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JP4910729B2 - 炭素繊維前駆体繊維の製造方法、炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体繊維の製造方法、炭素繊維およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、素繊維前駆体繊維の製造方法、炭素繊維およびその製造方法に関するものである。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、従来からのスポーツや航空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されつつあり、更なる生産性の向上や生産安定化だけでなく、炭素繊維の高性能化の要請も高い。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、PANと記述する)系炭素繊維は、前駆体となるPAN系重合体溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して前駆体繊維を得た後、それを200〜400℃の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維へ転換し、少なくとも1,000℃の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって、工業的に製造されている。
生産性向上は、PAN系炭素繊維前駆体繊維(以下、前駆体繊維と記述する)の紡糸、耐炎化あるいは炭素化のいずれの観点からも行われている。なかでも前駆体繊維の生産性向上は次に示す問題から困難であった。すなわち、前駆体繊維を得る際の紡糸においては、PAN系重合体溶液特性にともなう限界紡糸ドラフトとその凝固構造にともなう限界延伸倍率によって生産性が制限されており、生産性を向上させるために紡糸速度を高めると延伸性低下が起こり生産が不安定化しやすく、紡糸速度を下げると生産は安定化するものの生産性は低下するため、生産性の向上と安定化の両立が困難であるという問題があった。高性能な炭素繊維を製造するためには、特に、破断の起点となりうる炭素繊維中のボイド量を少なくすること、すなわち緻密性を上げることが重要である。一方の技術として、耐炎化あるいは炭素化処理等の焼成技術や、後処理技術に関する技術が提案されている。例えば、耐炎化を浅くしたり、低速焼成を行うことによりボイド抑制する技術があるが、緻密性は向上するものの結晶サイズが粗大化し圧縮強度が低下するといった問題がある(特許文献5参照)。加圧化で炭化してボイド生成を抑制する技術が提案されているが、緻密性が向上するものの、操作、工程が非常に複雑になり、現実の生産技術として採用が困難で、かつ製造コストが大幅に上昇するため、生産性に乏しいという問題を有している(特許文献6参照)。炭素繊維に気相処理、液相処理、電解処理など種々の後処理を施すことにより繊維表層部のボイドを除去して緻密性を向上させる技術が提案されているが、内部のボイドは残ってしまい緻密性が不充分であるといった問題がある。他方の技術として、前駆体繊維の緻密性を上げる技術についても多く提案されている。例えば、PAN系重合体の凝固条件や延伸条件といった紡糸方法を特定化する技術があるが、従来のPAN系重合体を用いている限り、適正化の範疇を越えない。
単糸内部のボイドへの油剤の侵入を少なくしたアクリル繊維を焼成することにより、高品位な炭素繊維を得る技術が開示されている。これによると、焼成時に発生する膠着数は少なくなっているものの、炭素繊維の緻密性向上効果はみられない(特許文献7参照)。
乾式紡糸法は、紡糸原液を口金孔から高温度の気体雰囲気中に吐出して溶媒を蒸発させて濃縮、固化させる方法であり、引き取り速度は溶媒の蒸発律速となるため、引き取り速度の高速化に伴い長大な紡糸筒が必要になるなどの欠点がある。
湿式紡糸法は、紡糸原液を口金孔から凝固浴に吐出させる方法である。紡糸原液が口金孔から吐出された直後から凝固が進行するため、引き取り速度の高速化に従って実質の紡糸ドラフトが高くなるが、口金面で糸切れが発生するという問題があるために、引き取り速度を高く設定することには限界がある。そこで、凝固浴濃度を臨界濃度近くまで上げ、極めて緩慢な凝固条件を設定して紡糸ドラフトを高める技術が提案されている(特許文献1参照)。しかし、凝固浴の高濃度化に伴い入念な水洗工程が必要となる為、引き取り速度が上げられないというのが実状である。
乾湿式紡糸法は、紡糸原液が一旦空気中(エアーギャップ)に吐出されてから凝固浴中に導かれるので、実質的な紡糸ドラフトはエアーギャップ内にある原液流で吸収され、高速紡糸が可能であることから、これまでいくつかの提案がなされている。例えば、流下式凝固浴を用いて、浴抵抗をできるだけ軽減することにより引き取り速度を向上させる技術が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この特許文献2に開示された技術では、引き取り速度を大幅に向上できるものの、(1)特殊形状の紡糸口金であるため細繊度が得られないこと、(2)凝固浴の構造が複雑で工業的に実現できる技術でないこと、および(3)流下筒出のスリットと通過する糸束の太さ等の関係で操作や操業性が悪化するなどの問題があった。
紡糸原液の重合体濃度を制御することにより、紡糸原液粘度を下げ、ろ過操作における操作性を良好にし、紡糸ドラフトを向上させる技術が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この提案によれば、紡糸ドラフトが10と向上効果が認められるものの、(1)重合体濃度が低いために溶剤使用量が多くなり経済的でなく、そして(2)凝固浴内での凝固速度を低下せしめ、内部にボイドが生じて緻密な構造が得られないという問題がある。また、口金孔径を大きくすることにより流動安定化し紡糸ドラフトを向上させる技術があるが、口金孔径を大きくすると凝固工程の繊維径が大きくなり、繊維表層と繊維中心部で凝固促進成分と溶媒の交換速度差が生じ、繊維中心部での重合体が析出した構造が疎となり、緻密性の高い前駆体繊維を得ることができない。特許文献4の比較例8に示すように口金孔径を小さくすると紡糸ドラフトを上げることができず、凝固前に繊維径を小さくすることが不可能であった。
また一般に、溶融紡糸などの溶融成形において大きい伸長変形下で粘度を高くすることが不安定流動を抑制する点で有効であることが知られている。適用事例は種々あるが、ポリスチレンの主鎖に分岐構造を導入する方法、超高分子量の重合体を少量加える方法、ポリプロピレンにジエンを共重合する方法などが挙げられる。紡糸用重合体として、このような重合体を用いた場合、曳糸性が向上することが知られている。しかしながら、PAN系重合体の一般的な紡糸方法である溶液紡糸への適用は、ほとんど行われてこなかったのが実状である。
本発明者らは、従来技術の有する上記問題点に鑑み、高性能な炭素繊維を生産性よく効率的に得ることに関して鋭意検討の結果、本発明に達した。
特開平2−14012号公報 特開平2−289121号公報 特開2004−149983号公報 特開昭48−2014号公報 特開昭59―21709号公報 特開昭64―77618号公報 特開平11−107034号公報
