以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
本実施形態は、内燃機関に対する燃料カットに関する制御であり、次の点に特徴がある。すなわち、機関回転数の変化率と、機関回転数に応じて変更される第1の制御判定用閾値とを比較して燃料カットを実行するか否かを判定する。また、機関回転数の変化率と、機関回転数に応じて変更される第2の制御判定用閾値とを比較して燃料カットから復帰する時の点火時期の遅角を実行するか否かを判定する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関を示す断面図である。図2は、本実施形態に係る内燃機関を車両に搭載した状態を示す模式図である。図1は、内燃機関が備える単一の気筒を取り出して示してある。また、図2に示す内燃機関は4気筒の内燃機関であるが、本発明が適用できる内燃機関は多気筒、単気筒を問わず、また、内燃機関が多気筒である場合には、気筒数及びその配置は問わない。
本実施形態に係る内燃機関1は、点火手段である点火プラグ7によって燃焼室2B内の混合気に点火して、その燃焼圧力によりピストン5を気筒2内で往復運動させる、いわゆるレシプロ式の火花点火式内燃機関である。この内燃機関1は、気筒2の内部(以下気筒内)2Iへ直接燃料Fを噴射する直噴噴射弁3を燃料供給手段として備える、いわゆる直噴の内燃機関である。本実施形態において、内燃機関1は、いわゆる直噴の内燃機関に限られず、吸気管22の一部である吸気ポートへ燃料Fを噴射する、いわゆるポート噴射式の内燃機関であってもよい。また、本実施形態において、内燃機関1は、直噴とポート噴射とを併用する内燃機関であってもよい。なお、内燃機関1は、過給手段や可変圧縮機構を備えていてもよい。
この内燃機関1は、吸気通路21に設けられる電子スロットル弁70により、吸入空気量が調整される。電子スロットル弁70は、バタフライバルブ71と、これを駆動するアクチュエータ72と、バタフライバルブ71の開度を検出するスロットルポジションセンサ73とで構成される。ECU(Electronic Control Unit)30は、アクセル開度センサ44からの出力を取得して、アクチュエータ72に制御信号を送り、スロットルポジションセンサ73からのバタフライバルブ開度のフィードバック信号に基づいて、バタフライバルブ71を適切な開度に制御する。
内燃機関1に取り付けられたクランク角センサ41によってクランク軸6のクランク角度CAが検出される。ECU30は、クランク角センサ41、吸気管圧力センサ42、エアフローセンサ43、アクセル開度センサ44、水温センサ45その他のセンサ類からの出力を取得して、内燃機関1の点火時期や内燃機関1に対する燃料噴射量を決定する。そして、決定値に基づき、直噴噴射弁3から燃料Fを噴射させ、内燃機関1のシリンダヘッド1hに取り付けられる点火プラグ7に通電して放電させ、燃焼室2B内の混合気に点火する。
エアクリーナ81によって塵やごみが除去された空気Aは、エアフローセンサ43で流量が計測された後、吸気通路21を通って、電子スロットル弁70を通過してサージタンク20へ導かれる。サージタンク20内の空気Aは、吸気通路である吸気管22から、内燃機関1のシリンダヘッド1hに設けられる吸気口9iと吸気弁8iとの間を通って気筒内2I内に導入される。そして、直噴噴射弁3から噴射される燃料噴霧Fmと混合気を形成する。この混合気は点火プラグ7の放電によって着火されて、火炎伝播により燃焼する。本実施形態において、点火時期は、クランク角センサ41からの信号に基づいて決定されるが、排気弁8eを動作させる排気カムシャフトScの回転角度に基づいて決定してもよい。
混合気の燃焼圧力はピストン5に伝えられ、ピストン5を往復運動させる。ピストン5の往復運動はコネテクティングロッド4を介してクランク軸6に伝えられ、ここで回転運動に変換されて、内燃機関1の出力として取り出される。燃焼後の混合気は排ガスExとなり、排気口9eと排気弁8eとの間を通って排気通路23へ排出される。この排ガスExは、排気通路23に取り付けられる浄化触媒(例えば三元触媒)83へ導かれ、ここで浄化されて大気中へ排出される。
