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JP4774989B2 - 胚様体形成用容器及び胚様体の形成方法 - Google Patents

胚様体形成用容器及び胚様体の形成方法 Download PDF

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、胚様体を形成する際に用いる胚様体形成用容器及び胚様体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、試験管内でも様々な細胞に分化する能力をもつ。ES細胞を試験管内で分化させる方法としては、浮遊培養によって胚様体と呼ばれる擬似的な胚を形成させる方法、ストローマ細胞のように分化と増殖を支持する細胞と共培養する方法が利用されている。ES細胞は、LIF(白血病阻止因子:leukemia inhibitory factor)を加えずに高密度になるまで培養し、シャーレ等の培養容器に接着しないように浮遊培養させて細胞塊を形成すると、その後、様々な種類の細胞に分化することが知られている。浮遊培養で形成された細胞塊は、胚様体(EB)と呼ばれ、浮遊培養は、ES細胞を試験管内で分化させる際に最も広く用いられる方法である。
胚様体は、二重の細胞層から成るボールのような構造をもち、外層は近位内胚葉、内層は胚体外胚葉にあたる。2つの胚葉は、基底膜によって隔てられている。該構造は、マウスの6日胚である円筒胚によく似ており、その限りにおいて胚の正常な発生段階に近い。胚様体においては、中胚葉の誘導も起き、心筋細胞、血液細胞、更には原始的な血管網も発生する。また、胚様体を培養シャーレに付着させて培養を続けると様々な種類の細胞に分化する。この中には、神経細胞、ケラチノサイト、軟骨細胞、脂肪細胞等が含まれる。胚様体の形成を経て分化する細胞は、体細胞に限らず、最近では生殖細胞系譜への分化も起きることが確認されている。このように胚様体の形成はES細胞の多分化能を示すのに都合がよい。
【0003】
胚様体を形成させる為には、ES細胞を培養容器に接着しないように工夫した「ハンギング・ドロップ法」が広く用いられている。ガラス容器のふたから垂れ下がった水滴の中にES細胞を入れて培養するハンギング・ドロップ法1、又は培養容器に予めミネラルオイルを入れておき、その上にES細胞を重層し培養するハンギング・ドロップ法2が知られている。しかし、ハンギング・ドロップ法1は、垂れ下がった水滴が落ちないようにする必要があり、培養時の調製及び扱いが非常に煩雑であった。また、ミネラルオイルを用いたハンギング・ドロップ法2では、重層したミネラルオイルと細胞懸濁液の界面が乱れないようにする必要があり、更に、胚様体の形成後に、胚様体を別の培養容器に移すまで検鏡することができず、胚様体の形成過程における研究開発が非常に困難であった。
【0004】
ホスホリルコリン基含有重合体は、生体膜に由来するリン脂質類似構造に起因して、血液適合性、補体活性、生体物質非吸着性等の特性を有していることが明らかにされ、当該機能を利用した生体関連材料の開発が盛んに行われている。例えば、特許文献1には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下MP/Cと略記)の製造方法とその重合体が優れた生体適合性を有することが、特許文献2には、MP/Cとメタクリル酸エステルとの共重合体が血小板の粘着・凝集や血漿蛋白質の付着が起こりにくく、医療用材料として有用であることが、特許文献3には、ホスホリルコリン類似基を側鎖に有する共重合体を用いた医療用材料が、特許文献4及び5には、ホスホリルコリン類似基を有する重合体を樹脂表面にコーティングして、優れた生体適合性が得られることが、特許文献6には、ホスホリルコリン類似基を有する重合体をポリエチレンテレフタレートにコーティングして、血球細胞、株細胞、初代培養細胞を分離・回収する分離剤及び分離・回収方法がそれぞれ開示されている。
しかし、ES細胞を浮遊培養するにあたり、ホスホリルコリン類似基を有する重合体を被覆した容器を使用することについては知られていない。
【特許文献1】
特開昭54−36025号公報
【特許文献2】
特開平3−39309号公報
【特許文献3】
特開平9−183819号公報
【特許文献4】
持表平6−502200号公報
【特許文献5】
特表平7−502053号公報
【特許文献6】
特開2002−098676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
[0005]
本発明の目的は、煩雑な手法を用いることなく、容易にES細胞より胚様体を形成するために使用する胚様体形成用容器を提供することにある。
本発明の別の目的は、煩雑な手法を用いることなく、容易にES細胞を培養し、胚様体を形成できる胚様体の形成方法を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
【0006】
