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JP5347392B2 - 延性に優れたホットプレス部材、そのホットプレス部材用鋼板、およびそのホットプレス部材の製造方法 - Google Patents

延性に優れたホットプレス部材、そのホットプレス部材用鋼板、およびそのホットプレス部材の製造方法 Download PDF

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JP5347392B2
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Description

本発明は、ダイとパンチからなる金型内で加熱された鋼板を加工すると同時に急冷して高強度化の図られるホットプレス部材、特に、1300〜1450MPaの引張強度TSと8%以上の全伸びElを有する延性に優れたホットプレス部材、そのホットプレス部材用鋼板、およびそのホットプレス部材の製造方法に関する。
従来より、自動車などに用いられる構造部材は、所望の強度を有する鋼板をプレス加工して製造されている。近年、自動車車体の軽量化の要請に基づき、素材である鋼板としては、例えば板厚が1.0〜4.0mm程度の高強度鋼板が望まれているが、鋼板を高強度化すればするほどその加工性は劣化し、鋼板を所望の部材形状に加工することが困難になる。
そこで、特許文献1に記載されているような、金型内で加熱された鋼板を加工すると同時に急冷して高強度化を図るホットプレスと呼ばれる(ダイクエンチとも呼ばれる)構造部材の製造方法が注目され、1.0〜1.5GPaのTSを必要とする一部の部材では実用化されている。この方法では、950℃前後の高温で鋼板を加工するため、冷間プレスおける加工性の問題が軽減され、また、水冷された金型により焼入れるため、変態組織を利用して部材を高強度化でき、素材である鋼板の合金元素の添加量を削減できるというメリットがある。
一方、自動車に用いられる構造部材には、ドアガードバーやサイドメンバーのように、自動車の衝突時の安全性を確保する観点から、高い延性が要求されるものもある。しかし、特許文献1に記載されているような従来のホットプレス部材は、延性が十分でなく、こうした要求を満足していない。
最近、特許文献2には、フェライト+オーステナイトの2相となる温度域でホットプレスを行い、ホットプレス後の組織を面積率で40〜90%のフェライトと10〜60%のマルテンサイトの2相組織とし、780〜1180MPa級のTSと10〜20%のElを有する延性に優れたホットプレス部材が提案されている。
英国特許第1490535号公報 特開2007-16296号公報
しかしながら、特許文献2に記載のホットプレス部材では、高々1270MPa程度のTSしか得られず、自動車車体のさらなる軽量化を図る上で十分な強度を有しているとはいいがたい。
本発明は、1300〜1450MPaのTSと8%以上、より好ましくは10%以上のElを有する延性に優れたホットプレス部材、そのホットプレス部材用鋼板、およびそのホットプレス部材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
i) 組成の適正化を図り、組織全体に占めるフェライト相の面積率が5〜65%で、マルテンサイト相の面積率が35〜95%であり、かつフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径が7μm以下であるミクロ組織にすることにより、1300〜1450MPaのTSで、8%以上、より好ましくは10%以上のElを有するホットプレス部材とすることができる。
ii) それには、ホットプレス部材用鋼板として、旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する冷延鋼板を用い、フェライト+オーステナイトの2相となる温度域でホットプレスすることが有効である。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.05〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織全体に占めるフェライト相の面積率が5〜65%で、マルテンサイト相の面積率が35〜95%であり、かつ前記フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径が7μm以下であるミクロ組織を有することを特徴とする延性に優れたホットプレス部材を提供する。
本発明のホットプレス部材には、さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有させることができる。さらにまた、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種や、B:0.0005〜0.05%や、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を、個別にあるいは同時に含有させることが好ましい。
本発明は、また、ホットプレス部材用鋼板として、上記の組成を有し、旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する冷延鋼板を提供する。
