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JP5595323B2 - すべり角推定装置 - Google Patents

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JP5595323B2 JP2011080345A JP2011080345A JP5595323B2 JP 5595323 B2 JP5595323 B2 JP 5595323B2 JP 2011080345 A JP2011080345 A JP 2011080345A JP 2011080345 A JP2011080345 A JP 2011080345A JP 5595323 B2 JP5595323 B2 JP 5595323B2
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Description

本発明は、車両に発生するすべり角を推定するすべり角推定装置に関する。
走行している車両の運動を安定化するため、車両の実体(以下、実車と称する)のモデル(以下、規範モデルと称する)を備え、実車の走行状態を示すデータ(車速、操舵角、ヨーレート等)に基づいて規範モデルで実車の規範状態量を算出し、その規範状態量に基づいて実車の運動の姿勢を制御する車両の制御装置は広く知られている。
また、走行している車両の回頭運動を制御するAYC(アクティブヨーコントロール)、タイヤの回転を制御して空転を防止するTCS(トラクションコントロールシステム)、及び制動を制御するABS(アンチロックブレーキシステム)を組み合わせて車両の運動を安定化する車両挙動安定化システム(VSA:Vehicle Stability Assist)も広く知られている。
さらに、実車挙動観測装置(オブザーバともいう)と実車の挙動を模した規範モデルを備え、実車の操作状態及び走行状態を示すデータ(車速、操舵角、ヨーレート等)に基づいて、実車の運動の安定化に利用する実状態量を実車挙動観測装置で推定するとともに、前記規範モデルに対して同様の操作状態及び走行状態を与えることにより規範モデルが規範状態量を算出し、算出した規範状態量と推定した実状態量に基づきVSA制御することで、より効果的に実車の運動を安定化する技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
特許第4143111号公報
例えば、特許文献1に開示される車両の制御装置は、実車の車速、舵角、ヨーレート等に基づいて、旋回運動中の実車のすべり角を実車挙動観測装置が推定し、規範モデルが算出するすべり角の規範状態量(以下、規範すべり角と称する)と実車挙動観測装置が推定するすべり角(以下、推定重心すべり角と称する)の偏差がゼロとなるように、実車の制御量を算出している。
このとき、実車挙動観測装置に含まれるすべり角推定装置は、横加速度センサが検出する実車の横加速度に基づいて推定重心すべり角を推定するため、横加速度センサに異常が発生した場合は、適正な推定重心すべり角を推定できないという問題がある。
そこで本発明は、横加速度センサに異常が発生した場合は、その異常による影響を小さくしてすべり角を推定できるすべり角推定装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために本発明の請求項1は、車両の車速を検出する車速検出手段と、前記車両に備わる操向ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、前記車両の横加速度を検出する横加速度検出手段と、を備え、前記操舵角検出手段が検出する前記操舵角および前記車両の車速に基づいて前記車両の横加速度の推定値を推定するとともに前記推定値に基づいて前記車両のすべり角の基準値を推定する基準値推定部と、前記横加速度検出手段が検出する前記横加速度に基づいて前記基準値の補償量を算出する補償量算出部と、を有し、前記基準値を前記補償量で補償して前記車両のすべり角を推定するすべり角推定装置であって、前記補償量算出部が算出する前記補償量を所定の範囲に制限するすべり角推定装置とする。
請求項1の発明によると、すべり角の基準値を補償する補償量を、所定の範囲に制限できる。したがって、横加速度検出手段の検出値が急激に変化した場合であっても補償量が所定の範囲に制限されることになり、推定されるすべり角の変化を制限することができ、ひいては、車両挙動の変化を抑制できる。
また、本発明の請求項2は請求項1に記載のすべり角推定装置であって、前記補償量算出部は、前記横加速度検出手段が検出する前記横加速度と前記推定値の差分である横加速度偏差を、ローパスフィルタを通した後に時間積分した積分値に基づいて前記補償量を算出することを特徴とする。
請求項2の発明によると、補償量算出部は、横加速度検出手段が検出する横加速度と横加速度の推定値の差分の積分値に基づいて補償量を算出するとき、当該差分のノイズ成分をローパスフィルタで除去できる。
また、本発明の請求項3は請求項2に記載のすべり角推定装置であって、前記補償量算出部は、制限される前の前記補償量が前記所定の範囲を超えているときに、前記ローパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする。
請求項3の発明によると、ローパスフィルタの時定数を小さくすることによって、ローパスフィルタのカットオフ周波数を高くすることができる。ローパスフィルタのカットオフ周波数が高くなると、出力値に対する入力値の依存度が低くなることから、制限される前の補償量が所定の範囲を超えているときに横加速度検出手段の検出値の依存度の低い出力値を出力できる。
また、本発明の請求項4は請求項2または請求項3に記載のすべり角推定装置であって、前記補償量算出部は、前記横加速度偏差の符号と、前記横加速度偏差の微分値の符号と、が異なるときに、前記ローパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする。
請求項4の発明によると、横加速度偏差が減少しているときに、ローパスフィルタの時定数を小さくして、カットオフ周波数を高くすることができる。
また、本発明の請求項5は請求項1に記載のすべり角推定装置であって、前記補償量算出部は、前記横加速度検出手段が検出する前記横加速度と前記推定値の差分である横加速度偏差を、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを通した後に時間積分した積分値に基づいて前記補償量を算出するとともに、前記補償量算出部は、制限される前の前記補償量が前記所定の範囲を超えているときに、前記ローパスフィルタおよび前記ハイパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする。
請求項5の発明によると、補償量算出部は、横加速度検出手段が検出する横加速度と横加速度の推定値の差分の積分値に基づいて補償量を算出するとき、当該差分のノイズ成分をローパスフィルタで除去できるとともに、当該差分のドリフトとオフセットをハイパスフィルタで除去できる。また、ローパスフィルタとハイパスフィルタの時定数を小さくすることによって、制限される前の補償量が所定の範囲を超えているときに横加速度検出手段の検出値の依存度の低い出力値を出力できる。
また、本発明の請求項6は請求項5に記載のすべり角推定装置であって、前記補償量算出部は、前記横加速度偏差の符号と、前記横加速度偏差の微分値の符号と、が異なるときに、前記ローパスフィルタおよび前記ハイパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする。
請求項6の発明によると、横加速度偏差が減少しているときに、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタの時定数を小さくすることができる。
本発明によると、横加速度センサに異常が発生した場合は、その異常による影響を小さくしてすべり角を推定できるすべり角推定装置を提供できる。
本実施形態に係る運動制御装置を備える実車の一構成例を示す図である。 ECUの構成を示す機能ブロック図である。 規範モデルを示す図である。 アクチュエータ動作FB目標値決定部の構成を示す機能ブロック図である。 アンチスピンFB値決定部の構成を示す機能ブロック図である。 β非依存目標値決定部の構成を示す機能ブロック図である。 本実施形態に係る実車挙動観測装置の機能ブロック図である。 (a)は、横加速度偏差の変化に応じたフィルタ後偏差の変化を示す図、(b)は、すべり角補償操作値の変化を示す図、(c)は、横加速度偏差の減少時にローパスフィルタの時定数を小さくした場合のフィルタ後偏差の変化を示す図、(d)は、所定の範囲に制限されたすべり角補償値を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
本実施形態に係るすべり角推定装置は、例えば図1に示される車両(以下、実車1と称する)の運動を安定化するための運動制御装置に備わっている。
図1に示すように、実車1は、転舵輪である左右の前輪WFL,WFRと左右の後輪WRL,WRRとを備えており、実車1が前輪駆動の場合、エンジンENGの駆動力はトランスミッションT/M及び駆動力伝達装置Tを介して左右の前輪WFL,WFRに伝達される。
すなわち、駆動力伝達装置Tに伝達されたエンジンENGの駆動力は、駆動力伝達装置Tから左方向に延出する左ドライブシャフトAと右方向に延出する右ドライブシャフトAを回転させ、左ドライブシャフトAに取り付けられる左前輪WFLと右ドライブシャフトAに取り付けられる右前輪WFRを回転させる。
