以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の位相差フィルムの製造方法は、原料の樹脂を溶媒に溶解したドープをダイスより無端ベルト支持体の上に流延しウェブを形成する流延工程と、前記ウェブを前記無端ベルト支持体より剥離した後、延伸工程と、少なくともロール搬送による乾燥工程と、巻き取り工程とを有する溶液流延製造装置により薄膜の位相差フィルムを製造する位相差フィルムの製造方法において、
ウェブをドープに用いた溶媒の沸点以上、乾燥後のフィルムのガラス転移温度(Tg)以下の温度で乾燥しながら、該ウェブを搬送方向に3%以上20%以下、搬送方向と直交する方向に1%以上10%以下の収縮率で加熱収縮を行い、前記式で表される面内方向のレターデーションRoが26nm以上300nm以下であり、かつ厚み方向のレターデーションRthを用いて前記式で求められるNzの絶対値が0.5以上4以下である位相差フィルムを得ることを特徴とする。
ここで、本発明でいう収縮率は以下の式(1)によって求めることとする。
式(1) 収縮率(%)=(1−乾燥工程の出口におけるウェブの縦または横の寸法(cm)/乾燥工程に入る前のウェブの縦または横の寸法(cm))×100
上記寸法の測定方法としては、剥離時に搬送方向に一定の長さの印をインクジェットプリンターでマーキングを行い、フィルムを巻き取った後、マーキングした箇所を実測することで縦または横の実寸法を測定でき、収縮率を計算することができる。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、所望の位相差を発現し、白濁や黄変がなく、コントラストの高い位相差フィルムを製造するには、延伸工程の製造条件に加え、ウェブの乾燥工程においてフィルムの乾燥条件及び収縮条件を高度に制御することにより達成できることを見出し、本発明を成すに至った次第である。
即ち、請求項1の発明では、ロール搬送による乾燥工程は、ドープに用いた溶媒の沸点以上、乾燥後のフィルムのガラス転移温度(Tg)以下の温度でウェブを乾燥しながら、該ウェブを搬送方向(MD方向ともいう)に3%以上30%以下、搬送方向と直交する方向(TD方向ともいう)に1%以上10%以下の収縮率で加熱収縮を行うことが特徴である。
尚、本発明では流延工程で形成されたウェブが乾燥工程で徐々に溶媒が除去され、全残留溶媒量が15質量%以下となったウェブをフィルムと言う。
請求項2の発明では、前記Nz係数を、延伸及び前記加熱収縮により、該Nz係数の絶対値が0.5以上4以下となるように調整することを特徴とする。
請求項3の発明では、前記ロール搬送におけるロール間の距離をウェブ幅に対し0.8倍以上4倍以下に調整しウェブ搬送することを特徴とする。
請求項4の発明では、前記ウェブを収縮する過程を搬送張力0.5N/cm以上1.0N/cm以下で行うことを特徴とする。
請求項5の発明では、前記ウェブを収縮する過程を搬送張力を徐々に上げて行うことを特徴とする。
請求項6の発明では、前記ウェブを収縮する過程の前に、該ウェブを搬送方向と直交する方向に延伸または幅保持することを特徴とする。
上記請求項1〜6の発明により製造された位相差フィルムは、所望の位相差を発現し、白濁や黄変がなく、コントラストの高い位相差フィルムであり、それを用いた偏光板、及び液晶表示装置は優れた視認性を有しているものである。
以下、本発明の実施の形態を図1を参照しながら説明するが、本発明の態様はこれに限定されるものではない。
図1は、無端ベルト支持体を使用し、ロール搬送方式による第1乾燥工程、第2乾燥工程を配置した溶液流延法による位相差フィルムの製造装置の概略図である。図1(a)は流延後、テンター装置で延伸した後、ロール搬送方式による第1乾燥工程でウェブを収縮する過程を行い、その後第2乾燥工程で本乾燥を行う無端ベルト支持体を使用した溶液流延法による位相差フィルムの製造装置の概略斜視図である。本発明において、ドープに用いた溶媒の沸点以上、乾燥後のフィルムのガラス転移温度(Tg)以下の温度でウェブを乾燥しながら、該ウェブの搬送方向に3%以上20%以下、搬送方向と直交する方向に1%以上10%以下の収縮率で加熱収縮を行う過程は上記第1乾燥工程で行うことが好ましいが、第1乾燥工程ではウェブの予備乾燥を行い、第2乾燥工程内でウェブの収縮を行ってもよい。更に第1乾燥工程、第2乾燥工程の両方で行ってもよく、該第1乾燥工程でウェブの搬送方向の収縮を行い、引き続き第2乾燥工程でウェブの搬送方向と直交する方向の収縮を行うことも好ましい。
図1(b)は図1(a)のA−A′に沿った概略断面である。
図中、1aは位相差フィルムの溶液流延法の製造装置を示す。製造装置1aは、流延工程101と、延伸工程103と、第1乾燥工程102と第2乾燥工程104と、巻き取り工程105とを有している。
流延工程101は、鏡面の無端ベルト支持体101aと、樹脂を溶媒に溶解したドープ2を、無端ベルト支持体101aに流延するダイス101bと、加熱装置101cとを有している。無端ベルト支持体101aはロール101a1とロール101a2とで保持され、回動(図中の矢印方向)が可能となっている。
3は無端ベルト支持体101aに流延されたドープが固化した状態のウェブを剥離する剥離ロールを示し、4は剥離されたウェブを示す。ウェブ4の厚さは、巻き取り工程105で回収された位相差フィルムの厚さが設定された膜厚になるように必要に応じて設定が可能となっている。
ドープ2は位相差フィルム用の樹脂材料を良溶媒と、貧溶媒からなる混合溶媒を使用して作製されている。本発明では、使用する樹脂を単独で溶解するものを良溶媒、単独で膨潤するか又は溶解しないものを貧溶媒と言う。
加熱装置101cは、無端ベルト支持体101aの上に流延されたドープ2を無端ベルト支持体101aから剥離出来る状態に溶媒を除去するために配設されている。
加熱装置101cは、配設された加熱風供給管101eと、排気管101dとを有している。本図に示す加熱装置101cは加熱風を使用した場合を示しているが、加熱手段としては特に限定はなく、この他に、例えば無端ベルト支持体101a上のドープ面を赤外線ヒータで加熱する方法、無端ベルト支持体101aの裏面に温風を吹き付け裏面側から加熱する方法等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。
無端ベルト支持体101aには無端ベルト支持体101aの表面の温度が測定出来るように測定手段(不図示)と表示手段(不図示)が配設されている。測定手段としては特に限定はなく、例えば非接触式温度計、接触式温度計等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。表示手段としては特に限定はなく、例えば液晶表示装置が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。
流延後、剥離までの間での時間は作製する位相差フィルムの膜厚、使用溶媒によって異なるが、無端ベルト支持体101aからの剥離性を考慮し、0.5分〜5分の範囲が好ましい。
使用する無端ベルト支持体101aとしては、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、例えば鋳物で表面をメッキ仕上げした金属ベルトが好ましく用いられる。無端ベルト支持体101aの幅は1700mm〜3500mmが好ましい。流延する幅は、無端ベルト支持体101aの幅に対して、80%〜99%とすることが好ましい。
流延工程の無端ベルト支持体101aの表面の温度は20℃〜溶媒が沸騰して発泡しない温度以下に設定することが好ましい。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速く出来るので好ましいが、あまり高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
