JP5476639B2 - 流動抵抗低減構造 - Google Patents
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Description
流体接触表面の流動抵抗を低減する流動抵抗低減構造として、流体接触表面に微細な凹凸を形成したものが知られている。例えば、(特許文献1)に「固体界面に微細凹凸を施して、表面エネルギーの小さな超撥水面を形成する技術」が開示されている。この技術は、微細凹凸の凹部内に気泡がトラップされ、トラップされた気泡の表面を流体が滑るように流れることにより、流動抵抗を低減できるものである。
また、凹部内にトラップされた気泡は気液界面を通して徐々に液体に溶解し、流動抵抗が上昇するおそれがあるため、気泡がトラップされた状態を保ち、撥水性能を維持させることを目的として、(特許文献2)には、「流体接触表面から突出する格子枠部材と、格子枠部材で分割された各室に空気を供給する空気供給手段と、を備えた流動抵抗低減装置」が開示されている。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、流速の比較的小さな層流領域では流動抵抗低減効果がみられるが、流速が大きくなり、乱流領域に近づくか乱流領域となると、あまり効果がみられないという問題があった。このため、プラント,地域冷暖房,ビル等の配管のように、配管内を流れる流体の流速を制御することができ、ほぼ一定の層流領域となるような場合には適しているが、潮流や気流等と接触する船舶や潜水機、風車等に適用する場合は、流体の流速が変化し制御できないため、流動抵抗低減効果が常に得られるわけではないという課題を有していた。そのため、層流領域だけでなく、流速の大きな領域においても効果を発揮する流動抵抗低減構造が要望されていた。
(2)(特許文献2)に開示の技術は、層流領域だけでなく乱流領域においても、流動抵抗の低い状態を長期間維持できるが、格子枠部材で分割された各室に空気を供給する空気供給手段が必要となるため、流動抵抗が低減したことによる省エネルギー効果が、空気供給手段を稼動させるために要するエネルギーで相殺され、省エネルギー性に欠けるという課題を有していた。
本発明の請求項1に記載の流動抵抗低減構造は、物体の流体接触表面に相互に間隔をあけて形成された複数の凸部と、前記凸部の上面に略平行に形成された複数の突条部と、前記突条部の長手方向と略直交する方向に向かって前記突条部の両側の上端に形成された突出部と、前記凸部の上面に形成された複数の窪部と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)凸部の上面に形成された突条部が、表面流を層流化し、液体や空気等の流体の流れを安定化するため、流動抵抗を低減させることができる。
(2)相互に間隔をあけて複数の凸部が形成されているので、表面流が凸部と凸部に囲まれて流れることにより層流化され、流動抵抗を低減させることができる。
(3)凸部と凸部との間に流体のエネルギーが蓄積され、表面流に常にエネルギーを供給することにより層流状態が維持され、その結果、流動抵抗を低減させることができる。
(4)突条部の両側の上端に突出部が形成されているので、突条部間に形成された擬似チューブ内を流体が流れる状態となるため、流動抵抗を最小に保つことができる。
(5)凸部の上面に形成された窪部内に流体が入ることにより、揚力効果が高まり流体のエネルギーが維持されるため、層流を維持するエネルギーが保たれ流動抵抗を低減できる。
(6)窪部内に入った流体のエネルギーが表面流に与えられるので、物体の運動性能(推力)を向上させることができる。
凸部の高さとしては、10μm〜60μmが好適に用いられる。高さが10μmより低くなるか60μmより高くなると、いずれも流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
凸部の上面の大きさとしては、投影円相当径(凸部の上面の投影面積と同じ面積をもつ円の直径)を100μm〜1mmとするものが好適に用いられる。100μmより小さくなるにつれ、凸部の上面に形成される突条部の長さが短くなり、乱流領域における流体の流動抵抗の低減効果が低下する傾向がみられ、1mmより大きくなるにつれ、やはり流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
凸部の相互の間隔としては、10μm〜400μmが好適に用いられる。間隔が10μmより狭くなるか400μmより広くなると、いずれも流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
突条部の高さとしては、20μm〜200μmが好適に用いられる。高さが20μmより低くなるか200μmより高くなると、いずれも流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
突条部の幅としては、10μm〜60μmが好適に用いられる。高さが10μmより低くなるか60μmより高くなると、いずれも流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
