次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
図1は本発明のガスバリア性シートの一例を示す模式的な断面図であり、図2は本発明のガスバリア性シートの他の一例を示す模式的な断面図であり、図3は本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図であり、図4は本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。そして、図6は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図であり、図7は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。図8は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。図9は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。図10は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
本発明のガスバリア性シート1は、図1に示すように、基材2と、基材2の一方の面11の側に設けられたアンカー膜9Aと、アンカー膜9Aの上に設けられたガスバリア膜3Aと、を有するガスバリア性シート1Aの形態を有している。詳細は後述するが、ガスバリア性シート1Aの形態を用いることにより、ポリシロキサン重合体の構造を制御してアンカー膜9Aの透明性、耐熱性、及び堅さを制御し、アンカー膜9Aとガスバリア膜3Aとの2層でガスバリア性を確保することができるようになる。さらに、基材2、アンカー膜9A、及びガスバリア膜3Aがそれぞれ接して設けられているので、アンカー膜9A中のSiとガスバリア膜3A中のSiとによりアンカー膜9Aとガスバリア膜3Aとの相互作用が高まるとともに、アンカー膜9A中のSi−C結合が基材2との相互作用を良好にする。その結果、透明性に優れ、耐熱性が高く、カールがしにくく、ハードコート性に優れ、ガスバリア性に優れ、加えて接着性にも優れるガスバリア性シート1Aを提供することができるようになる。
本発明のガスバリア性シート1は、図2に示すように、基材2と、基材2の一方の面11の側に設けられたアンカー膜9Aと、アンカー膜9Aの上に設けられたガスバリア膜3Aと、ガスバリア膜3Aの上に設けられた透明導電膜4と、を有するガスバリア性シート1Bの形態を有することもできる。詳細は後述するが、これにより、透明導電膜4を有機ELディスプレイの陽極として利用する、又は放熱機能及び帯電防止機能をガスバリア性シート1Bに付与することができるので、透明導電膜4を設けることにより、有機ELディスプレイの生産性や寿命を向上させやすくなる。
本発明のガスバリア性シート1は、図3に示すように、ガスバリア性シート1Cの少なくとも片面にハードコート膜5を設けた形態を有することもできる。より具体的には、ガスバリア性シート1Cは、基材2の一方の面11の上にアンカー膜9Aとガスバリア膜3Aとをこの順に有し、基材2の他方の面12、すなわち、基材2の両面のうちアンカー膜9Aが形成された面との反対側の面にハードコート膜5が設けられている。詳細は後述するが、これにより、ガスバリア性シート1Cの少なくとも片面にハードコート膜5を設けるので、ガスバリア性シート1Cがハードコート膜5により保護されるようになり、その結果、傷が付きにくいガスバリア性シート1Cをより提供しやすくなる。
本発明のガスバリア性シート1は、図4に示すように、基材2の他方の面12の側にもアンカー膜9B(第2のアンカー膜)を設け、アンカー膜9Bの上にガスバリア膜3B(第2のガスバリア膜)を設ける、ガスバリア性シート1Dの形態を有することもできる。基材2を挟むようにアンカー膜9A,9B及びガスバリア膜3A,3Bを設けるので、基材の両面にアンカー膜9A,9B及びガスバリア膜3A,3Bが設けられることになる。このため、ガスバリア性や堅さをより高くすることができ、その結果、カールがしにくく、ハードコート性に優れ、ガスバリア性に優れるガスバリア性シート1Dをより提供しやすくなる。
本発明のガスバリア性シート1は、図6に示すように、基材の他方の面12の側にガスバリア膜3Cを設け、ガスバリア膜3Cの上に透明導電膜4を設ける、ガスバリア性シート1E形態を有することもできる。より具体的には、ガスバリア性シート1Eは、基材2の一方の面11の側にアンカー膜9Bを設け、アンカー膜9Bの上にガスバリア膜3Bを設け、基材の他方の面12の側にガスバリア膜3Cを設け、ガスバリア膜3Cの上に透明導電膜4を設けている。
本発明のガスバリア性シート1は、図7に示すように、ガスバリア性シート1Bの基材2の両面のうち、アンカー膜9A、ガスバリア膜3A、及び透明導電膜4が設けられていない方の面にガスバリア膜3Dを設ける、ガスバリア性シート1Fの形態を有することもできる。より具体的には、ガスバリア性シート1Fは、基材2の一方の面の側に、アンカー膜9A、ガスバリア膜3A、及び透明導電膜4をこの順に設け、基材2の他方の面にガスバリア膜3Dを設けている。
本発明のガスバリア性シート1は、図8に示すように、ガスバリア性シート1Aにおいて、水分を吸脱着することができ、水分を吸着した場合においても固体状態を維持できる材料Bで形成される吸湿膜13をさらに設けた、ガスバリア性シート1Gの形態を有することもできる。詳細は後述するが、これにより、吸湿が可逆的な吸湿膜13となり、その結果、ガスバリア性シート1Gに対して、使用前に加熱工程を施すことにより吸湿性能を最大限とすることが可能なガスバリア性シート1Gを提供することができる。
本発明のガスバリア性シート1は、図9に示すように、ガスバリア性シート1Gにおいて、放熱性ガスバリア膜14をさらに設けた、ガスバリア性シート1Hの形態を有することもできる。より具体的には、ガスバリア性シート1Hは、放熱性ガスバリア膜14を、ガスバリア膜3Aと吸湿膜13との間に設けたものである。ガスバリア性シート1Hを用いることにより、ガスバリア性シート1Hで封止する被封止物が発熱性のものである場合に、放熱性ガスバリア膜14を被封止物から近い位置に配置することが可能となる。詳細は後述するが、これにより、ガスバリア性シート1Hで封止する被封止物が発熱性のものである場合にもその放熱を良好に行うことができるようになり、その結果、ガスバリア性に優れるようになるのみならず放熱性にも優れるガスバリア性シート1Hを提供しやすくなる。
本発明のガスバリア性シート1は、図10に示すように、ガスバリア性シート1Gにおいて、放熱性ガスバリア膜14をさらに設けた、ガスバリア性シート1Iの形態を有することもできる。より具体的には、ガスバリア性シート1Iは、放熱性ガスバリア膜14を、基材2とアンカー膜9Aとの間に設けたものである。詳細は後述するが、これにより、ガスバリア性シート1Iで封止する被封止物が発熱性のものである場合にもその放熱を良好に行うことができるようになり、その結果、ガスバリア性に優れるようになるのみならず放熱性にも優れるガスバリア性シート1Iを提供しやすくなる。
本発明のガスバリア性シートの層構成は上記説明した内容に限られるものではない。例えば、ハードコート膜の代わりにガスバリア膜を形成してもよい。また、基材及びアンカー膜、アンカー膜及びガスバリア膜は、必ずしも接触させる必要はなく、場合によっては、基材とアンカー膜との間(例えば、図10のガスバリア性シート1Iを参照)、アンカー膜とガスバリア膜との間に他の膜を適宜挿入してもよい。さらに、各膜の積層の順番も本発明の要旨の範囲内において適宜変更可能である。こうした膜の積層に関するバリエーションは、本発明の要旨の範囲内において適宜行うことができる。
(基材)
基材2としては、各種の基材を用いることができ、主にはシート状やフィルム状、巻き取りロール状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることができる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよいし、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、非晶質シクロポリオレフィン、セルローストリアセテート等のフレキシブル基板を用いてもよい。基材2が樹脂製である場合、用いる樹脂としては上記例示した樹脂を適宜混合して用いてもよい。また、基材2が樹脂製である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
こうした樹脂製の基材2としては、具体的には、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルム(例えば、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)やゼオノア(登録商標)、JSR株式会社のARTON等)、ポリカーボネートフィルム(例えば、帝人化成株式会社のピュアエース等)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(例えば、帝人化成株式会社製のもの等)、セルローストリアセテートフィルム(例えば、コニカミノルタオプト株式会社のコニカタックKC4UX、KC8UX等)、ポリエチレンナフタレートフィルム(例えば、帝人デュポンフィルム株式会社のテオネックス(登録商標)等)の市販品を挙げることができる。
基材2の厚さは、可撓性及び形態保持性の観点から、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常200μm以下、好ましくは150μm以下とする。
基材2を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子の基板として用いる場合には、基材2は無色透明であることが好ましい。基材2とともにガスバリア膜3等の他の膜を無色透明とすることにより、ガスバリア性シート1を透明とすることが可能となる。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内での基材2の平均光透過度が80%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度は基材2の材質と厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
基材2の表面は、平滑であることが好ましい。具体的には、基材2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常0.3nm以上とする。この範囲とすれば、基材2に適度な表面粗さを付与することができ、基材2を巻き取りロールとした際に互いに接触する基材2同士の接触面に滑りが生じにくくなる。また、基材2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下とする。この範囲とすれば、基材2の平滑性が向上し、有機ELディスプレイ等の表示素子を作製する際に発生することのある短絡を抑制できる利点が発揮されやすくなる。なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)に従って測定すればよい。
