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JP5301982B2 - 濃縮ホルボールエステルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ホルボールエステル含有植物油脂から濃縮されたホルボールエステルを製造する濃縮ホルボールエステルの製造方法に関する。
植物油脂は、バイオマス燃料として注目されている、軽油代替燃料用の脂肪酸低級アルキルエステルの原料油脂として用いることができ、植物油脂から脂肪酸低級アルキルエステルを製造する方法として、出願人は、特許文献1に記載の脂肪酸低級アルキルエステルの製造方法を提案している。
特許文献1に記載の方法は、カチオン交換樹脂を使用して、原料中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2mg−KOH/g以下のエステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程と、アルカリ触媒の量を、前記酸価に応じて調整しながら、前記エステル混合油中の油脂を低級アルキルアルコールでエステル交換するエステル交換反応工程を含むこととしており、脱酸された植物油脂由来の混合油を用いて、脂肪酸低級アルキルエステルを製造することが記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、脱酸された植物油脂由来の混合油から、ホルボールエステルを分離、濃縮することは、開示されていなかった。
ホルボールエステルは、発癌プロモーターとしての性質を有することから、除去ないし低減する必要があり、ホルボールエステルを含有する植物油脂から脂肪酸低級アルキルエステルを製造する場合においては、ホルボールエステルを分離、濃縮することが重要な課題となる。
ところで、ホルボールエステルは、メタノールに溶解することが知られており、植物油脂から抽出することが可能である。
例えば、特許文献2には、(a)低級アルキルアルコールまたは任意の低級アルキルアルコール−水混合物を用いて、粗製植物油および脂肪から極性成分を除去する工程、(b)蒸留により、工程(a)からアルコールを除去する工程、(c)常用の漂白用温度で、工程(b)において得られた生成物に漂白用土を加え、濾過する工程、及び(d)低い温度で、工程(c)において得られた生成物の脱臭する工程により、植物油脂を精製する方法が記載されており、この方法を用いると、粗製植物油及び脂肪に存在する成分を破壊することなしに、少量成分を回収し、植物油及び脂肪を精製することができる。
また、植物油脂中の毒性物質の分析法、ホルボールエステルの定量法の確立、ホルボールエステル定量法の簡易化、植物油脂中のホルボールエステル構造の同定などを目的として、植物油脂から、ホルボールエステルを抽出する方法が知られている(非特許文献1〜3参照)。
例えば、非特許文献1には、植物油脂からホルボールエステルをジクロロメタンを溶媒として抽出した後、溶媒を除去することが記載されており、得られたホルボールエステルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた後、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)により、ホルボールエステルを定量する方法が記載されている。
また、非特許文献2には、メタノールを溶媒として4回抽出する方法が記載されており、メスアップされたホルボールエステル溶液からHPLCにより、ホルボールエステルを定量することにより、ホルボールエステルの定量を簡易に行う方法が記載されている。
また、非特許文献3には、石油エーテルに溶解させた後、固相として抽出し、これをジクロロメタン−アセトニトリル溶媒を用いて、クロマトグラフィー法により精製する方法が記載されており、植物油脂中のホルボールエステルの構造を同定する方法が記載されている。
しかしながら、特許文献2、及び非特許文献1〜3における方法においては、濃縮した際のホルボールエステルを高濃度で得ることについて記載がなく、また、脱酸されていない植物油脂を用いているため、植物油脂の抽出物を濃縮させた濃縮物には、脂肪酸などの不純物が多く含まれており、高濃度でホルボールエステル濃度を得ることができないという問題がある。
そのため、ホルボールエステルを含有する植物油脂から脂肪酸低級アルキルエステルを製造する際、これら従来の方法を用いると、ホルボールエステルの濃縮物を廃棄するにあたり、その処理量が多くなってしまうという問題がある。
そこで、こうした処理量を削減するために、より高濃縮のホルボールエステルを分離、濃縮可能なホルボールエステルの製造方法の提供が望まれていた。
特開2007−176973号公報 特開2002−194381号公報 J. Agric. Food Chem. 1997,45,3152-3157 Industrial Crops and Products 12 (2000) 111-118 J. Nat. Prod. 2002, 65, 1434-1440
