以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより得られるポリアクリル酸系重合生成物であって、前記ポリアクリル酸系重合生成物は、アルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)を有するポリアクリル酸系重合体を含み、該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の割合は、ポリアクリル酸系重合体を構成する不飽和単量体由来の構造単位に対し、該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の構造単位が、1.5mol%以上であり、前記重合開始剤由来の無機イオン含有量が、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、12,000質量ppm以下である、ポリアクリル酸系重合生成物である。
本明細書中で使用される、「ポリアクリル酸系重合生成物」との語句は、重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより得られる物をいう。つまり、これらにより得られる物の意であるので、その状態は、溶媒が除去された固体状態であってもよいし、後述する水および/または水溶性有機溶媒に溶解した溶液状態であってもよい。
また、「生成物」としたのは、本願のポリアクリル酸系重合生成物は、重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより得られる物であるので、ポリアクリル酸系重合体のみならず、原料である重合開始剤由来の無機イオン等を含むことがあるためである。別の観点で考えると、「ポリアクリル酸系重合生成物」は、2以上の成分からなるという点では、「ポリアクリル酸系重合体組成物」とも言える。
[アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体]
本発明に用いられうるアクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体は、アクリル酸および/またはその塩に由来する繰り返し単位を主鎖に有する重合体である。また、ポリアクリル酸系重合生成物は、アルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)を有するポリアクリル酸系重合体を含む。
本発明者らは、ポリアクリル酸重合体の親水性が高すぎても、疎水性が高すぎても経時的な分散性が低下する傾向に鑑み、「親水性/疎水性のバランスの取れた置換基」を末端に導入するとの創意工夫を行った結果、驚くべきことに、所望の特性を有するポリアクリル酸重合体生成物を得ることができたのである。
ここで、「アルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)を有する」とは、具体的には、主としてポリアクリル酸系重合体の末端にアルコール系連鎖移動剤由来の構造を有することであり、重合体主鎖の水素ラジカル引き抜き後の連鎖移動反応や、側鎖のカルボキシル基のエステル化により、主鎖や側鎖に導入されたアルコール系連鎖移動剤由来の構造も含む。
ここで、「該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の割合は、ポリアクリル酸系重合体を構成する不飽和単量体由来の構造単位に対し、重合体が有する構造(A)の構造単位が、1.5mol%以上であり、(該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の構造単位の、ポリアクリル酸系重合体を構成する不飽和単量体由来の構造単位に対する比率(mol%)を、本明細書中、「構造(A)のモル比率」とも称する)」について説明を行う。
[「構造(A)のモル比率」]
「構造(A)のモル比率」は、
で表すことができる。なお、「構造(A)のモル比率」を測定(算出)する具体的方法としては、実施例の欄に詳説する。
重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより、ポリアクリル酸系重合体が得られる。アルコール系連鎖移動剤は、上述の通り、重合により得られたポリアクリル酸系重合体の末端や、ポリアクリル酸系重合体の主鎖、および/または側鎖のカルボシキル基に導入され、得られたポリアクリル酸系重合体は、アルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)を有するのである。つまり、「構造(A)のモル比率」とは、重合体生成物中のポリアクリル酸系重合体に、どれだけのアルコール系連鎖移動剤由来の構造が導入されているかを示す指標である。換言すると、ポリアクリル酸系重合体中の連鎖移動剤に由来する骨格の比率である。
ここで、「構造(A)のモル比率」が示す意味を、具体例を挙げて説明する。
「構造(A)のモル比率」は、重合体を構成する単量体単位に対して、重合体にどの程度アルコール系連鎖移動剤が導入されているかを示す。重合により得られたポリアクリル酸系重合体に、アルコール系連鎖移動剤が多く導入されていれば、それだけ「構造(A)のモル比率」が増加することになる。
本発明のポリアクリル酸系重合体は、「構造(A)のモル比率」は、1.5mol%以上であれば特に制限はないが、泥汚れや顔料の分散力の観点で、好ましくは1.5〜3.5mol%、より好ましくは1.6〜3.0mol%、さらに好ましくは1.7〜2.8mol%である。1.5mol%未満であると、分散力の経時安定性が低下するとの結果になる虞れがある。
ここで、「構造(A)のモル比率」は、後述するように1HNMRにより算出できる。例えば、アクリル酸の単独重合体であれば、以下のように算出することができる。アクリル酸の単独重合体における「不飽和単量体由来の構成単位」とは、当然、アクリル酸に由来の単位である。ここで、「アクリル酸に由来の単位」とは、アクリル酸(CH2=CHCOOH)が重合した後の構造(−CH2−CH(COOH)−)を表す。すなわち、1HNMRチャートにおいて、構造(A)のピーク面積を構造(A)のプロトン数で除した値を、アクリル酸由来の構造単位のメチン基のプロトン(アクリル酸由来の構造単位中のメチンプロトン数は1である)のピーク面積をメチン基のプロトン数1で除した値で除することにより、「構造(A)のモル比率」が算出できる。