そこで本発明の目的は、紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフトを高めることができるPAN系重合体溶液を提供することにある。また、その重合体溶液を用いることにより、生産性を損なうことなく毛羽立ちの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を製造する方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、上記の高品位な炭素繊維前駆体繊維を用いた高性能かつ高品位な炭素繊維を焼成工程でも安定して製造することができる方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために、本発明に用いられる炭素繊維前駆体繊維製造用PAN系重合体溶液は次の構成を有する。すなわち、アクリロニトリル100モル部に対して、複数個のラジカル反応性基を含有する単量体を0.001〜1モル部共重合してなるPAN系重合体が溶媒に溶解してなる溶液であって、本文中に規定する伸長時破断時間が20秒以上である、炭素繊維前駆体繊維製造用PAN系重合体溶液である。
また、上記の目的を達成するために、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は次の構成を有する。すなわち、前記の炭素繊維前駆体繊維製造用PAN系重合体溶液を乾湿式紡糸する、炭素繊維前駆体繊維の製造方法であって、乾湿式紡糸するに際し、紡糸ドラフトを12〜100の範囲とする炭素繊維前駆体繊維の製造方法である。
さらに、上記の目的を達成するために、本発明の炭素繊維の製造方法は次の構成を有する。すなわち、上記の製造方法によって得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理し、次いで1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化処理する、炭素繊維の製造方法である。
本発明によれば、紡糸速度を高め、かつ、紡糸ドラフトを高めることができるPAN系重合体溶液を用いることにより、生産性を損なうことなく毛羽立ちの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を製造できる。そのような高品位な炭素繊維前駆体繊維を用いているので、高性能かつ高品位な炭素繊維を焼成工程でも安定して製造することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるPAN系重合体溶液は、PAN系重合体が溶媒に溶解してなる溶液であって、伸長時破断時間が20秒以上、好ましくは50秒以上、より好ましくは100秒以上である。伸長時破断時間の上限は特に制限はないが、600秒もあれば十分なことが多い。
本発明において、伸長時破断時間とは次のようにして測定される値を言う。すなわち、温度35℃に保温されたPAN系重合体溶液0.1mlを同軸且つ垂直に配置された一対の直径4mmの円形プレート間(ギャップ2mm)に封入し、上方のプレートを31.5m/分の速度で18mm垂直に引き上げそのまま保持した時、プレート引き上げ終了直後からフィラメントの破断までの時間である。かかる伸長時破断時間は、具体的には、サーモハーケ社製の伸長粘度計CaBER1を用いて測定することができる。前記伸長粘度計は、サンプルを同軸且つ垂直に配置された一対の円形プレート間に封入し、上方のプレートを引き上げ、そのまま保持し、サンプルのフィラメント径の時間変化をレーザーマイクロメーターにて測定する。サンプルのフィラメント径は時間に伴い減少し、ついには破断に至るが、フィラメント径の変化が急激でなく、漸減する傾向にあり、破断するまでに時間がかかるほど、曳糸性が高いことになる。このように高い曳糸性を持つ重合体溶液を用いることで、生産性の向上と安定化の両立を図りつつ、毛羽立ちの少ない高品位な前駆体繊維を製造することができるのである。
本発明において、かかる伸長時破断時間であれば、重合体溶液の組成に特に制限はないが、その制御には、重合体分子量分布、分岐構造、絡み合い量、架橋構造の制御などの方法を採用することができる。そのメカニズムは、必ずしも明確になった訳ではないが、次のように考えている。口金孔直後での伸長変形の間、構造が緩和する時間を長くすることで絡み合いや架橋点などの拘束点間の分子鎖が緊張し、伸長粘度の急激な増大がおこる。従来の重合体溶液を用いた場合は、重合体溶液の細化に伴い流動不安定となりやすいが、本発明の重合体溶液では流動安定化する。そのため、口金からの吐出においても、また、かかる伸長時破断においても破断しにくいものと考えている。分子鎖の拘束された、いわゆるゲルの形成には、物理的な架橋と化学的な架橋があるが、かかる架橋は、架橋度の制御の容易性から化学的な架橋が好ましい。また、重合と同時に架橋をさせる方法と高分子鎖をあとから熱、光や放射線で架橋させる方法があるが、後者は均一な架橋構造を得ることが困難であることが多いため、前者が好ましい。
上記したPAN系重合体は複数個のラジカル反応性基を含有する単量体(以下、多官能性単量体と称す)を共重合成分としてアクリロニトリル(以下、ANと略称する)に共重合して得られる。多官能性単量体における官能基の数は2個以上であるが、6個もあれば十分であることが多く、2個であることが最も好ましい。かかる官能基は、ラジカル重合で発生したラジカルによりANと反応する官能基(本発明では、ラジカル反応性基と記述する)であることが好ましく、炭素−炭素二(三)重結合を有することが好ましい。かかる二(三)重結合は、その結合の炭素原子のうち最初の炭素原子の位置が分子の最短のところから数えて炭素原子3個以内であるものがより好ましい。例えば、ビニル基、イソプロペニル基および1−プロペニル基などが挙げられる。ここで、アリル基、アクリル基、アクリロイル基およびγ−アクリロキシプロピル基などはビニル基を含むため、本発明ではビニル基の中に含まれる。また、メタクリル基、メタクリロイル基およびγ−メタクリロキシプロピル基などはイソプロペニル基を含むため、本発明ではイソプロペニル基に含まれる。ANとの均一共重合の観点から、特に、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
かかるラジカル反応性基をつなぐ原子団は、炭素数2〜20の直鎖あるいは分岐アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが好ましく、またそれらの結合の間にエステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、グアニジン結合を含んでも構わない。分岐構造を含む場合は、その末端基は特に限定しない。
本発明で用いられる多官能性単量体としては、(メタ)アクリロイル基−C1-10直鎖あるいは分岐アルキル基−X−直鎖あるいは分岐C1-10アルキル基−(メタ)アクリロイル基で示す化合物(アルキル基は一部水酸基で置換されていても構わなく、Xはシクロアルキル基、エステル基、エステル基−C1-6直鎖あるいは分岐アルキル基−エステル基のいずれかもしくは省略可)が好ましい。特に、(メタ)アクリロイル基−C2-20直鎖あるいは分岐アルキル基− (メタ)アクリロイル基で示す化合物が好ましい。
