本発明は、コンクリート構造物の表面および内部の物質濃度計測方法および装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、コンクリート構造物の塩害の原因となる塩化物イオンや、中性化の指標となる炭素などの様々な変質と関連する物質の濃度を計測する方法並びに装置に関する。
コンクリート構造物の表面および内部の物質濃度を計測する手法としては、現在主に電位差滴定法と呼ばれる方法が用いられている(非特許文献1)。この方法は、コンクリート構造物を刳り貫いて所定の大きさ例えば直径100mm、長さ100mm以上の円柱状サンプル(コア試料とも呼ばれる)を取り出し、このサンプルを厚さ5〜10mmにスライスし、各スライス毎に149μmのふるいを全通するように破砕および粉末化し、一昼夜風乾した後、硝酸による溶解と濾過を行うことにより目的化合物のイオンを抽出し、1対またはそれ以上の電極を溶液に浸し、滴定によって目的化合物の濃度を変化させながら電極の電位差を測定することによって、抽出した目的化合物の濃度に関する情報を得る分析手法である。この電位差滴定法により、例えば、コンクリート構造物中の塩化物イオン量を求めて、コンクリートの塩害の影響を評価するものである。
また、被検査コンクリートに炭酸ガスレーザ光を照射してアブレーションによるプラズマを発生させ、このプラズマの光を発光開始から分光光度計に取り入れてスペクトルに分解し、更に撮像素子等を用いてスペクトル強度分布を測定し、プラズマの発光のスペクトル強度分布によりコンクリートを検査する手法も提案されている(特許文献1)。スペクトル強度分布中には、炭素、イオウ、ナトリウム、塩素、鉄などの成分に基づく発光ピークを含むことから、これらピークの周波数から励起原子を同定することができる。そこで、例えば、スペクトル強度分布中の炭素(C)成分の強度に基づきコンクリートの中性化を検査したり、スペクトル強度分布中のナトリウム(Na)成分及び/又は塩素(Cl)成分の強度に基づきコンクリートの塩害の影響度合いを検査することができる。さらには、鉄筋コンクリートの場合は、スペクトル強度分布中の鉄(Fe)成分の強度に基づき鉄筋の腐食を検査できる。
特開2002−296183
(社)日本コンクリート工学協会発行 「コンクリート構造物の腐食・防食に関する試験方法並びに基準(案)」 1987年
しかしながら、電位差滴定法による分析は、最も確実な方法である反面、試験に手間と費用を要する問題がある。即ち、コア採取の後、粉砕・粉末化、硝酸による溶解と濾過を行うなどの工程が必要なため、サンプリング現場で直ちに化学分析することは困難であり、調査結果を得るまでに多くの手間と数日以上の時間を要する問題点がある。また、構造物に損傷を与える破壊検査であるため、空間分解能を良くするために刳り貫く円柱状サンプルを太くすると、コンクリート構造物の強度に影響を与える可能性がある。そうかといって、サンプルを小さくすると空間分解能が悪くなる。
また、後者のレーザーによるアブレーションでコンクリート含有物質をプラズマ化してスペクトル強度分布を測定する手法では、ショックウェイブによるバックグランドノイズが大きく、その中に励起原子の信号が埋没して感度が上がらず、電位差滴定法による分析の場合(0.01kg/m3レベルの精度、0.001kg/m3程度の感度)と比べて精確でないという問題がある。したがって、例えばコンクリート構造物の塩害の影響を評価する際に、電位差滴定法が有する問題点を解消できるものの、日本建築学会並びに土木学会の「コンクリート中の塩化物量に関する規定」で定める0.3kg/m3以下という濃度を検査できないほどに感度レベルが低すぎるために、実用的でないという問題がある。
そこで本発明は、簡単に短時間で感度良くコンクリート含有物質濃度を測定できるコンクリート検査方法及び装置を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明者等が種々研究・実験した結果、アブレーションにより白色光ノイズが発生し、これが励起原子の発光を覆うため、S/N比が発光初期に劣化する問題があることを知見するに至った。そして、白色光ノイズは比較的励起原子よりも発光寿命が短く、初期の段階を過ぎると励起原子よりも急速に減少することを知見するに至った。また、本発明者等は、アブレーションにより原子化された雰囲気(プラズマプルーム)にさらにレーザー光を照射してアブレーションされた物質を再加熱または再励起することにより、白色光ノイズ(バックグランドノイズ)の減衰を妨げることなく励起原子の発光寿命を延ばして発光ピークを顕著にできることを新たに知見するに至った。
請求項1記載のコンクリート含有物質計測方法は、かかる知見に基づくものであり、検査対象であるコンクリート表面にレーザー光を照射してコンクリート含有物質をアブレーションし、その後白色光ノイズが減少し尚かつ励起原子が残っている状態で前記アブレーションにより原子化された雰囲気に対し、再びレーザー光を照射してアブレーションされた物質を再加熱または再励起によりプラズマ化し、そのプラズマ化された物質からの発光を白色光ノイズが減少し尚かつ励起原子が残っている状態で波長毎に分解して受光素子で撮像して発光スペクトルを求め、この発光スペクトルからコンクリート含有物質濃度を測定するようにしている。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のコンクリート含有物質計測方法において、一つ目のレーザー光と二つ目のレーザー光との間に500ns〜2μsの時間差を与え、受光素子のゲート開放開始とその直前のレーザー光の照射との間に500ns〜3μsの時間差を与えるものである。
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のコンクリート含有物質計測方法において、レーザー光の少なくとも1つは超短パルスレーザー光を用いるものである。
