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JP5728335B2 - エステル交換油脂の製造方法及びその装置 - Google Patents

エステル交換油脂の製造方法及びその装置 Download PDF

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Description

本発明は、大豆粉末及び/又は大豆蛋白を含む大豆粉状物に、油脂を含むエステル交換用原料を、リパーゼの不存在下で接触させて反応基質を得、得られた反応基質をリパーゼ含有組成物の存在下でエステル交換反応させる、エステル交換油脂の製造方法、及び当該方法に用いるための油脂の製造装置に関する。
リパーゼは、脂肪酸などの各種カルボン酸とモノアルコールや多価アルコールなどのアルコール類とのエステル化反応、複数のカルボン酸エステル間のエステル交換反応などに幅広く使用されている。このうち、エステル交換反応は、動植物油脂類の改質をはじめ、各種脂肪酸のエステル、糖エステルやステロイドエステルの製造法として重要な技術である。これらの反応の触媒として、油脂加水分解酵素であるリパーゼを用いると、室温〜約90℃程度の温和な条件下でエステル交換反応を行うことができ、従来の化学反応に比べ、副反応の抑制やエネルギーコストが低減化されるだけでなく、触媒としてのリパーゼが天然物であることから安全性も高い。また、その基質特異性や位置特異性により目的物を効率良く生産することができる。
このようなリパーゼは高価であるため、反応終了後回収して繰り返し使用されてきた。容易に回収できるようにするためにも、陰イオン交換樹脂やフェノール吸着樹脂等に固定化した固定化リパーゼ、及び、リパーゼ水溶液をスプレードライ等で処理することにより製造した粉末リパーゼが使用されてきた。しかし、リパーゼの形態を改良しても、繰り返し使用するにつれてリパーゼの活性は低下し、最終的には廃棄する必要があった。従って、繰り返し使用しても活性が低下しづらいリパーゼを得ること、及び、活性が低下しないように原料やリパーゼに前処理を施すことが望まれていた。
一方、大豆粉末及び/又は大豆蛋白は、リパーゼの造粒に用いられてきた。即ち、大豆粉末及び/又は大豆蛋白を含むリパーゼ水溶液をスプレードライ等で造粒して粉末リパーゼを得、当該粉末リパーゼを用いたエステル交換反応に使用されてきた(特許文献1〜3)。しかし、大豆粉末及び/又は大豆蛋白をエステル交換反応の前に、リパーゼの不存在下でエステル交換反応の原料と接触させる研究はなされていない。
国際公開第WO2008/114656号パンフレット 国際公開第WO2008/010543号パンフレット 特開2008−022744号公報
本発明は、リパーゼを用いたエステル交換反応で油脂を製造する方法において、当該リパーゼの活性の低下を極力抑えてリパーゼ含有組成物を繰り返し使用することができるエステル交換油脂の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、又、当該油脂の製造方法を実施するのに適した油脂の製造装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を達成するため、リパーゼを用いたエステル交換反応で油脂を製造する方法において、大豆粉末及び/又は大豆蛋白で事前に油脂を処理することにより、続く当該油脂のエステル交換反応において、エステル交換反応に用いられるリパーゼの活性を大きく低下することなく、所望のエステル交換油脂を製造できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
[1](1)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物に、リパーゼの不存在下で、油脂を含むエステル交換用原料を接触させて反応基質を得る工程;及び
(2)前記反応基質をリパーゼ含有組成物の存在下でエステル交換反応させる工程;
を含むことを特徴とする、エステル交換油脂の製造方法に関する。
[2]前記工程(1)の後であって前記工程(2)の前に、前記反応基質を前記大豆粉状物から分離する工程をさらに含む、[1]に記載の方法に関する。
[3]前記リパーゼ含有組成物が、粉末状物の形態にある、[1]又は[2]に記載の方法に関する。
[4]前記リパーゼ含有組成物が、ろ過助剤を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法に関する。
[5]前記大豆粉状物が、大豆を脱脂せず、かつ非加熱下で粉末化することによって得られる全脂大豆粉末である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法に関する。
[6]前記工程(1)が、ろ過助剤の存在下で行われる、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法に関する。
[7]前記原料が、脂肪酸エステルを含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法に関する。
[8]
(a)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物を収容するが、リパーゼを含まない第1処理槽;
(b)リパーゼ含有組成物を収容する第2処理槽;
(c)油脂を含むエステル交換用原料を前記第1処理槽に導入する第1流路;
(d)前記第1処理槽で前記原料と前記大豆粉状物とが接触して得られる反応基質を前記第2処理槽に導入する第2流路;及び
(e)前記第2処理槽で前記反応基質と前記リパーゼ含有組成物とがエステル交換反応して得られるエステル交換油脂を前記第2処理槽から排出する第3流路;
を含む、油脂の製造装置に関する。
[9]前記第1処理槽が、反応基質と大豆粉状物とを分離する分離手段を含む、[8]に記載の装置に関する。
[10]前記第1処理槽及び/又は第2処理槽がカラムである、[8]又は[9]に記載の装置に関する。
[11]前記リパーゼ含有組成物が、粉末状物の形態にある、[8]〜[10]のいずれかに記載の装置に関する。
[12]前記大豆粉状物が、大豆を脱脂せず、かつ非加熱下で粉末化することによって得られる全脂大豆粉末である、[8]〜[11]のいずれかに記載の装置に関する。
