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JP5442185B2 - 感作性物質評価方法 - Google Patents

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本発明は、感作性物質の評価方法及び感作性物質に対する被験物質の感作性増強作用又は感作性抑制作用を評価する方法に関する。
生体において、アレルギーを誘発する物質(感作性物質)を正当に評価及び検出することは、極めて重要である。これまでに、感作性物質を評価する方法としては、実験動物に被験物質を適用し、その皮膚等に生じる反応を観察する方法が知られている(非特許文献1、2、3)。しかしながら、これらの方法は、被験物質を評価する試験期間が長く、また、動物愛護等の見地からも動物を用いない感作性物質評価方法の開発が望まれている。
Magnusson B.,et al., J.Invest.Dermatol.,1969,52,268−276 Sato Y.,et al.,Contact Dermatitis,1981,7,255−257 Buehler E.V.,Arch.Dermatol., 1965,91,171−177
化学物質等によりアレルギーが成立する過程は、複数の段階からなる(非特許文献4、5)。まず、最初の段階では、感作性物質が生体内のタンパク質と結合し、本来生体内に存在しない物質へと修飾される。次に、抗原提示細胞は、このような物質を抗原として認識すると、細胞内で様々なシグナルが伝達され、細胞膜表面タンパク質の発現変化等を経て、活性化する。活性化した抗原提示細胞は、所属リンパ節へと移動し、その細胞表面に抗原を結合したMHCIIタンパク質を発現し、共刺激分子と呼ばれるタンパク質を介してT細胞と結合し、抗原提示を行う。また、この際、IL−1、IL−3、IL−6、GM−CSF、TNF−α、INF−γなどの多くのサイトカインやケモカインを産生する。このような抗原提示細胞としては、血液中の樹状細胞及び単球、皮膚中のランゲルハンス細胞等が知られている。活性化した抗原提示細胞により、抗原提示を受けたT細胞は、記憶T細胞となり、アレルギーが成立する。さらに、皮膚におけるケラチノサイトのように、抗原提示に直接関わっていないが、感作性物質に反応して様々なサイトカインを分泌することで、アレルギーの成立を促進する細胞も存在する。したがって、アレルギーの成立過程は、複数の細胞が関与し、さらに多くのサイトカインが様々な効果を発揮することで成り立っており、極めて複雑な生体反応である。
多田富雄,免疫学イラストレイテッド 原書第5版,南江堂 Jacques B.,et al.,Nature,1998,392,245−252
アレルギーの成立過程は複雑であるが、この過程に関わる様々な因子が明らかとなりつつある。抗原により活性化された抗原提示細胞は、p38MAPK、JNKなどのリン酸化酵素が活性化され(非特許文献6)、細胞膜表面上にCD54、CD86、CD83、CD1−a、CD40、HLA−DR、E−カドヘリン、CCR7などのレセプターを発現し(非特許文献7)、さらに、IL−1、IL−3、IL−6、GM−CSF、TNF−α、INF−γ、MIP−1α、MIP−1βなどのサイトカインを分泌すると報告されている(非特許文献4、8)。しかし、アレルギーに関わる因子が非常に多く、多岐にわたっており、それらの相互関係には不明な点が多く、現在のところ、そのメカニズムは解明されていない。
Aiba S.,AATEX,2005,11,49−58 Staquet M.J.,et al.,Toxicology in Vitro,2004,18,493−500 Alexander H,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1992,89,1398−1402
このように、幾つかのアレルギーに関わる因子が同定されてはいるものの、アレルギー反応の複雑さから、動物を用いない感作性物質の評価方法の開発は困難であった。そのため、現在のところ、有用なin vitro感作性物質評価方法は確立されていない。
これまでに、動物を用いない感作性物質の評価方法に関しては、細胞を感作性物質と培養し、特定の遺伝子又はタンパク質の発現増加を指標とした方法が一般的であった。例えば、株化された培養細胞であるTHP−1において、CD86及びCD54について(特許文献1)、MIP−1α及びMIP−1βについて(特許文献2)、CCR7、IL−23、及びATF−3(特許文献3)について、それぞれ発現増加を指標としているものがある。その他には、ケラチン細胞とランゲルハンス細胞の共培養系において、感作性物質によるMHCII、IL−1β、GM−CSF、MIP2、TNF−α、インターフェロン誘発タンパク質10(IP10)、及びINF−γの発現増加を指標とした方法も報告されている(特許文献4)。しかし、いずれの方法においても、感作性の指標となるマーカー(感作性マーカー)遺伝子及びタンパク質の発現が低いことや、感度又は精度が低いことが知られていた。
特開2004−222582号 特開2005−278628号 特開2006−136215号 第2821457号
