端子付き電線1は、電線10と、端子20と、防食剤99の付着した防食部90と、を備える。
電線10は、複数の素線11で構成される芯線12と、芯線12を被覆する被覆部13と、を備えている。具体的には、芯線12の周囲を、例えば樹脂などの絶縁体よりなる被覆部13が覆うことによって、電線10は構成される。この電線10の一端部において、被覆部13が剥がされて露出した芯線12(以下、「芯線端部14」と称する場合がある。)と、被覆部13における芯線端部14側の端部(以下、「被覆端部15」と称する場合がある。)と、が端子20に圧着されて、端子付き電線1は得られる。なお、図1では、電線10に圧着される前の端子20が示されている。
続いて、端子20について説明する。端子20は、長尺状に形成される。本実施の形態において、端子20の長手方向に沿って、電線10が圧着される側を他方側といい、電線10が圧着される側の反対側を一方側と称するものとする。端子20は、端子嵌合部21および電線圧着部111を有し、さらに電線圧着部111は、第1連結部32、芯線圧着部42、第2連結部52および被覆圧着部62を備えている。端子20は、その長手方向一方側から他方側に向けて順に、端子嵌合部21、第1連結部32、芯線圧着部42、第2連結部52および被覆圧着部62を備える。端子嵌合部21、芯線圧着部42および被覆圧着部62は、それぞれ離隔して形成されている。第1連結部32は、端子嵌合部21と芯線圧着部42とを一体に連結する。第2連結部52は、芯線圧着部42と被覆圧着部62とを一体に連結する。
導電性を有する平板状の金属板(以下「導電性金属板」という場合がある)が打ち抜かれた後、屈曲されるなどして、端子20は形成される。導電性金属板としては、たとえば銅板もしくは黄銅などの銅合金板、またはこれらの錫めっき板が用いられる。本実施の形態では、端子20が雌端子である場合について説明する。
端子嵌合部21は、接続相手となる端子である接続相手端子200と嵌合して、接続相手端子200と電気的に接続される部分である。本実施の形態では、接続相手端子200は雄端子であり、端子嵌合部21には、雄端子が嵌合状に挿入されて接続される。本実施の形態において、端子嵌合部21は、端子20の長手方向に沿って貫通する筒状、具体的には四角筒状に形成されている。端子嵌合部21には、底部26から外側に突出する突起部24が形成されている。突起部24は、接続相手端子200に端子嵌合部21が接続されるときの位置決めに用いられる。
端子嵌合部21の内側には、接続相手端子200に接触する接触片25が備えられている。接触片25は、底部26から長手方向一方に延びる板材を底部26側に折返すとともに、折り返した部分がU字状になるように先端部分を屈曲させて、その折り返した部分が底部26に当接するように構成されている。したがって接触片25は、折返しの曲折部位を支点として弾性変形可能である。
端子嵌合部21の底部26に対向する天井部27は、2枚の天蓋、すなわち第1天蓋27aに第2天蓋27bが重ね合わされて形成されている。第1天蓋27aには係止爪23が形成され、第2天蓋27bには係止孔22が形成されている。係止爪23は係止孔22に係止される。これによって、端子嵌合部21の変形は防止されて、端子嵌合部21の機械的な強度は高められる。
2枚の天蓋27a,27bのうち、底部26側の第1天蓋27aは、底部26に向かって突出する凸部27cを有している。この第1天蓋27aの凸部27cと接触片25とが協働して、接続相手端子200を所定の接触圧で弾性的に狭圧する。これによって、接続相手端子200と端子20との嵌合力は高められる。
第1連結部32は、端子嵌合部21の底部26に連なる底部36と、底部36から立ち上がって互いに対向する一対の側壁部37a,37bとを備えている。