内燃機関1の出力は、自動変速装置(AT:Automatic Transmission)55に導かれて、車両100の駆動輪である左側前輪FL及び右側前輪FRを駆動して、車両100を走行させる。この車両100は、4個の気筒2を備える、いわゆる4気筒の内燃機関1を動力発生源とする、いわゆる前輪駆動(FF:Front wheel Front drive)の車両であり、左側後輪RL及び右側後輪RRは駆動力を発生しない従動輪である。なお、本実施形態では、車両の駆動方式は問わない。車両100の走行速度(車速)は、ECU30が車速センサ46から取得した信号に基づいて算出され、内燃機関1の制御に利用される。また、ECU30は、自動変速機55の変速情報(例えば、現状の変速段や変速油温度等)を取得して、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御に用いる。
図3−1、図3−2は、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御を説明するための図である。動力発生源として内燃機関1を車両100に搭載する場合、車両100や内燃機関1、あるいは自動変速機55等の運転条件に応じて、内燃機関1に供給する燃料Fがカットされて、すなわち、内燃機関1に対する燃料の供給が停止されて、内燃機関1の燃料消費を抑制する。そして、内燃機関1の回転数(以下機関回転数)NEが所定の回転数enrt(図3−2参照)以下になったら、内燃機関1に対する燃料供給を再開する(燃料カットからの復帰)。ここで、燃料カットから復帰する機関回転数enrtを復帰回転数enrtという。
内燃機関1に対する燃料供給を再開する場合、内燃機関1の吸入空気量が多いと、機関回転数NEが急激に上昇し、これに起因して、車両100やその乗員にショックを与えるおそれがある。このため、燃料カットからの復帰時には、内燃機関1の点火時期を、そのときの内燃機関1の運転条件に応じて定まる点火時期よりも遅角側に設定することにより、機関回転数NEの急激な上昇を抑制する。これを、燃料カット復帰遅角制御という。
燃料カットを実行している場合に、例えば、車両100の減速度が大きい等の理由で機関回転数NEの低下が大きい場合、燃料カットからの復帰時に点火時期を遅角すると、必要以上に内燃機関1のトルクが低下して必要な駆動力が得られなかったり、エンジンブレーキが作用したりするおそれがある。また、燃料カット実行中における機関回転数NEの低下が大きい場合は、内燃機関1の運転が停止してしまうおそれもある。このため、燃料カット実行中における機関回転数NEの低下が大きい場合は、燃料カットからの復帰時における点火時期の遅角を禁止する制御や、燃料カット自体を実行しない制御が選択され、実行される。
燃料カットからの復帰時における点火時期の遅角を禁止する制御、燃料カット自体を実行しない制御を選択する際に用いるパラメータとしては、機関回転数NEの低下度合いを基準とする。図3−1は、燃料カット(F/C:Fuel/Cut)実行時における機関回転数NEの変化を示している。図3−1に示すように、時刻t1で燃料カットが実行(F/C_ON)されると、機関回転数NEは時間の経過とともに低下する。なお、図3−1で示す例では、時刻t2で燃料カットが停止(F/C_OFF)される。図3−1に示す例では、時間Δtで、機関回転数NEがNE_dだけ低下している。
本実施形態において、燃料カットからの復帰時における点火時期の遅角を禁止する制御、燃料カット自体を実行しない制御を選択する際に用いるパラメータとして、機関回転数変化率ΔNEを用いる。これは、単位時間あたりにおける機関回転数NEの変化(より具体的には低下度合い)の絶対値であり、ΔNE=|−NE_d/Δt|である。そして、機関回転数変化率ΔNEが大きくなると、単位時間あたりにおける機関回転数NEの低下度合いが大きくなり、機関回転数変化率ΔNEが小さくなると、単位時間あたりにおける機関回転数NEの低下度合いが小さくなることを意味する。
図3−2の点線α及び点線βは、それぞれ、燃料カットを実行するか否か、燃料カット復帰遅角制御を禁止するか否かを判定する際の閾値(以下、制御判定用閾値)であり、機関回転数NEによらず制御判定用閾値α、βは一定である。なお、α>βである。従来においては、機関回転数変化率ΔNEが制御判定用閾値α以上である場合、燃料カット自体を実行しない(すなわち、燃料カット復帰遅角制御自体を実行しない)。機関回転数変化率ΔNEが制御判定用閾値αよりも小さい場合、燃料カットを実行する。機関回転数変化率ΔNEが制御選択用閾値αよりも小さく、かつ、制御判定用閾値β以上である場合、燃料カットは実行するが、燃料カット復帰遅角制御を禁止する。そして、機関回転数変化率ΔNEが制御判定用閾値βよりも小さい場合、燃料カットを実行し、かつ、燃料カットからの復帰時には、燃料カット復帰遅角制御を実行する。
