JP4843883B2 - スパッタリングターゲット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜製造の際に好適に使用できるスパッタリングターゲットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の情報社会およびマルチメディアを支える半導体素子、記録媒体、フラットパネルディスプレイ(FPD)等のデバイスには、多種多様の薄膜が使用されている。薄膜を形成する手段としては、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等があげられる。中でも、スパッタリング法は、大面積に均一な膜を成膜するのに有利なため、FPDの分野では多く使用されている。
【0003】
FPD用の薄膜形成用スパッタリング装置は、静止対向型の枚葉式装置と基板通過型のインライン装置の2種類に大別される。近年のFPDの大型化にともない、パネル製造に使用されるガラス基板のサイズが大型化し、そのため、薄膜製造の際に使用されるターゲットも基板サイズに合わせて大型化が進行している。たとえば、静止対向型スパッタリング装置用ターゲットでは810mm×910mm、インライン式スパッタリング装置用ターゲットでは、300mm×980mmにも達している。
【0004】
FPD用ターゲットとして使用される材料は、クロム、アルミニウム(合金)、モリブデン(モリブデン合金)等に代表される金属系材料と、ITO(Indium Tin Oxide)に代表されるセラミクス系材料に大別される。ターゲット材としてセラミクス系材料を使用した場合、前記のような大型のターゲットを作製する場合、粉末の成形性の悪化により生産歩留が低下するため、複数の焼結体を1枚のバッキングプレート上に接合させた多分割ターゲットが用いられている。
【0005】
ターゲット部材である焼結体のバッキングプレートへの接合は、焼結体とバッキングプレートの双方をはんだ材の融点以上まで加熱し、接合した後、冷却して行われる。この冷却過程で、焼結体とバッキングプレートの熱膨張率の違いからターゲットが反り焼結体に応力が加わり、焼結体が割れてしまうという問題が生じていた。また、成膜工程ではターゲットをスパッタリング装置に取り付けた後、真空排気したときにターゲットが裏面から大気圧を受けて生じる反りによる応力や、スパッタリング中に発生する熱応力によっても焼結体が割れてしまうという問題が生じていた。割れの発生したターゲットはその度合いにもよるが、放電させることができなかったり、放電できたとしても異常放電やパーティクルの大量発生につながるため、スパッタリングに供することができず、解決すべき重要な課題となっていた。
【0006】
特開2001−26863号公報には、ターゲット表面の研削方向をボンディングに発生する反りの方向に平行にさせることにより割れの発生を低減でき、さらに焼結体の表面粗さ(Ra)を低下させることにより曲げ強度が向上できることが報告されている。しかしながら、本発明者らが上記公報記載の方法に従って作製した研削方向がターゲットの反り方向に平行な数種類の焼結体について詳細に検討したところ、同程度のRaを有する焼結体であっても曲げ強度には焼結体毎に差があることが明らかとなった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、セラミクス材ターゲットの製造工程(特にボンディング工程)やターゲットを成膜装置に取り付けスパッタリングに供した時に発生する焼結体の割れをより確実に低減できるセラミクス材スパッタリングターゲットを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、セラミクス焼結体の加工方法と曲げ強度の相関を詳細に調べた。その結果、▲1▼焼結体の曲げ強度は焼結体の硬度を高めることにより向上する、▲2▼加工の際の表面粗さを低下させることにより曲げ強度は向上する、▲3▼同程度の硬度を有したITO焼結体に対して同程度の表面粗さに加工した場合であっても曲げ強度は異なるとの知見を得た。そして、同程度の硬度を有したITO焼結体に対して同程度の表面粗さに加工した場合であっても曲げ強度の異なる要因を検討した結果、焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部の残留加工傷が曲げ強度に大きな影響を与えており、該研削方向に対して平行なエッジ部に対してR面加工あるいはC面加工を行い、前記残留加工傷を取除くことにより応力が該加工傷に集中することを防止できるので、焼結体の曲げ強度を安定的に向上させ、焼結体の割れの発生を確実に抑制できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、スパッタリング面に長軸に対して実質的に平行方向に平面研削が施された矩形の焼結体を含むスパッタリングターゲットにおいて、前記焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部に対して面取りされているスパッタリングターゲットである。
【0010】
本発明の焼結体はいかなるサイズ、枚葉式、インライン式など、いかなる方式のスパッタリングターゲットに対しても適応可能であるが、ターゲットサイズが大きくなるほど、焼結体の割れをより確実に低減できるという本発明の効果は得やすくなる。また、例えば図1に見られるような1枚のバッキングプレート上に1枚の焼結体のみを接合させた場合でも、複数の焼結体を接合させた場合であっても適応可能である。1枚のバッキングプレート上に複数の焼結体を接合させた場合では、図2に見られるような接合させた焼結体全てがスパッタリング面に長軸に対して平行方向に平面研削が施されている必要はなく、図3に見られるような少なくとも1枚の焼結体のスパッタリング面に長軸に対して平行方向に平面研削が施されていてもよい。
