つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。先ず、この発明で制御の対象とする車両の構成および制御系統を図1に示して説明する。この発明で対象とする車両は、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作などの運転操作と独立して車両の駆動力および制動力を制御することができる。すなわち、この発明で対象とする車両は、運転者による運転操作に基づいた車両の駆動力および制動力の制御とは別に、それら駆動力および制動力を自動制御することが可能な構成となっている。図1に示す車両Veは、左右の前輪1,2、および左右の後輪3,4を有している。そして、駆動力源5が出力する動力により後輪3,4を駆動する後輪駆動車として構成されている。
駆動力源5としては、例えば、内燃機関または電動機の少なくとも一方を用いることができる。あるいは、ハイブリッド車として内燃機関および電動機の両方を駆動力源5として搭載することも可能である。駆動力源5としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関を車両Veに搭載する場合は、駆動力源5の出力側に手動変速機や自動変速機などの各種の変速機(図示せず)が用いられる。また、駆動力源5として電動機を車両Veに搭載する場合は、例えば電動機にはインバータを介してバッテリやキャパシタなどの蓄電装置(いずれも図示せず)が接続される。
そして、駆動力源5の出力を制御して後輪3,4の駆動状態を制御するための電子制御装置(ECU)6が備えられている。すなわち、駆動力源5に電子制御装置6が接続されていて、この電子制御装置6によって駆動力源5の出力を制御することにより、後輪3,4、すなわち駆動輪3,4で発生させる車両Veの駆動力を自動制御することが可能な構成となっている。
また、各車輪1,2,3,4には、それぞれ個別にブレーキ装置7,8,9,10が装着されている。それら各ブレーキ装置7,8,9,10は、それぞれ、ブレーキアクチュエータ11を介して電子制御装置6に接続されている。したがって、電子制御装置6によって各ブレーキ装置7,8,9,10の動作状態を制御することにより、各車輪1,2,3,4で発生させる車両Veの制動力を個別に自動制御することが可能な構成となっている。
一方、電子制御装置6には、車両Ve各部の各種センサ類からの検出信号や各種車載装置からの情報信号が入力されるように構成されている。例えば、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み角(もしくは踏み込み量あるいはアクセル開度)を検出するアクセルセンサ12、ブレーキペダル(図示せず)の踏み込み角(もしくは踏み込み量あるいはブレーキ開度)を検出するブレーキセンサ13、ステアリングホイール(図示せず)の操舵角を検出する操舵角センサ14、各駆動輪1,2,3,4の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する車輪速センサ15、車両Veの前後方向(図1での上下方向)の加速度(すなわち前後加速度)を検出する前後加速度センサ16、車両Veの車軸方向(図1での左右方向)すなわち横方向の加速度(すなわち横加速度)を検出する横加速度センサ17、車両Veのヨーレートを検出するヨーレートセンサ18、あるいは駆動力源5の出力トルクを検出するトルクセンサ(図示せず)などからの検出信号が電子制御装置6に入力されるように構成されている。
上記のような構成により、車両Veは、ステアリング特性やスタビリティファクタを制御することができる。特にこの発明における車両Veは、旋回走行中のステアリング特性を改善して車両Veの旋回性能を向上させることができるように構成されている。例えば、車輪速センサ15により検出した各車輪1,2,3,4の車輪速度から車速および路面の摩擦係数を推定し、それら車速、路面摩擦係数、および操舵角センサ14で検出した操舵角度などを基に車両Veの目標とする目標ステアリング特性を設定し、車両Veの実際のステアリング特性を目標ステアリング特性に追従させる制御を行うことができる。
具体的には、車両Veの駆動力および制動力を変化させて車両Veのヨーレートを制御すること、すなわちいわゆる制駆動力制御を実行することにより、車両Veの実際のステアリング特性を目標ステア特性に近づけることができる。車両Veのヨーレートを制御する際には、車速、操舵角、ホイールベースなどの情報を基に、その時点における車両Veの目標ヨーレートが求められる。そして、車両Veの実際のヨーレートが目標ヨーレートに近づくように、例えば上記の制駆動力制御を行うことにより、車両Veのヨーレートを制御することができる。例えば、駆動輪2,3に付与されている駆動トルクに対して、あるいは各車輪1,2,3,4に付与される制動トルクに対して補正分のトルクを増減することにより、車両Veのヨーレートを制御することができる。なお、上記のように、目標ヨーレートを設定して、車両Veの実際のヨーレートを目標ヨーレートに追従させる制御に関しては、例えば、特開平5−278488号公報などに記載されているように周知であるため、より具体的な説明は省略する。