本発明で用いられる多官能性単量体としては、具体的な化合物として、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどを挙げることができる。
また、多官能性単量体において、ラジカル反応性基をつなぐ原子団としては、上述した原子団以外にも、イオン結合を含んでも構わない。すなわち、カルボン酸に代表されるイオン性末端基の複数個が、対イオンとなる多価の金属によりイオン結合されているものも本発明では共重合成分として好適に用いられる。例えば、2つのカルボン酸含有モノビニル単量体が、MgやCaなどのアルカリ土類金属などのイオンによりイオン結合し、あたかも二官能性単量体として振る舞っているものが挙げられる。かかるカルボン酸含有モノビニル単量体としては、具体的な化合物として、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレートなどを挙げることができる。
複数のラジカル反応性基をつなぐ原子団としてイオン結合を含むような単量体を共重合した構造のPAN系重合体は、ANと、イオン性末端基を含有した単官能性単量体とを重合した後、そのイオン性末端基をアルカリ土類金属などのイオンによりイオン結合させることにより得ることもできるが、そのようにして得たPAN系重合体は、不均一な架橋構造となりやすく、また、金属イオンが有効に働かず、多量の金属イオンが必要となることが多いため、イオン性末端基を含有した単官能性単量体と金属イオンとを混合したものを、多官能性単量体として、ANと重合して得ることが重要である。ただし、金属イオンは、炭素繊維の力学的特性を低下させることが多いため、その添加量は、架橋必要最低限であることが好ましく、できれば、金属イオンを骨格に含まない多官能性単量体を用いることが好ましい。
本発明に用いられる多官能性単量体の共重合量はAN100モル部に対して、0.001〜1モル部であることを必須とし、好ましくは、0.01〜0.3モル部、より好ましくは、0.05〜0.1モル部とするのが良い。重要なことは、多官能性単量体を含まない重合体の重量平均分子量当たりの共重合比率が、0.25×10−9〜40×10−9モル/g、好ましくは1×10−9〜10×10−9モル/gとすることである。かかる共重合比率が0.25×10−9モル/g未満では、弾性が不足することが多く、40×10−9モル/gを超えると弾性が強すぎることが多く、いずれの場合でも上述の伸長時破断時間が20秒未満となることが多い。かかる共重合比率は、以下の式で求める。
共重合比率(モル/g)=(多官能性単量体の共重合量(モル部)/100)/多官能性単量体を含まない以外は同じ条件で作製した重合体の重量平均分子量(g/モル)
本発明で好適に用いられるPAN系重合体の組成としては、共重合成分として、上述した多官能性単量体の他に、ANと共重合可能な他の単量体をAN100モル部あたり5モル部以下なら共重合させてもよいが、他の共重合成分量が多くなるほど共重合部分での熱分解による分子断裂が顕著となり、得られる炭素繊維の引張強度が低下する。
ANと共重合可能な他の単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類などを用いることができる。
本発明において、PAN系重合体を製造するための重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などから選択することができるが、ANや共重合成分を均一に重合する目的からは、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いて重合する場合、溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒が好適に用いられる。中でも、PANの溶解性の観点から、ジメチルスルホキシドを用いることが好ましい。
次に、本発明で用いられるPAN系重合体溶液について説明する。PAN系重合体溶液の重合体濃度は、15〜25重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは17〜23重量%で、最も好ましくは19〜21重量%である。重合体濃度が15重量%以下であると溶剤使用量が多くなり経済的でないし、凝固浴内での凝固速度を低下させ、内部にボイドが生じて緻密な構造が得られないことがある。一方、重合体濃度が30重量%を超えると粘度が上昇し、紡糸が困難となる傾向を示す。紡糸溶液の重合体濃度は、使用する溶媒量により調製することができる。
本発明において重合体濃度とは、PAN系重合体の溶液中に含まれるPAN系重合体の重量%である。具体的には、PAN系重合体の溶液を計量した後、PAN系重合体を溶解せずかつPAN系重合体溶液に用いる溶媒と相溶性のあるものに、計量したPAN系重合体溶液を脱溶媒させた後、PAN系重合体を計量する。重合体濃度は、脱溶媒後のPAN系重合体の重量を、脱溶媒する前のPAN系重合体の溶液の重量で割ることにより算出する。
また、45℃におけるPAN系重合体溶液の粘度は、150〜2,000ポイズの範囲であることが好ましく、より好ましくは200〜1,500ポイズで、さらに好ましくは300〜1,000ポイズで、最も好ましくは400〜800ポイズである。溶液粘度が150ポイズ未満では、紡糸糸条の賦形性が低下するため、口金から出た糸条を引き取る速度、すなわち可紡性が低下する傾向を示す。また、溶液粘度は2,000ポイズを超えるとゲル化し易くなり、安定した紡糸が困難になる傾向を示す。また、溶液粘度が1,000ポイズを越えると、高圧で口金から吐出する必要があり、わずかな吐出量で高圧による紡糸口金の変形や紡糸装置の耐久性が低下しやすく、安定した操業ができないことがある。紡糸溶液の粘度は、重合開始剤や連鎖移動剤の量などにより制御することができる。
本発明において45℃の温度におけるPAN系重合体溶液の粘度は、B型粘度計により測定することができる。具体的には、ビーカーに入れたPAN系重合体溶液を、45℃の温度に温度調節された温水浴に浸して調温した後、B型粘度計として、例えば、(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ローターNo.4を使用し、PAN系重合体溶液の粘度が0〜1,000ポイズの範囲はローター回転数6r.p.m.で測定し、またその紡糸溶液の粘度が1,000〜10,000ポイズの範囲はローター回転数0.6r.p.m.で測定する。
次に、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法について説明する。
PAN系重合体溶液を紡糸する前に、高強度な炭素繊維を得る観点から、その溶液を、例えば、目開き1μm以下のフィルターに通し、重合体原料および各工程において混入した不純物を除去することが好ましい。
本発明では、前記したPAN系重合体溶液を、紡糸原液として、乾湿式紡糸法により紡糸することにより、炭素繊維前駆体繊維を製造することができる。乾湿式紡糸法は、紡糸原液を口金から一旦空気中に吐出した後、凝固浴中に導入して凝固させる紡糸方法である。
