本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る車両制御装置1の全体のシステム構成を示すブロック図である。なお、図1において、破線は電力の伝達経路を示し、実線矢印は各種情報の伝達経路を示している。図2は、本実施形態に係る車両制御装置1による制御対象となる車両用駆動装置2の機械的構成を示すスケルトン図である。図2に示すように、この車両用駆動装置2は、駆動力源としてエンジンE及び2個の回転電機MG1、MG2を備えるとともに、エンジンEの出力を、第一回転電機MG1側と、車輪W及び第二回転電機MG2側とに分配する動力分配用の遊星歯車装置PGを備えた、いわゆる2モータスプリット方式のハイブリッド車両用の駆動装置として構成されている。
そして、この車両用駆動装置2に対する制御を行う車両制御装置1は、エンジンEの回転を停止させるために、図7に示すようにエンジン回転方向ERに目標停止位置PTを設定し、当該目標停止位置PTまでの残り回転量Rに応じて、図9に示すようにエンジン回転速度NEを次第に低減させるよう、第一回転電機MG1を制御する停止制御を行う。この停止制御は、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となったときに終了する。ここで、図6に示すように、車両用駆動装置2を搭載した車両が加速又は減速している状態では、当該加速度と、エンジンEの慣性モーメントJEと、第一回転電機MG1の慣性モーメントJ1との関係に応じて、エンジンEにはエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、第一回転電機MG1にはMG1相互慣性トルクTi1が作用する。そして、エンジンEに作用するエンジン相互慣性トルクTiEの影響によって、図9に示すように、停止制御を終了した後のエンジン回転速度NEが低減する程度が変化し、エンジンEの停止位置が目標停止位置PTから外れる場合がある。そこで、この車両制御装置1は、車両用駆動装置2が搭載された車両の加速度を表す車両加速度αを取得し、当該車両加速度αに応じて停止制御に用いる残り回転量Rを補正する。これにより、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させる。なお、本実施形態においては、「残り回転量R」の語は、車両加速度αに応じた補正前の基準残り回転量RAと当該補正後の補正残り回転量RBの双方を包括する概念として用いることとする。以下、本実施形態に係る車両制御装置1及び車両用駆動装置2について詳細に説明する。
1.車両用駆動装置の構成
図1に示すように、車両用駆動装置2は、エンジンEに駆動連結された入力軸51と、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、動力分配用の遊星歯車装置PGと、カウンタギヤ機構Cと、カウンタギヤ機構Cを介して伝達される回転及び駆動力を複数の車輪Wに分配する出力用差動歯車装置Dと、を備えている。本実施形態においては、入力軸51が本発明における「入力部材I」に相当し、出力用差動歯車装置Dの入力ギヤである差動入力ギヤ56が本発明における「出力部材O」に相当する。また、動力分配用の遊星歯車装置PGが本発明における「差動歯車装置」に相当する。遊星歯車装置PGは、エンジンEの回転及び駆動力を第一回転電機MG1とカウンタギヤ機構Cとに分配する。また、この車両用駆動装置2では、遊星歯車装置PG及びカウンタギヤ機構Cが本発明における「駆動伝達機構5」を構成する。
この車両用駆動装置2では、エンジンEに駆動連結された入力軸51、第一回転電機MG1、及び遊星歯車装置PGが同軸上に配置されている。そして、第二回転電機MG2、カウンタギヤ機構C、及び出力用差動歯車装置Dが、それぞれ入力軸51と平行な軸上に配置されている。ここで、エンジンEとしては、火花点火機関(ガソリンエンジン)や圧縮着火機関(ディーゼルエンジン)等の公知の各種の内燃機関を用いることができる。入力軸51は、フライホイール61、ダンパ62、及びクラッチ63を介してエンジンEに駆動連結されている。クラッチ63は、入力軸51とエンジンEの出力軸とを選択的に係合する係合要素である。従って、クラッチ63が係合状態にあるときには、入力軸51とエンジンEとは、ダンパ62により吸収されるねじれ分を除いて一体回転する状態で駆動連結されるが、クラッチ63が解放状態にあるときには、入力軸51とエンジンEとは分離される。以下では、特に断らない限り、クラッチ63が係合状態にあるものとして説明する。なお、入力軸51が、フライホイール61、ダンパ62、及びクラッチ63のいずれか一つ又は二つを介して、或いはこれらを介さず直接的にエンジンEに駆動連結される構成としても好適である。
第一回転電機MG1は、図示しないケースに固定された第一ステータSt1と、この第一ステータSt1の径方向内側に回転自在に支持された第一ロータRo1と、を有している。この第一回転電機MG1の第一ロータRo1は、ロータ軸を介して遊星歯車装置PGのサンギヤsと一体回転するように駆動連結されている。また、第二回転電機MG2は図示しないケースに固定された第二ステータSt2と、この第二ステータSt2の径方向内側に回転自在に支持された第二ロータRo2と、を有している。この第二回転電機MG2の第二ロータRo2は、ロータ軸を介して第二回転電機出力ギヤ55と一体回転するように連結されている。この第二回転電機出力ギヤ55は、カウンタギヤ機構Cに固定された第一カウンタギヤ53と噛み合っており、第二回転電機MG2の回転及び駆動力がカウンタギヤ機構Cに伝達される構成となっている。この車両用駆動装置2では、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2は、交流モータであり、図1に示すように、それぞれ第一インバータ41又は第二インバータ42により駆動制御される。
第一回転電機MG1は、遊星歯車装置PGを介して入力軸51及びカウンタギヤ機構Cに駆動連結されている。そして、第一回転電機MG1は、主にサンギヤsを介して入力された駆動力により発電を行い、蓄電装置43を充電し、或いは第二回転電機MG2を駆動するための電力を供給するジェネレータとして機能する。ただし、車両の高速走行時やエンジンEの始動時等には第一回転電機MG1は力行して駆動力を出力するモータとして機能する場合もある。一方、第二回転電機MG2は、カウンタギヤ機構Cを介して遊星歯車装置PG及び出力用差動歯車装置Dに駆動連結されている。そして、第二回転電機MG2は、主に車両の走行用の駆動力を補助するモータとして機能する。ただし、車両の減速時等には第二回転電機MG2はジェネレータとして機能し、車両の慣性力を電気エネルギとして回生するジェネレータとして機能する場合もある。これら第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2の動作は、制御ユニット3からの制御指令に従って動作する第一インバータ41又は第二インバータ42により制御される。
図1に示すように、遊星歯車装置PGは、入力軸51と同軸状に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。すなわち、遊星歯車装置PGは、複数のピニオンギヤを支持するキャリヤcaと、前記ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs及びリングギヤrとを回転要素として有している。そして、入力部材Iとしての入力軸51、出力部材Oとしての差動入力ギヤ56、及び第一回転電機MG1が、それぞれ遊星歯車装置PGの異なる回転要素に駆動連結されている。この際、入力軸51、差動入力ギヤ56、及び第一回転電機MG1は、遊星歯車装置PGのサンギヤs、キャリヤca、及びリングギヤrの3つの回転要素に関して互いに他の回転要素を介することなく、以下の各回転要素に駆動連結されている。本実施形態においては、サンギヤsは、第一回転電機MG1の第一ロータRo1と一体回転するように駆動連結されている。キャリヤcaは、入力軸51と一体回転するように駆動連結されている。リングギヤrは、カウンタドライブギヤ52と一体回転するように駆動連結されている。このカウンタドライブギヤ52は、カウンタギヤ機構Cに固定された第一カウンタギヤ53と噛み合っており、遊星歯車装置PGのリングギヤrの回転が、このカウンタギヤ機構Cに伝達される構成となっている。これらの遊星歯車装置PGの3つの回転要素は、回転速度の順に、サンギヤs、キャリヤca、リングギヤrとなっている。従って、本実施形態においては、この遊星歯車装置PGのサンギヤs、キャリヤca、及びリングギヤrが、それぞれ本発明における差動歯車装置の「第一回転要素」、「第二回転要素」、及び「第三回転要素」に相当する。
