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JP5614883B2 - アルミニウム材のフラックスレスろう付方法、フラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートおよびフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材 - Google Patents

アルミニウム材のフラックスレスろう付方法、フラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートおよびフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材 Download PDF

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Description

本発明は、非酸化性雰囲気でフラックスを使用せずに、ろう付可能なアルミニウム材のフラックスレスろう付方法、フラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートおよびフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材に関する。
ラジエータやコンデンサをはじめ、インタークーラー等を代表とする自動車用熱交換器や、その他アルミニウム合金にて製造される熱交換器や放熱器等は、現在、非腐食性のフッ化物系フラックスを用いてろう付けされるか、ろう材に0.5〜1.5質量%程度のMgを添加して真空下でろう付けされる工法が主流となっている。
上記フラックスを用いる場合、多くがろう付け対象部材をプレス成形等で加工後、所望の組み付け状態とし、フラックス粉末を溶媒に溶いた混濁液を組み付け体に塗着・乾燥させ、高純度窒素ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で加熱ろう付けしている。この場合、フラックスを使用すること自体、或いは、その塗布工程の設置や管理にコストを要するという問題がある。また、フラックスは、その一部がろう付け加熱過程で蒸発し、炉内壁に付着、堆積することが知られており、堆積物の除去を目的とした定期的な炉のメンテナンスも必要コストとして生じる。そして昨今、自動車の軽量化促進に伴い、自動車用熱交換器でも材料の薄肉高強度化が求められ、アルミニウム材料の高強度化には、アルミニウム合金へのMg添加が有効であることは一般的に知られているが、フラックスを用いたろう付けではMgとフラックスが反応して高融点のMgFを生成することから、これがろう付け阻害要因となったり、材料中のMgを消費してしまうため、折角添加したMgが高強度化にあまり役立たないという問題がある。すなわち、フラックスろう付けでは製品中のMg添加部位や量に制限があり、積極的に材料高強度化手法として用いることができていないのが現状である。
一方、真空ろう付けでは、ろう材に添加されたMgがろう付け昇温過程で材料中から蒸発し、その際に、ろう付け阻害要因であるアルミニウム材料表面の酸化皮膜を破壊、雰囲気中では水分や酸素と結合するゲッター作用により、炉内雰囲気をろう付け可能な状態としている。本手法では、フラックス工程管理は必要ないものの、真空炉が高価な設備であること、炉の気密性管理等に相応のコストが生じる問題がある。また、自動車用熱交換器等では、製品の耐食性確保を目的にZnが添加されるが、真空加熱下ではZnが蒸発してしまい、製品材料中に十分なZnを残すことができないというデメリットもある。更に、炉内壁には蒸発したMgやZnが堆積することから、定期的な炉内清掃も必要となる。
これらに対し、最近では上記問題を解消しようとする大気圧下のフラックスレスろう付けが提案されている。例えば特許文献1では、被ろう付け部材、もしくはそれ以外の部位にMg含有物を配置し、且つ、被ろう付け物に覆いをすることによって非酸化性雰囲気大気圧下のフラックスレスろう付けを提案している。しかし、この技術では覆いをすることが必須となっており、覆いを製品サイズ別に用意したり、量産で想定される使用個数を準備する必要があったり、更に、覆いのメンテナンス等が必要となり、量産適用においては手間やコストがかかるという問題がある。また、覆いをすることにより被ろう付け物の昇温速度が低下してしまい、生産性を低下させてしまうという問題もある。
上記問題に対し、特許文献2では、予めろう付け炉内で加熱された風除け冶具(覆い)によって炉内で被ろう付け部材を覆うような仕組みを提案し、昇温速度の低下を改善している。しかし、本方法においては、炉内に風除け冶具の動作を制御する機構を設ける必要があり、設備の導入や維持にコストと手間が掛かるという問題がある。
一方、覆いを必要としないフラックスレスろう付けとしては、特許文献3では、クラッド材のろう材にMgを添加し、そのクラッド材で成形された熱交換器チューブの内側を不活性雰囲気中大気圧下でフラックスレスろう付けする方法が提案されている。
また、同じく覆いを必要としないものとして、特許文献4では、ろう材表面に酸化防止層をクラッドし、そのクラッド材を積層構造としたもので大気雰囲気中のろう付けを可能にするという提案もある。
そして特許文献5では、芯材の表面にAl−Si−Mg系合金からなるろう材をクラッドし、且つ、ろう付け前に材料表面を酸洗浄し酸化皮膜の厚みを20Å以下とすれば、非酸化性雰囲気中でのフラックスレスろう付けが可能になるという提案がある。
