JP5435266B2 - 疲労強度,靭性及び光輝性に優れたアルマイト処理用アルミニウム合金展伸材及びその製造方法 - Google Patents
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アルミニウム合金製ホイールのデザイン性をさらに高めるためには、表面における光の反射性、すなわち光輝性を向上させる必要がある。しかも、低コストでの高性能なアルミニウム合金製ホイールの提供の観点からは、簡便なアルマイト処理によって、所望の光輝性を発現させることが望ましい。
ホイール等に用いられる上記特許文献1に記載の5000系合金は、適当な強度を有し、光輝性にも優れるため、それなりに有用な合金ではある。しかしながら、5000系合金よりもさらに高強度が要求される部品の場合、熱処理型の合金である2000系合金や7000系合金を使用する必要がある。例えば、自転車等の軽量かつ高強度な部材に、2000系アルミニウム合金鍛造部材が用いられようとしている。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、高強度の2000系合金であって、アルマイト処理後に優れた光沢を発現するアルミニウム合金展伸材を提供することを目的とする。
また、Crを0.05〜0.25質量%の範囲で含有していてもよい。
さらに、Al‐Fe‐Si系,Al‐Cu系,Al‐Cu‐Mg‐Si系及びMg‐Si系化合物の総晶出量が任意の断面における面積率で3%以下である金属組織を有していることが好ましい。
すなわち、本発明により、疲労強度や靭性に優れるとともに、アルマイト処理後に優れた光沢を発現するアルミニウム合金展伸材を提供することができる。
その結果、アルミニウム合金の成分組成を、Cu:3.5〜4.5質量%、Mg:0.2〜0.8質量%、Mn:0.1〜0.4質量%、Si:0.2〜0.5質量%、Fe:0.15質量%以下、さらに必要に応じてCr:0.05〜0.25質量%を含み、含有TiとZrの含有量を合わせて0.1質量%以下に調整することが有効であることを見出した。
さらに、当該アルミニウム合金の金属組成を、Al‐Fe‐Si系,Al‐Cu系,Al‐Cu‐Mg‐Si系及びMg‐Si系化合物の総晶出量が任意の断面における面積率で3%以下となるように調整することが有効であることを見出した。
以下に、各成分の作用、含有量の限定理由等を説明する。
Mg:0.2〜0.8質量%
CuとMgの両者を添加し、熱処理することでAl2CuやAl2CuMg化合物を形成させ、強度を高めることができる。
Cu添加量が3.5%未満ではT6処理後の析出物量が不足し、目標強度が得られない。また、4.5%を超えて添加すると、鋳造時に形成されたAl2CuやAl2CuMg晶出物は溶体化処理時に固溶せず溶け残り、皮膜処理時にマトリックスよりも先にそれらが溶解し、皮膜欠陥を形成するとともに疲労強度や靭性を低下させる。よって、Cu添加量は3.5%〜4.5%の範囲で規制する。
MgはCuとともに添加することでAl2CuMg化合物を形成し、強度に寄与する。0.2%未満では十分な強度が得られない。また、0.8%を超えて添加すると固相線温度の低下に伴い、溶体化温度も下げなければならず、強度に寄与しないとともに、Al−Cu−Mg晶出物が溶体化処理時に溶け残り、皮膜欠陥を形成するとともに疲労強度や靭性を低下させる。よって、Mg量は0.2%〜0.8%の範囲で規制する。
Siを添加することで、Al2CuやAl2CuMgの析出密度が高まり、強度に寄与する。0.2%未満では十分な効果が得られない。また、0.5%を超えて添加するとAl−Si−Mg−Cu系の晶出物が形成され、熱処理で溶け残って、陽極酸化処理時に皮膜欠陥を形成するとともに疲労強度や靭性を低下させる。よって、Si量は0.2%〜0.5%の範囲で規制する。
Feを含有すると、Al−Cu−Fe系やAl−Fe−Si系化合物を形成し、溶体化後に溶け残った晶出物は陽極酸化処理時に皮膜欠陥を形成するとともに疲労強度や靭性を低下させる。また、前者はCuを取り込むため、熱処理後の強度が低下する傾向となる。なお、Feは不純物元素であり、鋳造時に原料含まれるため、低減するとコストを高める傾向にある。したがって、Fe量は0.15%以下に規制する。
