旧来の有線通信方式における配線から解放するシステムとして、無線ネットワークが注目されている。例えば、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11a、IEEE802.11b、あるいはIEEE802.1gといった無線LAN規格が代表的である。無線LANによれば柔軟なインターネット接続が可能であり、既存の有線LANを置き換えるだけでなく、ホテルや空港ラウンジ、駅、カフェといった公共の場所でもインターネット接続手段を提供することができる。無線LANは既に広範に普及しており、パーソナル・コンピュータ(PC)などの情報機器だけでなく、デジタルカメラや音楽プレーヤなどのCE(Consumer Electronics)機器にも無線LAN機能を搭載することが一般的となりつつある。
無線技術を用いてLANを構成するために、エリア内に「アクセスポイント(AP)」又は「コーディネータ」と呼ばれる制御局となる装置を1台設けて、この制御局の統括的な制御下でネットワークを形成する方法が一般的に用いられている。制御局は、ネットワーク内にある複数の端末局のアクセス・タイミングを調停し、各端末局が互いに同期をとるという同期的な無線通信を行なう。
また、無線ネットワークを構成する他の方法として、すべての端末局が対等で自律分散的にピア・ツウ・ピア(Peer to Peer)で動作し、端末局自らがアクセス・タイミングを決定する「アドホック(Ad−hoc)通信」が考案されている。とりわけ近隣に位置する比較的少数のクライアントで構成される小規模無線ネットワークにおいては、特定の制御局を利用せずに、任意の端末同士が直接非同期の無線通信を行なうことができるアドホック通信が適当であると思料される。
例えばIEEE802.11におけるネットワーキングは、BSS(Basic Service Set)の概念に基づいている。BSSは、制御局が存在する「インフラストラクチャ・モード」で定義されるBSSと、複数のMT(Mobile Terminal:移動局又は端末局)のみにより構成される「アドホック・モード」で定義されるIBSS(Independent BSS)の2種類で構成される。
さらに、IEEE802.11で規定されるアドホック・ネットワーク以外にも、自律分散的に動作する各通信局がピア・ツウ・ピアで接続する通信システムに関する開発がなされている。例えば、複数の通信局がフレームをリレーして伝送する「マルチホップ通信」は、電波が届く範囲にすべての通信相手が収容されているとは限らないという問題を解決し、複数の通信局がフレームをリレーして伝送する「マルチホップ通信」により多数の通信局を相互接続することができる。現在、IEEE802.11中のタスク・グループ(TG)の1つとして、マルチホップ通信に関する標準化作業が進められている。本明細書中では、マルチホップ通信を行なう無線ネットワークのことを「メッシュ・ネットワーク」と呼び、メッシュ・ネットワークを構成する各通信局のことを「メッシュ・ポイント(MP)」とも呼ぶことにする。
まず、IEEE802.11におけるインフラストラクチャ・モード時の動作について説明する。
インフラストラクチャ・モード下では、APは、自局の周辺で電波の到達する範囲をBSSとしてまとめ、いわゆるセルラ・システムで言うところの「セル」を構成する。AP近隣に存在する端末局(MT)は、APに収容され、当該BSSのメンバとしてネットワークに参入する。具体的には、APは適当な時間間隔でビーコンと呼ばれる制御信号を送信し、このビーコンを受信可能であるMTはAPが近隣に存在することを認識し、さらに該APとの間でコネクション確立を行なう。
図11には、インフラストラクチャ・モード時のIEEE802.11の動作例を示している。図示の例では、通信局STA0がAPとして動作し、他の通信局STA1並びSTA2がMTとして動作している。APとしての通信局STA0は、同図右側のチャートに示すように、一定の時間間隔でビーコン(Beacon)を送信する。APは、ビーコンの送信間隔をターゲット・ビーコン送信時刻(TBTT:Target Beacon Transmit Time)というパラメータとして内部で管理しており、時刻がTBTTに到来する度にビーコン送信手順を起動する。また、APが報知するビーコンにはBeacon Intervalフィールドが含まれており、周辺のMTは、このBeacon Intervalフィールドとそのビーコンの受信時刻から次回のビーコン送信時刻TBTTを認識することが可能である。
ここで、BSSは必要に応じて省電力(PowerSave)モードに移行し、各MTは間欠的にのみ受信動作を行なうことにより、低消費電力化を図ることができる。省電力モード下では、BSS内の少なくとも一部のMTはスリープ・モードで動作し、送受信機を動作させるAwake状態と、送受信機の電源を落とすDoze状態とを行き来する。MTは、受信したビーコンから次回のビーコン送信時刻を認識することができるので、スリープ・モード下では、受信の必要がないときには次回あるいは複数回先のTBTTまで受信機の電源を落とし省電力状態に入ることもある。なお、スリープ・モードでないMTはアクティブ・モードと呼ばれ、常に送受信機を動作させている(図12を参照のこと)。
APは、スリープ状態の各MTがAwakeするタイミングを一元的に管理し、Awake状態のタイミングに合わせてMTへフレーム送信を行なうことで、省電力動作を援助する。具体的には、スリープ・モードのMTに宛てたパケットが存在する場合には、すぐさま送信せずこれを内部に蓄積しておき、ビーコン信号にパケットが蓄積されている旨を記載して相手MTに伝える。このビーコン信号中に記載される情報は、TIM(Traffic Indication Map)と呼ばれる。スリープ・モード下のMTは、APからのビーコン信号を受信・解析し、TIMを参照することにより、APが自局宛てにデータを蓄積していることを認識することができる。すなわち、省電力モードのMTは、自分が受信動作を行なわなければならないことを認識すると、APに宛てて自局宛てにパケットを送信してほしい旨の要求信号を送信する。そして、APは、この要求信号に応答する形で、蓄積しているデータをMT宛てに送信する。
続いて、IEE802.11におけるアドホック・モード時の動作について説明する。
