以下、実施形態について説明する前に、実施形態の理解を容易にするための予備的事項について説明する。
図1は光ファイバを用いた温度分布測定装置の構成を示す模式図である。また、図2は後方散乱光のスペクトルを示す図、図3は光検出器26で検出されるラマン散乱光の強度の時系列分布を示す図である。
図1に示すように、温度分布測定装置は、レーザ光源21と、レンズ22a,22bと、ビームスプリッタ23と、光ファイバ24と、波長分離部25と、光検出器26とを有している。
レーザ光源21からは、所定のパルス幅のレーザ光が一定の周期で出力される。このレーザ光は、レンズ22a、ビームスプリッタ23及びレンズ22bを通って光ファイバ24の光源側端部から光ファイバ24内に進入する。なお、図1において、24aは光ファイバ24のコアを示し、24bは光ファイバ24のクラッドを示している。
光ファイバ24内に侵入した光の一部は、光ファイバ24を構成する分子により後方散乱される。後方散乱光には、図2に示すように、レイリー(Rayleigh)散乱光と、ブリルアン(Brillouin)散乱光と、ラマン(Raman)散乱光とが含まれる。レイリー散乱光は入射光と同一波長の光であり、ブリルアン散乱光及びラマン散乱光は入射波長からシフトした波長の光である。
ラマン散乱光には、入射光よりも長波長側にシフトしたストークス光と、入射光よりも短波長側にシフトした反ストークス光とがある。ストークス光及び反ストークス光のシフト量はレーザ光の波長や光ファイバ24を構成する物質等に依存するが、通常50nm程度である。また、ストークス光及び反ストークス光の強度はいずれも温度により変化するが、ストークス光は温度による変化量が小さく、反ストークス光は温度による変化量が大きい。すなわち、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいということができる。
これらの後方散乱光は、図1に示すように、光ファイバ24を戻って光源側端部から出射する。そして、レンズ22bを透過し、ビームスプリッタ23により反射されて、波長分離部25に進入する。
波長分離部25は、波長に応じて光を透過又は反射するビームスプリッタ31a,31b,31cと、特定の波長の光のみを透過する光学フィルタ33a,33b,33cと、光学フィルタ33a,33b,33cを透過した光をそれぞれ光検出器26の受光部26a,26b,26cに集光する集光レンズ34a,34b,34cとを有している。
波長分離部25に入射した光は、ビームスプリッタ31a,31b,31c及び光学フィルタ33a,33b,33cによりレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光に分離され、光検出器26の受光部26a,26b,26cに入力される。その結果、受光部26a,26b,26cからはレイリー散乱光、ストークス光及び反ストークス光の強度に応じた信号が出力される。
なお、光検出器26に入力される後方散乱光のパルス幅は光ファイバ24の長さに関係する。このため、レーザ光源21から出力されるレーザパルスの間隔は、各レーザパルスによる後方散乱光が重ならないように設定される。また、レーザ光のパワーが高すぎると誘導ラマン散乱状態になって正しい計測ができなくなる。このため、誘導ラマン散乱状態にならないようにレーザ光源21のパワーを制御することが重要である。
前述したように、ストークス光は温度依存性が小さく、反ストークス光は温度依存性が大きいので、両者の比により後方散乱が発生した位置の温度を評価することができる。ストークス光及び反ストークス光の強度比は、光ファイバ中のオプティカルフォノンの角周波数をωk、入射光の角周波数をω0、プランク定数をh、ボルツマン定数をk、温度をTとしたときに、以下の(1)式により表わされる。
すなわち、ストークス光及び反ストークス光の強度比がわかれば、(1)式から後方散乱が発生した位置の温度を算出することができる。
ところで、光ファイバ24内で発生した後方散乱光は、光ファイバ24を戻る間に減衰する。そのため、後方散乱が発生した位置における温度を正しく評価するためには、光の減衰を考慮することが必要である。
図3は、横軸に時間をとり、縦軸に光検出器の受光部から出力される信号強度をとって、ラマン散乱光の強度の時系列分布の一例を示す図である。光ファイバにレーザパルスを入射した直後から一定の間、光検出器にはストークス光及び反ストークス光が検出される。光ファイバの全長にわたって温度が均一の場合、レーザパルスが光ファイバに入射した時点を基準とすると、信号強度は時間の経過とともに減少する。この場合、横軸の時間は光ファイバの光源側端部から後方散乱が発生した位置までの距離を示しており、信号強度の経時的な減少は光ファイバによる光の減衰を示している。
