定義
特に明記しない場合は、本明細書で使用されるすべての専門用語と科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されているものと同じ意味を有する。さらに、本発明の実施において、本明細書に記載の方法または材料と類似のまたは同等のいずれの方法または材料が使用できる。本発明の目的において、以下の用語を定義する。
用語「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」は、1本鎖または2本鎖型のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを意味し、特に明記しない場合は、天然に存在するヌクレオチドと同様に機能することができる天然に存在するヌクレオチドの既知の類似体を含有するポリヌクレオチドを包含する。核酸分子がDNA配列により示される時、これは、また対応するRNA配列を有するRNA分子(ここで、「U」(ウリジン)が「T」(チミジン)に代わる)も含むと理解される。
用語「組換え核酸分子」は、2つ以上の連結したポリヌクレオチド配列を含有する天然に存在しない核酸分子を意味する。組換え核酸分子は、組換え法、特に遺伝子操作技法により産生されるか、または化学合成法により産生できる。組換え核酸分子は、融合タンパク質、例えば目的のポリペプチドに連結した本発明の蛍光タンパク質変異体をコードすることができる。用語「組換え宿主細胞」は、組換え核酸分子を含有する細胞を意味する。従って、組換え宿主細胞は、未変性(非組換え)型の細胞中には見いだされない「遺伝子」からポリペプチドを発現することができる。
ポリペプチドを「コードする」ポリヌクレオチドに対する言及は、ポリヌクレオチドの転写とそこから産生されるmRNAの翻訳により、ポリペプチドが産生されることを意味する。コーディングポリヌクレオチドは、コード鎖(そのヌクレオチド配列はmRNAと同一である)とその相補鎖の両方を含むとみなされる。かかるコーディングポリヌクレオチドは、同じアミノ酸残基をコードする縮重ヌクレオチド配列を含むとみなされることが認識されるだろう。ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、イントロンならびにコーディングエキソンを含有するポリヌクレオチドを含むことができる。
用語「発現制御配列」は、それに機能的に連結した、ポリヌクレオチドの転写もしくは翻訳、またはポリペプチドの局在化を調節するヌクレオチド配列を意味する。発現制御配列がヌクレオチド配列の転写かつ、適宜に、翻訳(すなわち、それぞれ転写または翻訳制御エレメント)、またはコードされたポリペプチドの細胞の特定コンパートメントへの局在化を制御または調節する時、発現制御配列は「機能的に連結されている」。従って、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン(ATG)、イントロン切断のためのスプライシングシグナルと正しい読みとり枠の維持、終止コドン、リボソーム結合部位、またはポリペプチドを特定の位置にターゲティングする配列(例えば、ポリペプチドを、サイトゾル、核、原形質膜、小胞体、ミトコンドリア膜もしくはマトリックス、葉緑体膜もしくは葉緑体腔、中間トランスゴルジ扁平嚢、またはリソソームもしくはエンドソームにターゲティングすることができる細胞コンパートメント化シグナル)であってよい。細胞コンパートメント化ドメインは、当技術分野で周知であり、例えば、ヒトII型膜固定タンパク質であるガラクトシルトランスフェラーゼのアミノ酸残基1〜81、またはシトクロムcオキシダーゼのサブユニットIVのプレ配列のアミノ酸残基1〜12を含有するペプチドが挙げられる(また、Hancockら、EMBO J. 10:4033-4039, 1991;Bussら、Mol. Cell. Biol. 8:3960-3963, 1988;米国特許第5,776,689号を参照、それぞれは参照により本明細書に組み込まれる)。
用語「機能的に連結された」もしくは「機能しうるように連結された」もしくは「機能的に結合された」などは、キメラタンパク質を記載するために使用される場合、お互いに物理的および機能的関係に配置されるポリペプチド配列を意味する。最も好ましい実施形態においては、キメラ分子のポリペプチド成分の機能は、単離したその部分の機能活性と比較して変化がない。例えば、本発明の蛍光タンパク質を目的のポリペプチドと融合することができる。この場合、融合分子がその蛍光を保持し、かつ目的のポリペプチドがその元来の生物学的活性を保持することが好ましい。本発明のいくつかの実施形態においては、蛍光タンパク質または目的のタンパク質の活性は、単離したそれらの活性と比較して低下してもよい。かかる融合体も、本発明を利用しうる。本明細書に使用される、本発明のキメラ融合分子は、単量体状態、または多量体状態(例えば、ダイマー)であってもよい。
他の例では、本発明のタンデムダイマー蛍光タンパク質変異体は2つの「機能しうる形で連結された」蛍光タンパク質ユニットを含む。2つのユニットは、それぞれが蛍光活性を維持する方法で連結されている。タンデムダイマーの第1および第2ユニットは同一である必要はない。この例の他の実施形態においては、第3の目的のポリペプチドがタンデムダイマーと機能的に連結していて、それにより3部の融合タンパク質を形成してもよい。
用語「オリゴマー」は、2つ以上のポリペプチドの特異的相互作用により形成される複合体を意味する。「特異的相互作用」または「特異的会合」は、特定の条件下(例えば、生理学的条件下)で比較的安定なものである。タンパク質がオリゴマー化する「傾向」に対する言及は、そのタンパク質が特定の条件下で、ダイマー、トリマー、テトラマーなどを形成できることを示す。一般的に、GFPおよびDsRedのような蛍光タンパク質は、生理学的条件下でオリゴマー化する傾向を有するが、本明細書に開示されるように、蛍光タンパク質はまた、例えば生理学的条件以外のpH条件下でもオリゴマー化する場合がある。蛍光タンパク質がオリゴマー化するかまたはオリゴマー化傾向を有する条件は、本明細書に開示した周知の方法(実施例1と3を参照)、または当技術分野で公知の他の方法を使用して測定することができる。
本明細書に使用される、「低いオリゴマー化傾向」を有する分子は、より少数のサブユニットしかもたない構造を形成するために、多サブユニットをもつ構造を形成する傾向の低い分子である。例えば、通常、生理学的条件下でテトラマー構造を形成しうる分子は、もし分子をその結果、モノマー、ダイマーまたはトリマーを形成する優先性を持つように改変すると、低いオリゴマー化傾向を示す。通常、生理学的条件下でダイマー構造を形成しうる分子は、もしその分子をその結果、モノマーを形成する優先性を持つように改変すると、低いオリゴマー化傾向を示す。このように、「低いオリゴマー化傾向」は通常、ダイマーであるタンパク質および通常、テトラマーであるタンパク質にも等しく適用される。
本明細書に使用される用語「非テトラマー化」は、トリマー、ダイマーおよびモノマーを産生するがテトラマーを産生しないタンパク質型を意味する。同様に、「非ダイマー化」はモノマーのまま残るタンパク質型を意味する。
本明細書に使用される、赤色蛍光タンパク質(RFP)を参照する用語「(発色団)成熟の効率」は、緑色蛍光タンパク質(GFP)様吸収スペクトルを持つ種から最後にRFP吸収スペクトルへ成熟したタンパク質の百分率を示す。従って、成熟の効率は、成熟プロセスが実用的に(例えば、>95%)完全であるための十分な時間を経た後に決定する。好ましくは、得られるRFP、例えばDsRedは、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、なおより好ましくは少なくとも約90%、なおより好ましくは少なくとも約95%、さらにより好ましくは少なくとも約98%、最も好ましくは少なくとも約99%の赤色蛍光種を含有しうる。
本明細書に使用される、蛍光タンパク質を言及する用語「輝度」は、所与の波長における吸光係数(EC)と蛍光量子収率(QY)の積として測定される。
用語「プローブ」は、他の物質(「標的」)に特異的に結合する物質を意味する。プローブには、例えば、抗体、ポリヌクレオチド、受容体とそのリガンドが含まれ、プローブが特異的に結合した分子を同定または単離する手段を提供するために、一般的に標識することができる。用語「標識」は、装置を用いてまたは無しで、例えば視覚的検査、分光法、または光化学、生化学的、免疫化学、または化学反応により検出可能な組成物を意味する。有用な標識には、例えばリン−32、蛍光染料、蛍光タンパク質、電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAで通常使用されるもの)、小分子(例えば、ビオチン)、ジゴキシゲニン、または他のハプテンもしくはペプチド(これに対して、抗血清もしくは抗体(モノクローナル抗体であってよい)が利用できる)が挙げられる。本発明の蛍光タンパク質変異体は、それ自身が検出可能なタンパク質であるが、それにもかかわらず、例えば発現されるタンパク質の発現中および単離中にそれぞれタンパク質の同定を容易にするため、それ自身の蛍光以外の手段、例えば放射性核種標識もしくはペプチドタグをタンパク質中に組み込むことにより検出できるように標識してもよいことは認識されるであろう。本発明の目的に有用な標識は一般的に、測定可能なシグナル(例えば、放射性シグナル、蛍光、酵素活性など)を生じて、いずれも、例えばサンプル中の蛍光タンパク質変異体の量を定量するために使用することができる。
用語「核酸プローブ」は、第2の(標的)核酸分子の特異的ヌクレオチド配列またはサブ配列に結合するポリヌクレオチドを意味する。核酸プローブは一般的に、相補的塩基対合を介して標的核酸分子に結合するポリヌクレオチドである。核酸プローブは、プローブ配列との相補性が完全より低い標的配列にも特異的に結合することができ、その結合特異性は、一部はハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存しうることは、理解されるであろう。核酸プローブは、放射性核種、発色団、ルミフォア(lumiphore)、クロモゲン、蛍光タンパク質、または、例えばビオチン(それ自身、例えばストレプトアビジン複合体により結合することができる)のような小分子を用いて標識することができ、こうしてプローブ(プローブが特異的に結合する標的核酸分子を含む)を単離する手段を提供する。プローブの存在または不在をアッセイすることにより、標的配列またはサブ配列の存在または不在を検出することができる。用語「標識した核酸プローブ」は、プローブに結合した標識の存在を検出することによりプローブの存在が同定できるように、直接またはリンカー分子を介して、および共有結合もしくは安定な非共有結合(例えば、イオン結合、ファンデルワールス結合または水素結合)により、標識に結合した核酸プローブを意味する。
用語「ポリペプチド」または「タンパク質」は、2以上のアミノ酸残基のポリマーを意味する。この用語は、天然アミノ酸ポリマー、ならびに1以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的化学類似体であるアミノ酸ポリマーに適用される。用語「組換えタンパク質」は、組換えDNA分子から、タンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列の発現により産生されるタンパク質を意味する。
用語「単離された」または「精製された」は、自然界における未変性の状態でその物質に通常伴う成分を、実質的にまたは本質的に含まない物質を意味する。純度または均一性は一般的に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学技法を用いて測定される。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、それが調製物中で主に存在する分子種である時は、単離されたとみなされる。一般的に単離されたタンパク質または核酸分子は、かかる分子の純度を測定する従来の方法を用いて調べると、調製物中に存在する巨大分子種の80%超に相当し、しばしば存在するすべての巨大分子種の90%超に相当し、通常巨大分子種の95%超に相当し、そして、特に、本質的な均一性にまで精製されてそれが唯一の検出される分子種であるポリペプチドまたはポリヌクレオチドである。
用語「天然の」は、天然に存在するタンパク質、核酸分子、細胞、または他の物質を意味するのに使用される。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列が挙げられる。天然の物質は、天然に存在する型であってもよく、かつ人手により改変されて、例えば単離された型であってもよい。
用語「抗体」は、アナライト(抗原)に特異的に結合して認識する、1以上の免疫グロブリン遺伝子により実質的にコードされるポリペプチド、またはその抗原結合性フラグメントを意味する。認識されている免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変域遺伝子が含まれる。抗体は、完全な免疫グロブリン、および十分に特性付けられた抗体の抗原結合性フラグメント(これは、ペプチダーゼを用いて消化することにより産生されるか、または組換えDNA法を使用して産生することができる)としても存在する。抗体のそのような抗原結合性フラグメントとしては、例えば、Fv、Fab'、およびF(ab')2フラグメントが挙げられる。本明細書において使用される用語「抗体」は、抗体全体の改変により産生される抗体フラグメント、または組換えDNA法を使用して新たに合成されるものを含む。用語「イムノアッセイ」は、アナライトに特異的に結合する抗体を利用するアッセイを意味する。イムノアッセイは、特定の抗体の特異的結合特性を使用してアナライトを単離し、ターゲティングし、および/または定量することを特徴とする。
用語「同一の」は、2以上のポリヌクレオチド配列または2以上のポリペプチド配列について使用される時、最大の一致が得られるようにアライメントした場合に、同じである配列中の残基を意味する。配列同一性パーセントがポリペプチドについて使用される時、本来なら同一でない1以上の残基位置が、保存的アミノ酸置換により異なってもよいことが認識されていて、この場合、第1のアミノ酸残基が類似の化学的性質(例えば、同様の電荷または疎水性または親水性)を有する別のアミノ酸残基に置換され、従って、ポリペプチドの機能性を変化させることはない。ポリペプチド配列が保存的置換で異なる場合、配列同一性パーセントを上方に調整して、置換の保存的性質を補正することができる。そのような調整は、周知の方法を使用して行われ、例えば保存的置換を完全なミスマッチではなく部分的ミスマッチとしてスコアし、従って配列同一性パーセントを上昇させることができる。すなわち、例えば、同一のアミノ酸にスコア1が与えられ、非保存的置換にゼロのスコアを与えられる時、保存的置換は、ゼロと1の間のスコアが与えられる。保存的置換のスコア付けは、任意の周知のアルゴリズムを使用して計算できる(例えば、MeyersおよびMiller, Comp. Appl. Biol. Sci. 4:11-17, 1988;SmithおよびWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981;NeedlemanおよびWunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970;PearsonおよびLipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988);HigginsおよびSharp, Gene 73:237-244, 1988;HigginsおよびSharp, CABIOS 5:151-153, 1989;Corpetら、Nucl. Acids Res. 16:10881-10890, 1988;Huangら、Comp. Appl. Biol. Sci. 8:155-165, 1992;Pearsonら、Meth. Mol. Biol., 24:307-331, 1994を参照)。アライメントはまた、単純な視覚的検査および配列のマニュアルアライメントにより行うことができる。
用語「保存的に改変された変化」は、特定のポリヌクレオチド配列について使用される時、同一のもしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする異なるポリヌクレオチド配列を意味するか、またはポリヌクレオチドがアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を意味する。遺伝コードの縮重のために、多数の機能的に同一のポリヌクレオチドが、ある所定のポリペプチドをコードする。例えば、コドンCGU、CGC、CGA、CGG、AGA、およびAGGはすべて、アミノ酸アルギニンをコードする。すなわち、アルギニンがコドンにより規定されるすべての位置で、そのコドンを、コードされたポリペプチドを改変することなく、記載の対応するコドンのいずれかに改変することができる。そのようなヌクレオチド配列変化は、「サイレント変異」であり、これは、「保存的に改変された変化」の1つであるとみなすことができる。従って、蛍光タンパク質変異体をコードするとして本明細書に開示した各ポリヌクレオチド配列はまた、すべての可能なサイレント変異を記載すると認識されるであろう。また、ポリヌクレオチド中の各コドン(通常、メチオニンの唯一のコドンであるAUGと、通常、トリプトファンの唯一のコドンであるUUGを除く)を、標準的技法により改変して、機能的に同一の分子を与えることができることも理解されるであろう。従って、コードされるポリペプチドの配列を変化させないポリヌクレオチドの各サイレントな変異は、本明細書において黙って記載される。さらに、改変が化学的に類似のアミノ酸でアミノ酸を置換することを条件として、コードされた配列中の単一のアミノ酸もしくは小さい割合のアミノ酸(典型的には、5%未満、および一般的には1%未満)を改変、付加、または削除する各置換、欠失、または付加は、保存的に改変された変化とみなすことができることが認識されるだろう。機能的に類似のアミノ酸を与える保存的アミノ酸置換は当技術分野で周知であり、以下の6つの群が挙げられ、その各々は、互いの保存的置換と見なされるアミノ酸を含有する:
1)アラニン(Ala、A)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T);
2)アスパラギン酸(Asp、D)、グルタミン酸(Glu、E);
3)アスパラギン(Asn、N)、グルタミン(Gln、Q);
4)アルギニン(Arg、R)、リジン(Lys、K);
5)イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、メチオニン(Met、M)、バリン(Val、V);および
6)フェニルアラニン(Phe、F)、チロシン(Tyr、Y)、トリプトファン(Trp、W)。
2以上のアミノ酸配列または2以上のヌクレオチド配列は、そのアミノ酸配列もしくはヌクレオチド配列が互いに、または参照配列と所定の比較ウィンドウにわたって、少なくとも80%の配列同一性を共有するなら「実質的に同一」または「実質的に類似」であると見なされる。すなわち、実質的に類似の配列は、例えば少なくとも85%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、または少なくとも99%の配列同一性を有するものを含む。
対象ヌクレオチド配列は、もし対象ヌクレオチド配列の相補体が参照ヌクレオチド配列と実質的に同一である場合、参照ヌクレオチド配列と「実質的に相補的」であると見なされる。用語「ストリンジェントな条件」は、核酸ハイブリダイゼーション反応で使用される温度とイオンの条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる環境パラメータにより異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度とpHで、特定の配列の熱融点(Tm)より約5℃〜20℃低くなるように選択される。Tmは、規定したイオン強度とpHのもとで標的配列の50%が完全に一致するプローブとハイブリダイズする温度である。
用語「対立遺伝子変異体」は、特定の遺伝子座での遺伝子の多型、ならびに該遺伝子のmRNA転写産物から誘導されるcDNA、およびそれらによりコードされるポリペプチドを意味する。用語「好ましい哺乳動物コドン」は、アミノ酸をコードするコドンセットの中から哺乳動物細胞で発現されるタンパク質で最もしばしば使用されるコドンサブセットを意味し、以下のリストから選択される:Gly(GGC, GGG);Glu(GAG);Asp(GAC);Val(GUG, GUC);Ala(GCC, GCU);Ser(AGC、UCC);Lys(AAG);Asn(AAC);Met(AUG);Ile(AUC);Thr(ACC);Trp(UGG);Cys(UGC);Tyr(UAU, UAC);Leu(CUG);Phe(UUC);Arg(CGC, AGG, AGA);Gln(CAG);His(CAC);およびPro(CCC)。
蛍光性分子は、ドナー分子とアクセプター分子に関わる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)において有用である。ドナー分子とアクセプター分子との間のFRETの効率と検出能を最適化するために、いくつかの要因のバランスを取る必要がある。重複積分を最大にするため、ドナーの発光スペクトルは、アクセプターの励起スペクトルとできるだけ重複しなければならない。またドナー部分の量子収率とアクセプターの吸光係数は、RO(これは、エネルギー移動効率が50%である距離を表す)を最大にするためにできるだけ高くなければならない。しかし、アクセプターの直接励起から生じる蛍光は、FRETから生じる蛍光と区別するのが難しい場合があるため、アクセプターを直接励起することなくドナーを効率的に励起できる波長領域を見つけることができるように、ドナーとアクセプターの励起スペクトルは、できるだけ重複してはならない。同様に、2つの発光が明確に区別できるように、ドナーとアクセプターの発光スペクトルは、できるだけ重複してはならない。アクセプターからの発光は、単一の読み値としてまたは発光比率の一部として測定される場合、アクセプター部分の高蛍光量子収率が好ましい。ドナーとアクセプター対を選択する時に考慮すべき1つの要因は、これらの間の蛍光共鳴エネルギー移動の効率である。好ましくは、ドナーとアクセプターの間のFRETの効率は、少なくとも10%、さらに好ましくは少なくとも50%、そしてさらにより好ましくは少なくとも80%である。
用語「蛍光特性」は、適切な励起波長でのモル吸光係数、蛍光量子効率、励起スペクトルまたは発光スペクトルの形、励起波長極大と発光波長極大、2つの異なる波長での励起振幅の比、2つの異なる波長での発光振幅の比、励起状態寿命、または蛍光異方性を意味する。野生型エクオレア(Aequorea)GFPとスペクトル変異体又はその突然変異体との間のこれらの性質のうちのいずれか1つにおける測定可能な差異が有用である。測定可能な差異は、任意の定量的蛍光特性(例えば、特定の波長での蛍光の量、または発光スペクトルにわたる蛍光の積分)を測定することにより決定できる。比率測定(ratioing)プロセスは、内部標準を与えて、励起源の絶対的明るさ、検出器の感度、およびサンプルによる光分散またはクエンチングの変動を消去するので、2つの異なる波長での励起振幅または発光振幅の比の測定(それぞれ、「励起振幅比率測定」と「発光振幅比率測定」)は、特に有利である。
