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JP5201673B2 - マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料及び反射型調光部材 - Google Patents

マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料及び反射型調光部材 Download PDF

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Description

本発明は、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜材料及び反射型調光ガラスなどの反射型調光部材に関するものであり、更に詳しくは、本発明は、窓ガラスから入射する太陽光を、ブラインドや、カーテンなしで、自動的にコントロールする調光ガラスに用いる、新規な反射型調光材料、当該材料を用いて作製した反射型調光ガラスなどの反射型調光部材に関するものである。本発明は、透明時に無色で、優れた反射型調光特性を示し、建物や乗り物における太陽光の透過率を制御するための窓材料として好適に利用することが可能な、新しいマグネシウム・ジルコニウム合金系薄膜を調光層として用いた、反射型調光薄膜材料及び反射型調光ガラスなどの反射型調光部材に関する新技術・新製品を提供するものである。
一般に、建物において、窓(開口部)は、大きな熱の出入り場所になっている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流失する割合は、48%程度であり、夏の冷房時に窓から熱が入る割合は、71%程度にも達する。したがって、窓における光・熱をうまくコントロールすることにより、膨大な省エネルギー効果を得ることができる。調光ガラスは、このような目的で開発されたものであり、光・熱の流入・流出をコントロールする機能を有している。
このような調光ガラスの調光を行う方式には、いくつかの種類がある。それらのうち、1)電流・電圧の印加により、可逆的に透過率の変化する材料を、エレクトロクロミック材料といい、2)温度により、透過率が変化する材料を、サーモクロミック材料といい、また、3)雰囲気ガスの制御により、透過率が変化する材料を、ガスクロミック材料という。この中でも、調光層に、酸化タングステン薄膜を用いたエレクトロクロミック調光ガラスの研究が、最も進んでおり、現在、ほぼ実用化段階に達しており、市販品も出されている。
この酸化タングステンを初めとして、これまで知られているエレクトロクロミック調光ガラスは、すべて、調光層で光を吸収することにより調光を行うことを、その基本原理としている。この場合、この種の調光ガラスは、調光層が光を吸収することにより、熱を持ち、それが、また室内に再放射されるため、省エネルギー効果が低くなってしまう、という欠点を持っている。これをなくすためには、光を吸収することにより調光を行うのではなく、光を反射することにより調光を行う必要がある。つまり、鏡の状態と透明な状態が可逆的に変化するような特性を有する材料が望まれていた。
このような、鏡の状態と透明な状態で変化する材料は、長らく見つかっていなかったが、1996年に、オランダのグループにより、イットリウムやランタンなどの希土類の水素化物が、水素により、鏡の状態と透明な状態に変化することが発見され、このような材料が、「調光ミラー」と命名された(非特許文献1)。これらの希土類水素化物は、透過率の変化が大きく、調光ミラー特性に優れている。しかし、この調光ミラーは、材料として、希土類元素を用いるため、窓のコーティングなどに用いる場合、資源や、コスト的に問題があった。
反射型の調光特性(調光ミラー特性)を有する材料としては、これまで、イットリウムや、ランタンなどの希土類金属の水素化物、ガドリニウムなどの希土類金属と、マグネシウム合金の水素化物、及びマグネシウム・ニッケル合金の水素化物などが知られている。この中で、資源や、コストの観点から、窓ガラスのコーティングに適しているのは、マグネシウム・ニッケル合金を用いたものである。
先行技術として、例えば、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた調光ミラー材料(特許文献1)、マグネシウム・ニッケル合金薄膜を用いた調光ミラー材料の製造方法(特許文献2)、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた調光ミラー層を形成した全固体型調光ミラー光スイッチ素子(特許文献3)、が提案されている。
また、他の先行技術として、例えば、マグネシウム及びニッケル層を有する反射調光エレクトロクロミック素子(特許文献4〜8)、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた反射調光層を形成した全固体型反射調光エレクトロクロミック素子(特許文献9)、界面の構造を制御して、Mg−Ni合金系の調光ミラーのスイッチングに対する耐久性及び応答性を向上させた調光ミラー多層薄膜構造(特許文献10)、広い面積であっても、応答性に優れ、耐久性が改良されたマグネシウム・ニッケル系合金層を有する反射調光エレクトロクロミック素子(特許文献11)、調光性、可視光に対する透明性、可撓性に優れ、安価な調光フィルム(特許文献12)、などが提案されている。
しかし、これまで報告されている材料によるものは、程度の差こそあれ、透明時において、無色透明ではなく、色がついており、これが、窓ガラスへの応用を考える場合の大きな障害になっていた。これらのことから、当技術分野においては、調光材料の課題の一つとして、透明時において、無色透明で、色がついていない、窓ガラスへの応用が可能な、新しい調光材料の開発が強く要請されていた。