基材2は、熱に対して変形しにくいことが好ましい。ガスバリア性シート1が有機ELディスプレイに適用される場合には、ヒートサイクル試験のような加熱・冷却のストレスに対してもガスバリア性シート1が変形しないことが求められるからである。具体的には、基材2の線膨張係数は、通常5ppm/℃以上、また、通常80ppm/℃以下、好ましくは50ppm/℃以下とする。線膨張係数の測定は、従来公知の方法を用いて行えばよく、例えばTMA法(熱機械分析法)を挙げることができる。TMA法に用いる測定装置としては、例えば、示差膨張方式熱機械分析装置であるリガク 製 CN8098F1を用いることができる。
基材2として樹脂製のものを用いる場合には、その製造方法も従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。また、樹脂製の基材2を用いる場合には、延伸フィルムを用いてもよい。延伸の方法も従来公知の一般的な方法を用いればよい。延伸倍率は、基材2の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍とすることが好ましい。
基材2の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、UV照射処理、大気圧プラズマ処理、易接着化処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。
(アンカー膜)
アンカー膜9は、シロキサン化合物と、重合時にこのシロキサン化合物が有する水酸基と反応しうる官能基を分子内に有する化合物Aと、から構成されるポリシロキサン重合体を含有する。より具体的には、ポリシロキサン重合体は、シロキサン化合物と化合物Aとを重合させることによって得られるものである。これにより、ポリシロキサン重合体の構造を制御してアンカー膜9の透明性、耐熱性、及び堅さを制御することができ、その結果、透明性に優れ、耐熱性が高く、カールがしにくく、ハードコート性に優れるガスバリア性シート1を提供することができる。より具体的には、シロキサン化合物の重合度や架橋度を化合物Aによって制御したポリシロキサン重合体を得ることができる。このため、ポリシロキサン重合体が有するSi−O結合の比率を調整してアンカー膜9の透明性、耐熱性、及び堅さを制御することができる。シロキサン化合物と化合物Aとの重合は、シロキサン化合物が水酸基を有する場合には、この水酸基を化合物Aの官能基とを反応させることによって行われる。シロキサン化合物が水酸基を有するものでない場合には、シロキサン化合物をアルコール溶液等中に存在させることで置換基交換を行い、シロキサン化合物に形成される水酸基を利用する。このように、少なくとも重合時にはシロキサン化合物は水酸基を有することとなるので、この水酸基を化合物Aの官能基と反応させて重合を進行させればよい。すなわち、「シロキサン化合物が有する水酸基」とは、シロキサン化合物が元々有する水酸基か、又は重合時にシロキサン化合物に形成される水酸基のことと考えればよい。
アンカー膜9においては、さらに、アンカー膜9中のSi−C結合が基材2との相互作用を良好にする。特に基材2に樹脂を用いる場合に、基材2とアンカー膜9とを接して設けることにより、これら樹脂とアンカー膜9中のSi−C結合との親和性が高くなる。より具体的には、基材2にポリエステル樹脂を用いる場合に、ポリエステル樹脂のC−C結合とアンカー膜9中のSi−C結合との相互作用が特に高くなる。その結果、接着性に優れるガスバリア性シート1を提供することができる。
シロキサン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、またこれらの錯体化合物、メチルトリアセトキシシラン、トリメチルシラノール等、またはこれらの化合物を含む高分子有機化合物類が挙げられる。
上記のシロキサン化合物のうち、重合の際の反応性を制御する観点から、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、及びテトラブトキシシランの少なくとも1つを用いるのが好ましく、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランの少なくとも1つを用いるのがより好ましい。
重合時にシロキサン化合物が有する水酸基と反応しうる官能基を分子内に有する化合物Aは、上記シロキサン化合物の重合度を制御するために用いられるものである。化合物Aを用いることにより、アンカー膜9の透明性を確保しつつ、アンカー膜9の堅さを制御することができるので、アンカー膜9ひいてはガスバリア性シート1のカール発生が抑制されやすくなる。また、ガスバリア性シート1へのハードコート性を確保しやすくなる。
こうした化合物Aとしては、重合時にシロキサン化合物中の水酸基と反応しうる官能基を分子内に有する化合物であれば特に限定されない。こうした官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、オキサゾリニル基、これら官能基から誘導される基等を挙げることができる。
化合物Aとしては、例えば、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、吉草酸メチル、蓚酸ジメチル、マロン酸ジメチル、琥珀酸ジメチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、蓚酸ジエチル、マロン酸ジエチル、及び琥珀酸ジエチル等を挙げることができる。これら化合物Aのうち、ポリシロキサン重合体を含有する塗布液を用いてアンカー膜9を形成する方法を用いる場合に、反応進行に伴って発生する塗布液の塗布性の不良を抑制する観点から、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、マロン酸ジメチル、及び蓚酸ジメチルの少なくとも1つを用いるのが好ましく、蟻酸メチル、酢酸メチル、マロン酸ジメチル、及び蓚酸ジメチルの少なくとも1つを用いるのがより好ましい。
ポリシロキサン重合体は、シロキサン化合物と化合物Aとの重合比を制御することにより、所望の透明性、耐熱性、堅さを得やすくなる。より具体的には、ポリシロキサン重合体が、70mol%〜99mol%のシロキサン化合物と、1mol%〜30mol%の化合物Aと、で構成されることが好ましい。これにより、ポリシロキサン重合体の構造を制御してアンカー膜9の透明性、耐熱性、及び堅さをより精密に調整することができるようになり、その結果、透明性に優れ、耐熱性が高く、カールがしにくく、ハードコート性に優れるガスバリア性シート1をより提供しやすくなる。特に、アンカー膜9の堅さを制御することにより、カールしにくく、ハードコート性に優れるガスバリア性シート1を得やすくなる。
シロキサン化合物の重合比は、通常50mol%以上とするが、好ましくは上述のとおり70mol%以上とし、ガスバリア膜3との密着性を向上させる観点から、より好ましくは75mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上とする。一方、シロキサン化合物の重合比は、上述のとおり99mol%以下とすることが好ましいが、膜応力を低減する観点から、より好ましくは95mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とする。
化合物Aの重合比は、上述のとおり1mol%以上とすることが好ましいが、反応性を上げる観点から、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは10mol%以上とする。一方、化合物Aの重合比は、通常50mol%以下とするが、好ましくは上述のとおり30mol%以下とし、ポリシロキサン重合体を含有する塗布液を用いてアンカー膜9を形成する方法を用いる場合に、塗布液の保存性能を維持する観点から、より好ましくは25mol%以下、さらに好ましくは20mol%以下とする。
アンカー膜9には、ポリシロキサン重合体以外の材料を適宜含有させてもよい。例えば、ポリシロキサン重合体を含有する塗布液を用いてアンカー膜9を形成する方法を用いる場合に、この塗布液の分散性を向上・確保する観点から、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、及びポリエチレングリコール等の界面活性剤をさらに含有させてもよい。ポリシロキサン重合体以外の材料を含有させる場合には、その含有量は、通常、3重量%以上、15重量%以下とする。
アンカー膜9の消衰係数は、0.00001以上、0.01以下とすることが好ましい。消衰係数は、より好ましくは0.00005以上、さらに好ましくは0.0001以上、また、より好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.003以下とする。消衰係数を上記範囲とすることにより、アンカー膜9の透明性を確保しやすくなるので、その結果、透明性の高いガスバリア性シート1を得やすくなる。
アンカー膜9における消衰係数の測定は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、エリプソメーターを用いることができる。本発明においては、消衰係数をJOBIN YVON社製のUVISELTMにより測定している。そして、測定は、キセノンランプを光源とし、入射角度を−60°、検出角度を60°、測定範囲を1.5eV〜5.0eVの条件で行っている。
アンカー膜9の厚さは、通常0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上とする。アンカー膜9の厚さを上記範囲とすれば、アンカー膜9の厚さを十分に確保してガスバリア性シート1を硬くすることによりハードコート性を確保しやすくなる。また、アンカー膜9の厚さは、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下とする。アンカー膜9の厚さを上記範囲とすれば、ハードコート性を確保しつつも所定の柔軟性をガスバリア性シート1に付与しやすくなる。
アンカー膜9の形成方法は、適宜選択することができる。こうした方法としては、例えば、ポリシロキサン重合体等を含有する塗布液を基材2上に塗布した後、これを乾燥させることにより得る方法を挙げることができる。
ポリシロキサン重合体の塗布液は、通常、適当な溶媒を調整して、その溶媒中にシロキサン化合物と化合物Aと所定の割合で投入しポリシロキサン重合体を重合し、さらに必要に応じてポリシロキサン重合体以外の材料を添加することによって得ることができる。溶媒は1種類であってもよいし、2種類以上の混合溶媒であってもよい。混合溶媒を用いる場合には、主溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びt−ブタノール等を用いることができる。そして、塗布面の均一性を上げる観点から、副溶媒として、例えば、蟻酸等の低沸点溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びジメチルスルホキシド等の高沸点溶媒を1種類以上用いることができる。混合溶媒における主溶媒の含有量は、通常60重量%以上、90重量%以下とする。但し、基材2の表面形状及び親疎水性によって、溶媒の配合は調整される。例えば、接触角が高角度である撥水性の基材2に対しては、疎水基を多く有するエーテル及び飽和炭化水素を主溶媒とする場合もある。