カウンタギヤ機構Cのカウンタ軸には、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2側に第一カウンタギヤ53が固定され、エンジンE側に第二カウンタギヤ54が固定されている。ここで、第一カウンタギヤ53は、カウンタドライブギヤ52及び第二回転電機出力ギヤ55に噛み合っており、第二カウンタギヤ54は、出力用差動歯車装置Dの差動入力ギヤ56に噛み合っている。これにより、カウンタギヤ機構Cは、遊星歯車装置PG(のリングギヤr)と、第二回転電機MG2と、出力用差動歯車装置D(の差動入力ギヤ56)とを駆動連結している。出力用差動歯車装置Dは、一般的に用いられるものであり、例えば互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構を有して構成されている。そして、出力用差動歯車装置Dは、差動入力ギヤ56に伝達された回転及び駆動力を左右の駆動輪となる車輪Wに分配する。
2.車両用駆動装置の基本的動作
次に、本実施形態に係る車両用駆動装置2の基本的な動作について説明する。図3〜図6は、動力分配用の遊星歯車装置PGの動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、遊星歯車装置PGの各回転要素に対応しており、各縦線の上側に記載されている「s」、「ca」、「r」はそれぞれサンギヤs、キャリヤca、リングギヤrに対応している。そして、これらの縦軸上の位置は、各回転要素の回転速度に対応している。ここでは、横軸上は回転速度がゼロであり、上側が正、下側が負である。また、各回転要素に対応する縦線の間隔は、遊星歯車装置PGのギヤ比λ(サンギヤsとリングギヤrとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に対応している。ここで、遊星歯車装置PGでは、キャリヤcaがエンジンE及び入力軸51と一体回転するように駆動連結され、サンギヤsが第一回転電機MG1の第一ロータRo1と一体回転するように駆動連結され、リングギヤrがカウンタドライブギヤ52と一体回転するように駆動連結されている。したがって、キャリヤcaの回転速度はエンジンE及び入力軸51の回転速度であるエンジン回転速度NEと一致し、サンギヤsの回転速度は第一回転電機MG1の回転速度であるMG1回転速度N1と一致する。よって、この遊星歯車装置PGのギヤ比λを用いると、エンジン回転速度NEと、MG1回転速度N1と、リングギヤrの回転速度であるリングギヤ回転速度NRとの間には、次の回転速度関係式(式1)が成立する。
NE=(NR+λ×N1)/(1+λ)・・・(式1)
図3〜図6の速度線図上において、「△」はエンジン回転速度NE、「○」はMG1回転速度N1、「☆」はリングギヤ回転速度NRをそれぞれ示している。また、各回転要素に隣接して示す矢印は、キャリヤcaに作用するエンジンEのトルクであるエンジントルクTE、サンギヤsに作用する第一回転電機MG1のトルクであるMG1トルクT1、リングギヤrに作用する第二回転電機MG2のトルクであるMG2トルクT2、及びリングギヤrに作用する車輪Wからのトルク(車両の走行に要するトルク)である走行トルクToをそれぞれ示している。なお、上向きの矢印は正方向のトルクを示し、下向きの矢印は負方向のトルクを示している。図示されるように、「☆」で示されるリングギヤr(カウンタドライブギヤ52)には、車輪Wから出力用差動歯車装置D及びカウンタギヤ機構Cを介して作用する走行トルクToだけではなく、カウンタギヤ機構Cを介して第二回転電機MG2の出力トルクも作用する。ここで、遊星歯車装置PGのギヤ比λを用いると、エンジントルクTEと、MG1トルクT1と、MG2トルクT2と、走行トルクToとの間には、次のトルク関係式(式2)が成立する。
TE:T1:(T2+To)=(1+λ):(−λ):(−1)・・・(式2)
図3は、エンジンEと2つの回転電機MG1、MG2の双方の出力トルクにより走行するハイブリッド走行モードでの速度線図を示している。このモードでは、エンジンEは、効率が高く排ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ正方向のエンジントルクTEを出力し、このエンジントルクTEが入力軸51を介してキャリヤcaに伝達される。第一回転電機MG1は、負方向のMG1トルクT1を出力し、このMG1トルクT1がサンギヤsに伝達され、エンジントルクTEの反力を支持する反力受けとして機能する。これにより、遊星歯車装置PGは、エンジントルクTEを第一回転電機MG1と車輪W側となるカウンタギヤ機構Cとに分配する。第二回転電機MG2は、要求駆動力や車両の走行状態等に応じて、カウンタギヤ機構Cに分配された駆動力を補助すべく適宜正方向又は負方向のMG2トルクT2を出力する。
図4は、第二回転電機MG2の出力トルクのみにより走行するEV(電動)走行モードでの速度線図を示している。このモードでは、第二回転電機MG2は、車両側からの要求駆動力に応じたMG2トルクT2を出力する。すなわち、第二回転電機MG2は、車両を加速又は巡航させる方向の駆動力が要求されている場合には、図4に実線矢印で示すように、リングギヤrに負方向に作用する走行抵抗に相当する走行トルクToに抗して車両を前進させるべく、正方向に回転しながら力行して正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、第二回転電機MG2は、車両を減速させる方向の駆動力が要求されている場合には、図4に破線矢印で示すように、リングギヤrに正方向に作用する車両の慣性力に相当する走行トルクToに抗して車両を減速させるべく、正方向に回転しながら回生(発電)して負方向のMG2トルクT2を出力する。このEV走行モードでは、第一回転電機MG1は、基本的にMG1トルクT1がゼロとなるように制御され、MG2トルクT2によるサンギヤsの回転を妨げず、自由に回転可能な状態とされている。これにより、第一回転電機MG1は、MG1回転速度N1が負となる(負方向に回転する)。また、エンジンEは、燃料供給が停止された停止状態とされ、更にエンジンEの内部の摩擦力によりエンジン回転速度NEもゼロとなっている。すなわち、EV走行モードでは、遊星歯車装置PGは、キャリヤcaを支点として差動入力ギヤ56(出力部材O)及び第二回転電機MG2に駆動連結されたリングギヤrが正方向に回転(回転速度が正)し、第一回転電機MG1に駆動連結されたサンギヤsが負方向に回転(回転速度が負)する。
図5は、車両が走行中にエンジンEを停止する際の動作を説明するための速度線図であり、図6は、エンジンEを停止する際における車両の加速度に起因して各回転要素に作用するトルクの関係を説明するための速度線図である。図5において、実線は第一回転電機MG1を制御してエンジン回転速度NEを低減させている途中の状態を示し、破線はエンジン回転速度NEがゼロになりエンジンEが停止した状態を示している。ここでは、車両は走行中であるので、上述したEV(電動)走行モードと同様に、第二回転電機MG2は、車両側からの要求駆動力に応じて、図5に実線矢印で示すように、リングギヤrに正方向に作用する車両の慣性力に相当する走行トルクToに抗して車両を減速させるべく、正方向に回転しながら回生(発電)して負方向のMG2トルクT2を出力し、或いは図5に破線矢印で示すように、リングギヤrに負方向に作用する走行抵抗に相当する走行トルクToに抗して車両を前進させるべく、正方向に回転しながら力行して正方向のMG2トルクT2を出力する。そして、第一回転電機MG1は、エンジン回転速度NEを次第に低減させるように、負方向のMG1トルクT1を出力して回転速度を低下させる。後述するように、このようなエンジンEの回転を停止させるために第一回転電機MG1を制御する停止制御に際しては、エンジン回転速度NEを所定の変化率CRで変化させるようにする第一回転電機MG1の回転速度制御が行われる。そして、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となったときに停止制御を終了し、第一回転電機MG1の回転速度制御は行われなくなる。なお、車両が走行中にエンジンEを停止した後は、上述したEV(電動)走行モードへ移行する。