本発明では、PAN系重合体溶液の紡糸ドラフトは12〜100の範囲とし、紡糸ドラフト好ましくは13〜50の範囲であり、より好ましくは13〜35の範囲である。ここで紡糸ドラフトとは、紡糸糸条(フィラメント)が口金を離れて最初に接触する駆動源を持ったローラーの表面速度(凝固糸の巻き取り速度)を、口金孔内のPAN系重合体溶液の線速度(吐出線速度)で割った値をいう。この吐出線速度とは、単位時間当たりに吐出される重合体溶液の体積を口金孔面積で割った値をいう。したがって、吐出線速度は、溶液吐出量と口金孔径の関係で決まる。PAN系重合体溶液は、口金孔を出て凝固溶液に接して次第に凝固してフィラメントとなる。このとき第一ローラーによりフィラメントは引張られているが、フィラメントよりも未凝固紡糸溶液の方が伸び易いので、紡糸ドラフトとは、紡糸溶液が固化するまでに引き伸ばされる倍率を示すことになる。すなわち、紡糸ドラフトは次式で表されるものである。
紡糸ドラフト=(凝固糸の巻き取り速度)/(吐出線速度)
上記の紡糸ドラフトを高めることは、生産性を向上させるだけでなく、前駆体繊維の緻密性向上への寄与も大きい。紡糸ドラフトを高める程、前記したようにエアーギャップで延伸されるため、凝固浴に進入する前に細化して繊維表層と繊維中心部の物理的距離が短くなり、効率よく凝固促進成分と溶媒の交換が行うことが出来る。また、繊維の細径化への寄与も大きい。紡糸ドラフトが12を超えない場合、PAN系繊維の単繊維繊度を1.5デシテックス(以下、dtexと表記)以下にするためには乾熱延伸工程もしくは蒸気延伸工程が必要となり、本発明の効果である高品位なPAN系繊維を得ることが困難である。したがって生産性・緻密性向上の観点から紡糸ドラフトは高ければ高いほど好ましいが、口金面で糸切れが発生することが多くなるため、現実的には100以下である。吐出線速度は、0.1〜30m/分であることが好ましい。吐出線速度が0.1m/分を下回ると、生産性が落ちる。一方、吐出線速度が30m/分を超えると、凝固浴の液面揺れが顕著になり、得られる繊度にムラが生じやすい。
乾湿式紡糸で用いる口金は、その孔径が0.05mm〜0.3mmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.18mmで、最も好ましくは0.1〜0.15mmである。口金孔径が0.05mmより小さい場合、紡糸原液を高圧で口金から吐出する必要があり、紡糸装置の耐久性が低下し、更にノズルからの紡出が困難となる。一方、口金孔径が0.3mmを超えると1.5dtex以下の単繊維繊度の繊維を得ることが困難であり、口金孔径が0.18mmを越えると、凝固工程の繊維径が大きくなり、繊維表層と繊維中心部で凝固促進成分と溶媒の交換速度差が生じて、繊維中心部での重合体が析出した構造が疎となり、緻密性の高い炭素繊維前駆体繊維を得ることが困難となる。
本発明において、凝固浴には、PAN系重合体溶液で溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアクリロニトリル系重合体の溶媒と、いわゆる凝固促進成分の混合物を用いることが好ましい。凝固促進成分としては、前記のPAN系重合体を溶解せず、かつPAN系重合体溶液に用いた溶媒と相溶性があるものが好ましく、具体的には、水を使用することが好ましい。乾湿式紡糸で用いる凝固浴は、凝固糸(単繊維)が真円状でかつ繊維側面が平滑となる範囲で有機溶剤の濃度を高くし、温度を低く設定することが好ましい。例えば、溶剤にジメチルスルホキシドを用いた場合は、ジメチルスルホキシド水溶液の濃度を5〜80重量%とし、凝固浴温度を−10〜60℃とすることが好ましい。
凝固浴として、より好ましくは臨界濃度の0.7倍以下、好ましくは0.2倍以上0.6倍以下の溶媒を含むのが良い。本発明でいう臨界濃度とは、溶液紡糸における可紡性が極小値となる濃度をいい、以下の測定法で定義する。すなわち、次に示す重合体溶液を湿式紡糸し、溶媒と凝固促進成分の割合を変化させて、限界紡糸ドラフトが最低となる濃度のことである。
重合体組成 :AN100モル%
極限粘度 :1.8
重合体濃度 :20重量%
一般に、溶液紡糸では、凝固浴中の凝固促進成分の割合を減らし、溶媒量を増やしていくと、臨界濃度で可紡性は極小値となり、重合体が凝集できる限界濃度まで溶媒を増やすと可紡性は極めて高まり、その濃度を超えると繊維を形成しなくなる。しかしながら、上述のとおり、凝固浴中の溶媒濃度を上げると入念な水洗工程が必要となるため、溶媒濃度は低いことが好ましい。臨界濃度は従来から十分に検討されており、溶媒/凝固促進成分がジメチルホルムアミド/水のときは76重量%であり、ジメチルアセトアミド/水のときは79重量%であり、ジメチルスルホキシド/水のときは70重量%である。そのため、ジメチルスルホキシド/水のときに好ましい凝固浴中のジメチルスルホキシド濃度は49重量%以下であり、より好ましくは14重量以上42重量%以下となる。
PAN系重合体溶液を凝固浴中に導入して凝固させ糸条を形成した後、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程および乾燥工程を経て、前駆体繊維が得られる。また、上記の工程に乾熱延伸工程や蒸気延伸工程を加えてもよい。凝固後の糸条は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。浴中延伸は、通常、30〜98℃の温度に温調された単一または複数の延伸浴中で行うことが好ましい。そのときの延伸倍率は、1〜5倍であることが好ましく、より好ましくは1〜3倍である。
浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、延伸された糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。シリコーン油剤は、耐熱性の高いアミノ変性シリコーン等の変性されたシリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
乾燥工程は、公知の方法を利用することができる。例えば、乾燥温度が70〜200℃で乾燥時間が10秒から200秒の乾燥条件が好ましい結果を与える。生産性の向上や結晶配向度の向上として乾燥工程後に延伸してもよいが、毛羽立ちによる品位の低下を招くおそれがある。
このようにして得られた前駆体繊維の単繊維繊度は、0.2〜1.5dtexであることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.0dtexであり、さらに好ましくは0.3〜0.7dtexである。単繊維繊度が小さすぎると、可紡性の低下、ローラーやガイドとの接触による糸切れ発生などにより、製糸工程および炭素繊維の焼成工程のプロセス安定性が低下することがある。一方、単繊維繊度が大きすぎると、耐炎化後の各単繊維における内外構造差が大きくなり、続く炭化工程でのプロセス性低下や、得られる炭素繊維の引張強度および引張弾性率が低下することがある。本発明における単繊維繊度(dtex)とは、単繊維10,000mあたりの重量(g)である。
本発明の前駆体繊維の結晶配向度は、85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。結晶配向度が85%を下回ると、得られる前駆体繊維の強度が低くなることがある。