本明細書において使用する用語「蛍光タンパク質」は、蛍光が化学的タグによる化学的タグ付きタンパク質を除いて、適切な電磁放射線で励起されると蛍光を発することができる任意のタンパク質を意味し、そして、その発光が紫外線波長(すなわち、約400nm未満)でピークに達する、トリプトファンまたはチロシンなどの特定のアミノ酸の存在によってのみ蛍光を発するポリペプチドは本発明の目的に対する蛍光タンパク質とは見なされない。一般的に、本発明の組成物の調製に有用な蛍光タンパク質または本発明の方法で使用される蛍光タンパク質は、自己触媒的に発色団を形成することからその蛍光を誘導するタンパク質である。蛍光タンパク質は、天然に存在するかまたは人工的に作製されたアミノ酸配列(すなわち、変異体または突然変異体)を含有することができる。蛍光タンパク質に関して使用される時、用語「突然変異体」または「変異体」は、参照タンパク質とは異なるタンパク質を意味する。例えば、エクオレア(Aequorea)GFPのスペクトル変異体は、天然に存在するGFPから、参照GFPタンパク質中にアミノ酸置換のような突然変異を人工的に作製することにより、誘導することができる。例えばECFPは、GFPに関して置換を含有するGFPのスペクトル変異体である(配列番号10と11を比較)。
多くの刺胞動物は、緑色蛍光タンパク質を生物発光におけるエネルギー移動アクセプターとして使用する。用語「緑色蛍光タンパク質」は本明細書において広い意味で使用され、緑色光の蛍光を発するタンパク質、例えばエクオレア(Aequorea)GFP(配列番号10)を意味する。GFPは、北西太平洋クラゲ(Pacific Northwest jellyfish)であるオワンクラゲ(Aequorea victoria)、ウミシイタケであるレニラ・レニホルミス(Renilla reniformis)、およびフィアリジウム・グレガリウム(Phialidium gregarium)から単離されている(Wardら、Photochem. Photobiol. 35:803-808, 1982;Levineら、Comp. Biochem. Physiol. 72B:77-85, 1982、これらのそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる)。同様に、本明細書において赤い蛍光を発する「赤色蛍光タンパク質」、シアンの蛍光を発する「シアン蛍光タンパク質」などが言及される。例えばRFPは、サンゴ形態ディスコソマ(Discosoma)から単離されている(Matzら、Matzら, Nature Biotechnology 17:969-973 [1999])。用語「赤色蛍光タンパク質」、または「RFP」は最も広い意味で用いられ、そして具体的にはディスコソマ(Discosoma)RFP(DsRed)、およびサンゴおよびイソギンチャクなどのいずれかの他の種由来の赤色蛍光タンパク質、ならびに赤色光の蛍光を発する能力を保持する限りにおいてそれらの変異体を含む。
本明細書に使用される用語「サンゴ」は花虫類(Anthozoa)クラス内の種を包含し、具体的にサンゴおよびサンゴ形態(corallimorph)の両方を含む。
有用な励起および発光スペクトルを有する様々なエクオレア(Aequorea)GFP関連蛍光タンパク質が、オワンクラゲ(A. victoria)由来の天然GFPのアミノ酸配列を改変することにより人工的に作製されている(Prasherら、Gene 111:229-233, 1992;Heimら、Proc. Natl. Acad. Sci., USA 91:12501-12504, 1994;米国特許第5,625,048号;PCT WO96/23810として公開された国際特許出願PCT/US95/14692、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる)。本明細書において使用する「関連蛍光タンパク質」への言及は、参照蛍光タンパク質と比較すると、実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛍光タンパク質を意味する。一般的に、関連蛍光タンパク質は、参照蛍光タンパク質配列と比較すると、参照蛍光タンパク質と少なくとも約85%の配列同一性を共有する少なくとも約150アミノ酸の連続配列を有し、そして特に、参照蛍光タンパク質と少なくとも約95%の配列同一性を共有する少なくとも約200アミノ酸の連続配列を有する。すなわち、本明細書においては、言及が、オワンクラゲ(A. victoria)のGFP(配列番号10)と実質的に同一のアミノ酸配列を有する様々なスペクトル変異体とGFP突然変異体により例示される「エクオレア(Aequorea)関連蛍光タンパク質」または「GFP関連蛍光タンパク質」、DsRed(配列番号1)のそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する様々な突然変異体により例示される「ディスコソマ(Discosoma)関連蛍光タンパク質」または「DsRed関連蛍光性関連タンパク質」、ならびにそれらの同類、例えば、レニラ(Renilla)関連蛍光タンパク質またはフィアリジウム(Phialidium)関連蛍光タンパク質に対してなされる。
用語「突然変異体」もしくは「変異体」はまた、本明細書において、対応する野生型蛍光タンパク質に対して、突然変異を含有する蛍光タンパク質の意味で使用される。さらに本明細書において、蛍光タンパク質の「スペクトル変異体」または「スペクトル突然変異体」について言及され、これは、対応する野生型蛍光タンパク質に対して特徴的な異なる蛍光を有する突然変異体蛍光タンパク質を示す。例えば、CFP、YFP、ECFP(配列番号11)、EYFP-V68L/Q69K(配列番号12)などは、GFPスペクトル変異体である。
エクオレア(Aequorea)GFP関連蛍光タンパク質としては、例えば野生型(未変性)オワンクラゲ(Aequorea victoria)GFP(Prasherら、前述、1992;また、配列番号10も参照)、配列番号10の対立遺伝子変異体、例えばQ80R置換を有する変異体(Chalfieら、Science 263:802-805, 1994、これは参照により本明細書に組み込まれる);およびGFPのスペクトル変異体、例えばCFP、YFP、およびその増強型および他の改変型(米国特許第6,150,176号;第6,124,128号;第6,077,707号;第6,066,476号;第5,998,204号;および第5,777,079号、これらはそれぞれ、参照より本明細書に組み込まれる)が挙げられ、1以上の折り畳み突然変異を有するGFP関連蛍光タンパク質、および蛍光性であるこれらのタンパク質の断片、例えば2つのN末端アミノ酸残基が除去されているオワンクラゲ(A. victoria)GFPを含む。これらの蛍光タンパク質のいくつかは、中央の発色団内に異なる芳香族アミノ酸を含有し、野生型GFP種より明らかに短い波長で蛍光を発する。例えば、P4とP4-3と呼ばれる人工的に作製されたGFPタンパク質は、他の突然変異以外に置換Y66Hを含有し、W2とW7と呼ばれる人工的に作製されたGFPタンパク質は、他の突然変異以外にY66Wを含有する。
用語「非テトラマー化蛍光タンパク質」は本明細書において広い意味で使用され、対応する未改変の蛍光タンパク質と比較して低いテトラマー化傾向をもつように改変されている、通常はテトラマーの蛍光タンパク質を広く意味する。そのようなものとして、具体的に他を示さない限り、用語「非テトラマー化蛍光タンパク質」はダイマー蛍光タンパク質、タンデムダイマー蛍光タンパク質、ならびにモノマーのまま残る蛍光タンパク質を包含する。
本明細書に使用される用語「凝集(aggregation)」は発現されたタンパク質が不溶沈降物または目に見える斑点を形成する傾向を意味し、「オリゴマー化」とは区別される。特に凝集を低下する、例えば、タンパク質の溶解度を増加する突然変異は、必ずしもオリゴマー化を低下しない、すなわち、テトラマーをダイマーまたはモノマーに転化しない。
好ましい実施形態の説明
本発明は、ダイマー化またはテトラマー化傾向を有する蛍光タンパク質から誘導することができる蛍光タンパク質変異体を提供する。本明細書に開示したように、本発明の一実施形態において、本発明の蛍光タンパク質変異体は、天然に存在する蛍光タンパク質からまたはそのスペクトル変異体もしくは突然変異体から誘導することができて、蛍光タンパク質がオリゴマー化する傾向を低下するかまたは排除する少なくとも1つの突然変異を含有する。特に、本発明は、低いオリゴマー化傾向をもつダイマーおよびモノマー赤色蛍光タンパク質(RFP)およびRFP変異体を提供する。本明細書に開示したように、本発明のさらなる実施形態においては、改善された成熟効果をもつ蛍光タンパク質を提供する。特に、本発明は、改善された成熟効果をもつダイマーおよびモノマー赤色蛍光タンパク質(RFP)およびRFP変異体を提供する。本発明の実施形態においては、蛍光タンパク質のオリゴマー化する傾向を低下または排除する少なくとも1つの突然変異を含有しかつタンパク質変異体における蛍光の成熟効果を親タンパク質を含む他の変異体と比較して改善する少なくとも1つの突然変異を含有する蛍光タンパク質変異体を提供する。
ディスコソマ(Discosoma)(DsRed)由来の赤色蛍光タンパク質のクローニングは、細胞生物学を進めるためのツールとしてのその大きい可能性によって強い関心が寄せられている。しかし、このタンパク質の特性の注意深い研究によっていくつかの問題が明らかになり、それによりDsRedが、遺伝子発現を追跡するための遺伝的にコードされる指示物質としておよび蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)用のドナー/アクセプター対としての両方で広い用途が見出されているエクオレア(Aequorea)GFPならびにその青、シアンおよび黄色変異体のように、広く受入れられるのを妨げうることがわかった。利用しうる色のスペクトルを広げることは、融合タンパク質の多色追跡用の明確な新しい標識を提供しうるしかつGFPと一緒に、現在好まれているシアン/黄色対より優れた新しいFRETドナー/アクセプター対を提供しうる。
28kDa DsRedについての3つの最も急を要する問題は、その強いオリゴマー化傾向、その遅い成熟、およびそのGFP-様スペクトルをもつ種から最終RFPスペクトルへの非効率的な成熟である。
様々な技術を用いて、DsRedがin vitroおよびin vivoの両方で偏性テトラマーであることが確認されている。数多くの理由によって、DsRedのオリゴマー状態は、それを目的のタンパク質と融合して後者の追跡または相互作用をモニタリングするために応用するのに問題がある。精製タンパク質を用いて、DsRedがその最大赤色蛍光の>90%に到達するには48時間を越える時間を必要とすることが示された(以下参照)。成熟プロセス中に緑色中間物が最初蓄積し、そしてゆっくりと最終の赤色型に変換される。しかし、緑色成分への変換は完了するまで進行せず、従って熟成DsRedのある画分は緑色のまま残る。不完全な成熟による主な不利益は、テトラマー内で緑色と赤色種の間のエネルギー移動により励起スペクトルが緑色波長中にかなり広がることである。これは、GFPなどの潜在的FRETパートナーの励起スペクトルに重複するので、特に深刻な問題である。
DsRedのクローニングの初期の報告は、発生1週間後のアフリカツメガエル割球の挙動をマーキングするin vivo応用を報じた(Matzら, Nature Biotechnology 17:969-973 [1999])。本明細書に開示したように、DsRedの特性決定が、赤色蛍光が現れるまでの時間、発色団のpH感受性、発色団の光を吸収して蛍光を発する強度、タンパク質がフォトブリーチングする容易さ、およびタンパク質が通常、溶液中にモノマーまたはオリゴマーとして存在するかどうかについて行われている。その結果は、DsRedがGFPおよびそのスペクトル突然変異体の有用な補完物または代替物を提供することを実証する。さらに、非蛍光であるかまたは緑色から赤色発光への変換がブロックされたかもしくは遅れたDsRed突然変異体、ならびに最終的蛍光が野生型DsRedから実質的に赤色シフトした突然変異体の特性決定が行われた(Bairdら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 97:11984-11989, 2000;Grossら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 97:11990-11995, 2000、これらはそれぞれ本明細書に参照により組み込まれる)。
改善された成熟効果をもつ赤色蛍光タンパク質変異体
本発明は、対照野生型RFPまたは対照RFP変異体より有効な発色団成熟を示すRFP変異体であって、それが対照(野生型または変異体)配列内の少なくとも1つのアミノ酸改変の結果としてである上記RFP変異体を提供する。
野生型RFPタンパク質は、典型的には約70%赤色タンパク質と約30%の緑色未成熟型タンパク質によるコンタミナネーションからなる。注意深い質量分析および生物化学的研究を通して、DsRed中のQ66のCα-N結合はタンパク質が赤色型に成熟すると酸化されることを確認しており、次いで、発色団成熟に関係する位置66におけるアミノ酸の役割のさらなる研究を進めた。部位指定(site-directed)突然変異誘発により、アミノ酸位置66の未変性グルタミン(Q)に対するメチオニン(M)の置換により、野生型タンパク質より深いピンク色を示しかつ野生型DsRedより未成熟緑色型含量の少ないタンパク質を得ることを確認した。さらに、Q66M DsRed変異体は野生型DsRedより速やかに成熟することを見出した。さらなる実験は、Q66M突然変異はその有利な特性を、さらなる突然変異を含有する非テトラマー化(すなわちダイマーまたはモノマー)DsRed変異体中に導入したときにも保持することを示した。これらの知見のさらなる詳細を以下の実施例において説明する。このように、本発明のRFP変異体は天然に存在する(野生型)RFPからまたはそのスペクトル変異体またはその突然変異体から誘導することができ、そして少なくとも1つの発色団成熟をより効果的にする突然変異を含有する。
本発明をDsRedのQ66M突然変異に言及して説明したが、それに限定されないことは理解されるであろう。発色団構造、配向および/または成熟に役割を果たす野生型DsRed配列内の他のアミノ酸の突然変異によっても、改善された成熟効果をもつDsRed変異体を得ることができる。同様に、他のRFPにおける、対応する(相同的)位置または領域におけるアミノ酸改変(例えば、置換)によっても改善された成熟効果を示すRFP変異体を産生することができる。かかる変異体の全ては、単独でまたは野生型RFP配列内の他の突然変異(置換、挿入および/または欠失)と組合わせて、具体的に本発明の範囲内にある。すなわち、野生型DsRedタンパク質およびQ66M DsRedを含むDsRed変異体の両方の成熟を改善すると考えられるさらなるアミノ酸改変の例は、野生型DsRedのアミノ酸位置147の置換である。この位置の好ましい置換はT147Sであるが、スペクトル特性、そして特に、成熟効果と潜在的速度における類似の改善をもたらす他の置換も可能である。とりわけ、スレオニン(T)と類似の特性をもつアミノ酸の置換はかかる変異体を生じることが期待される。
特定の実施形態においては、本発明は、RFP分子内の1以上のさらなる突然変異の結果として、改善された成熟効率をもち低下したテトラマー化傾向をもつRFP変異体に関する。特に、本実施形態においては、本発明は、対応する非テトラマー化 DsRed変異体と比較して、向上した成熟効率を示すダイマーまたはモノマーなどの非テトラマー化DsRed変異体に関する。かかる変異体の設計および調製についてのさらなる詳細を以下に提供する。
簡略に説明すると、本発明のRFP変異体はダイマー化またはテトラマー化する傾向をもつRFPから誘導することができる。本明細書に開示したように、本発明のRFP変異体は天然に存在するRFPからまたはスペクトル変異体からまたはそれらの突然変異体から誘導することができ、少なくとも1つの成熟効率を向上する突然変異、および場合によっては少なくとも1つのさらなるRFPのオリゴマー化傾向を排除する突然変異を含有する。
本発明の蛍光タンパク質変異体は、オリゴマー化することが公知であるいずれの蛍光タンパク質から誘導してもよく、それらの蛍光タンパク質としては、例えば、オワンクラゲ(Aequorea victoria)GFP(配列番号10)、ウミシイタケ(Renilla reniformis)GFP、フィアリジウム・グレガリウム(Phialidium gregarium)GFPなどの緑色蛍光タンパク質(GFP);ディスコソマ(Discosoma)RFP(配列番号1)などの赤色蛍光タンパク質(RFP);またはGFPもしくはRFPに関係する蛍光タンパク質が挙げられる。従って蛍光タンパク質は、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、増強したGFP(EGFP;配列番号13)、増強したCFP(ECFP;配列番号14)、増強したYFP(EYFP;配列番号15);DsRed蛍光タンパク質(配列番号1)、いずれかの他種の同族体、またはかかる蛍光タンパク質の突然変異体もしくは変異体であってもよい。
本明細書に開示したように、本発明の蛍光タンパク質変異体のオリゴマー化傾向は低下するかまたは排除される。蛍光タンパク質、例えばRFPの分子間オリゴマーを形成する傾向を低下させる2つの基本的手法がある、すなわち、(1)オリゴマー化を蛍光タンパク質、例えばRFP分子の適当な領域中に突然変異を導入することにより低下させるかまたは排除することができるし、また、(2)蛍光タンパク質の2つのサブユニットを機能しうる形で連結する、例えば、RFPをペプチドリンカーなどのリンカーによりお互いに連結することができる。もし次の手法(1)により低下するかまたは排除するのであれば、通常、典型的にはオリゴマーインターフェースに突然変異を導入した結果、失われているか非常に損なわれている蛍光を回復するために、さらなる突然変異を分子中に導入することが必要である。
低下したオリゴマー化傾向をもつ赤色蛍光タンパク質突然変異体
本発明は、蛍光タンパク質のオリゴマー化の程度が成分モノマーのテトラマー化傾向を低下させるかまたは廃止するアミノ酸置換の導入により低下したかまたは排除された蛍光タンパク質変異体を提供する。一実施形態においては、得られる構造はダイマー化する傾向を有する。他の実施形態においては、得られる構造はモノマーのまま残る傾向を有する。
様々なダイマー型を作製することができる。例えば、AB配向ダイマーを形成してもよく、またはAC配向ダイマーを形成してもよい。しかし、ダイマー型の作製とともに、蛍光または蛍光の成熟速度が失われることがある。本発明は、検出可能な蛍光、そしてさらに、有利な成熟速度を有する蛍光を表示するダイマー型を作製する方法を提供する。
一実施形態においては、ダイマーは分子間ダイマーであってもよい。さらに、ダイマーはホモダイマー(同一種の2分子を含む)またはヘテロダイマー(異種の2分子を含む)であってもよい。好ましい実施形態においては、ダイマーは生理学的条件において自発的に形成しうる。本明細書に使われる、かかる型の構造を形成する分子は、モノマーユニットのテトラマー分子間オリゴマーを形成する能力が低いかまたは存在しないので、低下したオリゴマー化傾向を有すると言われる。
かかるダイマー赤色蛍光タンパク質変異体の非限定の説明のための例を本明細書に記載し、そして「ダイマー2」と名付ける。ダイマー2ヌクレオチド配列を配列番号7および図21に掲げた。ダイマー2ポリペプチドを配列番号6および図22に掲げた。
DsRed変異体ダイマーのなおさらに有利な型を作る試みで、「タンデム」DsRed変異体ダイマーを合成する新規のストラテジーを工夫した。この手法は2つの作製したモノマーDsRedユニットの共有結合による繋留を利用して、有利な特性をもつDsRedのダイマー型を得るものである。基本的ストラテジーは、重要なダイマー相互作用が同じポリペプチド内にコードされたタンデムパートナーとの分子間接触を介して満たされるようにACダイマーの2コピーをポリペプチドリンカーを用いて融合することであった。本明細書では、かかる機能しうる形で連結されたホモダイマーまたはへテロダイマーを「タンデムダイマー」と呼び、これらは実質的にテトラマー構造を形成する傾向が低い。
かかるタンデム赤色蛍光タンパク質変異体ダイマーの説明のための例としては、限定されるものでないが、ペプチドリンカー(好ましくは約9〜約25、さらに好ましくは約9〜20アミノ酸残基長)により共有結合で機能しうる形で連結されたダイマー2(配列番号6)種の2つのモノマーユニットが挙げられる。本発明で利用しうるこのようなリンカーとしては、限定されるものでないが、例えば、9残基リンカーRMGTGSGQL(配列番号16)、12残基リンカーGHGTGSTGSGSS(配列番号17)、13残基リンカーRMGSTSGSTKGQL(配列番号18)、または22残基リンカーRMGSTSGSGKPGSGEGSTKGQL(配列番号19)が挙げられる。先に記載したように、このようなタンデムダイマーのサブユニットは、蛍光特性を保存/回復する目的で、好ましくは、配列番号1の野生型DsRed配列と比較して突然変異を含有する。本明細書におけるタンデム赤色蛍光タンパク質ダイマーの説明のための例は、モノマーの少なくとも1つが配列番号6のアミノ酸配列を有する変異体DsRedであり、好ましくは約9〜約25、さらに好ましくは約10〜約20アミノ酸残基長の、上記の9、12、13、および22残基リンカーのいずれをも含むペプチドリンカーにより機能しうる形で連結された2つのモノマーからなるダイマーである。本明細書のタンデム赤色蛍光タンパク質ダイマーのさらに他の説明のための例は、2つの同一または異なるDsRed変異体モノマーサブユニットからなり、その少なくとも1つは配列番号1のDsRedポリペプチド内に次の置換:N42Q、V44A、V71A、F118L、K163Q、S179T、S197T、T217S(β-バレルの内部突然変異);R2A、K5EおよびN6D(凝集を低下させる突然変異);I125RおよびV127T(ABインターフェース突然変異);およびT21S、H41T、C117TおよびS131P(ミセレイニアスな表面突然変異;miscellaneous surface mutations)を含有するタンデムダイマーである。ちょうど他の説明のためのダイマーのように、2つのモノマーサブユニットはペプチドリンカー、好ましくは約9〜約25、さらに好ましくは約10〜約25アミノ酸残基長、例えば9、12、13、および22の上記残基リンカーのいずれかにより融合することができる。それらがアフィニティ成熟を著しく遅延するかそうでなければダイマーの蛍光およびスペクトル特性を妨害することのない限り、一般的に短いリンカーが長いリンカーより好ましい。以上記したように、ダイマー内の2つのモノマーサブユニットは同一であっても異なってもよい。すなわち、例えば、1つのサブユニットは、変異DsRedポリペプチドと機能しうる形で連結された配列番号1の野生型DsRedモノマー、例えば、上に掲げたまたはそうでなければ本明細書に開示したDsRed変異体のいずれかであってもよい。モノマーは重要なダイマー相互作用がタンデムパートナーとの分子間接触を介して満たされるように連結されなければならない。ペプチドリンカーは好ましくはプロテアーゼ耐性である。本明細書において具体的に開示したペプチドリンカーは説明のためだけである。当業者は他のペプチドリンカー、好ましくはプロテアーゼ耐性リンカーも本発明の目的に好適であることを理解するであろう。例えば、Whitlowら, タンパク質 Eng 6:989-995 (1993)を参照。
