以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明の一実施の形態に係る電解液は、例えば電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、化7で表されるスルホン化合物(以下、単に「スルホン化合物」とも言う。)と、化8で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化9で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種(以下、総称して単に「ハロゲン化炭酸エステル」とも言う。)とを含有している。上記したスルホン化合物とハロゲン化炭酸エステルとを組み合わせて含有することにより、両者を含有しない場合や、いずれか一方だけを含有する場合と比較して、電解液の化学的安定性が向上するからである。
(R1は炭素と水素、酸素およびハロゲンから選択される1種あるいは2種以上の元素とを含んで構成されるz価の基であり、スルホニル基中の硫黄原子はR1中の炭素原子に結合されている。zは2以上の整数である。)
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R21〜R24は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
化7に示したスルホン化合物は、スルホニル基(−SO2 −)とフッ素基(−F)とが結合されたスルホニルフルオライド型の構造を有している。なお、化8中のR11〜R16は、互いに同一でもよいし、異なってもよい。化9中のR21〜24についても、同様である。
化7中のR1は、炭素鎖あるいは炭素環を基本骨格とする基であり、その基本骨格中には、水素、酸素およびハロゲンから選択される1種あるいは2種以上の元素がどのような形態で含まれていてもよい。なお、炭素鎖は、直鎖状であってもよいし、1あるいは2以上の側鎖を有する分岐状であってもよい。
上記した「形態」とは、元素の数や元素の組み合わせなどを意味し、それらについては、任意に設定可能である。具体的には、水素の形態としては、例えば、アルキレン基やアリーレン基の一部などが挙げられる。酸素の形態としては、例えば、エーテル結合(−O−)などが挙げられる。ハロゲンの形態としては、例えば、ハロゲン化アルキレン基の一部などが挙げられる。このハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でもフッ素が好ましい。他のハロゲンと比較して、電解液の化学的安定性が高くなるからである。上記したハロゲンの形態は、R1中の水素がハロゲンによって置換されたものである。この場合には、一部の水素だけがハロゲンによって置換されてもよいし、全部の水素がハロゲンによって置換されてもよい。もちろん、水素、酸素およびハロゲンの形態は、上記した以外の他の形態であってもよい。
上記した構造を有していれば、R1はどのような基であってもよいが、z個のスルホニル基中の硫黄原子は、R1中における炭素原子以外の原子(例えば酸素原子)に結合されておらず、必ず炭素原子に結合されている。
なお、R1は、上記した一連の形態によって構成される基の誘導体であってもよく、この場合には、水素、酸素およびハロゲン以外の他の元素を構成元素として含んでいてもよい。この「誘導体」とは、上記した一連の基に1あるいは2以上の置換基が導入された基を意味し、その置換基の種類は、任意に設定可能である。
これらのことから、化7に示した構造に該当する構造を有していれば、スルホン化合物は、全体としてどのような構造を有していてもよい。
中でも、スルホン化合物としては、化10で表される化合物が好ましい。R2が直鎖状のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基である場合に、それらの炭素数が少なく抑えられるため、炭素数が3以上である場合と比較して、電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた相溶性も得られるからである。この「ハロゲン化アルキレン基」とは、アルキレン基のうちの少なくとも一部の水素がハロゲンによって置換された基である。
(R2は炭素と水素、酸素およびハロゲンから選択される1種あるいは2種以上の元素とを含んで構成されるz価の基であり、スルホニル基中の硫黄原子はR2中の炭素原子に結合されている。zは2以上の整数である。ただし、R2が直鎖状のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基である場合、それらの炭素数は2以下である。)
また、スルホン化合物としては、化11で表される化合物が好ましい。z(スルホニルフルオライド部分の数)が少なく抑えられるため、電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた相溶性が得られるからである。この化11に示した化合物は、化7中のzがz=2であると共にR1が2価の基である化合物である。
(R3は炭素と水素、酸素およびハロゲンから選択される1種あるいは2種以上の元素とを含んで構成される2価の基であり、スルホニル基中の硫黄原子はR3中の炭素原子に結合されている。)
2価の基であるR3としては、例えば、直鎖状あるいは分岐状のアルキレン基やアリーレン基や、アリーレン基とアルキレン基とが結合された基や、アルキレン基とエーテル結合とが結合された基や、それらをハロゲン化した基などが挙げられる。この「アリーレン基とアルキレン基とを有する2価の基」は、1つのアリーレン基と1つのアルキレン基とが結合された基であってもよいし、2つのアルキレン基が1つのアリーレン基を介して結合された基であってもよい。なお、「アルキレン基とエーテル結合とが結合された基」とは、2つのアルキレン基が1つのエーテル結合を介して結合された基を意味する。また、「それらをハロゲン化した基」とは、上記したアルキレン基等のうちの少なくとも一部の水素がハロゲンによって置換された基である。上記したアルキレン基、アリーレン基あるいはエーテル結合の数や結合順は、任意に設定可能である。もちろん、R3は、上記した以外の他の基であってもよい。
R3が直鎖状あるいは分岐状のアルキレン基である場合、その炭素数は、任意に設定可能であるが、中でも2以上10以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上4以下がさらに好ましい。特に、R3が直鎖状のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基である場合、それらの炭素数は、任意に設定可能であるが、中でも2以下が好ましい。また、R3がアリーレン基とアルキレン基とが結合された基である場合には、2つのアルキレン基が1つのアリーレン基を介して結合された基が好ましい。この場合の炭素数は、任意に設定可能であるが、中でも8が好ましい。いずれの場合においても、電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた相溶性が得られるからである。
R3がアルキレン基とエーテル結合とが結合された基である場合、その炭素数は、任意に設定可能であるが、中でも2以上12以下が好ましく、4以上12以下がより好ましい。この場合には、特に、R3は−CH2 −CH2 −(O−CH2 −CH2 )n −で表される基であるのが好ましく、nは1以上3以下であるのがより好ましい。電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた相溶性が得られるからである。
R3の具体例としては、化12の(1)〜(7)で表される直鎖状のアルキレン基や、化13の(1)〜(9)で表される分岐状のアルキレン基や、化14の(1)〜(3)で表されるアリーレン基や、化15の(1)〜(3)で表されるアリーレン基とアルキレン基が結合された基や、化16の(1)〜(13)で表されるアルキレン基とエーテル結合とが結合された基が挙げられる。この他、上記した一連の基をハロゲン化した基として、化17の(1)〜(9)で表されるように、アルキレン基とエーテル結合とが結合された基をハロゲン化した基が挙げられる。もちろん、アルキレン基とエーテル結合とが結合された基に限らず、他のアルキレン基等がハロゲン化されてもよい。
化7に示した化合物の具体例としては、化18の(1)〜(8)で表される化合物が挙げられる。電解液において高い化学的安定性が得られると共に、優れた溶解性が得られるからである。確認までに説明しておくと、化7中のR1は、化18(1)〜(3)において直鎖状のアルキレン基、化18(4)〜(6)において直鎖状のフッ素化アルキレン基、化18(7)においてアリーレン基、化18(8)においてアルキレン基とエーテル結合とが結合された基をハロゲン化した基である。