得られる前駆体繊維は、通常、連続繊維(フィラメント)の形状である。また、その1糸条(マルチフィラメント)当たりのフィラメント数は、好ましくは1,000〜3,000,000本であり、より好ましくは12,000〜3,000,000本であり、さらに好ましくは24,000〜2,500,000本であり、最も好ましくは24,000〜2,000,000本である。1糸条あたりのフィラメント数は、生産性の向上の目的からは多い方が好ましいが、あまりに多すぎると、束内部まで均一に耐炎化処理できないことがある。
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
前記した方法により製造された前駆体繊維を、200〜300℃の温度の酸化性雰囲気中において、好ましくは緊張あるいは延伸条件下、より好ましくは延伸比0.8〜2.5で延伸しながら、耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.5で延伸しながら予備炭化処理し、1,000〜2,000℃の最高温度の不活性雰囲気中において、好ましくは延伸比0.9〜1.1で延伸しながら、炭化処理して炭素繊維を製造する。耐炎化処理における酸化性雰囲気としては、空気が好ましく採用される。この耐炎化工程で得られる耐炎化繊維の密度は、好ましくは1.3〜1.4g/cmになるようにするのがよい。すなわち、耐炎化が不十分で耐炎化繊維の密度が1.3g/cmに満たない場合には、炭化する際に単糸間接着を発生しやすくなり、また、分解ガスの発生量が多くなり緻密性が低下しやすくなるため、高性能な炭素繊維が得にくく、結晶サイズLcが粗大化する傾向にあり圧縮強度が向上しない。一方、過度に耐炎化を進めるとポリマー主鎖の切断が起こり、最終的に得られる炭素繊維の引張強度が低下する問題があるため、耐炎化密度は1.4g/cmを超えないことが好ましい。
本発明において、予備炭化処理や炭化処理は不活性雰囲気中で行うが、不活性雰囲気に用いられるガスとしては、窒素、アルゴンおよびキセノンなどを例示することができ、経済的な観点からは窒素が好ましく用いられる。予備炭化処理では、その温度範囲における昇温速度を500℃/分以下に設定することが好ましい。また、炭化処理における最高温度は、所望する炭素繊維の力学物性に応じて適宜設定することができるが、一般に炭化処理の最高温度が高いほど、得られる炭素繊維の引張弾性率が高くなるものの、引張強度は1,500℃付近で極大となるため、引張強度と引張弾性率の両方を高めるという目的からは、炭化処理の最高温度は1,200〜1,700℃、好ましくは1,300〜1,600℃とするのが良い。一方、炭化処理の最高温度が1,500℃を越えると、窒素原子の消失に伴い発生するボイド量が増加するため、緻密な炭素繊維を得る観点からは1,500℃以下にするのが良い。
得られた炭素繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いられる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アンモニウムのようなアルカリまたはそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維の炭化度に応じて適宜選択することができる。
電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維マトリックスとの接着性が適正化することができ、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないという問題が解消され、得られる複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
電解処理の後、炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理を施すこともできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、マトリックス樹脂等との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
このようにして、引張弾性率が290GPa以上であり、小角X線散乱の0.5〜5°までの積算強度(以下、小角X線散乱強度積算値という)yが、下記の(1)式の関係を満たす炭素繊維を好適に得ることができる。
y<−14,000Lc−17,250+0.6YM・・・(1)式
(Lcは広角X線回折の炭素網面の(002)面に対する回折の半価幅より求めた結晶サイズ〔nm〕、YMは炭素繊維の引張弾性率〔GPa〕)
引張弾性率が295GPaのときの結晶サイズLcと、小角X線散乱強度積算値yの関係をグラフに表すと図1のようになる。(1)式は、グラフ中の直線より下の領域を示している。
この小角X線散乱強度積算値yは、炭素繊維中のボイド量を評価する指標であり、その値が小さいほどボイド量が少なく緻密な炭素繊維であるといえる。ボイドが増加すると欠陥となって強度が低下することがあるため、ボイドが少ないことが好ましい。
本発明で得られる炭素繊維は、同一結晶サイズLcで比較した場合、かかる小角X線散乱強度積算値yが従来の炭素繊維では達成できなかったものとなり、ボイドが少なく、緻密性の高い炭素繊維となっている。
ボイド径の大きさが近い試料の間で比較する場合は、散乱強度のパターンが比較的良く似ているため任意の散乱角の散乱強度で、ボイド量の大小関係を一義的に決められるが、ボイド径の大きさやその大きさの分布が異なる場合は、他の試料と比較して、ある散乱角の散乱強度は強いが、別の散乱角の散乱強度は弱いといったことが起こり、一義的に大小関係を決めることはできなくなる。そこで、小角X線散乱積算値yを評価指標として用いる。小角X線散乱強度は、散乱角2θ=0.5°よりも低角側ではX線ビームの広がりや装置スリットの影響を受けやすく測定が困難な場合があり、そのために誤差が含まれる可能性がある。一般にボイド径が大きい程、散乱が低角側に現れることが知られているが、積算下限を0.5°にすることによる数え落としは、実際の炭素繊維のボイド分布を考慮すると数%であり、測定誤差も考えると数え落としの影響は少ない。一方、積分範囲の上限は、小角X線散乱法で一般に言われているボイド径評価の下限は約1nmであり、炭素繊維のボイド分布を考慮すると積算上限は散乱角2θ=5°にするのが良い。
小角X線散乱強度の絶対値レベルは同一評価装置での再現性は高いが、装置間で差違が生じやすいので、装置間差を補正するために標準サンプルとして東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T300―6Kを用い、T300―6Kでのステップ間隔が0.01°ごとの0.5°〜5°の散乱強度の総和である小角X線散乱強度積算値yが10,000cpsとなるように、得られた小角X線散乱強度を比例計算により補正して求める。結晶サイズLcは黒鉛化度を示す一つの指標であり、引張弾性率と相関が高いものである。また、繊維軸方向の結晶サイズLaと相関が高いことから圧縮強度の指標として用いられている。すなわち、圧縮変形を受けた際に大きい結晶ほど座屈破壊しやすいためだと考えられている。本発明では、口金孔径が小さくても従来より紡糸ドラフトを高く設定して前駆体繊維を製造するため、引張弾性率および結晶サイズLcが高い割には、小角X線散乱強度積算値yを低く押さえることができ、前記(1)式を満たすことができる。(1)式を満たす限り引張弾性率は高いことが好ましく、290〜450GPa、好ましくは320〜400GPa、より好ましくは345〜370GPaであるのが良い。
