JP5029338B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
また、このような電動パワーステアリング装置において、操舵性能の向上やコーナリング時の車両の挙動を安定させるために、車両に取り付けられた車輪を中立に戻そうとするトルクであるセルフアライニングトルクを求めて操舵制御に用いたもの、さらにタイヤのグリップ状態を考慮して操舵制御を行うようにしたもの等も提案されている。
さらに、請求項3に係る電動パワーステアリング装置は、請求項1に係る発明において、車両の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、前記補償値補正手段は、前記グリップロス度が所定値以上であり且つ前記ステア状態がオーバーステアである場合に、前記操舵状態検出手段で切増し操舵を検出したときに、前記グリップロス度に応じて前記トルク微分値補償値を減少補正するように構成されていることを特徴としている。
また、車両がアンダーステアで且つグリップロス度が所定値以上である場合には、運転者が切増し操舵を行うときに、トルク微分補償値を減少させることにより切増し操舵を抑制する。
図1は、本発明の一実施形態を示す全体構成図であって、図中、SMはステアリング機構である。このステアリング機構SMは、ステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が伝達される入力軸2aとこの入力軸2aに図示しないトーションバーを介して連結された出力軸2bとを有するステアリングシャフト2を備えている。このステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3に回転自在に内装され、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は図示しないトーションバーに連結されている。
このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ機構8を介して左右のタイロッド9に伝達され、これらタイロッド9によって左右の転舵輪WL,WRを転舵させる。ここで、ステアリングギヤ機構8は、ギヤハウジング8a内に、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8bとこのピニオン8bに噛合するラック軸8cとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8bに伝達された回転運動をラック軸8cで車幅方向の直進運動に変換して、タイロッド9に伝達する。
また、減速機11のステアリングホイール1側に連接されたハウジング13内に操舵トルクセンサ14が配設されている。この操舵トルクセンサ14は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を磁気変化や抵抗変化として検出し、それを電気信号に変換するように構成されている。
この操舵補助電流指令値算出マップは、図3に示すように、横軸に操舵トルクTをとり、縦軸に操舵補助電流指令値Irefをとると共に、車速Vxをパラメータとした放物線状の曲線で表される特性線図で構成され、操舵トルクTが"0"からその近傍の設定値Ts1までの間は操舵補助電流指令値Irefが"0"を維持し、操舵トルクTが設定値Ts1を超えると最初は操舵補助電流指令値Irefが操舵トルクTの増加に対して比較的緩やかに増加するが、さらに操舵トルクTが増加すると、その増加に対して操舵補助電流指令値Irefが急峻に増加するように設定され、この特性曲線が車速の増加に従って傾きが小さくなるように設定されている。
このセルフアライニングトルクSATを算出する原理は、路面からステアリングまでの間に発生するトルクの様子を図4に示して説明する。すなわち、ドライバがステアリングホイール1を操舵することによって操舵トルクTが発生し、その操舵トルクTに従って電動モータ12がアシストトルクTmを発生する。その結果、車輪Wが転舵され、反力としてセルフアライニングトルクSATが発生する。また、その際、電動モータ12の慣性J及び摩擦(静摩擦)Frによってステアリングホイール1の操舵の抵抗となるトルクが生じる。これらの力の釣り合いを考えると、下記(1)式のような運動方程式が得られる。
ここで、上記(1)式を初期値ゼロとしてラプラス変換し、セルフアライニングトルクSATについて解くと下記(2)式が得られる。
SAT(s) = Tm(s) + T(s) − J・αm(s) − Fr・sign(ωm(s)) …(2)
上記(2)式から分かるように、電動モータ12の慣性J及び静摩擦Frを定数として予め求めておくことで、モータ角速度ωm、モータ角加速度αm、アシストトルクTm及び操舵トルクTよりセルフアライニングトルクSATを検出することができ、このセルフアライニングトルク検出値をSATdとする。ここで、アシストトルクTmは操舵補助電流指令値Irefに比例するので、アシストトルクTmに代えて操舵補助電流指令値Irefを適用する。
