しかし、チューブポンプは、チューブの閉塞箇所を移動させることで流体の押し出しと吸い込みとを行う関係上、常にチューブの少なくとも一箇所が押圧されて閉塞状態となるように構成されている。そのため、チューブポンプの製造から実際に使用するまでの期間が長期間に及ぶと、チューブの押圧されていた箇所が劣化して、チューブの復元力が弱まってしてしまうことがあり、結果として、流体の輸送精度が低下するという問題があった。
また、このようなチューブポンプにより流体として薬液を輸送する場合、チューブからは、薬液が蒸発し易いので、輸送中に薬液が徐々に減少する。その結果、規定量の薬液を精度よく輸送することが困難となる。特に、チューブポンプの小型化により、細いチューブで僅かな量の薬液をゆっくり輸送する場合には、薬液の輸送量に対する蒸発量が多くなるので、こうした影響が顕著に現れる。
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、継続的な押圧によってチューブが劣化することを防止するとともに、流体の輸送精度を向上させることが可能な技術の提供を目的とする。
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体輸送装置は次の構成を採用した。すなわち、
弾性材料で形成されたチューブを、側面側から押圧部材を用いて押圧することにより該チューブの少なくとも一箇所を閉塞させ、該閉塞箇所を移動させることによって、該チューブ内の流体を輸送する流体輸送装置であって、
前記押圧部材、および前記閉塞箇所を移動させるために該押圧部材を駆動する駆動手段が設けられた本体ケースと、
前記本体ケースに対して着脱可能に構成されるとともに、前記流体輸送装置によって輸送される流体が通過する流路が内部に形成され、該本体ケースに装着すると、該流路を構成する前記チューブが該本体ケースの前記押圧部材により押圧されて閉塞状態となる着脱ケースと
を備え、
前記流路は、前記押圧部材を用いて押圧される部分が前記チューブによって構成され、残余の部分が前記着脱ケースと一体に構成された流路であることを要旨とする。
このような本発明の流体輸送装置においては、流路が内部に形成された着脱ケースが、チューブの押圧に用いられる押圧部材が設けられた本体ケースに対して着脱可能に構成されており、着脱ケースを本体ケースに装着することで、流路を構成するチューブが押圧部材により押圧されて閉塞状態となる。そして、流路は、押圧部材を用いて押圧される部分がチューブによって構成され、残りの部分が着脱ケースと一体に構成されている。尚、押圧部材は、チューブを直接的に押圧するものに限られるわけではなく、着脱ケースを本体ケースに装着することでチューブが押圧された状態になるのであれば、他の部材を介して間接的にチューブを押圧するものであってもよい。
上述した構成を有する本発明の流体輸送装置では、チューブを備えた着脱ケースが、押圧部材を備えた本体ケースに対して着脱可能になっているため、チューブが常に押圧されているわけではなく、チューブの劣化を防止することができる。また、流路のうち、押圧される部分だけがチューブで構成され、残りの部分は着脱ケースと一体に構成されていることから、流体の輸送精度を向上させることができる。すなわち、弾性材料で形成されたチューブからは、気化した流体が抜けていき易いことが知られており、例えば、流体輸送装置で流体として薬液を輸送する場合、輸送中にチューブから薬液が蒸発して、規定量の薬液を精度よく輸送する(投与する)ことが困難となる。この点、流路を、押圧される部分を除いて、着脱ケースと一体に構成しておけば、この着脱ケースと一体に構成された流路部分については、チューブよりもガスバリア性が高まるので、流路の全てをチューブで構成する場合に比べて、輸送中の流体の減少が抑えられる。その結果、流体輸送装置による薬液の輸送精度を向上させることができる。
また、押圧部材を用いて押圧されない部分を着脱ケースと一体に構成することは、次のような観点からも、流体の輸送精度を向上させる方向に作用する。すなわち、一般に押し出し成形されるチューブの内径は製造ロットによってバラツキがあり、このようなバラツキによりチューブ内を流れる流体の流量が変わるので、流体の輸送精度に大きく影響する。この点、着脱ケースと一体に構成される流路部分であれば、型成形によって寸法精度を高めることができるので、流路の全てをチューブで構成する場合に比べて、流体の輸送精度を向上させることができる。また、流路を構成するチューブが短ければ、このチューブを押し出し成形でなく、型成形で製造することも可能であり、これによりチューブの内径のバラツキを抑えることができるので、流体の輸送精度をより一層高めることが可能となる。