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載のコンクリート含有物質計測方法において、スペクトル強度分布中の塩素成分の発光強度に基づきコンクリートの塩害の影響度を評価可能とする塩素成分の濃度を測定するものである。
さらに、請求項5記載のコンクリート含有物質計測装置は、被検査コンクリート表面にレーザー光を照射してコンクリート含有物質をアブレーションする第1のレーザーと、前記第1のレーザー光でアブレーションされた物質にレーザー光を照射してプラズマ化する第2のレーザーと、前記プラズマ化された物質からの発光を波長毎に分解する分光手段と、前記分光手段を経て分光された前記プラズマ化された物質からの発光を制御された時間差をもって受光し発光スペクトルを得るゲート機能を有する受光素子と、前記第1レーザー、第2レーザー及び受光素子のゲート開放開始時間との間の時間差を制御するコントローラとを備えるようにしている。
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載のコンクリート含有物質計測装置において、コントローラは、第1のレーザーと第2のレーザーとのレーザー光照射時間差として500ns〜2μs、第2のレーザーからのレーザー光照射と受光素子のゲート開放開始との間に500ns〜3μsの範囲で時間差を与えるものである。
また、請求項7記載の発明は、請求項5または6記載のコンクリート含有物質計測装置において、プラズマ化された物質からの発光を遠隔地から集光して分光手段に導光する集光手段を備え、コンクリート含有物質濃度を遠隔で測定するものである。
また、請求項8記載の発明は、請求項5から7のいずれか1つに記載のコンクリート含有物質計測装置において、第1のレーザーあるいは第2のレーザーの少なくとも一方を超短パルスレーザーとしたものである。
本発明によれば、白色光ノイズは励起原子よりも発光寿命が比較的短く、発光初期段階を過ぎると励起原子よりも急速に減少することを利用し、発光初期を経過した時点の、白色光ノイズが減少し尚かつ励起原子が残っている状態で受光して発光スペクトルを得るようにしているので、S/N比が高くなり、コンクリート含有物質の濃度を各々対応する検査あるいは変質の評価などに十分利用可能な範囲で高感度かつ高い空間分解能を以て計測可能である。具体的には、本発明者等がコンクリート中の塩化物量に関して行った実験では、測定感度が1桁向上し、塩害の影響を評価するには十分な感度である0.19kg/m3の検出限界値が得られた。さらに、本発明では、わずかφ1mm程度の領域で測定が可能であるため、コンクリート構造物から切削するサンプル量を格段に減少させることが可能であり、測定に対してコンクリート構造物の強度に与える影響を格段に低減することができる。しかも、サンプルを刳り貫いた現場で、即座にコンクリート含有物質の濃度を計測できる。なお且つ、超短パルスレーザー光を用いたアブレーションにより、エネルギを1つのパルスで大量に注入できるので、発光信号強度を大きくできる。しかも、超短パルスレーザー光は、ナノ秒レーザ光により生成するプラズマに比べて温度が低いため、白色光ノイズの寿命が短かく、白色光ノイズの発生を抑えることができる。このため、S/N比を上げて測定感度を向上させることができる。
さらに、請求項1記載の発明では、アブレーションにより原子化された雰囲気(プラズマプルーム)にさらにレーザー光を照射してアブレーションされた物質を再加熱または再励起することにより、急速に減衰する白色光ノイズ(バックグランドノイズ)に対して励起原子の発光寿命を延ばして発光ピークを顕著にできる。しかも、プラズマプルームを再加熱または再励起するため、エネルギーを無駄に使わずに励起原子を効率的に加熱でき、プラズマの制動輻射のバックグラウンドノイズ(白色光ノイズ)そのものも低減できる。即ち、白色光ノイズの発光強度が減衰したときに再加熱または再励起により励起原子の発光寿命を延ばすことにより、S/N比をより高めて発光スペクトルを得ることができるため、コンクリート含有物質濃度を各々対応する検査あるいは変質の評価などに十分利用できる感度で計測できる。具体的には、本発明者等がコンクリート中の塩化物量に関して行った実験では、測定感度が1桁向上し、塩害の影響を評価するには十分な感度である0.11kg/m3の検出限界値が得られた。さらに、上述のシングルパルスの場合と同様に、わずかφ1mm程度の領域で測定が可能であるため、コンクリート構造物から切削するサンプル量を格段に減少させることが可能であり、測定に対してコンクリート構造物の強度に与える影響を格段に低減することができる。
請求項2記載の発明では、一つ目のレーザー光でアブレーションにより原子化された雰囲気の白色光ノイズの発光強度が減衰したときに2つ目のレーザー光による再加熱または再励起を効果的に行って励起原子の発光寿命を延ばして発光ピークを顕著にすることができるので、S/N比をより高めて発光スペクトルを得ることができ、測定感度を向上させうる。
請求項3記載の発明では、少なくともアブレーションあるいは再加熱・再励起のいずれか一方若しくは双方において超短パルスレーザー光を用いることによって、エネルギを1つのパルスで大量に注入でき、かつレーザー光により生成するプラズマの温度を低くできるので白色光ノイズの発生を抑えることができる。これにより、白色光ノイズの影響を少なくかつ励起原子の発光信号強度を高めて発光ピークを顕著にするため、S/N比を上げて測定感度を向上させることができる。
請求項4記載の発明では、コンクリート構造物の塩害に影響するClの濃度を、塩害の影響を評価するには十分な感度である0.19kg/m3〜0.11kg/m3の検出限界値、即ち高感度かつ高い空間分解能で計測可能である。