駆動力伝達装置Tは、エンジンENGの駆動力を任意の比率で左ドライブシャフトA及び右ドライブシャフトAに配分する機能を有し、この構成によって実車1は、左右の前輪WFL,WFRに伝達される駆動力に差を持たせることができる。
そして、本実施形態に係る実車1は、エンジンENGの駆動力を任意の比率で左ドライブシャフトA及び右ドライブシャフトAに配分するように駆動力伝達装置Tを制御する機能を有するコントロールユニット(以下、ECU:Electronic Control Unit)37を備えている。
また、実車1にはヨーレートセンサ31、操作角検出センサ21c、及び横加速度センサ32が備わり、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRには、それぞれ車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RRが備わる。
ヨーレートセンサ31は、実車1に発生する実ヨーレートを検出してヨーレート信号γをECU37に入力する。ECU37は、ヨーレート信号γに基づいて、実車1に発生しているヨーレート(実ヨーレートγact)を算出できる。
操作角検出センサ21cは、操向ハンドル21aの回転軸である操舵軸21bに取り付けられて操舵角θactを検出し、操舵角信号θをECU37に入力する。ECU37は、操舵角信号θsに基づいて操向ハンドル21aの操舵角θactを算出できる。
したがって、操作角検出センサ21cは、特許請求の範囲に記載される操舵角検出手段に相当する。
横加速度センサ32は実車1に発生している横方向の加速度(横加速度)を検出して横加速度信号GをECU37に入力する。ECU37は、横加速度信号Gに基づいて、実車1に発生している横加速度Gactを算出できる。
したがって、横加速度センサ32は、特許請求の範囲に記載される横加速度検出手段に相当する。
また、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに備わる車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RRは、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度を検出して、各車輪の車輪速信号ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRSをECU37に入力する。ECU37は、車輪速信号ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRSに基づいて各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度を算出し、さらに、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度に基づいて実車1の車速(車体速)Vactを算出できる。車輪速信号ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRSをまとめて、車輪速信号ωと称する場合がある。このように、本実施形態に係るECU37は、車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RRから入力される各車輪の車輪速信号ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRSに基づいて実車1の車速Vactを算出することから、車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RRは、特許請求の範囲に記載の車速検出手段に相当する。
また、ECU37は、例えば、車速、左右の前輪WFL,WFRの回転速度差等に基づいて空転している前輪WFL,WFRを検出するとともに、駆動力伝達装置Tを制御して空転している前輪に配分する駆動力を小さくして空転を抑えることができ、TCS(トラクションコントロールシステム)を構成する。
なお、図示はしないが、実車1の車速(車体速)を検出する車速センサが備わる構成であってもよい。
操作角検出センサ21cは、実車1の操作状態(操向ハンドル21aの操舵角θact)を検出するセンサであり、操舵角θactは実操作量になる。
また、ヨーレートセンサ31、横加速度センサ32、車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RRは、それぞれ実車1の運動状態(実ヨーレートγact、横加速度Gact、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度)を検出するセンサであり、実ヨーレートγact、横加速度Gact、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの回転速度は実運動状態量になる。
また、実車1に電動パワーステアリング装置(EPS)25が備わる場合、操舵軸21bに発生するトルク(操舵トルク)を検出してトルク信号Trqsに変換する操舵トルクセンサ21dと、ステアリングモータ25aと、主にステアリングモータ25aを制御する前輪転舵角制御装置40が備わる。
そして、ステアリングモータ25aが発生する駆動力(回転駆動力)は、ラック歯25bを介してラック軸25cの直線運動に変換され、さらに左右のタイロッド25d、25dによって左右の前輪WFL,WFRの転舵運動に変換される。
前輪転舵角制御装置40には、操作角検出センサ21cが出力する操舵角信号θ、操舵トルクセンサ21dが出力するトルク信号Trqsが入力され、前輪転舵角制御装置40は、操作角検出センサ21cから入力される操舵角信号θ、操舵トルクセンサ21dから入力されるトルク信号Trqs等に基づいて、ステアリングモータ25aに発生させる好適な駆動力を算出する。
そして、算出した駆動力をステアリングモータ25aに発生させるための制御信号をステアリングモータ25aに入力し、ステアリングモータ25aが発生する駆動力で左右の前輪WFL,WFRを転舵する。
この構成によって、運転者が操向ハンドル21aを操舵するときの操舵力を、ステアリングモータ25aの回転駆動力で軽減することができる。
なお、前輪転舵角制御装置40がステアリングモータ25aを制御して運転者の操舵力を軽減するEPS25の技術は公知の技術であり、その詳細な説明は省略する。
実車1の各車輪WFL,WFR,WRL,WRRには、それぞれブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRが備わり、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRは、ブレーキ制御ECU(Electronic Control Unit)29によって制御される。
ブレーキ制御ECU29は、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRの油圧系に供給されるブレーキ油圧を任意の比率で制御できる。
そして、ブレーキ制御ECU29は実車1の制動時にブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを制御して、実車1の各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに発生する制動力を制御することができ、ABS(アンチロックブレーキシステム)を構成する。
さらにブレーキ制御ECU29は、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを制御して、左車輪WFL(前輪)及びWRL(後輪)に発生する制動力と、右車輪WFR(前輪)及びWRR(後輪)に発生する制動力に差を持たせて実車1にヨーモーメントを発生させ、実車1のヨーレートを制御することができ、AYC(アクティブヨーコントロール)を構成する。
このように、実車1には、ABSの機能、TCSの機能、及びAYCの機能が備わって車両挙動安定化システム(VSA)を構成し、実車1は、VSA制御によって運動の安定化を図っている。
そして、VSA制御の精度を向上するため、本実施形態に係る実車1は、図2に示すように、実車1の状態量や走行環境の状態量を検出又は推定する実車挙動観測装置302(オブザーバ)を備え、ECU37は、実車挙動観測装置302が検出又は推定する状態量に基づいてVSA制御するように構成される。
本実施形態において、実車挙動観測装置302が検出又は推定する実車1の状態量には、実車1に発生しているヨーレート(実ヨーレートγact)、実車1の車速Vact、実車1の重心点の横すべり角である重心横すべり角(推定重心すべり角βact)、実車1の前輪WFR,WFL(図1参照)の横すべり角である前輪横すべり角(推定前輪すべり角βfact)、後輪WRL,WRR(図1参照)の横すべり角である後輪横すべり角(推定後輪すべり角βract)、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRと路面との間の摩擦係数μestmが含まれる。
そして、実車挙動観測装置302は、推定重心すべり角βactを推定する機能を有して特許請求の範囲に記載されるすべり角推定装置になる。
さらに、実車1の重心点の横すべり角である重心横すべり角は各センサで直接検出できない値であり、実車挙動観測装置302が推定する値であることから、推定重心すべり角βactは、実車1の運動状態を示す推定運動状態量になる。
