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JP4733882B2 - 炭化珪素単結晶及びその製造方法並びに炭化珪素単結晶育成用炭化珪素結晶原料 - Google Patents

炭化珪素単結晶及びその製造方法並びに炭化珪素単結晶育成用炭化珪素結晶原料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化珪素単結晶及びその製造方法に係わり、特に、高周波電子デバイスの基板ウェハとなる良質で大型の単結晶インゴット及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素(SiC)は耐熱性及び機械的強度も優れ、放射線に強いなどの物理的、化学的性質から耐環境性半導体材料として注目されている。また近年、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波高耐圧電子デバイス等の基板ウェハとしてSiC単結晶ウェハの需要が高まっている。しかしながら、大面積を有する高品質のSiC単結晶を、工業的規模で安定に供給し得る結晶成長技術は、いまだ確立されていない。それゆえ、SiCは、上述のような多くの利点及び可能性を有する半導体材料にもかかわらず、その実用化が阻まれていた。
【0003】
従来、研究室程度の規模では、例えば昇華再結晶法(レーリー法)でSiC単結晶を成長させ、半導体素子の作製が可能なサイズのSiC単結晶を得ていた。しかしながら、この方法では、得られた単結晶の面積が小さく、その寸法及び形状を高精度に制御することは困難である。また、SiCが有する結晶多形及び不純物キャリア濃度の制御も容易ではない。また、化学気相成長法(CVD法)を用いて珪素(Si)などの異種基板上にヘテロエピタキシャル成長させることにより立方晶の炭化珪素単結晶を成長させることも行われている。この方法では、大面積の単結晶は得られるが、基板との格子不整合が約20%もあること等により多くの欠陥(〜107cm-2)を含むSiC単結晶しか成長させることができず、高品質のSiC単結晶を得ることは容易でない。これらの問題点を解決するために、SiC単結晶ウェハを種結晶として用いて昇華再結晶を行う改良型のレーリー法が提案されている(Yu.M.Tairov and V.F.Tsvetkov,Journal of Crystal Growth,vol.52(1981)pp.146−150)。この方法では、種結晶を用いているため結晶の核形成過程が制御でき、また不活性ガスにより雰囲気圧力を100Paから15kPa程度に制御することにより結晶の成長速度等を再現性良くコントロールできる。改良レーリー法の原理を、図1を用いて説明する。種結晶となるSiC単結晶と原料となるSiC結晶粉末(通常、Acheson法で作製された研磨材を洗浄・前処理したものが使用される)は坩堝(通常黒鉛)の中に収納され、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中(133Pa〜13.3kPa)、摂氏2000〜2400度に加熱される。この際、原料粉末に比べ種結晶がやや低温になるように温度勾配が設定される。原料は昇華後、濃度勾配(温度勾配により形成される)により種結晶方向へ拡散、輸送される。単結晶成長は、種結晶に到着した原料ガスが種結晶上で再結晶化することにより実現される。改良レーリー法を用いれば、SiC単結晶の結晶多形(6H型、4H型、15R型等)及び形状、キャリア型及び濃度を制御しながら、SiC単結晶を成長させることができる。
【0004】
現在、上記の改良レーリー法で作製したSiC単結晶から口径2インチ(50mm)から3インチ(75mm)のSiC単結晶ウェハが切り出され、エピタキシャル薄膜成長、デバイス作製に供されている。このようなSiC単結晶基板の高周波応用として、基板の高抵抗率化(106 Ωcm以上)が望まれている。基板の高抵抗率化は、その上に作製される素子の寄生容量低減と素子間分離において不可欠な技術となっている。現在このような高抵抗率基板は、SiC単結晶にバナジウム元素を添加することによって、工業的に得られる。具体的には上記した昇華再結晶法において、原料となるSiC結晶粉末中に金属バナジウムあるいはバナジウム化合物(酸化物、珪化物等)を含有させ、SiC原料と共に昇華させることにより、成長結晶中に添加している(例えば、S.A.Reshanov et al.,Materials Science Forum,vols.353−356(2001)pp.53−56)。