化7に示した化合物として説明した一連の化合物は、単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、化7に示した構造を有していれば、化10、化11および化18に示した化合物に限定されないことは、言うまでもない。
溶媒中における化7に示したスルホン化合物の含有量は、任意に設定可能であるが、中でも0.01重量%以上10重量%以下であるのが好ましい。電解液において高い化学的安定性が得られるからである。詳細には、0.01重量%よりも少ないと、電解液の化学的安定性が十分かつ安定に得られない可能性があり、10重量%よりも多いと、電気化学デバイスの主要な電気的性能(例えば電池における容量特性など)が十分に得られない可能性があるからである。
化8および化9に示したハロゲン化炭酸エステルは、電気化学デバイスの動作時(電極反応時)に分解し、電極上にハロゲン系の被膜を形成する。これにより、電解液の分解反応が抑制される。
R11〜R16およびR21〜R24について説明した「ハロゲン化アルキル基」とは、アルキル基のうちの少なくとも一部の水素がハロゲンによって置換された基である。このハロゲンの種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でもフッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、他のハロゲンであってもよい。
特に、ハロゲン化炭酸エステルとしては、1つのハロゲンを有する化合物(モノハロゲン化炭酸エステル)よりも、2つのハロゲンを有する化合物(ジハロゲン化炭酸エステル)が好ましい。被膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
化8に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
化9中のR21〜R24のうちの少なくとも1種がアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基である場合、それらはメチル基、エチル基、ハロゲン化メチル基あるいはハロゲン化エチル基であるのが好ましい。高い効果が得られるからである。
化9に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化19および化20で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化19に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−フルオロ−5−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4−メチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化20に示した(1)の4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−トリフルオロメチル−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の4,4−ジフルオロ−5−(1,1−ジフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
上記した一連のハロゲン化炭酸エステルのうち、モノハロゲン化炭酸エステルとしては、炭酸フルオロメチルメチルあるいは4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、ジハロゲン化炭酸エスエルとしては、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
この溶媒は、上記したスルホン化合物およびハロゲン化炭酸エステルと共に、他の有機溶媒などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有しているのが好ましい。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、あるいはジメチルスルホキシド燐酸などが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、特に、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有していてもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレン系化合物、炭酸ビニルエチレン系化合物、あるいは炭酸メチレンエチレン系化合物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられる。
炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や、酸無水物を含有していてもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、プロペンスルトンが好ましい。また、溶媒中におけるスルトンの含有量は、0.5重量%以上3重量%以下であるのが好ましい。いずれの場合においても、高い効果が得られるからである。
酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、無水スルホ安息香酸が好ましい。また、溶媒中における酸無水物の含有量は、0.5重量%以上3重量%以下であるのが好ましい。いずれの場合においても、高い効果が得られるからである。
溶媒の固有粘度は、25℃において10.0mPa・s以下であるのが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。なお、溶媒に電解質塩を溶解させた状態の固有粘度(いわゆる電解液の固有粘度)も、同様の理由により、25℃において10.0mPa・s以下であるのが好ましい。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。電解液の抵抗が低下するからである。特に、六フッ化リン酸リチウムと四フッ化ホウ酸リチウムとを併用するのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
この電解質塩は、化21、化22および化23で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化21中のR33は、互いに同一でもよいし、異なってもよい。化22中のR41〜R43および化23中のR51およびR52についても、同様である。
(X31は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−OC−R32−CO−、−OC−CR33
2 −あるいは−OC−CO−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4の整数であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素である。M41は遷移金属、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。Y41は−OC−(CR41
2 )
b4−CO−、−R43
2 C−(CR42
2 )
c4−CO−、−R43
2 C−(CR42
2 )
c4−CR43
2 −、−R43
2 C−(CR42
2 )
c4−SO
2 −、−O
2 S−(CR42
2 )
d4−SO
2 −あるいは−OC−(CR42
2 )
d4−SO
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2の整数であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は短周期型周期表における1A族元素あるいは2A族元素である。M51は遷移金属、または短周期型周期表における3B族元素、4B族元素あるいは5B族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−OC−(CR51
2 )
d5−CO−、−R52
2 C−(CR51
2 )
d5−CO−、−R52
2 C−(CR51
2 )
d5−CR52
2 −、−R52
2 C−(CR51
2 )
d5−SO
2 −、−O
2 S−(CR51
2 )
e5−SO
2 −あるいは−OC−(CR51
2 )
e5−SO
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2の整数であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