特開平9−85433号公報 特開2006−175500号公報 特許第4037477号公報 特許第3701847号公報 特開平10−180489号公報
しかし、覆いを必要とせずに、大気圧下でのろう付けを可能にする特許文献3〜5においても以下の課題がある。
特許文献3で提案されている方法では、チューブ外面とフィンの接合はフラックスを使用しており、フラックスを使用することによるデメリットは完全に解消されていないという問題がある。
また、特許文献4で提案されている技術では、従来の真空ろう付けやノコロックろう付けに用いる材料に対し、ろう材表面に酸化防止層を設けたクラッド材を準備する必要があり、材料コストが高くなるという問題があり、更に、コアとしては積層構造に限定されるという汎用性の問題がある。
さらに、特許文献5に示される方法では、酸洗浄の工程管理が煩雑となる問題や、酸洗浄工程分のコストが増加するという問題がある。
なお、フラックスレスろう付はろう材中に添加したMgにより、Al酸化皮膜(Al)の還元分解作用によって接合を可能としている。そのため安定した接合状態を得るためにはろう材や被ろう付け部材へのMg添加が必須であるが、雰囲気中の酸素とMgが反応し、Mgの酸化皮膜(MgO)が生成すると、著しく接合状態が悪化するため、安定した接合が得られにくいことが課題である。従来は部材成分やろう付条件、さらには接合部の形状、部材の酸化皮膜厚さや皮膜欠陥部の分布密度などを最適化により、接合を可能としているが、接合部の形状や雰囲気によってはまだ十分な接合状態が得られにくく、改善が必要である。
したがって、特に酸素濃度がやや高い雰囲気などでろう付される場合においても、良好なろう付状態を得ることが可能な方法が強く望まれている。
このような問題に鑑み、本発明ではフラックス塗布工程や真空設備等の導入運用コストや、ろう付け時に使用する覆い等の副資材コスト、材料酸洗浄等の新たな工程コストを発生させず、且つ、熱交換器等の形状によらない汎用的な大気圧下フラックスレスろう付けが可能なアルミニウム材のフラックスレスろう付方法等を見出すことを目的に開発を進めたものである。
そして、本発明者らはAl−Si−Mg系ろう材にCaを添加することで、従来より酸素濃度が高い雰囲気でも著しくろう付性が向上することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法のうち、第1の本発明は、質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%、Ca:0.001〜1.0%を含有するAl−Si系ろう材が最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いるろう付け方法であって、前記Al−Si系ろう材に含まれるSi粒子は、ろう材表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、円相当径で1.75μm以上の径のものの数が25%以上であり、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材と被ろう付け部材とを接触密着させ、加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材によりフラックスレスで接触密着部の密着面において前記芯材と前記被ろう付け部材とを接合することを特徴とする。
の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第の本発明において、前記Al−Si系ろう材は、さらに質量%で、Beを0.0001〜0.1%含有することを特徴とする。
の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1または第2の本発明において、前記Al−Si系ろう材は、さらに質量%でBiを0.01〜1.0%含有することを特徴とする。
の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、前記第1〜第の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Si系ろう材は、さらに質量%でZnを0.1〜5.0%含有することを特徴とする。
の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートは、前記第1〜第の本発明のいずれかに記載のAl−Si系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置しており、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材を被ろう付け部材に接触密着させて前記Al−Si系ろう材により接触密着面において前記被ろう付け部材と接合するようにフラックスレスのろう付けに供されることを特徴とする。
の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材は、質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%、Ca:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、ろう材表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、円相当径で1.75μm以上の径のものの数が25%以上であるSi粒子を有し、減圧を伴わない非酸化性雰囲気でフラックスレスろう付けに供されるものであることを特徴とする。