しかしながら、このようにして作製したSiC単結晶は高抵抗率を有するものの結晶品質が悪く、また高抵抗率を有する結晶部位は成長結晶中の極めて限られた部分となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、従来技術で作られたバナジウム添加の高抵抗率SiC単結晶は結晶品質が低く、また高抵抗率を有する結晶部位は成長結晶の極めて限られた部分となっていた。このことはSiC原料の昇華速度に比べ、バナジウム原料の昇華あるいは蒸発速度が極めて大きいことに起因していた。バナジウムの昇華あるいは蒸発速度がSiC原料の昇華速度に比べ大きいために成長初期に多くのバナジウムが成長結晶に取り込まれる(図2(a))。その結果、成長結晶中のバナジウムの量が固溶限界(3×1017atom/cm3)を超え、析出物の発生を伴って結晶性を劣化させる(この成長初期部の結晶性劣化は、その後に成長されるSiC単結晶の結晶性にも悪影響する)。また、通常の研磨材を基にしたSiC結晶粉末を原料として用いた場合、SiC単結晶中に取り込まれる他の残留不純物濃度が1×1017atom/cm3程度と高く、その結果高抵抗率の単結晶が得られる部位が極めて限られたものとなっていた。これは、図2(a)に示したように、バナジウム原料の昇華ガス圧が高いために成長開始後数時間でバナジウム原料が枯渇してしまい、その結果残留不純物濃度以上にバナジウムが添加される領域が成長結晶の極めて限られた部位となっていたためである。SiC単結晶中のバナジウムの濃度が残留不純物濃度以下であると、SiC単結晶の電気的特性が他の不純物によって決まってしまい高抵抗率の単結晶が得られない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高抵抗率で高品質な大口径インゴットと、それを再現性良く製造し得るSiC単結晶の製造方法及び原料を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
従って、本発明のSiC単結晶の製造方法は、
(1)昇華再結晶法により種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程を包含する炭化珪素単結晶の製造方法であって、原料としてバナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1015atom/cm以下である炭化珪素結晶のみを用いて、不活性ガス雰囲気中で炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法、
(2)昇華再結晶法により種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程を包含する炭化珪素単結晶の製造方法であって、原料としてバナジウムの濃度が1×1019〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1016atom/cm以下である炭化珪素結晶のみを用いて、不活性ガス雰囲気中で炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法、
(3)バナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1015atom/cm以下である、炭化珪素単結晶育成用炭化珪素結晶原料、
(4)バナジウムの濃度が1×1019〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1016atom/cm以下である、炭化珪素単結晶育成用炭化珪素結晶原料、
(5)(1)又は(2)に記載の製造方法で得られた炭化珪素単結晶であって、50mm以上の口径を有し、種結晶を除く炭化珪素単結晶の全長に亘って、バナジウムの濃度が1×1015〜3×1017atom/cmであることを特徴とする、炭化珪素単結晶、
(6)前記バナジウムの濃度が1×1016〜3×1017atom/cmである、(5)に記載の炭化珪素単結晶、
(7)バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が、バナジウムの濃度未満であり、1×1016 atom/cm 以下である(5)又は(6)に記載の炭化珪素単結晶、
(8)(5)〜(7)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶を切断、研磨してなる炭化珪素単結晶基板、
(9)(8)に記載の炭化珪素単結晶基板に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長してなる炭化珪素エピタキシャルウェハ、
(10)(8)に記載の炭化珪素単結晶基板に、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶をエピタキシャル成長してなる薄膜エピタキシャルウェハ、
