本発明は係る事実を考慮し、耐震部材の設置位置の自由度が向上された耐震構造、及び建物を提供することを目的とする。
請求項1に記載の耐震構造は、建物の層を構成し且つ架構の構面外にある上部水平部材と下部水平部材との間に配置されると共に前記上部水平部材及び前記下部水平部材に接合される耐震部材を備え、前記耐震部材が接合される前記上部水平部材の接合部と前記耐震部材が配置された補強層の上層の上部水平部材とを連結する上部補剛手段、及び前記耐震部材が接合される前記下部水平部材の接合部と前記補強層の下層の下部水平部材とを連結する下部補剛手段、の少なくとも一方を備えている。
上記の構成によれば、建物の層を構成し且つ架構の構面外にある上部水平部材と下部水平部材との間に耐震部材が配置されている。この耐震部材は、上部水平部材及び下部水平部材に接合されており、地震等により上部水平部材と下部水平部材との間に相対変形が生じたときに、上部水平部材及び下部水平部材から水平力が伝達される。
ここで、地震荷重等の水平力が建物に作用し、補強層に層間変形が生じると、耐震部材が水平力に抵抗すると共に上部水平部材及び下部水平部材に鉛直力を伝達する。この際、上部水平部材及び下部水平部材の鉛直剛性が小さいと上部水平部材及び下部水平部材が鉛直方向に変形して耐震部材の回転変形が卓越し、耐震部材が本来備えている耐震性能(抵抗力)を発揮できなくなる。
これに対して本耐震構造は、上部補剛手段及び下部補剛手段の少なくとも一方を備えている。この上部補剛手段によって耐震部材が接合された上部水平部材の接合部と耐震部材が配置された補強層の上層の上部水平部材とが連結され、即ち、上部補剛手段によって補強層の上部水平部材の接合部に鉛直剛性が付与されている。また、下部補剛手段によって耐震部材が接合された下部水平部材の接合部と耐震部材が配置された補強層の下層の下部水平部材とが連結され、即ち、下部補剛手段によって補強層の下部水平部材の接合部に鉛直剛性が付与されている。これにより、耐震部材から伝達される鉛直力に対して補強層の上部水平部材と補強層の上層の上部水平部材とが一体となって当該鉛直力に抵抗し、また、補強層の下部水平部材と補強層の下層の下部水平部材とが一体となって当該鉛直力に抵抗する。
従って、補強層の上部水平部材、下部水平部材の接合部における鉛直方向の変形が抑止され、耐震部材が本来備えている耐震性能を発揮し得る。よって、架構の構面外に耐震部材を配置することが可能となり、耐震部材の設置位置の自由度が向上する。
請求項2に記載の耐震構造は、請求項1に記載の耐震構造において、前記上部補剛手段及び前記下部補剛手段の少なくとも一方が、間柱部材である。
上記の構成によれば、上部補剛手段及び下部補剛手段の少なくとも一方を間柱部材で構成することで、単純な構造により上部水平部材、下部水平部材の接合部に鉛直剛性を付与することができる。
請求項3の記載の耐震構造は、請求項2に記載の耐震構造において、前記間柱部材が、第1柱部材と第2柱部材とを上下方向に相対変位可能に連結して構成されており、前記第1柱部材と前記第2柱部材との間に上下方向にせん断変形可能に設けられる粘弾性体と、前記第1柱部材又は前記第2柱部材に設けられ前記第1柱部材と前記第2柱部材との上下方向の相対変位を所定位置で止めるストッパ手段と、を備えている。
上記の構成によれば、間柱部材が、第1柱部材と第2柱部材とから構成され、これらの第1柱部材と第2柱部材とは上下方向に相対変位可能に連結されている。また、第1柱部材と第2柱部材との間には、粘弾性体が上下方向にせん断変形可能に設けられている。更に、第1柱部材又は第2柱部材にはストッパ手段が設けられている。このストッパ手段により、第1柱部材と第2柱部材との上下方向の相対変位が所定の位置で止まるように構成されている。
ここで、第1柱部材又は第2柱部材に耐震部材から鉛直力が伝達されると、第1部柱材と第2柱部材とが上下方向に相対変位し、この相対変位に伴って粘弾性体がせん断変形する。これにより、粘弾性体において振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、振動が低減される。
また、第1柱部材と第柱2部材との相対変位が所定量に達するとストッパ手段が機能して、第1柱部材と第2柱部材との相対変位が制限され、第1柱部材及び第2柱部材とが一体となって鉛直力に抵抗する。これにより、補強層を構成する上部水平部材及び下部水平部材に鉛直剛性が付与される。
従って、風荷重等の微振動に対しては、粘弾性体の減衰性能によって微振動を低減することができ、地震荷重等の大きな振動に対しては、ストッパ手段が機能することで耐震部材の回転変形が抑制されて、当該耐震部材に本来備えている耐震性能を発揮させることができる。よって、耐震部材の耐震性能を維持しつつ、風荷重等による微振動を低減することができ、建物の環境性能を向上させることができる。
請求項4に記載の耐震構造は、請求項1に記載の耐震構造において、前記上部補剛手段及び前記下部補剛手段の少なくとも一方が、折り筋を縦にして配置された補剛用波形鋼板である。
上記の構成によれば、上部補剛手段及び下部補剛手段の少なくとも一方を補剛用波形鋼板で構成する。従って、地震荷重等の水平力が建物に作用し、補強層の上層又は下層に層間変形が生じたときに、補剛用波形鋼板が水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。また、水平力に対して補剛用波形鋼板が降伏するように設計することで、地震エネルギーが鋼板の塑性変形エネルギーに変換され、大地震時等の振動が低減される。
