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JP4841122B2 - オーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高強度ステンレスボルトに関し、特に800N/mm以上の引張強さと優れた耐食性とを兼ね備えた高強度ステンレスボルトの製造方法に関するものである。
ステンレス鋼材料のボルトを高強度化する場合は、マルテンサイト系ステンレス鋼を用い、ボルト形状に加工した後、焼入れ・焼戻しを実施することで所定の引張強さに調整している(例えば、特許文献1参照)。
これは、マルテンサイト系ステンレス鋼は、オーステナイト系あるいはフェライト系ステンレス鋼に比べ含有C量が多いために焼入れ処理によりマルテンサイト組織を形成できるために高強度にすることができるという特性に基づくものである。そして、焼入れのまま使用すると、靭性が低下するため所定の硬さに焼戻し処理を実施している。しかし、その際、焼き入れ組織であるマルテンサイト組織がソルバイトおよびトルースタイト組織に分解されることで不動態特性が低下して耐食性が悪化してしまう。
そこで、近年、マルテンサイト系より耐食性が優れているオーステナイト系ステンレス鋼を用いて、マルテンサイト系のボルトより優れた耐食性を備えた高強度ステンレスボルトを製造する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開平9−314276号公報 特公平6−68284号公報
オーステナイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)が室温よりはるかに低いため、常温では準安定な過冷オーステナイトのままである。したがって、焼入れ硬化性がなく熱処理により高強度にすることが不可能である。そのため、高強度のオーステナイト系ステンレスボルトを製造するにあたっては、室温での冷間加工により硬化する必要があるが、経済性を含めて工業的に量産する技術はまだ見出されていない。上述した特許文献2に記載されているオーステナイト系ステンレスボルトは、引張強さが750N/mm以下にすぎない。
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、800N/mm以上の引張強さと優れた耐食性とを兼ね備えた高強度ステンレスボルトの製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明は、引張強さが800N/mm以上のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法であって、
オーステナイト系ステンレス鋼線材を焼鈍により引張強さを550N/mm以上700N/mm以下とし、前記線材を伸線加工することにより、軸方向の残留応力を有するとともに引張強さを、ねじ部を転造加工をする際に20N/mm以下の範囲で低下することを考慮して、820N/mm以上950N/mm以下とし、
前記伸線加工をしたオーステナイト系ステンレス鋼線材を所定長さに切断し、すえ込み加工により軸方向に圧縮して頭部を成形し、軸部を転造加工することによりねじ部を成形し引張強さを800N/mm 以上とすることを特徴とする。
オーステナイト系ステンレス鋼を用いてボルトを製造することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて製造されたボルトよりも耐食性が優れたボルトを製造することができる。
ただし、オーステナイト系ステンレス鋼はマルテンサイト系ステンレス鋼のように焼入れ・焼戻しによる高強度化が不可能であるので、冷間加工により加工硬化して高強度化を図る必要がある。その際、加工率が大きくなるにつれて引張強さが大きくなるという特性を利用して高強度化する。かかる場合には、最終的なボルトの強度が所望の強度となるように加工率を決定する必要がある。
た、その一方で加工率が大きくなるほど成形用金型の寿命が短くなるので、経済性を含めて工業的に量産できる加工率にする必要がある。さらに、加工硬化した後、ねじ部を転造加工する際に高度が低下して引張強さが小さくなる特性をも考慮する。
そこで、引張強さが800N/mm以上の高強度ステンレスボルトを製造するにあたっては、先ず、オーステナイト系ステンレス鋼を焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下となるようにした後、所定の加工率(例えば、約25%)で伸線加工することにより、引張強さが820N/mm以上950N/mm以下であるボルト用のオーステナイト系ステンレス鋼線材を製造する。その後、当該線材を軸方向に圧縮することにより頭部を成形するとともに転造加工することによりねじ部を成形する。
ここで、本発明者の研究により、ねじ部を転造加工する際に硬度が低下して引張強さが約20N/mm以下の範囲で低下する特性を有することが判明した。それゆえ、引張強さが820N/mm以上950N/mm以下であるボルト用のオーステナイト系ステンレス鋼線材を、軸方向に圧縮することにより頭部を成形するとともにねじ部を転造加工することで、引張強さが800N/mm以上950N/mm以下、すなわち引張強さが800N/mm以上の高強度ステンレスボルトを製造することができる。また、上記オーステナイト系ステンレス鋼線材は、伸線加工により軸方向の残留応力、つまり引張残留応力を有しているので、軸方向に圧縮するのが容易となるため、低圧縮力でボルトの頭部を成形することができ、成形用金型の寿命を長くすることができる。