以下の実施例にさらに詳細に開示した一実施形態においては、新規の手法を用いて、AサブユニットのC末端とBサブユニットのN末端とを連結することによる野生型DsRedの分子間オリゴマー化傾向を、フレキシブルリンカーを介してタンデムダイマーを作ることにより克服した。DsRedテトラマーの結晶構造に基づくと、10〜20残基リンカー、例えば18残基リンカー(Whitlowら, Prot. Eng. 6:989-995, 1993, 前掲、これは本明細書に参照により組み込まれる)は、AサブユニットのC末端からCサブユニットのN末端まで広がるのに十分な長さ(約30Å)はあるが、BサブユニットのN末端まで広がる長さ(70Å超)はないと予想された。このように、タンデムダイマーにおける「オリゴマー化」は分子内、すなわち、DsRed(tDsRed)のタンデムダイマーであり、例えば、単一のポリペプチド鎖によりコードされる。さらに、tDsRedとI125R突然変異体(tDsRed-I125R)との組合わせにより、他のダイマー赤色蛍光タンパク質を得た。このストラテジーは、一般的に、1つのタンパク質のN末端とダイマーパートナーのC末端との間の距離が、適当な長さのリンカーを用いてモノマー同士を機能しうる形で連結できることが公知であるいずれのタンパク質系に対しても応用しうることは認識されるべきである。特に、このストラテジーは、興味深いスペクトル特性を有するが、破壊することが困難である偏性ダイマーを形成する他の蛍光タンパク質を、本明細書に開示した標的を定めた突然変異誘発法を用いて、そうでないように改変するために利用することができる。
ダイマーおよびモノマー赤色蛍光タンパク質を産生するための突然変異誘発ストラテジー
本発明は、蛍光タンパク質中の1以上の突然変異の存在により、低下したテトラマーのオリゴマーを形成する傾向を有する(すなわち、テトラマーを形成する傾向が低下したか排除された)蛍光タンパク質変異体を提供する。本明細書に開示したように、突然変異をDsRed中に導入して、例えば、配列番号20のDsRedの突然変異体であるDsRed-I125Rを含む、オリゴマー化活性の低下したDsRed突然変異体を同定した。DsRed突然変異体を産生するストラテジーはDsRed中に、ダイマーインターフェース(A-BまたはA-C、図1および図2を参照)を妨害すると予想される突然変異を導入してテトラマーの形成を防止することに関わる。このストラテジーは、例えば、イソロイシン125のアルギニン(I125R)による単一置換を用いてA-Bインターフェースを破壊することによりテトラマー形成傾向の低下したDsRed突然変異体の産生をもたらす。
DsRedのオリゴマー状態を減少するストラテジーは、重要なダイマーインターフェース残基を帯電アミノ酸、好ましくはアルギニンを用いて置換することであった。ダイマー形成は、ダイマーパートナーの同一残基と対称性を介して相互作用するための標的残基が必要であると考えられる。2つの正電荷を密接して配置することから得られる高エネルギーの代償により相互作用が破壊されるに違いない。単一突然変異T147R、H162R、およびF224RによりDsRed ACインターフェース(図2A参照)を取り壊す最初の試みは、一致して非蛍光タンパク質を与えた。しかし、ABインターフェースはいくらか弾力性が少なく、単一突然変異I125Rにより破壊できることを証明し、緑色成分の増加と完全成熟まで10日超を要するのに悩まされて、貧赤色蛍光ダイマーを得た。
さらにI125Rの蛍光特性を改善することができる突然変異(アミノ酸置換)の説明のための例は、配列番号1内のアミノ酸位置163、179および217の少なくとも1つにおける突然変異を含む。好ましい実施形態においては、I125R変異体はK163Q/M、S179TおよびT217S置換の少なくとも1つを含む。さらなる説明のための変異体は、配列番号1内の位置N42および/またはC44においてさらなる突然変異を含有してもよい。説明のためのDsRedダイマーのさらに他のグループは、配列番号1内の残基I161およびS197の少なくとも1つにおけるさらなる突然変異を含む。この突然変異誘発手法により得られるDsRed変異体の具体的な例は、DsRed-I125R、S179T、T217A、およびDsRed-I125R、K163Q、T217Aを含む。
従来技術におけるDsRedサブユニットの命名慣習には不一致が存在することを指摘する。図1に示したように、1つの取決めはA-B-C-Dサブユニットと指定する。しかし、図2に示した異なる取決めも認められる。図1のモデルに示したように、この図のACインターフェースは図2に示したABインターフェースと同等である。本発明のサブユニットインターフェースの意味は、図1を除いて、図2に用いた取決めによる。
T1-I125R(図10A、ライブラリーD1を参照)から出発する類似の指向的(directed)突然変異誘発ストラテジーを実施し、最終的にダイマー1を同定した。Dimer1は、輝度および成熟速度の両方においてwt DsRedより若干好かったが、T1のそれと同等の実質的に緑色のピークを有した。Dimer1はまた、若干、青色シフトして551nmに励起最大値および579nmに発光最大値があった。ダイマー1(図10A、ライブラリーD2)の誤りがちPCR(error-prone PCR)により、タンパク質の疎水性コアにおいて突然変異V71Aを含有するダイマー1.02の発見および励起スペクトルにおける効果的に非緑色の成分を得た。ランダム突然変異誘発の第2ラウンド(図10A、ライブラリーD3)により、さらに緑色励起を減少させる突然変異K70R、DsRed波長へ戻してダイマーを赤色シフトするS197Aおよび成熟速度を大きく改善するT217Sを同定した。残念ながら、K70RおよびS197Aは成熟するのが比較的遅くかつT217SはDsRedと同等の緑色ピークを有した。ダイマー1.02をテンプレートとして用いて、さらに2ラウンドの指向的(directed)突然変異を実施した;最初は以上同定した3位置に焦点を合わせ(図11A、ライブラリーD3)、そして2回目はC117、F118、F124、およびV127に焦点を合せた(図10A、ライブラリーD4)。
全4世代に対して、指向的進化ストラテジーを続けて、最適のダイマー変異体を産生し、これをダイマー2と名付けた(図2Bに図解)。この変異体は17突然変異を含有し、そのうちの8つはβ-バレルの内部にあり(N42Q、V44A、V71A、F118L、K163Q、S179T、S197TおよびT217S)、3つはT1に見出された凝集を低下する突然変異であり(R2A、K5EおよびN6D;BevisおよびGlick, Nat. Biotechnol., 20:83-87 [2002];ならびにYanushevichら, FEBS Lett., 511:11-14 [2002]を参照)、2つはABインターフェース突然変異であり(I125RおよびV127T)、そして4つは雑多な表面突然変異である(T21S、H41T、C117TおよびS131P)。ダイマー2ヌクレオチド配列を配列番号7および図21に与える。ダイマー2ポリペプチドを配列番号6 および図22に与える。
本明細書に記載した突然変異誘発手法の最後の産物は、mRFP1と名付けたモノマー赤色蛍光タンパク質であり、配列番号1の野生型DsRed配列内に次の突然変異を含有する:N42Q、V44A、V71A、K83L、F124L、L150M、K163M、V175A、F177V、S179T、V195T、S197I、T217A、R2A、K5E、N6D、I125R、V127T、I180T、R153E、H162K、A164R、L174D、Y192A、Y194K、H222S、L223T、F224G、L225A、T21S、H41T、C117E、およびV156A。これらのうち、最初の13突然変異はβ-バレルの内部にある。残りの20の外部突然変異のうち、3は凝集低下突然変異(R2A、K5E、およびN6D)であり、3はABインターフェース突然変異(I125R、V127T、およびI180T)であり、10はACインターフェース突然変異(R153E、H162K、A164R、L174D、Y192A、Y194K、H222S、L223T、F224G、およびL225A)であり、そして4つはさらなる有益な突然変異(T21S、H41T、C117E、およびV156A)である。mRFP1ヌクレオチド配列を配列番号9および図23に与える。mRFP1ポリペプチドを配列番号8および図24に与える。
mRFP1は多くの観点で最適化されていると考えられるが、当業者は野生型DsRed アミノ酸配列(配列番号1)のこれらおよび他の領域内の他の突然変異も、野生型DsRedタンパク質の定性的な赤色蛍光特性を保持するモノマーDsRed変異体も生じうることを理解するであろう。従って、mRFP1は単に説明の役割を果たすのであり、本発明の実施形態は決してこの特定モノマーに限定されるものでない。
特に、本明細書におけるモノマーDsRed変異体、例えばmRFP1をさらに改変してDsRedのスペクトルおよび/または蛍光特性を変えることができる。例えば、GFPでの経験に基づいて、励起状態において、発色団の電子密度はフェノレートからカルボニル末端へシフトする傾向のあることが公知である。従って、発色団のカルボニル末端の正電荷を増加する置換は、励起状態のエネルギーを減少し、そしてタンパク質の吸収および発光の波長最大値の赤色シフトを生じる傾向がある。発色団のカルボニル末端近傍の正電荷を減少することは逆の効果を有し、タンパク質の波長の青色シフトを生じる傾向がある。同様に、改変された蛍光特性を有する突然変異体を産生するために、DsRed中に突然変異が導入されている。
荷電(イオン化D、E、K、およびR)、双極性(H、N、Q、S、T、および無電荷D、EおよびK)、および分極性側鎖(例えば、C、F、H、M、WおよびY)をもつアミノ酸は、特にそれらを無荷電、非極性または非分極性側鎖をもつアミノ酸と置換すると、蛍光タンパク質のオリゴマー化能力を改変するのに有用である。
同様に、他のオリゴマー化蛍光タンパク質のモノマーも、類似の突然変異誘発ストラテジーに従って調製することができ、これらは本発明の範囲内にあると意図する。
花虫類(Anthozoan)蛍光タンパク質変異体
本発明により提供される突然変異誘発法は、低下したオリゴマー化(すなわち、テトラマー化)能力をもつ有利な蛍光タンパク質変異体を作製するために利用することができるし、かつまた、ディスコソマ(Discosoma)DsRed変異体タンパク質の用途に類似した用途を見出すことも意図する。当技術分野ではDsRedタンパク質は、高度のアミノ酸同一性およびタンパク質構造を共有する高度に関連した同族タンパク質のファミリーのメンバーであることは公知である(例えば、Labasら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:4256-4261 [2002];およびYanushevichら, FEBS Letters 511:11-14 [2002]を参照)。これらの代わりの蛍光タンパク質は、ディスコソマ(Discosoma)DsRedが有するのと異なる波長で蛍光を発する能力を有するのでさらに有利である。もしこれらのタンパク質のダイマーまたはモノマー型を産生することができれば、これらは蛍光マーカーとして大きな実験上の可能性を有しうる。
関係する蛍光タンパク質が同定されている花虫類(Anthozoan)種としては、限定されるものでないが、アネモニア(Anemonia)種、クラブラリア(Clavularia)種、コンジラクチス(Condylactis)種、ヘテラクチス(Heteractis)種、レニラ(Renilla)種、プチロサルクス(Ptilosarcus)種、ゾーンツス(Zoonthus)種、スコリミア(Scolymia)種、モンタストレア(Montastraea)種、リコルデア(Ricordea)種、ゴニオパラ(Goniopara)種、などが挙げられる。
タンデムダイマーおよびモノマーを含む融合タンパク質
標的タンパク質と融合した蛍光タンパク質は、例えば、組換えDNA法を用いて調製し、産生する標的タンパク質の位置および量を同定するマーカーとして利用することができる。従って、本発明は、蛍光タンパク質変異体部分と目的のポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。目的のポリペプチドは、融合タンパク質の蛍光タンパク質成分が適当な波長の電磁波照射に曝されたときに蛍光を発しうるかまたは蛍光の発生が誘導されうることを条件として、いずれの長さ、例えば、約15アミノ酸残基、約50残基、約150残基、または約1000までまたはそれ以上のアミノ酸残基の長さであってもよい。目的のポリペプチドは、例えば、ポリヒスチジン配列、c-mycエピトープ、FLAGエピトープなどのペプチドタグであってよく;酵素を含む融合タンパク質を発現する細胞中である機能を果たすためにまたは融合タンパク質を含有する細胞を同定するために利用しうる酵素であってもよく;細胞中の1以上のタンパク質と相互作用する能力を試験するためのタンパク質、または本明細書に開示したまたは他の点で所望されるいずれか他のタンパク質であってもよい。
本明細書に開示した、ディスコソマ(Discosoma)(サンゴ)赤色蛍光タンパク質であるDsRedは、GFPまたはそのスペクトル変異体に対する補完物または代替物として利用することができる。特に、本発明は、改変されたスペクトルおよび/または蛍光特性を有する、以上に考察したタンデムダイマーおよびモノマーDsRed蛍光タンパク質、およびそれらの変異体のいずれかの融合タンパク質を包含する。
目的のポリペプチドの1以上と機能しうる形で連結された蛍光タンパク質変異体を含む融合タンパク質も提供される。融合タンパク質のポリペプチドをペプチド結合を介して連結してもよいし、または蛍光タンパク質変異体をリンカー分子を介して目的のポリペプチドと連結してもよい。一実施形態においては、融合タンパク質は、1以上の目的のポリペプチドをコードする1以上のポリヌクレオチドと機能しうる形で連結された、蛍光タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含有する組換え核酸分子から発現される。
目的のポリペプチドはいずれのポリペプチド、例えば、ポリヒスチジンペプチドなどのペプチドタグ、または酵素、G-タンパク質、増殖因子受容体、または転写因子などの細胞ポリペプチドであってもよく;また、結合して複合体を形成する2以上のタンパク質の1つであってもよい。一実施形態においては、融合タンパク質はドナー蛍光タンパク質変異体、アクセプター蛍光タンパク質変異体、および上記ドナーおよび上記アクセプターを結合するペプチドリンカー部分を含んでなるタンデム蛍光タンパク質変異体構築物であって、ドナーの環化アミノ酸は上記ドナーの特徴的な光を発光し、ドナーが励起されるとドナーとアクセプターは蛍光共鳴エネルギー移動を示し、そしてリンカー部分は実質的にドナーを励起する光を発光しないことを特徴とする上記構築物であってもよい。このように、本発明の融合タンパク質は2以上の機能しうる形で連結された蛍光タンパク質変異体を含んでもよく、それらは直接または間接的に連結されていてもよく、そしてさらに1以上の目的のポリペプチドを含んでもよい。
DsRedダイマーおよびモノマーの調製
本発明はまた、タンパク質がダイマー蛍光タンパク質、タンデムダイマー蛍光タンパク質、モノマータンパク質であってもよい蛍光タンパク質変異体、または1以上の目的のポリペプチドと機能しうる形で連結された蛍光タンパク質を含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供する。タンデムダイマーの場合、ダイマー全体を1つのポリヌクレオチド分子によりコードすることができる。もしリンカーが非ペプチドリンカーであれば、2つのサブユニットを別々のポリヌクレオチド分子によりコードして別々に産生し、その後、当技術分野で公知の方法により連結しうる。
本発明はさらに、ポリヌクレオチドなどを含有するベクター、およびポリヌクレオチドまたはベクターを含有する宿主細胞に関する。また、1以上の他のポリヌクレオチドと機能しうる形で連結された蛍光タンパク質変異体をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド組換え核酸分子も提供する。1以上の他のポリヌクレオチドは、例えば、プロモーターまたはポリアデニル化シグナル配列などの転写調節エレメント、またはリボソーム結合部位などの翻訳調節エレメントであってもよい。かかる組換え核酸分子は、発現ベクターであってもよいベクター中に含有させることができ、そして核酸分子またはベクターは宿主細胞中に含有させることができる。
ベクターは一般的に、所望であれば、原核生物もしくは真核生物宿主系またはそれらの両方において複製するために必要なエレメントを含有する。プラスミドベクターおよびバクテリオファージ、バキュロウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターを含むかかるベクターは公知でありかつ市販元から購入することができる(Promega, Madison WI;Stratagene, La Jolla CA;GIBCO/BRL, Gaithersburg MD)かまたは当業者は構築することができる(例えば、Meth. Enzymol., Vol. 185, Goeddel, 編(Academic Press, Inc., 1990);Jolly, Canc. Gene Ther. 1:51-64, 1994;Flotte, J. Bioenerg. Biomemb. 25:37-42, 1993;Kirshenbaumら, J. Clin. Invest. 92:381-387, 1993を参照;これらはそれぞれ本明細書に参照により組み込まれる)。
蛍光タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターは、クローニングベクターまたは発現ベクターであってもよく、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどであってもよい。一般的にベクターは、本発明のポリヌクレオチドがコードするものに依存しない選択マーカーを含有し、さらに転写調節エレメントまたは翻訳調節エレメントを含有し、そこに機能的に連結されたポリヌクレオチドの組織特異的発現を与えることができるプロモーター配列を含み、これは、必要としないが、蛍光タンパク質変異体(例えば、タンデムダイマー蛍光タンパク質)をコードするポリヌクレオチドであってもよく、こうして、導入されたベクターとそこに含有される組換え核酸分子を含有する細胞の混合集団の中から、特定のタイプの細胞を選択する手段を提供する。
ベクターがウイルスベクターである場合、これは、1つまたは数個の特異的細胞タイプを比較的高い効率で感染する能力に基づいて選択することができる。例えばウイルスベクターはまた、目的の生物の特定の細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞などの脊椎動物宿主細胞)に感染するウイルスから誘導することができる。特定の宿主系(特に、哺乳動物系)で使用するためのウイルスベクターが開発されており、例えば、レトロウイルスベクター、例えばヒト免疫不全症ウイルス(HIV)に基づくものなどの他のレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどが挙げられる(MillerおよびRosman、Bio Techniques 7:980-990, 1992;Andersonら、Nature 392:25-30, 補遺、1998;VermaおよびSomia、Nature 389:239-242, 1997;Wilson、New Engl. J. Med. 334:1185-1187 (1996)を参照、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる)。
蛍光タンパク質変異体(これは、融合タンパク質の成分であってもよい)の組換え産生は、ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現することを含む。蛍光タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、有用な出発物質である。蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、本明細書に開示されるかまたは当技術分野で公知であり、日常的な方法を使用して取得し、次に、コードされる蛍光タンパク質のオリゴマー化傾向が欠如するように、改変することができる。例えば、GFPをコードするポリヌクレオチドは、エクオレア(Aequorea)GFP(配列番号21)のDNA配列に基づくプライマーを使用して、オワンクラゲ(A. victoria)からのcDNAのPCRにより単離することができる。ディスコソマ(Discosoma)からの赤色蛍光タンパク質(DsRed)をコードするポリヌクレオチドも同様にディスコソマ(Discosoma)サンゴのcDNAのPCRにより単離するかまたは市販のDsRed2またはHcRed1(CLONTECH)から得ることができる。PCR法は当技術分野で周知でありかつ日常的に行われている(例えば、米国特許第4,683,195号;Mullisら、Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 51:263, 1987;Erlich編、「PCR Technology(PCR技術)」Stockton Press, NY, 1989)を参照)。次に、蛍光タンパク質の変異体型は、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発により作製することができる。同様にタンデム蛍光タンパク質は、例えば、蛍光タンパク質の第1のモノマーおよび少なくとも第2のモノマーを機能的に連結するペプチドリンカーをコードすることができるプライマーを使用するPCRにより調製するポリヌクレオチドから発現するか、または他の方法により得ることができる。
発現ベクターの構築およびトランスフェクトした細胞中のポリヌクレオチドの発現は、これも当技術分野で周知の分子クローニング技術の使用に関わる(Sambrookら、「分子クローニング:研究室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989);Ausubelら編、「分子生物学の現行プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」(Greene Publishing Associates, Inc.およびJohn Wiley & Sons, Inc. 1990、ならびに補遺)を参照)。発現ベクターは、例えば上記に示す蛍光タンパク質変異体をコードする目的のポリヌクレオチド配列に、機能的に連結された発現制御配列を含有する。発現ベクターは、適切なプロモーター、複製配列、マーカーなどを含めることにより、原核生物または真核生物中で機能するように適合させることができる。発現ベクターは、蛍光タンパク質変異体の発現のために組換え宿主細胞中にトランスフェクトすることができ、宿主細胞は、例えば単離したタンパク質を大量に得るために高レベルの発現について選択することができる。宿主細胞は、細胞培養で維持することができるか、または生物中のin vivoの細胞であってもよい。蛍光タンパク質変異体は、大腸菌(E. coli)のような宿主細胞中でタンパク質をコードするポリヌクレオチドから発現することにより産生することができる。エクオレア(Aequorea)GFP関連蛍光タンパク質は、例えば、約15℃〜30℃で培養した細胞により最もよく発現されるが、より高温(例えば、37℃)を使用してもよい。合成後、蛍光タンパク質はより高い温度で安定であり、そのような温度でのアッセイに使用することができる。
