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JP5199951B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents

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Description

本発明は、固定又は非旋回スクロール部材と旋回スクロール部材とにより作動流体を圧縮するスクロール圧縮機に関し、特に圧縮する作動流体から受ける両スクロール部材の引離し力に対抗する引付力を、少なくとも前記一方のスクロール部材の背面に設けた背圧室の圧力(背圧)で発生させ、この背圧の変動を抑制することで全断熱効率を向上させるようにしたものに関する。
前記引離し力は、前記両スクロール部材で圧縮した作動流体の昇圧分により発生するため、それに対抗する引付力を発生させるため背圧室の圧力(背圧)は、必ず吸込圧以上でなければならない。従来のスクロール圧縮機(非旋回スクロール部材が固定された固定スクロール部材とし、旋回スクロール部材が固定スクロール部材に付勢されるように構成したスクロール圧縮機)は、例えば、特許文献1の如く、吐出圧となっている圧縮機内の作動流体を、旋回スクロール部材背面の背圧室に供給し、弁体と押付けばねからなる差圧制御弁を介して圧縮室へ逃がす背圧連通路を設けていた。この結果、前記背圧は、背圧連通路が開口する圧縮室よりも、弁装置内の押付けばねの強さに応じて概略一定値(この値を以下「過中間圧値」と称す)だけ大きい値に制御され、吸込圧よりも高く吐出圧よりも低い中間圧に設定される。これにより、旋回スクロール部材は、固定(非旋回)スクロール部材に、引離し力と引付力のベクトル和である付勢力で付勢され、圧縮動作を継続していた。
特開平11−132164号公報
一般に、スクロール圧縮機では、背圧が変動すると、引付力が変動する。一方、引離し力は、引付力の変動と同一の変動量をもつことはないため、付勢力が変動する。付勢力が変動すると、背圧をかけたスクロール部材の変形量が変動するため、圧縮室を隔成する両スクロール部材間のシール隙間の大きさが不安定となり、最大隙間は拡大し、最小隙間時では干渉が生じる。シール隙間は、圧縮室に供給する油で埋めることによりシール性を確保しているが、シール隙間の大きさが不安定になると、シール隙間に油が溜まっても隙間の拡大時にこの隙間からガスが流出するため、シールが不完全となり、漏れ損失が増大する。また、前記干渉の発生によって、信頼性の低下と共に摺動損失の増大という問題が生じる。このような理由で、前記背圧の変動はスクロール圧縮機の性能低下を招く。
一方、スクロール圧縮機は、両スクロール部材により形成される作動空間を有効に活用するため、旋回スクロールの渦巻体外周側側面と非旋回スクロールの渦巻体内周側側面により形成される非旋回内線側圧縮室(旋回外線側圧縮室)と、旋回スクロール部材の渦巻体内周側側面と非旋回スクロール部材の渦巻体外周側側面により形成される非旋回外線側圧縮室(旋回内線側圧縮室)の二系統の圧縮室を有している。
上記従来技術における背圧設定では、背圧連通路が開口する圧縮室の圧力よりも過中間圧値だけ高い値に背圧が制御されるため、背圧連通路が開口する圧縮室の圧力変動に応じ、背圧変動が発生することになる。このため、上記理由から、スクロール圧縮機の性能向上を図るには、背圧連通路が開口する圧縮室の圧力変動幅ができるだけ小さくなるような位置に、背圧連通路の開口を設定する必要がある。
一方、上記従来のスクロール圧縮機では、非旋回内線側圧縮室と非旋回外線側圧縮室の二系統の圧縮室が同時に圧縮を開始するため、両スクロール部材間に形成された任意の二つの圧縮室の圧力差は、0(両者が同タイミングで圧縮を開始した圧縮室の場合)か、旋回スクロールがN回旋回する間の昇圧量(両者の圧縮開始タイミングにN回の旋回差があった場合)となる。
このため、背圧連通路の開口を如何なる位置に設けようとも、上記従来技術で行っている、一系統の圧縮室だけに連通する位置(固定スクロール部材の歯底で、固定スクロール渦巻体から旋回スクロール渦巻体の厚さ以内の距離に全域が入る位置)に背圧連通路の開口を設けた場合の圧力変化幅以下にすることはできない。但し、吸込室への連通も含め、圧縮室側開口部が連通する圧縮室の平均圧力を一定とする前提条件を設けた場合であり、この条件を外すと、渦巻体の巻き終わりに近づくことで圧縮室側開口部が連通する圧縮室の変動は小さくなるが平均圧力も低くなる。しかしこの場合、必要な背圧レベルを確保できない場合が生じる。このため、圧縮室側開口部を巻き終わりに近づけることには限界がある。
この圧力変化幅は、原理的には、旋回スクロール部材が一旋回(2×πラジアンの旋回)するときの圧力変化幅である(実際は、それよりも、圧縮室側開口部が噛合う相手の歯先で遮蔽される角度区間だけ狭まる)。ここで、「噛合う」とは、力を伝達しつつ接触する関係と、近接するが非接触を保ってシール性を保持するような関係も意味する。
以上の理由から、背圧連通路を圧縮室へつなぐ従来のスクロール圧縮機では、開口部が臨む圧縮室の圧力変動を十分に抑制することができず、それに伴って生じる背圧変動により、圧縮機の性能が低下するという問題があった。
本発明の目的は、スクロール部材の背面に設ける背圧室(引付力発生手段)の圧力を安定化して、一方のスクロール部材が他方のスクロール部材に付勢される付勢力の変動を低減し、それによって高効率化できるスクロール圧縮機を得ることにある。
上記課題を解決するため、本発明は、鏡板とそれに立設する渦巻体を備えその渦巻体の立設する軸線方向に垂直な面内を自転せずに旋回運動する旋回スクロール部材と、鏡板とそれに立設する渦巻体を備え少なくとも前記軸線方向に垂直な面内の方向における運動が概略規制される非旋回スクロール部材と、前記両スクロール部材を噛合わせ、前記非旋回スクロール部材の渦巻体の外周側側面に形成される非旋回外線側圧縮室と前記非旋回スクロール部材の渦巻体の内周側側面に形成される非旋回内線側圧縮室から成る圧縮室と、この圧縮室側の作動流体の圧力による前記両スクロール部材の鏡板を引離す向きの引離し力に対抗して前記両スクロール部材の鏡板を引き付ける向きの引付力を各々の前記スクロール部材にかける引付力付加手段と、前記引付力と前記引離し力のベクトル和である付勢力の反力を各々の前記スクロール部材に発生させるスクロール支持部材とを有するスクロール圧縮機において、
前記旋回スクロール部材の背面に位置し前記引付力付加手段を構成する背圧室と、
前記背圧室と前記両圧縮室とを連通する背圧連通路と、
前記背圧連通路が前記両圧縮室の各々へ別々のタイミングで繋がる排他的連通先選択手段と、
前記両圧縮室の断熱圧縮時に、前記背圧連通路が臨む前記両圧縮室の圧力変化範囲が少なくとも一部で重なるべく、前記非旋回内線側圧縮室と前記非旋回外線側圧縮室における閉込み開始タイミングをずらす圧縮開始タイミング調整手段とを設けたことを特徴とする。
また本発明は、前記非旋回スクロール部材は静止系に固定する固定スクロール部材とし、前記旋回スクロール部材のスクロール支持部材は前記固定スクロール部材とすることを特徴とする。
また本発明は、前記排他的連通先選択手段は、前記背圧連通路の圧縮室側開口部をいずれか一方の前記スクロール部材における鏡板の前記渦巻体の間である歯底部に設け、この圧縮室側開口部は、少なくともこの一部が渦巻体の側面から噛合うスクロール部材の渦巻体の歯先幅以上離れた位置に配され、さらに、噛合うスクロール部材の旋回運動によってその渦巻体の歯先で全遮蔽されるタイミングを有する形状寸法を有するように構成されたことを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮室側開口部は、前記非旋回スクロール部材に設けたことを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮室側開口部は前記非旋回スクロール部材に設けられ、前記圧縮室内で加圧した作動流体を外部へ導出する吐出系内の圧力である吐出圧よりも前記圧縮室の圧力が高くなることを抑制する圧縮室圧力抑制手段が設けられ、前記背圧室へ圧力を導入する背圧室圧力導入手段と、前記背圧室の圧力である背圧と前記圧縮室の圧力との圧力差が所定値を越えると開制御する差圧制御弁が前記背圧連通路に設けられたことを特徴とする。