光ファイバの長さ方向にわたって温度が均一でない場合、例えば長さ方向に沿って高温部及び低温部が存在する場合は、ストークス光及び反ストークス光の信号強度は一様に減衰するのではなく、図3に示すように信号強度の経時変化を示す曲線に山及び谷が現れる。図3において、ある時間tにおける反ストークス光の強度をI1、ストークス光の強度をI2とする。
図4は、図3のラマン散乱光の強度の時系列分布を基にI1/I2比を時間毎に計算し、且つ図3の横軸(時間)を距離に換算し、縦軸(信号強度)を温度に換算した結果を示す図である。この図4に示すように、反ストークス光とストークス光との強度比(I1/I2)を計算することにより、光ファイバの長さ方向における温度分布を測定することができる。
なお、後方散乱が発生した位置におけるラマン散乱光(ストークス光及び反ストークス光)の強度は温度により変化するが、レイリー散乱光の強度の温度依存性は無視することができるほど小さい。従って、レイリー散乱光の強度から後方散乱が発生した位置を特定し、その位置に応じて光検出器で検出したストークス光及び反ストークス光の強度を補正することが好ましい。
以下、図5,図6を参照して最小加熱長について説明する。
レーザ光源21から出力されるレーザ光のパルス幅(ON時間)t0を10nsec、真空中の光の速度cを3×108m/sec、光ファイバ24のコア24bの屈折率nを1.5とすると、光ファイバ24内におけるレーザ光のパルス幅Wは、下記(2)式に示すように約2mとなる。
W=t0・c/n=10(nsec)・3×108(m/sec)/1.5≒2(m) …(2)
このパルス幅分のレーザ光の後方散乱光は光検出器26に1つの信号として取り込まれ、光検出器26はこのパルス幅分の信号の積算値から温度を検出する。そのため、光ファイバのうちパルス幅Wに相当する長さが均一な温度を示す状態でないと正確な温度計測ができない。ガラスの熱伝導率は鉄等の金属よりも2桁小さいため、これは光ファイバのうちパルス幅Wに相当する長さに均一に熱を加えないとならないこととほぼ等価である。以下、正確な温度計測に必要な最小加熱長をLminという。
図5(a)に示す実温度分布で光ファイバを加熱した場合、すなわち光ファイバのうち長さLの部分のみを均一に加熱した場合(以下、このような温度分布をステップ型温度分布という)、計測温度分布は図5(b)に示すようにガウシアン(正規分布)的な曲線を描く。図6に示すように加熱部の長さLが最小加熱長Lminよりも短い場合は、計測温度分布のピークが低くなり、加熱部の長さLが長くなれば計測温度分布のピークは高くなる。計測温度と加熱温度との差を±5%以内とするためは、加熱部の長さLを最小加熱長Lmin以上とすることが必要になる。
また、図6に示すように、加熱部の長さLが短い場合には、2つの加熱部が近接していても計測温度分布は重ならない。しかし、加熱部の長さLが最小加熱長Lmin以上の場合は、2つの加熱部の間の距離が最小加熱長Lmin以上離れていなければ、計測温度分布が重なってしまう。このことから、加熱部の温度を高精度に測定するためには、計測可能な熱分布の最小周期LMは最小加熱長Lminを約2倍した値となる。
図7は、横軸に光ファイバの長さ方向の位置をとり、縦軸に温度をとって、温度が25℃の環境に光ファイバを配置し、光源から5mの位置を中心に80℃の熱をステップ型温度分布となるように印加した場合の計測温度分布を示す図である。ここでは、加熱部の長さを、それぞれ40cm、1m、1.6m、2.2mとしている。この図7からもわかるように、加熱部の長さが2m(最小加熱長Lmin)よりも短い場合は計測温度分布のピークは実温度よりも低く観測され、加熱部の長さが2m以上の場合は計測温度分布のピークと実温度とがほぼ一致する。
図8は、横軸に加熱中心からの距離をとり、縦軸に相対強度をとって、図7の温度分布における伝達関数(温度計測系の伝達関数)を示す図である。図8の伝達関数を図7のステップ型温度分布に対し畳み込み(コンボリューション)することで、図7の計測温度分布となる。図8の伝達関数は、この温度計測系のインパルス応答特性にほぼ等しいものとなる。
温度計測系の伝達関数は、光ファイバが群遅延特性を有しているため、距離に応じて変化する。そのため、光ファイバの全長にわたって伝達関数を一義的に定義することはできない。しかし、短い距離範囲であれば、光信号の損失や遅延は一様であるとみなして伝達関数を定義することができる。伝達関数は、光源からの距離だけでなく光ファイバの種類によっても異なる。本実施形態においては、予め光ファイバの長さ方向の一定の領域毎に伝達関数を求めておくことが重要である。
