本発明者らは耐久現像安定性という観点で検討を進めていく中で、現像時におけるトナー劣化が、耐久濃度低下や微小な濃度変動に影響を及ぼす事を見出した。
これまでトナー劣化は主に現像器内でのメカニカルなシェアによる事が主因であった。このトナー劣化は、帯電性が急速に落ちる事で、耐久後半にかけ急激に濃度が低下していく事が特徴である。
しかしながら、こういった現像器内でのトナー劣化を抑制したとしても、長期間高速現像システムで現像すると、わずかではあるが、画像濃度が低下していく事、さらには耐久を通し、微小な濃度変動がある事がわかってきた。
本発明者等は長期間高速現像システムでの濃度変動とトナー物性とを比較検討していく中で、現像器内でのトナー劣化の他に、現像時にも異なる作用でトナーが劣化していく事を突き止め、本発明に至った。
現像器内での擦りのストレスによるトナー劣化は、面で外添剤がトナー粒子表面に、埋め込まれる劣化であるため、耐久の比較的初期段階からトナーの帯電性は低下し、その結果濃度低下が発生する。従って、問題として認識し易く、急速な濃度低下を抑制させる種々の対策が打ち易かった。
一方、衝突によるトナー劣化は点による劣化であるため、耐久初期段階ではほとんど劣化せず、問題とはならない。しかしながら、長期間耐久により、微小なトナー劣化が起こり、トナーの微小な帯電ムラへとつながる。さらにこの状態で長期間高速で現像し続けると、その帯電ムラは大きくなり、弊害が顕著になってくる場合があるのである。
特に軽印刷用途の高安定な画像濃度や画像欠陥がなき目的に対しては、問題として顕著になりやすい。
我々はこの微小な現象を制御するためには、これまでにない、よりミクロな領域に着目すべきと考え、トナー表面の微小な硬度のコントロールと、感光体表面構造を原子レベルで制御する事で、この現象を克服するに至った。
下記で、現像時のトナー劣化とそれによる濃度変動が発生するメカニズム及びその対策を、好ましく用いられる以下の画像形成プロセスを参照しながら説明する。
図1において、トナー担持体102の略右半周面はトナー容器106内のトナー溜りに常時接触していて、そのトナー担持体の表面の近傍のトナーがトナー担持体の表面にトナー担持体内の磁気発生手段103の磁力で及び/又は静電気力により付着保持される。
トナー担持体102が回転駆動されるとそのトナー担持体表面のトナー層がトナー規制部材104の位置を通過する過程で各部均一の厚さの薄層T1として整層化される。
この層厚を規制するために、強磁性金属からなるトナー層厚規制部材としての規制部材104が、トナー担持体102の表面から約100〜300μmのギャップ幅を持ってトナー担持体102に臨むように垂下されている。
磁気発生手段103の磁極N1からの磁力線が規制部材104に集中することにより、トナー担持体102上にトナーの薄層(トナー層)が形成される。
整層化されたトナー層T1としては、現像領域部Aにおけるトナー担持体102と感光体101との間の最小間隙よりも更に薄いものであることが好ましい。
このようなトナー層T1により静電潜像を現像する方式の非接触型現像装置に本発明は特に有効である。
また、トナーの摩擦帯電は主としてトナー担持体102の回転に伴うトナー担持体の表面とその近傍のトナー溜りのトナーとの摩擦接触によりなされる。
トナー担持体102上のトナー薄層の面はトナー担持体の回転に伴い感光体101側へ回転し、感光体101とトナー担持体102の最接近部である現像領域部Aを通過する。
この通過過程でトナー担持体102のトナー薄層のトナーが感光体101とトナー担持体102間に印加した直流と交流電圧による直流と交流電界により飛翔し、現像領域部Aの感光体101表面と、トナー担持体102面との間(間隙α)を往復運動する。
その際、トナーは感光体101表面、トナー担持体102表面、さらにはトナー同士間で衝突を繰り返される。耐久初期段階(1万枚程度)では、衝突によるトナー劣化はほとんど発生しない。しかしながら、衝突によりトナーとしては若干の帯電ムラが生じる。この程度の帯電ムラでは、連続して画像を出力しても、濃度推移にはほとんど影響はないが、出力を止め、一定時間放置した後に画出しを行うと、画像濃度が若干上昇する事がある(以下、ジョブ濃度変動と記載する)。これは、放置によりトナーの帯電が均一化する事で生じる現象であるが、軽印刷用途での使用を考えた場合、短時間放置で濃度が変動する事となり、濃度安定性という観点からは好ましくない。
そして、さらに衝突が繰り返される耐久後半では、トナーに外添された諸添加剤がトナー表面へ埋め込まれ、初期の帯電性を維持できないトナーが生成される。
一部トナーはそのまま、感光体101表面の潜像の電位パターンに応じて選択的に移行付着して可視化されトナー像T2が形成されるが、その他のトナーは劣化した状態でトナー担持体表面に付着する。
現像容器内に戻ったトナー担持体は、下層に劣化トナーを保持した状態で、その上に新たなトナーが付着保持される。そして、さらに耐久を進めていくと、帯電性の低い劣化トナーの上に、帯電性の高いトナーが付着する事が繰り返され、トナー担持体上のトナーに大きな帯電差が生まれ、これが帯電ムラとなる。
その結果、トナー担持体上のトナーの帯電分布が不均一となり、画像内での濃度ムラとなって表れ易くなる。
また、画像印字率の低い状態で高速現像した際には、感光体へのトナーが衝突する頻度は増えつつも、感光体へ飛翔するトナー量が少なくなるため、劣化トナーがよりトナー担持体表面側に残り易くなる。
その結果、耐久後半、劣化トナーがさらにトナー担持体上に蓄積される事となり、トナー担持体上のトナー全体の帯電性が低下する。その結果、長期耐久後では濃度低下が生じる。
この様な背景から、耐久現像安定性のためには、如何にして、現像時のトナー劣化を抑制すべきかに着目し検討を進めた。
即ち本発明は、表面層のSi原子の原子密度とC原子の原子密度の和が6.60×1022原子/cm3以上の感光体と、9.8×10-4Nで測定されるマルテンス硬さが1.0N/mm2以上200.0N/mm2以下であるトナーとを組み合わせることを特徴とする。
衝突劣化が起こる場所はトナーと感光体間,トナーとトナー担時体間、さらにはトナー同士間が考えられる。しかしながら、トナー担持体上にはトナーが付着しているため、事実上問題となるのは、トナーと感光体間,トナー同士間と考えられる。
従って、衝突するトナーの表面の硬度を最適化しつつ、衝突される側の感光体表面に関しても、原子レベルで均一な表面構造にすることで、現像時における微小なトナー劣化を抑制する事ができるのである。
トナーとしては、微小圧縮試験機により9.8×10-4Nで測定されるマルテンス硬さが1.0N/mm2以上200.0N/mm2以下である事を特徴の一つとする。
この微小圧縮試験機は、個々のトナーを微小の荷重で測定できるため、トナーのごく表面の硬度のみを測定でき、感光体表面及びトナー同士間で衝突した際の指標として好適である。
マルテンスの硬さは、ISO14577に規定された押込み試験の手順に従って、被検体であるトナーに特定の荷重を負荷した圧子を押込んだときに測定される硬さ(硬度)である。圧子としては、好ましくは、基部が正方形の角錐形ダイヤモンド圧子で、頂点を挟む対面角度α=90°が用いられる。
圧子先端が正方形で、且つ垂直方向に働く力であるため、ドラム表面との衝突と見立てる事ができる。また、面でトナーを押すため、表面に多少の凹凸が存在しても、その振れを拾い難い。さらに、マルテンスの硬さは単位表面積当りの荷重で表されるため、粒径因子の影響を受けずらい。
本発明のトナーの9.8×10-4Nで測定されるマルテンス硬さは1.0N/mm2以上200.0N/mm2以下、好ましくは5.0N/mm2以上100.0N/mm2以下、より好ましくは8.0N/mm2以上50.0N/mm2以下である事が好ましい。
マルテンス硬さは1.0N/mm2よりも小さい時は、トナー表面硬度が低い事を示し、トナーが劣化し易くなる。その結果、トナー担持体での帯電ムラへとつながり、画像内濃度ムラやジョブ濃度変動が悪化する。また長期耐久により、濃度低下も生じる。
一方、200.0N/mm2よりも大きい時は、トナー表面硬度が高い事示す。この場合、トナー粒子表面も非常に固いために、感光体表面に衝突した際、トナー粒子と感光体の間に存在する外添剤は、衝撃を分散し難くくなる。そのため、外添剤は、トナー粒子から外れ、遊離粒子となる。その結果、遊離外添剤が画像上に白ポチとなって表れる画像欠陥を引き起こす場合がある。
本発明における微小圧縮試験は、「超微小硬度計ENT1100」(エリオニクス社製)を用いて行った。本装置は、圧子を試料へ押し込んだときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さを負荷時から除荷時まで測定することにより、負荷荷重−押し込み深さ曲線を得、この曲線から微小圧縮硬度・弾性率等のデータを得るものである。
該装置を用いた測定方法は、装置に付属の「ENT1100操作マニュアル」に記載されているが、具体的には以下の通りである。
圧子としては接触面が20μm四方の平面である平圧子を用い、温度27℃、湿度60%RHの環境下で測定した。最大荷重を9.8×10-4Nに設定し、荷重0Nから始めて9.8×10-5N/secの割合で荷重を増加させた。
最大荷重(9.8×10-4N)に到達後、0.1secの間、その荷重で保持し、保持後における変位量を最大変位量とした。引き続き、上記最大荷重から9.8×10-5N/secの割合で荷重を低減し、荷重が0になったときの変位量(μm)を測定した。
このうち、負荷増加時の曲線を用い、下記式により、マルテンス硬さを測定した。
マルテンスの硬さ=F(試験荷重)/As(h)(投影接触面積)