さらに本発明は、鏡板とそれに立設する渦巻体を備えその渦巻体の立設する軸線方向に垂直な面内を自転せずに旋回運動する旋回スクロール部材と、鏡板とそれに立設する渦巻体を備え少なくとも前記軸線方向に垂直な面内の方向における運動が概略規制される非旋回スクロール部材と、前記旋回スクロール部材と前記非旋回スクロール部材を噛合わせ、前記非旋回スクロール部材の渦巻体の外周側側面に形成される非旋回外線側圧縮室と前記非旋回スクロール部材の渦巻体の内周側側面に形成される非旋回内線側圧縮室から成る圧縮室と、その圧縮室側の作動流体の圧力による前記両スクロール部材の鏡板を引離す向きの引離し力に対抗して前記両スクロール部材の鏡板を引き付ける向きの引付力を各々の前記スクロール部材にかける引付力付加手段と、前記引付力と前記引離し力のベクトル和である付勢力の反力を各々の前記スクロール部材に発生させるスクロール支持部材と、を有するスクロール圧縮機において、
前記非旋回スクロール部材のスクロール支持部材を前記旋回スクロール部材とし、前記非旋回スクロール部材の背面に位置し前記引付力付加手段を構成する背圧室と、前記背圧室へ圧力を導入する背圧室圧力導入手段と、前記背圧室と前記圧縮室とを連通する背圧連通路とを備え、前記旋回外線側圧縮室及び前記旋回内線側圧縮室の両者と別々のタイミングで繋がる排他的連通先選択手段を有し、前記両側圧縮室で断熱圧縮した時に前記圧縮室側連通口が臨む前記両側圧縮室における圧力変化範囲が少なくとも一部で重なるべく、前記非旋回内線側圧縮室と前記非旋回外線側圧縮室における閉込み開始タイミングをずらす圧縮開始タイミング調整手段を備えることを特徴とする。
また本発明は、前記排他的連通先選択手段は、前記背圧連通路の圧縮室側開口部を、いずれか一方の前記スクロール部材における鏡板の前記渦巻体の間である歯底部に設けるとともに、前記圧縮室側開口部の少なくとも一部を、前記渦巻体の側面から噛合うスクロール部材の渦巻体の歯先幅以上離れた位置に配し、さらに、前記圧縮室側開口部は、噛合うスクロール部材の渦巻体の旋回運動によってその歯先で全遮蔽されるタイミングを有する形状寸法を有するように構成されたことを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮室側開口部は、前記非旋回スクロール部材に設けることを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮室内で加圧した作動流体を外部へ導出する吐出系内の圧力である吐出圧よりも前記圧縮室の圧力が高くなることを抑制する圧縮室圧力抑制手段と、前記背圧室へ圧力を導入する背圧室圧力導入手段と、前記背圧室の圧力である背圧と前記背圧連通路が開口する前記圧縮室の圧力との圧力差が所定値を越えると開制御する差圧制御弁を前記背圧連通路に設けたことを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮開始タイミング調整手段は、前記両圧縮室の旋回角度に対する容積変化率を同一にする渦巻体形状とする容積変化率一致手段とともに、前記圧縮室側連通口を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の外周側側面で形成される圧縮室の閉込み開始よりも前記同一渦巻体の内周側側面で形成される圧縮室の圧縮開始を先行する内周側圧縮開始先行手段としたことを特徴とする。
また本発明は、前記容積変化率一致手段は、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同一形状で並存する場合を有する対称的形状を実現する対称性渦巻体形状を用いることで実現し、前記内周側圧縮開始先行手段は、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同時に形成開始される渦巻体に対して、前記圧縮室側連通口を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の内周側側面と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側連通口を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体外周側側面の、前記渦巻体巻き終わり側への延伸とすることで実現することを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮室を形成する前記渦巻体全域を円のインボリュート曲線を断面線とする曲面とし、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同時に形成開始される渦巻体に対して、前記圧縮室側連通口を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の前記内周側側面延伸量と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側開口部を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体の前記外周側側面延伸量を、インボリュート巻き角で概略180度とすることを特徴とする。
また本発明は、前記圧縮室側開口部を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の前記内周側側面延伸量と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側連通口を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体の前記外周側側面延伸量を、インボリュート巻き角で180度よりも、以下の式で示される角度αだけ概略大きくすることを特徴とする。
α≡K・π・β/(V−K・β) [rad]
ここで、K≡2・π・ε・a・H [mm/rad]
π:円周率
ε:旋回スクロール部材の旋回半径 [mm]
a:渦巻体断面形状を構成するインボリュートの縮閉線である円の半径(基礎円半径)[mm]
H:渦巻体の高さ [mm]
β:圧縮室側開口部を設けるスクロール部材の内線側圧縮室の閉込み開始点から圧縮室開口部までの巻角 [rad]
V:圧縮室側開口部を設けるスクロール部材の前記内周側側面で形成される圧縮室の閉込み開始容積 [mm]
また本発明は、前記圧縮室側開口部は、設置する歯底の幅中央より外径側に設けることを特徴とする。
また本発明は、前記閉込み開始タイミング調整手段は、前記両側圧縮室で断熱圧縮した時に前記圧縮室側連通口を臨む前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室における前記旋回運動の旋回角平均による圧力平均値を概略一致させることを特徴とする。
また本発明は、前記内周側閉込み開始先行手段は、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同時に形成開始される渦巻体に対して、前記圧縮室側開口部を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の内周側側面と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側連通口を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体外周側側面を、旋回運動の向きに回転させた位置に設けることで実現することを特徴とする。
また本発明は、前記旋回スクロール部材に前記圧縮室側連通口を設け、それに伴い、前記内周側閉込み開始先行手段は、旋回渦巻体の内周側側面と固定渦巻体外周側側面を、旋回運動の向きに回転させることで実現することを特徴とする。
本発明によれば、旋回スクロール部材の一旋回における、非旋回スクロール部材への付勢力の変動を低減できるので、スクロール部材の変形の変動が抑制され、両スクロール部材間の隙間におけるシール性改善による漏れ損失低減と、干渉の抑制による摩擦損失の低減で、全断熱効率の高いスクロール圧縮機を得ることができる効果がある。