上記のように旋回走行中の車両Veに制駆動力制御を行うことにより、車両Veのステアリング特性を目標ステアリング特性に近づけて、車両Veの旋回性能を向上させることができる。したがって、上記の制駆動力制御の際の補正量、すなわち駆動力もしくは制動力の変化量を大きくすることにより、車両Veの実際のステアリング特性を制御する際の制御応答性が向上し、車両Veの旋回性能も向上することになる。しかしながら、駆動力もしくは制動力の補正量を大きくすると、制駆動力制御における駆動力もしくは制動力が大きく変化することになり、その結果、運転者が違和感やショックを感じ、その分ドライバビリティが低下してしまう可能性がある。したがって、上記の制駆動力制御の際の補正量は、運転者に違和感やショックを与えない範囲で可及的に大きくすることが望ましい。
そのため、この発明に係る車両の制御装置は、車両Veの車速や操舵角などの情報に加えて、車両Veの横加速度やその横加速度の微分値であるジャークに基づいて制駆動力制御を実行することにより、運転者に違和感やショックを感じさせない範囲で可及的に大きな旋回性能の向上効果を得ることができる制駆動力制御を実行するように構成されている。
さらに、運転者によるステアリング操作は、上記のように車両Veを旋回走行させる場合に行われるだけとは限らない。例えば、車両Veが複車線の道路を走行している際にその走行中の車線を変更する場合や、あるいは前方道路上の障害物や危険を回避する場合などにも、運転者によるステアリング操作が行われる。そのような場合のステアリング操作は、通常、短時間の内に素早く行われることになる。すなわち、当初は直進走行していて操舵角がほぼ0の状態から操舵角が増大させられる、いわゆるステアリングの切り込み操作と、そのステアリングの切り込み操作が行われて0よりも大きい所定の操舵角の状態から操舵角が0に向けて減少させられる、いわゆるステアリングの戻し操作とが、短時間の内に、連続的にあるいは繰り返し行われることになる。前述したように、上記のようなステアリングの切り込み操作と戻し操作とが連続的にあるいは繰り返し行われると、そのようなステアリング操作に基づいて制御される駆動力もしくは制動力の変化によって、運転者に違和感を与えてしまう可能性があった。
そこで、この発明に係る車両の制御装置では、ステアリングの切り込み操作と戻し操作とが連続してもしくは繰り返して行われる場合であっても、制駆動力制御における補正の際の変化速度を制限することにより、運転者に違和感やショックを与えることなく、制駆動力制御を適切に実行することができるように構成されている。
図2は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図2において、先ず、車両Veの操舵角やヨーレートなどの検出値から車両Veの実旋回状態が推定され、その実旋回状態と車両Veの目標旋回状態との偏差から、制駆動力制御による車両Veの駆動力もしくは制動力の変化量(補正量)Fctrlが算出される(ステップS101)。ここで、車両Veの旋回状態とは、車両Veの車速、加速度、操舵角、ヨーレートなどの検出値に基づいて求められるファクタであり、例えば、旋回走行時のオーバーステアもしくはアンダーステアの度合いを示すスタビリティファクタなどで表現されるものである。
次いで、車両Veの横加速度Gy、および横ジャークDGyが求められる(ステップS102)。横加速度Gyは、車両Veの車軸方向すなわち横方向の加速度であり、前述したように横加速度センサ17の検出値から求めることができる。また、ジャークとは、加速度を時間微分した値のことであり、いわゆる加加速度あるいは躍度などと称されるものである。したがって、横ジャークDGyは、車両Veの車軸方向すなわち横方向のジャークのことであり、上記の横加速度センサ17の検出値から求められた横加速度Gyを時間微分することにより求めることができる。なお、加速度とジャークとが運転者に与える影響としては、運転者は加速度よりもジャークに対する感度の方がより敏感であるとされている。そのため、上記のような横加速度Gyに加えて、車両Veの横方向の横ジャークDGyを考慮することにより、より高度な、あるいはより精度良く、この発明の制駆動力制御を行うことができる。
上記の各ステップS101,S102で求められた制駆動力制御の変化量Fctrlと車両Veの横加速度Gyもしくは横ジャークDGyとから、上記の制駆動力制御での補正における変化速度の上限値である最大変化速度DFctrl1が求められる(ステップS103)。この最大変化速度DFctrl1を求める方法としては、例えば、車両Veの横加速度Gyの大きさ毎に、制駆動力制御での補正により変化する駆動力および制動力の変化量(補正量)と変化速度に応じて、運転者が違和感を感じる値の範囲あるいは領域が実験的もしくは経験的に求められ、それが定数マップあるいは演算式として予め用意される。そして、上記のステップS102で求められた横加速度Gyに対応する定数マップあるいは演算式に基づいて最大変化速度DFctrl1が求められる。