IEEE802.11のアドホックモード(IBSS)においては、MTは複数のMT同士が互いに存在を確認すると自律的にIBSSを定義する。これらのMT群は、一定間隔毎にTBTTを定める。ビーコンの送信間隔がビーコン信号中のパラメータで通知されており、各MTは、一度ビーコン信号を受信すると、次回のTBTTを算出することができる。そして、各MTは自局内のクロックを参照することによりTBTTになったことを認識すると、ランダム時間の遅延(Random Backoff)の後、まだ誰もビーコンを送信していないと認識した場合にはビーコンを送信する。このビーコンを受信可能であるMTがこのIBSSに参入することができる。
図13には、アドホック・モード時のIEEE802.11の動作例を示している。図示の例では、MTとして動作する2台の通信局STA1及びSTA2がIBSSを構成する様子を示している。この場合、IBSSに属するいずれか一方のMTが、TBTTが到来する毎にビーコンを送信することになる。また、各MTから送出されるビーコンが衝突する場合も存在している。
IEEE802.11では、IBSSにおいても省電力(PowerSave)モードが規定されており、MTは必要に応じて受信機の電源を落とすDoze状態に入ることができる。ビーコン送出時間TBTTから所定の時間帯は、ATIM(Announcement Traffic Indication Message) Windowとして定義されている。ATIM Windowの期間が終了するまでの間は、IBSSに属するすべてのMTはAwake状態となっており、この時間帯であれば、基本的にはスリープ・モードで動作しているMTも受信が可能である。そして、MTはATIM Window終了時から次のビーコン送出時間TBTTまでDoze状態になることができる。
各MTは、自局が誰か宛ての情報を有している場合には、このATIM Windowの時間帯において、上記の通信相手宛てにATIMパケットを送信することにより、自局が送信情報を保持していることを受信側に通達する。これに対し、ATIMパケットを受信したMTは、ATIMパケットを送信した局からの受信が終了するまではDoze状態に移行せず、受信機を動作させておく。
図14には、STA1、STA2、STA3の3台のMTがIBSS内に存在している場合の動作例を示している。STA1、STA2、STA3の各MTは、TBTTが到来すると、ランダム時間にわたりメディア状態を監視しながらバックオフのタイマを動作させる。図示の例では、STA1のタイマが最も早期にExpireし、STA1がビーコンを送信している。STA1がビーコンを送信したため、これを受信したSTA2並びSTA3はビーコンを送信しない。
ここで、STA1がSTA2宛ての情報を保持するとともに、STA2がSTA3宛ての情報を保持しているとする。このような場合、STA1はビーコンを送信した後、STA2はビーコンを受信した後に、それぞれ再度ランダム時間にわたり各々メディア状態を監視しながらバックオフのタイマを動作させる。図14に示した例では、STA2のタイマが先にExpireしたため、まずSTA2からSTA3に宛ててATIMメッセージが送信される。STA3は、このATIMメッセージを受信すると、短いフレーム間隔(SIFS:Short Inter−Frame Space)だけ待機した後に、受信した旨を示すACK(Acknowledge)パケットをSTA2に返信する。STA3からのACKが送信し終えると、STA1は、さらにランダム時間にわたりメディア状態を監視しながらバックオフのタイマを動作させ、タイマがExpireすると、ATIMパケットをSTA2に宛てて送信する。そして、STA2は、SIFSが経過した後に、ATIMパケットを受信した旨を示すACKパケットをSTA1に返信する。
ATIM Window内でこのようなATIMパケットとACKパケットの交換が行なわれると、その後の区間においても、STA3はSTA2からの情報を受信するために受信機を動作させ、また、STA2はSTA1からの情報を受信するために受信機を動作させる。
送信情報を保持しているSTA1並びSTA2は、ATIM Windowの終了とともに、メディアがアイドルである最小時間に相当する分散フレーム間隔(Distributed Inter−Frame Space:DIFS)だけ待機した後、ランダム時間にわたり各々メディア状態を監視しながらバックオフのタイマを動作させる。図14に示した例では、STA2のタイマが先にExpireしたため、STA2からSTA3宛てのデータ・フレームが先に伝送されている。そして、STA3は、SIFSが経過した後に、データ・フレームを受信した旨を示すACKパケットをSTA2に返信する。
このデータ・フレーム伝送が終了した後、STA1は、DIFSだけ待機した後、さらに再度ランダム時間にわたりメディア状態を監視しながらバックオフのタイマを動作させ、タイマがExpireするとSTA2宛てのデータ・フレームを送信する。そして、STA2は、SIFSが経過した後に、データ・フレームを受信した旨を示すACKパケットをSTA1に返信する。
上記の手順において、ATIM Window内でATIMパケットを受信せず、且つ、誰宛てにも情報を保持していないMTは、次のTBTTまで送受信機の電源を落とし、消費電力を削減することができる。
続いて、メッシュ・ネットワークの動作について説明する。
例えば、各通信局がネットワークに関する情報を記述したビーコンを送信し合うことによってネットワークを構築するようにして、そのビーコンで他の通信局での通信状態などの高度な判断を行なう無線通信システムについて提案がなされているが(例えば、特許文献1を参照のこと)、同様の方法を用いてメッシュ・ネットワークを構成することができる。
図15には、各通信局がビーコン信号の交換を通じて自律分散的に通信する無線通信システムにおける通信シーケンス例を示している。同図に示す例では、ネットワークに参画する通信局としてSTA1及びSTA2の2台が互いの通信可能範囲に存在し、各通信局は、各々のTBTT(Target Beacon Transmission Time)を設定し、定期的にビーコン信号を送信している。そして、各通信局は、隣接するMTの情報を抽出するため、必要に応じて他の通信局からのビーコン信号を定期的に受信している。