更に、この耐震構造では、折り筋を縦にして補剛用波形鋼板を配置している。折り筋を横にして補剛用波形鋼板を配置した場合、耐震部材から伝達される鉛直力に対して補剛用波形鋼板がアコーディオンのように伸縮する。これに対して、折り筋を縦にして補剛用波形鋼板を配置した場合、耐震部材から伝達される鉛直力に対して補剛用波形鋼板がアコーディオンのように伸縮しない。即ち、折り筋を横にして補剛用波形鋼板を配置する場合と比較して、耐震部材が接合される補強層の上部水平部材又は下部水平部材の接合部に付与される鉛直剛性が大きくなる。従って、上部水平部材又は下部水平部材の接合部の鉛直方向の変形が抑止され、耐震部材に本来備えている耐震性能を発揮させることができる。
請求項5に記載の耐震構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載の耐震構造において、前記耐震部材が、折り筋を横にして配置される波形鋼板と、前記波形鋼板の上下の端辺に沿って設けられ、前記第1水平部材又は前記第2水平部材に接合される横フランジと、前記波形鋼板の左右の端辺に沿って設けられ、前記第1水平部材及び前記第2水平部材に鉛直力を伝達する縦フランジと、を備えている。
上記の構成によれば、耐震部材が波形鋼板とされている。この波形鋼板には、横フランジ及び縦フランジが設けられている。横フランジは、波形鋼板の上下の端辺に沿ってそれぞれ設けられており、この横フランジを補強層の上部水平部材又は下部水平部材に接合することで、補強層に波形鋼板が配置される。また、縦フランジは、波形鋼板の左右の端辺に沿ってそれぞれ設けられており、この縦フランジから波形鋼板が負担する水平力が補強層の上部水平部材及び下部水平部材の接合部に伝達される。
地震荷重等の水平力が建物に作用し、補強層を構成する上部水平部材と下部水平部材との間に層間変形が生じると、波形鋼板が水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板が降伏するように設計することで、地震エネルギーが鋼板の塑性変形エネルギーに変換され、大地震時の振動が低減される。この際、波形鋼板に発生したせん断力が、水平方向の力として当該波形鋼板に作用すると共に、せん断力によって生じる曲げモーメントを縦フランジ間の距離(横フランジの長さ)で除した力に相当する力が、鉛直方向の力(鉛直力)として縦フランジに作用する。この鉛直力は、縦フランジを介して上部水平部材及び下部水平部材の接合部に伝達される。ここで、一般的に構面外に波形鋼板を配置すると、この鉛直力によって上部水平部材、下部水平部材の接合部が鉛直方向に変形し、波形鋼板の回転変形が卓越してしまう。
これに対して本耐震構造では、上部補剛手段、下部補剛手段によって、上部水平部材又は下部水平部材の接合部に鉛直剛性が付与されている。従って、波形鋼板の回転変形が抑制され、波形鋼板に本来備えている耐震性能、制震性能を発揮させることができる。
請求項6に記載の耐震構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載の耐震構造において、前記耐震部材が、鉄筋コンクリート造の壁部材である。
上記の構成によれば、耐震部材が鉄筋コンクリート造の壁部材とされている。
地震荷重等の水平力が建物に作用し、補強層に層間変形が生じると、壁部材が水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。この際、壁部材の幅方向両端部には、せん断力によって生じる曲げモーメントを壁部材の長さ(壁部材の幅)で除した力に相当する力が、鉛直方向の力として作用する。ここで、一般的に構面外にRC耐震壁を配置すると、この鉛直力によって、上部水平部材及び下部水平部材の接合部が鉛直方向に変形し、RC耐震壁の回転変形が卓越してしまう。
これに対して本耐震構造では、上部補剛手段、下部補剛手段によって、上部水平部材又は下部水平部材の接合部に鉛直剛性が付与されている。従って、壁部材の回転変形が抑制され、壁部材に本来備えている耐震性能、制震性能を発揮させることができる。
請求項7に記載の耐震構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載の耐震構造において、前記耐震部材が、前記補強層の前記上部水平部材と前記下部水平部材との間に斜めに架け渡されるブレースである。
上記の構成によれば、耐震部材がブレースとされている。このブレースは、補強層の上部水平部材と下部水平部材との間に斜めに架け渡されている。
地震荷重等の水平力が建物に作用し、補強層に層間変形が生じると、当該ブレースが抵抗して耐震性能を発揮する。ここで、一般的に構面外にブレースを配置すると、ブレースからの軸力によって上部水平部材及び下部水平部材の接合部が鉛直方向に変形し、ブレースの回転変形が卓越してしまう。
これに対して本耐震構造では、上部補剛手段、下部補剛手段によって、上部水平部材又は下部水平部材の接合部に鉛直剛性が付与されている。従って、ブレースの回転変形が抑制され、ブレースに本来備えている耐震性能、制震性能を発揮させることができる。更に、ブレースに、上部水平部材及び下部水平部材よりも降伏点が小さい鋼材を用いることで(いわゆるアンボンドブレース)、地震エネルギーが鋼板の塑性変形エネルギーに変換され、大地震時等の振動が低減される。
請求項8に記載の耐震構造は、請求項1〜7の何れか1項に記載の耐震構造において、前記耐震部材が配置された層の各下層には、平面視したときに前記下部補剛手段が重なるように配置され、前記建物の基礎部に鉛直力を伝達する。