本発明によれば、胚性幹細胞(ES細胞)を浮遊培養させ胚様体を形成するための胚様体形成用容器であって、ES細胞を浮遊培養するための領域を形成するための容器表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて形成した被覆層を備える胚様体形成用容器が提供される。
また本発明によれば、ES細胞を浮遊培養するための領域を形成するための容器表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて形成した被覆層を備える胚様体形成用容器を準備する工程(A)と、胚様体形成用容器内において、胚様体を形成するためにES細胞を浮遊培養する工程(B)とを含む胚様体の形成方法が提供される。
【0007】
本発明の胚様体の形成方法は、本発明の胚様体形成用容器を用いて培養するので、従来のハンギング・ドロップ法のES細胞の培養における、煩雑な手法を用いることなく、容易にES細胞より胚様体を効率良く形成することができる。また本発明の胚様体形成用容器は、所望表面に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて形成した被覆層を備えるので、ES細胞より胚様体を形成する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例2−1で形成した胚様体の位相差額微鏡写真の写しである。
【図2】図2は、未処理プレートを用いた比較例2−1で培養した胚様体の位相差顕微鏡写真の写しである。
【図3】図3は、比較例2−2で実施したハンギング・ドロップ法で形成した胚様体の位相差顕微鏡写真の写しである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を更に詳細に説明する。
本発明の胚様体形成容器は、ES細胞を浮遊培養させ胚様体を形成させるために使用する容器である。該容器は、ES細胞を浮遊培養する領域を形成する表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて形成した被覆層を備えることを特徴とする。
【0010】
前記容器表面に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて被覆層を形成するには、例えば、該共重合体を含む反応試薬を、容器の所望表面に化学修飾法により固定する方法、該共重合体を容器の所望表面にコーティング法により固定する方法、該共重合体を容器の所望表面に化学結合法により固定する方法が挙げられる。特に、前記コーティング法は、簡便に、該共重合体による均一な被覆層を形成できるので好ましい。
【0016】
前記共重合体において、ブチルメタクリレートに由来する構成単位は、共重合体の構成単位中90モル%以下が好ましく、特に20〜90モル%が好ましい。ブチルメタクリレートに由来する構成単位を有する共重合体は、耐溶出性が向上するが、ブチルメタクリレートに由来する構成単位が90モル%を超えると、容器表面における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの被覆量が少なくなり、被覆の効果が十分に発揮できなくなる恐れがあるので好ましくない。
グリシジル(メタ)アクリレートを用いた共重合体は、容器表面のアミノ基、カルボキシル基等と反応させることができ、該共重合体を、所望表面に化学的に結合させることができる。
前記共重合体において、ブチルメタクリレート以外の単量体に由来する構成単位の割合は、70モル%以下が好ましい。
【0017】
上記共重合体の分子量は、重量平均分子量で通常5000〜5000000であり、ES細胞の培養容器への接着を有効に防止でき、胚様体形成能を発現させ、重合体の耐溶出性を向上させる点から100000〜2000000が好ましい。
【0018】
本発明において前記被覆層の被覆量は、表面分析方法により評価できる。具体的には、X線光電子分光分析によって測定したスペクトルに基づいて、リンのピーク面積Pと炭素のピーク面積Cの比、即ちP/C値で評価できる。胚様体形成能を発現させるためのP/C値は、0.002〜0.3の範囲が好ましく、0.01〜0.2の範囲がより好ましい。
【0019】
本発明の胚様体形成用容器は特に限定されないが、例えば、細胞培養用ディッシュ、細胞培養用マルチディッシュ、細胞培養用プレート、細胞培養用バック、細胞培養用フラスコ等の既存の細胞培養容器が挙げられる。適度な大きさの胚様体を得るために、更に望ましくは、細胞培養用ディッシュ又は細胞培養用プレートが好ましい。
胚様体形成用容器の材質は特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。また、前記被覆層を形成する容器表面は、コロナ処理等の表面加工を施した表面であることが好ましい。
【0020】
記共重合体の少なくとも1種を用いて容器表面の所望箇所に被覆層を形成するには、例えば、前記重合体を、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール等に単独に溶解あるいは、水とエタノール、エタノールとイソプロパノール等の混合溶剤に溶解した後に、容器を浸漬あるいは、容器に重合体溶液をスプレーする方法等によりコーティングすることで実施できる。