加えて、押圧部材を用いて押圧されない部分を着脱ケースと一体に構成することで、流体輸送装置の小型化を図ることも可能となる。すなわち、流路の全てをチューブで構成し、着脱ケース内を引き回す場合には、チューブが折れ曲がって閉塞することのないように曲率半径Rを大きくとる必要がある。これに対して、本発明の流体輸送装置のように、流路のうち、押圧部材を用いて押圧される部分をチューブで構成し、残りの部分を着脱ケースと一体に構成するようにすれば、この着脱ケースと一体に構成される流路部分については、小さな曲率半径Rで取り回す(鋭角に曲げる)ことができるため、流体輸送装置を小型化することができる。
さらに、流路のうち、押圧部材を用いて押圧される部分だけをチューブで構成するのであれば、流路の全てをチューブで引き回す場合に比べて、チューブの取り付け誤差(引っ張りによるチューブの伸張など)が生じ難いことから、流体輸送装置の製造が容易となる。
さらに加えて、流路のうち、押圧される部分だけをチューブとするのであれば、高価なチューブの使用量が少なくなるため、流体輸送装置の製造コストを低減することができる。
こうした本発明の流体輸送装置では、押圧部材を構成するカムを本体ケースに設けるとともに、チューブの側面に沿うように配置され、カムの回転を受けてチューブを順次押圧する複数の押圧軸を着脱ケースに設けることとしてもよい。
チューブをカムで直接押圧して閉塞させる場合、閉塞箇所を移動させるためにカムを回転させると、カムがチューブの側面を摺動するのでチューブが磨耗する。これに対して、チューブの側面に沿って配置された複数の押圧軸をカムで順次押圧していくようにすれば、各押圧軸はチューブの所定箇所を押圧するだけなので、摺動によってチューブが磨耗することがなく、チューブの耐久性を高めることができる。
また、こうした本発明の流体輸送装置では、流路のうち、チューブが占める長さの比率を、半分以下に設定しておいてもよい。
このようにすれば、前述したチューブからの薬液の蒸発や、チューブ内径の製造バラツキによる流体の輸送精度への影響を半減させることができ、その分、流体輸送装置による流体の輸送精度を向上させることができるので望ましい。また、流路を構成するチューブの長さが短くなり、着脱ケースと一体に構成される流路部分が大部分となれば、前述したように小さな曲率半径Rでの取り回しが可能となるため、流路のレイアウトの自由度が増し、流体輸送装置の小型化が容易となる。
さらに、こうした本発明の流体輸送装置では、流路を構成するチューブの内径に比べて、着脱ケースに設けられた流路部分の内径を小さく設定しておいてもよい。
流体輸送装置が製造された時点では、輸送の対象となる流体が流路に充填されていないことが多く、この場合には、流体輸送装置の使用を開始するに際して、先ず流路に輸送対象の流体を満たすこと(初期充填)が必要となる。このとき、流路内を流れる流体の流量は、主に、押圧部材を用いて押圧されるチューブの内径と、押圧部材の駆動速度とによって定まり、着脱ケースに設けられた通路における流体の流速は、この通路の内径が小さいほど速くなる。そのため、チューブの内径よりも、着脱ケースに設けられた通路の内径を小さくすれば、流路内を流れる流体の流量を維持しつつ、初期充填に要する時間を短縮することができる。また、着脱ケースに設けられた通路の内径を小さくするのであれば、チューブの内径を小さくするのに比べて、製造バラツキが大きくなることもない。
また、こうした本発明の流体輸送装置では、チューブを着脱ケースに取り付けた状態で、チューブの内径を変化させる調整手段を備えておいてもよい。
前述したように、チューブの内径は製造ロットによってバラツキがあり、また、チューブを着脱ケースに取り付ける際には、チューブの引っ張りや圧挿などによってチューブの内径にバラツキが生じることがある。このようなバラツキにより、チューブ内を流れる流体の流量が変わるので、流体の輸送精度に大きく影響する。そこで、チューブの内径を変化させる調整手段を設けておけば、チューブを着脱ケースに取り付けた状態で、チューブの内径のバラツキを補正することができる。その結果、流体の輸送精度を向上させることが可能となる。
また、上述した本発明の流体輸送装置では、回転機構の回転によりチューブを伸縮させることで、チューブの内径を変化させてもよい。
このような構成によれば、例えば、製造バラツキでチューブの内径が基準値よりも大きい場合には、チューブを着脱ケースに取り付けた状態でチューブの長さが長くなる方向に回転機構を回転させることにより、チューブが伸びて内径は小さくなる。このため、チューブの内径のバラツキを簡便に補正して、流体の輸送精度を向上させることができる。
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.本実施例の流体輸送動作:
A.装置構成 :
図1は、本実施例の流体輸送装置としてのチューブポンプの大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、本実施例のチューブポンプ100は、大まかには本体200と、この本体200に対して着脱可能なカートリッジ300とによって構成されている。また、本体200は、第1本体ケース210と第2本体ケース212とを張り合わせて形成されており、カートリッジ300は、第1カートリッジケース310と第2カートリッジケース312とを張り合わせて形成されている。尚、これら第1本体ケース210、第2本体ケース212、第1カートリッジケース310、および第2カートリッジケース312は、例えば、プラスチックなどの軽量で一定の強度を有する材料で形成されており、生体適合性を有する材料で形成されていることがより好ましい。
加えて、本体200には、カートリッジ300を装着するための装着空間250が設けられており、この装着空間250にカートリッジ300を装着した状態で、チューブポンプ100は、流体輸送装置として機能するようになっている。尚、図1では、本体200に設けられた装着空間250が破線で表されている。以下では、本体200およびカートリッジ300のそれぞれの構成について詳しく説明する。
図2は、チューブポンプ100の本体200およびカートリッジ300のそれぞれの構成を示した説明図である。図2(a)には、本体200の構成が示されており、図2(b)には、カートリッジ300の構成が示されている。先ず、図2(a)に示されているように、本体200には、カム220や、カム220を回転させるための駆動部230や、駆動部の動作を制御する制御部240などが搭載されている。前述したように、本体200は、第1本体ケース210と第2本体ケース212とによって外枠が形成されており、カム220、駆動部230、および制御部240は、この内部に設置されている。尚、図2(a)では、第1本体ケース210が透明部材で形成されているものとして表している。また、前述したように、本体200には、カートリッジ300を装着するための装着空間250が設けられている。
本実施例の駆動部230は、いわゆるステップモーターによって構成されており、ステップモーターを駆動することにより、カム220を時計回りに回転させることが可能となっている。尚、駆動部230は、カム220に対して回転力を与えられるものであればよく、ステップモーターに限定されるわけではない。
カム220の外周には、カム220の中心からの半径が最も小さい凹部220aと、カム220の中心からの半径が最も大きい凸部220bとが設けられている。そして、凹部220aから反時計回りに凸部220bに向かう間には、カム220の中心からの半径が滑らかに変化する遷移領域が設けられている。これに対して、凸部220bを過ぎると、凹部220aへと半径が直接変化するようになっている。こうした凹部220aおよび凹部220aは、カム220の外周に等間隔に4つ設けられている。
一方、図2(b)に示されているように、カートリッジ300は、薬液等の流体を貯留するリザーバー320や、弾性材料で形成されたチューブ330や、リザーバー320内の流体をチューブ330まで導く上流路340や、チューブ330から流体を流出口350まで導く下流路342や、チューブ330を押圧する複数(本実施例では、7本)の押圧軸336が取り付けられた軸保持部334などを備えている。尚、本実施例のチューブ330には、シリコン製のチューブが用いられている。
詳しくは後述するが、上流路340および下流路342は、カートリッジ300の外枠を構成する第1カートリッジケース310および第2カートリッジケース312によって形成される流路である。また、チューブ330と上流路340とは、接続コネクター344を介して接続されており、チューブ330と下流路342とは、接続コネクター346を介して接続されている。尚、図2(b)では、第1カートリッジケース310が透明部材で形成されているものとして表している。
チューブ330は、チューブ330の位置を規制するガイド壁332に沿って、円弧形状に配設されている。また、軸保持部334には、このチューブ330の円弧形状と中心を同じくして放射状に複数の押圧軸336が等間隔に配置されている。各押圧軸336は、軸保持部334に形成された貫通孔に通されており、往復動が可能となっている。このような押圧軸336がチューブ330に向けて移動すると、チューブ330をガイド壁332の反対側から押圧することになるが、カートリッジ300が本体200から取り外された状態では、チューブ330の弾性力によって押圧軸336が押し退けられているので、チューブ330は押圧されていない。
