本発明は、成形時には良好な流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合には、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する繊維強化プラスチックの製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば自動車部材、スポーツ用具、航空機部材等に好適に用いられる繊維強化プラスチックの製造方法に関する。
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。
繊維強化プラスチックの成形方法としては、プリプレグ基材と称される連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することにより熱硬化性樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。また、近年では生産効率の向上を目的として、あらかじめ部材形状に賦形した連続繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸および硬化させるRTM(レジントランスファーモールディング)成形なども行われている。これらの成形法により得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維である所以優れた力学物性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のバラツキも小さい。しかしながら、一方で連続繊維である所以3次元形状を形成することは難しい、という問題があった。
特に複雑な3次元形状の場合、さらにこの問題は深刻であった。複雑な3次元形状に、例えば紙など面内でせん断変形を起こしにくいシートを想像すると分かりやすいが、このような連続繊維基材を賦形した場合には、形状表面を覆いきれない箇所で突っ張りが、基材が余った箇所でシワが発生するため、高品位な賦形が難しい。連続繊維基材であっても、織物基材のように面内でせん断変形が可能な場合は、紙などに比べるとかなり賦形しやすいものの、形状が複雑になれば、やはり繊維の突っ張りやシワが発生してしまう、という問題があった。
例えば、BMC(バルクモールディングコンパウンド)、SMC(シートモールディングコンパウンド)やスタンパブルシートのように束状の不連続繊維を熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂と混合して分散したプリプレグ基材を用いれば、を有する3次元形状にも成形追従することが分かっているものの、力学的特性が低いため、構造部材には適用できないという問題があった。
上述のような材料の欠点を埋めるべく、連続繊維と熱可塑性樹脂からなるプリプレグに切込を入れることにより、流動可能で力学物性のバラツキも小さくなるとされる基材が開示されている(例えば、特許文献1,2)。しかしながら、SMCと比較すると力学特性が大きく向上し、バラツキが小さくなるものの、構造材として適用するには十分な強度とは言えない。さらには、連続繊維基材と比較すると切込という欠陥を内包した構成であるために、応力集中点である切込が破壊の起点となり、特に引張強度、引張疲労強度が低下する、という問題があった。
特開昭63−247012号公報
特開平9−254227号公報
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する繊維強化プラスチックの製造方法を提供することにある。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂から構成されるプリプレグ基材の積層体をプレス成形し、3次元曲面を有する繊維強化プラスチックを得る繊維強化プラスチックの製造方法であって、少なくとも次の(1)〜(4)の工程を経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法である。
(1)プリプレグ基材に、刃を配置した抜き型を押し当てて複数の断続的または連続的な切込を挿入し、少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断して短繊維群を形成する切込挿入工程であって、前記切込と前記強化繊維とのなす角をΘとしたとき、Θの絶対値が2〜25°の範囲内である、切込挿入工程
(2)前記(1)の切込挿入工程と同時または連続して、前記短繊維群を含むプリプレグ基材を所定形状に切り抜き、切抜プリプレグ基材とする切抜工程
(3)前記切抜プリプレグ基材を複数枚積層し、プリプレグ積層体を得る積層工程
(4)成形型上に前記積層体を配置し、前記積層体を前記成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックを成形するに際し、前記成形型の屈曲部の少なくとも一部に前記短繊維群をあてがい、前記成形型の屈曲部に沿わせる成形工程。
本発明によれば、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、構造材に適用可能な優れた力学物性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する繊維教科プラスチックを得ることができる。
本発明者らは、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックの製造方法について、鋭意検討し、一方向に引き揃えられた炭素繊維とマトリックス樹脂から構成されるプリプレグ基材という特定の基材に特定の切込パターンを挿入した切込プリプレグ基材を用い、該切込プリプレグ基材を平板状に積層した積層体において切込により特定の範囲内の繊維長さの強化繊維のみから構成される領域を押し付け伸張させて繊維強化プラスチックを成形することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したのである。
なお、本発明の製造方法は3次元曲面を有する繊維強化プラスチックを対象とする。繊維強化プラスチックの一部にリブやボスなどがあってもよい。また、本明細書では、特に断らない限り、繊維あるいは繊維を含む用語(例えば“繊維方向”など)において、繊維とは強化繊維を表すものとする。また、本明細書では連続繊維とは100mm以上の繊維長さを持つ強化繊維を指す。本発明で用いられるプリプレグ基材には、一方向に引き揃えられた強化繊維や強化繊維基材に樹脂が完全に含浸した基材に加え、樹脂シートが繊維間に完全に含浸していない状態で一体化した樹脂半含浸基材(セミプレグ:以下、半含浸プリプレグと称することもある。)を含むものとする。
本発明の成形方法を、図16を用いて説明する。3次元曲面を有する繊維強化プラスチックを成形するにあたり、連続繊維基材を用いて成形する場合は、繊維強化プラスチックの表面形状を展開した平面状のカットパターンを作成し、該カットパターンで裁断した連続繊維基材を成形型に厳密に沿わせて賦形し、積層数分だけそれを繰り返して積層体を作製する必要がある。仮にこのような手順を踏まず、単純なプリプレグ積層体を成形型に配置し成形を行おうとすれば、図16(a)に示すように、繊維が突っ張り、基材が伸張しないために成形型端部に基材未充填部が形成される、あるいは成形物のR部にしわや樹脂リッチ部25が形成される、といった問題が生じる。一方、本発明に係る切込プリプレグ基材を用いて成形する場合には、不連続部が伸張して複雑形状に沿うため、複雑なカットパターンとしなくてもよく、また成形型(すなわち成形後の繊維強化プラスチック)の形状に完全に沿わせて賦形しなくても(すなわち成形後の繊維強化プラスチックの略形状に賦形しても)よいため、一気に平板状に積層した後に成形型上に配置できるので、極めて高効率に繊維強化プラスチックを製造できる。その結果、図16(b)のように、基材未充填部、樹脂リッチ部のない繊維強化プラスチックを得ることができる。
