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JP5136182B2 - 切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車、建材、家電製品などに適する切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板及びその製造方法に関する。
近年、自動車分野においては衝突時に乗員を保護するような機能の確保、及び、燃費向上を目的とした軽量化を両立させるために、高強度鋼板が適用されている。特に、衝突安全性確保に関しては、その安全意識の高まりに加え、法規制の強化から、これまで低強度の鋼板しか用いられてこなかったような複雑形状を有する部品へまで、高強度鋼板を適用しようとするニーズがある。しかしながら、材料の成形性は強度が上昇するのに伴って劣化するので、複雑形状を有する部材へ高強度鋼板を適用するにあたっては、成形性と高強度の両方を満足する鋼板を製造する必要がある。一口に、成形性と言っても、自動車部材のような複雑形状を有する部材に適用するに当たっては、例えば、延性、張り出し成形性、穴拡げ性、伸びフランジ性の異なる成形性を同時に具備することが求められる。
特に、自動車用部材は、部材の接合にあたってスポット溶接等を行う必要があり、部材にフランジをつける場合が多い。フランジ部は、切断ままの端面を加工する場合が多く、切断による損傷の影響で特に破断しやすいことから、加工時にこのフランジ部で破断しないことが求められる。
伸びフランジ性は、切断ままの端面を加工することから、材料特性として伸びフランジ性が良好なことと同時に、シャー等の機械切断による端面の損傷が軽微なことが要求される。
伸びフランジ性向上に必要な材料特性は、非特許文献1で示されるように、均一伸びや穴拡げ性である。このことから、均一伸びと穴拡げ性の両方を具備することが求められる。
一方、シャーや打ち抜き端面には、切断の際に介在物を引きずったと考えられる損傷が多数存在し、これが起点となり、伸びフランジ成形時や穴拡げ試験時に割れが生じることが知られている(非特許文献1)。このことから、切断時の端面の損傷を抑制することも極めて重要になる。
薄鋼板の成形性として重要な延性や張り出し成形性は、加工硬化指数(n値)と相関があることが知られており、n値が高い鋼板が成形性に優れる鋼板として知られている。例えば、延性や張り出し成形性に優れる鋼板として、鋼板組織がフェライト及びマルテンサイトから成るDP(Dual Phase)鋼板や、鋼板組織中に残留オーステナイトを含むTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼板がある(特許文献1、特許文献2)。一方、穴拡げ性に優れる鋼板としては、鋼板組織を析出強化したフェライト単相組織とした鋼板やベイナイト単相組織とした鋼板が知られている(特許文献3〜5、非特許文献2)。
DP鋼板は、延性に富むフェライトを主相とし、硬質組織であるマルテンサイトを鋼板組織中に分散させることで、優れた延性を得ている。また、軟質なフェライトは変形し易く、変形と共に多量の転位が導入され、硬化することから、n値も高い。しかしながら、鋼板組織を軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトより成る組織とすると、両組織の変形能が異なることから、穴拡げ加工のような大加工を伴う成形においては、両組織の界面に微小なマイクロボイドが形成し、穴拡げ性が著しく劣化するという問題を有する。特に、引張最大強度590MPa以上のDP鋼板中に含まれるマルテンサイト体積率は比較的多く、フェライトとマルテンサイト界面も多く存在することから、界面に形成したマイクロボイドは容易に連結し、亀裂形成、破断へと至る。このことから、DP鋼板の穴拡げ性は劣位である(例えば、非特許文献3)。
鋼板組織が、フェライト及び残留オーステナイトより成るTRIP鋼板においても同様に穴拡げ性は低い。これは、自動車部材の成形加工である穴拡げ加工や伸びフランジ加工が、打ち抜き、あるいは、機械切断後、加工を行うことに起因している。TRIP鋼板に含まれる残留オーステナイトは、加工を受けるとマルテンサイトへと変態する。例えば、延引張加工や張り出し加工であれば、残留オーステナイトがマルテンサイトへと変態することで、加工部を高強度化し、変形の集中を抑制することで、高い成形性を確保可能である。しかし、一旦、打ち抜きや切断等を行うと、端面近傍は加工を受けるため、鋼板組織中に含まれる残留オーステナイトがマルテンサイトへと変態してしまう。この結果、DP鋼板と類似の組織となり、穴拡げ性や伸びフランジ成形性は劣位となる。あるいは、打ち抜き加工そのものが大変形を伴う加工であることから、打ち抜き後に、フェライトと硬質組織(ここでは、残留オーステナイトが変態したマルテンサイト)界面に、マイクロボイドが存在し、穴拡げ性を劣化させていることが報告されている。
あるいは、粒界にセメンタイトやパーライト組織が存在する鋼板も、穴拡げ性は劣位である。これはフェライトとセメンタイトの境界が微小ボイド生成の起点となるためである。
その結果、特許文献3〜5及び非特許文献1に示されるように、穴拡げ性に優れた鋼板の開発は、鋼板の主相をベイナイトもしくは析出強化したフェライトの単相組織とし、かつ、粒界でのセメンタイト相の生成を抑えるため、Ti等の合金炭化物形成元素を多量に添加し、鋼中に含まれるCを合金炭化物とすることで、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板が開発されてきた。
ところで、高強度熱延鋼板は、合金元素を多く含んでいる。特に、組織強化を活用する場合、Mnを多く添加している。ところがMnの含有量が多い場合、板厚方向の中心部にMnが偏析する傾向がある。これは、溶鋼をスラブに連続鋳造する際に、スラブの表面から中心に向けて冷却が進行するがこのときにMnが最後まで固溶せず、Mnが次第にスラブの中心部に移動し、最後に冷えて固まるためである。このようなスラブを圧延することによって得られた高強度熱延鋼板は、厚み方向中心部に高濃度のMnが存在するために、厚み方向中心部の硬度がそれ以外の部分の硬度よりも高くなっている。
このような高強度鋼板に対して切断や打ち抜き加工を行うと、端面はせん断面と破断面より構成される端面となるが、特に、加工はせん断面と破断面の境界近傍で大きくなりやすい。その結果、Mnの中心偏析が存在して強度の異なる板厚中心において、打ち抜き後割れや二次せん断が発生する場合がある。このような割れや二次せん断は、穴拡げや伸びフランジ成形の際に、亀裂の元になるため、著しく特性を劣化させる。特に、打ち抜き時のクリアランスを変化させると劣化が顕著になる。
また、実部材を考えた場合、高強度熱延鋼板は打ち抜きまま若しくは切断ままで使用される場合が多いので、切断ままで伸びや穴拡げ等の特性が良好なことが求められる。ここで、打ち抜きや切断時のクリアランスは、部材の各位置で変動するか、あるいは、ポンチやシャーの磨耗によりクリアランスが経時変化する場合があるから、実部材は、必ずしも穴拡げ性が優れる条件で加工されるとは限らない。その結果、穴拡げ性に優れる鋼板であっても、破断する場合がある。
このように実部材の特性向上にあたっては、理想的な条件での特性向上もさることながら、広い成形条件で安定して優れた特性が発揮されることが求められる。
CAMP-ISIJVol.13(2000),p399 CAMP-ISIJ vol.13(2000),p411 CAMP-ISIJ vol.13(2000),p391 特開昭53−22812号公報 特開平1−230715号公報 特開2003-321733号公報 特開2004−256906号公報 特開平11−279691号公報 特開昭63−293121号公報
上述したように、伸びフランジ性向上のためには、延性や穴拡げ性といった材料特性の向上に加え、切断した端面の性状の改善は必要不可欠である。
本発明は、延性や穴拡げ性と言った材料特性向上と同時に、切断後の端面損傷を抑制に考慮して行われたものであり、その目的は、DP鋼並み優れた延性と、単一組織並みの優れた穴拡げ性を持つと同時に、切断後の端面の損傷が極めて軽微な高強度鋼板並びにその製造方法を提供することにある。