の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材は、前記第の本発明において、さらに質量%で、Beを0.0001〜0.1%を含有することを特徴とする。
の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材は、前記第または第の本発明において、さらに質量%でBiを0.01〜1.0%含有することを特徴とする。
の本発明のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材は、前記第〜第の本発明のいずれかにおいて、さらに質量%でZnを0.1〜5.0%含有することを特徴とする。
以下に、本発明で規定する成分等の限定理由について以下に説明する。なお、各成分量はいずれも質量%で示される。
1.ろう材
本発明では、ろう材としてAl−Si系合金をベースに、Mg、Caを添加したものを用いる。
Si:3〜13%
SiはAlに含有することにより、その融点を低下させ、ろう付温度にて溶融して所定の継手を形成する基本的な元素である。ろうとして機能する適正な含有量の範囲として、3〜13%とする。3%未満では生成する液相量が不足するため十分な流動性が得られず、13%を超えると初晶Siが急激に増加して加工性が悪化するとともに、ろう付時に接合部のろう侵食が著しく促進される。Si含有量の一層好ましい下限は6%、上限は12%である。
また、ろう材表面に存在するSi粒子上ではアルミニウムの緻密な酸化皮膜の成長が抑制され、酸化皮膜の欠陥部が生成する。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化皮膜がろう付熱処理中に厚膜となっても、金属間化合物の周辺からろう材の染み出しが発生し、この部位を起点に酸化皮膜の破壊や分断が進み、溶融ろうの濡れ性が向上するため、より安定した接合状態を得ることが可能となる。
Mg:0.1〜5.0%
Mgは材料表面のアルミニウムの緻密な酸化皮膜(A1)をろう付加熱時に還元、分解して、接合性とろうの濡れ性を向上する効果を有する。本発明において十分な接合を得るためのMg含有量は0.1〜5.0%である。0.1%未満では本発明の効果であるろう付時接合面の酸化皮膜破壊効果が得られず、5.0%を越えるとその効果が飽和し、かつ、アルミニウム材料の加工性に難を生じる。
本発明では、上記Mg成分範囲における酸化皮膜破壊活動のみでもろう付性を確保できるが、さらに、Mg含有量を最適化してAl−Si−Mg系ろう材の固相線温度の低下効果を利用すれば、優れたろう付性を発揮できる。この場合のMgの最適含有量は、Si含有量により変動するが、例えばSi含有量が6〜12%の場合は、Mg含有量は0.75〜1.5%が好ましい。この範囲であれば、ろうの融点低下が十分に得られ、Mgによる酸化皮膜破壊効果との相乗効果により、より良好なろう付性を得ることが可能となる。具体的には、Al−Si−Mg合金で最も低い固相線温度の559℃以上でろう付が可能となる。
Ca:0.001〜1.0%
Caは、ろう材表面に生成したAlおよびMgの酸化皮膜を還元分解し、良好なろう付接合を可能とする。Ca含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限を超えるとろう材表面の酸化が促進され、接合率が低下するので、上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を0.005%、上限を0.75%とするのが望ましい。
本発明のろう材は、上記Si、Mg、Caを含有し、その他をAlと不可避不純物とするものでもよく、また、上記Si、Mg、Caの作用を損なわないように、その他の成分を含有するものであってもよい。以下に、所望によって含有するその他の成分を説明する。
Be:0.0001〜0.1%
Beは、ろう付に際し溶融ろうの表面に形成する酸化皮膜の成長を抑制し、雰囲気の酸素濃度が高い状態でも良好な接合状態が得られるので所望により含有させる。このため、0.0001%以上の含有が必要であり、下限未満では上記作用が十分に得られない。一方、上限を超えると、効果が飽和し、さらに、材料コストが増大するためBeの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で下限を0.0002%、上限を0.01%とするのが望ましい。
Bi:0.01〜1.0%
Biは、材料表面の再酸化を抑制し、ろう材の濡れ拡がり性を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えても一層の効果は得られない。このため、Biの含有量は、上記範囲が望ましい。
Zn:0.1〜5.0%
Znはろう材の電位を低下させ、犠牲陽極効果によりブレージングシートの耐食性を向上させる効果を有するので所望によりろう材に含有させる。Znの含有量は0.1〜5.0%が望ましい。0.1%未満では電位がほとんど変化しないため十分な耐食性向上効果が得られず、5.0%を超えると腐食速度が著しく増大する。なお、Zn含有量の一層好ましい下限は0.5%、上限は3.0%である。また、Znを積極的に添加しない場合でも、該Znを不可避不純物として0.1%未満で含むものであってもよい。
Si粒子の分布:円相当径で0.8μm以上の内、1.75μm以上のものが個数比で25%以上