本発明の目的は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成すること課題とする。即ち、ホルボールエステル含有植物油脂から、高濃度に濃縮されたホルボールエステルを製造可能な濃縮ホルボールエステルの製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。即ち、
<1> 少なくとも、カチオン交換樹脂を用いて、ホルボールエステル含有植物油脂中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2mg−KOH/g以下のエステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(A)と、前記エステル混合油から低級アルキルアルコール層を分離する工程(B)と、得られた低級アルコール層を濃縮する工程(C)と、を含むことを特徴とする濃縮ホルボールエステルの製造方法である。
<2> ホルボールエステル含有植物油脂がジャトロファ油である前記<1>に記載の濃縮ホルボールエステルの製造方法である。
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ホルボールエステル含有植物油脂から、高濃度に濃縮されたホルボールエステルを製造可能な濃縮ホルボールエステルの製造方法を提供することができる。
(濃縮ホルボールエステルの製造方法)
本発明の濃縮ホルボールエステルの製造方法は、少なくとも、エステル化工程(A)と、分離工程(B)、濃縮工程(C)とを含んでなり、必要に応じて、その他の工程を含んでなる。
<エステル化工程(A)>
前記エステル化工程(A)は、カチオン交換樹脂を用いて、ホルボールエステル含有植物油脂中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2mg−KOH/g以下のエステル混合油を含む反応混合物を得る工程からなる。
なお、ここで反応混合物とは、エステル化工程(A)で得られた未処理の混合物のことであって、エステル化工程(A)で生成したエステルと、原料の主成分である油脂と、原料に元々含まれる他の成分とからなるエステル混合油に加えて、未反応の低級アルキルアルコールや副生した水分を含んだものを指す。すなわち、エステル化工程(A)で得られた未処理の混合物である反応混合物から、低級アルキルアルコールと水分とを除いたものがエステル混合油である。
−ホルボールエステル含有植物油脂−
前記ホルボールエステル含有植物油脂は、植物に由来し、油脂(脂肪酸トリグリセライド)を主成分とするものである。前記植物としては、トウダイグサ科の植物が挙げられる。
前記トウダイグサ科の植物としては、ホルボールエステルを含有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジャトロファ油が好ましい。
また、前記ホルボールエステル含有植物油脂としては、リン脂質を主成分とするガム質、遊離している脂肪酸(以下、遊離脂肪酸という場合もある。)、臭気成分などを含んだままの未精製の未精製油脂であってもよいし、精製処理によりこれらの少なくとも一部が除去された精製油脂であってもよい。
なお、以下、主成分とは、少なくとも50%を占める成分のことを指す。
また、前記ホルボールエステル含有植物油脂は、1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。さらに、前記ホルボールエステル含有植物油脂には、例えば、他の物質などの製造過程で回収された脂肪酸を混合して使用してもよい。このような脂肪酸が多すぎると、各工程に悪影響が及ぶ場合があるため、前記ホルボールエステル含有植物油脂100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
−カチオン交換樹脂−
前記エステル化工程(A)では、カチオン交換樹脂を使用してエステル化を行う。
カチオン交換樹脂を酸触媒として用い、油脂に含まれる遊離脂肪酸と低級アルキルアルコールとのエステル化反応である。また、カチオン交換樹脂は固体触媒であり、回収可能である。固定相として連続的な反応にも対応可能で、後工程に混入しない特徴がある。
前記カチオン交換樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、酸型固形カチオン交換樹脂、酸性ゲル型カチオン交換樹脂などがあるが、特に酸性ゲル型カチオン交換樹脂を使用すると、エステル化反応率がより高まるため好ましい。
この理由については明らかではないが次のように推察できる。すなわち、酸型固形カチオン交換樹脂は、エステル化反応で生成した水が付着または吸着することにより触媒能が低下するが、酸性ゲル型カチオン交換樹脂では、水を水和水として取り込むことができるため、水による触媒能の低下が生じないことに起因すると考えられる。
前記酸性ゲル型カチオン交換樹脂の架橋度としては、3%〜10%の範囲が好ましい。3%以上であれば、樹脂強度の点で好ましく、10%以下であれば、脂肪酸の除去効率の点から好ましい。架橋度が4%〜8%であるとより好ましい。なかでも、脂肪酸のエステル化反応率が最も高く、樹脂の機械的強度が十分であることなどから、架橋度4%のものが特に好ましい。
