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JP5812361B2 - 遺伝子発現制御機構を含む新規Adベクター - Google Patents

遺伝子発現制御機構を含む新規Adベクター Download PDF

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JP5812361B2 JP2013145602A JP2013145602A JP5812361B2 JP 5812361 B2 JP5812361 B2 JP 5812361B2 JP 2013145602 A JP2013145602 A JP 2013145602A JP 2013145602 A JP2013145602 A JP 2013145602A JP 5812361 B2 JP5812361 B2 JP 5812361B2
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Description

本発明は、マイクロRNA(以下、「miRNA]という。)の標的配列を組み込んでなるアデノウイルス(以下、単に「Ad」という。)ベクターに関し、生体内に存在するmiRNAの標的配列を組み込むことによるAdベクターに組み込まれた遺伝子の発現を制御しうる遺伝子発現制御システムを搭載するAdベクターに関する。
近年、疾患に対する治療方法の一つとして、遺伝子治療の試みが多くなされている。例えば、癌細胞の増殖阻害方法として、特定の腫瘍マーカー(例えばeIF-4H)に特異的なsiRNAを活性成分として含有する遺伝子治療に関する医薬組成物について報告がある(特許文献1)。また、このような遺伝子治療のために使用可能なベクターについても各種報告があり、抗腫瘍剤として応用されることが期待されている(特許文献2、3)。
現在、遺伝子治療のベクターとして用いられるAdベクターは、サブグループC(sub-group C)に属した5型(あるいは2型)のヒトAdを基盤としている。ヒトAdはAからFまでのサブグループに分けられ、少なくとも51種類の血清型(serotype)が知られているが、サブグループB(sub-group B)に属するウイルスを除き、多くのAd(5型Adを含む)はレセプターとしてcoxsackievirus and adenovirus receptor(CAR)を認識して細胞に感染する(非特許文献1)。
Adベクターは、その優れた遺伝子導入特性から、遺伝子治療用ベクターとして各種疾患への適用が期待されている。しかしながら、Adベクターを腫瘍局所へ投与した場合、一部のAdベクターは腫瘍から全身循環に漏出した後、主に肝臓に集積し、遺伝子発現を示すことがある。目的とする疾患部位以外で遺伝子が発現すると、好ましくない副作用が生じることが懸念される。例えば、治療遺伝子に自殺遺伝子など、遺伝子発現細胞に対して毒性を示すような遺伝子を用いた場合は、腫瘍のみならず肝臓などの腫瘍ではない組織に対しても毒性を示してしまう場合がある。目的とする細胞や組織のみで所望の遺伝子を発現させることができれば、副作用を伴うことなく、効果的な遺伝子治療が行うことができると考えられる。
生体に内在するmiRNAに制御される部分を含むレンチウイルスベクターについて報告がある。しかしながら、レンチウイルスベクターの場合は、導入遺伝子が半永久的に発現するため、遺伝子治療の目的によっては好ましくない場合がある。所望の導入遺伝子が、所望の細胞や組織のみで、発現が必要な場合のみに発現可能な遺伝子治療用ウイルスベクターが望まれている。
特開2007−277204号公報 特開2007−209328号公報 特開2007−190022号公報
Science 275: 1320-1323, 1997