上記の構成によれば、耐震部材が配置された補強層の各下層には、下部補剛手段が配置されている。これらの下部補剛手段を平面視すると、各下部補剛手段が重なって配置されていている。
このように各下層に配置された下部補剛手段によって、補強層の下部水平部材の接合部が建物の基礎部で支持され、耐震部材から伝達される鉛直力が建物の基礎部に伝達される。即ち、補強層の下部水平部材の接合部に鉛直剛性が付与され、耐震部材に本来備えている耐震性能を発揮させることができる。
請求項9に記載の建物は、請求項1〜8の何れか1項に記載の耐震構造を有している。
上記の構成によれば、請求項1〜8の何れか1項に記載の耐震構造を有することにより、耐震性能が向上された建物を構築することができる。
本発明は、上記の構成としたので、波形鋼板の設置位置の自由度を向上させることができる。
図面を参照しながら、本発明の耐震構造について説明する。以下、本発明の耐震構造を鉄筋コンクリート造(以下、「RC造」という)の建物に適用した場合を例に説明するが、本発明の耐震構造は、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造、鉄骨造等の種々の構造の建物に適用可能である。
先ず、本発明の第1の実施形態に係る耐震構造10が適用された建物12について説明する。図1は、複数層からなる建物12の補強層14を示す斜視図であり、図2は、補強層14を示す正面図である。
耐震構造10は波形鋼板16(耐震部材)を備え、この波形鋼板16は補強層14に配置されている。補強層14は、上部水平部材18、下部水平部材20、及びRC造の柱22から構成されている。上部水平部材18はRC造の梁24、26とRC造のスラブ28とから構成されており、これらの梁24、26によってスラブ28が支持されている。また、下部水平部材20はRC造の梁30、32とRC造のスラブ34とから構成されており、これらの梁30、32によってスラブ34が支持されている。更に、これらの柱22と梁24、26、30、32によって複数の架構が構成されている。
次に、耐震部材としての波形鋼板16の構成について説明する。
波形鋼板16は、上部水平部材18と下部水平部材20との間であって、柱22と梁24、26、30、32から構成される架構の構面外に配置されており、平面視にて当該波形鋼板16(波形鋼板16の壁面)が梁24、26、30、32と交差(略直交)するように配置されている。
なお、構面外とは、建物を構成する上下に配置された小梁、大梁又はスラブ等からなる水平部材の間の空間であり、かつ柱等の鉛直部材と水平部材とによって囲まれた架構の構面以外の空間を意味する。
波形鋼板16の上下の端辺には、鋼製の横フランジ36A、36Bがそれぞれ設けられている。この横フランジ36A、36Bはプレート状に形成され、波形鋼板16の上下の端部に沿って溶接固定されている。また、波形鋼板16の左右の端部には鋼製の縦フランジ38A、38Bがそれぞれ設けられている。この縦フランジ38A、38Bはプレート状に形成され、波形鋼板16の左右の端部に沿って溶接固定されている。これらの横フランジ36A、36B及び縦フランジ38A、38Bは、各々の端部同士が溶接等によって接合されており、波形鋼板16の外周を囲む枠体40を構成している。この波形鋼板16と枠体40とによって、波形鋼板耐震壁17が構成されている。
なお、波形鋼板16は、梁24、26の間に配置され、梁24、26の内側側面に縦フランジ38A、38Bを接触または近接させて補強層14に配置されている。
波形鋼板16は、横フランジ36A、36Bをスラブ28又はスラブ34に接合することにより、上部水平部材18と下部水平部材20との間に、その折り筋16Aを横(折り筋16Aの向きを横方向)にして配置されている。具体的には、図3に示すように、横フランジ36Bにはボルト孔42が形成され、スラブ34の上面にはアンカーナット44が埋設されている。横フランジ36Bとスラブ34とは、接着剤Uによって接着されており、更に、ボルト46をアンカーナット44に捻じ込むことでせん断力を伝達可能に接合される。この方法と同様の方法により横フランジ36Aとスラブ28とがせん断力を伝達可能に接合されている。
なお、横フランジ36A、36Bとスラブ28、34とはせん断力を伝達可能に接合できれば良く、種々の接合方法を採用し得る。例えば、せん断力伝達要素としてのスタッドが溶接された接合用プレートを、スタッドをスラブ34に埋設してスラブ34と一体化させ、この接合用プレートに横フランジ36Bを溶接又はボルト等により接合しても良い。また、接着工法を用いて、エポキシ樹脂等の接着剤により横フランジ36Bとスラブ34とを接着固定しても良い。更に、横フランジ36A、36B及び縦フランジ38A、38Bの形状は、プレート状に限らず、H型鋼やL型鋼等を使用しても良い。
横フランジ36A、36Bの長手方向両側には、補強手段としての鋼製の板材48A、48Bがそれぞれ設けられ、梁30、32の上面又は梁24、26の下面に配置されている。この板材48A、48Bと縦フランジ38A、38Bとの間には、リブプレート50が設けられている。リブプレート50は、板材48A、48Bと縦フランジ38A、38Bとにまたがって溶接されており、これらのリブプレート50を介して縦フランジ38A、38Bから板材48A、48Bにせん断力(鉛直力)が伝達可能とされている。また、板材48A、48Bには貫通孔49が形成されており、後述するPC鋼棒52及びナット54によって、これらの板材48A、48Bが各梁24、26、30、32に固定される。