実際の測定においては、セラミックセル上にトナーを塗布した後、トナーがセル上に分散するように微弱なエアーを吹き付け、そのセルを装置にセットして、以下のようにして測定を行う。
測定対象の粒子としては、装置付帯の顕微鏡を覗きながら測定用画面(視野サイズ:横幅160μm、縦幅120μm)にトナーが単独で存在しているもの選択する。但し、変位量の誤差を極力無くすため、粒子径(D)が個数平均粒径(D1)の±0.20μmの範囲にあるもの(D1+0.20≧D≧D1−0.20)を選択する。
なお、超微小硬度計ENT1100付帯のソフトを用いてトナーの長径と短径を測定し、それらから求められるアスペクト比[(長径+短径)/2]をもって粒子径D(μm)とした。
測定に際しては、粒子径D(μm)が上記条件を満たす任意のトナー100個を選んで測定を行う。そして、その100個分のデータの内、得られた最大変位量の最大値側、及び最小値側からそれぞれ10個のデータを与えるトナーを除いた残り80個のトナーのデータを有効データとして使用した。
このようにトナーの表面を最適な硬度に保つためには、トナー表面の材料分散性が大きく寄与する。特に低粘度成分の偏析を防ぐ事が、この表面性を得る上で重要となる。
特に溶融混練時に、材料分散性を上げるために、粘度の異なる複数の樹脂を混合する事、さらには、弾性を有する溶剤不溶成分を含有する事、さらには、溶融混練時の練りゾーンを最適化する事で、本発明を達成されやすくなる。
また、本発明のトナーは上記特徴を有すると共にトナーの温度150℃を基準温度とした時のマスターカーブを作成する時のシフトファクターaTから求められる活性化エネルギーEaが50kJ/mol以上120kJ/mol以下、より好ましくは60kJ/mol以上115kJ/mol以下であることが良い。
上記トナーの活性化エネルギーEaとは、分子レベルでの網目構造の連続構造である層構造が変形した際の戻りやすさを示している。従って、活性化エネルギーを上記範囲にすることで、例えトナーが変形したとしても、その弾性によって、元の状態に戻そうとする作用が働くため、衝突時のトナー劣化を最小限に抑えられる。
本発明における粘弾性測定の周波数分散測定から得られる活性化エネルギーは以下の方法で測定される。
測定装置としては、回転平板型レオメーター ARES(商品名、TA INSTRUMENTS社製)を用いる。
測定試料は、トナーを温度25℃で錠剤成型器により加圧成型した直径25mm、厚さ2.0±0.3mmの円板状の試料を用い、
パラレルプレートに装着し、室温(25℃)から100℃に15分間で昇温して、円板の形を整えた後、測定を開始する。
特に、初期のノーマルフォースが0になるようにサンプルをセットすることが、重要であり、以下に述べるように、その後の測定においては、自動テンション調整(Auto Tension Adjustment ON)にすることで、ノーマルフォースの影響をキャンセルできる。
測定は、以下の条件で行う。
1.直径25mmのパラレルプレートを用いる。
2.周波数(Frequency)を0.1Hz(Initial),100Hz(Final)とする。
3.印加歪初期値(Strain)を0.1%に設定する。
4.スタート温度を100℃,終了温度を160℃,昇温ステップを10℃,保留時間(SOAK TIME)を1分とし測定を開始する。
尚、測定においては、以下の自動調整モードの設定条件で行う。
測定においては、自動テンション調整モード(Auto Tension)を採用する。
5.自動テンションディレクション(Auto Tension Direction)をコンプレッション(Compression)と設定する。
6.初期スタティックフォース(Initial Static Force)を0g、自動テンションセンシティビティ(Auto Tension Sensitivity)を10.0gと設定する。
7.自動テンション(Auto Tension)の作動条件は、サンプルモデュラス(Sample Modulus)が1.0×106(Pa)よりも小さい場合である。
上記の要領で測定した0.1Hz以上100Hz以下,100℃以上160℃以下の範囲で測定した貯蔵弾性率G’の結果は以下の方法でマスターカーブが作成できる。尚、シフトさせる方法については縦横をシフトさせて最適化するためにTWO Demensional Minimizationを選択し、計算方法はシフトファクターの傾斜を優先して計算するようにGuess Modeを選択する。さらに、マスターカーブを作成する際に得られたシフトファクターaTの対数を縦軸に、その時の測定温度Tの逆数を横軸にプロットしたアレニウスプロットから活性化エネルギーを算出することが可能である。
また、本発明は、水素化アモルファス炭化珪素表面層(以下感光体表面層と記す)のSi原子の原子密度とC原子の原子密度の和が6.60×1022原子/cm3以上である感光体を用いる事も特徴である。
トナーが衝突する感光体表面層に面ムラがあると、その界面でトナーが劣化しやすくなる事がわかっている。すなわち、ダングリングボンドと呼ばれる構造欠陥に放電生成物や水分等が吸着する事で、感光体表面層に微小な凹凸ができる。これが面ムラとなり、そこにトナーが衝突することで、トナーが劣化しやすくなる。従って、ダングリングボンドと呼ばれる構造欠陥になっている箇所をできる限り少なくする事が、現像時のトナー劣化抑制には有効である。
上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、感光体表面層を構成するSi原子及びC原子の原子密度の和を所定の値より大きくすることにより、上述した課題に対して大きな効果があることを見出した。
Si原子とC原子の原子密度の和が6.60×1022原子/cm3以上という事は、原子密度が非常に高い表面層を形成している事を示す。
つまり、膜構造の骨格を形成するSi原子及びC原子の原子間距離が短くなり、骨格を形成する原子どうしの結合力が向上するため、ダングリングボンドの発生を最小限に抑える事ができる。
よって、感光体表面層のSi原子の原子密度とC原子の原子密度の和が高い方がより好ましく、6.81×1022原子/cm3以上にすることで、更に、ダングリングボンドの発生を抑えられ、結果として、トナー劣化抑制に大きな効果を表す。
Si原子とC原子の原子密度の和が6.60×1022原子/cm3よりも小さい場合は、トナー劣化し易い箇所が増加するため、現像時にトナー劣化が進み、上述した画像内濃度ムラやジョブ濃度変動が悪化する。
a−SiCにおいては、上記組成範囲のSiC結晶が最も高密度化した状態であることから、Si原子の原子密度とC原子の原子密度の和の上限は、13.0×1022原子/cm3以下となる。
また、感光体表面層のSi原子の原子数とC原子の原子数の和に対するC原子の原子数の比を0.61以上0.75以下の組成範囲とすることが、感光体表面層全体の硬度を調整する意味で好ましい。
この比が大きい時は、C原子量が相対的に多い事を示し、感光体表面層が固くなり過ぎる。一方、この比が小さい時はSi原子量が相対的に多く、感光体表面層が軟らかくなる。
従って、原子密度の高い感光体表面層で且つ、この範囲内に原子比を制御する事で、感光体表面層全体の硬度がさらに最適化され、より微小なトナー劣化抑制に効果を表す。その結果、帯電性がさらに安定化し、特に濃度階調再現性に優れる。
また、本発明において、Si原子の原子数、C原子の原子数及びH原子の原子数の和に対するH原子の原子数の比を0.30以上0.45以下にすることが好ましい。
特に原子密度の高い感光体表面層を高速現像システムで長期間耐久していくと、表面原子構造に力学的なひずみを生じる時がある。
しかしながら、H原子の原子数比を上記の様にする事で、H原子がバッファーとして作用するために、その力学的なひずみを緩和できる。
その結果、長期間耐久後も感光体表面層の密で均一な原子状態を維持でき、耐久後もトナー劣化することがないため、長期にわたり帯電性が安定し、耐久前後での濃度差もほとんど表れなくなる。
本発明の特徴であるトナーのマルテンス硬さを達成するためには、トナー中の材料分散性が大きく寄与する。特に、できる限り低粘度成分の偏析を防ぐ事が重要である。
上記のとおり、材料分散性を上げるために、粘度の異なる複数の樹脂を混合する事、さらには、弾性を有する溶剤不溶成分を含有する事、さらには、溶融混練時の練りゾーンを最適化する事で、本発明を達成されやすくなる。
本発明のトナーに使用される結着樹脂としては、以下のものが挙げられる。
ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、天然変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニール、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、石油系樹脂。中でも好ましく用いられる樹脂として、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂である。
この中でも定着性が優れ、メカニカル強度が高いという観点から、ポリエステル樹脂が好ましい。
本発明に用いられるポリエステル樹脂の成分は以下の通りである。
2価のアルコール成分としては、以下のものが挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、4−ブタンジオール、2、3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1、3−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、水素化ビスフェノールA、式(1)で表されるビスフェノール及びその誘導体:
(式中、Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x、yはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0〜10である。)、
および式(2)で示されるジオール類。
2価の酸成分としては、以下のジカルボン酸又はその誘導体が上げられる。フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル;n−ドデセニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸の如きアルケニルコハク酸類もしくはアルキルコハク酸類、又はその無水物又はその低級アルキルエステル;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸類又はその無水物又はその低級アルキルエステル。特にテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
また、上記ポリエステル樹脂は、三価以上の多価カルボン酸またはその無水物及び/または三価以上の多価アルコールによる架橋構造を含むポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
三価以上の多価カルボン酸またはその無水物としては、例えば、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物または低級アルキルエステルなどが挙げられる。
一方、三価以上の多価アルコールとしては、例えば、1,2,3−プロパントリオール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
上記ビニル系樹脂に用いられるモノマーは、次のものが挙げられる。
スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンの如きスチレン誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンの如き不飽和モノオレフィン類;ブタジエン、イソプレンの如き不飽和ポリエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニルの如きハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルの如きビニルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルの如きα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニルの如きアクリル酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルの如きビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンの如きビニルケトン類;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンの如きN−ビニル化合物;ビニルナフタリン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドの如きアクリル酸もしくはメタクリル酸誘導体。
さらに、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸の如き不飽和二塩基酸;マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物の如き不飽和二塩基酸無水物;マレイン酸メチルハーフエステル、マレイン酸エチルハーフエステル、マレイン酸ブチルハーフエステル、シトラコン酸メチルハーフエステル、シトラコン酸エチルハーフエステル、シトラコン酸ブチルハーフエステル、イタコン酸メチルハーフエステル、アルケニルコハク酸メチルハーフエステル、フマル酸メチルハーフエステル、メサコン酸メチルハーフエステルの如き不飽和二塩基酸のハーフエステル;ジメチルマレイン酸、ジメチルフマル酸の如き不飽和二塩基酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイヒ酸の如きα,β−不飽和酸;クロトン酸無水物、ケイヒ酸無水物の如きα,β−不飽和酸無水物、該α,β−不飽和酸と低級脂肪酸との無水物;アルケニルマロン酸、アルケニルグルタル酸、アルケニルアジピン酸、これらの酸無水物及びこれらのモノエステルの如きカルボキシル基を有するモノマーが挙げられる。
さらに、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸エステル類;4−(1−ヒドロキシ−1−メチルブチル)スチレン、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルヘキシル)スチレンの如きヒドロキシ基を有するモノマーが挙げられる。
本発明のトナーにおいて、結着樹脂に用いられるビニル系樹脂は、ビニル基を2個以上有する架橋剤で架橋された架橋構造を有してもよい。この場合に用いられる架橋剤は、芳香族ジビニル化合物として例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンが挙げられ;アルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類として例えば、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールアクリレート、1,6−へキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたものが挙げられ;エーテル結合を含むアルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類としては、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたものが挙げられ;芳香族基及びエーテル結合を含む鎖で緒ばれたジアクリレート化合物類として例えば、ポリオキシエチレン(2)−2,2−ビス(4ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート、ポリオキシエチレン(4)−2,2−ビス(4ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたものが挙げられ;ポリエステル型ジアクリレート化合物類として例えば、日本化薬社製「MANDA」が掲げられる。
多官能の架橋剤としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの;トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート;が挙げられる。
これらの架橋剤のうち、結着樹脂に定着性、耐オフセット性,耐ストレス性の観点から好適に用いられるものとして、芳香族ジビニル化合物(特にジビニルベンゼン)、芳香族基及びエーテル結合を含む鎖で結ばれたジアクリレート化合物類が挙げられる。
これらの架橋剤の添加量は、上記ビニル系モノマー成分100質量部に対して、0.001質量部以上10.000質量部以下であることが好ましく、0.002質量部以上1.000質量部以下であることがより好ましい。
上記ビニル系樹脂のビニル系重合体ユニットの重合に用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カーバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルプロパン)、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパ−オキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイドの如きケトンパーオキサイド類、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m−トリオイルパーオキサイド、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシカーボネート、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエイト、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエイト、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエイト、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキシアリルカーボネート、tert−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−プチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、ジ−tert−ブチルパーオキシアゼレートが挙げられる。
結着樹脂は単品で使用してもよいが、本発明においては、粘度の異なる2種類樹脂、つまり高粘度樹脂と低粘度樹脂を90:10から10:90までの範囲で混合して使用する事が好ましい。
これは溶融粘度の異なる2種以上の樹脂を使用する事で、例えば溶融混練でトナーを作製した場合、混練負荷が上昇し、他原材料の分散性がより向上するためである。