通常、アルミニウム材料表面には緻密なAl等の酸化皮膜が存在し、ろう付け熱処理過程ではこれがさらに成長し厚膜となる。酸化皮膜の厚みが増すほど、酸化皮膜の破壊作用を阻害する傾向が強くなるのが一般的な見解である。ろう材表面に粗大なSi粒子が存在することで、粗大Si粒子表面にはアルミニウムの緻密な酸化皮膜が成長せず、この部位がアルミニウム材料表面の酸化皮膜欠陥として働く。すなわち、アルミニウム材料表面の酸化皮膜がろう付け熱処理中に厚膜となっても、Si粒子部分からろう材の染み出し等が発生し、この部位を起点に酸化皮膜破壊作用や分断作用が進み、溶融ろうの濡れ性を向上させ、より安定した接合状態を得ることを可能にする。
ここで言うSi粒子とは、組成上Si単体成分によるSi粒子、及び、例えば、Fe-Si系化合物や、Fe-Siを主成分とするAl-Fe-Si系の金属間化合物等をも含むものとする。本発明の説明においては、これらを便宜的にSi粒子と表記する。
具体的には、ろう材表面のSi粒子を円相当径でみなし、0.8μm以上のSi粒子数をカウントした場合に1.75μm以上のものが25%以上存在すると、この効果が十分に得られる。
ろう材表面のSi粒子はそのサイズが小さ過ぎると、酸化皮膜の欠陥部として作用する効果が不十分となる。したがって、1.75μm以上のSi粒子の数が、0.8μm以上のSi粒子の数の25%以上であるのを望ましいものとした。25%未満では、酸化皮膜の欠陥部として作用する効果が不十分となる。
また、粗大なSi粒子が過剰に存在すると、酸化皮膜の欠陥部は増大するが、鋳造性や圧延性が低下し、切断およびプレス時の金型磨耗が促進されるので、上限は50%以下が望ましい。
上記Si粒子の分布は、アルミニウム合金ろう材を製造する際の熱管理によって制御することができる。
例えば、鋳造時の凝固速度や均質化処理の温度と時間、熱間圧延時の最大圧延率等によってSi粒子の大きさを制御でき、添加元素量の最適化、鋳造時の凝固速度によって個数を制御することができる。
すなわち、鋳造時の凝固速度が遅いほど粗大なSi粒子が生成され、凝固速度が速いほど微細なSi粒子が生成される。また、凝固速度が速いほど、Si粒子の個数が多くなり、凝固速度が遅いほどSi粒子の個数が少なくなる。
また、均質化処理を高温で長時間実施するほど、粗大なSi粒子が生成され、低温で短時間実施することで微細なSi粒子となる。
また、熱間圧延時の圧下率は、一度の圧下率が大きいほど化合物が微細に破砕される。
これらの条件を複合的に制御することで同じ成分でもSiの分布(大きさ、個数比)を変えることができる。
2.芯材
本発明に用いるアルミニウムクラッド材の芯材組成は、接合を得るにあたって特に限定されるものではないが、フラックスレスろう付けを実現したことにより、高強度化を狙ったMg添加が積極的に行える。
芯材成分としては、質量比でSi:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものが示される。
また、質量比で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%、Fe:0.1〜1.0%、を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるものが示される。
また、芯材成分としては、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、さらに所望によりZr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%、Bi:0.01〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるものが示される。各元素の作用及び限定理由は以下の通りである。
Si:0.1〜1.2%
Si単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させる他、本発明においては、Mgの積極添加との相乗効果によって得られるMgSiの析出により、材料強度を向上させる。このMgSi析出による硬化は、ろう付け熱処理後の時効析出により、飛躍的な材料強度向上に寄与する。従来のA3003合金等をベースとした合金設計においては、Al−Mn−Si化合物として分散して、材料強度を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を越えると、融点が低下し、芯材が溶融するので、上記範囲が望ましい。なお、Si含有量の一層好ましい範囲は0.3〜1.0%である。Mn等の含有によりSiの積極的な含有を要しない場合、0.1%未満のSiを不純物として含有することは許容される。
Mg:0.01〜2.0%
Mgは、Siと同時に添加されることでろう付後に微細な金属間化合物MgSiとして析出し、時効硬化により著しく強度が向上する効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化皮膜破壊、酸化皮膜成長抑制作用に寄与する。下限未満では効果不十分であり、上限を超えると融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Mg含有量は上記範囲が望ましい。
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、芯材の電位を貴にして耐食性も向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると、圧延などの加工性が低下する。また、一層の効果は得られない。これら理由によりMn含有量は上記範囲が望ましい。なお、Mn含有量の一層好ましい範囲は0.5〜1.5%である。