上記ピーク面積は、プリントアウトしたチャートから、ピークを切り取り、質量を測定することにより比較してもよい。
本発明において、上記「重合体を構成する不飽和単量体由来の構成単位のモル数」を計算するときは、単量体由来の構成単位が主鎖に該当する部分にメチン基を有する場合には、メチン基のプロトンのピークを計算に使用する。単量体由来の構成単位が主鎖に該当する部分にメチン基を有さない場合には、主鎖に該当する部分のメチレン基のプロトンのピーク、又は側鎖のプロトンのピークを計算に使用する。
なお、1HNMRの測定は、重合体生成物を、乾燥した後、測定溶媒に溶解して測定する。しかし、重合体生成物が残存モノマー等の不純物を多く含むこと等により、測定が困難な場合には、重合体生成物を、透析処理する等の公知の方法で単量体等を除去した後、乾燥した後、測定溶媒に溶解して測定してもよい。
なお、ポリアクリル酸系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合可能な単量体と共重合した構造を持つものであってもよい。
上記アクリル酸および/またはその塩は、アクリル酸およびアクリル酸塩の少なくとも一方である。アクリル酸塩としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム等のアクリル酸アルカリ金属塩;アクリル酸アンモニウム;アクリル酸有機アミン塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
上記他の共重合可能な単量体としては、特に限定されるものではなく、必要に応じて併用することができるが、以下に記載するものを用いるのが好ましい。
すなわち、他の共重合可能な単量体としては、例えば、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の不飽和カルボン酸系単量体;(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体;(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、2−メチルスチレン、酢酸ビニル等の疎水性単量体;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−プロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシスルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホエチルマレイミド等の不飽和スルホン酸単量体;上記不飽和ジカルボン酸系単量体、上記不飽和多価カルボン酸系単量体または上記不飽和スルホン酸系単量体を、1価金属、2価金属、アンモニア、有機アミン等で部分中和または完全中和してなる中和物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、α−ヒドロキシアクリル酸、ビニルアルコール等の水酸基含有不飽和単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のカチオン性単量体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系単量体;(メタ)アクリルアミドメタンホスホン酸等の含リン単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;ビニルピロリドン;(メタ)アリルアルコールのエチレンオキシド付加物、イソプレノ−ルのエチレンオキシド付加物、(メタ)アクリル酸の(アルコキシ)ポリエチレングリコールエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、またこれらを2種類以上併用してもよい。
この場合、他の共重合可能な単量体の比率は、得られうるポリアクリル酸系重合体の特性(経時安定性、高濃度での低粘性、分散性など)を損なわれない範囲であれば、特に限定されないが、不飽和単量体全体の、0〜30質量%、より好ましくは0〜10質量%である。
また、この際、不飽和単量体における不飽和モノカルボン酸および不飽和ジカルボン酸の割合が、90mol%以上であると、泥汚れや顔料の分散力の観点で好ましく、より好ましくは95mol%以上であり、さらに好ましくは97mol%以上であり、特に好ましくは100mol%である。
本発明のポリアクリル酸系重合体は、同一の繰り返し単位からなるものであっても、または異なる繰り返し単位からなるものであってもよく、後者の場合には、その繰り返し単位の結合形態はブロック状であってもまたはランダム状であってもよい。
本発明のポリアクリル酸系重合体の分子構造としては、分岐状であっても、直鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
本発明のポリアクリル酸系重合体の重量平均分子量は、1500〜50,000の範囲、より好ましくは1800〜20,000、さらにより好ましくは2000〜15,000の範囲である。かような範囲であると、分子量の小さい領域で分散能を示すため好ましい。なお、本明細書中、重量平均分子量は、実施例の欄に記載の方法によって得られた値を言うものとする。
[残存する無機イオンの含量]
重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより得られるポリアクリル酸系重合生成物であって、前記重合開始剤由来の無機イオン含有量(本明細書中「残存する無機イオンの含量」とも称する)が、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、12,000質量ppm以下である。
