本発明の運転誘導装置および運転誘導方法の実施例について説明する前に、まず本発明を考案するに至った基礎的な実験について説明を行う。
自動車の性能向上の1つの方向性として、「運転しやすい車」を実現することが挙げられる。例えば、従来よりサスペンションの形式が多数考案され、かつ特性のチューニングが行われているが、これは車両の物理的な旋回限界を向上させるためだけでなく、思ったとおりに運転できる自動車を実現する取り組みであるといって良い。
「運転しやすい車」は、主観的な評価の表現であるため、実際に自動車の性能向上の取り組みを行う際には定量的な指標に置き換える必要がある。ここで、定量的な指標への置き換えの1つの手段として、「運転の再現性が高いこと」を評価指標とすることができると考えられる。
なお、ここでいう運転の再現性が高い状態とは、ある既定のコースを同一条件で複数回走行する場合の操舵パターンや人間の姿勢に代表される人間の運転挙動、或いは、車両の軌跡などの車両挙動が略同一となることであると定める。
実際の運転を繰り返し観察してみると、これら運転挙動や車両挙動は十分に再現性が高いとは言えない。運転の再現性を評価するための特性として、人間挙動のうち特に頭部の姿勢に着目して実験を行った結果の一例を図1に示す。
この第1の実験では、一定半径のコーナーを旋回する際の頭部の車体に対するロール角θHと、車体に取り付けた振り子の車体に対するロール角θG(図1(a)参照)を、複数回の走行により測定した。このような定常旋回状態においては、運転者は重力加速度と旋回加速度のベクトル和の方向(即ち、θG)に頭部角度θHが略等しくなるように頭部の姿勢を調整する傾向にある。この関係を示したのが図1(b)の実験結果を示すグラフ中の点線で示される直線である(θH=θG)。しかしながら、各試行の結果はこの直線からは大きくばらついた位置にプロットされる。すなわち、同一の旋回条件においても頭部姿勢の再現性は高くないことが分かる。
運転に特に必要な知覚である視覚情報および加速度情報を得る眼球、三半規管および耳石は頭部に集中しているため、頭部姿勢が不安定になると、それに伴って操舵が乱れることになり、この操舵の乱れは旋回横加速度の変動を促して(即ち、車両運動の再現性が低下して)、頭部傾斜角が更に不安定になるという悪循環を生むことになる。
また、図2には、別の運転再現性に関わる実験結果を模式的に示す。この第2の実験では、運転上級者と運転初級者について、直線から単一のコーナーに移行するコース210を10回走行した際の運転行動について調べた。一般的にこのようなコース210では、コーナー開始地点211の若干手前の区間202においてステアリング操作を開始する(図中、運転挙動204)。そして、それに先んじた区間201においてコーナー内側を向く動作が行われる(図中、運転挙動203)。
このとき、実際の操舵開始位置を観察すると、運転上級者は分布208となり、運転初級者は分布209となる傾向にあることが分かった。また、それぞれの分布の平均値を比較すると、その差は距離206となり、運転上級者に比較して運転初心者はコーナーのより手前で操舵を開始していることが分かった。さらに、それぞれの分布の範囲(ばらつき)について、運転初心者の分布の範囲205は運転上級者の分布の範囲207よりも大きいことも分かる。数種類のコーナーで実験を繰り返した結果、運転初級者の操舵開始位置の標準偏差は運転上級者のそれと比較して概ね3倍程度であった。
操舵開始位置が運転初級者と運転上級者とで異なることに関しては、本発明で対象としている運転の再現性にあまり関係しないが、操舵開始位置の分布の標準偏差が特に運転初級者で大きいという事実は、上述のように定義した運転再現性が低いことを直接的に表している。
また、ここでは操舵開始位置について比較を行ったが、コーナー内側を向く動作(運転挙動203)の開始位置についても操舵開始位置と同様に、運転初級者群が運転上級者群に比較してより手前でコーナー内側を向く動作を行い、また動作開始位置の分布の範囲(ばらつき)も運転上級者群に比較して大きいことが分かった。
さらに、コーナー開始地点211以降の(旋回中の)車両挙動について調べると、運転初級者群は運転上級者群に比較して走行ラインのばらつきが大きく、それに伴い修正操舵(ステアリング操作の微修正)を多く行っていた。
以上の第2の実験、即ちコーナーに侵入する際の運転行動について観察結果をまとめると、図3に示すように、操舵を実際に開始する位置を起点としたとき、(1)認知、(2)判断および(3)動作の一連のシーケンスが行われていると考えてよい。すなわち、次のシーケンスである。
(1)認知:操舵開始より時間z[秒]手前の位置でコーナー内側を向き、前方のコーナー形状を認識し、ステアリング操作への準備をする。