本発明の繊維強化プラスチックの製造方法では、(a)プリプレグ基材に切込を挿入することで切込プリプレグ基材を得る切込挿入工程、(b)切込プリプレグ基材を目的の形状に切り抜く切抜工程、(c)切抜後の切込プリプレグ基材を複数枚積層し、プリプレグ積層体を得る積層工程、(d)プリプレグ積層体を成形型内に配置し、マトリックス樹脂を固化する成型工程、といった(a)〜(d)の少なくとも4つの工程を経る。本発明における4つの工程のフローを図1に示す。
切込挿入工程(a)では、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂、あるいは熱可塑性樹脂)から構成されるプリプレグ基材に、刃を配置した抜き型を押し当てることによって複数の断続的または連続的な切込を挿入し、少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さ繊維からなる短繊維群に分断する。プリプレグ基材に含まれる強化繊維は長い程、力学特性に優れるものの、成形時には強化繊維が突っ張り、繊維配向方向に伸張することが難しい。そこで、プリプレグ基材であって、伸張させたい方向に繊維が配向している場合、切込を挿入し前記プリプレグ基材中の一部の強化繊維を短繊維とすることで繊維配向方向にも伸張することが可能となる。(以下、前記短繊維群を含むプリプレグ基材を切込プリプレグ基材と称する。)
プリプレグ基材に断続的な切込を挿入する代表的な方法としては、次の3つが考えられる。1つ目は、カッターナイフのような一枚刃を用いて手作業で切込を挿入したり、自動裁断機(指定したCAD図面に沿って前記一枚刃や丸刃を移動させ、基材を裁断する装置)を用いてプリプレグ基材に切込を挿入したりするカッター法である。カッター法は、後述の打抜法、回転刃法と異なり抜き型を作製する必要もなく、パターン変更などには柔軟に対応できる。また、汎用的に使用されている自動裁断機は盤面が数m角級の大型のものが多いため、大型部材成形用の基材を作成するための手段として有効である。ただし、切込の数が多くなればなるほど切込の挿入にかかる時間が長くなるため、量産的な手法とは言い難い。2つ目は、プレス機(昇降機)を用いて、プリプレグ基材に刃を配置した抜き型を間欠的に押し当てることによって、プリプレグ基材に切込を挿入する打抜法である。
図2には、打抜法による切込プリプレグ基材の製造方法の一例を示す。打抜法は、1回のプレスにより多量の切込を一度にプリプレグ基材に挿入することができるなど生産効率もよく、抜き型の加工も容易である。3つ目は、予め刃を配置した回転刃に連続的にプリプレグ基材を押し当てることにより、プリプレグ基材に切込を挿入する回転刃法である。
図3には、回転刃法による切込プリプレグ基材の製造方法の一例を示す。回転刃法では、前述のカッター法、打抜法と比較しても連続的に切込を挿入することが可能であり、切込の挿入速度を速く設定できるため有利である。本発明においては、切込を挿入する手段として、上記のいずれの手法を用いてもよいが、量産性を鑑みると打抜法あるいは回転刃法のいずれかの手段を用いるのがよい。
切抜工程(b)では、前記切込挿入工程と同時または連続して、前記切込プリプレグプリプレグ基材を切り抜く(以後、前記切抜後のプリプレグ基材を切抜プリプレグ基材と称することもある)。本発明の製造方法では、切込の位置精度が得られる繊維強化プラスチックの強度・外観品位のバラツキを支配する。従来の技術では、切込挿入工程と切抜工程とが独立していたために、切抜プリプレグ基材の外縁と切込との相対位置がまちまちとなり、繊維強化プラスチックとした際の強度・外観品位のバラツキが大きくなっていた。本発明では、切込挿入工程と切抜工程とを同時または連続して実施することにより、プリプレグ基材に挿入されている切込に対して、精度よく切抜プリプレグ基材を作製することが可能となる。なお、本発明における“前記切込挿入工程と連続して“とは、プリプレグ基材を送る装置が切込挿入工程と切抜工程とで同一であることを意味する。
切抜を具体的に行う手段としては、前述のカッター法、打抜法、回転刃法のいずれを用いてもよい。図2には切込挿入工程と切抜工程において、共に打抜法を採用した例を、また図3には、切込挿入工程と切抜工程において、共に回転刃法を採用した例を示している。また、切抜工程は切込挿入工程の後に行うことが好ましい。もし順序が逆の場合、切抜プリプレグ基材は周囲を把持されていないため、切込挿入時に基材が動き、意図した位置に切込を挿入するのが難しくなる。
本発明に係る切抜プリプレグ基材に含まれる前記短繊維群の繊維長さLは10〜100mmの範囲内とするのがよい。短繊維群の繊維長さLを100mm以下とすることにより、成形時に該箇所は流動可能、特に繊維配向方向にも流動可能となり、複雑な形状への形状追従性にも優れる。前記短繊維群がない場合、すなわち連続繊維のみの場合、繊維配向方向には流動しないため、複雑形状を形成することは出来ない。また、繊維長さLを10mm未満にすると、さらに流動性が向上するが、他の用件を満たしても構造材として必要な高力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは20〜60mmの範囲内である。切込のパターンによっては、一部に繊維長さが10mm以下の繊維が形成されてしまうこともあるが、繊維長さが10mmとなる繊維が少なければ少ないほどよい。さらに好ましくは、10mm以下の繊維が配向している面積が、短繊維群の面積に占める割合の20%より小さいのがよい。
積層工程(c)では、複数の前記切抜プリプレグ基材を積層し、プリプレグ積層体を得る。このとき、前記短繊維群を含む切抜プリプレグ基材を少なくとも一部に有するように、切抜プリプレグ基材をその繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化されているように複数枚積層するのが好ましい。2方向以上に配向させることにより、流動性・力学物性の異方性の小さい繊維強化プラスチックを得ることができる。また、例えば前記短繊維群を含むプリプレグ基材と切込のない一方向基材や織物基材であるプリプレグ基材を用いてハイブリッド積層してもよい。
成形工程(d)では、前記プリプレグ積層体を、加熱した成形型に配置し加圧加熱する(熱可塑性樹脂の場合)、あるいは加熱した成形型に配置し加圧冷却する(熱可塑性樹脂の場合)ことで樹脂を固化させ、繊維強化プラスチックとする。樹脂を硬化あるいは固化し、繊維強化プラスチックとすることによりはじめて、軽量でありながら高強度かつ高剛性な部材として使用することが可能となる。樹脂を固化させる方法、すなわち繊維強化プラスチックを成形する方法としては、プレス成形、VaRTM成形、オートクレーブ成形、シートワインディング成形等が挙げられる。中でも、生産効率を考慮するとプレス成形が好ましい。