本発明は、所望の導入遺伝子が、所望の細胞や組織のみで、発現が必要な場合のみに発現可能な遺伝子治療用ウイルスベクターを提供することを課題とする。具体的には遺伝子治療用ベクターとしてAdベクターを用いた場合に、所望の導入遺伝子を、所望の細胞や組織のみで発現しうるベクターを提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Adベクターにおいて、導入遺伝子の発現を望まない細胞や組織に特異的に存在する内在性miRNAの標的配列をAdベクターに組み込むことにより、発現を望まない細胞や組織において、Adベクターに組み込まれた導入遺伝子の発現が阻止されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.正常細胞特異的に発現するmiRNAの標的配列を組み込んでなる、遺伝子発現制御機構を含むAdベクター。
2.正常細胞特異的に発現するmiRNAが、癌細胞では発現が抑制されているmiRNAである前項1に記載のAdベクター。
3.正常細胞特異的に発現するmiRNAが、肝細胞特異的に発現するmiRNAである前項1または2に記載のAdベクター。
4.miRNAが、miR−122a,miR−15,miR−16,miR−143,miR−145,let−7,miR−199のいずれかより選択される前項1〜3のいずれか1に記載のAdベクター。
5.miRNAの標的配列1単位の塩基長が、7〜25塩基長である前項1〜4のいずれか1に記載のAdベクター。
6.miRNAの標的配列1単位が、miRNAの全部または一部に対して相補的な配列からなり、配列表の配列番号1〜7のいずれかの塩基配列の相補配列から選択される少なくとも7塩基長のオリゴヌクレオチドを含む配列からなる前項1〜5の何れか1に記載のAdベクター:
miR−15 ;UAGCAGCACAUAAUGGUUUGUG (配列番号1)
miR−16 ;UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG (配列番号2)
miR−143 ;UGAGAUGAAGCACUGUAGCUC (配列番号3)
miR−145 ;GUCCAGUUUUCCCAGGAAUCCCU(配列番号4)
let−7 ;UGAGGUAGUAGGUUGUAUAGUU (配列番号5)
miR−122a;UGGAGUGUGACAAUGGUGUUUG (配列番号6)
miR−199 ;CCCAGUGUUCAGACUACCUGUUC(配列番号7)
7.miRNAの標的配列が、配列表の配列番号8に示す配列からなる前項1〜5の何れか1に記載のAdベクター:
標的配列:ACAAACACCATTGTCACACTCCACAGCACAAACACCATTGTCACACTCCATTAATACAAACACCATTGTCACACTCCAGGACACAAACACCATTGTCACACTCCA(配列番号8)。
8.Adベクターに組み込まれる所望の導入遺伝子の非翻訳領域に、遺伝子発現制御機構を含む前項1〜7の何れか1に記載のAdベクター。
9.前項1〜8の何れか1に記載のAdベクターを含む遺伝子治療用ベクター。
10.HSVTK(Herpes simplex virus thymidine kinase)遺伝子を導入遺伝子とし、該導入遺伝子の非翻訳領域に前項6又は7に記載のmiRNAの標的配列を含むAdベクターを含む遺伝子治療用ベクター。
11.前項10に記載の遺伝子治療用ベクターとガンシクロビルを併用して用いる、抗腫瘍剤キット。
12.以下の工程を含む、前項1〜9の何れかに記載のAdベクターの作製方法:
1)所望の導入遺伝子の非翻訳領域に、miRNAの標的配列からなる遺伝子発現制御機構を含む遺伝子発現シャトルプラスミドを作製する工程;
2)Adのゲノムを準備する工程;
3)Adのゲノムを制限酵素で切断し、1)で作製した遺伝子発現シャトルプラスミドをAdのゲノムにライゲーションする工程。
13.生体から分離した試料を検査する方法において、前項1〜9の何れか1に記載のAdベクターを用い、該Adベクター上に組み込まれたレポーター遺伝子の発現を確認して、試料中の前記Adベクター上に組み込まれた標的配列に対するmiRNAの存在を分析することを特徴とする試料の検査方法。
本発明の特定の細胞または組織に特異的に発現するmiRNAの標的配列を組み込んでなるAdベクターによれば、該特定の細胞または組織に発現するmiRNAが、前記Adベクター中の標的配列に作用することにより、特定の細胞または組織では、該Adベクターに組み込んだ遺伝子の発現が阻害もしくは抑制されることとなる。