結着樹脂は、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布において、以下の分子量分布を有することが好ましい。
高粘度樹脂として用いられる高分子量樹脂のピーク分子量(Mp)は5,000以上20,000以下、重量平均分子量(Mw)が100,000以上900,000以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が10以上45以下であることが好ましい。
また、低粘度樹脂として用いられる低分子量樹脂のピーク分子量(Mp)は2,000以上10,000以下、重量平均分子量(Mw)が4,000以上100,000以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1以上9以下であることが好ましい。
Mp、Mwが小さく分布がシャープである場合には、トナーの硬度が低下し、トナー劣化を起しやすくなる。また、Mp、Mwが大きく分布がブロードである場合には、トナー粘度が高くなる傾向にあり、感光体へ衝突時に遊離外添剤が発生し、画像白ポチが発生しやすくなる。
また、高分子量樹脂は重量平均分子量(Mw)の100,000以上の割合が5.0%以上30.0%以下含有する事が好ましい。分子量100,000以上の成分は、粘度の高い成分であり、トナーをある一定の硬さにする上で好ましい成分である。
さらに、結着樹脂のガラス転移温度は定着性、保存性の観点から53℃以上62℃以下であることが好ましい。
またトナーに弾性を与え、材料分散性をさらに向上させるという観点から、高分子量樹脂中にTHF不溶成分を3.0質量%以上50.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以上40.0質量%以下含有することが好ましい。
これら樹脂を用いたトナーのピーク分子量(Mp)は4,000以上12,000以下、重量平均分子量(Mw)が50,000以上1,000,000以下であることが定着性及び耐ストレス性,耐オフセット性の観点から好ましい。
また、本発明のトナーは重量平均分子量(Mw)の100,000以上の割合が5.0%以上17.0%以下含有する事がトナーをある一定の硬さにする上で好ましい。
さらに、トナーに弾性を与え、材料分散性をさらに向上させるという観点から、トナー中にTHF不溶成分を3.0質量%以上40.0質量%以下、好ましくは10.0質量%以上30.0質量%以下含有することが好ましい。
THF不溶分はトナーが感光体に衝突した際に塑性変形ではなく弾性変形する役割を果たすため、トナー劣化緩和に効果的である。
また、本発明のトナーは、示差走査型熱量計(DSC)測定による昇温時の吸熱ピーク温度で規定される融点が60℃以上120℃以下である離型剤を含有することができる。離型剤の融点は好ましくは70以上115℃以下であることが良い。
該離型剤は結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下添加することが好ましい。1質量部未満の場合は望まれる離型効果が十分に得られず、20質量部を超える場合はトナー中での分散も悪く、感光体へのトナー付着が生じ、画像欠陥を引き起こし易くなる。
該離型剤としては例えば、低分子ポリエチレン、低分子ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス及びパラフィンワックスの如き脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスの如き脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;それら脂肪族炭化水素系ワックスのブロック共重合物;カルナバワックス、サゾールワックス及びモンタン酸エステルワックスの如き脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスの如き脂肪酸エステル類を一部または全部を脱酸化したものが挙げられる。さらに、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、あるいは更に長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルカルボン酸類の如き飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸の如き不飽和脂肪酸類;ステアリンアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、あるいは更に長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルアルコール類の如き飽和アルコール類;ソルビトールの如き多価アルコール類:ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの如き脂肪酸金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸などのビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドの如き脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加によって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物;炭素数12以上の長鎖アルキルアルコール又は長鎖アルキルカルボン酸;等が挙げられる。
本発明において特に好ましく用いられる離型剤としては、脂肪族炭化水素系ワックスが挙げられる。このような脂肪族炭化水素系ワックスとしては、例えば、アルキレンを高圧下でラジカル重合し、又は低圧下でチーグラー触媒を用いて重合した低分子量のアルキレンポリマー;高分子量のアルキレンポリマーを熱分解して得られるアルキレンポリマー;一酸化炭素及び水素を含む合成ガスからアーゲ法により得られる炭化水素の蒸留残分から得られる合成炭化水素ワックス及びそれを水素添加して得られる合成炭化水素ワックス;これらの脂肪族炭化水素系ワックスをプレス発汗法、溶剤法、真空蒸留の利用や分別結晶方式により分別したもの;が挙げられる。
前記脂肪族炭化水素系ワックスの母体としての炭化水素としては、例えば、金属酸化物系触媒(多くは二種以上の多元系)を使用した一酸化炭素と水素の反応によって合成されるもの(例えばジントール法、ヒドロコール法(流動触媒床を使用)によって合成された炭化水素化合物);ワックス状炭化水素が多く得られるアーゲ法(同定触媒床を使用)により得られる炭素数が数百ぐらいまでの炭化水素;エチレン等のアルキレンをチーグラー触媒により重合した炭化水素;が挙げられる。このような炭化水素の中でも、本発明では、分岐が少なくて小さく、飽和の長い直鎖状炭化水素であることが好ましく、特にアルキレンの重合によらない方法により合成された炭化水素がその分子量分布からも好ましい。
使用できる具体的な例としては、ビスコール(登録商標)330−P、550−P、660−P、TS−200(三洋化成工業社)、ハイワックス400P、200P、100P、410P、420P、320P、220P、210P、110P(三井化学社)、サゾールH1、H2、C80、C105、C77(サゾールワックス社)、HNP−1、HNP−3、HNP−9、HNP−10、HNP−11、HNP−12(日本精蝋株式会社)、ユニリン(登録商標)350、425、550、700、ユニシッド(登録商標)、ユニシッド(登録商標)350、425、550、700(東洋ペトロライト社)、木ろう、蜜ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス(株式会社セラリカNODAにて入手可能)等があげられる。
該離型剤を添加するタイミングは、トナー製造中の溶融混練時において添加しても良いが結着樹脂製造時であっても良く、既存の方法から適宜選ばれる。また、これらの離型剤は単独で使用しても併用しても良い。
本発明のトナーは磁性トナーであっても非磁性トナーであっても良いが、高速機における耐久安定性などの点から磁性トナーであることが好ましい。
本発明で用いられる磁性材料としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトなどの酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む磁性酸化鉄;Fe,Co,Niのような金属、あるいは、これらの金属とAl,Co,Pb,Mg,Ni,Sn,Zn,Sb,Be,Bf,Cd,Ca,Mn,Se,Ti,W,Vのような金属との合金、及びこれらの混合物等が挙げられる。従来、四三酸化鉄(Fe3O4)、三二酸化鉄(γ−Fe2O3)、酸化鉄亜鉛(ZnFe2O4)、酸化鉄イットリウム(Y3Fe5O12)、酸化鉄カドミウム(Cd3Fe2O4)、酸化鉄ガドリニウム(Gd3Fe5O12)、酸化鉄銅(CuFe2O4)、酸化鉄鉛(PbFe12O19)、酸化鉄ニッケル(NiFe2O4)、酸化鉄ネオジム(NdFe2O3)、酸化鉄バリウム(BaFe12O19)、酸化鉄マグネシウム(MgFe2O4)、酸化鉄マンガン(MnFe2O4)、酸化鉄ランタン(LaFeO3)、鉄粉(Fe)、コバルト粉(Co)、ニッケル粉(Ni)等が知られている。特に好適な磁性材料は四三酸化鉄又はγ三二酸化鉄の微粉末である。また上述した磁性材料を単独で或いは2種以上の組合せで選択使用することもできる。
これらの磁性体は795.8kA/m印加での磁気特性が抗磁力1.6以上12.0kA/m以下,飽和磁化が50.0以上200.0Am2/kg以下、(好ましくは50.0以上100.0Am2/kg以下)、残留磁化2.0以上20.0Am2/kg以下のものが好ましい。