一方、温度計測ポイント(以下、単に「計測ポイント」という)は最小加熱長と関係なく、測定装置のサンプリング周波数等を考慮して決定することができる。測定装置において平均化に要する時間等の実用的な計測時間を考慮すると、計測ポイントの間隔は最小50cm程度にすることが可能である。
以下、データセンターにおける光ファイバの敷設について説明する。
図9,図10は、光ファイバの敷設の第1の例を示す模式図である。図9はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図10はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。なお、図10において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、図10中の丸印は光ファイバの立ち上がり部又は立下り部を示している。
ここでは、図9のa〜dに示す位置、すなわちフリーアクセスフロア15のラック11内に冷気を取り込む通風口(グリル)近傍a、ラック11の吸気口近傍b、計算機のCPU近傍c及びラック11の排気口近傍dの温度を計測するものとする。図9には、各部の経路長の例を併せて示している。なお、ラック11の高さHは2m、幅Wは0.6m、奥行きDは0.95m、ラックから次のラックまでの経路長は0.7mである。この場合、ラック1台当りの光ファイバの長さは6.8m(=0.3+2.1+0.6+1.6+0.3+1.2+0.7)となる。
図11は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図9、図10に示すように光ファイバを配設したときの実温度分布(設定値:実線)の一例と、図8の伝達関数を用いて想定したラマン散乱を用いた計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図11からわかるように、ラック11の吸気口近傍bでは実温度分布と計測温度分布とがほぼ一致するが、ラック11と次のラック11との間eの温度の影響により、排気口近傍dの温度が実際の温度よりも3℃程度低く計測される。また、CPU近傍cの温度も、実際の温度よりも低く計測される。
すなわち、図9,図10に示すように光ファイバ24を敷設した場合は、ラック1台当たりの光ファイバ24の長さは約7mと短くてすむものの、隣接するラックの影響(クロストーク)によりラック内の温度分布を精度よく計測することができない。
図12,図13は、光ファイバの敷設の第2の例を示す模式図である。図12はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図13はラックを上から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。また、図12,図13には、各部の光ファイバの長さを併せて示している。なお、図13において、太い実線は機器設置エリア(ラック内を含む)10に配設された光ファイバを示し、太い破線はフリーアクセスフロア15に配設された光ファイバを示している。また、図13中の丸印は光ファイバの立ち上がり部又は立下り部を示している。
この第2の例では、1台のラック毎に、フリーアクセスフロア15からラック11内に導入した光ファイバ24を再びフリーアクセスフロア15に戻している。そして、ラック11と次のラック11との間には3m分の光ファイバを最小曲げ半径で巻回してなる巻回部28を設け、この巻回部28をフリーアクセスフロア15に配置している。この場合、ラック1台当たりの光ファイバの長さは約13mとなる。
図14は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図12,図13に示すように光ファイバを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と、計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。なお、ここではフリーアクセスフロア15の一部の温度を5℃としている。
この図14に示すように、1台のラック毎に光ファイバ24をフリーアクセスフロア15に戻し、且つ隣接するラック11間に長さが3mの光ファイバを巻回してなる巻回部28を設けた場合は、フリーアクセスフロア15の通風口(グリル)近傍aだけでなく、吸気口近傍b及び排気口近傍dにおいても実温度と計測温度とがほぼ一致する。
図15は、光ファイバの敷設の第3の例を示す模式図である。この第3の例は、巻回部29が1m分の光ファイバを巻回して形成されていること以外は基本的に第2の例と同じである。この場合、ラック1台当たりの光ファイバの長さは約11mとなる。