残存する無機イオンの含量が、12,000質量ppmを超えると、ポリアクリル酸系重合生成物を洗剤ビルダー等に使用した際、粘性や経時安定性が低下するという結果に繋がる。よって、本発明のポリアクリル酸系重合生成物を洗剤ビルダー等に使用した際の、粘性や経時安定性を考慮すると、好ましくは9,300質量ppm以下であり、より好ましくは8,200以下であり、さらに好ましくは7,000以下である。なお、実情を考えると、2,000質量ppm以上である。
上記の通り、本発明者らは、重合体に特定の構造を所定量導入することに加えて、残存する無機イオンの量を減らす処方を行う研究を行った結果、驚くべきことに、経時安定性があり、かつ、より高濃度で、より低粘度の水性分散体を得ることができるポリアクリル酸系重合生成物を得ることができたのである。
残存する重合開始剤由来の無機イオンとしては、硫酸イオン、亜硫酸イオンなどの硫黄原子を含むもの、次亜リン酸イオン、亜リン酸イオン、リン酸イオンなどのリン原子を含むもの、亜硝酸イオン、硝酸イオンなどの窒素原子を含むものなどが挙げられる。これらのうち、硫黄原子を含むものの影響が最も大きい。なお、残存する重合開始剤由来の無機イオンの含量を測定方法に関しては、実施例の欄にて詳説する。
また、重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより得られるポリアクリル酸系重合生成物においては、残存する不飽和単量体(本明細書中、「残存モノマー」とも称する)が少なければ少ないほどよい。
残存モノマーの含量は、具体的には、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、5000質量ppm以下が好ましく、残存モノマーの含量が、12,000質量ppmを超えると、分散剤性能の悪化に繋がる虞れがある。よって、より優れた分散剤性能を発揮させることを考慮すると、好ましくは8,200質量ppm以下であり、より好ましくは7,000以下であり、さらに好ましくは4,500以下である。なお、実情を考えると、2,000質量ppm以上である。
なお、本明細書においては、後述する分子量の測定方法と同じ条件で分析して検出した残存モノマーを定量した。
また、本発明のポリアクリル酸系重合生成物の分子量分布としては、1.2〜3.0が好ましい。より好ましくは、1.3〜2.8であり、さらに好ましくは、1.5〜2.5である。ここで、分子量分布とは、重量平均分子量/数平均分子量で表される数値である。かような範囲であると、無機物の分散力の向上の観点から好ましい。
[本発明の重合生成物を製造する方法]
上記の通り、本発明は、重合開始剤およびアルコール系連鎖移動剤を用いて、アクリル酸および/またはその塩を含む不飽和単量体を重合することにより得られるポリアクリル酸系重合生成物であって、前記ポリアクリル酸系重合生成物は、アルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)を有するポリアクリル酸系重合体を含み、該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の割合は、ポリアクリル酸系重合体を構成する不飽和単量体由来の構造単位に対し、該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の構造単位が、1.5mol%以上であり、前記重合開始剤由来の無機イオン含有量が、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、12,000質量ppm以下である、ポリアクリル酸系重合生成物である。
なお、本明細書中、重合により得られるポリアクリル酸系重合体を単に、「重合体」や「ポリマー」とも称する。
本発明は、逆転の発想を用いて、重合体に特定の構造を所定量導入することのみならず、残存する無機イオンの量を低減させるという技術的思想に特徴を有する。したがって、「ポリアクリル酸系重合体を構成する不飽和単量体由来の構造単位に対し、該ポリアクリル酸系重合体が有するアルコール系連鎖移動剤由来の構造(A)の構造単位が、1.5mol%以上であり、前記重合開始剤由来の無機イオン含有量が、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、12,000質量ppm以下」にせしめる具体的方法を以下に説明する。
本発明のポリアクリル酸系重合生成物を製造する方法としては、溶媒(「重合溶媒」とも称する)中で重合開始剤を用いて行うことが、特に好適に挙げられる。
上記ポリアクリル酸系重合生成物の重合溶媒としては、好ましくは水が用いられ、必要により水溶性有機溶剤を適宜添加するとよい。つまり、重合溶媒が混合溶媒の形態であってもよい。
水としては、特に制限はなく、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水(イオン交換後、蒸留)のいずれでもよいが、無機イオンが取り除かれているという観点で、イオン交換水か、純水が、好適である。
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の低級アルコール類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;1、4−ジオキサン等のエーテル類等が挙げられ、これらの中から1種類または2種類以上適宜選んで使用できる。中でも、イソプロパノールは、連鎖移動効果を奏するため好ましい。重合液を部分中和して、相分離させ、上層に低分子量生成物を移行させ、狭い分子量分布の重合生成物を得るとの観点から、2−プロパノール(イソプロパノール)や2−ブタノール、t−ブタノール等がさらに好ましい。中でも、イソプロパノールは、連鎖移動効果を奏するため好ましい。
アルコール系連鎖移動剤としては、2−プロパノール(イソプロパノール)、2−ブタノール等の2級アルコールやt−ブタノール等が挙げられる。これらは、重合溶媒として兼用してもよい。
重合溶媒が混合溶媒の形態である場合、水溶性有機溶剤の添加割合は、混合溶媒全量に対し、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは25〜75質量%である。95質量%を超えると、重合した重合生成物が析出する虞れがある。
