以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3はコンバインの駆動系統図、図4はミッションケースの駆動系統図、図5は油圧回路図、図6は刈取速度制御手段の制御回路の機能ブロック図、図7は刈取速度制御のフローチャート、図8は車速と刈取速度との関係を示す線図である。図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
本実施形態のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、穀稈を刈取りながら取込む農作業部としての4条刈り用の刈取装置3が、単動式の昇降油圧シリンダ4によって刈取回動支点軸4a回りに昇降調節可能に装着されている。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀粒タンク7とが横並び状に搭載されている。本実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀粒タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀粒タンク7の前側方には、運転部10が設けられている。
運転部10には、操縦ハンドル11と運転座席12とが配置されている。操縦ハンドル11は、運転座席12の前方に配置したハンドルコラム13に設けられている。また、運転部10には、主変速レバー14と、副変速レバー15と、脱穀クラッチレバー16と、刈取クラッチレバー17とを配置している。前記各レバー14,15,16,17等は、運転座席12の左側方に配置したレバーコラム18に設けられている。運転座席12の下方の走行機体1には、動力源としてのエンジン20が配置されている。
図1に示されるように、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置している。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン20の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22は、トラックフレーム21の前端側に設けたミッションケース26に、車軸27を介して配置している(図3参照)。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持することになる。
次に、図1及び図2を参照して刈取装置3の構造を説明する。図1及び図2に示すように、刈取回動支点軸4aに連結した刈取フレーム29の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈(作物)の株元を切断するバリカン式の刈刃装置30が設けられている。刈取フレーム29の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す4条分の穀稈引起装置31が配置されている。穀稈引起装置31とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置30によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置32が配置されている。なお、穀稈引起装置31の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する4条分の分草体33が突設されている。エンジン20にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取ることになる。
次に、図3を参照してコンバインの刈取り駆動構造を説明する。図3に示すように、穀稈引起装置31は、分草体33によって分草された未刈穀稈を起立させる複数の引起タイン34を有する4条分の引起ケース35を有する。穀稈搬送装置32は、右側2条分の引起ケース35から導入される右側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の右スターホイル36R及び左右の右掻込ベルト37Rと、左側2つの引起ケース35から導入される左側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の左スターホイル36L及び左右の左掻込ベルト37Lとを有する。刈刃装置30は、右スターホイル36R及び左右の右掻込ベルト37R、左スターホイル36L及び左右の左掻込ベルト37Lによって掻込まれた4条分の穀稈の株元を切断するバリカン形の左右の刈刃38を有する。
また、穀稈搬送装置32は、右側2条分のスターホイル36R及び掻込ベルト37Rによって掻込まれた右側2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送する右株元搬送チェン39Rと、左側2条分のスターホイル36L及び掻込ベルト37Lによって掻込まれた左側2条分の刈取穀稈の株元側を右株元搬送チェン33Rの搬送終端部に合流させる左株元搬送チェン39Lとを有する。左右の株元搬送チェン39R,39Lによって搬送する4条分の刈取穀稈の株元側を、右株元搬送チェン39Rの搬送終端部に合流させることになる。
穀稈搬送装置32は、右株元搬送チェン39Rから4条分の刈取穀稈の株元側を受継ぐ縦搬送チェン40と、縦搬送チェン40の搬送終端部からフィードチェン6の搬送始端部に4条分の刈取穀稈の株元側を搬送する補助株元搬送チェン41とを有する。縦搬送チェン40から、補助株元搬送チェン41を介して、フィードチェン6の搬送始端部に、4条分の刈取穀稈の株元側を搬送することになる。
穀稈搬送装置32は、右株元搬送チェン39Rにて搬送される右側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する右穂先搬送タイン42Rと、左株元搬送チェン39Lにて搬送される左側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する左穂先搬送タイン42Lとを有する。脱穀装置5の扱室内に、4条分の刈取穀稈の穂先側を搬送することになる。