本発明により得られる炭素繊維は、プリプレグとしてオートクレーブ成形、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形、およびフィラメントワインディングで成形するなど種々の成形法により、航空機部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿およびゴルフシャフトなどのスポーツ部材として、好適に用いることができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本実施例で用いた測定方法を次に説明する。
<伸長時破断時間>
溶液温度35℃に保温されたPAN系重合体溶液0.1mlを同軸且つ垂直に配置された一対の直径4mmの円形プレート間(ギャップ2mm)に封入し、上方のプレートを31.5m/分の速度で18mm垂直に引き上げそのまま保持した時、プレート引き上げ終了直後からフィラメントの破断までの時間を測定する。
なお、本実施例では、サーモハーケ社製の伸長粘度計CaBER1を用いた。
<重量平均分子量Mw当たりの共重合比率>
多官能性単量体を含まない以外は測定しようとする重合体と同じ条件で重合体を作製し、その重合体を用いる。その濃度が0.1重量%となるように、ジメチルホルムアミド(0.01N−塩化リチウム添加)に溶解し、検体溶液を得る。得られた検体溶液について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、単にGPCという)装置を用いて、次の条件で測定したGPC曲線より、分子量分布曲線を求め、Mwを算出する。
カラム :極性有機溶媒系GPC用カラム
流速 :1ml/分
温度 :40℃
試料濾過 :メンブレンフィルター(0.5μmカット)
注入量 :0.1ml
検出器 :示差屈折率検出器
なお、Mwは、分子量が異なる分子量既知の単分散ポリスチレンを少なくとも3種類用いて、溶出時間―分子量の検量線を作成し、該検量線上において、該当する溶出時間に対応する分子量を読み取ることにより求める。

なお、本実施例では、GPC装置として(株)島津製作所製CLASS−LC10を、カラムとして東ソー(株)製TSK−GEL−α―M(×2)を、ジメチルホルムアミドおよび塩化リチウムとして和光純薬工業(株)製を、メンブレンフィルターとしてミリポアコーポレーション製0.5μ−FHLP FILTERを、示差屈折率検出器として(株)島津製作所製RID−10AVを、検量線作成用の単分散ポリスチレンとして、分子量184000、427000、791000、1300000のものを、それぞれ用いた。ここで得られた多官能性単量体を含まない以外は同じ条件で作製した重合体の重量平均分子量と多官能性単量体の共重合量から以下の式で求める。共重合量は、共重合されているかに関わらず使用した量を用いる。共重合比率(モル/g)=(多官能性単量体の共重合量(モル部)/100)/多官能性単量体を含まない以外は同じ条件で作製した重合体の重量平均分子量(g/モル)

<重合体溶液の重合体濃度> あらかじめ計量したPAN系重合体溶液を水中に細く垂らすことにより、直径1mm以下の線状組織を得る。その後、90℃の温度の熱水中で2時間脱溶媒して、120℃の温度で2時間乾燥させた後、線状組織を計量した。次式を用いて、紡糸溶液の重合体濃度(重量%)を求めた。

重合体濃度=(乾燥後の線状組織重量)/(脱溶媒前の重合体溶液重量)×100 <重合体溶液の粘度>
B型粘度計として(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ローターNo.4を使用し、PAN系重合体溶液粘度が0〜1,000ポイズの範囲は、ローター回転数6r.p.m.で、また粘度が1,000〜10,000ポイズの範囲は、ローター回転数0.6r.p.m.で、いずれも45℃の温度におけるPAN系重合体溶液の粘度を測定した。
<前駆体繊維の品位等級の基準>
検査項目は、6000フィラメントの繊維束を1m/分の速度で走行させながら毛玉・毛羽の個数を数え、五段階評価した。評価基準は、下記のとおりである。
・等級1:繊維300m中、1個以内
・等級2:繊維300m中、2〜5個
・等級3:繊維300m中、6〜10個
・等級4:繊維300m中、11〜15個
・等級5:繊維300m中、16個以上。
<炭素繊維の品位等級の基準>
検査項目は、焼成後、表面処理・サイジング処理前に24000フィラメントの繊維束を1m/分の速度で走行させながら毛玉・毛羽の個数を数え、五段階評価した。評価基準は、下記のとおりである。
・等級1:繊維30m中、1個以内
・等級2:繊維30m中、2〜5個
・等級3:繊維30m中、6〜10個
・等級4:繊維30m中、11〜15個
・等級5:繊維30m中、16個以上。
<炭素繊維の散乱角2θ=1°における小角X線散乱強度および小角X線散乱強度積算値y>
繊維束を40mm長に切断し、40mgを精秤採取する。試料繊維軸が正確に平行になるように、揃えた後、試料調整用治具を用いて幅2mmの厚さが均一な試料繊維束に整える。薄いコロジオンを含浸させて形態がくずれないように固定した後、繊維軸がX線スリットの長手方向と平行になるようにセットし、炭素繊維軸と垂直方向の散乱を計測する。
装置には(株)リガク社製RINT2200使用し、X線源にはCuKα線を使用し、出力40kV、40mAで測定した。
散乱角2θ=1°における小角X線散乱強度は、赤道方向の1°の位置における散乱強度をシンチレーションカウンターで測定し、装置間差を補正するために標準サンプルとして東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T300―6Kを用い、T300―6Kでの散乱角2θ=1°に対する小角X線散乱強度が950cpsとなるように、得られた小角X線散乱強度を比例計算により補正して求める。
一方、小角X線散乱強度積算値yは、赤道方向の0.5〜5°の位置における散乱強度を、ステップ間隔0.01°で測定し、装置間差を補正するために標準サンプルとして東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T300―6Kを用い、T300―6Kでのステップ間隔が0.01°ごとの0.5°〜5°の散乱強度の総和である小角X線散乱強度積算値yが10,000cpsとなるように、得られた小角X線散乱強度を比例計算により補正して求める。
<炭素繊維の結晶サイズLc>
繊維束を40mm長に切断して、20mgを精秤して採取し、試料繊維軸が正確に平行になるようにそろえた後、試料調整用治具を用いて幅1mmの厚さが均一な試料繊維束に整える。薄いコロジオン液を含浸させて形態が崩れないように固定した後、広角X線回折測定試料台に固定する。装置には(株)リガク社製4036A2型X線発生装置使用し、X線源としてNiフィルターで単色化されたCuKα線を用い、2θ=26°付近に観察される面指数(002)のピークについて、下記(2)式により算出した値を面間隔dとする。
d=λ/(2 sinθ) …(2)
ここで、λ:X線の波長(この場合0.15418nm)、θ:回折角を言う。