また、前記共重合体が、エポキシ基、イソシアネート基、スクシンイミド基、アミノ基、カルボキシル基又は水酸基等の化学結合可能な官能基を有する場合には、容器表面のアミノ基、カルボキシル基又は水酸基と化学反応させるために、共重合体を含む溶液を化学結合可能な官能基が反応しない溶剤に溶解し、容器表面と化学結合させ被覆層を形成した後に、未反応の重合体を洗浄除去する方法によっても胚様体形成用容器を得ることができる。
【0021】
本発明の胚様体の形成方法は、ES細胞を浮遊培養するための領域を形成するための容器表面に、前記共重合体を用いて形成した被覆層を備える胚様体形成用容器を準備する工程(A)と、胚様体形成用容器内において、胚様体を形成するためにES細胞を浮遊培養する工程(B)とを含む。
工程(A)において準備する容器は、上述の本発明の胚様体形成用容器が挙げられ、上述した例示した容器は全て工程(A)で準備する容器に適用することができる。
【0022】
工程(B)においてES細胞を浮遊培養するには、例えば、フィーダー細胞上で培養した未分化状態のES細胞を、前記胚様体形成用容器内で公知の方法や条件等に従って浮遊培養することにより行なうことができる。この際、胚様体形成用容器内の培養液は、静置状態でも、緩やかに振とうしても良い。
前記培養液を構成する培地としては、従来のハンギング・ドロップ法等に用いられている各種成長因子を含む、例えば、Iscove's modified Dulbecco's medium(IMDM培地)等を用いることができる。
前記培養液中のES細胞の濃度は、工程(A)により準備する胚様体形成用容器の大きさや形態等によって異なるが、通常1.0×102〜1.0×106cells/mLである。特に、胚様体形成用容器として、96穴プレートを用いる場合の前記ES細胞の濃度は、1.0×103〜1.0×105cells/mLであることが、再現性良く胚様体を形成できるので好ましい。
【0023】
以下、実施列及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、例中の容器表面におけるP/C値は以下の方法に従って算出した。
<胚様体形成用容器表面のP/C値の測定方法>
X線光電子分光分析器(商品名「ESCA−3300」、島津製作所製)を用いて、X線照射角が900の各元素のスペクトルを測定し、リン元素及び炭素元素のピーク面積から、下記式によりP/C値を算出した。
P/C=Ap(リン元素のピーク面積)/Ac(炭素元素のピーク面積)
【0024】
合成例1
MPC 35.7g及びn−ブチルメタクリレート(BMA)4.3g(MPC/BMA=80/20(モル比))をエタノール160gに溶解して4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後、60℃でアゾビスイソブチロニトリル0.82gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿をろし、48時間室温で真空乾燥を行って粉末29.6gを得た。以下に示す条件のGPCにより測定した重量平均分子量は153000であった。1H-NMRにて組成分析した結果、MPC/BMA=80/20(モル比)であった。これを共重合体(A)とする。
<GPCの測定条件>
(1)試料:0.5重量%臭化リチウムを含むクロロホルム/メタノール(6/4(体積比))混合溶媒に試料を溶解し、0.5重量%の重合体溶液を調製した。試料溶液の使用量は20Lである。
(2)カラム:PLgel 5μm MIXED-C、2本直列(ポリマー・ラボラトリー社製)、カラム温度は40℃、東ソー社製のインテグレーター内蔵分子量計算プログラム(SC-8020用GPCプログラム)を用いた。
(3)溶出溶媒:0.5重量%臭化リチウムを含むクロロホルム/メタノール(6/4(体積%))混合溶媒、流速は1.0mL/分である。
(4)検出:示差屈折計、
(5)標準物質:ポリメチルメタクリレート(PMMA)(ポリマー・ラボラトリー社製)。
【0025】
合成例2
MPC38.0g及びグリシジルメタクリレート2.0g(GMA)(MPC/GMA=90/10(モル比))をイソプロパノール358gに溶解して4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後、60℃で20重量%のt−ブチルパーオキシピバレートのトルエン溶液2.18gを加えて5時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、4.8時間室温で真空乾燥を行って粉末28.4gを得た。H−NMRにて組成分析した結果、MPC/GMAは90/10(モル比)であった。合成例1と同様にGPCにより測定した重量平均分子量は53000であった。これを共重合体(B)とする。
【0026】
合成例3