上記の課題を解決することを目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 質量%で、C:0.05%〜0.20%、Si:0.3〜2.00%、Mn:1.3〜2.6%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.10%未満、N:0.0005〜0.0100%、O:0.0005〜0.007%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼であり、鋼板組織が主としてフェライトとベイナイトからなり、板厚方向のMn偏析度(=中心部Mnピーク濃度/平均Mn濃度)が1.20以下であり、板厚方向のMn偏析帯の幅が43μm以下であり、引張最大強さが540MPa以上であることを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
(2) さらに、質量%で、B:0.0001〜0.01%未満を含有することを特徴とする(1)に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
(3) さらに、質量%で、Cr:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
(4) さらに、質量%で、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.001〜0.14%含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
(5) さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
(6) (1)〜(5)のいずれか1項に記載の高強度鋼板の表面に亜鉛系めっきを有することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板
(7) (1)〜(5)のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを鋳造するに当たって、板厚方向に圧下を加えつつ鋳造を行って、直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、圧下率70%以上とする熱延を施した後、さらに85%以上の圧下率で仕上温度を820℃〜930℃とする熱間圧延を行った後、水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了し、400〜630℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、450℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板の製造方法。
(1)〜(5)のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを鋳造するに当たって、板厚方向に圧下を加えつつ鋳造を行って、直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、圧下率70%以上とする熱延を施した後、さらに85%以上の圧下率で仕上温度を820℃〜930℃とする熱間圧延を行った後、水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了し、400〜630℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度―40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬前、あるいは、浸漬後の何れか一方、あるいは、両方で、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(1)〜(5)のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを鋳造するに当たって、板厚方向に圧下を加えつつ鋳造を行って、直接又は一旦冷却した後11001050℃以上に加熱し、圧下率70%以上とする熱延を施した後、さらに85%以上の圧下率で仕上温度を820℃〜930℃とする熱間圧延を行った後、水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了し、400〜630℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度―40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、460〜540℃の温度で合金化処理を施し、亜鉛めっき浴に浸漬前、浸漬後、あるいは、合金化処理後の何れか、あるいは、全てで(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
10) ()の方法で高強度鋼板を製造したのち、亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする()に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板の製造方法。
本発明によれば、鋼板成分、鋳造条件及び圧延条件を制御することで、引張最大強さが540MPa以上の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板を安定して得ることができる。
本発明者等は、鋭意検討を進めた結果、クリアランス変化に伴う穴拡げ性や伸びフランジ性の劣化の一因が、Mnの中心偏析に起因した切断時または打ち抜き時の端面損傷の変化に原因があることを見出した。具体的には、クリアランスが大きくなると、打ち抜き、あるいは、切断時に働く板厚方向の応力が大きくなる。その結果、板厚中心部(偏析部)に亀裂が生じる場合があり、その後の加工性を劣化させることを見出した。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板とは、機械研削により作成した試験片と、切断や打ち抜きと言った加工ままの試験片の特性の差を示すのではなく、クリアランスが大きく変化したとしても、良好な伸びフランジ性が確保可能な鋼板を意味する。
また、機械加工としても、シャー切断に限定するものではなく、ポンチを用いた打ち抜きをはじめとする切断(打ち抜き)ままの端面が存在し、その後、加工を受ける加工方法を指す。
先ず、Mnの偏析度について説明する。
本発明者等が鋭意検討を進めた結果、鋼板組織をフェライトと硬質組織よりなる組織とすると共に、硬質組織とフェライトの硬度差を低減させつつ、マンガンの偏析度の低減による端面の亀裂発生を抑制することで、切断後の特性劣化を少なくすることが可能であることを見出した。
高強度鋼板を断面をCMA分析またはEPMA分析すると、板厚方向の中心部に、Mnの平均濃度よりも高い濃度でMnが偏析しているMn偏析帯が観察される。このMnの偏析の程度を数量化したものが板厚方向のMn偏析度であって、CMAまたはEPMAを用いて測定することが出来る。板厚方向のMn偏析度は、中心部Mnピーク濃度を平均Mn濃度で除した値で定義され、本発明に係る高強度鋼板では、好ましくは1.2以下であり、より好ましくは1.15以下であり、更に好ましくは1.0以下である。また、板厚方向のMn偏析帯の幅も狭いことが望ましい。Mn偏析帯の幅は20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。また、場合によっては、板厚中心部に、Mn濃度が平均Mn濃度よりも少ない不偏析がある場合があるが、このような鋼板も本発明に係る高強度鋼板に含まれる。
Mn偏析度を小さくするためには、スラブを鋳造する際に圧下を加えつつ鋳造する必要がある。例えば、厚みが240mmのスラブを鋳造するに当たっては、5mm以上の圧下を加える。即ち、入り側の厚みを245mmとするなら、出側厚みを240mmにする。ただし、Mn偏析度は、溶鋼が凝固する過程で、Mnが溶鋼へと排出されることで起こる。従って、凝固したスラブを圧下したとしてもMn偏析は改善しない。このため、圧下は、溶鋼が完全に凝固する前に行う必要がある。
また、通常の高強度鋼板においては、SもMnと同様に中心部分に偏析しやすい元素である。MnやSの偏析は、中心偏析部におけるMnSの形成を促進し、穴拡げ性を劣化させることから望ましくない。加えて、これら中心偏析部に存在するMnSは、板厚方向に沿って長く伸びていることから、打ち抜きや切断時に、板厚方向に沿った亀裂形成の原因となり、その後の伸び、穴拡げ、伸びフランジ性などの機械特性の劣化をもたらすことから望ましくない。