無端ベルト支持体101aの表面は、幅手方向中央部の温度が幅手方向端部の温度よりも高く設定されていることが好ましい。より好ましくは、無端ベルト支持体101aの表面は、幅手方向中央部の温度が幅手方向端部の温度よりも、無端ベルト支持体からの剥離性、剥離時の残留溶媒量、剥離後の搬送性、搬送・乾燥後に出来上がるフィルムの物理特性等を考慮し1℃〜30℃高く設定されていることが好ましい。
尚、無端ベルト支持体101aの表面の端部とは、無端ベルト支持体101aの表面の端辺を基準として幅手方向に50mm〜500mmの範囲を言う。無端ベルト支持体101aの表面の中央部とは、無端ベルト支持体101aの全幅より、両端部の範囲を除いた部分言う。
ウェブ4を無端ベルト支持体101aより剥離する時のウェブ4の残留溶媒量は、端部のカール安定性、搬送安定性、テンター装置での把持適性、伸縮率等を考慮し、70質量%〜170質量%が好ましい。又、全残留溶媒量に対する良溶媒量の比率は、無端ベルト支持体からのウェブの剥離性、端部のカール安定性、貧溶媒の残留の安定化による端部の強度安定、テンター装置での把持適性等を考慮し10%〜70%が好ましい。好ましくは5%〜60%であり、更に好ましくは5%〜30%である。尚、使用する溶媒に関しては後述する。
ドープ2の位相差フィルム形成用の樹脂の濃度は、濃度が高い方が無端ベルト支持体に流延した後の乾燥負荷が低減出来て好ましいが、位相差フィルム形成用の樹脂の濃度が高過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10質量%〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15質量%〜25質量%である。
無端ベルト支持体101aからウェブ4を剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってウェブ4はMD(Machine Direction)方向に延伸するため、本発明においては無端ベルト支持体101aからウェブを剥離する際は剥離及び搬送張力は1N/cm〜4N/cmにすることが好ましい。
延伸工程103は、乾燥風取り入れ口103bと排出口103cとを有する外箱103aと、外箱103aの中に入れられたテンター延伸装置103dとを有している。テンター延伸装置103dに使用するテンターは特に限定はなく、例えば、クリップテンター、ピンテンター等が挙げられ、必要に応じて選択し使用することが可能である。テンター延伸装置103dでは、ウェブ4の搬送方向(MD方向)、或いは搬送方向と直角方向(TD方向)に必要に応じて延伸したり、幅保持することが可能となっている。
テンターをベースの走行方向にいくつかの温度ゾーンに分けることも一般によく行われる。延伸する際の温度は所望の物性や平面性が得られるような温度が選択されるが、テンター前後の乾燥ゾーンの温度はまた種々の理由により延伸の際の温度とは異なる温度が選択されることもある。例えば、テンター前の乾燥ゾーンの雰囲気温度がテンター内の温度と異なる場合は、テンター入り口に近いゾーンの温度を、テンター前の乾燥ゾーンの温度とテンター中央部の温度の中間的な温度に設定することが一般に行われている。テンター後とテンター内の温度が異なる場合にも同様にテンター出口に近いゾーンの温度をテンター後とテンター内の温度の中間的な温度に設定する。一例として、セルロースエステルフィルム製造工程におけるテンター前の残留溶媒量が20%以上50%以下の場合、テンター前後の乾燥ゾーンの温度は一般に30〜120℃であり、好ましくは50〜100℃、テンター内延伸部の温度は50〜180℃、好ましくは80〜140℃であり、テンター入り口部あるいは出口部の温度はそれらの中間的な温度から適宜選択される。
延伸のパターン、すなわち把持クリップの軌跡は、温度同様に膜の光学物性や平面性から選択され、様々であるが、把持開始後しばらくは一定幅で、その後延伸され、延伸終了後再び一定幅で保持されるパターンが良く用いられる。テンター出口付近のクリップ把持終了する付近では、把持を開放することによるベース振動の抑制のために幅緩和を行うことが一般に行われる。
延伸のパターンはまた延伸速度とも関連するが、延伸速度は一般的には10〜1000(%/min)好ましくは100〜500(%/min)である。この延伸速度はクリップの軌跡が曲線である場合には一定でなく、ベースの走行方向に徐々に変化する。
テンターでは、ウェブを収縮することも可能である。ウェブをMD方向に収縮するには、例えば、幅延伸を一時クリップアウトさせてMD方向に弛緩させる、または横延伸装置の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることにより、フィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸装置を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行うことができる。
テンターでの把持・延伸は、剥離直後の膜の残留溶媒量が50〜150質量%から巻き取り直前の実質的な残留溶媒量が0質量%の範囲のどこで行うこともできるが、その後に本発明に係る収縮過程を導入することが好ましい。
尚、乾燥風取り入れ口103bと排出口103cとは逆であってもよい。延伸工程103における溶媒除去手段としては加熱風を使用した場合を示しているが、溶媒除去手段としては特に限定はなく、この他に、例えば赤外線が挙げられる。
延伸工程103で延伸開始時のウェブの全残留溶媒量は、端部のカール安定性、テンター装置での把持適性、搬送安定性、伸縮率、等を考慮し、10質量%〜30質量%にすることが好ましい。又、全残留溶媒量に対する良溶媒量の比率は、テンター装置での把持適性、搬送安定性、等を考慮し、5%〜50%が好ましい。好ましくは、5%〜40%である。更に好ましくは、5%〜30%である。
第1乾燥工程102は、乾燥装置102aを有している。乾燥装置102aに配設された加熱風供給管102cと、排出口102bと、ウェブ4を搬送する搬送ロール102dを有している。加熱風供給管102cは流延工程101から送られてくるウェブ4の表面の温度を制御する。第1乾燥工程102で延伸工程103に入る前のウェブ4に含まれる溶媒量の調整を行うことが可能となっている。
本図に示す製造装置の場合、ウェブを無端ベルト支持体101aより剥離し、ロール搬送による乾燥工程(本図では、第1乾燥工程102、または第2乾燥工程104)内において、ドープに用いた溶媒の沸点以上、乾燥後のフィルムのガラス転移温度(Tg)以下の温度でウェブを乾燥しながら、該ウェブを搬送方向に3%以上30%以下、搬送方向と直交する方向に1%以上10%以下の収縮率で加熱収縮を行うことで、所望の位相差を発現し、白濁や黄変がなく、コントラストの高い位相差フィルムを得ることができる。ウェブの収縮は、周速を変化することができる複数のロールを有する縦延伸機を用いることが、安定性、再現性の観点から好ましい。
本発明では、目的を達成するために、ウェブをロール搬送しながら乾燥するため、乾燥工程における温度を制御することが非常に重要である。条件を適切に制御した状態で乾燥を実施することにより、ポリマーの凝集、配向状態を適切に制御することができるため、目的の光学特性を達成することが可能となる。温度の測定手段としては特に限定はなく、前述の非接触式温度計、接触式温度計等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することが可能である。
乾燥工程における乾燥は、加熱空気、赤外線等単独又は加熱空気と赤外線乾燥を併用しても構わない。簡便さの点で加熱空気で行うのが好ましい。本図は加熱空気を使用した場合を示している。
乾燥温度は、延伸工程に入る時のウェブの残留溶媒量により異なるが、本発明に係るウェブの伸縮率の調整、溶媒の蒸発に伴うウェブの表面への露結、残留溶媒量、溶媒の発泡等を考慮し、ドープに用いた溶媒の沸点以上、乾燥後のフィルムのガラス転移温度(Tg)以下の温度でウェブを乾燥することが必要である。乾燥温度は、ガラス転移温度よりも40℃以上低く、溶媒の沸点よりも高いことが好ましい。