発現される蛍光タンパク質変異体(タンデムダイマー蛍光タンパク質もしくは非オリゴマー化タンデム蛍光タンパク質であってもよい)は、目的の第1のポリペプチドに機能的に連結してもよいし、さらに目的の第2のポリペプチド、例えばペプチドタグ(そこに連結した任意の他のポリペプチドを含む蛍光タンパク質変異体の単離を容易にするために使用することができる)に連結してもよい。例えば、6つのヒスチジン残基を含有するポリヒスチジンタグを、蛍光タンパク質変異体のN末端またはC末端で取り込み、次にこれを、ニッケル−キレートクロマトグラフィーを使用して単一の工程で単離することができる。c-mycペプチド、FLAGエピトープ、またはいずれかのペプチドエピトープ(または抗体もしくはエピトープに特異的に結合するその抗原結合性フラグメント)を含むいずれかのリガンド(または同族の受容体)を含むさらなるペプチドタグは、当技術分野で周知であり、同様に使用することができる(例えば、Hoppら、Biotechnology 6:1204 (1988);米国特許第5,011,912号を参照、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる)。
本発明のキット
本発明はまた、組成物の利用を容易にするおよび/または標準化するために、ならびに本発明の方法を容易にするためにキットも提供する。これらの様々な方法を実施するための材料および試薬をキットで提供することができる。本明細書に使用される用語「キット」はプロセス、アッセイ、分析または操作を容易にする物品の組合わせを意味する。
キットは化学試薬(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)ならびに他の成分を含有する。さらに、本発明のキットはまた、例えば、限定されるものでないが、サンプル採集および/または精製用の装置および試薬、生成物採集および/または精製用の装置および試薬、細菌細胞形質転換用の試薬、予め形質転換したまたはトランスフェクトした宿主細胞、サンプルチューブ、ホルダー、トレイ、ラック、ディッシュ、プレート、キット使用者に対する指示書、溶液、バッファーもしくは他の化学試薬、標準化のために用いるのに好適なサンプル、正規化、および/または対照サンプルを含んでもよい。本発明のキットはまた、便利な保存および安全な出荷のために、例えばリブ付きのボックス中に包装してもよい。
いくつかの実施形態においては、例えば、本発明のキットは本発明の蛍光タンパク質、本発明の蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドベクター(例えば、プラスミド)、ベクターを伝播するのに好適な細菌細胞株、および発現された融合タンパク質を精製する試薬を提供することができる。あるいは、本発明のキットは、低下したオリゴマー化傾向を有するタンパク質変異体を作製するための花虫類(Anthozoan)蛍光タンパク質の突然変異誘発を実施するために必要な試薬を提供してもよい。
キットは、1以上の本発明の組成物、例えば、融合タンパク質の一部分であってもよい1つまたは複数の蛍光タンパク質変異体、またはそのポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含んでもよい。蛍光タンパク質変異体は、非オリゴマー化モノマーなどの低いオリゴマー化傾向を有する蛍光タンパク質であってもよいし、またはタンデムダイマー蛍光タンパク質であってもよく、そしてキットが複数の蛍光タンパク質変異体を含む場合、その複数は、突然蛍光タンパク質変異体変異体の複数もしくはタンデムダイマー蛍光タンパク質の複数、またはそれらの組合わせであってもよい。
本発明のキットはまた、一部は蛍光タンパク質変異体(これは同じかまたは異なってよい)をコードする1つまたは複数の組換え核酸分子を含有してもよく、そしてさらに、例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識部位またはリコンビナーゼ認識部位、または任意の目的のポリペプチドを含有するかまたはコードする機能的に連結した第2のポリヌクレオチドを含んでもよい。さらにキットは、キットの成分、特にキットに含有される本発明の組成物を使用するための説明書を含んでもよい。
そのようなキットは、当業者が特定の応用に好ましい蛍光特性を有する1つ以上のタンパク質を便利に選択することができるので、複数の異なる蛍光タンパク質変異体を提供できる場合に特に有用でありうる。同様に、異なる蛍光タンパク質変異体をコードする複数のポリヌクレオチドを含有するキットは、多くの利点を提供する。例えば、ポリヌクレオチドを好都合な制限エンドヌクレアーゼまたはリコンビナーゼ認識部位を含有するように作製し、こうして調節エレメントへの、または目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドへのポリヌクレオチドの機能的連結を容易にするか、または、所望であれば、互いに蛍光タンパク質変異体をコードする2以上のポリヌクレオチドを機能的に連結することができる。
蛍光タンパク質変異体の用途
本発明の特性を有する蛍光タンパク質変異体は、蛍光タンパク質を利用するいずれの方法においても有用である。すなわち、モノマー、ダイマー、およびタンデムダイマー蛍光タンパク質を含む蛍光タンパク質変異体は、蛍光マーカーがすでに使用される多くの方法(例えば、イムノアッセイもしくはハイブリダイゼーションアッセイのような検出アッセイで使用するための、または細胞中のタンパク質の移動を追跡するための、抗体、ポリヌクレオチドまたは他の受容体への、蛍光タンパク質変異体のカップリング)で蛍光マーカーとして有用である。細胞内追跡試験のために、蛍光タンパク質変異体をコードする第1の(または他の)ポリヌクレオチドを、目的のタンパク質をコードする第2の(または他の)ポリヌクレオチドに融合させ、所望であれば、構築物を発現ベクター中に挿入することができる。細胞内で発現すると、タンパク質の局在化が、融合タンパク質の蛍光タンパク質成分のオリゴマー化により引き起こされたアーティファクトであることを心配せずに、蛍光に基づいて目的のタンパク質を局在化することができる。この方法の一実施形態においては、2つの目的のタンパク質を独立に、異なる蛍光特性を有する2つの蛍光タンパク質変異体と融合させる。
本発明の特性をもつ蛍光タンパク質変異体は、転写の誘導を検出するための系において有用である。例えば、非オリゴマー化モノマー、ダイマーまたはタンデムダイマー蛍光タンパク質をコードするヌクレオチド配列を、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列(発現ベクター中に含有されうる)に融合することができ、構築物を細胞中にトランスフェクトすることができ、そして蛍光の存在または量を検出することによりプロモーター(または他の調節エレメント)の誘導を測定することができ、それにより受容体からプロモーターへのシグナル伝達経路の応答性を観察するための手段が可能になる。
本発明の蛍光タンパク質変異体はまた、FRETを含む応用において有用であり、これは、蛍光性ドナーとアクセプターの、互いに向かうまたは互いに離れる動きの関数として事象を検出することができる。ドナー/アクセプター対の1つまたは両方が蛍光タンパク質変異体であってもよい。そのようなドナー/アクセプター対は、ドナーの励起ピークと発光ピークの間の広い分離を提供し、ドナー発光スペクトルとアクセプター励起スペクトルの間の良好な重複を提供する。本明細書に開示の変異赤色蛍光タンパク質または赤色シフト突然変異体を本明細書においてそのような対のアクセプターとして開示する。
FRETは、切断部位の反対側に向い合って基質と結合したドナーとアクセプターを有する基質の切断を検出するために使用することができる。基質が切断されると、ドナー/アクセプター対は物理的に分離してFRETが排除される。そのようなアッセイは、例えば、基質をサンプルに接触させてFRETの定性的または定量的変化を測定することにより、実施することができる(例えば、米国特許第5,741,657号を参照、これは参照により本明細書に組み込まれる)。蛍光タンパク質変異体ドナー/アクセプター対はまた、タンパク質分解性切断部位を有するペプチドが結合した融合タンパク質の一部でもよい(例えば、米国特許第5,981,200号を参照、これは参照により組み込まれる)。FRETはまた、膜を横切る電位の変化を検出するために使用することができる。例えば、ドナーとアクセプターを膜の反対側に置き、電圧変化に応答して膜を横切って移動するようにすると、それにより測定可能なFRETを生じる(例えば、米国特許第5,661,035号を参照、これは参照により組み込まれる)。
他の実施形態においては、本発明の蛍光タンパク質は、タンパク質キナーゼおよびホスファターゼ活性の蛍光センサーまたはCa2+、Zn2+、環状3’,5’-アデノシン一リン酸、および環状3’,5’-グアノシン一リン酸などの小さいイオンおよび分子の指示物質を作るのに有用である。
サンプル中の蛍光は一般的に、蛍光計を使用して測定されるが、ここで、第1の波長を有する励起源からの励起放射線は、励起光学系を通過し、これによって励起放射線がサンプルを励起するようになる。これに応答して、サンプル中の蛍光タンパク質変異体は、励起波長とは異なる波長を有する放射線を発する。そして集光系が、サンプルからの発光を集める。この装置は、スキャンしている間サンプルを特定の温度に維持するための温度コントローラーを含んでもよく、さらに異なるウェルが暴露されるように配置するための、複数のサンプルを保持するマイクロタイタープレートを動かす多軸移動ステージを有していてもよい。多軸移動ステージ、温度コントローラー、自動焦点機能、およびイメージングとデータ収集に関連する電子機器は、適切にプログラムされたデジタルコンピューターで管理することができ、これは、アッセイの際に収集されたデータを、表示のための別のフォーマットに変換する。このプロセスを小型化および自動化して、高速大量処理様式での何千という化合物のスクリーニングを可能にすることができる。蛍光性物質によるアッセイを行うこれらの方法および他の方法は、当該分野で周知である(例えば、Lakowicz、「蛍光分光法の原理("Principle of Fluorescence Spectroscopy")」(Plenum Press, 1983);「培養物中の生細胞の蛍光顕微鏡検査("Fluorescence Microscopy of Living Cells in Culture")」 パートB中のHerman,「共鳴エネルギー移動顕微鏡検査("Resonance energy transfer microscopy")」, Meth. Cell Biol. 30:219-243(TaylorとWang編; Academic Press)1989);Turro, 「現代の分光光化学("Modern Molecular Photochemistry")」(Benjamin/Cummings Publ. Co.,Inc. 1978)、296−361頁を参照、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる)。
従って、本発明は、サンプル中の分子の存在を同定する方法を提供する。そのような方法は、例えば本発明の蛍光タンパク質変異体を分子に結合し、その分子を含有することが疑われるサンプル中の蛍光タンパク質変異体による蛍光を検出することにより行われる。検出される分子は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または任意の他の分子(例えば、抗体、酵素、受容体)であってもよく、蛍光タンパク質変異体は、タンデムダイマー蛍光タンパク質であってもよい。
試験するサンプルは、いずれのサンプルであってもよく、生物サンプル、環境サンプル、またはその中に特定の分子が存在するかどうかを決定することが好ましいいずれの他のサンプルであってもよい。好ましくはサンプルは、細胞またはその抽出物を含む。細胞は、脊椎動物(ヒトのような哺乳動物を含む)、または非脊椎動物から得ることができ、植物または動物からの細胞であってもよい。細胞は、そのような細胞の培養物(例えば細胞系統)から得ることも、生物から単離することもできる。従って、細胞は組織サンプル中に含有されていてもよく、これは、生物から、組織サンプルを得るために通常使用される任意の手段(例えば、ヒトの生検)により得ることができる。無傷の生細胞または新たに単離された組織もしくは臓器サンプルを使用して方法を実施する場合には、生細胞中の目的分子の存在を同定することにより、例えばその分子の細胞内分布を測定する手段が提供される。そのような目的のための本発明の蛍光タンパク質変異体の使用は、蛍光タンパク質のオリゴマー化による異所的な同定または局在の可能性が大幅に低下する点で実質的な利益を得る。
蛍光タンパク質変異体は、直接または間接的に、タンパク質−分子複合体が暴露される条件下で安定であるいずれかの結合を用いて、その分子に結合することができる。すなわち、蛍光タンパク質と分子は、タンパク質と分子上に存在する反応基の間の化学反応により結合してもよいし、またはその結合はリンカー部分(蛍光タンパク質とその分子に対する特異的な反応基を含有する)を介してもよい。蛍光タンパク質変異体と分子を結合させるための適切な条件は、例えばその分子の化学的性質と所望の結合タイプに依存して選択されることは理解されるであろう。目的の分子がポリペプチドである場合、蛍光タンパク質変異体と分子を結合させる便利な手段は、組換え核酸分子(例えばポリペプチド分子をコードするポリヌクレオチドに機能しうる形で結合されたタンデムダイマー蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む)から、これらを融合タンパク質として発現させることによるものである。
発現制御配列の活性を制御する物質または条件を同定する方法も提供される。そのような方法は、例えば、組換え核酸分子(発現制御配列に機能しうる形で結合した蛍光タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含む)を、発現制御配列からのポリヌクレオチドの発現を制御することができると疑われる物質または条件に暴露し、そのような暴露に起因する蛍光タンパク質変異体の蛍光を検出することにより行われる。そのような方法は、例えば、発現制御配列からの発現を調節することができる細胞性タンパク質を含む化学物質または生物学的物質(制御エレメントからの組織特異的発現に関わる細胞因子を含む)を同定するのに有用である。そのようなものとして、発現制御配列は、転写制御エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、サイレンサー、イントロンスプライシング認識部位、ポリアデニル化部位など、または翻訳制御エレメント、例えばリボゾーム結合部位であってもよい。
本発明の特性を有する蛍光タンパク質変異体はまた、第1の分子と第2の分子の特異的相互作用を同定する方法において有用である。そのような方法は、例えば、ドナーである第1の蛍光タンパク質変異体に結合した第1の分子と、アクセプターである第2の蛍光タンパク質変異体に結合した第2の分子とを、第1の分子と第2の分子との特異的相互作用を可能にする条件下で接触させ;ドナーを励起し;ドナーからアクセプターへの蛍光または発光共鳴エネルギー移動を検出し、それにより第1の分子と第2の分子の特異的相互作用を同定することにより実施することができる。そのような相互作用の条件は、分子が特異的に相互作用することができると予測されるかまたは疑われるいずれの条件であってもよい。特に、試験すべき分子が細胞性分子である場合、その条件は一般的に生理学的条件である。そのようなものとして、この方法は、生理学的条件を模倣するバッファー、pH、イオン強度などの条件を使用してin vitroで実施してもよいし、またはその方法は、細胞中でもしくは細胞抽出物を使用して実施してもよい。
発光共鳴エネルギー移動は、化学発光、生物発光、ランタニド、または遷移金属ドナーから赤色蛍光タンパク質部分へのエネルギー移動が必要である。赤色蛍光タンパク質の励起波長はより長いので、緑色蛍光タンパク質変異体について可能なより、多様なドナーからのかつ遠い距離にわたるエネルギー移動が可能である。また、発光波長がより長いので、固相光検出器によるより効率的に検出されるし、またin vivo応用にとっては赤色光がより短い波長より組織をはるかに好く貫通するので特に貴重である。化学発光ドナーとしては、限定されるものでないが、ルミノール誘導体およびペルオキシ蓚酸塩系が挙げられる。生物発光ドナーとしては、限定されるものでないが、エクオリン、オベリン(obelin)、ホタルルシフェラーゼ、レニラ(Renilla)ルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、およびそれらの変異体が挙げられる。ランタニドドナーとしては、限定されるものでないが、多重リガンド基と連結して金属イオンを溶媒水から遮蔽する紫外吸収感作物質発色団を含有するテルビウムキレートが挙げられる。遷移金属ドナーとしては、限定されるものでないが、オリゴピリジンリガンドのルテニウムおよびオスミウムキレートが挙げられる。化学発光および生物発光ドナーは励起光を必要としないが基質の添加によりエネルギー化され、それに対して金属に基づく系は励起光を必要とするが、より長い励起状態寿命を与え、欲しないバックグラウンド蛍光および散乱を識別するためのタイムゲーテッド検出を容易にする。
第1の分子と第2の分子が細胞タンパク質であって、それらのタンパク質が特異的に相互作用するかどうかを判定するために、またはそのような相互作用を確認するために研究するのであってよい。そのような第1の細胞タンパク質と第2の細胞タンパク質は、例えばオリゴマー化能力を調べる場合は、同一のものであってもよく、例えば細胞内経路に関わる特異的結合パートナーとして試験する場合は、それらのタンパク質は異なっていてもよい。第1の分子と第2の分子はまた、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドであってもよく、例えば転写調節エレメント活性が既知であるかまたはそれについて調べるべきポリヌクレオチドおよび転写因子活性が既知であるかまたはそれについて調べるポリペプチドでもよい。例えば、第1の分子がランダムであってもまたは既知配列の変異体であってもよい複数のヌクレオチドを含んで、配列転写調節エレメント活性を試験するためであってもよく、そして第2の分子が転写因子であって、そのような方法が所望の活性を有する新規転写調節エレメントを同定するために有用であってもよい。
本発明はまた、サンプルが酵素を含有するかどうかを判定する方法を提供する。そのような方法は、例えばサンプルに本発明のタンダム蛍光タンパク質変異体を接触させ;ドナーを励起し、そしてサンプル中の蛍光特性を測定することにより実施することができ、この場合、サンプル中の酵素の存在により蛍光共鳴エネルギー移動の程度が変化する。同様に本発明は、細胞中の酵素の活性を測定する方法に関する。そのような方法は、例えば、ドナーとアクセプターを結合するペプチドリンカー部分がその酵素に特異的な切断認識アミノ酸配列を含むタンダム蛍光タンパク質変異体構築物を発現する細胞を提供し;該ドナーを励起し、そして細胞中の蛍光共鳴エネルギー移動の程度を測定することにより実施することができ、この場合、細胞中の酵素活性の存在により、蛍光共鳴エネルギー移動の程度が変化する。
また、サンプルのpHを測定する方法が提供される。そのような方法は、例えば、サンプルに第1の蛍光タンパク質変異体(これは、非オリゴマー化タンデム蛍光タンパク質でもよい)を接触させ(ここで第1の非オリゴマー化蛍光タンパク質の発光強度は、pHがpH5〜pH10の間で変化するにつれて変化する);指示物質を励起し;そして第1の波長での第1の蛍光タンパク質変異体が発する光の強度を測定することにより行い、ここで、第1の蛍光タンパク質変異体の発光強度はサンプルのpHを示す。この方法または本発明の他のいずれかの方法で有用な第1の蛍光タンパク質変異体は、配列番号8に示した2つのDsRedモノマーを含みうる。そのような蛍光タンパク質変異体は同様に、本発明の様々に開示した方法にとって、単独または組合せで有用であることは認識されるであろう。
サンプルのpHを決定する方法で使用されるサンプルは、いずれのサンプルであってよく、例えば、生物組織サンプル、または細胞もしくはその画分が含まれる。さらに、この方法では、サンプルに、第2の蛍光タンパク質変異体を接触させ(ここで、pHが5から10に変化するにつれて第2の蛍光タンパク質変異体の発光強度が変化し、第2の蛍光タンパク質変異体は、第1の波長とは明らかに異なる第2の波長で発光する);第2の蛍光タンパク質変異体を励起し;第2の波長での第2の蛍光タンパク質変異体が発する光の強度を測定し;そして、第2の波長での蛍光を、第1の波長での蛍光と比較する。第1(または第2)の蛍光タンパク質変異体は、ターゲティング配列、例えば、細胞コンパートメント化ドメイン、例えば細胞中の蛍光タンパク質変異体を、サイトゾル、小胞体、ミトコンドリアマトリックス、葉緑体腔、内側トランスゴルジ嚢、リソソーム腔、またはエンドソーム腔にターゲティングするドメインを含んでもよい。例えば、細胞コンパートメント化ドメインは、ヒトII型膜固定タンパク質であるガラクトシルトランスフェラーゼのアミノ酸残基1〜81、またはチトクロームcオキシダーゼのサブユニットIVのプレ配列のアミノ酸残基1〜12を含むものでありうる。
本発明のある特定の実施形態および態様をさらに説明するために、以下の実施例を提供する。実施例は本発明のいずれの態様の範囲を限定するものでないと意図する。特定の反応条件および試薬を記載するが、当業者は本発明も利用する代替または同等の条件を理解しうるのであって、その場合、その代替または同等の条件は本発明の範囲から逸脱するものでないことは明白である。
実施例1
ダイマーおよびモノマー赤色蛍光タンパク質の構築
材料および方法
DsRed突然変異誘発およびスクリーニング
DsRed遺伝子を、ベクターpDsRed-N1(CLONTECH, Palo Alto, CA)またはT1変異体(B.S. Glick, University of Chicagoより提供された)から増幅し、pRSETB(InvitrogenTM; Bairdら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:11984-11989 [2000]を参照)(4)中にサブクローニングした。pRSETBベクターは6xHisタグ付き融合タンパク質を産生し、ここで次の配列:MRGSHHHHHHGMASMTGGQQMGRDLYDDDDKDP(配列番号22)を有するN末端ポリヒスチジンタグが適切にサブクローニングされた配列にカップリングされる。