加えて、Mn偏析は、組織強化を活用する鋼において、板厚方向での組織や特性を大きくばらつかせることになる。連続焼鈍設備や合金化溶融亜鉛めっき設備にて、鋼板の組織制御を行う場合、一旦、フェライト及びオーステナイトよりなる二相域、あるいは、オーステナイト単相域に焼鈍した後、冷却過程でフェライトを形成させる。あるいは、引き続いて行われる特定温度域での滞留や合金化処理時に、組織制御を行う場合が多い。Mnは、フェライト変態やベイナイト変態を遅延することが知られていることから、部分的なMn濃度の変化に伴い鋼板組織が変化する。具体的には、中心偏析部でフェライト変態やベイナイト変態を遅延することから、板厚中心は、マルテンサイトを多く含む組織になりやすい。この結果、板厚中心は著しく硬くなる。鋼板強度の変動は、板厚内での伸び等の特性変動の原因となる。大変形を伴う切断や打ち抜き加工においては、硬質なMn偏析帯と正常部の界面に変形の集中を招き、大きな応力集中や、場合によっては、界面での亀裂形成(剥離)を招くことになる。この結果、切断や打ち抜き加工後の鋼板の伸び、穴拡げ、伸びフランジ性などの機械特性の劣化をもたらすことから望ましくない。
特に、切断や打ち抜き加工は、板厚方向に沿って層状に存在するMn偏析帯に起因した硬質組織層を剥離する方向に応力が発生し易いことから、特に亀裂形成を招き易い。
このような問題は、組織強化を行う高強度鋼板で問題となり易い。即ち、DP鋼やTRIP鋼などの組織強化を活用した高強度鋼板は、熱間圧延、連続焼鈍設備、溶融亜鉛めっき設備にて、組織制御を行うため、Mnを多量に添加する傾向にある。この傾向は、鋼板強度が高くなれば高くなるほど顕著になることから、540MPa以上の高強度鋼板で問題となりやすい。加えて、540MPa未満の高強度鋼板は、高強度化の手法として、組織強化以外の手法(例えば、固溶強化など)が活用される場合が多く、単相組織となる場合が多い。この結果、Mnを多量に含む場合であっても、組織変化に起因した強度変動が生じ難く、切断や打ち抜きに伴う特性劣化を生じ難い。
本発明に係る高強度鋼板は、板厚方向のMn偏析度を1.2以下にすることで、穴拡げ、伸びフランジ性などの機械特性の劣化を防ぎ、また、切断や打ち抜きに伴う特性劣化を防止できる。
また、Mn偏析帯が存在すると、フェライト変態、ベイナイト変態が遅延することから、マルテンサイトを多く含む組織となり、硬質化し易い。その結果、Mnの偏析が顕著な鋼板では、中心偏析部とそれ以外の部分で強度差が生じる。この際の硬度差は、ビッカース試験機にて測定可能である。そこで、本発明に係る高強度鋼板では、荷重50gfにてビッカース試験機による、中心偏析部とそれ以外の部位での硬度差がHv70以下であることが好ましい。硬度差がHv70超となると、打ち抜きや切断による特性劣化が顕著になるので好ましくない。
また、ビッカース試験時の荷重を50gfとしたのは、偏析帯の硬度測定を行うためである。鋳造時に形成された中心部の偏析帯は、スラブでは粗大であっても、熱間圧延や冷間圧延を経ることでその厚みが低減し、かなり狭くなる。即ち、荷重50kgfと言った大荷重で試験を行った場合、圧痕サイズが大きくなるため、中心偏析のような狭い領域の硬度変動が検出できない。一方で、荷重が極端に低い場合、硬質組織あるいは軟質組織のいずれに圧痕を付与するかで、測定結果が異なるため、中心偏析帯のような組織分布の違いに起因した硬度変動を検出できない。このことから、予備実験として、CMA分析やEPMA分析による中心偏析帯幅の測定、あるいは、様々な荷重でのビッカース硬度測定と、硬度変動と機械切断の有無による特性変化を比較し、試験条件を決定することが好ましく、本発明ではビッカース試験時の荷重を50gfとしている。
測定箇所に関しては、板厚方向の強度変動を調査するため、板厚1/4t位置、中心偏析位置の硬度を測定することが好ましい。そして、それぞれ板厚方向に沿って各10点測定し、その平均値をそれぞれの硬度とすればよい。なお、薄鋼板においては、中心偏析帯は、熱間圧延及び冷間圧延を経ることから、伸ばされ厚みも小さくなっており見分け難い場合がある。本発明では、鋼板を研磨した後、ナイタール試薬にてエッチングを行い組織を現出することで中心偏析の正確な位置を特定することが望ましい。即ち、Mnを多く含む中心偏析帯は、組織強化鋼において、マルテンサイトを多く含む組織となることから、判別可能である。ビッカース試験による硬度差(ΔHv50g)が70以下のものを本発明の好ましい範囲内としている。
次に、鋼板の組織の限定理由について述べる。
鋼板組織をフェライトと硬質組織の複相組織とするのは、優れた延性を得るためである。軟質なフェライトは、延性に富むことから、優れた延性を得るためには必須である。加えて、適度な量の硬質組織を分散させることで、優れた延性を確保しながら、高強度化が可能である。優れた延性を確保するためには、フェライト主相とする必要がある。また、残留オーステナイトを含んでも良い。残留オーステナイトは、変形時にマルテンサイトへと変態することで、加工部を硬化し、変形の集中を妨げる。その結果、特に優れた延性が得られる。
硬質組織は、ベイナイト組織を50%以上とすることが望ましい。ベイナイト組織は、マルテンサイトに比較し、軟質であることが知られている。そこで、硬質組織を軟質なベイナイト組織とすることで、穴拡げ加工時のフェライト及び硬質組織界面へのマイクロボイド形成を抑制することが出来る。硬質組織をベイナイト組織を50%以上としたのは、硬質組織の体積率の50%未満であれば、マルテンサイトや残留オーステナイトが十分離れて分散しており、穴拡げ加工時に亀裂伝播のサイトにならないと考えられるためである。
また、硬質組織の体積率は、5%以上とすることが望ましい。これは、硬質組織の体積率が5%未満では、540MPa以上の強度確保が難しいためである。上限は特に定めることなく本発明の効果である優れた延性と穴拡げ性は具備されるが、590〜1080MPaのTS範囲であれば、延性と穴拡げ性あるいは、伸びフランジ性の両立を図るため体積率50%超のフェライトを含むことが望ましい。
また、鋼板組織としては、フェライト及びベイナイトの複合組織とすることを基本とするが、その他の硬質組織として、残留オーステナイト、マルテンサイト、セメンタイト及びパーライト等を含有しても良い。
上記ミクロ組織の各相、フェライト、パーライト、セメンタイト、マルテンサイト、ベイナイト、オーステナイトおよび残部組織の同定、存在位置の観察および面積率の測定は、ナイタール試薬および特開昭59−219473号公報に開示された試薬により鋼板圧延方向断面または圧延方向直角方向断面を腐食して、1000倍の光学顕微鏡観察及び1000〜100000倍の走査型および透過型電子顕微鏡により定量化が可能である。また、FESEM-EBSP法を用いた結晶方位解析や、マイクロビッカース硬度測定等の微小領域の硬度測定からも、組織の判別は可能である。
TSを540MPa以上としたのは、この強度未満であれば、フェライト単相鋼に、固溶強化を用いた高強度化を図ることで、540MPa未満のTSと優れた延性及び穴拡げ性の両立を図ることが出来るためである。特に、540MPa以上のTS確保を考えた場合、優れた延性確保のためには、マルテンサイトや残留オーステナイトを用いた強化を行う必要があり、穴拡げ性の劣化が顕著となるためである。
フェライトの結晶粒径については特に限定しないが、強度伸びバランスの観点から公称粒径で7μm以下であることが望ましい。
次に、本発明の成分限定理由について述べる。尚、単位はいずれも質量%である。
(C:0.05%〜0.20%)
Cは、ベイナイトやマルテンサイトを用いた組織強化を行う場合、必須の元素である。Cが0.05%未満では、540MPa以上の強度確保が難しいことから、下限値を0.05%とした。一方、Cの含有量を0.20%以下とする理由は、Cが0.20%を超えると、スポット溶接性を確保することが困難となる。このことから、Cの範囲を0.05%〜0.20%とした。
(Si:0.3〜2.00%)
Siは強化元素であるのに加え、セメンタイトに固溶しない事から、粒界での粗大セメンタイトの形成を抑制する。0.3%未満の添加では、固溶強化による強化が期待できない、あるいは、粒界への粗大セメンタイトの形成が抑制できないことから0.3%以上添加する必要がある。一方で、2.00%を越える添加は、残留オーステナイトを過度に増加せしめ、打ち抜きや切断後の穴拡げ性や伸びフランジ性を劣化させる。このことから上限は2.00%とする必要がある。加えて、Siの酸化物は、溶融亜鉛めっきとの濡れ性が悪いことから、不メッキの原因となる。そこで、溶融亜鉛めっき鋼板の製造にあたっては、炉内の酸素ポテンシャルを制御し、鋼板表面へのSi酸化物形成を抑制するなどが必要となる。
(Mn:1.3〜2.6%)