本実施例のチューブポンプ100は、以上のような本体200とカートリッジ300とによって構成されており、本体200にカートリッジ300を装着して一体とすることで、流体輸送装置として機能するようになっている。以下では、本実施例のチューブポンプ100における流体輸送動作について説明する。
B.本実施例の流体輸送動作 :
図3は、本実施例のチューブポンプ100の本体200にカートリッジ300を装着した状態を示した説明図である。本実施例のチューブポンプ100では、本体200の装着空間250にカートリッジ300を装着した後、固定用ビス102を用いて第1本体ケース210側からビス留めすることにより、カートリッジ300が本体200から抜け落ちることを防止するようになっている。
図示されているように、本体200にカートリッジ300を装着した状態では、カートリッジ300の軸保持部334に取り付けられた複数(本実施例では、7本)の押圧軸336の一端(チューブ330に接する側とは反対側の端部)が、本体200に搭載されたカム220の外周面に当接するようになっている。また、前述したように、カム220の外周には、凹部220a、凸部220b、および凹部220aから凸部220bに向かう間の遷移領域が設けられている。このうち、凹部220aに当接する押圧軸336は、チューブ330の弾性力によって押し退けられたままであり、チューブ330を押圧することはない。これに対して、遷移領域および凸部220bに当接する押圧軸336は、チューブ330に向けて押し出され、ガイド壁332との間でチューブ330を押圧する。特に、凸部220bに当接する押圧軸336は、チューブ330を最も強く押圧することになる。
図4は、押圧軸336によってチューブ330が押圧される様子を示した断面図である。先ず、図4(a)には、押圧軸336がカム220の凹部220aに当接している状態が示されている。前述したように、本実施例のチューブ330は、ガイド壁332に沿って円弧形状に配設されている。また、軸保持部334の貫通孔に通されている複数の押圧軸336は、チューブの円弧形状と中心を同一とする放射状に配置されており、このチューブ330の円弧形状の中心は、カートリッジ300を本体200に装着した状態で、カム220の回転中心と同一に設定されている。そして、押圧軸336の長さは、チューブ330の側面と、カム220の外周面の凹部220aとを結ぶ最短距離に設定されていることから、カム220の凹部220aに当接している押圧軸336によってチューブ330が押圧されることはない。尚、本実施例のガイド壁332は、第2カートリッジケース312と一体に構成されており、軸保持部334は、第2カートリッジケース312に固定されている。
図4(a)に示した状態から、駆動部230の作動によってカム220が時計回りに回転すると、カム220の凹部220aに当接していた押圧軸336は、カム220の中心からの半径が徐々に増大する遷移領域に当接することになる。そのため、押圧軸336は、チューブ330側に少しずつ押し出されて、ガイド壁332との間でチューブ330を押圧するようになる。
そして、カム220がさらに回転して、図4(b)に示すように、押圧軸336がカム220の凸部220bに当接すると、押圧軸336がチューブ330側に最も押し出された状態となる。このときチューブ330は、ガイド壁332との間で押圧軸336に最も強く押圧され、チューブ330の内面の全てが密着して完全に閉塞した状態となっている。
このように、カム220の凸部220bに当接した押圧軸336によって押圧される箇所では、チューブ330が完全に閉塞しており、駆動部230の作動によってカム220が回転すると、それに伴ってチューブ330の閉塞箇所も移動していくので(図3参照)、チューブ330内の流体は順次下流に押し出される。また、カム220には、凸部220bに続けて、直ちに凹部220aが設けられていることから、カム220の回転により凸部220bが通過すると、チューブ330の閉塞していた箇所では、チューブ330の復元力によって、押圧軸336が押し戻されるとともに、上流から流体が吸い込まれる。チューブポンプ100では、このような動作を連続して行うことにより、リザーバー320内に貯留されている流体を、流出口350へと輸送することが可能となっている。尚、本実施例のカム220には、凸部220bが等間隔に4つ設けられており、何れかの凸部220bによって押圧されることで常にチューブ330の一箇所が閉塞状態となっているため、流体が逆流することを防止している。
ここで、前述したように、本実施例のチューブポンプ100では、リザーバー320内の流体を上流路340によってチューブ330まで導き、チューブ330から流体を下流路342によって流出口350まで導くようになっている。以下では、カートリッジ300に設けられた上流路340および下流路342の構成や、これら2つの通路とチューブ330との接続について詳しく説明する。