【0011】
以下、本発明を焼結体としてITOを採用した場合について詳細に説明する。
【0012】
はじめに、酸化インジウム粉末と酸化スズ粉末との混合粉末にバインダー等を加え、プレス法あるいは鋳込み法等の成形方法により成形してITO成形体を製造する。
【0013】
成形法としては、プレス法、鋳込み法どちらも使用可能であるが、緻密な成形体を得やすい鋳込み法が好ましい。この際、使用する粉末の平均粒径が大きいと焼結体の緻密化が進行しない場合があるので、使用する粉末の平均粒径は1.5μm以下であることが望ましく、更に好ましくは0.1〜1.5μmである。次に得られた成形体に必要に応じて、CIP等の圧密化処理を行う。この際CIP圧力は充分な圧密効果を得るため2ton/cm2以上、好ましくは2〜3ton/cm2であることが望ましい。
【0014】
ここで、はじめの成形を鋳込法により行った場合には、CIP後の成形体中に残存する水分およびバインダー等の有機物を除去する目的で脱バインダー処理を施してもよい。
【0015】
また、はじめの成形をプレス法により行った場合でも、成形時にバインダーを使用したときには、同様の脱バインダー処理を行うことが望ましい。
【0016】
このようにして得られた成形体を焼結炉内に投入して焼結を行う。焼結方法としては、いかなる方法でも用いることができるが、生産設備のコスト等を考慮すると大気中焼結が望ましい。焼結条件についても適宜選択することができるが、緻密な焼結体を得るため、また酸化スズの蒸発を抑制するため、焼結温度が1450〜1650℃であることが望ましい。
【0017】
雰囲気は、少なくとも昇温時800℃に達した時点から焼結温度での保持時間が終了するまでの間の焼結炉内を実質的に純酸素ガス雰囲気とし、さらに酸素を導入する際の酸素流量(L/min)と成形体仕込重量(kg)の比(仕込重量/酸素流量)を1.0以下とすると、ターゲットの緻密化が進み好ましい。
【0018】
また、焼結時間についても充分な硬度上昇効果を得るために5時間以上、好ましくは5〜30時間であることが望ましい。こうすることにより、緻密なITO焼結体を得ることができる。このようにして得られたITO焼結体のビッカース硬度は、700以上800以下となる。
【0019】
次に、得られたITO焼結体を所定の形状に加工して多分割ITOターゲットを構成する個々のターゲット部材を作製する。各部材のサイズおよび形状は特に限定されるものではない。
【0020】
次に、各部材の厚さを調整するために平面研削加工を行う。この際スパッタリング面の表面粗さ(Ra)を0.6μm以下に調整することが好ましい。焼結体の3点曲げ強度は、研削後の表面粗さに依存し、ビッカース硬度700以上のITO焼結体の場合、加工後の表面粗さを0.6μm以下とすることにより、研削方向と平行に荷重を印加して測定された3点曲げ強度を安定して高い値を得ることが可能となる。
【0021】
この後、焼結体の長軸に対して平行方向に研削がなされた焼結体に対して、焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部に対して面取りを施すことが好ましく、さらにR1以下あるいはC1以下の面取りを施すとよい。こうすることにより、エッジ部に残留する加工傷を除去することができるので、エッジ部の加工傷への応力集中による曲げ強度の低下を効果的に防止することができる。
【0022】
さらに、C面取りする場合、好ましくは0.2以上1.0以下、より好ましくは0.2を越え1.0以下であり、R面取りする場合、好ましくは0.2以上1.0以下、より好ましくは0.2を越え1.0以下である。また、スパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対と直交するエッジ部に対して同様の面取りを施しても良い。なお、本発明でいう焼結体の長軸に対して実質的に平行な方向の研削とは、平行方向に対して±10度までを含むものとする。このようにして作製された焼結体は、曲げ強度が確実に向上されているので、ボンディング時や成膜時に発生するターゲットの割れを確実に低減させることが可能となる。
【0023】
次に、得られた焼結体を無酸素銅などからなるバッキングプレート上の所定の位置に配置し、インジウムはんだ等を用いて接合することにより容易にターゲット化することができる。
【0024】
なお、本明細書においては、ビッカース硬度の定義および測定方法はJIS−R1610−1991に、3点曲げ強度の定義および測定方法はJIS−R1601−1991に、表面粗さの定義および測定方法はJIS B0601−1994に記載の通りである。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
平均粒径1.3μmの酸化インジウム粉末90重量部と平均粒径0.7μmの酸化スズ粉末10重量部に分散剤、バインダおよびイオン交換水を鉄心入りナイロンボールが入ったポットに入れ5時間混合してスラリーを調整した。得られたスラリーを充分脱泡した後、樹脂型を用いた加圧鋳込み成形を行い成形体を得た。この成形体を3ton/cm2の圧力でCIPによる緻密化処理を行った。次にこの成形体を純酸素雰囲気焼結炉内に設置して、以下の条件で焼結した。
【0027】
(焼結条件)
焼成温度:1500℃、昇温速度:30℃/Hr、焼結時間:15時間、雰囲気:昇温時800℃から降温時400℃まで純酸素ガスを炉内に、(仕込重量/酸素流量)=0.8で導入