[13]前記第1処理槽及び/又は第2処理槽が、ろ過助剤を収容する、[8]〜[12]のいずれかに記載の装置に関する。
[14]前記原料が、さらに脂肪酸エステルを含む、[8]〜[13]のいずれかに記載の装置に関する。
本発明によれば、エステル交換反応による油脂の製造方法において、エステル交換反応に先立って、大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物を、リパーゼの不存在下で、油脂を含むエステル交換反応用の原料と接触させ、次いでこの接触させた原料(反応基質)をリパーゼ含有組成物の存在下でエステル交換反応させて前記油脂を改質し、エステル交換油脂を製造することにより、当該リパーゼ含有組成物を繰り返し使用しても、リパーゼの活性が大きく低下することがないものである。
また、本発明によれば、上記油脂の製造方法を実施するのに適した油脂の製造装置を提供できる。
本発明の油脂の製造装置の概略図である。 本発明の油脂の製造装置の概略図である。
<油脂の改質方法>
本発明の一つの態様は、(1)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物に、リパーゼの不存在下で、油脂を含むエステル交換用原料を接触させて反応基質を得る工程;及び(2)前記反応基質をリパーゼ含有組成物の存在下でエステル交換反応させる工程;を含むことを特徴とする、エステル交換された油脂の製造方法である。この方法について、以下詳細に説明する。
<エステル交換用原料の接触工程>
本発明は、まず、(1)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物に、リパーゼの不存在下で、油脂を含むエステル交換用原料を接触させて反応基質を得る接触工程(1)を含む。具体的には、例えば、大豆粉状物を原料とともに処理槽に入れ、接触させることによって行われる。処理槽としては、例えば、タンク、カラム、ろ過器などを用いることができる。タンクの場合は、攪拌機付のタンクであることが好ましく、原料と大豆粉状物とを接触した後、ろ過もしくは遠心分離機で大豆粉状物を除去できることが好ましい。また、カラムやろ過器に大豆粉状物を充填・保持し、原料を当該カラムやろ過器に通液してもよい。原料を通液することにより、通液と同時に大豆粉状物も除去でき、装置もタンクに比べてコンパクトになるので好ましい。ろ過器としては、例えば、単板ろ過器、フィルタープレス等を用いることが好ましい。タンク、カラム、ろ過器は、ガラス製、プラスチック製もしくは鉄、ステンレスなどの金属製を用いることができるが、耐久性の点から金属製であることが好ましい。本接触工程は、原料のエステル交換反応前処理を目的としているので、リパーゼの不存在下で行われる。従って、上記処理槽に反応用のリパーゼが含まれないだけでなく、大豆粉状物や原料にも反応用のリパーゼは含まれない。
大豆粉状物と原料との接触は、5秒以上接触することが好ましく、1分以上接触させることがより好ましい。最も好ましくは、4分以上である。タンクを用いる場合などは大豆粉状物と原料の長時間接触による悪影響はないが、作業的に、48時間以内の接触が好ましい。例えば、カラムで行う場合、大豆粉状物1kgに対して、質量比で1〜2000倍の原料を通液させる。好ましくは200〜1000倍である。また、通液速度は、大豆粉状物1kgに対して、原料を0.5〜100kgを1時間かけて、通液することが好ましい。特に好ましくは、原料を5〜30kgを1時間かけて通液することが適当である。なお、通液中のカラム内温度は、20〜90℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。最も好ましくは、40〜60℃である。
このようにして大豆粉状物と原料とを接触させ、次のエステル交換反応で使用される反応基質を得ることができる。
大豆粉状物は、大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される。大豆粉末としては、例えば、全脂大豆粉末、脱臭全脂大豆粉末、脱脂大豆粉末等を用いることができる。大豆蛋白としては、例えば、粉末状の分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白等を用いることができる。これら大豆粉状物は、少なくとも大豆の収穫直後に大豆を乾燥させるため、加熱乾燥を行なうことがあるが、それ以外の工程で大豆を加熱処理せず粉末化してもよく(全脂大豆粉末)、あるいは、例えば、50〜300℃、好ましくは、60〜200℃、より好ましくは、80〜150℃に10秒以上、好ましくは20〜300秒、より好ましくは30〜200秒加熱処理して粉末化したものであってもよい。特に好ましい大豆粉状物は、大豆を脱脂せず、かつ非加熱下で粉末化した全脂大豆粉末である。
大豆粉状物の粒子径は、例えばメジアン径で10〜500μm、好ましくは、20〜100μm、より好ましくは25〜50μmの範囲内にあることが適当である。ここで粒子径(メジアン径)は、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。
さらに、上記接触工程(1)が、ろ過助剤等の助剤の存在下で行われてもよい。ろ過助剤としては、例えば、セライトなどの無機ろ過助剤及びセルロースなどの繊維やその粉砕物などの有機ろ過助剤が挙げられる。ろ過助剤としては、有機ろ過助剤、特に有機高分子ろ過助剤が好ましく、なかでもセルロースパウダーなどが好ましい。ろ過助剤は、粉状であるのが好ましい。粉状のろ過助剤の平均粒子径は、例えば、10〜90μm、より好ましくは20〜80μmであることが適当である。接触工程(1)中に存在する大豆粉状物:ろ過助剤の質量比は、例えば、1:10〜10:1であることが好ましく、特に1:7〜2:1であることが好ましい。
原料は、その後のエステル交換反応に用いられる原料であり、具体的には、油脂を含み、任意に脂肪族エステルを含む。
油脂としては、例えば、構成脂肪酸の炭素数が8〜24のトリアシルグリセリドが好ましく、特に植物油、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ油、紅花油、コーン油からなる群から選ばれる植物油が好ましい。
脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは8〜22の、直鎖又は分枝鎖の、飽和又は不飽和の脂肪酸エステルが好適である。ここで脂肪酸には、例えば、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、及びベヘン酸などが挙げられる。特に好ましい脂肪酸エステルとしては、パルミチン酸エチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸メチル、ベヘン酸エチル、ベヘン酸メチルが挙げられる。
本発明の原料中の脂肪酸エステルと油脂の質量比は、例えば、9:1〜1:9、好ましくは、8:2〜2:8、より好ましくは、7:3〜5:5が適当である。
また、原料に水が含まれていてもよい。原料に含まれる水の量は、原料全体の質量に対し、例えば、10〜5000ppm、好ましくは、150〜5000ppm、より好ましくは150〜800ppm、最も好ましくは200〜400ppmであることが適当である。
また、油脂と脂肪酸によるエステル交換反応としては、リパーゼの持つ1,3−特異性リパーゼを利用した構造油脂の製造をすることができる。グリセリン骨格の2位に特定の脂肪酸を残して1,3位の脂肪酸を目的の脂肪酸に置き換えるものである。得られたものはチョコレート等に使用する油脂へ利用でき、また特定の栄養効果を持つ油脂へ利用できる。
<エステル交換反応させる工程>
本発明は、次に、(2)前記反応基質をリパーゼ含有組成物の存在下でエステル交換反応させる工程を含む。
本発明のエステル交換反応の条件については、特に限定するものではなく、常法により行うことができる。
一般的には、加水分解の原因となる水分の混入を避けながら、常圧又は減圧下にて行なわれる。反応温度としては、使用する反応基質の凝固点にもよるが、20〜80℃程度で行うことが好ましく、凝固点により限定されなければ、40〜60℃で行うことがより好ましい。
具体的には、例えば、反応基質を処理槽に入れ、リパーゼ含有組成物中のリパーゼに接触させることによって行われる。処理槽としては、例えば、タンク、カラム、ろ過器などを用いることができる。タンクの場合は、攪拌機付のタンクであることが好ましく、原料とリパーゼとを接触した後、ろ過もしくは遠心分離機でリパーゼを除去できることが好ましい。また、カラムやろ過器に固定化リパーゼもしくは粉末リパーゼを充填・保持し、反応基質を当該カラムやろ過器に通液することで反応させてもよい。この時のろ過器としては、例えば、単板ろ過器、フィルタープレス等を用いることが好ましい。タンク、カラム、ろ過器は、ガラス製、プラスチック製もしくは鉄、ステンレスなどの金属製を用いることができるが、耐久性の点から金属製であることが好ましい。
タンクを用いたバッチ処理によるエステル交換反応においては、リパーゼの種類及び活性の程度により異なるが、通常の粉末リパーゼ、固定化リパーゼなどのリパーゼ含有組成物を用いた場合は、反応基質の合計質量に対するリパーゼ含有組成物の添加量が、例えば、0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%となるように接触させることが適当である。このように接触させることで、反応時間1〜100時間でエステル交換反応を終了することができ、適当である。また、カラム等を用いて連続でエステル交換反応を行う場合は、リパーゼ含有組成物1kgに対して、質量比で、100〜100000倍の反応基質を通液させることが適当である。なお、通液速度は、リパーゼ含有組成物1質量kgに対して、0.5〜200kgの反応基質を1時間かけて、通液することが好ましい。特に好ましくは、5〜100kgの反応基質を1時間かけて通液することが適当である。なお、通液中のカラム内温度は、20〜90℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。最も好ましくは、40〜60℃である。最適なリパーゼ含有組成物の添加及び反応基質の通液量は、反応温度、設定する反応時間、リパーゼ含有組成物中のリパーゼの活性等により決定される。このようにしてリパーゼと反応基質とを接触させ、エステル交換反応により反応基質中の油脂を改質し、エステル交換油脂を製造することができる。
本発明のリパーゼ含有組成物は、リパーゼのみからなっていてもよく、また、リパーゼ以外に、リパーゼの培地に用いた成分及び助剤を任意に含んでいてもよい。
本発明において使用できるリパーゼとしては、リポプロテインリパーゼ、モノアシルグリセロリパーゼ、ジアシルグリセロリパーゼ、トリアシルグリセロリパーゼ、ガラクトリパーゼ、フォスフォリパーゼ等が挙げられる。これらのうち、トリアシルグリセロリパーゼが好ましい。
これらのリパーゼを産生する微生物としては、細菌、酵母、糸状菌、放線菌等特に限定されるものではないが、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、アスロバクター属(Arthrobacter sp.)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus sp.)、トルロプシス属(Torulopsis sp.)、エスチエリシア属(Escherichia sp.)、マイコトルラ属(Mycotorula sp.)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterum sp.)、クロモバクテリウム属(Chromobacterum sp.)、キサントモナス属(Xanthomonas sp.)、ラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)、クロストリデイウム属(Clostridium sp.)、キャンデイダ属(Candida sp.)、ジオトリカム属(Geotrichum sp.)、サッカロマイコプシス属(Sacchromycopsis sp.)、ノカルデイア属(Nocardia sp.)、フザリウム属(Fuzarium sp.)、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)、リゾムコール属(Rhizomucor sp.)、ムコール属(Mucor sp.)、サーモマイセス属(Thermomyces sp.)リゾプス属(Rhizopus sp.)、ペニシリウム属(Penicillium sp.)、フィコマイセス属(Phycomyces sp.)、プチニア属(Puccinia sp.)、バチルス属(Bacillus sp.)、ストレプトマイセス属(Streptmyces sp.)、などが挙げられる。