請求項5記載の発明では、2つのレーザーとコントローラと受光素子などを組み合わせた簡単な装置で、コンクリート含有物質濃度を各々対応する検査あるいは変質の評価などに十分利用可能な範囲で高感度かつ高い空間分解能を以て計測可能である。例えば、本発明者等がコンクリート中の塩化物量に関して行った実験では、塩害の影響を評価するには十分な感度である0.11kg/m3の検出限界値が得られた。
請求項6記載の発明では、アブレーションプルーム中の励起原子の再加熱または再励起を効果的に行って励起原子の発光寿命を延ばすと共に発光ピークが顕著となったタイミングで受光素子で受光して発光スペクトルを得ることできる。
請求項7記載の発明では、遠隔での計測が可能であることから、コンクリート構造物の表面でのコンクリート含有物質濃度を離れて測定することができる。
請求項8記載の発明では、少なくともアブレーションあるいは再加熱・再励起のいずれか一方若しくは双方において超短パルスレーザー光を用いることによって、エネルギを1つのパルスで大量に注入でき、かつレーザー光により生成するプラズマの温度を低くできるので白色光ノイズの発生を抑えることができる。これにより、白色光ノイズの影響を少なくかつ励起原子の発光信号強度を高めて発光ピークを顕著にするため、S/N比を上げて測定感度を向上させることができる。また、遠隔での計測の場合には、ピークパワーが高い超短パルスレーザーは光学系を用いなくても集光するため、より簡易な設備となる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図7に本発明のコンクリート含有物質計測装置の実施の一形態を原理図で示す。このコンクリート含有物質計測装置は、被検査コンクリート(試料サンプル)6の表面にレーザー光11を照射してコンクリート含有物質をアブレーションする第1のレーザー(アブレーション用レーザー)1と、第1のレーザー光11でアブレーションされた物質の雰囲気(アブレーションプルーム)26にレーザー光12を照射してプラズマ化する第2のレーザー2と、プラズマ化された物質からの発光を波長毎に分解する分光手段4と、該分光手段4を経て分光されたプラズマ化された物質からの発光を制御された時間差をもって受光し発光スペクトルを得るゲート機能を有する受光素子5と、第1レーザー1、第2レーザー2及び受光素子5のゲート開放開始時間との間の時間差を制御するコントローラ3並びに受光素子5からの電気信号を取り込み、保存し、必要に応じて積算し、解析するコンピュータ18とを備え、発光スペクトルのピークの周波数から励起原子を特定し、そのピーク高さからコンクリート含有物質濃度を測定するようにしたものである。分光手段4は、取り込んだ光をスペクトルに分解し、更に受光素子5を用いてスペクトル強度分布(波長依存性を有する発光強度の分布)を測定する。
第1及び第2のレーザとしては、コントローラ3で時間制御がかけられるQスイッチを備えるYAGレーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ等が用いられる。そして、コントローラ3によって第1のレーザー1のトリガ信号に対する第2のレーザー2のQスイッチの遅延時間が設定されることにより、第1のレーザー光11に対し第2のレーザー光12が所定の時間差(遅れ時間)をもって生成される。例えば、Nd:YAGレーザーを採用する場合には、パルス幅が数10nm、パルスエネルギーが200〜300mJ程度のもので十分にアブレーション並びに励起原子の再加熱または再励起を実施できるものである。また、第1のレーザー1と第2のレーザー2とは同じ種類のレーザーでも良いし、異なるレーザーでも良い。
この第1のレーザー1と第2のレーザー2とは、第1のレーザー光11でサンプル6の表面をアブレーションした後、第2のレーザー光12でアブレーションされた物質の雰囲気(アブレーションプルーム)26を再加熱または再励起するように配置される。例えば本実施形態の場合、第1のレーザー光11をサンプル6の表面に直交するように照射させ、第2のレーザー光12をサンプル6の表面と平行に照射してアブレーションプルームを通過するように設けられている。しかしながら、2つのレーザー光11,12は互いに直交するように照射させるように配置するものに限られる必要は無く、例えば図8に示すように二つのレーザー光11,12を同軸で照射しても良いし、斜交させるようにしても良い(図示省略)。同軸に配置する場合には装置の構成が簡便となる利点がある。
ここで、第1のレーザー11と第2のレーザー12とのレーザー光照射時間差としては、第1のレーザー1によるアブレーションの後、白色光ノイズが減少し尚かつ励起原子がアブレーションプルーム26中に残っている状態が確保される時間であり、例えば500ns〜2μsの範囲で与えることが好ましい。また、受光素子5のゲート開放開始とその直前のレーザー光の照射との時間差、即ち第2のレーザー2からのレーザー光12の照射と受光素子5のゲート開放開始との間には、白色光ノイズが減少し尚かつ第2のレーザー光12で再加熱または再励起された励起原子が残っている状態が確保される時間であり、例えば500ns〜3μsの範囲で与えることが好ましい。ここで、レーザー光照射と撮像までの時間差の最適値は測定対象物質によって若干変わるものと考えられるが、本発明者らの実験においてClのみならず、FeやC、Ca、Nなども同時に発光ピークが得られることを確認していることから、バンドパスフィルタの選択や時間差の微調整などによって、コンクリート含有物質のほとんどが上述の時間差の範囲で白色光ノイズの影響が少ない状況下に顕著な発光ピークを以て測定できるものと思われる。因みに、第1のレーザー光と第2のレーザー光とを併せた程度の出力の単一のナノ秒レーザー光でアブレーションを試みても、一つのレーザーパルスの初期段階で発生するプラズマがシースとなって、同じレーザーパルスの残りのエネルギーが測定対象物質のプラズマ化および原子の励起に十分に使われず、ダブルパルスで得られるような効果は全く得られなかった。