推定重心すべり角βactは、実車1を上方から見たときの車速のベクトルが、実車1の前後方向に対してなす角度の推定値である。また、推定前輪すべり角βfactは、実車1を上方から見たときの前輪WFL,WFRの進行速度ベクトルが前輪WFL,WFRの前後方向に対してなす角度の推定値、推定後輪すべり角βractは、実車1を上方から見たときの後輪WRL,WRRの進行速度ベクトルが後輪WRL,WRRの前後方向に対してなす角度の推定値である。
なお、実車挙動観測装置302は、推定前輪すべり角βfactを各前輪WFL,WFRごとに推定してもよいが、いずれか一方の前輪WFL,WFRの横すべり角の推定値を代表的に推定前輪すべり角βfactとしてもよいし、左右の前輪WFL,WFRの横すべり角の推定値を平均して推定前輪すべり角βfactとしてもよい。
推定後輪すべり角βractについても同様である。
また、実車挙動観測装置302は、各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)と路面との間の摩擦係数μestmを、例えば、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRと路面との間の摩擦係数の代表値又は平均値とする。
前記したように、本実施形態に係る実車挙動観測装置302は、実ヨーレートγact、推定重心すべり角βact、推定前輪すべり角βfact、推定後輪すべり角βract、摩擦係数μestmを推定する機能を有する。このため、実車挙動観測装置302は、ヨーレートセンサ31(図1参照)、操作角検出センサ21c(図1参照)、横加速度センサ32(図1参照)、各車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RR(図1参照)の各センサを含んで構成される。
また、実車挙動観測装置302の実質的な動作部はECU37(図1参照)になる。つまり、ECU37が実行するプログラムに実車挙動観測装置302の機能が組み込まれ、ECU37が当該プログラムを実行することで、実車挙動観測装置302の機能を実現する。
本実施形態において、ECU37は、VSA制御のうち、特に、AYCの機能(回頭性能、安定性能、適応性能など)の制御の精度を向上するため、実車1の実運動状態量として実ヨーレートγactを利用し、実車1の推定運動状態量として推定重心すべり角βactを利用する。
そのため、本実施形態に係る実車挙動観測装置302は、実ヨーレートγactを、実車1のヨー方向の回転運動を示す実運動状態量として検出し、推定重心すべり角βactを、実車1の横方向の並進運動を示す推定運動状態量として推定する。
なお、実車挙動観測装置302は、ヨーレートセンサ31から入力されるヨーレート信号γに基づいて実ヨーレートγactを検出する。
そして、ECU37は、図1に示す実車1に備わるブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを制御して各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに発生する制動力を制御し、実車1に好適な転向力を発生させてAYCの機能の精度を向上する。
そのため、ECU37には、ヨーモーメント制御量算出部37aが備わり、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRに対する制御量を算出する。
したがって、本実施形態において制御対象となるアクチュエータは、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRになる。
また、本実施形態に係る実車1には、後記する規範モデル301に入力する規範モデル操作量を算出する規範操作量決定部304が備わる。
規範操作量決定部304には、操作角検出センサ21c(図1参照)から出力される操舵角信号θが入力されるとともに、実車挙動観測装置302が検出または推定する実車1の車速Vactと摩擦係数μestmが入力される。
さらに、規範操作量決定部304には、規範モデル301上での転舵輪の舵角の前回値(モデル舵角θmdlの前回値)が状態量として入力され、規範操作量決定部304は、入力される状態量に基づき、規範モデル操作量として、規範モデル301の転舵輪の舵角(モデル舵角θmdlの今回値)を算出(決定)する。
なお、前回値及び今回値については後記する。
基本的に、モデル舵角θmdlは、操舵角信号θに基づいて算出される操向ハンドル21a(図1参照)の操舵角θactに応じて算出されるが、モデル舵角θmdlを、車速Vact、摩擦係数μestmに応じて制限する場合があるため、規範操作量決定部304には、車速Vact、摩擦係数μestmが入力される。
また、本実施形態に係る実車1は、規範となる運動(規範運動)の状態値(規範状態量)を算出する規範状態量算出手段の一部として、規範モデル301を備える。規範モデル301は、実車1の動特性を示すために予め定められたモデル(動的なモデル)であり、実車1が規範運動をするための規範状態量を逐次算出する。ここでいう規範運動は、ヨーモーメントを実車1に発生させる外力及び操作入力に対して、アンダステア傾向及びオーバステア傾向にならずに旋回運動する状態を示す。
そのため、規範モデル301には、規範操作量決定部304で算出される規範モデル操作量として、モデル舵角θmdlが入力される。
また、規範モデル301には、実車挙動観測装置302が算出する実車1の車速Vactが入力される。
さらに、規範モデル301には、当該規範モデル301に対する制御量が、ヨーモーメント制御量算出部37aで算出されて入力される。この制御量は、実車1の走行環境(路面状態等)など、規範モデル301で考慮されていない環境等の変化、実車1のモデル化誤差、実車挙動観測装置302の検出誤差等に起因して発生する外力(外乱)によって、実車1がとりうる実際の運動と規範運動が乖離するのを防止するために規範モデル301に付加的に入力するフィードバック制御量である。
本実施形態において、規範モデル301に入力されるフィードバック制御量は、実車1に作用する外力が規範モデル301に作用したことを想定して、規範モデル301に仮想的に作用させる外力(仮想外力)であり、当該フィードバック制御量を仮想外力MVFBと称する。
すなわち、仮想外力MVFBは、実車1に作用する外力を規範モデル301に入力するフィードバック制御量として算出される値である。
そして、規範モデル301は、入力されるモデル舵角θmdl、車速Vact、仮想外力MVFBに基づいて、規範状態量として実車1のヨーレート、車両重心点横すべり角を算出する。規範モデル301が算出する規範状態量としてのヨーレートを規範ヨーレートγmdlと称し、規範状態量としての車両重心点横すべり角を規範すべり角βmdlと称する。
規範モデル301では、規範状態量としての規範ヨーレートγmdl及び規範すべり角βmdlを制御処理の周期ごとに逐次算出する。そのため、規範モデル301には、規範操作量決定部304で算出されるモデル舵角θmdlの今回値とヨーモーメント制御量算出部37aで算出される仮想外力MVFBの前回値が入力される。
また、本実施形態では、規範モデル301の車速Vmdlを実車1の車速Vactに一致させる。
本実施形態において、規範モデル301の機能はECU37(図1参照)によって実現される。つまり、ECU37が実行するプログラムに規範モデル301の機能が組み込まれ、ECU37が当該プログラムを実行することで規範モデル301の機能を実現する。
なお、ECU37は、所定の周期で制御処理を逐次実行することから、現在の(最新の)制御処理によって演算される値を今回値と称し、1周期前の制御処理で演算された値を前回値と称する。
本実施形態に係る規範モデル301は、図3に示すように、実車1(図1参照)の動特性を、1つの前輪WFMと1つの後輪WRMを前後に備えた車両の水平面上での動特性によって表現するモデル(いわゆる二輪モデル)である。
以降、規範モデル301上の車両をモデル車両1mと称する。
モデル車両1mの前輪WFMは、実車1の左右の前輪WFL,WFR(図1参照)を一体化した車輪に相当し転舵輪を示す。また、モデル車両1mの後輪WRMは、実車1の左右の後輪WRL,WRR(図1参照)を一体化した車輪に相当する。
このモデル車両1mの重心点Gdの水平面に沿った速度ベクトルVdがモデル車両1mの前後方向に対してなす角度βmdl(すなわち、モデル車両1mの車両重心点横すべり角βmdl)と、モデル車両1mの鉛直軸周りの角速度γmdl(すなわち、モデル車両1mのヨーレートγmdl)とが、それぞれ規範モデル301が逐次算出する規範ヨーレートγmdl及び規範すべり角βmdlとなる。
また、モデル車両1mの前輪WFMの回転面と水平面との交線がモデル車両1mの前後方向に対してなす角が、モデル車両1mの転舵輪(前輪WFM)の舵角(モデル舵角θmdl)として規範モデル301に入力される規範モデル操作量である。
本実施形態における仮想外力MVFBは、モデル車両1mの重心点Gd周りに作用させるヨー方向の仮想的なモーメントを示す要素(Mvir)及び重心点Gdに作用させる横方向の仮想的な並進力を示す要素(Fvir)を含んでなる。
つまり、モデル車両1mの重心点Gdに付加的に作用させる横方向の並進力Fvirとモデル車両1mの重心点Gdの周りに付加的に作用させるヨー方向のモーメントMvirとが、規範モデル301に入力される仮想外力MVFBの成分となる。
規範モデル301の動特性は、次式(1)に示すように、仮想外力MVFBを含んだ状態方程式で示される。
Figure 0005595323
ここで、係数a11、a12、a21、a22、b、b、kV1、kV2は、実車1のモデル化に伴って決定される値(固有値)である。