本発明は、成形工程(d)において、成形型上に前記積層体を配置し、前記積層体を前記成形型に押し付けて硬化または固化させ、繊維強化プラスチックを成形するに際し、前記成形型の屈曲部の少なくとも一部に前記短繊維群をあてがうことを特徴とする。前記短繊維群を成形型の屈曲部にあてがい、成形型に押し付けることで、積層体を3次元曲面に沿わせることができる。なお、本発明の製造方法は、その形状が平滑面であったり、ゆるやかな曲面であったりした場合に適用可能であるが、さらにその形状の一部にリブあるいは立ち面を有する3次元的に複雑な部材を成形する場合は、本発明の製造方法を用いるメリットが大きい。仮に連続繊維プリプレグ基材の積層体を加熱加圧し、立ち面、あるいはリブ形状を含む部材を単純にプレス成形しようとすれば、繊維が成形型の形状に沿うことができず、あるいは成形型のキャビティの端部まで繊維が充填されず、良好な品位の成形体を得るのが非常に困難である。本発明のように、短繊維群を含むプリプレグ基材を使用すれば、立ち面、あるいはリブ形状を含む部材であっても、プレス成形時に基材が高い流動性を発揮するために容易に良好な品位の成形体を得ることが可能である。
本発明に係る成形方法としては、前記積層体よりも前記成形型を高温にして、前記成形型に前記積層体を押し付けて樹脂を硬化または固化させるのがよい。このとき、積層体を成形型に配置し、成形型の温度を適切な温度に上昇させた後、積層体を成形型に押し当てても構わない。積層体の温度が上昇すると共に樹脂の粘度が一時的に低下し、基材が流動性を増す。このときに積層体を成形型に押し当てることで、積層体を所定の形状に沿わせることが可能となる。熱硬化性樹脂の場合は、その後さらに積層体に熱を加えると樹脂が硬化し、所望の繊維強化プラスチックを得ることができる。一方、熱可塑性樹脂の場合は、その後成形型の温度を下げ、積層体の温度を下げることにより樹脂が固化し、所望の繊維強化プラスチックを得ることができる。
さらに前記樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、前記積層体を加熱した後に、前記積層体よりも前記成形型を低温にして、前記積層体を前記成形型に押し付けて固化させるのがよい。加熱した積層体を低温の成形型に配置し、積層体の温度が高く樹脂の粘度が低いうちに成形型に基材を押し付けることで、積層体を所定の形状に沿わせることができる。また、積層体の温度をさらに低下させることで、樹脂を固化させ所望の繊維強化プラスチックを得ることができる。この場合、成形型の温度を昇温させる必要がないため、成形時間をさらに短縮することができる。
本発明に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。
前述のように、本発明に係るプリプレグ基材に用いられるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂のいずれを用いてもよい。
一般にマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、プリプレグ基材は室温においてタック性を有している。そのため該基材を単純に重ねるのみで該基材が粘着により一体化され、容易に積層体を作製することが可能である。さらに、熱硬化性樹脂から構成されるプリプレグ積層体は、室温において優れたドレープ性を有するため、例えば、凹凸部を有する型を用いて成形する場合、予めその凹凸に沿わした予備賦形を容易に行うことが出来る。この予備賦形により成形性は向上し、流動の制御も容易になる。熱硬化性樹脂の候補としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などが挙げられる。さらに好ましくは熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等や、それらの混合樹脂がよい。これらの樹脂の常温(25℃)における樹脂粘度としては、1×106Pa・s以下であることが好ましく、この範囲内であれば本発明を満たすタック性およびドレープ性を有するプリプレグ基材を得ることができる。中でもエポキシ樹脂は炭素繊維と組み合わせて得られる強化繊維複合材料としての力学特性に最も優れている。
一方、マトリックス樹脂を熱可塑性樹脂とすれば、一般に熱硬化性樹脂よりも成形に要する時間を短くすることができ、量産性は熱硬化性樹脂よりも優れている。ただし、熱可塑性樹脂を用いたプリプレグ基材は室温においてタック性を有してらず、単純にこれらを重ねたのみの基材を成形型に投入すれば、該基材同士が滑るため積層構成がずれてしまい、結果として繊維の配向ムラの大きい繊維強化プラスチックとなる。特に、凹凸部を有する型で成形する際は、その差異が顕著に現れる。そのため、基材を投入する前に予め複数のプリプレグ基材を加熱・冷却処理などして連結し積層体とすることで、基材の取り扱い性も良好となり、繊維強化プラスチックとした場合には、繊維の配向ムラも小さくすることが可能となる。本発明に用いる熱可塑性樹脂の候補としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどが挙げられる。
さらに、図4のように切込挿入工程と切抜工程との2つの工程を同一の成形型で行われることが好ましい。これにより、切抜プリプレグ基材の外縁と切込との相対位置がさらに精度よいものとなり、より強度・外観品位のバラツキの少ない繊維強化プラスチックを量産することができる。また、前記2つの工程を同一の抜き型を用いて行うことで、基材を裁断する機構を2つ設ける必要がなくなり、設備費を大幅に軽減することもできる。
また、前記切込挿入工程において、切込と強化繊維となす角度Θ(以下、切込角度と称することもある)の絶対値は2〜25°の範囲内である必要がある。このときの切込パターンの一例を図5に示す。Θの絶対値が25°より大きくても流動性は得ることができ、従来のSMC等と比較して高い力学特性は得ることができるが、特にΘの絶対値が25°以下であることで力学特性の向上が著しい。一方、Θの絶対値は2°より小さいと流動性も力学特性も十分得ることが出来るが、切込を安定して入れることが難しくなる。すなわち、繊維に対して切込が寝てくると、切込を入れる際、繊維が刃から逃げやすく、また、短繊維群の繊維長さLを100mm以下とするためには、Θの絶対値が2°より小さいと少なくとも切込同士の最短距離が0.9mmより小さくなるなど、生産安定性に欠ける。また、このように切込同士の距離が小さいと積層時の取り扱い性が難しくなるという問題がある。切込の制御のしやすさと力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは5〜15°の範囲内である。なお、本発明におけるΘとは、切込上の任意の点を点Xとしたとき、点Xにおける繊維配向方向と切込とのなす角をθ(X)とすれば、Θはθ(X)の切込上の平均値、すなわち(式1)によって与えられる値とする。ここで、図6に示すように、切込の端点をそれぞれ点A、点Bとし、点Aと点Bを結び、切込に沿った曲線をCとしており、また点Xにおける曲線Cの微小線分をdsとしている。
以下、本発明において、プリプレグ基材に挿入する切込パターンの好ましい例を、図7〜10を用いて説明する。
強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材上に制御されて整列した切込2を複数入れる。繊維配向方向の対になる切込2同士で繊維が分断され、その間隔31を10〜100mmとすることで、実質的にプリプレグ基材の短繊維群に含まれる強化繊維すべてを繊維長さLが10〜100mmにすることができる。また、図5に示すように、切込と強化繊維となす角度17をΘとするとΘの絶対値は全面で2〜25°の範囲内である。図7a)ではΘの絶対値が90°、b)では25°より大きい例を示しているが、これらの例では本発明により得られうる高強度を発現することは出来ない。