シロキサン化合物と化合物Aとを重合する際には、シロキサン化合物及び化合物Aの投入比率、投入方法、温度、雰囲気等を適宜制御すればよい。具体的には、投入比率は、シロキサン化合物及び化合物Aにおいて、上述した所望の重合比を考慮して適宜制御すればよい。また投入方法は、ポリシロキサン重合体をスムースに重合するために、シロキサン化合物及び化合物Aを一度に投入せずに、投入量を制御して徐々に投入することが好ましい。さらに温度も、通常−20℃以上、60℃以下とすればよい。そして、重合の際の雰囲気は、酸化等を防止するために不活性雰囲気下で行うことが好ましい。不活性雰囲気としては、例えば、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気を挙げることができる。このほか、所望のポリシロキサン重合体を得るために従来公知の制御を適宜行ってもよい。
また、ポリシロキサン重合体を重合した後に、アンカー膜9の厚さを制御する観点から、追加で溶媒を添加して固形分濃度を調整してもよい。このときの溶媒の少なくとも一部は重合時と同様の溶媒を用いることが好ましく、例えば混合溶媒を用いた場合には主溶媒と同様の溶媒を少なくとも用いることが好ましい。
こうして得たポリシロキサン重合体の塗布液を、例えば、スクリーン印刷法、ロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、及びダイコート法等を用いて基材2上に塗布し、乾燥させることによりアンカー膜9を得ることができる。上記塗布方法のうち、工業生産性や厚さ制御の容易性から、ダイコート法を用いることが好ましい。また、乾燥は、用いる溶媒の沸点を考慮して乾燥温度・時間の制御を適宜行えばよい。
得られたアンカー膜9が所望のポリシロキサン重合体を含有しているか否かは、従来公知の分析法を用いて分析することができる。こうした分析法としては、例えば、XPS(X線光電子分析装置)法を挙げることができる。本発明においては、XPSの測定は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL装置)により測定している。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用している。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行っている。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行っている。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させる。そして、炭化水素ピーク位置の他にみられるカルボニル結合等のピークを化合物A、Siのピークをシロキサン化合物とし、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87)を行い、原子数比を求めている。また、ポリシロキサン重合体におけるシロキサン化合物と化合物Aとの重合比は、上記測定方法を用いた組成分析におけるSiの原子数比とカルボニル結合等の原子数比とから見積もることができる。
(ガスバリア膜)
ガスバリア膜3においては、SiNxOy膜(ただし、x=0.5〜1.5、y=0.15〜1)を用いる。
上記のガスバリア膜3を用いることにより、単位厚さあたりのSi−N結合の量を増やすことができるとともにガスバリア膜3の密度も高くしてガスバリア膜3のガスバリア性を高くしやすくするとともに、所定量の酸素の導入により膜応力を低減させることでカールも発生しにくくなる。特に、有機ELディスプレイ等の耐久試験として行われるヒートサイクル試験後においても、カールの発生が抑制され、ガスバリア性能も維持されるガスバリア性シート1を提供することができる。
さらに、ガスバリア性シート1においては、アンカー膜9とガスバリア膜3との2層でガスバリア性を確保することができる。その結果、ガスバリア性に特に優れるガスバリア性シート1を提供することができる。さらに、ガスバリア膜3とアンカー膜9とを接して設ける場合には、ガスバリア膜3を上記酸窒化珪素膜とすることにより、ガスバリア膜3及びアンカー膜9のいずれにもSiが存在することになり、ガスバリア膜3とアンカー膜9との相互作用が高まる。その結果、接着性に優れるガスバリア性シート1を提供することができる。
ガスバリア膜3としては、SiNxOy膜(ただし、x=0.5〜1.5、y=0.15〜1)を用いる。ガスバリアを目的として従来用いられていたSiNaOb膜は、a=0.5、b=1.5又はa=1.4、b=0.1のものであったが、本願発明においては、上記所定のSiNxOy膜とすることにより、ガスバリア性に寄与するSi−N結合の量を確保するとともに、ガスバリア膜3に柔軟性を付与するための適当な酸素量を確保することができるので、ガスバリア性を高くして、カール発生を抑制しやすくなる。
ガスバリア膜3のSiNxOy膜におけるxは、0.5以上、好ましくは0.7以上、また、1.5以下、好ましくは1.3以下、とする。上記範囲とすれば、ガスバリア膜3中のSi−N結合の量を確保して、ガスバリア膜3のガスバリア性を向上させやすくなる。一方、yは、0.15以上、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.3以上、また、1以下、好ましくは0.7以下、とする。上記範囲とすれば、ガスバリア膜3中の酸素の含有量を確保して、ガスバリア膜3に柔軟性を付与しやすくなる。なお、本発明の要旨の範囲内であれば、ガスバリア膜3は、不純物や添加剤としてSi、N、O以外の元素や物質を含有してもよい。
ガスバリア膜3が、所定のSiNxOy膜となっているか否かは、例えば、Si、N、Oの原子数比を求めることにより確認することができる。こうした原子数比を求める方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、XPS(X線光電子分析装置)等の分析装置で得られた結果で評価できる。本発明においては、XPSの測定は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL)により測定している。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用している。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行っている。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1s、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行っている。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させる。そして、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めている。得られた原子数比について、Si原子数を1とし、他の成分であるNとOの原子数を算出して成分割合としている。
ガスバリア膜3の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは150nm以下とする。ガスバリア膜3の厚さを上記範囲とすれば、ガスバリア膜3のガスバリア性を高くしつつ、カールの発生も抑制しやすくなる。
ガスバリア膜3を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子のガスバリア膜として用いる場合には、ガスバリア膜3は透明であることが好ましい。ガスバリア膜3とともに基材2等の他の膜を透明とすることにより、ガスバリア性シート1を透明とすることが可能となる。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内でのガスバリア膜3の平均光透過度が75%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度はガスバリア膜3の組成や厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
ガスバリア膜3の透明性を確保するために、ガスバリア膜3の消衰係数を、0.000001以上、0.01以下とすることが好ましい。消衰係数は、より好ましくは0.000005以上、さらに好ましくは0.00001以上、また、より好ましくは0.005以下とする。消衰係数を上記範囲とすることにより、ガスバリア膜3の透明性を確保しやすくなるので、その結果、透明性の高いガスバリア性シート1を得やすくなる。
ガスバリア膜3における消衰係数の測定は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、エリプソメーターを用いることができる。本発明においては、消衰係数をJOBIN YVON社製のUVISELTMにより測定している。そして、測定は、キセノンランプを光源とし、入射角度を−60°、検出角度を60°、測定範囲を1.5eV〜5.0eVの条件で行っている。
ガスバリア膜3は、二次粒子の凝集により形成され、この二次粒子の粒径が300nm以上1500nm以下であることが好ましい。これにより、隣接する二次粒子が十分に凝集するため、その結果、基材の柔軟性を保持しつつ、生産性を落とすことなくガスバリア性を確保することができる。なお、測定方法の詳細は後述するが、二次粒子の粒径は、ガスバリア膜3の表面を観察し、当該表面で観察される二次粒子の粒径を測定したものである。
ガスバリア膜3は、通常、二次粒子が凝集することによって形成される。ここで、ガスバリア性を究極的に向上させる観点からは、粒子同士の境界が観察されずガスバリア膜3が連続的に形成されている状態が理想的である。しかしながら、こうした状態を作り出すことは容易ではない。例えば、高温焼成が可能な基材2(例えばガラス)を用いて、基材2上に形成(成膜)されたガスバリア膜3を高温焼成した場合であっても、二次粒子同士の粒子界面を完全になくすことは難しいとともに、硬質な薄膜が形成され、柔軟性に欠け、亀裂が発生しやすくなる。但し、高温焼成をして得られるガスバリア膜3は、隣接する二次粒子同時の凝集がより進む結果、焼成前よりもガスバリア性が向上する。一方で、基材2としては、上述のとおり樹脂製等種々の材料を用いることが求められ、高温焼成に耐えうる程の耐熱性を有しないものを用いる場合もある。このため、成膜後のガスバリア膜3を高温焼成することは工業的には行いにくい。また、こうした焼成工程を新たに行うことは、生産効率の確保という点からも行いにくい。さらに、高温焼成によりガスバリア膜3の柔軟性が損なわれるのであれば、樹脂製の基材2を用いた場合に奏される特徴であるフレキシビリティが得にくくなる。そこで、ガスバリア膜3が成膜された状態で、柔軟性を損なうことなく高温焼成をしたガスバリア膜3が有する程度のガスバリア性を付与することが望まれる。
