スイブル移動後の照度領域が上記のように決定された照度分布となるように、各下側部分領域L1〜L13に対応する第1下側発光素子52L−1〜第13下側発光素子52L−13の点消灯および光度を制御する。
すなわち本実施形態においては、付加配光パターンPA内において所定の照射領域をスイブル移動させる制御を行なう際において、照射領域に含まれて隣接している部分領域間の照度の差を、スイブル移動の前後で変化させることによって照度分布の変更を行なっている。スイブル移動後の照射領域においてそのような隣接部分領域が少なくとも一つ含まれていればよい。
換言すると、スイブル移動後の照射領域における所定の部分領域の照度を、スイブル移動前の照射領域における当該所定の部分領域に対応する部分領域の照度よりも高くするように制御を行なっている。
例えば図5の(a)に示すスイブル移動前の照射領域における下側部分領域L5に対応するのは、図5の(b)に示すスイブル移動後の照射領域における下側部分領域L10である。スイブル移動後の下側部分領域L10の照度は、スイブル移動前の下側部分領域L5の照度よりも高くなっている。スイブル移動後の照射領域においてそのような部分領域が少なくとも一つ含まれていればよい。
上記の制御指針に従う限りにおいて、差分電流量の配分の仕方は適宜定めることができる。上記の例では、差分電流量を全て別の部分領域に対応する発光素子に追加配分することによって、スイブル移動の前後で照射領域全体の照度が略一致するように制御を行なっているが、差分電流量の少なくとも一部を追加配分に供することとしてもよい。また配光の変化が一時的なものであれば、上記の差分電流量を上回る量を追加配分に供することとしてもよい。
差分電流量の配分は、移動後の照射領域を形成する部分領域に光を照射する各発光素子へ均等に追加することとしてもよい。また図5の(b)に示すように発光素子ごとに異なる電流量を追加することとしてもよい。
発光素子ごとに異なる電流量を追加配分する場合、統合制御部14が推定する運転手の視線位置に近い部分領域ほど照度の増加量が大きくなるように制御を行なうこととしてもよい。
例えば図5の(b)においては、運転手の視線位置が下側部分領域L9の近傍であると推定されている。そのため下側部分領域L9に近づくほど駆動電流の増加量が大きくなるように制御されている。この場合、運転手の視線推定位置近傍がより明るく照射されるように移動後の照射領域の照度分布が決定されるため、運転手による前方視認性をより向上させることができる。
図5の(b)における下側部分領域L5のように、スイブル移動前の照射領域に含まれていなかった部分領域に対応する部分領域(本来は非照射とされる部分領域)にも差分電流量の一部が配分されるようにしてもよい。またスイブル移動前の照射領域に含まれていた部分領域に対応する部分領域のみ(図5の(b)においては下側部分領域L6〜L13のみ)の照度を高くするように差分電流量の配分を決定してもよい。
上記の例では、照射領域の移動前後における発光素子を駆動する総電流量の差分を、前照灯制御部20が演算により算出し、これに基づいてスイブル移動後における照射領域の照度分布(駆動電流の追加配分)を決定している。しかしながら、スイブル移動後における照射領域の照度分布が互いに異なる複数の照射パターンを、予め想定される車両10の走行状態等に応じて複数記憶しておき、統合制御部14が検出する車両の走行状態等に応じて何れか一つの照射パターンを選択する構成としてもよい。この場合、前照灯制御部20の処理負荷を抑制することができる。
図4の(b)に示す上側部分領域U1〜U13に光を照射する上側発光素子52U−1〜52U−13については、上記に説明した下側発光素子52L−1〜52L−13と同様に制御できるため、詳細な説明を省略する。上側発光素子アレイ52Uと下側発光素子アレイ52Lとは、相関するように駆動制御をおこなってもよいし、独立して駆動制御を行なってもよい。
なお統合制御部14がスイブル移動後の照射領域内の照度分布を決定する処理までを行ない、決定結果に対応する各発光素子の点消灯および光度を示すコマンドを前照灯制御部20に出力する構成としてもよい。この場合において前照灯制御部20は、当該コマンドに基づいて各発光素子に流れる電流の供給・遮断を制御することとなる。
また上記の電子スイブル制御は、付加配光パターンPA内に検出された歩行者をスポット照射する場合にも適用可能である。例えば統合制御部14は、カメラ18から入力された画像データを解析し、車両前方における歩行者の有無を判定する。そのような歩行者が存在すると判定された場合に統合制御部14は、画像データを解析して得られた歩行者の位置を示す位置データを前照灯制御部20に出力する。
なおカメラ18から入力される画像データに加えてあるいは代えて、図示しないレーザセンサ等の前方センサにより取得される障害物データ等を利用して歩行者の存在を特定してもよい。