なお、本発明の重合体を製造するために、不飽和単量体および重合開始剤を添加する前に、水、水溶性有機溶剤および水溶性有機溶剤の混合溶媒(重合溶媒)のいずれかを還流させるとよい。好ましくは、水溶性有機溶剤の混合溶媒(重合溶媒)を還流させる。
上記ポリアクリル酸系重合生成物を製造する際の重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、過酸化物等が挙げられる。
過酸化物としても、特に制限はなく、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;2、2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)2塩酸塩、4、4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、アゾビスイソブチルニトリル、2、2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物等が挙げられる。
これらのうち、残存する不飽和単量体の含量を低減せしめるとの観点から、過硫酸塩が好ましい。また、上記過酸化物の中でも、硫酸イオン除去の観点から、特に、過酸化水素、有機過酸化物が好ましいが、得られる重合体の製造コストの面から、あるいは、所望の分子量の重合体を得ることが容易な点から、重合体の使用用途に影響が許す範囲で過硫酸塩を使用することが好ましい。なお、これら重合開始剤は、単独で用いてもよく、またこれらを2種類以上併用してもよい。
本発明のポリアクリル酸系重合生成物において、残存する無機イオンの含量を、5000質量ppm以下に制御することを考慮すると、上記重合開始剤の添加量としては、使用する不飽和単量体に対して、好ましくは0.5〜3.0質量%、より好ましくは0.7〜2.5質量%、さらに好ましくは1.0〜2.0質量%とすることがよい。3.0質量%を超えると、残存する重合開始剤由来の無機イオンの含量が12,000質量ppmを超える虞があり、0.5質量%未満であると、不飽和単量体が重合体へ十分転化しない虞れがある。このように、添加する重合開始剤の量を有意に低減させることで、残存する無機イオンの量を有意に低減することができるとともに、構造(A)のモル比率を増加させることができる。
また、上記重合開始剤は、一括添加する、滴下等により連続的に添加する、あるいは分割して間欠的に添加するなど、いずれの形態で添加されてもよい。しかし、一括添加した場合には、不飽和単量体が急激に重合するため、添加直後には多量の反応熱のため反応制御が困難になったり、未反応単量体が多量に残存したり、分子量分布が広くなる虞れがある。ゆえに、本発明では、重合開始剤は、連続的に滴下されることが好ましい。
また、過硫酸塩を連続的に滴下する場合の滴下条件は、特に制限されないが、得られるポリアクリル酸系重合体の分子量および分子量分布などを考慮すると、過硫酸塩を、好ましくは60℃〜100℃、より好ましくは、70℃〜100℃の温度で、好ましくは2〜4時間、より好ましくは2.5〜3.5時間で、連続的に滴下することが好ましい。上記範囲を超えると、構造(A)のモル比率が低下する傾向にある。その結果、分散力の経時安定性が低下する虞れがある。
なお、重合開始剤は、不飽和単量体と同時に添加することもできるし、不飽和単量体を添加する前に添加しても、後に添加してもよい。好ましくは、発熱開始時間を早くするとの観点から、重合開始剤を先に添加することが好ましい。
ところで、添加する重合開始剤の量を減らすと、製造される重合体の分子量は大きくなる方向に向かうが、上記の通り、ポリアクリル酸系重合生成物は、低分子量の領域(例えば、1000〜50000という低い重量平均分子量)で分散能を発揮する。よって、添加する重合開始剤の量を増加させる以外の方法で、分子量の増大を抑える方法(つまり、分散能を発揮しうる分子量に抑える方法)について説明する。すなわち、重合開始剤、アクリル酸塩は連続的に滴下されることが好ましい。これにより、開始剤の総添加量を減らしても、重合体の分子量を低く抑えることが可能となると共に、構造(A)のモル比率が増加する傾向にある。
また、上記の場合、開始剤の総滴下時間を、アクリル酸の総滴下時間より1〜30分長くすると好ましい。さらに好ましくは3〜15分長くすることが好ましい。特に好ましくは4〜10分長くすることが好ましい。これにより、開始剤の総添加量を減らしても、重合体の分子量を低く抑えることが可能となると共に、構造(A)のモル比率が増加する傾向にある。
また、上記の場合、アクリル酸の滴下終了後、重合開始剤を1分以上に渡り、連続的に滴下することが好ましい。好ましくは3分以上、より好ましくは4分以上、連続的に滴下することが好ましい。好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは7分以下に渡り、連続に滴下するとよい。これにより、開始剤の総添加量を減らしても、重合体の分子量を低く抑えることが可能となると共に、構造(A)のモル比率が増加する傾向にある。
このように、得られる重合体の分子量を低減させるために、添加する重合開始剤の量を増やすことなく、上記の方法を採用することにより、分子量の増大を有意に抑制し、ポリアクリル酸重合体の有する分散能を向上させるのである。そのような工夫をしたのも、逆転の発想を用いて、重合体に特定の構造を所定量導入することのみならず、残存する無機イオンの量を低減させるという技術的思想に特徴を有する点に他ならない。
また、本発明の重合体を製造するためには、低分子化合物や低分子量のポリマーの生成を抑制するとよい。なお、本明細書中、「低分子化合物」とは、具体的には、不飽和単量体、仕込んだ原料が挙げられ、「低分子量のポリマー」とは、ポリアクリル酸系重合生成物中のオリゴマーを指す。前記ポリアクリル酸系オリゴマーの重量平均分子量は、例えば、1,500以下のものを示す。
そのために、ポリアクリル酸系重合生成物に含まれる重合体の製造の際の重合条件を制御することがよい。具体的な重合条件に関して、以下に説明する。