上記作用により、例えば遺伝子治療において、特定の細胞または組織の他で組み込んだ遺伝子が効果的に発現し、特定の細胞または組織での遺伝子の発現を防ぐことで、遺伝子治療による不要な副作用を軽減化することができ、効果的な治療方法とすることができる。係るAdベクターを用いることにより、遺伝子治療において、効果的に遺伝子デリバリーを行うことができる。
本発明のAdベクターを作製するためのシャトルプラスミド((A)pCMVL1-mir122aT、(B)pCMVTK-mir122aT)を示す図である。(実施例1、2) 本発明のAdプラスミドの1例(pAdHM20-CMVL1-mir122aT-RL)を示す図である。(実施例2) 本発明のAdベクターを投与したときのIn vivoでの遺伝子導入結果を示す図である。(実験例1) 本発明のAdベクターを投与したときの癌治療効果を示す図である。(実験例2) 本発明のAdベクターを投与したときの肝臓に及ぼす影響(肝障害)を示す図である(GPT)。(実験例3) 本発明のAdベクターを投与したときの肝臓に及ぼす影響(肝障害)を示す図である(組織染色)。(実験例4) 本発明のAdベクターを投与したときの体重に及ぼす影響を調べた図である。(実施例5)
本発明において、Adとはアデノウイルスをさし、本発明において使用可能なAdは、in vivoまたはin vitroでDNAやRNAなどの核酸配列を種々のタイプの細胞へ導入するビヒクルとしての機能を達成しうるものであれば良く、特に限定されない。代表的には、ヒトを宿主とする2型、5型、11型、35型の各Ad、ヒト以外を宿主とするサルAd、チンパンジーAd、マウスAd、イヌAd、ヒツジAdおよびトリAdなどが挙げられる。
本発明においてAdゲノムとは特に限定されないが、特定の細胞種でのみ複製できるようにしたAdのゲノム、具体的にはE1領域欠損型Adや、制限増殖型Adのゲノムなどが好適であり、特に好適にはE1領域欠損型のAdゲノムが挙げられる。特定の細胞種でのみ複製できるとは、例えばE1領域欠損型Adについては293細胞で、制限増殖型Adについては293細胞や癌細胞でのみ増殖できるAdをいう。293細胞は、ヒト胎児腎細胞を5型AdのE1遺伝子によりトランスフォーメーションして樹立された細胞株であり、E1タンパク質を恒常的に発現している。
E1領域欠損型Adゲノムとは、E1領域を欠損するAdゲノムをいい、制限酵素によりE1領域を切断し、欠損させたAdゲノムをいう。E1領域欠損とは、E1タンパク質をコードする領域を機能的に欠損させることを意味する。機能的に欠損させるとは、例えば、宿主細胞内で機能するE1タンパク質を発現させないようにすることであり、E1タンパク質をコードする遺伝子のすべてを欠損している必要はない。
一般に、AdにおいてE1領域を欠損させると、E1タンパク質を発現している細胞(例えば、293細胞)以外では増殖することができない。
5型Adゲノム(GenBank Accession番号:M73260, M29978)の場合において、E1領域とは、具体的には342〜3523番目に相当する。したがって、本発明のAdゲノムは、宿主細胞内で機能するE1タンパク質を発現しないのであれば、342〜3523番目の領域の一部を有するものであってもよい。
本発明の改変型Adベクターは、E1領域の他に、例えばE3領域を欠損させた5型Adゲノムの一部または全部を用いてもよい。5型Adゲノム(GenBank Accession番号:M73260, M29978)のE3領域とは、28133〜30818番目または27865〜30995番目に相当する部位をいう。
制限増殖型Adは、E1タンパク質の発現が例えば癌細胞でのみ起こるAdであり、NATURE MEDICINE, 7, 781-787 (2001)に報告されているものを例示することができる。