本発明のホットプレス部材は、本発明のホットプレス部材用鋼板を、10℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、下記の式(1)の範囲内の温度T℃で1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行う方法により製造できる。
{(0.27925-C)(Ac3-Ac1)+0.35(0.77-C)Ac1}/{0.35(0.77-C)}≦T≦
{(0.73225-C)(Ac3-Ac1)+0.95(0.77-C)Ac1}/{0.95(0.77-C)}・・・(1)
ただし、
Ac1=750.8-26.6C+17.6Si-11.6Mn-23.0Ni+24.1Cr-22.9Cu+22.5Mo-39.7V-5.7Ti+232.6Nb-169.4Al-894.7B、
Ac3=881-206C+53Si-15Mn-20Ni-1Cr-27Cu+41Moであり、
式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
このとき、ホットプレス中に、パンチを下死点にて1〜60秒間保持し、3〜400℃/秒の冷却速度にて部材を冷却したり、ホットプレス後に、部材を金型より取り出し、液体または気体を用いて冷却することが好ましい。
本発明により、1300〜1450MPaのTSと8%以上、より好ましくは10%以上のElを有する延性に優れたホットプレス部材を製造できるようになった。本発明のホットプレス部材は、自動車のドアガードバーやサイドメンバーのような衝突時の安全性を確保するための構造部材に好適である。
以下、本発明を具体的に説明する。なお、組成に関する「%」表示は特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
1) ホットプレス部材
1-1) 組成
C:0.15〜0.30%
Cは、鋼の強度を向上させる元素であり、ホットプレス部材のTSを1300MPa以上にするには、その量を0.15%以上とする必要がある。一方、C量が0.30%を超えると、TSを1450MPa以下とすることが困難となる。したがって、C量は0.15〜0.30%、好ましくは0.18〜0.25%とする。
Si:0.05〜3.0%
Siは、C同様、鋼の強度を向上させる元素であることに加えて、フェライト相の安定化元素であるため、ホットプレス前の2相域に加熱時に平衡状態に到達する速度を速め、加熱時間の短縮を可能にする。また、Ac3変態点を上げ、ホットプレス前の加熱時に2相域となる温度範囲を広げるため、ホットプレスでの製造条件を緩和し、ホットプレス部材の安定したTSやElの確保を可能にする。こうした効果の発現のためには、Si量を0.05%以上、望ましくは0.20%以上、さらに望ましくは0.50%以上とする必要がある。一方、Si量が3.0%を超えると、熱間圧延時に赤スケールと呼ばれる表面欠陥の発生が著しく増大するとともに、圧延荷重が増大したり、熱延鋼板の延性の劣化を招く。以上から、Si量は0.05〜3.0%とする。また、ZnやAlを主体としためっき皮膜を鋼板表面に形成するめっき処理を施す場合は、Si含有量が多すぎるとめっき処理性に悪影響を及ぼす場合があるため、この観点からは、1.0%以下とすることが好ましい。
Mn:1.0〜4.0%
Mnは、焼入れ性を向上させるのに効果的な元素であり、ホットプレス部材のTSを1300MPa以上にするには、その量を1.0%以上とする必要がある。一方、Mn量が4.0%を超えると、偏析して素材の鋼板およびホットプレス部材の特性の均一性が低下する。したがって、Mn量は1.0〜4.0%とする。
P:0.05%以下
P量が0.05%を超えると、偏析して素材の鋼板およびホットプレス部材の特性の均一性が低下するとともに、靭性も著しく低下する。したがって、P量は0.05%以下とする。なお、過度の脱P処理はコスト高を招くので、P量は0.001%以上とすることが好ましい。
S:0.05%以下
S量が0.05%を超えると、ホットプレス部材の靭性が低下する。したがって、S量は0.05%以下とする。
Al:0.005〜0.1%
Alは、鋼の脱酸剤として添加される。こうした効果を得るためには、Al量を0.005%以上とする必要がある。一方、Al量が0.1%を超えると、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、Al量は0.005〜0.1%とする。
N:0.01%以下
N量が0.01%を超えると、熱間圧延時やホットプレス前の加熱時にAlNの窒化物を形成し、素材の鋼板のブランキング加工性や焼入れ性を低下させる。したがって、N量は0.01%以下とする。
残部はFeおよび不可避的不純物であるが、以下の理由により、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種や、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種や、B:0.0005〜0.05%や、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を、個別にあるいは同時に含有させることが好ましい。
Ni:0.01〜5.0%
Niは、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Ni量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Cu:0.01〜5.0%