芯線圧着部42は、底部46と、底部46とともに電線10の芯線端部14に圧着される一対の圧着片43a,43bと、を備えて構成される。そして、圧着片43a,43bは、芯線に圧着される圧着爪44a,44bと、側壁部47a,47bと、により構成される。圧着爪44a,44bは、側壁部47a,47bに連なっており、側壁部47a,47bから上方に延びて形成されている。第1連結部32の底部36に底部46は連なっており、第1連結部32の側壁部37aに側壁部47aが、第1連結部32の側壁部37bに側壁部47bが、それぞれ連なっている。芯線端部14に圧着される前の段階では、芯線圧着部42はオープンバレル状に形成されている。換言すれば、芯線圧着部42の一対の圧着片43a,43bは互いに対向しており、底部46から一方向に向けて突出するように立ち上がった状態となっている。以下の説明では、圧着片43a,43bが立ち上げられた方向を「高さ方向」と称する場合がある。また、圧着爪44a,44bが本願発明における「第2圧着部」の一例である。
第2連結部52は、底部56と、底部56から立ち上がって互いに対向する一対の側壁部57a,57bと、を備えている。芯線圧着部42の底部46に底部56は連なっており、芯線圧着部42の側壁部47aに側壁部57aが、芯線圧着部42の側壁部47bに側壁部57bが、それぞれ連なっている。
被覆圧着部62は、底部66と、底部66とともに電線10の被覆端部15に圧着される一対の圧着片63a,63bと、を備えて構成される。そして、圧着片63a,63bは、芯線12に圧着される圧着爪64a,64bと、側壁部67a,67bと、により構成される。圧着爪64a,64bは、側壁部67a,67bに連なっており、側壁部67a,67bから上方に延びて形成されている。第2連結部52の底部56に底部66は連なっており、第2連結部52の側壁部57aに側壁部67aが、第2連結部52の側壁部57bに側壁部67bが、それぞれ連なっている。被覆圧着部62は、被覆端部15に圧着される前の段階では、オープンバレル状に形成されている。換言すれば、被覆圧着部62の一対の圧着片63a,63bは互いに対向しており、底部66から一方向に向けて突出するように立ち上がった状態になっている。また、圧着爪64a,64bが本願発明における「第1圧着部」の一例である。
以下の説明では、底部36,底部46,底部56,底部66を「底部6」と総称する場合がある。また、側壁部37a、側壁部47a、側壁部57a、側壁部67aを「側壁部7a」、側壁部37b、側壁部47b、側壁部57b、側壁部67bを「側壁部7b」と総称する場合がある。つまり、底部6は電線圧着部111における底部であり、側壁部7a,7bは、電線圧着部111における側壁部である。したがって、電線10に圧着される前の端子20における電線圧着部111は、側壁部7a,7b、圧着爪44a,44b、および圧着爪64a,64bが側面を形成している。
本実施の形態において、圧着前の端子20が備える電線圧着部111の側壁部7aおよび圧着爪64aにおける外側の側面(以下、単に「側面」と称する場合がある。)には境界線8aが、側壁部7bおよび圧着爪64bにおける外側の側面には境界線8bが、それぞれ示されている。説明を分かりやすくするために、以下の説明では境界線8aについてのみ説明するが、側壁部7bおよび圧着爪64bには、境界線8aと同様に、境界線8bが示されている。
境界線8aは、第1連結部32における側壁部37aの外側の側面、芯線圧着部42における側壁部47aの外側の側面、第2連結部52における側壁部57aの外側の側面、そして被覆圧着部62における圧着片63aの外側の側面に、一続きの連続線として示されている。そして境界線8aは、電線圧着部111における側壁部7a、圧着爪44aおよび圧着爪64aの外側の側面のうち、高さ方向に底部6とは反対側の端部、つまり側壁部37a、圧着爪44a、側壁部57a、および圧着爪64aの側面上端(以下、「側面上端部」と称する場合がある。)を取り囲むようにして示されている。なお、以下において、側壁部37a、圧着爪44a、側壁部57a、および圧着爪64aのそれぞれの側面上端部を一連の「側面上端部71a」と総称する場合がある。