本発明では、これらのうち、アルカリゲネス属、シュードモナス属、リゾムコール属、ムコール属、サーモマイセス属、リゾプス属又はペニシリウム属由来のリパーゼが好ましい。中でも、アルカリゲネス属のAlcaligenes sp.由来のリパーゼ、リゾムコール属のリゾムコール ミーヘイ(Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ、サーモマイセス属のサーモマイセス ラヌゲノウス(Thermomyces lanuginosus)由来のリパーゼ、リゾプス属のリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)由来のリパーゼ、及びリゾプス属のリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)由来のリパーゼがより好ましい。リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)由来のリパーゼが特に好ましい。
本発明のリパーゼ含有組成物で使用するリパーゼとしては、培養し、リパーゼの培地成分等を含有したリパーゼ含有水性液体を乾燥して得られたものでもよいが、これらを含有していないもの、つまり実質的にリパーゼ自体から構成されるものが好ましい。本発明のリパーゼ含有組成物としては、リパーゼの培養後、菌体を除去し、固定化したもの、もしくはさらに粉末化したものがより好ましい。
本発明で用いるリパーゼは、位置特異性を有していても有していなくてもよい。位置特異性を有している場合、1,3−特異性であるのが好ましい。
リパーゼの培養に用いられる成分としては、リパーゼ培養液が挙げられる。リパーゼ培養液としては、例えば、大豆粉、ペプトン、コーン・ステープ・リカー、K2HPO4、(NH42SO4、MgSO4・7H2O等含有する水溶液があげられる。これらの濃度としては、大豆粉0.1〜20質量%、好ましくは1.0〜10質量%、ペプトン0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、コーン・ステープ・リカー0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、K2HPO4 0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。又、(NH42SO4は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%、MgSO4・7H2Oは0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。培養条件は、培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜35℃、通気量は0.1〜2.0VVM、好ましくは0.1〜1.5VVM、攪拌回転数は100〜800rpm、好ましくは200〜400rpm、pHはNaOHやアンモニアを用いて、3.0〜10.0、好ましくは4.0〜9.5、より好ましくは7.0〜8.0に制御するのがよい。
菌体の分離は、遠心分離、膜濾過などで行うのが好ましい。また、塩類や糖等の低分子成分の除去は、UF膜処理により行うことができる。具体的には、UF膜処理を行い、リパーゼを含有する水溶液を1/2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のリン酸バッファーを添加するという操作を1〜5回繰り返すことにより、低分子成分を除去したリパーゼ含有水性液体を得ることができる。
遠心分離は200〜20,000×g、膜濾過はMF膜、フィルタープレスなどで圧力を3.0kg/m2以下にコントロールするのが好ましい。菌体内酵素の場合は、ホモジナイザー、ワーリングブレンダー、超音波破砕、フレンチプレス、ボールミル等で細胞破砕し、遠心分離、膜濾過などで細胞残さを除去することが好ましい。ホモジナイザーの攪拌回転数は500〜30,000rpm、好ましくは1,000〜15,000rpm、ワーリングブレンダーの回転数は500〜10,000rpm、好ましくは1,000〜5,000rpmである。攪拌時間は0.5〜10分、好ましくは1〜5分がよい。超音波破砕は1〜50KHz、好ましくは10〜20KHzの条件で行うのが良い。ボールミルは直径0.1〜0.5mm程度のガラス製小球を用いるのがよい。
本発明では、リパーゼ含有水性液体としては、固形分として5〜30質量%含むものを用いるのが好ましい。
リパーゼ含有水性液体の乾燥及び粉末化は、例えば、スプレードライ、フリーズドライ(凍結乾燥)、及び溶剤沈殿後乾燥する方法等によって行われる。
スプレードライは、例えば、ノズル向流式、ディスク向流式、ノズル並流式、ディスク並流式等の噴霧乾燥機を用いて行うのがよい。ディスク並流式がより好ましく、アトマイザー回転数は4,000〜20,000rpmとすることが好ましい。スプレードライは、リパーゼ含有水性液体の温度を10〜60℃、好ましくは20〜40℃に調整して行うことが適当である。スプレードライの際の送風(乾燥雰囲気)の温度は、入口温度80〜200℃、出口温度30〜100℃、好ましくは40℃以上70℃未満、より好ましくは40℃〜65℃、さらに好ましくは50℃〜60℃とすることが適当である。リパーゼは温度に弱く、低温にすることで酵素活性の低下を抑えられる。
フリーズドライ(凍結乾燥)は、例えば、ラボサイズの少量用凍結乾燥機、棚段式凍結乾燥により行うのが好ましい。さらに、減圧乾燥を行ってもよい。
溶剤沈殿後乾燥する方法としては、例えば、エタノール、アセトン等を使用して溶剤沈殿させた後、減圧乾燥する方法が挙げられる。