図16は、横軸に光ファイバの長さをとり、縦軸に温度をとって、図15に示すように光ファイバを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と、計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。この図16に示すように、第3の例においても、第2の例と同様に、フリーアクセスフロア15の通風口(グリル)近傍aだけでなく、吸気口近傍b及び排気口近傍dにおいても実温度と予測温度とがほぼ一致している。
図14及び図16と図11とを比較してわかるように、ラックから次のラックへと連続的に光ファイバを敷設するのではなく、ラックと次のラックとの間に低温かつ温度がほぼ一定のフリーアクセスフロア15に配置した巻回部を設けることにより、温度分布の重なり(クロストーク)の影響を少なくすることができる。例えば図11に示す例では排気口近傍dの実温度と計測温度との差が3℃以上あるのに対し、図14,図16に示す例では排気口近傍dの実温度と計測温度との差が2℃以内になっている。また、1ラック当たりの光ファイバの長さが比較的短くてすみ、1本の光ファイバで多くのラックの温度計測が可能である。
なお、光ファイバを用いた温度計測では、隣接する計測ポイントの温度差が大きくなると測定精度が低下する。これは、光ファイバ温度計測は低い空間周波数しかもたないため、隣合う計測ポイントの温度差が大きいところ(空間周波数が高いところ)では測定誤差が大きくなるためである。また、図16に示す例では巻回部の光ファイバ長が1mと短いにもかかわらず、図14の例と同様にクロストークの影響が小さい。このことから、クロストークの影響を抑制するためには、ラックと次のラックとの間の光ファイバの長さを長くすることよりも、ラックと次のラックとの間に温度が一定の部分を設ける効果のほうが大きいと考えられる。
図17は、図15で示すように光ファイバを敷設したときの実温度分布(設定値:実線)と計測温度分布(予想値:一点鎖線)とを示す図である。ここでは、フリーアクセスフロアの温度を15℃とし、そのフリーアクセスフロアに光ファイバの巻回部を配置している。また、ここでは、50cm間隔で温度計測(サンプリング)が行われるものとする。
図18は、温度計測を行うラックの位置における伝達関数を示している。この伝達関数は、図7,図8に示すように光ファイバにステップ状の温度分布を印加したときの計測温度分布から得られたものである。ここでは、この伝達関数を近似的に、(-1,0.07)、(-0.5,0.54)、(0,1)、(0.5,0,54)、(1,0.07)の5点で代表する。
図19に、図17の50cm毎の計測ポイントにおける実温度の値(設定値)に伝達関数をコンボリューションした結果を示す。計測温度は、実温度に対し伝達関数をコンボリューションして得た値とほぼ一致する。この値から逆算すれば(すなわち、計測温度に対しデコンボリューションすれば)、元の実温度を再現できるはずである。Tiをi番目の計測ポイントの実温度とすると、i番目の計測ポイントにおける計測温度APiは下記(3)式により表される。
APi=(0.07×Ti-2+0.54×Ti-1+Ti+0.54×Ti+1+0.07×Ti+2)/2.22 …(3)
ここで、2.22は規格化のための定数であり、具体的には伝達関数から抽出した5点(-1,0.07)、(-0.5,0.54)、(0,1)、(0.5,0,54)、(1,0.07)のY軸の値を合計したものである。Ti+2以外、すなわちTi-2、Ti-1、Ti、Ti+1の値が既知であるとすると、Ti+2は下記(4)式により算出することができる。
Ti+2=(2.22/0.07)APi−Ti-2−(0.54/0.07)Ti-1−(1/0.07)Ti−(0.54/0.07)Ti+1 …(4)
図15に示す敷設例では、前述したようにラックと次のラックとの間に光ファイバの巻回部を設け、この巻回部を低温かつ温度がほぼ一定のフリーアクセスフロアに配置している。そのため、フリーアクセスフロアの温度を比較的良好な精度で計測することができる。このフリーアクセスフロアの4つの計測ポイントにおける計測温度をTi-2、Ti-1、Ti、Ti+1とすれば、前述の(4)式によりTi+2の温度(補正値)を算出することができる。
その後、Ti-1、Ti、Ti+1、Ti+2、APi+1をそれぞれTi-2、Ti-1、Ti、Ti+1、APiとすれば、次の計測ポイントの温度Ti+2を算出することができる。このようにして、ピークの両側の低温部から計測温度APiを順次補正して実温度分布に近似の温度分布(補正後の温度分布)を得ることができる。