Mnを添加し、均質化処理でAl−Cu−Mn系の分散粒子を形成させ、結晶粒組織を制御し、強度,靭性及び耐食性に寄与する。0.1%未満では分散粒子が少なく、十分な組織制御の効果が得られない。0.4%を超えて添加するとAl‐Fe‐Si‐Mn系化合物の晶出量が増し、陽極酸化処理時に皮膜欠陥を形成するとともに疲労強度や靭性を低下させる。よって、Mn量は0.1%〜0.4%の範囲で規制する。
CrもMnと同様に均質化処理で分散粒子を形成させ、結晶粒組織を制御し、強度,靭性及び耐食性に寄与する。したがって、必要に応じて含有させる。0.05%未満では十分な組織制御の効果が得られない。0.25%を超えて添加するとAl‐Fe‐Si‐Cr系化合物の晶出量が増し、陽極酸化処理時に皮膜欠陥を形成するとともに疲労強度や靭性を低下させる。よって、Cr量は0.05%〜0.25%の範囲で規制する。
Ti、Zrの添加により、Al−Ti系やAl−Zr系の金属間化合物を生成し、鋳造時の組織微細化に寄与する。また、鋳造時に固溶した分の一部で均質化処理後に分散粒子を形成し、熱処理後の結晶粒組織の制御に寄与する。しかしながら、その含有量が多くなると生成量が多くなり、アルマイト皮膜中に取込まれる化合物量も多くなって、皮膜と生地界面が荒くなり、アルマイト処理後の光沢が劣化することに繋がる。このため、本発明合金ではTi+Zrの含有量は0.1%以下に制限する。
本発明は、アルマイト処理後にあっても光沢度が高く、疲労強度及び靭性が高い材料を提供することを主たる目的としている。詳細は実施例の記載に譲るが、アルマイト処理前後の光沢度保持率を晶出物の占有面積率との関係で整理すると図1に示す通りの結果となっている。
40%以上の光沢度保持率を確保するために、本発明では晶出物の任意断面での占有面積率を3%以下とした。
晶出物量の低減は、シャルピー値が高まって高靭性化に繋がるとともに、切り欠き疲労特性の向上にも繋がる。
本発明に係るアルミニウム合金は、所定の成分組成を有する合金のDC鋳塊に、従来と同様に均質化処理を施した後、必要に応じて押出加工を施し、鋳塊もしくは押出材に、熱間もしくは冷間の鍛造加工を施して所望形状の加工品を得、さらにその後、適正に制御された溶体化処理と時効処理を組み合わせて施されることにより製造される。
なお、DC鋳塊製造の際には、晶出物の粗大化の抑制や微細化剤(Ti,Zr)減量の観点から、電磁攪拌手段を付加することが好ましい。
金属間化合物の固溶、各元素の濃度偏析の解消、分散粒子の生成を促進するために均質化処理を施す。この処理により、金属間化合物の晶出量が減少すると共にサイズも小さくなって、後工程での熱処理時の金属間化合物の制御容易になる。また、金属間化合物の晶出量が減少するためにアルマイト皮膜中に取り込まれる化合物も低減され、皮膜と生地界面の荒れも抑制されてアルマイト処理後の光沢の劣化も小さくなる。各元素の固溶、金属間化合物の固溶をより促進させるために、通常の処理温度よりも高い温度領域で加熱することが望ましい。
押出加工や鍛造加工に特段の制限はない。従来通りの方法で、押出加工や鍛造加工を行って、所望の形状に整える。
なお、再結晶組織を細かくするために、押出加工温度を低温に、押出速度を高速に設定する場合がある。再結晶組織を形成させることで、陽極酸化皮膜処理時に生地の荒れが抑制され、皮膜処理後の光沢の劣化も小さい。結晶粒組織が粗大化すると、鍛造面の肌荒れや皮膜処理後に結晶模様が発生してしまうので、組織微細化が必要となる。
金属間化合物の固溶、各元素の濃度偏析の解消を促進させ、鍛造加工品中に存在する金属間化合物の量を低減させ、その後の時効処理でAl2CuやAl2CuMgの析出強化が得られるようにする。極力固溶させるために、比較的高い温度で処理する。
処理温度が490℃に満たないほどに低かったり、処理時間が0.5時間に満たないほどに短かったりすると、前記金属間化合物の固溶が不十分で、後工程でのアルマイト処理皮膜中に取込まれる化合物が多く、皮膜と生地界面の荒れが起きてアルマイト処理後の光沢劣化や強度不足に繋がる。逆に、処理温度が525℃を超えるほどに高いと固相線温度を越え、局部溶融する場合がある。処理時間が5時間を超えるほどに長いと生産性を阻害し、コストが高まる。また、結晶粒が粗大化し、機械的特性を低下する可能性もある。