Cuは、Ni同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cu量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Cr:0.01〜5.0%
Crは、CuやNi同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Cr量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr量が5.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は5.0%とすることが好ましい。
Mo:0.01〜3.0%
Moは、Cu、NiやCr同様、鋼を強化するとともに、焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。また、結晶粒の成長を抑制し、細粒化により靭性を向上させる効果も有する。こうした効果の発現のためには、Mo量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo量が3.0%を超えると、著しいコスト高を招くため、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Ti:0.005〜3.0%
Tiは、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、次に述べるBよりも優先して窒化物を形成して、固溶Bによる焼入れ性の向上効果を発揮させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Ti量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Ti量が3.0%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、ホットプレス部材の靭性が低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
Nb:0.005〜3.0%
Nbは、Ti同様、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果の発現のためには、Nb量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Nb量が3.0%を超えると、炭窒化物の析出が増大し、延性や耐遅れ破壊性が低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
V:0.005〜3.0%
Vは、TiやNb同様、鋼を強化するとともに、細粒化により靭性を向上させるのに有効な元素である。また、析出物等として析出し、水素のトラップサイトとなって耐水素脆性を高める。こうした効果の発現のためには、V量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、V量が3.0%を超えると、炭窒化物の析出が顕著になり、延性が著しく低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
W:0.005〜3.0%
Wは、V同様、鋼の強化、靭性の向上、耐水素脆性の向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、W量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、W量が3.0%を超えると、延性が著しく低下するので、その上限は3.0%とすることが好ましい。
B:0.0005〜0.05%
Bは、ホットプレス時の焼入れ性やホットプレス後の靭性向上に有効な元素である。こうした効果の発現のためには、B量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、B量が0.05%を超えると、熱間圧延時の圧延荷重が極端に増大し、また、熱間圧延後にマルテンサイト相やベイナイト相が生じて鋼板の割れなどが生じるので、その上限は0.05%とすることが好ましい。
REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%
REMやCaは、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性や耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、REMやCa量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、REMやCa量が0.01%を超えると、熱間加工性が劣化するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
Mg:0.0005〜0.01%
Mgも、介在物の形態制御に有効な元素であり、延性を向上させたり、他元素との複合析出物や複合晶出物を生成し、耐水素脆性の向上に寄与する。こうした効果の発現のためには、Mg量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg量が0.01%を超えると、粗大酸化物や硫化物を生成して延性が低下するので、その上限は0.01%とすることが好ましい。
1-2) ミクロ組織