Mnは、固溶強化元素であるのと同時に、オーステナイト安定化元素であることから、オーステナイトがパーライトへと変態するのを抑制する。1.3%未満ではパーライト変態の速度が速すぎてしまい、鋼板組織をフェライト及びベイナイトの複合組織とすることが出来ず、540MPa以上のTSが確保出来ない。また、穴拡げ性も劣る。このことから、下限値を1.3%以上とする。一方、Mnを多量に添加すると、P、Sとの共偏析を助長し、加工性の著しい劣化を招くことから、その上限を2.6%とした。
(P:0.001〜0.03%)
Pは鋼板の板厚中央部に偏析する傾向があり、溶接部を脆化させる。0.03%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、その適正範囲を0.03%以下に限定した。Pの下限値は特に定めないが、0.001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
(S:0.0001〜0.01%)
Sは、溶接性ならびに鋳造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼす。このことから、その上限値を0.01%以下とした。Sの下限値は、0.0001%未満とすることは経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。また、SはMnと結びついて粗大なMnSを形成することから、穴拡げ性を低下させる。このことから、穴拡げ性向上のためには、出来るだけ少なくする必要がある。
(Al:0.10%未満)
Alは、フェライト形成を促進し、延性を向上させるので添加しても良い。また、脱酸材としても活用可能である。しかしながら、過剰な添加はAl系の粗大介在物の個数を増大させ、穴拡げ性の劣化や表面傷の原因になる。このことから、Al添加の上限を0.1%未満とした。下限は、特に限定しないが、0.0005%以下とするのは困難であるのでこれが実質的な下限である。
(N:0.0005〜0.0100%)
N(窒素)は、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。これは、Nが0.01%を超えると、この傾向が顕著となることから、N含有量の範囲を0.01%以下とした。加えて、溶接時のブローホール発生の原因になることから少ない方が良い。下限は、特に定めることなく本発明の効果は発揮されるが、N含有量を0.0005%未満とすることは、製造コストの大幅な増加を招くことから、これが実質的な下限である。
(O:0.0005〜0.007%)
O(酸素)は、酸化物を形成し、曲げ性や穴拡げ性を劣化させることから、添加量を抑える必要がある。特に、酸化物は介在物として存在する場合が多く、打抜き端面、あるいは、切断面に存在すると、端面に切り欠き状の傷や粗大なディンプルを形成することから、穴拡げ時や強加工時に、応力集中を招き、亀裂形成の起点となり大幅な穴拡げ性あるいは曲げ性の劣化をもたらす。これは、Oが0.007%を超えると、この傾向が顕著となることから、O含有量の上限を0.007%以下とした。0.0005%と未満とすることは、過度のコスト高を招き経済的に好ましくないことから、これを下限とした。ただし、Oを0.0005%未満としたとしても、本発明の効果である540MPa以上のTSと優れた延性を確保可能である。
(B:0.0001%以上0.01%未満)
Bは、0.0001質量%以上の添加で粒界の強化や鋼材の強度化に有効であるが、その添加量が0.010質量%を超えると、その効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造製を低下させることから、その上限を0.010%とした。
(Cr:0.01〜1.0%)
Crは、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を1%とした。
(Ni:0.01〜1.0%)
Niは、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限を1%とした。
(Cu:0.01〜1.0%)
Cuは、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。逆に、1%超含有すると製造時および熱延時の製造性に悪影響を及ぼすため、上限値を1%とした。
(Mo:0.01〜1.0%)
Moは、強化元素であるとともに焼入れ性の向上に重要である。しかし、0.01%未満ではこれらの効果が得られないため下限値を0.01%とした。1%超含有すると大幅なコスト高を招くことから上限は1%であるが、0.3%以下がより好ましい。
(Nb:0.001〜0.14%)
Nbは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
(Ti:0.001〜0.14%)
Tiは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
(V:0.001〜0.14%)
Vは、強化元素である。析出物強化、フェライト結晶粒の成長抑制による細粒強化および再結晶の抑制を通じた転位強化にて、鋼板の強度上昇に寄与する。添加量が0.001%未満ではこれらの効果が得られないため、下限値を0.001%とした。0.14%超含有すると、炭窒化物の析出が多くなり成形性が劣化するため、上限値を0.14%とした。
(Ca、Ce、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%)
Ca、Ce、Mg、REMから選ばれる1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%添加できる。Ca、Ce、Mg、REMは脱酸に用いる元素であり、1種または2種以上を合計で0.0001%以上含有することで、脱酸後の酸化物サイズを低下可能であり、穴拡げ性向上に寄与する。
しかしながら、含有量が合計で0.5%を超えると、成形加工性の悪化の原因となる。そのため、含有量を合計で0.0001〜0.5%とした。なお、REMとは、Rare Earth Metalの略であり、ランタノイド系列に属する元素をさす。本発明において、REMやCeはミッシュメタルにて添加されることが多く、LaやCeの他にランタノイド系列の元素を複合で含有する場合がある。不可避不純物として、これらLaやCe以外のランタノイド系列の元素を含んだとしても本発明の効果は発揮される。ただし、金属LaやCeを添加したとしても本発明の効果は発揮される。
次に、本発明鋼板の製造条件の限定理由について説明する。
Mn偏析度を低減するためには、鋳造時にスラブを圧下しつつ鋳造する必要がある。Mn偏析度は、溶鋼が凝固する過程で、Mnが溶鋼へと排出されることで起こるので、凝固したスラブを圧下したとしてもMn偏析は改善しない。従って、スラブの圧下は、溶鋼が完全に凝固する前に行う必要がある。完全凝固前に圧下を行うことで、中心部に排出されたMnをスラブの板厚方向全体に拡散させることができ、Mn偏析度を低減できる。具体的には例えば、厚みが240mmのスラブを鋳造するに当たっては、5mm以上の圧下を加えることが好ましい。即ち、入り側の厚みを245mmとするなら、出側厚みを240mmにすればよい。
また、中心の偏析帯の板厚方向の幅を低減するには、厚減比を大きくすることが望ましい。厚減比とは、スラブ厚さに対する製品板厚みのことを指す。製品板厚3.0mmの冷延鋼板を製造するのであれば、スラブ厚みを200mm以上とすることが望ましい。これは、鋳造時に圧下を加えることで、Mn等の中心偏析を軽減したとしても、完全に除去することは難しい。このことから、スラブ厚みを厚くすることで、スラブ中に形成された中心偏析帯の割合を小さくし、後の熱間圧延や冷間圧延にて中心偏析帯の厚みを小さくし、その悪影響を取り去るためである。
同様の理由から、熱間圧延や冷間圧延での圧下率も大きくすることが望ましい。
なお、Mn偏析による組織変動の影響を低減するためには、熱間圧延時の鋼板組織制御も有利に働く。即ち、熱延鋼板の巻き取り温度を630℃以下とすることで、熱延板の組織をベイナイト組織主体の均一な組織にすることが可能であり、冷延-焼鈍後の特性向上に有利に働く。よって巻き取り温度を630℃以下にすることが望ましい。