本実施の形態において、図1に示されるように、境界線8aは3本の境界線81a,82a,83aにより構成される。第1境界線81aは、第1連結部32を構成する側壁部37aにおける一方側の端部、つまり端子嵌合部21と連結される側壁部37aの端部において、高さ方向に沿って示されている。第1境界線81aの一端部は、第1連結部32における側面上端部371aであり、第1境界線81aの他端部は、側壁部37aにおける外側の側面のうち底部36と側面上端部371aとの間の位置に示されている。第2境界線82aは、被覆圧着部62における圧着片63aの外側の側面に、高さ方向に沿って示されている。第2境界線82aの一端部は、圧着爪64aの側面上端部641aであり、第2境界線82aの他端部は、側壁部67aにおける外側の側面に示されている。このとき、第1境界線81aの他端部から底部36までの高さ方向における距離と、第2境界線82aの他端部から底部66までの高さ方向における距離とはほぼ同等である。そして、第1境界線81aにおける底部36側の端部と、第2境界線82aにおける底部66側の端部と、を結んで第3境界線83aが示される。つまり、第3境界線83aは、側壁部37a、側壁部47a、側壁部57a、側壁部67aの各外側の側面に跨って示されている。このような境界線8aは、電線圧着部111の外側の側面において溝状で所定の深さをもって凹設されている。
このように境界線8aが示されることによって、境界線8aと、側面上端部71aと、によって、側壁部7a、圧着爪44aおよび圧着爪64aの外側の側面は部分的に取り囲まれて、所定の領域が特定される。この領域が、端子20における外側の側面において防食剤99を最低限付着させる必要がある範囲(以下、「防食範囲800」とも称する。)を表している。なお、防食範囲800は、本願発明における「判定領域」の一例である。防食範囲800は目視により容易に確認することができる。
一方、境界線8bは、側壁部7bおよび圧着爪64bにおける外側の側面に、境界線8aと同様に示されている(図1において点線で示されている)。このように、境界線8a,8bが示されることによって防食範囲800は特定される。
電線10の芯線端部14は、芯線圧着部42の対向する一対の圧着片43a,43b間に配設される(図3参照)。そして、芯線端部14の長手方向における一部分の外周を覆うようにして、芯線圧着部42は圧着される。具体的には、圧着爪44a,44bの先端が底部46に向けて加締められることによって、圧着爪44a,44bは芯線端部14を抱き込むようにして圧着される。
本実施の形態では、芯線端部14のうち、芯線12の延在方向における中間部が芯線圧着部42に圧着される。芯線端部14のうち、芯線圧着部42によって圧着されない部分、つまり、芯線端部14の延在方向における一方側端部および他方側端部は、端子20から露出した状態である。以下、芯線端部14を構成する素線11のうち、端子20から露出している部分を「素線露出部16」と称する。本実施の形態では、素線露出部16は、芯線端部14を構成する素線11のうち、芯線圧着部42の長手方向両側から露出する部分である。
電線10の被覆端部15は、被覆圧着部62の対向する一対の圧着片63a,63b間に配設される(図3参照)。そして、被覆端部15の長手方向における一部分の外周を覆うようにして、被覆圧着部62は圧着される。具体的には、圧着爪64a,64bの先端が、底部66に向けて加締められることによって、圧着爪64a,64bは被覆圧着部62を抱き込むようにして圧着される。
このように、圧着爪44a,44bおよび圧着爪64a,64bが加締められることによって、端子20と電線10とが接続された端子付き電線1が得られる。端子付き電線1において、加締められた圧着爪44a,44bと底部46とは対向している。また、加締められた圧着爪64a,64bと底部66とについても対向している。圧着前の圧着爪64a,64bにおける外側の側面には、第2境界線82a,82bが示されている。このため、圧着爪64a,64bが加締められることによって、底部66に対向する圧着爪64a,64bの外側の面に第2境界線82a,82bが示される。つまり、高さ方向に底部6に対向する側から端子20を見た際に、圧着後の圧着爪64a,64bにおける外側の面上に、第2境界線82a,82bは確認される。圧着前の端子20においては、電線圧着部111の外側の側面のみに境界線8a,8bが示されていた。しかしながら端子付き電線1においては、圧着爪64a,64bが加締められることによって、電線圧着部111の外側の上面についても境界線8a,8bが示されている。このように、圧着爪44a,44b、及び芯線端部14を取り囲むようにして、側壁部7a、側壁部7b、そして圧着爪64a,64bという端子付き電線1における3方向の外側の面に、防食範囲800を特定する境界線8a,8bが示されている。