ここで溶媒の沸点とは、1気圧、即ち1.013×105N/m2の圧力下での沸点である。沸点の測定は公知の技術を適用できる他、単体の場合には化学便覧等の文献中に記載の値も参照することができる。溶媒を複数種用いる場合は、各溶媒の質量%を重みとした下記式により加重平均沸点を求める。
(加重平均沸点の求め方)
各溶媒の沸点データxi、重みwiとした時、下記式により加重平均沸点(℃)を求める。
フィルムのガラス転移温度(Tg)はJIS K7121に記載の方法にて求めることが出来る。具体的には、フィルム試料を丸く切り込み、10mgをアルミ製サンプルパンに封入し、24hr以上、真空乾燥し、その後、示差走査熱量測定(DSC)((株)リガク製DSC8230型)で10℃/分で室温から300℃まで窒素ガス雰囲気中で昇温し、ガラス転移温度(Tg)を測定する。なお、TgはDSC曲線がベースラインから偏奇し始める温度を取ることにより求める。
また、この乾燥過程は第1区間、第2区間、第3区間・・・というように複数に分割され、それぞれの過程における残留溶媒量違いによって条件を分けることが好ましい。具体的には、温度条件を分ける仕切りを設けて独立制御したり、それぞれの部分における張力を異なる条件にするように複数の駆動ロール(フィードロール)を設けて、回転速度を独立にとって収縮条件を適切にとり、張力を独立にとることがよい。残留溶媒量が減少するにつれて、温度をより高温にし、張力を高めることが好ましい。
前記ロール搬送におけるロール間の距離は、ウェブ幅に対し0.8倍以上4倍以下に調整しウェブ搬送することが好ましい。一般に縦延伸工程では、ウェブ幅に対してロール間距離を短くとることによって、幅方向の収縮を抑えているが、本発明においては、特に搬送方向に収縮させるため、ロール間距離は長いことが好ましいが、搬送方向と直交方向の収縮バランスを適切に保つため、ウェブ幅に対するロール間距離は、0.8倍以上4倍以下であることが好ましい。
図2はロール搬送・乾燥工程のロール搬送部分を拡大した模式図である。図中Fはウェブ4が接する上部搬送用ロール102d′の接点から、ウェブ4が接する下部搬送用ロール102dの接点間の距離を示し、本発明ではロール間の距離と言う。上部搬送用ロール102d′、下部搬送用ロール102dの間隔は自在に設定することが可能になっている。又、ロール搬送部の搬送速度も独立で可変となっている。ロール搬送・乾燥工程では乾燥温度、時間に加え、前記ロールの接点間の距離F及び搬送速度によりフィルムの搬送方向の乾燥収縮率を必要に応じて変えることが可能となる。
前記ウェブを収縮する過程を搬送張力0.5N/cm以上1.0N/cm以下で行うことが好ましい。これは、フィルムの平滑性を保ち、かつ所望の収縮量を得るためである。
また、前記ウェブを収縮する過程を搬送張力を徐々に上げて行うことが好ましい。本発明では、乾燥の進行途中においてフィルム収縮をさせるが、フィルム中の溶媒が多いほど、同じ張力におけるフィルムの収縮度合いは小さくなる。フィルムの平面性を損なわず、かつ適切に収縮させるために、搬送張力は収縮過程の初期に比べて上昇させることが好ましい。また温度を上昇させることも有効である。
第2乾燥工程104は、乾燥風取り入れ口104bと排出口104cとを有する乾燥箱104aと、ウェブ4を搬送する上部の搬送ロール104dと下部の搬送ロール104eとを有している。上部の搬送ロール104dと下部の搬送ロール104eとは上下で一組で、複数組から構成されている。第2乾燥工程104に配設される搬送ロールの数は、乾燥条件、方法、製造される位相差フィルムの長さ等により異なり適宜設定している。上部の搬送ロール104dと下部の搬送ロール104eとは駆動源によって回転駆動されない自由回転ロールとなっている。又、乾燥工程から巻き取り工程までの間には、全て自由回転する搬送ロールが用いられるわけではなく、通常、1本〜数本の搬送用駆動ロール(駆動源によって回転駆動するロール)の設置を必要とする。基本的に、搬送用駆動ロールは、その駆動で樹脂フィルムを搬送するのが目的であるので、ニップやサクション(エアの吸引)などにより、樹脂フィルムの搬送と、駆動ロールの回転とを同期させる機構が付いている。
本発明の位相差フィルムは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をny、膜厚方向の屈折率をnz、フィルムの膜厚をd(nm)とした時、前記式で表される面内方向のレターデーションRoが26nm以上300nm以下であり、かつ厚み方向のレターデーションRthを用いて前記式で求められるNz係数の絶対値が0.5以上4以下である。
本発明の位相差フィルムの上記レターデーションの調整は、延伸及び本発明に係る収縮を組み合わせることで行うことが好ましい。延伸及び収縮はテンター延伸装置、第1乾燥工程、第2乾燥工程等にて行うが、自由端延伸により行うことも好ましい。尚、自由端延伸とは、延伸方向と直交する方向の両端部を支持せずに一軸延伸することを意味する。
このような延伸は、例えば、帯状に形成されたフィルムが巻回された送り出しロールから、フィルムを送り出し、送り出しロールとは別の巻取ロールにて送り出し速度よりも高速でフィルムの送り出された部分を巻き取ることによって、フィルムを長手方向に延伸する延伸方法(所謂、ロール・トウ・ロール延伸)に於いて、幅方向の両端部をクランプ等で支持せず、幅方向に張力がかからないようにして延伸する方法である。
このように自由端延伸を行うことにより、延伸する際に収縮性フィルムを積層することなく、より確実に、Nz係数が上記範囲の位相差フィルムを得ることができる。
巻き取り回収工程105は、巻き取り装置(不図示)を有し、第2乾燥工程104で設定した残留溶媒量とした位相差フィルム5を必要量の長さに巻き芯に巻き取る。105aは巻き芯に巻き取られたロール状の位相差フィルムを示す。尚、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮によるスリキズ、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻き取り機は、一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることが出来る。
巻き取り回収工程105で回収された位相差フィルムの伸縮率は、搬送・乾燥後に出来上がるフィルムの物理特性等を考慮し、MD方向の伸縮率が0%〜20%で、TD方向の伸縮率が−3%〜20%であることが好ましい。
なお、搬送乾燥工程を終えた位相差フィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、エンボス加工装置により、位相差フィルムの両側縁部にエンボスを形成する加工を行うことが好ましい。エンボス加工装置としては、例えば特開昭63−74850号公報に記載されている装置が利用できる。
本発明の方法において、巻き取り後の位相差フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は20〜200μmで、特に25〜120μmの範囲が好ましい。
本発明の位相差フィルムの幅は、大型TVのように液晶画面対応、偏光板加工時のフィルムの使用効率、作業性、生産効率等を考慮し、1.2m〜4mが好ましく、1.5〜3mであることが生産性、ハンドリングの観点でより好ましい。
図3は、本発明に係る位相差フィルムの別の製造装置の概略図である。
図1の製造装置に対し、第1乾燥工程102と第2乾燥工程104の間に、更に延伸工程のためのテンター延伸装置103を導入したケースである。第1乾燥工程102においてウェブを収縮した後に、更にテンター延伸装置103dにより搬送方向、または搬送方向と直交する方向への延伸もしくは収縮を精度よく行うことができる。
図4は、本発明に係る位相差フィルムの別の製造装置の概略図である。
図1の製造装置に対し、第1乾燥工程102の後に延伸工程103を導入したケースである。比較的残留溶媒の多いところでウェブの収縮を行うことが可能である。