特開2003−335553号公報 特開2004−139134号公報 特開2005−274630号公報 特開2005−351933号公報 特開2005−352405号公報 特開2006−106343号公報 特開2006−267670号公報 特開2007−101723号公報 特開2007−102197号公報 特開2007−301778号公報 特開2008−40422号公報 特開2008−107549号公報 J.N.Huiberts,R.Griessen,J.H.Rector,R.J.Wijngaarden,J.P.Dekker,D.G.de Groot,N.J.Koeman,Nature 380(1996)231
このような状況の中で、本発明者らは、透明時において、無色で、色が出ていない、窓ガラスのコーティングに適している、新しい調光材料を開発することを目標として、鋭意研究を重ねる過程で、マグネシウムとジルコニウムの合金薄膜の成膜を行い、その調光ミラー特性の評価を行った結果、水素化時において、マグネシウム・ニッケル合金薄膜材料などに比べ、透明時に、無色透明に近い状態になる調光薄膜を開発することに成功して、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
本発明は、コスト的に安価なマグネシウム・ジルコニウム薄膜、及びごく微量のパラジウム膜などの触媒層を使用した、新しいタイプの反射型調光材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は、当該調光ミラー材料を用いた反射型調光ガラス窓の構造を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、コーティング層が二層で、シンプルであることから、大きなコスト低減が見込まれる、新しい反射型調光薄膜材料、及びその用途を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を調光層として用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、
1)調光層としてのマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の表面に、触媒層が形成されている構造、あるいは、上記触媒層の上に、更に、保護層が形成されている構造を有し、
2)室温の20℃付近で、水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有し、
3)室温の20℃付近で、脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有する、
ことを特徴とする反射型調光薄膜材料。
(2)マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の組成が、MgZrx(0.1<x<0.6)であり、また、上記マグネシウム・ジルコニウム合金が結晶化している、前記(1)に記載の反射型調光薄膜材料。
(3)マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmである、前記(1)に記載の反射型調光薄膜材料。
(4)上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくは白金がコートされている、前記(1)に記載の反射型調光薄膜材料。
(5)上記保護層が、水素透過性であり、かつ水非透過性の材料からなる、前記(1)に記載の反射型調光薄膜材料。
(6)前記(1)から(5)のいずれかに記載の反射型調光薄膜材料を、調光部として、透明部材表面に形成した構造を有することを特徴とする反射型調光部材。
(7)前記(1)から(5)のいずれかに記載の反射型調光薄膜材料を、反射型調光層として、ガラス表面に形成したことを特徴とする反射型調光ガラス。
(8)復層ガラスからなる反射型調光ガラス窓であって、前記(7)に記載の反射型調光ガラスを、復層ガラスの片側に設置した構造を有することを特徴とするガスクロミック反射型調光ガラス窓。
(9)上記復層ガラスの間隙に、水素ガス、及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する、前記(8)に記載のガスクロミック反射型調光ガラス窓。
(10)前記(1)から(5)に記載の反射型調光薄膜材料と、透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を有することを特徴とするエレクトロクロミック反射調光材料。
(11)前記(10)に記載のエレクトロクロミック反射調光材料を、ガラス窓に用いたことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光ガラス窓。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を調光層として用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、調光層としてのマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の表面に、触媒層が形成されている構造、あるいは、上記触媒層の上に、更に、保護層が形成されている構造を有し、室温の20℃付近で、水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有し、室温の20℃付近で、脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有することを特徴とするものである。
また、本発明では、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の組成が、MgZrx(0.1<x<0.6)であり、また、上記マグネシウム・ジルコニウム合金が、結晶化していること、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmであること、上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくは白金がコートされていること、を好ましい実施の態様としている。