図3に示すように、上述した刈取回動支点軸4a上に配置する刈取り入力軸45を備える。刈取り入力軸45に、縦伝動軸46及び横伝動軸47と引起変速機構49とを介して、引起横伝動軸49を連結する。引起横伝動軸48は、4条分の各引起ケース35の引起タイン駆動軸50にそれぞれ連結している。分草体33の後方で刈取フレーム29の上方に引起ケース35が立設され、引起ケース35の上端側の背面から引起タイン駆動軸50を突出している。引起タイン駆動軸50及び引起横伝動軸49を介して、複数の引起タイン34を設けた引起タインチェン34aが駆動されることになる。
図3に示すように、横伝動軸47に左右のクランク軸52a,52bを介して左右の刈刃38を連結する。横伝動軸47を介して左右の刈刃38を同期させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置30は、4条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃38を形成し、左右の刈刃38を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃38の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
図3に示すように、穀稈搬送装置32の各駆動部に、縦伝動軸46及び横伝動軸47を介して、刈取り入力軸45の回転力を伝えるように構成している。即ち、刈取り入力軸45に後搬送駆動軸54を連結し、後搬送駆動軸54を介して、補助株元搬送チェン41及び右穂先搬送タイン42Rを駆動するように構成している。縦伝動軸46に右搬送駆動軸55を連結し、右搬送駆動軸55を介して、右株元搬送チェン39R及び右穂先搬送タイン42Rと、右スターホイル36R及び右掻込ベルト37Rとを駆動するように構成している。
また、右搬送駆動軸55に縦搬送伝動軸56を連結し、縦搬送伝動軸56を介して、縦搬送チェン40を駆動するように構成している。横伝動軸41の左端側に、引起変速機構48を設けた左搬送駆動軸57を連結している。左搬送駆動軸57を介して、左株元搬送チェン39L及び左穂先搬送タイン42Lと、左スターホイル36L及び左掻込ベルト37Lとを駆動するように構成している。
次に、図1及び図2を参照して、脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示されるように、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴60と、扱胴60の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤61及び唐箕ファン62と、扱胴60の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴63と、揺動選別盤61の後部の排塵を排出する排塵ファン71とが備えられている。なお、扱胴60の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。穀稈搬送装置によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴60にて脱穀されることになる。
揺動選別盤61の下方側には、揺動選別盤61にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ64と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ65とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ64,65は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ64、二番コンベヤ65の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。
揺動選別盤61は、扱胴60の下方に張設された受網(図示省略)から漏下した脱穀物が、図示しないフィードパン及びチャフシーブによって搖動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤61から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン62からの選別風によって除去され、一番コンベヤ64に落下することになる。一番コンベヤ64のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ66が連通接続されている。一番コンベヤ64から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ66を介して穀粒タンク7に搬入され、穀粒タンク7に収集されることになる。
また、揺動選別盤61は、そのチャフシーブから搖動選別(比重選別)によって枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ65に落下させるように構成している。前記チャフシーブから落下した二番物は、二番コンベヤ65に落下することになる。二番コンベヤ65のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、揚穀コンベヤ66と交差して前後方向に延びる還元コンベヤ67とこの先端の再処理部68とを介して、揺動選別盤61の前部(フィードパン)の上面側に連通接続され、そのフィードパンの上面側に二番物を戻して再選別するように構成している。