こうして得られる構築物をI125R変異体を導入するためのテンプレートとして用い、QuikChangeTM部位指定突然変異誘発キット(Stratagene(登録商標))を、製造業者の指示書に従って使用した。完全なDsRed野生型cDNAおよびポリペプチド配列はGenBank受託番号AF168419に与えられている。このヌクレオチド配列を図16および配列番号2にも与える。このヌクレオチド配列の変種も公知であり(Clontech)、その場合、哺乳動物コドン利用優先性に適応するように様々なヌクレオチド位置が補正されている。このヌクレオチド配列を図25および配列番号23に与える。これらのヌクレオチド配列の両方によりコードされる対応するポリペプチドを図17および配列番号1に与える。
同様に、DsRed T1変異体cDNAヌクレオチド配列を図18および配列番号5に与える。対応するポリペプチドを図19および配列番号4に与える。
本明細書に使用されるDsRedアミノ酸の番号付けは、GFPの野生型配列と一致し、そこでは野生型DsRed(Gln-Tyr-Gly)の残基66-68はGFP(Ser-Tyr-Gly)の発色団形成残基65〜67と相同である。アミノ末端ポリヒスチジンタグは-33〜-1と番号付けした。
エラーを起こしやすいPCR(Error Prone PCR)突然変異誘発 エラーを起こしやすいPCRを本質的にGriesbeckら(J. Biol. Chem., 276:29188-29194 [2001])に記載の通り実施した。簡略に説明すると、ベクターpRSETB(InvitrogenTM)中のDsRedをコードするcDNAを、Taq DNAポリメラーゼを用いてエラーを起こしやすいPCRで処理した。5'プライマーはBamHI部位を含み、DsRedの出発Metで終わり、そして3'プライマーはEcoRI部位を含み、終止コドンで終わり、イニシエーターのメチオニンを除いて、DsRedオープンリーディングフレームの全塩基の突然変異誘発を理論的に可能にした。PCR反応(55℃におけるアニーリングで38サイクル)を、それぞれ10×Mg2+入りPCRバッファー10μL(Roche Molecular Biochemicals)、150μM Mn2+、3種のヌクレオチドの250μM、残留ヌクレオチドの50μM、およびテンプレートDNAの5ngを含有する4つの100μLバッチで実施した。
突然変異誘発したPCR産物を一緒にして、アガロースゲル電気泳動により精製し、BamHIおよびEcoRIを用いて消化し、そしてQIAGEN(登録商標) QIAquickTM DNA精製スピンカラムにより製造業者の指示に従って単離した。得られる断片をpRSETB中にライゲートし、そして粗ライゲーション混合物を大腸菌(E. coli)BL21(DE3) Gold(Stratagene(登録商標))中にエレクトロポレーションにより形質転換した。
オーバーラップ伸長PCR突然変異誘発 複数の遠隔位置における半ランダム突然変異をオーバーラップ伸長PCRにより、複数の断片を用いて本質的にHoら, Gene 77:51-59 (1989)に記載の通り導入した。簡略に説明すると、目的の位置に半縮重コドンをもつ2〜4対のセンスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドプライマー(InvitrogenTMまたはGenBase)を用いて、DsRedテンプレートのPCR増幅をPfu DNAポリメラーゼ(Stratagene(登録商標))により、個々の反応で実施した。得られるオーバーラップ断片をQIAGEN(登録商標)ゲル抽出キットを用いてゲル精製し、そしてPfuまたはTaq DNAポリメラーゼ(Roche)によるオーバーラップ伸長PCRにより再び組合せた。
全長遺伝子をBamHI/EcoRI(New England BioLabs(登録商標))を用いて消化し、pRSETB中にT4リガーゼ(New England BioLabs(登録商標))を用いてライゲートした。化学的にコンピテントな大腸菌(E. coli)JM109(DE3)を形質転換し、LB/寒天上で37℃にて増殖した。
細菌蛍光スクリーニング LB/寒天プレート上にまいた細菌を本質的にBairdら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:11241-11246 (1999)に記載の通りスクリーニングした。簡略に説明すると、細菌プレートを、150-W Xeランプにより、470nm(40nmバンド幅)、540nm(30nmバンド幅)、または560nm(40nmバンド幅)励起フィルターおよび530nm(40nmバンド幅)、575nm(ロングパス)、または610nm(ロングパス)発光フィルターを用いて照明した。蛍光を冷却電荷結合デバイスカメラ(Sensys Photometrics, Tucson, AZ)によりイメージングし、Metamorphソフトウエア(Universal Imaging、West Chester、PA)を用いて処理した。
目的の蛍光コロニーを一夜、アンピシリンを補充したLBの2ml中で培養した。細菌を遠心分離によりペレット化し、再び撮影してタンパク質が培養中で好く発現されたことを確証した。高速(fast)成熟タンパク質については、細胞ペレットのある画分をB-per II(Pierce)を用いて抽出して完全なスペクトルを得た。残りのペレットからQIAGEN(登録商標)QIAprep(登録商標)プラスミド単離スピンカラムにより製造業者の指示に従ってDNAを精製し、DNA配列決定を行った。DsRed突然変異体のオリゴマー状態を確認するために、大腸菌(E. coli)の単一コロニーをLB/寒天上に再ストリーキングし、室温で成熟させた。2日〜2週後に、細菌をプレートから掻き取り、B-per IIを用いて抽出し、SDS-PAGE(BioRad)により分析し(沸騰しなかった)、そしてゲルをデジタルカメラを用いてイメージングした。
細菌形質転換およびDsRedタンパク質精製
ライゲーション混合物を大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3) Gold(Stratagene)中に、ライゲーション混合物を含む10%グリセロール中のエレクトロポレーションにより形質転換した(0.1cmキュベット、12.5kV/cm、200Ω、25μF)。
タンパク質を発現させ、本質的にBairdら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:11241-11246 (1999)に記載の通り精製した。簡略に説明すると、タンパク質発現のために培養するとき、形質転換した細菌を100mg/lアンピシリンを含有するLB中で0.6のOD600まで増殖し、その時点で1mMイソプロピルβ-D-チオガラクトシドを用いて誘導した。細菌に組換えタンパク質を6時間室温で、次いで一夜4℃で発現させた。次いで細菌を遠心分離によりペレット化し、50mM トリス・HCl/300mM NaCl中に再懸濁し、そしてフレンチプレスにより溶解した。細菌ライセートを30,000 × gで30分間遠心分離し、そしてタンパク質を上清からNi-NTA樹脂(QIAGEN(登録商標))を用いて精製した。
精製タンパク質の分光分析を、典型的には100mM KCl、10mM MOPS、pH 7.25中で、蛍光分光計(Fluorolog-2、Spex Industries)にて実施した。全てのDNAの配列決定は、分子病理学共有資源(Molecular Pathology Shared Resource, University of California, San Diego, Cancer Center)により実施された。
DsRedタンデムダイマーおよびキメラ構築物を含む哺乳動物細胞発現用構築物の構築
DsRedタンパク質のタンデムダイマーを構築するために、pRSETB中のダイマー2を2つの別々のPCR反応で増幅した。最初の反応で5' BamHIおよび3' SphI部位を導入する一方、第2反応では5' SacIおよび3' EcoRI部位を導入した。構築物は、消化したダイマー2遺伝子、リン酸化して粘着性末端をもつ合成リンカー、および消化したpRSETBを含有する4部のライゲーションでアセンブルした。様々な長さのポリペプチドをコードした4つの異なるリンカーを用いた。
哺乳動物細胞で発現するために、DsRed変異体をpRSET
Bから、KpnI制限酵素切断部位およびKozak配列をコードする5'プライマーを用いて増幅した。PCR産物を消化し、pcDNA3中にライゲートし、これを用いて大腸菌(E. coli)DH5αを形質転換した。
DsRedとコネキシン43(Cx43)を含むキメラ融合ポリペプチドをコードする遺伝子を構築した。これらの融合体を産生するために、Cx43を最初、BamHI部位に終わる7残基リンカーをコードする3'プライマーを用いて増幅した。構築物は、KpnI/BamHI消化したCx43、BamHI/EcoRI消化した増強GFP、および消化したpcDNA3を含有する3部のライゲーションでアセンブルした。全ての他の融合タンパク質(Cx43-T1、-ダイマー2、-tダイマー2(12)および-mRFP1)については、蛍光タンパク質の遺伝子をBamHI/EcoRI消化したCx43-GFPベクター中にライゲートした。
DsRedタンパク質変異体産生および特性決定
DsRed変異体を、本質的にBairdら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:11241-11246 (1999)に記載の通り発現した。全てのタンパク質をNi-NTAクロマトグラフィ(QIAGEN(登録商標))により精製し、そして10mM トリス、pH 7.5または1mM EDTAを補充したリン酸緩衝化生理食塩水中に透析した。全ての生化学特性実験は、本質的にBairdら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:11984-11989 (2000)に記載の通り実施した。
成熟時間経過をSafire 96ウエルプレートリーダー上でモノクロメーター(TECAN、オーストリア)を用いて測定した。全てのフォトブリーチング(photobleaching)測定は、パラフィン油のもとで微小滴で、40×対象および4.5W/cm2の光を送達する540nm(25nmバンドパス)励起フィルターを備えたZeiss Axiovert 35蛍光顕微鏡を用いて実施した。
分析用超遠心分離 精製した組換え体DsRedをPBS、pH7.4または10mM トリス、1mM EDTA、pH 7.5に対して徹底的に透析した。沈降平衡実験をBeckman Optima XL-I 分析用超遠心分離機上で20℃にて実施し、558nmでの吸収を半径の関数として測定した。DsRedのサンプルを3.57μM(0.25吸収単位)に正規化し、これから、125μLアリコートを6チャネルセル中に供給した。データを全体的に10K、14K、および20K rpmにて、Beckmanより供給されたORIGINソフトウエアパッケージを用いて非線形最小二乗分析により分析した。フィットの良好度を、実験データと理論曲線の間の差として表現した残基の量およびランダム度を基準にし、かつまたそれぞれのフィットパラメーターを物理的合理性に対してチェックすることにより評価した。
吸収/蛍光スペクトルと吸光係数 蛍光スペクトルはFluorolog分光蛍光計(Spex Industries、Edison、NJ)を用いて測定した。タンパク質の吸収スペクトルはCary UV-Vis分光計を用いて測定した。量子収率測定については、PBS中のDsRedまたはDsRed変異体の溶液の蛍光を、ローダミンBとローダミン101のエタノール中の等しい吸収溶液と比較した。量子収率計算にはエタノールと水の間の屈折率差に対する補正を含めた。吸光係数測定については、未変性タンパク質吸収は分光計を用いて測定し、タンパク質濃度はBCA法(Pierce)により測定した。
哺乳動物細胞イメージングおよびマイクロインジェクション
HeLa細胞を、pcDNA3中のDsRed変異体またはCx43-DsRed融合体を用いてFugene 6トランスフェクション試薬(Roche)の使用を介してトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を12時間〜2日間、DMEM中で37℃にて増殖した後、Zeiss Axiovert 35 蛍光顕微鏡を用いてグルコース補充HBSS中の細胞を室温にてイメージングした。DsRed変異体と融合したCx43を発現する個々の細胞または対照実験用の接触するトランスフェクトしてない細胞に、ルシファーイェロー(Molecular Probes、Eugene、OR)の2.5%溶液をマイクロインジェクションした。イメージを取得して、Metafluorソフトウエアパッケージ(Universal Imaging、West Chester、PA)により処理した。
結果
DsRed分子の段階的進化
本発明は、テトラマーDsRedをダイマーへ、次いでタンパク質の2コピーの遺伝的融合体すなわちタンデムダイマーへまたはmRFP1と呼ばれる真のモノマーへのいずれかに段階的に進化させる方法を提供する。それぞれのサブユニットインターフェースをアルギニンの挿入により破壊すると、得られるタンパク質に最初は障害を与えるが、赤色蛍光は、全体でダイマーにおいて17置換およびmRFP1において33置換に達するランダムおよび指向的(directed)突然変異誘発により救出することができた。ギャップ結合タンパク質コネクシン43のmRFP1への融合体は、完全に機能性結合部を形成したが、テトラマーおよびダイマーへの類似の融合体は失敗した。mRFP1はDsRedより若干低い吸光係数、量子収率および光安定性を有するが、mRFP1は10倍超(>10 x)速く成熟するので、生細胞において類似の輝度を示す。さらに、mRFP1の励起および発光ピークである584および607nmは、DsRedからほぼ25nm赤色シフトし、これはより大きい組織浸透、ならびに自己蛍光および他の蛍光タンパク質からのスペクトル分離を与えるに違いない。
一致した見解として、もし遺伝的にコードされる赤色蛍光タグとしてのその全ポテンシャルに常に到達しようとすれば、DsRedのモノマー型が必須であろう(Remington, Nat. Biotechnol., 20:28-29 [2002])。本発明は、最初のモノマー赤色蛍光タンパク質の指向的進化および予備的特性決定を提供する。本発明は、蛍光でタグ付けした融合タンパク質の構築において、GFPの独立した代替物を提供する。
DsRedのダイマーの指向的およびランダム進化
DsRedのオリゴマー状態を減少するための基本的ストラテジーは、ダイマーインターフェースにおける重要な疎水性残基をアルギニンなどの荷電残基により置き換えることにあった。荷電残基を無極性疎水性インターフェース内に埋めることまたは2つの正電荷を密接した近位に配置することの高エネルギーの代償は相互作用を破壊するに違いない。単一突然変異T147R、H162R、およびF224RによりDsRed ACインターフェース(図2A参照)を壊して離す最初の試みは、一致して非蛍光タンパク質を与えた。しかしABインターフェースについては、若干回復力が低いことを示し、単一I125Rにより破壊して貧赤色蛍光ダイマーを与えることができたが、このダイマーは緑色成分の増加と完全成熟に10日間以上を要することに悩んだ。
DsRed-I125Rの赤色蛍光を再構築するために、タンパク質を進化の反復サイクルにかけた。この加速進化ストラテジーは、ランダム突然変異誘発または半指向的突然変異誘発のいずれかを利用して突然変異分子のライブラリーを作製し、所望の特性をスクリーニングすることができる。本発明の指向的進化ストラテジーを図7に示す。突然変異誘発のそれぞれのサイクルはランダム突然変異誘発で始まり、これらの赤色蛍光タンパク質の成熟または輝度のいずれかに影響を与える位置を同定する。いくつかの残基を同定すると拡張ライブラリーを構築して、そのライブラリーにおいてこれらのいくつかの重要な位置を同時に突然変異させて多数の置換を行った(図10〜12参照)。これらの指向的ライブラリーは、改善した突然変異遺伝子のシャッフリングの利点とランダム突然変異誘発中にアクセスしうる限定された置換数をエラーを起こしやすいPCRにより克服する効率的方法とを結合する。ほとんどのin vitro組換えの方法はランダム遺伝子断片化に依存する。対照的に本発明の方法はPCRを利用して設計した断片を作製し、これを再アセンブルして全長のシャッフルした遺伝子を与えることができる。
突然変異赤色蛍光タンパク質のライブラリーを大腸菌(E. coli)のコロニーにおいてスクリーニングし、それらの540nmでの直接励起下の赤色蛍光の量および540nmの発光強度/470nm励起の比の両方について評価した。前者の制約は非常に明るいかまたは速い成熟突然変異体を選択する一方、後者の制約は減少した470nm励起または赤色シフトした励起スペクトルを選択した。複数サイクルのランダム突然変異誘発を用いて、タンパク質の成熟および輝度に影響を与える配列位置を見出し、次いでこれらの位置で拡張した突然変異のライブラリーを作製して、組換えを行って最適順列を見出した。
DsRed-I125Rの最初のランダム突然変異誘発により、K163QもしくはM、S179TおよびT217Sを含む複数の有益な突然変異を同定した。これらの3位置は、7残基の全てを複数の合理的置換へ同時に突然変異させた本発明者らの最初の指向的ライブラリーに含まれていた。最初の指向的ライブラリーにおいて標的としたさらなる位置はT1の速い表現型にとって重要な残基であるN42およびV44を含んだ(BevisおよびGlick, Nat. Biotechnol., 20:83-87 [2002])。また、特定の突然変異がDsRed2(CLONTECH)および非常に類似した「E57」の軽度の改善に寄与した位置であるI161およびS197も含まれた(Terskikhら, J. Biol. Chem., 277:7633-7636 [2002])。このライブラリーから、DsRed-I125R、S179T、T217AおよびDsRed-I125R、K163Q、T217Aなどの複数クローンを同定したが、改善は著しくなかった。
代わりのストラテジーとして、DsRed変異体である高速テトラマーT1(BevisおよびGlick, Nat. Biotechnol., 20:83-87 [2002])も研究した。このタンパク質中へのI125R突然変異の導入(T1 DsRed-I125Rポリペプチド配列は配列番号24に記載)は、わずか数日で成熟するダイマーを生じ、これはその時点で産生した最高のDsRedダイマーと比較し得るものであった。さらに、DsRed-I125Rの救出を助けた位置をターゲティングすることにより、本発明者らの最初の作製ライブラリーに著しい改善が観察された。
T1-I125Rから出発する類似の指向的突然変異誘発ストラテジー(図10A、ライブラリーD1を参照)を実施し、最終的にダイマー1を同定した。ダイマー1は、wt DsRedより輝度の点および成熟速度の両方でいくらか優れたが、T1と同等の実質的な緑色ピークを有した。ダイマー1はまた、いくらか青色シフトであり、励起最大が551nmかつ発光最大が579nmであった。ダイマー1のエラーを起こしやすいPCR(図10A、ライブラリーD2)はダイマー1.02の発見をもたらし、このダイマーはタンパク質の疎水性コアに突然変異V71Aを含有して、効果的なのは励起スペクトル中に緑色成分を含有しない。第2ラウンドのランダム突然変異誘発(図10A、ライブラリーD3)は突然変異体、緑色励起がさらに減少したK70R、ダイマーを赤色シフトしてDsRed波長まで戻したS197A、および成熟速度を大きく改善するT217Sを同定した。残念ながら、K70RとS197Aは比較的成熟が遅く、T217SはDsRedと同等の緑色ピークを有した。ダイマー1.02をテンプレートとして用いて、2ラウンド以上の指向的突然変異誘発を実施した:第1に上に同定した3位置に(図11A、ライブラリーD3)、そして第2にC117、F118、F124、およびV127(図10A、ライブラリーD4)に焦点を合せた。
全4世代に対して指向的進化ストラテジーを続けて、最適なダイマー変異体を産生し、これをダイマー2と名付けた(図2Bに図解)。この変異体は17の突然変異を含有し、そのうちの8つ(N42Q、V44A、V71A、F118L、K163Q、S179T、S197TおよびT217S)はβバレルの内側にあり、3つ(R2A、K5EおよびN6D)はT1に見出された凝集を低下させる突然変異(BevisおよびGlick, Nat. Biotechnol., 20:83-87 [2002];ならびにYanushevichら, FEBS Lett., 511:11-14 [2002]を参照)であり、2つ(I125RおよびV127T)はABインターフェース突然変異であり、そして4つ(T21S、H41T、C117TおよびS131P)は雑多な表面突然変異である。ダイマー2ヌクレオチド配列を配列番号7および図21に記載する。ダイマー2ポリペプチドを配列番号6および図22に記載する。
DsRedのタンデムダイマーの構築
DsRedのなおさらに有利な型を産生する試みで、さらに安定なDsRedダイマーを合成するための代わりの新規ストラテジーを工夫した。この手法は、人工的に作製されたモノマーDsRedユニットの2つの共有結合による繋留を利用して有利な特性をもつDsRedのダイマー型を得た。基本ストラテジーは、ACダイマーの2コピーをポリペプチドリンカーを用いて融合して、重要なダイマー相互作用が同じポリペプチド内にコードされたタンデムパートナーとの分子間接触を介して満たされるようにした。
DsRedテトラマーの結晶構造(Yarbroughら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:462-467 [2001];およびWallら, Nature Struct. Biol., 7:1133-1138 [2000])に基づいて、10〜20残基リンカーがAサブユニットのC末端からCサブユニットのN末端まで(ほぼ30Å、図2Bを参照)広がり得て、しかしBサブユニットのN末端まで(>70Å)広がり得ないように意図した。最適化ダイマー2を利用し、様々な長さ(9、12、13、または22アミノ酸)のリンカーを使って、公知のプロテアーゼ耐性リンカー(Whitlowら, Protein Eng., 6:989-995 [1993])に類似した配列を含む一連の4つのタンデム構築物を産生した。
4つの構築物のうち、9残基リンカーをもつ1つのタンデム構築物だけが若干遅い成熟で注目された。その他の3つの構築物はこの点について実用上区別できなかったので、本発明に等しく利用しうる。12残基リンカーをもつタンデムダイマー構築物をtダイマー2(12)(tdimer2(12))と名付けて、以後の全ての実験に使用した。予想されるように、ダイマー2とtダイマー2(12)は同一の励起および発光最大値および量子収率を有する(図14を参照)。しかし、tダイマー2(12)の吸光係数はダイマー2の2倍であり、これは1ポリペプチド鎖当たり2つの等しい吸収発色団が存在することに因る。
モノマーDsRedの進化