ここで、SAT推定部41でセルフアライニングトルク推定値SATpを推定する原理は、以下の通りである。
この図5では、タイヤが接地面全体において発生する横力はトレッド部の横方向への変形面積(斜線部)となり、セルフアライニングトルクSATがスリップ角を減少させる方向に働く様子を示している。また、図6は、横力の着力点(接地面の中心点)がタイヤの中心線より後方にあることを示している。そして、ニューマチックトレールとキャスタトレールとの加算値がトレールとなる。
なお、重心から後輪までの距離をL2(固定値)、車両重量をm、横加速度をGy、車両慣性モーメントをMo、ヨーレートγの微分値をdγ/dt、ホイールベースをLとしたとき、横力Fyは次式(4)により算出することができる。
Fy=(L2・m・Gy+Mo・dγ/dt)/L ……(4)
一方、図7は横力FyとセルフアライニングトルクSATの特性をスリップ角に対して示す特性図であり、横力FyとSATとはスリップ角に対して非線形な特性となっている。そして、SATは横力Fy×トレールεnであり、キャスタトレールは固定値であることから、セルフアライニングトルクSATの横力Fyに対する非線形特性はニューマチックトレールの変化を直接表すことになる。また、セルフアライニングトルクSATの横力に対する特性は、図6における滑り域が増大し、ニューマチックトレールが減少することによって生じる。
この(5)式で算出されるgがグリップロス度であり、このグリップロス度gにより車両におけるタイヤのグリップ力が失われた度合を推定することができる。
図8は、セルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATp(トレールεn×横力Fy)とを比較して示す特性図であり、スリップ角が大きくなるにしたがって、セルフアライニングトルクSATが失われる様子を示しており、上記(5)式から算出されるセルフアライニングトルク検出値SATdとセルフアライニングトルク推定値SATpとの差をグリップロス度g(図中網かけ部)として示している。
このステア状態の判定は、以下のようにして行う。先ず、車両の規範ヨーレートγ0は下記(6)式で表すことができる。
ここで、δは操舵角、Vxは車速、Lはホイールベース、Tは時定数、sはラプラス演算子、Aはスタビリティファクタ、αはステアリングレシオである。
また、スタビリティファクタAは、下記(7)式で表される。
A=(m/2L2){(Lf・Kf−Lr・Kr)/Kf・Kr} …………(7)
ここで、mは車両重量、Lfは車両重心点と前輪車軸との間の距離、Lrは車両重心点と後輪車軸との間の距離、Kfは前輪タイヤのコーナリングパワー、Krは後輪タイヤのコーナリングパワーである。
|γ|−|γ0|>0 :オーバーステア
|γ|−|γ0|<0 :アンダーステア
この車両のステア状態がオーバーステアであるときには論理値“1”、アンダーステアであるときには論理値“0”のステア状態信号SSを補償値補正部25に出力する。
このステップS5では、ヨーレートγ及びモータ角速度ωmの符号が同符号であるか否かを判定し、ヨーレートγ及びモータ角速度ωmの符号が異符号であるときには、ステアリングホイール1を切り戻し方向に操舵されているものと判断して前記ステップS3に移行する。
さらに、d−q軸電流指令値演算部26は、補償後操舵補助電流指令値Iref′とモータ角速度ωmとに基づいてd軸電流指令値Idrefを算出するd軸電流指令値算出部61と、電気角変換部30から入力される電気角θe及びモータ角速度ωmに基づいてd−q軸誘起電圧モデルEMF(Electromotive Force)のd軸EMF成分ed(θ)及びq軸EMF成分eq(θ)を算出する誘起電圧モデル算出部62と、この誘起電圧モデル算出部62から出力されるd軸EMF成分ed(θ)及びq軸EMF成分eq(θ)とd軸電流指令値算出部61から出力されるd軸電流指令値Idrefと補償後操舵補助電流指令値Iref′とモータ角速度ωmとに基づいてq軸電流指令値Iqrefを算出するq軸電流指令値算出部63とを備えている。
この2相/3相変換部27では、入力されるd軸電流指令値Idref及びq軸電流指令値Iqrefを電気角変換部30から入力される電気角θeに基づいて2相/3相変換して3相モータ電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefを算出し、算出したモータ電流指令値Iaref、Ibref及びIcrefをモータ電流制御部28に出力する。
まず、操舵トルクセンサ14からの操舵トルクT、車速センサ16からの車速Vx、回転角センサ17からのモータ回転角θm、ヨーレートセンサ42からのヨーレートγ、横加速度センサ43からの横加速度Gy、操舵角センサ45からの操舵角δを読込む(ステップS21)。次いで、読込んだ操舵トルクT及び車速Vxに基づき図3に示す操舵補助電流指令値算出マップを参照して操舵トルクT及び車速Vxに応じた操舵補助電流指令値Irefを算出し(ステップS22)、回転角センサ17からのモータ回転角θmを微分して電動モータ12の角速度ωmを算出し、算出した角速度ωmを微分して角加速度αmを算出する(ステップS23)。