本発明は、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を調光層として使用した反射型調光薄膜材料に係るものであり、例えば、厚さが10nm−200nm、好ましくは、厚さが10nm−100nm、更に好ましくは、厚さが10nm−50nmの非常に薄いマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜からなる反射型調光薄膜材料に係るものである。この調光特性に優れたマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法などにより作製することができる。しかし、これらの方法に制限されるものではない。
本発明では、上記マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の表面に触媒層が形成される。上記触媒層として、好適には、パラジウムもしくは白金が用いられる。しかし、これらに限定されるものではなく、触媒層としての機能性を有し、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。上記触媒層は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法などにより作製することができる。しかし、これらの方法に制限されるものではない。
上記調光ミラー材料からなる調光層を、基板の透明部材ないしガラス表面に形成することにより、調光ミラー部材ないし調光ミラーガラスが得られる。この場合、基板としては、好適には、アクリル、プラスチック、透明シート、ガラスなどの透明性を有する材料が例示される。しかし、これらに限らず、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
本発明では、上記調光層の表面に、好適には、保護層が形成される。この保護層の材料としては、水素に対して透過性で、水に対して非透過性の特性を有する水素透過性/水非透過性の材料が用いられる。上記保護層の材料例としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、酢酸セルロースなどのポリマーや、酸化チタン薄膜、酸化ジルコニウム薄膜などの無機薄膜が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。この保護層により、上記調光層の耐久性を向上させることが可能となる。
上記調光層の水素化を行う方法には、二種類あり、水素を含んだガスに晒すことにより水素化する方法は、ガスクロミック方式と呼ばれ、また、電解質中に含まれるプロトンを電気的に注入して水素化する方法は、エレクトロクロミック方式と呼ばれる。本発明のマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜においては、この二種類の方式で、スイッチングを行うことができる。
これらのうち、例えば、ガスによるスイッチングを行う場合、蒸着したマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、金属であり、蒸着した状態で、銀色の鏡状態になっていが、この薄膜に、水素を含む雰囲気を当てると、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、水素化物に変化し、透明化する。この水素化した薄膜に、酸素もしくは空気に当てると、脱水素化が起こって、金属状態に戻る。本発明のマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、この変化を繰り返し、行うことができる。
マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の上に、薄くパラジウムを蒸着した試料を水素を含む雰囲気に晒すと、水素化が起こって透明な状態になるが、この透明時に、マグネシウム・ジルコニウム薄膜は、全く無色になる。マグネシウム・ニッケル合金薄膜を初めとするこれまでの反射型調光薄膜では、透明時に、黄色系統の色がついており、これが、窓ガラスなどへの応用を考えた場合の一つの障害になっていた。
本発明者らは、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を様々な成膜条件で作製して、その光学特性を調べた結果、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜では、水素化して透明状態にした場合、かなり無色透明に近い状態にできることを見出した。
本発明の反射型調光ガラスの調光特性は、後記する実施例に示されるように、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜におけるマグネシウムとジルコニウムの組成に依存する。マグネシウムに対するジルコニウムの組成比が0.1から0.6の範囲、例えば、0.1〜0.17、0.24、0.28〜0.6の範囲で、優れた調光特性を示す。一般的な傾向として、後記する実施例2に具体的に記載したように、ジルコニウムの成分が多くなるほど、脱水素化が早くなるが、透明時の透過率は、低くなる傾向があるので、用途に応じて、これらの傾向を考慮して、ジルコニウムの好適な組成を選択することが望ましい。