このように、車両が走行中にエンジンEを停止する場合には、図6に示すように、車両加速度αに比例するリングギヤrの角加速度であるリングギヤ角加速度αrと、エンジンEの慣性モーメントJEと、第一回転電機MG1の慣性モーメントJ1との関係に応じて、エンジンEにはエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、第一回転電機MG1にはMG1相互慣性トルクTi1が作用する。図6において、実線矢印は車両が減速中である場合の角加速度及びトルクの向きであり、破線は車両が加速中である場合の角加速度及びトルクの向きである。ここで、エンジン相互慣性トルクTiEは、第一回転電機MG1の慣性モーメントJ1により生じる慣性トルクの反力としてエンジンE(キャリヤca)に作用し、MG1相互慣性トルクTi1は、エンジンEの慣性モーメントJEにより生じる慣性トルクの反力として第一回転電機MG1(サンギヤs)に作用する。従って、図6に示すように、車両が減速している状態であって、リングギヤ角加速度αrが負である状態では、エンジンEには負方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、第一回転電機MG1には正方向のMG1相互慣性トルクTi1が作用する。一方、車両が加速している状態であって、リングギヤ角加速度αrが正である状態では、エンジンEには正方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、第一回転電機MG1には負方向のMG1相互慣性トルクTi1が作用する。
ここで、エンジン相互慣性トルクTiE、MG1相互慣性トルクTi1、リングギヤ角加速度αr、エンジンE(キャリヤca)の回転軸(出力軸)の角加速度であるエンジン角加速度αE、及び第一回転電機MG1(サンギヤs)の第一ロータRo1の角加速度であるMG1角加速度α1との間には、下記の関係式(式3)〜(式6)が成立する。なお、λは、上記のとおり、遊星歯車装置PGのギヤ比λ(サンギヤsとリングギヤrとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)である。
TiE=JE×αE・・・(式3)
Ti1=J1×α1・・・(式4)
λ×TiE=−(1+λ)×Ti1・・・(式5)
αE=(αr+λ×α1)/(1+λ)・・・(式6)
そして、これらの(式3)〜(式6)からエンジン角加速度αE及びMG1角加速度α1を消去してエンジン相互慣性トルクTiE及びMG1相互慣性トルクTi1のそれぞれについて解くと、下記の関係式(式7)、(式8)が成立する。
TiE=[αr×JE×J1×(1+λ)]/[JE×λ2+J1×(1+λ)2]
・・・(式7)
Ti1=−[αr×JE×J1×λ]/[JE×λ2+J1×(1+λ)2]
・・・(式8)
そして、このようなエンジンEに作用するエンジン相互慣性トルクTiEの影響によって、停止制御を終了した後のエンジン回転速度NEが低減する程度が変化し、エンジンEの停止位置が目標停止位置PT(図7参照)から外れる場合がある。すなわち、図6に示すように、車両加速度α(リングギヤ角加速度αr)が負であって、エンジンEに負方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用する状態では、図9に示すように、当該エンジン相互慣性トルクTiEが作用しない場合に比べてエンジン回転速度NEが速く低減し、エンジンEの停止位置が目標停止位置PTよりもエンジン回転方向ERの後方(遅角側)にずれることになる。一方、図6に示すように、車両加速度α(リングギヤ角加速度αr)が正であって、エンジンEに正方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用する状態では、図9に示すように、当該エンジン相互慣性トルクTiEが作用しない場合に比べてエンジン回転速度NEが遅く低減し、エンジンEの停止位置が目標停止位置PTよりもエンジン回転方向ERの前方(進角側)にずれることになる。そこで、この車両制御装置1は、車両用駆動装置2が搭載された車両の加速度を表す車両加速度αを取得し、当該車両加速度αに応じて停止制御において補正を行い、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させる。このような停止制御及びその補正の処理については、後で詳細に説明する。
3.システム構成
次に、本実施形態に係る車両制御装置1のシステム構成について説明する。図1に示すように、この車両用駆動装置2では、第一回転電機MG1を駆動制御するための第一インバータ41が、第一回転電機MG1の第一ステータSt1のコイルに電気的に接続されている。また、第二回転電機MG2を駆動制御するための第二インバータ42が、第二回転電機MG2の第二ステータSt2のコイルに電気的に接続されている。第一インバータ41と第二インバータ42とは、互いに電気的に接続されるとともに、蓄電装置43に電気的に接続されている。そして、第一インバータ41は、蓄電装置43から供給される直流電力、又は第二回転電機MG2で発電されて第二インバータ42で直流に変換されて供給される直流電力を、交流電力に変換して第一回転電機MG1に供給する。また、第一インバータ41は、第一回転電機MG1で発電された電力を交流から直流に変換して蓄電装置43又は第二インバータ42に供給する。同様に、第二インバータ42は、蓄電装置43から供給される直流電力、又は第一回転電機MG1で発電されて第一インバータ41で直流に変換されて供給される直流電力を、交流電力に変換して第二回転電機MG2に供給する。また、第二インバータ42は、第二回転電機MG2で発電された電力を交流から直流に変換して蓄電装置43又は第一インバータ41に供給する。
第一インバータ41及び第二インバータ42は、制御ユニット3からの制御信号に従い、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2のそれぞれに供給する電流値、交流波形、周波数、位相等を制御する。これにより、第一インバータ41及び第二インバータ42は、制御ユニット3からの制御信号応じたトルク及び回転数を出力するように、第一回転電機MG1及び第二回転電機MG2を駆動制御する。
蓄電装置43は、第一インバータ41及び第二インバータ42に電気的に接続されている。蓄電装置43は、例えば、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等で構成される。そして、蓄電装置43は、直流電力を第一インバータ41及び第二インバータ42に供給するとともに、第一回転電機MG1又は第二回転電機MG2により発電され、第一インバータ41又は第二インバータ42を介して供給される直流電力により充電される。車両用駆動装置2は、蓄電装置43の状態を検出するための蓄電状態検出部44を備えている。ここでは、蓄電状態検出部44は、蓄電装置43の正負極間電圧を検出する電圧センサの他、電流センサや温度センサ等の各種センサを備え、蓄電装置43の電圧及び充電量(SOC:state of charge)等を検出する。蓄電状態検出部44による検出結果の情報は、制御ユニット3へ出力される。
また、車両用駆動装置2は、第一回転電機回転速度センサSe1(以下「MG1回転速度センサ」という)、第二回転電機回転速度センサSe2(以下「MG2回転速度センサ」という)、及び入力軸回転速度センサSe3を備えている。MG1回転速度センサSe1は、第一回転電機MG1の第一ロータRo1の回転速度であるMG1回転速度N1を検出するセンサである。MG2回転速度センサSe2は、第二回転電機MG2の第二ロータRo2の回転速度であるMG2回転速度N2を検出するセンサである。ここで、MG2回転速度N2は、出力部材Oとしての差動入力ギヤ56の回転速度に常時比例する。従って、MG2回転速度センサSe2により、差動入力ギヤ56の回転速度に比例する車速も検出される。入力軸回転速度センサSe3は、入力軸51の回転速度を検出するセンサである。この入力軸回転速度センサSe3により、クラッチ63の係合状態で入力軸51と一体回転するエンジンEの回転速度、すなわちエンジン回転速度NEが検出される。これらの回転速度センサSe1〜Se3は、例えば、レゾルバやホールIC等で構成される。これらの各センサSe1〜Se3による検出結果は、制御ユニット3へ出力される。