また、他の発明は、引張強さが800N/mm 以上のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法であって、
オーステナイト系ステンレス鋼線材を焼鈍により引張強さを550N/mm 以上700N/mm 以下とし、前記線材を伸線加工することにより、軸方向の残留応力を有するとともに引張強さを650N/mm 以上800N/mm 以下とし、
前記伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線材を密閉絞り加工することにより軸部と頭部の予備形状を成形し、その後、すえ込み加工により頭部を最終形状にしてヘッダブランクを成形するもので、前記密閉絞り加工される軸部の引張強さを、ねじ部を転造加工をする際に引張強さが約20N/mm 以下の範囲で低下することを考慮して設定し、
前記ヘッダブランクの軸部を転造加工することによりねじ部を成形して最終的なボルトの引張強さを800N/mm 以上とすることを特徴とする。
このように、引張強さが650N/mm 以上800N/mm 以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材を、密閉絞り加工することにより軸部を成形し、その後当該軸部を転造加工してねじ部を成形することにより、引張強さが800N/mm 以上の高強度ステンレスボルトを製造することができる。
た、オーステナイト系ステンレス鋼線材は、伸線加工により軸方向の残留応力、つまり引張残留応力を有しているので、軸方向に圧縮するのが容易となるため、低圧縮力でボルトの頭部を成形することができ、成形用金型の寿命を長くすることができる。
たとえば、ヘッダブランクの引っ張り強さは820N/mm 以上950N/mm であり、最終的なボルトの引っ張り強さは、800N/mm 以上950N/mm である。
また、ヘッダブランクの引っ張り強さは1060N/mm 以上1210N/mm であり、最終的なボルトの引っ張り強さは、1040N/mm 以上1210N/mm である。
以上説明したように、本発明によれば、800N/mm以上の引張強さと優れた耐食性とを兼ね備えた高強度のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを提供することができる。
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
図1は、重量%でC:0.030%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Ni:12.0〜15.0%、Cr:16.0〜18.0%、Mo:2.0〜3.0%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなるオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316Lの線材を冷間加工(伸線加工,密閉絞り加工など)した場合の加工率(%)と引張強さ(N/mm)との関係を求めた結果を示したものである。なお、上記加工率は、断面減少率とも呼ばれるものであり、加工前の線材の断面積をA0、加工後の線材の断面積をA1とした場合に、(A0−A1)/A0×100(%)で表される値である。また、図1は、焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下にされた線材を伸線加工した場合の加工率と引張強さの関係を示したものでもある。
図1に示すように、加工率が大きくなるにつれて引張強さが大きくなる。これは、線材が伸線加工により変形するのに伴って転位が増え、転位同士の相互作用のために転位が動き難くなり、加工硬化が生ずるからである。
(製法1)
上述したオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316Lの機械的特性に鑑み、引張強さが800N/mm以上であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造するにあたっては、以下に説明する製法1のようにする。
すなわち、製法1においては、先ず、伸線加工された線材を所定の長さに切断して、ヘッダー用の線材11にする。そして、図2に示すように、当該線材11をパンチ12に支持した状態で、成形ダイス13の穴へ挿入していき、予め位置が設定されているノックアウトピン14に突き当てる。そして、その状態で軸方向に圧縮する、いわゆるすえ込み加工することにより頭部10aを予備形状にする(工程1)。その後、パンチ15を用いてすえ込み加工することにより頭部10aを最終形状にしてヘッダーブランク16を成形する(工程2)。その後、当該ヘッダーブランク16を転造加工することによりねじ部10bを成形する。
このように伸線加工することにより加工硬化した線材を、すえ込み加工することにより頭部を、転造加工することによりねじ部を成形するが、伸線加工により転位のまわりにはひずみエネルギが存在しているから、転位密度の高い結晶を、すえ込み加工あるいは転造
加工の際に加熱すると低エネルギ状態への組織変化が起こり、硬さが低下する。つまり、伸線加工により引張強さが高くなったとしても頭部のすえ込み加工あるいはねじ部の転造加工により引張強さが低くなる。本発明者の研究によるとねじ部を転造加工することにより引張強さが約20N/mm以下の範囲で低下することが判明した。