スプレードライ等の乾燥・粉末化工程の直前に、NaOHやアンモニアを用いて、リパーゼ含有水性液体のpHを6〜8.5に調整するのが好ましい。特にpHを8.0以下に、さらにpHを7.5〜8.0の範囲となるように調整するのが好ましい。pH調整は、スプレードライなどの乾燥・粉末化工程の前のいずれかの工程において行ってもよく、乾燥・粉末化工程の直前のpHが上記範囲内となるように、予めリパーゼ含有水性液体のpHを調整しておいてもよい。pH調整には、各種アルカリ剤や酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いるのが好ましい。
又、乾燥・粉末化工程前の途中の工程において、リパーゼ含有水性液体を濃縮してもよい。濃縮方法は、特に限定されるものではないが、エバポレーター、フラッシュエバポレーター、UF膜濃縮、MF膜濃縮、無機塩類による塩析、溶剤による沈殿法、イオン交換セルロース等による吸着法、吸水性ゲルによる吸水法等が挙げられる。中でも、UF膜濃縮、エバポレーターが好ましい。UF膜濃縮用モジュールとしては、分画分子量3,000〜100,000、好ましくは6,000〜50,000の平膜または中空糸膜、材質はポリアクリルニトリル系、ポリスルフォン系などが好ましい。
・助剤
本発明に用いるリパーゼ含有組成物に含めて使用し得る助剤としては、リパーゼによるエステル交換反応に悪影響を与えないものを用いることができる。特に、ろ過助剤が好ましい。ろ過助剤としては、例えば、セライトなどの無機ろ過助剤及びセルロースなどの繊維やその粉砕物などの有機ろ過助剤が挙げられる。ろ過助剤としては、有機ろ過助剤、特に有機高分子ろ過助剤が好ましく、なかでもセルロースパウダーなどが好ましい。ろ過助剤は、粉状であるのが好ましい。粉状のろ過助剤の平均粒子径は、例えば、10〜90μm、より好ましくは20〜80μmであることが適当である。なお、平均粒子径は、例えば、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。
リパーゼ(固定化リパーゼ又は粉末リパーゼ)とろ過助剤との質量比は、例えば、1:10〜10:1であることが好ましく、特に1:7〜2:1であることが好ましい。
・リパーゼ含有組成物の形態
本発明のリパーゼ含有組成物は、固定化物(固定化リパーゼ)又は粉末状物(粉末リパーゼ)の形態であり得る。
固定化リパーゼは、上記リパーゼをシリカ、セライト、珪藻土、パーライト、ポリビニールアルコール、陰イオン交換樹脂、フェノール吸着樹脂、疎水性担体、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂等の担体に固定化したものが好ましい。このような固定化リパーゼは、例えば、ノボザイムズA/S社からリポザイムTL−IMとして入手することができる。固定化リパーゼは、そのまま使用するか、又は該固定化リパーゼを粉砕したものを使用することができる。固定化リパーゼの粉砕品は、通常の粉砕機を用いて、1μm以上で300μm未満の平均粒子径、好ましくは平均粒子径1〜200μm、より好ましくは平均粒子径1〜100μm、特に好ましくは平均粒子径20〜100μmとなるように粉砕するのがよい。ここで、粉砕機としては、乳鉢、せん断摩擦式粉砕機、カッター式粉砕機、石臼(マイコロイダー、マスコロイダー)、コーヒーミル、パワーミル、ピンミル、衝撃式粉砕機(ハンマーミル、ボールミル)、ロール式粉砕機及び気流式粉砕機、ホモジナイザー、超音波破砕機などがあげられる。なお、平均粒子径は、例えば、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。
粉末リパーゼは、例えば全質量の90質量%以上が平均粒子径1〜100μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜50μmである粉末状のリパーゼである。この粉末の粒子は、好ましくは球形であり、粒子の表面に、例えば直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000−40,000個/mm2、好ましくは3,000−20,000個/mm2、より好ましくは3,000−10,000個/mm2有するものが適当である。粒子表面の細孔の数は、電子顕微鏡を用いて容易に測定することができる。
粉末リパーゼは、リパーゼ粉末製剤の形で用いてもよい。
リパーゼ粉末製剤は、例えば、リパーゼと、穀物粉末及び/又は糖類粉末とを水性液体に溶解及び/又は分散させて得たリパーゼ含有水性液体を、さらに乾燥して粉末化することによって得られる。
水性液体としては、水が好ましい。リパーゼ含有水性液体中の水の量は、リパーゼの質量に対する水の質量が、2.0〜1,000倍であるのが好ましく、2.0〜500倍であるのがより好ましく、3.0〜100倍が最も好ましい。
リパーゼ含有水性液体としては、菌体を除去したリパーゼ培養液、精製培養液、これらから得たリパーゼ粉末を再度水に溶解・分散させたもの、市販のリパーゼ粉末を再度水に溶解・分散させたもの、市販の液状リパーゼ等が挙げられる。さらに、リパーゼ活性をより高めるために塩類等の低分子成分を除去したものがより好ましく、また、粉末性状をより高めるために糖等の低分子成分を除去したものがより好ましい。
リパーゼとしては、上記列挙したリパーゼの中でも、特にディー・エス・エムジャパン株式会社の商品:ピカンターゼR8000や、天野エンザイム株式会社の商品:リパーゼF−AP15等が好適に用いられる。最も適した粉末リパーゼとしては、Rhizopus oryzae由来の、天野エンザイム株式会社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)やリパーゼD “アマノ”コンクが挙げられる。
穀物粉末及び/又は糖類粉末としては、例えば、全脂大豆粉末、脱脂大豆粉末等の大豆粉末、小麦粉、米粉、デキストリンが挙げられる。穀物粉末及び/又は糖類粉末は、リパーゼに対して、例えば250〜1000質量%、好ましくは、500〜1000質量%、より好ましくは、500〜750質量%であることが適当である。
<分離工程>
上記工程(1)と(2)の間に、前記反応基質を前記大豆粉状物から分離する工程をさらに含んでもよい。分離する工程には、例えば、ろ過、遠心分離等が用いられるが、好ましくは大豆粉状物を収容するカラムにフィルターを取り付けて大豆粉状物のみをカラムに残し、反応基質をろ過・分離することが好ましい。