ガスバリア膜3の状態につき、本発明者が検討を重ねた結果、後述するイオンプレーティング法を用いてガスバリア膜の形成(成膜)を行えば、プラズマが熱の代わりとして作用して、成膜直後においても高温焼成と類似の反応性を得ることができるために、ガスバリア性を確保しやすくなることがわかった。よって、硬質な薄膜ではない柔軟性のあるガスバリア膜3が得られ、基材2の柔軟性を確保したまま、ガスバリア性に優れたガスバリア性シート1を得やすくなる。具体的には、イオンプレーティング法を用いることにより、二次粒子の凝集が起こり、二次粒子の粒径が300nm以上1500nm以下となりやすく、柔軟性を損なうことなくガスバリア性がより確保されやすくなることがわかった。ガスバリア性をより確保する観点からは、二次粒子の粒径を、より好ましくは330nm以上、さらに好ましくは400nm以上、また、より好ましくは1000nm以下とする。
ガスバリア膜3の二次粒子径は、上述のとおり、イオンプレーティング法を用いることにより制御することができるが、この他、アンカー膜9の状態によっても制御することができる。具体的には、アンカー膜9上にガスバリア膜3を接して設けることにより、二次粒子径を上記粒径範囲に制御しやすくなる。
ガスバリア膜3においては、隣接する二次粒子間の距離が100nm以上、300nm以下であることが好ましい。これにより、隣接する二次粒子同士の凝集が促されるため、その結果、基材の柔軟性をより保持しやすいガスバリア性シート1を提供することができる。隣接する二次粒子間の距離は、隣接する二次粒子をそれぞれ円近似して得られた粒子の端部間の距離を測定することによって求めることができる。なお、測定方法の詳細は後述するが、二次粒子間の距離は、ガスバリア膜3の表面を観察し、当該表面で観察される隣接する二次粒子同士の端部間の距離を測定したものである。
ガスバリア膜3を構成する二次粒子径や、隣接する粒子間の距離の測定は、従来公知の方法を適宜用いればよく、例えば、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて測定することができる。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製のNanopics−1000を用い、観察モードがコンタクトモード、スキャン範囲を4μm角、走査速度は90秒/フレームの測定条件にて測定を行えばよい。続いて、パソコン等にインストールされた解析ソフト上で、任意の30個の点をトラックボール操作で設定する。そして、その点に対して最小自乗法円近似を行い、その平均値を二次粒子径とする。また、隣接する粒子間の距離は、前述の円近似で算出した粒子の端部間の平均値を算出して求める。なお、トラックボールの代わりに、マウスやキーボード等の他の入力装置を適宜用いてもよい。
ガスバリア膜3の製造方法は特に制限はないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、Cat−CVD法やプラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法等を用いればよい。こうした製造方法は、成膜材料の種類、成膜のしやすさ、工程効率等を考慮して選択すればよい。こうした製造方法のいくつかにつき以下説明する。
真空蒸着法とは、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子線やイオンビーム等のビーム加熱等により、るつぼに入った材料を加熱、蒸発させて基材2に付着させ、ガスバリア膜3を得る方法である。その際、ガスバリア膜3の組成等により加熱温度、加熱方法を変化させることができ、成膜時に酸化反応等を起こさせる反応性蒸着法も使用できる。
スパッタリング法とは、真空チャンバー内にターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴン)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、アンカー膜9に付着させ、ガスバリア膜3を得る方法である。このとき、チャンバー内に窒素ガスや酸素ガスを流すことにより、ターゲットからはじき出された元素と、窒素や酸素とを反応させてガスバリア膜3を形成する、反応性スパッタリング法を用いてもよい。スパッタリング法としては、例えば、DC2極スパッタリング、RF2極スパッタリング、3極・4極スパッタリング、ECRスパッタリング、イオンビームスパッタリング、及びマグネトロンスパッタリング等を挙げることができるが、工業的にはマグネトロンスパッタリングを用いることが好ましい。
イオンプレーティング法とは、真空蒸着とプラズマの複合技術であり、原則としてガスプラズマを利用して、蒸発粒子の一部をイオンもしくは励起粒子とし、活性化して薄膜を形成する方法である。イオンプレーティング法においては、反応ガスのプラズマを利用して蒸発粒子と結合させ、化合物膜を合成させる反応性イオンプレーティングが有効である。プラズマ中の操作であるため、安定なプラズマを得るのが第1条件であり、低ガス圧の領域での弱電離プラズマによる低温プラズマを用いる場合が多い。このため、混合物や複合酸化物を形成する場合に好ましく用いられる。放電を起こす手段から、直流励起型と高周波励起型に大別されるが、ほかに蒸発機構にホローカソード、イオンビームを用いる場合もある。
プラズマCVD法とは、化学気相成長法の一種である。プラズマCVD法においては、プラズマ放電中に原料を気化して供給し、系内のガスを衝突により相互に活性化してラジカル化するため、熱的励起のみによっては不可能な低温下での反応が可能となる。基材2は背後からヒータによって加熱され、電極間の放電中での反応により膜が形成される。プラズマの発生に用いる周波数により、HF(数十〜数百kHz)、RF(13.56MHz)、及びマイクロ波(2.45GHz)に分類される。マイクロ波を用いる場合は、反応ガスを励起し、アフターグロー中で成膜する方法と、ECR条件を満たす磁場(875Gauss)中にマイクロ波導入するECRプラズマCVDに大別される。また、プラズマ発生方法で分類すると、容量結合方式(平行平板型)と誘導結合方式(コイル方式)に分類される。
ガスバリア膜3は、SiNxOy膜(ただし、x=0.5〜1.5、y=0.15〜1)とされるが、SiNxOy膜の組成の制御は、上記紹介した製造方法を適宜用いつつ、製造条件を適宜変化させることにより行うことができる。
(透明導電膜)
透明導電膜4は、ガスバリア膜3上に設けられる。より具体的には、図2に示すように、ガスバリア性シート1Bにおいて、透明導電膜4がガスバリア膜3Aの上に設けられている。透明導電膜4は、有機ELディスプレイの陽極として利用する、又は放熱機能及び帯電防止機能をガスバリア性シート1Bに付与することができるので、透明導電膜4を設けることにより、有機ELディスプレイの生産性や寿命を向上させることができる。
透明導電膜4は、有機ELディスプレイに陽極がすでに設けられている場合には、帯電防止性能と放熱機能をガスバリア性シート1Bに付与する目的で設けられることもある。具体的には、ガスバリア性シート1Bで有機ELディスプレイを内包(封止)する場合には、透明導電膜4により有機ELディスプレイで発生するジュール熱を放熱させる、フィルム上で帯電する外部電荷を逃がすというような機能を付与することができる。例えば、有機ELディスプレイの課題である発熱による素子劣化を抑制するために透明導電膜4を設けることができるのである。但し、透明導電膜4を用いて帯電防止機能や放熱機能を付与する場合、透明導電膜4は、有機ELディスプレイの電極に接する場合がある。この場合、電極から電流がリークしないように、導電率を適切に制御することが好ましい。具体的には、透明導電膜4の表面抵抗値を104Ω/□以上、106Ω/□以下に制御することが好ましい。一方、接着剤の層等を間に介することにより透明導電膜4と有機ELディスプレイの電極とが絶縁される場合には、導電率の制御の自由度が増す。具体的には、この場合、透明導電膜4の表面抵抗値を104Ω/□以上、1012Ω/□以下に制御することができる。また、熱伝導性確保の観点から、透明導電膜4の熱伝導率は、通常0.5W/mK以上、好ましくは1W/mK以上、また、通常10W/mK以下、好ましくは8W/mK以下に制御される。
透明導電膜4の表面抵抗値は、従来公知の方法で測定することができ、本発明においては、表面抵抗値を、株式会社ダイアインスツルメンツ製の高抵抗率計であるハイレスタUP(MCP−HT450)を用いて測定している。また、透明導電膜4の熱伝導率も、従来公知の方法で測定することができ、本発明においては、アルバック理工社製の定常法熱伝導率測定装置GHシリーズを用いて測定を行っている。
透明導電膜4には導電性を付与することが好ましい。こうした観点から、透明導電膜4は、金属アルコキシド等の加水分解物、透明導電粒子と金属アルコキシド等の加水分解物を塗布して形成される無機酸化物を主成分とするコーティング膜としてもよい。
また、透明導電膜4は、導電性を付与する観点から、抵抗加熱蒸着法、誘導加熱蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、及びプラズマCVD法等の真空成膜法によって形成される膜であってもよい。透明導電膜4は、抵抗値が低くでき、表面処理が可能な装置構成が可能となることから、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を用いて形成することが好ましい。こうした形成方法を用いる場合の透明導電膜4の材料は、例えば、インジウム−錫系酸化物(ITO)、インジウム−錫−亜鉛系酸化物(ITZO)、ZnO2等の酸化亜鉛系、CdO系、及びSnO2(酸化錫)系、酸化インジウム、インジウム−亜鉛系酸化物(IZO)、アルミ添加酸化亜鉛、ガリウム添加酸化亜鉛、アンチモン添加酸化錫等の酸化物;金、銀、銅、アルミニウム、パラジウム等の金属;酸化物と金属の積層体を挙げることができる。こうした材料を適宜選択して使用すればよいが、上記材料のうち、透明性及び導電性が優れている点でインジウム−錫系酸化物(ITO)が好ましい。また、透明導電膜4に放熱機能を付与する場合には、放熱効果を高める観点から透明導電膜4として赤外光を吸収する材料を用いることが好ましいが、こうした観点からもインジウム−錫系酸化物(ITO)を用いることが好ましい。インジウム−錫系酸化物(ITO)を用いる場合には、錫の含有量が5〜15モル%であるものを用いることが特に好ましい。
透明導電膜4の厚さは、通常10nm以上、好ましくは60nm以上、より好ましくは100nm以上とする。上記範囲とすれば、透明導電膜4の導電性・放熱性を確保しやすくなる。また、透明導電膜4の厚さは、通常1000nm以下、好ましくは450nm以下、より好ましくは200nm以下とする。上記範囲とすれば、透明導電膜4の透明性を確保しやすく、耐屈曲性も良好となりやすい。