それゆえ、最終的なボルトの引張強さを800N/mm以上にするにあたっては、伸線加工された線材の引張強さが820N/mm以上である必要がある。そのために、図1の関係に基づき、焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下にされた線材を、約25%の加工率で伸線加工するようにする。
言い換えれば、この製法1においては、先ず、オーステナイト系ステンレス鋼線材を、焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下となるようにした後、約25%の加工率で伸線加工することにより、軸方向の引張残留応力を有するとともに引張強さが820N/mm以上950N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材とする。その後、当該オーステナイト系ステンレス鋼線材を、軸方向に圧縮(すえ込み加工)することにより頭部を成形し、転造加工することによりねじ部を成形する。これにより、転造加工することにより引張強さが約20N/mm以下で低下したとしても、引張強さが800N/mm以上950N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造することができる。
このような製法によりボルトを製造すると、上述した伸線加工により軸方向には引張残留応力が生じるので、軸方向には圧縮し易くなり、パンチ12,15を用いて頭部10aをすえ込み加工する際には、比較的低荷重で頭部10aを成形することができる。これにより、成形ダイス13、ノックアウトピン14、パンチ12,15などの成形用金型の寿命を長くすることができる。
(製法2)
次に、上述したオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316Lの機械的特性に鑑み、引張強さが1040N/mm以上であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造する場合について説明する。
引張強さが1040N/mm以上であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造するにあたっても、上述した引張強さが800N/mm以上であるボルトを製造するのと同様に、焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下にされた線材を約48%の加工率で伸線加工することにより引張強さが1060N/mm以上1210N/mm以下である線材を成形し、その後、頭部のすえ込み加工とねじ部の転造加工を施すことにより製造することも可能である。
しかしながら、引張強さが1060N/mm以上1210N/mm以下である線材をすえ込み加工して頭部を成形する際には、たとえ軸方向に引張残留応力が生じていたとしても、高荷重で線材を圧縮する必要があり、成形用金型の寿命を考慮すると得策ではない。また、引張強さが1060N/mm以上もあるため、伸線加工した線材をヘッダー用の線材の長さに切断するにあたっても、切断用治具の寿命を考慮すると得策ではない。
そこで、以下に説明する製法2のようにする。すなわち、製法2においては、先ず、線材を焼鈍して引張強さを550N/mm以上700N/mm以下にし、当該線材を約8%の加工率で伸線加工することにより、引張強さが650N/mm以上800N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材を製造する。
その後、この引張強さが650N/mm以上800N/mm以下であるオーステナ
イト系ステンレス鋼線材を所定の長さに切断してヘッダー用の線材21にする。そして、図3に示すように、当該線材21を、予め所定の位置にノックアウトピン22が設定された成形ダイス23へ挿入し(工程1)、パンチ24で密閉絞り加工することにより軸部を成形するとともに頭部20aの予備形状を成形する(工程2)。
その後、予め所定の位置にノックアウトピン25が設定された成形ダイス26へ挿入し(工程3)、パンチ27を用いてすえ込み加工することにより頭部20aを最終形状にしてヘッダーブランク28を成形する(工程4)。そして、当該ヘッダーブランク28を転造加工することによりねじ部20bを成形する。
かかる製法2を用いる場合においても、上述したように、ねじ部を転造加工する際に引張強さが約20N/mm以下で低下することを考慮すると、ヘッダーブランク28の軸部の引張強さが1060N/mm以上になるようにしておく必要がある。そのために、図1の関係に基づき焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下である線材を、約8%の加工率で伸線加工して引張強さを650N/mm以上800N/mm以下とし、その後約40%の加工率で密閉絞り加工することにより軸部を成形する。