図8には、5つの異なる切込パターンを有するプリプレグ基材が示されている。図8a)の切込プリプレグ基材3は、等間隔をもって配列された斜行した連続、直線状の切込2を有する。図8b)の切込プリプレグ基材3は、2種類の間隔をもって配列された斜行した連続、直線状の切込を有する。図8c)の切込プリプレグ基材3は、等間隔をもって配列された連続、曲線(蛇行線)の切込2を有する。図8d)の切込プリプレグ基材3は、等間隔をもって配列され、かつ、2種類の異なる方向に斜行した断続的な直線状の切込2を有する。図8e)の切込プリプレグ基材3は、等間隔をもって配列された斜行した断続的な直線状の切込2を有する。切込は図8c)のように曲線でも構わないが図8a)、b)、d)、e)のように直線状である方が流動性をコントロールしやすく好ましい。また、切込により分断される強化繊維の長さLは、図8b)のように一定でなくてもよいが、繊維長さLが全面で一定であると流動性をコントロールしやすく、強度ばらつきをさらに押さえることができるため好ましい。なお、ここで規定の直線状とは、幾何学上の直線の一部をなしている状態を意味するが、前記流動性のコントロールを容易にするという効果を損なわない限り、前記幾何学上の直線の一部をなしていない箇所があっても差支えが無く、その結果、繊維長さLが全面で一定とはならない箇所があっても(この場合、繊維長さLが実質的に全面で一定であると言えるので)差支えが無い。
さらに好ましい例[1]としては、図8a)〜c)のように、切込2aが連続して入れられているのがよい。例[1]のパターンでは、切込2aが断続的でないため、切込端部付近での流動乱れが起きず、切込2aを入れた領域では、すべての繊維長さLを一定とすることができ、流動が安定している。切込2aが連続的に入れられているため、切込プリプレグ基材3がばらばらになってしまうのを防ぐ目的で、切込プリプレグ基材の周辺部に切込がつながっていない領域を設けたり、切込の入っていないシート状の離型紙やフィルムなどの支持体で把持したりすることで、取り扱い性を向上させることができる。
また、他の好ましい例[2]としては、図5のように、切込を強化繊維の垂直方向に投影した長さ18をWsとしたとき、Wsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切込2bが切込プリプレグ基材3全面に設けられており、切込2b1と前記切込2b1を繊維配向方向に隣接した切込2b2の幾何形状が同一であるとよい。ここで、“切込が、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図5に示すとおり、プリプレグ層の面内において、切込を強化繊維の垂直方向(繊維直交方向14)を投影面として、切込から該投影面に垂直(繊維配向方向13)に投影した際の長さ18を指す。Wsが30μm以下となると、切込の制御が難しく、切込プリプレグ基材全面に渡ってLが10〜100mmとなるよう、保障することが難しい。すなわち、切込により切断されていない繊維が存在すると基材の流動性は著しく低下するが、多めに切込を入れるとLが10mmを下回る部位が出てきてしまう、という問題点がある。逆にWsが10mmより大きいときにはほぼ強度が一定に落ち着く。すなわち、繊維束端部がある一定以上に大きくなると、破壊が始まる荷重がほぼ同等となる。図5では、LとWsがいずれも一種類である例を示している。いずれの切込2b(例えば4b1)も繊維方向に平行移動することで重なる他の切込2b(例えば4b2)がある。前記繊維方向の対になる切込2b同士により分断される繊維長さLよりさらに短い繊維長さで隣接する切込により分断され繊維が分断される幅19が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材3を製造できる。例[2]のパターンでは、得られた切込プリプレグ基材3を積層する際、切込が断続的なため取り扱い性に優れる。図8d)、e)にはその他のパターンも例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。
好ましい例[2]において、力学特性の観点から好ましくは、強化繊維の垂直方向に投影した長さWsが0.1mm〜1.5mmの範囲内であるのがよい。Wsを小さくすることにより、一つ一つの切込により分断される繊維量が減り、強度向上が見込まれる。特に、Wsが1.5mm以下とすることで、大きな強度向上が見込まれる。また、切込長さが長ければ長いほど、積層作業時に基材の切込が開口し易くなり、基材の取り扱い性が大幅に低下する。切込が1.5mm以下であれば、積層作業時に切込が開口しにくく、基材の取り扱い性の良い切込プリプレグ基材となる。なお、本発明において、切込角度Θの絶対値が2〜25°であることにより、切込長さに対して投影長さWsを小さくすることができる。そのため、Wsが1.5mm以下という極小の切込であっても、工業的に安定して設けることが可能となる。また、プリプレグ基材に刃を押し当てることによって切込を挿入しようとする場合、裁断時に炭素繊維が繊維直交方向に蛇行し刃から逃げるために、繊維をうまく裁断できないことがある。このような繊維逃げの影響を小さくするためには、Wsは0.1mm以上であることが好ましい。より好ましくはWsを0.2mm以上とすることで、より連続繊維を残すことなくプリプレグ基材に切込を挿入することが可能となる。
本発明に用いる切込プリプレグ基材の特徴を図9、10、11を用いて説明する。本発明の比較として図9には、切込2が繊維16となす角度Θの絶対値が90°である切込プリプレグ基材3を積層したプリプレグ積層体6をa)、その積層体6を成形した繊維強化プラスチック9をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材3由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材3は、繊維に垂直な切込を全面に設けられており、切込2は層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体6より面積が伸長した繊維強化プラスチック13を得ることができる(ただし、厚みは減る)。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック13を得た際、切込プリプレグ基材3由来の短繊維層21は、繊維直交方向に伸長すると共に、繊維が存在しない領域(切込開口部)22が生成される。これは一般的に強化繊維が成形程度の圧力では伸長しないためであり、図9のケースでは、伸張した長さ分だけ切込開口部22が生成され、例えば250×250mmのプリプレグ積層体6から300×300mmの繊維強化プラスチック9を得た際には、300×300mmの繊維強化プラスチック9の表面積に対して、切込開口部22の総面積は50×300mm、すなわち1/6(約16.7%)が切込開口部となる計算である。この領域22は断面図に示すとおり、隣接層23が侵入してきて、略三角形の樹脂リッチ部25と隣接層が侵入している領域とで占められる。従って、切込プリプレグ基材3を用いたプリプレグ積層体6を伸長して成形した場合、繊維束端部24では層のうねり26や樹脂リッチ部25が発生し、これが力学特性の低下や表面品位の低下に影響を与える。また、繊維がある部位とない部位で剛性が異なるため、面内異方性の繊維強化プラスチック9となり、ソリなどの問題から設計が難しい。また、強度の面では、荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維が大部分の荷重を伝達しているが、その繊維束端部24では隣接層23に荷重を再分配しなければならない。その際、図9b)のように、繊維束端部24が荷重方向に垂直となっていると、応力集中が起きやすく、剥離も起こりやすい。そのため、強度向上はあまり期待できない。