4.制御ユニットの構成
制御ユニット3は、車両制御装置1の主要部を構成し、車両用駆動装置2の各部の動作制御を行う。本実施形態においては、制御ユニット3は、エンジン動作点決定部31、第一回転電機動作点決定部32(以下「MG1動作点決定部」という)、第二回転電機動作点決定部33(以下「MG2動作点決定部」という)、停止制御部34、加速度取得部35、残り回転量補正部36、及び補正量マップ37を備えている。この制御ユニット3は、1又は2以上の演算処理装置、及びソフトウェア(プログラム)やデータ等を格納するためのRAMやROM等の記憶媒体等を備えて構成されている。そして、制御ユニット3の上記各機能部31〜36は、前記演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うためのハードウェア又はソフトウェア或いはその両方により構成されている。また、補正量マップ37は、残り回転量補正部36により参照可能な状態で前記記憶媒体に格納されている。更に、この制御ユニット3は、エンジンEの動作制御を行うエンジン制御ユニット46と通信可能に接続されている。また、上記のとおり、制御ユニット3には、蓄電状態検出部44による検出結果の情報、及び各センサSe1〜Se3による検出結果の情報が入力される構成となっている。
本実施形態においては、制御ユニット3には、車両側から車両要求トルクTCが入力される構成となっている。ここで、車両要求トルクTCは、運転者の操作に応じて適切に車両を走行させるために車輪Wに伝達することが要求されるトルクである。したがって、この車両要求トルクTCは、車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの操作量とMG2回転速度センサSe2により検出される車速に応じて、予め定められたマップ等に従って決定される。本実施形態においては、これらの車両要求トルクTCは、車両用駆動装置2の出力部材Oとしての差動入力ギヤ56に伝達されるべきトルクとして決定される。
エンジン動作点決定部31は、エンジンEの動作点であるエンジン動作点を決定する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジンEの制御目標点を表す制御指令値であって回転速度及びトルクにより定まる。また、エンジン動作点決定部31は、エンジンEを動作させるか停止させるかというエンジン動作・停止の決定も行う。このエンジン動作・停止の決定は、車両要求トルクTC及び車速に応じて、予め定められたエンジン動作・停止マップ等に従って行われる。そして、エンジンEを動作させることを決定した場合には、エンジン動作点決定部31はエンジン動作点を決定する。エンジン動作点決定部31は、決定したエンジン動作点の情報を、エンジン制御ユニット46へ出力する。エンジン制御ユニット46は、エンジン動作点に示されるトルク及び回転速度でエンジンEを動作させるように制御する。エンジン動作点は、エンジンEが発生することを要求される出力(仕事率)と最適燃費とを考慮して決定されるエンジンEの制御目標点を表す指令値であって、エンジン回転速度指令値とエンジントルク指令値により定まる。このエンジン動作点の決定は、所定のエンジン動作点マップに基づいて行う。
一方、エンジン動作点決定部31は、エンジンEを停止させることを決定した場合には、エンジン停止指令をエンジン制御ユニット46及び停止制御部34へ出力する。エンジン制御ユニット46は、エンジン停止指令に基づいてエンジンEの燃料噴射及び点火を停止させる。停止制御部34は、エンジン停止指令に基づいて第一回転電機MG1を制御する停止制御を実行する。この停止制御部34による停止制御については、後で詳細に説明する。
MG1動作点決定部32は、第一回転電機MG1の動作点であるMG1動作点を決定する処理を行う。ここで、MG1動作点は、第一回転電機MG1の制御目標点を表す制御指令値であって回転速度及びトルクにより定まる。制御ユニット3は、MG1動作点決定部32により決定したMG1動作点に示されるトルク及び回転速度で第一回転電機MG1を動作させるように第一インバータ41を制御する。MG1動作点は、上記のように決定されたエンジン動作点のエンジン回転速度指令値と動力分配用の遊星歯車装置PGより車輪W側に駆動連結された回転部材(例えばリングギヤr)の回転速度とに基づいて決定される第一回転電機MG1の制御目標点を表す指令値であって、MG1回転速度指令値とMG1トルク指令値とにより定まる。本例では、MG1動作点決定部32は、MG2回転速度センサSe2により検出されるMG2回転速度N2と、第二回転電機MG2の第二ロータRo2からリングギヤrまでのギヤ比とに基づいてリングギヤ回転速度NRを算出する。そして、MG1動作点決定部32は、エンジン動作点のエンジン回転速度指令値をエンジン回転速度NEとし、それとリングギヤ回転速度NRとを代入して、上記の回転速度関係式(式1)により算出されるMG1回転速度N1を、MG1回転速度指令値として決定する。また、MG1動作点決定部32は、決定されたMG1回転速度指令値と、MG1回転速度センサSe1により検出される第一回転電機MG1のMG1回転速度N1との回転速度の差に基づいて、比例積分制御(PI制御)等のフィードバック制御により、MG1トルク指令値を決定する。このように決定されたMG1回転速度指令値及びMG1トルク指令値が、MG1動作点となる。
MG2動作点決定部33は、第二回転電機MG2の動作点であるMG2動作点を決定する処理を行う。ここで、MG2動作点は、第二回転電機MG2の制御目標点を表す制御指令値であって回転速度及びトルクにより定まる。制御ユニット3は、MG2動作点決定部33により決定したMG2動作点に示されるトルク及び回転速度で第二回転電機MG2を動作させるように第二インバータ42を制御する。MG2動作点は、車両要求トルクTCとエンジン動作点とMG1動作点とに基づいて決定される第二回転電機MG2の制御目標点を表す制御指令値であって、MG2回転速度指令値とMG2トルク指令値とにより定まる。ところで、上記のトルク関係式(式2)を変形すると、以下のトルク関係式(式9)が導出される。
T2=−To−TE/(1+λ)・・・(式9)
そこで、MG2動作点決定部33は、この(式9)に、車両要求トルクTCを走行トルクToと反対方向のトルク「−To」として代入し、エンジン動作点のエンジントルク指令値をエンジントルクTEとして代入することにより算出されるMG2トルクT2を、MG2トルク指令値として決定する。これにより、エンジンEから差動入力ギヤ56に伝達されるトルクの車両要求トルクTCに対する過不足を補うトルクを、第二回転電機MG2に発生させることができる。また、第二回転電機MG2の回転速度であるMG2回転速度N2は車速に常に比例するので、MG2回転速度指令値は、車速に応じて自動的に決定される。このように決定されたMG2回転速度指令値及びMG2トルク指令値により、MG2動作点が定まる。なお、上記のとおり、MG2回転速度指令値は車速に応じて自動的に決定されるため、第二回転電機MG2は、基本的にMG2動作点のMG2トルク指令値に従ってトルク制御される。
また、停止制御部34は、エンジン動作点決定部31からエンジン停止指令を受け取ったときに、エンジンEの回転を停止させるために、回転電機を制御する停止制御を行う。したがって、この停止制御部34が本発明における「停止制御手段」として機能する。そのため、停止制御部34は、まずエンジンEの回転を停止させる目標とするエンジン回転方向ERの位置として目標停止位置PTを設定する。図7は、目標停止位置PTの設定方法を説明するための説明図である。この図において、鉛直上方を基準(0°)とする時計周りの角度が、エンジンEの出力軸(クランクシャフト等)の1回転内での0°〜360°の角度(以下「位相」という。)に相当し、円周に沿った1回転がエンジンEの出力軸の1回転に相当する。目標停止位置PTは、エンジンEを始動するために必要な力を小さくでき、始動ショックも軽減できる位相(以下「停止最適位相」という。)に設定する。例えば、エンジンEが、吸気、圧縮、燃焼、排気の4行程を順次行う4サイクルの往復動機関(4サイクルエンジン)である場合には、圧縮行程又は燃焼行程にあるシリンダ内のピストンが各行程の終点付近となる位相に設定すると好適である。