である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法では、炭化珪素(以下、「SiC」とも称する)原料として、予めバナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cm、好ましくは1×1019〜6×1019atom/cmであり、且つバナジウム以外のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が前記バナジウムの濃度未満、好ましくはバナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cmの場合には1×1015atom/cm以下、バナジウムの濃度が1×1019〜6×1019atom/cmの場合には1×1016atom/cm以下であるSiC単結晶を用いることにより、高抵抗率(10Ωcm以上)で高品質な大口径のSiC単結晶インゴットを得ることができる。
【0009】
図2(b)を用いて、本発明の効果を説明する。昇華再結晶法によるSiC単結晶の成長において、バナジウムを予めSiC結晶に結晶内不純物として含むSiC結晶原料を用いてバナジウムを成長結晶中に添加した場合、原料からのバナジウムの昇華あるいは蒸発はSiC結晶原料の分解(昇華)により律速されることになる。従ってこの場合バナジウムの昇華あるいは蒸発速度は、従来法のように金属バナジウムあるいはバナジウム化合物の昇華あるいは蒸発速度によって決定されるのではなく、常にSiC結晶原料のそれと同じになり、従来法で問題となっていたバナジウムとSiC間の昇華あるいは蒸発速度差は生じない。このように、バナジウムの昇華あるいは蒸発速度がSiC結晶の昇華速度と同じになった場合には、成長開始後数時間でバナジウムが枯渇してしまうようなことはなく、成長中常に一定量のバナジウムを昇華あるいは蒸発させることができる。その結果、バナジウムを成長結晶中に常に一定量添加することが可能となる。また、SiC結晶原料中へのバナジウムの添加量を予め調整しておけば、成長結晶中への添加量も調整できる。例えば、SiC結晶原料中のバナジウム量を2×1019atom/cm3としておけば、成長結晶に取り込まれるバナジウム量は、2×1016atom/cm3〜1×1017atom/cm3となる。バナジウムの濃度が原料中よりも成長結晶中で低くなるのは、原料からのSiC単結晶中へのバナジウム取り込み率(成長結晶中のバナジウム濃度÷結晶原料中のバナジウム濃度)が0.001〜0.005と低いためである。この取り込み率はSiC単結晶の成長条件に依存し、SiC結晶原料中に仕込むバナジウム濃度は、このことを考慮した上で決定されなければならない。このように、成長結晶への取り込み率を考慮に入れながら、SiC結晶原料中のバナジウム濃度を決定し、この原料を用いて昇華再結晶法によりSiC単結晶を成長すれば、成長されたSiC単結晶全体に渡って一定且つ固溶限界量以下のバナジウムを再現性良く添加することができ、その結果高品質のSiC単結晶を得ることができる。
【0010】
本発明のSiC単結晶の製造方法では、SiC結晶原料中のバナジウム以外のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物濃度をバナジウムの濃度未満であるSiC結晶原料を用いることを特徴とする。当該不純物の濃度はバナジウムの濃度未満であればよく、好ましくは、バナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cmの場合には1×1015atom/cm以下、あるいは、バナジウムの濃度が1×1019〜6×1019atom/cmの場合には1×1016atom/cm以下である。これら濃度範囲の条件は、成長したSiC単結晶中のバナジウム濃度が常にSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物濃度以上になるようにするためであり、上記具体例の濃度条件において特に好ましいSiC単結晶を製造することが出来る。バナジウムを添加したSiC単結晶で高抵抗率を得るためには、添加したバナジウムの量を上回る量のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物がSiC単結晶中に存在してはならない。成長結晶中のバナジウム濃度よりもSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物濃度が高くなってしまった場合には、単結晶の電気的特性は、その不純物により決定されてしまい、高抵抗率(10Ωcm以上)にはなり得ない。バナジウム以外のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の取り込み率は、高いものではほぼ1.0となるので、SiC結晶原料中のバナジウム以外のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物濃度は、成長結晶中で許容される濃度と同程度、あるいはそれ以下にしておかなければならない。