なお、図18に示す伝達関数は先鋭な関数であるため、Ti-2、Ti-1、Ti、Ti+1の誤差が大きいときに、Ti+2の値が振動して確定できないことがある。このような不具合を回避するために、バンドパス帯域を変更することが必要になることがある。すなわち、上述した方法により計測値を補正しても実温度分布(設定値)を良好な精度で再現することができない場合は、もう少し帯域の高い伝達関数を用いてサンプル値を導出する。そして、このサンプル値を用いて実温度分布を再現可能か否かを判定し、再現可能と判定したときはこのサンプル値を用いて重み付け平均によるデータ補正を行う。その後、元の実温度分布(設定値)を十分再現できているか否かを確認するという処理を実施する。そして、例えば、各領域で誤差が±2℃未満であればOKとし、誤差が±2℃以上であれば再度伝達関数のサンプル値を変更する。
例えば、先ほどよりも帯域の高い伝達関数として、(-0.5,1)、(0,1)、(0.5,1)というステップ型伝達関数を採用する。この伝達関数を用いてハイパスフィルタとなる移動平均を求めると、下記(5)式のようになる。
APi−APi-1=(Ti+1−Ti-2)/3
Ti+1=3×(APi−APi-1)+Ti-2 …(5)
ここで、Ti-2を既知とすれば、Ti+1が求まる。その後、iの値を順次変更して同様の計算を行うことにより、実温度分布に近似の温度分布(補正後の温度分布)を得ることができる。
上述したように、フリーアクセスフロアのあるデータセンターでは、フリーアクセスフロアの温度がほぼ一定に維持されているので、隣接するラックとの間の光ファイバをフリーアクセスフロア内に配置することで、クロストークの影響を排除することができる。しかし、フリーアクセスフロアがないデータセンターも存在する。以下に、フリーアクセスフロアがないデータセンターにおける温度測定方法について説明する。
(第1実施形態)
一部のデータセンターでは、複数のラックを列毎に冷却する列単位冷却(In Row)方式を採用している。本実施形態は、このような冷却方式を採用するデータセンターにおける温度測定方法について説明する。
図20,図21は、第1実施形態に係る温度測定方法における光ファイバの敷設例を示す模式図である。図20はラックを側方から見たときの光ファイバの敷設状態を示し、図21はラックの吸気側から見たときの光ファイバの敷設状態を示している。なお、これらの図20,図21では、ラック内に収納されている計算機等の図示を省略している。
ラック41には、図20に示すように、吸気側及び排気側にそれぞれ開閉扉42a,42bが設けられている。本実施形態では、ラック41の吸気側の開閉扉42aの内側に光ファイバ45を敷設して、ラック41内の吸気側の温度を測定する。
ラック41の側面下側には光ファイバ導入・導出口43が設けられており、この光ファイバ導入・導出口43を介してラック41内に光ファイバ45が導入される。ラック41内に導入された光ファイバ45は、開閉扉42aの回転軸44の近傍でラック本体側から開閉扉42a側にわたり、開閉扉42aを下から上に往復するように敷設される。そして、光ファイバ45は、回転軸44の近傍を開閉扉42a側からラック本体側にわたり、光ファイバ導入・導出部43からラック41の外に導出される。なお、光ファイバ導入・導出部43と開閉扉42aとの間には、開閉扉42aの開閉に支障がでないように光ファイバ45を弛ませてなる弛み部を設けている。
光ファイバ導入・導出部43の外側には、ラック41に導入する前及びラック41から導出した後の光ファイバ45をそれぞれ同一の巻き取り治具に巻いてなる巻回部46を設けている。
前述したように、隣接するラック41による熱の影響(クロストーク)を回避するためには、ラックとラックとの間の光ファイバ45の長さが光信号のパルス幅により決まる最小加熱長Lmin以上必要である。本実施形態では、ラック41毎に巻回部46を設けてラック導入側及びラック導出側の光ファイバ45を巻回している。この場合、ラック導入側及びラック導出側の光ファイバ45をそれぞれ最小加熱長Lminの1/2以上の長さで巻回部46に巻回すれば、隣接するラック41による熱の影響(クロストーク)を回避することができる。そのため、本実施形態では、巻回部46にラック導入前及びラック導出後の光ファイバ45をそれぞれ最小加熱長Lminの1/2以上の長さに巻回している。すなわち、本実施形態では、ラック導入前及びラック導出後の光ファイバ45をそれぞれ最小加熱長の1/2以上の長さにわたり近接して配置している。例えば前述したように最小加熱長Lminが2mとすると、巻回部46にはラック導入前及びラック導出後の光ファイバ35をそれぞれ1m以上巻回すればよい。
以下、上述の第1実施形態のように光ファイバを敷設した実施例の温度測定について、比較例と比較して説明する。
図22に示すように光ファイバを敷設した場合(実施例)の温度測定と、図23に示すように光ファイバを敷設した場合(比較例)の温度測定とを比較した。