(2)判断:操舵開始より時間y[秒]手前の位置では現在の車両位置(車線に対する横位置)を確認し、車両位置の微修正を行う。
(3)動作:操舵開始より時間x[秒]手前の位置では、操舵を開始しようとする位置を確認し、ステアリング操作を開始する。
ここで、時間z[秒]、y[秒]およびx[秒]は、運転者の固有特性によって決まり、個人差がある。
これらの事実から、特に運転初級者群の運転行動についてまとめると、以下のような現象が起こっており、結果として運転の再現性が低い状態となっていると考えられる。
・コーナーに侵入する際の内側を向く行動のタイミングがうまく取れない(即ち、時間z[秒]にばらつきが生じる)。
・その結果、(1)認知、(2)判断および(3)動作の一連のシーケンスが乱れ、ステアリング操作を開始する位置もばらつく。なお、人間の反応時間の最小単位は0.1〜0.3[秒]程度であり、一旦タイミングを間違えると、反応時間分だけシーケンスが後ろのずれ込むことになる。
・さらにその結果として、旋回中の走行ラインもばらつき、運転の再現性が低下する。
次に、第3の実験により、コーナー手前で内側を向く動作(運転挙動)のタイミングについて調べた。図4にこの第3の実験を行ったコースの概略を示す。コースの全長は約1.1[km]程度であり、コーナーの旋回半径は約40〜100[m]程度の山岳路模擬コースである。実験では、このコースを車速50〜70[km/h]で複数の被験者に走行させた。スタート地点で停車している状態から計測を開始し、コーナーC1からコーナーC6までを通過した後、ゴール地点で再び停車して計測を終了した。
図5には、ある被験者に対する計測結果の一例を例示する。操舵角、頭部のヨーレイトおよび車体のヨーレイトについて時系列でプロットしたものである。なお、縦軸について、左側に操舵角の目盛を、右側にヨーレイトの目盛を付記している。同図の計測結果から分かるように頭部ヨーレイトの波形と車体ヨーレイトの波形とは略相似であり、頭部ヨーレイトの波形が車体ヨーレイトの波形よりも位相が進んでいる。これは、人間が操舵を開始するより以前にコーナー内側を向くためである。
ここで、頭部ヨーレイトと車体ヨーレイトの波形について相互相関関数を求めて、波形の位相差を求める。なお、車体ヨーレイトに対して頭部ヨーレイトが先行する時間、即ち位相差を頭部先行時間と呼ぶこととする。図5に示した被験者の場合、頭部先行時間は1.0[秒]程度の値として求められた。この頭部先行時間は上述した第2の実験の考察(図3参照)における時間z[秒]に相当する。
また、複数の被験者に対して同様の測定と分析を行った結果、頭部先行時間には個人差があり、0.3〜1.2[秒]程度の値を示すことがわかった。この頭部先行時間の個人差は、運転に対する慣れやスキルによって異なるものと考えられる。また、この第3の実験では、複数のコーナーを含む区間で測定を行ったが、実際には、頭部先行時間はコーナーの曲率や車速によって若干変動することが分かっている。
以上説明した第1、第2および第3の実験の結果および考察により、例えばコーナーに侵入する際の操舵タイミングを報知する場合、該コーナーに侵入する際の運転行動シーケンスの起点となる運転者が内側を向く行動のタイミングを、運転者に応じた頭部先行時間に基づき報知することにより、タイミングのばらつきを低減し、その結果として走行ラインのばらつきなどを低下させ(運転の再現性を向上させ)、道路走行において運転者の個人差を考慮した適切な操舵タイミングの報知を実現し、特に初級運転者に対して適切な運転誘導を行い得る運転誘導装置および運転誘導方法を考案するに至った。
次に、本発明の運転誘導装置および運転誘導方法の実施例について、〔実施例1〕、〔実施例2〕、〔変形例〕の順に図面を参照して詳細に説明する。
〔実施例1〕
図6は本発明の実施例1に係る運転誘導装置の構成図である。
同図において、本実施例の運転誘導装置は、運転者の頭部挙動および車両挙動を検出し、該頭部挙動および該車両挙動の時間差を演算するドライバ特性検出手段としての車両状態検出装置111、撮像装置112、顔向き検出装置113および頭部/車体ヨー時間差演算部114、車両の進路前方にあるコーナーの曲率並びに該コーナーに対する車両位置を検出する道路情報検出手段としてのナビゲーション装置115、過去に走行した道路線形並びに運転者の操舵操作の履歴を記録する履歴記録手段としてのドライバ固有特性記憶部116、ドライバ特性検出手段および道路情報検出手段の検出結果に基づき操舵を開始すべき理想操舵開始位置を算出する理想操舵開始位置算出手段としての駆動タイミング演算部117、並びに、ドライバ特性検出手段の検出結果並びに理想操舵開始位置算出手段による理想操舵開始位置に応じて、触覚を介して運転者に操舵開始タイミングを報知する報知手段としての乗車用シート118を備えて構成されている。