図5は、本実施例のカートリッジ300に設けられた上流路340の構成、および上流路340とチューブ330との接続を示した断面図である。図示されているように、本実施例の上流路340は、第1カートリッジケース310および第2カートリッジケース312の少なくとも一方に溝として掘り込まれており、第1カートリッジケース310と第2カートリッジケース312とを張り合わせることによって上流路340が形成される。尚、上流路340の内径は、チューブ330の内径よりも小さく設定されている。
このような上流路340のチューブ330側の端部には、チューブ330との接続のために第1カートリッジケース側に大きく掘り込まれた接続空間340aが形成されており、この接続空間340aに接続コネクター344が取り付けられる。本実施例の接続コネクター344は、いわゆるロータリーコネクターであり、第1部材344aと第2部材344bとが回転可能に接合されている。このうち第1部材344a側は、チューブ330の上流側に差し込まれて固定されている。また、図示されているように、第2部材344b側の側面に雄ねじが刻まれているとともに、接続空間340aの内面には対応する雌ねじが刻まれており、第2部材344b側を接続空間340aに回し入れることで、接続空間340aへの接続コネクター344の嵌め込みの深さを簡単に調節することが可能となっている。尚、下流路342の構成、および接続コネクター346を介した下流路342とチューブ330との接続についても、基本的には上流路340の場合と同じであることから、ここでは説明を省略する。
ここで、本実施例のチューブポンプ100では、上述したように接続空間340aへの接続コネクター344の嵌め込みの深さによって、カートリッジ300に取り付けられたチューブの長さを容易に調節できることから、流体の輸送精度の向上を図ることが可能となっている。すなわち、一般にチューブは押し出し成形されることから、チューブの内径は製造ロットによってバラツキがあり、それに伴ってチューブ内を流れる流体の流量も変化してしまう。そのため、規定量の流体を精度よく輸送するには、押圧軸によるチューブの押圧を調節するといった複雑な補正が必要であった。これに対して、本実施例のチューブポンプ100では、接続空間340aへの接続コネクター344の嵌め込みの深さを変えることで、カートリッジ300に取り付けられるチューブ330の張り具合(伸び縮み)を調節することができ、これにより、チューブ330の内径の製造バラツキを容易に補正することができる。例えば、製造バラツキでチューブ330の内径が基準値よりも大きい場合には、接続コネクター344を基準よりも深く接続空間340aに嵌め込んでチューブ330の張り(伸び)を強めることにより、チューブ330の内径は小さくなるので、チューブ330の内径の製造バラツキによる影響を低減することができる。その結果、流体の輸送精度を向上させることが可能となる。
続いて、流体を貯留するためにカートリッジ300に設けられたリザーバー320の構成について説明する。図6は、本実施例のカートリッジ300に設けられたリザーバー320の構成を示した断面図である。図示されているように、本実施例のリザーバー320は、一部(図6では、リザーバー320の下部)が第2カートリッジケース312と一体に構成されており、残りの部分(図6では、リザーバー320の上部)が、弾性材料(本実施例では、シリコン製材料)で形成されたフィルム322で構成されている。このフィルム322は、第1カートリッジケース310に掘り込まれた収納空間324を覆うように張られており、第1カートリッジケース310と第2カートリッジケース312とを張り合わせた状態で、リザーバー320が形成される。加えて、リザーバー320は、第2カートリッジケース312と一体に構成されている部分で、前述した上流路340と連結されており、リザーバー320内に貯留されている流体は、上流路340を介してチューブ330まで導かれる。尚、図6には、リザーバー320が流体で満たされた状態が示されており、フィルム322は凸形に膨らんでいる。チューブポンプ100の作動によりリザーバー320内の流体が流出口350へと輸送されると、リザーバー320内の流体の減少に伴って、凸形に膨らんだ状態から凹形にしぼんだ状態へとフィルム322の形状が変化する。また、本実施例の第2カートリッジケース312には、リザーバー320内に外部から流体を注入するためのポートとして、図示しないセプタム326が設けられており、このセプタム326を介してリザーバー320内に流体を注入することが可能となっている。
