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JP4601239B2 - アクリル樹脂フィルムの製造方法 - Google Patents

アクリル樹脂フィルムの製造方法 Download PDF

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JP4601239B2
JP4601239B2 JP2002009071A JP2002009071A JP4601239B2 JP 4601239 B2 JP4601239 B2 JP 4601239B2 JP 2002009071 A JP2002009071 A JP 2002009071A JP 2002009071 A JP2002009071 A JP 2002009071A JP 4601239 B2 JP4601239 B2 JP 4601239B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクリル樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、乳化重合により得られるポリブタジエンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体ラテックス、アクリル酸エステル含有アクリルゴムラテックスなどは、硬質樹脂の衝撃強度向上のためのゴム成分、あるいは、紙塗工用のバインダーとして用いられている。
これらのラテックスは、主に粒子径が0.03〜1μmの粒子からなるものであるが、重合時における微細凝集物の発生などにより、粒子径が1〜200μmの範囲に分布する巨大なポリマー粒子をも含有している。
この1〜200μmの巨大なポリマー粒子は、得られる乳化ラテックス、あるいは回収されたポリマーの品質に悪影響をもたらすものである。例えば、紙塗工の分野では、紙塗工時の機械汚れ(ストリークトラブル等)や、塗工紙の強度の低下を起こし、また成形板やフィルムでは、ブツやフィッシュアイの原因となりうる。
【0003】
一般的に、このようなカレットを含むものは固液分離法により濾過される。この固液分離法としては、重力濾過法、真空濾過法、遠心分離法、および加圧濾過法等により機械的に分離する方法が挙げられる。
しかしながら、重力濾過法は重力を利用して濾過するため、濾過速度が非常に遅く、生産性が良くないという欠点がある。
また、真空濾過法は、工業的に広く利用されており、連続操作に適した方法であるが、真空源を必要とし、真空中で濾過するためにラテックスの被膜が濾材上に形成されやすく、カレットの発生原因となる恐れがある。
また、遠心分離法は、比重差を利用して分離する方法であるが、カレットとポリマーの比重差が少ないため精度よく分離することは困難であり、分離機能を増すために分離板等を使用すれば、流路にカレットが閉塞して連続操作が不可能になりやすい。
また、加圧濾過法では、濾材に捕捉されたカレットを逆方向から洗浄水を吹き付けて除去し、これを系外に排出する必要があるが、カレットは加圧されるときに変形しやすい性質を有しているため、濾材の目詰まりを起こしやすい。その結果、ラテックスの濾過能力の低下を招き、更には濾材の損傷および液漏れを引き起こすなどの問題点があった。
【0004】
また、ラテックス中に含まれる凝集物および浮遊物を除去する別の方法としては、塩素を含有する溶剤を共重合体に対して1〜100質量%添加し、十分な撹拌操作により、溶剤でラテックス中のポリマーを膨潤せしめた後、遠心分離機によって処理し、その後、溶剤を回収除去する方法が特公昭56−5768号公報で開示されている。
しかしながら、この方法では、塩素を含有する溶剤が必要である上、その溶剤を回収除去しなければならないという問題があった。
【0005】
一方、特公昭46−32058号公報、特公平3−65820号公報では、ケイソウ土を用いて濾過する方法が提案されている。
しかしながら、これらの方法では、濾過によりケイソウ土の層にラテックスの一部が取り込まれ、濾過後はこのケイソウ土が残り、これらは利用価値がないため産業廃棄物となってしまう。また、上記方法は製品の収率にも問題があった。
【0006】
また、特開平9−263614号公報には、直径80μm以上の異物数が1m2当たり1個以下の良好な印刷性を有するアクリル樹脂フィルム、およびその製造方法が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報記載のフィルム用原料の製造方法であるアクリル重合体ラテックスの濾過処理に用いる濾過装置、あるいは濾過条件について具体的な記載がなく、例えば、乳化ラテックスを平型のプラスチック製メッシュ等を有した濾過装置で濾過した場合、短時間で目詰まりが生じ、濾過性が悪くなるという問題点があり、工業的に実用化が困難であった。
一方、濾材上に堆積した凝集物を効率的に除去することのできる重合体ラテックス用濾過装置が、特開平9−194529号公報に記載されている。しかしながら、該公報には、印刷性に優れたフィルムを得ることを目的としたラテックス濾過装置の利用方法、あるいは印刷フィルムに発生する印刷抜けの要因の特定や、これを抑制するための原料重合体ラテックスの改良方法については全く言及されていない。
【0008】
また、特開平11−228710号公報には、フィルム表面に高さ5μm以上の凹凸のないアクリル樹脂フィルムが記載されている。該公報には、高さ5μm以上の凹凸のないアクリル樹脂フィルムを得る方法として、アクリル樹脂ラテックスを目開き50μmのフィルターで濾過することは言及されているが、具体的な濾過方法、濾過装置等については全く記載されておらず、特に工業的に連続濾過によりラテックス中の異物を除去する、フィルム原料用アクリル樹脂の製造法に関しては全く示唆していない。また、押出機に25〜50μmのフィルターを設け、溶融押出する方法が記載されているが、この方法でアクリル樹脂フィルムを連続生産した場合、フィルターの目詰まりが生じるためアクリル樹脂が滞留し、フィッシュアイの原因となる熱劣化物が発生するという問題があった。
【0009】