上記重合溶媒中に存在する不飽和単量体の量は、不飽和単量体の(共)重合が十分進行できる量であれば制限されないが、モノマー/溶媒質量比で、好ましくは0.2〜1.5、より好ましくは0.3〜1.3、特に好ましくは0.4〜1.0である。このような量であれば、所望の重合体を効率よく得ることができ、十分な生産性を確保できる。
また、上記不飽和単量体は、混合溶媒中に、一括添加する、滴下等により連続的に添加する、あるいは分割して間欠的に添加するなど、いずれの形態で添加されてもよい。しかし、一括添加した場合には、不飽和単量体が急激に重合するため、添加直後には多量の反応熱のため反応制御が困難になったり、未反応単量体が多量に残存したり、分子量分布が広がったりする虞れがある。ゆえに、本発明では、不飽和単量体は、連続的に滴下されることが好ましい。
また、不飽和単量体を連続的に滴下する場合の滴下条件は、特に制限されないが、得られるポリアクリル酸系重合体の分子量および分子量分布などを考慮すると、不飽和単量体を、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜100℃の温度で、好ましくは2〜4時間、より好ましくは2.5〜3時間で、連続的に滴下することが好ましい。
重合条件は、使用される溶媒、重合開始剤の種類などにより適宜定められるが、例えば、重合温度は、通常、60〜100℃であることが好ましく、より好ましくは、70〜100℃以上であり、特に好ましくは、80〜100℃である。また、重合時間は、2〜5時間の範囲が適当であるが、好ましくは2.5〜4時間、さらに好ましくは2.5〜3.5時間の範囲がよい。重合時間が、この範囲より、長すぎたり短すぎたりすると、重合率の低下や生産性の低下をもたらす場合がある。
なお、本発明で重合時間とは、始点は少なくとも1種の開始剤と、少なくとも1種の単量体の両方が重合釜に添加された時点であり、終点は、開始剤と、単量体の滴下がすべて終了した時点である。
また、不飽和単量体の添加を終了した後、熟成工程を設けることが好ましい。
ここで、熟成工程における熟成条件は、不飽和単量体から、所定の分子量を有するポリアクリル酸系重合体が効率よく製造できる条件であれば特に制限されない。具体的には、不飽和単量体を添加した後、混合物を、好ましくは0.5〜2.0時間、より好ましくは0.5〜1.0時間、好ましくは70〜100℃、より好ましくは80〜100℃の温度に維持することが好ましい。また、当該熟成工程後は、温度を30〜80℃の範囲に調節し、必要に応じ、重合停止剤等を添加し、重合反応を停止する。
このようにして、本発明に係るポリアクリル酸系重合体を含む混合溶媒が得られるが、この際、以降の工程の操作性などを考慮すると、混合溶媒中の上記ポリアクリル酸系重合体の濃度は、20〜70質量%、より好ましくは30〜60質量%程度であることが好ましい。
上記の通り重合条件に調節を行うことにより、分散性能に悪影響を与えうる低分子化合物や低分子量のポリマーの生成を抑制することでき、そのことにより、ポリアクリル酸系重合体の分散性能が顕著に向上する。
また、本発明のポリアクリル酸系重合生成物を製造するためには、上記の通り、重合溶媒中で重合開始剤を用いて重合を行うことが好ましいが、その重合の後に、液液分離するとさらに好ましい。
重合条件を調節しても、不純物の低分子化合物や低分子量のポリマーが含まれる場合もある。そのような場合、実験室レベルでは、通常、ポリマー溶液をポリマーの貧溶媒に投入することによる再沈殿法によって、低分子量化合物やその他の不純物を除去することがある。しかし、この方法では、実生産においては、コストが、かかったり、貧溶媒を処理する工程が増えるといった問題がある。
本発明においては、水と、水溶性有機溶媒の混合溶媒中で重合を行い、ポリマーの中和度を利用して、部分中和ポリマーの水溶性有機溶媒への溶解度を低下させ、水溶性有機溶媒から相分離させる方法を利用する。この際、低分子ポリマーや不純物は、同時に水溶性有機溶媒比率の高い層へ一部移行するため、これらを低減または除去するといったことが可能である。
このメカニズムをより具体的に説明する。
すなわち、重合直後、混合溶媒は、層分離を起こすことなく均一である。ここで、ポリマーが溶解している水と水溶性有機溶媒との混合溶媒に、塩基性物質を添加すると、部分中和ポリマーの水溶性有機溶媒への溶解度は低下する。
その結果、溶媒はもはや均一性を保つことができなくなり、水層と水溶性有機溶媒の層とに層分離する。この際、ポリマーはいずれの層にも水と、水溶性有機溶媒を伴った形で存在する。高分子のポリマー等の水溶性有機溶媒に対して著しく溶解性が低いポリマーの大部分は水比率の高い層(「高含水層」や「水層」とも称する)に存在し、低分子量のポリマー等の比較溶解性の高いポリマーは水溶性有機溶媒比率の高い層(「高水溶性有機溶媒層」や「有機層」とも称する)に移行する。このとき、低分子ポリマーや不純物も同時に水溶性有機溶媒比率の高い層へ一部移行するため、これらを低減または除去する。
なお、上記メカニズムは発明者らの推測に過ぎず、発明の技術的範囲が、このメカニズムによって制限されないことは言うまでもない。
液液分離に用いられるアルカリ性物質(塩基性物質)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムといった1価のアルカリ金属水酸化物や、水溶性有機溶媒に対して、比較的溶解性の高い脂肪族アミン類や芳香族アミン類などが挙げられる。特に好ましくは入手容易性や比較的安価である点から水酸化ナトリウムである。
添加するアルカリ性物質の量としては、使用される不飽和単量体(モノマー)および塩基性物質の分子量によって異なるため、質量比で示すよりむしろ中和後のポリマーのカルボキシル基(酸型)のモル比が重要である。すなわち、カルボキシル基(酸型)と、カルボン酸塩の合計量が、100mol%に対して、カルボン酸塩の割合が、好ましくは20〜95mol%となるように塩基性物質を添加するとよい。ただ、より好ましくは30〜90mol%、さらに好ましくは30〜80mol%である。95mol%を超えると、水溶性有機溶媒に対する溶解性が殆ど失われる虞れがあるので、低分子量ポリマーの分離が悪くなる虞れがある。一方で、20mol%より小さいと層分離自体が起こらない可能性がある。