1300〜1450MPaのTSと8%以上、より好ましくは10%以上のElを確保するには、組織全体に占めるフェライト相の面積率が5〜65%で、マルテンサイト相の面積率が35〜95%であり、かつフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径が7μm以下であるミクロ組織にする必要がある。フェライト相の面積率が65%を超える、すなわちマルテンサイト相の面積率が35%未満になると1300MPa以上のTSが確保できず、フェライト相の面積率が5%未満、すなわちマルテンサイト相の面積率が95%を超えると8%以上のElが確保し難い。特に、フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径を7μm以下にすることにより、1300MPa以上のTSが確実に達成される。より好ましくは、フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径は5μm以下とする。
なお、フェライト相とマルテンサイト相以外に、ベイナイト相、残留オーステナイト相、セメンタイト相およびパーライト相のうちの少なくとも1種の相を面積率で10%以下の範囲で含有しても、本発明の効果が損なわれることはない。
ここで、本願での熱延鋼板の旧オーステナイト平均粒径、冷延鋼板の平均粒径、部材のフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径は、JIS G 0551(2005)に準じて測定した。特に部材については、多くの場合フェライト相とマルテンサイト相の混合組織となるが、これらの2相を区別せず全体の平均粒度を求め、平均粒径を算出した。また、フェライト相とマルテンサイト相(あるいはさらにそれ以外の第2相)の相分率については、粒径測定に使用した組織写真を測定器に取り込み、画像解析にてフェライト相とマルテンサイト相あるいはさらにそれ以外の部分の面積率を求めた。
2) ホットプレス部材用鋼板
ホットプレス部材用鋼板には、上記のホットプレス部材の組成を有し、かつ旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径(フェライト相の平均粒径、あるいはさらに第2相を含む場合にはフェライト相と第2相の平均粒径)が15μm以下であるミクロ組織を有する冷延鋼板を用いることができる。これは、旧γ粒の平均粒径を15μm以下の熱延鋼板、冷間圧延組織からなる冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径が15μm以下である冷延鋼板を、フェライト+オーステナイトの2相となる温度域に加熱してホットプレスすることにより、ホットプレス部材のフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径を7μm以下にすることができ、1300MPa以上のTSが確実に得られるためである。なお、冷延鋼板には多くの場合フェライト相に面積率4.5%以下のセメンタイト相が析出しているが、平均粒径を求める際は、セメンタイト相を無視してフェライト相のみに着目して粒度を求め、平均粒径を算出した。また、一部の冷延鋼板(焼鈍温度がAc1を超えたもの)ではフェライト相に加えて第2相が混じる。この第2相とは焼鈍時の冷却の過程で生じるマルテンサイト相、ベイナイト相、あるいは両者が混合した相のことである。この場合に平均粒径を求める際は、フェライト粒と第2相粒(旧γ粒に相当)の全体の平均粒径を求めた。
旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板、冷間圧延組織からなるミクロ組織を有する冷間圧延ままの鋼板、あるいは平均粒径が15μm以下である冷延鋼板を使用することで、ホットプレス部材のフェライト相とマルテンサイト相の平均粒径を7μm以下にすることができる理由については、必ずしも明確ではないものの、ホットプレス前の加熱時にフェライトとオーステナイトの2相に変化させる際には粒界や歪の蓄積部分が核生成サイトとして働くため、元の鋼板の粒径を小さくしたり冷延で歪を導入したりすることで、核生成サイトの数が増加し、ホットプレス後の組織が細粒化するものと考えられる。特に、加熱速度が大きくなった場合には、働きにくい核生成サイトも有効に活用できるので一層の細粒化が可能となる。
ここで、旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織とした熱延鋼板は、例えば、仕上げ圧延入り側温度を1050℃以下、仕上げ圧延温度をAr3〜Ar3+30℃としてなるべくAr3近傍に制御し、冷却条件や巻取り温度は通常どおりに設定することで製造できる。冷間圧延組織からなるミクロ組織とした冷間圧延したままの鋼板は、通常の熱延条件で製造した熱延鋼板を冷間圧延して製造できる。冷間圧延時の圧下率(冷圧率ともいう)は、ホットプレス部材のフェライト相とマルテンサイト相の細粒化を図る上で、40%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましい。なお、冷圧率は、あまり大きくなると生産性が低下するため、85%以下が好ましい。フェライト相の平均粒径(第2相を含む場合にはフェライト相と第2相の平均粒径)が15μm以下である冷延鋼板は、例えば、冷圧率50%以上の冷間圧延ままの鋼板を用い、連続焼鈍ラインにて、焼鈍温度をAc1-50℃以下と低めに設定して製造するのが比較的容易である。