(樹脂材料)
本発明の位相差フィルムの製造方法に使用する樹脂は特に限定はなく、一般に溶液流延法で使用する樹脂の使用が可能である。位相差フィルムを製造する樹脂材料としては、例えば偏光子との接着性がよいこと、光学的に透明であること等が好ましい要件として挙げられる。可視光の透過率60%以上であることを言い、好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
上記の性質を有している位相差フィルムを形成する樹脂であれば特に限定はなく、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂等を挙げることが出来る。中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましく、本発明においては、特にセルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート系樹脂が、製造上、コスト面、透明性、接着性等の観点から好ましく用いられる。
本発明に用いられるセルロースエステル系樹脂に付き説明する。セルロースエステル系樹脂は、セルロースアセテート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂が好ましく、中でもセルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートフタレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂が好ましく用いられる。
特にアセチル基の置換度をX、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、XとYが下記の範囲にあるセルロースの混合脂肪酸エステルを有するセルロースエステル系樹脂が好ましく用いられる。
式(I) 2.0≦X+Y≦2.8
式(II) 0.1≦Y≦1.2
更に2.4≦X+Y≦2.6、1.4≦X≦2.3のセルロースアセテートプロピオネート(総アシル基置換度=X+Y)樹脂が好ましい。中でも2.4≦X+Y≦2.6、1.7≦X≦2.3、0.1≦Y≦0.9のセルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート(総アシル基置換度=X+Y)樹脂が好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は公知の方法で合成することが出来る。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96の規定に準じて測定することが出来る。
本発明に係わる位相差フィルムとして、セルロースエステル系樹脂を用いる場合、セルロースエステル系樹脂の原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)、ケナフ等を挙げることが出来る。又それらから得られたセルロースエステル系樹脂はそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。これらのセルロースエステル系樹脂は、アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いてセルロース原料と反応させて得ることが出来る。
アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には、特開平10−45804号に記載の方法等を参考にして合成することが出来る。又、本発明に用いられるセルロースエステル系樹脂は各置換度に合わせて上記アシル化剤量を混合して反応させたものであり、セルロースエステル系樹脂はこれらアシル化剤がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度(モル%)と言う。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てにアセチル基が結合している(実際には2.6〜3.0)。
本発明に係わるセルロースエステル系樹脂としては、前述のようにセルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、又はセルロースアセテートプロピオネートブチレート樹脂のようなアセチル基の他にプロピオネート基又はブチレート基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルが特に好ましく用いられる。尚、プロピオネート基を置換基として含むセルロースアセテートプロピオネート樹脂は耐水性に優れ、液晶画像表示装置用のフィルムとして有用である。
セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、40000〜200000が、成型した場合の機械的強度が強く、且つ、溶液流延法の場合は適度なドープ粘度となり好ましく、更に好ましくは、50000〜150000である。又、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が1.4〜4.5の範囲であることが好ましい。
(ドープ)
溶液流延法に使用するドープを作製する際に使用される溶媒としては、上記樹脂を溶解出来る溶媒であれば何でもよく、又単独で溶解出来ない溶媒であっても他の溶媒と混合することにより、溶解出来るものであれば使用することが出来る。一般的には良溶媒と、貧溶媒からなる混合溶媒が用いられている。例えばセルロースエステル系樹脂の場合、セルロースエステルのアシル基置換度によっては、良溶媒、貧溶媒が変わり、例えばアセトンを溶媒として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶媒になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶媒となる。セルロースエステル系樹脂の場合、良溶媒と貧溶媒の混合比率の好ましい範囲は、良溶媒が70〜98質量%であり、貧溶媒が2〜30質量%である。
使用する樹脂により、良溶媒及び貧溶媒は異なってくるのでセルロースエステル系樹脂の場合に付き説明する。良溶媒としては、例えばメチレンクロライド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来るが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい有機溶媒(即ち、良溶媒)として挙げられる。
貧溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘクサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることが出来、これらの貧溶媒は単独もしくは2種以上を適宜組み合わせて用いることが出来る。
次にセルロースエステル系樹脂を使用したドープを調製方法に付き述べる。ドープを調製する時の、セルロースエステル系樹脂の溶解方法としては、一般的な方法を用いることが出来る。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱出来る。溶媒の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。又、セルロースエステル系樹脂を貧溶媒と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶媒の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶媒を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。又、圧力は設定温度で溶媒が沸騰しないように調整される。
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることが出来る。