MPC12.6g、BMA8.6g及びGMA6.0g(MPC/BMA/GMA=30/40/30(モル比))をイソプロパノール358gに溶解して4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後、60℃で20重量%のt−ブチルパーオキシピバレートのトルエン溶液2.18gを加えて5時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って粉末28.4gを得た。H−NMRにて組成分析した結果は、MPC/BMA/GMA=30/40/30(モル比)であった。合成例1と同様にGPCにより測定した重量平均分子量は42000であった。これを共重合体(C)とする。
【0027】
実施例1−1
合成例1で合成した共重合体(A)0.5gをエタノール100mLに溶解し、共重合体溶液を調製した。U底ポリスチレン製96穴プレートの各ウェルに前記共重合体溶液0.3mLを入れた後、各ウェルから共重合体溶液を吸引し除去した。50℃で5時間減圧下で乾燥することにより胚様体形成用容器(A)を作製した。
胚様体形成容器(A)における共重合体(A)被覆層を有するウェル内表面のP/C値を測定した。結果を表1に示す。
【0028】
実施例1−2
U底ポリスチレン製96穴プレートを空気中で、照射エネルギー1J/cmの条件においてコロナ処理して表面にカルボキシル基を生成させた。合成例2により合成した共重合体(B)0.5gをイソプロパノール100mLに溶解し、共重合体溶液を調製した。コロナ処理したU底96穴プレートの各ウェルに前記共重合体溶液0.3mLを入れた後、各ウェルから共重合体溶液を吸引し除去した。60℃で3時間、プレート表面のカルボキシル基と共重合体中のエポキシ基とを反応させた。0.2Mチオ硫酸ナトリウム水溶液を、各ウェルに0.3mL入れて、25℃、24時間の条件で未反応のエポキシを開環させた。蒸留水で各ウェルを3回洗浄した後、50℃で5時間減圧下で乾燥することにより胚様体形成用容器(B)を作製した。
胚様体形成容器(B)における共重合体(B)被覆層を有するウェル内表面のP/C値を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例1−3
共重合体(B)の代わりに合成例3により合成した共重合体(C)を用いた以外は実施例1−2と同様に行い、胚様体形成用容器(C)を作製した。
胚様体形成容器(C)における共重合体(C)被覆層を有するウェル内表面のP/C値を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
比較例1
未処理のU底ポリスチレン製96穴プレートのウェル内表面のP/C値を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
Figure 0004774989
【0032】
実施例2−1
下記調製法で調製した2×10cells/mLのマウスES細胞の懸濁液を、実施例1−1で作製した胚様体形成用容器(A)に各ウェル0.2mLずつ播種した。37℃、5%COの条件下で5日間培養した後に、位相差顕微鏡にて胚様体形成状態を観察した。結果を表2に示す。また、位相差顕微鏡写真の写しを図1に示す。
表2における胚様体形成の評価は、分化するのに十分な大きさの胚様体が形成された場合をA、胚様体は形成されたが大きさが十分でない場合をB、胚様体が形成されなかった場合をCとした。
【0033】
<マウスES細胞の懸濁液の調製法>
(1)フィーダー細胞の培養
フィーダー細胞としてSIMマウスの繊維芽細胞(以下、STO細胞と略記)を用いた。STO細胞は、25units/mLペニシリン、25g/mLストレプトマイシン及び10体積%非動化処理したウシ胎児血清(FCS)を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium(以下DMEM培地と略記、Gibco社製)を用い培養した。培養したSTO細胞を10g/mLのマイトマイシンC溶液(Sigma社製)で3時間処理した後、細胞懸濁液とした。STO細胞の懸濁液を各ウェルに5×10cellsになるように6穴マルチディッシュに播種した。37℃、5%COの条件下で16時間培養してフィーダー細胞を調製した。
(2)マウスES細胞の培養
ES細胞として129VマウスES細胞を用いた。ES細胞の培地は、15%KnockOut(登録商標)serum replacement(KSR:Gibco社製)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco社製)、0.1mM nonessetial amino acids(Gibco社製)、0.1mM 2−メルカプトエタノール(Sigma社製)、25units/mLペニシリン、25g/mLストレプトマイシン及び1000units/mLのmurine leukemia inhibitory factor(mLIF:Chemicon社製)を含むDMEM培地(以下ES培地と略記)とした。前記(1)で調製したフィーダー細胞上に2×10cell/ウェルのES細胞を播種した。37℃、5%COの条件下で3日間、マウスES細胞を培養した。
前記(2)で培養したマウスES細胞を0.1%トリプシン−EDTAで常法により剥がした後、15%FCS、0.1mM 2−メルカプトエタノール(Sigma社製)、25units/mL ペニシリン及び25g/mLストレプトマイシンを含むIMDM培地(Gibco社製、mLIFを含まない)に懸濁して、2×10cells/mLのマウスES細胞の懸濁液を調製した。