端子付き電線1の電線圧着部111においては、境界線8aと、第1連結部32および第2連結部52の上端(側面上端部371a,571a)、そして第1連結部32および第2連結部52の上端に連なる圧着爪44aの端部(圧着前の圧着爪44aの側面上端部441a)、圧着爪64aの端部(圧着前の圧着爪64aの側面上端部641a)とで、側壁部7a、圧着爪44aおよび圧着爪64aにおける外側の面を部分的に取り囲んで防食範囲800が設けられている。また、境界線8aと同様に、境界線8bについても側壁部7b、圧着爪44bおよび圧着爪64bにおける外側の面を部分的に取り囲んで防食範囲800が設けられている。
また、素線露出部16のうち、芯線圧着部42よりも端子嵌合部21側の部分を「嵌合側露出部16a」と称し、芯線圧着部42よりも被覆圧着部62側の部分を「被覆側露出部16b」と称する。端子20の電線圧着部111において、芯線圧着部42よりも端子嵌合部21側の部分が第1連結部32である。嵌合側露出部16aは、素線11のうち、第1連結部32の底部36上に載置された部分である。端子20が電線10に圧着された状態において、端子20の端子嵌合部21と、電線10の嵌合側露出部16aとは接しておらず、端子20の長手方向に離隔して配設されている。
本実施の形態では、電線10の素線11と、端子20とは、異種金属で構成されている。具体的には、電線10の素線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成され、端子20は銅板もしくは黄銅などの銅合金板、またはこれらの錫めっき板で構成されている。電線10の素線11を構成する金属材料と、端子20を構成する金属材料とを比較すると、端子20を構成する金属材料よりも、素線11を構成する金属材料の方が、標準電極電位が低い関係にある。この関係下において端子20の電線圧着部111と電線10の芯線端部14との接触部分に、水分、たとえば塩水などの電解質水溶液が付着すると、腐食の一種である電食が芯線端部14に発生する。端子付き電線1では、芯線端部14への電食(腐食)の発生を防ぐために、防食剤99が付着され、防食部90が形成される。
ここで、防食剤99は、エポキシ樹脂を主成分とし、JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が1000〜30000mPa・sの範囲内にある材料(以下、「未硬化材料」と称することがある。)の硬化物である。上記エポキシ樹脂は、1液形、2液形のいずれであっても良い。1液形である場合には2液形である場合に比較して混合工程が不要になるので、端子付き電線1の生産性の向上に寄与することができる利点がある。
上記エポキシ樹脂としては、例えば、フェノール類を原料とするビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、アルコール類等を原料とする脂肪族型エポキシ樹脂、アミン類を原料とするエポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック樹脂を原料とするクレゾールノボラックエポキシ樹脂などを例示することができる。
防食剤99は、エポキシ樹脂単独で構成された未硬化材料を用いて形成されていても良いし、あるいは、2種以上のエポキシ樹脂が混合された未硬化材料を用いて形成されていても良い。さらには、必要に応じて、物性を損なわない範囲で、添加剤、他のポリマ等が混合された未硬化材料を用いて形成されていても良い。
上記添加剤としては、一般的に樹脂成形材料に使用される添加剤であれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、硬化剤、無機充填剤、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックスなど)、カーボンやその他の着色用顔料、可撓性付与材、耐衝撃性付与材、有機充填材、希釈材(溶媒など)、揺変材、各種カップリング材、消泡材、レベリング材などを挙げることができる。
防食剤99は、上記未硬化材料の電線圧着部111への塗布後に、機械的強度を上げるなどの目的で上記未硬化材料が硬化されて形成される。硬化方法としては、例えば、湿気硬化、熱硬化、化学硬化等を挙げることができ、特に限定されるものではない。