本発明のAdベクターに備えられるプロモーターは、特に制限されない。例えば、ポリメラーゼII系(pol II系)またはポリメラーゼIII系(pol III系)のいかなるプロモーターであってもよい。具体的には、pol III系のプロモーターとしてU6プロモーターやH1プロモーターを例示することができ、pol II系のプロモーターとしてCMVプロモーターを例示することができる。本発明において、Adゲノムに対するプロモーターの導入位置は特に限定されない。プロモーターの導入位置は、Adの複製に影響を及ぼさない位置であればいずれの位置でもよい。例えばE1欠損領域、E3領域やE4領域と3’ITR(internal terminal repeat)の間の領域であってもよく、好適にはE1欠損領域が挙げられる。
本発明のAdベクターにおいて、遺伝子発現制御機構を含むとは、特定の細胞や組織特異的に発現するmiRNAの標的配列を含むことをいう。miRNAは細胞内に存在するタンパク質に翻訳されない長さ約19〜25塩基ほどの2本鎖RNAをいい、他の遺伝子の発現を調節する機能を有するといわれている。miRNAがその標的配列と結合すると、遺伝子の翻訳が阻害される。例えばRNAi分子のように、所望のmRNAの分解を引き起こす、若しくは翻訳を阻害する。従って、Adベクターに、所望の遺伝子を組み込んで発現させようとする場合、上記miRNAの標的配列を含むAdベクターであれば、特定の細胞や組織特異的に発現するmiRNAが存在する場合に、該miRNAとその標的配列が結合することにより、Adベクターに組み込まれた所望の遺伝子の発現を制御することができる。ここで、上記標的配列は、Adベクターに組み込まれる所望の導入遺伝子の非翻訳領域に組み込むのが好適である。
miRNAは、ヒトを含む生物に多数存在することが公知である。本発明におけるmiRNAは、特定の細胞または組織において特異的に発現するものであればよい。例えば、正常細胞に特異的に発現するmiRNA、癌細胞では発現が抑制されるmiRNA、また肝臓細胞特異的に発現するmiRNAなどが好ましい。正常細胞でのみ特異的に発現するmiRNAの標的配列をAdベクターに組み込むことで、例えば正常細胞では、Adベクターに組み込んだ遺伝子の発現を抑制することができ、正常細胞に対する発現遺伝子による毒性等を軽減化させることができる。同様に、肝臓細胞特異的に発現するmiRNAの標的配列をAdベクターに組み込むことで、例えば肝臓細胞では、Adベクターに組み込んだ遺伝子の発現を抑制することができ、肝毒性を軽減化させることができる。また、癌細胞では発現が抑制されるmiRNAの標的配列をAdベクターに組み込むことで、癌細胞が存在する場合に、Adベクター上の導入遺伝子を発現させることができ、癌細胞特異的に遺伝子治療を行うこともできるし、癌細胞の存在の有無をレポータータンパク質の発現を指標として、確認することもできる。癌細胞では発現が抑制されるmiRNAの例として、具体的にはmiR−15,miR−16,miR−143,miR−145,let−7,miR−199が挙げられる。また、肝臓細胞特異的に発現するmiRNAの例として、具体的にはmiR−122aが挙げられる。miRNAの配列や由来は、miRNAを掲載するデータベース、例えばmiRBase sequence database (http://microrna.sanger.ac.uk/sequences/index.shtml)を検索して確認することができる。
各miRNAの塩基配列は、以下のとおりである。
miR−15 ;UAGCAGCACAUAAUGGUUUGUG (配列番号1)
miR−16 ;UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG (配列番号2)
miR−143 ;UGAGAUGAAGCACUGUAGCUC (配列番号3)
miR−145 ;GUCCAGUUUUCCCAGGAAUCCCU(配列番号4)
let−7 ;UGAGGUAGUAGGUUGUAUAGUU (配列番号5)
miR−122a;UGGAGUGUGACAAUGGUGUUUG (配列番号6)
miR−199 ;CCCAGUGUUCAGACUACCUGUUC(配列番号7)