また、ここではSTA1が必要に応じて送受信機の電源を落とすスリープ・モードに入ることを想定しており、省電力モードのMTは、送受信機を動作させるAwake状態と、送受信機の電源を落とすDoze状態とを行き来する(同上)。
図16には、STA1からSTA0に対してデータ送信を行なう様子を例示している。同図の上段がSTA0とSTA1の間におけるパケットの送受信シーケンスを示し、同図の下段がデータ受信先であるSTA0の送受信機の動作状態を示している(レベル・ハイがAwake状態を示し、レベル・ローがDoze状態を示す)。なお、送受信機のいずれもがDoze状態にあるときに通信局が省電力状態となり、送受信機のうちいずれかがAwake状態にあるときは通信局が省電力状態にない時間帯である。
MTは、ビーコンを送信した後、一定の時間帯からなる受信期間(Listen Period)を設け、この期間は受信機を動作させておく。そして、MTは、このListen Period内で自分宛てのトラフィックを受信しなかったときは、送受信器の電源を落として省電力状態に移行することができる。図16に示した例では、STA0は、ビーコンB0−0を送信した後、しばらくの間受信機を動作させており、STA1がこの期間内にSTA0宛にパケットを送信したので、STA0はこれを受信することができる。
ビーコン信号には、TIM(Traffic Indication Map)と呼ばれる情報が掲載されている。TIMとは、現在この通信局が誰宛ての情報を有しているかの報知情報であり、ビーコン受信局はこのTIMを参照することにより、自分が受信を行なわなければならないか否かを認識することができる。各MTは、周辺MTのビーコン信号を定期的に受信し、このTIMを解析し、自分宛てにデータが存在しないことを確認すると受信機の電源を落としてスリープ状態に入るが、自分宛てにデータが存在することを確認すると、スリープ状態に入らず、当該データを受信する状態へと変遷する。
図16では、ビーコンB1−1のTIMにおいて、STA0がSTA1から呼び出されていた場合を例示している。該ビーコンを受信したSTA0は、呼び出しに応答するレスポンスを行なう(0)。さらに、レスポンスを受信したSTA1は、STA0が受信可能状態にあることを確認すると、STA0宛てのパケットを送信する(1)。これ受信したSTA0は、正常に受信されたことを確認した上で、ACKを送信する(2)。
上記に示したように、無線LANシステムでは、幾つか異なる論理ネットワーク構成が有り得る。また、1つの物理的な通信局が論理的に複数のネットワークに同時に参加することが可能であり、二重役割を持つ通信局(デュアル・ロール・デバイス)として知られている。
図17並びに図18には、複数の異なる論理ネットワークで構成される無線LANシステムにおいて、1つの物理的な通信局が2つの論理ネットワークに対し二重役割を果たしている様子を示している。複数の異なる論理ネットワークが同一の周波数チャネルでオペレーションされることもある。
図17に示す例では、STA−Aが論理ネットワークAを構成するとともに、STA−Dが論理ネットワークDを構成している通信環境下で、物理的に1つの通信局STA−Cは、リンクA−Cを介してネットワークAに参画する同時に、リンクD−Cを介してネットワークDにも参画している。このとき、ネットワークA並びにネットワークDはともにインフラストラクチャ・モードで動作し、STA−A並びSTA−Dがともにアクセスポイントとして動作している場合も有り得る。
これに対し、図18に示す例では、片方のネットワークAがアドホック・モードで動作していたり、メッシュ・ネットワークのような自律分散ネットワークであったりする場合もある。この場合、二重役割を持つSTA−Cは、一方のネットワークDでは、自らはMTとしてアクセスポイントであるSTA−Dと通信を行ないながら、他方のネットワークAにおいては、自らMT若しくはMPとして動作して各通信局STA−A並びにSTA−Bとは直接通信をすることが可能である。
ここで、物理的には1つの通信局が二重役割を持つことのメリットについて、アドホック・ネットワーク又はメッシュ・ネットワークなどの自律分散型ネットワークと、インフラストラクチャ・モード下のネットワークに同時に参加する場合を例にとって考察する。
図18において、STA−Cは、STA−A並びにSTA−Bと自律分散通信モードで相互に通信状態にあり、これら3台の通信局で対戦ゲームのようなアプリケーションを動作しているとする。このとき、STA−Cは、STA−A並びにSTA−Bとの対戦ゲームを続行しながら、同時に、アクセスポイントに収容されてMTとして動作する機能しか備えていないパソコンのような機器に蓄積されている情報を基にゲームを制御するケースが想定される。このような場合、STA−Cは、STA−A並びにSTA−Bと自律分散通信モードで通信状態を継続しながら、同時にインフラストラクチャ・モード下のアクセスポイントとしても動作してMTであるSTA−Dと通信を行ない、STA−Dから必要な情報を取得することが可能となる。図示の例のように、通信局が二重役割を持つことにより複数の論理ネットワークに同時に参加することができれば、多彩なネットワーク・サービスを提供できるようになることが期待される。
図18に示した例では、二重役割を持つ通信局は、アドホック・モード下のネットワークとインフラストラクチャ・モード下のネットワークの両方に参入し、2つの論理的通信インターフェースを提供することができる。このような通信局は、異なる論理ネットワークに属する周辺通信局と通信することが可能であり便利ではあるが、複数の論理的通信インターフェースをすべてオン状態にしておく必要はなく、必要最低限の機能のみで動作させておくことが望まれている。特に、アクセスポイントとして動作すると、通信局は省電力モードで動作することができないことから、通信局の消費電力の問題が顕著となる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