本発明の第1実施形態におけるスクロール圧縮機の縦断面図。 第1実施形態の圧縮機構部の拡大図(図1のN部)。 第1実施形態の差圧制御弁の拡大図(図2のU部)。 第1実施形態の給油ポンプ付近の拡大図(図1のM部)。 第1実施形態の固定スクロール部材の下面図。 第1実施形態の旋回スクロール部材の上面図。 第1実施形態のスクロール巻終り部拡大図(図4のQ部)。 第1実施形態の圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP1部)。 本発明の第2実施形態の圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP2部)。 本発明の第3実施形態の圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP1部)。 本発明の第4実施形態の圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP2部)。 本発明の第5実施形態のスクロール巻終り部拡大図(図4のQ部)。 本発明の第6実施形態のスクロール巻終り部拡大図(図4のQ部)。 本発明の第7実施形態でのスクロール圧縮機の縦断面図。 第7実施形態の背圧連通路付近の拡大図(図13のP部)。 第7B実施形態の差圧制御弁の拡大図(図13のP部)。 第7実施形態における非旋回スクロール部材の下面図。 第7実施形態における旋回スクロール部材の上面図。 本発明の第8実施形態における旋回スクロール部材の上面図。 第8実施形態における固定スクロール部材の下面図。 第8実施形態における旋回スクロール部材の縦断面図 第8実施形態の背圧連通路付近の拡大図(図19のS部)。 第8B実施形態の差圧制御弁の拡大図(図19のS部)。 本発明の第9実施形態における非旋回スクロール部材の下面図。 第9実施形態における旋回スクロール部材の上面図。 本発明における圧縮室の容積変化例説明図。 本発明における圧縮室の圧力変化例説明図。 本発明における旋回角と圧縮室側開口部位置関係説明図。 本発明における(3)式の立式説明図。
以下、本発明に係るスクロール圧縮機の実施形態を、図面を用いて説明する。以下、複数の実施形態について説明を行なうが、各々において、背圧連通路に差圧制御弁を設ける場合と設けない場合の2通りを取り上げる。このうちで、差圧制御弁を設けるタイプは弁タイプと呼称し、差圧制御弁を設けないタイプの中で適宜説明を行なう。
(第1実施形態)
本発明を、非旋回スクロール部材をケーシングに対して固定した固定スクロール部材とし、旋回スクロール部材の鏡板である旋回鏡板の背面側(反圧縮室側)に背圧室を設け、要求される運転圧力条件範囲で旋回スクロール部材を前記固定スクロール部材に付勢する旋回付勢式スクロール圧縮機に適用した第1の実施形態を、図1〜7、図23及び図24に基づいて説明する。ここで、「非旋回」と呼称してきたものは「固定」と称して説明する。(例えば、非旋回鏡板は固定鏡板、非旋回渦巻体は固定渦巻体などと称す。)
図1はスクロール圧縮機の縦断面図である。図2(A)は圧縮機構部の拡大図(図1のN部)、図2(B)は、弁タイプの場合の差圧制御弁拡大図(図2(A)のU部)、図3は給油ポンプ付近の拡大図(図1のM部)、図4は固定スクロール部材の下面図、図5は旋回スクロール部材の上面図、図6はスクロール巻き終わり部の拡大図(図4のQ部)、図7は圧縮室側開口部付近の拡大図である。また、図23,24は圧縮室の容積変化と圧力変化の典型的一例で、本発明の動作を説明する図である。なお、この例は、圧縮機直径が、10mmから1000mm程度のものである。
まず、スクロール圧縮機の全体構成を、図1〜図4で説明する。円のインボリュートを断面線とする旋回渦巻体3bを旋回鏡板3aに立設した旋回スクロール部材3(図5参照)を、同様な形状の固定渦巻体2bが固定鏡板2aに立設する固定スクロール部材2(図4参照)と噛合わせ、両者間に圧縮室100を形成する。これらの渦巻体は厚さが同一であることから、同一形状の固定内線側圧縮室100aと固定外線側圧縮室100bが並存する対称的形状のスクロール部材である。ここで、上記圧縮室100aと100bは図25に示される。
固定スクロール部材2はフレーム4にねじ固定される。一方、旋回スクロール部材3は、背面に設ける旋回軸受23へ、クランク軸6の偏心部であるピン部6aを挿入し、主軸受24で回転支持されるクランク軸6の回転で旋回運動する構成とする。ここで、自転運動防止のため、フレーム4との間に、オルダムリング5を配する。旋回スクロール部材3の下端には鍔部3tを設け、フレーム4に設置する背圧シール40とともにシール部を構成し、旋回スクロール部材3の背面に、背圧室110を構成する。この背圧室110は、後述する作用により中間圧を保持し、吐出圧となる背圧シール40内側の領域とともに旋回スクロール部材3の引付力付加手段とする。これにより、旋回スクロール部材3は、固定スクロール部材2側に付勢され、旋回スクロール部材3の支持部材は固定スクロール部材3となる。
ここで、作動流体を圧縮室100へ導くため、固定スクロール部材2に吸込パイプ50を圧入する。また、停止直後の作動流体の逆流防止用に逆止弁70を吸込パイプ50下部に設ける。また、固定スクロール部材2の中央付近には、圧縮室100から作動流体を吐出させる吐出穴2dを開口する。また、その外周側には、複数のバイパス穴2e(図4参照)を設け、各々にバイパス弁22を設ける。
クランク軸6の中央には、縦に貫通する給排油穴6bを設け、その中に、給排しきりパイプ75を上部より圧入して、二重管構造とする。この二重管構造の内側流路75aを、後述する給油ポンプ30から給油される給油路とし、外側流路75bを軸受給油後の排油路とする。クランク軸6のフレーム4よりも下部には、回転バランスを取るためのシャフトバランス80と、その下端面にカウンターバランス82を固定するロータ7aを、焼き嵌めまたは圧入する。このロータ7aと、円筒ケーシング8aに焼き嵌めまたは圧入したステータ7bとが径方向に均一なギャップを保つように、フレーム4を円筒ケーシング8aにタック溶接する。この結果、これらステータ7bとロータ7aによってモータ7を構成する。
また、円筒ケーシング8aには、側面に吐出パイプ55、下部に副軸受25と給油ポンプ30を支持する下フレーム35を固定配置する。副軸受25と給油ポンプ30の個々の構成は、主として図3を用いて説明する。副軸受25は、副軸ホルダ25aに圧入され、この副軸ホルダ25aを下フレーム35へねじ止めまたは溶接により固定配置する。この副軸ホルダ25aの下面には、給油ポンプ30が設置される。給油ポンプ30は、インナーロータ30aとアウターロータ30bをかみ合わせる内接歯車式ポンプであり、インナーロータ30aは、クランク軸6の下端に設けたスペーサ53により回される。ここで、スペーサ53は、図3で示される通り、給排しきりパイプ75と給排油穴6bの間に圧入され、給排しきりパイプ75を給排油穴6bへ固定配置するための役割も担う。
これらの給油ポンプ要素はポンプ円筒ケーシング30cとポンプベースケーシング30dで囲まれる。ここで、副軸ホルダ25bの下面には、副軸受25から流出する油を外部へ排出する排油口85を設ける。また、インナーロータ30aの上面には、両ロータ間に形成されるポンプ室を覆う径を有する端板30a1を設ける。これは、クランク軸6が受ける下向きの力を受けるスラスト面の力を受ける役割を果たすとともに、給油ポンプ30のロータサイド漏れを抑制する効果を有する。
以上説明した要素を全て取り囲むように、円筒ケーシング8aの上部と下部に、各々、上ケーシング8bと底ケーシング8cを溶接し、ケーシング8を構成する。ここで、上ケーシング8bには、モータ7に電力を供給するモータ線をつなぐハーメチック端子220と固定スクロール部材2に圧入する吸込パイプ50を溶接する。また、ケーシング8内には、組立ての適当な段階で油を封入する。この結果、固定スクロール部材2の上部には、固定背面室120、ステータ7bとフレーム4の間には上部モータ室90、モータ7としたフレーム35の間には下部モータ室95、さらに、下フレーム35と底ケーシング8cの間には、貯油部125が形成される。
次に、本発明の主要な構成部について、図1、図2(A)、図2(B)、図4、図6、図7を用いて説明する(但し、図2(B)は、弁タイプの説明のみに用いる)。
まず、固定スクロール部材2に圧縮室100と背圧室110を連通する背圧連通路60を設ける。この通路60は図2(A)で示すように、貫通穴をあけた後に各部を封止してコの字形に形成し、圧縮室100側の端を圧縮室側開口部60bとする。この圧縮室側開口部60bの直径は、旋回渦巻体3bの歯先幅以下の形状寸法に設定される。これにより、旋回スクロール部材3の旋回によって、圧縮室側開口部60bは、あるタイミングで旋回渦巻体3bの歯先により全域遮蔽される大きさとする。また、その開口位置は、固定渦巻体2bの歯底中央とする(図7参照)。つまり、圧縮室側開口部60bの少なくとも一部が、固定渦巻体2bの側面から噛合う旋回渦巻体3bの歯先幅以上離れた位置に配置される。また、背圧室側開口部60aは、背圧連通路60を通じて固定スクロール部材2の周囲溝2cにつながる凹み部2c1に開口させる(図7参照)。これにより、背圧室側開口部60aは常時、背圧室110に開口する。