本発明において、miRNAの標的配列1単位はmiRNAの全部または一部に対して相補的な配列からなり、塩基長が7〜25塩基長であり、好ましくは15〜25塩基長,より好ましくは19〜25塩基長である。ここで、miRNAの標的配列1単位とは、あるmiRNAが標的としうる配列の最低限の単位のものをいう。具体的には、配列表の配列番号1〜7のいずれかの塩基配列の相補配列から選択される少なくとも7塩基長のオリゴヌクレオチドをいい、更にいずれかの箇所に置いて1〜複数個のヌクレオチドが、置換、欠失、付加、挿入されているものであってもよい。
本発明のAdベクターに組み込まれる標的配列全体としては、miRNAと標的配列の相互作用を効果的に発揮させるために、複数単位(複数コピー)のものであってもよい。ベクターに組み込む標的配列全体の長さは、ベクターに組み込み可能な長さであればよく、特に制限されないが、例えば標的配列1単位を10コピー含んでいてもよく、好適には2〜6コピー含んでいてもよい。標的配列全体の中に含まれる標的配列1単位の配列と配列の間には、適当な長さのオリゴヌクレオチドを含んでいてもよい。適当な長さのオリゴヌクレオチドの長さは特に制限されないが、標的配列全体としてベクターに組み込み可能な長さであればよく、例えば0〜8塩基長のオリゴヌクレオチドであってもよい。
本発明のAdベクターの作製は、作製工程において1または複数の制限酵素の認識配列を各々制限酵素で消化し、導入遺伝子を、シャトルベクターを介して、またはシャトルベクターを介することなく、インビトロライゲーションにより導入することができる。
本発明Adベクターは、以下の工程を含む製造方法により作製することができる。
1)導入遺伝子の非翻訳領域に目的miRNAの標的配列からなる遺伝子発現制御機構を含む遺伝子発現シャトルプラスミドを作製する工程;
2)Adゲノムを準備する工程;
3)Adゲノムを制限酵素で切断し、1)で作製した遺伝子発現シャトルプラスミドをAdゲノムにライゲーションする工程。
上記により得られたAdプラスミドは、上記プラスミド両末端を、制限酵素を用いて線状にし、これを例えば293細胞(E1欠損型Adベクターや制限増殖型Adベクターの場合)、または癌細胞(制限増殖型Adベクターの場合)にトランスフェクションすることで、上記遺伝子発現制御機構を含むAdベクターを作製することができる。
本発明において、Adベクターに組み込まれた所望の導入遺伝子とは、例えば遺伝子治療等に用いられる薬剤としての機能を有する遺伝子が挙げられる。遺伝子治療は、正常な遺伝子を細胞に補ったり、遺伝子の欠陥を修復・修正することで疾患を治療する場合に利用されるが、例えば癌に対しては癌に特異的な免疫反応をおこすサイトカインを発現させる遺伝子治療を挙げることができる。このように、遺伝子治療は生命活動の根幹を制御する治療法であり、遺伝子疾患だけでなく、癌やエイズ、そして難病など、様々な病気の治療への可能性が検討されている。具体的には、HSVTK(Herpes simplex virus thymidine kinase)遺伝子と抗ウイルス剤であるガンシクロビル(GCV)を用いた自殺遺伝子治療の検討が進められている。HSVTK遺伝子が発現することにより、GCVを活性化体に変換し、細胞死を誘導することで抗腫瘍作用を示す治療方法である。しかしながら、かかる自殺遺伝子が、癌細胞以外の場所で作用することにより、強い副作用を生じる危惧がある。本発明のAdベクターに組み込まれた所望の遺伝子は、前述の遺伝子治療に用いられるような遺伝子を挙げることができる。本発明のAdベクターを遺伝子治療に用いることで、必要とする細胞や組織以外の部位で、例えば前記自殺遺伝子が発現しないように遺伝子発現制御機構を含むことで、効果的な遺伝子治療を行うことができる。
本発明は、例えばHSVTK(Herpes simplex virus thymidine kinase)遺伝子を導入遺伝子とし、該導入遺伝子の非翻訳領域にmiRNAの標的配列を含むAdベクターを含む遺伝子治療用ベクターにも及ぶ。また、本発明の遺伝子治療用ベクターは、ガンシクロビルと併用して使用することで、より効果的な抗腫瘍剤として使用できることから、本発明は、遺伝子治療用ベクターとガンシクロビルを各々薬剤として含む抗腫瘍剤キットにも及ぶ。
