JP5842577B2 - 耐歪時効性に優れた高靱性低降伏比高強度鋼板 - Google Patents
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さらに、冷却−再熱処理による昇温速度、再熱温度および保持時間を変化させてMAの形態について調査した結果、MA中に含まれるγ相の面積分率が10%以下であることが重要であることがわかった。同様に、熱処理条件によって、MA中の組織形態、炭素濃度および炭化物量を制御できることがわかった。このMA形態制御に関する知見をもとに、耐歪み時効特性について検討を行った。
本鋼材の成分組成を規定した理由について説明する。なお、成分%は、すべて質量%を意味する。
Cは炭化物として析出強化に寄与し、且つMA生成に重要な元素であるが、0.04%未満の含有ではMAの生成に不十分であり、また十分な強度が確保できない。0.07%を超える含有は溶接熱影響部(HAZ)靭性を劣化させるため、C量は0.04〜0.07%の範囲とする。
Siは脱酸のため含有するが、0.01%未満の含有では脱酸効果が十分でなく、1.0%を超えて含有すると、靭性や溶接性を劣化させるため、Si量は0.01〜1.0%の範囲とする。好ましくは0.01〜0.2%の範囲である。
Mnは強度、靭性向上、更に焼入性を向上しMA生成を促すために含有するが、1.2%未満の含有ではその効果が十分でなく、3.0%を超えて含有すると、靱性ならびに溶接性が劣化するため、Mn量は1.2〜3.0%の範囲とする。成分や製造条件の変動によらず安定してMAを生成するためには、1.5%以上の含有が望ましい。さらに好適には、1.5〜1.8%の範囲である。
本発明でP、Sは不可避的不純物であり、その量の上限を規定する。Pは、含有量が多いと中央偏析が著しく、母材靭性が劣化するため、P量は0.015%以下とする。Sは、含有量が多いとMnSの生成量が著しく増加し、母材の靭性が劣化するため、S量は0.005%以下とする。
Alは脱酸のため含有するが、0.08%を超えて含有すると鋼の清浄度が低下し、靱性が劣化するため、Al量は0.08%以下とする。好ましくは、0.01〜0.08%の範囲である。
Nbは組織の微細粒化により靭性を向上させ、さらに固溶Nbの焼入性向上により強度上昇に寄与する元素である。しかし、0.005%未満の含有では効果がなく、0.05%を超えて含有すると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、Nb量は0.005〜0.05%の範囲とする。好ましくは0.01〜0.03%の範囲である。
TiはTiNのピニング効果により、スラブ加熱時のオーステナイト粗大化を抑制し、母材靭性を向上させる重要な元素である。その効果は、0.005%以上の含有で発現する。
しかし、0.025%を超える含有は溶接熱影響部靭性の劣化を招くため、Ti量は0.005〜0.025%の範囲とする。溶接熱影響部靭性の観点からは、好ましくは、0.005%以上0.02%未満の範囲である。
Nは不可避的不純物として扱うが、N量が0.010%を超えると、溶接熱影響部靭性が劣化するため、N量は0.010%以下とする。好ましくは0.005%である。
本発明でOは不可避的不純物であり、その量の上限を規定する。Oは粗大で靱性に悪影響を及ぼす介在物の生成を抑制するため、O量は0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
Cuは、鋼の焼入性向上に寄与するが、0.5%を超えて含有すると、靱性劣化が生じるため、Cuを含有する場合は、Cu量は0.5%以下とすることが好ましい。さらに好適には0.3%以下である。
Niは、鋼の焼入性向上に寄与し、特に、多量に含有しても靱性劣化を生じないため、強靱化に有効であることから、含有することが可能である。しかし、Niは高価な元素であるため、Niを含有する場合は、Ni量は1%以下とすることが好ましい。さらに好適には0.3%以下である。
Crは、Mnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるので含有してもよい。その効果を得るためには、0.1%以上含有することが好ましいが、過剰に含有すると溶接性が劣化するため、Crを含有する場合は、Cr量は0.5%以下とすることが好ましい。さらに好適には0.3%以下である。
Moは、焼入性を向上させる元素であり、MA生成やベイナイト相を強化することで強度上昇に寄与する元素であるので含有することが可能である。しかし、0.5%を超えて含有すると、溶接熱影響部靭性の劣化を招くことから、Moを含有する場合には、Mo量は0.5%以下とすることが好ましく、さらに好適には0.3%以下である。
Vは、添加しなくてもよいが、焼入性を高め、強度上昇に寄与する元素であるので含有してもよい。その効果を得るためには、0.005%以上含有することが好ましいが、0.1%を超えて含有すると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、Vを含有する場合は、V量は0.1%以下とすることが好ましい。さらに好適には0.08%以下である。
Caは硫化物系介在物の形態を制御して靭性を改善するので含有してもよい。0.0005%以上でその効果が現れ、0.003%を超えると効果が飽和し、逆に清浄度を低下させて靭性を劣化させるため、含有する場合にはCa量は0.0005〜0.003%の範囲とすることが好ましい。