ここで、この背圧連通路60に差圧制御弁26を設置した弁タイプの構成について図2(B)を用いて説明する。固定スクロール部材2の上面から弁穴2kを開け、その底面に弁シール面26dを設ける。この弁シール面26dに弁体26aを弁ばね26bで押付け、弁ばね26bは弁キャップ25cで保持される。この弁キャップ26cは、固定スクロール部材2の固定背面室120とのシールも担う。このようにして差圧制御弁26が構成される。
一方、背圧連通路60を設けた固定スクロール部材2の固定渦巻体2bの内線側の巻終りを、従来のα(図4参照)からβ(図6参照)へ延伸させた。これは、インボリュート巻角で180度回転させた位置(図4でαから180度回転させた真下の位置)であり、固定外線側圧縮室100bの閉込み開始点γと歯溝を挟んで対向する位置となる。上記構成は圧縮開始タイミング調整手段を示し、圧縮室側開口部60bが開口するスクロール部材の内線側の巻終りの延伸長さ(角度)を調整することで、圧縮室の閉込み開始タイミングを調整することができる。
次に、スクロール圧縮機全体の概要動作を説明する。モータ7でクランク軸6を回転させ、旋回スクロール部材3が旋回運動する。これによって、噛合う固定スクロール部材2との間に圧縮室100が形成され、その中に、吸込パイプ50からの作動流体を吸込室105(図6参照)を介して吸い込む。そして、旋回運動と共に中央へ移送しつつ体積が縮小する圧縮室によって作動流体が圧縮され、中央寄りの吐出穴2dからケーシング8内の上部空間である固定背面室120へ流出する。これにより、ケーシング8内部の圧力は吐出圧となり、いわゆる高圧チャンバとなる。過圧縮条件では、圧縮室100内の圧力が吐出圧よりも高くなるため、リリース弁22の弁体が上がって、圧縮室内の作動流体を固定背面室120へ流出させる。つまり、このリリース弁22は、圧縮室圧力抑制手段となっている。これにより、不要な仕事である過圧縮を抑制できるため、性能が向上するという効果がある。
固定背面室120へ流出した作動流体は、その後、固定スクロール部材2とフレーム4の外周の溝により、上部モータ室90へ流入し、吐出パイプ55から外部へ吐出される。ここで、後述するとおり、作動流体中には油も含まれているが、この固定背面室120へ作動流体が流出したとき、ケーシング内壁に油が分離付着する。そしてその油は、ケーシング内壁を伝って、最終的に圧縮機底部の貯油部125へ戻る。ここで、作動流体の一部は、上部モータ室90からモータ7の外周溝や巻線隙間を通って下部モータ室95を往復して吐出する。これにより、ステータ7bの巻線や積層鋼板へ油が付着する確率が高くなり、作動流体中の油の分離が促進される。
給油時に油は、モータ7の回転により、給油ポンプ30が動作し、貯油室125の油を、クランク軸6の内側流路75aへ流し込む。そして、上端まで上った後、旋回軸受溝6eを通りつつ、旋回軸受23を潤滑する。そして、主軸受溝6dを通りつつ主軸受24を潤滑し、主軸横穴6cを通って外側流路75bへ戻る。この外側流路75bへ入った油は、下降した後、副軸横穴6fを通って副軸溝6gへ入り、副軸受25を潤滑した後、排油口85を通って貯油部125へ戻る。この二重管構造による各軸受への給排油によって、排油管をステータ7bを切り欠いて通す必要が無くなり、モータ効率の低下回避や、排油パイプをステータ7bや下フレーム35へ通す必要が無くなり、組立て性を改善する効果がある。
また、背圧室110内における油の領域は、背圧シール40で仕切られるが、この背圧シール40をまたいで、鍔部3tに設けたポケット45が行き来する(図2(A)参照)。これにより、背圧室110へ給油する。この油は、吐出圧であるため、背圧室の圧力を昇圧する効果がある。また、油に作動流体が溶け込んでいる場合には、背圧室110へ流入したことによる減圧によってガス化するため、これにともなう背圧室110の圧力上昇効果も加わる。つまり、ポケット45による背圧室給油は、背圧室圧力導入手段である。この背圧室給油によって、オルダムリング5の潤滑を行なうとともに、付勢力のかかる旋回鏡板3aの潤滑を行なう。残りは、背圧連通路60を経由して、圧縮室100へ排油され、前記した如く、吐出口2dやリリース弁22から作動流体とともに固定背面室120へ流出する。ここで、背圧シール40の内側は吐出圧の油で満たされるため、旋回スクロール部材3の背面中央寄りは、吐出圧のかかる領域となり、引付力付加手段の一つとなる。
次に、本実施形態の主要な動作について、図2(A)、図4、図6、図7、図23及び図24を用いて説明する。ここで、差圧制御弁26を備える弁タイプについては、図2(B)を用いて後述する。固定スクロール部材2に設けた背圧連通路60の圧縮室側開口部60aは、歯底中央に開口しており、固定スクロール部材2の内線側圧縮室である固定内線側圧縮室100aと、外線側圧縮室である固定外線側圧縮室100bの両圧縮室に選択的に臨むように構成される。このため、背圧室110の圧力である背圧は、圧縮室開口部60aが臨む両圧縮室100a、100bの平均圧力を中心に、変動することになる。
本実施形態では、圧縮室開口部60aを設けた固定スクロール部材2の固定渦巻体2b内線側の巻終りを、従来歯形(内線側圧縮室と外線側圧縮室が同時に圧縮を開始する歯形)の位置α(図4参照)よりも巻き角で180度延伸させた位置β(図6参照)としたため、固定内線側圧縮室100aの圧縮開始(閉込み開始)が他方の固定外線側圧縮室100bよりも180度先行する(図23参照、横軸目盛りを180倍または2×π倍すると、各々旋回角度を度、radで表示した形式と読み替え可能)。
本実施形態の渦巻体は、円のインボリュート曲線を用いているため、その圧縮室容積は旋回角度に対して図23で示すような傾斜が負の直線グラフとなる(アルキメデス螺線や代数螺線やそれらを基本線とするオフセット螺線を用いる場合、極座標形式の角度をパラメータにとると、近似的に直線とみなすことができる)。さらに、内線外線とも同一の縮閉線である同一半径の円(以後、基礎円と呼ぶ)とするため、両圧縮室の容積変化率は一致し、前記直線の傾斜は一致する。さらに、基礎円から出始める巻出し点が固定内線と旋回内線で180度対向する位置とするため、両渦巻体の厚さが同一となるとともに、固定内線側圧縮室100aと固定外線側圧縮室100bが同一形状で並存する時間が生じる。つまり、対称性渦巻体形状である。これより、本実施形態では、固定内線側圧縮室100aの圧縮開始付近の容積変化は、重なっている両圧縮室のグラフのうちで、固定外線側圧縮室100bの容積変化を示すグラフ(図23の点線)を、180度(0.5回転)手前まで、斜め上向きに伸ばしたグラフ(図23の実線)で表される。
このことは、固定内線側圧縮室100aは固定外線側圧縮室100bよりも圧縮開始が180度先行するだけでなく、圧縮開始容積が増大することを意味する。このため、これらの容積変化に伴う圧力変化は、圧縮開始容積が大きくなる固定内線側圧縮室100aの方が固定外線側圧縮室100bの圧力変化よりも緩やかとなる(図24参照)。図24は、この一例で、説明を簡略化するため、仮に断熱指数を1としたもの(圧縮開始の容積をそのときの容積で割った数値=容積比)である。それは、断熱指数を1としても1以上の実作動流体時と比較して、上昇変化は緩やかになる(圧力比は容積比の断熱指数乗であるため)が、変化の状況は同様である。このため、今後は、断熱指数を1とした図24を用いて説明を行なう。
固定内線側圧縮室100aに圧縮室側開口部60bが開口する旋回角区間は、図25で示すように、圧縮室側開口部60bの設定巻角(図25のμ)よりも90度ずれた旋回角を中心とする最大360度の旋回角範囲となる。この開口旋回角範囲は、圧縮室側開口部60bが歯底部のどの位置に設定されるかで、異なる。図25から明らかな通り、開口旋回角範囲は、圧縮室側開口部60bが本実施形態の如く歯底の中心にある場合最大180度となり、外径側への移動につれて最大360度まで増大する。また、圧縮室側開口部60bが噛合う相手である渦巻体の歯先によって全遮蔽される角度範囲がある場合、開口旋回角範囲は前記した最大値よりも小さくなる。本実施形態の場合、圧縮室側開口部60bの直径は旋回渦巻体3bの歯先幅よりも小さくして全遮蔽区間を設けるため、固定スクロール部材2の歯底中央に圧縮室側開口部60bを設けたが、開口旋回角範囲は最大180度よりも小さくなる。