化21に示した化合物としては、例えば、化24の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化22に示した化合物としては、例えば、化25の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化23に示した化合物としては、例えば、化26で表される化合物などが挙げられる。中でも、化24(6)の化合物が好ましい。高い効果が得られるからである。なお、化21〜化23に示した構造を有する化合物であれば、化24〜化26に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
また、電解質塩は、化27、化28および化29で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化27中のmおよびnは、互いに同一でもよいし、異なってもよい。化29中のp、qおよびrについても、同様である。
(R61は炭素数2〜4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
化27に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
化28に示した環状の化合物としては、例えば、化30で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化26に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
化29に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
この電解液によれば、溶媒がスルホン化合物(化7に示したスルホン化合物)とハロゲン化炭酸エステル(化8に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化9に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種)とを含有しているので、両者を含有していない場合や、いずれか一方だけを含有している場合と比較して、化学的安定性が向上する。したがって、電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に分解反応が抑制されるため、サイクル特性、保存特性および膨れ特性などの特性向上に寄与することができる。この場合には、スルホン化合物が化10あるいは化11に示した化合物であり、または溶媒中におけるスルホン化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下であれば、高い効果を得ることができる。特に、ハロゲン化炭酸エステルとしてモノハロゲン化炭酸エステルよりもジハロゲン化炭酸エステルを含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、溶媒が、不飽和結合を有する環状炭酸エステルや、スルトンや、酸無水物を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
さらに、電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、化21〜化23に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化27〜化29に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
次に、上記した電解液の使用例について説明する。ここで電気化学デバイスの一例として、電池を例に挙げると、電解液は以下のようにして用いられる。
(第1の電池)
図1は、第1の電池の断面構成を表している。この電池は、例えば、負極の容量が電池反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、正極21と負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。電池缶11は、例えば、ニッケル(Ni)鍍金された鉄(Fe)などの金属材料によって構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめて取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料によって構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じた抵抗の増大によって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表している。正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、硫化鉄(FeS2 )、硫化チタン(TiS2 )、硫化モリブデン(MoS2 )、セレン化ニオブ(NbSe2 )あるいは酸化バナジウム(V2 O5 )などのリチウムを含有しないカルコゲン化物、またはリチウムを含有するリチウム含有化合物などが挙げられる。
中でも、リチウム含有化合物は、高電圧および高エネルギー密度を得ることができるものがあるので好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特にコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、ニッケルを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物の具体例としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、上記した正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、硫黄や、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。負極集電体22Aは、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料によって構成されているのが好ましい。この金属材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられ、中でも銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量は、正極活物質による充電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。このような炭素材料としては、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが挙げられる。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成し、炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高エネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られる上、さらに導電剤としても機能するので好ましい。
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。このような負極材料は、高いエネルギー密度が得られるので好ましい。この負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またはこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。ここで、本発明における合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、本発明における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられる。すなわち、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料である。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
ケイ素の化合物あるいはスズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を含むものが挙げられ、ケイ素あるいはスズに加えて上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する材料としては、スズを第1の構成元素とし、そのスズに加えて第2および第3の構成元素を含むものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンからなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下の範囲内であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このCoSnC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、CoSnC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性の構造あるいは非晶質な構造を有しているのが好ましい。また、CoSnC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