また、ここで、結晶サイズLcとは、X線回折により次のとおり求められる結晶サイズ(nm)を言う。X線源として、Niフィルターで単色化されたCuKα線を用い、2θ=26°付近に観察される面指数(002)のピークを赤道方向にスキャンして得られたピークからその半価幅を求め、下記(3)式により算出した値を結晶サイズLcとする。
Lc=λ/(β0 cos θ) …(3)
ここで、λ:X線の波長(この場合0.15418nm)、θ:回折角、β0 :真の半価幅を言う。なお、β0 は下記(4)式により算出される値を用いる。
β0 =(βe 2 −βl 2 1/2 …(4)
ここで、βe :見かけの半価幅、βl :装置定数((株)リガク社製4036A2型X線発生装置を出力35kV、15mAで使用した場合、1.05×10-2rad)を言う。
<炭素繊維束の引張強度および引張弾性率>
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃の温度で30分で硬化させて作製する。また、炭素繊維のストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を引張強度とする。なお、本実施例では、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル−3、4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートとして、ユニオンカーバイド(株)製“ベークライト”(登録商標)ERL4221を用いた。

[実施例1〜8] 表1に示した組成からなる共重合成分を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により、アゾビスイソブチロニトリルを開始剤としてラジカル重合した。なお、実施例8においては、カルボキシエチルアクリレートとMg(OH)2を良く混合した後、共重合成分として用いた。PAN系重合体溶液を表1に示すように調製した。得られたPAN系重合体溶液を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃の温度で、孔数6,000、口金孔径0.15mmの紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約2mmの空間を通過させた後、3℃の温度にコントロールした20重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により紡糸し凝固糸条とした。このときの吐出線速度は10m/分で一定とし、凝固糸の巻取り速度を変更することで限界紡糸ドラフトの測定を行った。また、吐出線速度10m/分、紡糸ドラフト12の条件で凝固糸条を得た。
このようにして得られた凝固糸条を、水洗した後、90℃の温水中で表2に示すような浴中延伸倍率で延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与して浴中延伸糸を得た。このようにして得られた浴中延伸糸を165℃の温度に加熱したローラーを用いて30秒間乾燥を行い、表2に示すような乾熱延伸倍率で180℃乾熱延伸を行い、単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数6,000の前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の品位は優れており、製糸工程通過性も安定していた。得られた前駆体繊維を4本合糸し、トータルフィラメント数24,000とした上で、240〜260℃の温度の温度分布を有する空気中において延伸比1.0で延伸しながらで100分間耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。続いて、得られた耐炎化繊維を300〜700℃の温度の温度分布を有する窒素雰囲気中において、延伸比1.1で延伸しながら予備炭化処理を行い、さらに最高温度1,500℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.96に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。このときの焼成工程通過性はいずれも良好であった。実施例2の前駆体繊維を焼成した炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、引張強度は6.5GPaであり、引張弾性率は295GPaであった。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。また、実施例8の前駆体繊維を焼成した炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、引張強度は5.5GPaであり、引張弾性率は295GPaであった。
[実施例9〜20]
PAN系重合体の共重合成分を表3、4、5に示すように変更した他は、実施例1と同様にしてPAN系重合溶液を調製した。実施例1と同様にして、伸長時破断時間と限界紡糸ドラフトを測定した結果を表3、4、5に示す。いずれの実施例も、長い伸長時破断時間と高い限界紡糸ドラフトの値を示した。[実施例21]
実施例2で得られた前駆体繊維を、240〜260℃の温度の温度分布を有する空気中において延伸比1.3で延伸しながらで100分間耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。続いて、得られた耐炎化繊維を300〜700℃の温度の温度分布を有する窒素雰囲気中において、延伸比1.2で延伸しながら予備炭化処理を行い、さらに最高温度1,400℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.96に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。
[実施例22]
耐炎化延伸比を1.5に変更した他は、実施例21と同様にして炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。
[実施例23]
ドラフトを20に変更した以外は、実施例2と同様にして炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。
[比較例1〜4]
PAN系重合体の共重合成分を表1のように変更した他は、実施例1と同様にしてPAN系重合溶液を調製した。また、紡糸ドラフトを3とし、浴中延伸倍率を表2のようにし、浴中延伸糸を表2に示すような水蒸気延伸倍率で加圧水蒸気延伸した他は、実施例1と同様にして、製糸、焼成および評価を行なった。比較例1〜4は、紡糸ドラフトを3に下げて、それ以降の延伸倍率を限界近くまで上げたため、糸切れが発生し製糸の工程安定性が悪かった。また、得られた前駆体繊維の品位も悪かった。得られた前駆体繊維を実施例1と同様に焼成して炭素繊維を得ようとしたところ、前駆体繊維の品位が悪かったため、焼成工程で毛羽が多く糸切れが発生した。比較例1の前駆体繊維を焼成した炭素繊維束のストランド物性を測定したところ、引張強度は5.0GPaであり、引張弾性率は295GPaであった。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。