この焼鈍温度よりも高いAc1〜Ac1-50℃に設定しても製造可能であるが、その場合は焼鈍前の冷圧率を約(目安として)65%以上に高くするなどの制約が必要となる。また、さらに焼鈍温度を高くしてAc1超としてもAc1を少し超える程度なら製造可能であるが、冷圧率を約75%以上とするなど、さらに制約が厳しくなる。なお、この場合、焼鈍後の冷延鋼板の組織にはAc1を超える度合いに応じて第2相が含まれる。Ac1をあまり大きく超えると第2相があまりに多くなり、硬くなるので、鋼板の取り扱いに不利となるため、Ac1以下とすることが好ましい。また、これらの鋼板の表面には、ZnやAlを主体としためっき皮膜の形成することもできる。ZnやAlを主体としためっき皮膜の形成には、通常の方法を適用できる。なお、Znを主体とするめっき皮膜とは、Al:0.001〜0.5%、Fe:0.001〜20%を含有するZn系めっき皮膜であり、Si、Mn、Cr、Niを含有させることもできる。また、Alを主体とするめっき皮膜とは、Si:1〜15%、Mg:0.5〜10%を含有するAl系めっき皮膜であり、Zn:1〜60%を添加することもできる。このように、ZnやAlを主体としためっき鋼板を用いることで、加熱時やホットプレス時にスケールの生成を抑制でき、ショットブラストなどのスケール除去の工程を設ける必要がなく、生産性を向上できる。
3) ホットプレス条件
本発明のホットプレス部材は、上記のホットプレス部材用鋼板を、10℃/秒以上、より好ましくは100℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、上記の式(1)の範囲内の温度Tで1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行う方法により製造できる。
加熱速度を10℃/秒以上としたのは、10℃/秒より遅いと、生産性が低下するとともに、加熱時に結晶粒の細粒化が図れず、1300MPa以上のTSが得られないためである。部材の組織を細かくする上では、加熱速度は速い方が好ましいため、より好ましくは100℃/秒以上とする。
加熱温度を上記の式(1)の範囲内の温度Tとしたのは、式(1)の下限温度を下回った場合には、フェライト相が適切な量よりも多く、マルテンサイト相が適切な量よりも少なくなって、必要なTSが得られず、逆に上限温度を上回った場合には、フェライト相が適切な量よりも少なく、マルテンサイト相が適切な量よりも多くなって、必要なElが得らないためである。なお、上記の式(1)は、フェライト相やマルテンサイト相の面積率を適正な範囲にできる温度範囲をFe-C系状態図の上から発明者らが概算で求めたものであり、実用に十分耐え得ることを確認している。また、式(1)中のAc1、Ac3は、それぞれAc1変態点、Ac3変態点を示している。
保持時間を1〜600秒間としたのは、1秒間未満だと、加熱時に十分な量のオーステナイト相が生成しないためマルテンサイト相による高強度化を図れず、600秒間を超えると、フェライト粒およびオーステナイト粒が粗大化して1300MPa以上のTSが得られないためである。より好ましくは、1〜240秒間である。
ホットプレス時の温度を550℃以上としたのは、550℃未満だと、冷却過程で軟質なフェライト相やベイナイト相が過剰に生成して1300MPa以上のTS確保が困難になるためである。
なお、ホットプレス中に、パンチを下死点にて1〜60秒間保持し、ダイとパンチを用いて冷却し、あるいはさらに空冷を組み合わせて3〜400℃/秒の冷却速度にて部材を冷却したり、ホットプレス後に、部材を金型より取り出し、液体または気体を用いて冷却することが、生産性の向上や1300MPa以上のTS確保の観点から好ましい。
表1に示す条件の鋼板No.A〜Pを、表2に示すホットプレス条件で加熱、保持、ホットプレス、冷却を行って、ハット形状のホットプレス部材No.1〜21を作製した。使用した金型はパンチ幅70mm、パンチ肩R4mm、ダイ肩R4mmで、成形深さは30mmである。加熱は、加熱速度に応じて赤外線加熱炉または雰囲気加熱炉のいずれかを用い、大気中で行った。また、冷却は、鋼板のパンチ・ダイ間での挟み込みと挟み込みから開放したダイ上での空冷とを組み合わせて行い、プレス(開始)温度から150℃まで冷却した。このとき、パンチを下死点にて保持する時間を1〜60秒の範囲で変えることで冷却速度を調整した。また、一部部材(部材No.20)は、ホットプレスでの成形直後に金型より取り出し、空気を用いて強制冷却した。このとき、これら冷却における冷却速度は、プレス温度から200℃までの平均の冷却速度とした。なお、鋼板No.Dは、冷間圧延後、CGLラインで焼鈍と溶融亜鉛めっき処理を行った亜鉛めっき鋼板である。また、鋼板No.C、Dは、フェライト相およびセメンタイト相からなり、平均粒径としてはフェライト相の平均粒径を求めた。
そして、作製したホットプレス部材のハット底部の位置からJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、TS、Elを測定した。なお、引張試験片の加工の際には、通常の機械加工で仕上げた後、平行部およびR部を#300〜#1500のペーパーで研磨し、さらにダイヤモンドペーストでバフ研磨して、機械加工による損傷を除去した。これは、TSが本願のような超高強度のレベルでは、通常の機械加工のみでは引張試験時に機械加工による損傷部分(小さなキズなど)から早期破断が起こり、本来のTSやElが評価できないためである。また、引張試験片の採取位置近傍の組織を、上記の方法により調査した。