また、車両がオーバーステアである状態で、運転者がステアリングホイール1を切増し操舵した場合には、ヨーレートγとモータ角速度ωmとの符号が同符号となることから、図9の補償ゲイン演算処理で、ステップS7からステップS9に移行して、前述したアンダーステアでの切増し操舵と同様に、図10のトルク微分補償ゲイン算出マップで特性線L2が選択されることにより、グリップロス度gが所定値g1より増加するに応じて“1”より減少するトルク微分補償ゲインK1が算出される。そして、このトルク微分補償ゲインK1がトルク微分補償ゲインKtとしてトルク微分補償部37から出力されるトルク微分補償値Itに乗算されることにより、トルク微分補償値Itを減少補正した補正トルク微分補償値It′が算出され、運転者に操舵中立点付近の応答性を低下させるトルク微分補償が行われてステアリングホイール1を切増し操舵し辛い状態として切増し操舵を抑制することができ、グリップ力が失われることにより車両挙動が不安定となることを抑制することができる。
また、上記実施形態では、操舵トルクT、アシストトルクTm、電動モータ12の角速度ωm及び角加速度αmに基づいて検出したセルフアライニングトルク検出値SATdと、車両に発生する横力Fyに基づくセルフアライニングトルク推定値SATpとの偏差からグリップロス度gを算出している。ここで、タイヤのグリップ力が失われた場合、これに対するセルフアライニングトルクの応答性は、グリップ力が失われたことに対するヨーレートの応答性に比較して速い。
さらにまた、上記実施形態においては、ヨーレートγ、横加速度Gy及び車両運動モデルに基づいて横力Fyを推定し、この横力Fyに基づいて実際に車両に作用するセルフアライニングトルクを推定する場合について説明したが、ハブ等に横力センサを設け、この横力センサで直接横力を検出し、これを用いてセルフアライニングトルク推定値SATpを算出してもよい。
つまり、ヨーレートγとスリップ角βと車速Vxと操舵角δとの関係は、次式(8)及び(9)で表すことができる。
mVx・(dβ/dt)
=−[mVx+[(Kf・Lf−Kr・Lr)/Vx]]・γ−(Kf+Kr)・β+Kf・δ/n
……(8)
I・(dγ/dt)
=−[(Kf・Lf2+Kr・Lr2)/Vx]・γ+(−Kf・Lf+Kr・Lr)・β
+Kf・Lf・δ/n
……(9)
なお、(8)及び(9)式中の、mは車両重量、Iは車両重心を通るZ軸回りの慣性モーメント、Lはホイールベース(L=Lf+Lr)、Lf,Lrは、前,後車軸から重心までの水平距離、Kf,Krは、前,後タイヤのコーナリングパワー、nはオーバーオールステアリングギア比、δ/nは前輪実舵角、βは車体重心のスリップ角、Vxは車速、γはヨーレートである。
さらに、上記実施形態においては、モータ角速度ωm、モータ角加速度αm、操舵トルクT及び操舵補助電流指令値Irefに基づいてセルフアライニングトルクSATを推定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵補助電流指令値Irefに代えて、モータ電流検出部70で検出したモータ電流Ia〜Icを3相/2相変換してq軸電流Iqを算出し、このq軸電流Iqとモータ角加速度αmとに基づいて下記(10)式の演算を行って算出したモータアシストトルクTmaを適用するようにしてもよい。
ここで、Kmtはモータのトルク定数、Jmはモータのロータ部の慣性モーメントである。
この他、電動モータ12の出力軸、減速機11の入出力軸等のトルク伝達軸に磁歪式トルクセンサなどのトルクセンサを配設し、このトルクセンサで検出したモータアシストトルクTmaを適用するようにしてもよい。
ここで、Rmはモータ巻線抵抗、K0はモータの起電力定数である。
2 ステアリングシャフト
12 電動モータ
14 操舵トルクセンサ
15 コントローラ
16 車速センサ
17 回転角センサ
21 操舵補助電流指令値演算部
22 指令値補償部
23 グリップロス検出部
24 ステア状態検出部
25 補償値補正部
26 d−q軸電流指令値演算部
27 モータ電流制御部
33 収斂性補償部
34 慣性補償部
35 SAT検出部
36 SAT補償部
37 トルク微分補償部
41 SAT推定部
42 ヨーレートセンサ
43 横加速度センサ
44 横力検出部
45 操舵角センサ
51 補償ゲイン演算部
52 乗算器
Claims (9)
- 転舵輪を転舵するステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記ステアリング機構に操舵補助力を付与する電動モータと、前記操舵トルクに基づいて操舵補助電流指令値を演算し、演算した操舵補助電流指令値に基づいて前記電動モータを制御する制御手段とを有する電動パワーステアリング装置であって、