続いて、液液分離(層分離)の工程における具体的条件について、以下により詳細に記載する。
所定の温度にある重合生成物(重合後の溶液)を攪拌しながら、所定量の塩基性物質を滴下していき、滴下終了後、中和を完結させるため、好ましくは0.5〜2.0時間攪拌し続ける。
この間に層分離が起こるが、各層を分離するため分液用の装置に移送し、所定の温度で、所定の時間静置し、分離を完結させる。
所定の温度の温度としては、得られる重合体の分散力の経時安定性を考慮すると、好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃である。30℃未満であれば、上層と、下層の組成等が一定になるまで時間がかかる為、製品の性能がばらつく可能性がある。一方で、70℃を超えると、低分子量体等を除くことができなくなる虞れがある。
なお、無機イオンは、高含水層(水層)に分配されることとなるが、上述の通り、添加する重合開始剤の量を有意に低減せしめているため、所望のポリアクリル酸系重合生成物は製造できるのである。
このようにして得られた高含水層に含まれるポリアクリル酸系重合体は、このまま各種用途に使用することも可能であるが、通常は蒸留操作等により、水溶性有機溶媒を留出させて、ほぼ、水溶性有機溶媒が不含の状態で各種用途に供される。
また、各層(「高含水層」「有機層」)から留出、回収した水溶性有機溶媒は、コスト低減のため、再度、水/水溶性有機溶媒比を調節し、重合に再利用することも可能である。
高含水層の水溶性有機溶媒の有機溶剤除去後の含有率は、特に限定されないが、好ましくは1質量%以下、より好ましくは5000質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以下である。少なければ少ないほど回収率が向上するため、水溶性有機溶媒のコスト比率が抑制できる。
なお、これらの操作を行った後の高含水層における残存する不飽和単量体の含量は、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、好ましくは、12,000質量ppm以下であり、より好ましくは9,300質量ppm以下である。なお、実情を考えると、1,000質量ppm以上である。
また、これらの操作後の高含水層中の残存無機イオン量は、ポリアクリル酸系重合生成物の固形分に対し、12,000質量ppm以下である。より好ましくは9,300質量ppm以下である。なお、実情を考えると、2000質量ppm以上である。
本発明の重合体生成物は、洗剤用ビルダーとして好ましく使用できる。
具体的には、本発明の洗剤用ビルダーは、本発明の重合体生成物のみからなってもよいし、他の任意の適切な洗剤用ビルダーとの混合物からなってもよい。上記の場合、本発明の重合体生成物は、水溶液の形態、乾燥した形態のいずれであってもよい。
上記他の任意な洗浄用ビルダーとしては、例えば、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ボウ硝、炭酸ナトリウム、ニトリロトリ酢酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウムやカリウム、ゼオライト、多糖類のカルボキシル誘導体、(メタ)アクリル酸(共)重合体塩、フマル酸(共)重合体塩などの水溶性重合体等が挙げられる。
上記洗剤用ビルダーは、液体洗浄用であっても粉末洗剤用であってもよい。本発明の洗剤用ビルダーは界面活性剤との相溶性に優れる。このため、高濃縮の液体洗剤組成物とすることができる点では液体洗剤用が好ましい。
上記洗剤ビルダーは、本発明の作用効果を損なわない範囲内で、任意の適切な種類や配合比率を設定し得る。
上記洗剤用ビルダーは、経時的な分散安定性に優れ、再汚染防止能等の特性に優れる。
上記の通り、本発明の重合体生成物は、洗剤組成物の原料として好ましく使用できる。好ましくは本発明の重合体生成物からなる、洗剤用ビルダーを含む。
上記洗剤組成物は、粉末洗剤組成物であってもよいし、液体洗剤組成物であってもよい。上記洗剤組成物は、通常、洗剤に用いる、任意の適切な添加剤を含んでもよい。上記添加剤としては、例えば、アルカリビルダー、キレートビルダー、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の汚染物質の再沈着を防止するための再付着防止剤、ベンゾトリアゾールやエチレン−チオ尿素等の汚れ抑制剤、ソイルリリース剤、色移り防止剤、柔軟材、pH調節のためのアルカリ性物質、香料、可溶化剤、蛍光剤、着色剤、起泡剤、泡安定剤、つや出し剤、殺菌剤、漂白剤、漂白助剤、酵素、汚染、溶媒等が好適に挙げられる。また、粉末洗剤組成物の場合には、ゼオライトを配合することが好ましい。
洗剤用ビルダー中における本発明の重合体生成物の含有割合(重合体生成物および洗剤用ビルダー中の水分を除いた質量として比較)は、洗剤用ビルダー100質量%に対して、0.1〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜70質量%、さらに好ましくは5〜65質量%である。本発明の重合体生成物の含有割合が、0.1質量%未満であると、洗浄組成物として用いた場合の洗浄力が不十分になる虞れがある。本発明の重合体生成物の含有割合が80質量%を超えると、不経済になる虞れがある。
上記洗剤組成物における、本発明の重合体生成物を含む洗剤用ビルダーの配合形態は、液状でもよいし、固形状でもよい。洗剤の販売時の形態(例えば、液状物または固形物)に応じて決定すればよい。また、重合後の水溶液の形態で配合してもよいし、水溶液の水分をある程度減少させて濃縮した状態で配合してもよい。
なお、上記生成物は、家庭用洗剤の合成洗剤、繊維工業その他の工業用洗剤、硬質表面洗浄剤の他、その成分の1つの働きを高めた漂白洗浄等の特定の用途にのみ用いられる洗剤も含む。本発明の重合生成物は、キレート能に優れるため、微量金属を捕捉することにより、過酸化水素を安定化でき、漂白剤の安定化能に優れることから好適に用いられる。