前記酸性ゲル型カチオン交換樹脂としては、特に制限はなく、例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーのスルホン化物などが好ましく、例えば、三菱化学社製のダイヤイオンSK104(商品名、架橋度4%)、同SK106(商品名、架橋度6%)、同SK1B(商品名、架橋度6%)および同SK110(商品名、架橋度10%)や、ダウケミカル社製ダウエックス(商品名、架橋度4%)、ローム・アンド・ハース社製のアンバーライト(商品名、架橋度4%)などが好ましい。
−低級アルキルアルコール−
前記低級アルキルアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数4以下のアルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。なかでも、メタノールが好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、前記低級アルキルアルコールの添加量としては、特に制限はなく、原料中の脂肪酸分布に応じて適宜選択することができるが、原料100質量部に対して、5質量部〜50質量部が好ましく、10質量部〜30質量部がより好ましく、15質量部〜25質量部が特に好ましい。このような範囲内であると、十分なエステル化反応率が得られるとともに、低級アルキルアルコールの回収コストや設備容量の過度の増大を抑制できる。
また、前記低級アルキルアルコール中の水分量は低いほど好ましいが、現実的には、1,500ppm以下が好ましく、1,000ppm以下がより好ましく、600ppm以下が特に好ましい。
−酸価−
また、このエステル化工程(A)では、エステル混合油の酸価が2mg−KOH/g以下、好ましくは1mg−KOH/g以下、より好ましくは0.1mg−KOH/g〜0.5mg−KOH/gとなるように、エステル化を行う。エステル化工程(A)で到達させるエステル混合油の酸価は低いほど好ましいが、現実的な下限は0.1mg−KOH/g程度である。酸価を2mg−KOH/g以下とするためには、カラムの種類、カラム温度、カラム滞留時間、低級アルキルアルコールの使用量などの条件を調整すればよい。
このようなエステル化工程(A)を分離工程(B)、濃縮工程(C)の前に行うと、分離される抽出物に含まれる、不純物としての脂肪酸を低減することができ、濃縮物におけるホルボールエステル含有濃度を向上させることができる。
すなわち、エステル混合油に、その酸価が2mg−KOH/gを超えるほどの脂肪酸が含まれると、遊離脂肪酸が濃縮工程での不純物となるため、ホルボールエステルの濃縮率(濃度)が向上しない。
なお、酸価とは、試料1gあたり、中和に要した水酸化カリウムの質量(mg)で表される酸性物質の濃度であって、油脂の場合、脂肪酸の濃度を意味する。酸価が1mg−KOH/gとは、脂肪酸濃度0.46質量%(パルミチン酸換算)に相当する。酸価はAV(Acid Value)と呼ばれる場合もある。
実際の測定に際しては、反応混合物をエバポレータで吸引して未反応の低級アルキルアルコールや水分を除去してエステル混合油を得て、これをさらに無水硫酸ナトリウムを含ませたろ紙に通して前処理した後、中和滴定する方法が好ましい。
エステル化工程(A)の具体的な方法としては、カチオン交換樹脂が充填されたカラムを用意し、低級アルキルアルコールと原料との混合物をカラムに供給し、通過させる方法が挙げられる。
カラムを通過させる際の条件に関し、カラム温度としては40℃〜70℃が好ましく、50℃〜65℃がより好ましく、60℃〜65℃が特に好ましい。また、カラム滞留時間としては、60分間〜480分間、90分間〜360分間、90分間〜240分間が特に好ましい。
このようなカラム温度およびカラム滞留時間であると、混合物の流動性が良好で、反応速度も十分であるとともに、カラムを過度に大型化したり、耐圧化したりする必要もなく、効率的である。
なお、低級アルキルアルコールと原料との混合物をカラムに供給する前には、前処理として、カチオン交換樹脂をアルコールで洗浄しておくことが好ましい。洗浄のためのアルコールとしては、エステル化反応に使用するものと同じ低級アルキルアルコールを使用することが好ましい。
また、このような洗浄は、カラムに通す前後のアルコール中の水分が変化しなくなるまで行うことが好ましい。このように洗浄することにより、カチオン交換樹脂中の水分がアルコールで置換され、脂肪酸のエステル化効率をより高めることができる。具体的には、カチオン交換樹脂の2倍容量〜5倍容量のアルコールで洗浄することが好ましい。
<分離工程(B)>
前記分離工程(B)は、前記エステル混合油に含まれる油層と低級アルコール層とを重力差等を利用して分離する工程である。
前記エステル混合油に含まれる油層と低級アルコール層とを分離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、静置分離、遠心分離、フィルター分離、等が挙げられる。