モデル車両1mの総重量をm、モデル車両1mの前輪WFMのコーナリングパワーをCpf、モデル車両1mの後輪WRMのコーナリングパワーをCpr、モデル車両1mの前輪WFMと重心点Gdの前後方向の距離をL、モデル車両1mの後輪WRMと重心点Gdの前後方向の距離をL、モデル車両1mの重心点Gdにおけるヨー軸周りのモーメント(慣性モーメント)をI、モデル車両1mの車速をVmdlとすると、係数a11、a12、a21、a22は、例えば、式(1)の但し書きのように決定される。
なお、係数a11、a12、a21、a22を示す、m、I、L、Lなどの値は、実車1における値と同一か、もしくはほぼ同一に決定される。また、Cpf、Cprは、それぞれ実車1の各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)の特性を考慮して決定される。
また、式(1)に示される係数a11、a12、a21、a22は一例であり、係数a11、a12、a21、a22をこれらの値に限定するものではない。
そして、Cpf、Cprの設定の仕方によって、アンダーステア(US)、オーバステア(OS)、ニュートラルステア(NS)などのステアリング特性を設定できる。
式(1)によると、仮想外力MVFBは、「kV1・a21・βerr+kV2・a22・γerr」で示される。
このうち、「kV1・a21・βerr」はすべり角に依存する成分であり、モデル車両1mの重心点Gdに作用する並進力Fvirによる成分となる。
また、「kV2・a22・γerr」はヨーレートに依存する成分であり、モデル車両1mの重心点Gd周りに作用するモーメントMvirによる成分となる。
本実施形態における規範モデル301の処理では、モデル舵角θmdlを入力、仮想外力MVFBをフィードバック入力として所定の周期で式(1)に基づいて演算処理し、規範ヨーレートγmdl及び規範すべり角βmdlを逐次算出する。
この場合、各演算周期において、モデル車両1mの車速Vmdlを実車1の車速Vactに一致させる。
そして、仮想外力MVFBの成分(Mvir、Fvir)の値としては、ヨーモーメント制御量算出部37a(図2参照)で算出される仮想外力MVFBの今回値が用いられ、モデル舵角θmdlの値としては、規範操作量決定部304(図2参照)によって算出されるモデル舵角θmdlの今回値が用いられる。
なお、規範モデル301及び実車挙動観測装置302による、摩擦係数μestm、実ヨーレートγact、推定重心すべり角βact、規範ヨーレートγmdl及び規範すべり角βmdlの検出方法や算出方法は、前記した特許文献1に詳細が記載される方法を適用することができる。したがって、各方法の詳細な説明は省略する。
説明を図2に戻す。ECU37は、規範モデル301が算出した規範ヨーレートγmdlから実車挙動観測装置302によって検出した実ヨーレートγactを減算器37bで減算してヨーレート偏差γerr(=γmdl−γact)を算出し、規範モデル301が算出した規範すべり角βmdlから実車挙動観測装置302が推定した推定重心すべり角βactを減算器37bで減算してすべり角偏差βerr(=βmdl−βact)を算出する。
そしてECU37は、算出したヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをFB分配則303に入力して偏差依存仮想外力MVerrを算出する。
また、FB分配則303では、入力されるヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrに基づいて、偏差依存アクチュエータ動作FB目標値MCerr(以下、偏差依存目標値MCerr)が算出される。
そのため、FB分配則303は、偏差依存仮想外力MVerrを算出する仮想外力決定部303a及び偏差依存目標値MCerrを算出するアクチュエータ動作FB目標値決定部303bを備える。
図2に示す、FB分配則303の仮想外力決定部303aでは、基本的に、入力されるヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づけるように偏差依存仮想外力MVerrを算出する。
また、FB分配則303のアクチュエータ動作FB目標値決定部303bでは、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づける所定のヨー方向のモーメントが実車1の重心点の周りに発生するような制動力を各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)に発生するように、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを制御するための偏差依存目標値MCerrを算出する。
すなわち、偏差依存目標値MCerrは、偏差依存仮想外力MVerrに応じて算出される。
このように、FB分配則303が、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づけるように偏差依存目標値MCerrを算出することにより、偏差依存仮想外力MVerrは定常的にゼロになる。
また、ECU37には、FF則305が備わっている。FF則305には、操舵角信号θ、車輪速信号ω(ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRS)、ヨーレート信号γ、横加速度信号Gが入力され、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)の動作のフィードフォワード目標値FFが算出される。
本実施形態のフィードフォワード目標値FFには、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRの動作による実車1の各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)に関するフィードフォワード目標値が含まれる。
さらに、FF則305には、実車挙動観測装置302が検出及び推定する実車1の車速Vactが入力され、FF則305は、車速Vact、操舵角信号θ、車輪速信号ω、ヨーレート信号γ、横加速度信号G等に基づいてフィードフォワード目標値FFを算出する。
FF則305で算出されるフィードフォワード目標値FFは、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrに依存しないで算出されるブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)の動作目標値である。
次に、図2に示すFB分配則303を構成する機能ブロックについて説明する。
前記したように、FB分配則303は、主に仮想外力決定部303aとアクチュエータ動作FB目標値決定部303bとから構成される。
仮想外力決定部303aは、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づけるように偏差依存仮想外力MVerrを算出する。
また、アクチュエータ動作FB目標値決定部303bは、図4に示すように、処理部313bを備え、入力されるヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づけるために実車1(図1参照)の重心点周りに発生させるべきヨー方向のモーメントの基本要求値であるフィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdを算出する。
フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdは、実車1のブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)に対する制御量の基本要求値になる。
アクチュエータ動作FB目標値決定部303bの処理部313bは、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrからフィードバック制御則によって、フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmd(以下、モーメント要求値Mfbdmd)を算出する。
アクチュエータ動作FB目標値決定部303bは、処理部313bで算出したモーメント要求値Mfbdmdを不感帯処理部323bに通し、補正したモーメント要求値(補正モーメント要求値Mfbdmd_a)を算出する。
前記したように、本実施形態において制御対象となるアクチュエータは、図1に示す実車1に備わるブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRであり、ブレーキ制御ECU29はECU37から入力される制御信号に基づいて、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づけるためにブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを操作する。
この場合、図4に示す処理部313bで算出されるモーメント要求値Mfbdmdに応じてブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRが操作されると、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRが頻繁に操作される虞がある。
そこで、本実施形態においては、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRが頻繁に操作される現象を回避するため、モーメント要求値Mfbdmdを不感帯処理部323bに通して補正して得られる補正モーメント要求値Mfbdmd_aに応じてブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを操作する。