磁性材料の磁気特性は、25℃,外部磁場769kA/mの条件下において振動型磁力計、例えばVSM P−1−10(東英工業社製)を用いて測定することができる。
該磁性体は、結着樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下添加するのが好ましい。
非磁性トナーとして用いる場合には、着色剤として以下のような顔料または染料を用いることができる。
着色剤としては、カーボンブラックやその他、従来より知られているあらゆる顔料や染料の一種又は二種以上を用いることができる。
染料としては、C.I.ダイレクトレッド1,C.I.ダイレクトレッド4、C.I.アシッドレッド1,C.I.べーシックレッド1,C.I.モーダントレッド30,C.I.ダイレクトブルー1,C.I.ダイレクトブルー2、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー15,C.I.べーシックブルー3,C.I.べーシックブルー5,C.I.モーダントトブルー7,C.I.ダイレクトグリーン6,C.I.べーシックグリーン4、C.I.べーシックグリーン6等がある。顔料としては、黄鉛、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、ベンジジンオレンジG、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、ウオッチングレッドカルシウム塩、エオシンレーキ、ブリリアントカーミン3B、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBC、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG等がある。
本発明のトナーをフルカラー画像形成用トナーとして使用する場合には、次の様な着色剤が挙げられる。マゼンタ用着色顔料としては、C.I.ピグメントレッド1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38,39,40,41,48,49,50,51,52,53,54,55,57,58,60,63,64,68,81,83,87,88,89,90,112,114,122,123,163,202,206,207,209、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.バットレッド1,2,10,13,15,23,29,35等が挙げられる。
上記マゼンタ顔料を単独で使用しても構わないが、染料と顔料を併用してその鮮明度を向上させた方がフルカラー画像の画質の点からより好ましい。マゼンタ用染料としては、C.I.ソルベントレッド1,3,8,23,24,25,27,30,49,81,82,83,84,100,109,121、C.I.ディスパースレッド9、C.I.ソルベントバイオレット8,13,14,21,27、C.I.ディスパースバイオレット1などの油溶染料、C.I.ベーシックレッド1,2,9,12,13,14,15,17,18,22,23,24,27,29,32,34,35,36,37,38,39,40、C.I.ベーシックバイオレット1,3,7,10,14,15,21,25,26,27,28などの塩基性染料が挙げられる。
シアン用着色顔料としては、C.I.ピグメントブルー2,3,15,16,17、C.I.バットブルー6、C.I.アシッドブルー45又は下記構造を有するフタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1〜5個置換した銅フタロシアニン顔料などである。
イエロー用着色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,14,15,16,17,23,35,73,83、C.I.バットイエロー1,3,20などが挙げられる。
着色剤は樹脂成分100.0質量部に対して、0.1以上60.0質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5以上50.0質量部以下である。
本発明のトナーには、その帯電性を安定化させるために電荷制御剤を用いることができる。
電荷制御剤は、その種類や他のトナー粒子構成材料の物性等によっても異なるが、一般に、トナー粒子中に結着樹脂100質量部当たり0.1以上10.0質量部以下含まれることが好ましい。
このような電荷制御剤としては、トナーを負帯電性に制御するものと、正帯電性に制御するものとが知られており、トナーの種類や用途に応じて種々のものを一種又は二種以上用いることができる。
トナーを負帯電性に制御するものとしては、例えば有機金属錯体、キレート化合物が有効で、その例としては、モノアゾ金属錯体;アセチルアセトン金属錯体;芳香族ヒドロキシカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の金属錯体又は金属塩;が挙げられる。その他にも、トナーを負帯電性に制御するものとしては、例えば芳香族モノ及びポリカルボン酸及びその金属塩や無水物;エステル類やビスフェノール等のフェノール誘導体;等が挙げられる。
トナーを正帯電性に制御するものとしては、例えば、ニグロシン及び脂肪酸金属塩等による変性物;トリブチルベンジルアンモニウム−1−ヒドロキシ−4−ナフトスルホン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート等の四級アンモニウム塩、及びこれらの類似体であるホスホニウム塩等のオニウム塩及びこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料及びこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン酸、フェロシアン化合物等);高級脂肪酸の金属塩等が挙げられる。本発明ではこれらの一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。トナーを正帯電性に制御するものとしては、これらの中でもニグロシン系化合物、トリフェニルメタンレーキ顔料,四級アンモニウム塩等の電荷制御剤が特に好ましく用いられる。
使用できる具体的な例としては、Spilon Black TRH、T−77、T−95、TN−105(保土谷化学社)、BONTRON(登録商標)S−34、S−44、E−84、E−88(オリエント化学社)があげられ、正帯電用としては好ましいものとしては、例えばTP−302、TP−415(保土谷化学社)、BONTRON(登録商標)N−01、N−04、N−07、P−51(オリエント化学社)、コピーブルーPR(クラリアント社)が例示できる。
また、ビニル系単量体と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体等の荷電制御樹脂を用いることができ、上述の電荷制御剤と併用することもできる。
本発明のトナーの帯電性は正負どちらでも構わないが、好ましい結着樹脂であるポリエステル樹脂自体は負帯電性が高いため、負帯電性トナーであることが好ましい。
また、本発明のトナーにおいては、流動性を向上させるために無機微粉末がトナー粒子に外添されて、トナー粒子表面に存在する。本発明に用いられる無機微粉末としては、例えばフッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末などのフッ素系樹脂粉体;湿式製法シリカ、乾式製法シリカなどの微粉末シリカ;微粉末酸化チタン;微粉末アルミナ;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、シリコーンオイル等により表面処理を施した処理シリカ、処理酸化チタン、処理アルミナ等が挙げられる。
好ましい無機微粉末としては、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された微粉末であり、乾式法シリカ又はヒュームドシリカと称されるものである。例えば、四塩化ケイ素ガスの酸素、水素中における熱分解酸化反応を利用するもので、基礎となる反応式は次の様なものである。
SiCl4+2H2+O2→SiO2+4HCl
この製造工程において、例えば塩化アルミニウム又は塩化チタンなどの他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによってシリカと他の金属酸化物の複合微粉末を得ることも可能であり、それらも包含する。その粒径は、平均の一次粒径として、0.001μm以上2.000μm以下の範囲内であることが好ましく、特に好ましくは、0.002μm以上0.200μm以下の範囲内のシリカ微粉末を使用するのが良い。
さらには、該ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉末を疎水化処理した処理シリカ微粉末を用いることがより好ましい。該処理シリカ微粉末において、メタノール滴定試験によって測定された疎水化度が30以上80以下の範囲の値を示すようにシリカ微粉末を処理したものが特に好ましい。
疎水化方法としては、シリカ微粉末と反応あるいは物理吸着する有機ケイ素化合物及び/又はシリコーンオイルで化学的に処理することによって付与される。好ましい方法としては、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成されたシリカ微粉末を有機ケイ素化合物で処理する。