以上に説明したように、本実施例のチューブポンプ100では、カム220が搭載された本体200に対して、チューブ330が配設されたカートリッジ300が着脱可能に構成されており、カートリッジ300を本体200に装着することで、チューブ330が押圧軸336を介してカム220により押圧された状態となる。そのため、チューブ330の継続的な押圧による流体の輸送精度の低下を防止することが可能となっている。すなわち、本実施例とは異なり、チューブポンプ100を本体200とカートリッジ300とに分離することができない構成では、チューブポンプ100の製造から実際に使用されるまでの間は、チューブ330の一箇所が常に押圧されて閉塞状態となっていることから、不使用のまま長期間が経過すると、チューブ330の押圧されていた箇所が劣化して元の形状に戻らなくなってしまい、流体の輸送精度が低下する(流体の流量が減少する)ことがある。これに対して、本実施例のように、本体200に対してカートリッジ300を着脱可能に構成しておけば、チューブポンプ100の使用に際してカートリッジ300を本体200に装着するまでは、チューブ330は押圧されないので、チューブ330が劣化してしまうことがなく、製造時における流体の輸送精度を維持することができる。また、カートリッジ300を本体200に装着してチューブポンプ100の使用を一旦開始した後も、チューブポンプ100を作動させていないときには、カートリッジ300を本体200から取り外しておくことにより、チューブ330の耐久性を向上させるとともに、流体の輸送精度の低下を防止することができる。
また、前述したように、本実施例のチューブポンプ100では、リザーバー320から流出口350までの流体の輸送通路のうち、押圧軸336を介してカム220により押圧される部分はチューブ330で構成されており、リザーバー320からチューブ330までの上流路340、およびチューブ330から流出口350までの下流路342はカートリッジ300のケース(第1カートリッジケース310および第2カートリッジケース312)と一体に構成されていることから、流体の輸送精度を向上させることができる。すなわち、一般にチューブポンプを薬液の輸送に使用する場合、耐薬品性などを考慮して、チューブポンプのチューブにはシリコン製チューブが用いられることが多い。ところが、このシリコン製チューブからは、薬液が蒸発し易い(気化した薬液が抜けていき易い)ので、輸送中の薬液が徐々に減少して、規定の薬液量を精度よく輸送することが困難となる。また、蒸発した薬剤が駆動部230や制御部240などに付着することで、正常な駆動や制御を妨げ、薬液を精度よく輸送することが困難となる。こうした点に鑑み、本実施例のチューブポンプ100では、チューブ330にシリコン製チューブを使用しているものの、チューブ330の長さを、複数の押圧軸336で押圧するために必要な長さに限定し、このチューブ330に接続する上流路340および下流路342を、カートリッジ300のケース(第1カートリッジケース310および第2カートリッジケース312)と一体にプラスチック材料で構成している。これら上流路340および下流路342は、チューブ330(シリコン製チューブ)よりもガスバリア性に優れているので、リザーバー320から流出口350までの輸送通路の全てをチューブ330で構成する場合に比べて、輸送中の薬液の蒸発を抑制することができ、その結果、薬液の輸送精度を向上させることができる。尚、チューブ330からの薬液の蒸発量を低減する観点からは、チューブ330の長さは、上流路340および下流路342の長さの合計よりも短く設定しておくことが望ましい。
加えて、本実施例のように、チューブ330の長さを、複数の押圧軸336で押圧するために必要な長さに限定し、チューブ330に接続する上流路340および下流路342を、カートリッジ300のケース(第1カートリッジケース310および第2カートリッジケース312)と一体に構成することは、次のような観点からも、流体の輸送精度を向上させる方向に作用する。すなわち、チューブ330の内径は一般に製造ロットによりバラツキがあり、流体の輸送精度に大きく影響する。この点、カートリッジ300のケースと一体に構成される上流路340および下流路342であれば、寸法精度を高めることができるので、リザーバー320から流出口350までの輸送通路の全てをチューブ330で構成する場合に比べて、流体の輸送精度を向上させることができる。また、一般にチューブは押し出し成形されるために内径にバラツキが生じてしまうところ、複数の押圧軸336で押圧するために必要な長さに限定した短いチューブ330であれば、型成形することも可能であり、これにより内径のバラツキを抑えることができるので、流体の輸送精度の更なる向上を図ることが可能となる。