なお、波形鋼板16と上部水平部材18または下部水平部材20との接合部とは、横フランジ36A、36Bまたは板材48A、48Bから鉛直力が伝達される上部水平部材18、下部水平部材20の部位をいう。
次に、上部補剛手段及び下部補剛手段の構成について説明する。
図2に示すように、補強層14の上層56を構成する上部水平部材70は、RC造の梁74、76とRC造のスラブ78とから構成され、補強層14の下層58の構成する下部水平部材72は、RC造の梁80、82とRC造のスラブ84とから構成されている。
なお、補強層14と上層56とは、上部水平部材18を共用しており、補強層14と下層58とは、下部水平部材20を共用している。
補強層14の梁24、26と上層56の梁74、76との間には、上部補剛手段としての間柱部材60、62がそれぞれ配置され、これらの間柱部材60、62によって補強層14の上部水平部材18の接合部と上層56の上部水平部材70とが連結されている。また、補強層14の梁30、32と下層58の梁80、82との間には、下部補剛手段としての間柱部材64、66がそれぞれ配置され、これらの間柱部材64、66によって補強層14の下部水平部材20の接合部と下層58の下部水平部材72とが連結されている。各間柱部材60、62、64、66は角型鋼管から構成されており、軸方向両端部には取付プレート68A、68Bが設けられている。
図3に示すように、間柱部材66に設けられた取付プレート68A、68Bには貫通孔86が形成され、各梁32、82には貫通孔88が形成されている。これらの貫通孔86、88、及び板材48Aの貫通孔49に貫通されるPC鋼棒52及びナット54によって、取付プレート68Aが梁32に接合されている。一方、取付プレート68Bは、梁82の上面に載置され、この梁82の下面には鋼製の板材90が配置されている。この板材90には貫通孔が形成され、これらの貫通孔86、88等に貫通されるPC鋼棒52及びナット54によって、取付プレート68Bが梁82に接合されている。これにより、波形鋼板16が接合された梁32の接合部が間柱部材66によって支持されると共に、補強層14の下部水平部材20と下層58の下部水平部材72とが一体化され、梁32に鉛直剛性が付与されている。
また、梁32、82の貫通孔88、梁32と板材48Aとの間、梁32と取付プレート68Aとの間、梁82と取付プレート68Bとの間、梁82と板材90との間には、それぞれグラウトGが充填され、このグラウトGにより間柱部材66の施工誤差の吸収、及び接合強度の確保が実現されている。また、PC鋼棒52により板材48Aと取付プレート68A、または取付プレート68Bと板材90とを緊結することで、梁32、82に曲げ耐力が付与されている。
なお、間柱部材66は、梁32と梁82とを一体的に連結できれば良く、上記の接合方法に限らない。例えば、図4に示すように、梁32上面及び下面にアンカーナット44をそれぞれ埋設し、このアンカーナット44にボルト46を捻じ込むことで、梁32と板材48A及び梁32と取付プレート68Aとを接合しても良い。同様に、梁82の上面にアンカーナット44を埋設し、このアンカーナット44にボルト46を捻じ込むことで、梁82と取付プレート68Bとを接合しても良い。また、接着剤U及びグラウトG等は、必要に応じて適宜設ければ良く、必ずしも必要ではない。また、PC鋼棒52以外の棒材やPC鋼線等を用いても良い。
また、間柱部材66を例に説明したが、間柱部材66と同様の方法により他の間柱部材60、62、64によって、補強層14の上部水平部材18と上層56の上部水平部材70とが連結され、または、補強層14の下部水平部材20と下層58の下部水平部材72とが連結されている。
次に、本発明の第1の実施形態に係る耐震構造10の作用について説明する。
地震荷重等の水平力が建物12に作用し、補強層14を構成する上部水平部材18と下部水平部材20との間に層間変形が生じると、波形鋼板16が水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板16が降伏するように設計することで、地震エネルギーが鋼板の塑性変形エネルギーに変換され、大地震時等に振動が低減される。この際、波形鋼板16に発生したせん断力が、水平方向の力として波形鋼板16に作用すると共に、せん断力によって生じる曲げモーメントを縦フランジ38A、38Bの間の距離(横フランジ36A、36Bの長さ)で除した力に相当する力が、鉛直方向の力(図5における鉛直力FA、FB)として縦フランジ38A、38Bに作用する。この鉛直力FA、FBは、リブプレート50、板材48A、48Bを介して、上部水平部材18又は下部水平部材20の接合部に伝達される。なお、図5では、この鉛直力FBによって下部水平部材20に生じる曲げモーメント図を示している。
ここで、一般的に構面外に波形鋼板16を配置すると、この鉛直力FA、FBによって上部水平部材18、下部水平部材20の接合部が鉛直方向に変形し、図26(B)で説明したように、波形鋼板16の回転変形が卓越してしまい、波形鋼板16に本来備えているせん断耐力及びせん断剛性を十分に発揮させることができない。
これに対して耐震構造10では、間柱部材60、62、64、66によって上部水平部材18又は下部水平部材20の接合部に鉛直剛性が付与されている。即ち、間柱部材60、62によって上部水平部材18の接合部と上層56の上部水平部材70とが連結され、上部水平部材18の接合部に鉛直剛性が付与されている。これにより、波形鋼板16の縦フランジ38A、38Bから伝達される鉛直力FAに対して、補強層14の上部水平部材18と上層56の上部水平部材70とが一体となって抵抗する。