上記未硬化材料は、JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が1000〜30000mPa・sの範囲内にある。なお、測定に用いる粘度計は、回転粘度計である。
上記粘度が1000mPa・s未満になると、塗布時に未硬化材料が流れ出してしまい、防食範囲800に十分な量の防食剤99を確保することが困難になり、高い防食効果を得難くなる。上記粘度の下限値は、好ましくは、1500mPa・s以上であると良い。一方、上記粘度が30000mPa・sを越えると、塗布時に未硬化材料が十分に流れず、防食範囲800に十分な量の防食剤99を確保することが困難になり、高い防食効果を得難くなる。上記粘度の上限値は、生産性、防食性などの観点から、好ましくは、25000mPa・s以下であると良い。
電線圧着部111に対して、電線圧着部111を構成する底部6の反対側から、芯線端部14を覆うように、上述した材質の防食剤99が付着される。本実施の形態では、端子20の長手方向における第1連結部32の中央部から、端子20の長手方向における被覆圧着部62の中央部まで、防食剤99が付着される。これによって、電線10の素線露出部16、端子20の第1連結部32、芯線圧着部42、第2連結部52、被覆圧着部62、電線10の被覆端部15に防食剤99が付着される。
加締められた圧着爪44a,44b上、圧着爪64a,64b上、そして側壁部47a,47bにおける外側の側面、側壁部67a,67bにおける外側の側面において、芯線圧着部42および被覆圧着部62に上記未硬化材料が塗布され、これを硬化させることにより防食剤99が付着される。素線露出部16および被覆端部15に塗布された上記未硬化材料は、一部は側壁部37a,37bおよび側壁部57a,57bにおける外側の側面において硬化するが、主には側壁部37a,37bおよび側壁部57a,57bにおける内側の側面に沿って、電線圧着部111内側に浸透する。端子20の内側に上記未硬化材料が浸透することによって、素線11間および素線11と端子20との間に形成された隙間は、防食剤99に埋められることとなる。
このように防食剤99が付着されることによって、電線圧着部111は防食剤99に覆われる。このとき、側壁部7a,7bの外側の側面であって、防食剤99を最低限付着させる必要がある範囲であるにもかかわらず、防食剤99が付着していない領域が部分的に存在する場合、防食剤99の付着していない領域から端子20内側に、塩水などの電解質水溶液が浸入するおそれがある。特に、第1連結部32の内側には嵌合側露出部16aが、第2連結部52の内側には被覆側露出部16bが、それぞれ配設されている。従って、嵌合側露出部16aおよび被覆側露出部16bにおける芯線12と電線圧着部111との接触部分に、端子20の内側に浸入した電解質水溶液が付着して、芯線12に腐食を生じさせるおそれがある。
本実施の形態においては、端子付き電線1の側壁部7aおよび圧着爪64aにおける外側の面に境界線8aが、側壁部7bおよび圧着爪64bにおける外側の面に境界線8bが、それぞれ示されている。これらの境界線8a,8bによって、電線圧着部111における外側の面で、防食剤99を最低限付着させる必要がある防食範囲800が特定される。したがって、防食範囲800は電線圧着部111における外側の面において容易に確認することができる。
本実施の形態において、防食範囲800を特定する境界線8aは、第1境界線81a、第2境界線82a、第3境界線83aによって構成されている。また、境界線8bは、第1境界線81b、第2境界線82b、第3境界線83bによって構成されている。底部6側から側壁部7a,7bにおける外側の側面に沿って端子20の内側に浸入しようとする電解質水溶液を防ぐための防食剤99の付着範囲は、第3境界線83a,83bによって示される。また、電線圧着部111の一方側から他方側に向かって端子20内側に浸入しようとする電解質水溶液を防ぐための防食剤99の付着範囲が第1境界線81a,81bによって示される。また、端子20の他方側から一方側に向かって端子20内側に浸入しようとする電解質水溶液を防ぐための防食剤99の付着範囲が第2境界線82a,82bによって示される。第2境界線82a,82bは、電線圧着部111における被覆圧着部62の側面である側壁部67a,67bだけでなく、上面の圧着爪64a,64bにおいても示されている。このため、電線圧着部111における外側の上面についても防食剤99が適切に付着しているかについても判定することができる。