本発明のAdベクターに組み込まれる所望の導入遺伝子は、使用の目的に応じ、例えばルシフェラーゼやGFPなどのレポータータンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、生体から分離した試料を検査する場合、試料において、特定の疾患に応じて試料中の特定のmiRNAの発現量が増減する場合がある。このような試料中に内在する特定のmiRNAの増減を調べる場合に、miRNAと本発明のAdベクター上のmiRNAの標的配列が結合することで、レポータータンパク質の発現が制御される。そこで、レポータータンパク質の発現を確認することで、試料中のmiRNAの存在を確認することができる。このように、該Adベクター上に組み込まれたレポーター遺伝子の発現を確認して、試料中の前記Adベクター上に組み込まれた標的配列に対するmiRNAの存在を分析することによる試料の検査方法も本発明の範囲に含めることができる。また、Adベクターに組み込まれる所望の遺伝子は、その発現を確認することができれば、使用する目的に応じて、どのような遺伝子であってもよい。さらに、本発明のAdベクターに組み込まれる所望の導入遺伝子は、上述のように遺伝子治療等に使用可能な遺伝子と、上述のレポータータンパク質をコードする遺伝子を組み合わせたものであってもよい。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
(実施例1)遺伝子発現制御システムを搭載したホタルルシフェラーゼ遺伝子発現カセットの作製
肝臓細胞で遺伝子発現が抑制されるような遺伝子発現カセットを作製した。CMVプロモーターにホタルルシフェラーゼ遺伝子と、その3’非翻訳領域に肝臓で特異的に発現するmiRNA(miR−122a)の標的配列を挿入し、シャトルプラスミドpCMVL1-mir122aTを作製した(図1(A)参照)。miRNAの標的配列として、miR−122aに完全相補な配列(標的配列1単位)を4コピー含む、配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挿入した。また遺伝子発現効率の補正を目的として、ウミシイタケルシフェラーゼ発現シャトルプラスミドpCMV-RL1を作製した。
標的配列:ACAAACACCATTGTCACACTCCACAGCACAAACACCATTGTCACACTCCATTAATACAAACACCATTGTCACACTCCAGGACACAAACACCATTGTCACACTCCA(配列番号8)
上記において、下線を施した部分は、配列表の配列番号6に記載する配列の相補配列と完全に一致する配列である。
(実施例2)遺伝子発現制御システムを搭載したHSVTK遺伝子遺伝子発現カセットの作製
特定のmiRNAを発現している細胞で遺伝子発現が抑制されるような遺伝子発現カセットを作製した。CMVプロモーターにHSVTK遺伝子と、その3’非翻訳領域に、実施例1と同様に肝臓で特異的に発現するmiRNA(miR−122a)の標的配列を挿入し、シャトルプラスミドpCMVTK-mir122aTを作製した(図1(B)参照)。
(実施例3)Adベクターの作製
AdゲノムのE3欠損領域に、遺伝子発現効率補正用にウミシイタケルシフェラーゼ発現カセットを挿入するため、実施例1で作製したシャトルプラスミドpCMV-RL1をCsp45Iで、AdプラスミドpAdHM20をClaIで切断し、両者の切断フラグメントを直接ライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌(DH5a)にトランスフォーメーションした。独立大腸菌クローンを培養し、プラスミドDNAを回収した。制限酵素解析を行い、ウミシイタケルシフェラーゼ発現単位が挿入されたプラスミドpAdHM20-RLを得た。
さらに、AdゲノムのE1欠損領域に、実施例1のmiRNAの標的配列による遺伝子発現制御システムを搭載したホタルルシフェラーゼ発現カセットを挿入するため、pCMVL1-mir122aTおよびpAdHM20-RLをそれぞれI-CeuIおよびPI-SceIで消化した。その後、得られたフラグメントをライゲーションし、pAdHM20-CMVL1-mir122aT-RLを作製した(図2)。