次に、このセルロースエステル系樹脂溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースエステルフィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/m2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。又、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことが出来るが、溶媒の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
(可塑剤)
可塑剤としては特に限定しないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることが出来る。リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等が挙げられる。トリメリット酸系可塑剤として、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等が挙げられる。ピロメリット酸エステル系可塑剤として、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等が挙げられる。グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が挙げられる。クエン酸エステル系可塑剤として、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等が挙げられる。ポリエステル系可塑剤として脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸等の二塩基酸とグリコールの共重合ポリマーを用いることが出来る。脂肪族二塩基酸としては特に限定されないが、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸などを用いることが出来る。
グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコールなどを用いることが出来る。これらの二塩基酸及びグリコールはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種以上混合して用いてもよい。ポリエステルの分子量は重量平均分子量で500〜2000の範囲にあることが、セルロースエステルとの相溶性の点から好ましい。
又、本発明では特に200℃における蒸気圧が1333Pa未満の可塑剤を用いることが好ましく、より好ましくは蒸気圧666Pa以下、更に好ましくは1〜133Paの化合物である。不揮発性を有する可塑剤は特に限定されないが、例えばアリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステル、リン酸トリクレシル、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、上記ポリエステル可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤は単独或いは2種以上併用して用いることが出来る。
可塑剤の使用量は寸法安定性、加工性の点を考慮すると、セルロースエステル系樹脂に対して、1〜40質量%添加させることが出来、3〜20質量%の範囲で添加することが好ましく、更に好ましくは4〜15質量%である。3質量%未満の場合は、スリット加工や打ち抜き加工した際、滑らかな切断面を得ることが出来ず、切り屑の発生が多くなる。
本発明に係わる位相差フィルムには酸化防止剤や紫外線吸収剤などを添加することが好ましい。上記酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。又例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
又、この他、カオリン、タルク、けい藻土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩などの熱安定剤を加えてもよい。
(紫外線吸収剤)
本発明の製造方法で製造された位相差フィルムは、その高い寸法安定性から、偏光板又は液晶表示用部材等に使用することが可能であり、この場合、偏光板又は液晶等の劣化防止のため、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。具体的には380nmの透過率が10%未満であることが好ましく、特に5%未満であることがより好ましい。
好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物などが挙げられる。例えば、特開平10−182621号、特開平8−337574号、記載の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。又、特開平6−148430号、特開平12−273437号に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。或いは特開平10−152568号に記載されている紫外線吸収剤を加えてもよい。
これらの紫外線吸収剤の中では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましい紫外線吸として挙げられる。以下にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール(TINUVIN171、チバスペシャルティケミカルズ(株)製)、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物(TINUVIN109、チバスペシャルティケミカルズ(株)製)
以下にベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)
紫外線吸収剤の添加方法は、アルコールやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶媒に溶解しないものは、有機溶媒とセルロースエステル系樹脂中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加することが好ましい。紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤としての効果、透明性等を考慮し、0.1質量%〜2.5質量%が好ましい。更に、好ましくは、0.8質量%〜2.0質量%である。
(マット剤)
又、セルロースエステル系樹脂フィルムには、フィルム同士の貼り付きを防止したり、滑り性を付与したりして、ハンドリングしやすくするために、マット剤として微粒子を添加してもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子又は有機化合物の微粒子が挙げられる。無機化合物としては、珪素を含む化合物、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくは、珪素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースエステル積層フィルムの濁度を低減出来るので、二酸化珪素が特に好ましく用いられる。
二酸化珪素の微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL−200、200V、300、R972、R972V、R974、R976、R976S、R202、R812,R805、OX50、TT600、RY50、RX50、NY50、NAX50、NA50H、NA50Y、NX90、RY200S、RY200、RX200、R8200、RA200H、RA200HS、NA200Y、R816、R104、RY300、RX300、R106などが挙げられる。これらの内、分散性や粒径を制御する点では、AEROSIL−200V、R972Vが好ましい。
酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用出来る。
有機化合物としては、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。
上記記載のシリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用出来る。
本発明に係る微粒子の1次平均粒子径としては、ヘイズを低く抑えるという観点から、20nm以下が好ましく、更に好ましくは、5〜16nmであり、特に好ましくは、5〜12nmである。
微粒子の、見掛比重としては、70g/リットル以上が好ましく、更に好ましくは、90〜200g/リットルであり、特に好ましくは、100〜200g/リットルである。見掛比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましく、又、本発明のように固形分濃度の高いドープを調製する際には、特に好ましく用いられる。
1次粒子の平均径が20nm以下、見掛比重が70g/リットル以上の二酸化珪素微粒子は、例えば、気化させた四塩化珪素と水素を混合させたものを1000〜1200℃にて空気中で燃焼させることで得ることが出来る。又例えばアエロジル200V、アエロジルR972V(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、それらを使用することが出来る。
尚、見掛比重は二酸化珪素微粒子を一定量メスシリンダーに採り、この時の重さを測定し、下記式で算出した。
見掛比重(g/リットル)=二酸化珪素質量(g)÷二酸化珪素の容積(リットル)
本発明に係る微粒子の分散液を調製する方法としては、例えば以下に示すような3種類が挙げられる。
《調製方法A》
溶媒と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。微粒子分散液をドープ液に加えて撹拌する。
《調製方法B》
溶媒と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行う。これを微粒子分散液とする。別に溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解する。ここで添加するセルロースエステルとして、本発明の固形物を添加することが特に好ましい。
これに前記微粒子分散液を加えて撹拌する。これを微粒子添加液とする。微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する。
《調製方法C》
溶媒に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解する。これに微粒子を加えて分散機で分散を行う。これを微粒子添加液とする。微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する。
調製方法Aは二酸化珪素微粒子の分散性に優れ、調製方法Cは二酸化珪素微粒子が再凝集しにくい点で優れている。中でも、上記記載の調製方法Bは二酸化珪素微粒子の分散性と、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい等、両方に優れている好ましい調製方法である。
《分散方法》
二酸化珪素微粒子を溶媒などと混合して分散する時の二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度は高い方が、添加量に対する液濁度は低くなる傾向があり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
使用される溶媒は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
セルロースエステルに対する二酸化珪素微粒子の添加量はセルロースエステル100質量部に対して、二酸化珪素微粒子は0.01〜0.3質量部が好ましく、0.05〜0.2質量部が更に好ましく、0.08〜0.12質量部が最も好ましい。添加量は多い方が、動摩擦係数に優れ、添加量が少ない方がヘイズが低く、凝集物も少ない点が優れている。
分散機は通常の分散機が使用出来る。分散機は大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられる。二酸化珪素微粒子の分散にはメディアレス分散機がヘイズが低く好ましい。
メディア分散機としてはボールミル、サンドミル、ダイノミルなどが挙げられる。
メディアレス分散機としては超音波型、遠心型、高圧型などがあるが、本発明においては高圧分散装置が好ましい。高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。高圧分散装置で処理する場合、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が9.807MPa以上であることが好ましい。更に好ましくは19.613MPa以上である。又その際、最高到達速度が100m/秒以上に達するもの、伝熱速度が420kJ/時間以上に達するものが好ましい。
上記のような高圧分散装置にはMicrofluidics Corporation社製超高圧ホモジナイザ(商品名マイクロフルイダイザ)或いはナノマイザ社製ナノマイザがあり、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモジナイザ、三和機械(株)製UHN−01等が挙げられる。
又、これらの微粒子はフィルムの厚み方向で均一に分布していてもよいが、より好ましくは主に表面近傍に存在するように分布していることが好ましく、例えば、共流延法により、2種以上のドープを用いて、微粒子を主に表層側に配置されたドープに添加することが、滑り性が高く、ヘイズが低いフィルムが得られるので好ましい。好ましくは3種のドープを使用して表層側の2つのドープに主に微粒子を添加することが望ましい。
(その他添加剤)
又、本発明のフィルムには導電性を有する物質を添加することで好ましいインピーダンスを有する光学フィルムを得ることも出来る。導電性物質としては特に限定はされないが、イオン導電性物質や導電性微粒子或いはセルロースエステルと相溶性を有する帯電防止剤などを用いることが出来る。ここでイオン導電性物質とは電気伝導性を示し、電気を運ぶ担体であるイオンを含有する物質のことであるが、例えば、イオン性高分子化合物を挙げることが出来る。
イオン性高分子化合物としては、特公昭49−23828号、同49−23827号、同47−28937号に見られるようなアニオン性高分子化合物、例えば特公昭55−734号、特開昭50−54672号、特公昭59−14735号、同57−18175号、同57−18176号、同57−56059号などに見られるような、主鎖中に解離基を持つアイオネン型ポリマー、特公昭53−13223号、同57−15376号、特公昭53−45231号、同55−145783号、同55−65950号、同55−67746号、同57−11342号、同57−19735号、特公昭58−56858号、特開昭61−27853号、同62−9346号に見られるような、側鎖中にカチオン性解離基を持つカチオン性ペンダント型ポリマー等を挙げることが出来る。
又、導電性微粒子の例としては導電性を有する金属酸化物が挙げられる。金属酸化物の例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al2O3、In2O3、SiO2、MgO、BaO、MoO2、V2O5等、或いはこれらの複合酸化物が好ましく、特にZnO、TiO2及びSnO2が好ましい。異種原子を含む例としては、例えばZnOに対してはAl、In等の添加、TiO2に対してはNb、Ta等の添加、又SnO2に対しては、Sb、Nb、ハロゲン元素等の添加が効果的である。これら異種原子の添加量は0.01〜25mol%の範囲が好ましいが、0.1〜15mol%の範囲が特に好ましい。