実施例では、図22に示すように、前段のラックとの間及び後段ラックとの間の光ファイバ45の長さをそれぞれ0.8m、巻回部46の光ファイバ45の長さを1.5m(導入側及び導出側それぞれ1.5m)、光ファイバ導入・導出口43と開閉扉42bとの間の弛み部の光ファイバ45の長さを0.4m(往路及び復路それぞれ0.4m)、開閉扉42aの内側に敷設された光ファイバ45の立ち上がり部及び立下り部の長さをそれぞれ1.8m、折り返し部の光ファイバ45の長さを0.2mとしている。また、巻回部46の温度を16℃としている。更に、図22に示すようにラック41内を高さ方向に5つの領域に分割し、各領域の温度を下側から順に18℃、19℃、22℃、22℃、25℃としている。
図24は、横軸に光ファイバ45の長さ方向に沿った位置をとり、縦軸に温度をとって、図22のように光ファイバ45を敷設した場合(実施例)の実温度分布と計測温度分布とを示す図である。
実施例では、図24に示すようにラック導入側及びラック導出側の光ファイバ45を同一箇所に巻回して配置しているので、巻回部46におけるラック導入側の計測温度とラック導出側の計測温度とが同一(16℃)になる。また、実施例では、光ファイバ45の長さ方向に隣接する計測ポイントの温度差が小さくなるように光ファイバ45を敷設しており、更に温度がほぼ一定の箇所にラック導入側及びラック導出側の光ファイバ45をそれぞれ1.5m分巻回してなる巻回部46を配置しているため、前述したように隣接するラックの影響(クロストーク)が無視できる。従って、巻回部46におけるラック導入側の計測温度及びラック導出側の計測温度は正しい温度を示していると考えることができ、前述したようにピークの両側の低温部から計測温度を順次補正して、実温度分布に近似の温度分布(補正後の温度分布)を得ることができる。
なお、上記の補正には、インパルス応答から求まる逆補正関数を用いる逆フィルタ(デコンボリューションフィルタ等)を使用する。図26は、逆補正関数の一例を示している。この図26において、横軸は距離を示し、縦軸は係数を示している。但し、図26に示す逆補正関数は、インパルス応答から求めた逆補正関数に対し高周波応答性をカットしてマージン耐性を高めている。
図27に、実温度分布(ステップ型温度分布)と、計測温度分布と、計測温度分布に対し逆フィルタを用いて求めた温度分布(補正後の温度分布)とを示す。この図27に示すように、ステップ型温度分布(実温度分布)に対しガウシアン曲線形状の計測温度分布が得られる。この計測温度分布に対し逆フィルタを用いて補正する(逆補正関数を用いてデコンボリューションする)と、実温度分布に近似の温度分布(補正後の温度分布)が得られる。この場合、補正後の温度分布にはピークの両側(図27中に破線の円で囲んだ部分)にアンダーシュートが発生する。このアンダーシュートは、デコンボリューションによる産物として考えることができる。
本実施形態では、ラック導入側及びラック導出側の光ファイバ45の巻回部46の位置(0.7m及び7mの位置)における計測温度が同じであり、この計測温度は正しい温度を示していると考えることができる。従って、補正後の温度分布のうちアンダーシュートの部分(巻回部46の温度よりも低い部分)の温度を巻回部46の温度に置き換えることで、より正確な温度分布を得ることができる。
また、図22に示すように光ファイバ45を敷設した場合、風量が大きく変化しない状況下ではラック41内の計算機の稼働状態に応じてピーク温度(ピーク高さ)は変化するが、温度分布の基本的な形状は変化しないと考えることができる。従って、上述した逆フィルタを用いなくても、予め想定した温度分布(以下、「基準温度分布」という)の積分値と実際に測定した温度分布の積分値とを比較することにより、ピーク温度を推定することもできる。
この場合、計測温度分布と基準温度分布との基本的な形状が同じであることが必要である。図22に示す実施例では、ラック導入側及びラック導出側の光ファイバの巻回部46の位置における温度(16℃)が同じであるので、ラック導入側の巻回部46の温度を示す点(図24中にAで示す点)とラック導出側の巻回部46の温度を示す点(図24中にA’で示す点)とを結ぶ線は図24のX軸に平行になる。従って、風量に大きな変化がなければ計測温度分布を示す曲線(16℃以上の部分)の積分値がラック内で発生した熱の総量と考えることができ、計測温度分布の積分値と基準温度分布の積分値との比較からピーク温度を推定することが可能である。
風量は空調機のインバータレベル等により大きく数段階に分けて考えることができるため、予め数段階の風量に対してこれらの推定値を切り替えるようにしておけば、風量変化に対しても良好な推定をすることが可能になる。