また、上記工程(2)の後に、エステル交換反応で得られたエステル交換油脂をリパーゼ含有組成物から分離する工程をさらに含んでもよい。分離する工程には、例えば、ろ過、遠心分離等が用いられるが、好ましくはリパーゼ含有組成物を収容するカラムにフィルターを取り付けてリパーゼ含有組成物のみをカラムに残し、エステル交換油脂をろ過・分離することが好ましい。
上記フィルターとしては、濾布、ろ紙、ガラスフィルター(ポアサイズ:5μm)が好ましい。また、セルロースパウダー、セライト等の濾過助剤があってもよい。
本発明の方法で製造されたエステル交換油脂は、特に限定されないが、食品分野に使用されるエステル交換油脂としても有用である。
<油脂の製造装置>
本発明の別の態様は、
(a)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物を収容するが、リパーゼを含まない第1処理槽;
(b)リパーゼ含有組成物を収容する第2処理槽;
(c)油脂を含むエステル交換用原料を前記第1処理槽に導入する第1流路;
(d)前記第1処理槽で前記原料と前記大豆粉状物とが接触して得られる反応基質を前記第2処理槽に導入する第2流路;及び
(e)前記2処理槽で前記反応基質と前記リパーゼ含有組成物とがエステル交換反応して得られるエステル交換油脂を前記第2処理槽から排出する第3流路;
を含む、油脂の製造装置に関する。
まず、本発明の油脂の製造装置は、第1処理槽及び第2の処理槽を含む、少なくとも2種類の処理槽を有する。処理槽は、大豆粉状物もしくはリパーゼと油脂を処理するものであり、攪拌機を有するタンク、もしくはカラム、ろ過器が好ましい。第1処理槽は、大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物を少なくとも収容するが、リパーゼが含まれることはない。第1処理槽は、ろ過助剤を収容していてもよい。
第2処理槽は、リパーゼ含有組成物を少なくとも収容する。第2処理槽は、ろ過助剤を収容していてもよい。
第1処理槽及び第2処理槽としては、ステンレス、鉄などの金属製、もしくは、プラスチック製、ガラス製などが使用できる。耐久性の点から、ステンレス、鉄などの金属性が好ましい。第1処理槽及び第2処理槽としては、小スケールでの処理には攪拌機を有するタンクが好ましく、大量に処理するには、カラムもしくはろ過器が好ましい。なお、大豆粉状物やリパーゼを交換する点から、第1処理槽及び第2処理槽としては、カラム、ろ過器は好ましい。ろ過器としてはフィルタープレスが好ましい。
これら第1処理槽及び第2処理槽は、第2流路により互いに係合されている。第1処理槽は、原料を導入するための第1流路を有する。第2処理槽は、エステル交換反応で得られる反応物を排出するための第3流路を有する。これにより、上記原料は、第1流路を通して第1処理槽に導入されて第1処理槽内でリパーゼと接触することなく大豆粉状物と接触する。大豆粉状物と接触して得られた反応基質は、第2流路を通して第2処理槽に導入され、第2処理槽内でリパーゼ含有組成物と接触してエステル交換反応が行われる。エステル交換反応により得られた反応物(エステル交換油脂)は、第3流路を通して第2処理槽から排出される。
ここで、第1処理槽及び第2処理槽は、大豆粉状物やリパーゼ含有組成物を反応基質やエステル交換反応の反応物(エステル交換油脂)から分離するための分離手段を含んでいてもよい。例えば、第1処理槽及び第2処理槽は、大豆粉状物やリパーゼ含有組成物のみを処理槽内に保持し、反応基質やエステル交換反応の反応物(エステル交換油脂)を放出できるような、フィルター、遠心分離等の各種分離手段を有していてもよい。また、第1処理槽及び第2処理槽の前後に必要に応じて、ポンプを設置してもよい。
本発明の油脂の製造装置について、以下、図1を参照しながら説明する。
まず、油脂を含み、リパーゼを含まないエステル交換用の原料が第1流路(3)を通して第1処理槽(カラム)(1)に導入される。第1の処理槽(カラム)(1)には大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物が収容されているが、リパーゼは含まれていない。上記原料は、第1処理槽(カラム)(1)で大豆粉状物と接触し、反応基質が得られる。この反応基質は、第2流路(4)を通して第2処理槽(カラム)(2)に導入される。第2処理槽(カラム)(2)には、リパーゼ含有組成物が収容されている。上記反応基質は、第2処理槽(カラム)(2)でリパーゼ含有組成物と接触し、エステル交換反応が起きる。エステル交換反応によって得られる反応物(エステル交換油脂)は、第3流路(5)を通して第2処理槽(カラム)から排出される。
さらに、図2のように、第1処理槽(カラム)(1)はフィルター1(6)を有していてもよく、第2処理槽(カラム)(2)はフィルター2(7)を有していてもよい。フィルター1(6)により大豆粉状物が第1処理槽(カラム)(1)に保持され、フィルター2(7)により、リパーゼ含有組成物が第2処理槽(カラム)(2)に保持され、第1処理槽(カラム)(1)及び第2処理槽(カラム)(2)に原料が通過することにより、上記接触及びエステル交換反応が行われる。
次に本発明を製造例及び実施例により詳細に説明する。
[評価方法]
・エステル交換反応の活性(XOX%)
リパーゼ活性の程度をトリグリセリド中のPOSとSOSの合計質量を比較することで評価した。具体的には、リパーゼ含有組成物を使用したエステル交換反応で得られたトリグリセリドの質量に対する該トリグリセリド中のPOS(1−ステアロイル−2−オレオイル−3−パルミトイルグリセリン又は1−パルミトイル−2−オレオイル−3−ステアロイルグリセリン)及びSOS(1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン)の合計質量%をXOX%とし、各実施例及び比較例のXOXを比較した。
(XOX%)=(トリグリセリド中のPOS質量%)+(トリグリセリド中のSOSの質量%)
XOX%の値が高ければリパーゼ活性が高いと判断できる。
なお、1,3−特異性の弱いリパーゼを用いた実施例6は、SO2(モノステアロイル−ジオレオイルグリセリン)の質量%をXO2%とし、上記XOXの代わりにXO2を用いて対比判断した。
(XO2%)=(トリグリセリド中のSO2質量%)
XO2%の値が高ければリパーゼ活性が高いと判断できる。
[エステル交換用原料の調製]
ステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)及びハイオレイックヒマワリ油(日清オイリオグループ(株)製)を質量比で6:4の比率で混ぜ合わせ、油中の水分の質量分率を200ppmに調節してエステル交換用原料とした。
[大豆粉状物の調製]
大豆粉状物としては、以下の大豆粉末と大豆蛋白とを使用した。
・大豆粉末
[大豆粉状物1]全脂大豆粉末(商品名:ソーヤフラワーNSA、日清オイリオグループ(株)社製、粉末のメジアン径;25〜35μm、非加熱)
[大豆粉状物2]脱臭全脂大豆粉末(商品名:アルファプラスHS−600、日清オイリオグループ(株)社製、粉末のメジアン径;25〜35μm、80〜120℃で30〜200秒加熱)
[大豆粉状物3]脱脂大豆粉末(商品名:ソーヤフラワーFT−N、日清オイリオグループ(株)社製、粉末のメジアン径;25〜50μm、120〜150℃で約20〜100秒加熱)
・大豆蛋白
[大豆粉状物4]粉末状分離大豆蛋白(商品名:ソルピー5000、日清オイリオグループ(株)社製、粉末のメジアン径;30〜100μm、スプレードライの入り口温度130〜200℃、出口60〜90℃)
[大豆粉状物5]濃縮大豆蛋白(商品名:ArconS、ADM社製、粉末のメジアン径;20〜50μm)
なお、各メジアン径は、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定した。大豆粉末又は大豆蛋白1gに対し、ろ過助剤としてセルロースパウダー(平均粒子径30μm)を0.5g加え、スターラーを用いて1時間混合して最終的な大豆粉状物とした。なお、平均粒子径は、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定した。
[実施例1]
[リパーゼ含有組成物の調製]
天野エンザイム株式会社の商品:リパーゼDF “Amano” 15−K (リパーゼDともいう:リゾプス オリザエ由来)の酵素溶液(150000U/ml)を準備した。この酵素溶液中の水の量は、リパーゼDの質量に対し、15倍の量であった。また、穀物粉末として脱臭全脂大豆粉末(商品名:アルファプラスHS−600、日清オイリオグループ株式会社製)10質量%水溶液を準備した。上記脱臭全脂大豆粉末の質量は、上記リパーゼDの質量に対して500質量%であった。上記脱臭全脂大豆粉末を、上記リパーゼDの酵素溶液に、該溶液を攪拌しながら加えた。得られた混合溶液に0.5N NaOH溶液を1ml加えて混合溶液全体をpH7.8に調整後、ノズル並流型のスプレードライ(噴霧乾燥、上記混合溶液の温度30℃、送風の入口温度100℃、出口温度50℃、東京理科器械株式会社、SD−1000型)を行ってリパーゼ粉末製剤(リゾプス オリザエ由来の粉末リパーゼ)を得た。このリパーゼ粉末製剤にろ過助剤としてセルロースパウダー(平均粒子径30μm)を加えリパーゼ含有組成物とした。なお、平均粒子径は、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定した。得られたリパーゼ含有組成物に含まれる粉末リパーゼ:ろ過助剤の質量比は、1:1であった。
[カラムの作製]
・第1カラムの作製
上述のようにして調製した大豆粉状物1.5gを、中・低圧液クロ用ガラスカラム(東京理科器械(株)社、内径8mm、長さ100mm)に、カラムの片側を真空ポンプで引くことで充填して第1カラムを作製した(図2参照)。当該ガラスカラムは、ガラスフィルター(ポアサイズ:5μm)のようなフィルターを有する。
・第2カラムの作製
上述のようにして調製したリパーゼ含有組成物0.3gにハイオレイックヒマワリ油10gを加え、スターラーを用いて1時間攪拌した。その後、中・低圧液クロ用ガラスカラム(東京理科器械(株)社、内径8mm、長さ100mm)に供し、カラムの片側を真空ポンプで引くことで充填して第2カラムを作製した(図2参照)。当該ガラスカラムは、ガラスフィルター(ポアサイズ:5μm)のようなフィルターを有する。
・油脂の製造装置の作製
上記第1カラムには、原料を導入するための東京理化器機(株)製のテフロン(登録商標)チューブを用いた第1流路を設けた。上記第2カラムには、反応物(エステル交換油脂)を排出するための東京理化器機(株)製のテフロン(登録商標)チューブを用いた第3流路を設けた。そして、上記第1カラム及び上記第2カラムは、東京理化器機(株)製のテフロン(登録商標)チューブを用いた第2流路で接続し、図2で示すような油脂の製造装置を作製した。
第1カラムとして[大豆粉状物1]全脂大豆粉末(ソーヤフラワーNSA)を用いて上記油脂の製造装置を作製し、上述のようにして調製したエステル交換用原料を当該油脂の製造装置に0.16g/分の速さ(第1カラムでは、大豆粉状物1kgに対し原料を6.4kg/時で通液)(第2カラムでは、リパーゼ含有組成物1kgに対し原料を32kg/時で通液)で送液した。このときの大豆粉状物と原料との接触時間は約4〜5分と推定できる。原料を第1及び第2カラムに通液している間の第1カラム内温度は、52℃、第2カラム内温度は、50℃であった。送液を2時間又は64時間行った後、第3流路より排出された反応物7μlをサンプリングし、ヘキサン1.5mlで希釈してガスクロマトグラフィー(GC)用サンプルとした。当該サンプルをGCで分析し、トリグリセリド中のPOSおよびSOSの合計質量パーセントを測定し、XOX(%)を求めた。GCとしては、アジレント・テクノロジー株式会社製、製品番号6890Nと、カラム 65TG(株式会社島津ジーエルシー製)を用いた。GC条件は、カラム温度:350℃、昇温:1℃/分、最終温度:365℃である。
[実施例2〜5]
第1カラムとしてそれぞれ上述の大豆粉状物2〜5の大豆粉末又は大豆蛋白を使用した以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行い、XOX(%)を求めた。
[比較例1]
第1カラムを用いず、第3流路を有する第2カラムのみを用いて油脂の製造装置を作製した以外は、実施例1と同様にしてエステル交換反応を行い、XOX(%)を求めた。
表1
Figure 0005728335