前記静置分離法は、ベッセル等の静置分離槽内で、温度(20℃〜90℃)で時間(0.5時間〜10時間)静置して、油層と低級アルコール層とを分離する方法である。
前記遠心分離法は、遠心分離機、デカンタ、等を用いて、温度(20℃〜90℃)、遠心効果(500G〜3000G)にて、油層と低級アルコール層とを分離する方法である。
前記フィルター分離法は、不織布(材質:ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等、ろ過精度:2μm〜20μm)からなる液液分離フィルターを通して、微小油層を凝集・粗大化させつつ、静置分離し、油層と低級アルコール層とを分離する方法である。
<濃縮工程(C)>
前記濃縮工程(C)は、前記分離層から得られる低級アルキルアルコール層を濃縮する工程である。
前記エステル化工程(A)において、エステル混合油は、脂肪酸アルキルエステルを含む油層と、ホルボールエステルが溶解した低級アルキルアルコール層とに分離され、低級アルキルアルコール層を濃縮すると、ホルボールエステルが高濃度に濃縮された濃縮物が得られる。
前記濃縮の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、低級アルコールを蒸発させる方法(蒸発法)、膜分離法等がある。
前記蒸発法には、ラボレベルでは、エバポレーターによる蒸発やトッピング蒸発、実装置では、トッピング蒸発のほか、フラッシュ蒸発、液膜降下式蒸発、強制撹拌式薄膜蒸発、等がある。
前記エバポレーターによる蒸発としては、フラスコを回転しつつ、温度(10℃〜90℃)で減圧し、低沸点成分を留去する方法が挙げられる。
前記トッピング蒸発としては、通常のベッセル槽内で、撹拌しつつ、温度(10℃〜90℃)で圧力(0.1kPa〜100kPa)で低沸点成分を留去する方法が挙げられる。
前記フラッシュ蒸発としては、フラッシュ蒸発装置にて、連続的に液を温度温度(10℃〜90℃)で圧力(0.1kPa〜100kPa)の減圧雰囲気下に連続的に供給しつつ、低沸点成分を留去し、高沸点成分を濃縮する方法が挙げられる。
前記液膜降下式蒸発、前記強制撹拌式薄膜蒸発としては、それぞれ液膜降下式蒸発装置、強制撹拌式薄膜蒸発装置にて、フラッシュ蒸発と同様に、連続的に液を温度(10℃〜90℃)で圧力(0.1kPa〜100kPa)の減圧雰囲気下に連続的に供給しつつ、低沸点成分を留去し、高沸点成分と低沸点成分を分離する方法が挙げられる。
前記膜分離法にはパーべーパレーション法がある。
前記パーベーパレーション法とは、供給液を膜を介して蒸発させ、その際、膜の分離機能により特定成分のみ分離・回収する膜プロセスである。使用する膜は、孔のない高分子膜ないしは、分子レベルの微細孔をもつ無機膜(ゼオライト膜等)である。膜の供給側に混合溶液を流し、透過側を真空に保つことで膜を通して供給液体を一部蒸発させ、濃縮する。
前記濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定する方法としては、特に制限はなく、例えば、Industrial Crops and Products 12 (2000) 111−118)に記載の方法が挙げられる。
具体的には、以下の方法が挙げられる。
まず、TPA(12−O−tetradecanoyl phorbol−13−acetate)をメタノールに溶解させた標準溶液を調製し、検量線を作成する。次いで、ホルボールエステルを含む濃縮物をメタノール溶媒に溶解させた溶液を攪拌した後、遠心分離し、その上澄みを分析試料とする。この分析試料におけるホルボールエステルを高速液体クロマトグラフィー法により検出し、前記検量線を用いて、濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定することができる。
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ホルボールエステル含有植物油脂として、未精製油脂を使用する場合の脱ガム工程(P)等が挙げられる。
即ち、未精製油脂を使用する場合、まず脱ガム工程(P)を行った後、原料中の脂肪酸のエステル化工程(A)を行い、その後、分離工程(B)、濃縮工程(C)を実施することが好ましい。
なお、精製油脂を使用する場合には、脱ガム工程(P)を行わずに、エステル化工程(A)を行うことができる。
−脱ガム工程(P)−
前記脱ガム工程(P)は、原料に未精製油脂を使用する場合において、未精製油脂に含まれるリン脂質を主成分とするガム質や、コロイド状不純物などの不溶物をあらかじめ除去するための工程であって、この工程を実施した後、エステル化工程(A)を行う。
前記脱ガム工程(P)の具体的な方法としては、特に制限はなく、温水とともに吸着剤を未精製油脂に混合し、得られた混合物をその後ろ過して、不溶物を除去する方法でもよいが、未精製油脂に変性剤としてリン酸を添加するとともに吸着剤を添加してろ過する方法が好ましい。リン酸を使用すると脱ガム率が高まり、後の各工程で副生物を分離し易くなるため、分離効率が向上する。その結果、高純度の脂肪酸低級アルキルエステルが高収率で得られるようになる。吸着剤としては、パーライト、ケイソウ土、活性白土などを使用できるが、ケイソウ土、パーライトが好ましく、より高い吸着能を有していることからパーライトがより好ましい。なお、パーライトとは、黒曜石を高温で熱処理してできる発泡体である。
具体的には、未精製油脂を好ましくは50℃〜70℃、より好ましくは60℃〜70℃に加熱し、これにリン酸とパーライトとを添加し、好ましくは1分間〜60分間、より好ましくは10分間〜40分間混合撹拌する。混合撹拌の後、この混合物を、布フィルタなどのフィルタを備えたろ過器でろ過することにより、不溶物が除去され、脱ガム物がろ液として得られる。処理温度が50℃〜70℃であると、未精製油脂中の有用な成分を変質させたり、劣化させたりすることがないとともに、効果的に脱ガムできる。
ここでリン酸の添加量は、未精製油脂100質量部に対して0.01質量部〜0.1質量部が好ましい。0.01質量部以上であると、脱ガムが効果的に進行し、一方、0.1質量部以下であると、脱ガムに寄与しなかったリン酸が残存しにくい傾向がある。また、リン酸の添加量は、未精製油脂のガム質含有量に応じて、適宜調整することがより好ましい。なお、ガム質含有量は、A.O.C.S試験法Ca 9f−57により測定可能である。
また、リン酸は水溶液の形態で添加されることが好ましく、その場合、リン酸水溶液のリン酸濃度は70質量%以上が好ましく、75質量%〜90質量%がより好ましい。このような濃度であると、溶媒である水が脱ガム工程(P)よりも後段の工程に悪影響を与えるおそれや、ガム質のろ過性を悪化させるおそれが少なく、好適である。
パーライトの添加量は、未精製油脂100質量部に対して、0.03質量部〜0.15質量部が好ましく、より好ましくは0.03質量部〜0.1質量部であり、さらに好ましくは0.03質量部〜0.05質量部である。0.03質量部以上であると、脱ガムが効果的に進行し、一方、0.15質量部以下であると、未精製油脂のロスが抑えられるとともに、廃棄されるパーライト量も少なくできる。
なお、脱ガム工程(P)では、吸着剤を多めに配合した未精製油脂をフィルタに循環供給して、フィルタの表面にプレコート相を形成させ、ろ過をより円滑に行えるようにしてもよい。その際のパーライトの添加量は、未精製油脂100質量部に対して、0.2質量部〜1.0質量部が好ましく、0.2質量部〜0.7質量部がより好ましく、0.2質量部〜0.4質量部が特に好ましい。この場合でも、パーライトの添加量がこのような範囲であると、未精製油脂のロスを抑え、廃棄されるパーライト量を少なくしつつ、効果的に脱ガムすることができる。
また、脱ガム工程(P)の前後や、脱ガム工程(P)中において、必要に応じて未精製油脂から夾雑物を除去することが好ましい。夾雑物は、前記ガム質の除去と同じ方法、同じ装置により除去してもよいし、未精製油脂貯蔵タンクでの静置分離またはろ過装置、遠心分離等の方法で除去することができる。夾雑物としては、土、砂利、ゴミがあり、場合によっては金属分等が含まれることもある。また、脱ガム物の水分含有量は2,000ppm以下であることが好ましく、これを超える場合には、ここで水分を適宜除去することが好ましい。
以下、本発明を実施例と比較例に基づき、より具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
300mLビーカーに、インドネシア産のジャトロファ油100質量部と、メタノール20質量部とを加え、これらの混合溶液を調製した。
−エステル化工程(A)−
この混合溶液を60℃に加熱されたカチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104H(架橋度:4%)、三菱化学社製)800mLが充填された塔(カラム)内に15分間かけて通液して、メチルエステル化させ、エステル混合油を得た。
このエステル混合油の酸価を、基準油脂分析試験法2.3.1−1996(酸価)の方法により、測定した。測定された酸価は、0.8mg−KOH/gであった。
−分離工程(B)−
得られたエステル混合油を、分液漏斗に移し、分液操作を行って、30分間、静置した後、メタノール層と油層に分離した。
−濃縮工程(C)−
分離したメタノール層溶液から、40℃の温度条件下、1kPaの減圧下で、エバポレーター(RE−46、ヤマト科学社製)を用いてメタノールを留去させ、濃縮を行った。
−ホルボールエステル含有量の測定−
得られた濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を次のように測定した。
まず、TPAをメタノールに溶解し、所定の濃度となるように標準溶液を調製し、検量線を作成した。次いで、ホルボールエステルを含む濃縮物1gをメタノール溶媒25mLに溶解させた溶液を調製し、5分間攪拌した後、遠心分離装置(LC−121、トミー工業社製)により遠心分離し、その上澄みを分析試料とした。この分析試料におけるホルボールエステルを、以下の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により検出し、前記検量線を用いて、濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定した。その結果、濃縮物におけるホルボールエステルの含有量は、18.9%であった。