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、固溶してろう付後の強度を向上させると共に、芯材の電位を貴にして耐食性を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると、融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Cu含有量は上記範囲が望ましい。なお、Cu含有量の一層好ましい範囲は0.1〜0.7%である。
Fe:0.1〜1.0%
Feは金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、最終焼鈍時とろう付時の再結晶を促進する。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると、腐食速度が速くなりすぎる。また、最終焼鈍後の結晶粒径が細かくなりすぎて成形時に加工の導入されない部分でろうの侵食が著しく大きくなる。これら理由によりFe含有量が上記範囲が望ましい。なお、Fe含有量の一層好ましい範囲は0.2〜0.5%である。
Zr、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%
Zr、TiまたはCrは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、強度を向上させる。下限未満では効果不十分であり、上限を超えると加工性が低下する。このため、これら成分の含有量は上記範囲が望ましい。
Bi:0.01〜1.0%
Biは、材料表面の再酸化を抑制し、ろう材の濡れ拡がり性を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えても一層の効果は得られない。このため、Biの含有量は、上記範囲が望ましい。
3.クラッド材
本発明に使用する上記クラッド材においては、少なくとも片面に上記Al−Si系ろう材がクラッドされていればよく、適宜、片面と両面クラッド材を使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面に上記ろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材等のその他の材料がクラッドされているものであってもよい。
4.被ろう付け部材の材質
ろう材以外の被ろう付け部材としては、一般的に用いられているアルミニウム合金であれば何れも問題なく使用可能である。なお、被ろう付け部材にはろう材がクラッドされてるものであってもよい。
5.被ろう付け部材の表面粗さ
本発明を実施するに当たっては、接合部の接触密着状態を高めることで、接合部である接触密着部への外部からの酸素供給がされにくくなり、ろう付け昇温過程での材料表面の酸化抑制力が高まる。ここで言う酸素供給とは、大気雰囲気中での酸素を意味するのではなく、非酸化性雰囲気中に僅かに含まれる酸素によるものを示す。本発明者らが調べた結果、接合部における接合部材両者の表面粗さがRa0.3μm以下であれば、より良好な接合が得られることが判り、さらに好ましくは、Ra0.25μm以下で安定して良好な接合状態が得られることも判った。表面粗さがRa0.3μmを超える場合は加圧密着力を高めても十分な気密性が得られないためろう付け性が低下する。
6.ろう材および被ろう付け部材の初期酸化膜厚
本発明の実施に当たっては、特に材料表面の初期酸化皮膜を抑制するような材料製作は必要としない為、通常、アルミニウムの量産コイル材として作製され得る、初期酸化膜厚20〜500Å程度のアルミニウム材料を使用できる。20Å未満では、従来技術に示したような酸洗浄等が必要となり、500Åを越えるものはMgによる酸化皮膜破壊作用が十分に得られず、良好な接合状態が得られにくくなる。
7.炉内雰囲気
本発明の実施にあたっては、炉内雰囲気を不活性ガス、或いは還元性ガス等の非酸化性ガスとすることで、雰囲気中の酸素濃度や露点を低下させ、被ろう付け部材の再酸化を抑制する必要がある。使用する置換ガスの種類としては、接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点で、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、還元性ガスとしては水素、アンモニア、一酸化炭素を用いることが好適である。雰囲気中の酸素濃度管理範囲としては、5〜500ppmがよい。5ppm未満の場合は、接合に不具合は生じないが、雰囲気の管理に多量のガスを使用する等、製造コストの増大懸念が生じるためである。500ppm超では被ろう付け部材の再酸化が進みやすくなり、特にろう材が表面にないベア構成部材とろう材間の接合が十分に得られない為である。
8.ろう付け温度
本発明においては、ろう材Al−Si−Mg合金の最も低い固相線温度の559℃以上でろう付けができ、当然、従来からのAl−Siろう材によるろう付け温度範囲も使用可能である。具体的には559〜620℃が良い。559℃未満ではろうの溶融が得られずろう付けが得られない。620℃超ではろう侵食が顕著となり、製品形状の維持等に問題が生じるため好ましくない。但し、この温度範囲においても、ろうの合金組成によって固相線温度が低い場合には、ろう侵食が顕著になる場合もあり、その際は、この温度範囲の中で合金組成にあったろう付け温度を選択するのが好ましい。