(ハードコート膜)
ハードコート膜5は、図3に示すように、ガスバリア性シート1Cの少なくとも片面に設けられる。より具体的には、ハードコート膜5は、基材2の他方の面12、すなわち、基材2の両面のうちアンカー膜9Aが形成された面との反対側の面に設けられている。これにより、ガスバリア性シート1Cがハードコート膜5により保護されるので、その結果、傷が付きにくいガスバリア性シート1Cをより提供しやすくなる。
ハードコート膜5としては、従来公知のものを適宜用いることができる。具体的には、ハードコート膜5の材料としては、電離放射線硬化型樹脂であるアクリレート系の官能基を有するもの、すなわち、アクリル骨格を有するもの、エポキシ骨格を有するものが適当であり、ハードコート膜5の硬度や耐熱性、耐溶剤性、耐擦傷性を考慮すると、高い架橋密度の構造とすることが好ましい。こうした構造を得るための材料としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2官能以上のアクリレートモノマーを挙げることができる。なお、上記において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタアクリレートの両者を意味する。
ハードコート膜5の材料として、上記の電離放射線硬化型樹脂を用いる場合、公知の光重合開始剤や光増感剤を併用することができる。こうした光重合開始剤や光増感剤は、紫外線を照射して電離放射線硬化型樹脂を硬化させる場合に好ましく用いられる。なぜなら、電子線を照射する場合には電離放射線硬化型樹脂は十分硬化する傾向を有するからである。光重合開始剤や光増感剤の添加量は、一般に、電離放射線硬化型樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、10重量部以下とする。こうした材料の他、溶媒、硬化触媒、濡れ性改良剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤等の無機、有機系の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
ハードコート膜5は、上記の材料を塗布液として基材2上に塗布し硬化させることによって形成することができる。ここで塗布液の塗布量としては、固形分として、通常、0.5g/m2以上、15g/m2以下が適当である。なお、硬化に用いる紫外線源としては、例えば、超高圧水銀灯等を挙げることができる。紫外線の波長としては、通常、190nm以上、380nm以下の波長域を使用することができ、また、電子線源としては、例えばコッククロフトワルト型等の各種電子線加速器を用いることができる。
ハードコート膜5の厚さは、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは8μm以下とする。この範囲とすれば、ガスバリア性シート1Cの透明性を損ないにくく、かつ、耐擦傷性も良好となりやすい。
(吸湿膜)
吸湿膜13は、図8〜10に示すように、ガスバリア性シート1G,1H,1Iの少なくとも片面に設けられる。吸湿膜13は、水分を吸脱着することができ、水分を吸着した場合においても固体状態を維持できる材料Bで形成される。これにより、吸湿が可逆的な吸湿膜13となり、その結果、ガスバリア性シート1G,1H,1Iに対して、使用前に加熱工程を施すことにより吸湿性能を最大限とすることが可能なガスバリア性シート1G,1H,1Iを提供することができる。
より具体的には、ガスバリア性シート1を、有機ELディスプレイ用の封止フィルムとして用いる場合には、被封止物たる有機ELディスプレイが水分の吸着によりダークスポットを形成するために、水分を確実に遮断できるガスバリア性の高いガスバリア性シート1を用いることが望まれる。この場合に、アンカー膜9及びガスバリア膜3では、確実な水蒸気遮断が難しい場合も想定される。そこで、被封止物を封止する側の面に吸湿膜13を設けたガスバリア性シート1G,1H,1Iを用いることにより、水分の遮断性(水蒸気遮断性)をより高くすることができ、有機ELディスプレイの耐久性をより向上させやすくなる。また、吸湿膜13に材料Bを用いることにより、可逆反応で水分を吸着、或いは水和水とすることができるようになり、有機ELディスプレイ素子を封止する前に加熱や赤外線照射を行うことにより、吸湿膜13に吸着した水分をほぼ除去できるので、吸湿性能を最大限とした有機ELディスプレイの製造が可能となる。
材料Bとしては、上述のとおり、水分を吸脱着することができ、水分を吸着した場合においても固体状態を維持できるものを用いればよい。ここで、水分の吸着には、例えば、水が物理吸着する場合や化学吸着する場合が含まれる。そして、水分が化学吸着する場合としては、水分が材料Bとの水和物を形成する場合、水分が水酸化物となって材料Bに化学結合する場合等を挙げることができる。但し、材料Bが水分を吸脱着できるといっても、本発明においては、水分吸着しやすいが脱離しにくい性質の材料を材料Bとして用いる。なぜなら、水分を脱離しやすい材料では、吸湿膜13が吸湿性を有する膜としての性能を十分に発揮できない傾向となるからである。すなわち、吸湿膜13の吸湿が可逆的ではあるとはいっても、吸湿膜13は基本的には吸湿が主となり、水分の脱離は、吸湿膜13を高温で処理して初めて行われるものとなる。例えば、水分が水酸化物となって化学結合する材料を材料Bに用いる場合には、水酸化物として一度吸着した水分は、高温(例えば600℃程度)で処理しなければ脱離されないのである。
材料Bは、特に制限はないものの、上記説明した観点から、アルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物であることが好ましい。これにより、良好な吸湿特性を有する材料Bを吸湿膜13に用いることになり、その結果、吸湿特性の高い吸湿膜13を有するガスバリア性シート1G,1H,1Iを提供することができる。例えば、材料Bに金属を用いた場合には、被封止物を有機ELディスプレイとした場合において、開口部が狭くなって高解像度が得られにくい場合がある。
アルカリ金属酸化物としては、特に制限はないが、安定性、吸湿性能等の観点から、ナトリウム酸化物(酸化ナトリウム)、カリウム酸化物(酸化カリウム)を用いることが好ましい。また、アルカリ土類金属酸化物としては、特に制限はないが、安定性、吸湿性能等の観点から、カルシウム酸化物(酸化カルシウム)、ストロンチウム酸化物(酸化ストロンチウム)、バリウム酸化物(酸化バリウム)を用いることが好ましい。
吸湿膜13中には、所望する特性に応じて材料B以外の材料を含有させてもよい。
吸湿膜13の消衰係数は、1×10−6以上、1×10−3以下とすることが好ましい。消衰係数は、より好ましくは1×10−5以上、さらに好ましくは2×10−5以上、特に好ましくは3×10−5以上、また、より好ましくは5×10−4以下、さらに好ましくは1×10−4以下とする。消衰係数を上記範囲とすることにより、吸湿膜13の透明性を確保しやすくなるので、その結果、透明性に優れるガスバリア性シート1G,1H,1Iを得やすくなる。
吸湿膜13における消衰係数の測定は、アンカー膜9やガスバリア膜3と同様の測定方法を用いることができる。
吸湿膜13の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上とする。吸湿膜13の厚さを上記範囲とすれば、吸湿膜13の厚さを十分に確保して水分の吸収を確保しやすくなり、ガスバリア性を向上させやすくなる。また、吸湿膜13の厚さは、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下とする。吸湿膜13の厚さを上記範囲とすれば、水分の吸収性を確保しつつも所定の透明性や柔軟性をガスバリア性シート1G,1H,1Iに付与しやすくなる。
吸湿膜13の形成方法は、適宜選択することができる。こうした方法としては、例えば、材料Bとしてアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を用いる場合には、真空成膜で吸湿膜13を形成すればよい。真空成膜の方法としては、ガスバリア膜3で説明したものと同様の方法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、Cat−CVD法やプラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法)を適宜用いることができる。
(放熱性ガスバリア膜)
ガスバリア性シート1H,1Iでは、図9,10に示すように、放熱性ガスバリア膜14をさらに設けている。これにより、ガスバリア性シート1H,1Iで封止する被封止物が発熱性のものである場合にもその放熱を良好に行うことができるようになり、その結果、ガスバリア性に優れるようになるのみならず放熱性にも優れるガスバリア性シート1H,1Iを提供しやすくなる。特に、ガスバリア性シート1Hでは、封止する被封止物が発熱性のものである場合に、放熱性ガスバリア膜14を被封止物から近い位置に配置することができることとなる。
放熱性ガスバリア膜14に用いる材料は、所望のガスバリア性及び放熱性を有するものであればよいが、放熱性が確保しやすくなるという観点から、金属化合物やダイヤモンドライクカーボンを用いることが好ましい。金属化合物としては、例えば、窒化アルミ、窒化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、及び窒化硼素等を挙げることができ、好ましくは窒化アルミ、窒化チタンを挙げることができる。放熱性ガスバリア膜14の透明性を確保しやすくなるという観点からは、ダイヤモンドライクカーボンを用いることが好ましい。
放熱性ガスバリア膜14の材料として用いるダイヤモンドライクカーボン(DLC)とは、ダイヤモンドに類似した炭素材料のことをいい、ダイヤモンドとグラファイトとの中間的な結晶構造を持つものである。より具体的には、炭素を主成分としつつ若干の水素を含み、ダイヤモンド結合(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造をとる。ダイヤモンドライクカーボンは、所定のガスバリア性と所定の放熱性とを発揮する材料である他、電気絶縁性を有する。このため、ダイヤモンドライクカーボンを用いることにより、ガスバリア性シート1H,1Iをディスプレイ用基板や、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用の封止フィルムとして用いた場合に、ディスプレイが有する陰極と陽極との短絡を抑制しやすくなる。
放熱性ガスバリア膜14の熱伝導率は、通常20W/mK以上とするが、好ましくは30W/mK以上とする。熱伝導率を上記範囲とすることにより、ガスバリア性シート1H,1Iの放熱性がより確保されやすくなる。熱伝導率は、高ければ高いほど放熱性に優れるので好ましいが、通常2000W/mK以下となる。