残るインターフェースの破壊によく耐えうるDsRedの改良されたダイマーを作製する試みで、ACインターフェースを破壊する突然変異をtダイマー(12)中に組込んだライブラリーを構築した。最初のダイマーライブラリーを、突然変異H222GおよびF224Gをコードする3’プライマーを用いて再アセンブルした(図10A、ライブラリーD5)。これらの2つの残基はDsRedのC末端尾部にダイマー接触のバルクを形成し、これがダイマーパートナーのC末端尾部の周りに引っ掛かる。このライブラリーからの最良の2つのユニークなクローンであるHF2GaおよびHF2Gbは、配列がダイマー1と非常に類似し、主な差異は両方のクローンに存在する突然変異F124L、HF2Gbに存在するK163H、ならびにH222GおよびF224Gの置換えであった。沸騰せずに12%SDS-PAGEゲルに供給すると、HF2GaおよびHF2Gbの両方は蛍光ダイマーとして移動し、従ってこれらは安定なダイマーインターフェースを維持するに違いない。
同時に、ダイマーを破壊する突然変異の導入を介してACインターフェースを破壊するさらに直接的なアプローチを行った。ダイマー1を最初のかかるライブラリー(図10A、ライブラリーM1)用のテンプレートとし、ここで異なる9位置をターゲティングし、それらの位置は2つの重要なACインターフェース残基であるH162およびA164を含み、これらはそれぞれリシンまたはアルギニンに置換された。このライブラリーからの最高輝度のコロニーは、デジタルカメラによる延長したイメージングの後でも、大腸菌(E. coli)コロニーのバックグラウンド赤色蛍光から識別することが困難であった。疑わしいコロニーをLB/寒天上に再ストリーキングし、室温で2週間成熟させて粗タンパク質調製物をSDS-PAGEにより分析した。ゲルのイメージングは単一の淡いバンドを表し、モノマーの予想質量と一致した。そこで、この種をmRFP0.1(monomeric Red Fluorescent Protein(モノマー赤色蛍光タンパク質))と名付けた。このクローンの配列決定は、mRFP0.1が突然変異E144A、A145R、H162K、K163M、A164R、H222GおよびH224Gをもつダイマー1と同等であることを示した。
mRFP0.1(図10A、ライブラリーM2)上のランダム突然変異誘発によって遥かに明るいmRFP0.2を作製したが、これはSDS-PAGEにより明確な赤色蛍光およびモノマーバンドを与え、かつ単一のさらなる突然変異Y192Cを含有した。mRFP0.1およびmRFP0.2の両方は、赤色蛍光より少なくとも3倍明るい緑色蛍光を表示したが、モノマーに対して予想したとおり、緑色と赤色成分の間のFRETはなかった。
ダイマーにとって利益のある突然変異はまたモノマーにも利しうるかと考えて、mRFP0.2、ダイマー1.56、HF2GaおよびHG2Gbを含むテンプレート混合物を、PCRに基づくテンプレートシャッフリングおよび指向的突然変異誘発で処理した(図10A、ライブラリーM3)。このライブラリーで同定したトップクローン、mRFP0.3は比較的明るくかつ緑色蛍光成分が著しく減少した。さらにmRFP0.3は、DsRedからほぼ10nm赤色シフトが見られかつ主にダイマー1.56から誘導された。
次の指向的ライブラリー(図10B、ライブラリーM4)のゴールは、K83における突然変異の効果を研究することであり、これは従来、DsRedにおいて赤色シフトを生じることが示されていた(Wallら, Nature Struct. Biol., 7:1133-1138 [2000])。mRFP0.4aおよびmRFP0.4bと名付けたトップの2つのクローンは、それぞれK83IまたはL突然変異を含有し、DsRedと比較して25nm赤色シフトしかつ成熟速度および輝度の値が非常に類似した。従来の全ての世代のモノマーと異なり、mRFP0.4aを用いて形質転換した大腸菌(E. coli)のコロニーは、540nm光を用いて励起しかつ赤色フィルターを介して観察すると形質転換後12時間内に赤色蛍光を発した。
mRFP0.4aおよびmRFP0.4bのテンプレート混合物をランダム突然変異誘発(図10B、ライブラリーM5)で処理し、得られるライブラリーを徹底してスクリーニングした。このライブラリーからの5つの最高速成熟クローンはmRFP0.4aから誘導され、それらは個々の突然変異L174P、V175A(2クローン)、F177CおよびF177Sを含有した。F177SクローンまたはmRFP0.5aは、若干速やかに成熟するのが見られ、かつ吸収スペクトル中に最小の緑色ピークを有した。このライブラリーから単離した1つのコロニーは、LB/寒天上で増殖すると例外的に明るかったが、液培養中で増殖すると発現は非常に乏しかった。mRFP0.5bと名付けたこのクローンはmRFP0.4bから誘導され、2つの新しい突然変異;すなわちバレル内側にL150M、および外側にV156Aを含有した。
次のライブラリー(図10B、ライブラリーM6)は、mRFP0.5aおよび増加した多様性をもつmRFP0.5bの両方における残基V175およびF177周囲の領域を最適化することを意図した。mRFP0.6と名付けたこのライブラリー中のトップクローンは、mRFP0.5bから誘導されたが、3つの他のクローン、1つはmRFP0.5bから、1つはmRFP0.5aから誘導され、そして1つは2つのテンプレートの間の複数のクロスオーバーから生じたと思われる。最終ライブラリー(図10B、ライブラリーM7)はL150の近傍の残基を標的としたが、その理由は、これがランダム突然変異誘発から誘導されて再最適化されていなかった唯一の残る重要な突然変異であったからである。トップクローンは全ての標的位置における突然変異の組合わせを有したが、単一突然変異R153Eをもつクローンが培養において若干発現が優れているのを見出した。このクローンをさらに不必要なV1a挿入の欠失および位置222のシステインのセリンとの置き換えを介して改変した。
mRFP1と名付けたこの最終クローンは、野生型DsRedと比較して全33突然変異(図2Cを参照)を含有した。これらの突然変異のうち、13(N42Q、V44A、V71A、K83L、F124L、L150M、K163M、V175A、F177V、S179T、V195T、S197IおよびT217A)はβ-バレルの内側にある。20の残る外側の突然変異のうち、3つ(R2A、K5EおよびN6D)はT1からの凝集が低下した突然変異である。3つ(I125R、V127TおよびI180T)はABインターフェース突然変異であり、10(R153E、H162K、A164R、L174D、Y192A、Y194K、H222S、L223T、F224GおよびL225A)はACインターフェース突然変異であり、そして4つ(T21S、H41T、C117EおよびV156A)は追加の突然変異である。mRFP1のヌクレオチドおよびポリペプチド配列を配列番号9および8にそれぞれ記載する。
ダイマー2、tダイマー2(12)およびmRFP1の特性決定
mRFP1のモノマー構造およびその前駆体に対する最初の確証は、SDS-PAGE結果(図8を参照)および早期世代における緑色と赤色蛍光成分の間のFRETの欠落に基づく。そこで、DsRed、ダイマー2、およびmRFP0.5a(mRFP1の進化前駆体)について分析用平衡超遠心分離を実施した。mRFP0.5aポリペプチド配列を図20A-20Dに記載する。分析用平衡超遠心分離分析は、試験した種の予想されるテトラマー、ダイマー、およびモノマーコンフィギュレーションを立証した(図3A〜3Cを参照)。
蛍光および吸収スペクトル分析において、DsRed、T1およびダイマー2は全て、オリゴマーパートナー間のFRETにより475-486nmにて励起スペクトルに寄与する蛍光成分を有する(図4A〜4Cを参照)。本分析において、T1ピークははっきりと明瞭である(図4B)が、ダイマー2(図4C)では480nm近くの励起ショルダーは5nm青色-シフトした励起ピークによりほとんど覆い隠されている。25nm赤色シフトしたモノマーmRFP1(図4D)も吸収スペクトルにおいて503nmでピークを有するが、変異体とは対照的に、この種は非蛍光突然変異体であるので、発光波長で採集した励起スペクトルは何も示さない。503nm吸収種を直接励起すると、無視しうる蛍光発光がいずれかの波長で観察される。
図5に示すように、ダイマー2、tダイマー2(12)およびmRFP1の成熟速度はDsRedのそれよりは大きく加速されるが、mRFP1だけはT1と少なくとも同じ速さで成熟する。37℃で採集したデータに基づくと、mRFP1およびT1の成熟に対するt0.5は1時間未満である。ダイマー2またはmRFP1のいずれかを発現する大腸菌(E. coli)コロニーは、一夜、37℃でのインキュベーション後に、T1を発現する大腸菌コロニーと類似のまたはそれより明るいレベルの蛍光を表示する(図9を参照)。
哺乳動物細胞におけるダイマー2、tダイマー2(12)およびmRFP1の発現
哺乳動物細胞の環境におけるダイマー2、tダイマー2(12)およびmRFP1タンパク質の蛍光を試験した。ダイマー2、tダイマー2(12)およびmRFP1をコードする哺乳動物発現ベクターを一過性でトランスフェクトしたHela細胞中に発現させた。12時間以内に細胞は、核および細胞質全体に均しく分布した強い赤色蛍光を表示した(データは示してない)。
この結果を見て、RFP部分がその蛍光を保持しかつ融合ポリペプチドパートナーが未変性の生物学的活性を保持するRFP-融合ポリペプチドを作製できるかどうかを試験した。この実験はギャップ結合タンパク質コネクシン43(Cx43)を用いて実施したが、もし融合したCx43ポリペプチドがその生物学的活性を保持すればモノマー赤色蛍光タンパク質の利点を実証しうるであろう。GFP、T1、ダイマー2、tダイマー2(12)またはmRFP1のいずれかと融合したCx43からなる一連の構築物を、内因性コネクシンを発現しないHeLa細胞において発現させた。トランスフェクションの後、細胞の赤色蛍光を蛍光顕微鏡を用いて観察した。この実験結果を図6A、6Cおよび6Eに示す。先に報じられた通り(Laufら, FEBS Lett. 498:11-15 [2001])、Cx43-GFP融合タンパク質は適当に膜に輸送されて、機能性ギャップ結合にアセンブルされたが(データは示してない)、Cx43-DsRedテトラマー(すなわち、T1テトラマー)は一貫して核周囲に局在化する赤色蛍光の塊りを形成した(図6E)。Cx43-tダイマー2(12)(示してない)およびCx43-ダイマー2(図6C)の両方は、適当に膜に輸送されたが、いずれの構築物も可視性ギャップ結合を形成しなかった。対照的に、Cx43-mRFP1構築物はCx43-GFPと同等に挙動して、多数の赤色ギャップ結合が観察された(図6A)。
他の実験においては、トランスフェクトした細胞にルシファーイェローをマイクロインジェクションしてギャップ結合の機能性を評価した(図6B、6Dおよび6F;および図13を参照)。Cx43-mRFP1ギャップ結合は速やかにかつ間違いなく染料を通した(図6B)が、Cx43-T1形質転換細胞(図6E)も非形質転換細胞(示してない)も染料を通さなかった。Cx43-ダイマー2およびCx43-tダイマー2(12)構築物の両方は染料を、接触する形質転換隣接体へ接触時間の約3分の1、ゆっくりと通した(図6D)。
考察
モノマーmRFP1は、野生型テトラマー型に関連する3つの重要な問題を同時に克服する。具体的には、mRFP1はモノマーであり、急速に成熟し、かつGFPに好適な波長で励起されたときに最小限の発光しか有しない。これらの特性により、mRFP1は融合タンパク質の構築およびGFPと組合わせた多色標識用に好適な赤色蛍光タンパク質である。ギャップ結合形成タンパク質Cx43を用いて実証したとおり、mRFP1融合タンパク質は機能性があり、そのGFP類似体と同じ方法で輸送される。
吸光係数および蛍光量子収率は全成熟mRFP1のDsRedと比較した輝度の低下をもたらすが、これはmRFP1をイメージング実験に使用する上での障害とならない、何故ならmRFP1の成熟時間の10倍を超える短縮は、輝度の低下を補償するよりさらに上回る。本発明の変異体RFPポリペプチド、例えばtダイマー2(12)はまた、FRETに基づくセンサーとしての用途がある。この種は十分に明るくかつエクオレア(Aequorea)GFPの全ての変異体とともにFRETを表示する。
本発明は、なおさらに有利なRFP種を作製する方法を提供する。これらの方法は、1サイクル当たり少数の突然変異ステップを用いる単または複数ラウンドの進化に関わる多段進化ストラテジーを使用する。これらの方法はまた、他のオリゴマー蛍光タンパク質を有利なモノマーまたはダイマー型に変換するのに有用である。
実施例2
蛍光タンパク質変異体の調製と特性決定
本実施例は、突然変異をGFPスペクトル変異体中に導入して、タンパク質のオリゴマー化能力を低下させるかまたは排除することができるのを実証する。
ダイマーインターフェースのECFP(配列番号14)およびEYFP-V68L/Q69K(配列番号12)を細菌発現ベクターpRSETB(Invitrogen Corp.、La Jolla CA)中にサブクローンして、ECFP(配列番号14)およびEYFP-V68L/Q69K(配列番号12)上にN末端His6タグを作製し、これにより、細菌が発現するタンパク質のニッケル-アガロース(Qiagen)アフィニティカラム上での精製を可能にした。cDNA中の全てのダイマーに関連する突然変異体を、部位指定突然変異誘発により、QuickChange突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて作製し、次いで上記方法で発現しかつ精製した。全てのcDNAを配列決定して所望の突然変異だけが存在することを確認した。
EYFP-V68L/Q69K(配列番号12)をQuickChangeキット(Stratagene)を使用して突然変異を誘発した。オーバーラップする突然変異プライマーを、5'プライマーについては「上側(top)」と呼び、3'プライマーについては「下側(bottom)」と呼んで、導入された特定の突然変異に従って名付けた(表1を参照)。全てのプライマーは70℃を超える融点を有した。突然変異は、できるだけプライマーの中央近くに作製し、すべてのプライマーは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した。プライマーを、5'から3'の方向に、突然変異誘発したコドンに下線を引いて示す(表1)。
タンパク質発現のために、種々のEYFP-V68L/Q69K(配列番号12)突然変異体のcDNAを含有するプラスミドを、大腸菌(E. coli)JM109株中に形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB中でOD600が0.6になるまで増殖させ、この時点で、これらを1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトシドで誘導した。細菌によって、室温で6〜12時間、次に4℃で一晩、タンパク質を発現させ、次に細菌を遠心分離してペレットとし、それをリン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)に再懸濁し、フレンチプレスで溶菌させた。細菌溶解物を、30,000×gで30分遠心分離して清澄化した。清澄化した溶解物中のタンパク質を、Ni-NTA-アガロース(Qiagen)でアフィニティ精製した。
これらの実験で使用したすべてのGFPは、238アミノ酸の長さであった。GFPをコードするcDNAをpRSETB中にサブクローニングして、追加の33アミノ酸をGFPのN末端に融合させた。このタグの配列は、MRGSHHHHHHGMASMTGGQQMGRDLYDDDDKDP(配列番号22)である。すなわち、このcDNAから発現されたEYFP-V68L/Q69K(配列番号12)突然変異体の全長は、271アミノ酸であった。His6タグをEKMax(Invitrogen)を使用して除去して、GFPについて測定された会合特性が、N末端His6タグの存在により影響を受けるかどうかを調べた。酵素とHis6タグ付加GFPの希釈系列を作製して、His6タグの完全な除去に必要な条件を決定した。すべての発現され精製されたタンパク質の純度を、SDS-PAGEにより分析した。すべての場合に、発現されたタンパク質は純度が高く、有意に検出される混入タンパク質は無く、すべてが正しい分子量のものであった。さらに、His6タグの除去は非常に効率的であり、そのことはHis6-EYFP-V68L/Q69Kより小さい分子量にて移動する単一のバンドの存在により示された。
精製したタンパク質の分光学的解析により、EYFP-V68L/Q69K(配列番号12;「wtEYFP」;表2)について、これらのタンパク質の発色団変性(Wardら, In 「緑色蛍光タンパク質:特性、応用およびプロトコル(Green Fluorescent Protein: Properties, Applications and Protocols)」, 編 ChalfieおよびKain, Wiley-Liss [1998])により測定される吸光係数にも、または量子収率(EYFP-V68L/Q69Kとそれから誘導された変異体について使用した標準はフルオレセインである)にも、大きな変化は無いことが確認された。蛍光スペクトルはFluorolog分光蛍光光度計を使用して得た。タンパク質の吸収スペクトルは、Cary UV-Vis分光光度計を使用して得た。吸光係数は、変性発色団法(Wardら, In 「緑色蛍光タンパク質:特性、応用およびプロトコル(Green Fluorescent Protein: Properties, Applications and Protocols)」, 編 ChalfieおよびKain, Wiley-Liss [1998])により測定した。
ダイマーのホモ親和性の程度を測定するために、wtEYFPとそれから誘導されたダイマー突然変異体を、沈降平衡分析用超遠心分離に付した。精製した組換えタンパク質を、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)に対して充分透析し、50μM〜700μMの範囲の濃度の125μlのタンパク質サンプルを、EPONセンターピースを有する6チャネルの遠心分離セルに入れた。対応する透析バッファーをサンプルのブランクとした。Beckman Optima XL-1分析用超遠心分離機で20℃で、514nmでの放射吸収度を測定しながら、沈降平衡実験を行った。各サンプルを、以下の速度のうちの3つ以上で調べた:8,000rpm、10,000rpm、14,000rpm、および20,000rpm。各速度での定期的吸収測定により、サンプルは各速度で平衡に達したことを確認した。
データを、ベックマン(Beckman)によって供給されたソフトウェアパッケージ(Origin)を使用して、非線形最小自乗解析により、すべてのローター速度で包括的に解析した。適合の良好性を、実験データと理論曲線の差として表した誤差の大きさとランダム性に基づいて、また物理学的妥当性について各適合パラメータをチェックして、評価した。Sedenterp v1.01を使用して、各タンパク質の分子量と部分比体積を測定し、そのデータをホモ親和性の測定式に導入した(表3)。さらに、分析用超遠心分離により得られたデータから誘導された解離定数(Kd)を、いくつかのタンパク質について示す(表4)。
生細胞での実験のために、原形質膜(PM)をターゲティングするECFP(配列番号14;「wtECFP」)とEYFP-V68L/Q69K(配列番号12;「wtEYFP」)を、哺乳動物発現ベクターであるpcDNA3(Invitrogen Corp.)中にサブクローニングし、上記したように突然変異誘発して配列決定した。GFP変異体のPMへのターゲティングは、アシル化および/またはプレニル化(翻訳後脂質修飾)のためのコンセンサス配列を含有する短いペプチドへの、GFP変異体のN末端またはC末端融合体を作製することにより行った。PMを標的とするGFP変異体のcDNAをHeLa細胞またはMDCK細胞にトランスフェクトして発現させ、その発現パターンと会合の程度を、蛍光顕微鏡を使用して測定した。FRET効率を測定して、PM-ECFPとPM-EYFP-V68L/Q69Kの相互作用の程度を測定した。FRETドナー−脱クエンチ法(MiyawakiとTsien、前述、2000)による相互作用の解析は、wtECFPとwtEYFPが、wtECFPとwtEYFPの会合に依存する様式で相互作用すること、さらにこの相互作用が、疎水性接触部分のアミノ酸を、突然変異A206K、L221K、およびF223Rの任意の1つまたは組合せに変化させることにより、有効に排除されることを証明した。
これらの結果は、エクオレア(Aequorea)GFPとそのスペクトル変異体およびこれらから誘導されるダイマー突然変異体の溶液オリゴマー状態が、分析用超遠心分離により正確に測定されたことを証明する。ECFP(配列番号14)とEYFP-V68L/Q69K(配列番号12)GFPスペクトル変異体は、約113μMのかなり高い親和性を有するホモダイマーを形成した。部位特異的突然変異誘発を使用して、ダイマー化とこれに関連する細胞生物学的問題を有効に排除するように、アミノ酸組成を改変した。すなわち、改変した蛍光タンパク質は、改変CFPまたはYFPに融合させた宿主タンパク質の会合特性を測定するようにFRETを使用する手段を提供する。GFPのダイマー化による宿主タンパク質の細胞小器官での分布または局在の間違った同定の可能性とともに、ECFP(配列番号14)とEYFP-V68L/Q69K(配列番号12)のダイマー化に関連する擬陽性のFRET結果のあいまいさと可能性が、有効に排除されている。
レニラ(Renilla)GFPとディスコソマ(Discosoma)赤色蛍光タンパク質は、溶液中では偏性オリゴマーである。エクオレア(Aequorea)GFPはまた、溶液中でダイマー化すると一般的に考えられており、かつ、GFPはダイマーとして結晶化するため、本研究は、GFPのオリゴマー状態の特性を決定するように設計した。2つのモノマー間の結晶接触面は、多くの親水性接触部分ならびにいくつかの疎水性接触部分を含有した(Yangら、前述、1996)。しかし、各タイプの相互作用が溶液中のダイマーの形成にどの程度寄与しているかは、直接明らかではなかった。
本明細書に開示されるように、GFP自己会合の程度は、沈降平衡、分析用超遠心分離(これは、同様の分子(自己会合性ホモマー複合体)および異種分子(ヘテロマー複合体;LaueとStafford, Ann. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 28:75-100, 1999を参照)の両方のオリゴマー挙動を測定するのに非常に有用である)を使用して調べた。X線結晶解析法に比較して、分析用超遠心分離実験で使用した実験条件は、細胞の生理学的条件とよく似ていた。マルチマー複合体内のX線結晶解析法により同定されるモノマー接触部位は、溶液中のものと必ずしも同じではない。また、分析用超遠心分離と比較して、X線結晶解析法のみでは、複合体の親和性について決定的な情報が得られない。この研究の結果は、in vitroの分析用超遠心分離と無傷の細胞中のFRETの濃度依存性の分析により測定されるとおり、疎水性残基A206、L221、F223を、陽性荷電側鎖を含有する残基で置換することにより(A206K、L221K、およびF223R)、ダイマー化が排除されることを証明した。
実施例3
サンゴ赤色蛍光タンパク質、DsRedとそれらの突然変異体の特性決定
本実験はDsRedおよびDsRed突然変異体の最初の生化学および生物学的特性決定を記載するものである。