又、これらの導電性を有する金属酸化物粉体の体積抵抗率は107Ωcm以下特に105Ωcm以下であって、1次粒子径が10nm以上0.2μm以下で、高次構造の長径が30nm以上6μm以下である特定の構造を有する粉体をフィルム内の少なくとも一部の領域に体積分率で0.01%以上20%以下含んでいることが好ましい。
特に好ましくは、特開平9−203810号に記載されているアイオネン導電性ポリマー或いは分子間架橋を有する第4級アンモニウムカチオン導電性ポリマーなどを含有することが望ましい。
架橋型カチオン性導電性ポリマーの特徴は、得られる分散性粒状ポリマーにあり、粒子内のカチオン成分を高濃度、高密度に持たせることが出来るため、優れた導電性を有しているばかりでなく、低相対湿度下においても導電性の劣化は見られず、粒子同志も分散状態ではよく分散されているにもかかわらず、塗布後造膜過程において粒子同志の接着性もよいため膜強度も強く、又他の物質、例えば基体にも優れた接着性を有し、耐薬品性に優れている。
架橋型のカチオン性導電性ポリマーである分散性粒状ポリマーは一般に約0.01μm〜0.3μmの粒子サイズ範囲にあり、好ましくは0.05μm〜0.15μmの範囲の粒子サイズが用いられる。ここで用いている「分散性粒状ポリマー」の語は、視覚的観察によって透明又はわずかに濁った溶液に見えるが、電子顕微鏡の下では粒状分散物として見えるポリマーである。
帯電防止剤もしくはマット剤の添加は樹脂フィルムを位相差フィルムとして使用する場合は、位相差フィルムの表層部(表面から10μmの部分)に含まれていることが好ましく、共流延等の方法によってフィルムの表面に帯電防止剤及び/又はマット剤を含有させることが好ましい。具体的には、導電性物質及び/又はマット剤を含有するドープAと実質的にこれらを含有しないドープBを使用し、ドープBの少なくとも片側の面にドープAがあるように流延されることが好ましい。必要に応じて、更に帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤、マット剤、その他添加剤を加えてもよい。
(機能性層)
本発明の偏光子保護フィルム製造に際し、延伸の前及び/または後で帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、易滑性層、易接着層、防眩層、バリアー層、光学補償層等の機能性層を塗設してもよい。特に、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選ばれ層を設けることができる。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
(偏光板)
本発明の偏光板について述べる。
偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。本発明の偏光子保護フィルム裏面側をアルカリ鹸化処理する。ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、該鹸化処理した偏光子保護フィルムを、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも該偏光子保護フィルムを用いても、別の偏光子保護フィルムを用いてもよい。本発明の偏光子保護フィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光子保護フィルムとしては、面内レターデーションRoが590nmで、0〜10nm、Rthが−30〜30nmのセルロースアシレートフィルムを用いることが好ましい。本発明の偏光子保護フィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることが出来る。
裏面側に用いられる偏光子保護フィルムとしては、市販のセルロースアシレートフィルムとして、KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC10UDR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
本発明の偏光子保護フィルムは工業的には長尺のフィルムとして作製され、同じく長尺のフィルムとして作製される偏光子と貼り合わせて偏光板を構成する態様が最も有用である。また、偏光板に更に貼り合わせるなど、偏光子保護フィルムとしての機能を持たない単なる位相差フィルムとして使用することも出来る。
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがあるがこれのみに限定されるものではない。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmの偏光子が好ましく用いられる。
偏光板は、更に一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することが出来る。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶セルへ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶セルへ貼合する粘着剤層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
(液晶表示装置)
液晶表示装置への偏光板の装着は、本発明に係る偏光子保護フィルム面を液晶セル側に貼合することによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することが出来る。
前記したように液晶セルにはアクリル系粘着剤を用いて接着することが好ましい。
本発明の偏光子保護フィルムは反射型、透過型、半透過型LCDまたはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型:垂直配向方式)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。特に、VA型、またはIPS型液晶表示装置に用いることが好ましい。画面が30型以上の大画面の液晶表示装置では、色ムラや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
〔本発明の位相差フィルム1の作製〕
〈ドープ液の調製〉
下記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内温度を20℃から80℃まで昇温した後、温度を80℃に保ったままで3時間攪拌を行って、セルロースエステルを完全に溶解し、ドープ液を調製した。その後、攪拌を停止し、液温を43℃まで下げた。このドープ液を濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープAを得た。
(ドープA)
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート;アセチル基置換度1.3、プロピオニル基置換度1.1) 100質量部
ポリメチルアクリレート 3質量部
スクロースオクタベンゾエート 5質量部
酸化ケイ素微粒子(アエロジルR972V(日本アエロジル株式会社製))
0.1質量部
メチレンクロライド 240質量部
エタノール 60質量部
上記のように調製したドープAを、30℃に保温した流延ダイを通して、ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる30℃の支持体上に流延してウェブを形成し、支持体上で乾燥させ、ウェブの残留溶媒量が65質量%になるまで支持体上で乾燥させた後、剥離ロールによりウェブを支持体から剥離した。