一方で図10には、本発明の好ましい例[1]の切込プリプレグ基材3を積層した積層体6をa)、その積層体6を成形した繊維強化プラスチック9をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材3由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材3は、繊維16となす角度Θの絶対値が25°以下の連続した切込2aが全面に設けられており、切込2aは層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体6より面積が伸長した繊維強化プラスチック9を得ることが出来る。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック9を得た際、切込プリプレグ基材3由来の短繊維層21は、繊維直交方向に伸長すると共に、繊維16自体が回転27して伸長領域の面積を稼ぐため、図9のように繊維が存在しない領域(切込開口部)22が実質的に生成せず、切込開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内である。従って、断面図を見ても分かるとおり、隣接層23が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高強度で品位の高い繊維強化プラスチック9を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維16が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この繊維が回転して伸長し、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るという画期的効果は、切込と強化繊維とのなす角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ、切込が連続して入れられていることで初めて得ることができる。また、強度の面では、前述と同様に荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維に注目すると、図10b)のように、繊維束端部24が荷重方向に対して寝てきている様子がわかる。繊維束端部24が層厚み方向に斜めとなっているため、荷重の伝達がスムーズであり、繊維束端部24からの剥離も起こりにくい。従って、図9に比べ格段の強度向上が見込まれる。この繊維束端部24が層厚み方向に斜めとなるのは上述の繊維が回転する際、上面と下面の摩擦により上面から下面で繊維16の回転27になだらかな分布があるためで、そのため、層厚み方向に繊維16の存在分布が発生し、繊維束端部24が層厚み方向に斜めとなったと考えられる。このような繊維強化プラスチック9の層内で層厚み方向に斜めの繊維束端部を形成し、強度を著しく向上する画期的効果は切込2aの繊維16となす角度Θの絶対値が25°以下であることで初めて得ることができる。
図11には、本発明の好ましい例[2]の切込プリプレグ基材3を積層した積層体6をa)、その積層体6を成形した繊維強化プラスチック9をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材3由来の層をクローズアップした平面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材3は、繊維16となす角度Θの絶対値が25°以下の断続的な切込2が全面に設けられており、切込2は層の厚み方向を貫いている。切込2により繊維長さLを切込プリプレグ基材3の全面で100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体6より面積が伸長した繊維強化プラスチック9を得ることができる。切込長さ、切込角度を小さくすることにより、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることができる。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック9を得た際、切込プリプレグ基材3由来の短繊維層21は、繊維直交方向に伸長する際、繊維方向に繊維が伸張しないため、繊維が存在しない領域(切込開口部)22が生成されるが、隣接する短繊維群が繊維直交方向に流動することで、切込開口部22を埋め、切込開口部22の面積が小さくなる。この傾向は特に、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで顕著となり、実質的に切込開口部22が生成せず、切込開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内とすることができる。従って、厚み方向に隣接層が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高強度で品位の高い繊維強化プラスチック9を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維16が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この切込開口部を繊維直交方向の流動により埋め、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るという画期的効果は切込角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで初めて得ることができる。さらに好ましくはWsが1mm以下であることにより、より高強度、高品位とすることができる。
本発明に係るプリプレグ積層体は、全層が切込プリプレグ基材で構成されており、実質的にすべての強化繊維の繊維長さが10〜100mmの範囲内とするのがよい。前記プリプレグ積層体の全層を切込プリプレグ基材とし、実質的にすべての強化繊維を短繊維とすることで、伸張方向に寄らず、均一的に基材を伸張させることができる。特に、成形対象とする形状が複雑であり基材の流動過程が容易に想定できない場合は、全層を切込プリプレグ基材とすることで容易に良好な品位の成形体を得ることができるため好ましい。なお、“実質的に強化繊維のすべてが前記切込により分断され”ているとは、プリプレグ積層体に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることを言う。