言い換えれば、先ず、オーステナイト系ステンレス鋼線材を、焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下となるようにした後、約8%の加工率で伸線加工することにより、軸方向の引張残留応力を有するとともに引張強さが650N/mm以上800N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材とする。その後、当該オーステナイト系ステンレス鋼線材を、約40%の加工率で密閉絞り加工して、引張強さを1060N/mm以上1210N/mm以下とする。そして、軸方向に圧縮(すえ込み加工)することにより頭部を成形し、転造加工することによりねじ部を成形する。これにより、転造加工することにより引張強さが約20N/mm以下の範囲で低下したとしても、引張強さが1040N/mm以上1210N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造することができる。
この製法2によりボルト製造すると、伸線加工により軸方向には引張残留応力が生じており、その引張強さは650N/mm以上800N/mm以下であるので、軸方向に圧縮し易くなり、パンチ24,27を用いて頭部20aをすえ込み加工する際には、比較的低荷重で頭部20aを成形することができる。これにより、成形ダイス26、ノックアウトピン25、パンチ27などの成形用金型の寿命を長くすることができる。
また、この製法2を用いて引張強さが800N/mm以上であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造することもできる。
かかる場合においては、上述したように、ねじ部を転造加工する際に引張強さが約20N/mm以下で低下することを考慮して、ヘッダーブランク28の引張強さが820N/mm以上になるようにする。
そのために、先ず、線材を焼鈍して引張強さを550N/mm以上700N/mm以下にし、当該線材を約8%の加工率で伸線加工することにより、引張強さが650N/mm以上800N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材を製造する。
その後、この引張強さが650N/mm以上800N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材を、図1の関係に基づき、さらに約14%の加工率で密閉絞り加工する(工程2)。
その後、予め所定の位置にノックアウトピン25が設定された成形ダイス26へ挿入し(工程3)、パンチ27を用いてすえ込み加工することにより頭部20aを最終形状にしてヘッダーブランク28を成形する(工程4)。そして、当該ヘッダーブランク28を転造加工することによりねじ部10bを成形する。
言い換えれば、先ず、オーステナイト系ステンレス鋼線材を、焼鈍により引張強さが550N/mm以上700N/mm以下となるようにした後、約8%の加工率で伸線加工することにより、軸方向の引張残留応力を有するとともに引張強さが650N/mm以上800N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼線材とする。その後、当該オーステナイト系ステンレス鋼線材を、約14%の加工率で密閉絞り加工して、引張強さを820N/mm以上950N/mm以下とする。そして、軸方向に圧縮(すえ込み加工)することにより頭部を成形し、転造加工することによりねじ部を成形する。これにより、転造加工することにより引張強さが約20N/mm以下の範囲で低下したとしても、引張強さが800N/mm以上950N/mm以下であるオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造することができる。
このように、伸線加工時の加工率および密閉絞り加工時の加工率を任意に選択し、これらの加工率で加工して最終的なボルトの寸法に成形できるような線材を用いれば、引張強さが800N/mm以上の任意の引張強さを有するオーステナイト系ステンレス鋼ボルトを製造できる。
また、上述の製法1および製法2を用いて製造されたオーステナイト系ステンレス鋼ボルトにさらに防錆表面処理を施すことにより、さらに耐食性、耐塩水噴霧性、耐アルミに対する電位差腐食特性等を向上させることができる。防錆表面処理としては、亜鉛粉末焼付け塗装が好適であり、代表例として(株)日本ダクロシャムロック社が提供するジオメット(登録商標)処理やダクロタイズド(登録商標)処理をすることにより実現することができる。
次に、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)線材を用いて上述した製法1により製造した、JIS B 1051強度区分8.8のM8ボルト(試料1)、同様にオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)線材を用いて上述した製法2により製造した、JIS B 1051強度区分10.9のM8ボルト(試料2)および比較例として引張強さが540N/mmのマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410)線材を用いて成形されたボルトを焼入れ・焼戻し処理を行い所定の引張強さに製造した、JIS B 1051強度区分8.8のM8ボルト(試料3)の亜硫酸ガス腐食試験および塩水噴霧試験の結果を図4に示す。
ここで、亜硫酸ガス腐食試験は、DIN50018の規定に基づいて実施するものであり、その条件は以下の通りである。
ガス濃度;SOガス2L(リットル)+水分2L(リットル)+空気300L(リットル)
温湿度;40±3℃、95%RH
試験時間;8hr試験、16時間放置のサイクルを5回