突条部の相互の間隔としては、10μm〜400μmが好適に用いられる。間隔が10μmより狭くなるか400μmより広くなると、いずれも流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
突条部は、凸部の上面の全長に亘って形成することができる。また、凸部の上面の一部に形成することもできる。
流体接触表面に凸部及び突条部が形成される物体としては、船舶,水中ロボット,潜水機,航空機,鉄道車両,自動車等の移動体、プロペラ,風力発電ブレード等の回転体、水着等を挙げることができる。
なお、突条部を底部から先端に向かう幅広に形成して突出部としたものを用いることもできる。
窪部の大きさとしては、投影円相当径(窪部の投影面積と同じ面積をもつ円の直径)が5μm〜50μmが好適に用いられる。5nmより小さくなるか50μmより大きくなると、いずれも流動抵抗が増加する傾向がみられるからである。
窪部は、相互に間隔をあけて形成されていても、相互に接して多角形状の辺を共有するように形成されていても良い。
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の流動抵抗低減構造であって、前記突条部間に形成された疑似チューブを備える構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)突条部の両側の上端に突出部が形成されているので、突条部間に形成された擬似チューブ内を流体が流れる状態となるため、流動抵抗を最小に保つことができる。
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の流動抵抗低減構造であって、前記凸部の高さが10μm〜60μm、前記凸部の上面の投影円相当径が100μm〜1mm、前記凸部の相互の間隔が10μm〜400μmである構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)凸部の高さとしては、10μm〜60μmが好適に用いられ、この範囲で用いることで流動抵抗の低減性に優れる。
(2)凸部の上面の大きさとしては、投影円相当径(凸部の上面の投影面積と同じ面積をもつ円の直径)を100μm〜1mmとするものが好適に用いられ、この範囲で用いることで流動抵抗の低減性に優れる。
(3)凸部の相互の間隔としては、10μm〜400μmが好適に用いられ、この範囲で用いることで流動抵抗の低減性に優れる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)凸部の上面に形成された突条部が、表面流を層流化し液体や空気等の流体の流れを安定化させるとともに、表面流が凸部と凸部に囲まれて流れることにより層流化され、層流領域、乱流領域のいずれにおいても流動抵抗を低減させることができる流動抵抗低減構造を提供できる。
(2)突条部間に形成された擬似チューブ内を流体が流れる状態にして、流動抵抗を最小に保つことができる流動抵抗低減構造を提供できる。
(3)凸部の上面に形成された窪部内に流体が入ることにより、揚力効果が高まり流体のエネルギーが維持されるため、層流を維持するエネルギーが保たれ流動抵抗を低減できる流動抵抗低減構造を提供できる。
(4)窪部内に入った流体のエネルギーが表面流に与えられるので、物体の運動性能(推力)を向上させ、その結果、流動抵抗を低減できる流動抵抗低減構造を提供できる。
(1)突条部間に形成された擬似チューブ内を流体が流れる状態にして、流動抵抗を最小に保つことができる流動抵抗低減構造を提供できる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の効果に加え、
(1)凸部の高さを、10μm〜60μm、凸部の上面の大きさを、投影円相当径を100μm〜1mm、凸部の相互の間隔を、10μm〜400μmの範囲で用いることで流動抵抗の低減性に優れた流動抵抗低減構造を提供できる。
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1における流動抵抗低減構造の斜視図であり、(b)は実施の形態1における流動抵抗低減構造の凸部の斜視図である。
図中、1は本発明の実施の形態1における流動抵抗低減構造、2は船舶,水中ロボット,潜水機,航空機,鉄道車両,自動車等の移動体、プロペラ,風力発電ブレード等の回転体、水着等の流体接触表面、3は流体接触表面2に相互に間隔をあけて各々が平面視して流線型状に形成された複数の凸部、4は凸部3の上面、5は凸部3の上面4に長手方向が流体の流れ方向と略平行に形成され長手方向と直交方向の断面形状が台形状に形成された複数の突条部である。なお、矢印は流体の流れを示している。
(1)流体接触表面2に、相互に間隔をあけて複数の凸部3が形成されているので、表面流が凸部と凸部に囲まれて流れることにより層流化され、特に層流領域における流動抵抗を低減させることができる。
(2)凸部3の上面4に形成された突条部5が、表面流を層流化し、液体や空気等の流体の流れを安定化するため、特に流速の大きな領域における流動抵抗を低減させることができる。