本発明に係る切込プリプレグ基材は、切込が多くなればなるほど、また切込が長ければ長いほど、切込プリプレグ基材の剛性が低下し、基材が変形し易くなる。これによって、積層作業時に切込プリプレグ基材を持ち上げた際、切込プリプレグ基材の形状が崩れるなど、取り扱いが難しくなる。そのような問題を回避するために、図12に示すように、前記プリプレグ基材において抜き型10を押し当てる側とは反対側をテープ状支持体30によって把持し、テープ状支持体30を残したままプリプレグ基材1のみを裁断する、いわゆるハーフカットを実施するのがよい。これにより、切込の量が多くても、テープ状支持体が切込プリプレグ基材の変形を抑制するため、基材の取り扱い性が大幅に向上する。ここで、テープ状支持体とは、クラフト紙などの紙類やポリエチレン・ポリプロピレンなどのポリマーフィルム類、アルミなどの金属箔類などが挙げられ、さらに樹脂との離型性を得るために、シリコーン系や“テフロン(登録商標)”系の離型剤や金属蒸着等を表面に付与しても構わない。このとき、刃の先端28がプリプレグ基材1に進入する量としては、刃の先端28の進入する量がプリプレグ基材1をちょうど切断する深さであってもよいが、この場合、幾多の裁断によって刃11が磨耗すると、切り残しが多発する可能性がある。そのため、刃がプリプレグ基材1を貫通し、テープ状支持体30の一部にのみ侵入するのがよい。さらに、テープ状支持体30の厚みとしては、厚みが大きいと材料コストが増し経済的ではない。しかし、厚みが薄すぎると、プリプレグ基材1に抜き型10を押し当てた際に、刃の先端28をテープ状支持体30の内部に留めることが難しくなる。その結果、刃の先端28がテープ状支持体30を完全に貫通した場合には、切込プリプレグ基材の取り扱い性が低下し、カット部の先端がテープ状支持体に到達しなかった場合には、繊維を切断することができず、切込プリプレグ基材中に連続繊維が残り、成形時の流動性が低下する。そのため、テープ状支持体30の厚みは30〜300μmが好ましく、さらに好ましくは50〜200μmである。
前記(1)の切込挿入工程、あるいは前記(2)の切抜工程において、前記プリプレグ基材を冷却する冷却機構を設けて、前記強化繊維の分断の前もしくは前記プリプレグ基材の切り抜きの前に、または、前記強化繊維の分断時もしくは前記プリプレグ基材の切り抜き時に、前記プリプレグ基材を冷却するのがよい。特に熱硬化性樹脂を使用したプリプレグ基材では、温度が高くなると樹脂の粘度が低下し、強化繊維が刃から逃げやすくなる。プリプレグの温度を低下させることで、樹脂粘度を高く保ち、カットミスを防ぐことが出来る。プリプレグ基材を冷却する手法としては、例えばチルドプレートと呼ばれる冷却した金属プレートにプリプレグ基材を直接接触させたり、また、冷却したローラーにプリプレグ基材を直接接触させたりする手法が有効である。
前述のように、前記切込挿入工程あるいは前記基材切抜工程において、平板状の土台に複数の刃が取り付けられた打抜刃を抜き型として使用するのがよい。例えば、刃を土台となる金属板、ベニヤ板などに埋め込み、これを抜き型としてプレス機に取り付けるのが好ましい。この手法を用いれば、抜き型の作製が容易であり、また刃の突出量などを簡単に調整することもできる。さらに刃を金属から直接削りだす必要がないため、より耐久性のある刃を抜き型に使用することができ、安定的にプリプレグ基材の裁断を行うことができる。
さらに、前記切込挿入工程あるいは前記基材切抜工程において、ローラーに複数の刃が設けられた回転刃を抜き型として使用するのがよい。回転刃を基材の送り速度にあわせて回転刃を基材に押し当てながら回転するのみで切込を挿入することができるため、生産性もよく好ましい。
なお、回転刃を用いる場合には、直接ローラーを削りだして所定の刃を設けてもよいが、平板を削りだして所定の位置に刃を配置したシート状の型を巻きつける機構をとれば、刃の取りかえが容易で好ましい。このような回転刃を用いることで、Wsの小さな(具体的には1mm以下であっても)切込プリプレグ基材でも良好に切込を挿入することができる。なお、シート状の型をローラーに固定する際には、接着剤などを用いて直接ローラー表面に貼り付けてもよいが、真空吸引して前記型をローラーに固定する、あるいは前記型を金属製とし、マグネットなどにより磁力で固定するなどの方法を取れば、型が着脱可能となり、刃劣化時の交換作業などを円滑に進めることができる。
ただし、前記板状の刃を使用して、例えば図8(a)のような切込を挿入する場合、刃の継ぎ目において切込パターンを回転刃の周方向に連結させることが難しくなる。その場合は、図13(a)のように切込の方向に沿った帯状の刃を、図13(b)のように螺旋状にローラーに巻きつけることにより回転刃を作製すれば、回転刃の周方向に切込パターンを連続させることができる。
本発明の製造方法により成形された繊維強化プラスチックの用途としては、強度、剛性、軽量性が要求される、自転車用品、ゴルフ等のスポーツ部材のシャフトやヘッド、ドアやシートフレームなどの自動車部材、ロボットアームなどの機械部品がある。中でも、強度、軽量に加え、複雑な形状の成形追従性が要求されるシートパネルやシートフレーム等の自動車部品に好ましく適用できる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるというものではない。
<プリプレグ基材の作製方法>
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:30重量部、“エピコート(登録商標)”1001:35重量部、“エピコート(登録商標)”154:35重量部)に、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K)5重量部をニーダーで加熱混練してポリビニルホルマールを均一に溶解させた後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5重量部と、硬化促進剤3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土谷化学工業(株)製DCMU99)4重量部を、ニーダーで混練して未硬化のエポキシ樹脂組成物を調整した。このエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターを用いてシリコーンコーティング処理された厚さ100μmの離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。
一方向に配列させた炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa)の両面に前記手順により得られた樹脂フィルムをそれぞれ重ね、加熱・加圧することによって樹脂を含浸させ、単位面積あたりの炭素繊維重さ125g/m2、繊維体積含有率Vf55%、厚み0.125mmのプリプレグ基材を作製した。
<凸形の繊維強化プラスチックの成形方法>
図15に示す成形型を用いて、凸形の繊維強化プラスチックを成形した。150℃に熱した金型の空隙部に積層基材を配置し、成形温度150℃、保持時間30分、成形圧力5MPaの条件下で成形を行った。
また、得られた凸形の繊維強化プラスチックの成形体の性状より、その表面品位を以下のように評価した。端部まで基材が充填しておらず、かつR部が黄色がかって見え樹脂リッチ部が観察されたものを×、前者あるいは後者のどちらか片方のみが確認できたものを△、いずれも確認されなかったものを○とした。
<平板成形方法>
250×250mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部にプリプレグ積層体を配置した後、加熱型プレス成形機により、5MPaの加圧のもと、150℃×30分間の条件により硬化させた。これにより、250×250mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。
<機械物性評価方法>
前記手順により、得られた平板状の繊維強化プラスチックから、長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。JIS K−7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。さらに、測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値(%))を算出した。
(比較実施例1)[切込角度90°、切込全面]