さらに、チューブ330に接続する上流路340および下流路342を、カートリッジ300のケースと一体に構成することで、チューブポンプ100を小型化することが可能となる。すなわち、本実施例とは異なり、リザーバー320から流出口350までの輸送通路の全てをチューブ330で構成し、カートリッジ300内を引き回す場合には、チューブ330が折れ曲がって閉塞しないように曲率半径Rを大きくとる必要がある。これに対して、本実施例のように、輸送通路を構成するチューブ330の長さを限定し、チューブ330以外の部分を、カートリッジ300のケースと一体に構成される上流路340および下流路342とすれば、これら上流路340および下流路342については曲率半径Rを小さくする(通路を鋭角に曲げる)ことができるので、輸送通路のレイアウトの自由度が増し、チューブポンプ100の小型化を図ることができる。
さらに加えて、輸送通路を構成するチューブ330の長さを限定することにより、リザーバー320から流出口350までチューブ330を引き回す場合に比べて、チューブ330の取り付け誤差(引っ張りによるチューブ330伸びなど)が生じ難くなることから、チューブポンプ100の製造が容易になる。また、チューブ330の長さを、複数の押圧軸336で押圧するために必要な長さに限定すれば、高価なチューブの使用量が少なくなるため、チューブポンプ100の製造コストを低減することができる。
また、前述したように、本実施例のチューブポンプ100では、上流路340および下流路342の内径は、チューブ330の内径よりも小さく設定されている。これは次のような理由によるものである。すなわち、カートリッジ300は、製造された時点では、リザーバー320から流出口350までの輸送通路に流体は充填されておらず、カートリッジ300を本体200に装着してチューブポンプ100を使用する(流出口350から流体を吐出する)際には、先ず輸送通路に流体を満たす初期充填を行う必要がある。このとき、輸送通路内を流れる流体の流量は、押圧されるチューブ330の内径と、カム220の回転速度とによって定まり、上流路340および下流路342における流体の流速は、上流路340および下流路342の内径が小さいほど速くなる。そのため、上流路340および下流路342の内径をチューブ330の内径よりも小さく設定しておけば、輸送通路の全てをチューブ330で構成した場合に比べて、初期充填に要する時間を短縮することができる。尚、チューブ330を細く(内径を小さく)しようとすると、前述したチューブ330からの薬液の蒸発による影響が顕著に現れるが、カートリッジ300のケースと一体に構成される上流路340および下流路342の内径を小さくするのであれば、こうした問題が生じることはない。
さらに、前述したように、本実施例のチューブポンプ100では、リザーバー320の構成にも特徴があり、リザーバー320の上部は、シリコン製のフィルム322で構成され、リザーバー320の下部は、第2カートリッジケース312と一体に構成されている。リザーバー320を、弾性材料(シリコン製など)のフィルム322で構成すると、リザーバー320内の流体の減少に伴って、フィルム322の形状が変化し、リザーバー320の体積も小さくなることから、リザーバー320内が負圧になることはなく、外気等が流入することもない。そのため、リザーバー320内の流体を残さず輸送することが可能であるとともに、流体として薬液を輸送する場合には、輸送する薬液に気泡が混入することが少ないので望ましい。その一方で、前述したように、シリコン製のフィルム322は、耐薬品性や柔軟性に優れるものの薬液が蒸発し易いので、リザーバー320の全てをシリコン製のフィルム322で構成すると、蒸発による薬液の損失が大きくなってしまう。この点、本実施例のように、リザーバー320の上部をシリコン製のフィルム322で構成し、リザーバー320の下部を第2カートリッジケース312と一体に構成しておけば、リザーバー320の全てをシリコン製のフィルム322で構成する場合に比べて、蒸発する面積が小さくなるので、蒸発による薬液の損失を低減することができる。
以上、本発明の流体輸送装置について実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
例えば、前述した実施例では、複数の押圧軸336でチューブ330を押圧するようになっていたが、カム220によって直接的にチューブ330を押圧することとしてもよい。尚、前述した実施例のように、カム220で直接的にチューブ330を押圧するのではなく、押圧軸336を介して間接的に押圧するようにすれば、チューブ330の側面をカム220が摺動することがないので、チューブ330の磨耗が減少する。その結果、チューブ330の耐久性を高めることができる。