[比較例5]
PAN系重合体の共重合成分を表1のように変更した他は、実施例1と同様にしてPAN系重合溶液を調製した。実施例1と同様にして、伸長時破断時間と限界紡糸ドラフトを測定した結果を表1に示す。得られたPAN系重合体溶液を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃の温度で、孔数6,000、口金孔径0.10mmの紡糸口金を用い、60℃の温度にコントロールした60重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に吐出する湿式紡糸法により紡糸し、吐出線速度は10m/分、紡糸ドラフト0.8の条件で凝固糸条を得た。浴中延伸倍率を表2のようにし、浴中延伸糸を表2に示すような水蒸気延伸倍率で加圧水蒸気延伸した他は、比較例1と同様にして炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。凝固時の繊維径が太いため、得られた炭素繊維の緻密性は低かった。
[比較例6]
比較例1と同様にしてPAN系重合溶液を調製した。また、浴中延伸糸を表2に示すような乾熱延伸倍率で延伸し、耐炎化延伸比を1.7倍にした他は、比較例1と同様にして炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。
[比較例7、8]
比較例1で得た前駆体繊維を焼成する際、耐炎化繊維比重がそれぞれ1.47g/cm、1.20g/cmまで加熱したところで耐炎化を終了した他は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。耐炎化繊維比重が低いほど、小角X線散乱強度は小さくなるが、Lcが大きくなり、(1)式を満たすものではなかった。
[比較例9]
比較例1で得た耐炎化繊維を焼成する際、耐炎化繊維束約20mを黒鉛製円筒に巻き付け、繊維束の両端を黒鉛製円筒に縛って緊張状態とした後、ハステロイ−Xを材質としたオートクレーブ中に設置、窒素置換し、初圧(加熱前の圧力)をボンベ圧の130kg/cm・Gとした。そして終圧(加熱終了時の圧力)を300kg/cm・Gとして、昇温速度5℃/分で室温から650℃まで加熱し、10分間保持した。昇温過程でオートクレーブ内の不活性ガスあるいは生成した低沸点化合物が膨張して圧力が増加し、温度450℃で300kg/cm・Gとなるが、300kg/cm2・Gを越す場合はガスをリークして一定圧力とした。炭化繊維は、黒鉛製円筒に巻いたまま、さらに常圧下、窒素雰囲気中で1450℃まで加熱し、炭素繊維とした。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図1にプロットした。小角X線散乱強度は小さくなるが、Lcが大きくなり、(1)式を満たすものではなかった。
[実施例24]
実施例2で得られた前駆体繊維を、240〜260℃の温度の温度分布を有する空気中において延伸比1.5で延伸しながらで100分間耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。続いて、得られた耐炎化繊維を300〜700℃の温度の温度分布を有する窒素雰囲気中において、延伸比1.2で延伸しながら予備炭化処理を行い、さらに最高温度1,600℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.98に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図2にプロットした。
[実施例25]
実施例2で得られた炭素繊維を、最高温度1,950℃の窒素雰囲気中において、延伸比を1.0に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図2にプロットした。
[比較例10]
比較例1で得られた炭素繊維を、最高温度1,950℃の窒素雰囲気中において、延伸比を1.0に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図2にプロットした。
[比較例11]
比較例6で得られた炭素繊維を、最高温度1,950℃の窒素雰囲気中において、延伸比を1.0に設定して炭化処理を行い、連続した炭素繊維を得た。この炭素繊維について得られた物性(引張弾性率、小角X線散乱強度、結晶サイズLc)を表6に示すとともに図2にプロットした。
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引張弾性率が295GPaである炭素繊維において、結晶サイズLcと小角X線散乱強度積算値yとの関係を示すグラフである。 引張弾性率が350GPaである炭素繊維において、結晶サイズLcと小角X線散乱強度積算値yとの関係を示すグラフである。
本発明では、高速紡糸、かつ、高紡糸ドラフトを行うことの可能なPAN系重合体溶液を用いることにより、生産性を損なうことなく高品位な前駆体繊維を製造することができ、その得られた前駆体繊維を用いることにより、焼成工程でも安定して高性能でかつ高品位な炭素繊維の製造することができ有用である。

Claims (6)

  1. アクリロニトリル100モル部に対して、複数個のラジカル反応性基を含有する単量体を0.001〜1モル部共重合してなるポリアクリロニトリル系重合体が溶媒に溶解してなり、明細書中に規定する伸長時破断時間が20秒以上である、炭素繊維前駆体繊維製造用ポリアクリロニトリル系重合体溶液を乾湿式紡糸する炭素繊維前駆体繊維の製造方法であって、乾湿式紡糸するに際し、紡糸ドラフトを12〜100の範囲とする炭素繊維前駆体繊維の製造方法
  2. 前記重合体溶液は、その重合体濃度が15〜25重量%であり、その45℃の温度における粘度が300〜1,000ポイズである、請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  3. 用いる口金は、その孔径が0.05〜0.18mm以下である、請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  4. 用いる凝固浴は、アクリロニトリル系重合体の溶媒と凝固促進成分の混合物であって、かつ臨界濃度の0.7倍以下の溶媒を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られた炭素繊維前駆体繊維を、200〜300℃の温度の空気中において耐炎化処理した後、300〜800℃の温度の不活性雰囲気中において予備炭化処理し、次いで1,000〜3,000℃の温度の不活性雰囲気中において炭化処理する、炭素繊維の製造方法。
  6. 請求項5に記載の製造方法によって得られた炭素繊維であって、その引張弾性率が290GPa以上であり、明細書中に規定する小角X線散乱強度の0.5〜5°までの積算値yが、下記の(1)式の関係を満たす炭素繊維。
    y<−14,000Lc−17,250+0.6YM・・・(1)式
    (Lcは広角X線回折の炭素網面の(002)面に対する回折の半価幅より求めた結晶サイズ[nm]、YMは炭素繊維の引張弾性率[GPa])
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