上記の最大変化速度DFctrl1を求める場合の定数マップの一例を図3,図4に示す。図3,図4において曲線BLで示されるのが、制駆動力制御において所定の変化量および所定の変化速度で補正を行った場合に運転者が違和感を感じないとされた領域(図3,図4でハッチングを施した部分)と違和感を感じるとされた領域(図3,図4でハッチングを施していない部分)との境界線である。この曲線BLは、図3に示すように、車両Veの横加速度Gyが大きくなると、境界線としての曲線BLは図3の右側へ移動する傾向がある。すなわち、上記の制駆動力制御において駆動力もしくは制動力を補正する際に運転者に違和感を与えるか否かの判断基準としては、車両Veの横加速度Gyが増大すると、上記の制駆動力制御での補正の際に運転者が違和感を感じない領域が拡大する傾向がある。言い換えると、車両Veの横加速度Gyが大きいほど、上記の制駆動力制御での補正の際に運転者が違和感を感じない範囲内での変化量Fctrlの上限値と変化速度の上限値(すなわち最大変化速度)DFctrl1が大きくなる傾向がある。
そして、上記の定数マップを用いて最大変化速度DFctrl1を求める場合は、図4に示すように、先ず上記のステップS102で求められた横加速度Gyに対応する定数マップが選択され、上記のステップS101で求められた制駆動力制御の変化量Fctrlで、運転者に違和感を感じさせない領域内での変化速度の上限値として、最大変化速度DFctrl1が求められる。ステップS101で求められた制駆動力制御の変化量Fctrlが、運転者が違和感を感じない領域から外れている場合は、その変化量Fctrlを運転者が違和感を感じない領域内になるまで低下させられ、その後に、低下させられた変化量Fctrlに対応する最大変化速度DFctrl1が求められる。
上記のステップS103で制駆動力制御での補正における最大変化速度DFctrl1が求められると、制駆動力制御を実行する場合の補正が制限される(ステップS104)。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度が、それぞれ、上記で求めた変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl1となるように、上記の補正が制限される。具体的には、図5のタイムチャートにおいて一点鎖線で示すように、変化速度が最大変化速度DFctrl1で制限され、かつ補正の際の変化量の最大値が変化量Fctrlで制限される。
なお、上記の図5のタイムチャートにおいて破線で表される状態は、上記のような最大変化速度DFctrl1による補正の制限を行わなかった場合の駆動力もしくは制動力の変化の状態を示している。この場合は、補正の際の変化速度の最大値を制限しないので、駆動力もしくは制動力の変化は応答性よく変化量Fctrlだけ立ち上がる。その反面、変化量Fctrlが急激に立ち上がることから、図5に示すように、車両Veの駆動力もしくは制動力に急激な変化が生じ、それが運転者に違和感やショックを感じさせる要因となる。それに対して、この発明のように、補正の際の変化速度の最大値を最大変化速度DFctrl1で制限することにより、補正の際の車両Veの駆動力もしくは制動力の変化は、図5に示すように徐々に増大することになり、それにより運転者に対する違和感やショックの発生を防止もしくは抑制することができる。
上記の各ステップS103,S104の説明では、横加速度Gyに基づいて制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の補正を行うように構成した例を示しているが、横加速度Gyに替えて横ジャークDGyに基づいて制駆動力制御を実行することができる。すなわち、上記の各ステップS103,S104において、上記の各ステップS101,S102で求められた制駆動力制御の変化量Fctrlと車両Veの横ジャークDGyとから、この制駆動力制御における最大変化速度DFctrl1を求めることができる。
前述の図3,図4に示すマップにおいて、横ジャークDGyを用いた場合も、横加速度Gyを用いた場合と同様に、車両Veの横ジャークDGyが大きいほど、上記の制駆動力制御での補正の際に運転者が違和感を感じない範囲内での最大変化速度DFctrl1が大きくなる傾向がある。したがって、横加速度Gyに替えて横ジャークDGyを用いた場合も、上述した横加速度Gyを用いた場合と同様に制御を実行することができる。
このように、この発明に係る車両の制御装置では、車両Veの横加速度Dy、および横ジャークDGyを考慮することにより、より適切な制駆動力制御を実行することができる。例えば、車両Veが旋回走行する場合は、図6に示すように、直進走行における減速区間からコーナ入口区間、コーナ中間区間、コーナ出口区間を経て、再び直進走行における加速区間を走行する。この場合、車両Veに発生する横加速度Gyおよび横ジャークDGyは、コーナ入口区間およびコーナ出口区間では、横加速度Gyが相対的に小さく、反対に、横ジャークDGyが相対的に大きくなる。そして、コーナ中間区間では、横加速度Gyが相対的に大きく、反対に、横ジャークDGyが相対的に小さくなる。
したがって、車両Veの旋回走行時に上記の制駆動力制御を実行する場合に、横ジャークDGyの影響が大きくなるコーナ入口区間およびコーナ出口区間で、横ジャークDGyに基づいて上記の制駆動力制御を実行し、反対に、横加速度Gyの影響が大きくなるコーナ中間区間では、横加速度Gyに基づいて上記の制駆動力制御を実行することにより、この発明における上記の制駆動力制御をより適切に実行することができる。
ステップS104で制駆動力制御を実行する場合の補正量が制限されると、続いて、車両Veの操舵角(ステアリング角)δおよび操舵角速度(ステアリング角速度)Dδが求められる(ステップS105)。操舵角δは、前述の操舵角センサ14により検出することができる。そしてその操舵角δを時間微分することにより、操舵角速度Dδを求めることができる。
操舵角δおよび操舵角速度Dδが求められると、それら操舵角δおよび操舵角速度Dδを基にステアリングの操作状態が判定される(ステップS106)。すなわち、ステアリング操作として、いわゆるステアリングの切り込み操作およびステアリングの戻し操作の実施状態が判断される。例えば、図7に示すように、操舵角δが0から正(+)もしくは負(−)の方向に増大している場合に、ステアリングの切り込み操作が行われたと判断することができる。これとは反対に、操舵角δが正(+)もしくは負(−)の方向の所定の値から0に向けて減少している場合に、ステアリングの戻し操作が行われたと判断することができる。また、ステアリングの切り込み操作あるいは戻し操作が行われた際の操舵角速度Dδから、それらステアリングの切り込み操作あるいは戻し操作の素早さの程度すなわち操作速度を判断することができる。
そして、ステアリングの切り込み操作が開始された時点からの経過時間Tが求められ(ステップS107)、次いで、ステアリングの切り込み操作が行われた後に戻し操作が行われたか否かが判断される(ステップS108)。これは、上述のように操舵角δの検出値から判断することができる。
未だステアリングの切り込み操作も戻し操作も行われていないこと、もしくはステアリングの切り込み操作後に未だステアリングの戻し操作が行われていないことにより、このステップS108で否定的に判断された場合は、ステップS109へ進み、前述のステップS104で決定された補正内容(変化量Fctrlと最大変化速度DFctrl1とにより規定される補正内容)が出力される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度が、それぞれ、前述のステップS104で求められた変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl1となるように、上記の補正が制限される。具体的には、変化速度が最大変化速度DFctrl1で制限され、かつ補正の際の変化量の最大値が変化量Fctrlで制限される。要するに、この場合は、この発明における通常の制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、ステアリングの切り込み操作後に戻し操作が行われたことにより、ステップS108で肯定的に判断された場合には、ステップS110へ進み、上記のステップS107で求められた経過時間Tに基づいて、最大変化速度DFctrl2が求められる。この最大変化速度DFctrl2は、この発明における制駆動力制御を実行する際に、ステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合に、運転者に違和感を与えてしまうことがないように制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度を制限するためのものである。
この最大変化速度DFctrl2を求める方法としては、例えば、運転者が違和感を感じない駆動力もしくは制動力の変化速度が予め実験的もしくは経験的に求められ、それが例えば図8に示すような定数マップとして予め用意される。そして、上記のステップS107で求められた経過時間T、およびこの図8に示すような定数マップに基づいて、最大変化速度DFctrl2が求められる。この図8に示す定数マップの例では、経過時間Tが短いほど最大変化速度DFctrl2が小さくなるように、すなわち、制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度が強く制限されるように設定されている。したがって、ステアリングの切り込み操作が行われた後に戻し操作が行われるまでの時間が短いほど、制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度がより遅くなるように制限される。
なお、上記のステップS110の説明では、最大変化速度DFctrl2を定数マップによって求める例を示しているが、例えば、車両Veのばね上共振周波数を予め求めておき、そのばね上共振周波数の周期を基準にして、経過時間Tが短い場合には制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度がより緩やかになるように、最大変化速度DFctrl2を設定するように構成することもできる。また、経過時間Tが閾値として予め設定した所定時間よりも短い場合に、前述の最大変化速度DFctrl1よりも小さい(遅い)値の最大変化速度DFctrl2を設定し、経過時間Tが所定時間よりも長い場合には、前述の最大変化速度DFctrl1を設定するように構成してもよい。さらに、後述するように、例えばローパスフィルタなどのフィルタ処理を行うことにより、制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度に制限をかけることもできる。
上記のステップS110で制駆動力制御での補正における最大変化速度DFctrl2が求められると、制駆動力制御を実行する場合の補正が制限される(ステップS111)。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度が、それぞれ、上記で求められた変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl2となるように、上記の補正が制限される。具体的には、図6のタイムチャートにおいて実線で示すように、補正の際の変化速度が最大変化速度DFctrl2で制限され、かつ補正の際の変化量の最大値が変化量Fctrlで制限される。
そして、ステップS111で制駆動力制御を実行する場合の補正が制限されると、前述のステップS109へ進み、そのステップS111で決定された補正内容(変化量Fctrlと最大変化速度DFctrl2とにより規定される補正内容)が出力される。すなわち、ステップS111で制限された補正内容を基に制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図2のフローチャートに示すように、この発明の制駆動力制御を実行した場合に、その制駆動力制御における制御トルク、すなわち駆動力もしくは制動力の変化分に相当するトルクの変動状態を、前述の図7のタイムチャートに示してある。図7のタイムチャートにおいて、時刻t1でステアリングの切り込み操作が開始されると、制御トルクが低下する。すなわち、制駆動力制御において駆動力が低下させられる、もしくは制動力が増大させられる。そして、時刻t2でステアリングの戻し操作が開始される。このステアリングの切り込み操作が、例えば車両Veがコーナや湾曲路を曲がる旋回走行の場合は、ステアリングの切り込み操作開始時から戻し操作までの経過時間Tは相対的に長くなり、ステアリングの戻し操作により操舵角が0に戻った時点で一連のステアリング操作が一旦完了する。
しかしながら、この図7のタイムチャートに示すように、例えば車線変更や急ハンドルなどが行われた場合には、経過時間Tは相対的に短く、ステアリングの戻し操作により操舵角が0に戻った後も、連続的に当初のステアリングの切り込み操作とは逆方向に操舵角が増大する。すなわち、当初のステアリングの切り込み操作とは逆方向に切り込み操作されることになる。この場合、前述の図14に示したような従来の制御では、ステアリングの戻し操作により制御トルクが増大し、その後ステアリングの切り込み操作により制御トルクが再び低下する。すなわち、図14のタイムチャートにおける時刻t2から時刻t4の間に示すように、制御トルクが一旦上昇し、その後直ぐに制御トルクが再び低下する。そのため、前述の図14に示したような従来の制御では、例えば車線変更や急ハンドルなどで短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合に、上記のような制御トルクの変動のために運転者が違和感を感じる場合があった。
それに対して、図2のフローチャートに示すこの発明における制駆動力制御では、上記のように短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合、そのステアリングの戻し操作の際に、経過時間Tすなわちステアリングの切り込み操作の操作時間に応じて、制御トルクの変化速度が遅くなるように制限される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度の上限値が低く制限される。したがって、図7のタイムチャートにおける時刻t2から時刻t4の間に示すように、制御トルクの増大が抑制されて、制御トルクはなだらかに変動する。そのため、図2のフローチャートに示すこの発明における制駆動力制御によれば、例えば車線変更や急ハンドルなどで短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合であっても、上記の従来の制御例のような制御トルクの変動のために、運転者に違和感を与えてしまうことを回避することができる。
図9は、この発明に係る制御装置による他の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図9のフローチャートにおいて、ステップS201からステップS206までの各ステップの制御内容は、それぞれ、上述の図2のフローチャートにおけるステップS101からステップS106までの各ステップの制御内容と同一であるので、制御内容の詳細な説明は省略する。
図9のフローチャートにおいて、ステップS206でステアリングの操作状態、すなわちステアリングの切り込み操作およびステアリングの戻し操作の実施状態が判定されると、ステップS207へ進み、ステアリングの操作状態が、ステアリングの戻し操作から切り込み操作へ連続的に変化するか否かが判断される。具体的には、操舵角δの絶対値が基準値A以下でありかつ操舵角速度Dδの絶対値が基準値B以上であるか否かが判断される。ここで、各基準値A,Bは、それぞれ、ステアリングの操作状態が、ステアリングの戻し操作から切り込み操作へ連続的に変化するか否かを推定するために予め設定された閾値である。したがって、このステップS207では、相対的に少ないステアリングの切り込み量すなわち操舵角δの状態の下で相対的に素早いステアリングの戻し操作が行われたか否かが判断される。
前述したように、車両Veのステアリング操作は、コーナや湾曲路を旋回走行する場合は、相対的に操舵角δが大きく、比較的に緩やかにすなわち相対的に遅い操舵角速度Dδで、ステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われる。それに対して、例えば車線変更や急ハンドルなどで短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが連続的に行われるもしくは繰り返される場合には、相対的に操舵角δが小さく、比較的に素早いすなわち相対的に早い操舵角速度Dδで、ステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われる。したがって、このステップS207では、相対的に操舵角δが小さくかつ相対的に早い操舵角速度Dδでステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合、すなわち、操舵角δの絶対値が基準値A以下でありかつ操舵角速度Dδの絶対値が基準値B以上である場合に、ステアリングの操作状態が、ステアリングの戻し操作から切り込み操作へ連続的に変化する状態であると推定される。
したがって、操舵角δの絶対値が基準値Aよりも大きいおよび/または操舵角速度Dδの絶対値が基準値Bよりも小さい場合に、ステアリングの操作状態が、ステアリングの戻し操作から切り込み操作へ連続的に変化する状態であると推定され、このステップS207で否定的に判断される。そして、このステップS207で否定的に判断されると、ステップS208へ進み、ステップS204で決定された補正内容(変化量Fctrlと最大変化速度DFctrl1とにより規定される補正内容)が出力される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度が、それぞれ、ステップS204で求められた変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl1となるように、制駆動力制御における補正が制限される。具体的には、変化速度が最大変化速度DFctrl1で制限され、かつ補正の際の変化量の最大値が変化量Fctrlで制限される。要するに、この場合は、この発明における通常の制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、操舵角δの絶対値が基準値A以下でありかつ操舵角速度Dδの絶対値が基準値B以上であることにより、ステップS207で肯定的に判断された場合には、ステップS209へ進み、ステップS201で求められた変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl3に基づいて、制駆動力制御を実行する場合の補正が制限される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度が、それぞれ、変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl3となるように、上記の補正が制限される。具体的には、図10のタイムチャートにおいて実線で示すように、補正の際の変化速度が最大変化速度DFctrl3で制限され、かつ補正の際の変化量の最大値が変化量Fctrlで制限される。
なお、上記の最大変化速度DFctrl3は、この発明における制駆動力制御を実行する際に、ステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合に、運転者に違和感を与えてしまうことがないように制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度を制限するためのものであって、予め実験的もしくは経験的に求めておくことができる。
上記のステップS209で制駆動力制御を実行する場合の補正が制限されると、前述のステップS208へ進み、ステップS209で決定された補正内容(変化量Fctrlと最大変化速度DFctrl3とにより規定される補正内容)が出力される。すなわち、ステップS209で制限された補正内容を基に制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図9のフローチャートに示すように、この発明の制駆動力制御を実行した場合に、その制駆動力制御における制御トルク、すなわち駆動力もしくは制動力の変化分に相当するトルクの変動状態を、図11のタイムチャートに示してある。この図11のタイムチャートに示すように、図9のフローチャートに示すこの発明における制駆動力制御では、例えば車線変更や急ハンドルなどが行われた場合のように、短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合、ステアリングの操作状態がステアリングの戻し操作から切り込み操作へ連続的に変化する状態であるか否かが判断される。そして、ステアリングの操作状態が、ステアリングの戻し操作から切り込み操作へ連続的に変化する状態であると推定された場合には、ステアリングの戻し操作の際に、制御トルクの変化速度が遅くなるように制限される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度の上限値が低く制限される。したがって、図11のタイムチャートにおける時刻t2から時刻t4の間に示すように、制御トルクの増大が抑制されて、制御トルクはなだらかに変動する。そのため、図9のフローチャートに示すこの発明における制駆動力制御においても、例えば車線変更や急ハンドルなどで短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合であっても、上記の従来の制御例のような制御トルクの変動のために、運転者に違和感を与えてしまうことを回避することができる。
図12は、この発明に係る制御装置による更に他の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図12のフローチャートにおいて、ステップS301からステップS308までの各ステップの制御内容は、それぞれ、前述の図2のフローチャートにおけるステップS101からステップS108までの各ステップの制御内容と同一であるので、制御内容の詳細な説明は省略する。
図12のフローチャートにおいて、ステップS307でステアリングの切り込み操作が開始された時点からの経過時間Tが求められると、ステップS308へ進み、ステアリングの切り込み操作が行われた後に戻し操作が行われたか否かが判断される。これは、前述したように操舵角δの検出値から判断することができる。
未だステアリングの切り込み操作も戻し操作も行われていないこと、もしくはステアリングの切り込み操作後に未だステアリングの戻し操作が行われていないことにより、このステップS308で否定的に判断された場合は、ステップS309へ進み、ステップS304で決定された補正内容(変化量Fctrlと最大変化速度DFctrl1とにより規定される補正内容)が出力される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度が、それぞれ、ステップS304で求められた変化量Fctrlおよび最大変化速度DFctrl1となるように、上記の補正が制限される。具体的には、変化速度が最大変化速度DFctrl1で制限され、かつ補正の際の変化量の最大値が変化量Fctrlで制限される。要するに、この場合は、この発明における通常の制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、ステアリングの切り込み操作後に戻し操作が行われたことにより、ステップS308で肯定的に判断された場合には、ステップS310へ進む。そして、上記のステップS307で求められた経過時間Tと、ステアリングの戻し操作が行われた状態における車両Veのばね上共振周波数の周期として予め求められた周期Tbとが比較され、経過時間Tが周期Tbよりも短いか否かが判断される。
経過時間Tが周期Tb以上に長いことにより、このステップS310で否定的に判断された場合は、前述のステップS309へ進み、従前の制御が同様に実行される。すなわち、この発明における通常の制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。経過時間Tが周期Tb以上に長い場合は、ステアリングの切り込み操作後に戻し操作が行われたとしても、車両Veのばね上共振周波数と共振するようなトルク変動が生じる可能性がないと判断できる。したがって、この場合は、通常の制駆動力制御が実行される。
一方、経過時間Tが周期Tbよりも短いことにより、ステップS310で肯定的に判断された場合には、ステップS311へ進み、この発明の制駆動力制御における補正の際の補正量に対して、例えばローパスフィルタによるフィルタ処理が施される。すなわち、この発明の制駆動力制御における駆動力もしくは制動力の変化速度に制限がかけられる。なお、この場合のローパスフィルタのカットオフ周波数は、車両Veのばね上共振周波数の半分以下となるような低い値に設定される。そうすることにより、ステアリングの切り込み操作後に戻し操作が行われた場合に、車両Veのばね上共振周波数と共振するようなトルク変動が生じてしまうことを確実に回避することができる。
上記のステップS311で、フィルタ処理によって制駆動力制御を実行する場合の補正が制限されると、前述のステップS309へ進み、ステップS311でフィルタ処理された補正内容が出力される。すなわち、ステップS311で制限された補正内容を基に制駆動力制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図12のフローチャートに示すように、この発明の制駆動力制御を実行した場合に、その制駆動力制御における制御トルク、すなわち駆動力もしくは制動力の変化分に相当するトルクの変動状態を、図13のタイムチャートに示してある。この図13のタイムチャートに示すように、図12のフローチャートに示すこの発明における制駆動力制御では、例えば車線変更や急ハンドルなどが行われた場合のように、短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合は、この発明の制駆動力制御における補正の際の補正量にローパスフィルタ処理を施すことにより、ステアリングの戻し操作の際に、制御トルクの変化速度が遅くなるように制限される。すなわち、制駆動力制御における補正の際の変化量および変化速度の上限値が低く制限される。したがって、図13のタイムチャートにおける時刻t2から時刻t4の間に示すように、制御トルクの増大が抑制されて、制御トルクはなだらかに変動する。そのため、図12のフローチャートに示すこの発明における制駆動力制御においても、例えば車線変更や急ハンドルなどで短時間の内にステアリングの切り込み操作と戻し操作とが行われた場合であっても、上記の従来の制御例のような制御トルクの変動のために、運転者に違和感を与えてしまうことを回避することができる。
以上のように、この発明に係る車両Veの制御装置によれば、運転者のステアリング操作により増減される車両Veの操舵角δ、およびステアリング操作に起因して発生する車両Veの横加速度Gyあるいは横ジャークDGyに基づいて、車両Veの旋回走行時に駆動力もしくは制動力を補正して変化させる制駆動力制御が実行される。その場合、ステアリングの切り込み操作とステアリングの戻し操作とにおける操作時間および操作速度、すなわち、経過時間Tおよび操舵角速度Dδが検出され、それら操経過時間Tおよび操舵角速度Dδに基づいて、この発明の制駆動力制御における補正の際の変化速度が決定される。
具体的には、ステアリングの切り込み操作が行われた場合、そのステアリングの切り込み操作後の戻し操作時に、ステアリングの切り込み操作が行われた際の経過時間Tおよび操舵角速度Dδに基づいて、制駆動力制御における補正の際の変化速度が制限される。例えば、経過時間Tが短いほど、もしくは操舵角速度Dδが速いほど、制駆動力制御における補正の際の変化速度がより遅くなるように制限される。
あるいは、ステアリングの戻し操作が行われた場合、その戻し操作が開始された時点の操舵角δ、およびステアリングの戻し操作が行われている際の操舵角速度Dδが検出され、それら操舵角δと操舵角速度Dδとに基づいて、ステアリングの戻し操作後に切り込み操作が連続して行われるか否かが推定される。そして、ステアリングの戻し操作後に切り込み操作が連続して行われると推定された場合に、この発明の制駆動力制御における補正の際の変化速度が制限される。すなわち、制駆動力制御において補正される駆動力もしくは制動力が滑らかに変化させられる。
そのため、例えば車線変更や急ハンドルなどにより、ステアリングの切り込み操作と戻し操作とが連続してあるいは繰り返して行われる場合であっても、運転者に違和感を与えない程度の変化速度を設定して、この発明の制駆動力制御を実行することができる。その結果、旋回走行時の車両挙動を安定させて車両Veの旋回性能を向上させる制駆動力制御を、運転者に違和感やショックを与えることなく適切に実行することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS105,S106,S107,S108,S205,S206,S207,S305,S306,S307,S308,S310を実行する機能的手段が、この発明における「ステアリング操作検出手段」に相当する。そして、ステップS110,S111,S209,S311を実行する機能的手段が、この発明における「制駆動力設定手段」に相当する。
なお、上述した具体例では、この発明における制御の対象とする車両Veとして、駆動力源5の動力を左右の後輪3,4に伝達して車両Veの駆動力を発生させる後輪駆動車の構成を例に挙げて説明したが、駆動力源5の動力を左右の前輪1,2に伝達して車両Veの駆動力を発生させる前輪駆動車であってもよい。あるいは、駆動力源5の動力を前輪1,2および後輪3,4に分配して伝達し、それら全ての車輪で車両Veの駆動力を発生させる4輪駆動車であってもよい。