前照灯制御部20は、当該位置データの示す歩行者の位置が含まれる付加配光パターンPA内の部分領域を特定し、当該部分領域に対応する発光素子を点灯させる。歩行者がスポット照射される結果、歩行者に車両の存在を有効に知らしめるとともに、運転者は歩行者を確実に視認することができる。
車両の旋回等に伴って歩行者との相対位置が変化する場合、歩行者が照射される状態を維持するために、照射領域を付加配光パターンPA内でスイブル移動させる必要が生ずる。この状況下において、照射領域の少なくとも一部が付加配光パターンPAの外側に出てしまうことがありうる。
例えばスイブル移動後の照射領域の一部が付加配光パターンPAの左端から出てしまった場合、その一部に対応する分だけ照射領域の照度が下がり、発光素子を駆動する電流の総量が減少する。この減少分を、例えば付加配光パターンPAの左端部に位置する部分領域L1およびU1に光を照射する発光素子の駆動電流に加算することにより、照度の低下をある程度補うことができる。
なお上記の電子スイブル制御は、運転手の操作により有効無効を切り替え可能とされている。またナビゲーションシステム19が取得する車両の位置情報に基づいて統合制御部14が要否を判断し、自動的に有効無効を切り替え可能としてもよい。
以上説明したように、本実施形態の調光制御によれば、灯具光軸を機械的に旋回させるスイブル機構を省略して灯具ユニットの小型化・軽量化を図りつつ、電子スイブル制御に伴う照射領域の照度低下を最小限に抑え、運転者の前方視認性を確保することができる。
次に図6を参照しつつ、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、統合制御部14および前照灯制御部20が行なう調光制御が第1の実施形態と異なる。それ以外の前照灯制御システム11の構成は第1の実施形態と同一であるため、詳細な説明は省略する。
本実施形態の調光制御は、上述した歩行者のスポット照射に関する。カメラ18等により付加配光パターンPA内に歩行者が検出された場合、当該歩行者が位置する部分領域に光を局所的に照射する。このスポット照射は比較的高い光度の光で行なうため、光を照射する発光素子を駆動するために供給する電流が大きくなる。そのため、複数の歩行者が検出されて各歩行者をスポット照射する必要が生じた場合に、発光素子アレイに供給しうる定格電流値を超えてしまうおそれがある。
本実施形態の調光制御は、複数の歩行者に対するスポット照射を可能としつつ、発光素子アレイに供給される電流が定格値を超えないようにするためのものである。
図6の(a)は、付加配光パターンPA内に検出された二人の歩行者をスポット照射している場合における、下側部分領域L1〜L13の照度分布を示す図である。一人目の歩行者は下側部分領域L3とL4に対応する位置において、二人目の歩行者は下側部分領域L8とL9に対応する位置においてスポット照射を受けている。
図6の(b)は、上記のスポット照射を行なう発光素子に供給される電流量と、発光素子アレイ全体に供給される電流量の関係を示す図である。下段は下側部分領域L3とL4に光を照射する発光素子に供給される電流量の合計を、中段は下側部分領域L8とL9に光を照射する発光素子に供給される電流量の合計を、上段は下側発光素子アレイ52L全体に供給される電流量の合計を示している。Tは、下側発光素子アレイ52Lに供給可能な定格電流値を示している。
本実施形態の調光制御においては、スポット照射を行なう領域が複数存在する場合に、各領域に光を照射する発光素子を交互に点消灯させている。図6の(b)に示す例においては、下側部分領域L3とL4に光を照射する発光素子を点灯させているときは下側部分領域L8とL9に光を照射する発光素子を消灯させており、下側部分領域L3とL4に光を照射する発光素子を消灯させているときは下側部分領域L8とL9に光を照射する発光素子を点灯させている。
このように点消灯制御を行なうことにより、各スポット照射領域へ光の照射を行なう発光素子へ供給する電流を、下側発光素子アレイ52Lの定格電流値Tとして照度を確保しながらも、スポット照射の動作実行中を通じて下側発光素子アレイ52Lに供給される電流量が定格値Tを超えることがない。
複数のスポット照射領域間の切り替え周波数、すなわち各スポット照射領域に対応する発光素子の点消灯周波数がある程度高くなると、運転者には各スポット照射領域の照度が低下して視認されてしまう。そこで本実施形態においては、当該点消灯周波数を30Hz未満4Hz以上としている。これにより各スポット照射領域に位置する歩行者が、十分な明るさをもって運転者に視認されうる。
スポット照射を行なうべき歩行者が増加すると、各歩行者が繰り返し照射に供される周期は長くならざるを得ない。その場合、スポット照射を行なう領域の数に上限を設け、危険度の高い歩行者から優先的にスポット照射を行なうようにしてもよい。
具体的には、自車線内で検出される歩行者の優先度を最も高くし、次いで路肩から自車線に進入しつつある歩行者、路肩で検出される歩行者の順に優先度を低く設定する。これら歩行者の位置は、カメラ18等を通じて入力された画像データを統合制御部14が解析して行なう。