前記手順により得られた一方向プリプレグ基材に切込を挿入し、切込プリプレグ基材を得た。まず、500mm×500mm、厚さ5mmの金属板から、刃を多数削り出し、プリプレグ基材に切込を挿入するための抜き型を作製した。図14に抜き型の刃の配置図を示す。抜き型10の中央部、直径300mmの領域に、長さWが10mmの刃11が間隔10mmで複数並んでおり、刃からなる列34を形成している。この刃からなる列と抜き型の基準方向35とのなす角α(36)は90°である。さらに、隣接する刃からなる列は、抜き型の基準方向に15mmの間隔37で配置されており、隣接する刃からなる列は互いに基準方向と垂直な方向38に半位相ずれている。さらに、同じく500mm×500mm、厚さ5mmの金属板から、直径300mmの円状の刃を削り出し、これを切抜工程に用いる抜き型とした。
次に、図2に示すように、前記2つの抜き型をプレス機に取り付け、抜き型の基準方向と基材の送り方向(プリプレグ基材の繊維長手方向)が一致するようにプリプレグ基材を送りつつ、抜き型をプリプレグ基材に押し当て、プリプレグ基材に切込を挿入した。このとき、得られた切込プリプレグ基材の切込パターンは、図14の刃の配置図がそのまま転写されたパターンとなった。得られた切込プリプレグ基材の表面を、デジタルマイクロスコープを用いて撮影し、倍率が100倍となるようにプリントアウトし、曲線定規を用いて切込長さW、繊維長さL、投影長さWsを計測したところ、それぞれ、W=10mm、L=30mm、Ws=10mmであった。また、切込の中心線を20等分し、各微小線分と繊維長手方向とのなす角を分度器で計測し、その平均値を切込と炭素繊維とのなす角度の絶対値Θとすると、Θは90°であった。前記切抜プリプレグ基材を16層疑似等方([−45/0/+45/90]2S)に積層し、直径300mmの円板状のプリプレグ積層体を得た。
前記積層体を前記手順により凸形の繊維強化プラスチックを成形した。得られた繊維強化プラスチックは図9(b)のように切込部の開口が観察されたが、ソリもなく、金型の端部まで基材が充填しており、良好な表面品位を保っていた。
また、前記積層体の端部を切り落とし、200mm×200mmの矩形状のプリプレグ積層体を作製した。さらに前記手順に従い、250mm×250mmの平板形の繊維強化プラスチックを成形し、引張試験を実施した。その結果、引張強度は380MPa、CV値は4%となり、後述する比較例2のSMCに比べて大幅に高強度であり、かつバラツキの小さい結果となり、十分に製品に適用できるレベルにあることが確認できた。
(比較実施例2、実施例3〜6、比較実施例7)[切込角度の比較(表1)]
切込の角度を変えた他は比較実施例1と同様にして、平板形、凸形の繊維強化プラスチックを得た。比較実施例2は切込角度Θが1°、実施例3は切込角度Θが2°、実施例4は5°、実施例5は10°、実施例6は25°、比較実施例7は45°の方向に連続的な切込を設けた。
得られた平板形の繊維強化プラスチックはいずれも繊維のうねりがなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。また、切込の角度が小さくなればなるほど、切込部の開口が小さくなる傾向にあった。また、凸形の繊維強化プラスチックにおいても同様の傾向が見られた。引張弾性率は46〜47GPa、引張強度は350〜680MPaと高い値であり、引張強度のCV値は4〜6%とバラツキの小さい結果であった。切込の角度が小さくなればなるほど、力学強度も向上することが確認できた。一方、比較実施例2では切込角度が小さいため、切込が非常に密に挿入されているため、積層時の取り扱い性に若干難があった。
(実施例8〜12)[投影長さWsの比較(表2)]
切込の長さを変えた以外は実施例5と同様にして、平板形、凸形繊維強化プラスチックを得た。それぞれ切込の繊維の垂直方向に投影した投影長さWsは、実施例8では0.07mm、実施例9では0.17mm、実施例10では0.26mm、実施例11では1.5mm、実施例12では2.0mmとした。このとき、実際の切込の長さはそれぞれ、実施例8では0.40mm、実施例9では1.0mm、実施例10では1.5mm、実施例11では8.6mm、実施例12では11.5mmであった。
得られた繊維強化プラスチックは実施例8を除いて繊維のうねりがなかった。一方、実施例8では、Wsがあまりに小さいと繊維が蛇行して切り残しが多発するためか、やや流動性が低下することも確認できた。その他、いずれの繊維強化プラスチックもその端部まで繊維が充分に流動しており、ソリもなく、良好な外観品位を保っていた。特に、実施例8〜11においては、最外層の切込部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、非常に良好な表面品位であった。また、引張強度は590MPa〜730GPaと非常に高い水準であった。また、Wsが小さければ小さいほど高強度となり、その傾向はWsが1.5mm以下で特に強くなることが確認できた。
(実施例13〜15)[繊維長さの比較(表3)]
繊維長さを変えた以外は実施例5と同様にして、平板形、凸形繊維強化プラスチックを得た。繊維長さLを、実施例13では10mm、実施例14では60mm、実施例15では100mmとした。
得られた凸形の繊維強化プラスチックは、いずれも成形型の端部まで基材が充填しており、概ね実施例5と比較しても遜色ない良好な品位であった。ただし、実施例15のR部に若干黄色がかってみえる箇所があり、樹脂リッチ部が形成されていると考えられた。繊維長が長くなればなるほど流動性が低下する傾向にあることが確認できた。
引張強度に関しては、520MPa〜650MPaと非常に高強度であった。また、繊維長が長くなればなるほど、高強度となる傾向があることを確認できた。
(実施例16)[切込挿入工程のみハーフカット]
切込挿入工程において、刃の先端が離型紙を貫通しないようにする以外は、実施例5と同様にして繊維強化プラスチックを得た。このとき、刃の刃先が離型紙に進入する深さは、離型紙の半分の深さとした。
得られた切抜プリプレグ基材は、離型紙によって支持されているため、積層作業時に基材が変形することもなく、安易にプリプレグ積層体を作製することができた。本技術は、作業効率の大幅な向上に繋がる技術であると考えられた。
また、得られた凸形の繊維強化プラスチックは、金型の端部まで基材が充填しており、またR部においても樹脂リッチ部は観察されず、実施例5と比較しても遜色ない良好な品位であった。
(実施例17)[切込が凸部のみの場合]
切込挿入工程に使用する抜き型の刃を配置する領域を直径150mmの円内とする以外は、実施例5と同様の手段により凸形の繊維強化プラスチックを得た。このとき、切抜プリプレグ基材は、直径300mmの円状のプリプレグ基材であって、その中心の直径150mmの円内のみに切込が多数挿入されていた。
得られた凸形の繊維強化プラスチックは、金型の端部まで基材が充填しており、またR部においても樹脂リッチ部は観察されず、実施例5と比べて遜色のない良好な品位であった。切込の量を屈曲部のみとすることで、切込の量を抑えつつも、高い流動性が得られることが確認できた。(なお、切込の量を少なくすることは、力学強度の面からも、加工費の面からも好ましい。)
(実施例18)[熱可塑性樹脂]
使用するマトリックス樹脂を熱可塑性樹脂とする以外は、実施例5と同様にして繊維強化プラスチックを得た。