また、HSVTK発現プラスミドpAdHM20-HSVTK-mir122aTについては、同様に実施例2のmiRNAの標的配列による遺伝子発現制御システムを搭載したHSVTK発現カセットを挿入するため、pAdHM20およびpCMVTK-mir122aTをI-CeuIとPI-SceIで消化し、得られたフラグメントをライゲーションすることにより作製した。
次に作製したプラスミドを、ウイルスゲノム末端に制限酵素認識部位が存在するPacIで切断することにより線状にし、Superfect(R)(Qiagen社)を用いて293細胞にトランスフェクションした。約10日間培養後、miRNA標的配列(配列番号8)を含む遺伝子発現制御システムを搭載したホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼ発現Adベクター、Ad-L-mir122aT、およびHSVTK発現Adベクター、Ad-tk-mir122aTを得た。これらのベクターを増幅させ、塩化セシウムを用いた定法により精製した。精製したAdベクターの物理化学的力価は分光学的方法により測定した。
コントロールAdベクターとして、今回使用したmiR−122a標的配列と逆方向の配列を挿入したAd-L-mirConTおよびAd-tk-mirConT、およびmiR−122a標的配列を挿入していないAd-Lも同様に作製した。
(実験例1)In vivo遺伝子導入実験
C57Bl6マウス(5−6週令、メス)の下腹部にB16メラノーマ細胞を5×105 cells/50μlで皮下移植した。腫瘍の大きさが5−8mmに達した後、実験に用いた。実施例3で作製したホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼの発現Adベクター(Ad-L-mir122aT)並びにコントロールAdベクター(Ad-L, Ad-L-mirConT)を、各々3×109, 3×1010 vector particle (VP)/マウスの投与量で腫瘍に局所投与し、48時間後、腫瘍および各臓器を回収した。溶解緩衝液でホモジネートした腫瘍および各臓器を3回凍結融解したのち、15000rpm、10分間遠心処理し、上清を回収した。回収した上清中のホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼ活性を、Dual luciferase(R) Assay kit (Promega社)を用いて測定した。タンパク質量の定量は、Bio-Rad(R) assay kit (Bio-Rad社)を用いて行った。
Ad-L-mir122aTおよびAd-L-mirConTによるマウスの肝臓および腫瘍でのルシフェラーゼ遺伝子の発現量を、Ad-Lによる発現量を1としたときの相対比で示した(図3)。その結果、肝臓での遺伝子発現量は、Ad-Lによる発現量に比べて1/90〜1/100に減少した。一方で腫瘍での遺伝子発現量においては、miRNA標的配列を挿入することによる大きな影響は観察されず、Ad-Lと同程度の遺伝子発現量が維持されることを確認した。
(実験例2)癌治療効果の検討
実験例1と同様に作製した皮下腫瘍モデルマウスに対し、miRNA標的配列を含むHSVTK発現Adベクター(Ad-tk-mir122aT)、miRNA標的配列とは逆方向の配列を挿入したHSVTK発現Adベクター(Ad-tk-mirConT)およびmiR−122aの標的配列を含まないAd-Lを、各々3×109および3×1010 VP/腫瘍の各投与量で腫瘍内投与した。Adベクター投与翌日より毎日、ガンシクロビル(GCV)を75 mg/kgの投与量で腹腔内投与するとともに、腫瘍サイズを測定し、計算式よりその体積を求めた(腫瘍体積(mm3)=(長径)×(短径)2×0.5236)。
その結果、Ad-tk-mir122aTを腫瘍内投与した場合は、Ad-tk-mirConTと同程度の優れた抗腫瘍効果を示すことが確認され、miRNA標的配列を含むベクターを投与した場合であっても、抗腫瘍効果には悪影響を及ぼさないことが確認された(図4)。