尚、アブレーションプルーム26からの発光は、直接光ファイバー17に導光して分光手段4に取り込むようにしている。勿論、レンズを用いて光ファイバーに集光することにより分光される光強度を増加し、測定感度を向上することも好ましい。また、光ファイバーとしてバンドルファイバーを用い、光ファイバーの出射形状をライン状にして分光器のスリット形状に合わせることにより、光ファイバーと分光器の結合効率を向上させるようにしても良い。また、図9に示すように、レーザー光の集光と発光の集光を同軸に設定することも可能である。これにより、システムを簡便にすることができる。また、光ファイバー17を使わずに、ミラーを用いて発光を分光装置まで導光することも可能である。光ファイバーは通常紫外域(波長200nm以下)の光は通さないため、真空紫外域等の発光を測定する場合に有効である。
分光手段4としては、本実施形態では、回折格子により波長情報を空間情報に変換する分光器を用いているが、これに限らず、例えばバンドパスフィルターを用いることも可能である。測定対象物質が一つまたは少数に限られている場合、その発光線と近傍のバックグラウンドの波長に合わせたバンドパスフィルターを用意し、それぞれのバンドパスフィルターを通した後の光強度を測定することにより、バックグラウンドに対する発光の強度、すなわち測定対象物質の発光線強度を測定することが可能である。この場合、バックグラウンド測定用バンドパスフィルターとして、二つ以上の波長のバンドパスフィルターを用いることで測定の信頼性を向上することができる。以上のようにバンドパスフィルターを用いて分光することにより、装置構成を格段に簡素化することができると共に、製作コストを格段に下げることが可能となる。
ゲート機能を有する受光素子5としては、本実施形態の場合、ICCDカメラを用いている。ICCDカメラは回折格子を有する分光器により空間情報に変換された波長毎の強度分布(スペクトル)を一度に取得することが可能であり、多数の物質の発光スペクトルを同時に取得することが可能であり、多数の物質の計測を一度に行うことができる。また、高い時間分解能でゲートをかけることができるため、前述したようにゲート開放開始までの遅れ時間とゲート開放時間を調整することにより、プラズマの制動輻射によるバックグラウンドノイズを低減することが可能である。さらにイメージインテンシファイアにより信号強度を増強することが可能であるため、測定のS/N比を向上することができる。しかしながら受光素子5としてはICCDカメラに限る必要はなく、たとえば、通常のCCDカメラや線形フォトダイオード等の線形受光素子を用いることも可能である。この場合も回折格子を有する分光器と同時に用いることにより、多数の物質を一度に計測することが可能である。また、受光素子として、光電子増倍管やフォトダイオード等の単一受光素子を用いることも可能である。この場合、波長毎の強度分布(スペクトル)を一度に取得することはできないため、多数の物質の計測を同時に行うことはできないが、単一または少数の物質のみを測定すればよい場合、または多数の物質の計測でも、各物質を同時に測定しなくてもよい場合は適用可能である。例えば、単一または少数の物質のみを測定すればよい場合、上述したようにバンドパスフィルターと共に用いて、測定対象物質の発光波長とその近傍のバックグラウンド波長を1点もしくは数点同時に測定すればよい。これにより装置を格段に簡便にすることが可能となると共に、製作コストを低くすることができる。また、多数の物質の計測でも各物質を同時に測定しなくてもよい場合には、例えば回折格子を有する分光器と共に用いて、回折格子を回転させながら波長毎の強度分布(スペクトル)を測定すればよい。時間に対して変動の少ない現象を測定する場合は有効である。
本実施形態の場合には、ICCDカメラ5にはスペクトル強度分布を分析する各種解析プログラムなどを実装したコンピュータ18が接続され、ICCDカメラ5で撮像した周波数毎の発光強度の情報を入力して、このデータを保存し、あるいは積算し、解析して発光スペクトルとしてディスプレーに表示したり、周波数毎の発光強度の情報からコンクリートの塩害の影響度、中性化、金属腐食の有無等を検査する。このコンピュータ18は、図示していないが記憶装置を備え、参照コンクリートにレーザ光を照射したときに発生するプラズマの発光のスペクトル強度分布等を予め記憶させたり、検量線を備えることにより、参照データとの発光強度の比較あるいは検量線の参照により目的物質・原子の濃度変化などを検出するように設けることが好ましい。尚、発光スペクトルを保存し、必要に応じて積算したり、解析する必要がない場合には、パソコン18を必要とせず、ICCDカメラ5に付属のモニターディスプレイに単に発光スペクトルを表示してモニターするようにしても良い。
以上のように構成されたコンリート含有物質濃度計測装置によると、コンクリート構造物より切削した円柱状サンプルの割断面における含有物質濃度の計測を以下に示すようにして実施できる。
まず、コンクリート構造物より円柱状サンプル6を刳り貫き、それを長さ方向に半分に切断する。その割断面6aに対して二つのレーザー光11,12を照射し、発光を観測する。一つ目のレーザー光11はレンズ7によりコンクリート割断面6a上に集光されてアブレーションプラズマを生成し、二つ目のレーザー光12は一つ目のレーザー光照射により生じたプラズマプルーム26中にレンズ8により集光される。発光は光ファイバー17を通過し、回折格子を有する分光器4により分光され、ICCDカメラ5により受光される。ICCDカメラ5は、回折格子を有する分光器4により空間情報に変換された波長毎の強度分布(スペクトル)を一度に取得することが可能であり、多数の物質の発光スペクトルを同時に取得することが可能であり、多数の物質の計測を一度に行うことができる。レーザー光11,12をコンクリート割断面6aに沿ってスキャンすることにより、コンクリート構造物の深さ方向の物質濃度分布を測定することが可能である。