また、間柱部材64、66によって下部水平部材20の接合部と下層58の下部水平部材72とが連結され、下部水平部材20の接合部に鉛直剛性が付与されている。これにより、波形鋼板16の縦フランジ38A、38Bから伝達される鉛直力FBに対して、補強層14の下部水平部材20と下層58の下部水平部材72とが一体となって抵抗する。
このように耐震構造10では、波形鋼板16が接合された上部水平部材18又は下部水平部材20の接合部に鉛直剛性が付与されているため、波形鋼板16の回転変形が抑制され、波形鋼板16に本来備えているせん断耐力及びせん断剛性を発揮させることができる。
また、耐震構造10では、図3に示すように、板材48Aと取付プレート68AとをPC鋼棒52によって緊結することで梁32に曲げ耐力を付与している。従って、当該部における曲げ降伏を防止し、梁32の曲げ変形を抑止することができる。
なお、梁32に対する補強については、図6に示すように、梁32の下面から側面かけて炭素繊維シート94を密着させ、これを梁32の下端部付近で後施工アンカー(不図示)等によって固定して、梁32に曲げ耐力を付与しても良い。この炭素繊維シート94は、その両端部を上方に引っ張り上げ、テンションをかけられた状態で後施工アンカーにより保持される。また、図7に示すように、取付プレート68Aを梁32の幅方向両側へそれぞれ延出させ、スラブ34を貫通するPC鋼棒52により板材48Aと取付プレート68Aとを接合しても良い。
更に、角型鋼管からなる間柱部材60、62、64、66を用いることで、単純な構造により補強層14の上部水平部材18及び下部水平部材20に鉛直剛性を付与することができる。
次に、本発明の第1の実施形態に係る耐震構造10の変形例について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
本変形例では、図8に示すように、梁24、26から縦フランジ38A、38Bを離して波形鋼板16を補強層14に配置する。そして、間柱部材60、62によって補強層14のスラブ28と上層56のスラブ78とを連結し、間柱部材64、66によって補強層14のスラブ34と下層58のスラブ84とを連結する。
図9(A)に示すように、波形鋼板16の縦フランジ38Bの下方には、間柱部材66が配置されている。この間柱部材66は、当該間柱部材66の幅方向中央部に縦フランジ38Bが位置するように配置されている。波形鋼板16の横フランジ36Bは縦フランジ38Bの外側に延出されている。この縦フランジ38Bの延出部には貫通孔102が形成され、また、スラブ34には貫通孔104が形成されている。これらの貫通孔102、104、及び取付プレート68Aの貫通孔86に貫通されるPC鋼棒52及びナット54によって、取付プレート68Aがスラブ34に接合されている。これにより、波形鋼板16が接合されたスラブ34の接合部が間柱部材66によって支持されると共に、補強層14の下部水平部材20と下層58の下部水平部材72とが一体化され、スラブ34の接合部に鉛直剛性が付与されている。
また、貫通孔104、横フランジ36Bとスラブ34との間、スラブ34と取付プレート68Aとの間にはそれぞれグラウトGが充填され、このグラウトGにより間柱部材66の接合強度が確保されている。
なお、図9(B)に示すように、横フランジ36Bを梁32の上面まで延ばすと共に梁32の下面に鋼製の板材90を配置して、これらの横フランジ36Bと板材90とを、梁32を貫通するPC鋼棒52で緊結しても良く、また、取付プレート68Aを梁32の内側側面まで延ばしてスラブ34の下面に配置し、これらの取付プレート68Aと横フランジ36Bとを、スラブ34を貫通するPC鋼棒52で緊結しても良い。これにより、縦フランジ38Bと梁32との間のスラブ34の部位に曲げ剛性が付与される。なお、図9(B)に示す構成では、横フランジ36B及び取付プレート68Aをそれぞれ梁32側へ延出させたが、横フランジ36B及び取付プレート68Aとは別の板材を、縦フランジ38Bと梁32との間のスラブ34の上面及び下面に配置して、スラブ34に曲げ耐力を付与しても良い。
更に、間柱部材66は、波形鋼板16とスラブ34との接合部を支持していれば良いが、波形鋼板16が負担するせん断力は、縦フランジ38Bを介して鉛直力としてスラブ34に伝達されるため、縦フランジ38Bの直下に間柱部材66を配置することが好ましい。縦フランジ38Bの直下に間柱部材66を配置しない場合は、縦フランジ38Bの直下から間柱部材66による支持部に至るまでのスラブ34の部位を鉄板や炭素繊維シート等で補強しても良い。
また、間柱部材66を例に説明したが、間柱部材66と同様の方法より、他の間柱部材60、62、64によって、補強層14のスラブ28と上層56のスラブ78とが連結され、または、補強層14のスラブ34と下層58のスラブ84とが連結されている。
このように間柱部材60、62により補強層14のスラブ28と上層56のスラブ78とを連結し、間柱部材64、66により補強層14のスラブ34と下層58のスラブ84とを連結することで、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、図10に示すように、スラブ34と梁80、82との間に間柱部材64、66を斜めに架け渡し、補強層14のスラブ34と下層58の梁80、82とを連結することも可能である。