また、元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、CoSnC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、CoSnC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している。
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとCoSnC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、CoSnC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
さらに、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどが挙げられ、高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
もちろん、上記した一連のリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料を組み合わせて用いてもよい。
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。ただし、図1に示したように、正極21および負極22が巻回されている場合には、柔軟性に富むスチレンブタジエン系ゴムあるいはフッ素系ゴムなどを用いることが好ましい。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどからなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜によって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層された構造を有していてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性にも優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものや、ブレンド化したものであってもよい。
このセパレータ23には、液状の電解質として、上記した電解液が含浸されている。サイクル特性が向上するからである。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。
この二次電池は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成して正極21を作製する。この場合には、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、その正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。また、例えば、正極21と同様の作製手順により、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
続いて、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを巻回させて巻回電極体20を形成し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26の先端部を電池缶11に溶接したのち、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、スルホン化合物およびハロゲン化炭酸エステルを含有する溶媒に電解質塩を溶解させて電解液を調製したのち、その電解液を電池缶11の内部に注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に、電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめて固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
この円筒型の二次電池によれば、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表される場合に、上記した電解液を備えているので、その電解液の分解反応が抑制される。したがって、サイクル特性、保存特性および膨れ特性などの電池特性を向上させることができる。特に、負極22の負極活物質がリチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料を含有していれば、電解液がより分解しやすくなるため、炭素材料を含有する場合よりも高い効果を得ることができる。この二次電池に関する他の効果は、上記した電解液について説明した場合と同様である。
次に、第2および第3の電池について説明するが、第1の電池と共通の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
(第2の電池)
第2の電池は、負極22の構成が異なる点を除き、第1の電池と同様の構成、作用および効果を有していると共に同様の手順によって製造される。
負極22は、第1の電池と同様に、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極活物質層22Bは、例えば、負極活物質として、ケイ素あるいはスズを構成元素として有する材料を含んでいる。具体的には、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、またはスズの単体、合金あるいは化合物を含有しており、それらの2種以上を含んでいてもよい。
この負極活物質層22Bは、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成されたものであり、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、界面において負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。充放電時において負極活物質層22Bの膨張および収縮に伴う破壊が抑制されると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性が向上するからである。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition )法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合してから溶剤に分散させて塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
(第3の電池)
第3の電池は、負極22の容量がリチウムの析出および溶解に基づいて表されるリチウム金属二次電池である。この二次電池は、負極活物質層22Bがリチウム金属によって構成されている点を除き、第1の電池と同様の構成を有していると共に同様の手順によって製造される。
この二次電池は、負極活物質としてリチウム金属を用いており、これによって高いエネルギー密度を得ることができるようになっている。負極活物質層22Bは、組み立て時から既に存在するようにしてもよいが、組み立て時には存在せず、充電時に析出したリチウム金属によって構成されるようにしてもよい。また、負極活物質層22Bを集電体としても利用することにより、負極集電体22Aを省略するようにしてもよい。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極集電体22Aの表面にリチウム金属となって析出する。一方、放電を行うと、例えば、負極活物質層22Bからリチウム金属がリチウムイオンとなって溶出し、電解液を介して正極21に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極22の容量がリチウムの析出および溶解に基づいて表される場合に、上記した電解液を備えているので、サイクル特性、保存特性および膨れ特性などの電池特性を向上させることができる。この二次電池に関する他の効果は、上記した第1の電池と同様である。
(第4の電池)