ここで、発光強度とCl濃度とは比例関係にあることから、一定の測定条件(レーザーエネルギー、集光条件、受光条件(測定距離等)等)において検量線を引いておき、同じ条件で測定すれば、発光強度から物質濃度が求められる。あるいは、参照コンクリートを用意し、その発光スペクトルを検出しておけば、コンクリート含有物質の濃度変化(含有量の変化)に応じて発光スペクトルの対応するピーク(特定の励起原子を示す周波数)の発光強度の変化が生じることから、これら参照スペクトルと測定スペクトルとの発光強度を比較すれば、該当原子の濃度変化が生じたことを知ることができる。例えば、他の手段により中性化の進行が確認できたコンクリート(以下、中性化コンクリートという。)と健全であることが確認できたコンクリート(以下、健全コンクリートという。)とを用い、レーザ光の照射により発生するプラズマの発光のスペクトル強度分布をそれぞれ測定することにより、コンクリートの中性化を評価・検査できる。つまり、スペクトル強度分布の比較から、中性化コンクリートでは健全コンクリートに比し炭素(C)成分のスペクトル強度が大きくなることが分かる。
ここで、発光強度とCl濃度とは比例関係にあることから、一定の測定条件(レーザーエネルギー、集光条件、受光条件(測定距離等)等)において検量線を引いておき、同じ条件で測定すれば、発光強度から物質濃度が直ちに求められる。あるいは、参照コンクリートを用意し、その発光スペクトルを検出しておけば、コンクリート含有物質の濃度変化(含有量の変化)に応じて発光スペクトルの対応するピーク(特定の励起原子を示す周波数)の発光強度の変化が生じることから、これら参照スペクトルと測定スペクトルとの発光強度を比較すれば、該当原子の濃度変化が生じたことを定性的に知ることができる。例えば、他の手段により中性化の進行が確認できたコンクリート(以下、中性化コンクリートという。)と健全であることが確認できたコンクリート(以下、健全コンクリートという。)とを用い、レーザ光の照射により発生するプラズマの発光のスペクトル強度分布をそれぞれ測定することにより、コンクリートの中性化を評価・検査できる。つまり、スペクトル強度分布の比較から、中性化コンクリートでは健全コンクリートに比し炭素(C)成分のスペクトル強度が大きくなることが分かる。さらには、発光強度に変化の無いあるいは変化の少ない他の成分との発光強度の相互比較により、求める成分の濃度変化を求めることもできる。例えば、コンクリートが中性化した場合でも、ケイ素(Si)成分の発光強度は余り変化しないので、スペクトル強度分布中のケイ素成分の強度と炭素成分の強度との相互比較(ケイ素成分強度による炭素成分強度の正規化)によりコンクリートの中性化を検査することも可能である。この場合には、中性化していない参照用のコンクリートの発光スペクトル強度分布のデータを準備する必要がなくなる。
図10に本発明の第2の実施形態を示す。本実施形態では、測定対象物27からの発光を望遠鏡28により集光している。望遠鏡28により集光された発光を光ファイバー29に導光し、分光装置4及び受光素子5を介して、コンクリート構造物が含有する物質を構造物表面27aの物質濃度として遠隔で測定するものである。尚、本実施例では発光を集光するのに望遠鏡28を用いているが、これに限る必要は無く、例えばレンズや凹面鏡で集光してもよい。また、光ファイバー29としてバンドルファイバーを用い、光ファイバーの出射形状をライン状にして分光器のスリット形状に合わせることにより、光ファイバーと分光器の結合効率を向上させることができる。また、光ファイバーを使わずに、ミラーを用いて発光を分光装置まで導光することも可能である。
ここで、遠隔計測の場合は測定距離に応じて条件が異なり測定が難しくなる。測定距離に応じて変化するパラメータとしては、レーザーでは集光径が変化する。集光系はレーザービームの集光前の直径が同じであれば集光距離に依存するので、あらかじめ実験と計算から補正関数を求めておけば良い。レーザーエネルギーも厳密に言えば大気中での散乱等により変化するが、ここでの計測ではたかだか数10mの距離とすれば無視できるものである。さらに、距離に応じてレーザー光の焦点距離を変化させるためには、適当な焦点距離を持つ凸レンズと凹レンズを使用し、これら二つのレンズの間隔を変化させることにより可能である。測定距離に応じて最も発光強度が強くなるように調整すれば良い。受光系としては、受光装置の構成(仕様)が決まれば、発光の集光系(望遠鏡等)の仕様により、測定距離に対応した補正関数が理論的に決まる。この場合も測定距離が近いため大気揺らぎ等による発光の減衰を無視できるものと考えられることから、実験と理論により補正関数を決定しておけば良い。
図11に本発明の第3の実施形態を示す。本実施形態では、コンクリート構造物に開けた穴30の内側の含有成分を計測している。穴30の内側のコンクリート表面30aに二つのレーザー光11,12を照射し、発光を観測する。一つ目のレーザー光11はレンズ7によりコンクリート割断面30a上に集光されてアブレーションプラズマを生成し、二つ目のレーザー光12は一つ目のレーザー光照射により生じたプラズマ中にレンズ7により集光される。発光は集光レンズ13と光ファイバー31を通過し、回折格子を有する分光器4により分光され、ICCDカメラ・受光素子5により受光される。レーザー光11,12をコンクリート構造物に開けた穴30に沿ってスキャンすることにより、コンクリート構造物の深さ方向の物質濃度分布を測定することが可能である。