以上説明したように、本実施形態の調光制御によれば、付加配光パターンPA内でスポット照射が必要な領域が複数検出された場合においても、各スポット照射領域の照度を最大限としつつ、発光素子アレイに供給される電流が定格電流値を超えないように制御することが可能となる。
スポット照射を行なう対象は歩行者に限られるものではない。路肩に駐車中の車両等の障害物を照射対象に適宜含みうる。
次に図7を参照しつつ、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、第2灯具ユニット38に含まれる発光素子ユニット49aの構成が第1の実施形態における発光素子ユニット49と異なる。それ以外の前照灯制御システム11の構成は第1の実施形態と同一であるため、詳細な説明は省略する。
図4の(b)に示す付加配光パターンPAにおいて、上側部分領域U1〜U13は、H−H線近傍を含む下側部分領域L1〜L13と比較して細かな配光制御をする必要性が低い。換言すると、付加配光パターンPAの上側はより少ない数の部分領域で構成することが可能である。しかしながら数を減らした部分領域に対応するように発光素子の数を減らすと、各部分領域の照度低下あるいは配光面積不足が生じてしまう。
そこで本実施形態における発光素子ユニット49aは、発光素子の数は減らさずに照度を確保しつつ、配光制御可能な部分領域の数を減らすように構成されている。
図7の(a)に発光素子ユニット49aを車両前方から見た構成を示す。発光素子ユニット49aは、基板50上に実装された下側発光素子アレイ52Lおよび上側発光素子アレイ52Uaを備えている。下側発光素子アレイ52Lについては第1の実施形態と同一の構成であるため、詳細な説明を省略する。
図7の(b)は、本実施形態の発光素子ユニット49aにより形成される付加配光パターンPA’を示している。パターンの下側が13個の部分領域L1〜L13に分割されているのに対し、上側は6個の部分領域U13、U45、U6、U78、U910、およびU1113に分割されている。
上記のように分割された上側部分領域の各々に光を照射するために、本実施形態の上側発光素子アレイ52Uaを構成する複数の発光素子の幾つかは制御線53aによって直列に接続されている。
図7の(b)に示す例において上側部分領域U13は、下側部分領域L1〜L3に相当する面積を有している。この上側部分領域U13に光を照射するために、3つの上側発光素子52U−1〜52U−3が制御線53aによって直列に接続されており、同時に点消灯される。下側部分領域L1〜L3に相当する面積の上側部分領域U13を、下側部分領域L1〜L3に光を照射する下側発光素子と同数の上側発光素子で照射するため、上側部分領域U13の照度が低下することはない。
同様にして、下側部分領域L4、L5に相当する面積を有する上側部分領域U45は、直列接続された2つの上側発光素子52U−4および52U−5により照射される。上側部分領域U6については、第1の実施形態と同様に、上側発光素子52U−6が単独で点消灯制御される。上側部分領域U910およびU1113については、各々上側部分領域U45およびU13と同様であるため、詳細な説明を省略する。
このような構成によれば、発光素子の数を維持することにより各部分領域が十分な照度と配光面積で照射されつつ、発光素子の電源数を減らして製品コストを抑制することができる。また点消灯制御の対象が少なくなるため、前照灯制御部20の処理負荷を低減することができる。
上側部分領域の数および面積は、配光制御の仕様に応じて適宜定めることができる。図7の(b)に示す例では部分領域の分割の仕方が左右非対称であるが、左右対称としてもよい。
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
付加配光パターンPAに含まれる部分領域の数は、上記の構成に限られるものではない。水平方向(図4のH−H線方向)に二つ以上の任意の数を選択することができる。また垂直方向(図4のV−V線方向)に部分領域が一列のみ並ぶ構成としてもよい。
付加配光パターンPAに含まれる部分領域の形状は、上記の構成に限られるものではない。各部分領域の面積と形状の少なくとも一方は互いに相違してもよい。
ある特定の部分領域を照射する光源が右前照灯ユニット22Rと左前照灯ユニット22Lの各々に設けられている必要はない。所望の付加配光パターンPAが得られ、所定の部分領域を照射しうるのであれば、各部分領域を照射する少なくとも一つの光源の車両10における位置は任意である。
ロービーム用配光パターンPLを得るための第1灯具ユニット36を、第2右灯具ユニット38Rおよび第2左灯具ユニット38LのようにLEDアレイで構成してもよい。この場合、ロービーム用配光パターンPLを複数の部分領域に分割し、その少なくとも一つを選択的に照射領域または非照射領域とすることができる。
前照灯制御部20は、右前照灯ユニット22Rと左前照灯ユニット22Lの各々について設けられる構成としてもよい。