本実施形態においては、停止制御部34は、エンジン停止指令を受け取ったときのエンジンEの出力軸の位置を制御開始位置PPとした場合、当該制御開始位置PPからエンジン回転方向ERに必要回転量Rn以上前方の最初の停止最適位相に目標停止位置PTを設定する。ここで、必要回転量Rnは、大きい振動やショック等を伴うことなくエンジン回転速度NEを次第に低減してエンジンEを停止させるために必要とされる回転量であり、例えば、2700°(7.5回転)に設定される。この2700°という必要回転量Rnは、エンジンEのアイドリング回転数を900〔rpm〕とし、アイドリング状態から1秒間かけてエンジンEを停止させることを想定して設定されている。従って、目標停止位置PTから必要回転量Rn分エンジン回転方向ER後方の位置を基準位置PSとし、制御開始位置PPから基準位置PSまでの回転量を余剰回転量Rmとすると、目標停止位置PTは、制御開始位置PPから必要回転量Rnに余剰回転量Rmを加えた回転量だけエンジン回転方向ER前方の位置に設定される。
停止制御部34は、目標停止位置PTを設定した後、当該目標停止位置PTまでの基準残り回転量RAを導出する。基準残り回転量RAは、後述する残り回転量補正部36による補正前の残り回転量Rであって、各時点でのエンジンEの出力軸の位置(以下「現在位置」という。)から目標停止位置PTまでの実際の回転量である。ここで、目標停止位置PTを設定した当初の基準残り回転量RA(以下「当初残り回転量RS」)は、上記のとおり、必要回転量Rnに余剰回転量Rmを加えた回転量となる。そして、各時点での基準残り回転量RAは、制御開始位置PPを基準として各時点での現在位置までに回転した回転量を、当初残り回転量RSから差し引いた残りの回転量となる。ここで導出された基準残り回転量RAは、後述するように、残り回転量補正部36により補正される。このような補正後の残り回転量Rを、本実施形態では補正残り回転量RBという。以下で説明する停止制御に際しては、基本的には補正残り回転量RBが残り回転量Rとして用いられる。なお、車両加速度αがゼロである場合には、残り回転量補正部36により導出される補正量RCがゼロとなるので、補正残り回転量RBは基準残り回転量RAと同じ値となる。
以上のように残り回転量Rが導出された後、停止制御部34は、当該残り回転量Rに応じてエンジン回転速度NEを低減させるように、第一回転電機MG1を制御する停止制御を行う。そして、停止制御部34は、このような残り回転量Rとエンジン回転速度NEとに基づいて、目標停止位置PTでエンジンEの回転が停止するようなエンジン回転速度NEの減速度である変化率CRを決定し、当該変化率CRでエンジン回転速度NEを低減させるように第一回転電機MG1の回転速度であるMG1回転速度N1を制御する停止制御を行う。停止制御部34は、変化率CRを以下の(式10)に従って導出する。
CR〔rpm/s〕=NE×NE×3/R・・・(式10)
ここで、変化率CRの単位は「rpm/s」、エンジン回転速度NEの単位は「rpm」、残り回転量Rの単位は「°(degree)」であり、分子の「3」は、単位を整合させるための係数である。
図8は、残り回転量Rとエンジン回転速度NEとに基づいて決定される変化率CRをグラフ上に示した図である。この図では、縦軸をエンジン回転速度NE、横軸を時間tとしているので、残り回転量Rは面積として表される。また、変化率CRは、エンジン回転速度NEが時間tに従って変化する傾きに相当する角度「CR」として表される。ところで、後述するように、補正残り回転量RBは、基準残り回転量RAに、車両加速度αに応じた補正量RCを加算して導出される(RB=RA+RC)。従って、基準残り回転量RAの面積と補正量RCの面積とを足し合わせた面積が、補正残り回転量RBに相当する。図8には、基準残り回転量RAに正の値をとる補正量RCを加算した補正残り回転量RBを示している。この図8において、角度「CRa」は、基準残り回転量RAに基づいて決定した基準変化率CRaを表し、角度「CRb」は、補正残り回転量RBに基づいて決定した補正変化率CRbを表している。このように、補正量RCが正の値をとり、補正残り回転量RBが基準残り回転量RAより大きい場合には、補正変化率CRbは基準変化率CRaよりも小さい値となる。一方、図示は省略するが、補正量RCが負の値をとり、補正残り回転量RBが基準残り回転量RAより小さい場合には、補正変化率CRbは基準変化率CRaよりも大きい値となる。後述するように、補正量RCが正の値をとるのは、車両は減速中であって車両加速度αが負の値をとる場合であり、補正量RCが負の値をとるのは、車両は加速中であって車両加速度αが正の値をとる場合である。
また、本実施形態においては、停止制御部34は、所定の制御周期tc毎に変化率CRを更新する。図9は、所定の制御周期tc毎に更新される変化率CRでエンジン回転速度NEを低減させる制御を行った場合における、エンジン回転速度NEの変化の軌跡(以下「エンジン回転速度変化線」という。)の一例を示した図である。この図では、図8と同様に、縦軸をエンジン回転速度NE、横軸を時間tとしている。また、図9における横軸の始点は、停止制御が開始された時、すなわちエンジンEの出力軸の位置が制御開始位置PP(図7参照)に在る時としている。そして、図9には、車両加速度αに関わらず基準残り回転量RAを用いて停止制御を行った場合のエンジン回転速度変化線を示している。具体的には、線Lb0は、車両加速度αがゼロの場合(α=0)のエンジン回転速度変化線、線Lb1は、車両加速度αが負の場合(α<0)のエンジン回転速度変化線、線Lb2は、車両加速度αが正の場合(α>0)のエンジン回転速度変化線をそれぞれ示している。この図9に示すように、停止制御部34は、制御周期tc毎に変化率CRを更新し、当該変化率CRでエンジン回転速度NEを低減させるように第一回転電機MG1を制御する停止制御を行うため、エンジン回転速度変化線Lb0、Lb1、Lb2は、制御周期tc毎に傾きが変化する折れ線状となっている。なお、制御周期tcは、例えば10〜100〔ms〕程度に設定される。
上記のように変化率CRが導出された後、停止制御部34は、現在のエンジン回転速度NEと当該変化率CRとに基づいて、目標とするエンジン回転速度NEの値を示すエンジン回転速度指令値を導出する。ここで、現在のエンジン回転速度NEは、入力軸回転速度センサSe3の検出値に基づいて取得される。エンジン回転速度指令値は、エンジンEの回転速度を制御するための第一回転電機MG1の所定の制御周期を基準とし、現在のエンジン回転速度NEが変化率CRに従って変化(低減)した場合における次の制御周期でのエンジンの回転速度とする。このように決定されたエンジン回転速度指令値は、MG1動作点決定部32へ出力される。これにより、MG1動作点決定部32が、当該エンジン回転速度指令値に従って、MG1動作点を構成するMG1回転速度指令値及びMG1トルク指令値を決定し、制御ユニット3が、当該MG1動作点に従って第一回転電機MG1を制御する。具体的には、MG1動作点決定部32により、まず、MG1回転速度指令値が導出される。本実施形態においては、MG1回転速度指令値は、上記のとおり、遊星歯車装置PGのギヤ比λとエンジン回転速度指令値とリングギヤ回転速度NRとに基づいて導出される。ここで、リングギヤ回転速度NRは、MG2回転速度センサSe2により検出されるMG2回転速度N2に基づいて導出される。そして、MG1動作点決定部32は、決定されたMG1回転速度指令値と、MG1回転速度センサSe1により検出される現在のMG1回転速度N1との差に基づいて、比例積分制御(PI制御)等のフィードバック制御により、MG1トルク指令値を決定する。そして、制御ユニット3は、決定されたMG1トルク指令値を出力させるように第一回転電機MG1を制御する。これにより、エンジン回転速度NEを、上記のように導出された変化率CRで、目標停止位置PTへ向かって次第に低減させる停止制御が実行される。