一方、比較例では、図23に示すようにラック41内の光ファイバ45の敷設状態は実施例と同じであるが、ラック導入側の巻回部46aとラック導出側の巻回部46bとを異なる位置に配置している。この例では、ラック導入側の巻回部46aの配設位置における温度を16℃、ラック導出側の巻回部46bの配設位置における温度を18℃としている。
図25は、横軸に光ファイバ45の長さ方向に沿った位置をとり、縦軸に温度をとって、図23のように光ファイバ45を敷設した場合(比較例)の実温度分布(実線)と計測温度分布(破線)とを示す図である。ここでは、ラック導入側の巻回部46aに巻回された光ファイバ45の中心を0.7mの位置、ラック導出側の巻回部46bに巻回された光ファイバ45の中心を7mの位置としている。
比較例では、光ファイバ45のラック導入側の巻回部46aの温度とラック導出側の巻回部46bの温度とが2℃異なっている。この場合、計測温度分布に対し巻回部46a,46bの温度を基準にして計測温度をピークの両側から補正することは可能ではあるが、巻回部46a,46bの温度が正しい温度であるという保証がなく、隣接するラックの温度の影響を受けていることも考えられる。このため、補正後の温度分布の信頼性が低い。また、補正によりアンダーシュートが発生しても、巻回部46a,46bの計測温度が正しい温度か否かが不明であるため、アンダーシュートを除去することができない。
更に、ラック導入側の巻回部46aの温度とラック導出側の巻回部46bの温度とが異なるため、巻回部46aの温度を示す点(図25中にAで示す点)と巻回部46bの温度を示す点(図25中にA’で示す点)とを結ぶ直線(図25中に一点鎖線で示す)が図25のX軸に対し斜めになる。このため、単に16℃又は18℃以上の部分の計測温度分布を積分しただけではラック内で発生した熱量にはならず、計測温度分布と基準温度分布とを比較してピーク温度を推定する方法を採用することができない。
(第2実施形態)
一部のデータセンターでは、天井据え付け型のエアコンから噴出される冷気をラック上部からラック内に取り込んでラック内の計算機を冷却する方式を採用している。本実施形態は、このような冷却方式を採用するデータセンターにおける温度測定方法について説明する。
図28は、第2実施形態に係る温度測定方法における光ファイバの敷設例を示す模式図である。ラック51の上部には光ファイバ導入・導出口が設けられており、この光ファイバ導入・導出口を介してラック51内に光ファイバ55が導入される。ラック51内に導入された光ファイバ55は、開閉扉52aの回転軸54の近傍でラック本体側から開閉扉52a側にわたり、開閉扉52aの内側を上から下に往復するように敷設される。そして、光ファイバ55は、回転軸54の近傍を開閉扉52a側からラック本体側にわたり、光ファイバ導入・導出口を介してラック51の上側に導出される。
ラック51の上方には、ラック導入前及びラック導出後の光ファイバ55をそれぞれ同一の巻き取り治具に巻いてなる巻回部56を配置している。巻回部56には、ラック導入前及びラック導出後の光ファイバ55がそれぞれ1.5mの長さで巻回されている。ラック51の上方にはエアコンからの冷気が供給される。このため、巻回部56が配置された場所の温度は低温かつほぼ一定であると考えることができる。
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、ラック導入前及びラック導出後の光ファイバ55を同一箇所に巻回して配置しているので、巻回部56におけるラック導入側及びラック導出側の計測温度は同一になる。また、本実施形態では、隣接する計測ポイントの温度差が小さくなるように光ファイバ55を敷設しており、かつ巻回部56を温度がほぼ一定の場所に配置している。従って、第1実施形態と同様に、ラック51内の温度を良好な精度で測定することができる。
(第3実施形態)
図29は、第3実施形態に係る温度測定方法における光ファイバの敷設例を示す模式図である。
本実施形態においては、計算機ルームが、ラック61を設置する機器設置フロア75と、その下のフリーアクセスフロア70とに分離されている。フリーアクセスフロア70の温度は、空調機(図示せず)によりほぼ一定に維持される。光ファイバ65は、フリーアクセスフロア70から通風口(グリル)71を通り、ラック61の下部に設けられた光ファイバ導入・導出口からラック61内に導入される。
ラック61内に導入された光ファイバ65は、開閉扉62aの回転軸64の近傍でラック本体側から開閉扉62a側にわたり、開閉扉62aの内側を下から上に往復するように敷設される。そして、光ファイバ65は、回転軸64の近傍を開閉扉62a側からラック本体側にわたり、光ファイバ導入・導出口を介してラック61の外に導出される。