以下で説明する実施形態において想定している通信の伝搬路は無線であり、且つ、単一の伝送媒体(周波数チャネルによりリンクが分離されていない場合)を用いて、複数の機器間でネットワークを構築する場合としてある。但し、複数の周波数チャネルが伝送媒体として存在する場合であっても、同様のことが言える。また、同実施形態で想定している通信は蓄積交換型のトラヒックであり、パケット単位で情報が転送される。また、以下に説明する各通信局での処理は、基本的にネットワークに参入するすべての通信局で実行される処理である。但し、場合によっては、ネットワークを構成するすべての通信局が、以下に説明する処理を実行するとは限らない。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線装置のハードウェア構成を模式的に示している。無線装置は、パーソナル・コンピュータなどの無線LANカードを搭載した情報機器、あるいはデジタルカメラや音楽プレーヤなどのCE機器である。
図示の無線装置は、CPU(Central Processing Unit)1が、ROM(Read Only Memory)2やRAM(Random Access Memory)3などのメモリ装置、周辺装置4、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置5、無線LANインターフェース6などの周辺装置とはバスを介して相互接続されている。また、ブリッジ装置を介して2本以上のバスが連結されている。
CPU1は、ROM2に格納された制御コードや、外部記憶装置5にインストールされているプログラム・コードをRAM3上にロードして実行することによって、周辺装置4を用いた装置動作(例えば、デジタルカメラにおける撮影や画像再生動作、音楽プレーヤにおけるプレイリスト表示や音楽再生動作)や、無線LANインターフェース部6を用いた通信動作など、装置全体の動作を統括的に制御する。
図1に示した例では、無線LANインターフェース部6はIEEE802.11のMAC(MediaAccessControl)層のフレームをバス経由でRAM3に渡し、CPU1でMAC層の処理を行なうようになっている。但し、本発明の要旨は、図1に示したような無線装置の構成に限定されるものではなく、図2に示すような別の構成も考えられる。図2では、無線LANインターフェース部6は、I/Oインターフェース7経由でバスに接続されている。無線LANインターフェース部6とバスをつなぐI/Oインターフェース7は、MSIO(Memory Stick IO)、SDIO(Secure Digital IO)、USB(Universal Serial Bus)などが一般的である。無線インターフェース部6は、IEEE802.11のMAC(MediaAccessControl)層の処理を行ない、IEEE802.3と等価なフレームをI/Oインターフェース7を通じてホストCPU1に送るようになっている。
図1及び図2に示したような情報機器は、無線インターフェース部6を装備することで、例えばアドホック・ネットワーク上で動作する端末局(Mobile terminal:MT)、メッシュ・ネットワーク上で動作するメッシュ・ポイント(Mesh Point:MP)などの自律分散的に動作する通信局として機能と、インフラストラクチャ・モード下のネットワーク内でアクセスポイントとしての機能の二重役割を持ち、2つの論理的通信インターフェースにより多彩なネットワーク・サービスを提供することができる。複数の異なる論理ネットワークが同一の周波数チャネルでオペレーションされることもある。また、図1及び図2に示したような情報機器はバッテリ(図示しない)から駆動電力が供給されるバッテリ駆動式を想定しており、当該バッテリを充電する充電器を備え、当該バッテリの出力端子電圧などからその残量を求めて充電器による充電オペレーションを制御するようにしてもよい。
図3には、無線インターフェース部6の内部構成例を示している。図示の無線インターフェース部6は、制御局を配置しない自律分散型の通信環境下において端末局として動作し、同じ無線システム内では効果的にチャネル・アクセスを行なうことにより、衝突を回避しながらネットワークを形成することができる。また、無線インターフェース部6は、インフラストラクチャ・モード下のネットワークにおいてアクセスポイントとしても機能することができ、二重役割を持つ。
図示の通り、通信局としての無線インターフェース部6は、ホスト・インターフェース部101と、データ・バッファ102と、中央制御部103と、ビーコン生成部104と、無線送信部106と、タイミング制御部107と、アンテナ109と、無線受信部110と、ビーコン解析部112と、情報記憶部113を備えている。
ホスト・インターフェース部101は、このI/Oインターフェース7に接続されるホスト機器(図1又は図2を参照のこと)との間で各種情報の交換を行なう。
データ・バッファ102は、ホスト・インターフェース部101経由で接続されるホスト機器から送られてきたデータや、無線伝送路経由で受信したデータをホスト・インターフェース部101経由で送出する前に一時的に格納しておくために使用される。
中央制御部103は、所定の実行命令プログラムを実行することによって、通信局としての当該無線インターフェース部6における一連の情報送信並びに受信処理の管理と伝送路のアクセス制御を一元的に行なう。
本実施形態では、中央制御部103は、自律分散的に動作する通信局として機能と、インフラストラクチャ・モード下のネットワーク内でアクセスポイントとしての機能の二重役割を実現し、2つの論理的通信インターフェースにより多彩なネットワーク・サービスを提供するための処理を実施する。
ビーコン生成部104は、近隣にある通信局との間で周期的に交換されるビーコン信号を生成する。無線インターフェース部6を備えた無線装置が無線ネットワークを運用するためには、自己のビーコン送信位置や隣接局からのビーコン受信位置などを規定する。これらのビーコン時刻情報は、情報記憶部113に格納されるとともに、ビーコン信号の中に掲載して隣接する通信局に報知する。各通信局は、伝送フレーム周期の先頭でビーコンを送信するので、チャネルにおける伝送フレーム周期はビーコン間隔によって定義される。
無線送信部106は、データ・バッファ102に一時格納されているデータやビーコン信号を無線送信するために、所定の変調処理を行なう。また、無線受信部110は、所定の時間に他局から送られてきた情報やビーコンなどの信号を受信処理する。