そのために、不感帯処理部323bでは、図4に示すグラフに基づいて、補正モーメント要求値Mfbdmd_aを算出する。
具体的に不感帯処理部323bは、モーメント要求値Mfbdmdの不感帯からの超過分を補正モーメント要求値Mfbdmd_aとする。
このように算出される補正モーメント要求値Mfbdmd_aに基づいてブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)を操作すると、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrに応じた頻繁な操作を抑制しつつ、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrをゼロに近づけるように、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを操作できる。
また、アクチュエータ動作FB目標値決定部303bには、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部333bが備わり、不感帯処理部323bで補正された補正モーメント要求値Mfbdmd_aに基づいて偏差依存目標値MCerrを算出する。
アクチュエータ動作FB目標値分配処理部333bは、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)が各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)に発生させる制動力によって、補正モーメント要求値Mfbdmd_aが実車1(図1参照)の重心点周りに発生するように(すなわち、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrがゼロに近づくように)、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRに対するフィードバック目標値である偏差依存目標値MCerrを算出する。
そのため、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部333bは、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRごとの偏差依存目標値MCerrを算出する。
補正モーメント要求値Mfbdmd_aが正方向のモーメント(実車1の上方から見て反時計周りの方向のモーメント)の場合、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部333bは、実車1(図1参照)の左側の車輪WFL,WRL(図1参照)の制動力を増加させて実車1の重心点周りに補正モーメント要求値Mfbdmd_aに相当するモーメントを発生させる。つまり、左側の車輪WFL,WRLの制動力が増加するようにブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを動作させる偏差依存目標値MCerrを算出する。
また、補正モーメント要求値Mfbdmd_aが負方向のモーメント(実車1の上方から見て時計周りの方向のモーメント)の場合、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部333bは、実車1の右側の車輪WFR,WRR(図1参照)の制動力を増加させて実車1の重心点周りに補正モーメント要求値Mfbdmd_aに相当するモーメントを発生させる。つまり、右側の車輪WFR,WRRの制動力が増加するようにブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRを動作させる偏差依存目標値MCerrを算出する。
なお、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrがゼロに近づくように、仮想外力決定部303aが偏差依存仮想外力MVerrを算出する方法及びアクチュエータ動作FB目標値決定部303bが偏差依存目標値MCerrを算出する方法は、前記した特許文献1に詳細が記載される方法を適用できる。したがって、各方法の詳細な説明は省略する。
また、図2に示すように、本実施形態に係るヨーモーメント制御量算出部37aには、アンチスピンFB値決定部303cが備わり、図1に示す実車1にスピンが発生しないようにブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRに対する制御量(アンチスピンFB値)を、推定後輪すべり角βractに基づいて算出する。
アンチスピンFB値決定部303cでは、図5に示すように、実車挙動観測装置302が推定する推定後輪すべり角βractと、推定後輪すべり角βractの微分値dβractに所定の係数Kdを乗算した値を加算器313cで加算して、仮値βrtmp(=βract+Kd・dβract)を算出する。
そして、後輪すべり角不感帯処理部323cで、仮値βrtmpの所定の許容範囲からの逸脱量βrtmpOVERを算出する。
図5に示す、後輪すべり角不感帯処理部323cのグラフは、横軸に仮値βrtmpの値、縦軸に逸脱量βrtmpOVERの値を示し、最大値βrtmax(>0)、最小値βrtmin(<0)の範囲で後輪すべり角の不感帯[βrtmin、βrtmax]を有する。
実車1の後輪WRL,WRR(図1参照)に発生する横すべり角(後輪横すべり角)が小さいときは実車1の走行に与える影響が小さく、後輪WRL,WRRに発生する後輪すべり角を無視しても実車1の運動が不安定になることがない。
そこで、後輪すべり角不感帯処理部323cでは、実車1の走行に与える影響が小さい範囲で、後輪すべり角の不感帯が設定される。すなわち、不感帯の最大値βrtmax及び最小値βrtminが設定される。
具体的に、後輪すべり角不感帯処理部323cでは、仮値βrtmpが最小値βrtminより小さいときは(βrtmp<βrtmin)、仮値βrtmpから最小値βrtminを減算した値を逸脱量βrtmpOVERとし(βrtmpOVER=βrtmp−βrtmin)、仮値βrtmpが最大値βrtmaxより大きいときは(βrtmp>βrtmax)、仮値βrtmpから最大値βrtmaxを減算した値を逸脱量βrtmpOVERとする(βrtmpOVER=βrtmp−βrtmax)。
また、仮値βrtmpが不感帯[βrtmin、βrtmax]の範囲内のときは(βrtmin≦βrtmp≦βrtmax)、逸脱量βrtmpOVERをゼロに決定する(βrtmpOVER=0)。
このように不感帯を設定し、さらに、不感帯に応じて逸脱量βrtmpOVERを算出することで、後輪横すべり角の小さな変動に応じてブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)が頻繁に動作することを抑制できる。
そして、処理部333cでは、逸脱量βrtmpOVERに基づいてアンチスピンFB値を算出する。
具体的に、処理部333cでは、後輪すべり角不感帯処理部323cで算出される逸脱量βrtmpOVERに所定の係数Kvaspを乗算した値を、後輪横すべり角に基づく外力MVaspとして算出する。すなわち、後輪横すべり角に基づく外力MVaspは次式(2a)で示される。
また、処理部333cでは、逸脱量βrtmpOVERに所定の係数Kcaspを乗算した値を、後輪横すべり角に基づくアクチュエータ動作FB目標値MCaspとして算出する。すなわち、後輪横すべり角に基づくアクチュエータ動作FB目標値MCaspは次式(2b)で示される。
MVasp=Kvasp・βrtmpOVER (2a)
MCasp=Kcasp・βrtmpOVER (2b)
そして、図2に示すように、ヨーモーメント制御量算出部37aは、仮想外力決定部303aが算出する偏差依存仮想外力MVerrとアンチスピンFB値決定部303cが算出する後輪横すべり角に基づく外力MVaspを加算器37dで加算してβ依存仮想外力MVβを算出する。
また、アクチュエータ動作FB目標値決定部303bが算出する偏差依存目標値MCerrとアンチスピンFB値決定部303cが算出する後輪横すべり角に基づくアクチュエータ動作FB目標値MCaspに基づいて決定されるアクチュエータ動作FB目標値MCFBがアクチュエータ動作目標値合成部306に入力される。
アクチュエータ動作FB目標値MCFBの詳細は後記する。
アクチュエータ動作目標値合成部306は、FF則305で算出したフィードフォワード目標値FFと、アクチュエータ動作FB目標値MCFBに基づいて、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)の動作を規定する目標値(アクチュエータ動作目標値AC)を算出する。
本実施形態において、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRの動作を規定するアクチュエータ動作目標値ACは、各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)の制動力の目標値になる。
なお、アクチュエータ動作目標値合成部306には、フィードフォワード目標値FF、アクチュエータ動作FB目標値MCFBの他、実車挙動観測装置302が検出及び推定する推定後輪すべり角βract、摩擦係数μestmが入力され、アクチュエータ動作目標値合成部306は、これらの入力値に基づいてアクチュエータ動作目標値ACを算出する。