一方、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン69が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン69に受け継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方側に設けた排藁カッタ70にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出されることになる。
次に、図3を参照しながら、ミッションケース26の駆動構造と、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン69、排藁カッタ70等の駆動構造について説明する。図3に示されるように、エンジン20の出力軸75に、走行伝動ベルト76及びベルトテンションクラッチ77を介してミッションケース26の入力軸78を連結している。エンジン20の回転駆動力が、出力軸75からミッションケース26に伝達されて変速された後、左右の車軸27を介して左右の走行クローラ2に伝達され、左右の走行クローラ2がエンジン20の回転力によって駆動されるように構成している。また、出力軸75に排出オーガ駆動軸79を連結し、エンジン21からの回転駆動力によって排出オーガ駆動軸79を介して排出オーガ8が駆動され、穀粒タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。
また、扱胴60及び処理胴63にエンジン20からの回転駆動力を伝える脱穀駆動軸80を備える。エンジン20の出力軸75に、脱穀駆動ベルト81及び脱穀用ベルトテンションクラッチ82を介して、脱穀駆動軸80を連結している。脱穀駆動軸80には、扱胴60を軸支した扱胴軸83と、処理胴63を軸支した処理胴軸84とが連結されている。エンジン20の略一定回転数の回転力によって、扱胴60及び処理胴63が略一定回転数で回転するように構成している。また、脱穀駆動軸80に選別入力ベルト85が連結されている。エンジン20の略一定回転数の回転力によって、選別入力ベルト85を介して、フィードチェン6、揺動選別盤61、唐箕ファン62、一番コンベヤ64、二番コンベヤ65、排塵ファン71、排藁カッタ70が略一定回転数で回転するように構成している。
次に、図3及び図4を参照しながら、ミッションケース26等の駆動構造について説明する。図3及び図4に示す如く、ミッションケース26には、1対の直進用油圧ポンプ88及び直進用油圧モータ89を有する直進用の油圧式無段変速機構90と、1対の旋回用油圧ポンプ91及び旋回用油圧モータ92を有する旋回用の油圧式無段変速機構93とを設けている。ミッションケース26の入力軸78に、直進用油圧ポンプ88と旋回用油圧ポンプ91とを連結させて、各ポンプ88,91をそれぞれ駆動するように構成している。また、ミッションケース26の内部には、刈取駆動PTO軸94が水平横向きに配置されている。刈取駆動PTO軸94は、直進用油圧モータ89によって駆動される。ミッションケース26からこの左外側に刈取駆動PTO軸94の一端側を突設している。刈取り入力軸45に刈取駆動ベルト95を介して刈取駆動PTO軸94を連結している。
図4に示す如く、ミッションケース26の内部には、入力軸78と平行に、直進用油圧ポンプ軸96と、直進用油圧モータ軸97と、刈取駆動PTO軸94と、カウンタ軸98と、直進用変速出力軸99とが配置されている。入力軸78に入力ギヤ100を介して直進用油圧ポンプ軸96を連結している。直進用油圧ポンプ軸96によって直進用油圧ポンプ88が駆動され、直進用油圧モータ89によって直進用油圧モータ軸97が駆動され、直進用油圧ポンプ軸96の回転出力が直進用油圧ポンプ88によって無段階に変速され、直進用油圧モータ軸97によって二段階(高速、低速)に変速されて、直進用油圧モータ軸97に伝達されるように構成している。
図4に示す如く、直進用油圧モータ軸97にカウンタギヤ101を介してカウンタ軸98を連結している。カウンタ軸98に直進用変速出力軸99を連結する副変速ギヤ機構102を備える。副変速ギヤ機構102は、副変速低速ギヤ103と、副変速高速ギヤ104と、副変速シフタ105とを有する。副変速レバー15の操作によって、中立位置(出力が零の位置)、又は副変速低速ギヤ103に係止する低速出力位置、又は副変速高速ギヤ104に係止する高速出力位置に、副変速シフタ105が移動して、出力が零の中立又は低速出力又は高速出力のいずれかの変速モードに副変速ギヤ機構102が切換えられるように構成している。換言すると、副変速シフタ105が中立位置のときに直進用変速出力軸99が停止し、副変速シフタ105が低速出力位置のときに直進用変速出力軸99が低速(作業速度)で作動し、副変速シフタ105が高速出力位置のときに直進用変速出力軸99が高速(路上走行速度)で作動するように構成している。
また、直進用変速出力軸99の回転出力が直進用変速出力ギヤ106を介して左右の走行クローラ2に伝達され、直進用変速出力軸99の回転出力によって左右の走行クローラ2が駆動されて、走行機体1が前進方向又は後進方向に移動するように構成している。なお、直進用変速出力軸99上には、左右の走行クローラ2を制動するパーキングブレーキ107と、左右の走行クローラ2の駆動速度(走行機体1の移動速度、車速)を検出する車速センサ108とが配置されている。
図4に示す如く、エンジンの出力を変速する第1変速手段としての直進用油圧ポンプ88と、直進用油圧ポンプ88の出力を変速する第2変速手段としての直進用油圧モータ89と、直進用油圧モータ89の出力を変速する第3変速手段としての副変速ギヤ機構102とが、ミッションケース26に配置されている。また、ミッションケース26の内部に、直進用油圧モータ89の出力側の直進用油圧モータ軸97に刈取駆動PTO軸94を連結するPTOクラッチ機構110と、直進用油圧ポンプ88の入力側の直進用油圧ポンプ軸96に刈取駆動PTO軸94を連結する一定回転クラッチ機構111とが設けられている。
即ち、直進用油圧モータ89の出力側から、PTOクラッチ機構110と刈取駆動PTO軸94とを介して、刈取装置3(農作業部)にエンジン20の出力を伝達して、PTOクラッチ機構110の車速同調速度の出力によって刈取り入力軸45が回転駆動されるように構成している。また、直進用油圧ポンプ88の入力側から、一定回転クラッチ機構111と刈取駆動PTO軸94とを介して、刈取装置3にエンジン20の出力を伝達して、一定回転クラッチ機構111の一定回転速度の出力によって刈取り入力軸45が回転駆動されるように構成している。
図4に示す如く、PTOクラッチ機構110は、PTOクラッチギヤ112と、PTOクラッチシフタ114とを有する。PTOクラッチ油圧シリンダ115の切換制御によって、中立位置(出力が零の位置)、又はPTOクラッチギヤ112に係止する車速同調出力位置に、PTOクラッチシフタ114が移動するように構成している。換言すると、PTOクラッチ機構110は、直進用油圧モータ89の出力を車速同調出力として刈取駆動PTO軸94に出力するPTO作動状態と、直進用油圧モータ89の出力を切断するPTO停止(PTOクラッチ切り)状態とに切換可能に構成している。
即ち、PTOクラッチ油圧シリンダ115の切換制御によって、出力が零の中立、又は車速同調出力のいずれかのモードに、PTOクラッチ機構110が切換えられるように構成している。したがって、直進用油圧モータ89から出力されている場合、PTOクラッチシフタ114が中立位置のときに刈取駆動PTO軸94が停止し、PTOクラッチシフタ114が車速同調出力位置のときに刈取駆動PTO軸94が作動する。その結果、PTOクラッチ機構110からの車速同調出力が刈取駆動PTO軸94を介して刈取り入力軸45に伝達されて、刈取り入力軸45を介して、車速同調出力(走行機体1の移動速度)によって刈取装置3が作動することになる。
また、PTOクラッチシフタ114は、PTOクラッチ用の一方向回転クラッチ116を介して刈取駆動PTO軸94に軸支されている。即ち、直進用油圧モータ軸97における回転のうち、走行機体1を前進移動する方向の回転は、一方向回転クラッチ116を介して刈取駆動PTO軸94に伝達する。一方、直進用油圧モータ軸97における回転のうち、走行機体1を後進移動する方向の回転は、刈取駆動PTO軸94に伝達しないという構成である。加えて、刈取駆動PTO軸94から直進用油圧モータ軸97への方向には、PTOクラッチ機構110を介して、回転を伝達しないという構成である。
また、一定回転クラッチ機構111は、一定回転クラッチギヤ118と、一定回転クラッチシフタ119とを有する。一定回転クラッチ油圧シリンダ120の切換制御によって、中立位置(出力が零の位置)、又は一定回転クラッチギヤ118に係止する一定回転位置に、一定回転クラッチシフタ119が移動するように構成している。換言すると、一定回転クラッチ機構111は、刈取装置3の駆動に必要な最高回転数を保持する一定回転作動状態と、直進用油圧モータ軸97の出力を切断するPTO停止(PTOクラッチ切り)状態とに切換可能に構成している。なお、図8に示す如く、一定回転クラッチ機構111から刈取り入力軸45に伝達される一定回転出力は、刈取作業を実行する車速同調出力よりも高い回転数の高速側回転出力(高速側一定回転速度V2=1.6m/s)である。
即ち、一定回転クラッチ油圧シリンダ120の切換制御によって、出力が零の中立、又は一定回転出力(高速カットモード)のいずれかの一定回転出力モードに、一定回転クラッチ機構111が切換えられるように構成している。換言すると、直進用油圧ポンプ軸96が駆動されている場合、一定回転クラッチシフタ119が中立位置のときに刈取駆動PTO軸94が停止し、一定回転クラッチシフタ119が一定回転出力位置のときに刈取駆動PTO軸94が高速側一定回転速度V2(高速カット速度)で作動するように構成している。その結果、PTOクラッチ機構110からの車速同調出力の最高速よりも早い一定回転数の回転出力が一定回転クラッチギヤ118を介して刈取駆動PTO軸94に伝達されることになる。
したがって、PTOクラッチ機構110からの車速同調出力よりも早い一定回転クラッチギヤ118からの高速側一定回転速度V2(一定回転数の出力)によって、刈取装置3を作動できる。走行機体1の移動速度(車速)を極めて高速にした刈取作業のときに、車速同調速度での駆動から高速側一定回転速度V2での駆動に切換えて刈取装置3を作動させ、刈取装置3に発生する騒音を低減できる。一方、走行機体1の移動速度が車速同調速度の範囲内であっても、高速側一定回転速度V2で刈取装置3を作動させることによって、圃場に倒伏している穀稈をスムーズに引起して刈取ることができ、倒伏穀稈の刈取り作業性等を向上できる。
また、一定回転クラッチシフタ119は、一定回転クラッチ用の一方向回転クラッチ121を介して刈取駆動PTO軸94に軸支されている。直進用油圧ポンプ軸96の回転は、一方向回転クラッチ121を介して刈取駆動PTO軸94に伝達されるように構成している。即ち、直進用油圧ポンプ軸96から刈取駆動PTO軸94への方向には、一定回転クラッチ機構111を介して、回転を伝達する。一方、刈取駆動PTO軸94から直進用油圧ポンプ軸96への方向には、一定回転クラッチ機構111を介して、回転を伝達しないという構成である。
その結果、PTOクラッチシフタ114及びPTOクラッチ用の一方向回転クラッチ116を介して伝達されるPTOクラッチ機構110の回転出力、又は一定回転クラッチシフタ119及び一定回転クラッチ用の一方向回転クラッチ121を介して伝達される一定回転クラッチ機構111の回転出力のうち、高速側の回転出力によって、刈取駆動PTO軸94を介して刈取り入力軸45が駆動されて、刈取装置3が作動する。即ち、PTOクラッチ機構110の車速同調速度の回転出力、又は一定回転クラッチ機構111の高速側一定回転出力のいずれか一方によって、刈取駆動PTO軸94を介して刈取り入力軸45が駆動される。したがって、PTOクラッチ機構110の車速同調速度の回転出力と、一定回転クラッチ機構111の一定回転出力とが、同時に、刈取駆動PTO軸94に伝達されない。
図3及び図4に示すように、流し込みベルト122、流し込みクラッチ123、流し込みプーリ124を介して、刈取り入力軸45に脱穀駆動軸80を連結している。オペレータが流し込みペダル(図示省略)を足踏み操作して、流し込みクラッチ123を継続作動したときに、流し込みベルト122及び流し込みプーリ124を介して、エンジン20からの一定回転出力が脱穀駆動軸80から刈取り入力軸45に伝達されるように構成している。なお、図8に示す如く、脱穀駆動軸80から流し込みベルト122を介して刈取り入力軸45に伝達される一定回転出力は、刈取作業の維持に必要な一定回転数の低速側回転出力(流し込み一定回転速度V1=0.8m/s)であって、一定回転クラッチ機構111からの一定回転出力(高速側一定回転速度V2)の約半分の回転数に設定されている。
その結果、刈取作業中、圃場の枕地に走行機体が到達して、次行程の作業場所に走行機体1を方向転換させる場合等において、走行機体1の移動速度が遅くなったり、走行機体1が停止したり、走行機体1を後進移動させても、オペレータが流し込みペダルを足踏み操作することによって、流し込みベルト122及び流し込みプーリ124からの一定回転数の低速側回転出力が刈取り入力軸45に伝達され、刈取り入力軸45を介して刈取装置3が流し込み一定回転速度V1で作動することになる。穀稈の搬送等の刈取作業を維持でき、圃場の枕地での方向転換作業性等を向上できる。
また、流し込みクラッチ用の一方向回転クラッチ109を介して、刈取り入力軸45に流し込みプーリ124を軸支している。即ち、脱穀駆動軸80から刈取り入力軸45への方向には、一方向回転クラッチ109を介して、回転を伝達するが、刈取り入力軸45から脱穀駆動軸80への方向には、一方向回転クラッチ109を介して、回転を伝達しないという構成である。その結果、PTOクラッチ機構110からの車速同調回転出力又は一定回転クラッチ機構111からの高速側一定回転出力によって刈取駆動PTO軸94が駆動されている状態下で、流し込みクラッチ123を継続作動したときに、刈取駆動PTO軸94の回転出力、又は流し込みプーリ124の回転出力のうち、高速側の回転出力によって、刈取り入力軸45が駆動されて、刈取装置3が作動する。
次に、図5を参照して、直進用油圧無段変速機構90と、旋回用油圧無段変速機構93の構造を説明する。図5に示すように、旋回用油圧ポンプ91のポンプ軸にチャージポンプ125を連結している。直進用油圧ポンプ88及び直進用油圧モータ89は、閉油圧回路にて油圧接続され、チャージポンプ125のチャージ油圧がその閉油圧回路に供給されるように構成している。同様に、旋回用油圧ポンプ91及び旋回用油圧モータ92は、閉油圧回路にて油圧接続され、チャージポンプ125のチャージ油圧がその閉油圧回路に供給されるように構成している。ミッションケース26の入力軸78に伝達されたエンジン20の回転駆動力が、直進用油圧無段変速機構90又は旋回用油圧無段変速機構93によって変速された後、左右の車軸27に伝達され、左右の車軸27を介して左右の走行クローラ2がそれぞれ駆動されるように構成している。
図5に示す如く、直進用油圧ポンプ88の斜板88aの傾斜角度を変更して出力調整する主変速シリンダ126と、主変速レバー14及び操向ハンドル11に連結させて切換える主変速バルブ127と、直進用油圧ポンプ88の出力を一定量減速する減速バルブ128とを設け、チャージポンプ125を主変速バルブ127又は減速バルブ128を介して主変速シリンダ126に油圧接続させている。その結果、主変速レバー14によって主変速バルブ127を切換え、主変速シリンダ126を作動させて、直進用油圧ポンプ88の斜板88aの角度を変更させ、直進用油圧モータ89のモータ軸97の回転数を、前進方向又は後進方向に無段階に変化させることになる。
また、直進用油圧モータ89の斜板89aの角度を変更して出力調整する副変速シリンダ129と、油圧副変速高速ソレノイド130a及び油圧副変速低速ソレノイド130bを有する電磁副変速バルブ130とを設けている。前記チャージポンプ125に電磁副変速バルブ130を介して副変速シリンダ129を油圧接続させている。副変速バルブ130が中立の切換位置のときには、油タンクであるミッションケース26に副変速シリンダ129が短絡され、直進用油圧モータ89の斜板89aが、直進用油圧ポンプ88の油圧(閉回路油圧)によって最大傾斜位置に維持されるように構成している。
一方、副変速バルブ130が中立位置以外の切換位置に切換られたときには、チャージポンプ125の油圧が副変速バルブ130を介して副変速シリンダ129に印加され、直進用油圧ポンプ88の油圧(閉回路油圧)に関係なく、直進用油圧モータ89の斜板89aの角度が副変速シリンダ129によって強制的に変更され、直進用油圧モータ軸97の回転数を高速側又は低速側に変化させることになる。即ち、直進用油圧モータ89の斜板89aの角度を変更する操作、換言すると、副変速バルブ130を切換える副変速操作によって、直進用油圧モータ89の出力回転数を高速側又は低速側に切換えるように構成している。
さらに、旋回用油圧ポンプ91の斜板91aの角度を変更して出力調整する旋回シリンダ131を設け、操向ハンドル11又は主変速レバー14によって切換える旋回バルブ132、又は電磁式自動操向バルブ133を介して旋回シリンダ131にチャージポンプ125を油圧接続させている。操向ハンドル11によって旋回バルブ132を切換えることによって、旋回シリンダ131が作動して、旋回用油圧ポンプ91の斜板91aの角度が無段階に変更されることになる。その結果、操向ハンドル11の操作によって旋回用油圧モータ91の出力回転数が無段階に変化したり、旋回用油圧モータ91の出力回転が逆転することになる。即ち、操向ハンドル11の左右方向の回転操作量(操舵角)に比例して斜板91aの角度が変化し、旋回用油圧モータ91の出力回転数が変化したり逆転して、走行機体1の進路(左右旋回角度)が左方向又は右方向に変更されるように構成している。
なお、主変速レバー14が中立以外の変速位置に操作された状態で、操向ハンドル11が直進以外の操舵角位置に操作された場合、主変速レバー14の操作方向(前進、後進)と操作量(増減速)に比例して、直進用油圧ポンプ88の斜板88aの角度(出力油圧)が増減したり反転して、油圧モータ89を、増速又は減速させたり、正転又は逆転させ、前進速度又は後進速度(直進移動速度と進行方向)が変更されることになる。また、主変速レバー14の操作量に比例して旋回用油圧ポンプ91の出力油圧が変化(増減)するように構成したものであり、主変速レバー14の高速側走行変速によって旋回半径が自動的に小さくなり、且つ主変速レバー14の低速側走行変速によって旋回半径が自動的に大きくなるように構成している。したがって、操向ハンドル11が直進以外の一定操舵角位置に保持されているときに、主変速レバー14が中立以外の変速位置に操作された場合、主変速レバー14の変速操作位置(直進移動速度)に関係なく、左右走行クローラ2の旋回半径が略一定に維持されて、走行機体1の移動速度(作業車速)を変更できたり、未刈り穀稈列等に機体を沿わせるように、走行機体1の進路を修正できる。
一方、操向ハンドル11の操作量(操舵角)に比例させて、主変速バルブ27の制御によって直進用油圧ポンプ88の出力を変化させ、且つ旋回バルブ132の制御によって旋回用油圧ポンプ91の出力を変化させるように構成している。即ち、操向ハンドル11の操舵角を大きくして、走行機体1の旋回半径を小さくしたときに、その旋回半径(操舵角)に比例させて走行機体1の移動速度(車速)を減速させ乍ら、左右の走行クローラ2の速度差を大きくし、走行機体1を左右に旋回させることができる。連続的に穀稈を刈取って脱穀する収穫作業において、左右走行クローラ2の駆動速度を変更して、条合せ等の進路修正や、圃場枕地でのスピンターン等の方向転換を実行できる。なお、主変速レバー14が中立のときには、操向ハンドル11の操作に関係なく、旋回バルブ132が中立維持され、旋回用油圧ポンプ91の油圧出力が略零に保たれ、旋回用油圧モータ92を停止維持するように構成している。
図5に示す如く、刈取クラッチソレノイド134aを有する電磁刈取クラッチバルブ134と、定速クラッチソレノイド135aを有する電磁一定回転バルブ135とを設けている。上述したチャージポンプ125に電磁刈取クラッチバルブ134を介してPTOクラッチ油圧シリンダ115を油圧接続している。電磁刈取クラッチバルブ134を切換えてPTOクラッチ油圧シリンダ115を作動するように構成している。また、上述したチャージポンプ125に電磁一定回転バルブ135を介して一定回転クラッチ油圧シリンダ120を油圧接続している。電磁一定回転バルブ135を切換えて一定回転クラッチ油圧シリンダ120を作動するように構成している。
なお、PTOクラッチ油圧シリンダ115と、一定回転クラッチ油圧シリンダ120とは、2ポジションシリンダによって形成している。2位置3ポート型の前記バルブ134,135を切換えたときに、チャージポンプ125からの油圧によって、前記シリンダ115,120のピストンが進出位置に保持される。また、前記バルブ134,135が内蔵バネによってアンロード位置に弾圧維持されているときに、前記シリンダ115,120のピストンは、内蔵バネによって退入位置に弾圧保持される。
次に、本実施形態の刈取速度制御について説明する。図6は、刈取速度制御手段の機能ブロック図であり、制御プログラムを記憶したROMと各種データを記憶したRAMとを有するマイクロコンピュータ等の刈取作業コントローラ140を備えている。図6に示されるように、マイクロコンピュータで構成する刈取作業コントローラ140の入力側には、脱穀装置5の駆動等を検出する作業スイッチ141と、穀稈引起装置31の穀稈(未刈リ穀稈)又は穀稈搬送装置32の穀稈(刈取穀稈)を検出する穀稈センサ142と、刈取り入力軸45の回転数を検出する刈取り回転センサ143と、上述した車速センサ108と、油圧副変速高速ソレノイド130a又は油圧副変速低速ソレノイド130bのいずれか一方をオンにしたりそれらの両方をオフにして電磁副変速バルブ130を切換える油圧副変速スイッチ144と、刈取クラッチソレノイド134aをオンにして電磁刈取クラッチバルブ134を切換える刈取クラッチスイッチ145と、定速クラッチソレノイド135aをオンにして電磁一定回転バルブ135を切換える一定回転スイッチ146と、定速クラッチソレノイド135aが作動する車速値(走行機体1の移動速度)を設定する定速設定器147と、流し込みクラッチ123の入り操作(クラッチ継続動作)を検出する流し込みセンサ139とを接続している。
図6に示す如く、刈取作業コントローラ140の出力側には、上述した油圧副変速高速ソレノイド130a及び油圧副変速低速ソレノイド130bと、刈取クラッチソレノイド134aと、定速クラッチソレノイド135aとを接続している。即ち、上述した各スイッチ144,145,146の手動操作によって、各ソレノイド130a,130b,134a,135aを励磁作動させる一方、車速センサ108の検出値と定速設定器147の設定値とに基づき、定速クラッチソレノイド135aを自動的に励磁作動させるように構成している。
次に、図7は刈取速度制御のフローチャートである。図7を参照して、圃場に植立した穀稈の刈取作業を説明する。作業スイッチ141がオンで(S1yes)、穀稈センサ142がオンのときに(S2yes)、圃場に植立した穀稈を刈取る刈取作業中であると判断され、車速センサ108の検出値と、刈取リ回転センサ143の検出値とが読み込まれる。(S3)また、定速設定器147の設定値が読み込まれる(S4)。車速センサ108の検出値と、刈取リ回転センサ143の検出値と、定速設定器147の設定値とから刈取速度が演算される(S5)。
また、オペレータが刈取クラッチスイッチ145を操作して、刈取クラッチソレノイド134aを励磁させ、電磁刈取クラッチバルブ134を切換え、PTOクラッチ油圧シリンダ115を作動させ、PTOクラッチ機構110のPTOクラッチギヤ112が刈取駆動PTO軸94に係合され、刈取クラッチオンの状態になった場合(S6yes)、PTOクラッチギヤ112を介して刈取駆動PTO軸94が作動するという刈取装置3の車速同調駆動制御が実行される(S7)。その結果、走行機体1の移動速度(車速)に同調して刈取装置3の作動速度が変化する。即ち、刈取装置3が車速同調速度にて駆動されて刈取作業が行われる。
一方、オペレータが一定回転スイッチ146を操作して、定速クラッチソレノイド135aを励磁させ、電磁一定回転バルブ135を切換え、一定回転クラッチ油圧シリンダ120を作動させ、一定回転クラッチ機構111の一定回転クラッチギヤ118が刈取駆動PTO軸94に係合され、一定回転クラッチオンの状態になった場合(S8yes)、一定回転クラッチギヤ118を介して刈取駆動PTO軸94が作動するという刈取装置3の刈取速度の一定回転制御が実行される(S9)。その結果、走行機体1の移動速度(車速)に関係なく、刈取装置3の作動速度が高速側一定回転速度V2に維持される。即ち、ステップ7の車速同調駆動制御による刈取装置3の作動速度の最高速度と同じかそれ以上の高速の高速側一定回転速度V2で、刈取装置3が駆動されて刈取作業が行われる。
他方、刈取クラッチスイッチ145又は一定回転スイッチ146がオフで、ステップ9における刈取装置3の刈取速度の一定回転制御が実行されていないときに、オペレータが流し込みペダル(図示省略)を足踏み操作して、流し込みクラッチ123をオン作動させた場合、流し込みベルト122及び流し込みプーリ124からの一定回転数の低速側回転出力が刈取り入力軸45に伝達され、流し込み一定回転速度V1(高速側一定回転速度V2の約半分の速度)で、刈取り入力軸45を介して刈取装置3が駆動されて刈取作業が行われる。
上記したようにオペレータによって流し込みペダル(図示省略)が足踏み操作されると、流し込みクラッチ123のオン作動が流し込みセンサ139によって検出される(S10yes)。流し込みクラッチ123のオン作動によって、低速側一定回転速度V1で刈取装置3が駆動されるときに、車速センサ108によって検出される走行機体1の移動速度(車速)が一定以上に高いと判断された場合(S11yes)、定速クラッチソレノイド135aの励磁によって、電磁一定回転バルブ135が自動的に切換えられ、一定回転クラッチ油圧シリンダ120が作動する。したがって、一定回転クラッチ機構111の一定回転クラッチギヤ118が刈取駆動PTO軸94に係合され、一定回転クラッチオンの状態になり、ステップ9の刈取速度の一定回転制御が実行される。その結果、流し込みクラッチ123のオン作動(クラッチ継続動作)に関係なく、刈取装置3の作動速度が高速側一定回転速度V2に維持される。
即ち、流し込みクラッチ123をオン作動させた場合、走行機体の移動速度が、低速側の流し込み一定回転速度V1(流し込み作業速度)と等しい車速同調速度に対応した移動速度(車速)よりも低速か略等しいときには、流し込み一定回転速度V1によって、刈取装置3が作動する。一方、一定車速(低速側の流し込み一定回転速度V1)以上で走行機体1が移動しているときには、オペレータが流し込みペダル(図示省略)を足踏み操作して、流し込みクラッチ123をオン作動させても、定速クラッチソレノイド135aが自動的に励磁される。その定速クラッチソレノイド135aの励磁よって、一定回転クラッチ油圧シリンダ120が作動して、一定回転クラッチ機構111を継続し、刈取装置3の作動速度が高速側一定回転速度V2に自動的に維持される。その結果、走行機体の移動速度が、流し込み一定回転速度V1(低速側一定回転速度)と等しい車速同調速度に対応した移動速度(車速)よりも高速のときであっても、高速側一定回転速度V2で刈取装置3が作動するから、オペレータの流し込みペダル操作が、刈取装置3の穀稈搬送等に悪影響を及ぼすのを防止できる。
上記した流し込み一定回転速度V1は、走行機体の移動速度が遅いときや、走行機体が停止時に、流し込み一定回転速度V1で刈取装置3を作動することを前提に、極めて低速に設定される。したがって、従来技術では、刈取装置3の作動速度が車速同調速度の範囲であっても、流し込みクラッチ123をオン作動させたときの刈取装置3の車速同調速度よりも、流し込み一定回転速度V1が遅くなることがあった。刈取装置3の車速同調速度よりも、流し込み一定回転速度V1が遅くなった場合、穀稈引起装置31又は穀稈搬送装置32等によって搬送中の穀稈の姿勢が乱れて、脱粒したり穀稈が詰まる等の問題がある。本実施形態では、刈取装置3の車速同調速度よりも、流し込み一定回転速度V1が遅くなる場合、高速側一定回転速度V2で刈取装置3が作動するから、穀稈引起装置31又は穀稈搬送装置32等によって搬送中の穀稈の姿勢が乱れるのを低減できる。
なお、図8において、太い実線Aで示す刈取速度、細い実線Bで示す刈取速度のいずれもが、上述した副変速ギヤ機構102を高速側に切換えた状態、即ちギヤ副変速が高速の出力状態であり、圃場に植立した穀稈が倒伏していない刈取作業を実行するときの刈取速度である。圃場に植立した穀稈が倒伏している場合、副変速ギヤ機構102を低速の出力状態に切換え、且つ直進用油圧モータ89を低速の出力状態に切換えたときの刈取速度、即ち図8において細い破線Cで示す刈取速度で刈取装置3を作動して、倒伏した穀稈の刈取作業を実行する。換言すると、圃場に植立した穀稈が倒伏している場合、走行機体1の移動速度(車速)を遅くする一方、刈刃装置30、穀稈引起装置31、穀稈搬送装置32の各速度をそれぞれ早くしている。その結果、走行機体1の移動速度に比べて、倒伏した穀稈の刈取速度が相対的に早くなり、穀稈引起装置31の穀稈引起し性能等を維持して、刈刃装置30の刈残し又は穀稈搬送装置32での稈詰り等を防止できる。
上記の記載及び図4、図5に示すように、PTOクラッチ機構110は、直進用油圧モータ89の出力を変速して変速出力するPTO作動状態と、直進用油圧モータ89の出力を切断するPTO停止状態とに切換可能に構成したものであるから、刈取装置3を駆動又は停止制御するための従来のベルトテンションクラッチが不要になる。且つ前記カウンタケース等に、刈取装置3を駆動又は停止制御するためのクラッチを設ける必要もない。刈取装置3を駆動又は停止制御するためのクラッチを低コストに且つコンパクトに構成できる。