結果を表2に示す。本発明であるホットプレス部材No.1、5〜7、10〜17、19〜21は、TSが1300〜1450MPaで、Elが8%以上であり、高強度で延性に優れたホットプレス部材であることがわかる。
Figure 0005347392
Figure 0005347392

Claims (13)

  1. 質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.05〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、組織全体に占めるフェライト相の面積率が5〜65%で、マルテンサイト相の面積率が35〜95%であり、かつ前記フェライト相とマルテンサイト相の平均粒径が7μm以下であるミクロ組織を有することを特徴とする延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
  2. さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
  3. さらに、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
  4. さらに、質量%で、B:0.0005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
  5. さらに、質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材。
  6. 質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.05〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、Al:0.005〜0.1%、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、旧γ粒の平均粒径が15μm以下であるミクロ組織を有する熱延鋼板であることを特徴とする延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材用鋼板。
  7. さらに、質量%で、Ni:0.01〜5.0%、Cu:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Mo:0.01〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材用鋼板。
  8. さらに、質量%で、Ti:0.005〜3.0%、Nb:0.005〜3.0%、V:0.005〜3.0%、W:0.005〜3.0%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6または7に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材用鋼板。
  9. さらに、質量%で、B:0.0005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材用鋼板。
  10. さらに、質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、Mg:0.0005〜0.01%の中から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材用鋼板。
  11. 請求項6〜10のいずれか1項に記載の鋼板を、10℃/秒以上の加熱速度にて加熱し、下記の式(1)の範囲内の温度T℃で1〜600秒間の保持後、550℃以上の温度域でホットプレスを行うことを特徴とする延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材の製造方法;
    {(0.27925-C)(Ac3-Ac1)+0.35(0.77-C)Ac1}/{0.35(0.77-C)}≦T≦
    {(0.73225-C)(Ac3-Ac1)+0.95(0.77-C)Ac1}/{0.95(0.77-C)}・・・(1)
    ただし、
    Ac1=750.8-26.6C+17.6Si-11.6Mn-23.0Ni+24.1Cr-22.9Cu+22.5Mo-39.7V-5.7Ti+232.6Nb-169.4Al-894.7B、
    Ac3=881-206C+53Si-15Mn-20Ni-1Cr-27Cu+41Moであり、
    式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
  12. ホットプレス中に、パンチを下死点にて1〜60秒間保持し、3〜400℃/秒の冷却速度にて部材を冷却することを特徴とする請求項11に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材の製造方法。
  13. ホットプレス後に、部材を金型より取り出し、液体または気体を用いて冷却することを特徴とする請求項11に記載の延性に優れて、1300〜1450MPaの引張強度を有するホットプレス部材の製造方法。
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