Bは強度上昇、溶接熱影響部靭性改善に寄与する元素であるので含有してもよい。その効果を得るためには、0.0005%以上添加することが好ましいが、0.005%を超えて添加すると溶接性を劣化させるため、Caを含有する場合は、B量は0.005%以下とすることが好ましい。さらに好適には0.0025%以下である。
本発明では、ベイナイトに加えて面積分率が3〜15%かつ円相当径5.0μm以下の島状マルテンサイト(MA)を均一に含む金属組織とする。また、MAの形態については、MA中のγ分率が10面積%以下で、MA分率とMA中の炭素濃度の積が3.0から4.5である組織を有している。
低降伏比化、高一様伸び化および母材靭性の観点から、組織中のMAの割合は、MAの面積分率(圧延方向や板幅方向等の鋼板の任意の断面におけるMAの面積の割合から算出)で、3〜15%とする。MAの面積分率が3%未満では低降伏比化を達成するには不十分な場合があり、また15%を超えると母材靱性を劣化させる場合があるので、MAの面積分率は3〜15%の範囲とする。より好ましくは5〜12%の範囲である。
母材の靭性確保及び一様伸び向上の観点からMAの円相当径は5μm以下とする。MAの平均直径が、5μmを超えると、靱性の劣化が生じるので、MAの円相当直径は5μm以下とする。
MA中に占めるγ相は、低降伏比および一様伸びに寄与するが、その割合が10%を超えると、耐歪み時効時にγ相が時効硬化し耐歪み時効特性が劣化するため、上限を10%とする。
MA相の分率とMA相中のC濃度の積は、歪み時効後の低降伏比および靱性の観点から重要である。この値が大きいと、MA中に過剰な炭素が多く含まれるために、歪み時効後の降伏応力の上昇や炭化物形成による靱性低下が発生し、耐歪み時効性が劣化する。また、この値が小さい場合にも、MAが不安定となり歪み時効後の降伏応力上昇や、母相中の固溶炭素や析出物が多いために、歪み時効後の靱性の低下が発生する。MA中のC濃度とMAの分率について鋭意検討した結果、MA分率[面積%]とMA中のC濃度[質量%]の積は、3.0〜4.5の範囲とする。
MAの面積分率は、組織観察を実施し、そのミクロ組織写真を画像処理することによってMAの占める面積率から算出することができる。MAの円相当径は、組織を画像処理し、個々のMAと同じ面積の円の直径を個々のMAについて求め、それらの直径の平均値として求める。具体的には、1000倍から5000倍程度でSEM(走査型電子顕微鏡)観察を少なくとも4視野以上で実施する必要がある。このときの試料調整法としては、対象のMAを的確に認識できれば良く、化学エッチング、イオンエッチング、コロイダルシリカ研摩、電解研摩等で実施すれば良い。
以下に、一定量のMA相を形成するために、加速冷却、再加熱による手法で実施した例について述べるが、本発明を実施するための金属組織を実現するための熱処理条件については、ベーナイト変態途中に未変態γ粒に一定量のCを濃化させ、最終組織として粒径5.0μm以下のMA相を一定量形成させればよいため、製造方法については特に限定するものではない。
本発明に係る耐座屈性能に優れた低降伏比高強度鋼管は上述した引張強度特性を備えた母材鋼板を常法に従い、Uプレス、Oプレスで円筒形とした後、シーム溶接を行って製造することが可能である。
歪時効処理の温度と時間は250℃以下、30分以下とする。
本発明の効果(歪時効処理前後で一様伸び、降伏比の劣化がない)が得られるのは、CR強化(900℃以下累積圧下率50%以上)およびHOP再加熱時の昇温速度を2℃/s以上と限定し、MAの形状制御することで、従来以上に時効を受けてもMAが安定して存在し、ベイナイトとMAの2相組織形態を維持することが可能であり、歪時効後のYS上昇に伴う降伏比の劣化や一様伸び、靭性の劣化が少ない。
Claims (3)
- 成分組成が、質量%で、C:0.04〜0.067%、Si:0.01〜1.0%、Mn:1.2〜3.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.08%以下、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.010%以下、O:0.005%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイトに島状マルテンサイトを含む組織からなり、前記島状マルテンサイト(以下MAと呼ぶ)の面積分率が3〜15%かつ円相当径が5.0μm以下であり、MA中に含まれるγ相の面積分率が10%以下で、MA中の炭素濃度(質量%)とMAの分率(面積%)の積の値が、3.0〜4.5であることを特徴とする耐歪時効特性に優れた高靱性低降伏比高強度鋼板。
- 更に、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、V:0.1%以下、Ca:0.0005〜0.003%、B:0.005%以下の中から選ばれる一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐歪時効特性に優れた高靱性低降伏比高強度鋼板。
- 請求項1又は2に記載の高靱性低降伏比高強度鋼板の製造方法であって、
スラブを1090〜1280℃に加熱後、900℃以下の累積圧下率が55〜75%、圧延終了温度がオーステナイト領域の条件で圧延し、開始温度がAr 3 変態点以上、冷却速度が12〜45℃/s、冷却停止温度が450〜550℃、未変態オーステナイトが存在する温度域で終了する条件で加速冷却を行い、再加熱温度が550〜650℃の再加熱を行い、必要に応じて再加熱温度で保持し、その後、冷却することを特徴とする高靱性低降伏比高強度鋼板の製造方法。
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