マグネシウム・ジルコニウム薄膜の構造を解析した結果、結晶化したマグネシウムからなっていること、その中に、ジルコニウムが分散しているような系になっていること、すなわち、結晶化したマグネシウムの中にジルコニウムが分散している組織構造を有していること、が分かった。したがって、本発明のマグネシウム・ジルコニウム薄膜の構造は、結晶化したマグネシウムと、その中に、ジルコニウムが分散している系になっている微細な組織構造を有していることが重要である。マグネシウム・ニッケル合金薄膜などの、他の反射型調光薄膜材料は、アモルファス状態になっており、これらの材料と比べて、これらは、マグネシウム・ジルコニウム薄膜の大きな特徴である。
図1に、ガスクロミック方式で調光を行うガスクロミック反射型調光ガラス窓の構造を示す。本発明の調光材料を、実際のガスクロミック調光ガラスとして用いる場合には、窓ガラスを構成する二重ガラスの内側に、パラジウムなどの触媒層を薄くコーティングしたマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜が来るようにして、シールし、アルゴンガスなどで満たしておく。
そして、これらの二重ガラスの間隙の空間に、水を電気分解して水素を発生して、送り込んだり、空気もしくは水の電気分解で得られる酸素を送り込んだりする機能を付けたユニット(雰囲気制御器)を取り付ける。この雰囲気制御器から、二枚のガラスの間の空間に、水素を送り込むことで、透明状態し、また、空気もしくは酸素を送り込むことで、金属状態にすることができる。
現在、住宅における複層ガラス(二重ガラス)の普及が進んで来ており、新築の家では、二重ガラスを使うことが主流になりつつある。本発明の調光ミラー材料のような調光ミラーガラス用コーティングは、二重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
もう一つのスイッチング方法である、エレクトロクロミック方式で調光を行う場合のエレクトロクロミック反射型調光ガラスの構造と、そのデバイスの構造を、図2に示す。図中、(a)は、透明導電膜付きの基板を用いる場合であり、透明導電膜(ITO)を蒸着した基板に、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜とパラジウムを蒸着し、もう一枚の透明導電膜(ITO)を蒸着したガラスとの間に、アルカリ性の電解液を封入した構造を示している。マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜側に、マイナス3V程度の電圧を加えると、電解液中のプロトンがマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜内に入り、水素化して、透明化する。
また、プラス1V程度の電圧をかけると、水素化物中のプロトンが抜け、金属状態に戻り、鏡状態になる。マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いたエレクトロクロミックでデバイスでは、図2の(b)のように、ガラス基板を用いる場合、透明導電膜の付いていないガラス基板に、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を蒸着したものを用いることもできる。マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、金属状態では、当然、導電率が高く、電極になり得るのに加え、透明化した状態でも、伝導特性があるため、透明導電膜が無くても、スイッチングを行うことができる。
これらは、デバイスの構造がシンプルにできることを意味しているので、大きなメリットである。スイッチングの応答性に関しては、透明導電膜を付けたものの方が早いが、透明導電膜を用いないものは、その分、透明時における透過率が高くなるというメリットもある。
このように、本発明は、反射調光特性に優れたマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光ガラスなどの反射型調光部材を提供するものである。本発明のマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜に、例えば、薄くパラジウムを付けたものは、従来報告されている反射型調光薄膜材料に比べて、かなり無色に近い状態にスイッチングできることから、本発明のマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、調光ガラスの実用化のための大きなブレークスルーになると考えられる。
更に、本発明の調光ミラーガラスは、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができる。それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物や、玩具などに、調光ミラー機能を付加することができる。本発明において、調光ミラー機能を有する物品とは、上記調光ミラーガラスを装着したあらゆる種類の物品を包含するものとして定義される。
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、反射型調光特性に優れたマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光部材を提供することができる。
(2)本発明の反射型調光材料は、従来報告されているマグネシウム・ニッケル合金薄膜などを用いたものより、透明時に無色で、優れた反射型調光特性を示す。
(3)本発明の反射型調光ガラス用コーティングは、例えば、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
(4)本発明のマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光材料は、安価なマグネシウムとジルコニウム、それに、ごく微量のパラジウムなどをコーティングすることで作製することが可能であり、コスト的に非常に有利である。