無線送信部106及び無線受信部110における無線送受信方式は、例えば無線LANに適用可能な、比較的近距離の通信に適した各種の通信方式を適用することができる。具体的には、UWB(Ultra Wide Band)方式、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式、CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式などを採用することができる。
アンテナ109は、他の通信局宛てに信号を所定の周波数チャネル上で無線送信し、あるいは他の通信局から到来する信号を収集する。本実施形態では、送受信機で共用する単一のアンテナを備え、送受信を同時並行しては行なえないものとする。
タイミング制御部107は、無線信号を送受信するためのタイミングの制御を行なう。例えば、伝送フレーム周期の先頭における自己のビーコン送信タイミングや、隣接局からのビーコン受信タイミング、隣接局とのデータ送受信タイミング、スキャン動作周期などを制御する。
ビーコン解析部112は、隣接局から受信できたビーコン信号を解析し、隠れ端末を含む周辺通信局の存在などを解析する。例えば、TBTTなどのビーコン信号から抽出される隣接局のビーコン・タイミング情報は周辺通信局情報として情報記憶部113に格納される。
情報記憶部113は、中央制御部103において実行される一連のアクセス制御動作などの実行手順命令(衝突回避処理手順などを記述したプログラム)や、受信ビーコンの解析結果から得られる周辺通信局情報などを蓄えておく。
図1又は図2に情報機器は、アドホック・ネットワーク上で動作する端末局又はメッシュ・ネットワーク上で動作するメッシュ・ポイントなどの自律分散的に動作する通信局として機能と、インフラストラクチャ・モード下のネットワーク内でアクセスポイントとしての機能の二重役割を持ち、2つの論理的通信インターフェースにより多彩なネットワーク・サービスを提供する通信局として動作する。また、複数の論理的通信インターフェースをすべてオン状態にしておく必要はなく、必要最低限の機能のみで動作させておくことにより、低消費電力化を図るようにしている。
図4には、かかる通信局の状態遷移を示している。但し、同図では、通信局は、図18に示した通信システムにおいて、二重役割を持つ通信局STA−CとしてネットワークA及びネットワークDの両方に参加することを想定している。以下では、物理的に1つの通信局STA−Cが、自律分散型のMT又はMPとしてネットワークAに参加すると同時に、アクセスポイントとしてインフラストラクチャ・モード下のネットワークDを運営するための通信動作について、図4を参照しながら説明する。
二重役割を持つ通信局STA−Cは、アイドル状態(State1)とパケット受信待ち受け状態(State9)を変遷し、主にタイマ制御によりこれらの状態を行き来する(状態遷移矢印1、2)。どのようなイベントに基づいてタイマが制御されるかについては、後に詳解する。
例えば、通信局STA−Cは、MTとしてスリープ・モードで動作しているとし、始めはアイドル(Doze)状態(State1)にいたが、ネットワークAの通信局との通信状態に入るために、パケット受信待ち受け状態(State9)に入る。ネットワークAとネットワークDは同一の周波数チャネルでオペレーションされており、パケット受信待ち受け状態(State9)では通信局STA−CはネットワークA及びネットワークDの双方からのパケットの受信を待ち受けることになる。
通信局STA−Cは、タイマ制御により、ネットワークAに宛ててビーコンを送信する時刻になると、ネットワークA向けのビーコン送信処理(State2)を起動し、送信処理が終了するとパケット受信待ち受け状態(State9)へ戻る(状態遷移矢印3、4)。
また、通信局STA−Cは、ネットワークAの通信局に宛ててパケットを送信する要求が発生した場合には、ネットワークA向け出た送信処理(State3)を起動し、送信処理が終了するとパケット受信待ち受け状態(State9)へ戻る(状態遷移矢印5、6)。
また、通信局STA−Cは、パケット受信待ち受け状態(State9)において、他通信局からパケットを受信すると、受信パケットのヘッダ・チェック(State5)を行なう。ここで、受信パケットがネットワークAの通信局STA−Aからのパケットであったときには、ネットワークAからのパケット受信処理(S4)を施してパケット受信待ち受け状態(State9)に戻る(状態遷移矢印7、10、9)。一方、受信パケットがネットワークDの通信局STA−Dからのパケットであったときには、ネットワークDからのパケット受信処理(State6)を施してパケット受信待ち受け状態(State9)に戻る(状態遷移矢印7、11、12)。
また、通信局STA−Cは、タイマ制御などにより、ネットワークDに宛ててビーコンを送信する時刻が到来すると、ネットワークD向けのビーコン送信処理(State8)を起動し、送信処理が終了するとパケット受信待ち受け状態(State9)へと戻る(状態遷移矢印16、15)。
また、通信局STA−Cは、ネットワークDの通信局に宛ててパケットを送信する要求が発生したときには、ネットワークDに向けたデータ送信処理(State7)を起動し、送信処理が終了するとパケット受信待ち受け状態(State9)へと戻る(状態遷移矢印13、14)。
図5には、図4に示した状態遷移図中の状態S5において実施される受信パケットのヘッダ解析処理の手順をフローチャートの形式で示している。当該処理ルーチンは、パケット受信待ち受け状態(State9)において、いずれかの周辺通信局から何らかのパケットを受信する度に起動する。
二重役割を持つ通信局は、パケットを受信すると、アクセス制御処理を起動して、まず受信パケットの宛て先をチェックし、明示的に自分宛て若しくはブロードキャストやマルチキャストなどの不特定多数宛てであるか否かをチェックする(ステップS1)。
そして、受信パケットの宛て先が明示的に自分宛て若しくはブロードキャストやマルチキャストなどの不特定多数宛てであった場合には(ステップS1のYes)、自分宛てのパケットであると判断し,次ステップへと進む。他方、自分宛てでないと判断した場合には(ステップS1のNo)、この受信パケットの処理は行なわずに(ステップS5)、処理を終了する。
次いで、通信局は、受信パケットにエラーが生じたか否かを判断する(ステップS2)なお、このエラー判定は宛先のチェックや送信元のチェックなどと前後して行なわれる場合もある。受信パケットにエラーが発生したことが明らかになった場合も(ステップS2のYes)、この受信パケットの処理は行なわずに(ステップS5)、処理を終了する。