図3は、第4の電池の分解斜視構成を表している。この電池は、主に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30をフィルム状の外装部材40の内部に収容したものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード31および負極リード32は、例えば、それぞれ外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されている。また、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。正極リード31および負極リード32を構成するそれぞれの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状とされている。
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされた矩形状のアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40では、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向していると共に、各外縁部が融着あるいは接着剤によって互いに密着されている。外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂によって構成されている。
なお、外装部材40は、上記した3層構造のアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、またはポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
図4は、図3に示した巻回電極体30のIV−IV線に沿った断面構成を表している。この電極巻回体30は、正極33と負極34とがセパレータ35および電解質36を介して積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37によって保護されている。
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものであり、その負極活物質層34Bが正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1ないし第3の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質36は、上記した電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状になっている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。特に、電気化学的安定性の点から、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドなどが好ましい。電解液中における高分子化合物の添加量は、両者の相溶性によっても異なるが、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。
電解液の組成は、上記した第1の電池における電解液の組成と同様である。ただし、ここで言う溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。特に、液状の溶媒を用いる場合には、炭酸プロピレンを用いるのが好ましい。二次電池の膨れが抑制されるからである。
なお、電解液を高分子化合物に保持させた電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
この二次電池は、例えば、以下の3種類の製造方法によって製造される。
第1の製造方法では、最初に、例えば、第1の電池の製造方法と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。続いて、上記した電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aおよび負極集電体34Aにそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が設けられた正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を形成する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。その際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極33および負極34にそれぞれ正極リード31および負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、上記した電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第1の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
このラミネートフィルム型の二次電池による作用および効果は、上記した第1ないし第3の電池と同様である。
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
(実験例1−1)
負極活物質として人造黒鉛を用いて、図3および図4に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。この際、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、帯状のアルミニウム箔(20μm厚)からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層33Bを形成した。
次に、負極34を作製した。最初に、負極活物質として人造黒鉛90質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。最後に、帯状の銅箔(15μm厚)からなる負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層34Bを形成した。
次に、電解液を調製した。最初に、溶媒として、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とをEC:DEC=30:70の重量比で混合したのち、ハロゲン化炭酸エステル(化9に示したハロゲンを有する環状炭酸エステル)である4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)と、スルホン化合物(化7に示した化合物)である化18(2)の化合物とを加えて混合した。この際、溶媒中におけるFECの含有量を1重量とし、溶媒中における化18(2)の化合物の含有量を0.01重量%とした。この「重量%」とは、溶媒全体を100重量%とする場合の単位であり、以降においても同様である。最後に、溶媒中に電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させた。この際、電解液中における電解質塩の濃度が1mol/kgとなるようにした。
次に、正極33および負極34を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ35(25μm厚)と、負極34とをこの順に積層して長手方向に多数回巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロンフィルム(30μm厚)と、アルミニウム箔(40μm厚)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(30μm厚)とが積層された3層構成(合計100μm厚)のラミネートフィルムからなる外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材40の開口部を通じて内部に電解液を注入し、その電解液をセパレータ35に含浸させて巻回電極体30を形成した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
(実験例1−2〜1−5)
溶媒中における化18(2)の化合物の含有量を1重量%(実験例1−2)、2重量%(実験例1−3)、5重量%(実験例1−4)、あるいは10重量%(実験例1−5)としたことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
(実験例1−6〜1−12)
化18(2)の化合物に代えて、化18(1)の化合物(実験例1−6)、化18(3)の化合物(実験例1−7)、化18(4)の化合物(実験例1−8)、化18(5)の化合物(実験例1−9)、化18(6)の化合物(実験例1−10)、化18(7)の化合物(実験例1−11)、あるいは化18(8)の化合物(実験例1−12)を用いたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(比較例1−1)
FECおよび化18(2)の化合物の双方を含有させなかったことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−2)