本実施形態においては、燃料カットを実行するか否かを判定する際に用いる第1の制御判定用閾値F(α)、燃料カット復帰遅角制御を禁止するか否かを判定する際に用いる第2の制御判定用閾値F(β)を機関回転数NEの関数とし、これらを機関回転数NEに応じて変化させる。本実施形態では、図3−2に示すように、機関回転数NEの低下に応じて、第1の制御判定用閾値F(α)及び第2の制御判定用閾値F(β)を小さくする。
機関回転数NEが大きい場合には、機関回転数変化率ΔNEが大きくても、燃料カット中に内燃機関1が停止するおそれは低い。したがって、機関回転数が大きい場合には、第1の制御判定用閾値F(α)を大きくする。一方、機関回転数NEが小さくなるにしたがって、燃料カット中に内燃機関1が停止するおそれは高くなる。したがって、機関回転数NEが小さくなるにしたがって、第1の制御判定用閾値F(α)を小さくする。
機関回転数NEが大きい場合、内燃機関1の吸入空気量も多くなるため、燃料カット復帰遅角制御を実行する範囲を広げることが好ましい。また、機関回転数NEが大きい場合、燃料カット中に内燃機関1が停止するおそれも低い。このため、機関回転数NEが大きくなるにしたがって、第2の制御判定用閾値F(β)を大きくする。すなわち、機関回転数NEが小さくなるにしたがって、第2の制御判定用閾値F(β)を小さくする。
これによって、燃料カットや燃料カット遅角制御をより適切に実行することができるので、燃料カット実行中における内燃機関1の停止を回避しつつ、燃料カットを実行できる範囲、及び燃料カット復帰遅角制御を実行できる範囲を拡大できる。その結果、内燃機関1の燃料消費を抑制でき、また、燃料カットからの復帰時におけるショックを抑制できる範囲も拡大する。また、燃料カット中における内燃機関の停止をより効果的に回避できる。ここで、第1の制御判定用閾値F(α)及び第2の制御判定用閾値F(β)の関数形は、図3−2に示すものには限られない。例えば、直線的に変化してもよいし、内燃機関1の運転範囲における機関回転数NEの範囲内で変曲点をもって変化してもよい。また、同じ機関回転数NEにおいては、第1の制御判定用閾値F(α)>第2の制御判定用閾値F(β)である。
例えば、図3−2に示すように、機関回転数NEが復帰回転数enrt以上の範囲では、定数である制御判定用閾値αを用いた場合と比較して、より大きい機関回転数変化率ΔNEの範囲(図3−2中Bで示す範囲)まで燃料カットを実行できるので、内燃機関の燃料消費をより抑制することができる。また、機関回転数NEが復帰回転数enrtよりも小さい範囲では、定数である制御判定用閾値βを用いた場合と比較して、より大きい機関回転数変化率ΔNEの範囲(図3−2中Cで示す範囲)まで燃料カット復帰遅角制御を実行できるので、燃料カットからの復帰時におけるショックを抑制できる範囲が拡大する。さらに、機関回転数NEが復帰回転数enrtよりも小さい範囲では、制御判定用閾値αを用いた場合と比較して、燃料カットを実行する機関回転数変化率ΔNEの範囲(図3−2中Dで示す範囲)が制限されるので、燃料カットの実行中における内燃機関1の運転停止をより効果的に回避できる。
なお、復帰回転数enrtは、機関回転数変化率ΔNEの大きさによらず一定であるが、図3−2の一点鎖線で示すenrt1やenrt2のように、ΔNEの大きさに応じて、燃料カットから復帰する機関回転数を変更してもよい。これによって、燃料カットや燃料カット遅角制御を、さらに適切に実行することが可能になるので、燃料カット実行中における内燃機関1の停止を回避しつつ、燃料カット及び燃料カット復帰遅角制御を実行できる範囲をさらに拡大できる。その結果、内燃機関1の燃料消費をさらに抑制でき、また、燃料カットからの復帰時におけるショックを抑制できる範囲をさらに拡大することができる。次に、本実施形態に係る内燃機関の燃料カット制御装置の構成を説明する。
図4は、本実施形態に係る内燃機関の燃料カット制御装置を示す説明図である。本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御は、この内燃機関の燃料カット制御装置10を用いて実現できる。図4に示すように、内燃機関の燃料カット制御装置10は、ECU30に組み込まれて構成されている。ECU30は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)30Pと、記憶部30Mと、入力ポート36及び出力ポート37と、入力インターフェース38及び出力インターフェース39とから構成される。