放熱性ガスバリア膜14の熱伝導率は、光交流法を用いて測定することができる。より具体的には、本発明においては、アルバック理工社製の光交流法熱拡散率測定装置 LaserPIT−1を用い、熱源にダイオードレーザ、測定環境を大気圧(20℃)として熱伝導率を測定することができる。
放熱性ガスバリア膜14の厚さは、通常2nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常70nm以下、好ましくは60nm以下とする。上記範囲とすれば、ガスバリア性と放熱性とのバランスを取りつつ、無色透明でクラックが入りにくく生産性を高くしやすくなる。
放熱性ガスバリア膜14の形成方法は、適宜選択することができる。こうした方法としては、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、及びプラズマCVD法等を挙げることができる。こうした製造方法は、成膜材料の種類、成膜のしやすさ、工程効率等を考慮して選択すればよい。
(その他の膜)
上記説明した、基材2、アンカー膜9、ガスバリア膜3、透明導電膜4、ハードコート膜5、吸湿膜13、及び放熱性ガスバリア膜14以外にも、必要に応じて他の膜を用いることもできる。こうしたものとしては、例えば、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、カラーフィルタ及び平滑化膜を挙げることができる。これらのうち、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、カラーフィルタは、光学粘着剤を介して本発明のガスバリア性シートと貼り合わせることで、所望の機能を得てもよい。
反射防止膜は外光の映り込みを抑制する機能をもつものであり、帯電防止膜は塵や埃が付着することを防止する機能をもち、防汚膜は指紋等の油脂の付着を阻害するものであり、従来公知のものを適宜用いればよいが、いずれもハードコート膜5の表面に形成されることが多い。但し、反射防止機能や透明導電機能をハードコート膜5に付加することもできる。平滑化膜は、表面を平坦化するために用いられるものであり、例えば、基材2の表面やガスバリア膜3の表面に形成されることがある。反射防止膜は、外光の映り込みを抑制する機能を有すれば、特に限定するものではないが、光学干渉による光学多層膜、微粒子による光散乱効果を用いた防眩膜、マイクロレンズアレイ、モスアイ構造などが挙げられる。
平滑化膜としては、従来公知のものを適宜用いればよい。平滑化膜の材料としては、例えば、ゾル−ゲル材料、電離放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、及びフォトレジスト材料等を挙げることができる。
平滑化膜をガスバリア膜3の表面に形成する場合においては、ガスバリア機能を保持させつつ膜の形成を容易にする観点から、平滑化膜の材料として電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。より具体的には、エポキシ基をもつ反応性のプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜混合したものである電離放射線硬化型樹脂や、電離放射線硬化型樹脂に必要に応じてウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、ブチラール系、ビニル系等の熱可塑性樹脂を混合して液状となした液状組成物のような、分子中に重合性不飽和結合を有し、紫外線(UV)や電子線(EB)を照射することにより、架橋重合反応を起こして3次元の高分子構造に変化する樹脂が好ましい。平滑化膜は、こうした樹脂を、例えば、ロールコート法、ミヤバーコート法、及びグラビアコート法等の従来公知の塗布方法で塗布・乾燥・硬化させることにより形成することができる。平滑化膜は、ハードコート膜5と同様の方法で形成してもよい。
また、平滑化膜をガスバリア膜3の表面に形成する場合においては、ガスバリア膜3との良好な密着性を確保する観点から、平滑化膜の材料としてガスバリア膜3と同材料系の塗膜を形成できるゾルーゲル法を用いたゾル−ゲル材料を用いることも好ましい。ゾル−ゲル法とは、有機官能基と加水分解基を有するシランカップリング剤と、このシランカップリング剤が有する有機官能基と反応する有機官能基を有する架橋性化合物とを少なくとも原料として構成された塗料組成物の塗工方法、及び塗膜のことをいう。有機官能基と加水分解基を有するシランカップリング剤としては、従来公知のものを適宜用いることができ、例えば、特開2001−207130号公報に開示されるアミノアルキルジアルコキシシランやアミノアルキルトリアルコキシシランを用いればよい。また、シランカップリング剤が有する有機官能基と反応する有機官能基を有する架橋性化合物としては、例えば、グリシジル基、カルボキシル基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基等のアミノ基と反応しうる官能基を有するものを挙げることができる。こうした材料も従来公知のものを適宜用いることができる。さらに、上記の塗料組成物には、例えば、溶媒、硬化触媒、濡れ性改良剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤等の無機・有機系の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
さらに、平滑化膜の材料としては、従来公知のカルドポリマーを含有させることも好ましい。
平滑化膜の厚さは、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下とする。
(ガスバリア性シート)
以上説明した、基材2、アンカー膜9、ガスバリア膜3、透明導電膜4、ハードコート膜5、吸湿膜13、放熱性ガスバリア膜14、及び必要に応じてその他の膜を有することによって、ガスバリア性シート1が形成される。ガスバリア性シート1は、アンカー膜9に所定のポリシロキサン重合体を含有させ、かつガスバリア膜3を所定の組成とすることにより、ポリシロキサン重合体の構造を制御してアンカー膜9の透明性、耐熱性、及び堅さを制御し、アンカー膜9とガスバリア膜3との2層でガスバリア性を確保することができ、さらに、基材2、アンカー膜9、及びガスバリア膜3がそれぞれ接して設けられた場合には、アンカー膜9中のSiとガスバリア膜3中のSiとによりアンカー膜9とガスバリア膜3との相互作用が高まるとともに、アンカー膜9中のSi−C結合が基材2との相互作用を良好にする。その結果、透明性に優れ、耐熱性が高く、カールがしにくく、ハードコート性に優れ、ガスバリア性に優れ、加えて接着性にも優れるガスバリア性シート1を提供することができる。
ガスバリア性シート1は、通常、水蒸気透過率が0.1g/m2/day(g/m2・day)以下で、酸素透過率が0.1cc/m2/day・atm(cc/m2・day・atm)以下の高いガスバリア性を示す。
ガスバリア性シート1を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子のガスバリア性シートとして用いる場合には、ガスバリア性シート1は透明であることが好ましい。この場合、具体的には、全光線透過率は、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上とする。また、色味(YI)は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下とする。YIが高いほどガスバリア性シート1が黄色く見えるため、外観上YIを上記範囲に制御することが好ましい。なお、全光線透過率及びYIの測定は、例えば、分光測色計を用いて測定することができる。本発明においては、全光線透過率及びYIの測定は、SMカラーコンピューターSM−C(スガ試験機製)を使用して測定している。そして、測定は、JIS K7105に準拠して実施している。
ガスバリア性シート1は、所定のアンカー膜9と所定のガスバリア膜3との組み合わせによりカールの発生が抑制される。図5は、ガスバリア性シートのカールの度合いを測定する方法を示す模式的な断面図である。まず、ガスバリアシート1を所定の大きさに切り出し、ガスバリア性シートサンプル10を準備する。そして、ガスバリア性シートサンプル10をステンレス鋼製の基板6上に置き、ガスバリア性シートサンプル10の頂点8とステンレス鋼製の基板6との直交距離Lを測定する。そして、直交距離Lの大きさに応じて、所定の評価基準を用い、ガスバリア性シートのカールの発生度合いを評価すればよい。
さらに、ガスバリア性シートサンプル10に対して耐熱試験(ヒートサイクル試験)を実施し、ヒートサイクル試験後に直交距離Lを再度測定することにより、ヒートサイクル試験後のガスバリア性シート1のカール度合いの評価を行うこともできる。具体的には、ガスバリア性シートサンプル10を、150℃のオーブンで3時間保持する操作を繰り返し5回行うことによりヒートサイクル試験を実施する。そして、ヒートサイクル試験後のガスバリア性シートサンプル10を、再度ステンレス鋼製の基板6上に置き、ガスバリア性シートサンプル10の頂点とステンレス鋼製の基板6との直交距離Lを測定する。そして、直交距離Lの大きさに応じて、所定の評価基準を用い、ガスバリア性シート1のカールの発生度合いを評価すればよい。こうした方法で評価される直交距離Lは、ヒートサイクル試験の前後において、通常3mm以下となるように制御される。より高性能のガスバリア性シート1を得る観点から、直交距離Lは、1mm以下となるように制御することが好ましい。
ガスバリア性シート1は、所定のアンカー膜9と所定のガスバリア膜3との組み合わせにより、基材2、アンカー膜9、及びガスバリア膜3がそれぞれ接して設けられた場合には、基材2とアンカー膜9との接着性、及びアンカー膜9とガスバリア膜3との接着性が良好となる。また、基材2とアンカー膜9との間、アンカー膜9とガスバリア膜3との間に所定の膜を挿入することにより接着性が確保できる場合もある。こうしたガスバリア膜3、アンカー膜9、基材2等の接着性の程度を見積もる方法として、例えば、クロスカット試験による評価を挙げることができる。本発明においては、クロスカット試験をJIS−K5400の8.5.1の記載に準拠して行っている。具体的には、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて、ガスバリア膜3を貫通して基材2等に達する切り傷を縦横につけて、100個のマス目状とし、セロハン粘着テープ(ニチバン社製405番 24mm幅)をマス状の切り傷面に張り付け、消しゴムでこすって完全に付着させた後、垂直に引き剥がす。そして、剥離後の面を目視により観察し、100個のマス目における層残留率(マス目の一部分でも剥がれたものも剥がれた個数として扱う)を接着性の尺度とし、接着性(%)=(1−(剥がれたマス目/100マス))×100を算出して評価する。
上記のクロスカット試験を、ガスバリア性シート製造直後と、耐湿熱試験後と、の両方で行えば、製造後の状態におけるガスバリア膜3、アンカー膜9、基材2等の接着性だけでなく、この接着性の持続性を評価することもできる。そして、耐湿熱試験の方法としては、例えば、温度60℃/湿度95%RHの環境に調整した恒温恒湿器を用い、この恒温恒湿器内に1000時間ガスバリア性シートを保持することによって行うことができる。