熱延スラブ加熱温度は、1050℃以上にする必要がある。スラブ加熱温度が過度に低いと、仕上げ圧延温度が820℃を下回ってしまい、フェライト及びオーステナイトの二相域圧延となり、熱延板組織が不均一な混粒組織となり、冷延及び焼鈍工程を経たとしても不均一な組織は解消されず、延性や穴拡げ性に劣る。また、本鋼板は、焼鈍後に540MPa以上の引張最大強度を確保するため、比較的多量の合金元素を添加していることから、仕上げ圧延時の強度も高くなりがちである。スラブ加熱温度の低下は、仕上げ圧延温度の低下を招き、更なる圧延荷重の増加を招き、圧延が困難となったり、圧延後の鋼板の形状不良を招く懸念があることから、スラブ加熱温度は、1050℃以上とする必要がある。スラブ加熱温度の上限は特に定めることなく、本発明の効果は発揮されるが、加熱温度を過度に高温にすることは、経済上好ましくないことから、加熱温度の上限は1300℃未満とすることが望ましい。
以上のようにして鋳造したスラブを熱間圧延するが、本発明では、1050℃に加熱したスラブを仕上げ圧延する前に、圧下率70%以上で熱延することが望ましい。圧下率を70%以上とするのは、Mn偏析部に形成するMnSサイズを微細化し、製品板での打ち抜き、あるいは、あるいは、切断後の特性劣化を改善するためである。即ち、SはMnと結びついて、熱延段階でMnSを形成することが知られている。熱延時に形成したMnSは、冷間圧延を行うと、圧延方向に展伸した形態となるため、その先端や界面への応力集中が顕著となり、加工時の特性劣化をもたらす。あるいは、切断部や打ち抜き部にMnSが存在すると、加工後の端面に疵が形成される場合があり、更なる特性劣化を招く。この傾向は、MnSの体積率が多いほど顕著となることが知られており、MnS体積率の低減や微細化が必要とされている。また、Mn濃度が高いとMnSが形成しやすいことから、特に、Mn偏析部でのMnS形成がしやすい。更には、Mn偏析の幅が大きいと、形成されるMnSも大きくなり、特性劣化も顕著となる。そこで、穴拡げ性や伸びフランジ性をはじめとする切断後の特性向上を図るためには、熱延板内に形成するMnSを微細化する必要がある。そこで、熱延段階での圧下率を大きくすることで、Mn偏析の幅を低減し、MnSの微細化を行うことが望ましい。具体的には、MnSは、スラブ加熱や仕上げ圧延前のような高温では、オーステナイト中に固溶しており、これよりも低温側にて析出することが知られている。そこで、MnSが析出する前に、圧下を行いMn偏析の幅を低減させ、MnSも微細化することが重要となる。
これら効果は、圧下率が70%以上で顕著になることから、圧下率は出来るだけ高いことが望ましい。上限は特に定めないが、生産性や設備制約の観点から90%超とすることは困難であるので、90%が実質的な上限である。
仕上げ圧延温度は、820℃以上930℃以下の範囲にする必要がある。仕上げ圧延温度がオーステナイト+フェライトの2相域になると、鋼板内の組織不均一性が大きくなり、焼鈍後の成形性が劣化するので、820℃以上が望ましい。
一方、仕上げ温度の上限は特に定めなくとも本発明の効果は発揮されるが、仕上げ圧延温度を過度に高温と使用とした場合、その温度を確保するため、スラブ加熱温度を過度に高温にせねばならない。このことから、仕上げ圧延温度の上限温度は、930℃以下とすることが望ましい。
引き続く圧延の圧下率は合計で85%以上とする。圧下率の計算は圧延前の板厚で圧延完了後の板厚を除して100倍すればよい。仕上げ圧延での圧下率も、同様の理由で決定される。すなわち、圧下率85%未満の圧延ではMn偏析帯の厚みを十分に小さくすることは困難である。また98%を超える圧延は、設備にとって過大な付加となるのでこれを上限とする。90〜94%がより好ましい圧下率である。
ただし、MnSは、低温であればオーステナイト中でも析出可能であることから、MnSを微細化する目的であれば、仕上げ圧延前で出来るだけ沢山圧下することが望ましい。
また、熱間圧延の終了後で巻き取りの前に、圧延鋼板を水冷することが望ましい。水冷は、最終圧延後から7秒以内に水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了することが望ましい。
仕上げ圧延後の冷却条件は、特に限定することなく本発明の効果は発揮される。ただし、熱延板組織の均一化による製品板特性の向上の観点からは、仕上げ圧延から巻き取りまでの平均冷却速度を10℃/秒以上とすることが望ましく、より好ましくは25℃/秒以上である。一方、過度に冷却速度を上げることは、効果が飽和するばかりでなく、大幅な設備投資の増加を招くことから、冷却速度は、900℃/秒以下とすることが望ましい。冷却方法に関しては、特に限定されるものではなく、空冷、ガス冷却、水冷、ミスト、あるいは、その何れかを併用した方法であっても構わない。
水冷後の巻き取り温度は630℃以下にする必要がある。630℃を超えると熱延組織中に粗大なフェライトやパーライト組織が存在するため、焼鈍後の組織不均一性が大きくなり、最終製品の延性が劣化する。焼鈍後の組織を微細にして強度延性バランスを向上させる、更には、第二相を均一分散させ穴拡げ性を向上させる観点からは600℃以下で巻き取ることがより好ましい。また、630℃を超える温度で巻き取ることは、鋼板表面に形成する酸化物の厚さを過度に増大させるため、酸洗性が劣るので好ましくない。下限については特に定めなくとも本発明の効果は発揮されるが、400℃以下の温度で巻き取ると、熱延板の強度が過度に増大し、冷間圧延が困難となることから、下限値を400℃以上とすることが望ましい。なお、熱延時に粗圧延板同士を接合して連続的に仕上げ圧延を行っても良い。また、粗圧延板を一旦巻き取っても構わない。
このようにして製造した熱延鋼板に、酸洗を行う。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、最終製品の冷延高強度鋼板の化成性や、溶融亜鉛あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の冷延鋼板の溶融めっき性向上のためには重要である。また、一回の酸洗を行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。
酸洗した熱延鋼板を圧下率40〜70%で冷間圧延して、連続焼鈍ラインや連続溶融亜鉛めっきラインを通板する。圧下率が40%未満では、形状を平坦に保つことが困難である。また、最終製品の延性が劣悪となるのでこれを下限とする。一方、70%を越える冷延は、冷延荷重が大きくなりすぎてしまい冷延が困難となることから、これを上限とする。45〜65%がより好ましい範囲である。圧延パスの回数、各パス毎の圧下率については特に規定することなく本発明の効果は発揮される。
冷間圧延後、最高加熱温度760〜870℃の間で焼鈍する。760℃未満では、セメンタイトやパーライトからオーステナイトへの逆変態に過度の時間を要するためである。加えて、最高到達温度が、760℃未満では、セメンタイトやパーライトの一部がオーステナイトへと変態できず、焼鈍後も鋼板組織中に残存してしまう。このセメンタイトやパーライトは粗大であることから、穴拡げ性の劣化を引き起こすことから好ましくない。あるいは、オーステナイトが変態して出来たベイナイトやマルテンサイト、あるいは、オーステナイトそのものが加工時にマルテンサイトへと変態することで、540MPa以上の強度を達成可能であることから、セメンタイトやパーライトの一部がオーステナイトへと変態しないと、硬質組織が少なくなりすぎてしまい540MPa以上の強度を確保することが出来ない。このことから、最高加熱温度の下限は760℃とする必要がある。一方、過度に加熱温度を上げることは、経済上好ましくない。このことから加熱温度の上限を870℃とすることが望ましい。
その後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で冷却する必要がある。冷却速度が小さすぎると、冷却過程にてオーステナイトがパーライト組織へと変態することから、540MPa以上の強度に必要な量の硬質組織を確保できない。冷却速度を大きくしたとしても、材質上なんら問題はないが、過度に冷却速度を上げる事は、製造コスト高を招くこととなるので、上限を200℃/秒とすることが好ましい。冷却方法については、ロール冷却、空冷、水冷およびこれらを併用したいずれの方法でも構わない。
引き続き450℃〜300℃の温度域で30秒以上保持する必要がある。これは、オーステナイトを、ベイナイトへと変態させるためである。450℃超の温度域にて保持を行うと、粗大なセメンタイトが粒界に析出するため、穴拡げ性が大幅に劣化する。このことから上限温度を450℃とする。一方、保持温度が300℃未満では、ベイナイト変態がほとんど起こらず、オーステナイトはその後の冷却過程にて、マルテンサイトへと変態することとなる。その結果、フェライト及びベイナイトよりなる組織とすることが出来ず、穴拡げ性が大幅に劣化する。このことから300℃が下限の温度である。