送液から2時間後のXOX(%)の値から分かるように、エステル交換反応開始から2時間程度では、第1カラムを使用して大豆粉状物とエステル交換用原料とを接触させる効果は見られなかった。しかし、送液から64時間が経過したときのXOX(%)の値に示されるように、エステル交換反応開始から64時間が経過すると、実施例1〜5のいずれの大豆粉状物を使用した場合であっても、比較例1と比べてリパーゼ活性を高く維持できていることが分かった。特に実施例1の全脂大豆粉末(ソーヤフラワーNSA)及び実施例5の濃縮大豆蛋白(ArconS)で非常に高い効果が観測された。
[実施例6]
[リパーゼ含有組成物の調製]
ノボザイムズA/S社製の商品:リポザイムTL−IM(サーモマイセス ラヌゲノウス由来の固定化リパーゼ)5gを特殊機化工業(株)製L型マイコロイダーを用いて粉砕した。粉砕した後の平均粒子径は66.7μmであった。なお、平均粒子径は、株式会社堀場製作所の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定した。
[カラムの作製]
・第1カラムの作製
大豆粉状物1を用いて、実施例1と同様に第1カラムを作製した。
・第2カラムの作製
リパーゼとして上記実施例6のリパーゼ含有組成物0.5gを使用した以外は、実施例1と同様に第2カラムを製作し、さらに、実施例1と同様に油脂の製造装置を作製した。
上記のように作製した油脂の製造装置に対し、上述のようにして調製したエステル交換用原料を当該油脂の製造装置に0.12g/分(第1カラムでは、大豆粉状物1kgに対し原料を4.8kg/時で通液)(第2カラムでは、リパーゼ含有組成物1kgに対し原料を14.4kg/時で通液)の速さで送液した。このときの大豆粉状物と原料との接触時間は約6〜7分と推定できる。原料を第1及び第2カラムに通液している間の第1カラム内温度は、51℃、第2カラム内温度は、49℃であった。送液を2時間又は86時間行った後、第3流路より排出された反応物7μlをサンプリングし、ヘキサン1.5mlで希釈してガスクロマトグラフィー(GC)用サンプルとした。当該サンプルをGCで分析し、トリグリセリド中のSO2の合計質量パーセントを測定し、XO2(%)を求めた。GCとしては、アジレント・テクノロジー株式会社製、製品番号6890Nと、カラム 65TG(株式会社島津ジーエルシー製)を用いた。GC条件は、カラム温度:350℃、昇温:1℃/分、最終温度:365℃である。
[比較例2]
第1カラムを用いず、第3流路を有する第2カラムのみを用いて油脂の製造装置を作製した以外は、実施例6と同様にしてエステル交換反応を行い、XO2(%)を求めた。
表2
Figure 0005728335

1,3−特異性の高いリパーゼを用いた実施例1〜5と異なり、実施例6は、1,3−特異性の弱いリパーゼを用いた。主反応性生物であるXO2を比較したところ、送液から2時間後のXO2(%)の値から分かるように、エステル交換反応開始から2時間程度では、第1カラムを使用して大豆粉状物とエステル交換用原料とを接触させる効果は見られなかった。しかし、送液から86時間が経過したときのXO2(%)の値に示されるように、エステル交換反応開始から64時間が経過すると、実施例6は比較例2と比べてリパーゼ活性を高く維持できていることが分かった。
1 第1処理槽(第1カラム)
2 第2処理槽(第2カラム)
3 第1流路
4 第2流路
5 第3流路
6 フィルター1
7 フィルター2

Claims (14)

  1. (1)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物に、リパーゼの不存在下で、油脂を含むエステル交換用原料を接触させて反応基質を得る工程;及び
    (2)前記反応基質をリパーゼ含有組成物の存在下でエステル交換反応させる工程;
    を含むことを特徴とする、エステル交換油脂の製造方法。
  2. 前記工程(1)の後であって前記工程(2)の前に、前記反応基質を前記大豆粉状物から分離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記リパーゼ含有組成物が、粉末状物の形態にある、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記リパーゼ含有組成物が、ろ過助剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記大豆粉状物が、大豆を脱脂せず、かつ非加熱下で粉末化することによって得られる全脂大豆粉末である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記工程(1)が、ろ過助剤の存在下で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記原料が、脂肪酸エステルを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. (a)大豆粉末、大豆蛋白及びこれらの混合物からなる群から選択される大豆粉状物を収容するが、リパーゼを含まない第1処理槽;
    (b)リパーゼ含有組成物を収容する第2処理槽;
    (c)油脂を含むエステル交換用原料を前記第1処理槽に導入する第1流路;
    (d)前記第1処理槽で前記原料と前記大豆粉状物とが接触して得られる反応基質を前記第2処理槽に導入する第2流路;及び
    (e)前記第2処理槽で前記反応基質と前記リパーゼ含有組成物とがエステル交換反応して得られるエステル交換油脂を前記第2処理槽から排出する第3流路;
    を含む、油脂の製造装置。
  9. 前記第1処理槽が、反応基質と大豆粉状物とを分離する分離手段を含む、請求項8に記載の装置。
  10. 前記第1処理槽及び/又は第2処理槽がカラムである、請求項8又は9に記載の装置。
  11. 前記リパーゼ含有組成物が、粉末状物の形態にある、請求項8〜10のいずれか1項に記載の装置。
  12. 前記大豆粉状物が、大豆を脱脂せず、かつ非加熱下で粉末化することによって得られる全脂大豆粉末である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の装置。
  13. 前記第1処理槽及び/又は第2処理槽が、ろ過助剤を収容する、請求項8〜12のいずれか1項に記載の装置。
  14. 前記原料が、さらに脂肪酸エステルを含む、請求項8〜13のいずれか1項に記載の装置。
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