また、塩水噴霧試験は、JIS Z 2371の規定に基づいて実施するものであり、その条件は以下の通りである。
溶液濃度;5±1%食塩水
温度;35±2℃
試験時間;連続噴霧
また、試料1は、具体的に以下のようにして製造された物である。すなわち、先ず、直径8.2mmの線材を焼鈍により引張強さが約600N/mmである線材とした後、25%の加工率で伸線加工を行い直径7.1mmにすることで、引張強さが898N/mmである線材にした。その後、この引張強さが898N/mmである線材をヘッダー工程で頭部をすえ込み加工し、ねじ部を転造加工することにより、引張強さが888N/mmであるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)のボルトとした。
また、試料2は、先ず、直径9.5mmの線材を焼鈍により引張強さが約600N/mmである線材とした後、8.2%の加工率で伸線加工を行い直径9.1mmにすることで、引張強さが700N/mmである線材にした。その後、この引張強さが700N/mmである線材を、加工率(減面率)40%で密閉絞り加工することで軸部を成形し、この軸部を転造加工することによりねじ部を成形するとともに、ヘッダー工程ですえ込み加工して頭部を成形することで、引張強さが1132N/mmであるオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)のボルトとした。
なお、上記各試料には亜鉛粉末焼付け塗装を施していない。
図4に示したように、オーステナイト系ステンレス鋼を用いて製造したボルト(試料1および2)の方がマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて製造したボルト(試料3)よりも耐食性が優れていることがわかる。
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)の線材を冷間加工(伸線加工、密閉絞り加工など)した場合の加工率と引張強さの関係を示す図である。 製法1に係る製造工程を示す図である。 製法2に係る製造工程を示す図である。 オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)ボルトおよびマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410)ボルトに対して亜硫酸ガス腐食試験および塩水噴霧試験を行った結果を示す図である。
符号の説明
10,20 ボルト
10a,20a 頭部
10b,20b ねじ部
11,21 ヘッダー用の線材
12,15,24,27 パンチ
13,23,26 成形ダイス
14,22,25 ノックアウトピン
16,28 ヘッダーブランク

Claims (4)

  1. 引張強さが800N/mm以上のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法であって、
    オーステナイト系ステンレス鋼線材を焼鈍により引張強さを550N/mm以上700N/mm以下とし、前記線材を伸線加工することにより、軸方向の残留応力を有するとともに引張強さを、ねじ部を転造加工をする際に20N/mm以下の範囲で低下することを考慮して、820N/mm以上950N/mm以下とし
    前記伸線加工をしたオーステナイト系ステンレス鋼線材を所定長さに切断し、すえ込み加工により軸方向に圧縮して頭部を成形し、軸部を転造加工することによりねじ部を成形し引張強さを800N/mm以上とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法。
  2. 引張強さが800N/mm以上のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法であって、
    オーステナイト系ステンレス鋼線材を焼鈍により引張強さを550N/mm以上700N/mm以下とし、前記線材を伸線加工することにより、軸方向の残留応力を有するとともに引張強さを650N/mm以上800N/mm以下とし、
    前記伸線加工したオーステナイト系ステンレス鋼線材を密閉絞り加工することにより軸部と頭部の予備形状を成形し、その後、すえ込み加工により頭部を最終形状にしてヘッダブランクを成形するもので、前記密閉絞り加工される軸部の引張強さを、ねじ部を転造加工をする際に引張強さが約20N/mm以下の範囲で低下することを考慮して設定し
    記ヘッダブランクの軸部を転造加工することによりねじ部を成形して最終的なボルトの引張強さを800N/mm以上とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法。
  3. 最終的なボルトの引張り強さは、800N/mm以上950N/mmであり、ヘッダブランクの引張り強さは820N/mm以上950N/mmである請求項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法。
  4. 最終的なボルトの引っ張り強さは、1040N/mm以上1210N/mmであり、ヘッダブランクの引張り強さは1060N/mm以上1210N/mmである請求項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼ボルトの製造方法。
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