受信パケットにエラーが発生していない場合には(ステップS2のNo)、続いて、受信パケットの送信元が自分の属するどのネットワークに属しているかを判断する。
ここで、受信パケットの送信元がネットワークAの送信局(すなわち、自局が端末局として参加している自律分散型のネットワーク内の他の端末局)であった場合には(ステップS3のYes)、状態S4に移行して、当該パケットをネットワークAで受信したパケットとして受信処理を行なう。
また、受信パケットの送信元がネットワークDの送信局(すなわち、自局がアクセスポイントとして運営しているインフラストラクチャ・モード下のネットワークに収容されている端末局)であった場合には(ステップS4のYes)、状態S6に移行して、当該パケットをネットワークDで受信したパケットとして受信処理を行なう。
送信元がどちらのネットワークにも属さない場合には(ステップS4のNo)、自局と通信状態にない通信局からの受信として送信元が不明のフレーム処理を行なう(ステップS6)。
上述したように、図18に示した通信システムにおいて、通信局STA−Cは、自律分散型のMT又はMPとしてネットワークAに参加すると同時に、アクセスポイントとしてインフラストラクチャ・モード下のネットワークDを運営する。ところで、IEEE802.11では、BSS並びにIBSSのそれぞれにおいて省電力(PowerSave)モードが規定されている。MTは、ATIM Window終了時から次のビーコン送出時間TBTTまでDoze状態になる。これに対し、APは、スリープ状態の各MTがAwakeするタイミングを一元的に管理するため、自らはスリープ状態に遷移することはできない。このため、二重役割を持つ通信局STA−Cは、アクセスポイントとしての機能がオン状態にある限りは、自律分散型のMT又はMPとしてもスリープ状態に移行できず、装置の省電力化を図ることができなくなる。
そこで、本実施形態では、二重役割を持つ通信局STA−Cは、アクセスポイントとしての機能を常時オン状態に保つのではなく、必要な機能のみを適宜動作させて消費電力を節減するようにしている。
通信局STA−Cは、周囲にアクセスポイントと通信を行ないたい通信局(STA−DのようなMT)が存在すると認識された場合にアクセスポイントの機能をオン状態にする。
例えば、通信局STA−Cは、一定時間にわたりアクセスポイントとしての機能をオン状態にしていないことに起因して、アクセスポイントとしての機能をオン状態にする。具体的には、定期的にアクセスポイントとして機能して、ビーコン・フレームを送信することで、STA−Dなどの周辺通信局はパッシブ・スキャンによりネットワークDを発見することができる。
また、通信局STA−Cは、パケット受信待ち受け状態(State9)において、他通信局からアクセスポイントを探す信号を受信したことに応答して、アクセスポイントとしての機能をオン状態にする。アクセスポイントを探す信号は、具体的には、アクティブ・スキャンを行なう周辺通信局から送信されるプローブ(Probe)要求信号である。隣接するネットワークAとネットワークDが同一の周波数チャネルでオペレーションしている場合、通信局STA−Aは、ネットワークAにおいてパケット受信待ち受け状態(State9)に入っていても、ネットワークDからのProbe信号を受信することができる。
このように、二重役割を持つ通信局STA−Cは、必要に応じてアクセスポイントとしての機能をオン状態にすることで、多彩なネットワーク・サービスを提供することができる。
一方、通信局STA−Cは、アクセスポイント機能に基づいてネットワークD向けに定期的にビーコン信号の送信を行なっているにも拘らず、一定時間にわたり当該アクセスポイント機能を用いた通信状態に入らなかったときには、アクセスポイント機能をオフ状態に移行させるようにしている。また、通信局STA−Cは、アクセスポイント機能を用いて通信していた周辺通信局との通信状態が打ち切られてから一定時間が経過にわたり他通信局が当該アクセスポイント機能を用いた通信状態に入らなかったときには、アクセスポイント機能をオフ状態に移行させるようにしている。そして、通信局STA−Cは、アクセスポイント機能がオフ状態のときには、MTとしてのみ機能しておりスリープ状態に遷移することが可能となり、省電力化を実現することができる。
二重役割を持つ通信局STA−Cのアクセスポイント機能のオン/オフ制御について、図4に示した状態遷移図に則って説明する。
二重役割を持つ通信局STA−Cは、ネットワークAの通信局との通信状態に入るために、アイドル状態(State1)からパケット受信待ち受け状態(State9)に移行した時点では、例えばアクセスポイント機能はオフ状態であるとする。通信局STA−Cは、自局のビーコン送信タイミングに合わせて定期的にアクセスポイント機能をオン状態にするとともにネットワークD向けのビーコン送信処理(State8)を行なう。これによって、STA−Dなどの周辺通信局は、パッシブ・スキャンによりネットワークDを発見することができる。
また、通信局STA−Cは、パケット受信待ち受け状態(State9)において、ネットワークDからのProbe信号を受信すると、受信パケットのヘッダ・チェック(State5)を行ない、自局宛てのProbe信号であることを認識すると、アクセスポイントとしての機能をオン状態にする。
勿論、二重役割を持つ通信局STA−Cは、アイドル状態(State1)からパケット受信待ち受け状態(State9)に移行した時点でアクセスポイント機能をオン状態にし、その後のネットワークDにおける挙動に応じてアクセスポイント機能をオフ状態にするようにしてもよい。
通信局STA−Cは、アクセスポイント機能をオン状態にして、ネットワークA及びネットワークDの双方においてパケット受信待ち受け状態(State9)であるとする。そして、通信局STA−Cは、ネットワークD内の通信局によるパッシブ・スキャンを可能にするために、自局のビーコン送信周期毎にビーコン送信処理(State8)を行なう。ところが、一定時間にわたり当該アクセスポイント機能を用いた通信状態に入らなかったとき、具体的には、ネットワークDからのパケット受信処理(State6)やネットワークD向けのデータ送信処理(State7)を起動することが無かったときには、通信局STA−Cは、アクセスポイント機能をオフ状態にする。