さらに、ヨーモーメント制御量算出部37aには、実車挙動観測装置302が推定する推定重心すべり角βactを利用せず、ヨーレートセンサ31(図1参照)から入力されるヨーレート信号γ、車輪速センサ30FL,30FR,30RL,30RR(図1参照)から入力される車輪速信号ω(ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRS)及び横加速度センサ32(図1参照)から入力される横加速度信号Gに基づいて、β非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspを算出するβ非依存目標値決定部307が備わる。
図6に示すように、β非依存目標値決定部307に入力された横加速度信号G及び車輪速信号ωは処理部307aに入力され、横加速度Gact及び車速Vactが算出されるとともに、横加速度Gactを車速Vactで除して、横加速度に基づくヨーレート(Gact/Vact)が算出される。
また、β非依存目標値決定部307に入力されたヨーレート信号γは、ヨーレート算出部307bに入力され、実ヨーレートγactが算出される。
そして、加算器307cで、実ヨーレートγactから横加速度に基づくヨーレート(Gact/Vact)が減算されて、ヨーレートのβ非依存検出値dβ(=γact−Gact/Vact)が算出される。
さらに、ヨーレートのβ非依存検出値dβは不感帯処理部307dに入力される。
図6に示す不感帯処理部307dのグラフは、横軸にヨーレートのβ非依存検出値dβ、縦軸にヨーレートのβ非依存検出値の逸脱量dβemgの値を示し、最大値(>0)及び最小値(<0)の範囲で不感帯が設定される。
そして、不感帯処理部307dは、ヨーレートのβ非依存検出値dβが最小値より小さい場合、ヨーレートのβ非依存検出値dβから最小値を減算した値を逸脱量dβemgに設定し、ヨーレートのβ非依存検出値dβが最大値より大きい場合、ヨーレートのβ非依存検出値dβから最大値を減算した値を逸脱量dβemgに設定する。また、ヨーレートのβ非依存検出値dβが不感帯の範囲内の場合、逸脱量dβemgをゼロに設定する。
このように不感帯を設定し、さらに、不感帯に応じて逸脱量dβemgを設定することで、ヨーレートのβ非依存検出値dβの小さな変動に応じてブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)が頻繁に動作することを抑制できる。
そして、逸脱量dβemgはPID処理部307eに入力される。
PID処理部307eでは、逸脱量dβemgに基づいて、β非依存仮想外力MVβaspとβ非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspが算出される。
具体的に、比例定数KPに逸脱量dβemgを乗算する比例項と積分定数KLに逸脱量dβemgの積分値を乗算する積分項と微分定数KDに逸脱量dβemgの微分値を乗算する微分項を加算してβ非依存仮想外力MVβaspが算出される。
また、比例定数KPに逸脱量dβemgを乗算する比例項と積分定数KLに逸脱量dβemgの積分値を乗算する積分項と微分定数KDに逸脱量dβemgの微分値を乗算する微分項を加算してβ非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspが算出される。
すなわち、β非依存仮想外力MVβaspは次式(3a)で示され、β非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspは次式(3b)で示される。
Figure 0005595323
そして、図2に示すように、β非依存目標値決定部307で算出されたβ非依存仮想外力MVβaspは、加算器37eでβ依存仮想外力MVβと加算されて仮想外力MVFBが算出され、規範モデル301に入力される。
また、β非依存目標値決定部307で算出されたβ非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspは、比較器37fに入力される。
さらに、比較器37fには、アクチュエータ動作FB目標値決定部303bが算出する偏差依存目標値MCerrとアンチスピンFB値決定部303cが算出するアクチュエータ動作FB目標値MCaspが加算器37cで加算されたβ依存アクチュエータ動作FB目標値MCが入力される。
比較器37fは、β依存アクチュエータ動作FB目標値MCとβ非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspを比較し、値の大きい一方をアクチュエータ動作FB目標値MCFBとして出力する。
したがって、β依存アクチュエータ動作FB目標値MCとβ非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspのうち、値の大きな一方が比較器37fから出力されてアクチュエータ動作目標値合成部306によってアクチュエータ動作目標値ACが決定され、ブレーキ制御ECU29に入力される。
そして、ブレーキ制御ECU29は、入力されたアクチュエータ動作目標値ACに基づいてブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)を制御し、各車輪WFL,WFR,WRL,WRR(図1参照)に発生する制動力を設定する。
前記したように、図1に示す実車1に備わるブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRは、本実施形態において制御対象となるアクチュエータであり、アクチュエータ動作FB目標値MCFBは、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRによって各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに発生する制動力の目標値を示す。
したがって、アクチュエータ動作目標値合成部306では、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRごとのアクチュエータ動作目標値ACが算出される。
また、アクチュエータ動作FB目標値MCFBは、実車1(図1参照)に作用する外力を操作するためのフィードバック制御量であり、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRの動作によって各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに作用させる制動力を操作するための目標値となる。
実車1の動特性を、アクチュエータ動作FB目標値MCFBを含んだ状態方程式で示すと、次式(4)のようになる。
Figure 0005595323
係数a’は、実車1に固有の係数であり、式(4)における係数a’と式(1)における係数aは概ね比例関係にある。すなわち、a∝a’の関係にある(但し、n=11、12、21、22)。
以上のように、本実施形態に係る実車1(図1参照)には、図2に示すように、規範モデル301、実車挙動観測装置302、FB分配則303、及びβ非依存目標値決定部307を含んで構成されるECU37が備わる。
そして、FB分配則303の仮想外力決定部303aが算出する偏差依存仮想外力MVerrにアンチスピンFB値決定部303cが算出する後輪横すべり角に基づく外力MVaspとβ非依存目標値決定部307が算出するβ非依存仮想外力MVβaspを加算し、仮想外力MVFBとして規範モデル301にフィードバック入力し、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrがゼロに近づくように規範モデル301における外力状態を修正し、この修正された規範モデル301で、次回の規範ヨーレートγmdl及び規範すべり角βmdlを算出する。
また、FB分配則303のアクチュエータ動作FB目標値決定部303bが算出する偏差依存アクチュエータ動作FB目標値MCerrと、アンチスピンFB値決定部303cが算出する後輪横すべり角に基づくアクチュエータ動作FB目標値MCaspと、が加算されて算出されるβ依存アクチュエータ動作FB目標値MCと、β非依存目標値決定部307が算出するβ非依存アクチュエータ動作FB目標値MCβaspのうちの値の大きい一方をアクチュエータ動作FB目標値MCFBとして出力し、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrがゼロになるように、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRの動作目標値を算出する。
この構成によって、ヨーレート偏差γerr及びすべり角偏差βerrを効果的にゼロに収束できる。すなわち、実車1のAYC制御の精度を向上できる。
以上のように構成される実車1(図1参照)に備わる実車挙動観測装置302(図2参照)には、前記したように、操舵角信号θ、車輪速信号ω(ωFLS,ωFRS,ωRLS,ωRRS)、ヨーレート信号γ、横加速度信号G等が入力され、重心横すべり角βact、車速Vact、摩擦係数μestm等を推定する。
そして、図7に示すように、実車挙動観測装置302には、すべり角推定装置として推定重心すべり角βactを推定するため、β推定ブロック302aとβ補償ブロック302bが備わっている。
β推定ブロック302aは、推定重心すべり角βactの基準となるすべり角推定基準値βstdを算出し、β補償ブロック302bは、横加速度センサ32が検出する横加速度に基づいて、すべり角推定基準値βstdの補償量となるすべり角補償値βcを算出する。