また、フィルム表面を平滑化させる方法として、Tダイ法、インフレーション等の溶融押出法やカレンダー法等を用いてアクリル樹脂をフィルムに成形する際に、鏡面ロールの平滑面を転写させる一方の面の凹凸をなくすることや、2個の鏡面ロールに挟み込みフィルムの両面の凹凸をなくすることが言及されているが、鏡面ロールで挟み込む方法では、フィルムの厚みを薄くする場合など、ロール同士が接触し、ロールに傷が付く等の問題があるため、薄膜で凹凸のないアクリル樹脂フィルムを製造するのは困難であった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、印刷抜けの要因が、アクリル樹脂ラテックス中に存在する数十μm径のミクロカレットであることを特定し、特定の濾過装置を用いて処理する際の濾過条件と、濾過処理性、および得られたポリマーを主成分とするアクリル樹脂フィルムの印刷性との関係について鋭意検討したところ、アクリル樹脂ラテックスを濾材が該濾材面に対して水平の円運動および垂直の振幅運動する濾過装置で濾過することにより目詰まりなく濾過することができ、該ラテックスを凝析して得られたポリマーをフィルム状に成形したものはフィッシュアイが少なく、印刷性に優れることを見出し本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明のアクリル樹脂フィルムの製造方法は、水平に設置された濾材が、該濾材の表面を基準として水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動する濾過装置を用いて、流量制御弁または流量制御装置によって流量を調整したアクリル樹脂ラテックスを、該ラテックス供給用の配管の吐出口から前記濾材のほぼ中央に供給し、濾過して、アクリル樹脂ラテックス中に含まれる凝集物を除去した後、該アクリル樹脂ラテックスを凝析して得られるアクリル樹脂をフィルム状に成形するアクリル樹脂フィルムの製造方法であって、
前記濾過装置が水洗装置を具備し、該水洗装置から0.01〜2.0MPaの圧力の水が濾材のアクリル樹脂ラテックスを濾過する側の面に対して吹き出すことにより、濾材表面を洗浄することを特徴とする。
また、上記濾材が円運動、及び振幅運動することにより、濾材上に残存した凝集物に、50m/s以上の加速度を与えることが好ましい。
また、上記濾過装置が直径をXとする円形の濾材を有し、濾材による振幅運動の振幅長が、X/60〜X/200であることが好ましい。
また、上記濾材が、線径10〜70μmのステンレス鋼又はポリエステル製の繊維から形成されることが好ましい。
また、上記濾材の目の大きさが、100〜600メッシュであることが好ましい。
また、最内重合体(A)、架橋弾性重合体(B)層、最外重合体(C)層を基本構造とする多層構造重合体を用いたアクリル樹脂フィルムの製造方法において、最内層重合体(A)の構成成分として、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を含有し、架橋弾性重合体(B)層の構成成分として、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、及びグラフト交叉剤を含有し、最外重合体(C)層の構成成分として、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含有し、更に、架橋弾性重合体(B)層と最外重合体(C)層の間に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤を含み、かつアルキルアクリレート成分量が、架橋弾性重合体(B)層から最外重合体(C)層に向かって単調減少する、中間重合体(D)層を少なくとも一層有することが好ましい。
また、最内重合体(A)の構成成分である、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、及びグラフト交叉剤を含む単量体混合物を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応容器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間重合体(D)層、最外重合体(C)層を構成する単量体、あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応容器に供給して、多層構造重合体を重合することが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造方法は、後述する濾過装置、濾過条件によって、アクリル樹脂ラテックス中に含まれる凝集物及び浮遊物等を除去することにより、印刷性に優れたアクリル樹脂フィルムを製造することができる。以下、本発明の製造方法により得られる多層構造重合体、アクリル樹脂ラテックス、及びアクリル樹脂フィルムについて説明する。
【0013】
本発明の製造方法で得られるアクリル樹脂フィルムの好ましい例としては、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレートを構成成分とする重合体をフィルム状に成形したものが挙げられる。
また、上記重合体の好ましい具体例としては、内側から順に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、及びグラフト交叉剤を含有する最内重合体(A)、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、及びグラフト交叉剤を含有する架橋弾性重合体(B)層、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含有する最外重合体(C)層を基本構造として有し、更に架橋弾性重合体(B)層と最外重合体(C)層の間に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤を含有し、かつアルキルアクリレート成分量が架橋弾性重合体(B)層から最外重合体(C)層に向かって単調減少する中間重合体(D)層を少なくとも一層有する多層構造重合体である。
【0014】
以下、多層構造重合体の構成について説明する。
上記最内重合体(A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)と、グラフト交叉剤(A2)を少なくとも含有し、必要に応じて、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A3)と、多官能性単量体(A4)を含む重合体であって、上記多層構造の中心部分を構成する。
【0015】
上記炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上を混合して使用できる。
【0016】
また、上記炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとしては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。
【0017】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)は、成分(A1)、(A3)及び(A4)の合計量100質量部に対し、80〜100質量部の範囲内で用いることが好ましい。
また、最内重合体(A)で用いた種類の成分(A1)を、その後の全多段層((B)、(C)、(D))においても統一して用いるのが最も好ましい。ただし、全多段層の各々において、二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを混合したり、別種のアクリレートを用いたりしても構わない。なお「(メタ)アクリレート」とは、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを意味するものとする。
【0018】