なお、頭部/車体ヨー時間差演算部114、ドライバ固有特性記憶部116および駆動タイミング演算部117は、処理装置110のプロセッサ上で実行されるプログラムであり、処理装置110は、例えば、CPU、MPU(マイクロプロセッサ)またはDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)等のプロセッサおよびRAM,ROM等のメモリによって実現される。
撮像装置112には例えばCCDカメラを使用し、運転席前方に設置されて、運転者の頭部を含む映像を取得する。撮像装置112により撮像された映像情報は顔向き検出装置113に出力される。
また、顔向き検出装置113は、撮像装置112により撮像された運転者の頭部を含む映像から、頭部の姿勢角、より具体的には頭部のヨー方向の姿勢角を検出する。顔向き検出装置113により検出された頭部ヨー姿勢角の微分値(即ち、頭部ヨーレイト)は、頭部/車体ヨー時間差演算部114に出力される。なお、撮像映像から頭部のヨー方向の姿勢角(頭部ヨーレイト)を検出する手法は、周知の画像処理技術を流用すれば良く、例えば特開2005−196567号公報「顔向き検出装置」に開示された技術を利用すれば良い。
また、車両状態検出装置111には例えばジャイロセンサを使用して、車両のヨーレイトを検出する。車両状態検出装置111により検出された車体ヨーレイトは、頭部/車体ヨー時間差演算部114に出力される。
また、頭部/車体ヨー時間差演算部114は、上述の第3の実験結果として図5に例示したような頭部ヨーレイト波形と車体ヨーレイト波形の相互相関関数を演算して、頭部と車体のヨー運動の位相差を検出する。この相互相関関数の演算は、以下のようにして行う。
ここで、頭部ヨーレイトおよび車体ヨーレイトの検出結果は時間的離散データであり、一般に、離散データの相互相関関数は次式で表わされる。
本実施例では、xを車体ヨーレイトとし、yを頭部ヨーレイトとする。また、式(1)におけるNは、対象とする離散データの総サンプリング数であり、x[k]およびy[k]は、それぞれ車体ヨーレイトおよび頭部ヨーレイトのk番目のデータを示している。さらにτは、データのずらし量である。
サンプリングレートをS[秒]とすれば、式(1)は、頭部ヨーレイトの波形を時間S×τ[秒]だけずらした場合の頭部ヨーレイトおよび車体ヨーレイトのデータの積の総和を表すこととなる。τを±Nの範囲で変えながら式(1)を演算すれば、τの関数として相互相関関数φxy[τ]を求めることができる。
この相互相関関数φxy[τ]が最大値を取るときのτの値が車体に対する頭部ヨーレイトの位相進みであり、実時間で表わしたときの位相進みをT[秒]とすれば、T=S×τである。この手法により求められた頭部先行時間は、ドライバ固有特性記憶部116に出力される。
一方、ナビゲーション装置115は通常車両に搭載されているもので良く、装置内部に保持されている、或いは外部から通信等を介して取得した道路情報から車両の進路前方のコース形状(コーナーの曲率等)をドライバ固有特性記憶部116に出力する。また、GPS(Global Positioning System)センサおよび車速センサ等(図示せず)から常時取得している車両位置および車速もドライバ固有特性記憶部116に出力する。
ドライバ固有特性記憶部116は、頭部/車体ヨー時間差演算部114からの頭部先行時間、並びにナビゲーション装置115からのコース形状、車両位置および車速を基に、例えば図7に示すような3次元マップとして頭部先行時間を記憶する。なお図7では、x軸を旋回半径、y軸を車速、z軸を頭部先行時間としている。また、走行を続けると、同様の曲率のコーナーを同様の車速で走行することが繰り返されるが、例えば毎回の頭部先行時間を平均して記憶させるようにすれば良い。
また同様に、操舵角センサ等(図示せず)から操舵角を入力して、操舵を開始した位置の履歴を記憶する。例えば頭部先行時間(図7参照)と同様に3次元マップとして記憶する場合には、x軸を旋回半径、y軸を車速、z軸を操舵開始の絶対位置とする。この際の操舵開始の絶対位置の原点は、コース中央をトレースするために必要な車体ヨー角を演算した上で、そのヨー角を発生させるために必要な操舵角を演算し、その操舵角が発生し始める地点とする。このように目標車体ヨー角を演算して必要な操舵角を演算する方法については、例えば自動操縦装置技術として周知のものであるためここでは省略する。
また、駆動タイミング演算部117は、ナビゲーション装置115からコース形状(コーナーの曲率等)、車両位置および車速を入力し、ドライバ固有特性記憶部116を参照して駆動開始タイミングを演算する。