上記洗剤組成物は、重合生成物以外に、界面活性剤を含むことが好ましい。該洗浄組成物中に好ましく含まれる界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、および、両性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種である、これらの界面活性剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤を2種以上併用する場合、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤と合わせた使用量は、全界面活性剤100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
本発明の重合体生成物は、顔料分散剤として好ましく使用できる。
本発明によれば、低粘度で経時安定性を有し、かつ高濃度の製紙用顔料スラリーを提供することが可能となる。そしてひいては、該スラリーを用いて塗工した際に塗工欠陥を生じることなく、良好な原紙被覆性、印刷光沢、耐ブリスター性、ムラのない印刷面感を与え、かつ顔料が本来持つ白色度、不透明度、インキ受理性の優位性を備えた印刷用塗工紙を提供することが可能となる。
本発明に用いられる顔料としては、特に制限はないが、例えば、カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、サチンホワイト、タルク、水酸化アルミニウム、プラスティックピグメント等が挙げられる。
本発明において、顔料を調製する方法としては、従来公知の方法が適宜参照され、あるいは組み合わせることにより行うことができるが、例えば、一次分散を行い、それを湿式粉砕処理する方法が挙げられる。この方法は、低粘度であり、かつ分散安定性に優れた高濃度の顔料スラリーを得ることができる点、好適である。さらには、無論、本発明における顔料の調製方法は、この湿式粉砕処理法に限定されるものではなく、湿式粉砕処理を施さない調製方法をとることも何ら制限されるものではない。上記顔料の調製方法において、一次分散の方法は特に限定されるものではないが、ミキサーで混合するのが好ましく、例えば、高速デイスパー、ホモミキサー、ボールミル、コーレスミキサー、攪拌式ディスパーサー等の剪断力の高いものを用いることが好適である。
湿式粉砕処理の際、本発明の第一のようにして得られたポリアクリル酸系重合生成物をも、粉砕機に仕込んで、粉砕させてもよい。このような場合、該ポリアクリル酸系重合生成物は、粉砕助剤としての役割も発揮する。
上記製紙用顔料スラリーに含まれる顔料の平均粒径としては、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。なお、粒径を制御する方法としては、上記装置等で粉砕を行い、後述の実施例で用いられたようなレーザー粒度分布計にて粒径を計測し、所望の粒径が、好ましくは93%、より好ましくは95%以上であるとよい。
上記製紙用顔料分散剤の使用量は、本発明のポリアクリル酸系重合生成物の使用量との合計が、顔料全量に対して、好ましくは0.05〜1.0質量%である。
本発明における顔料スラリーとしてはまた、固形分濃度が65質量%以上であるものであることが好ましい。
上記顔料スラリーの粘度は、特に限定はされないが、好ましくは1000mPa・s以下であり、より好ましくは600mPa・s以下である。1000mPa・sより高い場合、上記スラリーを主体として調製された塗工液が、高速で高剪断力を受けながら塗工されたときに、ストリーク、ブリーディングや石筍等の塗工欠陥を発生し易く、優れた塗工紙面感を得られない虞れがある。
なお、上記顔料スラリー粘度は、B型粘度計を使用し、測定条件としては、ローターNo.3、60rpm、1分間で行い測定した値をいう。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
<「構造(A)のモル比率」の定量方法(1HNMR解析による)>
NMRチャート(重水中で測定)を準備した。そして、連鎖移動剤由来の3つのピークのベースラインを引いた。IPA(イソプロパノール)の場合、1.1質量ppmのピーク、1.2質量ppmのピーク、1.3質量ppmのピークが連鎖移動剤であるIPA由来のメチル基のピークである。これら3つのピーク合計を、IPA由来のピークとする。
ポリマー主鎖のうちCH基のピークを対比に使用した。1.7質量ppmと2.35質量ppmからベースラインに垂直に線を引くことにより他のピークと分離した。これをCH基のピークとした。ピークをチャート紙より切出して質量を計測した。
3つのピーク質量を合計したものを、構造(A)内で比較に使用した部分のプロトン数(上記の場合、アルコール系連鎖移動剤であるIPAのメチル基に由来する6)で除する(WA)と言う。一方で、ポリマー主鎖のメチン基のピークにプロトン数(ポリマーがアクリル酸の単独重合体であれば、1である)で除する(WMと言う)。ここで、上記「重合体に含まれる構造(A)のモル数/重合体に含まれる不飽和単量体由来の構成単位のモル数」は、WA/WMで算出される。よって、
<分子量、分子量分布の測定方法>
水溶性樹脂の分子量を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の測定条件で測定した。
<無機イオンの測定方法>
イオンクロマトグラフィー(サプレッサー法)にて、以下の測定条件で測定した。
<重合体生成物(ポリマー水溶液)の固形分>
重合体生成物約1gを予め正確に秤量したアルミカップ(Ag)に、アルミカップごと正確に秤量する(Bg)。窒素雰囲気下で、120℃で1時間乾燥する。乾燥後のアルミカップをデシケータ中で冷却した後秤量する(Cg)。秤量することにより測定した揮発分から、固形分を算出する。
<実施例1>
還流冷却管、2つの滴下装置、およびパドル翼を備えた容量5Lのステンレス(SUS316)製セパラブルフラスコに、イオン交換水(初期仕込み液)400gとイソプロピルアルコール400gを仕込んだ。上記2つの滴下装置に、アクリル酸(以下、AAと記す)80%水溶液540gと過硫酸ナトリウム15%水溶液60gを、各々別個に滴下液として仕込んだ。