以上説明したように、本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法、フラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシートおよびフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材によれば、フラックスや真空設備を必要としない、大気圧下のフラックスレスろう付が可能となり、従来よりも安定した接合状態を容易かつ確実に得ることができる。また、減圧を伴わない雰囲気での加熱となるため、アルミニウム材料からのMgやZnの蒸発はほとんど発生せず、炉内壁等の汚染を生じないというメリットが得られる。
本発明の一実施形態におけるろう付け前の状態を示す概略図である。
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
質量%で、少なくともMgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%、Ca:0.001〜1.0%を含有するAl−Si系ろう材と、芯材とは常法により製造することができる。両者またはこれに犠牲材などの他の材料とを重ねてクラッド圧延する。各層のクラッド率は本発明として特定されるものではない。
なお、上記ろう材では、鋳造時の凝固速度や均質化処理の温度と時間、熱間圧延時の最大圧延率等によってSi粒子の分布を制御する。
これらの条件を複合的に制御することでSi粒子の分布(大きさ、粗大な粒子の個数比)を調整し、円相当径0.8μm以上のSi粒子の個数のうち、1.75μm以上のものの個数が25%以上となるようにする。
また、芯材の組成は、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有するもの、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%、Fe:0.1〜1.0%を含有するもの、あるいはSi:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、さらにMn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、さらに所望によりZr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%の内1種または2種以上を含有などが望ましい。
上記によって得られるアルミニウムクラッド材1は、図1に示すように芯材2の片面または両面にクラッドされた上記Al−Si系ろう材3が最表面に位置しており、初期酸化膜厚として20〜500Åの酸化皮膜が形成されている。
上記アルミニウムクラッド材1は、前記Al−Si系ろう材3が、ベアフィン、無垢材コネクタなどの被ろう付け部材4に接触密着するように組み付けられて、好適には熱交換器組立体などを構成する。なお、被ろう付け部材としては種々の組成のアルミニウム材料を用いることができ、本発明としては特定のものに限定されるものではない。
上記組立体は、減圧を伴うことなく非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。該非酸化性雰囲気は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスまたは水素、アンモニア、一酸化炭素などの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。非酸化性雰囲気は、ろう付加熱時には減圧を伴わず、通常は大気圧とされる。なお、非酸化性雰囲気を得る前に、置換などの目的で減圧工程を含むものであってもよい。加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するものであってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性雰囲気が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で5〜500ppmが望ましい。上記雰囲気下で559〜620℃で加熱をしてろう付を行う。ろう付においては、被ろう付け部材4との接触密着部5がフラックスレスで良好に接合される。
なお、上記ろう材は、クラッド材として提供される他、単独の材料として提供されるものであってもよい。
以下に、本発明の実施例を説明する。
表1、2に示す組成(残部Alと不可避不純物)のAl−Si系ろう材と、Al−0.5Mg−0.5Si−1.0Mn−0.3Feからなる組成(残部不可避不純物)の芯材とを熱間圧延および冷間圧延によってクラッドしたアルミニウムクラッド材を用意した。各合金の鋳造時の凝固速度は一般的な半連続鋳造の条件である0.1〜2.0℃/secの範囲に制御した。なお、ろう材は鋳造時の凝固速度と均質化処理条件、熱間圧延時の最大圧延率を種々変化させることによって、Si粒子の分布を制御した。
なお、均質化処理は、300〜595℃×1〜48時間の範囲内で調整し、熱間圧延の最大圧延率は、15〜50%の範囲内で調整した。
上記アルミニウムクラッド材は、各種組成のろう材と芯材とを選択し、ろう材クラッド率10%、H14相当調質で0.5mm厚に仕上げた。
Si粒子の測定
作製したアルミニウムクラッド材について、ろう材最表面を0.1μmの砥粒で研磨し、0.5%フッ酸水溶液で60秒エッチングした後、表面方向からEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析により粒子サイズと個数を測定した。測定は各サンプルについて250μm角相当の観察視野で任意部5ヶ所について測定し、Si粒子の分布(0.8μm以上のうち1.75μm以上の個数比率)を求め、その結果を表1、2に示した。