(3)凸部3と凸部3との間に流体のエネルギーが蓄積され、表面流に常にエネルギーを供給することにより層流状態が維持され、その結果、流動抵抗を低減させることができる。
(4)この結果、層流領域だけでなく乱流領域においても流動抵抗低減効果を発揮する。
図2(a)は本発明の実施の形態2における流動抵抗低減構造の凸部の要部断面図であり、(b)は本発明の実施の形態2における変形例の流動抵抗低減構造の凸部の要部断面図である。
図2(a)において、3aは図示しない流体接触表面に形成された凸部、4aは凸部3aの上面、5aは凸部3aの上面4aに長手方向が流体の流れ方向と略平行に形成され長手方向と直交方向の断面形状が矩形状に形成された複数の突条部、6は突条部5aの長手方向と略直交する方向に向かって突条部5aの両側の上端に形成された突出部である。
図2(b)において、3bは図示しない流体接触表面に形成された凸部、4bは凸部3bの上面、5bは凸部3bの上面4bに長手方向が流体の流れ方向と略平行に形成され長手方向と直交方向の断面形状が底部から上端に向かって幅広に形成された複数の突条部、6aは突条部5bの長手方向と略直交する方向に向かって突条部5bの先端が底部より突出して形成された突出部である。
(1)突条部5a,5bの両側の上端に突出部6,6aが形成されているので、突条部5a,5bと突出部6,6aで囲まれた擬似チューブ内を流体が流れる状態となるため、流動抵抗を最小に保つことができる。
図3(a)は本発明の実施の形態3における流動抵抗低減構造の凸部の要部斜視図であり、図3(b)は実施の形態3における流動抵抗低減構造の凸部の要部断面図である。
図中、3cは図示しない流体接触表面に形成された凸部、4cは凸部3cの上面、5cは凸部3cの上面4cに長手方向が流体の流れ方向と略平行に形成され長手方向と直交方向の断面形状が三角状に形成された複数の突条部、7は凸部3cの上面4cに略円形状に形成された複数の窪部である。なお、矢印は流体の流れを示している。
(1)凸部3cの上面4cに形成された窪部7内に、図3(b)に示すように流体が入ることにより、揚力効果が高まり流体のエネルギーが維持されるため、層流を維持するエネルギーが保たれ流動抵抗を低減できる。
(2)窪部7内に入った流体のエネルギーが表面流に与えられるので、物体の運動性能(推力)を向上させることができる。
(実施例1)
ガラス板の一面にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いてガラス板の片面に凸部及び突条部を形成した。凸部は直径200μmの円柱状とし、凸部の高さは30μm、凸部間の間隔は30μmとした。凸部の上面の全長に亘って、長手方向と直交方向の断面形状が矩形状の突条部を形成した。突条部の高さは25μm、幅は10μmとし、突条部の相互の間隔は30μmとした。これにより、実施例1の供試体を製造した。
(比較例1)
研磨粒子が付着されたことにより、約50〜100μmの大きさの凹凸が不規則に形成された耐水研磨紙を、実施例1で用いたガラス板と同じ大きさのガラス板の一面に貼り付けて、比較例1の供試体を製造した。
(流動抵抗低減効果の算出)
まず、実施例及び比較例で用いたガラス板と同じ大きさのガラス板を曳航部材の下面に貼り付け、該曳航部材を回流水槽に浮かべて曳航し、流速0.5m/s、流速2m/sのときの曳航部材にかかる加重(N)を測定した。このときの加重をAとする。
次に、製造した供試体のガラス面を曳航部材の下面に貼り付け、該曳航部材を回流水槽に浮かべて曳航し、同様にして流速0.5m/s、流速2m/sのときの曳航部材にかかる加重(N)を測定した。このときの加重をBとする。(A−B)/A×100(%)を流動抵抗低減効果とした。
この結果、流速0.5m/sのときに、実施例1の流動抵抗低減効果は約10%であった。比較例1の流動抵抗低減効果も約9%であった。
流速2m/sのときには、実施例1の流動抵抗低減効果は約20%であったのに対し、比較例1の流動抵抗低減効果は約8%であった。
この結果、本実施例によれば、流速の比較的小さな層流領域だけでなく、流速の大きな遷移領域や乱流領域においても、流動抵抗低減効果を発揮することが明らかとなった。特に、流速の大きな領域では、効果が顕著であることが確認された。
2 流体接触表面
3,3a,3b,3c 凸部
4,4a,4b,4c 上面
5,5a,5b,5c 突条部
6,6a 突出部
7 窪部
Claims (3)
- 物体の流体接触表面に相互に間隔をあけて形成された複数の凸部と、前記凸部の上面に略平行に形成された複数の突条部と、前記突条部の長手方向と略直交する方向に向かって前記突条部の両側の上端に形成された突出部と、前記凸部の上面に形成された複数の窪部と、を備えていることを特徴とする流動抵抗低減構造。
- 前記突条部間に形成された疑似チューブを備えることを特徴とする請求項1に記載の流動抵抗低減構造。
- 前記凸部の高さが10μm〜60μm、前記凸部の上面の投影円相当径が100μm〜1mm、前記凸部の相互の間隔が10μm〜400μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の流動抵抗低減構造。
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