図4では、境界線8aと防食剤99の外縁991とに囲まれて、防食剤99が存在しない領域である領域500および領域550が設けられている。つまり、防食剤99は防食範囲800の一部を覆いつつも、防食剤99の外縁991が境界線8aを部分的に越えておらず、防食範囲800において、部分的に防食剤99で覆われていない領域(領域500、領域550)が設けられている。このように、防食剤99は防食範囲800を完全に覆っていないため、端子20の外側の面に防食剤99が付着してはいるものの、電解質水溶液は端子20内側に浸入するおそれがある。
図5において、防食剤99は防食範囲800を覆っており、防食剤99の外縁991は境界線8aを越えて、又は境界線8a上に位置している。防食剤99は防食範囲800を完全に覆っている。
このように、本実施の形態においては、端子20の外側の面であって、防食材99を最低限付着させる必要がある防食範囲800の境界が、境界線8a,8bによって特定されている。このため、防食範囲800はその他の端子20の領域と容易に見分けることが可能であり、防食剤99が防食範囲800を覆い、かつ外縁991が境界線8a,8bを超えていることによって、防食範囲800を防食剤99が完全に覆っていることを容易に確認できる。さらに、防食剤99が、エポキシ樹脂を主成分とし、JIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度が1000〜30000mPa・sの範囲内にある材料の硬化物であるため、材質面からも高い耐腐食性が担保される。したがって、電線圧着部111における接続信頼性に優れる。
このような端子付き電線1は、自動車用ワイヤーハーネスの電線に好適である。自動車では、外部から、例えば塩水などの電解質水溶液が浸入しやすく、浸入した水分が端子20と電線10の芯線12との接触部分に付着しやすい。本実施の形態における端子付き電線1は、防食範囲800を特定するために電線圧着部111の外側の面に境界線8a,8bが示されているため、防食範囲800を容易に確認することができる。このため、腐食防止の観点において高品質である、端子20において防食剤99を最低限付着させる必要がある範囲に材質的に優れた防食性能を有する防食剤99が適切に付着した端子付き電線1のみを自動車用ワイヤーハーネスに用いることができる。
上述の端子付き電線1は、以下のようにして製造され、電線圧着部111に設けられた防食範囲800を防食剤99が完全に覆っているかについて判定が行われる。
図6は、本発明の実施の流れが示されたフローチャートである。準備工程において、上述の図1に示された端子20が準備される(ステップS1)。端子20は導電性金属板が加工されることによって得られる。たとえば、導電性金属板が打ち抜き加工およびプレス加工などによって成形されてから、曲げ加工で屈曲されることによって、端子20は製造される。このとき、導電性金属板にセレーション加工が施されることによって境界線8a,8bが示される。
圧着工程では、端子20に電線10が圧着される(ステップS2)。電線10の一端部の被覆部13が剥がされて、芯線12を露出させる。次いで、芯線圧着部42の圧着片43a,43bの間に芯線端部14が位置するように、そして被覆圧着部62の圧着片63a,63bの間に被覆端部15が位置するように、電線10は底部26上に載置される。そして、芯線圧着部42および被覆圧着部62が加締められることによって、電線10と端子20とは圧着される。このように、電線10が端子20に固定されてから防食剤塗布工程に移行する。
防食剤塗布工程では、電線圧着部111に対して、底部6の反対側から、芯線端部14を覆うように未硬化材料が塗布され、これが硬化されることにより防食剤99が付着されて、防食部90が形成される(ステップS3)。本実施の形態では、端子付き電線1における第1連結部32から被覆圧着部62までに防食剤99が付着される。以上のようにして端子付き電線1の製造が行われる。