また、通信局STA−Cは、ネットワークDからパケットを受信すると、受信パケットのヘッダ・チェック(State5)を経て、パケット受信処理(State6)を行ない、パケット受信待ち受け状態(State9)へと戻る。あるいは、通信局STA−Cは、ネットワークDの通信局に宛ててパケットを送信する要求が発生したときには、ネットワークDに向けたデータ送信処理(State7)を起動し、送信処理が終了するとパケット受信待ち受け状態(State9)へと戻る。そして、最後にState6又はState7に移行してパケット受信待ち受け状態(State9)に復帰してから一定期間にわたってState6又はState7のいずれにも移行しなかったときには、通信局STA−Cは、アクセスポイント機能をオフ状態にする。
図6には、図18に示した通信システムにおいて、通信局STA−Cが、自律分散型のMT又はMPとしてネットワークAに参加すると同時に、アクセスポイントとしてインフラストラクチャ・モード下のネットワークDを運営する場合の通信シーケンス例を示している。図18に示したように、ネットワークAにはSTA−Aが属していてSTA−Cとピア・ツウ・ピアで通信状態にある。また、ネットワークDにはSTA−DがMT(端末局)として属しており、アクセスポイント機能をオン状態にしたSTA−Cと通信状態にある。但し、ネットワークAとネットワークDは同一の周波数チャネルでオペレーションされているとする。
通信局STA−Aは、定期的にビーコンを送信している。図6に示す通信シーケンス例ではSTA−Aは、時刻T2並びにT5にて、ネットワークA宛てにビーコンを送信している。
また、通信局STA−Cも、定期的にビーコンを送信している。図6に示す通信シーケンス例では、通信局STA−Cは、時刻T3並びにT6にて、ネットワークA宛てにビーコンを送信するとともに、さらに時刻T1並びにT4にてネットワークD宛てにビーコンを送信している。
このとき、通信局STA−Cは、ネットワークDにおいてアクセスポイントとして動作しているため、省電力動作に入ることができず、フレームを送信していないときは常に受信機をオン状態にしている必要がある。
また、図7の上段には、図6に示した状態から、通信局STA−Cがアクセスポイント機能をオフ状態にしてネットワークDを非動作状態にしたときの通信シーケンス例を示している。
通信局STA−Aは、定期的にビーコンを送信している。図7に示す例では、時刻T2並びにT5にて、ネットワークA宛てにビーコンを送信している。
また、通信局STA−Cも、定期的にビーコンを送信している。図7に示す例では、時刻T3並びにT6にて、ネットワークA宛てのビーコンのみを送信している。
図7の下段には、上述したような通信状況において、通信局STA−Cがとり得るアクティビティを示している。図16などで既に示した通り、通信局STA−Cは、ネットワークAにて通信状態にある通信局STA−Aのビーコン送信時刻に、送受信機をアクティブ(Awake)状態へと遷移させ、ビーコンを受信した後、自局宛てのトラヒックが存在しないと判断すると再びアイドル(Doze)状態へと遷移させる。ここで示した通信シーケンス例では、STA−CはSTA−Aのビーコン信号を毎回受信しているが、省電力化を促進するために、数回に1度だけ受信するといった場合もある。以下では説明の簡略化のため、通信局は隣接局のビーコンを毎回受信する場合を例にとって説明するが、必ずしもそのような動作をする必要はない。
また、通信局STA−Cは、自局のビーコン送信時刻に先立ち、送受信機をアクティブ状態へ遷移させる。そして、ビーコンを送信した後、Listen Periodの間は受信機をアクティブ状態にしておくが、この間に何も受信されないと再びアイドル状態へと遷移させる。
このように、図7に示した通信シーケンス例では、二重役割を持つ通信局STA−Cはアクセスポイントの機能をオフ状態にしているので、不要な時間帯においては受信機をオフ状態にして、低消費電力化に努めることが可能となる。
図7に示した通信シーケンス例では、ネットワークAが自律分散ネットワークのモードで動作していることを想定しており、ネットワークAに属する各通信局STA−A、STA−Cがそれぞれ定期的にビーコンを送信している。勿論、ネットワークAがアドホック・モードで動作している場合であっても、基本的には同様のことが言える。但し、ネットワークAがアドホック・モードで動作している場合、STA−AとSTA−Cが双方とも定期的にビーコンを送信するのではなく、定期的にどちらか一方のみがビーコンを送信するという違いがある。
二重役割を持つ通信局STA−Cは、ネットワークDでアクセスポイントとして動作するときにはネットワークD宛てのビーコンを定期的に送信する。これに対し、ネットワークDでアクセスポイントとして動作しないときには、STA−Cは、ネットワークD宛てのビーコンを定期的に送信せず,省電力モードで動作することが可能である(同上)。以下では、便宜上、通信局STA−Cが自律分散ネットワークのモードとインフラストラクチャ・モードの各々で動作する場合を例にとって説明するが、STA−Cがアドホック・モードとインフラストラクチャ・モードの二重役割で動作する場合でも全く同じことを適用することが可能であることを十分理解されたい。
二重役割を持つ通信局STA−Cが、図7に示したようにアクセスポイントとしての機能を提供していない状態から、図6に示したようにアクセスポイントとしての機能を提供する状態に移行する契機は、時間の経過である。通信局STA−Cは、内部のタイマ機能を用いてアクセスポイントとしての機能をどれだけ連続的に提供していないかを管理している。そして、この時間が一定時間を超えると、周辺にSTA−DのようなMTが現れたかもしれないので、アクセスポイントとしての機能の提供を開始することを決定する。アクセスポイントとしての機能の提供を開始した後は、図6に示したように、ネットワークAにおける周期的なビーコン信号の送受信動作に加えて、ネットワークDに宛てたビーコン信号も定期的に送信を行なう。
その後、アクセスポイント機能を提供する通信局STA−Cは、再度、アクセスポイント機能の提供を終了することもあるが、かかる状態の遷移については後に詳解する。