本発明に関連して本発明者が行った実験結果の一例を示す。実験配置図を図1に示す。第1及び第2のレーザー1,2は2台のQスイッチNd:YAGレーザー(Continuum社製,Powerlite8010)であり、パルス繰り返し10Hzで、第1のレーザー1はエネルギー200mJ、第2のレーザー2はエネルギー300mJのレーザー光を発生する。レーザー照射のタイミングは1台のタイミングコントローラー3により制御される。第1のレーザー1の出射光11は対象物(サンプル)6に垂直に入射され、焦点距離250mmのレンズ7によりサンプル6上に集光され、アブレーションプラズマプルーム26を生成する。第2のレーザー2の出射光12はサンプル6に平行に入射され、焦点距離250mmのレンズ8を用いて第1のレーザー1により生じたプラズマプルーム26に集光される。プラズマプルーム26からの発光は、第1のレーザー1の集光点から150mmの位置に設置した直径50mm、焦点距離150mmのレンズ13により平行光にされ、焦点距離200mmのレンズ14、減光フィルタ15およびバンドパスフィルター(中心波長838nm、バンド幅14nm)16を通した後、光ファイバー17の端面に集光される。その後分光器(Jobin Yvon社製,HR460)4により分光され、ICCDカメラ5により受光される。ICCDカメラ5はレーザー発振と同期した信号によりゲート遅延時間やゲート幅の操作が可能である。尚、図中の符号21〜25は別系統により他の物質の発光強度を測定するためのものであり、21はバンドパスフィルター、22は光ファイバー、23は分光器、24はICCDカメラ、25はコンピュータである。
本実験では、連続した50パルスのプラズマ発光を1データとしてパソコン18上で積算し、同一条件で取得された3〜5データを用いてデータ解析を行った。サンプル6には、4種類の異なる含有Cl濃度(5.60、2.65、1.04、0.65kg/m3)のコンクリートを粉砕、微粒子化した後に、圧力10MPaでプレスしたものを用いた。サンプル6は可動ステージ20にセットされて、測定中にはモーターにより回転し、レーザーショット毎に新しい面が照射されている。また、測定中のサンプル6のレーザー照射位置にはバッファガスとしてHeが吹き付けられている。
第1のレーザー1の出射光11のみを用いた場合(シングルパルス)と、第1のレーザー1および第2のレーザー2の双方の出射光11,12を用いた場合(ダブルパルス)において、Cl発光(波長:837.59nm)強度を測定した。まず、シングルパルス計測において、第1のレーザー1の出射からICCDカメラ5のゲート開放開始までの遅れ時間に対する、Clの発光強度の関係を測定した。ゲート開放時間は2μsとした。結果を図2に示す。レーザー照射直後ではプラズマの制動輻射によるバックグラウンドノイズが大きく、Clの発光は明瞭に観測されなかった。遅れ時間が500nsと1μsでは発光強度に大きな差はないが、1μsの場合は500nsの場合に比べてバックグラウンドノイズが小さい。遅れ時間が1μsより大きくなると、遅れ時間に対して発光強度は線形に減少することが分かる。バックグラウンドノイズとClの発光強度の関係より、シングルパルス計測における、レーザー光照射からICCDカメラのゲート開放開始までの遅れ時間の最適値を1μsとした。
次にダブルパルス計測において、上記シングルパルス計測の結果より第2のレーザー2出射からICCDカメラのゲート開放開始までの遅れ時間を1μsとし、ゲート開放時間を2μsとし、第1のレーザー1出射から第2のレーザー2出射までの遅れ時間を変化させた。実験結果を図3に示す。第1のレーザー1出射から第2のレーザー2出射までの遅れ時間が0.5〜1.5μsまではClの発光強度に大きな差はなかったが、遅れ時間が2μs以上になると発光強度は急激に低下した。しかし、その後遅れ時間が10μsまで発光強度は多少減少するが大きな変化はなかった。プラズマの制動輻射によるバックグラウンドノイズは第1のレーザー1出射から第2のレーザー2出射までの遅れ時間が大きいほど減少するので、第1のレーザー1出射と第2のレーザー2出射の遅れ時間の最適値は1.5μsとした。以上の結果より、第1のレーザー1の出射から第2のレーザー2の出射までの遅れ時間が1.5μs、第2のレーザー2の出射からICCDカメラのゲート開放開始までの遅れ時間が1μsの場合がダブルパルス計測における最適値とした。
上述の第1及び第2のレーザー1,2の出射およびICCDカメラのゲート開放開始の遅れ時間の最適値において、シングルパルスおよびダブルパルス計測を行った。含有Cl濃度5.60kg/m3のサンプルを用いて計測された発光スペクトルを図4に示す。図4よりシングルパルス計測に比べてダブルパルス計測では、全体のバックグラウンドノイズを低減しつつ測定対象としたClの発光強度を増加させることができた。これは、シングルパルスでは第1のレーザー1出射光11により生成されたプラズマの制動輻射の影響を含めて計測しているが、ダブルパルスでは第1のレーザー1の出射光11により生成された対象物のプラズマそのものを第2のレーザ2で再加熱および再励起しているため、プラズマの制動輻射が原因であるバックグラウンドノイズが減少したものと考えられる。含有濃度ごとに得られたCl発光強度を図5に示す。これより、シングルパルスの場合に比べてダブルパルスの場合は信号強度が約2倍に増加することが分かる。また、含有Cl濃度の検出限界は、バックグラウンドノイズの標準偏差をσ、図5に示される直線の傾きをmとして、
検出限界 = 3σ/m
として求めた。この式を用いて、シングルパルス、ダブルパルスそれぞれにおける含有Cl濃度の検出限界を算出すると、0.19kg/m3、0.11kg/m3と見積もられた。この検出限界値は、日本建築学会並びに土木学会が「コンクリート中の塩化物量に関する規定」で定める値(0.3kg/m3)よりも低いものであるから、塩害の影響を評価するには十分な感度である。