続いて、電線圧着部111に設けられた防食範囲800を防食剤99が完全に覆っているかについて判定が行われる(ステップS4)。
具体的には、防食範囲800を防食剤99が覆い、かつ防食剤99の外縁991が、境界線8a,8bを越えているのであれば、防食剤99は防食範囲800を完全に覆っている。また、防食剤99の外縁991が、境界線8a,8bを部分的に越えていない場合は、防食剤99が防食範囲800を完全には覆っていない。このように、境界線8a,8bが示されることによって、防食範囲800の境界を、防食剤99の外縁991が越えているか容易に判定できる。したがって、防食剤99を最低限付着させる必要がある範囲を防食剤99が完全に覆っているかについて容易に確認することができる。
以上のように、本実施の形態では、電線圧着部111に境界線8a,8bが示されることによって、端子20において防食剤99を最低限付着させる必要がある防食範囲800を特定することができる。したがって、防食剤99が防食範囲800を覆い、かつ防食剤99の外縁991が、境界線8a,8bを越えていることを確認することで、防食範囲800を防食剤99が完全に覆っていることを容易に確認できる。したがって、端子付き電線1における防食剤99の塗布不良は容易に見いだすことができるため、不良端子付き電線が市場に流通することを事前に防ぐことができる。
なお本願発明は、上記実施形態に限定して実施されるものではない。例えば、上記実施形態においては、第1境界線81a,81b、第2境界線82a,82bおよび第3境界線83a,83bにより、境界線8a,8bが構成されていたが、このような形態には限られない。高さ方向に沿って底部6とは反対側の端部を取り囲むようにして境界線8a,8bが電線圧着部111における外側の面に示されるのであれば、どのように境界線8a,8bが示されていても構わない。
また、防食剤99の色と端子20の色とが異なる色であっても構わない。これによって視認性が向上するため、防食剤99の外縁991が、防食範囲800を特定する境界線8a,8bを越えているかどうか、より判定が行いやすくなる。
また、上記実施形態においては、境界線8a,8bは、電線圧着部111における外側の面に凹設されていたが、このような形態には限られない。たとえば、電線圧着部111における外側の面に凸設されることによって示される形態であっても構わない。
また、上記実施形態においては、電線10の芯線12を構成する素線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であったが、これに限定されず、他の金属材料で構成されたものであっても構わない。また、端子20を構成する導電性金属板は、銅板もしくは銅合金板、またはこれらの錫めっき板であるが、これに限定されず、他の金属材料で構成されたものであってもよい。本発明の端子20および端子付き電線1は、端子20を構成する金属材料よりも、素線11を構成する金属材料のほうが、標準電極電位が低い関係にある場合に好適である。
また、上記実施形態においては、端子20は雌端子であったが、このような形態に限られない。雄端子において、本願発明が用いられた形態であっても構わない。
以下に本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する端子付き電線は、防食範囲を防食剤が完全に覆っている。したがって、以下の実施例は、防食剤の材質の違いによる防食性能の差異を調査したものである。
1.電線の作製
ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部に対して、可塑剤としてジイソノニルフタレート40質量部、充填剤として重炭酸カルシウム20質量部、安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤5質量部をオープンロールにより180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形することにより、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。
次いで、50mm押出機を用いて、上記得られたポリ塩化ビニル組成物を、アルミ合金線を7本撚り合わせたアルミニウム合金撚線よりなる芯線(断面積0.75mm)の周囲に0.28mm厚で押出被覆した。これにより電線(PVC電線)を作製した。