DsRedのコード配列を、pDsRed-N1(Clontech Laboratories)から、PCRプライマー(これは、開始Metコドンの上流にN末端BamHI認識部位を加え、終止コドンの下流にC末端EcoRI部位を加える)を用いて増幅した。制限消化後、PCR産物を、pRSETB(Invitrogen)のBamHIとEcoRI部位の間にクローニングし、得られたベクターを、DH5α細菌中で増幅させた。得られたプラスミドを、エラーを起こしやすい(error-prone)PCR(HeimとTsien, Curr. Biol. 6:178-182, 1996、これは参照することにより本明細書に組み込まれる)のテンプレートとして使用して、DsRedコード配列のすぐ上流および下流に位置するプライマーを使用することにより、理論的にはすべてのコード塩基(開始Metを含む)の突然変異を可能にした。突然変異誘発したPCR断片を、EcoRIとBamHIで消化し、pRSETB中に再クローニングした。あるいは、クイックチェンジ(Quick-Change)突然変異誘発キット(Stratagene)を使用して、pRSETB-DsRedプラスミド上に指向的突然変異を作製した。
ランダムおよび指向的突然変異誘発実験の両方で、突然変異誘発プラスミドライブラリーをJM109細菌中へとエレクトロポレーションし、アンピシリン含有LBプレート上にまき、デジタルイメージング装置でスクリーニングした(Bairdら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:11242-11246, 1999、これは参照することにより本明細書に組み込まれる)。この装置は、150ワットのキセノンアークランプからの光を、帯域通過励起フィルターでフィルターをかけ、2つの光ファイバー束でプレートに指向させて、そのプレートを照射した。プレートからの蛍光発光は、冷却CCDカメラを備えた干渉フィルターを通してイメージングした。異なる波長で採取した画像は、MetaMorphソフトウェア(Universal Imaging)を使用してデジタル拡大して、スペクトルシフト突然変異体が同定できるようにした。選択した後、その突然変異体コロニーを手動で採取してLB/Amp培地中に入れ、次にその培養物を使用して、タンパク質調製またはプラスミド調製を行った。DsRed突然変異体配列を、色素−ターミネータージデオキシシークエンシングを用いて分析した。
pRSETB発現ベクター(Bairdら、前述、1999参照)により提供されたN末端ポリヒスチジンタグ(配列番号22;実施例1を参照)を使用して、DsRedとその突然変異体を精製した。分光学的性状解析のために、Microcon-30(Amicon)を使用して、このタンパク質を微量濃縮し、バッファーを10mMトリス(pH8.5)に交換した。あるいは、微量濃縮により大きなタンパク質凝集物が生成するので、オリゴマー化研究のためにそのタンパク質を10mMトリス(pH7.5)に対して透析した。タンパク質成熟の光感受性について試験するため、培養フラスコをホイルで包んで合成全体を暗所で繰り返し、さらにすべての精製は、赤色光の灯った薄暗い部屋で行った。タンパク質を明所または暗所で調製した場合に、タンパク質収量または色に差はなかった。
アミノ酸の番号付けは、残基66-68、Gln-Tyr-GlyがGFPの発色団形成残基(65-67、Ser-Tyr-Gly)と相同的であるdrFP583の野生型配列(DsRed;Matzら, Nature Biotechnology 17:969-973 [1999])に従う。Clontechが導入したイニシエーターMet後の余分なアミノ酸は「1a」の番号を付け、そしてN末端ポリヒスチジンタグの残基は-33〜-1の番号を付けた。
蛍光スペクトルは、Fluorolog分光蛍光光度計を使用して得た。タンパク質の吸収スペクトルは、Cary UV-Vis分光光度計を使用して得た。量子収率測定については、リン酸緩衝化生理食塩水中のDsRedまたはDsRed K83Mの溶液の蛍光を、同等な吸収を示すローダミンBとローダミン101のエタノール中溶液と比較した。量子収率算出においては、エタノールと水の間の屈折率の差異について補正を行った。吸光係数測定のために、未変性のタンパク質の吸光度を分光光度計で測定し、タンパク質濃度は、BCA法(Pierce)により測定した。
DsRedのpH感受性は、96ウェルフォーマットで、弱緩衝化溶液中に希釈したDsRed 100μlを強緩衝化pH溶液100μlに添加する(全部で200μl/ウェル)ことを、pH3〜pH12について3回行うことにより測定した。各ウェルの蛍光は、525〜555nm帯域通過励起フィルターと575nmロングパス発光フィルターを使用して測定した。96ウェルの蛍光計測定値を得た後に、100μlの各pH緩衝化DsRed溶液を分光蛍光光度計で分析して、pH依存的なスペクトル形の変化を観察した。DsRed成熟のタイムトライアルについて、新たに合成し精製したDsRedの希釈溶液を10mMトリス(pH8.5)中に作製し、この溶液を、栓をしたキュベット(気密ではない)で室温にて保存し、定期的にスペクトルを測定した。突然変異体成熟データについて、合成および精製の直後に、そして4℃または室温で2ヶ月以上保存した後に、蛍光発光スペクトル(475nmまたは558nmで励起)を得た。
光破壊に関する量子収率は、顕微鏡ステージまたは分光蛍光光度計で別々に測定した。顕微鏡スライド上で油の下にDsRed水溶液の微小液滴を作製し、525〜555nmの帯域通過フィルターを通した1.2 W/cm2の光でブリーチ(bleach)した。蛍光を、同じフィルターと563〜617nm発光フィルターを使用して経時的にモニターした。比較のために、EGFP(突然変異F64L、S65Tを含有する;配列番号13)とEYFP-V68L/Q69K(これも、突然変異S65G、S72A、T203Yを含有する;配列番号12)微小液滴に、同様に、460〜490nmで1.9 W/cm2によってブリーチし、それぞれ515〜555nmと523〜548nmでモニターした。
分光蛍光光度計ブリーチング(photobleaching)実験のために、DsRedの溶液を、長方形のマイクロキュベット中に調製し、油を重層し、全50μlのタンパク質溶液が0.25cm×0.2cm×1cmの照射体積として存在するようにした。このタンパク質溶液に、558nmを中心とする(帯域幅5nm)モノクロメータからの0.02 W/cm2の光を照射した。蛍光を、558nmの励起(帯域幅1.25nm)と583nmの発光で経時的に測定した。フォトブリーチングに関する量子収率(Φ)は、式Φ=(ε・I・t90%)-1(ここで、εは吸光係数(cm2mol-1)、Iは入射光の強度(アインシュタイン・cm-2s-1)であり、t90%は、蛍光団が90%ブリーチされるのにかかる時間(秒)である)(Adamsら、J. Am. Chem. Soc. 110:3312-3320, 1988、これは参照より本明細書に組み込まれる)から導かれる。
ポリヒスチジンタグ付加DsRed、DsRed K83Mおよび野生型のエクオレア(Aequorea) GFP(配列番号10)を、非変性の15%ポリアクリルアミドゲル上で泳動した。変性を防ぐために、タンパク質溶液(10mMトリス塩酸、pH7.5中)を2×SDS-PAGEサンプルバッファー(200mMのジチオスレイトールを含有)と1:1で混合し、沸騰させずに直接ゲルにロードした。あらかじめ染色してある広範囲分子量マーカーセット(バイオラッド(BioRad))を、サイズ標準物質として使用した。次に、Epson1200 Perfectionフラットベッドスキャナーで、ゲルをイメージングした。
精製した組換えDsRedを、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)または10mMトリス、1mM EDTA(pH7.5)に対して充分透析した。Beckman Optima XL-1分析用超遠心分離機で、558nmの吸光度を半径の関数として測定しながら、20℃で沈降平衡実験を行った。3.57μM DsRedの125μlのサンプル(0.25吸光度単位)を、6チャネルのセルにロードした。Originソフトウェアパッケージ(ベックマン(Beckman))を使用して、非線形最小自乗解析により、10,000rpm、14,000rpm、および20,000rpmでのデータを包括的に解析した。適合の良好性を、実験データと理論曲線の間の差として表した誤差の大きさとランダム性に基づいて、また物理学的妥当性について各適合パラメータをチェックすることにより、評価した。
未成熟型緑色DsRedと成熟型赤色DsRedとの間のFRETを、哺乳動物細胞で調べた。ベクターpcDNA3中のDsRedを、リポフェクチンを使用してHeLa細胞中にトランスフェクトし、24時間後、細胞を蛍光顕微鏡でイメージングした。未成熟型緑色種(励起465〜495nm、505nm二色性、発光523〜548nm)および成熟型赤色タンパク質(励起529〜552nm、570nm二色性、発光563〜618nm)の蛍光を、冷却CCDカメラで測定した。累積継続時間3、6、12、24、および49分間にわたり、570nm二色性のみでフィルターをかけたキセノンランプからの光を照射して、赤色成分の選択的フォトブリーチングを行った後に、これらの測定を繰り返した。最終時間までに、約95%の初期赤色発光が消失し、一方緑色発光は大幅に増強された。
酵母2ハイブリッドアッセイも行った。pGAD GHとpGBT9ベクター(クロンテク(Clontech))中の、それぞれGal4活性化ドメイン(「餌」;アミノ酸残基768〜881)とDNA結合ドメイン(「獲物」;アミノ酸残基1〜147)の下流に、DsRedコード領域をイン・フレームでクローニングした。これらのDsRed 2ハイブリッドプラスミドを、S.セレビシエ(S. cerevisiae)のHF7C株(これは、Gal4断片に融合させた上記タンパク質の間の相互作用が無い場合、ヒスチジンを合成できない)中に形質転換した。DsRed−餌プラスミドとDsRed−獲物プラスミドの両方を含有する酵母を、ヒスチジン欠如培地上にストリークし、プレートを視覚的に検査して増殖を測定した。あるいは酵母を、トリプトファンとロイシンが欠如したプレート上に置いたフィルター上で増殖させて、餌プラスミドと獲物プラスミドについて選択した。一晩増殖後、プレートからフィルターを取り出し、液体窒素中で凍結し、融解し、X-gal中で30℃で一晩と4℃で2日間インキュベートして、β−ガラクトシダーゼ活性(青色の発色により測定)について試験した。β−ガラクトシダーゼとヒスチジン増殖アッセイの両方で、陰性対照は、餌と獲物プラスミドを含有するが、その餌または獲物のいずれかだけがDsRedに融合されている酵母からなっていた。
驚くべきことに、DsRedは完全な赤色蛍光に達するのに室温で数日を要した。室温では、精製タンパク質のサンプルは、初め、主要成分として緑色蛍光(励起極大と発光極大はそれぞれ475nmと499nm)のを示し、これは約7時間で強度がピークに達し、2日間でほとんどゼロになった。一方、赤色蛍光は、約27時間後にその最大蛍光の半分に達し、最大蛍光の90%を超えるまでに達するのに48時間以上を要した(Bairdら、前述、2000参照)。
完全に成熟したDsRedは、その558nmの吸収極大で75,000M-1cm-1の吸光係数と、蛍光量子収率0.7を有し、これは、従来報告されている(Matzら, Nature Biotechnology 17:969-973 [1999])22,500M-1cm-1および0.23という値よりはるかに大きい。これらの性質は、波長と光度の点で成熟型DsRedを、ローダミン色素と極めて似たものにしている。多くのGFP変異体と異なりDsRedは、pH5〜12での吸光度または蛍光のpH依存性は無視できる程度(<10%)であった(Bairdら、前述、2000)。しかし、pH4〜4.5への酸性化は、526nmでのより短い波長ショルダーと比較して、558nmでの吸光度と励起の両方を抑制したが、一方発光スペクトルの形は変化させなかった。DsRedはまた、フォトブリーチング(photobleaching)に対して比較的抵抗性であった。顕微鏡ステージ中で1.2 W/cm2の約540nmの光線に暴露すると、油の下のDsRedの微小液滴は90%を退色(bleach)させるのに1時間を要し、一方分光蛍光光度計のマイクロキュベット中で20 mW/cm2の558nmの光では、90%を退色させるのに83時間を要した。顕微鏡測定と蛍光計測定は、それぞれ1.06×10-6と4.8×10-7(平均7.7×10-7)の光ブリーチ量子効率をもたらした。EGFP(S65T;配列番号13)とEYFP-V68L/Q69K(配列番号12;Q69Kを含む)の同様の顕微鏡測定は、それぞれ3×10-6と5×10-5をもたらした。
赤色発色団の性質を調べて生物学的指示物質として有用なDsRed変異体を同定するために、DsRedをランダムに、そしてGFPによる配列アラインメントにより発色団の近傍と予測される特定の部位について、突然変異誘発を行った。よりゆっくり成熟するかまたは全く成熟しない多くの変異体が同定されたが、DsRedより速く成熟するものは同定されなかった。ランダム突然変異体のスクリーニングにより、緑色または黄色を示す突然変異体が同定され、これは、置換K83E、K83R、S197T、およびY120Hによるものであることが判明した。緑色蛍光は、励起極大と発光極大がそれぞれ475nmと500nmを有する突然変異種によるものであり、一方黄色は、中間の波長での単一の分子種によるものではなく、この緑色種とDsRed様物質の混合物によるものであった。
DsRed K83R突然変異体は、赤色への変換パーセントが最も低く、DsRedの未成熟な発緑色蛍光形態の安定な種類として非常に有用であることがわかった(Bairdら、前述、2000)。K83のさらなる指向的突然変異誘発は、より多くの緑色突然変異体および黄色突然変異体を生成したが、これらは発色団成熟が害われていた。成熟が遅く不完全なK83突然変異体の多くは、赤色のピークは、DsRedより長い波長であった。K83Mの最終型赤色発蛍光種は、602nmの発光極大を示し、残存緑色蛍光が比較的少なく量子収率が0.44とかなりあるため特に興味深い。しかしその成熟は、野生型DsRedより遅かった。Y120Hは、K83Mに似た赤色シフトを有し、より明るい色の細菌コロニーを産生するようであったが、はるかに多くの残存緑色蛍光を維持していた。
DsRed突然変異体の分光学的データを、図15に示す。タンパク質の「成熟」とは、タンパク質合成後の2日間にわたる赤色蛍光が現れる速度を意味する。一部の成熟は合成と精製(これは1〜2日要する)の際に起きるため、数字による定量は正確ではない。単純な+/−評価法を使用し、ここで(−−)は、ほとんど変化無し、(−)は、赤色蛍光における2〜5倍の増強、(+)は、5〜20倍の増強、および(++)は、野生型の増強(約40倍)を示す。タンパク質合成の2ヶ月後に、同じサンプルからの558nm励起で得られたピーク発光蛍光を、475nm励起で得られた499nm蛍光で除算し、赤色/緑色比率を決定した。2つの分子種の間の吸光係数または量子収率における差について、またはその2つの分子種が巨大分子複合体中にある場合にはそれらの間のFRETの可能性について2つの分子種のモル比の補正は行わないので、前記値はその2つの分子種のモル比を表すものではない。
Lys70またはArg95がGFP様発色団(Tsien, Nature Biotechnol. 17:956-957, 1999参照)のカルボニル末端とイミンを形成することができるかどうかを調べるために、DsRed突然変異体K70M、K70R、およびR95Kを作製した。K70Mは、赤色成分を有さず完全に緑色のままであり、一方、K70Rはゆっくり成熟してわずかに赤色にシフトした赤色種になった。K70Rと野生型DsRedとのスペクトルの類似性は、いずれかのアミノ酸が発色団中に共有結合的に取り込まれるものではないことを示す。R95Kからは可視波長での蛍光は検出されなかったが、これは、Arg95はGFPのArg96(これは、今日までに特性決定されているすべての蛍光タンパク質中で保存されている(Matzら, Nature Biotechnology 17:969-973 [1999])と相同的であるため、予測されたことであろう。R95Kが緑色発色団を形成しなかったために、Arg95が赤色化にも必要かどうかの試験はしなかった。
エクオレア(Aequorea)GFPが溶液中に高濃度でかつ何らかの結晶形でダイマーを形成している傾向があること、およびレニラ(Renilla)GFPが偏性ダイマー(Wardら, In 「緑色蛍光タンパク質:特性、応用およびプロトコル(Green Fluorescent Protein: Properties, Applications and Protocols)」, 編 ChalfieおよびKain, Wiley-Liss [1998])を形成している可能性があることを考慮して、DsRedがオリゴマー化する能力を調べた。発現されたタンパク質のSDS-PAGEによる最初の試験では、ポリヒスチジンタグ付加タンパク質DsRedとDsRed K83Rが、200mMのDTTと混合し、ゲルにのせる前に加熱しなかった場合に、110kDaより大きい見かけの分子量で、それぞれ赤色バンドと黄色−緑色バンドとして移動したことから、凝集物が形成されたことが示唆された(Bairdら、前述、2000)。これと比較して、エクオレア(Aequorea)GFPは、同様に処理すると、その予測されるモノマー分子量である30kDaに近い蛍光緑色バンドとして移動した。サンプルを、電気泳動前に短時間加熱すると、この高分子量のDsRedバンドは観察されなかった(Grossら、前述、2000)。これらの条件下では、予測されたモノマー分子量である30kDaに近いバンドが優勢であり、これはクーマシー染色を行わなければ無色であった。
オリゴマー化状態をより厳密に測定するために、DsRedタンパク質を分析用平衡遠心分離(LaueおよびStafford、前述、1999)に付した。平衡化したDsRedの放射状スキャンから測定された吸光度データの全体的曲線あてはめにより、低塩濃度および生理学的塩濃度の両方で、DsRedは溶液中で偏性テトラマー(Bairdら、前述、2000)として存在することが示された。単一分子種のテトラマーでデータをモデル化する場合、適合させた分子量は119,083Daであったが、これは、ポリヒスチジンタグ付加DsRedのテトラマーについての理論分子量の119,068Daによく一致している。モノマーからペンタマーへの別の化学量論に曲線をあてはめる試みは、収束しないかまたは浮動変数と大きな非ランダム誤差について不適切な値を与えた。テトラマー適合についての誤差ははるかに小さく、よりランダムに分布していたが、偏性テトラマーがダイマー化して8量体になりうるようにモデルを拡大適用することによりさらにいくぶん改善されて、適合させた解離定数が39μMとなった。すなわち、558nmで吸収する分子種は、in vitroで14nM〜11μMのモノマー濃度範囲にわたってテトラマーであるようである。超遠心分離セル中で達成されたテトラマーの最高濃度でも、適合させた解離定数より1桁以上小さかったため、最も高濃度での8量体形成の徴候は示唆されているにすぎない。
DsRedが生細胞中でもオリゴマー化するかどうかを確認するために、哺乳動物細胞におけるFRET分析および酵母細胞における2ハイブリッドアッセイを実施した。HeLa細胞を野生型DsRedを用いてトランスフェクトして24時間後にイメージングしたが、それらは未成熟緑色中間物と最終赤色型の混合物を含有した。49分間にわたって強いオレンジ光を照射して赤色種を選択的にフォトブリーチングする前および中に、緑色蛍光を断続的にモニターした。2つのタンパク質が会合していない場合、赤色種のブリーチングは、緑色蛍光に何の影響も与えないだろうと予測された。しかし実際は、異なる細胞中で、緑色蛍光が2.7〜5.8倍に増加し、これはFRET効率の63%〜83%に対応していた。これらの値は、亜鉛イオン飽和亜鉛フィンガードメイン(MiyawakiおよびTsien、前述、2000)により結合したシアン蛍光タンパク質と黄色蛍光タンパク質についての、GFP突然変異体の間でこれまで観察された最も高いFRET効率である68%と等しいかまたはそれを超えるものである。
in vivoオリゴマー化の追加の証拠は、指向的酵母2ハイブリッドスクリーニングにより提供される。Gal4 DNA結合ドメインと活性化ドメインへのDsRed融合体をHF7C酵母中で発現させると、その酵母は、his+表現型を示し、ヒスチジンの補充無しで増殖することができたが、このことは2ハイブリッド相互作用が起きていたことを示す。いずれの融合構築体も(DsRed-DNA結合ドメイン、またはDsRed-活性化ドメイン)単独では、his+表現型を産生せず、これはすなわち、非特異的DsRed-Gal4相互作用ではなく、DsRed-DsRed相互作用が陽性の結果を引き起こすことを示している。さらに、his+酵母は、溶解してX-galとともにインキュベートすると青くなり、これはすなわち、DsRed-DsRed相互作用がまた、β−ガラクトシダーゼ遺伝子の転写も指令していることを示唆している。すなわち、酵母2ハイブリッドアッセイの2つの別個の転写測定により、DsRedがin vivoで会合することが確認された。
DsRedのこの研究は、DsRedが、GFPを相補する上でまたはそのDNA代替物として有用である点で、好ましい性質ならびにいくつかの最適ではない性質を有することを明らかにした。同定された最も好ましい性質は、DsRedが、従来報告されているよりはるかに高い吸光係数と蛍光量子収率(0.7)を有することであり、それにより、成熟した充分折り畳まれたタンパク質の蛍光の明るさは、ローダミン色素および最適なGFPに匹敵する。
DsRedはまた、分光蛍光光度計(mW/cm2)またはアークランプ照射と干渉フィルターを有する顕微鏡(W/cm2)に典型的な強度によるフォトブリーチング(photobleaching)に対して非常に抵抗性であり、フォトブリーチング量子収率が両方の形態で7×10-7のオーダーである。この値は、2つの最も一般的な緑色と黄色のGFP特異的変異体であるEGFP(3×10-6)とEYFP-V68L/Q69K(5×10-5)のものより著しく良好である。フォトブリーチング前に単一の分子が発する光子の平均数は、蛍光とフォトブリーチング量子収率の比率であり、すなわちDsRed、EGFP、およびEYFP-V68L/Q69Kについて、それぞれ1×106、2×105、および1.5×104である。ただし、分子を、例えばそこから蛍光を回収できるようなトリプレットや互変異性体のような暗状態にすることができるなら、見かけのフォトブリーチング量子収率は、強い光強度と短時間では大きく上昇するであろう。GFPは通常、ある範囲のそのような暗状態を示すので(Dicksonら、Nature 388:355-358, 1997;Schwilleら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:151-156, 2000)、DsRedがそう単純であると予想できない。本明細書に記載のフォトブリーチング測定は、数分〜数時間にわたって行われ、そのような回収のために充分な時間を含む。これに対して、蛍光相関分光測定とフローサイトメトリーは、マイクロ秒からミリ秒内に、集束レーザービームによって分子の単一の通過をモニターするので、通過時間より長く継続する一時的な暗状態は、フォトブリーチングとして計測され、ブリーチングの見かけの量子収率が上昇する。同定される分子が繰り返しスキャンされるレーザー走査共焦点顕微鏡のような技術は、照射と回収の時間スケールに依存して中間程度のフォトブリーチングを示しうる。