450℃〜300℃の温度域で30秒未満では、ベイナイト組織が形成したとしても、その体積率は、十分でなく、残ったオーステナイトが引き続き行われる冷却過程でマルテンサイトへと変態することから、穴拡げ性に劣る。このことから滞留時間の下限は30秒以上とする。滞留時間の上限は特に定めることなく、本発明の効果を得ることが出来るが、滞留時間の増加は、有限の長さを有する設備での熱処理を考えた場合、通板速度を落とした操業を意味することから、経済性が悪く好ましくない。
なお、保持とは等温保持のみさすのではなく、450〜300℃の温度域で滞留させることを意味する。即ち、一旦、300℃に冷却した後、450℃まで加熱しても良いし、450℃に冷却後300℃まで冷却しても良い。
熱処理後には、表面粗度の制御、板形状制御、あるいは、降伏点伸びの抑制のためには、スキンパス圧延を行うことが望ましい。その際のスキンパス圧延の圧下率は、0.1〜1.5%の範囲が好ましい。スキンパス圧延率は、0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが下限となる。1.5%超えると生産性が著しく低下するのでこれを上限とする。スキンパスは、インラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。
冷延後に溶融亜鉛めっきラインを通板する場合の最高加熱温度も、連続焼鈍ラインを通板する場合と同様の理由により、760〜870℃とする。焼鈍後の冷却に関しても、連続焼鈍ラインを通板する場合と同様の理由により、630℃と570℃間を3℃/秒以上で冷却する必要がある。
めっき浴浸漬板温度は、溶融亜鉛めっき浴温度より40℃低い温度から溶融亜鉛めっき浴温度より50℃高い温度までの温度範囲とすることが望ましい。浴浸漬板温度が溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回ると、めっき浴浸漬進入時の抜熱が大きく、溶融亜鉛の一部が凝固してしまいめっき外観を劣化させる場合があることから、下限を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃とする。ただし、浸漬前の板温度が(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃を下回っても、めっき浴浸漬前に再加熱を行い、板温度を(溶融亜鉛めっき浴温度−40)℃以上としてめっき浴に浸漬させても良い。また、めっき浴浸漬温度が(溶融亜鉛めっき浴温度+50)℃を超えると、めっき浴温度上昇に伴う操業上の問題を誘発する。また、めっき浴は、純亜鉛に加え、Fe、Al、Mg、Mn、Si、Crなどを含有しても構わない。
また、めっき層の合金化を行う場合には、460℃以上で行う。合金化処理温度が460℃未満であると合金化の進行が遅く、生産性が悪い。上限は、540℃を超えると炭化物が形成し硬質組織(マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト)体積率を減少させ、540MPa以上の強度確保が難しくなるので、これが上限となる。
めっき浴浸漬前、あるいは、浸漬後のいずれか一方、あるいは、両方で、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持する付加的な熱処理を行う必要がある。熱処理温度の上限を(亜鉛めっき浴温度+50)℃としたのは、この温度以上では、セメンタイトやパーライトの形成が顕著となり、硬質組織の体積率を減じることから、540MPa以上の強度確保が困難となるためである。一方、300℃未満では、ベイナイト変態の進行が遅すぎてしまい、組織をフェライト及びベイナイトよりなる組織とすることが出来ない。このことから下限は、300℃以上とする。
保持時間は30秒以上とする必要がある。保持時間が30秒未満では、ベイナイト組織が形成したとしても、その体積率は、十分でなく、残ったオーステナイトが引き続き行われる冷却過程でマルテンサイトへと変態することから、穴拡げ性に劣る。このことから滞留時間の下限は30秒以上とする。滞留時間の上限は特に定めることなく、本発明の効果を得ることが出来るが、滞留時間の増加は、有限の長さを有する設備での熱処理を考えた場合、通板速度を落とした操業を意味することから、経済性が悪く好ましくない。保持時間とは、単に等温保持のみを意味するのではなく、この温度域での滞留を意味し、この温度域での除冷や加熱も含まれる。
また、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度範囲での30秒以上の付加的な熱処理も、めっき浴浸漬前、あるいは、浸漬後の何れか一方、あるいは、両方で行っても構わない。これは主相であるフェライトとの結晶方位差が9°未満の硬質組織を確保できるのであれば、いずれの条件で付加的な熱処理を行ったとしても、本発明の効果である540MPa以上の強度と、優れた延性並びに穴拡げ性が得られるためである。
熱処理後には、表面粗度の制御、板形状制御、あるいは、降伏点伸びの抑制のためには、スキンパス圧延を行うことが望ましい。その際のスキンパス圧延の圧下率は、0.1〜1.5%の範囲が好ましい。スキンパス圧延率は、0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが下限となる。1.5%超えると生産性が著しく低下するのでこれを上限とする。スキンパスは、インラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。
また、めっき密着性をさらに向上させるために、焼鈍前に鋼板に、Ni、Cu、Co、Feの単独あるいは複数より成るめっきを施しても本発明を逸脱するものではない。
さらには、めっき前の焼鈍については、「脱脂酸洗後、非酸化雰囲気にて加熱し、H及びNを含む還元雰囲気にて焼鈍後、めっき浴温度近傍まで冷却し、めっき浴に侵漬」というゼンジマー法、「焼鈍時の雰囲気を調節し、最初、鋼板表面を酸化させた後、その後還元することによりめっき前の清浄化を行った後にめっき浴に侵漬」という全還元炉方式、あるいは、「鋼板を脱脂酸洗した後、塩化アンモニウムなどを用いてフラックス処理を行って、めっき浴に侵漬」というフラックス法等があるが、いずれの条件で処理を行ったとしても本発明の効果は発揮できる。また、めっき前の焼鈍の手法によらず、加熱中の露点を―20℃以上とすることで、めっきの濡れ性やめっきの合金化の際の合金化反応に有利に働く。
なお、本冷延鋼板を電気めっきしても鋼板の有する引張強度、延性及び穴拡げ性を何ら損なうことはない。すなわち、本発明鋼板は電気めっき用素材としても好適である。有機皮膜や上層めっきを行ったとしても、本発明の効果は得られる。
また、本発明の成形性と穴拡げ性に優れた高強度高延性溶融亜鉛めっき鋼板の素材は、通常の製鉄工程である精錬、製鋼、鋳造、熱延、冷延工程を経て製造されることを原則とするが、その一部あるいは全部を省略して製造されるものでも、本発明に係わる条件を満足する限り、本発明の効果を得ることができる。
表1に示す化学成分を含有する厚み240mmのスラブを鋳造した。スラブの鋳造の際には、表2に示す圧下量で溶鋼が完全に凝固する前に圧下を行った。
次に、得られたスラブを1230℃に加熱してから、表2及び表3に示す圧下率で圧下しつつ熱延し、更に表2及び表3に示す条件で仕上げ熱間圧延を行った。そして、表2及び表3に示す条件で冷延、焼鈍、冷却および熱処理を行った。このようにして、鋼板を製造した。熱間圧延及び冷延を施した鋼板を表2及び表3ではCRと表記した。
また、一部の鋼板については、上記の熱処理前後において、連続溶融亜鉛めっきラインに通板することで、溶融亜鉛めっき鋼板とした。連続溶融亜鉛めっきラインにおいては、表2または表3に示す条件で焼鈍した後、630℃〜570℃間を表2または表3に示す平均冷却速度以上で420℃〜500℃の範囲まで冷却した後、溶融亜鉛メッキを行い、亜鉛めっき浴に浸漬前、あるいは、浸漬後の何れか一方、あるいは、両方で、表2及び表3に示す熱処理を行った。連続溶融亜鉛めっきを施した鋼板を表2及び表3ではGIと表記した。
更に、他の一部の鋼板については、上記の熱処理前後において、連続溶融亜鉛めっきラインに通板するとともに合金化することで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。連続溶融亜鉛めっきラインにおいては、表2または表3に示す条件で焼鈍した後、630℃〜570℃間を表2または表3に示す平均冷却速度以上で430℃〜500℃まで冷却した後、溶融亜鉛メッキを行い、更に500℃〜550℃の温度で合金化処理を施した。そして、亜鉛めっき浴に浸漬前、浸漬後、あるいは、合金化処理後の何れか、あるいは、全てで、表2及び表3に示す熱処理を行った。連続溶融亜鉛めっきを施し、かつ合金化を行った鋼板を表2及び表3ではGAと表記した。
なお、表2以降において、例えば鋼No.A−1〜A−14は、表1に示す組成の鋼Aを用いた例である。以下、他の鋼B〜Iについても同様である。
Figure 0005136182
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得られた冷延鋼板CR、溶融亜鉛めっき鋼板GI及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板GAについて、Mn偏析度及びMn偏析帯の厚みを測定した。Mn偏析度は、鋼板の断面をEPMA装置で元素分析を行い、板厚方向のMn偏析度(=中心部Mnピーク濃度/平均Mn濃度)を算出した。更に、Mn偏析帯の厚みも測定した。Mn偏析帯は、平均Mn濃度よりも高いMn濃度を示す領域をMn偏析帯とした。結果を表4及び表5に示す。
また、中心偏析部とそれ以外の部分で強度差の有無を調べるため、ビッカース硬度の硬度差を測定した。測定は、荷重50gfにてビッカース試験機による、中心偏析部とそれ以外の部位での硬度をそれぞれ求め、差を硬度差とした。結果を表4及び5に示す。
更に、ミクロ組織の各相、フェライト、パーライト、セメンタイト、マルテンサイト、ベイナイト、オーステナイトおよび残部組織の同定、存在位置の観察および面積率の測定は、ナイタール試薬および特開59−219473号公報に開示された試薬により鋼板圧延方向断面を腐食して、1000倍の光学顕微鏡観察及び1000〜100000倍の走査型および透過型電子顕微鏡により定量化した。結果を表4及び5に示す。
また、得られた冷延鋼板CR、溶融亜鉛めっき鋼板GI及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板GAについて、引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張最大応力(TS)、全伸び(El)を測定した。なお、本鋼板は、フェライトと硬質組織より成る複合組織鋼板であり、降伏点伸びが出現しない場合が多い。このことから、降伏応力は0.2%オフセット法により測定した。TS×Elが、16000(MPa×%)以上となるものを強度-延性バランスが良好な高強度鋼板とした。
穴拡げ率(λ)は、直径10mmの円形穴を、クリアランスが12.5%となる条件にて打ち抜き、かえりがダイ側となるようにし、60°円錐ポンチにて成形し、評価した。各条件とも、5回の穴拡げ試験を実施し、その平均値を穴拡げ率とした。TS×λが、40000(MPa×%)以上となるものを、強度-穴拡げ性バランスが良好な高強度鋼板とした。
結果を表6及び表7に示す。
また、Mnの中心偏析が大きく、かつ、クリアランスが大きな場合、打ち抜き端面、あるいは、切断端面へ、亀裂(剥離)が形成する場合がある。
また、亀裂が生じる条件にて、打ち抜きを行った試験片を加工すると特性が劣化することから、切断後の特性劣化を評価する項目として、打ち抜き端部の損傷も併せて評価した。切断後の端面損傷は、切断する方位によって異なる。このことから、全断面での損傷評価を同時に行うべく、10mmφのポンチにて、打ち抜き加工を行い端面の損傷を調査した。打ち抜き後の亀裂や二次せん断面の合計長さは、全周360°に対して、個別の亀裂の合計長さを、何°として表記した。中心偏析が大きく、板厚方向の硬度差が大きい鋼板にて、亀裂形成が顕著となると共に、詳細な理由は不明なものの、圧延方向に平行な面に沿って亀裂が入り易かった。
切断でも同様の傾向が得られるものの、切断する方向に依存して、亀裂の出易さが変化することから、本発明では、打ち抜き試験により、端面損傷を評価した。打ち抜き端面に形成された亀裂の合計を元に、下記の評点付けを行った。
○:120°以下。
△:120超〜270°以下。
×:270°超。
打ち抜きクリアランスと、切断後の特性比較を行うため、クリアランス12.5%、25.0%、37.5%のいずれの条件でも、打ち抜き端面の亀裂が120°以下となるものを本発明の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板とした。結果を表6及び表7に示す。
また、本発明において、切断あるいは打ち抜き後の伸びフランジ成形性の変化を評価するため、下記の成形手法を用いた。実部材の伸びフランジ部は、不均一な変形を受けることから、伸びフランジ部での破断抑制には、伸び(均一伸び)が優れることが求められる。また、特定部位への変形集中を伴う場合が多く、n値(均一伸び)向上による歪集中の緩和が必要となる。一方、加工された端部は、亀裂が形成しやすいことから、円錐ポンチを用いた穴拡げ試験に代表される端部で亀裂形成し難いことが求められる。しかしながら、穴拡げ試験は、打ち抜き穴周りを均一に変形させるため、実部材で生じる不均一な変形と、歪集中部での亀裂形成といった実部材での伸びフランジ性を評価し難いという問題を有していた。そこで、本発明では、下記の試験方法を用いた。
具体的には、通常行われている円筒ポンチによる穴広げ試験の素板形状を分割し伸びフランジ成形を模擬した図1(a)〜図1(c)に示すよう成形実験を行った。ダイ1は肩Rが5mmで106φのものを用い、しわ押さえ2で拘束した後に、肩R10mm、コーナー半径50mmの100φ円筒平底ポンチ3を用いて成形を行った。
成形に用いた素板は、板厚1.2mmの鋼板を180mm角に切断した後、40φのポンチにて打ち抜きを行った。この際、打ち抜き時のクリアランス変化に伴う特性劣化を調査するため、クリアランスを12.5、25.0.37.5%と種々変化させ、打ち抜き後の伸びフランジ性に及ぼすクリアランスの影響を調査した。その後、1/2に切断し、伸びフランジ試験用の試験片4とした(図2)。
本成形手法では、図1(c)に示すポンチによる成形高さ5を増加させると、試験片4の端部の穴底は、変形を受ける。その結果、延性、特に、均一伸びが劣る材料は、低い成形高さ5においても、穴底に大きな歪集中を生じ、破断に至る。一方、穴拡げ性が劣る材料は、亀裂が入りやすいことから、穴底への歪集中が小さくとも、破断に至る。このことから、不均一な歪集中と、端部への亀裂形成を伴うような実部材の伸びフランジ性評価が可能である。本試験では、穴底に板厚を貫通する亀裂が生じた成形高さ5を伸びフランジ性の指標として評価可能である。即ち、亀裂発生なく高い成形高さが得られるということは、フランジ高さの高い、あるいは、大変形を伴う伸びフランジ加工が可能なことを意味している。
本発明では、打ち抜き条件の影響を見るべく、クリアランスを12.5%、25.0%、37.5%と変化させ、クリアランス12.5%の成形高さ(h12.5)に対する各クリアランスでの成形高さ比を評価した。
クリアランス25.0%における成形高さ比=h(25.0%)/h(12.5%)
クリアランス37.5%における成形高さ比=h(37.5%)/h(12.5%)
クリアランス25.0%と37.5%の何れにおいても、その比が下記範囲を満たすものを切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板と定義した。結果を表6及び表7に示す。本発明の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板は、切断後の延性劣化や、打ち抜き後の穴拡げ試験による穴拡げ値の劣化も少ない。
◎:0.9以上。
○:0.8以上〜0.9未満。
×:0.8未満。
Figure 0005136182
Figure 0005136182
Figure 0005136182
Figure 0005136182
表4〜7に示すように、鋼番号A-1〜3、6、7、9、11、B-1、3、5、6、C-1、3、D-1、3、5、E-1、2、F-1、G-1、2、H-1、I-1、4、6は、鋼板の化学的成分が本発明で規定する範囲内にあり、かつ、製造条件も本発明で規定する範囲内にある。この結果、良好な延性と穴拡げ性を同時に具備し、かつ、打ち抜き時のクリアランスを12.5〜37.5%の広い範囲で変化させたとしても、伸びフランジ性はほとんど変化しない。この結果、540MPa以上の引張最大強度を有しながらも、切断、あるいは、打ち抜き後の特性劣化の少ない高強度鋼板が製造可能である。