ここで、前記したとおり、背圧連通路60が臨む圧縮室の切替タイミングである圧縮室側開口部60bと相手方渦巻体歯先による全遮蔽の区間を設けたため、背圧室110は、各圧縮室100a、100bと別々のタイミングで繋がることになる。すなわち、上記構成は排他的連通先選択手段を構成する。換言すれば、排他的連通先選択手段は、圧縮室側開口部をいずれか一方のスクロール部材の前記渦巻体の間である歯底部に設け、この圧縮室側開口部は渦巻体の側面から噛合うスクロール部材の渦巻体の歯先幅以上離れた位置に配され、さらに、噛合うスクロール部材の旋回運動によってその渦巻体の歯先で全遮蔽される形状寸法を有するように構成されている。これにより、背圧連通路を介した、圧力レベルの異なる固定内線側圧縮室100aと固定外線側圧縮室100bの連通が生じないため、高圧側圧縮室から低圧側圧縮室への漏れが起こらず、漏れ損失が抑制され、全断熱効率が向上するという効果がある。
さらに厳密に述べると、遮蔽する側の渦巻体曲がり具合によっても開口旋回角区間が微妙に異なってくる。本実施形態の場合、旋回渦巻体3bは固定外線側圧縮室100a側に凹面を向ける一方、固定内線側圧縮室100a側には凸面を向ける結果、開口旋回角区間は、無限小の曲率面である平面で近似する場合よりも、固定内線側圧縮室100aでは増大し、逆に、固定外線側圧縮室100bでは減少する。
上記したような事情により、本実施形態(図4のP1部、図7)のように、圧縮室側開口部60bを、固定渦巻体2bの内線側巻終りから270度内側へ入った位置に設けた場合、圧縮室側開口部60bが開口する圧縮室の圧力は、図24図の太い実線のように変遷する。この結果、従来(対称性渦巻体形状)の場合(圧縮室側開口部60bを、固定渦巻体2bの内線側巻終りから270度内側へ入った位置に設けた場合には、図24の太い破線となる。圧縮室側開口部60bを歯底径方向のどのような位置に設けようとも、圧縮室側開口部60bが臨む固定外線側圧縮室と固定内線側圧縮室の圧力は同一であるため、太い破線は変化しない。)よりも変化幅が大幅に低減する結果、背圧連通路60の流路抵抗による変化緩和効果を加味する背圧室110の圧力変化(図24の中太の実線、本発明)も、従来(図24の中太の破線)に比べて大幅に低減する。これより、背圧変動が抑制され、スクロール部材の変形変動が抑制され、両スクロール部材間の隙間におけるシール性改善による漏れ損失低減と干渉の抑制による摩擦損失の低減で、全断熱効率を向上できるという効果がある。
この効果の源は、図23、図24からわかるように、固定内線側圧縮室100aの圧縮開始を固定外線側圧縮室100bよりも180度先行させた点である。従って、旋回の1回転(360度)の間に、圧縮室100aと100bが半回転(180度)ずれながら、圧縮開始して背圧連通路60に交互に連通するので、背圧連通路60内の圧力変動を少なくできる。また、もう一つの変更点である圧縮開始容積の違いが無視できるような場合(容積変化率が小さい場合や圧縮開始容積が非常に大きい場合など)には、圧縮室側開口部60aが臨む圧縮室の回転角度平均は、圧縮室100aと100bで同一圧力となり、背圧の変動がさらに一段小さくなって、上記した背圧変動抑制による全断熱効率の向上効果をさらに一段高めることができる。ここで、図24の中線で示した本発明の背圧(実線)と従来の背圧(破線)の絶対レベルがずれているが、これは、説明を分かりやすくする目的で、両者とも圧縮開始タイミングで開口を開始する位置(固定渦巻体2bの内線側巻終りから270度内側へ入った位置)に圧縮室側開口部を設定した結果であり、実際の場合、両者の開口位置は、適切な背圧レベルとなるように調整する。つまり、図24の背圧のグラフは、両者の変動幅のみ意味をもつものである。
次に、差圧制御弁26を背圧連通路60に設ける弁タイプの場合の動作を、図2(B)と図24を用いて説明する。背圧と圧縮室側開口部60bが臨む前記圧縮室の圧力との差圧が弁ばね26bの押付力を越えると、弁体26aが弁シール面26dから離れ、背圧連通路60を開制御する。これにより、背圧は、圧縮室側開口部60bが臨む圧縮室の圧力よりも弁ばね26bの押付力に対応する値(過中間圧値)だけ高く設定され、図24の一点鎖線で示すように、差圧制御弁26を設けない場合よりも、全体が上へシフトしたグラフとなる。ここで、背圧変動幅については、前記した差圧制御弁26を設けない場合と同等であるため、背圧変動抑制に伴う全断熱効率向上効果は同様である。この場合、バイパス弁との相乗効果によって、要求される全運転範囲で旋回スクロール部材を固定スクロール部材に付勢できるとともに、広い運転条件範囲で付勢力を小さくし摺動損失の小さい全断熱効率の高い圧縮機を実現できるという効果がある。この場合においても、前段落で説明したように、実際の場合、圧縮室側開口部の設定位置で絶対レベルを調整する。このため、図24の弁タイプの背圧のグラフは、変動幅のみ意味を持つものである。
本実施形態では、圧縮室側開口部60bを固定スクロール部材2である非旋回スクロール部材に設けたため、第8実施形態で述べる、旋回スクロール部材3側へ圧縮室側開口部60bを設けるもの、と比較して小径化に適するという効果がある。即ち、旋回スクロール部材3側へ圧縮室側開口部60bを設けた場合、旋回スクロール部材の内線側の延伸に伴う渦巻体の延伸と、噛合い相手である固定外線側の延伸が必要となるため、まず旋回渦巻体の渦巻き長が図17の如く増大した(延伸部は斜線部)旋回内線延伸渦巻体3b1となる。さらに、これに対応し、固定スクロール部材2の渦巻体外線側の延伸が必要になるため、固定スクロール部材2の外線を囲む外周歯底溝2xが必要となる。この2つの理由により、旋回スクロール部材3側へ圧縮室側開口部60bを設けるものは小径化が阻害されるからである。
また、本実施形態では、固定スクロール部材2の内線側を180度延伸したが、これに限らず、90度のような小さい角度でもよい。この場合には、図24で示す太い実線が90度先行した点から立ち上がることになり、180度延伸させた場合よりも、背圧変動幅は拡大するが、従来よりも背圧変動幅は抑制され、全断熱効率の向上を図ることができる。例えば、180度程度の延伸がスペースの問題で制約されるような場合、このような方法をとればよい。つまり、上記構成は、内線側の延伸長さを調整できるので、その角度によらず、圧縮開始タイミング調整手段となる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態であるスクロール圧縮機を、圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP2部)である図8を用いて説明する。第2実施形態では、第1実施形態と相違する部分について説明し、同一部分は省略する。第2実施形態は、圧縮室側開口部60bを、固定渦巻体2bの内線側巻終りから240度程度内側へ入った位置に設けた場合である。前記の第1実施形態よりも、内線側巻終りからの角度が小さいので、圧縮室側開口部60bは、圧縮開始前の吸込室105の時から連通する。しかし、この場合でも、背圧変動の中心が吸込圧に近づく以外、本質的な違いは無く、第1の実施形態と同様の効果がある。また、この実施形態特有の効果として、連通する空間の中に、吸込室105という圧力一定の空間が含まれた結果、背圧の変動レベルは一層低減するため、必要な背圧レベルが確保できれば背圧変動低減による全断熱効率は一層向上するという効果がある。しかし、この実施形態では、連通する前記空間が低圧側にシフトするため、背圧レベルは低下し、必要な背圧レベルを確保できない場合もある。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態であるスクロール圧縮機を、圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP1部)である図9を用いて説明する。第3実施形態では、第1実施形態と相違する部分について説明し、同一部分は省略する。この第3実施形態は、圧縮室側開口部60bが固定歯底の中央よりも外径側へ寄って設定されたものである。但し、圧縮室側開口部の一部は、固定渦巻体2bの側面から旋回渦巻体3bの歯先幅以上離れた位置とし、固定外線側圧縮室100bとも連通する区間を確保してある。固定外線側圧縮室100bとの連通角度区間よりも固定内線側圧縮室100aとの連通角度区間が大きくなる。