撹拌しながら還流温度まで昇温し、還流を開始させた後、上記各水溶液のフラスコ内への滴下を同時に開始した。AA80%水溶液を180分、過硫酸ナトリウム15%水溶液を185分で、滴下した。また、滴下時、即ち、重合時における反応系の温度(反応温度)は、還流が維持されるよう80〜83℃に調節した。全ての水溶液の滴下が終了した後、沸点でさらに1時間撹拌し、熟成した。さらに反応液を冷却し重合体を得た。
得られた重合体のうち500gと水333gを、撹拌装置及び500ml滴下ロートを備えた1Lセパラブルフラスコに入れ、48%NaOH水溶液126gをこの滴下ロートより発熱に注意して徐々に滴下・中和した。30分間撹拌を続けた後、1Lの分液ロートに移し、40℃で放置した。内容物はすぐに2層に分離して徐々に上層の液量が増加したが、液量変化は1時間でほぼ一定となったため上層273gと下層677gに分けて採取した。さらに下層を、ディーンスタークトラップを取り付けた500mlセパラブルフラスコに入れ、オイルバスにて120〜140℃に加熱し、液中のイソプロピルアルコールと水分を留出させ、最終的にポリマー水溶液(重合体生成物)を220g得た。
上記の分子量測定法により重量平均分子量(Mw)と分子量分布Dを求めたところ、Mwは6070、Dは2.26であった。
またポリマー1分子中の連鎖移動剤比率は2.1mol%で、イオンクロマトによる硫酸イオン量は9,200質量ppmであった。
<実施例2>
還流冷却管、2つの滴下装置、およびパドル翼を備えた容量5Lのステンレス(SUS316)製セパラブルフラスコに、イオン交換水(初期仕込み液)320gとイソプロピルアルコール480gを仕込んだ。上記2つの滴下装置に、アクリル酸(以下、AAと記す)80%水溶液540gと過硫酸ナトリウム15%水溶液40gを、各々別個に滴下液として仕込んだ。撹拌しながら還流温度まで昇温し、還流を開始させた後、上記各水溶液のフラスコ内への滴下を同時に開始した。AA80%水溶液を180分、過硫酸ナトリウム15%水溶液を185分で、滴下した。また、滴下時、即ち、重合時における反応系の温度(反応温度)は、還流が維持されるよう80〜83℃に調節した。全ての水溶液の滴下が終了した後、沸点でさらに1時間撹拌し、熟成した。さらに反応液を冷却し重合体を得た。
得られた重合体のうち40gと水27gを、撹拌装置及び20ml滴下ロートを備えた100mlセパラブルフラスコに入れ、48%NaOH水溶液10.2gをこの滴下ロートより発熱に注意して徐々に滴下・中和した。30分間撹拌を続けた後、100mlの分液ロートに移し、40℃で放置した。内容物はすぐに2層に分離して徐々に上層の液量が増加したが、液量変化は1時間でほぼ一定となったため上層45.8gと下層30.1gに分けて採取した。さらに下層を、ディーンスタークトラップを取り付けた100mlセパラブルフラスコに入れ、オイルバスにて120〜140℃に加熱し、液中のイソプロピルアルコールと水分を留出させ、最終的にポリマー水溶液(重合体生成物)を22.6g得た。
上記の分子量測定法により重量平均分子量(Mw)と分子量分布Dを求めたところ、Mwは6306、Dは2.16であった。
またポリマー1分子中の連鎖移動剤比率は2.3mol%で、イオンクロマトによる硫酸イオン量は8,300質量ppmであった。
<比較例1>
還流冷却管、2つの滴下装置、およびパドル翼を備えた容量5Lのステンレス(SUS316)製セパラブルフラスコに、イオン交換水(初期仕込み液)600gとイソプロピルアルコール200gを仕込んだ。上記2つの滴下装置に、アクリル酸(以下、AAと記す)80%水溶液540gと過硫酸ナトリウム15%水溶液100gを、各々別個に滴下液として仕込んだ。
撹拌しながら昇温し、還流を開始させた後、上記各水溶液のフラスコ内への滴下を同時に開始した。AA80%水溶液を180分、過硫酸ナトリウム15%水溶液を185分で滴下した。また、滴下時、即ち、重合時における反応系の温度(反応温度)は、還流が維持されるよう80〜83℃に調節した。全ての水溶液の滴下が終了した後、沸点でさらに1時間撹拌し、熟成した。さらに反応液を冷却し重合液1440gを得た。
得られた重合体のうち400gと水40gを、撹拌装置及び200ml滴下ロートを備えた1Lセパラブルフラスコに入れ、48%NaOH水溶液100gをこの滴下ロートより発熱に注意して徐々に滴下・中和した。30分間撹拌を続けた後、1Lの分液ロートに移し、40℃で放置した。内容物はすぐに2層に分離して徐々に上層の液量が増加するが、液量変化は1時間でほぼ一定となるため上層210gと下層375gに分けて採取した。得られた下層を、ディーンスタークトラップを取り付けた500mlセパラブルフラスコに入れ、48%NaOH水溶液にてpHを7.3に調整した後、オイルバスにて120〜140℃に加熱し、液中のイソプロピルアルコールと水分を留出させ、最終的にポリマー水溶液を190g得た。
上記の分子量測定法により重量平均分子量(Mw)と分子量分布Dを求めたところ、Mwは6800、Dは2.5であった。
またポリマー1分子中の連鎖移動剤比率は1.3mol%で、イオンクロマトによる硫酸イオン量は20,100質量ppmであった。
<性能確認>
上記重合体を無機顔料分散剤として炭酸カルシウム分散液(スラリー)を調製した。500mlSUS製セパラブルフラスコに炭酸カルシウム(市販品)200gを仕込み、攪拌翼及びガラス製の三つ口上蓋をセットして固定した。
400rpmで撹拌しながら、上記で得た重合体の10%溶液を9.5gを内部に徐々に添加し、均一に分散させた。さらに2mm径セラミックビーズ500gを徐々に投入した。内部の混合物のトルクに負けて攪拌機が減速しないように注意しながら、徐々に回転数を上げ、同時に10%重合体溶液9.5gを分割して添加し、最終的に回転数1500rpmまで回転させて約110〜120分間で炭酸カルシウムを粉砕した。上記操作にて濃度75%の炭酸カルシウム水分散液(スラリー)を得た。
水溶性樹脂の分散性能は上記スラリー(分散液)の経時粘度をB型粘度計でローターNo.3、60rpm、1分間で測定した。粘度測定はスラリー調製直後と1週間後に実施した。その測定結果を、表2に示す。