JP5338257B2 - 延性に優れた高降伏比超高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
32≦20×[C]+[Mn]≦36・・・(1)
ただし、[C]、[Mn]はそれぞれC、Mnの含有量(質量%)を表す。
C:0.5〜1.5%
Cは、オーステナイト相の安定化に必須の元素であり、高強度化にも大きな役割を果たす。しかし、C量が0.5%未満では、オーステナイト相の安定化が不十分で、1180MPa以上のTSや優れた延性が得られない。一方、C量が1.5%を超えると、炭化物の析出によって延性が低下する。そのため、C量は0.5〜1.5%、好ましくは0.5〜1.0%とする。
Siは、鋼の脱酸のために添加できる元素であり、Si量は0.01%以上とするのが好ましい。しかし、Si量が0.1%を超えると、介在物の増加によって内部欠陥および表面欠陥が増加する。そのため、Si量は0.1%以下とする。
Mnは、Cと同様にオーステナイト相の安定化に必須の元素である。しかし、Mn量が10%未満では、オーステナイト相の安定化が不十分で、1180MPa以上のTSや優れた延性が得られない。一方、Mn量が25%を超えると、熱間加工性が低下して鋼板の製造性の低下を招く。そのため、Mn量は10〜25%、好ましくは15〜25%とする。
P量が0.1%を超えると、靱性が低下する。そのため、P量は0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。
S量が0.05%を超えると、熱間加工性が低下する。そのため、S量は0.05%以下、好ましくは0.02%以下とする。
Alは、鋼の脱酸のために添加できる元素であり、Al量は0.01%以上とするのが好ましい。しかし、Al量が0.1%を超えると、介在物の増加によって内部欠陥および表面欠陥が増加する。そのため、Al量は0.1%以下とする。
Moは、本発明において最も重要な元素である。Moの添加により、オーステナイト相の再結晶が遅延し、未再結晶オーステナイト粒を主体とするミクロ組織が得られ、高強度および高降伏比が達成される。このような効果を得るためには、Mo量は0.1%以上とする必要がある。一方、Mo量が5.0%を超えると、合金コストの面から経済的に不利となる。そのため、Mo量は0.1〜5.0%、好ましくは0.5〜3.0%、より好ましくは1.0〜3.0%とする。
N量が0.01%を超えると、延性が低下する。そのため、N量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下とする。
TiとNbは、Moと同様に再結晶を抑制する効果が大きく、高強度および高降伏比の達成に有効である。こうした効果を得るには、それぞれの元素の含有量を0.05%以上とすることが好ましい。しかし、それぞれの元素の含有量が0.5%を超えると、延性が大きく低下する。そのため、TiやNb量はそれぞれ0.05〜0.5%とする。
上述したように、本発明の超高張力鋼板は、組織全体に占める面積率で95%以上のオーステナイト相からなり、オーステナイト相における変形双晶の生成に起因した加工硬化により1180MPa以上のTSが達成される。特に、組織全体に占めるアスペクト比が3以上、好ましくは5以上の未再結晶オーステナイト粒の面積率を70%以上、組織全体に占める再結晶オーステナイト粒の面積率を5%以上とすることにより、1180MPa以上のTSと同時に0.7以上の高いYRと優れた延性が得られる。すなわち、上記したように、本発明の鋼板では、オーステナイト相の双晶誘起塑性に起因する著しい加工硬化により高強度を達成するものであり、TS≧1180MPaとするため、オーステナイト相を組織全体に占める面積率で95%以上とする必要がある。また、本発明においては、YR≧0.7を達成するため、加工硬化組織(未再結晶組織)を活用し、オーステナイト粒の多くをアスペクト比が3以上になるまで加工して変形させておく必要がある。より好ましいアスペクト比は、5以上である。ただし、単に加工硬化させたままでは、鋼板の延性低下が許容できなくなるため、オーステナイト相は面積率で5%以上の再結晶オーステナイト粒が存在する程度に部分再結晶させた組織である必要がある。部分再結晶時には、加工されたオーステナイト粒が回復するとともに、局所的に再結晶が生じ、微細な再結晶粒が形成され、鋼板の延性が復活する。ただし、未再結晶オーステナイト(回復オーステナイト)粒の再結晶が進みすぎると、降伏比が低下するため、アスペクト比が3以上である未再結晶オーステナイト粒は面積率で70%以上とする必要がある。なお、本発明において、再結晶オーステナイト粒は、その大部分がアスペクト比が2未満で、粒径が3μm以下の結晶粒であるが、こうした再結晶粒の存在により、アスペクト比が3以上の未再結晶オーステナイト粒は回復状態にあると推察できる。なお、本発明では、熱間圧延後の冷却速度や焼鈍後の冷却速度により炭化物が生成したり、成分組成によっては冷間圧延時に加工誘起変態によりマルテンサイト相が生成したりする場合があるが、それらの面積率が合計で高々5%程度であれば、本発明の目的を損なうことはない。しかし、高強度と優れた延性を安定して得るには、こうした炭化物やマルテンサイト相の生成を極力抑制することが好ましい。