DsRedの他の所望される特性は、広範囲(pH 4.5〜12)にわたるpH変化に対する無視しうる感受性である。現在利用しうる明るいGFP突然変異体はDsRedより酸性pHにより容易にクエンチされる。かかるpH感受性は制御条件のもとでpH変化、特に小器官または他の特定のコンパートメント内のそれを感知するために利用することができる(Llopisら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 95:6803-6808, 1998を参照)が、この特性はいくつかの応用においてアーチファクトを生じうる。
K83MのようなDsRed突然変異体は、DsRedを、充分な量子効率(0.44)を保持しながら、より長波長(564nmと602nmの励起極大および発光極大)に近づけることができることを証明する。6nmと19nmの深色へのシフトは、191cm-1と541cm-1のエネルギーに対応し、これは、発色団を修飾しない単一のアミノ酸変化にとって、かなり大きい。最近イソギンチャクからクローニングされたDsRedの相同体は、572nmに吸収極大、595nmに量子収率<0.001の極めて弱い発光を有し、1つの突然変異体は610nmに発光ピークを有するが、非常に暗く成熟が遅かった(Lukyanovら、J. Biol. Chem. 275:25879-25882, 2000、これは参照により本明細書に組み込まれる)。
DsRedのあまり好ましくない特徴には、その遅くて不完全な成熟と、オリゴマー化する能力がある。数日のオーダーの成熟時間は、短期間の遺伝子発現研究や、短い世代時間または速い成長を示す生物で融合タンパク質を追跡することを目的とする応用において、DsRedをレポーターとして使用することを妨げている。GFPの成熟は、突然変異誘発(Heimら、Nature 373:663-664, 1995、これは参照により本明細書に組み込まれる)により大きく加速されたので、DsRedも同様に突然変異誘発させることができるしかつより速い成熟時間を有する変異体を単離することができよう。
Lys83変異体はすべて、少なくともある程度の成熟が可能になったことから、一級アミンがこの残基について直接の触媒的役割を果たす可能性は低く、この示唆は、化学的に最も保存的な置換(LysからArg)が、赤色の発色を大幅に妨害したという観察結果により支持される。Ser197は、最も保存的な可能な置換(SerからThr)が同様に、成熟を有意に遅らせたという点で、同様の結果を与えた。Lys83部位とSer197部位の突然変異は、別個のランダムな突然変異誘発実験で独立して数回現れ、そして興味深いことに、同じディスコソマ(Discosoma)種からの高度に相同なシアン蛍光タンパク質であるdsFP483では、Lys83とSer197はそれぞれLeuとThrにより置換されている。後者の2つの突然変異のいずれかは、なぜdsFP483が決して赤色にならないかを説明できるかも知れない。Lys83とSer197以外の残基もまた、赤色への成熟に影響を与えた。
DsRedのマルチマー性は、4つの別個の系統の証拠により証明され、それらは、SDS-PAGE上のあらかじめ沸騰させない限りは遅い移動、分析用超遠心分離、哺乳動物細胞の未成熟型緑色形態から最終型赤色形態への強いFRET、およびHIS3およびLacZレポーター遺伝子を使用する酵母中の指向的2ハイブリッドアッセイである。分析用超遠心分離は、測定したモノマー濃度の全範囲(10-8〜10-5M)にわたって、4つの偏性化学量論に最も明瞭な証拠を提供し、オクタマー形成がさらに高濃度で起こりうるというヒントを与えた。さらに、生細胞中の試験は、サイトゾルの還元性環境および未変性タンパク質の存在を含む典型的な使用条件下で凝集が起こることを立証した。
DsRedのオリゴマー化は、遺伝子発現のレポーターとしてのその使用を妨げないが、これは、例えば細胞中の宿主タンパク質の追跡または相互作用について調べるためにDsRedが宿主タンパク質に融合している場合に適用すると、アーチファクトを含む結果を与えることがありうる。それ自体の凝集傾向をもたない質量Mの宿主タンパク質について、DsRedとの融合は、少なくとも4つ(M+26kDa)の複合体の形成を引き起こすことがある。さらに、シグナル伝達における多くのタンパク質は、オリゴマー化により活性化されるので、DsRedへの融合およびその結果としての会合は、構成的シグナル伝達を引き起こすことがある。オリゴマー性の宿主タンパク質に関しては、DsRedへの融合により、化学量論の不一致、四次構造の立体障害、または大きな凝集物中の架橋を引き起こすことがある。実際、赤色カメレオン、すなわちシアン蛍光タンパク質、カルモジュリン、およびカルモジュリン結合ペプチドの融合体、ならびにDsRedは、DsRedの代わりに黄色蛍光タンパク質を有する対応する黄色カメレオンより、目に見える斑点を哺乳動物細胞中ではるかに形成し易い(Miyawakiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:2135-2140, 1999)。
以上開示した結果は、DsRedの変異体を、GFPの変異体と同様に、蛍光タンパク質がオリゴマー化する傾向を低下させるかまたは排除するように、産生することができることを示す。DsRed変異体を構築して、例えば酵母2ハイブリッドまたは他の同様のアッセイを使用して試験し、非凝集性突然変異体を同定し単離することができる。さらに、DsRedのX線結晶構造を試験し、最適なアミノ酸残基を改変すると低下したオリゴマー化傾向を有する型のDsRedが産生されることを立証することができる。
実施例4
オリゴマー化傾向の低下したDsRed変異体
本実施例は、オリゴマー化を低下させるかまたは排除するためにGFP変異体中に導入されたものと対応する突然変異を、DsRedがテトラマーを形成する傾向を低下させるために、DsRed中に作製することもできることを実証する。
実施例1に記載の結果を考慮し、かつDsRed結晶構造を指針として、アミノ酸残基がDsRedオリゴマー化に関与する可能性があることが確認された。これらのアミノ酸の1つであるイソロイシン-125(I125)を選択したが、その理由は、オリゴマー中で、各サブユニットのI125残基が、互いに対になる様式で近くに存在しており、すなわち、AサブユニットのI125の側鎖は、CサブユニットのI125の側鎖から約4オングストロームであり、BサブユニットとDサブユニットのI125残基も同様に位置しているためである。さらに、エクオレア(Aequorea)GFP変異体で同定されたものと同様に、I125側鎖が有する疎水性を示す領域は、サブユニット間相互作用に関与することが実証された。これらの観察結果に基づき、I125について、陽性荷電アミノ酸である、Lys(K)とArg(R)の置換を含有するDsRed突然変異体を作製した。
DsRed I125KとI125Rは、クイックチェンジ(QuickChange)突然変異誘発キットを用い、発現ベクターpRSET
B(Invitrogen)中にサブクローニングしたDsRed cDNA(配列番号23;Clontech)を突然変異誘発のテンプレートとして使用して調製した。突然変異誘発用のプライマー(突然変異コドンに下線を引いた)は以下の通りである:
突然変異タンパク質を標準的方法に従って調製し、記載のように(Bairdら、前述、2000)ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。さらなる分析のために、DsRed I125RをPBSで十分に透析し、次に558nmの溶液の吸光度が0.1になるまでPBS中に希釈した。この溶液をBeckman XL-1分析用超遠心分離機でPBS中で10,000rpm、12,000rpm、14,000rpm、および20,000rpmで遠心分離した。558nmでの吸光度-対-半径を決定し、野生型テトラマーDsRedの対照と比較した(Bairdら、前述、2000)。
DsRed I125Kは、赤色蛍光性になり、かつ未変性のタンパク質を非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析することにより示される通り、ダイマーとテトラマーの混合物であるタンパク質を生成した。DsRed I125Rの同様の分析により、このタンパク質がもっぱらダイマーであることが明らかになった。DsRed I125Rのダイマー状態を、分析用超遠心分離で確認したところ、残存テトラマーは検出されなかった。これらの結果は、A:CサブユニットとB:Dサブユニットの間の相互作用を破壊することができ、それによりDsRed変異体がオリゴマー化する傾向を低下させることができることを示している。A:BとC:Dの接触部分を破壊する試みはしなかった。これらの結果は、実施例1に記載のGFP変異体のオリゴマー化を低下させるかまたは排除する方法が、オリゴマー化傾向を有する他の蛍光タンパク質に一般的に適用できることを実証する。
実施例5
タンデムDsRedダイマーの調製と特性決定
本実施例は、タンデムDsRedタンパク質は、2つのDsRedモノマーを連結することにより形成できること、およびこのようなタンデムDsRedタンパク質は、DsRedに特徴的な発光および励起スペクトルを維持するが、オリゴマー化しないことを実証する。
tDsRedを構築するために、3'プライマー 5'-CCGGATCCCCTTTGGTGCTGCCCTCTCCGCTGCCAGGCTTGCCGCTGCCGCTGGTGCTGCCAAGGAACAGATGGTGGCGTCCCTCG-3'(配列番号37)を設計した。このプライマーは、DsRed(ClontechベクターpDsRed-N1から誘導される)の最後の25bpとオーバーラップし、リンカー配列GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号38)をコードしており、それに続いてpRSETB(Invitrogen)のBamHI部位とイン・フレームになるようにBamHI制限部位を有する。後に、上記プライマー配列がオーバーラップ領域中に3つのミスマッチを含有し、哺乳動物発現については最適ではないいくつかのコドンを含有することが、確認された。従って、新しい3'プライマー 5'-CCGGATCCCCCTTGGTGCTGCCCTCCCCGCTGCCGGGCTTCCCGCTCCCGCTGGTGCTGCCCAGGAACAGGTGGTGGCGGCCCTCG-3'(配列番号39)も使用した。5'プライマー 5'-GTACGACGATGACGATAAGGATCC-3'(配列番号40)も、BamHI制限部位をpRSETBのBamHI部位とイン・フレームとなるように含有した。
新しいリンカーを有するDsRedおよびDsRed I125RのPCR増幅を、Taq DNAポリメラーゼ(ロシュ(Roche))とアニーリングプロトコール(40℃で2サイクル、43℃で5サイクル、45℃で5サイクル、および52℃で15サイクルを含む)を用いて行った。生じたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で精製し、BamHI(New England Biolabs)で消化した。BamHIおよび子ウシ小腸ホスファターゼ(New England Biolabs)処理をしたベクターを、His-6タグとイン・フレームにありかつ5' BamHI認識部位と3' EcoRI認識部位の間に挿入されたDsRedまたはDsRed I125Rを有するpRSETBから調製した。
消化したPCR産物とベクターとをT4 DNAリガーゼ(NEB)でライゲーションした後、その混合物を使用して、熱ショックにより大腸菌(E. coli)DH5αを形質転換した。形質転換したコロニーを、抗生物質アンピシリンを補充したLB寒天プレート上で増殖させた。コロニーをランダムに採取し、標準的ミニプレップ法(Qiagen)によりプラスミドDNAを単離した。DNA配列決定を使用して、挿入配列の正しい配向を確認した。
タンパク質を発現させるために、単離し配列決定したベクターを使用してコンピテントな大腸菌(E. coli)JM109(DE3)を形質転換した。LB寒天/アンピシリン上で増殖させた単一コロニーを使用して、1リットルのLB/アンピシリン培養液に接種し、次に225rpmで37℃で振盪しながら、そのブロスのOD600が0.5〜1.0になるまで増殖させた。IPTGを最終濃度100mg/lになるまで加え、培養物を、37℃で5時間(tDsRed)または室温で24時間(RT;tDsRed I125R)のいずれかにわたり、増殖させた。遠心分離(10分、5000rpm)して細胞を収穫し、そのペレットを50mMトリス(pH7.5)中に再懸濁し、細胞をフレンチプレスに通す一回の通過によって溶解させた。製造業者により記載されたようにして、タンパク質をNi-NTA(Qiagen)クロマトグラフィーにより精製し、溶出バッファー中に保存するかまたは50mMトリス(pH7.5)中へ透析した。
tDsRedとtDsRed I125Rの励起スペクトルと発光スペクトルならびに成熟時間について、タンパク質は、その繋がれてない相手のタンパク質と同様に挙動した。予測されるように、tDsRedは、RTで約12時間以内に可視蛍光を発する一方、tDsRed I125Rは、有意な赤色が出現するのに数日を要した。tDsRed I125Rの成熟はほぼ約10日まで続いた。励起極大と発光極大は、それぞれ558nmと583nmで一定であった。
タンパク質をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動で分析すると、タンデムダイマーにおける差が明らかになった。テトラマーの高い安定性のために、沸騰させなかったDsRedは、見かけの分子量約110kDaとして移動した。さらに、DsRedテトラマーに対応するゲル上のバンドは、その赤色蛍光を保持し、各モノマーの厳密なバレル構造が完全であることを示した。サンプルをロードする前に沸騰させると、DsRedは非蛍光性であり、かつおそらく変性しているため、約32kDaのモノマーとして泳動した。
SDS-PAGE分析により、発現された赤色蛍光タンパク質、tDsRedおよびtDsRed I125Rのタンデム構造を確認した。沸騰させていないtDsRedは、沸騰させていない正常DsRedと同じ見かけの分子量(約110kDa)として移動した。サンプルをゲルにロードする前に沸騰(変性)させた場合にのみ、それらの分子構造における差が明らかであった。沸騰させたtDsRedは見かけの分子量約65kDaとして移動し、これは、2つのDsRedモノマーの分子量とほぼ同じであり、一方、沸騰させたDsRedは、モノマーの分子量32kDaとして移動した。
DsRed-I125RとtDsRed-I125Rについて、同様の比較を行った。これらをSDS-PAGEの前に沸騰させなかった場合、tDsRed-I125RとDsRed-I125Rは両方とも、見かけの分子量約50kDaのダイマーとして移動した。沸騰させなかったDsRed-I125Rはまた、変性したと思われる大きな成分を有するが、ダイマー(50kDa)の蛍光バンドがはっきりと認められた。tDsRed-I125Rもまた、完全な蛍光性分子種よりゆっくり移動する変性成分(50kDaに対して65kDa)を有していた。しかし、沸騰させると、tDsRed-I125Rは2つのモノマーとほぼ同じ分子量(65kDa)で移動する一方、DsRed-I125Rは32kDaのモノマー分子量で移動した。
これらの結果は、2つのDsRedモノマーを連結して分子内結合したタンデムダイマーを形成させると、赤色蛍光タンパク質の発光スペクトルまたは励起スペクトルに影響を与えることなく、分子間オリゴマーの形成が防げられることを実証する。
実施例6
改善された成熟効率をもつ赤色蛍光タンパク質
野生型DsRedとQ66M DsRedの成熟
成熟の速度と効果を改善する試みにおいて、DsRedのQ66を部位指定突然変異誘発により全ての他の天然に存在するアミノ酸に変換した。蛍光コロニーを拾うだけで、この位置におけるほとんど全ての単一突然変異(F、N、G、T、H、E、K、D、R、L、C)は有害であって蛍光の喪失または赤色蛍光種への成熟不能に導くことを確認した。しかし、1つの置換、Q66Mだけは著しく改善された特性を有するタンパク質を生じた。
最初に、野生型DsRedおよびQ66M DsRedの両方を細菌(E. coli)中に産生させ、速やかに精製してパラフィルムでシールしたキュベット中で成熟させた。パラフィルムを選んだのは酸素のタンパク質溶液中への拡散を可能にしかつ溶液からの水の損失を防止するためであった。成熟は吸収スキャン(scan)の時間経過をとることによりモニターした。図26は、赤色発色団ピーク吸収としての成熟-対-時間をプロットしたものである。タンパク質は即時にまたは正確に同じ効率で発現されないので、2つの異なる曲線は同じ値でスタートせずかつそれらは僅かに異なる終点値に達する。比較できるように、両方の曲線の振幅を最初に同じ最終吸収に対して正規化した。次いで、曲線を3成分動力学モデルに適合させ、そしてそれぞれのスキャンに対する時間基準は曲線がゼロ時間に交差するように調節した。
野生型DsRedおよびQ66M DsRedの蛍光
野生型DsRedおよびQ66M DsRed変異体の蛍光発光および励起スペクトルは、DsRedについては558nm励起を用いるかまたは583nm発光をモニターして、またQ66M DsRedについては566nm励起を用いるかまたは590nm発光をモニターして採取した。結果を図27に示した。注目すべきは、全Q66M DsRed蛍光スペクトルの赤色シフト、ならびに野生型と比較して、Q66M DsRedに対する480nmおける励起ショルダーの著しい低下である。
Q66M DsRed成熟の完全性
野生型DsRed、Q66M DsRed、およびその他のDsRed変異体であるK83R DsRedを、pH 1のHCl中で簡単な沸騰処理をし、次いでSDSポリアクリルアミドゲル上で泳動した。赤色発色団が形成されるとタンパク質が残基66において酸易分解性になるので、全長タンパク質に対する加水分解産物の相対量が成熟の完全性の指標となる。ゲルをクーマシー染色し、フラットベッドスキャナーを用いてイメージングし、次いで全てのバンドの相対強度をソフトウエアNIH Imageを用いて数値化した。成熟完全度は、分子量に対して正規化した後に(クーマシー染色バンドの濃さはバンドのタンパク質のモル濃度でなく、質量に関係するので)、分割断片のバンドの正規化強度を全バンドの正規化強度の和で除することにより計算した。結果を図28に示した。K83R DsRedは予想した通り、ほんの痕跡量の赤色タンパク質しか含有せず、全長タンパク質だけが見られた。しかし、野生型DsRedは大雑把に2/3が分解して分割断片となり、そしてQ66M DsRedはほとんど完全に分解して分割断片となった。
結論として、Q66M DsRedを細菌に発現すると、その細菌は、野生型DsRedを発現する細菌より僅かに速く蛍光性となるようである。さらに、Q66M DsRedタンパク質は、オレンジ色調である野生型DsRedより深いピンク色になるようである。最後に、Q66M DsRedの励起スペクトルは、480nmにおいて野生型DsRedより有意に小さいこぶ(hump)を有し、480nmで吸収する種(タンパク質の未成熟緑色型)が乏しくなったことを示唆する。これらのデータは一緒に、Q66M DsRedが野生型DsRedタンパク質を超える有意に改善された特性を有することを示す。
実施例7
モノマー赤色蛍光タンパク質、mRFP1のさらに改善された変異体の調製
先の実施例に記載のモノマーDsRed、mRFP1(配列番号8)の人工的作製(engineering)は、未改変DsRedの遺伝的にコードした赤色蛍光融合標識としての使用に関連する少なくとも3つの問題を克服した。具体的には、(1)mRFP1がモノマーであること、(2)速やかに成熟すること、および(3)GFPのイメージングに好適な波長で効率的に励起されないことである。しかしmRFP1は比較的薄暗く(吸光係数(EC)44,000M-1および量子収率(QY)0.25)、従って、ある特定の応用に限定される。mRFP1の輝度を改善する研究において、特定残基をランダム化することによる定方向進化(directed evolution)のストラテジーを、改善されたスペクトル特性をもつ変異体を見出す望みを抱いて続けてきた。
mRFP1の特性を改善するための最初のかかるライブラリーでは、mRFP1 cDNAにおいて次のコドン置換を行った:
N42QをNNK(=全20アミノ酸)へ
V44AをNNK(=全20アミノ酸)へ
L46をMTC(=IまたはL)へ
Q66をNNK(=全20アミノ酸)へ
K70をARG(=KまたはR)へ
V71AをGYC(=VまたはA)へ
このライブラリーは、64,000の異なるアミノ酸配列をコードする262,144のcDNAの遺伝的多様性を含有する。このライブラリーを大腸菌(E. coli)JM109(DE3)中に形質転換して、細菌コロニーを、先行する実施例に記載の通り、手作業でスクリーニングした(ほぼ50,000の独立コロニー)。輝度の改善を示したまたは異なる色であるコロニーを拾い、遺伝子の配列を決定してアミノ酸置換を確認した。このライブラリーから同定したトップクローンは数種の異なるカテゴリーに次の通り分類された。
赤色シフト変異体:
Q66M+T147S;x588m610、EC〜58,000M-1、Q〜0.25
Q66M;x588m610、EC〜52,000M-1、QY〜0.25
青色シフト変異体:
Q66T+Q213L;x574m595、EC〜34,000M-1、QY〜0.25
Q66T;x564m581、EC〜23,000M-1、QY〜0.25
Q66S;x558m578、Q66Tより薄暗い
他の興味深い変異体:
N42H+Q66G;x504m516、薄暗い
V44M+Q66G;x504m516、薄暗い
Q66L;502nmにて吸収最大、実用的には非蛍光
このライブラリーから単離したトップ突然変異体はmRFP1+Q66M/T147Sであり、これをmRFP1.1と名付けた。この変異体はmRFP1と比較して量子収率の改善はないが、mRFP1.1はECの改善に因ってmRFP1よりほぼ30%明るい。この改善は、502nmで吸収する非蛍光種を代償にして成熟赤色発色団を形成するタンパク質の画分の見かけの増加に因るものである(mRFP1.1の吸収および発光スペクトルを表示している図29を参照)。有利なT147S突然変異体がcDNAのTaqポリメラーゼの利用によるPCR増幅中のエラーから生じた。Q66M突然変異は、先にDsRedのダイマーI125R変異体の蛍光を改善することが示されている(Baird, G. S. (2001) Ph.D. Thesis, University of California, San Diego)。mRFP1.1のアミノ酸配列を図30(配列番号79)に示し、mRFP1.1のヌクレオチド配列を図31(配列番号80)に与えた。
以上の明細書に記述された全ての出版物、GenBank受託番号配列提出物、特許および公開された特許出願は、本明細書に参照によりその全文が組み込まれる。記載した本発明の組成物および方法の様々な改変および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は様々な特定の実施形態と関連して記載されているが、請求項に記載の本発明がかかる特定の実施形態により不当に限定されてはならないことは理解されねばならない。実際、タンパク質化学もしくは生物学技術分野または関係業界の当事者に明白である本発明を実施するための記載した様式の様々な改変は、添付の請求の範囲内にあると意図するものである。