上記の記載及び図4、図6に示すように、一定回転クラッチ機構111は、刈取装置3の駆動に必要な最低回転数を保持する低速側一定回転作動状態と、刈取装置3の駆動に必要な最高回転数を保持する高速側一定回転作動状態と、エンジン20からの一定回転出力を切断するPTO停止状態とに切換可能に構成したものであるから、一定回転クラッチ機構111からの低速側一定回転出力、又は高速側一定回転出力、又はPTOクラッチ機構110の車速同調用の変速出力によって、刈取装置3を作動できる。刈取装置3の機械振動又は損傷等を低減でき、刈取装置3の刈取作業性能を適正に維持できる。
上記の記載及び図1、図3、図4に示すように、エンジン20によって作動する走行部としての走行クローラ2を備えた走行機体1と、走行機体1に配置する農作業部としての刈取装置3と、走行クローラ2又は刈取装置3にエンジン20の出力を伝達するミッションケース26とを備え、ミッションケース26に、エンジン20の出力を変速する第1変速手段としての直進用油圧ポンプ88と、直進用油圧ポンプ88の出力を変速する第2変速手段としての直進用油圧モータ89と、直進用油圧モータ89の出力を変速する第3変速手段としての副変速ギヤ機構102とを配置し、直進用油圧モータ89の出力側にPTO軸94を連結して、直進用油圧モータ89から刈取駆動PTO軸94を介して刈取装置3にエンジン20の出力を伝達するように構成してなる収穫機において、ミッションケース26の内部に、車速同調速度で刈取装置3を駆動するPTOクラッチ機構110と、一定回転速度で刈取装置3を駆動する一定回転クラッチ機構111とを設け、直進用油圧モータ89の出力側と刈取駆動PTO軸94との間にPTOクラッチ機構110を配置し、直進用油圧ポンプ88の入力側と刈取駆動PTO軸94との間に一定回転クラッチ機構111を配置している。
したがって、PTOクラッチ機構110と一定回転クラッチ機構111とを、テンションクラッチを有するベルト伝動機構を利用して構成する従来の駆動構造に比べて、エンジン20とミッションケース26、及びエンジン20と刈取装置3との間にそれぞれ配置するベルト伝動機構を簡単に構成できる。そのベルト伝動機構のメンテナンス作業性等を向上できる。また、直進用油圧ポンプ88と直進用油圧モータ89と副変速ギヤ機構102とを有するミッションケース26を利用して、PTOクラッチ機構110と、一定回転クラッチ機構111とを、コンパクトに且つ低コストに配置できる。また、ミッションケース26に、PTOクラッチ機構110と一定回転クラッチ機構111とを内蔵したことにより、従来のように走行機体1の前部にカウンタケースを設けることを省略できるか、或いは、仮りに前記カウンタケースを設けるにしても、このカウンタケースを小型化できる。
上記の記載及び図4、図6から明らかなように、PTOクラッチ機構110又は一定回転クラッチ機構111からのいずれか一方の高速側出力を、刈取駆動PTO軸94に伝達するクラッチ手段としての流し込みクラッチ用の一方向回転クラッチ109及びPTOクラッチ用の一方向回転クラッチ116を備えたものであるから、PTOクラッチ機構110の車速同調用の変速出力、又は一定回転クラッチ機構111の一定回転出力の両方が刈取装置3に同時に伝達されるのを防止できる。また、走行機体1の後進によって刈取駆動PTO軸94が逆転するのを防止できる。
上記の記載及び図4、図6から明らかなように、ミッションケース26と異なる刈取装置3用の駆動経路としての流し込みベルト122を形成し、流し込みベルト122に定速回転機構としての流し込みクラッチ123を設け、刈取装置3に流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介してエンジン20の回転力を伝達するように構成し、またPTOクラッチ機構110から刈取駆動PTO軸94を介して刈取装置3に伝達する車速同調回転数よりも高い回転数の高速回転出力によって、一定回転クラッチ機構111を介して刈取装置3を作動可能に構成した構造であって、走行機体1の移動速度が一定以下のときに、一定回転クラッチ機構111から刈取駆動PTO軸94を介して刈取装置3に伝達する回転数よりも低い回転数の低速回転出力によって、流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介して刈取装置3が作動するように構成し、走行機体1の移動速度が一定以上のときに、流し込みクラッチ123を介して刈取装置3を作動する操作が実行されても、一定回転クラッチ機構111からの高速回転出力によって刈取装置3が作動するように構成したものであるから、走行機体1又は刈取装置3等を停止するときに、流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介して必要最低限の速度で刈取装置3を作動できるものでありながら、流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介して刈取装置3を作動させても、走行機体1の移動速度が一定以上のときには、一定回転クラッチ機構111を介して刈取装置3を高速で作動できる。
即ち、走行機体1の移動速度が一定以上のときに、流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介して必要最低限の速度で刈取装置3が作動した場合、穀稈の刈取作業に必要な刈取装置3の作動速度が不足して、その刈取作業に悪影響を及ぼす。しかしながら、流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介して刈取装置3を作動させるように、流し込みクラッチ123が操作されても、走行機体1の移動速度が一定以上のときには、一定回転クラッチ機構111を介して刈取装置3を高速で作動できるように構成したから、走行機体1の移動速度が一定以上のときに、流し込みベルト122及び流し込みクラッチ123を介して刈取装置3を作動させるようにオペレータが誤操作しても、一定回転クラッチ機構111を介して刈取装置3が高速で作動し、刈取作業に悪影響を及ぼすのを避けることができる。