一方、表4〜7に示すように、鋼番号A-4、10、12、B-2、7、C-2、D-2、4、6、E-3、F-2、G-3、4、H-2、I-2、5、7は、鋳造時の圧下量が0mmであることから、中心偏析、特に、Mn偏析度や偏析帯の厚みが大きく、大きなクリアランスで打ち抜きを行った場合、打ち抜き後の端面に亀裂が形成し易く、かつ、大きなクリアランスでの打ち抜き後の特性劣化が大きい。即ち、打ち抜き後の特性劣化が大きい。
また、鋼番号A-5、13、B-4、G-5、H-3、I-3は、冷延鋼板であれば、300〜450℃の温度範囲での滞留時間が30秒に満たないことから、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板であれば、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度範囲での滞留時間が30秒に満たないことから、非常に硬質なマルテンサイトが多く出てしまい穴拡げ性に劣る。
更に、鋼番号A-8は、焼鈍温度が720℃と低く、鋼板組織中に、熱延時に形成したパーライト組織や、これが球状化したセメンタイトが残ることから、硬質組織であるベイナイトやマルテンサイトが十分な体積率確保できないため、540MPa以上の高強度を確保できない。また、強度-延性バランスも劣る。
また、鋼番号A-14は、630〜570℃の温度範囲の冷却速度が遅すぎるため、オーステナイトがパーライトへと変態してしまい540MPa以上の高強度を確保できない。また、強度-延性バランスも劣る。
鋼番号J-1、2は、Si及びMnが、それぞれ0.03%及び1.14%と低く、焼鈍後の冷却過程において、パーライト変態を抑制し、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトといった硬質組織を確保することが出来ないため、540MPa以上の高強度を確保できない。
鋼番号K-1は、C含有量が0.027%と低く、十分な量の硬質組織を確保できないことから540MPa以上の高強度を確保できない。
鋼番号L-1〜3は、Mn含有量が3.28%と高く、焼鈍時にオーステナイト体積率が一旦減ると、冷却過程で、十分な量のフェライトを出すことが出来ない。このことから、著しく強度-延性バランスも劣る。
本発明は、自動車用の構造用部材、補強用部材、足廻り用部材に好適な引張り最大強度540MPa以上であり、良好な延性と穴拡げ性を有し、かつ、切断後の特性劣化が少ない鋼板を安価に提供するものであり、この鋼板は例えば自動車用の構造部材や、補強用部材、足回り用部材などに用いて好適なことから、自動車の軽量化に大きく貢献することが期待でき、産業上の効果は極めて高い。
実施例における伸びフランジ成形性の変化を評価するための評価装置を示す図であって、(a)は試験開始前の状態を示す断面模式図であり、(b)は試験開始前の状態を示す平面模式図であり、(c)は試験後の状態を示す断面模式図である。 実施例における伸びフランジ成形性の変化の評価に用いる試験片を示す平面模式図である。

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C :0.05%〜0.20%、
    Si:0.3〜2.00%、
    Mn:1.3〜2.6%、
    P :0.001〜0.03%、
    S :0.0001〜0.01%、
    Al:0.10%未満、
    N :0.0005〜0.0100%、
    O:0.0005〜0.007%
    を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼であり、鋼板組織が主としてフェライトとベイナイトからなり、板厚方向のMn偏析度(=中心部Mnピーク濃度/平均Mn濃度)が1.20以下であり、板厚方向のMn偏析帯の幅が43μm以下であり、引張最大強さが540MPa以上であることを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
  2. さらに、質量%で、
    B:0.0001%以上0.01%未満
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
  3. さらに、質量%で、
    Cr:0.01〜1.0%、
    Ni:0.01〜1.0%、
    Cu:0.01〜1.0%、
    Mo:0.01〜1.0%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
  4. さらに、質量%で、Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.001〜0.14%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
  5. さらに、質量%で、Ca、Ce、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001〜0.5%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の高強度鋼板の表面に亜鉛系めっきを有することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを鋳造するに当たって、板厚方向に圧下を加えつつ鋳造を行って、直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、圧下率70%以上とする熱延を施した後、さらに85%以上の圧下率で仕上温度を820℃〜930℃とする熱間圧延を行った後、水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了し、400〜630℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続焼鈍ラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で冷却し、450℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板の製造方法。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを鋳造するに当たって、板厚方向に圧下を加えつつ鋳造を行って、直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、圧下率70%以上とする熱延を施した後、さらに85%以上の圧下率で仕上温度を820℃〜930℃とする熱間圧延を行った後、水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了し、400〜630℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度―40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、亜鉛めっき浴に浸漬前、あるいは、浸漬後の何れか一方、あるいは、両方で、(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  9. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋳造スラブを鋳造するに当たって、板厚方向に圧下を加えつつ鋳造を行って、直接又は一旦冷却した後1050℃以上に加熱し、圧下率70%以上とする熱延を施した後、さらに85%以上の圧下率で仕上温度を820℃〜930℃とする熱間圧延を行った後、水冷を開始し、720〜800℃間の平均冷却速度が25℃/秒以上の冷却速度で水冷を行い、620〜720℃で水冷を完了し、400〜630℃の温度域にて巻き取り、酸洗後、圧下率40〜70%の冷延を施し、連続溶融亜鉛めっきラインを通板するに際して、最高加熱温度760〜870℃で焼鈍した後、630℃〜570℃間を平均冷却速度3℃/秒以上で(亜鉛めっき浴温度―40)℃〜(亜鉛めっき浴温度+50)℃まで冷却した後、460〜540℃の温度で合金化処理を施し、亜鉛めっき浴に浸漬前、浸漬後、あるいは、合金化処理後の何れか、あるいは、全てで(亜鉛めっき浴温度+50)℃〜300℃の温度域で30秒以上保持することを特徴とする切断後の特性劣化の少ない高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  10. 請求項の方法で高強度鋼板を製造したのち、亜鉛系の電気めっきを施すことを特徴とする請求項に記載の切断後の特性劣化の少ない高強度鋼板の製造方法。
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