【0011】
昇華再結晶法の原料として用いるSiC結晶中のバナジウム及びバナジウム以外のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物濃度を本発明の範囲に設定すれば、再現性良く高抵抗率(10Ωcm以上)のSiC単結晶が得られることは、発明者らが数多くの実験から見出したものである。
【0012】
本発明に用いられるSiC単結晶育成用SiC結晶原料は、例えば、高純度の二酸化珪素(SiO)と黒鉛を高温で反応させることにより製造される。SiOに含まれている酸素は、高温(摂氏2000度以上)での反応では、一酸化炭素として系外に排出され、SiC結晶には残らない。バナジウムは上記SiO+黒鉛に高純度金属バナジウムの形で添加され、上記反応中にSiC結晶中に取り込まれる。SiC結晶中のバナジウム濃度は、成長部位によって異なるが、成長後、結晶を粉砕・粒度調節(粉末化)する際に均一化される。SiC結晶原料中のバナジウム濃度を1×1019〜6×1019atom/cm、あるいは1×1018〜6×1019atom/cmの範囲とするには、モル比で1:1に調合されたSiO+黒鉛中に、Siに対するモル比で4〜24%、あるいは0.4〜24%の高純度バナジウムを添加すればよい。ただしこの際、製造された結晶粒の周囲には、SiC結晶に取り込まれず残存した金属バナジウムが付着しているので、所望のバナジウム濃度のSiC結晶原料を得るためには、結晶を粉砕・粒度調節する前に、酸洗浄によりこの付着層を取り除く必要がある。また、このように製造されるSiC結晶原料中のSiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物濃度を前記バナジウム濃度未満、好ましくは1×1016atom/cm以下、あるいは、1×1015atom/cm以下とするには、出発原料となるSiO、黒鉛、バナジウム中の不純物濃度を原子濃度で0.2ppm以下、あるいは0.02ppm以下とする必要がある。
【0013】
本発明の製造方法で作製されたSiC単結晶インゴットは、50mm以上の大口径を有し、且つ高抵抗率で、さらにバナジウムの析出物に起因した結晶欠陥が少ないという特徴を有し得る。また、種結晶を除く炭化珪素単結晶の全長に亘って、バナジウム濃度が1×1015〜3×1017atom/cm、好ましくは1×1016〜3×1017atom/cmであれば、SiC単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の影響を受けずに、10Ωcm以上の高抵抗率を示す。3×1017atom/cmを超えるバナジウム濃度ではSiC単結晶中にバナジウムが析出するので好ましくない。
【0014】
このようにして製造したSiC単結晶インゴットを切断、研磨してなるSiC単結晶基板は、50mm以上の口径を有しているので、この基板を用いて各種デバイスを製造する際、工業的に確立されている従来の半導体(Si、GaAs等)ウェハ用の製造ラインを使用することができ、量産に適している。特に、当該基板の抵抗率は高いので、動作周波数の高いデバイスへの適用が可能である。さらに、このSiC単結晶基板上にCVD法等によりエピタキシャル薄膜を成長して作製されるSiC単結晶エピタキシャルウェハ、あるいはGaN、AlN、InN及びこららの混晶をエピタキシャル成長してなる薄膜エピタキシャルウェハは、その基板となるSiC単結晶基板中にバナジウム析出物に起因した結晶欠陥が極めて少ないために、良好な特性(エピタキシャル薄膜の表面モフォロジー、電気特性等)を有するようになる。
【0015】
【実施例】
(実施例)