更に、図11(A)及び図11(B)に示すように、板材48A、48Bを梁24、26の側面または梁30、32の上面にまで延ばし、これらの梁24、26、30、32を間柱部材60、62、64、66で支持しても良い。この場合、図12に示すように、縦フランジ38Bと梁32との間のスラブ34の下面に鋼製の板材106を配置し、スラブ34を補強しても良い。この板材106と板材48AとをPC鋼棒52等によって連結することで、当該スラブ34の部位に曲げ耐力を付与することができる。
なお、板材48A、48Bは、横フランジ36A、36Bと一体化させても良いし、横フランジ36A、36Bと別の部材として構成しても良い。
次に、本発明の第2の実施形態に係る耐震構造110について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
図13(A)〜図13(C)及び図14(A)〜図14(C)に示すように、耐震構造110は間柱部材64、66に替えて制震間柱部材112、114を備えている。なお、下部補剛手段としての制震間柱部材112、114について説明するが、上部補剛手段としての間柱部材60、62にも適用可能である。また、制震間柱部材112(間柱部材)と制震間柱部材114(間柱部材)とは、同一構成であるため制震間柱部材114を例に説明する。
制震間柱部材114は、上部柱部材116(第1柱部材)及び下部柱部材118(第2柱部材)を備えている。上部柱部材116の上端部には取付プレート68Aが設けられており、この取付プレート68Aを梁32の下面に接合することにより上部柱部材116が梁32に接合されている。また、上部柱部材116の下端部には開口部120が設けられている。更に、上部柱部材116の下端部の側壁には、開口部120に通じる一対の貫通孔122が形成されている。
下部柱部材118の下端部には、取付プレート68Bが設けられている。この取付プレート68Bを梁82(図2参照)の上面に接合することにより下部柱部材118が梁82に接合されている。また、下部柱部材118には連結板124が設けられている。この連結板124は下部柱部材118の上端面に突設されており、開口部120に挿入されている。また、連結板124には上下方向に延びる長孔126(ストッパ手段)が形成されており、この長孔126及び一対の貫通孔122に貫通されるストッパピン128(ストッパ手段)によって上部柱部材116と下部柱部材118とが上下方向に相対変位可能に連結されている。更に、開口部120の内壁と連結板124との間には、粘弾性体130がそれぞれ設けられている。この粘弾性体130はシート状に形成され、開口部120の内壁及び連結板124の側面に接着固定されており、上部柱部材116と下部柱部材118とが上下方向に相対変位することで上下方向にせん断変形可能とされている。なお、粘弾性体130には、長孔126とほぼ同一形状、大きさの長孔130Aが形成されており、この長孔130Aにストッパピン128が貫通されている。また、長孔126の上縁部126Aまたは下縁部126Bにストッパピン128が当接することで、上部柱部材116と下部柱部材118との上下方向に相対変位が所定の位置で止まるように構成されている。
なお、粘弾性体130の材料としては、例えば、ジエン系ゴム、ブチル系ゴム、アクリル系、ウレタンアスファルト系ゴム等を用いられる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る耐震構造110の作用について説明する。
図14(A)〜図14(C)は、上部柱部材116と下部柱部材118との上下方向の相対変位を示す作動図であり、図14(A)は停止状態を示しており、図14(B)及び図14(C)は上部柱部材116に対して下部柱部材118が上方または下方に相対変位した後の状態を示している。
風や小規模の地震等によって建物12に水平力が作用し、波形鋼板16の縦フランジ38Bから制震間柱部材114に鉛直力FA、FB(図5参照)が伝達されると、上部柱部材116と下部柱部材118とが、長孔126が許容する範囲内で上下方向に相対変位し、これにより粘弾性体130がせん断変形する。従って、粘弾性体130において振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、微振動が低減される。よって、建物12の居住性が向上する。
また、上部柱部材116と下部柱部材118との相対変位が所定量に達して、長孔126の上縁部126Aまたは下縁部126Bにストッパピン128が当接すると、上部柱部材116と下部柱部材118との相対変位が止められ(制限され)、上部柱部材116及び下部柱部材118が一体となって鉛直力FA、FBに抵抗する。これにより、梁30、32に鉛直剛性が付与される。
従って、風荷重等の微振動に対しては、粘弾性体130が減衰性能によって微振動を低減することができ、地震荷重等の大きな振動に対しては、波形鋼板16の回転変形が抑制されて、波形鋼板16に本来備えている耐震性能、制震性能を発揮させることができる。よって、波形鋼板16の耐震性能を維持しつつ、風荷重等による微振動を低減することができ、建物12の環境性能を向上させることができる。
また、ストッパピン128によって、上部柱部材116と下部柱部材118との相対変位が所定範囲内に制限されているため、粘弾性体130の破損、損傷が防止される。