図8には、通信局STA−Cが、図7に示したようにアクセスポイントとしての機能を提供していない状態から、図6に示したようにアクセスポイントとしての機能を提供する状態に移行する通信シーケンス例を示している。また、図8の下段には、通信局STA−Cが提供している機能の時間的な変化を示している。
通信局STA−Cは、当初、自律分散型のネットワークAにおけるメッシュ・ポイントの機能のみを提供しており、時刻T2でSTA−Aのビーコンを受信し時刻T3で自局のビーコンを送信している。
このとき、STA−Dは、MT(端末局)として動作することを欲し、所望のアクセスポイントを探しており、周辺にアクセスポイントが存在しないかを探索する目的で送信されるプローブ要求フレームを不特定多数の通信局に宛てて送信する。STA−Cは、このプローブ要求フレームを受信することで、周辺にMTとして接続したい通信局があることを認識すると、アクセスポイントとしての機能の提供を開始する。このとき、STA−Cは、STA−Dに対してプローブ応答フレームして(図8では記載を省略する)、アクセスポイントが存在することを明示的にSTA−Dに示す場合もある。その後、STA−DとSTA−Cは、アソシエーションを行なってから、インフラモード下のネットワークDは通信状態へ移行する。但し、アソシエーションの手順は当業界において周知なので、ここでは詳細な説明を省略する。
このようにして、二重役割を持つ通信局STA−Cは、アクセスポイントとしての機能も提供することになったことから、以降はネットワークDに宛ててビーコン信号の定期的送信を開始するようになる(すなわち、図4に示した状態遷移図において、STA−Cは、内部のタイマ制御により、パケット受信待ち受け状態(State9)から、定期的にネットワークD向けビーコン送信処理(State8)を起動する)。時刻T4にSTA−Cから送信されているビーコンは、ネットワークDに宛てたビーコン信号である。STA−Dは、STA−Cからのビーコンを受信することで、アクセスポイントとして動作するSTA−Cが存在することを確認することができる。
その後は、図6で示したのと同様の通信シーケンスが実施される。すなわち、時刻T5でSTA−AがネットワークA宛てにビーコンが送信し、STA−Cも時刻T6にてネットワークA宛てのビーコンが送信する(ネットワークA向けビーコン送信処理(State2)の起動)。さらに、STA−Cは、時刻T7では、ネットワークD宛てにもビーコン信号を送信する(ネットワークA向けビーコン送信処理(State8)の起動)。
図9には、通信局STA−Cが、図6に示したようにアクセスポイントとしての機能を提供する状態から、図7に示したようにアクセスポイントとしての機能を取り下げている状態に移行する通信シーケンス例を示している。また、図9の下段には、通信局STA−Cが提供している機能の時間的な変化を示している。
STA−Cは、当初、ネットワークAにおけるメッシュ・ポイントの機能とネットワークDにおけるアクセスポイントの機能をともに提供している。すなわち、STA−Cは、時刻T1でネットワークD宛てにビーコンを送信し、時刻T2並びにT5でSTA−A(ネットワークAに属する)からビーコンを受信するとともに時刻T3並びにT6でネットワークA宛てにビーコンを送信している。
このとき、STA−Cは、アクセスポイントとしての機能に基づき定期的なビーコン信号の送信を行なっているにも拘わらず、一定時間にわたりネットワークD経由で他通信局と通信状態に入っていない状態であると仮定する。STA−Cは、ネットワークDを介していずれの通信局とも通信状態に入っていない状態が一定時間経過したことをきっかけにして、アクセスポイントとしての機能提供を終了することを決定する。なお、アクセスポイントとしての機能は、本来、次にネットワークDに対してビーコンを送信するべきであった時刻T4までは提供を続け、時刻T4でビーコン送信を行なわずに、その後にアクセスポイント機能を停止させる。時刻T4以降は、図7で示したような通信状態へと変遷する。STA−Cは、アクセスポイント機能がオフ状態のときには、MTとしてスリープ状態に遷移することが可能となり、省電力化を実現することができる。
なお、STA−Cは、時刻T4までの間に他通信局がネットワークDを介して通信状態に入ることを示すような信号(例えば、プローブ要求フレーム)を受信した場合には、アクセスポイントとしての機能を継続的に提供するよう、処理を変更する。
図10には、通信局STA−Cが、図6に示したようにアクセスポイントとしての機能を提供する状態から、図7に示したようにアクセスポイントとしての機能を取り下げている状態に移行するための他の通信シーケンス例を示している。また、図10の下段には、通信局STA−Cが提供している機能の時間的な変化を示している。
STA−Cは、当初、ネットワークAにおけるメッシュ・ポイントの機能とネットワークDにおけるアクセスポイントの機能をともに提供しており、時刻T1でネットワークD宛てにビーコンを送信し、時刻T2並びにT5でSTA−A(ネットワークAに属する)のビーコンを受信するとともに時刻T3並びにT6でネットワークA宛てにビーコンを送信している。
このとき、STA−Cは、インフラストラクチャ・モード下のネットワークDにおいて唯一通信状態にあったSTA−Dからディスアソシエーション(アソシエーション打ち切り:同図中ではDisassと表記する)を意図するメッセージを受信したことで、STA−Dが明示的に通信状態を解除したことになる。
STA−Cは、Disassメッセージの受信により、ネットワークDを介していずれの通信局とも通信状態になくなったことから、これを契機にタイマを起動する。そして、STA−Cは、このタイマが満了した時点で、アクセスポイントとしての機能を停止させる。
STA−Cがアクセスポイント機能を停止させた以降は、図7に示したような通信状態へと移行する。STA−Cは、アクセスポイント機能がオフ状態のときには、MTとしてスリープ状態に遷移することが可能となり、省電力化を実現することができる。
なお、STA−Cは、アクセスポイント機能を実際に停止するまでの間に、ネットワークDを介して他通信局が通信状態に入ることを示すような信号(例えば、プローブ要求フレーム)を受信した場合には、アクセスポイントとしての機能を継続的に提供するよう、処理を変更する。