以下に、本発明の実施例を図3を用いて述べる。まず、この単結晶成長装置について簡単に説明する。結晶成長は、SiC結晶粉末原料2を昇華させ、種結晶として用いたSiC単結晶1上で再結晶化させることによりに行われる。種結晶のSiC単結晶1は、高純度黒鉛製の坩堝3の黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けられる。SiC結晶粉末原料2は、坩堝3の内部に充填されている。このような坩堝3は、二重石英管5の内部に、黒鉛の支持棒6により設置される。坩堝3の周囲には、熱シールドのための黒鉛製フェルト7が設置されている。二重石英管5は、真空排気装置11により高真空排気(10-3Pa以下)することができ、かつ内部雰囲気をArガスにより圧力制御することができる。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより坩堝3を加熱し、原料及び種結晶を所望の温度に加熱することができる。坩堝温度の計測は、坩堝上部及び下部を覆うフェルトの中央部に直径2〜4mmの光路を設け坩堝上部及び下部からの光を取りだし、二色温度計を用いて行う。坩堝下部の温度を原料温度、坩堝上部の温度を種温度とする。
【0016】
次に、この結晶成長装置を用いたSiC単結晶の製造について実施例を説明する。まず、種結晶として、口径50mmの(0001)面を有した六方晶系のSiC単結晶ウェハを用意した。次に、種結晶1を坩堝3の黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付けた。坩堝3の内部には、SiC結晶原料粉末2を充填した。原料粉末となるSiC結晶は、モル比で1:1に調合されたSiO+黒鉛中に、高純度バナジウムをSiに対するモル比で8%添加して、高温炉で反応させて作製した。この際用いたSiO、黒鉛、バナジウム中の不純物濃度は1×1016atom/cm以下であった。得られたSiC結晶粉末中のバナジウム濃度は2×1019atom/cmであった。また、バナジウム以外の不純物濃度は、1×1016atom/cm以下であった。次いで、原料を充填した坩堝3を、黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し原料温度を摂氏2000度まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを、高純度Arガス配管9を介し、高純度Arガス用マスフローコントローラ10で制御しながら流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である摂氏2400度まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は摂氏15度/cmで、成長速度は約0.8mm/時であった。得られた結晶の口径は51mmで、高さは16mm程度であった。
【0017】
こうして得られた炭化珪素単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、六方晶系のSiC単結晶が成長したことを確認できた。結晶の不純物濃度を測定する目的で、成長した単結晶インゴットから厚さ1mmのウェハを9枚切り出した。ウェハの面方位は(0001)面から<11−20>方向に3.5度オフとした。成長結晶の上部、中部、下部(種結晶近傍)に相当するウェハ(それぞれ種結晶から数えて9枚目、5枚目、2枚目)中の不純物濃度をしらべたところ、バナジウムの濃度は、どのウェハにおいても6×1016atom/cm程度で、それ以外の不純物の濃度は全て1×1016atom/cm以下であった。また、得られたウェハを顕微鏡で観察したところ、バナジウムの析出物に起因すると思われる欠陥は観察されなかった。また、電気測定により各ウェハの抵抗率を調べたところ、どのウェハも10Wcm以上という高い抵抗率を示した。
【0018】
次に、このようにして製造したSiC単結晶ウェハを研磨して、厚さ300ミクロン、口径51mmのSiC単結晶鏡面ウェハを作製した。
【0019】
さらに、この51mm口径のSiC単結晶鏡面ウェハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度摂氏1500度、シラン(SiH4)、プロパン(C38)、水素(H2)の流量が、それぞれ5.0×10-93/sec、3.3×10-93/sec、5.0×10-53/secであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は2時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0020】
エピタキシャル薄膜成長後、ノマルスキー光学顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜の表面モフォロジーを観察したところ、ウェハ全面に渡って非常に平坦で、ピット等の表面欠陥の非常に少ない良好な表面モフォロジーを有するSiCエピタキシャル薄膜が成長されているのが分かった。
【0021】