【0034】
実施例2−2及び2−3
胚様体形成用容器(A)の代わりに、実施例−2及び実施例−3で調製した胚様体形成用容器(B)又は胚様体形成用容器(C)を用いた以外は、実施例2−1と同様に実験を行った。結果を表2に示す。
【0035】
比較例2−1
胚様体形成用容器(A)の代わりに、未処理のポリスチレン製96穴プレートを用いた以外は、実施例2−1と同様に実験を行った。結果を表2に示す。また、位相差顕微鏡にて胚様体形成状態を観察した。この位相差顕微鏡写真の写しを図2に示す。
【0036】
比較例2−2
平底ポリスチレン製96穴プレートの各ウェルにリン酸緩衝液130μL及びミネラルオイル200μLを予め入れておき、ここに前記調製した2×10cells/mLのマウスES細胞の懸濁液を50μL播種した。37℃、5%COの条件下で5日間培養した後に、形成された胚様体をU底ポリスチレン製96穴プレートに移した。次いで、位相差顕微鏡にて実施例2−1と同様に観察を行なった。結果を表2に示す。また、位相差顕微鏡写真の写しを図3に示す。
【0037】
比較例2−3
胚様体形成用容器(A)の代わりに、スミロンセルタイトスフェロイド(96穴プレート、登録商標、住友ベークライト社製)を用いた以外は、実施例2−1と同様に実験を行った。結果を表2に示す。
【0038】
Figure 0004774989
【0039】
実施例3−1〜実施例3−3
実施例2−1〜2−3で得られた胚様体を0.1mLの培地ごと吸出し、下記調製法にて調製したゼラチンコートディッシュに移した。培地交換は3日毎に半量の交換を行った。37℃、5%COの条件下で7日間培養した後に位相差額微鏡にて観察した。結果を表
3に示す。
表3における心筋への分化評価は、拍動している心筋が観察された場合をA、拍動している心筋が僅かに観察された場合をB、作業が行えなかった場合をCとした。
【0040】
<ゼラチンコートディッシュの調製法>
121℃、20分間オートクレーブ滅菌を施した0.1重量%のゼラチン水溶液を培養用24穴マルチディッシュに均一に加えた。冷蔵保存を行い、使用直前に、アスピレーターにてゼラチン溶液を吸引した。15%FCS、0.1mM 2−メルカプトエタノール(Sigma社製)、25units/mLペニシリン及び25g/mLストレプトマイシンを含むIMDM培地(Gibco社製、mLIFを含まない)を各ウェルに1mLずつ加えた。
【0041】
比較例3−1
比較例2−1のプレート底部に接着した細胞をゼラチンコートディッシュに移そうとしたが移せなかった。
【0042】
比較例3−2及び比較例3−
比較例2−2(比較例3−2)、比較例2−3(比較例3−3)で得られた胚様体を用いた以外は、実施例3−1と同様に実験を行った。結果を表3に示す。
【0043】
Figure 0004774989
【0044】
表1より、実施例1−1〜1−3においてP/C値が0.038〜0.074であることから、胚様体形成用容器(A)〜(C)は、PC類似基を有する重合体による被覆層により被覆されていることがわかった。表2より、胚様体形成用容器(A)〜(C)でマウスES細胞を培養すると、良好に胚様体を形成できることがわかった。表3より、胚様体形成用容器(A)〜(C)で形成された、マウスES細胞からの胚様体は、心筋への分化能が高いことががわかった。
また、図1より、本発明にかかる胚様体形成用容器を用いることにより、分化するのに十分な大きさの胚様体が形成されることがわかった。図2より、未処理のポリスチレン製容器の場合は胚様体が形成されないことがわかった。図3より、ハンギング・ドロップ法で形成した胚様体は、大きさが十分でないことがわかった。

Claims (4)

  1. 胚性幹細胞を浮遊培養させ胚様体を形成するための胚様体形成用容器であって、
    胚性幹細胞を浮遊培養するための領域を形成するための容器表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて形成した被覆層を備える胚様体形成用容器。
  2. 前記被覆層を形成した容器表面における、X線光電子分光分析によって測定したスペク
    トルに基づくリン元素の量Pと炭素元素の量Cとの比(P/C)が、0.002〜0.3である請求項の胚様体形成容器。
  3. 胚性幹細胞を浮遊培養するための領域を形成するための容器表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、ブチルメタクリレート及び/又はグリシジルメタクリレートとの共重合体を用いて形成した被覆層を備える胚様体形成用容器を準備する工程(A)と、
    胚様体形成用容器内において、胚様体を形成するために胚性幹細胞を浮遊培養する工程(B)とを含む胚様体の形成方法。
  4. 前記被覆層を形成した容器表面における、X線光電子分光分析によって測定したスペクトルに基づくリン元素の量Pと炭素元素の量Cとの比(P/C)が、0.002〜0.3である請求項の形成方法。
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