具体的に、駆動開始タイミングは、前述同様にコース中央をトレースするために必要な車体ヨー角を演算した上で、そのヨー角を発生させるために必要な操舵角を演算し、その操舵角が発生し始める地点を原点とした絶対座標で求める。ナビゲーション装置115からのコーナーの曲率および車速を基に、ドライバ固有特性記憶部116を参照して頭部先行時間および操舵開始位置を決定する。操舵開始位置は運転者の平均的な操舵開始位置を表すため、これを理想操舵開始地点として、該理想操舵開始地点から頭部先行時間×車速の距離分だけ手前で乗車用シート118に対して駆動開始指令を出力する。
次に、本実施例の報知手段である乗車用シート118について図8および図9を参照して説明する。ここで、図8(a)は乗車用シート118の外観を、図8(b)は乗車用シート118の内部構造をそれぞれ示す説明図である。また、図9は乗車用シート118の動きを説明する説明図である。
まず図8(a)に示すように、乗車用シート118は、運転者が着座した時に運転者の背中に接するシートバック11(シート背面)と、シートバック11の両側に配置された左右1対のサイドサポート12と、シートバック11の上方に配置されたヘッドレスト13とを備えている。サイドサポート12は、運転者の両脇に沿うように運転者の側に傾斜している。
また図8(b)に示すように、乗車用シート118の内部構造は、乗車用シート118の骨格をなすシートフレーム14と、サイドサポート12を支える左右1対のサイドサポートフレーム15a,15bと、サイドサポートフレーム15a,15bを同時に駆動するモータ16と、左右のサイドサポートフレーム15a,15bを連結する第1リンク17、第2リンク18と、第2リンク18とモータ16とを連結する第3リンク19と、サイドサポートフレーム15a,15bの回転を支持する回転支持部20と、ヘッドレスト13をシートフレーム14に取り付けるヘッドレスト取り付け部21と、クッション支持スプリング22と、を備えている。
サイドサポートフレーム15a,15bは、それぞれ上下1対の回転支持部20を介してシートフレーム14に対して回転可能に支持され、車両横方向またはヨー方向へ変位する。サイドサポートフレーム15a,15bはそれぞれクッションで覆われて図8(a)のサイドサポート12を形成している。
モータ16の回転軸は、第1乃至第3リンク17〜19及び回転支持部20を介してサイドサポートフレーム15a,15bに結合されている。第1乃至第3リンク17〜19は略平行リンク構造を形成しており、モータ16が回転動作することによってサイドサポートフレーム15a,15bは車両横方向またはヨー方向へ変位する。つまり、モータ16の回転動作がサイドサポートフレーム15a,15bの揺動運動として伝えられる。これに伴い、図8(a)のサイドサポート12が同様な方向へ変位する。モータ16そのものはシートフレーム14に固定されている。
なお、図8(a)のヘッドレスト13はヘッドレスト取り付け部21を介してシートフレーム14に接続されている。また、シートフレーム14は方形状の形状を有し、その内側に所定の間隔をおいてクッション支持スプリング22が配置されている。
次に、図9を参照して左右のサイドサポートフレーム15a,15b(サイドサポート12)の動きについて説明する。まず、制御オフ時(駆動タイミング演算部117から駆動指令が出力されていないとき)には、図9(a)および図9(b)に示すように、左右のサイドサポートフレーム15a,15b(サイドサポート12)は車両横方向に対して左右対称な位置に保持されている。このときモータ16は回転動作をしておらず、第1乃至第3リンク17〜19も動いていない。
一方、例えば、車両が右曲がりのコーナーに侵入する際には、駆動タイミング演算部117から駆動指令が出力されるが、この場合、図9(c)および図9(d)に示すように、モータ16を図9(c)に示す方向へ回転させる。このモータ16の回転は第1乃至第3リンク17〜19を通じて左右のサイドサポートフレーム15a、15bに伝達され、サイドサポートフレーム15a,15b(サイドサポート12)は、初期位置(図9(b)参照)に対してヨー方向に角度α(ヨー方向回転角)だけ回転する。なお、乗車用シート118の駆動は、ヨー方向回転角αの角速度が、コーナーを走行する際の操舵角速度と等しくなるように行うのが望ましい。
本実施例の運転誘導装置は、コーナー手前で乗車用シート118を駆動することにより、タイミングを運転者に報知する技術を提供するものであることから、定常的な旋回に移行した場合のサイドサポート12の動きを厳格に規定する必要はないが、実際に装置を車両に適用する場合には、定常的な旋回に移行した時点でゆっくりサイドサポート12を元の位置に戻すなどすれば良い。