なお、β推定ブロック302aはすべり角推定基準値βstdを算出することから、特許請求の範囲に記載される基準値推定部に相当し、β補償ブロック302bは、すべり角推定基準値βstdの補償量となるすべり角補償値βcを算出することから、特許請求の範囲に記載される補償量算出部に相当する。
実車挙動観測装置302に入力される横加速度信号Gは横加速度算出部302Gに入力され、横加速度算出部302Gで、実車1(図1参照)に発生している横加速度Gactが算出される。また、実車挙動観測装置302に入力される操舵角信号θは、操舵角算出部302θに入力され、操舵角算出部302θで、操向ハンドル21a(図1参照)の操舵角θactが算出される。さらに、実車挙動観測装置302に入力されるヨーレート信号γは、ヨーレート算出部302γに入力され、ヨーレート算出部302γで、実車1に発生している実ヨーレートγactが算出される。
β推定ブロック302aには、操舵角算出部302θが算出する操舵角θactが入力され、加減算器312aで、β推定ブロック302aが算出するすべり角推定基準値βstdが減算される。そして、すべり角推定基準値βstdが減算された操舵角偏差θerrは、乗算器312bで実車挙動観測装置302が推定する摩擦係数μestmが乗算され、さらに、乗算器312cで、タイヤ・シャーシ特性値Ktsが乗算されて、横加速度推定値Grefが算出される。タイヤ・シャーシ特性値Ktsは、実車1(図1参照)の構成等によって決定される特性値であり、実験計測等によって予め決定される。
横加速度推定値Grefは、乗算器312dでECU37が算出する実車1(図1参照)の車速Vactの逆数(1/Vact)が乗算され、さらに、加減算器312eで、ヨーレート算出部302γが算出する実ヨーレートγactが減算された後に積分器312fで積分されて、すべり角推定基準値βstdが算出される。このように、β推定ブロック302aは、操舵角θact、実ヨーレートγact等に基づいてすべり角推定基準値βstdを算出する。
β補償ブロック302bには、β推定ブロック302aが算出する横加速度推定値Gref、横加速度算出部302Gが算出する横加速度Gactが入力され、加減算器322aで、横加速度Gactから横加速度推定値Grefが減算されて横加速度偏差Gerrが算出される。横加速度偏差Gerrは、ローパスフィルタ322bに入力されてノイズ成分が除去された後、ハイパスフィルタ322c,322dでドリフトとオフセットが除去される。
ローパスフィルタ322bおよびハイパスフィルタ322c,322dでノイズ成分、ドリフト、オフセットが除去された横加速度偏差Gerr(以下、フィルタ後偏差Gfiltと称する)は、積分器322eで積分された後、乗算器322fで、実車1(図1参照)の車速Vactの逆数(1/Vact)が乗算されてすべり角補償操作値βOPが算出され、β補償器リミッタ322gに入力される。なお、β補償ブロック302bに備わる微分器322i、時定数変更器322jの詳細は後記する。
積分器322eでは、所定の積分区間でフィルタ後偏差Gfiltが積分される。このときの積分区間は、積分処理している時刻から所定時間遡った期間であり、制御対象のアクチュエータであるブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)の応答速度等に応じて適宜決定される。
ローパスフィルタ322bは、時定数TLを有して横加速度偏差Gerrのノイズ成分(高周波成分)を除去するフィルタであり、ハイパスフィルタ322c,322dは、それぞれ時定数TH1,TH2を有し、ノイズ成分が除去された横加速度偏差Gerrのドリフトおよびオフセット(DC周波数成分)を除去するフィルタである。
β補償器リミッタ322gは、すべり角補償操作値βOPを、予め設定される範囲内の値に補正してすべり角補償値βcとして算出する。
具体的に、予め設定される範囲として上限値βlmtu、下限値βlmtdが設定される場合、β補償器リミッタ322gは、すべり角補償操作値βOPが上限値βlmtu以上であれば作動して、上限値βlmtuをすべり角補償値βcとし、すべり角補償操作値βOPが下限値βlmtd以下であれば作動して、下限値βlmtdをすべり角補償値βcとする。また、すべり角補償操作値βOPが上限値βlmtuより小さく下限値βlmtdより大きい場合、β補償器リミッタ322gは、すべり角補償操作値βOPをそのまますべり角補償値βcとする。
このような上限値βlmtuおよび下限値βlmtdは実車1(図1参照)の特性値であり、実車1の運動が安定化する範囲ですべり角推定基準値βstdを補償できるすべり角補償値βcの範囲を設定すればよい。
そして、β推定ブロック302aが算出するすべり角推定基準値βstdが、β補償ブロック302bで算出するすべり角補償値βcで補償される。具体的に、実車挙動観測装置302に備わる加算器322hですべり角推定基準値βstdにすべり角補償値βcが加算されて推定重心すべり角βactが算出される。
図7に示すように、β補償ブロック302bでは、横加速度センサ32(図1参照)から入力される横加速度信号Gに基づいて横加速度算出部302Gが算出する横加速度Gactと、β推定ブロック302aが操向ハンドル21a(図1参照)の操舵角θactと実ヨーレートγactに基づいて推定する横加速度推定値Grefと、の偏差(横加速度偏差Gerr)に応じたすべり角補償値βcが算出される。
したがって、横加速度センサ32の検出値が、実車1(図1参照)に発生している実際の横加速度(以下、実横加速度Grealと称する)と大きく乖離する現象が発現すると、β補償ブロック302bが算出するすべり角補償値βcの信頼性が低下し、ひいては、すべり角推定基準値βstdがすべり角補償値βcで補償されて算出される推定重心すべり角βactが、実横加速度Grealによるすべり角(以下、実すべり角βrealと称する)と大きく乖離する。
図8の(a)〜(d)は、実横加速度Greal(図示せず)が大きくなると、検出値をプラス方向に出力する異常が横加速度センサ32(図1参照)に発生している実車1(図1参照)が旋回運動するときの状態を示し、図8の(a),(c)の横軸は時間経過、縦軸は横加速度を示し、図8の(b),(d)の横軸は時間経過、縦軸はすべり角を示している。なお、図8の(a)〜(d)は、実車1(図1参照)に発生するすべり角の、左右方向の1方向を正、他の方向を負として示す。
このように異常が発生している横加速度センサ32は、実横加速度Grealより大きな検出値を出力する。
例えば、図8の(a)に示すように、時刻t1で実車1(図1参照)が旋回運動を開始した場合、実横加速度Greal(図示せず)の増加にともなって横加速度センサ32から入力される横加速度信号Gが大きくなり、横加速度信号Gに基づいて横加速度算出部302G(図7参照)が算出する横加速度Gactが、操舵角θactに基づいてβ推定ブロック302a(図7参照)が推定する横加速度推定値Grefより大きくなると、横加速度偏差Gerrが増大する。そして、ハイパスフィルタ322d(図7参照)から出力されるフィルタ後偏差Gfiltは、横加速度偏差Gerrの増大にともなって増大し、横加速度偏差Gerrがほぼ一定になると、ハイパスフィルタ322c,322dの作用によってゼロに収束する。
このとき、フィルタ後偏差Gfiltが所定の積分区間で積分された成分を有するすべり角補償操作値βOPは、図8の(b)に示すようにフィルタ後偏差Gfiltの増大にともなって増大し、フィルタ後偏差Gfiltがゼロに収束するのにともなってゼロに収束する。
時刻t2で実車1(図1参照)の旋回運動が終了し、実車1に発生する実横加速度Grealが減少すると、図8の(a)に示すように横加速度Gactと横加速度推定値Grefの横加速度偏差Gerrが小さくなってフィルタ後偏差Gfiltが減少し、横加速度偏差Gerrがほぼ一定になると、フィルタ後偏差Gfiltはハイパスフィルタ322c,322dの作用によってゼロに収束する。そして、すべり角補償操作値βOPは、図8の(b)に示すようにフィルタ後偏差Gfiltの減少にともなって減少し、フィルタ後偏差Gfiltがゼロに収束するのにともなってゼロに収束する。
したがって、実車1(図1参照)が旋回運動している時刻t1から時刻t2の間は、異常が発生した横加速度センサ32(図1参照)に基づいてフィルタ後偏差Gfiltが算出され、その結果、異常が発生した横加速度センサ32に基づいたすべり角補償操作値βOPが算出される。
異常が発生している横加速度センサ32(図1参照)は、実車1に発生している実横加速度Grealと異なる値を検出するため、横加速度センサ32から入力される横加速度信号Gに基づいて算出される横加速度Gactは実横加速度Grealと乖離した値となり、横加速度Gactに基づいて算出されるすべり角補償操作値βOPを、そのまますべり角補償値βcとすると、すべり角推定基準値βstdをすべり角補償値βcで補償して算出される推定重心すべり角βactは、実すべり角βrealと乖離する。
そこで、図7に示すように、β補償ブロック302bにβ補償器リミッタ322gを備え、すべり角補償操作値βOPが所定の上限値βlmtu以上の場合は、上限値βlmtuをすべり角補償値βcとし、すべり角補償操作値βOPが所定の下限値βlmtd以下の場合は、下限値βlmtdをすべり角補償値βcとするように構成する。また、すべり角補償操作値βOPが上限値βlmtuより小さく下限値βlmtdより大きい場合、すべり角補償操作値βOPをそのまますべり角補償値βcとするように構成する。
この構成によって、図8の(d)に実線で示すように、すべり角補償操作値βOPの値によらず、すべり角補償値βcを上限値βlmtuと下限値βlmtdの間に制限できる。