(5)本発明の反射型調光ガラスは、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができ、それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具などに反射型調光機能を付加することができる。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜をベースとした薄膜の作製は、多源マグネトロンスパッタ装置を用いて行った。三つのスパッタ銃に、ターゲットとして、それぞれ、金属マグネシウム、金属ジルコニウム、それに、金属パラジウムをセットした。基板としては、厚さ1mmのガラス板を用い、これを、洗浄した後、真空装置の中にセットして、真空排気を行った。
成膜に当たっては、まず、マグネシウムとジルコニウムを同時スパッタして、マグネシウム・ジルコニウム薄膜の蒸着を行ってマグネシウム・ジルコニウム薄膜(40nm)を作製した。スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.8Paであり、直流スパッタ法により、マグネシウムに32W、ジルコニウムに22Wのパワーを加えて、スパッタを行った。その後、同じ真空条件で、6Wのパワーを加えて、上記マグネシウム・ジルコニウム薄膜の表面にパラジウム薄膜の蒸着を行って触媒層(4nm)を形成した。作製した薄膜のマグネシウムとジルコニウムの組成比は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg:Zr=0.83:0.17になっていた。
成膜後の膜は、金属光沢を持ち、鏡状態になっているが、この表面を、アルゴンで4%に希釈した水素ガスに晒すと、薄膜の水素化により、鮮やかに透明化した。また、この透明化した膜を大気に晒すと、脱水素化により、元の金属状態(鏡状態)に戻った。図3に、分光光度計で測定した、この薄膜:Pd(4nm)/Mg0.83Zr0.17(40nm)の金属状態(鏡状態)と、透明状態の反射スペクトル、及び透過スペクトルを示す。
透明状態のスペクトルは、試料の回りをアルゴンで4%に希釈した水素ガスで満たして、測定を行った。金属状態(鏡状態)と透明状態で、反射率が大きく変化しており、反射型のクロミック特性を示すことが分かる。マグネシウム・ジルコニウム薄膜を用いた調光薄膜では、マグネシウム・ニッケル薄膜に比べて、透明状態における透過スペクトル、及び反射スペクトルが、非常にフラットで、ほとんど無色に近いことが分かる。
このマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜をベースとした反射型調光薄膜のスイッチング特性を、図4の(a)に示したような調光特性評価装置で、評価を行った。ガラス上に作製したPd/Mg−Zr薄膜が内側になるように、もう一枚のガラスとシリコンゴムのスペーサーを用いて張り合わせて反射型調光ガラス試料を作製し、その間の空間に、アルゴンで4%に希釈した水素ガスを流したり、止めたりすることにより、スイッチングを行った。
蒸着直後の鏡状の膜は、水素ガスを流すと、数秒で透明な状態に変わる。水素ガスを止めると、端面から空気が入ってきて、2−3分で鏡の状態に戻る。このときの波長670nmにおける透過率の変化を、半導体レーザーとシリコンフォトダイオードを用いて、測定した。図4の(b)に、反射型調光ガラス試料の透過率の変化を測定したときの調光特性評価装置の写真を示す。
図5は、マグネシウムとジルコニウムの組成を変えて作製したマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜試料のスイッチングの特性を測定した結果である。試料は、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の作製時において、マグネシウムのスパッタとジルコニウムのスパッタにかけるパワーを調節して、Mg0.83Zr0.17、Mg0.76Zr0.24、Mg0.71Zr0.29という組成になるように作製した。図6に、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のX線回折パターンを示す。
いずれも、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の最外層は、4nmのパラジウムを蒸着した。スイッチング時間が10秒のときに、アルゴンで4%に希釈した水素ガスを導入すると、いずれの試料についても、水素化が起こり、金属の状態から透明な状態に変化して、透過率が増大した。この水素化におけるスイッチング速度は、組成に対して、依存性を持たなかった。
また、いずれの試料でも、スイッチング時間が40秒で水素の導入を止めると、空気により、脱水素化が起こり、金属状態に戻った。ただ、この脱水素化におけるスイッチング速度は、組成によってかなり異なり、ジルコニウムの量が多くなるほど、早くなるという傾向が見られた。ただ、水素化時における透過率は、ジルコニウムの量が多くなる程小さくなる傾向が見られた。
ジルコニウムを含まない、マグネシウム薄膜の場合は、脱水素化は、非常に遅く、二時間程かかって金属状態に戻った。このように、マグネシウム・ジルコニウム系では、ジルコニウムの成分が多くなるほど、脱水素化が早くなるが、水素化時における透過率は、小さくなるという傾向が見られた。
次に、マグネシウム・ジルコニウム薄膜を用いた反射型調光ガラスを、電気的にスイッチングするエレクトロクロミック方式の例を示す。マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜をベースにした調光薄膜で、一つは、図2の(b)のように、ガラスを基板にしたデバイスと、図2の(a)のように、透明導電膜として、ITOをコーティングしたガラスを基板にしたデバイスを作製した。いずれも、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜は、Mg0.83Zr0.17で、厚さは、約40nmで、その上のパラジウム層の厚さは、約6nmである。
