JP4815692B2 - 電解質及び非水電解液の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気二重層キャパシタ向けに好適な高純度の電解質及び非水電解液を安価に製造する方法に関する。電気二重層キャパシタは二次電池と比べ、サイクル特性、充放電特性、安全性などの点で優れており、特に近年、無停電電源やハイブリッド自動車等の蓄電システムとして期待されている。
【0002】
【従来の技術】
電気二重層キャパシタに使用される電解液としては、プロピレンカーボネート(PC)などの有機溶媒に電解質として第四級アンモニウム塩を溶解した非水系電解液が知られている。この四級アンモニウム塩として、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートがPCへの溶解度が高いことから好適に用いられている。
【0003】
四級アンモニウムテトラフルオロボレートの製造法として、従来、四級アンモニウムの塩素化物あるいは臭素化物、水酸化物とテトラフルオロホウ酸の水溶液とを反応させる方法が知られている。この方法は原料中の塩素あるいは臭素が一部製品中に混入し、電気二重層キャパシタの性能に影響を与えるという問題がある。また、四級アンモニウムの水酸化物を用いる方法は塩素、臭素の混入がなく好ましいが、水酸化物は通常、四級アンモニウムの塩素、臭素化物塩の電気分解により製造されるため、やはり塩素、臭素の混入という問題がある。さらに、カチオンとして4級アンモニウムの水酸化物塩、あるいはアニオンとしてホウフッ化水素酸水溶液のどちらかを原料として電解質を製造した場合、得られる水分を含む電解質から水分を完全に取り除くことは非常に困難である。電解液中に水分が混入した場合、四級アンモニウムテトラフルオロボレートの加水分解によりフッ化水素が生成して電極材料を腐食したり、製品のサイクル特性に影響を与えたりすることが知られている。そのため、水分の混入しない電解質あるいは電解液が必要である。このようにトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの製造法では塩素、臭素、水分等の不純物のない高純度のものを得ることは難しい。
【0004】
塩素、臭素及び水分の混入を解決するために四級アンモニウム塩のアルキル炭酸塩と無水フッ化水素および三フッ化ホウ素とを反応させる方法も知られている。例えば特開2000−16995号では四級アンモニウムアルキル炭酸塩とフッ化水素、次いで三フッ化ホウ素とを反応させる方法が開示されている。この方法は塩素、臭素及び水分の混入がない点で優れている。しかしながら四級アルキルアンモニウムのアルキル炭酸塩あるいは重炭酸塩は、通常アルキルアミンとジアルキルカーボネートをアルコール等の溶媒存在下で四級化させる方法で製造されており、比較的高価なジアルキルカーボネートを原料とし、反応後は炭酸ガスとアルコールに分解するため再使用も難しく経済的でない。
また、生成する四級アンモニウムテトラフルオロボレートの精製は通常、再結晶する方法が用いられる。トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートを製造する際には、トリエチルメチルアンモニウムメチル炭酸塩と無水フッ化水素と三フッ化ホウ素とを反応させる工程で炭酸ガスとメタノールが同時に副生する。メタノールはトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの溶解度が高いため、再結晶精製において、ろ液へのトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートのロスが多くなり、リサイクル等が必要で経済的でない。そのため反応生成液からメタノールを留去して溶解度の低い別の再結晶溶媒を加えるか、あるいは貧溶媒を添加する必要があり、工程が複雑となる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は高純度、低水分のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートを安価な原料から工業的に有利に製造する方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は上記の方法により製造した電解質を非水溶媒と混合して電気二重層キャパシタに好適な高純度の電解液を製造することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記のような課題を有する電解液の製造方法について鋭意検討した結果、トリエチルアミンとギ酸メチルをアルコール溶媒下、四級化反応させ、次いで低沸を留去した後、エタノール、メチルエチルケトンあるいはイソプロパノール溶媒中で低沸留去後の反応液に無水フッ化水素及び三フッ化ホウ素を添加し反応させることによりスラリー液を得、このスラリー液をろ過することにより、比較的安価なギ酸メチルを原料として容易に高純度のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートが製造できることを見いだし本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、トリエチルアミンとギ酸メチルを溶媒中で反応させトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩を得る第一工程、無水フッ化水素及び三フッ化ホウ素をトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩にエタノール、メチルエチルケトン、イソプロパノール溶媒存在下に添加する第二工程からなることを特徴とする実質的に無水のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの製造方法に関するものであり、このようにして得た電解質塩を非水溶媒に溶解してなる非水系電解液に関するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の方法ではトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートは下記の式により製造される。
<第一工程>
(C2H5)3N + HCOOCH3 → (C2H5)3(CH3)N + (HCOO - )
<第二工程>
(C2H5)3(CH3)N + (HCOO - ) + HF + BF3 → (C2H5)3(CH3)N + (BF4) - + HCOOH
【0009】
本発明の第一工程は、通常、トリエチルアミンとギ酸メチルとアルコールを反応槽に仕込み加圧下、加熱する事により行われる。