490〜525℃×0.5〜5時間の加熱処理後は、金属間化合物の析出を抑制するために急冷する。水や温水に浸漬することが好ましい。
機械的強度の向上に寄与するCuの金属間化合物、Al2CuやAl2CuMgを微細に析出させるために、時効処理を施す。条件は低温で長時間を選定するほど高強度が得られる傾向にあるが、長時間過ぎると経済性を損ねる。加熱温度が150℃に満たないほどに低かったり、加熱時間が1時間に満たないほどに短かったりすると、金属間化合物の析出が不十分で所望の機械的特性を得ることができない。逆に、処理温度が200℃を超えると析出物が粗大化し、所望の強度を得ることができない。処理時間が20時間を超えるほどに長時間であると経済性を損ねる。
表1に示した組成のアルミニウム合金をDC鋳造して直径325mmの鋳塊を得た後、昇温速度100℃/時で加熱し、表2に示す条件で均質化処理を施したファンによって冷却した。均質化処理を施した鋳塊の押出加工を施して直径32mmの丸棒体を得た。
その後、390℃×1時間の加熱と25℃/時間の炉冷を行う焼鈍処理を施し、当該押出丸棒の径方向に圧下率50%の冷間鍛造(自由鍛造)を施した。さらに、冷間鍛造品に、前記と同じ焼鈍処理を施した後、当該押出丸棒の径方向に圧下率30%の冷間鍛造(自由鍛造)を施した。
前記2段階の冷間鍛造を施した冷間鍛造品に、表2に示す条件の溶体化処理を施した後水冷し、その後、175℃×10時間の人工時効処理を施した。
引張り特性は、各時効処理品からJIS14号試験を切り出し、JIS規格に準じて引張試験を実施し、引張り強さ、0.2%耐力、伸びを測定した。
疲労試験は平行部(径10mm,長さ25mm)の中央に先端R0.06mmのノッチを深さ1mm入れた試験片を用いた。回転曲げ試験法で応力を変え、8本破断させて得られたS‐N曲線から10の5乗回における破断確立50%の疲労強度を求めた。
光沢度の保持率は反射率計を用いて実施した。先ず、鍛造材表面をバフ研磨し、反射率を測定した。その後、20%硫酸で陽極酸化皮膜処理を実施し、3μmの皮膜を形成させた後、沸騰させた純水に浸漬して封孔処理した。封孔後の反射率を測定し、封孔後の反射率/バフ研磨後の反射率で光沢度保持率とした。
晶出物の面積率は断面を鏡鏡面研磨後、光学顕微鏡と画像解析装置を用いて、表面近傍の化合物量を測定した。
測定結果を表3,4に示す。また、晶出物の面積率と光沢度保持率の関係を図1に示した。
A2014合金成分範囲内であるNo.2と、本発明材料であるNo.10を比較すると、合金成分の差から、晶出物占有面積率が異なり、No.10は目標の3%以下を達成している。両者の引張強さと耐力値は同等であるが、晶出物占有面積率3%以下を達成したNo.10では光沢度保持率が目標値を満足するとともに、疲労強度及びシャルピー値が高いことが分かる。
Claims (4)
- Cu:3.5〜4.5質量%、Mg:0.2〜0.8質量%、Mn:0.1〜0.4質量%、Si:0.2〜0.5質量%、Fe:0.15質量%以下、Ti+Zr:0.1質量%以下を含み、残部がAl及び不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする疲労強度,靭性及び光輝性に優れたアルマイト処理用アルミニウム合金展伸材。
- さらに、Cr:0.05〜0.25質量%を含む請求項1に記載の疲労強度,靭性及び光輝性に優れたアルマイト処理用アルミニウム合金展伸材。
- さらに、Al‐Fe‐Si系,Al‐Cu系,Al‐Cu‐Mg‐Si系及びMg‐Si系化合物の総晶出量が任意の断面における面積率で3%以下である金属組織を有している請求項1又は2に記載の疲労強度,靭性及び光輝性に優れたアルマイト処理用アルミニウム合金展伸材。
- 請求項1又は2に記載の成分組成を有するアルミニウム合金の鋳塊に470〜525℃×1〜12時間の均質化処理を施した後、押出加工、熱間又は冷間鍛造で適宜形状に成形し、その後に、490〜525℃×0.5〜5時間の溶体化処理とその後の急冷及びさらにその後の150〜200℃×1〜20時間の時効処理を施すことを特徴とする疲労強度,靭性及び光輝性に優れたアルマイト処理用アルミニウム合金展伸材の製造方法。
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