すなわち、実車挙動観測装置302(図2参照)は、横加速度センサ32に発生する異常の影響によって、すべり角補償値βcが上限値βlmtuより大きな値や下限値βlmtdより小さな値になることを防止することができ、横加速度センサ32に発生する異常の影響を小さくしてすべり角補償値βcを算出できる。
そして、実車挙動観測装置302(図2参照)は、旋回運動する実車1(図1参照)の横加速度センサ32(図1参照)に異常が発生した場合であっても、β推定ブロック302aが算出するすべり角推定基準値βstdを、上限値βlmtuと下限値βlmtdの間に制限されたすべり角補償値βcで補償できる。その結果、すべり角推定基準値βstdをすべり角補償値βcで補償して算出される推定重心すべり角βactと実すべり角βrealの乖離を小さくできる。
また、図7に示すように、β補償ブロック302bは、微分器322iと時定数変更器322jを備えて構成される。微分器322iは、加減算器322aが算出する横加速度偏差Gerrをフィルタ用時定数Tdで微分して横加速度偏差Gerrの微分値dGerrを算出し、時定数変更器322jに入力する。時定数変更器322jは、すべり角補償操作値βOPが予め設定される範囲を超えてβ補償器リミッタ322gが作動した場合、または、横加速度偏差Gerrの符号と横加速度偏差Gerrの微分値dGerrの符号が異なる場合、ローパスフィルタ322bの時定数TL、ハイパスフィルタ322cの時定数TH1、およびハイパスフィルタ322dの時定数TH2を変更する。
図8の(a)に示すように、横加速度センサ32(図1参照)に異常が発生している場合、時刻t2で実車1(図1参照)の旋回が終了すると、実横加速度Greal(図示せず)の低下にともなって、横加速度センサ32が検出する横加速度信号Gに基づく横加速度Gactが低下し、β推定ブロック302aが算出する横加速度推定値Grefと横加速度Gactの横加速度偏差Gerrが減少する。そして、すべり角補償操作値βOPは、ローパスフィルタ322bの作用によって横加速度偏差Gerrの減少にともなって低下し、横加速度偏差Gerrがほぼ一定になると、ハイパスフィルタ322c、322dの作用によってゼロに収束する。
図8の(b)に示すように、時刻t2以降にすべり角補償操作値βOPが減少して負の値になると、実横加速度Grealと逆方向に横加速度が発生している場合のすべり角補償操作値βOPとなる。
換言すると、β補償ブロック302b(図7参照)は、実車1(図1参照)に発生している実横加速度Grealによる実すべり角βrealと逆の方向にすべり角推定基準値βstdを補償するためのすべり角補償操作値βOPを算出する。
そこで、図7に示すように、β補償ブロック302bに、ローパスフィルタ322bの時定数TL、ハイパスフィルタ322cの時定数TH1、およびハイパスフィルタ322dの時定数TH2を変更する時定数変更器322jを備え、横加速度偏差Gerrが減少しているときにすべり角補償操作値βOPの減少量が小さくなるように、ローパスフィルタ322bの時定数TL、ハイパスフィルタ322cの時定数TH1、およびハイパスフィルタ322dの時定数TH2を変更する。
時定数変更器322jは、微分器322iから入力される、横加速度偏差Gerrの微分値dGerrの符号と横加速度偏差Gerrの符号が異なるときに、横加速度偏差Gerrが減少していると判定する。そして、時定数変更器322jは、横加速度偏差Gerrが減少している場合、および前回計算時(1周期前の制御処理時)にβ補償器リミッタ322gが作動して補償量制限が有効になっていたとき(あるいは、推定できる場合には現在の制御処理でβ補償器リミッタ322gが作動すると推定された場合でもよい)に、ローパスフィルタ322bの時定数TL、ハイパスフィルタ322cの時定数TH1、およびハイパスフィルタ322dの時定数TH2が小さくなるように各時定数を変更する。
ローパスフィルタ322bの時定数TLが小さくなるとカットオフ周波数が高くなり、ローパスフィルタ322bは、短時間の入力データに基づいた出力データを出力する。
換言すると、ローパスフィルタ322bから出力されるデータのベースとなる入力データに含まれるデータ数が少なくなり、異常が発生した横加速度センサ32(図1参照)から入力されるデータ(異常なデータ)が出力データに与える影響が小さくなる。
このことによって、すべり角補償操作値βOPに横加速度偏差Gerrの減少が与える影響が小さくなり、横加速度偏差Gerrが減少するときの、すべり角補償操作値βOPの低下が抑制される。そして、図8の(c)に示すように、実車1(図1参照)の旋回が終了する時刻t2において、フィルタ後偏差Gfiltが負になることが抑制され、図8の(d)に示すように、フィルタ後偏差Gfiltの積分値であるすべり角補償操作値βOPの低下が軽減する。したがって、実車1に発生している実すべり角βrealと逆の方向にすべり角推定基準値βstdを補償するためのすべり角補償操作値βOPの算出が抑制される。
例えば、横加速度センサ32(図1参照)に異常が発生し、横加速度信号Gに基づいて算出される横加速度Gactが実車1(図1参照)に発生している実横加速度Grealより大きな値となる場合、横加速度Gactに基づいて算出されるすべり角補償値βcですべり角推定基準値βstdを補償して得られる推定重心すべり角βactの値が大きくなる。
本実施形態においては、規範モデル301(図2参照)が算出する規範すべり角βmdlと推定重心すべり角βactの偏差であるすべり角偏差βerrをゼロに近づけるように、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRR(図1参照)に対する制御量が設定されることから、推定重心すべり角βactの値が大きくなると、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRが過剰に動作する場合がある。
本実施形態に係る実車挙動観測装置302(図2参照)は、横加速度信号Gに基づいて算出される横加速度Gactが実車1(図1参照)に発生している実横加速度Grealより大きな値となる場合であっても、推定重心すべり角βactの値が大きくなることを防止することができる。
すなわち、実車挙動観測装置302(図2参照)は、横加速度センサ32(図1参照)に発生する異常の影響を小さくして推定重心すべり角βactを推定できる。
そして、ブレーキ装置BFL,BFR,BRL,BRRが過剰に動作をすることが回避される。
1 実車(車両)
21a 操向ハンドル
21c 操作角検出センサ(操舵角検出手段)
30FL,30FR,30RL,30RR 車輪速センサ(車速検出手段)
32 横加速度センサ(横加速度検出手段)
302 実車挙動観測装置(すべり角推定装置)
302a β推定ブロック(基準値推定部)
302b β補償ブロック(補償量算出部)
322b ローパスフィルタ
322c,322d ハイパスフィルタ
322g β補償器リミッタ
322j 時定数変更器

Claims (6)

  1. 車両の車速を検出する車速検出手段と、
    前記車両に備わる操向ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出手段と、
    前記車両の横加速度を検出する横加速度検出手段と、を備え、
    前記車速検出手段が検出する前記車速および前記操舵角検出手段が検出する前記操舵角に基づいて前記車両の横加速度の推定値を推定するとともに前記推定値に基づいて前記車両のすべり角の基準値を推定する基準値推定部と、
    前記横加速度検出手段が検出する前記横加速度に基づいて前記基準値の補償量を算出する補償量算出部と、を有し、
    前記基準値を前記補償量で補償して前記車両のすべり角を推定するすべり角推定装置であって、
    前記補償量算出部が算出する前記補償量を所定の範囲に制限することを特徴とするすべり角推定装置。
  2. 前記補償量算出部は、
    前記横加速度検出手段が検出する前記横加速度と前記推定値の差分である横加速度偏差を、ローパスフィルタを通した後に時間積分した積分値に基づいて前記補償量を算出することを特徴とする請求項1に記載のすべり角推定装置。
  3. 前記補償量算出部は、
    制限される前の前記補償量が前記所定の範囲を超えているときに、前記ローパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする請求項2に記載のすべり角推定装置。
  4. 前記補償量算出部は、
    前記横加速度偏差の符号と、前記横加速度偏差の微分値の符号と、が異なるときに、前記ローパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のすべり角推定装置。
  5. 前記補償量算出部は、
    前記横加速度検出手段が検出する前記横加速度と前記推定値の差分である横加速度偏差を、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを通した後に時間積分した積分値に基づいて前記補償量を算出するとともに、
    前記補償量算出部は、
    制限される前の前記補償量が前記所定の範囲を超えているときに、前記ローパスフィルタおよび前記ハイパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする請求項1に記載のすべり角推定装置。
  6. 前記補償量算出部は、
    前記横加速度偏差の符号と、前記横加速度偏差の微分値の符号と、が異なるときに、前記ローパスフィルタおよび前記ハイパスフィルタの時定数を小さくすることを特徴とする請求項5に記載のすべり角推定装置。
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