また、本実施例における乗車用シート118と類似した機構でサイドサポートを稼動させ、旋回時の横Gに対処して体を支える従来技術として、例えば特開昭63−151549等がある。この従来技術は、サイドサポートを運転者の状態を締め付ける方向(即ち、左右のサイドサポートをそれぞれ逆方向)にヨー回転させるものであり、これに対して本実施例は、左右のサイドサポートを同方向に回転させる点で異なる。
次に、以上の構成を備えた本実施例の運転誘導装置による運転誘導方法について、図10を参照して説明する。図10(a)はドライバ固有特性記憶部116による学習を、図10(b)は駆動タイミング演算部117による駆動開始タイミングの演算を、それぞれ説明する説明図である。
先に詳しく述べた第1、第2および第3の実験の結果および考察から、コーナーに侵入する際の操舵タイミングを報知する場合、該コーナーに侵入する際の運転行動シーケンスの起点となる運転者が内側を向く行動のタイミングを、運転者の個人差に合わせて報知するためには以下の条件が必要となる。
(ィ)タイミングを計算する起点は、運転者の平均的操舵開始位置とする。すなわち、運転者毎に異なる地点となる。
(ロ)報知するタイミングは、平均的操舵開始位置から運転者の頭部先行時間分だけ手前とする。
以上の条件を満たすべく、本実施例では、ドライバ固有特性記憶部116により走行コースの履歴および運転者の行動履歴の学習を行い、駆動タイミング演算部117によりドライバ固有特性記憶部116を参照して駆動開始タイミングを演算し、乗車用シート118に対して駆動開始指令を出力する。
より具体的に、ドライバ固有特性記憶部116による学習では、走行コースの履歴および運転者の行動履歴は、絶対位置を起点とした時間で記憶される。すなわち、図10(a)に示すように、走行コースの中央をトレースするために必要な車体ヨー角を演算した上で、そのヨー角を発生させるために必要な操舵角を演算し、その操舵角が発生し始める地点を絶対位置の起点(図中、601)とする(ステップS101)。
次に、運転者が実際に操舵操作を開始した位置を、コーナーの旋回半径および車速に応じた3次元マップとしてドライバ固有特性記憶部116に記憶し、ステアリングの操舵タイミングを学習する(ステップS102)。この場合、同様のコーナー曲率を同様の車速で繰り返し走行されるので、操舵開始位置は平均値(図中、602)として記憶されることとなる。
また、操舵操作に対する頭部先行時間を、コーナーの旋回半径および車速に応じた3次元マップ(図7参照)としてドライバ固有特性記憶部116に記憶し、頭部先行時間を学習する(ステップS102)。この場合も、同様のコーナー曲率を同様の車速で繰り返し走行されるので平均値(図中、603)として記憶されることとなる。
次に、駆動タイミング演算部117による駆動開始タイミングの演算は、コーナーの曲率および車速を基に、ドライバ固有特性記憶部116を参照して頭部先行時間および操舵開始位置を決定する。つまり、図10(b)に示すように、操舵開始位置(平均操舵開始位置602)を理想操舵開始地点とし、該理想操舵開始地点から頭部先行時間(平均頭部先行時間603)×車速の距離分だけ手前で乗車用シート118に対して駆動開始指令を出力する。該駆動開始指令により、乗車用シート118のサイドサポート12のコーナー内側へ向けた駆動が開始される。
この乗車用シート118の駆動により、以下のような作用が得られる。第1に、旋回に入る準備行動の際、早期にコーナー内側を見ようとした場合、サイドサポート12が適切なタイミングで内側を見る場合に比較して状態の回転を阻害する位置にあるため、コーナー内側を見る行動が抑制される。また第2に、旋回に入る準備行動の際に、コーナー内側を見るタイミングが遅れる場合、サイドサポート12が内側に向けて駆動されるため、状態の回転が促進され、結果としてコーナー内側を見る行動が促進される。
以上の運転誘導方法の説明では、ドライバ固有特性記憶部116による学習と、駆動タイミング演算部117による駆動開始タイミングの演算を一連の流れとして説明したが、実際には、双方の動作は同時に行われる。つまり、駆動タイミング演算部117による駆動開始タイミングの演算が行われると同時に、そのときの運転者の頭部先行時間および操舵開始位置が履歴としてドライバ固有特性記憶部116に入力されて、記憶内容が更新されることとなる。
次に、本実施例の運転誘導装置および運転誘導方法を実際に適用した実験結果を図11に示す。この実験では、図2に示したような線形を持つコースを各仕様につき10回ずつ走行した際の図11(a)頭部先行時間のばらつきと、図11(b)走行ラインの安定性(レーントレース性)を測定した。