本発明のガスバリア性シートは、フィルム状の形態で用いられることが好ましい。フィルム状とすることにより、有機ELディスプレイ等の用途に適用しやすくなる。また、本発明のガスバリア性シートは、巻き取りロール状の形態で用いることも可能であり、有機ELディスプレイ等の製造の後工程に合わせて適宜用いればよい。なお、本発明のガスバリア性シートは、有機ELディスプレイ等の基板として用いることができるだけでなく、封止用の硝子や缶の代替となる封止用フィルムとしても適用が可能である。
(ガスバリア性シートの製造方法)
ガスバリア性シート1の製造方法は、シロキサン化合物と、重合時にこのシロキサン化合物が有する水酸基と反応しうる官能基を分子内に有する化合物Aと、を重合させて得たポリシロキサン重合体を用いてアンカー膜9を成膜(形成)するアンカー膜成膜工程と、ガスバリア膜3を成膜(形成)するガスバリア膜成膜工程と、を有する。これにより、ガスバリア性シート1を良好に製造することができ、その結果、ガスバリア性等の各種特性に優れるガスバリア性シート1の製造方法を提供することができる。
アンカー膜9の形成方法(アンカー膜成膜工程)の詳細については、上記アンカー膜9についての詳細な説明ですでに説明したとおりである。また、ガスバリア膜3の形成方法(ガスバリア膜成膜工程)についても、上記ガスバリア膜3についての詳細な説明ですでに説明したとおりである。そこで、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
ガスバリア性シート1の製造方法では、上記各工程以外の工程を適宜行っても良い。こうした他の工程としては、例えば、基材2を準備する基材準備工程、透明導電膜4を形成する透明導電膜成膜工程、ハードコート膜5を形成するハードコート膜成膜工程、吸湿膜13を形成する吸湿膜成膜工程、及び放熱性ガスバリア膜14を形成する放熱性ガスバリア膜成膜工程を挙げることができる。そして、基材2の準備方法(基材準備工程)は上記基材2についての詳細な説明で、樹脂製の基材2を用いる場合を例にとって説明したとおりである。同様に、透明導電膜4の形成方法(透明導電膜成膜工程)は上記透明導電膜4についての詳細な説明ですでに説明したとおりである。また、ハードコート膜5の形成方法(ハードコート膜成膜工程)は上記ハードコート膜5についての詳細な説明ですでに説明したとおりである。さらに、吸湿膜13の形成方法(吸湿膜成膜工程)は上記吸湿膜13についての詳細な説明ですでに説明したとおりである。そして、放熱性ガスバリア膜14の形成方法(放熱性ガスバリア膜成膜工程)は上記放熱性ガスバリア膜14についての詳細な説明ですでに説明したとおりである。そこで、各工程については説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
以上説明したように、本発明のガスバリア性シートの製造方法によれば、透明性に優れ、耐熱性が高く、カールがしにくく、ガスバリア性等に優れるガスバリア性シートを製造することができる。
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
[実施例1]
(ガスバリア性シートの製造)
基材として、厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(テオネックス(登録商標)Q65F、帝人デュポンフィルム株式会社製)を用いた。
<アンカー膜成膜工程>
ポリシロキサン重合体の塗布液は、以下のようにして製造した。まず、エタノール61.16gの攪拌下に蟻酸10.01gを少量ずつ添加して、蟻酸のエタノール溶液を調製した。次いで、この溶液を窒素雰囲気下で40℃に加熱し、還流下でテトラエトキシシラン(TEOS)20.83gと、蓚酸ジメチル(化合物A)3.03gと、を滴下して、TEOSと化合物Aとを重合させた。滴下後、室温まで放冷してポリシロキサン重合体の塗布液を調製した。そして、この塗布液に、エタノール:メタノール=2:1の混合溶液を添加し、重量比が1:1(固形分濃度5重量%)となるように希釈した。
この塗布液をダイコート法にて基材上に塗布し、約1μmの塗膜を形成し、予備加熱が60℃/1分、熱硬化条件が120℃/3分として、アンカー膜を形成した。
<ガスバリア膜成膜工程>
次いで、このアンカー膜上に、イオンプレーティグ法にて厚さ40nmのSiNxOy膜を形成した。イオンプレーティング法の際の条件は下記の通りである。
成膜条件:
印加電力 5.1kW
蒸着材料 窒化珪素
アルゴン流量 15sccm
酸素流量 5sccm
以上のようにして準備したガスバリア膜を有するガスバリア性シートの特性を以下の方法で評価した。
(組成の分析:アンカー膜)
アンカー膜の組成(ポリシロキサン重合体の構成や重合比)は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL装置)により測定した。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させた。そして、炭化水素ピーク位置の他にみられるカルボニル結合のピークを化合物A、Siのピークをシロキサン化合物とし、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87)を行い、原子数比を求めた。その結果、Siの原子数比が50%、カルボニル結合の原子数比が10%であった。このため、ポリシロキサン重合体が、TEOS(シロキサン化合物)と、蓚酸ジメチル(化合物A)とから構成されることがわかった。また、上記の測定結果から、TEOSと蓚酸ジメチルとの重合比は、TEOSが50mol%、蓚酸ジメチルが5mol%となっていると考えることができる。
(組成の分析:ガスバリア膜)
ガスバリア膜の組成(SiNxOyにおけるx、yの値)、より具体的にはSi、N、Oの原子数比は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL)により測定した。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を1とし、他の成分であるNとOの原子数を算出して成分割合とした。その結果、x=1.10、y=0.20であった。
(水蒸気透過率の測定)
水蒸気透過率は、測定温度37.8℃、湿度100%Rhの条件下で、水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、PERMATRAN−W 3/31:商品名)を用いて測定した。なお、測定に用いた水蒸気透過率測定装置の検出限界は、0.05g/m2・dayであるが、水蒸気透過率の測定を行ったところ、検出限界以下であった。
(酸素透過率の測定)
酸素透過率は、測定温度23℃、湿度90%Rhの条件下で、酸素ガス透過率測定装置(米国MOCON社製、OX−TRAN 2/20:商品名)を用いて測定した。なお、測定に用いた酸素ガス透過率測定装置の検出限界は、0.05cc/m2・day・atmであるが、酸素透過率を測定したところ検出限界以下であった。
(全光線透過率と色味(YI)の測定)
ガスバリア性シートの全光線透過率とYIは、SMカラーコンピューターSM−C(スガ試験機製)を使用して測定した。測定は、JIS K7105に準拠して実施した。その結果、全光線透過率は85.6%、Y1は0.6であった。
(カールの評価)
カールの発生度合いの評価は、以下のようにして行った。すなわち、作製したガスバリア性シートを15cm×15cmに切り出して、図5に示すガスバリア性シートサンプル10を得た。そして、同図に示すように、ガスバリア性シートサンプル10をステンレス鋼製の基板6上に置き、ガスバリア性シートサンプル10の頂点8とステンレス鋼製の基板6との直交距離Lを測定した。そして、直交距離Lの大きさに応じて、下記評価基準でガスバリア性シートのカールの発生度合いを評価した。その結果、「○」の評価となった。
○:直交距離が1mm以下
△:直交距離が1〜3mm
×:直交距離が3mmより大きい
次に、ガスバリア性シートサンプル10に対してヒートサイクル試験を実施し、ヒートサイクル試験後に直交距離Lを再度測定した。ヒートサイクル試験は、ガスバリア性シートサンプル10を、150℃のオーブンで3時間保持した後室温まで冷却する操作を繰り返し5回行うことにより実施した。そして、ヒートサイクル試験後のガスバリア性シートサンプル10を、再度ステンレス鋼製の基板6上に置き、ガスバリア性シートサンプル10の頂点とステンレス鋼製の基板6との直交距離Lを測定し、直交距離Lの大きさに応じ上記評価基準でガスバリア性シートのカールの発生度合いを評価した。その結果、「○」の評価となった。
(消衰係数の評価)
消衰係数を、JOBIN YVON社製のUVISELTMにより測定した。そして、測定は、キセノンランプを光源とし、入射角度を−60°、検出角度を60°、測定範囲を1.5eV〜5.0eVの条件で行った。その結果、アンカー膜の消衰係数は0.0001、ガスバリア膜の消衰係数は0.008であった。
(接着性の評価)
ガスバリア性シートの接着性をクロスカット試験によって評価した。具体的には、JIS−K5400の8.5.1の記載に準拠して評価を行った。すなわち、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて、ガスバリア膜を貫通して基材に達する切り傷を縦横につけて、100個のマス目状とし、セロハン粘着テープ(ニチバン社製405番 24mm幅)をマス状の切り傷面に張り付け、消しゴムでこすって完全に付着させた後、垂直に引き剥がした。そして、剥離後の面を目視により観察し、100個のマス目における層残留率(マス目の一部分でも剥がれたものも剥がれた個数として扱う)を接着性の尺度とし、接着性(%)=(1−(剥がれたマス目/100マス))×100を算出して評価した。
上記のクロスカット試験を、ガスバリア性シート製造直後と、耐湿熱試験後と、の両方で行った。耐湿熱試験は、エスペック社製のデジタル恒温恒湿器PR−3Kを用い、温度60℃/湿度95%RHの環境下で1000時間ガスバリア性シートを保持することによって行った。
その結果、ガスバリア性シート製造直後の接着性は100%、耐湿熱試験後の接着性も100%であった。
(二次粒子の粒径と二次粒子間の距離の測定)
ガスバリア膜を形成する二次粒子の粒径と二次粒子間の距離を測定した。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製のNanopics−1000を用い、観察モードがコンタクトモード、スキャン範囲を4μm角、走査速度は90秒/フレームの測定条件にて測定を行った。続いて、パソコン等にインストールされた解析ソフト上で、任意の30個の点をトラックボール操作で設定した。そして、その点に対して最小自乗法円近似を行い、その平均値を二次粒子径とした。また、隣接する粒子間の距離は、円近似で算出した粒子の端部間の平均値を算出して求めた。その結果、二次粒子の粒径は450nmであり、二次粒子間の距離は210nmであった。