図24から分かるように、圧縮開始容積の違いにより、圧力上昇カーブが、固定内線側圧縮室100aよりも固定外線側圧縮室100bの方が急峻であるため、両圧縮室が同一角度区間だけ開口すると、固定外線側圧縮室100bの方が固定内線側圧縮室100aより圧力変動幅が大きくなる。よって、固定外線側圧縮室100bとの連通角度区間を小さくすることで、連通する圧縮室変動の最大値である固定外線側圧縮室の圧力変動を小さくできる。よって、圧縮室側開口部60bを固定歯底の中央よりも外径側へ寄って設定することで、連通圧縮室の圧力変動の最大値を小さくできることになり、背圧の変動を低減する効果がある。但し、外径側へ寄せすぎると、逆に固定内線側圧縮室100aの圧力変動幅が固定外線側圧縮室100bの圧力変動幅よりも大きくなるため、固定内線側圧縮室100aの圧力変動幅と固定外線側圧縮室100bの圧力変動幅が同一になるように位置を決めれば良い。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態であるスクロール圧縮機を、圧縮室側開口部付近拡大図(図4のP2部)である図10を用いて説明する。第4実施形態では、第2実施形態と相違するものについて説明し、同一部分は省略する。この第4実施形態は、圧縮室側開口部60bが固定歯底の中央よりも外径側へ寄って設定されたものである。但し、圧縮室側開口部の一部は、固定渦巻体2bの側面から旋回渦巻体3bの歯先幅以上離れた位置とし、固定外線側圧縮室100bとも連通する区間を確保してある。これにより、固定外線側圧縮室100bとの連通角度区間よりも固定内線側圧縮室100aとの連通角度区間が大きくなるため、前記第3実施形態で説明した如く、連通圧縮室の圧力変動の最大値を小さくできるため、背圧の変動を低減する効果がある。
また、第3実施形態では、連通する空間は圧縮室のみであるため、連通する空間の圧力の角度平均値はほとんど変化しない(実際は、図24で示すとおり、圧力変化は旋回角度に対して曲線であるため、角度平均値は多少変化する。その変化方向は、連通角度区間が減少するにつれ、圧力平均値は低下する向きである)のに対して、本実施形態では、連通する空間の圧力の角度平均値は変化する。その理由は、一定の圧力(吸込圧)の吸込室105に通じる連通角度区間があるためである。連通角度区間を増大した場合、下限値が吸込圧一定となって減少しないため、連通する空間の圧力の角度平均値は増大する。逆に、連通角度区間を減少した場合、連通する空間の圧力の角度平均値は低下する。後述するような、連通空間の圧力の角度平均値を調整する手法が使えない場合、この手法を使って連通空間の圧力の角度平均値を二つの圧縮室で合わせることが可能となる。つまり、二つの圧縮室圧力の旋回角度平均値を一致させることができるという効果がある。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態であるスクロール圧縮機を、スクロール巻終り部拡大図(図4のQ部)である図11を用いて説明する。この第5実施形態は、次に述べる点で第1乃至第4実施形態と相違するものであり、その他の点については第1乃至第4実施形態と同一であるので説明を省略する。この第1乃至第4実施形態は、旋回スクロール部材3の渦巻体3bの内線側巻終り部をカットした、旋回内線カット部3x(クロスハッチング部)を設けている。そして、そのカット区間は、各圧縮室100a、100bの開口角区間の中央角における圧縮室容積の各圧縮開始時の容積に対する比が同一となるように設定する。具体的には、以下の式で示す巻角にしてαの値だけの巻角部を削除する。
α≡K・π・β/(V−K・β) [rad] (1)
ここで、K≡2・π・ε・a・H [mm/rad] (2)
π:円周率
ε:旋回スクロール部材の旋回半 径[mm]
a:渦巻体断面形状を構成するインボリュートの
縮閉線である円の半径(基礎円半径) [mm]
H:渦巻体の高さ [mm]
β:圧縮室側開口部を設けるスクロール部材の内線側圧縮室の閉込み開始点から圧縮室開口部までの巻角 [rad]
V:圧縮室側開口部を設けるスクロール部材の前記内周側側面で形成される圧縮室の閉込み開始容積 [mm]
この式は、図26から明らかな通り、各圧縮室100a、100bの開口角区間の中央角における圧縮室容積の各圧縮開始時の容積に対する比が同一となる条件から、以下の式を立式して、導かれる。
V/(V−K・β)=
{V+K・(π+α)}/{V+K・(π−β)} (3)
この結果、圧縮室側開口部60bを設ける固定スクロール部材2の渦巻体2bの内周側側面延伸量と、それに噛合う旋回スクロール部材3の渦巻体3bの外周側側面延伸量を、インボリュート巻き角で概略180度とした場合に生じていた、連通する圧縮室の平均圧力差(図24参照)が、ほぼ無くなる。この結果、背圧変動が一層小さくなるため、圧縮機の全断熱効率が一層向上するという効果がある。実際の場合、上記のように、各圧縮室100a、100bの開口角区間の中央角における圧縮室容積の各圧縮開始時の容積に対する比を同一にしても、圧縮室圧力の旋回角平均値は厳密には一致しない。何故ならば、図24で示すように、旋回角に対する圧力のグラフは曲線となるからである。このため、圧縮室圧力の旋回角平均値を厳密に一致させるためには、(1)式で求める値よりも若干大きなカット区間を設ける必要がある。
また、本実施形態では旋回内線カット部3xは内側面に接する平面で切断したが、二点鎖線で示すように、くり抜き形状3X´としてもよい。この場合、圧縮開始タイミングが明確になるので、圧縮開始以前の不完全な圧縮開始を回避でき、全断熱効率が向上するという効果がある。
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態であるスクロール圧縮機を、スクロール巻終り部拡大図(図4のQ部)である図12を用いて説明する。この第6実施形態は、固定スクロール部材の渦巻体2b側を、前記式(1)で示す巻き角区間だけカットする以外は第5実施形態と同一であるので、重複する説明を省略する。本実施形態では、カット区間よりも巻き終わり側へ伸ばした区間をカットした、固定外線カット部2x(クロスハッチング部)を設けている。旋回渦巻体と異なり、固定渦巻体2bは、巻き終わり部のさらに外周側にも、渦巻体が立設しているため、固定外線カット部2xを設けても、固定渦巻体2bの剛性はほとんど低下せず、実働時の変形量も増大しないため、スクロール部材の変形増大による全断熱効率の低下を回避できる効果がある。
(第7実施形態)
次に、本発明を、非旋回スクロール部材を軸線方向に可動とし、その鏡板である非旋回鏡板の反圧縮室側に背圧室を設けて、非旋回スクロール部材を旋回スクロール部材に付勢する非旋回付勢式スクロール圧縮機に実施した第7の実施形態を、図13乃至図16に基づいて説明する。図13はスクロール圧縮機の縦断面図、図14(A)は背圧連通路付近の拡大図(図13のP部)、図14(B)は弁タイプの場合の差圧制御弁拡大図(図13のP部)、図15は非旋回スクロール部材下面図、図16は旋回スクロール部材の上面図である。本実施形態は、渦巻体による基本的な圧縮過程、リリース弁による圧縮室圧力抑制動作、及びそれらを実現する構成、作用、効果は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同一又は相当する部分には同一の符号を付している。(例えば、非旋回スクロール部材は固定スクロール部材と同一の符号2を付し、非旋回鏡板は固定鏡板と同一の符号2aを付し、非旋回渦巻体は固定渦巻体と同一の符号2bを付している。)よって、第1実施形態と構成、動作、作用、効果が異なる点のみ説明する。
まず、構成を説明する。非旋回鏡板2aとそれに立設する非旋回渦巻体2bを備える非旋回スクロール部材2と、旋回鏡板3aとそれに立設する旋回渦巻体3bを備える旋回スクロール部材3を噛合わせ、両者間に圧縮室100を形成する。非旋回スクロール部材2はフレーム4に板ばね145を介してねじ固定され、軸方向のみ可動となる。一方、旋回スクロール部材3は、フレーム4に載せる。非旋回スクロール部材2の背面側で圧力隔壁135との間に、内側背面シール41と外側背面シール42をシールとする背圧室110を形成する。この背圧室110は、後述する作用により中間圧を保持し、内側シール41内側の吐出圧領域とともに、非旋回スクロール部材2の引付力付加手段を構成する。
この結果、非旋回スクロール部材2は、旋回スクロール部材3側へ付勢されるため、非旋回スクロール部材2の付勢力を旋回スクロール部材3は受ける。一方、旋回スクロール部材3は、作動流体からの引離し力に対する非旋回スクロール部材2からの付勢力でフレーム4に付勢されるため、旋回スクロール部材3の支持部材はフレーム4となる。ここで、作動流体を圧縮室100に導くため、円筒ケーシング8aに吸込パイプ50を接続し、ケーシング内に一旦流入させる。これにより、ケーシング内部が吸込圧となり、いわゆる低圧チャンバ方式となる。
一方、非旋回鏡板2aの中央付近には吐出口2dとともに、リード弁のバイパス弁22を備えたバイパス穴2eを開口する。これらは、圧力隔壁135で仕切られた吐出室130へ臨む。吐出室130は、圧力隔壁135と吐出パイプ55を備えた上ケーシング8bを溶接して構成する。ここで、圧力隔壁135には、微小な径の穴を有した絞りを伴う絞りピース140を設ける。これは、背圧室110へ圧力を導入する背圧室圧力導入手段となる。クランク軸6には内部にシャフト給油孔6zと主軸受給油孔6yと副軸受給油孔6fが設けられる。また、シャフトバランス80が圧入され、その上部にはピン部6aがある。