ここでは、4種の仕様の実験条件で測定を行っている。まず、ノーマル仕様は本実施例を適用しない通常の車両である。また、仕様701は図10における地点602で乗車用シート118の駆動を開始したものである。また、仕様702は本実施例を適用(図10における地点602より平均頭部先行時間603分だけ手前で乗車用シート118の駆動を開始)したものである。また、仕様703は図10における地点602より平均頭部先行時間603の1.5倍分だけ手前で乗車用シート118の駆動を開始したもので、本実施例よりもさらに手前で乗車用シート118の駆動を開始したものである。なお、仕様701および703は本実施例の効果を検証するための比較例として準備した。
図11(a)の頭部先行時間のばらつきの結果から分かるように、本実施例を実際に適用した場合、頭部先行時間のばらつきが通常の車両と比較して略半減していることが分かる。これは、コーナーに侵入する際の「内側を向き、そして操舵を開始する」という一連のリズムが毎回揃ってきていることを表している。また、仕様703ではこのような効果が表れていないことを見ると、本実施例の報知タイミングが最適であることが分かる。
また、図11(b)は、旋回中の走行ラインの安定性について分析した結果であり、縦軸のレーントレース性は、毎回の走行ラインの相関係数を表しており、1に近いほど走行ラインの安定性が安定していることを示す。図11(b)に示すとおり、本実施例(仕様702)により走行ラインの安定性が向上していることが分かる。
以上のことから、旋回開始時の一連のシーケンスの起点となる旋回内側を見るタイミングを運転者に報知することにより、旋回シーケンスのリズムが正しく保たれ、その結果として、旋回時の運転再現性が高まることが実証された。
以上説明したように、本実施例の運転誘導装置および運転誘導方法では、ドライバ特性検出手段(ドライバ特性検出ステップ;車両状態検出装置111、撮像装置112、顔向き検出装置113および頭部/車体ヨー時間差演算部114)により、運転者の頭部挙動および車両挙動を検出して該頭部挙動および該車両挙動の時間差を演算し、道路情報検出手段(道路情報検出ステップ;ナビゲーション装置115)により、車両の進路前方にあるコーナーの曲率、並びに該コーナーに対する車両位置を検出し、理想操舵開始位置算出手段(理想操舵開始位置算出ステップ;駆動タイミング演算部117)により、ドライバ特性検出手段および道路情報検出手段の検出結果に基づき操舵を開始すべき理想操舵開始位置を算出し、ドライバ特性検出手段の検出結果、並びに理想操舵開始位置算出手段による理想操舵開始位置に応じて、運転者に操舵を開始するタイミングを触覚による報知手段(乗車用シート118)を介して報知する。
このように、運転者の固有の特性(即ち、個人差)に応じて操舵タイミングの報知を行えるようにシステムが構成されることにより、操舵タイミングのばらつきを低減し、走行ラインのばらつきなどを低下させて運転の再現性を向上させることができ、結果として、道路走行において運転者の個人差を考慮した適切な操舵タイミングの報知を実現し、特に初級運転者に対して適切な運転誘導を行うことが可能となる。
また、本実施例の運転誘導装置および運転誘導方法では、報知手段(乗車用シート118)により、理想操舵開始位置から運転者の頭部挙動および車両挙動の時間差(頭部先行時間)だけ手前のタイミングで操舵開始タイミングを報知する。
このように、旋回走行時における一連の行動シーケンスの起点となる運転者が内側を向く行動のタイミングを、運転者に応じた頭部先行時間に基づき報知することにより、タイミングのばらつきを低減してシーケンスのリズムが毎回一定に保たれ、その結果として走行ラインのばらつきなどを低下させ(運転の再現性を向上させ)、道路走行において運転者の個人差を考慮した適切な操舵タイミングの報知を実現し、特に初級運転者に対して適切な運転誘導を行うことが可能となる。
また、本実施例の運転誘導装置では、運転者の頭部を含む映像を取得して、該映像に基づき運転者の頭部のヨー方向の姿勢角の微分値(以下、頭部ヨーレイトという)を検出する顔向き検出装置113と、車両のヨーレイトを検出する車両状態検出装置111と、を少なくとも備え、頭部ヨーレイトと車両ヨーレイトの相互相関関数に基づき頭部挙動および車両挙動の時間差を演算することが望ましい。
また、本実施例の運転誘導装置では、過去に走行した道路線形、並びに運転者の操舵操作の履歴を記録する履歴記録手段(ドライバ固有特性記憶部116)を備え、駆動タイミング演算部117は、ナビゲーション装置115の検出結果およびドライバ固有特性記憶部116の履歴情報に基づき操舵を開始すべき理想操舵開始位置を算出する。
たとえば、頭部先行時間および操舵開始位置を旋回半径および車速に応じて逐次平均した値に更新していくことにより、より個人差を反映した操舵タイミングの報知を実現でき、操舵タイミングのばらつきをより低減し、走行ラインのばらつきなどをさらに低下させて運転の再現性をより向上させることができる。