次に、本発明の第3の実施形態に係る耐震構造140について説明する。なお、第1、第2の実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
図15に示すように、第3の実施形態では下部補剛手段として補剛用波形鋼板142を用いる。なお、下部補剛手段を例に説明するが、補剛用波形鋼板142は上部補剛手段にも適用可能である。
補強層14の下層58には、補剛用波形鋼板142が、その折り筋142Aを縦(折り筋142Aの向きを上下方向)にして配置されている。補剛用波形鋼板142の外周部には、横フランジ36A、36B及び縦フランジ38A、38Bからなる枠体40が設けられている。補剛用波形鋼板142は、横フランジ36A、36Bを梁32またはスラブ84に接合するにより、補強層14の梁32と下層58のスラブ84とを連結している。この補剛用波形鋼板142と枠体40とによって波形鋼板耐震壁143が構成されている。
波形鋼板耐震壁143は、波形鋼板耐震壁17の縦フランジ38Bの直下に配置され、また、平面視にてその壁面が波形鋼板耐震壁17の壁面と略直交するように配置されている。波形鋼板耐震壁17の板材48Aと波形鋼板耐震壁143の横フランジ36AとはPC鋼棒52によって連結されている。これにより、補剛用波形鋼板142が下部水平部材20の接合部に鉛直剛性を付与するだけでなく、下部水平部材20の接合部に曲げ耐力が付与されている。また、波形鋼板耐震壁143は、下層58の左右の柱22とは接合されておらず、縦フランジ38A、38Bと柱22との間に開口が設けられている。
次に、本発明の第3の実施形態に係る耐震構造140の作用について説明する。
地震荷重等の水平力が建物12に作用し、補強層14の下層58に層間変形が生じると、補剛用波形鋼板142が水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。また、水平力に対して補剛用波形鋼板142が降伏するように設計することで、地震エネルギーが鋼板の塑性変形エネルギーに変換され、大地震時等の振動が低減される。
更に、この耐震構造140では、折り筋142Aを縦(折り筋142Aの向きを上下方向)にして補剛用波形鋼板142を下層58に配置している。折り筋142Aを横にして補剛用波形鋼板142を配置した場合、補強層14に配置された波形鋼板耐震壁17の縦フランジ38Bから伝達される鉛直力FBに対して補剛用波形鋼板142がアコーディオンのように伸縮する。これに対して、折り筋142Aを縦にして補剛用波形鋼板142を配置した場合、波形鋼板耐震壁17の縦フランジ38Bから伝達される鉛直力FBに対して補剛用波形鋼板142がアコーディオンのように伸縮しない。即ち、折り筋142Aを横にして補剛用波形鋼板142を配置する場合と比較して、波形鋼板16が接合される補強層14の下部水平部材20の接合部に付与される鉛直剛性が大きくなる。従って、波形鋼板16の回転変形が抑止され、波形鋼板16に本来備えている耐震性能を発揮させることができる。
このように下部補剛手段を補剛用波形鋼板142で構成することで、補強層14の下部水平部材20の接合部に鉛直剛性を付与しつつ、補剛用波形鋼板142自体が耐震要素として機能するため、建物12全体の耐震性能が向上する。
なお、波形鋼板耐震壁143の施工においては、補剛用波形鋼板142に軸力が導入されないように、補剛用波形鋼板142を下部水平部材20に接合する時期を考慮することが望ましい。具体的な対策の1つとして、施工中の柱部材等の軸変形が収束する、施工の最終段階で補剛用波形鋼板142を設置することが望ましい。
また、波形鋼板耐震壁143は、図16に示すように、波形鋼板耐震壁143と下層58の柱22との間に開口を設けずに、縦フランジ38A、38Bを柱22に接近させ、または接合させても良い。また、補剛用波形鋼板142に替えて、RC造の耐震壁や後述する鋼材系、鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造等のブレースを上部補剛手段または下部補剛手段として用いても良い。
また、第1〜第3の実施形態における耐震構造10、110、140は、上部補剛手段及び下部補剛手段の少なくとも一方を備えていれば良い。例えば、第1の実施形態において、補強層14の上層56に間柱部材60、62を配置せずに、補強層14の下層58にのみ間柱部材64、66を配置しても良いし、間柱部材66のみを配置しても良い。
また、建物12には、複数層に渡って上下方向に隣接して波形鋼板16を設置することができる。例えば、図17に示す構成では、3つの層に渡って上下方向に隣接するように波形鋼板16(合計3つ)を配置している。なお、説明の便宜上、波形鋼板16が配置された層を上から順に補強層14A、14B、14Cとして説明する。この場合、補強層14Bには、補強層14Aの下部水平部材20に鉛直剛性を付与する下部補強手段としての間柱部材64、66と、波形鋼板16とを併設して配置することができる。また、補強層14Bに配置された間柱部材64、66は、補強層14Cの上部水平部材18に鉛直剛性を付与する上部補強手段としても機能する。このように本発明における補強層の上層とは、波形鋼板が配置された補強層の直上層を意味し、補強層の下層とは波形鋼板が配置された補強層の直上層を意味する。この場合、補強層の上層又は下層に波形鋼板が配置されていても良いし、波形鋼板が配置されていなくても良い。