モータ7は、ロータ7a上部にモータバランス81を設ける以外は上記第1実施形態と同一である。次に、ステータ16、吸込パイプ50、ハーメチック端子220と下フレーム35が溶接されている前記円筒ケーシング8aへ、上記の組立部を挿入して前記フレーム4の側面にタック溶接を行った後、副軸受25と給油ポンプ30を装着して、底ケーシング8cを溶接し、貯油部125を形成する。油は、この組立工程の中で適宜入れる。
次に、動作を説明する。吸込パイプ50からフレーム溝4rを通って吸込室105へ吸込まれた作動流体は、前記旋回スクロール部材3の旋回運動によって圧縮室100内で圧縮され、前記吐出孔2dより非旋回スクロール部材2上部の吐出室130に吐出され、油の分離を行なったうえで前記吐出パイプ55より圧縮機外部へ出る。ここで分離された油は、絞りピース140により絞られ、減圧したうえで背圧室110へ流入する。
貯油部125に溜っている油は、給油ポンプ30により、シャフト給油孔6zを通って旋回軸受23に給油される。また、主軸受給油孔6yを経由して前記主軸受24に給油される。その油は、前記旋回背面室123に入った後、一部は滑りスラスト軸受4tを潤滑しつつ吸込室105に入り、その他は、油排出路4sを通って、上部モータ室90に入った後、モータ7外周の溝や巻線の穴を伝って、前記貯油部125に戻る。非旋回スクロール部材2は、前記圧縮室100内部の作動流体により旋回スクロール部材3から離間する方向の引離し力を受けるが、背圧室110と吐出室130の圧力による引付力で、前記旋回スクロール部材3に押付けられる。
次に、本実施態様の背圧室110の構成、動作、作用、効果について説明する。圧縮室側開口部60aを設ける非旋回スクロール部材2の背面に背圧室110を設ける以外は、第1実施形態と同一である。背圧連通路60は、非旋回鏡板2bを貫通する単純な貫通穴形状となるため、加工が極めて容易となり、加工コストを低減できる。弁タイプの場合は、第1実施形態と動作や作用効果は同一である。図14(B)において、弁穴2kにばね26bと弁体26aを入れた後、弁座26dを備えた弁シール26eで蓋をして構成する。弁ばね26bの周囲に、ばね姿勢保持円筒26fを配し、その内周に縦溝を設ける。この縦溝により、この差圧制御弁26を通過するガスや油の流路抵抗が小さくなり、確実な背圧制御を実現するという効果がある。
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態であるスクロール圧縮機を説明する。図17は旋回スクロール部材の上面図、図18は固定スクロール部材の下面図、図19は旋回スクロール部材の縦断面図、図20(A)は背圧連通路付近の拡大図(図19のS部)、図20(B)は弁タイプの差圧制御弁の拡大図(図19S部)である。
この第8実施形態は、内線側の延伸を、非旋回スクロール部材(固定スクロール部材)側で実現する前記7個の実施形態と異なり、旋回スクロール部材3で実現したものであり、これに対応して、噛合う相手である固定スクロール部材2の外線側も延伸させたものである。この根本的な相違点に対応し、圧縮室側開口部60bを、内線側を延伸した旋回スクロール部材3の歯底に設定する以外は、背圧室110を旋回スクロール部材3背面に設ける前記第1乃至第6の実施形態と同様である。
図17に示す通り、旋回スクロール部材3は、太線で示す内線部を延伸した結果、外線側も延ばさざるを得なくなり(但し、シール点を形成する必要はないため、形状精度は不要)、全長が伸びた延長旋回渦巻体3b1(ハッチングで延長部を示す)を備える。一方、固定スクロール部材2は、図18に示す通り、太線で示す外線部を延伸した結果、フレーム4との固定部である固定外周部2uと渦巻体が分離し、分離固定渦巻体2b1と分離溝2wを備える。そして、旋回スクロール部材3の歯底に圧縮室側開口部60bを設ける。この結果、図19,20で示す通り、背圧連通路60が旋回スクロール部材の鏡板2bを貫通する単純な貫通穴形状となるため、加工が極めて容易となり、加工コストを低減できるという効果がある。
図20(B)に示す弁タイプは、第1乃至第6実施形態における弁タイプと、動作や作用効果は同一であるため、構成のみ説明を行う。弁穴3kにばね26bと弁体26aを入れた後、弁座26dを備えた弁シール26eで蓋をする。弁穴3kの上面には弁ばね26bを挿入するばね保持突起3hを設けるため、弁座26dから圧縮室側に至る流路の容積が極めて小さくなる。この結果、圧縮室側開口部60bが異なる圧力の圧縮室に連通するときに生じる再膨張損失が抑制され、圧縮機の全断熱効率が向上するという効果がある。
(第9実施形態)
最後に、本発明の第9実施形態であるスクロール圧縮機を、図21の固定スクロール部材の下面図と、図22の旋回スクロール部材の上面図を用いて説明する。弁タイプは、図20(B)で示す第8の弁タイプの差圧制御弁26と同一であるので説明を省略する。この第9実施形態は、圧縮開始タイミング調整手段を、圧縮室側開口部60bが開口するスクロール部材の内線側延伸で実現する前記8個の実施形態と異なり、圧縮室側開口部60bが開口するスクロール部材の内線側を旋回運動の方向に回転移動させて実現したものの一例である。この変更点以外は、基本的に前記第1乃至第8の実施形態と同様である。
閉込み開始が両圧縮室で同時となる従来の渦巻体(図21,22の太い二点鎖線)の位置に対して、圧縮が生じる反時計回りの旋回運動方向に、圧縮室側開口部60bを設ける旋回スクロール部材3の内線側を移動するとともに、噛合う相手である固定スクロール部材2の外線側も同一方向に回転移動させる。この結果、旋回スクロール部材3は、図22で示すように、内線部を回転した結果(図22の太線)、厚さの薄い薄肉旋回渦巻体3b2を備える。一方、固定スクロール部材2は、図21で示すように、外線部を回転した結果(図21の太線)、厚さの厚い厚肉旋回渦巻体2b2を備える。
この結果、閉じ込み容積を変更せずに、圧縮開始タイミングをずらすことが可能となり(図23でいえば、圧縮室の容積変化を表すグラフを伸ばすことなく、単純に横へずらす)、各圧縮室の圧力変化グラフは全く同一の曲線グラフとなるため(図24でいえば、両圧縮室の容積変化を表すグラフは、形が同一で、単純に横へずらしたものとなる)、精度の高い設計が可能となる。また、旋回スクロール部材3の渦巻体の厚さが薄くなるため、軽量化でき、クランク軸のたわみ低減を図ることが可能となり、軸受信頼性向上、運転の高速化を実現できるという効果がある。また、背圧連通路60が極めて単純な旋回スクロール部材の鏡板2bを貫通する単純な貫通穴形状となるため、加工が極めて容易となり、加工コストを低減できるという効果がある。
2…固定スクロール部材(非旋回スクロール部材)、2a…固定鏡板(非旋回鏡板)、2b…固定渦巻体(非旋回渦巻体)、2b1…分離固定渦巻体、2b2…内線先行回転固定渦巻体、3……旋回スクロール部材、3a…旋回鏡板、3b…旋回渦巻体、3b1…延長旋回渦巻体、3b2…薄肉旋回渦巻体、4…フレーム、5…オルダムリング、6…クランク軸、6a…ピン部、6b…給排油穴、6c…主軸受排油穴、6d…主軸受溝、6e…旋回軸受溝、6f…副軸受給油横穴、7…モータ、8…ケーシング、22…バイパス弁(圧縮室圧力抑制手段)、23…旋回軸受、24…主軸受、25…副軸受、26…差圧制御弁、30…給油ポンプ、35…下フレーム、40…背圧シール、41…内側背圧シール、42…外側背圧シール、50…吸込みパイプ、55…吐出パイプ、60…背圧連通路、60a…背圧室側開口部、60b…圧縮室側開口部、75……給排しきりパイプ、75a…内側流路、75b…外側流路、85…排油口、90…上部モータ室、95…下部モータ室、100…圧縮室、100a…固定内線側圧縮室、100b…固定外線側圧縮室、105…吸込室、110…背圧室(引付力付加手段)、120…固定背面室、123…旋回背面室、125…貯油部、130…吐出室、135…圧力隔壁、140…絞りピース、145…板ばね。

Claims (13)