トリエチルアミン、ギ酸メチル、アルコールは、目的物であるトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの水分及び金属等の少ないことが好ましいことから、原料から低水分かつ高純度のものを使うことが望ましい。脱水方法、精製方法は特に制限されないが、ゼオライト、アルミナ等で処理した後、蒸留する方法を用いることができる。第一工程の原料の仕込み方法は特に制限されないが、バッチ操作の場合はすべての原料を一括して仕込むことができる。
【0010】
ギ酸メチルの合成法は特に制限されないが、メタノールの脱水素により合成されたギ酸メチルを用いることができる。ギ酸メチルの仕込量はトリエチルアミンに対して1〜1.5モル比の範囲である。これより少ない場合はトリエチルアミンが第二工程に持ち込まれ、得られるトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの純度が下がる。これより多く用いることもできるが経済的でない。
【0011】
本発明の第一工程で用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。中でもメタノールが好ましい。アルコールの仕込量はトリエチルアミンに対して0.1〜50モル比である。これより少ない場合には反応速度が小さく、これより多い場合には空時収率が低下する。
【0012】
第一工程の反応温度は50〜250℃の範囲、好ましくは80〜200℃の範囲である。これより反応温度が低い場合、反応は完結せず、これより高い場合には収率が低下する。反応圧力は特に制限されないが、反応液の反応温度での自圧で好適に行うことができる。反応時間は用いる原料の組成、反応温度等により一概に言えないが、通常0.5〜20時間の範囲である。また、必要に応じて不活性ガスの存在下で反応を行うこともできる。
【0013】
第一工程の反応液は未反応の原料、溶媒等の低沸を留去した後、第二工程の反応に用いられる。第二工程の仕込みは、上記第一工程の釜残を溶媒に溶解したトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩溶液に、無水フッ化水素と三フッ化ホウ素を吹き込んだテトラフルオロホウ酸溶液を供給する方法により行われる。ここで第一工程の釜残を溶解する溶媒も、無水フッ化水素と三フッ化ホウ素を溶解した溶媒も共にトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの溶解度の低い溶媒である。逆の順番、即ちテトラフルオロホウ酸溶液にギ酸塩溶液を供給する方法を用いた場合には、副生するギ酸が分解し一酸化炭素と水に分解するため好ましくない。
【0014】
本発明の第二工程で用いられるトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの溶解度の低い溶媒としては、エタノール、メチルエチルケトン、イソプロパノールが挙げられる。
【0015】
無水フッ化水素の仕込量は、通常、トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩に対して0.9〜1.1モル比、好ましくは0.95〜1.05モル比である。これより少ないと反応が完結せず、これより多いとトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート中に取り込まれるフッ化水素が増加しキャパシタの性能に影響を与える。三フッ化ホウ素の仕込み量は、通常、トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩に対して1〜1.1モル比である。これより少ないと反応は完結せず、これより多いと経済的でない。無水フッ化水素及び三フッ化ホウ素を吹き込む溶媒の量は特に制限されないが、通常、無水フッ化水素に対して0.1〜20モル比、好ましくは0.5〜10モル比である。溶媒はあらかじめ脱水したものを用いるのが好ましい。なお、フッ化水素と三フッ化ホウ素との等モルから錯体であるテトラフルオロホウ酸が生成される。従って、フッ化水素と三フッ化ホウ素とを含む溶液中には必ずテトラフルオロホウ酸が存在する。本発明においては、テトラフルオロホウ酸も、フッ化水素と三フッ化ホウ素との混合物と同様に使用できる。
【0016】
第二工程の反応温度、圧力は特に制限されないが、通常、室温、常圧で好適に行われる。反応時間は通常、0.02〜20時間、好ましくは0.1〜5時間である。
【0017】
トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートは、第二工程のスラリー状の生成液を、ろ過、溶媒洗浄、乾燥することにより高収率で精製できる。従来のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの製造法である、トリエチルメチルアンモニウムメチル炭酸塩とフッ化水素及び三フッ化ホウ素とを反応させる方法では炭酸ガスとメタノールが生成する。このメタノールはトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの溶解度が高く、生成液は均一であり、濃縮あるいは蒸発乾固後、別の溶媒で再結晶する必要があった。しかし、本発明の方法ではメタノールの生成はないため、生成液は結晶の析出したスラリーであり、ろ過により高収率でトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの結晶が得られる。また、本発明の方法では第二工程の反応後に生成するギ酸は蒸留等の方法により回収した後、エステル化して再利用することにより経済性を高めることもできる。ろ液は濃縮、一部廃棄した後、ろ過工程あるいはその他の工程にリサイクルする事もできる。本発明の方法は回分、流通どちらの方法でも実施できる。
【0018】
本発明の電解質塩を非水溶媒に溶解して、電気二重層キャパシタ用電解液を調製する。非水溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状カルボン酸エステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;およびスルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの非プロトン性溶媒から選ばれる溶媒が挙げられ、単独で、または混合溶媒として用いられる。耐電圧、電気伝導率、使用可能温度範囲などの総合的な観点から、非水溶媒としてプロピレンカーボネートが好ましい。また脱水剤、活性炭表面の改質剤等の添加剤を添加することもできる。
【0019】