ラック導出後の光ファイバ65は、通風口71からフリーアクセスフロア70に入り、更に次のラック61に敷設される。但し、本実施形態では、フリーアクセスフロア70とラック61との間、ラック導入側の光ファイバ65及びラック導出側の光ファイバ65が最小加熱長Lminの1/2以上の長さ(例えば1.5m以上)にわたって近接して配置される。ここで、ラック導入側の光ファイバ65とラック導出側の光ファイバ65とは必ずしも密着させる必要はなく、要するにラック導入側の光ファイバ65の温度とラック導出側の光ファイバ65の温度とが異ならない程度の近さに配置すればよい。例えば、ラック導入側の光ファイバ65とラック導出側の光ファイバ65との間隔を、光ファイバ65の最小曲げ半径の2倍以下(例えば30mm以下)とすれば、ラック導入側の光ファイバ65とラック導出側の光ファイバ65とは近接して配置されているといえる。
本実施形態では、巻回部を設けていないが、第1実施形態と同様にラック導入前及びラック導出後の光ファイバを同じ位置に配置している。従って、光ファイバ65のうちラック導入前及びラック導出後の部分の温度が同じになる。また、本実施形態では、光ファイバ65をその長さ方向に隣接する計測ポイントの温度差が小さくなるように敷設しており、更にラック導入前及びラック導出後の光ファイバ65を温度がほぼ一定に維持されるフリーアクセスフロア70に配置している。従って、第1実施形態と同様に、ラック61内の温度分布を良好な精度で測定することができる。
なお、上述の各実施形態ではいずれもラックの吸気側の開閉扉の内側に光ファイバを敷設した例について説明したが、排気側の開閉扉の内側に光ファイバを敷設してもよい。また、吸気側又は排気側の開閉扉の外側に光ファイバを敷設してもよい。
更に、上述の各実施形態ではいずれもデータセンターに配置されたラック内の温度測定について説明したが、開示した技術をそれ以外の場所の温度測定に適用することもできる。例えば、開示した技術を工場内やオフィスビル内の温度測定に適用することもできる。
更にまた、第1及び第2実施形態では巻回部を最も温度が低くなる場所に配置しているが、巻回部は必ずしも低温の場所に配置する必要はなく、温度が一定であれば高温の場所に配置してもよい。
上記した実施形態を含む諸態様に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)温度測定エリアに敷設した光ファイバにより前記温度測定エリア内の1又は複数の計測ポイントの温度を測定する温度測定方法において、
前記温度測定エリアに導入前の光ファイバと温度測定エリアから導出後の光ファイバとをそれぞれ光信号のパルス幅により決まる最小加熱長の1/2以上の長さにわたり近接して配置し、
前記温度測定エリア内の前記計測ポイントの温度と前記温度測定エリアに導入前及び導出後の光ファイバを近接して配置した近接配置場所の温度とを測定し、
前記近接配置場所の温度を基準にして前記計測ポイントの温度を補正することを特徴とする温度測定方法。
(付記2)前記近接配置場所の温度を基準として前記温度測定エリア内の測定ポイントの温度を、前記光ファイバの温度計測系の伝達関数を用いて前記近接配置場所に近い温度計測ポイントから順に補正することを特徴とする付記1に記載の温度測定方法。
(付記3)前記温度測定エリア内の計測温度の積分値を予め設定された基準温度分布の積分値と比較し、その結果により前記温度測定エリア内のピーク温度を補正することを特徴とする付記1に記載の温度測定方法。
(付記4)前記温度測定エリアに導入前の光ファイバ及び前記温度測定エリアから導出後の光ファイバを同一の治具に巻回して前記近接配置場所に配置することを特徴とする付記1に記載の温度測定方法。
(付記5)前記近接配置場所の温度を一定に維持することを特徴とする付記1に記載の温度測定方法。
(付記6)前記近接配置場所の温度が、前記温度測定エリア内の温度よりも低いことを特徴とする付記1に記載の温度測定方法。
(付記7)前記温度測定エリアが、計算機室内に配置されて複数の計算機を収納するラックの表面近傍又はラック内のエリアであることを特徴とする付記1に記載の温度測定方法。
(付記8)前記ラックには開閉扉が設けられており、前記光ファイバは前記開閉扉の内側又は外側に配置されることを特徴とする付記7に記載の温度測定方法。
(付記9)前記ラックの本体部分と前記開閉扉との間の光ファイバには、前記開閉扉の開閉に支障がでないように弛み部が設けられていることを特徴とする付記8に記載の温度測定方法。
(付記10)前記ラック内に導入された光ファイバは、前記開閉扉の回転軸の近傍でラック本体側から開閉扉側にわたり、前記開閉扉を上下方向に往復するように敷設され、更に前記回転軸の近傍を開閉扉側からラック本体側にわたり、ラックの外側に導出されることを特徴とする付記8に記載の温度測定方法。