有機ケイ素化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサンおよび1分子当たり2から12個のシロキサン単位を有し末端に位置する単位にそれぞれ1個宛のSiに結合した水酸基を含有するジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらは1種あるいは2種以上の混合物で用いられる。
窒素原子を有するアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジプロピルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、モノブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジオクチルアミノプロピルジメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルジメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルモノメトキシシラン、ジメチルアミノフェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシリル−γ−プロピルフェニルアミン、トリメトキシシリル−γ−プロピルベンジルアミンなどのシランカップリング剤も単独あるいは併用して使用される。好ましいシランカップリング剤としては、へキサメチルジシラザン(HMDS)が挙げられる。
本発明で用いる好ましいシリコーンオイルとしては、25℃における粘度が0.5以上10000.0mm2/s(センチストークス)以下、好ましくは1以上1000mm2/s(センチストークス)以下のものが用いられ、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルが特に好ましい。
シリコーンオイル処理の方法としては、例えばシランカップリング剤で処理されたシリカ微粉末とシリコーンオイルとをヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて直接混合する方法;ベースとなるシリカ微粉末にシリコーンオイルを噴霧する方法;あるいは適当な溶剤にシリコーンオイルを溶解あるいは分散させた後、シリカ微粉末を加え混合し溶剤を除去する方法;を用いることが可能である。
シリコーンオイルで処理されたシリカは、シリコーンオイルによる処理後にシリカを不活性ガス中で200℃以上(より好ましくは250℃以上)に加熱し表面のコートを安定化させることがより好ましい。
本発明においては、シリカを予めカップリング剤で処理した後にシリコーンオイルで処理する方法、または、シリカをカップリング剤とシリコーンオイルで同時に処理する方法によって処理されたものが好ましい。
本発明で用いられる無機微粉末は、BET法で測定した窒素吸着による比表面積が30m2/g以上、好ましくは50m2/g以上のものが良好な結果を与える。トナー粒子100質量部に対して、流動性向上のための無機微粉末を0.01質量部以上8.00質量部以下、好ましくは0.10質量部以上4.00質量部以下使用するのが良い。
本発明のトナーにおいては、研磨効果、帯電性付与性及び流動性付与を目的として、またクリーニング助剤として、上述(流動性向上のための無機微粉末)以外の無機微粉末を単独、もしくは上述の無機微粉末と併用して用いることができる。このような研磨効果を有する無機微粉末は、トナー粒子に外添して、トナー粒子表面に存在させることにより、添加前後と比較するとより効果が増加し得るものであり、特に限定されない。本発明に用いられる研磨効果を有する無機微粉末としては、マグネシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、ストロンチウム、セリウム、カルシウム、バリウム等のチタン酸塩及び/又はケイ酸塩が挙げられる。
特に、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)及びチタン酸カルシウム(CaTiO3)、ケイ酸ストロンチウム(SrSiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)が好ましい。
本発明で使用する無機微粉末は、例えば焼結法によって生成し、機械粉砕した後、風力分級して、所望の粒度分布であるものを用いるのが良い。
本発明においては、研磨効果を有する無機微粉末は、トナー100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下、好ましくは0.2質量部以上8.0質量部以下用いるのが良い。
また本発明のトナーは、画像濃度、解像度などの点から、重量平均粒径が3.0以上9.0μm以下であることが好ましい。
本発明の樹脂及びトナーに係る物性の測定方法は以下に示す通りである。後述の実施例もこの方法に基づいている。
(1)GPCによる分子量分布の測定
40℃のヒートチャンバー中でカラムを安定化させ、この温度におけるカラムに溶媒としてTHFを毎分1mlの流速で流し、THF試料溶液を約100μl注入して測定する。
試料の分子量測定にあたっては試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント値との関係から算出した。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては例えば、102から107まで程度のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。
例えば、東ソー社製TSK標準ポリスチレン(F−850,F−450,F−288,F−128,F−80,F−40,F−20,F−10,F−4,F−2,F−1,A−5000,A−2500,A−1000,A−500)を使用することが出来る。
また、検出器はRI(屈折率)検出器を用いる。尚、カラムとしては市販のポリスチレンジェルカラムを複数本組み合わせるのが良い。
例えば昭和電工社製のshodex GPC KF−801,802,803,804,805,806,807,800Pの組み合せや、東ソー社製のTSKgel G1000H(HXL)、G2000H(HXL)、G3000H(HXL)、G4000H(HXL)、G5000H(HXL)、G6000H(HXL)、G7000H(HXL)、TSKgurd columnの組み合せを挙げることができる。
また、試料は以下のようにして作製する。
トナー0.2g又は樹脂0.1gを20mlのTHF中に入れ、25℃で24時間静置する。その後、サンプル処理フィルター(ポアサイズ約0.5μm、例えばマイショリディスクH−25−2(東ソー社製)など使用できる。)を通過させたものをGPCの試料とする。
(2)結着樹脂のガラス転移温度の測定
結着樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、結着樹脂約5mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定範囲30〜200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。この昇温過程で、温度40℃〜100℃の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、結着樹脂のガラス転移温度Tgとする。
(3)ワックスの融点の測定
ワックスの融点は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、ワックス約3mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30〜200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。尚、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程での温度30〜200℃の範囲におけるDSC曲線の最大の吸熱ピークを、ワックスの融点とする。
(4)THF不溶分の測定
樹脂及びトナー約1.0gを秤量(W1g)し、円筒ろ紙(例えばNo.86Rサイズ28×100mmアドバンテック東洋社製)に入れてソックスレー抽出器にかけ、溶媒としてTHF200mlを用いて、16時間抽出する。
このとき、溶媒の抽出サイクルが約4分に一回になるような還流速度で抽出を行う。
抽出終了後、円筒ろ紙を取り出し、40℃で8時間真空乾燥し、抽出残分を秤量する(W2g)。
トナーの場合は、トナー中の焼却残灰分の重さ(W3g)を以下の手順で求める。
予め精秤した30mlの磁性るつぼに約2gの試料を入れ精秤し、試料の質量(Wag)を精秤する。るつぼを電気炉に入れ約900℃で約3時間加熱し、電気炉中で放冷し常温下でデシケーター中に1時間以上放冷しるつぼの質量を精秤する。ここから焼却残灰分(Wbg)を求める。
(Wb/Wa)×100=焼却残灰分含有率(質量%)
この含有率から試料の焼却残灰分の質量(W3g)が求められる。
トナーのTHF不溶分は下記式から求められる。
トナーTHF不溶分=[W2−W3]/[W1−W3]×100%
また、結着樹脂のTHF不溶分の測定は、下記式より求められる。
THF不溶分=W2/W1×100(%)
(5)重量平均粒径(D4)の測定方法
トナー粒子の重量平均粒径(D4)は、以下のようにして算出する。測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いる。