車両のステア状態を検出するステア状態検出手段と、タイヤのグリップ力が失われた度合を表すグリップロス度を検出するグリップロス度検出手段と、前記操舵トルク検出手段で検出した操舵トルクを微分して操舵中立点近傍の応答性を補償するトルク微分値補償手段と、少なくとも前記ステア状態検出手段で検出したステア状態と前記グリップロス度検出手段で検出したグリップロス度とに基づいて前記トルク微分値補償手段のトルク微分補償値を補正する補償値補正手段とを備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。 - 前記補償値補正手段は、前記グリップロス度が所定値以上であるときに、前記ステア状態がオーバーステアであるかアンダーステアであるかに応じて前記トルク微分補償値の補正態様を変更するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
- 車両の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、前記補償値補正手段は、前記グリップロス度が所定値以上であり且つ前記ステア状態がオーバーステアである場合に、前記操舵状態検出手段で切増し操舵を検出したときに、前記グリップロス度に応じて前記トルク微分値補償値を減少補正するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
- 車両の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、前記補償値補正手段は、前記グリップロス度が所定値以上であり且つ前記ステア状態がオーバーステアである場合に、前記操舵状態検出手段でカウンターステア操舵を検出したときに、前記グリップロス度に応じて前記トルク微分補償値を増加補正するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
- 車両の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、前記補償値補正手段は、前記グリップロス度が所定値以上であり且つ前記ステア状態がオーバーステアである場合に、前記操舵状態検出手段で切増し操舵を検出したときに、前記グリップロス度に応じて前記トルク微分補償値を減少補正し、前記操舵状態検出手段でカウンターステア操舵を検出したときに、前記グリップロス度に応じて前記トルク微分補償値を増加補正するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
- 車両の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、前記補償値補正手段は、前記グリップロス度が所定値以上であり且つ前記ステア状態がアンダーステアである場合に、前記操舵状態検出手段で切増し操舵を検出したときに、前記グリップロス度に応じて前記トルク微分補償値を減少補正するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記操舵状態検出手段は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と前記電動モータのモータ角速度を検出するモータ角速度検出手段とを有し、前記ヨーレート及び前記モータ角速度の符号に基づいて切増し操舵及び切戻し又はカウンターステア操舵を検出するように構成されていることを特徴とする請求項3乃至6の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記操舵状態検出手段は、車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段と、ステアリングホイールの操舵速度を検出する操舵速度検出手段とを有し、前記ヨーレート及び前記操舵速度の符号に基づいて切増し操舵及びカウンターステア操舵を検出するように構成されていることを特徴とする請求項3乃至6の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記転舵輪側に発生するセルフアライニングトルクを検出するセルフアライニングトルク検出手段と、車両の横力を検出する横力検出手段と、該横力検出手段で検出した横力に基づいてセルフアライニングトルクを推定するセルフアライニングトルク推定手段とを備え、前記グリップロス度検出手段は、前記セルフアライニングトルク検出手段で検出したセルフアライニングトルク検出値と、前記セルフアライニングトルク推定手段で推定したセルフアライニングトルク推定値とに基づいてグリップロス度を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
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