いずれも、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜側に、−3Vの電圧を加えると、金属状態から透明状態に変化した。また、逆に、1.0Vの電圧を加えると、金属状態に戻った。このときのガラス基板上に作製したデバイスの、それぞれの鏡状態と透明状態の様子の写真を図7に示す。ITO基板上に作製したデバイスと、ガラス上に作製したデバイスを比較すると、ITO基板を用いた場合の方が、鏡から透明への変化が早いが、しかし、鏡状態と透明状態の透過率の変化幅は、ガラス基板上に付けた試料の方が大きいことが分かった。
以上詳述したように、本発明は、反射型調光特性に優れたマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜材料と、これを用いた反射型調光ガラスに係るものであり、本発明により、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を調光層として用いた反射型調光薄膜を提供することができる。本発明の反射型調光材料は、従来報告されているマグネシウム・ニッケル合金薄膜などを用いたものより、透明時に無色で、優れた反射型調光特性を示す。本発明の反射型調光ガラス用コーティングは、例えば、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。本発明のマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光材料は、安価なマグネシウムとジルコニウム、それに、ごく微量のパラジウムなどをコーティングすることで作製することが可能であり、コスト的に非常に有利である。本発明は、上記窓材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができ、それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、鏡状態と透明状態に変わることを利用した装飾物及び玩具などに反射型調光機能を付加することができる新しい反射型調光薄膜を提供するものとして有用である。
図1は、ガスクロミック反射型調光窓ガラスの構造を示す。 図2は、エレクトロクロミック反射型調光ガラスの構造を示す。(a)は、透明導電膜付の基板を用いる場合、(b)は、ガラス基板を用いる場合。 図3は、Pd(4nm)/Mg0.83Zr0.17(40nm)の金属状態と透明状態の透過スペクトル(上)、及び反射スペクトル(下)を示す。 図4は、調光特性評価装置の概略図及びその写真を示す。 図5は、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のスイッチング特性を示す。 図6は、マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を用いた反射型調光薄膜のX線回折パターンを示す。 図7は、ガラス上に作製した反射型調光エレクトロクロミックデバイスの調光の鏡状態と透明状態の様子を示す。

Claims (11)

  1. マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜を調光層として用いた多層薄膜から成る反射型調光薄膜材料であって、
    (1)調光層としてのマグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の表面に、触媒層が形成されている構造、あるいは、上記触媒層の上に、更に、保護層が形成されている構造を有し、
    (2)室温の20℃付近で、水素化によって無色透明状態になるクロミック特性を有し、
    (3)室温の20℃付近で、脱水素化によって鏡状態になるクロミック特性を有する、
    ことを特徴とする反射型調光薄膜材料。
  2. マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の組成が、MgZrx(0.1<x<0.6)であり、また、上記マグネシウム・ジルコニウム合金が結晶化している、請求項1に記載の反射型調光薄膜材料。
  3. マグネシウム・ジルコニウム合金薄膜の膜厚が、10nm−200nmである、請求項1に記載の反射型調光薄膜材料。
  4. 上記薄膜の表面に、触媒層として、1nm−10nmのパラジウムもしくは白金がコートされている、請求項1に記載の反射型調光薄膜材料。
  5. 上記保護層が、水素透過性であり、かつ水非透過性の材料からなる、請求項1に記載の反射型調光薄膜材料。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の反射型調光薄膜材料を、調光部として、透明部材表面に形成した構造を有することを特徴とする反射型調光部材。
  7. 請求項1から5のいずれかに記載の反射型調光薄膜材料を、反射型調光層として、ガラス表面に形成したことを特徴とする反射型調光ガラス。
  8. 復層ガラスからなる反射型調光ガラス窓であって、請求項7に記載の反射型調光ガラスを、復層ガラスの片側に設置した構造を有することを特徴とするガスクロミック反射型調光ガラス窓。
  9. 上記復層ガラスの間隙に、水素ガス、及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する、請求項8に記載のガスクロミック反射型調光ガラス窓。
  10. 請求項1から5に記載の反射型調光薄膜材料と、透明電極の間に、電解液をはさみ込んだ構造を有することを特徴とするエレクトロクロミック反射調光材料。
  11. 請求項10に記載のエレクトロクロミック反射調光材料を、ガラス窓に用いたことを特徴とするエレクトロクロミック反射調光ガラス窓。
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