また、被ろう付け部材としてJIS A3003合金、H14相当調質のアルミニウム
ベア材(0.1mm厚)のコルゲートフィン材を用意した。
ろう付性
本発明の上記アルミニウムクラッド材を用いて幅20mmの扁平電縫管を製作し、前記コルゲートフィンと組合せてコア形状とした。コアサイズは、チューブ15段、長さ300mmの構成とした。
上記コアを窒素雰囲気中(酸素含有量50ppm)にて、560〜620℃まで加熱するろう付熱処理を行った後、チューブとフィンの接合率を測定することでろう付性を評価した。フィンの接合率は、以下の式で求め、その結果を表1、2に示した。
フィン接合率=(フィンとチューブの総ろう付接合長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100(%)
材料強度
製作した上記アルミニウムクラッド材(0.5mm厚)をJIS5号試験片とし、上記条件によるろう付熱処理後、90℃×7日間時効処理後に引張試験に供した。得られた材料強度測定値を評価し、その結果を表1、2に示した。
本発明の実施例は従来例に比べ良好なろう付性を示したのに対し、比較例では十分な接合が得られなかった。また、実施例では材料の高強度化とろう付性との両立が得られたが、比較材でその効果は得られなかった。
Figure 0005614883
Figure 0005614883
1 アルミニウムクラッド材
2 芯材
3 Al−Si系ろう材
4 被ろう付け部材
5 接触密着部

Claims (9)

  1. 質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%、Ca:0.001〜1.0%を含有するAl−Si系ろう材が最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いるろう付け方法であって、前記Al−Si系ろう材に含まれるSi粒子は、ろう材表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、円相当径で1.75μm以上の径のものの数が25%以上であり、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材と被ろう付け部材とを接触密着させ、加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材によりフラックスレスで接触密着部の密着面において前記芯材と前記被ろう付け部材とを接合することを特徴とするアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
  2. 前記Al−Si系ろう材は、さらに質量%で、Beを0.0001〜0.1%を含有することを特徴とする請求項に記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
  3. 前記Al−Si系ろう材は、さらに質量%でBiを0.01〜1.0%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付け方法。
  4. 前記Al−Si系ろう材は、さらに質量%でZnを0.1〜5.0%含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載のAl−Si系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置しており、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材を被ろう付け部材に接触密着させて前記Al−Si系ろう材により接触密着面において前記被ろう付け部材と接合するようにフラックスレスのろう付けに供されることを特徴とするフラックスレスろう付用アルミニウム合金ブレージングシート。
  6. 質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%、Ca:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有し、ろう材表層面方向の観察において、円相当径で0.8μm以上の径をもつものの数の内、円相当径で1.75μm以上の径のものの数が25%以上であるSi粒子を有し、減圧を伴わない非酸化性雰囲気でフラックスレスろう付けに供されるものであることを特徴とするフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材。
  7. さらに質量%で、Beを0.0001〜0.1%を含有することを特徴とする請求項記載のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材。
  8. さらに質量%でBiを0.01〜1.0%含有することを特徴とする請求項6または7に記載のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材。
  9. さらに質量%でZnを0.1〜5.0%含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のフラックスレスろう付用アルミニウム合金ろう材。
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