化18(2)の化合物だけを含有させなかったことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
(比較例1−3)
FECだけを含有させなかったことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(比較例1−4,1−5)
溶媒として不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)を加えたことを除き、比較例1−1,1−3と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるVCの含有量を1重量%とした。
これらの実験例1−1〜1−12および比較例1−1〜1−5の二次電池についてサイクル特性、保存特性および膨れ特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で2サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中でサイクル数の合計が100サイクルとなるまで繰り返し充放電させて放電容量を測定したのち、常温サイクル放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充放電条件としては、0.2Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、0.2Cの電流で終止電圧2.7Vまで定電流放電した。この「0.2C」とは、理論容量を5時間で放電しきる電流値である。
保存特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で2サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き再度充電させた状態で80℃の恒温槽中に10日間保存してから23℃の雰囲気中で放電させて放電容量を測定したのち、高温保存放電容量維持率(%)=(保存後の放電容量/保存前の放電容量)×100を算出した。充放電条件については、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
膨れ特性を調べる際には、23℃の雰囲気中で2サイクル充放電させてから再度充電させて厚さを測定し、引き続き充電状態のままで90℃の恒温槽中に4時間保存してから厚さを測定したのち、膨れ(mm)=(保存後の厚さ−保存前の厚さ)を算出した。
なお、上記したサイクル特性等を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例および比較例についても同様である。
表1に示したように、溶媒がFECおよび化18(1)〜(8)の化合物の双方を含有する実験例1−1〜1−12では、双方を含有せず、あるいはいずれか一方だけを含有する比較例1−1〜1−5と比較して、ほぼ同等以上の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。
詳細には、溶媒がFECおよび化18(2)の化合物を含有する実験例1−1〜1−5では、それらの双方を含有しない比較例1−1と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電維持率が軒並み高くなった。この場合には、溶媒中における化18(2)の化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以上であると、高い常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。なお、化18(2)の化合物の含有量が0.01重量%未満あるいは10重量%超になると、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が大幅に低下し、10重量%超では容量も大幅に低下する傾向を示した。これらの実験例1−1〜1−5について説明した結果は、溶媒が化18(1)等の化合物を含有する実験例1−6〜1−12についても同様であった。
また、実験例1−1〜1−5では、溶媒がFECだけを含有する比較例1−2と比較して、常温サイクル放電容量維持率はほぼ同程度以上であったが、高温保存放電容量維持率は軒並み高くなった。この場合には、化18(2)の化合物の含有量が0.01重量以上2重量%以下であると、常温サイクル放電容量維持率も軒並み高くなった。
さらに、実験例1−2,1−6〜1−12では、溶媒が化18(2)の化合物だけを含有する比較例1−3と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が軒並み高くなり、双方の値が80%台後半になった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質として人造黒鉛を含む場合に、電解液の溶媒がスルホン化合物およびハロゲン化炭酸エステルの双方を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒中における化7に示した化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であれば、良好な特性が得られることも確認された。
また、化7中のR1が直鎖状のアルキレン基である点において共通している実験例1−2,1−6,1−7の間で比較すると、R1の炭素数が3以上である実験例1−7よりも、2以下である実験例1−2,1−6において、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなる傾向を示した。この傾向は、R1がハロゲン化アルキレン基である点において共通している実験例1−8〜1−10についても、同様であった。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、化7中のR1が直鎖状のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基である場合に、その炭素数が2以下であれば、サイクル特性および保存特性がより向上することも確認された。
また、溶媒がFECおよび化18(2)の化合物の双方を含有しない比較例1−1の膨れを基準にすると、FECだけを含有する比較例1−2では膨れが大幅に増加したが、FECおよび化18(2)の化合物の双方を含有する実験例1−2では膨れの増加が抑えられた。
この結果は、以下のことを表している。すなわち、FECは、常温サイクル放電容量維持率を大幅に増加させる点において利点を有するが、高温保存放電容量維持率を大幅に増加させることができず、しかも膨れを大幅に増加させる点において欠点を有する。また、化18(2)の化合物は、膨れを抑制する点において利点を有するが、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を大幅に増加させることができない点において欠点を有する。これに対して、FECと化18(2)の化合物とを併用すると、膨れが抑制されつつ、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が大幅に増加する。
なお、溶媒がVCを含有する比較例1−4,1−5では、比較例1−1よりも常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなったが、FECを含有する実験例1−2の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率には及ばなかった。この結果は、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させるためには、VCよりもFECが有利であることを表している。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、スルホン化合物がハロゲン化炭酸エステルと組み合わせて用いられることにより、サイクル特性および保存特性だけでなく膨れ特性も向上することが確認された。この場合には、スルホン化合物が不飽和結合を有する環状炭酸エステルと組み合わせて用いられる場合よりも高い効果が得られることも確認された。
なお、ここでは溶媒が炭酸フルオロメチルメチルを含有する場合の結果を示していないが、炭酸フルオロメチルメチルはFECと同様の機能を有することから、炭酸フルオロメチルメチルを含有する場合においても同様の結果が得られることは明らかである。このことは、ハロゲン化炭酸エステルを同種類間あるいは異種類間で2種以上混合させた場合についても同様である。
(実験例2−1,2−2)