なお、ECU30とは別個に、本実施形態に係る内燃機関の燃料カット制御装置10を用意し、これをECU30に接続してもよい。そして、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御を実現するにあたっては、ECU30が備える内燃機関1の制御機能を、前記内燃機関の燃料カット制御装置10が利用できるように構成してもよい。
本実施形態に係る内燃機関の燃料カット制御装置10は、燃料カット条件判定部11と、燃料カット復帰時制御条件判定部12と、燃料カット復帰時制御部13とを含む。これらのうち、燃料カット条件判定部11と、燃料カット復帰時制御条件判定部12と、燃料カット復帰時制御部13とは、本実施形態に係る基本となる内燃機関の燃料カットに関する制御を実行する部分となる。本実施形態において、内燃機関の燃料カット制御装置10は、ECU30を構成するCPU30Pの一部として構成される。この他に、CPU30Pには、内燃機関1の運転を制御する機関制御部30Cが含まれている。
CPU30Pと、記憶部30Mとは、バス353により接続される。また、内燃機関の燃料カット制御装置10と機関制御部30Cとは、バス351、352及び入力ポート36及び出力ポート37を介して接続される。これにより、内燃機関の燃料カット制御装置10を構成する燃料カット条件判定部11と燃料カット復帰時制御条件判定部12と燃料カット復帰時制御部13と機関制御部30Cとは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、内燃機関の燃料カット制御装置10は、ECU30が有する内燃機関1の運転制御に関するデータを取得したり、内燃機関の燃料カット制御装置10の制御をECU30の内燃機関の燃料カットに関する制御の制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート36には、入力インターフェース38が接続されている。入力インターフェース38には、クランク角センサ41、吸気管圧力センサ42、エアフローセンサ43、アクセル開度センサ44、水温センサ45、車速センサ46その他の、内燃機関1の運転状態に関する情報を取得する各種センサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース38内のA/Dコンバータ38aやディジタルバッファ38dにより、CPU30Pが利用できる信号に変換されて入力ポート36へ送られる。これにより、CPU30Pは、燃料供給制御や内燃機関1の運転制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート37には、出力インターフェース39が接続されている。出力インターフェース39には、直噴噴射弁3、点火装置50が接続されている。なお、出力インターフェース39には、内燃機関1の運転制御に必要な制御対象(例えば電子スロットル弁70等)51も接続される。出力インターフェース39は、制御回路39a、39b等を備えており、CPU30Pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記センサ類からの出力信号に基づき、ECU30のCPU30Pは、内燃機関1の運転を制御することができる。
記憶部30Mには、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ等が格納されている。ここで、記憶部30Mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU30Pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この内燃機関の燃料カット制御装置10は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、燃料カット条件判定部11、燃料カット復帰時制御条件判定部12及び燃料カット復帰時制御部13の機能を実現するものであってもよい。次に、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御について説明する。次の説明においては、適宜図1〜図4を参照されたい。