また、停止制御部34は、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となったときに、変化率CRでエンジン回転速度NEを低減させるようにする第一回転電機MG1の回転速度制御、すなわち停止制御を終了する。停止制御を終了した後は、エンジン回転速度NEは、エンジンEの各部の摩擦力によって次第に減速し、停止する。但し、このような停止制御の終了後のエンジン回転速度NEの変化率CRは、車両加速度αの影響を受けて変化する。そこで、停止制御部34は、停止制御が終了した時点での基準残り回転量RAが、車両加速度αがゼロの場合(α=0)の変化率CRでエンジン回転速度NEを減速させたときにほぼ目標停止位置PTに停止する回転量となるように、停止制御中の変化率CRを設定している。従って、図9中において、車両加速度αがゼロの場合(α=0)のエンジン回転速度変化線Lb0で囲まれる領域の面積が、目標停止位置PTを設定した当初の基準残り回転量RAである当初残り回転量RSとなる。
これに対して、車両加速度αがゼロ以外の場合には、図6を用いて既に説明したように、車両加速度αと、エンジンEの慣性モーメントJEと、第一回転電機MG1の慣性モーメントJ1との関係に応じたエンジン相互慣性トルクTiEがエンジンEに作用する。具体的には、車両が減速している状態では、エンジンEには負方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、車両が加速している状態では、エンジンEには正方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用する。従って、図9に線Lb1として示すように、車両加速度αが負の場合(α<0)には、停止制御の終了後には、車両加速度αがゼロの場合(α=0)に比べてエンジン回転速度NEが速く低減し、停止制御の開始からエンジンEの回転が停止するまでのエンジンEの総回転量が、当初残り回転量RSよりも少なくなる。よって、エンジンEの停止位置が目標停止位置PTよりもエンジン回転方向ERの後方(遅角側)にずれる。一方、図9に線Lb2として示すように、車両加速度αが正の場合(α>0)には、車両加速度αがゼロの場合(α=0)に比べてエンジン回転速度NEが遅く低減し、停止制御の開始からエンジンEの回転が停止するまでのエンジンEの総回転量が、当初残り回転量RSよりも多くなる。よって、エンジンEの停止位置が目標停止位置PTよりもエンジン回転方向ERの前方(進角側)にずれる。
そこで、制御ユニット3は、車両用駆動装置2が搭載された車両加速度αを取得し、当該車両加速度αに応じて基準残り回転量RAを補正した補正残り回転量RBを導出し、当該補正残り回転量RBを用いて第一回転電機MG1の停止制御を行う。従って、停止制御中におけるエンジン回転速度NEを変化率CRが車両加速度αに応じて調整される。これにより、停止制御を終了した後に車両加速度αに応じた加速方向又は減速方向のエンジン相互慣性トルクTiEがエンジンEに作用し、エンジン回転速度NEの変化率CRが車両加速度αがゼロの場合(α=0)に比べて変化することによる回転量の変化分を、停止制御が終了する前に予め補正することができる。そして、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させることができる。そのための構成として、制御ユニット3は、以下に説明する加速度取得部35及び残り回転量補正部36を備えている。
加速度取得部35は、車両の加速度を表す車両加速度αを取得する。したがって、この加速度取得部35が本発明における「加速度取得手段」として機能する。本実施形態においては、加速度取得部35は、MG2回転速度センサSe2の検出値を取得し、当該検出値に基づいてMG2回転速度N2の変化率(微分値)を導出し、当該MG2回転速度N2の変化率から車両加速度αを導出する。ここで、MG2回転速度N2は車速に比例するため、MG2回転速度N2の変化率に第二ロータRo2から車輪までのギヤ比及び車輪径等を考慮した係数を乗算することにより、車両加速度αを導出できる。なお、車速及び車両加速度αを、車輪Wと同速又は比例する回転速度で回転するいずれかの回転部材の角速度及び角加速度として取得する構成としても好適である。また、加速度取得部35が、車両に備えられる加速度センサ(図示せず)からの検出値によって車両加速度αを取得する構成としても好適である。或いは、車両要求トルクTCと車速に基づいて車両加速度αを導出する構成としても好適である。この場合、加速度取得部35は、車両要求トルクTCと車速とに基づいて車両加速度αを推定するマップを備え、当該マップを用いて車両加速度αを取得する構成とすることができる。
残り回転量補正部36は、車両加速度αに応じて残り回転量Rを補正する処理を行う。したがって、この残り回転量補正部36が本発明における「補正手段」として機能する。本実施形態においては、残り回転量補正部36は、車両加速度αに応じて補正量RCを導出し、現在位置から目標停止位置PTまでの実際の回転量である基準残り回転量RAに補正量RCを加算することにより、補正後の残り回転量Rである補正残り回転量RBを導出する。すなわち、残り回転量補正部36は、以下の(式11)に従って補正残り回転量RBを導出する。
RB〔°〕=RA+RC・・・(式11)
上記のとおり、停止制御部34は、残り回転量補正部36により導出された補正残り回転量RBを用いて第一回転電機MG1の停止制御を行う。本実施形態においては、制御ユニット3は、残り回転量補正部36から参照可能な補正量マップ37を備えている。残り回転量補正部36は、この補正量マップ37に基づいて車両加速度αに応じた補正量RCを導出する。
図10は、この補正量マップ37の一例を示す図である。この図に示すように、補正量マップ37は、車両加速度αがゼロである場合には補正量RCがゼロとなり、車両加速度αの値が大きくなるに従って補正量RCの値が小さくなるように規定されている。より詳しくは、補正量マップ37は、車両加速度αが正の値をとる場合には、車両加速度αの値が大きくなるに従って補正量RCの値が負方向に小さく(絶対値は大きく)なり、車両加速度αが負の値をとる場合には、車両加速度αの値が小さく(絶対値は大きく)なるに従って補正量RCの値が正方向に大きくなるように規定されている。更に、図示の例では、車両加速度αの絶対値が大きくなるに従って、補正量RCの絶対値の増加率は次第に緩やかになるように規定されている。このような補正量マップ37を用いることにより、残り回転量補正部36は、車両加速度αに基づいて、車両が加速中である場合には残り回転量Rを減少させる補正を行い、車両が減速中である場合には残り回転量Rを増加させる補正を行うことになる。
補正量RCは、実際の車両加速度αに応じた補正後の補正残り回転量RBを用いて第一回転電機MG1の停止制御を行った際の総回転量と、車両加速度αがゼロである場合に補正しない基準残り回転量RAを用いて第一回転電機MG1の停止制御を行った際の総回転量(当初残り回転量RS)とがほぼ一致するように決定される。ここで、総回転量は、停止制御が開始される位置(本例では、図7に示す制御開始位置PP)からエンジン回転速度NEがゼロとなりエンジンEが停止するまでのエンジンEの回転量である。従って、補正量マップ37には、想定し得る範囲内の加速側及び減速側の双方の車両加速度αについて、上記のような条件を満たすように予め求められた補正量RCが規定される。補正量RCをこのように決定することにより、車両加速度αに応じた加速方向又は減速方向のエンジン相互慣性トルクTiE(図6参照)がエンジンEに作用することによって、停止制御の開始からの停止までの総回転量が変化する分を、車両加速度αがゼロである場合の総回転量(当初残り回転量RS)を基準として、停止制御中の第一回転電機MG1の制御によって補正することができる。従って、車両加速度αに関わらず、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させることが可能となる。