(実験例3)肝障害の検討(GPT)
実験例2と同手法によりAdベクターを投与し、6日後に眼窩採血を行い、血清中のグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)濃度を測定した。
その結果、Ad-tk-mirConTを投与した場合に比べ、Ad-tk-mir122aTの場合は、GPT活性が低く抑えられ、肝障害が低く抑えられていることが確認された(図5)。
(実験例4)肝障害の検討(組織学的検討)
実験例2と同手法によりAdベクターを投与し、6日後に肝臓を回収し、組織切片を作製した。組織は、通常の方法に従って固定し、パラフィン包埋し、薄切切片を作製したものをヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。組織切片を顕微鏡下観察し、肝障害の程度を評価した。
その結果、Ad-tk-mirConTを投与した場合では、広範囲における肝細胞の変性や炎症性細胞の浸潤など肝障害を有意に認めたが(図6A)、Ad-tk-mir122aT(図6B)の場合は、生理食塩水(図6C)と同様に肝障害を認めなかった。
(実験例5)体重に及ぼす影響
実験例2と同手法によりAdベクターを投与し、10日後の体重を測定した。
その結果、Ad-tk-mirConTを投与した場合では、大きく体重の減少を認めたが、Ad-tk-mir122aTの場合は、生理食塩水投与の場合と比べて有意差を認めなかった(図7)。
以上詳述したように、本発明の特定の細胞または組織に特異的に発現するmiRNAの標的配列を組み込んでなるAdベクターを用いると、例えば遺伝子治療において、特定の細胞または組織とは異なる部位で、Adベクターに組み込んだ遺伝子の発現を効果的に抑制することができる。特定の細胞や組織での遺伝子の発現を防ぐことで、例えば正常細胞や肝細胞などの特定の細胞や組織において、遺伝子治療による不要な副作用を軽減化することができ、効果的な遺伝子治療方法とすることができる。係るAdベクターを用いることにより、遺伝子治療において、効果的に遺伝子デリバリーを行うことができる。
このように、本発明のAdベクターは、遺伝子治療に有効に利用することができる。その他、特定のmiRNAと本発明のAdベクターが作用することから、本発明のAdベクターを用いると、試料中のmiRNAの有無を検出することができ、これにより、試料中のmiRNAをマーカーとして試料の検査を行うことができる。例えば、特定の癌のみで発現抑制されるmiRNAが公知である場合に、このようなmiRNA標的配列とレポータータンパク質を含むAdベクターを用いて試料中のmiRNA標的配列をマーカーとして検出した場合、特定の癌の場合はmiRNAが抑制されることから、癌が存在する場合にのみレポータータンパク質が発現することとなる。このように、癌の検査などにも用いることができる。

Claims (5)

  1. 遺伝子発現制御機構とレポーター遺伝子が組み込まれた制限増殖型アデノウイルスベクターを用いて、生体から分離した試料を検査する方法であって、生体から分離した試料中のレポーター遺伝子の発現を確認することを含む検査方法であり、遺伝子発現制御機構は、標的配列1単位が、正常細胞に発現するマイクロRNAの全部または一部に対して相補的な19〜25塩基長の塩基配列である標的配列を組み込んでなる、試料の検査方法。
  2. 正常細胞に発現するマイクロRNAの標的配列が、特定の組織または細胞に発現するものである、請求項1に記載の試料の検査方法。
  3. 制限増殖型アデノウイルスベクターが、特定の細胞種において増殖可能な制限増殖型アデノウイルスベクターである、請求項1または2に記載の試料の検査方法。
  4. 制限増殖型アデノウイルスベクターが、癌細胞で増殖可能なものである、請求項1〜3のいずれか1に記載の試料の検査方法。
  5. 制限増殖型アデノウイルスベクターが、レポーター遺伝子の非翻訳領域に、遺伝子発現制御機構が組み込まれてなるベクターである、請求項1〜4のいずれか1に記載の試料の検査方法。
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