・HPLC分析条件
使用カラム:Lichrospher100 RP−18e
(4.0mm.I.D.×125mm×5μm:Merck社製)
移動相 :アセトニトリル:水=8/2(V/V)
流量 :1.0mL/min
カラム温度:25℃
検出波長 :280nm
注入量 :20μL
(実施例2)
300mLビーカーに、インドネシア産のジャトロファ油100質量部と、メタノール50質量部と、カチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK104H(架橋度:4%)、三菱化学社製)20mLを加え、これらの混合溶液を調製した。
この混合溶液を60℃の水浴中で、マグネチックスターラー装置を用いて、6時間攪拌して、メチルエステル化させ、エステル混合油を得た(エステル化工程(A))。
このエステル混合油について、実施例1と同様にして、酸価の測定、分離工程(B)、濃縮工程(C)を行い、得られた濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定した。結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例2において、混合溶液に用いる、メタノールの量を50質量部から20質量部に変え、カチオン交換樹脂の量を20mLから5mLに変え、エステル化工程(A)における攪拌時間を6時間から15時間に変えたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3におけるエステル混合油を得た。
このエステル混合油について、実施例1と同様にして、酸価の測定、分離工程(B)、濃縮工程(C)を行い、得られた濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定した。結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例2において、混合溶液にメタノール50質量部に代えてエタノール28質量部を用いたこと、エステル化工程(A)における攪拌時間を6時間から15時間に変えたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例4におけるエステル混合油を得た。
このエステル混合油について、実施例1と同様にして、酸価の測定、分離工程(B)、濃縮工程(C)を行い、得られた濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定した。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、エステル化工程(A)に代えて、混合溶液を60℃の水浴中で0.5時間攪拌したこと以外は、実施例1と同様にして、混合油を得た。
この混合油について、実施例1と同様にして、酸価の測定、分離工程(B)、濃縮工程(C)を行い、得られた濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定した。結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例3において、混合溶液にカチオン交換樹脂20mLに代えて、エステル化触媒としてのp−トルエンスルホン酸0.12質量部を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、比較例2におけるエステル混合油を得た。
このエステル混合油について、実施例1と同様にして、酸価の測定、分離工程(B)、濃縮工程(C)を行い、得られた濃縮物におけるホルボールエステルの含有量を測定した。結果を表1に示す。
Figure 0005301982
本発明の濃縮ホルボールエステルの製造方法は、ホルボールエステル含有植物油脂からホルボールエステルを除去することができるため、ホルボールエステル含有植物油脂から脂肪酸アルキルエステルを製造する工程におけるホルボールエステルの処理工程として、好適に利用することができる。

Claims (2)

  1. 少なくとも、カチオン交換樹脂を用いて、ホルボールエステル含有植物油脂中の脂肪酸を低級アルキルアルコールでエステル化し、酸価が2mg−KOH/g以下のエステル混合油を含む反応混合物を得るエステル化工程(A)と、
    前記エステル混合油から低級アルキルアルコール層を分離する工程(B)と、得られた低級アルコール層を濃縮する工程(C)と、
    を含むことを特徴とする濃縮ホルボールエステルの製造方法。
  2. ホルボールエステル含有植物油脂がジャトロファ油である請求項1に記載の濃縮ホルボールエステルの製造方法。
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