ハロゲン化炭酸エステル(化9に示したハロゲンを有する環状炭酸エステル)としてFECに代えて、トランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(t−DFEC:実験例2−1)、あるいはシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(c−DFEC:実験例2−2)を用いたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(実験例2−3)
ハロゲン化炭酸エステル(化8に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステル)として炭酸ビス(フルオロメチル:BFDMC)を加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるBFDMCの含有量を1重量%とした。
(比較例2)
化18(2)の化合物を含有させなかったことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
これらの実験例2−1〜2−3および比較例2の二次電池についてサイクル特性、保存特性および膨れ特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、溶媒がt−DFEC等を含有する実験例2−1,2−2では、FECを含有する実験例1−2と比較して、常温サイクル放電容量維持率が軒並み高くなり、高温保存放電維持率が同等以上になった。もちろん、溶媒が化18(2)の化合物を含有する実験例2−1では、それを含有しない比較例2よりも常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電維持率が高くなった。なお、溶媒がFECおよびBFDMCを含有する実験例2−3では、t−DFEC等を含有する実験例2−1,2−2とほぼ同等の常温
サイクル放電容量維持率および高温保存容量維持率が得られた。
しかも、溶媒がFECおよび化18(2)の化合物の双方を含有しない比較例1−1の膨れを基準にすると、t−DFECだけを含有する比較例2では膨れが大幅に増加したが、t−DFECおよび化18(2)の化合物の双方を含有する実験例2−1では膨れの増加が抑えられた。
これらの結果は、以下のことを表している。t−DFEC等は、FECよりも常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる点において利点を有するが、膨れを大幅に増加させる点において欠点を有する。しかしながら、t−DFEC等を化18(2)の化合物と一緒に用いれば、膨れが抑制されつつ、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が大幅に増加する。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、ハロゲン化炭酸エステルの種類を変更した場合においても、サイクル特性、保存特性および膨れ特性が向上することが確認された。この場合には、ハロゲン化炭酸エステルとしてモノハロゲン化炭酸エステルよりもジハロゲン化炭酸エステルを用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実験例3−1)
溶媒として炭酸プロピレン(PC)を加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。この際、ECとDECとPCとの混合比を重量比で20:60:20とした。
(実験例3−2,3−3)
溶媒としてDECに代えて、炭酸エチルメチル(EMC:実験例3−2)、あるいは炭酸ジメチル(DMC:実験例3−3)を用いたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。
(実験例3−4,3−5)
溶媒としてスルトンであるプロペンスルトン(PRS:実験例3−4)、あるいは酸無水物である無水スルホ安息香酸(SBAH:実験例3−5)を加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるPRS等の含有量を1重量とした。
これらの実験例3−1〜3−5の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
表3に示したように、溶媒がPC等を含有する実験例3−1〜3−5では、それらを含有しない実験例1−2と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電維持率がほぼ同等以上になり、80%台後半あるいはそれ以上になった。この場合には、溶媒にPC等を加えた実験例3−1,3−4,3−5において、溶媒の一部をEMC等に置き換えた実験例3−2,3−2と比較すると、常温サイクル放電容量維持率が同等以上になり、高温保存放電容量維持率が軒並み高くなった。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒にPC等を加えれば、特性がより向上することも確認された。
(実験例4−1〜4−3)
電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 :実験例4−1)、化21に示した化合物である化24(6)の化合物(実験例4−2)、あるいは化28に示した化合物である化30(1)の化合物(実験例4−3)を加えたことを除き、実験例1−2と同様の手順を経た。この際、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を0.9mol/kgとし、四フッ化ホウ酸リチウム等の濃度を0.1mol/kgとした。
これらの実験例4−1〜4−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
表4に示したように、電解質塩が四フッ化ホウ酸リチウム等を含有する実験例4−1〜4−3では、それらを含有しない実験例1−2と比較して、常温サイクル放電容量維持率が同等以上になり、高温保存放電維持率が軒並み高くなった。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、電解質塩の種類を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、電解質塩が四フッ化ホウ酸リチウム、化21に示した化合物、あるいは化28に示した化合物を含有すれば、特性がより向上することも確認された。
なお、ここでは電解質塩が過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、化22および化23に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化27および化29に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有する場合の結果を示していないが、過塩素酸リチウム等は四フッ化ホウ酸リチウム等と同様の機能を有することから、過塩素酸リチウム等を含有する場合においても同様の結果が得られることは明らかである。このことは、上記した電解質塩を同種類間あるいは異種類間で2種以上混合させた場合についても同様である。
(実験例5−1〜5−12)
負極活物質として人造黒鉛に代えてケイ素を用いて負極活物質層34Bを形成したと共に、FECの含有量を5重量%に変更したことを除き、実験例1−1〜1−12と同様の手順を経た。この負極活物質層34Bを形成する場合には、電子ビーム蒸着法によって負極集電体34A上にケイ素を堆積させた。
(比較例5−1〜5−5)
実験例5−1〜5−12と同様に負極活物質としてケイ素を用いて負極活物質層34Bを形成したことを除き、比較例1−1〜1−5と同様の手順を経た。
これらの実験例5−1〜5−12および比較例5−1〜5−5の二次電池についてサイクル特性、保存特性および膨れ特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
表5に示したように、負極活物質としてケイ素を用いた場合においても、表1に示した結果とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、溶媒がFECおよび化18(1)〜(8)の化合物の双方を含有する場合には、溶媒中における化18(2)の化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以上であると、双方を含有せず、あるいはいずれか一方だけを含有する場合と比較して、ほぼ同等以上の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が得られた。また、化7中のR1が直鎖状のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基である点において共通している場合で比較すると、R1の炭素数が3以上である場合よりも2以下である場合において、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が同等以上になる傾向を示した。さらに、溶媒がFECおよび化18(2)の化合物の双方を含有しない場合の膨れを基準にすると、FECだけを含有する場合には膨れが大幅に増加したが、FECおよび化18(2)の化合物の双方を含有する場合には膨れの増加が抑えられた。特に、溶媒がVCを含有する場合には、FECを含有する場合の常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率に及ばなかった。