上記のようにサンプルを回転させ、ショット毎に新しい面にレーザー光が照射される場合、シングルパルス計測に対してダブルパルス計測における信号強度は2倍程度にしか増加しないが、コンクリート表面上のレーザー照射位置を変えずに発光強度を積算した場合、異なる結果となった。データ取得を開始するまでに20〜30回のレーザー照射をコンクリート表面上に行い、その後50回のレーザー照射を行い積算した発光スペクトルを図6に示す。シングルパルスの結果に比べ、ダブルパルスの結果の方が格段に信号強度が大きいことが分かる。シングルパルス、ダブルパルスそれぞれ3回の計測を行った結果、ダブルパルスの方がシングルパルスよりもClの発光強度が約9倍増加した。
同じ場所にレーザー光を照射し続けると、シングルパルスでは発光強度が次第に低下する結果が得られた。これは、レーザー照射によりサンプル上に穴が生じるためと考えられる。そのため、シングルパルスにより同一の場所を多数ショットアブレーションしても、発光強度が増加しないと考えられる。一方ダブルパルスでは、アブレーションされた励起原子を再プラズマ化、再加熱および再励起するため穴の影響が少なく、多数ショットの積分による信号強度の増加が大きくなったと考えられる。現場における計測を考えた場合、測定対象物上のレーザー照射位置を1ショット毎に変えることは難しいため、実用上はダブルパルスによる効果は大きいと考えられる。尚、本実施例では、同じ場所で50パルスを照射したものを積算するようにしてS/N比を上げるようにしているが、測定場所を変えて、各測定場所の結果を積算するとによってもS/N比は向上する。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、第1のレーザー1と第2のレーザー2とを時間差を与えて照射するダブルパルスについて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、実施例でも述べたように、検査対象であるコンクリート表面にレーザー光を照射してコンクリート含有物質をアブレーションし、その後白色光ノイズが減少し尚かつ励起原子が残っている状態でアブレーションによりプラズマ化された物質からの発光を受光素子で撮像して発光スペクトルを求め、この発光スペクトルからコンクリート含有物質濃度を測定するようにしても良い。所謂シングルパルスによっても、S/N比を上げて感度良くコンクリート含有物質を計測することはできる。この場合における、受光素子のゲート開放開始とその直前の前記レーザー光の照射との時間差は500ns〜3μsの範囲に調整されることが好ましい。勿論、S/N比を上げるために発光の積算を行うことが好ましいことはいうまでもない。
また、第1及び第2のレーザー1,2として、パルス幅が数10nm、パルスエネルギーが200〜300mJのナノ秒レーザーを用いた場合について主に説明したが、これに特に限られるものではなく、パルス幅が数10fs〜数100ps、パルスエネルギーが数100mJの超短パルスレーザを単独であるいはナノ秒レーザと組み合わせて用いることも可能である。超短パルスレーザー光を用いることによって、エネルギを1つのパルスで大量に注入でき、かつレーザー光により生成するプラズマの温度を低くできるので白色光ノイズの発生を抑えることができる。これにより、白色光ノイズの影響を少なくかつ励起原子の発光信号強度を高めて発光ピークを顕著にすることができる。このため、S/N比を上げて測定感度を向上させることができる。また、上述の実施形態におけるダブルパルスの一方のレーザとしてYAGレーザと組み合わせて用いることにより、白色光ノイズを減衰させた状態で励起原子の励起寿命を長くして、発光強度を強くすることができる。さらには、上述の実施形態におけるダブルパルスの双方のレーザとして超短パルスレーザを用いても良いし、シングルパルス時のコンクリート含有物質計測におけるレーザー光として超短パルスレーザー光を用いるようにしても良い。
さらに、図10に示す遠隔計測などの場合には、ピークパワーを高くできる超短波パルスレーザーを使用すると、光学系を用いなくても集光するため、より簡易な設備となる。即ち、超短パルスレーザは、電界強度が極めて高い高強度パルスレーザであるため、空気の屈折率を変えたりプラズマを発生させ、フィラメンテーションを容易に起こす。したがって、超短パルスレーザビームを大気中に伝播させた場合、レーザビームに僅かな波面歪みがあると、たとえ均一なビーム断面強度分布でも、伝播に伴い強度斑が発生してビーム断面中に超高強度の部分が現れることでフィラメントが容易に生成される。この超短パルスレーザビームのフィラメントは、レーザビームが絞られた状態のままで遠距離への伝播を可能として大気中などでの遠距離の伝播によっても必要な強度分布を維持できるため、長尺かつ連続のプラズマチャンネルが形成できる。このことから、レーザー光の集光光学系を用いずとも、エネルギー密度を上げうることから、遠隔測定のレーザーとして用いることが好ましい。しかも、本発明者等によって、人工的にフィラメントを生成する技術が既に確立されている(特開2006-269878)。この方法は、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーに超短パルスレーザビームを照射し、局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の部位に強度斑を作ることでフィラメント発生の起点とするものである。即ち、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーを超短パルスレーザビームの光路上へ介装することにより、超短パルスレーザビームが反射する際に、ミラー表面の局部的な凸部または凹部に応じた局所的な空間変調がビームの波面に与えられ、これが起点(種)となってフィラメントをビーム伝播の過程で形成し、ビーム断面の任意の位置に一意的に連続して形成できるものである。さらに、局部的凸部または凹部により強度斑を作る工程と同時にあるいは前後して、局部的凸部または凹部に比して大域的な凹部を有する反射ミラーで超短パルスレーザビームを反射させることにより、超短パルスレーザビームのエネルギあるいは周辺の強度斑を大域的凹部の中心に向けて集合させるようにすれば、フィラメント生成の起点となる強度斑の電界強度をより強くしてビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものとできる。例えば、反射面に局部的な凸部または凹部を有しかつこの局部的な凸部または凹部の周りに局部的凸部または凹部に比して大域的な凹部を形成するように任意に変形可能な反射面を有する可変形ミラーの採用によって、反射ビームのエネルギあるいは周辺の強度斑を中心となる強度斑の周りに集合させて、フィラメント生成の起点となる強度斑の電界強度をより強くしてビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものにすると共に反射ビーム断面の任意の部位に任意の密度のフィラメントを生成可能とする。
さらに、本実施形態では、Clの発光を例に挙げてコンクリート含有物質濃度の測定について主に説明したが、コンクリート表面をアブレーションして得られた発光スペクトルにはさまざまなコンクリート含有物質成分の発光が含まれており、特有の周波数帯域に含有量(濃度)に応じた発光強度のピークを示すことから、発光スペクトルの任意の成分のピークに着目して、コンクリートの中性化、塩害の影響度、鉄筋の腐食、酸による劣化、アルカリ骨材反応の影響度、コンクリートの放射化などの様々なコンクリート構造物の変質を検査することもできる。例えば、スペクトル強度分布中の炭素(C)成分の強度に基づきコンクリートの中性化を検査したり、ナトリウム(Na)成分から塩害の影響度を検査したり、鉄(Fe)成分の強度に基づき鉄筋の腐食を検査したり、ナトリウム成分、カリウム成分その他の強アルカリ成分の強度からアルカリ骨材反応の影響度を検査したり、マグネシウム成分、アルミニウム成分及び/または鉄成分の強度からコンクリートの酸による劣化を検査することができる。また、スペクトル強度分布中のイオウ成分の強度から、亜硫酸ガスによる中性化を検査することも可能となる。この場合は、中性化の進行に応じたイオウ成分のスペクトル強度又はケイ素成分とイオウ成分との強度比を記憶し、スペクトル強度分布中のイオウ成分の強度又はケイ素成分とイオウ成分との強度比から、コンクリートの亜硫酸ガスによる中性化又はその進行度合いを検査する。炭素成分及びイオウ成分の両者の強度による中性化の検査も可能である。さらには、健全コンクリートのスペクトル強度分布を記憶した記憶装置を準備しておけば、被検査コンクリートのスペクトル強度分布との差から被検査コンクリートに特有の成分を見出すことも可能であり、炭素、イオウ、ナトリウム、塩素、鉄、強アルカリ等以外の成分に基づくコンクリートの検査も期待できる。また、健全性検査以外の他の用途、例えばコンクリートの放射化の検査に適用することも期待できる。コンクリート中に放射性同位体と非放射性同位体とを含む元素がある場合は、コンクリートの放射化に応じて放射性同位体と非放射性同位体との割合が変化すると考えられることから、コンクリートのレーザ光照射時のプラズマ発光のスペクトル強度分布中における放射性同位体成分の強度と非放射性同位体成分の強度とを相互比較することにより、コンクリートの放射化を検査することができる。(特開2002−296183参照)。
更に、公知の塩分(物質)浸透予測手法(土木学会発行:[2001年制定]コンクリート標準示方書[維持管理編]100頁〜102頁,日本建築学会発行:[2004年制定]鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指針・同解説 108頁〜118頁)を併用することにより、円柱状サンプルを切削することなしにコンクリート内部の塩分浸透分布を導出することも可能である。
本発明のコンクリート含有物質計測方法の効果を確認した実験で用いた装置の一例を示す原理図である。
プレスサンプルを用いた場合のシングルパルス計測による発光強度とレーザー出射からICCDカメラのゲート開放開始までの遅れ時間との関係を示すグラフである。
プレスサンプルを用いた場合のダブルパルス計測による発光強度と第1のレーザー出射から第2のレーザー出射までの遅れ時間との関係(第2のレーザー出射からICCDカメラのゲート開放開始までの遅れ時間は1μs)を示すグラフである。
プレスサンプルを用いた場合のシングルパルスとダブルパルス計測による発光スペクトル図である。
プレスサンプルを用いた場合のシングルパルスとダブルパルス計測による発光強度とCl含有量との関係を示すグラフである。
コンクリート表面を用いた場合のシングルパルスとダブルパルス計測による発光スペクトルである。
コンクリート構造物より刳り貫いた円柱状サンプルの割断面における含有物質濃度の計測の一実施形態を示す原理図である。
同じく2つのレーザー光を同軸で照射する場合の装置構成を示す原理図である。
レーザー光の集光と発光の集光を同軸に設定する装置構成を示す原理図である。
コンクリート構造物の表面の物質濃度を遠隔にて測定する実施形態を示す原理図である。
コンクリート構造物に開けた穴の内側の含有成分を計測する実施形態を示す原理図である。
符号の説明
1 第1のレーザー
2 第2のレーザー
3 時間差を与えるコントローラ
4 分光装置
5 ゲート機能を有する受光素子(ICCDカメラ)
6 サンプル(検査対象物)
11 第1のレーザー光
12 第2のレーザー光
26 アブレーションプルーム