得られた焼結体のビッカース硬度を測定したところ720であった。得られた焼結体を幅4.0±0.1mm × 厚さ3.0±0.1mm × 長さ40±1mmの曲げ強度試験用ピースに加工した。次に、この試験用ピースの裏面を砥石粒度400番の研削砥石を用いて加工した。次に、試験ピースの表面(試験面)を砥石粒度が140番から1500番の研削砥石を用いて表面粗さ(Ra)が0.05から1.5になるように加工し、研削方向と平行なエッジ部に対して、R面取り0.3mmの加工を施した。これら試験用ピースを用いて、3点曲げ強度を測定した。結果を図4に示す。尚、図4では、図中の黒丸(●)は測定の平均値、上限値及び下限値は、それぞれ最大値及び最小値を示す。
【0028】
図より明らかに、研削方向と平行なエッジ部にR面取り加工を施すことにより3点曲げ強度の高い値が安定的に得られていることがわかる。
【0029】
実施例2
研削方向と平行なエッジ部に対して、C面取り0.3mmの加工を施した以外は、実施例1と同じ方法で3点曲げ強度を測定した。結果を図5に示す。尚、図5では、図中の黒丸(●)は測定の平均値、上限値及び下限値は、それぞれ最大値及び最小値を示す。
【0030】
図より明らかに、研削方向と平行なエッジ部にC面取り加工を施すことにより3点曲げ強度の高い値が安定的に得られていることがわかる。
【0031】
比較例1
面取り加工を実施しなかった以外は、実施例1と同じ方法で3点曲げ強度を測定した。結果を図6に示す。尚、図6では、図中の黒丸(●)は測定の平均値、上限値及び下限値は、それぞれ最大値及び最小値を示す。
【0032】
面取り加工を実施していない場合、エッジ部の加工傷の影響により著しく低い応力で破壊してしまう試験用ピースが有り、高い値を安定的に得られなかった。
【0033】
実施例3
焼結体サイズ以外は実施例1と同じ方法で図3に示すITOターゲットを10枚作製した。得られた10枚のターゲットをスパッタリング装置に設置しスパッタリングを行ったところ、焼結体に割れは皆無であり、焼結体の割れを確実に無くすことができることが分かった。
【0034】
比較例2
焼結体サイズ以外は比較例1と同じ方法で図3に示すITOターゲットを10枚作製した。この内、2枚のターゲットにボンディング後の冷却工程中で割れが発生した。また、残りの8枚をスパッタリング装置に設置しスパッタリングを行ったところ、このうち2枚に割れが発生した。
【0035】
【発明の効果】
スパッタリング面に長軸に対して実質的に平行方向に平面研削が施された矩形の焼結体を含むスパッタリングターゲットにおいて、焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部に対してR1以下の面取りもしくはC1以下の面取りといった面取りを施すことにより、ターゲットの製造工程やターゲットを成膜装置に取り付けスパッタリングに供した時に発生する焼結体の割れをより確実に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】1枚のバッキングプレート上に1枚の焼結体のみを接合させた場合の概念図である。
【図2】1枚のバッキングプレート上に複数の焼結体を接合させ、接合させた焼結体全てがスパッタリング面に長軸に対して平行方向に平面研削が施されている場合の概念図である。
【図3】1枚のバッキングプレート上に複数の焼結体を接合させ、少なくとも1枚の焼結体のスパッタリング面に長軸に対して平行方向に平面研削が施されている場合の概念図である。
【図4】実施例1で得たR面取り加工した試験用ピースを用いて3点曲げ強度を測定した結果である。図4中、X軸(横軸)は表面粗さRa(単位はμm)を示し、Y軸(縦軸)は3点曲げ強度(単位はMPa)を示す。
【図5】実施例2で得たC面取り加工した試験用ピースを用いて3点曲げ強度を測定した結果である。図5中、X軸(横軸)は表面粗さRa(単位はμm)を示し、Y軸(縦軸)は3点曲げ強度(単位はMPa)を示す。
【図6】比較例1で得た面取り加工しなかった試験用ピースを用いて3点曲げ強度を測定した結果である。図6中、X軸(横軸)は表面粗さRa(単位はμm)を示し、Y軸(縦軸)は3点曲げ強度(単位はMPa)を示す。
【符号の説明】
1:焼結体
2:バッキングプレート
3:焼結体研削方向
Claims (6)
- スパッタリング面に長軸に対して実質的に平行方向に平面研削が施された矩形の焼結体を含むスパッタリングターゲットにおいて、前記焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部に対して面取りされていること特徴とするスパッタリングターゲット。
- 焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部に対してR1以下の面取りが施されていること特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
- 焼結体のスパッタリング面と側面とから構成されるエッジ部のうち研削方向に対して平行なエッジ部に対してC1以下の面取りが施されていること特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
- 焼結体のスパッタリング面の表面粗さが0.6μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
- 焼結体が実質的にインジウム、スズおよび酸素からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
- 焼結体の硬度が、ビッカース硬度700以上800以下であることを特徴とする請求項5に記載のスパッタリングターゲット。
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