これらのことから、本発明の二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素を含む場合においても、電解液の溶媒がスルホン化合物およびハロゲン化炭酸エステルの双方を含有することにより、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒中における化7に示した化合物の含有量が0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であれば良好な特性が得られ、化7中のR1が直鎖状のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基である場合には炭素数が2以下であれば特性がより向上することも確認された。また、スルホン化合物がハロゲン化炭酸エステルと組み合わせて用いられることにより、サイクル特性および保存特性だけでなく膨れ特性も向上することが確認された。
(実験例6−1〜6−3)
実験例5−1〜5−12と同様に負極活物質としてケイ素を用いて負極活物質層34Bを形成したと共に、t−DFEC等の含有量を5重量%に変更したことを除き、実験例2−1〜2−3と同様の手順を経た。
(比較例6)
実験例5−1〜5−12と同様に負極活物質としてケイ素を用いて負極活物質層34Bを形成したと共に、t−DFECの含有量を5重量%に変更したことを除き、比較例2と同様の手順を経た。
これらの実験例6−1〜6−3および比較例6の二次電池についてサイクル特性、保存特性および膨れ特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
表6に示したように、負極活物質としてケイ素を用いた場合においても、表2に示した結果とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、溶媒がt−DFEC等を含有する場合には、FECを含有する場合と比較して、常温サイクル放電容量維持率が軒並み高くなり、高温保存放電維持率が同等以上になった。もちろん、溶媒が化18(2)の化合物を含有する場合には、それを含有しない場合よりも常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電維持率が高くなった。なお、溶媒がFECおよびBFDMCを含有する場合には、t−DFEC等を含有する場合とほぼ同等の常温サイクル放電容量維持率および高温保存容量維持率が得られた。しかも、溶媒がt−DFECだけを含有する場合には膨れが大幅に増加したが、t−DFECおよび化18(2)の化合物の双方を含有する場合には膨れの増加が抑えられた。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、ハロゲン化炭酸エステルの種類を変更した場合においても、サイクル特性、保存特性および膨れ特性が向上することが確認された。この場合には、ハロゲン化炭酸エステルとしてモノハロゲン化炭酸エステルよりもジハロゲン化炭酸エステルを用いれば、特性がより向上することも確認された。
(実験例7−1〜7−5)
実験例5−1〜5−12と同様に負極活物質としてケイ素を用いて負極活物質層34Bを形成したと共に、FECの含有量を5重量%に変更したことを除き、実験例3−1〜3−5と同様の手順を経た。
これらの実験例7−1〜7−5の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
表7に示したように、負極活物質としてケイ素を用いた場合においても、表3に示した結果とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、溶媒がPC等を含有する場合には、それらを含有しない場合と比較して、常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電維持率がほぼ同等以上になった。この場合には、溶媒にPC等を加えた場合において、溶媒の一部をEMC等に置き換えた場合と比較すると、常温サイクル放電容量維持率が同等以上になり、高温保存放電容量維持率が軒並み高くなった。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒にPC等を加えれば、特性がより向上することも確認された。
(実験例8−1〜8−3)
実験例5−1〜5−12と同様に負極活物質としてケイ素を用いて負極活物質層34Bを形成したと共に、FECの含有量を5重量%に変更したことを除き、実験例4−1〜4−3と同様の手順を経た。
これらの実験例8−1〜8−3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
表8に示したように、負極活物質としてケイ素を用いた場合においても、表4に示した結果と同様の結果が得られた。すなわち、電解質塩が四フッ化ホウ酸リチウム等を含有する場合には、それらを含有しない場合と比較して、常温サイクル放電容量維持率が同等以上になり、高温保存放電維持率が軒並み高くなった。
これらのことから、上記した本発明の二次電池では、電解質塩の種類を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、電解質塩が四フッ化ホウ酸リチウム、化21に示した化合物、あるいは化28に示した化合物を含有すれば、サイクル特性および保存特性がより向上することも確認された。
上記した表1〜表8の結果から、本発明の二次電池では、電解液の溶媒が、化7に示したスルホン化合物と、化8に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化9に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種とを含有することにより、負極活物質の種類や溶媒の組成に関係なく、サイクル特性、保存特性および膨れ特性などの電池特性が向上することが確認された。この場合には、負極活物質として炭素材料を用いた場合よりもケイ素(リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料)を用いた場合において放電容量維持率の増加率が大きくなったことから、後者の場合においてより高い効果が得られることも確認された。この結果は、負極活物質として高容量化に有利なケイ素を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解液が分解しやすくなるため、電解液の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明のリチウムイオン二次電池の電解質として、電解液、あるいは電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明のリチウムイオン二次電池として、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づいて表される場合や、負極の容量がリチウム金属の析出および溶解に基づいて表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵および放出に基づく容量とリチウム金属の析出および溶解に基づく容量とを含み、かつそれらの容量の和によって表される場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態または実施例では、本発明のリチウムイオン二次電池について、電池構造が円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、角型、コイン型あるいはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記実施の形態および実施例では、本発明のリチウムイオン二次電池における化7に示したスルホン化合物の含有量について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明しているが、その説明は、含有量が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、含有量が上記した範囲から多少外れてもよい。
11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム。