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JP5780212B2 - Ni基合金 - Google Patents

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JP5780212B2 JP2012135918A JP2012135918A JP5780212B2 JP 5780212 B2 JP5780212 B2 JP 5780212B2 JP 2012135918 A JP2012135918 A JP 2012135918A JP 2012135918 A JP2012135918 A JP 2012135918A JP 5780212 B2 JP5780212 B2 JP 5780212B2
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Description

本発明は、Ni基合金に関する。
石油精製及び石油化学プラント等で使用されるエアフィンクーラ又は空気予熱器、及び、火力発電所等で使用される排煙脱硫装置等の設備は、腐食環境で使用される。これらの設備では、燃焼ガスが冷却されると、塩酸や硫酸等の還元性酸が生成されるためである。このような腐食環境下の設備に使用される材料では、還元性酸に対する耐食性が求められる。さらに、これらの設備は高圧下で使用される場合が多い。したがって、これらの設備に利用される材料には高い強度も求められる。
このような腐食環境下の設備の材料として、低合金鋼及びステンレス鋼といったFe基の耐食合金が利用されている。最近ではさらに、脱硫装置等の一部において、Fe基合金に代えてNi基合金が利用されている。脱硫装置等に利用されているNi基合金はたとえば、ハステロイC22及びハステロイC276(「ハステロイ」は商標である)等の市販のNi基合金である。これらのNi基合金は、20%Cr−15%Mo−4%Wを基本組成とし、Mo及びWを含有する。また、特開平8−3666号公報(特許文献1)に開示されるNi基合金も、脱硫装置等の一部に利用されている。特許文献1のNi基合金は、16〜27%のCr、16〜25%のMo、及び、1.1〜3.5%のTaを含有する。
さらに、上述のような腐食環境用の合金が、特開平5−195126号公報(特許文献2)、特開平6−128699号公報(特許文献3)、特開平10−60603号公報(特許文献4)、特開2002−96111号公報(特許文献5)、特開2002−96171号公報(特許文献6)、特開2001−107196号公報(特許文献7)及び特開2004−19005号公報(特許文献8)及び国際公開第2009/119630号(特許文献9)に提案されている。
特許文献2は、ごみ焼却炉に代表される、塩化物を含む燃焼スラグが付着する環境において、優れた耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼を提案する。特許文献2では、Cr、Ni、Nb含有量を適切に調整することにより、優れた耐食性が得られると記載されている。
特許文献3は、ごみ焼却炉等の腐食環境下で優れた耐食性を有し、熱間加工性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提案する。特許文献3では、Ni当量をCr当量よりも大きくして割れの発生を抑制し、かつ、Cr含有量、Mo含有量、Cu含有量及びN含有量を調整して局部腐食を抑制する。
特許文献4は、優れた熱間加工性を有し、高濃度の塩素イオン環境において優れた耐すきま腐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼を提案する。特許文献4では、Cr含有量、Mo含有量及びN含有量の総量を所定量以上とすることにより耐すきま腐食性を高め、Si含有量及びMn含有量、Cr含有量及びMo含有量を抑えることにより、熱間加工性を低下する金属間化合物の生成を抑制する。
特許文献5及び特許文献6は、高温腐食性に優れ、溶接部の延性が改善された、オーステナイト系ステンレス鋼管を提案する。これらの文献では、Cr含有量及びNi含有量を高めることで、高温腐食性を高める。さらに、溶接時にシグマ相の生成を抑制することで、溶接部の延性を改善する。
特許文献7は、硫酸環境下で良好な耐食性を示し、かつ、耐溶接割れ性に優れたオーステナイト鋼溶接継手を提案する。特許文献7では、Ni含有量とCo含有量とCu含有量との総量を所定量以上とすることにより、耐硫酸腐食性を高める。さらに、Si含有量及びS含有量を、Nb、Ta、Ti及びZr含有量の総量に対して抑えることで、耐溶接割れ性を高める。
特許文献8は、硫酸及び湿式処理リン酸に対する耐食性に優れたNi基合金を提案する。特許文献8では、Cr含有量、Mo含有量及びCu含有量を適正に調整することで、硫酸及び湿式処理リン酸に対する耐食性が高まると記載されている。
特許文献9は、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性に優れたNi基合金を提案する。特許文献9では、Cu含有量及びMo含有量の総量を所定量以上とすることにより、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が高まると記載されている。
特開平8−3666号公報 特開平5−195126号公報 特開平6−128699号公報 特開平10−60603号公報 特開2002−96111号公報 特開2002−96171号公報 特開2001−107196号公報 特開2004−19005号公報 国際公開第2009/119630号
しかしながら、ハステロイC22及びハステロイC276といった市販のNi基合金や、特許文献1のNi基合金は、合金元素を多く含有するため、コストが掛かる。さらに、合金元素を多く含有するため、これらのNi基合金は熱間加工性が低い。
特許文献2〜7で提案された合金はいずれもオーステナイト系ステンレス鋼であり、Fe基合金である。Fe基合金はNi基合金と比較して、耐食性が低い。そのため、塩酸及び硫酸といった還元性酸が含まれる環境での耐食性は低いと考えられる。
特許文献8に提案されたNi基合金では、塩酸に対する耐食性について検討されておらず、還元性酸に対する耐食性が低い可能性がある。また、熱間加工性についても検討されておらず、熱間加工性が低い可能性がある。
特許文献9に提案されたNi基合金は、還元性酸に対する耐食性に優れる。しかしながら、熱間加工性及び強度についての検討がされていない。
本発明の目的は、塩酸及び硫酸といった還元性の酸に対する耐食性に優れ、熱間加工性に優れ、高強度を有するNi基合金を提供することである。
本実施の形態によるNi基合金は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.003%以下、Cr:20%以上30%未満、Ni:40%よりも高く50%以下、Cu:2.5%よりも高く5.0%以下、Mo:5.0〜10%、W:3〜10%、Al:0.005〜0.5%、N:0.08%よりも高く0.3%以下、及び、希土類元素(REM):0.001〜0.20%を含有し、式(1)を満たし、残部はFe及び不純物からなる。
Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REM≧75 (1)
式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施の形態によるNi基合金は、還元性酸に対する耐食性に優れ、熱間加工性に優れ、高強度を有する。
図1は、F1=Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REMと、塩酸での腐食速度(mm/year)及び硫酸水溶液での腐食速度(mm/year)との関係を示す図である。
本発明者は、Ni基合金の還元性酸に対する耐食性、強度及び熱間加工性について調査、研究した。その結果、本発明者は、次の知見を得た。
(A)Cu、Cr、Mo、W及びNは、固溶により強度を高める。これらの元素はさらに、塩酸や硫酸といった還元性酸に対する耐食性を高める。
(B)一方、希土類元素(REM)は、Ni基合金の熱間加工性を高める。したがって、熱間加工性を高めるために、REMは含有される。
(C)しかしながら、Cu、Cr、Mo、W及びNの含有量に対して、REM含有量が高すぎる場合、還元性酸に対する耐食性が低下してしまう。これらの元素の含有量が式(1)を満たせば、Ni基合金の還元性酸に対する耐食性及び強度を高く維持しつつ、優れた熱間加工性が得られる。
Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REM≧75 (1)
式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F1=Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REMと定義する。図1は、F1と、塩酸での腐食速度(mm/year)及び硫酸水溶液での腐食速度(mm/year)との関係を示す図である。図1は、後述する実施例により得られた。
図1中の横軸はF1値である。縦軸は腐食速度(mm/year)である。図1中の点「◇」は、塩酸(塩化水素を3質量%含有)に試験片を浸漬した場合の腐食速度を示す。点「□」は、硫酸水溶液(硫酸を20質量%含有)に試験片を浸漬した場合の腐食速度を示す。
図1中の各点の試験片の化学組成は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.003%以下、Cr:20%以上30%未満、Ni:40%よりも高く50%以下、Cu:2.5%よりも高く5.0%以下、Mo:5.0〜10%、W:3〜10%、Al:0.005〜0.5%、N:0.08%よりも高く0.3%以下、及び、希土類元素(REM):0.001〜0.20%の範囲内であった。
図1を参照して、F1が75に至るまでは、F1が大きくなるにしたがい、腐食速度は急速に低下した。そして、F1が75以上になると、F1の増大に伴い、腐食速度は低下するものの、その低下の度合いは、F1が75未満の場合よりも小さかった。要するに、腐食速度のグラフでは、F1=75前後において変曲点が存在した。したがって、式(1)を満たせば、還元性酸に対する優れた耐食性を維持しつつ、REMにより熱間加工性を高めることができる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、以下のNi基合金を完成した。
本実施の形態によるNi基合金は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜1.0%、P:0.03%以下、S:0.003%以下、Cr:20%以上30%未満、Ni:40%よりも高く50%以下、Cu:2.5%よりも高く5.0%以下、Mo:5.0〜10%、W:3〜10%、Al:0.005〜0.5%、N:0.08%よりも高く0.3%以下、及び、希土類元素(REM):0.001〜0.20%を含有し、式(1)を満たし、残部はFe及び不純物からなる。
Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REM≧75 (1)
式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以下、本実施形態によるNi基合金の詳細を説明する。以降の説明において、元素に関する「%」は、特に断りのない限り、質量%を意味する。
[化学組成]
本実施形態によるNi基合金は、以下の化学組成を有する。
C:0.03%以下
炭素(C)は固溶強化により、合金の強度が高まる。しかしながら、C含有量が高すぎれば、結晶粒界近傍にCr欠乏層が形成され、合金の耐粒界腐食性が低下する。したがって、C含有量は0.03%以下である。C含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましい下限は0.01%である。C含有量の好ましい上限は0.03%未満であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Si:0.01〜0.5%
シリコン(Si)は、合金を脱酸する。Siはさらに、合金の耐酸化性を高める。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、Siが結晶粒界に偏析する。偏析したSiは、塩化物を含む燃焼スラグと反応しやすい。Siが燃焼スラグと反応すれば、粒界腐食が発生しやすくなる。Si含有量が高すぎればさらに、延性等の機械的性質が低下する。したがって、Si含有量は、0.01〜0.5%である。Si含有量の好ましい下限は、0.01%よりも高く、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは、0.10%である。Si含有量の好ましい上限は、0.5%未満であり、さらに好ましくは、0.4%であり、さらに好ましくは0.3%である。
Mn:0.01〜1.0%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸する。Mnはさらに、オーステナイト形成元素であり、合金組織をオーステナイト化する。Mnはさらに、合金中の不純物元素であるSと結合してMnSを形成し、合金の熱間加工性を高める。しかしながら、Mn含有量が高すぎれば、合金の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Mn含有量は0.01〜1.0%である。Mn含有量の好ましい上限は1.0%未満であり、さらに好ましくは0.8%であり、さらに好ましくは0.6%である。
P:0.03%以下
燐(P)は不純物である。Pは合金の溶接性及び熱間加工性を低下する。したがって、P含有量はなるべく低い方が好ましい。P含有量は0.03%以下である。好ましいP含有量は0.03%未満であり、さらに好ましくは、0.015%以下である。
S:0.003%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは合金の溶接性及び熱間加工性を低下する。したがって、S含有量はなるべく低い方が好ましい。S含有量は0.003%以下である。好ましいS含有量は0.003%未満であり、さらに好ましくは0.002%以下である。
Cr:20%以上30%未満
クロム(Cr)はNi基合金の還元性酸に対する耐食性(耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性)を高める。Crはさらに、強度を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、合金の熱間加工性が低下し、溶接性も低下する。したがって、Cr含有量は20%以上30%未満である。Cr含有量の好ましい下限は、20%よりも高く、さらに好ましくは21%であり、さらに好ましくは22%である。Cr含有量の好ましい上限は29%であり、さらに好ましくは28%である。
Ni:40%よりも高く50%以下
ニッケル(Ni)は、合金内のオーステナイトを安定化し、合金の耐食性を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、その効果は飽和する。したがって、Ni含有量は40%よりも高く50%以下である。Ni含有量の好ましい下限は41%であり、さらに好ましくは42%である。Ni含有量の好ましい上限は50%未満であり、さらに好ましくは49%であり、さらに好ましくは48%である。
Cu:2.5%よりも高く5.0%以下
銅(Cu)は、Crを含有するNi基合金の還元性酸に対する耐食性(耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性)を高める。Cuはさらに、強度を高める。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、合金の熱間加工性が低下し、溶接性も低下する。したがって、Cu含有量は2.5%よりも高く5.0%以下である。Cu含有量の好ましい下限は、2.7%であり、さらに好ましくは2.9%である。Cu含有量の好ましい上限は5.0%未満であり、さらに好ましくは4.5%であり、さらに好ましくは4.0%である。
Mo:5.0〜10%
モリブデン(Mo)は、Crを含有するNi基合金の還元性酸に対する耐食性(耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性)を高める。Moはさらに、強度を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、シグマ相が生成し、合金の熱間加工性が低下し、溶接性も低下する。したがって、Mo含有量は5.0〜10%である。Mo含有量の好ましい下限は5.0%よりも高く、さらに好ましくは5.5%であり、さらに好ましくは5.8%である。Mo含有量の好ましい上限は10%未満であり、さらに好ましくは8%であり、さらに好ましくは7%である。
W:3〜10%
タングステン(W)は、合金の還元性酸に対する耐食性(耐硫酸腐食性及び耐塩酸腐食性)を高める。Wはさらに、強度を高める。同様の作用効果を有するMoは、シグマ相の生成を促進しやすいのに対して、Wはシグマ相を生成させにくい。そのため、WはMoよりも合金の熱間加工性の低下を抑制することができる。しかしながら、W含有量が高すぎれば、合金の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、W含有量は3〜10%である。W含有量の好ましい下限は、3%よりも高く、さらに好ましくは3.5%であり、さらに好ましくは3.8%である。W含有量の好ましい上限は10%未満であり、さらに好ましくは6.0%であり、さらに好ましくは5.0%である。
Al:0.005〜0.5%
アルミニウム(Al)は、合金中の酸素を固定し熱間加工性を高める。Alはさらに、希土類元素(REM)の酸化を抑制する。しかしながら、Al含有量が高すぎれば、合金の熱間加工性が低下する。したがって、Al含有量は0.005〜0.5%である。Al含有量の好ましい下限は0.005%よりも高く、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。Al含有量の好ましい上限は0.5%未満であり、さらに好ましくは0.4%であり、さらに好ましくは0.3%である。
N:0.08%よりも高く0.3%以下
窒素(N)は、合金中のオーステナイトを安定化する。Nはさらに、強度を高める。Nはさらに、合金の還元性酸に対する耐食性(耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性)を高める。しかしながら、N含有量が高すぎれば、合金の熱間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.08%よりも高く0.3%以下である。N含有量の好ましい下限は0.09%であり、さらに好ましくは0.10%である。N含有量の好ましい上限は0.3%未満であり、さらに好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.15%である。
希土類元素(REM):0.001〜0.20%
希土類元素(REM)は、合金の熱間加工性を高める。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、還元性酸に対する耐食性(耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性)が低下する。したがって、REM含有量は0.001〜0.20%である。本実施形態において、REMとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイドの合計17元素の総称である。本実施形態において、REM含有量とは、上述の17元素の1種又は2種以上の総含有量を意味する。REM含有量の好ましい下限は、0.001%よりも高く、さらに好ましくは、0.005%であり、さらに好ましくは0.01%である。REM含有量の好ましい上限は、0.20%未満であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.15%である。工業的には、ミッシュメタルとして添加されてもよい。
本実施形態によるNi基合金の残部は、Fe及び不純物である。不純物は、合金の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素であって、本実施形態のNi基合金に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
上述のとおり、残部の主成分はFeである。Feは、Ni基合金の強度を高める。Feを含有することによりさらに、Ni基合金中のNi含有量を低減することができる。
[式(1)について]
本実施形態のNi基合金の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REM≧75 (1)
式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
Cu、Cr、Mo、W及びNはいずれも、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性を高め、かつ、高温強度を高める。しかしながら、これらの元素の含有量が、REMの含有量に対して少なすぎれば、REMにより熱間加工性を高めても、耐塩酸腐食性、耐硫酸腐食性が低下する。
図1に示すとおり、F1(=Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REM)が75以上であれば、REM含有量が上記範囲内であっても、還元性酸に対して優れた耐食性(耐塩酸腐食性、耐硫酸腐食性)を示す。好ましいF1値は、80以上であり、さらに好ましくは、90以上である。
[製造方法]
本実施形態のNi基合金は、種々の製造方法で製造される。以下、製造方法の一例として、Ni基合金管の製造方法について説明する。
初めに、上記化学組成を有する素材を準備する。素材はたとえば中空ビレットである。中空ビレットはたとえば、機械加工又は竪型穿孔により製造される。中空ビレットに対して熱間押出加工を実施する。熱間押出加工はたとえば、ユジーン・セジュルネ法である。以上の工程により、Ni基合金管が製造される。熱間押出加工以外の他の熱間加工により、Ni基合金管を製造してもよい。
熱間加工後のNi基合金管に対してさらに、冷間圧延及び/又は冷間抽伸といった冷間加工を実施してもよい。
さらに、Ni基合金管に対して、所望の機械的性質を得るために固溶化処理等の熱処理を実施してもよい。固溶化熱処理を実施する場合、好ましい熱処理温度は1050℃〜1200℃である。この場合、結晶粒の粗大化を抑制でき、さらに優れた高温強度が得られる。
上述の製造方法の一例では、Ni基合金管の製造方法について説明した。しかしながら、Ni基合金は、板材であってもよいし、溶接管、又は、棒材等であってもよい。要するに、Ni基合金の製品形状は特に限定されない。
以上の方法により製造されたNi基合金は、還元性酸に対する耐食性(耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性)に優れ、高い高温強度を有し、かつ、熱間加工性に優れる。
種々の化学組成のNi基合金を製造し、製造されたNi基合金の高温強度、熱間加工性、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性を調査した。
[試験方法]
表1に示す化学組成を有する試験番号1〜21のNi基合金を高周波加熱真空炉で溶解してインゴットを製造した。
Figure 0005780212
試験番号1〜21のNi基合金のインゴットを熱間鍛造及び熱間圧延して板厚25mmの板材を製造した。製造された各板材から第1棒状試験片を採取した。第1棒状試験片の直径は10mm、長さは110mmであった。
熱間圧延して製造された板厚25mmの板材をさらに冷間圧延して、板厚を15mmにした。冷間圧延後の板材に対して固溶化熱処理を実施した。熱処理温度は1150℃であった。固溶化熱処理後の板材を機械加工して、直径6mmの第2棒状試験片と、厚さ2mm、幅10mm、長さ50mmの複数の板状試験片とを作製した。
[熱間加工性評価試験]
第1棒状試験片を使って、サーモレスタ試験機により、900℃で引張試験を実施した。引張試験後の第1棒状試験片の破断面の断面積を測定した。測定された破断面の断面積S1(mm)と、引張試験前の第1棒状試験片の断面積S0(mm)とを用いて、以下の式(2)に基づいて、絞りRA(%)を算出した。
RA=(S0−S1)/S1×100 (2)
絞りRAが60%を超える場合、熱間加工性に優れると評価した。
[強度評価試験]
第2棒状試験片を用いて、ASTM E8に基づく常温での引張試験を実施した。引張試験により得られた0.2%耐力(MPa)を降伏強度と定義した。降伏強度が320MPaを超える場合、高強度を有すると評価した。
[耐塩酸腐食性評価試験]
板状試験片を60℃の塩酸に6時間浸漬した。塩酸は3質量%の塩化水素を含有した。
6時間浸漬した後、板状試験片を塩酸から取り出し、表面の堆積物を除去した。そして、試験後の板状試験片の質量を測定した。試験前の板状試験片の質量から、試験後の板状試験片の質量を差し引いて、試験による腐食減量を得た。得られた腐食減量及び浸漬時間に基づいて、腐食速度(mm/year)を求めた。具体的には、ASTM G28等にも規定されている次の式に基づいて、腐食速度を求めた。
腐食速度(mm/year)=腐食減量(g)/試験片表面積(cm)/浸漬時間(h)/密度(g/cm)×10(mm/cm)×8760h/year
求めた腐食速度が0.1mm/year未満である場合、耐塩酸腐食性に優れると評価した。
[耐硫酸腐食性評価試験]
板状試験片を80℃の硫酸水溶液に24時間浸漬した。硫酸水溶液は、20質量%の硫酸を含有した。耐塩酸腐食性評価試験と同様に、試験前後の板状試験片の質量差(腐食減量)から腐食速度を求めた。求めた腐食速度が0.1mm/year未満である場合、耐硫酸腐食性に優れると評価した。
[試験結果]
表2に各評価試験の結果を示す。
Figure 0005780212
表2を参照して、試験番号1〜6の化学組成は適切であり、式(1)も満たした。そのため、絞りRAは60%を超え、優れた熱間加工性を示した。さらに、これらの試験番号の降伏強度は320MPa以上であり、高強度であった。さらに、これらの試験番号の塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度はいずれも0.1mm/year未満であり、優れた耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性を示した。
一方、試験番号7はREMを含有しなかった。そのため、絞りRAが60%以下であり、熱間加工性が低かった。試験番号8では、REM含有量が高かった。そのため、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
試験番号9のCu含有量は低かった。そのため、降伏強度が320MPa未満であった。さらに、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
試験番号10のCu含有量は高かった。そのため、絞りRAが60%以下であり、熱間加工性が低かった。
試験番号11のCr含有量は低かった。そのため、強度が320MPa未満であった。さらに、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
試験番号12のCr含有量は高かった。そのため、絞りRAが60%以下であり、熱間加工性が低かった。
試験番号13のMo含有量は低かった。そのため、強度が320MPa未満であった。さらに、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
試験番号14のMo含有量は高かった。そのため、絞りRAが60%以下であり、熱間加工性が低かった。
試験番号15のW含有量は低かった。そのため、強度が320MPa未満であった。さらに、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
試験番号16のW含有量は高かった。そのため、絞りRAが60%以下であり、熱間加工性が低かった。
試験番号17のN含有量は低かった。そのため、強度が320MPa未満であった。さらに、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
試験番号18のN含有量は高かった。そのため、絞りRAが60%以下であり、熱間加工性が低かった。
試験番号19〜21では、化学組成中の各元素の含有量は適切であったものの、式(1)を満たさなかった。そのため、塩酸及び硫酸水溶液での腐食速度が0.1mm/yearよりも顕著に大きく、耐塩酸腐食性及び耐硫酸腐食性が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
本実施形態によるNi基合金は、塩酸又は硫酸等の還元性酸が含まれる環境での使用される設備に広く適用可能である。より具体的には、たとえば、石油精製及び石油化学プラント等で使用されるエアフィンクーラや空気予熱器、火力発電所の排煙脱硫装置、煙道及び煙突等の構造部材として好適である。

Claims (1)

  1. 質量%で、
    C:0.03%以下、
    Si:0.01〜0.5%、
    Mn:0.01〜1.0%、
    P:0.03%以下、
    S:0.003%以下、
    Cr:20%以上30%未満、
    Ni:40%よりも高く50%以下、
    Cu:2.5%よりも高く5.0%以下、
    Mo:5.0〜10%、
    W:3〜10%、
    Al:0.005〜0.5%、
    N:0.08%よりも高く0.3%以下、及び、
    希土類元素(REM):0.001〜0.20%を含有し、
    式(1)を満たし、
    残部はFe及び不純物からなる、Ni基合金。
    Cu+Cr+6Mo+3W+20N−20REM≧75 (1)
    式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
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