電解液中のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの濃度は、電解液の電気伝導度が充分に高くて内部抵抗を低く保つことができ、かつ低温で塩が析出して不具合を生じない0.3〜3.0mol/lの範囲、好ましくは0.5〜2.0mol/lが特に好ましい。電解液中の水分量は好ましくは100ppm以下、特に好ましくは30ppm以下にする必要がある。本発明の電解液は、電極、集電体、セパレータ、その他の必要な要素を備えるキャパシタに好適に使用される。
【0020】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、原料は、いずれもあらかじめ脱水したものを用いた。
【0021】
実施例1
第一工程 攪拌機の付いた2lのテフロンライニング製の反応容器に、トリエチルアミン303g(3モル)、ギ酸メチル234g(3.9モル)、メタノール480g(15モル)を仕込み、攪拌しながら160℃に加熱した。160℃となってから8時間反応を継続した。その際の圧力は5MPaであった。反応液から減圧濃縮により低沸を留去した。低沸を留去した釜残の一部をサンプリングし、イオンクロマトグラフィーにて分析したところトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩の収率はトリエチルアミン基準で71.2モル%であった。
【0022】
第二工程 攪拌機の付いた1lのフッ素樹脂製のHF−BF3 調合槽に、エタノール386g(8.4モル)を仕込み、5℃に冷却しながら無水フッ化水素42g(2.1モル)を常圧で滴下し、次いで三フッ化ホウ素ガス141g(2.1モル)を吹き込みテトラフルオロホウ酸のエタノール溶液を調製した。また、第一工程の釜残にエタノール483g(10.5モル)を加え、トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩のエタノール溶液を調製した。テトラフルオロホウ酸のエタノール溶液を、20℃、常圧でトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩のエタノール溶液中へ徐々に滴下した。滴下終了後、1時間攪拌を続けた。得られたスラリー生成液を、ろ過、少量のエタノールでリンスし、真空乾燥することによりトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの白色結晶391g(1.9モル)を得た。イオンクロマトグラフィーによる分析の結果、得られた結晶の純度は99.5重量%、収率はトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩基準で90モル%であった。また、得られた結晶中の水分は50ppm以下、フッ素イオンは50ppm以下であり、ICPによる金属分析の結果、重金属はいずれも検出限界(1ppm)以下であった。
【0023】
電解液の調製 プロピレンカーボネート溶媒に、上記で合成したトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートを溶解した後、減圧下プロピレンカーボネートの一部を留去することにより、1.8モル濃度の電解液を調製した。この電解液中の水分をカールフィシャー水分計で測定した結果、20ppmであった。
【0024】
実施例2
第二工程の溶媒としてエタノールのかわりにメチルエチルケトンをHF−BF3 調合槽に400g(5.6モル)、第一工程の釜残に500g(6.9モル)とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。真空乾燥後のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート結晶の純度は99.5重量%、収率はトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩基準で89モル%であった。
【0025】
実施例3
第二工程の溶媒としてエタノールのかわりにイソプロパノールをHF−BF3 槽に400g(6.7モル)、第一工程の釜残に500g(8.3モル)とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。真空乾燥後のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート結晶の純度は99.5重量%、収率はトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩基準で89モル%であった。
【0026】
比較例1
第二工程においてトリエチルメチルアンモニウムギ酸塩のかわりにトリエチルメチルアンモニウムメチル炭酸塩を用いた以外は実施例2の第二工程と同様に反応を行った。テトラフルオロホウ酸を添加する際に炭酸ガスの発泡が見られ、反応生成液はメタノールの生成により均一の液体であり、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの結晶は得られなかった。
【0027】
【発明の効果】
本発明により、比較的安価な原料を用い高純度、低水分のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートを工業的に有利に製造でき、また、このトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートを非水溶媒と混合することにより電気二重層キャパシタ向けに好適な電解液を製造できるため、この工業的意義は極めて大きい。
Claims (2)
- トリエチルアミンとギ酸メチルをアルコール溶媒中で反応させ、トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩を得る第一工程、トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩と無水フッ化水素及び三フッ化ホウ素とをエタノール、メチルエチルケトン、イソプロパノールから選ばれた一種以上の溶媒の存在下に反応させる第二工程からなることを特徴とする実質的に無水のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの製造方法。
- 第二工程において、原料の添加順序が、トリエチルメチルアンモニウムギ酸塩溶液中に、無水フッ化水素及び三フッ化ホウ素溶液を添加する順序であることを特徴とする請求項1記載のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの製造方法。
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