図5は、本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御の手順を説明するフローチャートである。本実施形態に係る内燃機関の燃料カットに関する制御を実行するにあたり、内燃機関の燃料カット制御装置(以下燃料カット制御装置という)10が備える燃料カット条件判定部11は、ECU30内が備える機関制御部30Cの燃料噴射指令やアクセル開度センサ44あるいは車速センサ46からの情報に基づき、燃料カット(F/C)を実行中であるか否かを判定する(ステップS101)。燃料カットを実行していない場合(ステップS101:No)、STARTに戻り内燃機関1の運転状態の監視を継続する。
燃料カット(F/C)を実行中である場合(ステップS101:Yes)、燃料カット条件判定部11は、機関回転数変化率ΔNEが、第1の制御判定用閾値F(α)よりも小さいか否かを判定する(ステップS102)。ΔNEは、燃料カット条件判定部11がクランク角センサ41から取得した所定の時間Δtにおける機関回転数NE変化に基づいて算出する。ΔNE≧F(α)である場合(ステップS102:No、図3−2のΔNE≧F(α)の範囲)、燃料カット条件判定部11は、燃料カットを実行しないと判定する(ステップS103)。すなわち、燃料カット復帰遅角制御は実行されない。この判定を受けて、燃料カットを実行中である場合、ECU30の機関制御部30Cは実行中の燃料カットを中止する。
ΔNE<F(α)である場合(ステップS102:Yes、図3−2のΔNE<F(α)の範囲)、燃料カット条件判定部11は、現在の機関回転数NEと、復帰回転数enrtとを比較する(ステップS104)。NE>enrtである場合(ステップS104:No)、機関回転数NEは、まだ燃料カットを実行する範囲にあるので、ECU30の機関制御部30Cは実行中の燃料カットを継続する(ステップS105)。
NE≦enrtである場合(ステップS104:Yes)、内燃機関1に対する燃料カットから復帰する条件である。この場合、内燃機関1を燃料カット状態から復帰させる必要があるが、燃料カットからの復帰時に燃料カット復帰遅角制御を実行するか否かを判定する必要がある。このため、燃料カット制御装置10の燃料カット復帰時制御条件判定部12は、機関回転数変化率ΔNEが、第2の制御判定用閾値F(β)よりも小さいか否かを判定する(ステップS106)。
ΔNE≧F(β)である場合(ステップS106:No、図3−2のF(α)>ΔNE≧F(β)の範囲)、燃料カット復帰遅角制御を実行すると、ΔNEが大きいため、すなわち、燃料カット実行中における機関回転数NEの低下が大きいため、内燃機関1の停止を回避する必要がある。したがって、この場合には、燃料カット復帰時制御条件判定部12は、燃料カット復帰遅角制御の実行を禁止して(ステップS107)、燃料カットからの復帰時には、その時の内燃機関1の運転条件から要求される点火時期で内燃機関1を運転する。これによって、内燃機関1を確実に駆動して、停止を回避する。
ΔNE<F(β)である場合(ステップS106:Yes、図3−2のΔNE<F(β)の範囲)、燃料カットからの復帰時におけるショックが許容値を超えるおそれがある。したがって、燃料カット復帰時制御条件判定部12は、燃料カット復帰遅角制御を実行すると判定する(ステップS108)。この判定を受けて、燃料カット制御装置10の燃料カット復帰時制御部13は、点火時期の遅角量を算出し、その遅角量に基づいて内燃機関1の点火時期を設定する。そして、燃料カットからの復帰に合わせて、燃料カット復帰制御を実行する(ステップS109)。次に、燃料カット復帰遅角制御における遅角量の算出手順を説明する。
図6は、本実施形態に係る燃料カット復帰制御における遅角量の算出手順を示すフローチャートである。図7は、本実施形態に係る燃料カット復帰制御における遅角量の算出に用いるマップの一例を示す説明図である。燃料カット復帰遅角制御を実行する場合、燃料カット制御装置10の燃料カット復帰時制御部13は、吸気管圧力センサ42から内燃機関1の吸気管22内における圧力(以下吸気管圧力という)Piを取得する(ステップS201)。そして、燃料カット復帰時制御部13は、取得した吸気管圧力Piに応じた遅角量CA_rを算出する(ステップS202)。
本実施形態では、図7のマップ61に示すように、吸気管圧力Piが小さくなる(すなわち吸気管22内の負圧がより大気圧よりも小さくなる)にしたがって、遅角量CA_rを大きくする。吸気管圧力Piが小さくなる、すなわち吸気管22内の負圧がより大気圧よりも小さくなるということは、内燃機関1の負荷(あるいは負荷率)が大きいことを意味する。内燃機関1の負荷が大きい場合には、燃料カットからの復帰時に、多くの空気を内燃機関1が吸入し、これに対応してより多くの燃料が供給される。これによって、機関回転数NEの上昇はより急激になり、車両100やその乗員に伝達されるショックもより大きくなる。
このため、本実施形態では、吸気管圧力Piに応じて遅角量CA_rを変更する。より具体的には、吸気管圧力Piが小さくなるにしたがって、遅角量CA_rを大きくすることにより、内燃機関1の発生するトルクをより抑制して、機関回転数NEの急上昇を抑制し、車両100やその乗員に伝達されるショックを低減する。このように、吸気管圧力を用いることにより、内燃機関1の負荷(負荷率)の推定精度が向上するので、内燃機関1の負荷に対応する遅角量を精度よく決定することができる。その結果、機関回転数NEの急上昇を効果的に抑制し、また、車両100やその乗員に伝達されるショックを効果的に低減することができる。また、内燃機関1の負荷変動に敏感に反応する吸気管圧力Piを、応答性の高い圧力センサ(吸気管圧力センサ42)用いることにより、制御の応答性を向上させることができる。さらに、必要十分な遅角量を設定できるので、内燃機関1の負荷が小さい場合には、遅角量を最小限にして、内燃機関1の応答性を向上させることもできる。
取得した吸気管圧力Piに応じた遅角量CA_rを算出したら(ステップS202)、燃料カット復帰時制御部13は、内燃機関1の運転条件に基づいて決定される点火時期(できる限りMBT:Minimum advance for the Best Torqueに近づくように設定される)から、算出した遅角量CA_r分、内燃機関1の点火時期を遅角させる。燃料カット復帰時制御部13は、遅角量CA_r分遅角させた点火時期を、復帰時における点火時期として、内燃機関1が燃料カットから復帰する時に合わせて、燃料カット復帰遅角制御を実行する(ステップS203)。
上述した、燃料カット復帰遅角制御における遅角量を決定する手順は、第1の制御判定用閾値F(α)、第2の制御判定用閾値F(β)を機関回転数NEに応じて変更する燃料カットに関する制御以外にも適用することができる。次においては、燃料カット復帰遅角制御を実行する際の判定から、燃料カット復帰遅角制御において吸気管圧力Piに応じて遅角量を決定し、燃料カット復帰遅角制御を実行するまでの一連の手順を説明する。
図8は、本実施形態に係る燃料カット復帰制御での遅角量の算出手順を示すフローチャートである。燃料カット復帰遅角制御における遅角量を算出するにあたり、燃料カット制御装置10の燃料カット復帰時制御部13は、水温センサ45(図1、図2等参照)から内燃機関1の冷却水温度Twを取得し、燃料カット実行判定水温Tw_cと比較する(ステップS301)。内燃機関1の冷却水温度Twが燃料カット実行判定水温Tw_cに達していない場合には、燃料カット自体を実行しないので、ステップS301では、燃料カット復帰遅角制御を実行する前提条件を判定する。
Tw<Tw_cである場合(ステップS301:No)、燃料カット自体を実行しないので、燃料カット復帰遅角制御が禁止される(ステップS309)。Tw≧Tw_cである場合(ステップS301:Yes)、燃料カット復帰時制御部13は、車速センサ46から車両100(図2参照)の車速Vを取得し、燃料カット実行判定車速Vcと比較する(ステップS302)。内燃機関1が搭載される車両100の車速Vが燃料カット実行判定車速Vcに達していない場合には、燃料カット自体を実行しないので、ステップS302では、燃料カット復帰遅角制御を実行する前提条件を判定する。
V<Vcである場合(ステップS302:No)、燃料カット自体を実行しないので、燃料カット復帰遅角制御が禁止される(ステップS309)。V≧Vcである場合、燃料カット復帰時制御部13は、アクセル開度センサ44からアクセルの開度を取得し、アクセルがONであるか否かを判定する(ステップS303)。アクセルが踏まれている場合(すなわちアクセルON)、車両100の運転者は車両100を加速させたい意思があるため、燃料カットを実行しない。このため、ステップS303では、燃料カット復帰遅角制御を実行する前提条件を判定する。