測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。尚、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行なう。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
尚、測定、解析を行なう前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行なった。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
前記専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
1.Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行なう。そして、専用ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
2.ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
3.発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2ml添加する。
4.前記2.のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
5.前記4.のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー粒子約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
6.サンプルスタンド内に設置した前記1.の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー粒子を分散した前記5.の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行なう。
7.測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4)を算出する。尚、前記専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
(6)疎水性シリカ微粉末のBET比表面積の測定
疎水性シリカ微粉末のBET比表面積の測定は、JIS Z8830(2001年)に準じて行なう。具体的な測定方法は、以下の通りである。
測定装置としては、定容法によるガス吸着法を測定方式として採用している「自動比表面積・細孔分布測定装置 TriStar3000(島津製作所社製)」を用いる。測定条件の設定および測定データの解析は、本装置に付属の専用ソフト「TriStar3000 Version4.00」を用いて行い、また装置には真空ポンプ、窒素ガス配管、ヘリウムガス配管が接続される。窒素ガスを吸着ガスとして用い、BET多点法により算出した値を本発明におけるBET比表面積とする。
尚、BET比表面積は以下のようにして算出する。
まず、シリカ微粉末に窒素ガスを吸着させ、その時の試料セル内の平衡圧力P(Pa)とシリカ微粉末の窒素吸着量Va(モル・g−1)を測定する。そして、試料セル内の平衡圧力P(Pa)を窒素の飽和蒸気圧Po(Pa)で除した値である相対圧Prを横軸とし、窒素吸着量Va(モル・g−1)を縦軸とした吸着等温線を得る。次いで、シリカ微粉末の表面に単分子層を形成するのに必要な吸着量である単分子層吸着量Vm(モル・g−1)を、下記のBET式を適用して求める。
Pr/Va(1−Pr)=1/(Vm×C)+(C−1)×Pr/(Vm×C)
(ここで、CはBETパラメーターであり、測定サンプル種、吸着ガス種、吸着温度により変動する変数である。)
BET式は、X軸をPr、Y軸をPr/Va(1−Pr)とすると、傾きが(C−1)/(Vm×C)、切片が1/(Vm×C)の直線と解釈できる(この直線をBETプロットという)。
直線の傾き=(C−1)/(Vm×C)
直線の切片=1/(Vm×C)
Prの実測値とPr/Va(1−Pr)の実測値をグラフ上にプロットして最小二乗法により直線を引くと、その直線の傾きと切片の値が算出できる。これらの値を用いて上記の傾きと切片の連立方程式を解くと、VmとCが算出できる。
さらに、上記で算出したVmと窒素分子の分子占有断面積(0.162nm2)から、下記の式に基づいて、シリカ微粉末のBET比表面積S(m2・g−1)を算出する。
S=Vm×N×0.162×10−18
(ここで、Nはアボガドロ数(モル−1)である。)
本装置を用いた測定は、装置に付属の「TriStar3000 取扱説明書V4.0」に従うが、具体的には、以下の手順で測定する。
充分に洗浄、乾燥した専用のガラス製試料セル(ステム直径3/8インチ、容積約5ml)の風袋を精秤する。そして、ロートを使ってこの試料セルの中に約0.1gのシリカ微粉末を入れる。
シリカ微粉末を入れた前記試料セルを真空ポンプと窒素ガス配管を接続した「前処理装置 バキュプレップ061(島津製作所社製)」にセットし、23℃にて真空脱気を約10時間継続する。尚、真空脱気の際には、シリカ微粉末が真空ポンプに吸引されないよう、バルブを調整しながら徐々に脱気する。セル内の圧力は脱気とともに徐々に下がり、最終的には約0.4Pa(約3ミリトール)となる。真空脱気終了後、窒素ガスを徐々に注入して試料セル内を大気圧に戻し、試料セルを前処理装置から取り外す。そして、この試料セルの質量を精秤し、風袋との差からシリカ微粉末の正確な質量を算出する。尚、この際に、試料セル内のシリカ微粉末が大気中の水分等で汚染されないように、秤量中はゴム栓で試料セルに蓋をしておく。
次に、シリカ微粉末が入った前記の試料セルのステム部に専用の「等温ジャケット」を取り付ける。そして、この試料セル内に専用のフィラーロッドを挿入し、前記装置の分析ポートに試料セルをセットする。尚、等温ジャケットとは、毛細管現象により液体窒素を一定レベルまで吸い上げることが可能な、内面が多孔性材料、外面が不浸透性材料で構成された筒状の部材である。
続いて、接続器具を含む試料セルのフリースペースの測定を行なう。フリースペースは、23℃においてヘリウムガスを用いて試料セルの容積を測定し、続いて液体窒素で試料セルを冷却した後の試料セルの容積を同様にヘリウムガスを用いて測定して、これらの容積の差から換算して算出する。また、窒素の飽和蒸気圧Po(Pa)は、装置に内蔵されたPoチューブを使用して、別途に自動で測定される。
次に、試料セル内の真空脱気を行った後、真空脱気を継続しながら試料セルを液体窒素で冷却する。その後、窒素ガスを試料セル内に段階的に導入してシリカ微粉末に窒素分子を吸着させる。この際、平衡圧力P(Pa)を随時計測することにより前記した吸着等温線が得られるので、この吸着等温線をBETプロットに変換する。尚、データを収集する相対圧Prのポイントは、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30の合計6ポイントに設定する。得られた測定データに対して最小二乗法により直線を引き、その直線の傾きと切片からVmを算出する。さらに、このVmの値を用いて、前記したようにシリカ微粉末のBET比表面積を算出する。
(7)疎水性シリカ微粉末の疎水化度の測定
疎水性シリカ微粉末0.2gを容量250mlのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで撹拌した。これにビューレットを使用してメタノールを加え、疎水性シリカ微粉末の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴定をした。この際メタノールが直接試料に触れない様に、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノールの容量%の値を疎水化度とした。
(8)チタン酸ストロンチウムの体積基準のメジアン径(D50)の測定
JIS Z8825−1(2001年)に準じて測定されるが、具体的には以下の通りである。
測定装置としては、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置「LA−920」(堀場製作所社製)を用いる。測定条件の設定および測定データの解析は、LA−920に付属の専用ソフト「HORIBA LA−920 for Windows(登録商標) WET(LA−920) Ver.2.02」を用いる。また、測定溶媒としては、予め不純固形物などを除去したイオン交換水を用いる。
測定手順は、以下の通りである。
1.バッチ式セルホルダーをLA−920に取り付ける。
2.所定量のイオン交換水をバッチ式セルに入れ、バッチ式セルをバッチ式セルホルダーにセットする。
3.専用のスターラーチップを用いて、バッチ式セル内を撹拌する。
4.「表示条件設定」画面の「屈折率」ボタンを押し、ファイル「110A000I」(相対屈折率1.10)を選択する。
5.「表示条件設定」画面において、粒子径基準を体積基準とする。
6.1時間以上の暖気運転を行なった後、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を行なう。
7.ガラス製の100ml平底ビーカーに約60mlのイオン交換水を入れる。この中に分散剤として、「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
8.発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2ml添加する。
9.前記7.のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