また、同様にして作製した別のSiC単結晶インゴットからオフ角度が0度の(0001)面ウェハを切り出し、鏡面研磨した後、その上にGaN薄膜を有機金属化学気相成長(MOCVD)法によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度摂氏1050度、トリメチルガリウム(TMG)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)をそれぞれ、54×10-6モル/min、4リットル/min、22×10-11モル/min流した。また、成長圧力は大気圧とした。成長時間は60分間で、n型の窒化ガリウムを3μmの膜厚で成長させた。
【0022】
得られたGaN薄膜の表面状態を調べる目的で、成長表面をノマルスキー光学顕微鏡により観察した。ウェハ全面に渡って非常に平坦なモフォロジーが得られ、全面に渡って高品質なGaN薄膜が形成されているのが分かった。
【0023】
(比較例)
比較例として、従来法による高抵抗率SiC単結晶の製造について述べる。上記実施例と同じく、種結晶として、口径50mmの(0001)面を有した六方晶系のSiC単結晶ウェハを用意した。次に、種結晶1を黒鉛製の坩堝3の黒鉛製坩堝蓋4の内面に取り付け、坩堝3の内部に、研磨材を洗浄処理したSiC結晶原料粉末2を充填した。さらに、この原料粉末に金属バナジウムをSiに対するモル比で0.4%添加した。原料を充填した坩堝3を、黒鉛製坩堝蓋4で閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に乗せ、二重石英管5の内部に設置した。そして、石英管の内部を真空排気した後、ワークコイルに電流を流し原料温度を摂氏2000度まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガスを流入させ、石英管内圧力を約80kPaに保ちながら、原料温度を目標温度である摂氏2400度まで上昇させた。成長圧力である1.3kPaには約30分かけて減圧し、その後約20時間成長を続けた。この際の坩堝内の温度勾配は摂氏15度/cmで、成長速度は約0.8mm/時であった。得られた結晶の口径は51mmで、高さは17mm程度であった。
【0024】
こうして得られた炭化珪素単結晶をX線回折及びラマン散乱により分析したところ、六方晶系のSiC単結晶が成長したことを確認できた。結晶の不純物濃度を測定する目的で、成長した単結晶インゴットから厚さ1mmのウェハを9枚切り出した。ウェハの面方位は(0001)面から<11−20>方向に3.5度オフとした。成長結晶の上部、中部、下部(種結晶近傍)に相当するウェハ(それぞれ種結晶から数えて9枚目、5枚目、2枚目)中の不純物濃度をしらべたところ、バナジウムの濃度は、成長結晶の下部に相当するウェハで5×1018atom/cmで、中部、上部に相当するウェハでは5×1016atom/cm以下であった。また、全てのウェハにおいてバナジウム以外の不純物の濃度は2×1017atom/cm程度であった。得られたウェハを顕微鏡で観察したところ、成長結晶の下部に相当するウェハでバナジウムの析出物に起因すると思われる結晶欠陥が観察された。また、電気測定により各ウェハの抵抗率を調べたところ、成長結晶の下部に相当するウェハは10Wcm以上という高い抵抗率を示したが、中部、上部に相当するウェハは、0.4Wcmと低い抵抗率を示した。
【0025】
次に、このようにして製造したSiC単結晶ウェハの内、高抵抗率のもの(成長結晶の下部に相当するウェハ)を研磨して、厚さ300ミクロン、口径51mmのSiC単結晶鏡面ウェハを作製した。
【0026】
さらに、この51mm口径のSiC単結晶鏡面ウェハを基板として用いて、SiCのエピタキシャル成長を行った。SiCエピタキシャル薄膜の成長条件は、成長温度摂氏1500度、シラン(SiH4)、プロパン(C38)、水素(H2)の流量が、それぞれ5.0×10-93/sec、3.3×10-93/sec、5.0×10-53/secであった。成長圧力は大気圧とした。成長時間は2時間で、膜厚としては約5μm成長した。
【0027】
エピタキシャル薄膜成長後、ノマルスキー光学顕微鏡により、得られたエピタキシャル薄膜の表面モフォロジーを観察したところ、基板ウェハ中にバナジウム析出物に起因する欠陥が存在する場所上に成長した部位には、ピット状の表面欠陥が現れていた。
【0028】
また、同様にして作製した別のSiC単結晶インゴットからオフ角度が0度の高抵抗率(0001)面ウェハを切り出し(種結晶近傍の領域から切り出した)、鏡面研磨した後、その上にGaN薄膜を有機金属化学気相成長(MOCVD)法によりエピタキシャル成長させた。成長条件は、成長温度摂氏1050度、トリメチルガリウム(TMG)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)をそれぞれ、54×10-6モル/min、4リットル/min、22×10-11モル/min流した。また、成長圧力は大気圧とした。成長時間は60分間で、n型の窒化ガリウムを3μmの膜厚で成長させた。