  1. 鏡板とそれに立設する渦巻体を備えその渦巻体の立設する軸線方向に垂直な面内を自転せずに旋回運動する旋回スクロール部材と、鏡板とそれに立設する渦巻体を備え少なくとも前記軸線方向に垂直な面内の方向における運動が概略規制される非旋回スクロール部材と、前記両スクロール部材を噛合わせ、前記非旋回スクロール部材の渦巻体の外周側側面に形成される非旋回外線側圧縮室と前記非旋回スクロール部材の渦巻体の内周側側面に形成される非旋回内線側圧縮室から成る圧縮室と、この圧縮室側の作動流体の圧力による前記両スクロール部材の鏡板を引離す向きの引離し力に対抗して前記両スクロール部材の鏡板を引き付ける向きの引付力を各々の前記スクロール部材にかける引付力付加手段と、前記引付力と前記引離し力のベクトル和である付勢力の反力を各々の前記スクロール部材に発生させるスクロール支持部材とを有するスクロール圧縮機において、
    前記旋回スクロール部材の背面に位置し前記引付力付加手段を構成する背圧室と、
    前記背圧室と前記両圧縮室とを連通する背圧連通路と、
    前記背圧連通路が前記両圧縮室の各々へ別々のタイミングで繋がる排他的連通先選択手段と、
    前記両圧縮室の断熱圧縮時に、前記背圧連通路が臨む前記両圧縮室の圧力範囲が少なくとも一部で重なるべく、前記非旋回内線側圧縮室と前記非旋回外線側圧縮室における閉込み開始タイミングをずらす圧縮開始タイミング調整手段とを設けると共に、
    前記背圧連通路の圧縮室側開口部は前記非旋回スクロール部材に設けられ、前記圧縮室内で加圧した作動流体を外部へ導出する吐出系内の圧力である吐出圧よりも前記圧縮室の圧力が高くなることを抑制する圧縮室圧力抑制手段が設けられ、前記背圧室へ圧力を導入する背圧室圧力導入手段と、前記背圧室の圧力である背圧と前記圧縮室の圧力との圧力差が所定値を越えると開制御する差圧制御弁が前記背圧連通路に設けられたことを特徴とするスクロール圧縮機。
  2. 請求項1記載のスクロール圧縮機において、
    前記非旋回スクロール部材は静止系に固定する固定スクロール部材とし、前記旋回スクロール部材のスクロール支持部材は前記固定スクロール部材とすることを特徴とするスクロール圧縮機。
  3. 請求項1または2に記載のスクロール圧縮機において、
    前記排他的連通先選択手段は、前記背圧連通路の圧縮室側開口部を前記非旋回スクロール部材における鏡板の前記渦巻体の間である歯底部に設け、この圧縮室側開口部は、少なくともこの一部が渦巻体の側面から噛合うスクロール部材の渦巻体の歯先幅以上離れた位置に配され、さらに、噛合うスクロール部材の旋回運動によってその渦巻体の歯先で全遮蔽されるタイミングを有する形状寸法を有するように構成されたことを特徴とするスクロール圧縮機。
  4. 請求項1記載のスクロール圧縮機において
    前記非旋回スクロール部材のスクロール支持部材を前記旋回スクロール部材とし
    前記旋回スクロール部材の背面に位置し前記引付力付加手段を構成する背圧室の代わりに、前記非旋回スクロール部材の背面に位置し前記引付力付加手段を構成する背圧室を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機
  5. 請求項4に記載のスクロール圧縮機において
    前記排他的連通先選択手段は、前記背圧連通路の圧縮室側開口部を、前記非旋回スクロール部材における鏡板の前記渦巻体の間である歯底部に設けるとともに、前記圧縮室側開口部の少なくとも一部を、前記渦巻体の側面から噛合うスクロール部材の渦巻体の歯先幅以上離れた位置に配し、さらに、前記圧縮室側開口部は、噛合うスクロール部材の渦巻体の旋回運動によってその歯先で全遮蔽されるタイミングを有する形状寸法を有するように構成されたことを特徴とするスクロール圧縮機
  6. 請求項1〜5の何れかに記載のスクロール圧縮機において
    前記圧縮開始タイミング調整手段は、前記両圧縮室の旋回角度に対する容積変化率を同一にする渦巻体形状とする容積変化率一致手段とともに、前記圧縮室側連通口を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の外周側側面で形成される圧縮室の閉込み開始よりも前記同一渦巻体の内周側側面で形成される圧縮室の閉込み開始を先行する内周側圧縮開始先行手段としたことを特徴とするスクロール圧縮機
  7. 請求項6に記載のスクロール圧縮機において
    前記容積変化率一致手段は、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同一形状で並存する場合を有する対称的形状を実現する対称性渦巻体形状を用いることで実現し、前記内周側圧縮開始先行手段は、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同時に形成開始される渦巻体に対して、前記圧縮室側連通口を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の内周側側面と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側連通口を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体外周側側面の、前記渦巻体巻き終わり側への延伸とすることで実現することを特徴とするスクロール圧縮機
  8. 請求項7に記載のスクロール圧縮機において、
    前記圧縮室を形成する前記渦巻体全域を円のインボリュート曲線を断面線とする曲面とし、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同時に形成開始される渦巻体に対して、前記圧縮室側連通口を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の前記内周側側面延伸量と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側開口部を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体の前記外周側側面延伸量を、インボリュート巻き角で概略180度とすることを特徴とするスクロール圧縮機
  9. 請求項8に記載のスクロール圧縮機において
    前記圧縮室側開口部を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の前記内周側側面延伸量と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側連通口を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体の前記外周側側面延伸量を、インボリュート巻き角で180度よりも、以下の式で示される角度αだけ概略大きくすること、を特徴とするスクロール圧縮機。
    α≡K・π・β/(V−K・β) [rad]
    ここで、K≡2・π・ε・a・H [mm /rad]
    π:円周率
    ε:旋回スクロール部材の旋回半径 [mm]
    a:渦巻体断面形状を構成するインボリュートの縮閉線である円の半径(基礎円半径)[mm]
    H:渦巻体の高さ [mm]
    β:圧縮室側開口部を設けるスクロール部材の内線側圧縮室の閉込み開始点から圧縮室開口部までの巻角 [rad]
    V:圧縮室側開口部を設けるスクロール部材の前記内周側側面で形成される圧縮室の閉込み開始容積 [mm ]
  10. 請求項1〜9の何れかに記載のスクロール圧縮機において
    前記圧縮室側開口部は、設置する歯底の幅中央より外径側に設けることを特徴とするスクロール圧縮機
  11. 請求項1〜10の何れかに記載のスクロール圧縮機において
    前記圧縮開始タイミング調整手段は、前記両側圧縮室で断熱圧縮した時に前記圧縮室側連通口を臨む前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室における前記旋回運動の旋回角平均による圧力平均値を概略一致させることを特徴とするスクロール圧縮機
  12. 請求項6に記載のスクロール圧縮機において
    前記内周側圧縮開始先行手段は、前記非旋回外線側圧縮室と前記非旋回内線側圧縮室が同時に形成開始される渦巻体に対して、前記圧縮室側開口部を設ける前記スクロール部材の前記渦巻体の内周側側面と、その内周側側面と噛合う前記圧縮室側連通口を設けない前記スクロール部材の前記渦巻体外周側側面を、旋回運動の向きに回転させた位置に設けることで実現することを特徴とするスクロール圧縮機
  13. 請求項12に記載のスクロール圧縮機において
    前記旋回スクロール部材に前記圧縮室側連通口を設け、それに伴い、前記内周側圧縮開始先行手段は、旋回渦巻体の内周側側面と固定渦巻体外周側側面を、旋回運動の向きに回転させることで実現することを特徴とするスクロール圧縮機
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