以下に、本発明の超高張力鋼板の好ましい製造条件を示す。なお、本発明の超高張力鋼板の製造方法は下記に限定されるものではない。
鋼スラブの加熱温度が1300℃を超えると、熱間加工性が低下する上、加熱に要するエネルギーが増大する。一方、加熱温度が1100℃未満になると、熱間圧延時の負荷の増大を招く。そのため、鋼スラブの加熱温度は1100〜1300℃、好ましくは1150〜1250℃とする。なお、鋼スラブの再加熱においては、常温まで冷却した鋼スラブを再加熱してもよいし、鋳造後の冷却途中の温度が高い鋼スラブを再加熱してもよい。
熱間圧延時の仕上温度が800℃未満では、再結晶が十分に進展せず、未再結晶粒の残った熱延鋼板となり、その後の冷間圧延での圧延負荷の増大を招く。そのため、熱間圧延時の仕上温度は800℃以上、好ましくは900℃以上とする。また、仕上温度が1000℃を超えると、結晶粒が過度に粗大化しやすくなり、強度や延性が低下する場合があるので、仕上温度は1000℃以下とすることが望ましい。なお、仕上温度を確保するために、エッヂヒーターあるいはバーヒーターなどのシートバー加熱装置を利用することもできる。
熱間圧延後の冷却速度が20℃/s未満だと、冷却中に鉄炭化物が多量に析出して延性が低下する。そのため、熱間圧延後巻取られるまでの冷却速度は20℃/s以上、好ましくは30℃/s以上とする。
巻取温度が600℃を超えると、巻取り後の徐冷過程で鉄炭化物が多量に生成し、延性の低下を招く。そのため、巻取温度は600℃以下、好ましくは550℃以下とする。
冷間圧延によりオーステナイト相の加工硬化を図り、次の焼鈍で未再結晶オーステナイト粒が主体のミクロ組織とし、高強度と高降伏比を達成する。そのためには、冷間圧延の圧下率は30%以上、より望ましくは50%以上とする必要がある。
焼鈍後に、組織全体に占めるアスペクト比が3以上の未再結晶オーステナイト粒の面積率が70%以上で、組織全体に占める再結晶オーステナイト粒の面積率が5%以上であるミクロ組織とするには、冷間圧延後の鋼板を550〜750℃の焼鈍温度で15〜600s保持して焼鈍する必要がある。焼鈍温度が550℃未満や保持時間が15s未満の場合には、回復の進行が遅滞して十分な延性が得られない。一方、焼鈍温度が750℃を超えると、回復と再結晶の進行が過度に起こり、高強度と高降伏比が達成されない。また、焼鈍時間が600sを超えると、鉄炭化物の多量の析出により延性の低下を招くことがある。そのため、焼鈍温度は550〜750℃、より好ましくは600〜700℃、保持時間は15〜600s、より好ましくは30〜300sとする。
焼鈍後の冷却速度が10℃/s未満では、冷却中の450℃以上の高温域で鉄炭化物が多量に析出して延性が低下する。そのため、焼鈍温度から少なくとも450℃まで10℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.5〜1.5%、Si:0.1%以下、Mn:10〜25%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Al:0.1%以下、Mo:0.1〜5.0%、N:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、組織全体に占めるオーステナイト相の面積率が95%以上であり、かつ組織全体に占めるアスペクト比が3以上の未再結晶オーステナイト粒の面積率が70%以上、組織全体に占める再結晶オーステナイト粒の面積率が5%以上であるミクロ組織を有することを特徴とする延性に優れた高降伏比超高張力鋼板。
- 下記の式(1)を満足することを特徴とする請求項1に記載の延性に優れた高降伏比超高張力鋼板;
32≦20×[C]+[Mn]≦36・・・(1)
ただし、[C]、[Mn]はそれぞれC、Mnの含有量(質量%)を表す。 - さらに、質量%で、Ti:0.05〜0.5%およびNb:0.05〜0.5%のうちから選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の延性に優れた高降伏比超高張力鋼板。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼スラブを、1100〜1300℃の加熱温度に再加熱後、800℃以上の仕上温度で熱間圧延し、20℃/s以上の冷却速度で冷却し、600℃以下の巻取温度で巻取って熱延鋼板とし、該熱延鋼板を、酸洗後、30%以上の圧下率で冷間圧延し、550〜750℃の焼鈍温度で15〜600s保持して焼鈍し、10℃/s以上の冷却速度で少なくとも450℃まで冷却することを特徴とする、組織全体に占めるオーステナイト相の面積率が95%以上であり、かつ組織全体に占めるアスペクト比が3以上の未再結晶オーステナイト粒の面積率が70%以上、組織全体に占める再結晶オーステナイト粒の面積率が5%以上であるミクロ組織を有する延性に優れた高降伏比超高張力鋼板の製造方法。
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