【0029】
得られたGaN薄膜の表面状態を調べる目的で、成長表面をノマルスキー光学顕微鏡により観察したところ、やはりウェハ中にバナジウム析出物に起因した欠陥が存在する場所上に成長した部位には、ピット状の表面欠陥が発生していた。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、種結晶を用いた改良型昇華再結晶法(レーリー法)により、高抵抗率で且つ良質のSiC単結晶を再現性良く成長させることができる。このような結晶から切り出したSiC単結晶ウェハを用いれば、特性の優れた高周波電子デバイスを低価格で製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 改良レーリー法の原理を説明する図である。
【図2】 本発明の効果を説明する図であって、(a)は従来法によって製造されたSiC単結晶中のバナジウムおよび残留不純物濃度分布を、および、(b)は本発明によって製造されたSiC単結晶中のバナジウムおよび残留不純物濃度分布を示す。
【図3】 本発明の製造方法に用いられる単結晶成長装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 種結晶(SiC単結晶)
2 SiC結晶粉末原料
3 坩堝(黒鉛あるいはタンタル等の高融点金属)
4 黒鉛製坩堝蓋
5 二重石英管
6 支持棒
7 黒鉛製フェルト(断熱材)
8 ワークコイル
9 高純度Arガス配管
10 高純度Arガス用マスフローコントローラ
11 真空排気装置

Claims (10)

  1. 昇華再結晶法により種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程を包含する炭化珪素単結晶の製造方法であって、原料としてバナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1015atom/cm以下である炭化珪素結晶のみを用いて、不活性ガス雰囲気中で炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
  2. 昇華再結晶法により種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程を包含する炭化珪素単結晶の製造方法であって、原料としてバナジウムの濃度が1×1019〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1016atom/cm以下である炭化珪素結晶のみを用いて、不活性ガス雰囲気中で炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
  3. バナジウムの濃度が1×1018〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1015atom/cm以下である、炭化珪素単結晶育成用炭化珪素結晶原料。
  4. バナジウムの濃度が1×1019〜6×1019atom/cmであり、バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が1×1016atom/cm以下である、炭化珪素単結晶育成用炭化珪素結晶原料。
  5. 請求項1又は2に記載の製造方法で得られた炭化珪素単結晶であって、50mm以上の口径を有し、種結晶を除く炭化珪素単結晶の全長に亘って、バナジウムの濃度が1×1015〜3×1017atom/cmであることを特徴とする、炭化珪素単結晶。
  6. 前記バナジウムの濃度が1×1016〜3×1017atom/cmである、請求項5に記載の炭化珪素単結晶。
  7. バナジウム以外の炭化珪素単結晶の高抵抗率化を阻害する不純物の濃度が、バナジウムの濃度未満であり、1×1016 atom/cm 以下である請求項5又は6に記載の炭化珪素単結晶。
  8. 請求項5〜7のいずれか一項に記載の炭化珪素単結晶を切断、研磨してなる炭化珪素単結晶基板。
  9. 請求項8に記載の炭化珪素単結晶基板に、炭化珪素薄膜をエピタキシャル成長してなる炭化珪素エピタキシャルウェハ。
  10. 請求項8に記載の炭化珪素単結晶基板に、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはこれらの混晶をエピタキシャル成長してなる薄膜エピタキシャルウェハ。
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