2.端子付き電線
上記作製した電線の端末を皮剥して芯線を露出させた後、本発明で規定するように電線圧着部に境界線が記された黄銅製の雄端子(タブ幅0.64mm、電線の被覆部を圧着する第1圧着部及び芯線を圧着する第2圧着部を有する)を電線の端部に加締め圧着した。
次いで、電線圧着部の防食範囲の境界を越えるように、下記の各種の未硬化材料を塗布した。その後、恒温槽にて各硬化条件で所定時間の硬化処理を行った。これにより、防食範囲を防食剤で完全に覆った端子付き電線を作製した。なお、各種の未硬化材料は、厚さ0.05mmで塗布し、硬化させた。
(実施例1)
1液エポキシ樹脂(A)[スリーボンド(株)製、「2212C」、25℃における粘度25000mPa・s、硬化条件80℃×30分]
(実施例2)
1液エポキシ樹脂(B)[スリーボンド(株)製、「2212」、25℃における粘度13000mPa・s、硬化条件90℃×30分]
(実施例3)
1液エポキシ樹脂(C)[スリーボンド(株)製、「2210」、25℃における粘度8000mPa・s、硬化条件90℃×30分]
(実施例4)
1液エポキシ樹脂(D)[味の素ファインテクノ(株)製、「プレーンセットAE−400」、25℃における粘度10000mPa・s、硬化条件80℃×30分]
(実施例5)
1液エポキシ樹脂(E)[味の素ファインテクノ(株)製、「プレーンセットAE−15」、25℃における粘度2000mPa・s、硬化条件80℃×30分]
(実施例6)
2液エポキシ樹脂(F)[田岡化学工業(株)製、「テクノダインAH6021W」、25℃における粘度15000mPa・s、硬化条件80℃×60分]
(比較例1)
1液エポキシ樹脂(a)[スリーボンド(株)製、「2212E」、25℃における粘度35000mPa・s、硬化条件90℃×30分]
(比較例2)
1液エポキシ樹脂(b)[味の素ファインテクノ(株)製、「プレーンセットAE−901B」、25℃における粘度60000mPa・s、硬化条件60℃×30分]
(比較例3)
2液エポキシ樹脂(c)[田岡化学工業(株)製、「テクノダインAH3051K」、25℃における粘度35000mPa・s、硬化条件100℃×30分]
3.評価方法
各種の防食剤を付着させた端子付き電線を用い、防食剤の剥がれ、防食性能の評価を以下のようにして行った。
(剥がれ試験)
付着させた各防食剤を爪で引っ掻き、各防食剤が剥がれなかったものを「○」とし、剥がれたものを「×」とした。なお、剥がれがある場合には、明らかに防食性能に劣る。そのため、以下の防食性能評価の前に試験を行ったものである。
(防食性能)
図7に示すように、作製した端子付き電線100を12V電源200の+極につなぐとともに、純銅板300(幅1cm×長さ2cm×厚み1mm)を12V電源200の−極につなぎ、端子付き電線100の芯線と端子との電線圧着部および純銅板300を300ccのNaCl5%水溶液400に浸漬し、12Vで2分間通電した。通電後、NaCl5%水溶液400のICP発光分析を行ない、端子付き電線100の芯線からのアルミニウムイオンの溶出量を測定した。溶出量が0.1ppm未満であった場合を「○」とし、溶出量が0.1ppm以上であった場合を「×」とした。
各未硬化材料のJIS Z8803に準拠して測定される25℃での粘度、評価結果をまとめて表1に示す。
表1によれば、以下のことが分かる。すなわち、比較例1、2、3は、粘度が本発明の規定外である未硬化材料を硬化させて防食剤を付着させている。そのため、防食性能に劣る。これは、電線圧着部から剥がれることなく防食剤は密着しているものの、電線圧着部内部への樹脂の浸透が十分でなかったため、十分な防食性能を発揮できなかったものと推察される。
これらに対し、実施例は、いずれも粘度が本発明で規定される範囲内にある未硬化材料を硬化させて防食剤を付着させている。そのため、電線圧着部に対して十分に密着しており、優れた防食性能を発揮することができる。これは、未硬化材料の粘度が特定の範囲内にあったため、電線圧着部内部への樹脂の浸透が十分であったからであると推察される。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。