図11及び図12は、図9と同様にエンジンEの回転を停止させる際のエンジン回転速度変化線の一例を示した図である。但し、図11及び図12は、残り回転量補正部36による補正後の補正残り回転量RBを用いた停止制御を行った場合と補正前の基準残り回転量RAを用いた停止制御を行った場合とを比較可能に示したものとなっている。図11は、車両が減速中であって車両加速度αが負のある値αaである場合(α=αa<0)における、補正残り回転量RBを用いた停止制御を行った場合のエンジン回転速度変化線Laと、基準残り回転量RAを用いた停止制御を行った場合のエンジン回転速度変化線Lb1とを示している。また、図12は、車両が加速中であって車両加速度αが正のある値αbである場合(α=αb>0)における、補正残り回転量RBを用いた停止制御を行った場合のエンジン回転速度変化線Laと、基準残り回転量RAを用いた停止制御を行った場合のエンジン回転速度変化線Lb2とを示している。なお、これらの図11及び図12の双方には、比較のために車両加速度αがゼロの場合(α=0)のエンジン回転速度変化線Lb0も併せて示している。図11にエンジン回転速度変化線Lb0で囲まれる領域の面積が、目標停止位置PTを設定した当初の基準残り回転量RAである当初残り回転量RSである。
図11に示すように、車両が減速中である場合には、残り回転量Rを補正せずに基準残り回転量RAを用いて停止制御を行うと、エンジン回転速度変化線が、線Lb1として示されるようになる。従って、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となった停止制御の終了後には、車両加速度αがゼロの場合(α=0)に比べてエンジン回転速度NEが速く低減し、図11にエンジン回転速度変化線Lb1に囲まれる領域の面積で表されるエンジンEの総回転量が、当初残り回転量RSよりも少なくなる。そこで、残り回転量補正部36は、車両加速度αに応じて補正量RCを決定し、基準残り回転量RAを補正した補正残り回転量RBを導出する。そして、停止制御部34は、このような補正残り回転量RBを用いて停止制御を行う。これにより、図11にエンジン回転速度変化線Laとして示されるように、基準残り回転量RAを用いる場合に比べて、停止制御中の変化率CRが小さくなり、エンジン回転速度NEが低減する速度が遅くなる。更に、上記のように、実際の車両加速度αに応じた補正残り回転量RBを用いて停止制御を行った際の総回転量が当初残り回転量RSとほぼ一致するように補正量RCを決定している。従って、補正残り回転量RBを用いて停止制御を行った際のエンジン回転速度変化線Laに囲まれる領域の面積で表されるエンジンEの総回転量が、当初残り回転量RSとほぼ一致することになる。これにより、車両加速度(減速度)αによってエンジンEに減速方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、停止制御を終了した後にエンジン回転速度NEの変化率CRが大きくなることで減少する回転量を、停止制御中に予め増加させておくことができる。従って、車両が減速中である場合にも、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させることができる。
図12に示すように、車両が加速中である場合には、残り回転量Rを補正せずに基準残り回転量RAを用いて停止制御を行うと、エンジン回転速度変化線が、線Lb2として示されるようになる。従って、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となった停止制御の終了後には、車両加速度αがゼロの場合(α=0)に比べてエンジン回転速度NEが遅く低減し、図12にエンジン回転速度変化線Lb2に囲まれる領域の面積で表されるエンジンEの総回転量が、当初残り回転量RSよりも多くなる。そこで、残り回転量補正部36は、車両加速度αに応じて補正量RCを決定し、基準残り回転量RAを補正した補正残り回転量RBを導出する。そして、停止制御部34は、このような補正残り回転量RBを用いて停止制御を行う。これにより、図12にエンジン回転速度変化線Laとして示されるように、基準残り回転量RAを用いる場合に比べて、停止制御中の変化率CRが大きくなり、エンジン回転速度NEが低減する速度が速くなる。更に、上記のように、実際の車両加速度αに応じた補正残り回転量RBを用いて停止制御を行った際の総回転量が当初残り回転量RSとほぼ一致するように補正量RCを決定している。従って、補正残り回転量RBを用いて停止制御を行った際のエンジン回転速度変化線Laに囲まれる領域の面積で表されるエンジンEの総回転量が、当初残り回転量RSとほぼ一致することになる。これにより、車両加速度αによってエンジンEに加速方向のエンジン相互慣性トルクTiEが作用し、停止制御を終了した後にエンジン回転速度NEの変化率CRが小さくなることで増加する回転量を、停止制御中に予め減少させておくことができる。従って、車両が加速中である場合にも、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させることができる。
これらの図11及び図12に示すように、基準残り回転量RAを用いた停止制御を行った場合における、車両加速度αがゼロの場合のエンジン回転速度変化線Lb0と、車両加速度αがゼロでない場合のエンジン回転速度変化線Lb1、Lb2とは、第一回転電機MG1の停止制御中は一致しているが、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となり、停止制御が終了した後が異なっている。従って、停止制御が終了したときからエンジンEの回転が停止するまでのエンジンEの回転量を制御終了後回転量とした場合、車両加速度αがゼロの場合とゼロでない場合との総回転量の差は、制御終了後回転量の差に等しい。本実施形態の構成によれば、残り回転量補正部36が、上記のように補正量RCを決定して残り回転量Rを補正することにより、車両加速度αがゼロである場合での制御終了後回転量と、実際の車両加速度αでの制御終了後回転量との差を、停止制御中のエンジンEの回転量を変更することで補正している。従って、停止制御を終了した後に、車両加速度αによってエンジン回転速度NEの変化率CRが変動することにより増減する回転量を、第一回転電機MG1による停止制御中に調整し、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させることができる。
5.ハイブリッド駆動装置の制御方法
次に、本実施形態に係る車両制御装置1による車両用駆動装置2に対する制御方法について、フローチャートに基づいて説明する。図13は、本実施形態に係る車両制御装置1による、エンジンEの回転を停止させるための停止制御の全体の手順を示すフローチャートである。この車両用駆動装置2の制御方法は、制御ユニット3における、主に停止制御部34、加速度取得部35、及び残り回転量補正部36を構成するハードウェア又はソフトウェア(プログラム)或いはその両方により実行される。上記の各機能部がプログラムにより構成される場合には、制御ユニット3が有する演算処理装置が、上記の各機能部を構成するプログラムを実行するコンピュータとして動作する。
エンジンEを停止させる際には、停止制御部34は、まず、エンジン停止指令があったか否かを判定する(ステップ#01)。エンジン停止指令は、エンジン動作点決定部31から出力される。そして、エンジン停止指令があった場合には(ステップ#01:Yes)、停止制御部34は、目標停止位置PTを設定する(ステップ#02)。次に、停止制御部34は、目標停止位置PTまでの残り回転量Rである基準残り回転量RAを導出する(ステップ#03)。上記のとおり、このステップ#03で導出する基準残り回転量RAは、目標停止位置PTを設定した当初は、停止制御が開始される制御開始位置PPからエンジンEが停止するまでの総回転量である当初残り回転量RSであり、その後は、各時点での現在位置から目標停止位置PTまでの回転量である。
次に、加速度取得部35により、車両加速度αを取得する(ステップ#04)。その後、残り回転量補正部36は、ステップ#04で取得した車両加速度αに応じて、残り回転量Rを補正する(ステップ#05)。上記のとおり、残り回転量補正部36は、補正量マップ37に基づいて車両加速度αに応じた補正量RCを決定し、ステップ#03で導出した基準残り回転量RAに補正量RCを加算して補正残り回転量RBを導出する。この補正残り回転量RBが、補正後の残り回転量Rとなる。次に、停止制御部34は、補正後の残り回転量R(補正残り回転量RB)に基づいて、エンジン回転速度NEの変化率CRを導出する(ステップ#06)。