さらに、感作性物質には、感作性が強い物質と、感作性が弱い物質があるため、それらの性質を見極め、より詳細な感作性物質の情報を得ることが出来る動物を用いない感作性物質の評価方法に関しては皆無であった。
以上より、動物を用いない感作性物質の評価方法の開発において、感作性物質を正確に評価するために、複雑なアレルギーの成立過程を再現するとともに、感度及び精度を向上させ、さらに、感作性物質における感作性の強弱をも検出できる新たな感作性マーカーの発見が望まれていた。
かかる状況に鑑み、本発明は、上記のような従来技術における問題点を解決し、哺乳動物細胞を用い、高い感作性物質の検出感度及び精度を備え、さらに、感作性の強弱についても検出可能な、新たな感作性マーカーを探索し、より感度の高い感作性物質評価方法を提供することにある。
このような事情により、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、感作性物質に対するヒト細胞の反応を詳細に解析し、高い感作性物質の検出感度及び精度を備え、さらに、感作性の強弱についても検出可能な優れた感作性マーカーを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)哺乳動物の抗原提示細胞と被験物質とをインキュベートし、当該細胞のIL−2受容体(IL−2R)の発現を測定することを特徴とする、被験物質の感作性を評価する方法。
(2)哺乳動物の抗原提示細胞が、血液、骨髄、リンパ節、及び/又は皮膚由来であることを特徴とする、(1)に記載の被験物質の感作性を評価する方法。
(3)哺乳動物の抗原提示細胞が、培養細胞(THP−1、U−937、KG−1、MUTZ−1、HL−60、Jurkat)から1種以上選択される培養細胞であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の被験物質の感作性を評価する方法。
以下に、本発明において見出された感作性マーカーについて説明する。
IL−2R
IL−2Rは、ヒト脳内皮細胞において、IL−2のシグナルを伝え、T細胞増殖活性に関わる(非特許文献)。
Prat A.,et al.,J Neuropathol.Exp.Neurol.,2000,59,129−136
したがって、本発明は、ヒト又は哺乳動物の抗原提示細胞において、IL−2受容体(IL−2R)の発現を測定することを特徴とする、感作性物質の評価方法、及び感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤の評価方法を提供する。
本発明で用いる哺乳動物の抗原提示細胞は、本発明の目的に沿うものであれば、哺乳動物から採取した血液、骨髄、リンパ節、及び/又は皮膚組織の細胞を用いることができる。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物から得られた血液、骨髄、リンパ節、及び/又は皮膚組織の抗原提示細胞を用いることができる。
この場合、上記哺乳動物細胞の中でも、血液、骨髄細胞を用いることが好ましい。
また、本発明で用いる哺乳動物の抗原提示細胞が、培養細胞である場合、本発明の目的に沿うものであれば、細胞バンクから入手可能な培養細胞や市販されている培養細胞を入手して用いることができる。例えば、THP−1、U−937、KG−1、MUTZ−1、HL−60、Jurkat等の培養細胞から1種以上選択し、用いることができる。
この場合、上記培養細胞の中でも、THP−1及び/又はU−937を用いることが好ましい。
これらの哺乳動物の抗原提示細胞を用いて、以下の培養方法及び解析方法により、被験物質の感作性を評価することができる。
本発明の哺乳動物の抗原提示細胞を培養するための培地としてはこれらの細胞を培養することができる常用の任意の培地を用いることができるが、RPMI1640、DMEM、MEM等が挙げられる。これらの培地には、5〜20%のウシ胎児血清(FBS)を添加することが好ましい。
感作性物質の評価においては、培地中の哺乳動物の抗原提示細胞に被験物質を添加し、37℃、5%CO下にて、0.5〜72時間、好ましくは2〜24時間培養する。
培養終了後、感作性マーカー遺伝子の発現量を測定する方法として、マイクロアレイ法、セルアレイ法、組織アレイ法、定量的又は定性的RT−PCR法、ノーザンブロッティング法等を用いることができる。また、感作性マーカータンパク質の発現量を測定する方法としては、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、セルアレイ法、組織アレイ法等が挙げられる。
本発明は、哺乳動物の抗原提示細胞を用いて、被験物質の感作性を評価する方法であり、従来の方法に比べて感度及び/又は精度を向上させ、評価することが可能である。
以下、次に本発明を詳細に説明するため、具体的且つ詳細な実施例を挙げるが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
哺乳動物の抗原提示細胞として、THP−1(ヒト単核球由来細胞株:ATCCから購入)を用いて、感作性物質による遺伝子の発現変化について、マイクロアレイ解析を行った。