10.前記9.のビーカー内の水溶液に超音波を照射した状態で、約1mgのチタン酸ストロンチウムを少量ずつ前記ビーカー内の水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、この際にチタン酸ストロンチウムが固まりとなって液面に浮く場合があるが、その場合はビーカーを揺り動かすことで固まりを水中に沈めてから60秒間の超音波分散を行なう。また、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
11.前記10.で調製したチタン酸ストロンチウムが分散した水溶液を、気泡が入らないように注意しながら直ちにバッチ式セルに少量ずつ添加して、タングステンランプの透過率が90%〜95%となるように調整する。そして、粒度分布の測定を行う。得られた体積基準の粒度分布のデータを元に、体積基準のメジアン径(D50)を算出する。
本発明のトナーを作製するには、結着樹脂、着色剤、その他の添加剤等を、ヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合機により十分混合してから加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーのような熱混練機を用いて溶融混練する。その後、冷却固化後粉砕及び分級を行い、更に必要に応じて所望の添加剤をヘンシェルミキサー等の混合機により十分混合し、本発明のトナーを得ることができる。
前述した結着樹脂を用いて、所望のマルテンス硬さを持つトナーを得るためには、トナー中の材料分散性を制御することが重要となる。
本発明においては、熱混練工程における溶融時のトナーを制御することで達成できることが明らかとなった。
図2は、本発明において用いることができる混練装置の概略図を示している。また、図3は、混練装置におけるパドルの詳細図を示している。図2に示すようにニーディング部は3か所以上有することが好適であり、3か所以上のニーディング部を通過させることによって最適な分散状態を得ることができる。
ここで本発明のトナーを得るためには、供給口に近い方の第1ニーディング部を低温にし、押出口に近い方の第2ニーディング部を高温、第3ニーディング部をさらに高温にする事がより好ましい。
低温の第1ニーディング部では溶融粘度の低い、離型剤が一旦完全に溶融し、半溶融状態の低分子量樹脂や高分子量樹脂、磁性体のメカニカルなシェアによってトナー全体に分散される。次に、高温の第2ニーディング部では低分子量樹脂が完全に溶融し、高分子量樹脂や磁性体のメカニカルなシェアによってトナー全体に分散される。そして、より高温の第3ニーディング部では、高分子量樹脂が完全溶融し、低分子量結着樹脂及び離型剤の隙間へと広がっていく。
このように混練条件を調節する事で、硬さの異なる原材料が一部に偏析する事なく、均一に分散でき、本発明特有の表面硬さを得易くなるのである。
製造装置として、例えば混合機としては、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサ一(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)が挙げられる。混練機としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)が挙げられる。この中でもTEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミルが所望の材料分散性を得る上で好ましい。粉砕機としては、カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン社製);IDS型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製);クロスジェットミル(栗本鉄工所社製);ウルマックス(日曹エンジニアリング社製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業社製);クリプトロン(川崎重工業社製);ターボミル(ターボエ業社製);スーパーローター(日清エンジニアリング社製)が挙げられ、分級機としては、クラッシール、マイクロンクラッシファイアー、スペディッククラシファイアー(セイシン企業社製);ターボクラッシファイアー(日清エンジニアリング社製);ミクロンセパレータ、ターボプレックス(ATP)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製);エルボージェット(日鉄鉱業社製)、ディスパージョンセパレータ(日本ニューマチックエ業社製);YMマイクロカット(安川商事社製)が挙げられ、粗粒などをふるい分けるために用いられる篩い装置としては、ウルトラソニック(晃栄産業社製);レゾナシーブ、ジャイロシフター(徳寿工作所社);バイブラソニックシステム(ダルトン社製);ソニクリーン(新東工業社製);ターボスクリーナー(ターボエ業社製);ミクロシフター(槙野産業社製);円形振動篩い等が挙げられる。
本発明に使用される感光体を製造するための製造装置及び製造方法を以下に述べる。
図4は本発明のa−Si系感光体を作製するための高周波電源を用いたRFプラズマCVD法による感光体の堆積装置の一例を模式的に示した図である。
この装置は大別すると、反応容器302を有する堆積装置301、原料ガス供給装置315、および、反応容器302内を減圧する為の排気装置(図示せず)から構成されている。
堆積装置301中の反応容器302内にはアースに接続された導電性基体304、導電性基体加熱用ヒーター305、および、原料ガス導入管306が設置されている。
さらにカソード電極303には高周波マッチングボックス307を介して高周波電源312が接続されている。
原料ガス供給装置315は、下記から構成されている。
原料ガスボンベ321〜325、バルブ326〜330、圧力調整器342〜346、流入バルブ331〜335、流出バルブ336〜340およびマスフローコントローラ316〜320である。
各原料ガスを封入したガスのボンベは補助バルブ341を介して反応容器302内の原料ガス導入管306に接続されている。
次にこの装置を使った堆積膜の形成方法について説明する。まず、あらかじめ脱脂洗浄した導電性基体304を反応容器302に受け台314を介して設置する。次に、排気装置(図示せず)を運転し、反応容器302内を排気する。真空計311の表示を見ながら、反応容器302内の圧力がたとえば1Pa以下の所定の圧力になったところで、基体加熱用ヒーター305に電力を供給し、導電性基体304を例えば50℃から350℃の所望の温度に加熱する。このとき、ガス供給装置315より、Ar、He等の不活性ガスを反応容器302に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
次に、ガス供給装置315より堆積膜形成に用いるガスを反応容器302に供給する。
すなわち、必要に応じバルブ326〜330、流入バルブ331〜335、流出バルブ336〜340を開き、マスフローコントローラ316〜320に流量設定を行う。
各マスフローコントローラの流量が安定したところで、真空計311の表示を見ながらメインバルブ310を操作し、反応容器302内の圧力が所望の圧力になるように調整する。
所望の圧力が得られたところで高周波電源312より高周波電力を印加すると同時に高周波マッチングボックス307を操作し、反応容器302内にプラズマ放電を生起する。その後、速やかに高周波電力を所望の電力に調整し、堆積膜の形成を行う。
所定の堆積膜の形成が終わったところで、高周波電力の印加を停止し、バルブ326〜330、流入バルブ331〜335、流出バルブ336〜340、および補助バルブ341を閉じ、原料ガスの供給を終える。
同時に、メインバルブ310を全開にし、反応容器302内を1Pa以下の圧力まで排気する。
以上で、堆積層の形成を終えるが、複数の堆積層を形成する場合、再び上記の手順を繰り返してそれぞれの層を形成すれば良い。原料ガス流量や、圧力等を光導電層形成用の条件に一定の時間で変化させて、接合領域の形成を行うこともできる。
すべての堆積膜形成が終わったのち、メインバルブ310を閉じ、反応容器302内に不活性ガスを導入し大気圧に戻した後、導電性基体304を取り出す。
本発明の感光体は、従来周知の感光体の表面層に比べてSi原子及びC原子の原子密度を上げて、原子密度の高い膜構造の表面層を形成している。
上述したように、本発明の原子密度の高いa−SiC表面層を作製する場合には、表面層作成時の条件にもよるが、一般的に、反応容器に供給するガス量が少ない方が良い。
さらに、高周波電力は高い方が良く、反応容器内の圧力が高い方が良く、また、導電性基板の温度が高い方が良い。
まず、反応容器内に供給するガス量を減らし、且つ高周波電力を上げることにより、ガスの分解を促進させることができる。
これにより、Si原子供給源(例えば、SiH4)よりも分解し難いC原子供給源(例えば、CH4)を効率良く分解することができる。
その結果、H原子の少ない活性種が生成され、基体上に堆積した膜中のH原子が減少するため原子密度の高いa−SiC表面層が形成可能となる。
また、反応容器内の圧力を高めることで、反応容器内に供給された原料ガスの滞留時間が長くなる事、さらに原料ガスの分解により生じたH原子により弱結合Hの引き抜き反応が生じる事も、Si原子とC原子のネットワーク化が促進には寄与している。
更に、導電性基板の温度を上げることにより、導電性基板に到達した活性種の表面移動距離が長くなり、より安定した結合をつくることができる。その結果、a−SiC表面層として、より構造的に安定した配置に各原子が結合しているためであると考えている。