また、本実施例の運転誘導装置では、車両に取り付けられ、一部が少なくともヨー方向または車体横方向に変位可能に支持される乗車用シート118を報知手段として備え、該乗車用シート118を介した触覚により運転者に操舵を開始するタイミングを報知する。
たとえば、操舵タイミング報知時に乗車用シート118をヨー方向に動かすことにより、自然と運転者がコーナーの内側を向くこととなり、従来の音による報知のように、報知と行うべき動作(内側を向く動作)の対応関係を事前に運転者に教示しておく必要がなくなる。
また、本実施例の運転誘導装置では、乗車用シート118の可動部分は、当該シートの左右1対のサイドサポート部分であって、該左右のサイドサポートが当該シートの他の部分に対してヨー方向または車体横方向に変位できるように支持する機構を備える。このように、乗車用シートのサイドサポート部分を可動式として、この部分の変位をコントロールするものであるため、低いコストの機構で運転再現性の向上が期待できる。
〔実施例2〕
次に、本発明の実施例2に係る運転誘導装置について説明する。本実施例は実施例1(図6参照)に対して、報知手段である乗車用シート118の機構のみが異なり、以下では、本実施例の乗車用シート118について図12を参照して説明する。ここで、図12(a)は乗車用シート118の内部構造を、図12(b)はサイドサポート12の動きをそれぞれ示す説明図である。
実施例1の乗車用シート118では、サイドサポートフレーム15a,15bがシートフレーム14に対してヨー方向に回転変位する例を示してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、サイドサポートフレーム15a,15bがシートフレーム14に対して車両横方向へ並行に変位しても構わない。
ここでは、図12(a)に示す乗車用シート118の具体的な内部構造において、図8(b)に示した内部構造と比べて異なる点を説明し、同じ部分については説明を省略する。
左右のサイドサポートフレーム15a,15bの両端がそれぞれスライドレール36a,36bに接続されることにより、左右のサイドサポートフレーム15a,15bの相対的な位置が固定されている。スライドレール36a,36bは、リニアガイドのスライドレール部分を兼ねており、リニアガイドのスライダ37a〜37dに相当する部分がシートフレーム14に固定されている。これにより、左右のサイドサポートフレーム15a,15bは一体となってシートフレーム14に対して車両横方向に変位できるように支持されている。
さらにスライドレール36a,36bの背面にはラック歯を設け、このラック歯に噛み合うピニオンギアをシートフレーム14に対して固定されたモータ16で駆動する。これにより、サイドサポートフレーム15a、15bの左右への移動が可能となる。
次に、左右のサイドサポートフレーム15a,15b(サイドサポート12)の動きについて説明する。まず、制御オフ時(駆動タイミング演算部117から駆動指令が出力されていないとき)には、図12(b)に示すように、左右のサイドサポートフレーム15a,15b(サイドサポート12)は車両横方向に対して左右対称な位置に保持されている。このときモータ16は回転動作をしておらず、スライドレール36a,36bも動いていない。
一方、例えば、車両が右曲がりのコーナーに侵入する際には、駆動タイミング演算部117から駆動指令が出力されるが、この場合、図12(c)に示すように、モータ16を同図に示す方向へ回転させる。このモータ16の回転はスライドレール36a,36bを通じて左右のサイドサポートフレーム15a、15bに伝達され、サイドサポートフレーム15a,15b(サイドサポート12)は、初期位置(図12(b)参照)に対して車体横方向に平行移動する。
なお、報知手段である乗車用シート118の機構としては、実施例1(図8および図9参照)および本実施例(図12)で示した以外の機構であっても、シートの一部分が車体に対してヨー方向または車体横方向に変位できるように支持する機構が含まれているシートを用いれば良く、例えば、特開平7−315088号公報に開示されているシート構造を用いるなどしても良い。
以上説明したように、本実施例の運転誘導装置では、乗車用シート118の可動部分は、当該シートの背面またはシート全体であって、該シート背面の一部または全体を車体に対してヨー方向または車体横方向に変位できるように支持する機構、或いは、該シート全体を車体に対してヨー方向に回転可能に支持する機構を備える。例えば、乗車用シートのシート背面の一部を可動式として、この部分の変位をコントロールするものであるため、低いコストの機構で運転再現性の向上が期待できる。