アクセルONである場合(ステップS303:No)、燃料カット自体を実行しないので、燃料カット復帰遅角制御が禁止される(ステップS309)。アクセルOFFである場合(ステップS303:Yes)、燃料カット復帰時制御部13は、自動変速機(AT)55(図1、図2参照)から燃料カットの要求があるか否かを判定する(ステップS304)。自動変速機55の変速段によっては、燃料カットを実行しない場合があるため、ステップS304では、燃料カット復帰遅角制御を実行する前提条件を判定する。ステップS304は、例えば、自動変速機55の変速段を燃料カット復帰時制御部13が取得し、これに基づいて燃料カット復帰時制御部13が燃料カットの要求の有無を判定する。また、自動変速機55の制御装置からの要求に基づいて、燃料カット復帰時制御部13が燃料カットの要求の有無を判定してもよい。
自動変速機55から燃料カットの要求がない場合(ステップS304:No)、燃料カット自体を実行しないので、燃料カット復帰遅角制御が禁止される(ステップS309)。自動変速機55から燃料カットの要求がある場合(ステップS304:Yes)、燃料カット復帰時制御部13は、自然復帰の要求があるか否かを判定する(ステップS305)。自然復帰は、機関回転数変化率ΔNEが、第1の制御判定用閾値F(α)よりも小さく、かつ機関回転数NEが復帰回転数enrt以下になった場合である。自然復帰でない復帰は、例えば、燃料カット中に機関回転数変化率ΔNEが第1の制御判定用閾値F(α)以上になってしまい、内燃機関1の停止を回避するため、強制的に燃料カットを停止するような場合である。
自然復帰の要求がない場合(ステップS305:No)、燃料カット自体を実行しないので、燃料カット復帰遅角制御が禁止される(ステップS309)。自然復帰の要求がある場合(ステップS305:Yes)、燃料カット復帰時制御部13は、吸気管圧力センサ42から内燃機関1の吸気管22内における圧力(以下吸気管圧力という)Piを取得する(ステップS306)。そして、燃料カット復帰時制御部13は、取得した吸気管圧力Piに応じた遅角量CA_rを算出し(ステップS307)、内燃機関1が燃料カットから復帰する時に合わせて、燃料カット復帰遅角制御を実行する(ステップS308)。
上記実施形態からは、次の発明が把握される。第1の発明は、燃料カットの状態から燃料の供給を再開する際に、内燃機関の点火時期を遅角する制御を実行する際には、前記内燃機関の吸気管内の圧力に基づいて、前記内燃機関の点火時期の遅角量を設定することを特徴とする内燃機関の燃料カット制御装置である。
この内燃機関の燃料カット制御装置は、吸気管内の圧力に応じて燃料の供給を再開する際の遅角量を変更する。このように、前記遅角量を決定する際に吸気管内の圧力を用いるので、内燃機関の負荷(負荷率)の推定精度が向上し、内燃機関の負荷に対応する遅角量を精度よく決定することができる。その結果、機関回転数の急上昇を効果的に抑制し、また、車両やその乗員に伝達されるショックを効果的に低減することができる。また、内燃機関の負荷変動に敏感に反応する吸気管内の圧力を用いることにより、制御の応答性を向上させることができる。
第2の発明は、前記第1の発明において、前記内燃機関の吸気管内の圧力が小さくなるにしたがって、前記遅角量を大きくすることを特徴とする内燃機関の燃料カット制御装置である。このように、吸気管内の圧力が小さくなるにしたがって、遅角量を大きくするので、吸気管内の圧力が小さい場合、すなわち内燃機関の負荷が大きい場合には、遅角量をより大きくすることで内燃機関のトルクをより抑制することができる。これによって、より効果的に機関回転数の急上昇を抑制し、また、車両やその乗員に伝達されるショックを効果的に低減することができる。
以上、本実施形態では、機関回転数の変化率と、機関回転数に応じて変更される第1の制御判定用閾値とを比較して燃料カットを実行するか否かを判定する。また、機関回転数の変化率と、機関回転数に応じて変更される第2の制御判定用閾値とを比較して燃料カットから復帰する時の点火時期の遅角を実行するか否かを判定する。これによって、燃料カットや燃料カット遅角制御をより適切に実行することができるので、燃料カット実行中における内燃機関1の停止を回避しつつ、燃料カットを実行できる範囲及び燃料カット復帰遅角制御を実行できる範囲を拡大できる。その結果、内燃機関の燃料消費を抑制でき、また、燃料カットからの復帰時におけるショックを抑制できる範囲も拡大する。