共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM4000、ポリアミド6/66/610共重合体、融点155℃)のペレットを、200℃で加熱したプレス機で34μm厚みのフィルム状に加工した。離型紙を用いなかった他は実施例5と同様に切抜プリプレグ基材を得た後、16層を疑似等方([−45/0/+45/90]2S)に重ね、170°に加熱したプレス機で1MPaの条件で間欠的に数回加圧し、プリプレグ積層体とした。
さらに、実施例5と同様の金型を用いて凸形の繊維強化プラスチックを成形した。予め200°に加熱した金型内に前記プリプレグ積層体を配置し、6MPaの加圧のもと、1分間の条件で流動せしめ、型を開けることなく、冷却した後、脱型して、凸形の繊維強化プラスチックを得た。
得られた凸形の繊維強化プラスチックは、得られた凸形の繊維強化プラスチックは、金型の端部まで基材が充填しており、またR部においても樹脂リッチ部は観察されず、実施例5と比べて遜色のない良好な品位であった。マトリックス樹脂を熱可塑樹脂とした場合であっても、良好な品位の成形体が得られることが確認できた。
(実施例19)[切込挿入・切抜工程の抜き型を同一とする]
切込挿入工程と切抜工程に用いる抜き型を同一とする以外は、実施例5と同様にして平板形ないしは凸形の繊維強化プラスチックを得た。
500mm×500mm、厚さ5mmの金属板から、切込挿入工程に用いた刃と同様の刃を削り出し、その後、切抜工程に用いた直径300mmの円状の刃を削り出し、これを抜き型とした。前記抜き型を実施例5の切込挿入工程用のプレス機に取り付け、前記プレス機を稼動させ(切抜工程のプレス機は停止)、切抜プリプレグ基材を得た。
得られた凸形の繊維強化プラスチックは、金型の端部まで基材が充填しており、またR部においても樹脂リッチ部は観察されず、実施例5と比べて遜色ない良好な品位であった。また、切込挿入工程と切抜工程を同時に行うことで、基材裁断に費やしていた設備費、加工費などを大幅に削減できた。
(実施例20)[回転刃]
使用する抜き型を回転刃とする以外は実施例19と同様にして、平板形ないしは凸形の繊維強化プラスチックを得た。
実施例19の切込パターンにおいて、平板状の金属を削りだす代わりに、円柱状の金属を削りだし円周上に複数の刃を設けて回転刃ローラーとし、該回転刃ローラーをプリプレグ基材に押し当てることによって切抜プリプレグ基材を得た。使用した金属ローラーは、軸方向長さ40cm、直径180mmの円柱状のローラーである。このローラーから実施例19と同様の切込パターンとなるように多数の刃を削りだし、回転刃ローラーを作製した。この回転刃ローラーと、これに対となるゴムローラーを、互いのローラーの軸が平行となるように、かつ互いに接するように配置した。さらに、両ローラーを回転させつつ、両ローラーの間に基材を送り込むことによって、切込挿入工程、切抜工程を実施した。
得られた凸形の繊維強化プラスチックは、金型の端部まで基材が充填しており、またR部においても樹脂リッチ部は観察されず、実施例19と比べて遜色のない良好な品位であった。
以下、比較例を示す。
(比較例1) [連続繊維プリプレグ基材との比較]
プリプレグ基材に切込を入れなかった他は、比較実施例1と同様とした。
得られた凸形の繊維強化プラスチックは、金型の端部まで基材が充填しておらず、樹脂だまりができていた。また、中央のR部近傍では、金型にプリプレグ積層体が強く押し付けられたため、樹脂が搾取され、樹脂表面ががさがさしており、製品には適用できなさそうだった。
(比較例2) [SMCとの比較]
比較実施例1の一方向プリプレグ基材を繊維長30mm、幅5mmに裁断してチョップド原料プリプレグとし、そのチョップド原料プリプレグをランダムに配向させながらニップロールで加圧してそれぞれを接着したものを用いる点以外は、比較実施例1と同様にしてプリプレグ基材および積層体を得て、平板状の繊維強化プラスチックを成形した。
得られた平板状の繊維強化プラスチックは、炭素繊維がうねりを伴い、金型端部まで炭素繊維が均等かつ充分に流動したが、流動状態が均一でないため線膨張係数の差異によりソリを生じた。また、引張強度は210MPaと比較実施例1と比べて大幅に低く、流動状態が均一ではないため、CV値は12%と高く、バラツキが大きかった。
(比較例3)[切込挿入工程と切抜工程が別の場合]
切込挿入工程が終了後、切込プリプレグ基材を一度ロール状に巻き取り、再度切込プリプレグ基材を引き出して、切抜工程を実施したこと以外は実施例5と同様にして凸形の繊維強化プラスチックを得た。
プリプレグ基材をかけ直したことにより、抜き型の位置と切込プリプレグ基材内の切込との相互位置が
最大4mmほどずれることとなった。工程が増えるためのコスト増加という観点のみならず、品質保証という観点からも本手法は不適切であると考えられた。
(比較例4、5)[繊維長さの比較]
実施例5の切込パターンにおいて、切込の間隔を変えることにより繊維長さLを変えた以外は、実施例5と同様にして、平板形、凸形の繊維強化プラスチックを得た。それぞれLは、比較例4では7.5mm、比較例5では120mmとした。
比較例4においては、繊維長さが短いために、基材に挿入した切込の量が多く、積層作業にはかなりの難があった。また、引張強度は450MPaと実施例5など比べても低く、またCV値も9%とバラツキの大きい結果であった。
比較例5においては、凸形の繊維強化プラスチックの端部に、樹脂リッチ部が形成されていることが確認できた。繊維長さが長すぎたために、十分な流動性を得ることができず、金型の端部まで繊維が充填しなかったものと考えられた。
本発明の製造方法のフローを示す概略図である。
本発明における切込挿入工程、切抜工程の一例を示す斜視図である。
本発明における切込挿入工程、切抜工程の一例を示す斜視図である。
本発明における切込挿入工程、切抜工程の一例を示す斜視図である。
本発明の切込パターンの一例を示す平面図である。
本発明の切込パターンの一例を示す平面拡大図である。
比較用の切込パターンの一例を示す平面図である。
本発明の切込パターンの一例を示す平面図である。
比較用のプリプレグ積層体、ならびに繊維強化プラスチックの一例を示す平面図、および断面図である。
本発明に係るプリプレグ積層体、ならびに繊維強化プラスチックの一例を示す平面図、および断面図である。
本発明に係るプリプレグ積層体、ならびに繊維強化プラスチックの一例を示す平面図である。
本発明における切込挿入工程、切抜工程の一例を示す断面図である。
本発明に使用する抜き型の一例を示す平面図および斜視図である。
本発明に使用する抜き型の一例を示す平面図である。
本発明における成形方法の一例を示す平面図および斜視図である。
(a)は、比較用の成形方法ならびに繊維強化プラスチックの一例を示す斜視図、ならびに断面図であり、(b)は、本発明の成形方法ならびに繊維強化プラスチックの一例を示す斜視図、ならびに断面図である。
符号の説明
1:プリプレグ基材
2:切込
3:切込プリプレグ基材
4:短繊維群
5:切抜プリプレグ基材
6:プリプレグ積層体
7:成形型
8:屈曲部
9:繊維強化プラスチック
10:抜き型
11:刃
12:土台
13:繊維配向方向
14:繊維直交方向
15:回転刃
16:強化繊維
17:切込と繊維配向方向とのなす角Θ
18:切込を強化繊維の垂直方向に投影した長さWs
19:繊維が分断される幅
20:繊維長さ
21:短繊維層
22:強化繊維の存在しない領域(切込開口部)
23:隣接層
24:繊維束端部
25:樹脂リッチ部
26:層うねり
27:強化繊維の回転
28:刃先
29:フィルム
30:テープ状支持体
31:板状の型
32:型端部
33:ローラー
34:刃からなる列
35:抜き型の基準方向
36:角α
37:刃からなる列の間隔
38:抜き型の基準方向とは垂直な方向
39:成形型(上型)
40:成形型(下型)
41:基材未充填部