[比較例1]
ガスバリア膜を設けなかったこと、以外は実施例1と同様にしてガスバリア性シートを製造した。そして、実施例1で行った評価のうち、水蒸気透過率の測定、酸素透過率の測定、及び全光線透過率と色味(YI)の測定を行った。その結果、水蒸気透過率は1.2g/m2・day、酸素透過率は3.4cc/m2・day・atm、全光線透過率は86.3%、YIは−0.4(青色)となった。
[比較例2]
アンカー膜を設けなかったこと、以外は実施例1と同様にしてガスバリア性シートを製造した。そして、実施例1で行った評価のうち、接着性の評価を行った。その結果、ガスバリア性シート製造直後の接着性は100%、耐湿熱試験後の接着性は95%であった。
[比較例3]
アンカー膜をアクリル系樹脂で形成したこと、及びアンカー膜の厚さを3μmとしたこと、以外は実施例1と同様にしてガスバリア性シートを製造した。具体的には、下記樹脂組成物をワイヤーバー#10にて塗工した後、紫外線を300mJ照射し、アンカー膜を形成した。
<UV硬化型樹脂組成物>
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート 50部
光重合開始剤(イルガキュアー184:チバガイギー社製) 5部
溶媒(トルエン) 50部
そして、実施例1で行った評価のうち、水蒸気透過率の測定、酸素透過率の測定、及び全光線透過率と色味(YI)の測定を行った。その結果、水蒸気透過率は検出限界以下、酸素透過率は検出限界以下、全光線透過率は80.6%、YIは5.4となった。YIの値からわかるように、ガスバリア性シートは黄色に着色していた。これは、アクリル系樹脂のアンカー膜が製造時の熱処理によって不飽和結合が増加し、可視光内の青色成分が吸収され、黄変したためである。
[実施例2]
実施例1のガスバリア性シートを用い、基材の両面のうち、アンカー膜及びガスバリア膜(SiNxOy膜)が形成されていない側の面に、イオンプレーティング法にて、厚さ40nmの裏面側ガスバリア膜(SiNxOy膜)、及び厚さ30nmの透明導電膜をさらに設けてガスバリア性シートを製造した。イオンプレーティング法の条件は下記の通りである。
裏面側ガスバリア膜の成膜条件:
印加電力 5.1kW
蒸着材料 SiOxNy(x=0.1、y=1.0)
アルゴン流量 15sccm
酸素流量 5sccm
透明導電膜の成膜条件:
材料:ITO粒(15%Sn)
成膜時圧力:0.1Pa
Ar流量:10sccm、酸素流量:10sccm
印加電力:4.0kW
得られた透明導電膜の表面抵抗値と熱伝導率を測定したところ、それぞれ1.5×104Ω/□、4W/mKであった。なお、表面抵抗値は、株式会社ダイアインスツルメンツ製の高抵抗率計であるハイレスタUP(MCP−HT450)を用いて測定した。また、透明導電膜の熱伝導率は、アルバック理工社製の定常法熱伝導率測定装置GHシリーズを用いて測定を行った。
以上のようにして準備したガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した。なお、水蒸気透過率の測定は、実施例1とは異なり、より高い測定限界(0.5mg/m2/day)まで測定できる装置を用いた。その結果、裏面側ガスバリア膜の組成は、SiNxOyにおいてx=1.0、y=0.15であった。その他の特性は以下の通りである。
水蒸気透過率:0.0015g/m2・day
酸素透過率:0.05cc/m2・day・atm
全光線透過率:78.5%
YI:3.8
カールの評価:ヒートサイクル試験前後でいずれも「○」
裏面側ガスバリア膜の消衰係数:0.005
接着性の評価:製造直後100%、耐湿熱試験後100%
[実施例3]
透明導電膜をイオンプレーティング法にて成膜する際の条件を以下のようにしたこと以外は、実施例2と同様にしてガスバリア性シートを製造した。
透明導電膜の成膜条件:
材料:ITO粒(20%Sn)
成膜時圧力:0.1Pa
Ar流量:10sccm、酸素流量:20sccm
印加電力:4.0kW
得られた透明導電膜の表面抵抗値と熱伝導率を測定したところ、それぞれ4.3×105Ω/□、8W/mKであった。
以上のようにして準備したガスバリア性シートにつき、アンカー膜、ガスバリア膜、及び裏面側ガスバリア膜は実施例2と同様のものを用いた。このため、裏面側ガスバリア膜の消衰係数は実施例2と同様の値となるため、これ以外の特性を実施例2と同様にして評価した。水蒸気透過率についても、実施例2と同様にして測定した。結果を以下に示す。
水蒸気透過率:0.0021g/m2・day
酸素透過率:0.05cc/m2・day・atm
全光線透過率:78.1%
YI:3.7
カールの評価:ヒートサイクル試験前後でいずれも「○」
接着性の評価:製造直後100%、耐湿熱試験後100%
[比較例4]
アンカー膜を、化合物Aを用いずTEOSのみから構成されるポリシロキサン重合体で形成したこと以外は実施例1と同様にしてガスバリア性シートの製造を試みた。具体的には、メタノール32.04gに純水18.01gを加えた溶液を調製した。次いで、この溶液を窒素雰囲気下で80℃に加熱し、還流下でTEOS20.83gを滴下して1時間攪拌して、塗布液を調製した。この塗布液を用いてスピンコート法にて基材上へ塗膜形成を試みたが、重合剤が含まれていないために水分による自然重合となって塗工面に粒子が発生したり膜厚むらが生じたりし、ガスバリア性シートを製造することができなかった。
[実施例4]
アンカー膜を、TEOS:76.9mol%及びマロン酸ジメチル(化合物A):23.1mol%から構成されるポリシロキサン重合体で形成したこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートの製造を試みた。以下に、ガスバリア性シートの製造方法につき、実施例1との相違点について説明する。
具体的には、ポリシロキサン重合体の塗布液を、以下のようにして製造した。まず、エタノール61.16gの攪拌下に蟻酸10.01gを少量ずつ添加して、蟻酸のエタノール溶液を調製した。次いで、この溶液を窒素雰囲気下で40℃に加熱し、還流下でTEOS20.83gと、マロン酸ジメチル(化合物A)3.39gと、を滴下して、TEOSとマロン酸ジメチルとを重合させた。滴下後、室温まで放冷してポリシロキサン重合体の塗布液を調製した。そして、この塗布液に、エタノール:メタノール=1:1の混合溶液を添加し、重量比が1:1(固形分濃度5重量%)となるように希釈した。
この塗布液をダイコート法にて基材上に塗布し、約1μmの塗膜を形成し、予備加熱が60℃/1分、熱硬化条件が150℃/15分として、アンカー膜を形成した。
以上のようにして得たガスバリア性シートにつき、まず、ガスバリア膜の二次粒子径と二次粒子間の距離とを実施例1と同様にして測定した。その結果、二次粒子の粒径は350nmであり、二次粒子間の距離は140nmであった。次いで、各種の特定につき、実施例1と同様の評価を行った。なお、水蒸気透過率については、実施例2と同様にして測定した。結果を以下に示す。
水蒸気透過率:0.0065g/m2・day
酸素透過率:0.05cc/m2・day・atm
全光線透過率:85.0%
YI:1.5
カールの評価:ヒートサイクル試験前後でいずれも「○」
アンカー膜の消衰係数:0.01
接着性の評価:製造直後100%、耐湿熱試験後95%
[実施例5]
実施例1のガスバリア性シートを用い、基材の両面のうち、アンカー膜及びガスバリア膜(SiNxOy膜)が形成された面に、イオンプレーティング法にて、厚さ30nmの透明導電膜をさらに設けてガスバリア性シートを製造した。イオンプレーティング法の条件は下記の通りである。
透明導電膜の成膜条件:
材料:ITO粒(15%Sn)
成膜時圧力:0.1Pa
Ar流量:10sccm、酸素流量:10sccm
印加電力:4.0kW
得られた透明導電膜の表面抵抗値と熱伝導率を実施例2と同様にして測定したところ、それぞれ1.5×104Ω/□、4W/mKであった。
以上のようにして準備したガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した。なお、水蒸気透過率については、実施例2と同様にして測定した。各種の特性を以下に示す。
水蒸気透過率:0.0008g/m2・day
酸素透過率:0.05cc/m2・day・atm
全光線透過率:79.6%
YI:3.2
カールの評価:ヒートサイクル試験前後でいずれも「○」
接着性の評価:製造直後100%、耐湿熱試験後100%
[実施例6]
実施例1のガスバリア性シートを用い、ガスバリア膜上に、イオンプレーティング法にて、酸化ストロンチウムから形成される厚さ100nmの吸湿膜をさらに設けてガスバリア性シートを製造した。イオンプレーティング法の条件は下記の通りである。
吸湿膜の成膜条件:
材料:酸化ストロンチウム粒
成膜時圧力:0.3Pa
Ar流量:20sccm、酸素流量:5sccm
印加電力:5.0kW
以上のようにして準備したガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した。吸湿膜の消衰係数の評価についても、実施例1でアンカー膜及びガスバリア膜の消衰係数を評価した方法と同様の方法で行った。各種の特性を以下に示す。
水蒸気透過率:0.05g/m2・day
酸素透過率:0.05cc/m2・day・atm
全光線透過率:90.1%
YI:0.2
カールの評価:ヒートサイクル試験前後でいずれも「○」
吸湿膜の消衰係数:1×10−5
接着性の評価:製造直後100%
[実施例7]
実施例1のガスバリア性シートを用い、ガスバリア膜上に、イオンプレーティング法にて、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)から形成される厚さ50nmの放熱性ガスバリア膜を設け、さらに放熱性ガスバリア膜の上に、イオンプレーティング法にて、酸化ストロンチウムから形成される厚さ100nmの吸湿膜を設けてガスバリア性シートを製造した。放熱性ガスバリア膜の成膜条件は下記の通りである。吸湿膜の成膜条件は実施例6と同様とした。
放熱性ガスバリア膜の成膜条件:
材料:エチレンガス
成膜時圧力:0.1Pa
Ar流量:20sccm、エチレン流量:15sccm
印加電力:5.0kW
なお、ガスバリア性シートの製造途中で放熱性ガスバリア膜を成膜したところで、放熱性ガスバリア膜の熱伝導率を測定した。その結果、35W/mKであった。放熱性ガスバリア膜の熱伝導率の測定は、アルバック理工社製の光交流法熱拡散率測定装置 LaserPIT−1を用い、熱源にダイオードレーザ、測定環境を大気圧(20℃)として熱伝導率を測定した。
以上のようにして準備したガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した(吸湿膜の消衰係数は実施例6と同様の値となった)。各種の特性を以下に示す。
水蒸気透過率:0.05g/m2・day
酸素透過率:0.05cc/m2・day・atm
全光線透過率:89.8%
YI:0.3
カールの評価:ヒートサイクル試験前後でいずれも「○」
接着性の評価:製造直後100%