続いてテンターでウェブ両端部を把持した後、55℃で幅方向3%延伸した。テンター出口における残留溶媒量は30%であった。テンターでの延伸の後、ウェブを上下に複数配置したロールによる縦延伸工程で温度47℃の乾燥風にて残留溶媒量20質量%まで乾燥しながら、搬送方向に1%延伸させた。
その後、縦延伸工程同様にロールを上下に複数配置した第1区間、第2区間を有する乾燥工程でウェブを搬送させて収縮させた。このときのウェブに対するロール間距離比(MD/TD)は共に2倍とした。温度は、第1区間で75℃、第2区間で95℃となるように設定し、ウェブの搬送張力は第1区間で0.7N/cm、第2区間で0.8N/cmとなるように設定した。このとき、第1区間における搬送方向と幅方向の収縮度はそれぞれ7%、2%であり、第2区間では同様に9%、2%であった。
その後、ウェブを巻き取って本発明の位相差フィルム1を得た。膜厚は84μm、残留溶媒量は測定限界以下であった。
(フィルムの位相差値測定)
得られたフィルムの波長590nmにおける下記式で表されるレターデーション値を、王子計測機器(株)製KOBRA−21−ADHを用いて23℃55%RHの環境下で測定したところ、Rth値は100nm、Ro値は40nmであり、Nz値は2.72、進相軸は搬送方向と平行方向であった。
Ro=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
Nz=Rth/Ro+0.5
(前記位相差フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、進相軸方向の屈折率をny、膜厚方向の屈折率をnz、フィルムの膜厚をd(nm)とする。)
(ヘイズの測定)
日本電色工業製NDH2000を用い、JISK7136に準じてフィルムのヘイズを測定したところ0.12%であった。
(黄色度(YI)の測定)
株式会社日立ハイテクノロジーズ製分光光度計U−3310にて、フィルム透過光スペクトルを測定し、D65光源、2度視野にて黄色度YIを計算したところ、0.8であった。
(平面性)
黒布上にフィルムを置き、3波長形蛍光ランプの下でムラを目視で評価したところ、評価レベルは3であった。
1:ムラの存在が目視ですぐにわかる。
2:よく見るとムラが観察される。
3:ムラが観察できない。
〔本発明の位相差フィルム2〜8の作製〕
製造条件、膜厚を表1、表2に記載したように変えた以外は、本発明の位相差フィルム1と同様にして、本発明の位相差フィルム2〜8を作製した。
〔比較の位相差フィルム1〜4の作製〕
製造条件、膜厚を表1、表2に記載したように変えた以外は、本発明の位相差フィルム1と同様にして、比較の位相差フィルム1〜4を作製した。
〔比較の位相差フィルム5の作製〕
コニカミノルタタックフィルムKC8UYW(Rth50nm、Ro3nm;コニカミノルタオプト(株)製)を、フィルム長手方向に200℃、50%延伸して比較の位相差フィルム5を得た。膜厚は80μm、Rth41nm、Roは105nm、Nz0.89であった。
〔比較の位相差フィルム6の作製〕
〈ドープ液の調製〉
下記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内温度を20℃から80℃まで昇温した後、温度を80℃に保ったままで3時間攪拌を行って、セルロースエステルを完全に溶解した。その後、攪拌を停止し、液温を43℃まで下げた。このドープを濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープBを得た。
(ドープB)
セルロースエステル(セルローストリアセテート;アセチル基置換度2.87)
100質量部
ポリメチルアクリレート 10質量部
酸化ケイ素微粒子(アエロジルR972V(日本アエロジル株式会社製))
0.1質量部
メチレンクロライド 270質量部
エタノール 30質量部
上記のように調整したドープを、25℃に保温した流延ダイを通して、ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる25℃の支持体上に流延してウェブを形成し、支持体上で乾燥させ、ウェブの残留溶媒量が95質量%になるまで支持体上で乾燥させた後、剥離ロールによりウェブを支持体から剥離した。
ウェブをロールで搬送しながら80℃で乾燥した後、テンターでウェブ両端部を把持して、155℃で幅方向3%延伸した。テンター出口における残留溶媒量は20%であった。
その後、150℃で溶媒を測定限界以下まで乾燥した後に巻き取って比較の位相差フィルム6を得た。膜厚は80μm、Rth32nm、Roは54nm、Nz1.09であった。
得られた本発明の位相差フィルム2〜8、比較の位相差フィルム1〜6について、実施例1と同様にしてヘイズ、黄色度(YI)、平面性の評価を行い、表3に記載した。
表3より、本発明の位相差フィルム1〜8は、ヘイズ、黄色度(YI)、平面性が総合的に優れた位相差フィルムであることが分かる。
実施例2
実施例1で作製した本発明の位相差フィルム2、4、6、7を用いて、下記により偏光板を作製し、次いで該偏光板を用いて液晶表示装置を作製した。
《偏光板の作製》
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光膜を得た。
次いで、下記工程1〜5に従って偏光膜と前記位相差フィルム、裏面側のセルロースエステルフィルムを貼り合わせて偏光板を作製した。裏面側の偏光板保護フィルムには市販のセルロースエステルフィルムであるコニカミノルタタックKC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)を用いてそれぞれ偏光板とした。
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化した前記フィルムを得た。
工程2:前記偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理した本発明に係るフィルムの上にのせて積層した。
工程4:工程3で積層した本発明に係るセルロースエステルフィルム試料と偏光膜と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光膜と本発明に係る位相差フィルムと裏面側セルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板を作製した。
《液晶表示装置への適用》
本発明の位相差フィルム2を用いて、搬送方向と偏光子の吸収軸を平行にして作製した偏光板を、ソニー製液晶テレビブラビアS1000(40インチ)に、もとの偏光板の吸収軸と同一方向になり、かつ本発明の位相差フィルムが液晶セル側に位置するように、代わりに両面に貼合して視野角を確認したところ、良好な視野特性が得られた。
本発明の位相差フィルム4を用いて、搬送方向と偏光子の吸収軸を平行にして作製した偏光板を、BenQ製液晶ディスプレイFP73GS(17インチ)に、もとの偏光板の吸収軸と同一方向になり、かつ本発明の位相差フィルムが液晶セル側に位置するように代わりに両面に貼合して視野角を確認したところ、良好な視野特性が得られた。
本発明の位相差フィルム6を用いて、搬送方向と偏光子の吸収軸を垂直にして作製した偏光板を、日立製液晶テレビW17−LC50(17インチ)の視認側に、バックライト側には、該フィルムの代わりにコニカミノルタタックKC4UEW(コニカミノルタオプト(株)製)を用いて作製した偏光板を、それぞれもとの偏光板の吸収軸と同一方向になり、かつ本発明の位相差フィルムとKC4UEWが液晶セル側に位置するように代わりに両面に貼合して視野角を確認したところ、良好な視野特性が得られた。
本発明の位相差フィルム7を用いて、搬送方向と偏光子の吸収軸を45度傾けて貼合して作製した偏光板を、iriver製Clix2(2GB)のアクティブマトリックス有機ELディスプレイに、もとの偏光板の吸収軸と同一方向になり、かつ本発明の位相差フィルムが液晶セル側に位置するように代わりに貼合して視野角を確認したところ、良好な視野特性が得られた。