培地液の調製
RPMI1640(GIBCO社製)に10%FBS、100units/mLペンシリン(Sigma社製)と100μg/mLストレプトマイシン(ベーリンガー社製)を加えて調整した。
強い感作性物質の調製
強い感作性を示す物質として、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン(DNCB,Sigma社製)とp−ベンゾキノン(BQ,Sigma社製)を用い、それぞれ、2.5mg/mL、3.0mg/mLとなるようにDMSOに溶解し用いた。
弱い感作性物質の調製
弱い感作性を示す物質としては、硫酸ニッケル(Ni,Sigma社製)とオイゲノール(EU,Sigma社製)を用い、それぞれ、20mg/mL、15mg/mLとなるように生理食塩水に溶解し用いた。
細胞と被験物質の培養
培地中のTHP−1(American Type Culture Collectionから分譲)に、それぞれの終濃度が、DNCBは5.0μg/mL、BQは6.0μg/mL、Niは200μg/mL、EUは150μg/mLとなるように添加し、COインキュベーター中で、37℃にて8時間培養した。また、コントロールとして、被験物質を添加しない未適用対照を設けた。
マイクロアレイ解析
培養終了後、細胞よりTORIZOL(invitrogen社製)にて細胞を溶解することによって総RNAを抽出し、cDNAラベル化キット(GEヘルスケア社製)を用いてRT−PCR法にて、RNAから蛍光ラベル化されたcDNAを合成した。合成したcDNAをInteligene Human Cytokinechip Ver3.1(Takara社製)に、60℃にて、16時間ハイブリダイズした。ハイブリダイズ終了後、蛍光スキャナ(ScanArray Gx,PerkinElmer社製)にて各遺伝子の発現量を測定し、コントロールと各被験物質間の発現差を解析ソフト(ScanArray Express Ver3.0,PerkinElmer社製)により解析した。
解析ソフトより得られた遺伝子の発現量を用い、コントロールと比較した各遺伝子の相対発現量を、以下の式(1)を用いて算出した。
式(1)
各被験物質を添加した細胞における遺伝子発現量/コントロールの遺伝子発現量=相対発現量
(比較例1)
比較例として、非感作性物質としてラウリル硫酸ナトリウム(SLS,Sigma社製)を5.0mg/mLにて生理食塩水に溶解し、50μg/mLとなるように細胞に添加し、実施例1と同様の実験を行った。
解析方法
実施例1及び比較例1により評価した遺伝子の中から、強い感作性物質(DNCB、BQ)、弱い感作性物質(Ni、EU)及び非感作性物質(SLS)に対して、コントロールと比較して発現が変化したものを解析した。
遺伝子の変化(発現量)が、コントロールと比較して2.0倍以上であった場合を「+++」、1.5倍以上2.0倍未満であった場合を「++」、1.2倍以上1.5倍未満であった場合を「+」、1.2倍未満であった場合を「−」とし、表1に示した。
(解析結果)
その結果、強い感作性物質(DNCB、BQ)のみに対して、遺伝子の変化(発現量)が、コントロールと比較して1.5倍以上(「++」、「+++」の変化)であった遺伝子について、種類(遺伝子No.1〜)を見出した。弱い感作性物質(Ni、EU)のみに対して、遺伝子の変化(発現量)が、コントロールと比較して1.5倍以上(「++」、「+++」の変化)であった遺伝子について、種(遺伝子No.)を見出した。その他の変化しなかった遺伝子4種類(遺伝子No.)に関しては、反応なし群として表1に示した。
以上の結果より、IL−2Rは、弱い感作性物質に対して、特異的に増加する優れた感作性マーカー群であることを確認した。
Figure 0005442185
以上の結果から、感作性マーカーIL−2Rは、弱い感作性物質を検出するのに優れていることを確認した。また、より多くの感作性マーカーを評価することで、未知の感作性物質の検出が可能となる。この場合、IL−2Rと他の感作性マーカーを組み合わせて検出することで、強い感作性物質と弱い感作性物質を同時に検出することができる。したがって、本発明において発見した感作性マーカーは、個々で感作性物質を検出し、その感作性の強弱を判断することが可能であり、さらに、感作性マーカーを組み合わせることにより、今まで以上に、検出感度及び精度が向上し、さらに広い範囲で感作性物質を検出することができる優れた感作性マーカーであると言える。
本発明の活用例として、化学物質等の安全性評価への応用が期待される。哺乳類の血液、骨髄及び培養細胞を用いることで、感作性マーカーの発現を指標に、動物を用いずに感作性の有無及び強弱の評価が可能になる。

Claims (1)

  1. 哺乳動物のTHP−1、U−937、KG−1、MUTZ−1、HL−60、Jurkatから1種以上選択される培養細胞と被験物質とをインキュベートし、当該細胞のインターロイキン−8(IL−8)及びIL−2受容体(IL−2R)の発現を測定し、当該発現量を対照の発現量と比較することを特徴とする、被験物質の感作性を評価する方法。
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