〔変形例〕
本発明の運転誘導装置および運転誘導方法は、以上説明した実施例1および実施例2の構成および作用に限定されることなく、様々な変形が可能である。
たとえば、実施例1では、ドライバ固有特性記憶部116に、操舵角、コーナー曲率および車速を入力して、操舵を開始した位置の履歴を記憶し、操舵開始位置を理想操舵開始地点としている。これは、一般の道路線形が直線とコーナー部分の間に緩和曲線を持つためである。しかしながら、これ以外の方法で理想操舵開始地点を求めても良い。
緩和曲線が道路線形の部分をあまり高速でない速度で走行する場合には、運転者の操舵開始地点にそれほど個人差が認められないので、この場合には、直線と曲線(コーナー)の接続部分から車両のヨー応答遅れ分だけ手前の地点を仮想的に理想操舵開始地点として良い。
また、緩和曲線が存在する場合であっても、車速があまり高くない場合には、同様に運転者の操舵開始地点は大きな個人差が存在しないので、コース中央をトレースするために必要な車体ヨー角を演算した上で、そのヨー角を発生させるために必要な操舵角を演算し、その操舵角が発生し始める地点を理想操舵開始地点として良い。
なお、これら2つの手法の何れかによって理想操舵開始地点を設定した場合でも、駆動タイミング演算部117は、ドライバ固有特性記憶部116の運転者の個人差を反映した頭部先行時間に基づいて、乗車用シート118の駆動開始タイミングを求めているので、個人差を反映した操舵タイミングの報知は十分に実現されていることとなる。
また、実施例1では、道路情報検出手段としてナビゲーション装置115を使用し、ナビゲーション装置115により車両の絶対位置を計測し、コース情報を得ることとしたが、必ずしも車両の絶対位置を計測する必要はなく、例えば、公知の車線維持支援装置で用いられているようなステレオカメラによる手法を用いて、前方の道路曲率を推定し、かつ前方のコーナーに対する車両の相対位置を把握して制御を行っても良い。
また、実施例1および実施例2では、報知手段として触覚を用いる乗車用シート118を使用したが、これ以外にもブザーやランプといった聴覚または視覚を用いた報知手段を使用しても良い。この場合には、予め運転者にブザーやランプが内側を向くべきタイミングを報知していることを教示しておく必要はあるが、頭部先行時間の記憶結果を報知開始タイミングに反映させることにより、個人差に応じたタイミング報知は十分に実現され、従来技術より有効な報知を行うことができる。
以上のように、変形例の運転誘導装置では、理想操舵開始位置算出手段による理想操舵開始位置は、道路線形、車速および車両特性に基づき演算され、運転者によらない単一地点としても良い。特にそれほどの高速でない走行条件の場合に、理想操舵開始位置を全ての運転者に対して共通と設定することで、簡潔な制御ロジックを実現できる。この場合であっても、運転者の個人差に応じた操舵タイミングの報知は実施されることとなる。
また、変形例の運転誘導装置では、駆動タイミング演算部117は、道路線形の直線部分から曲線部分に至る部分に緩和曲線が無い場合に、車両の操舵に対するヨー応答遅れ時間分手前の地点を理想操舵開始位置とする。道路の線形が単純な形状で構成される場合には理想操舵開始位置を簡潔な手段で演算できるため、制御に要する計算負荷が低減される。
また、変形例の運転誘導装置では、駆動タイミング演算部117は、車両が車線中央を走行するための目標ヨーレイトと、該目標ヨーレイトを発生するために必要な操舵角を演算し、コーナー手前で該操舵角が発生する地点を理想操舵開始位置とする。道路の線形が、例えば緩和曲線を含むような場合であっても、適切に理想操舵開始位置を求めることができる。また、簡略化した演算によって理想操舵開始位置を求めることにより、システムの計算負荷を下げることができる。
また、変形例の運転誘導装置では、ランプまたはディスプレイを備えた視覚刺激提示手段を備え、報知手段は、該視覚刺激提示手段を介した視覚により運転者に操舵を開始するタイミングを報知する。報知と行うべき動作の対応関係は、従来と同様に事前に運転者に教示しておく必要はあるが、運転者の個人差を反映した視覚による報知を行うことにより、従来のように準静的な走行条件でなくとも、行動タイミングの報知の効果が得られることとなる。
さらに、変形例の運転誘導装置では、電気的または機械的な音を発する聴覚刺激提示手段を備え、報知手段は、該聴覚刺激提示手段を介した聴覚により運転者に操舵を開始するタイミングを報知する。報知と行うべき動作の対応関係は従来と同様に事前に運転者に教示しておく必要はあるが、運転者の個人差を反映した音による報知を行うことにより、従来のように準静的な走行条件でなくとも、行動タイミングの報知の効果が得られることとなる。