また、図18に示すように、複数層に渡って波形鋼板16を複数配置する場合において、波形鋼板16を上下方向に隣接させずに配置することも可能である。この場合、各波形鋼板16を基準として相対的に補強層14、補強層の上層56、補強層の下層58を決定すれば良い。例えば、図18に示す構成では、左側に配置された波形鋼板16を基準とすると3層のうち真中の層が補強層14となり、右側に配置された波形鋼板16を基準とすると、3層のうち一番の上の層が補強層14となる。
また、図19に示すように、補強層14から建物12の基礎部132までの各下層58に間柱部材64、66や制震間柱部材112、114(不図示)、補剛用波形鋼板142(不図示)等を配置しても良い。この場合、波形鋼板16が接合された補強層14の下部水平部材20の接合部が、間柱部材64、66等を介して基礎部132に連結支持される。具体的には、図20に示すように、平面視にて各下層58の間柱部材66、波形鋼板耐震壁143等が互いに重なるように配置する。これにより、波形鋼板耐震壁17の縦フランジ38A、38Bから下部水平部材20に伝達される鉛直力が基礎部132へ伝達される。従って、下部水平部材20の接合部に付与される鉛直剛性が大きくなり、下部水平部材20の接合部の鉛直方向の変形を更に抑制することができる。
更に、第1〜3の実施形態における耐震構造10、110、140では、耐震部材としての波形鋼板16(波形鋼板耐震壁17)を補強層14に配置したがこれに限らない。例えば、図21に示すように、波形鋼板16に替えてRC造のRC耐震壁134(壁部材)を補強層14に配置しても良い。
この場合、地震荷重等の水平力が建物12に作用し、補強層14に層間変形が生じると、RC耐震壁134が水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。この際、RC耐震壁134の幅方向両端部には、せん断力によって生じる曲げモーメントをRC耐震壁134の長さ(耐震壁134の幅)で除した力に相当する力が鉛直方向の力(鉛直力)としてスラブ28、34の接合部に集中して作用する。従って、RC耐震壁134の幅方向両端部とスラブ28、34との接合部に間柱部材60、62、64、66と接合することが望ましい。これにより、スラブ28、34の接合部に鉛直剛性が付与され、当該接合部の鉛直方向の変形が抑制される。よって、RC耐震壁134の回転変形が抑制され、RC耐震壁134に本来備えている耐震性能、制震性能を発揮させることができる。
更にまた、図22に示すように、耐震部材としての鋼材ブレース136A、136Bを補強層14に配置しても良い。これらの鋼材ブレース136A、136Bは、スラブ28とスラブ34との間に斜めに架け渡され、X型に交差されてスラブ28、34の間に配置されている。また、これらの鋼材ブレース136A、136Bは、スラブ28、34に固定されたガゼットプレート138にボルトまたは溶接等によって固定されている。
この場合、地震荷重等の水平力が建物12に作用し、補強層14に層間変形が生じると、鋼材ブレース136A、136Bが水平力に抵抗して耐震性能を発揮する。この際、鋼材ブレース136A、136Bからの軸力によって、鋼材ブレース136A、136Bとスラブ28、34との接合部に鉛直力が集中して作用する。このようなスラブ28、34との接合部を間柱部材60、62、64、66等で連結支持し、鉛直剛性を付与することで、当該接合部の鉛直方向の変形が抑制される。よって、鋼材ブレース136A、136Bの回転変形が抑制され、鋼材ブレース136A、136Bに本来備えている耐震性能、制震性能を発揮させることができる。
なお、鋼材ブレース136A、136Bの配置の方法は上記したX型に限らない。例えば、図23に示すように、V字型に配置しても良いし、逆V字型に配置しても良い。また、鋼材ブレース136A、136Bの一部または全部を低降伏点鋼等で構成したアンボンドブレースを用いても良い。この場合、地震エネルギーが鋼板の塑性変形エネルギーに変換され、大地震等による振動等が低減される。更に、鋼材系のブレースに限らず、鉄筋コンクリート造やプレキャストコンクリート造のブレース等も補強層14に配置することができる。
また、第1〜第3の実施形態では、折り筋16Aを横(折り筋16Aを横方向)にして波形鋼板16を補強層14に配置した場合の例について説明したが、折り筋16Aを縦(折り筋16Aを上下方向)にして補強層14に配置しても良い。折り筋16Aを縦にして補強層14に配置する場合は、波形鋼板16に軸力が導入されないように、波形鋼板16を上部水平部材18及び下部水平部材20に接合する時期を考慮することが望ましい。また、波形鋼板16及び補剛用波形鋼板142には、図24(A)〜図24(D)に示すような断面形状をした波形鋼板を用いても良い。
更に、第1〜第3の実施形態で示した耐震構造10、110、140は、建物12の一部に用いても、全てに用いても良い。本発明の耐震構造を用いることにより、耐震部材の設置位置の自由度が大きい耐震構造を有する建物(建築物)を構築することができる。また、第1〜第3の実施形態は、新設及び改修建物の両方に適用可能である。また、本発明の耐震構造では、波形鋼板、RC造の壁部材、ブレース等の耐震要素で耐震部材、上部補剛手段、及び下部補剛手段を構成することができ、更に、これらの耐震要素を組み合せて、耐震部材、上部補剛手段、及び下部補剛手段を構成しても良い。
以上、本発明の第1〜第3の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものではなく、第1〜第3の実施形態を組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。