その後、停止制御部34は、エンジン回転速度NEを取得する(ステップ#07)。このエンジン回転速度NEは、入力軸回転速度センサSe3の検出値に基づいて取得される。次に、停止制御部34は、ステップ#07で取得されたエンジン回転速度NEと、ステップ#06で導出されたエンジン回転速度NEの変化率CRとに基づいて、エンジン回転速度指令値を導出する(ステップ#08)。そして、制御ユニット3により、エンジン回転速度指令値に従って第一回転電機MG1が制御される(ステップ#09)。具体的には、上記のとおり、MG1動作点決定部32が、当該エンジン回転速度指令値に従って、MG1動作点を構成するMG1回転速度指令値及びMG1トルク指令値を決定し、制御ユニット3が、当該MG1動作点に従って第一回転電機MG1を制御する。これにより、エンジン回転速度NEを、上記のように導出された変化率CRで低減させる第一回転電機MG1の停止制御が実行される。
次に、停止制御部34は、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となったか否かを判定する(ステップ#10)。エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC以上である場合には(ステップ#10:No)、停止制御部34は、変化率CRを更新する所定の制御周期tcが経過したか否かを判定する(ステップ#11)。この判定は、前回の変化率CRの決定(更新)からの経過時間に基づいて行う。制御周期tcが経過していない場合には(ステップ#11:No)、処理はステップ#07へ戻り、同じ変化率CRに基づいて、ステップ#07〜#09による第一回転電機MG1の停止制御が継続される。そして、制御周期tcが経過した場合には(ステップ#11:Yes)、処理はステップ#03へ戻る。これにより、新たにその時点での現在位置から目標停止位置PTまでの残り回転量R(基準残り回転量RA)を導出し、当該残り回転量Rを車両加速度αに応じて補正した補正残り回転量RBに基づいて、新たな変化率CRを導出する。そして、新たな変化率CRに基づいて、ステップ#07〜#09による第一回転電機MG1の制御(停止制御)が行われる。
その後、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となった場合には(ステップ#10:Yes)、MG1トルク指令値をゼロとし、第一回転電機MG1の制御(停止制御)を終了する(ステップ#12)。以上で、エンジンEの回転を停止させるための停止制御を終了する。第一回転電機MG1の停止制御が終了した後は、上述のとおり、エンジン回転速度NEは、エンジンEの各部の摩擦力によって次第に減速し、停止する。この際、ステップ#05において車両加速度αに応じて残り回転量Rを補正しているので、車両加速度αによってエンジン回転速度NEの変化率CRが変動することにより増減する回転量が、第一回転電機MG1による停止制御中に調整され、エンジンEを所定の目標停止位置PTに高い精度で停止させることができる。
6.その他の実施形態
(1)上記の実施形態では、残り回転量補正部36が車両加速度αに応じた補正量RCを基準残り回転量RAに加算して補正残り回転量RBを導出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。したがって、例えば、残り回転量補正部36が車両加速度αに応じた補正量RCを基準残り回転量RAに乗算して補正残り回転量RBを導出する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成とする場合、補正量RCの値は、車両加速度αがゼロの場合(α=0)に「1」となり、車両加速度αが負の場合(α<0)に「1」より大きい値をとり、車両加速度αが正の場合(α>0)に「1」未満の値をとる構成とすると好適である。
(2)上記の実施形態では、第一回転電機MG1が、MG1回転速度指令値と現在のMG1回転速度N1との差に基づく、回転速度フィードバック制御により制御される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。従って、例えば、第一回転電機MG1が、MG1トルク指令値と現在のMG1トルクT1との差に基づく、トルクフィードバック制御により制御される構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。また、フィードバック制御の方式は、比例積分制御(PI制御)に限定されるものではなく、比例積分微分制御(PID制御)や比例制御(P制御)等を用いることも可能である。
(3)上記の実施形態では、停止制御部34が、目標停止位置PTまでの残り回転量とエンジン回転速度NEとに基づいてエンジン回転速度NEの変化率CRを決定し、当該変化率CRでエンジン回転速度NEを低減させるように第一回転電機MG1を制御する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、エンジン回転速度NEを低減するための停止制御の方法としては、エンジン回転速度NEを次第に低減することが可能な各種の制御方法を用いることができる。
(4)上記の実施形態では、停止制御部34が、エンジン回転速度NEが所定の制御終了値NC未満となったときに停止制御を終了する構成である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。従って、停止制御部34が、エンジン回転速度NEがゼロとなり、エンジンEが停止するまで停止制御を継続する構成において、残り回転量補正部36が、上記のように車両加速度αに応じて残り回転量Rを補正する構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。このような構成であれば、車両加速度に応じて加速方向又は減速方向に大きいトルクがエンジンに作用したために、停止制御中における第一回転電機MG1による回転速度制御が追従できず、エンジンの回転速度が低減する程度が変化する場合であっても、当該車両加速度に応じた変化分に相当する回転量を補正することができる。従って、このような場合にも、エンジンを所定の目標停止位置に高い精度で停止させることができる。
(5)上記の実施形態では、車両用駆動装置2が、差動歯車装置として、サンギヤs、キャリヤca、及びリングギヤrの3つの回転要素を有するシングルピニオン型の遊星歯車機構PGを有する場合を例として説明した。しかし、本発明に係る差動歯車装置の構成はこれに限定されるものではない。したがって、例えば、差動歯車装置が、ダブルピニオン型の遊星歯車機構や互いに噛み合う複数の傘歯車を用いた差動歯車機構等のように、他の差動歯車機構を有して構成されていても好適である。また、差動歯車装置は、3つの回転要素を有するものに限定されるものではなく、4つ以上の回転要素を有する構成としても好適である。この場合においても、4つ以上の回転要素の中から選択される3つの回転要素に関して、互いに他の回転要素を介することなく、第一回転要素に第一回転電機MG1が駆動連結され、第二回転要素に入力部材Iが駆動連結され、第三回転要素に出力部材Oが駆動連結された構成とすると好適である。なお、4つ以上の回転要素を有する差動歯車装置としては、例えば、2組以上の遊星歯車機構の一部の回転要素間を互いに連結した構成等を用いることができる。
(6)上記の実施形態では第一回転電機MG1の他に第二回転電機MG2を備える場合を例として説明したが、本発明に係る差動歯車装置の構成はこれに限定されるものではない。したがって、第二回転電機MG2を備えず、一つの回転電機のみを備える構成とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。
(7)上記の実施形態では、車両用駆動装置2が、差動歯車装置を備え、入力部材I(エンジンE)からの駆動力を差動歯車装置により回転電機(第一回転電機MG1)と出力部材Oとに分配する、いわゆるスプリット方式のハイブリッド車両用駆動装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。したがって、例えば、車両用駆動装置2を、入力部材I(エンジンE)の回転速度に比例して回転電機及び出力部材の回転速度が定まるように、入力部材からと出力部材とを駆動連結する駆動伝達機構が構成された、いわゆるパラレル方式のハイブリッド車両用駆動装置とすることも、本発明の好適な実施形態の一つである。この場合、回転電機は少なくとも一つ備えていればよい。