最内重合体(A)を構成するグラフト交叉剤(A2)としては、共重合性のα、β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはフマル酸のアクリルエステルが好ましい。これらの中でも、特にアリルメタクリレートが優れた効果を奏する。
また上記以外に、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も有効である。
グラフト交叉剤(A2)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合が、アリル基、メタリル基またはクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。この間、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の大部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0019】
上記グラフト交叉剤(A2)の使用量は極めて重要であり、成分(A1)、(A3)及び(A4)の合計量100質量部に対し0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。グラフト交叉剤の使用量が0.1質量部未満の場合、最内重合体(A)内に形成される有効量のグラフト結合が得られず、逆に、5質量部を超えると、二段目に重合形成される架橋弾性重合体(B)との反応量が増し、二層弾性体構造からなる二層架橋ゴム弾性体の弾性が低下してしまう。
【0020】
上記共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A3)は、必要に応じて用いればよい。その具体例としては、炭素数9以上のアルキル基を有する高級アルキルアクリレート、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート等のアクリレート単量体、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
この共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A3)の使用量は、成分(A1)、(A3)及び(A4)の合計100質量部に対し、0〜20質量部の範囲内で用いることが好ましい。
【0021】
上記多官能性単量体(A4)の具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンなども使用可能である。
ただし、多官能性単量体(A4)が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤(A2)が存在する限り、安定な多層構造重合体を与えるため、必要に応じて使用することができる。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に用いればよい。
多官能性単量体(A4)の使用量は、成分(A1)、(A3)及び(A4)の合計100質量部に対し、0〜10質量部の範囲内で用いることが好ましい。
【0022】
上述した構成を有する最内重合体(A)は、多層構造重合体中の5〜35質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。また、後述する架橋弾性重合体(B)層の含有量よりも少ないほうが好ましい。
【0023】
上記架橋弾性重合体(B)層は、多層構造重合体にゴム弾性を与える主要な成分であり、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(B1)と、グラフト交叉剤(B2)を少なくとも含有し、必要に応じて、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(B3)と、多官能性単量体(B4)とを含有する架橋弾性重合体である。
上記成分(B1)〜(B4)の好ましい具体例は、最内重合体(A)を構成するそれぞれの成分(A1)〜(A4)で挙げたものと同様のものが適用される。
【0024】
上記炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(B1)の使用量は、80〜100質量部が好ましい。
また、上記グラフト交叉剤(B2)の使用量は、0.1〜5質量部が好ましい。
また、上記共重合可能な二重結合を有する他の単量体(B3)の使用量は、0〜20質量部が好ましい。
また、上記多官能性単量体(B4)の使用量は、0〜10質量部が好ましい。なお、これら使用量の範囲は、成分(B1)、(B3)及び(B4)の合計100質量部を基準とする。
【0025】
架橋弾性重合体(B)単独のTgは、0℃以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。Tgが0℃以下であると、優れた弾性を示す傾向があるためである。
また、多層構造重合体中の架橋弾性重合体(B)の含有量は、10〜45質量%が好ましく、最内重合体(A)の含有量よりも多いことが好ましい。
【0026】
上記最外重合体(C)層は、多層構造重合体の成形性、機械的性質等に関与する成分であり、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)と、必要に応じて用いる共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C3)とを構成成分として含有し、多層構造重合体の最外層を構成する。
【0027】
上記炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)及び共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C3)の好ましい具体例は、それぞれ最内重合体(A)の成分炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A3)で挙げたものと同様のものが適用される。
また、上記炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)の使用量は、51〜100質量部が好ましい。
また、上記共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C3)の使用量は、0〜49質量部が好ましい。これら使用量の範囲は、成分(C1)及び成分(C3)の合計100質量部を基準とする。
【0028】
最外重合体(C)単独のTgは、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。
また、多層構造重合体中の最外層重合体(C)の含有量は、10〜80質量%が好ましく、より好ましくは40〜60質量%である。
【0029】
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造に適用される多層構造重合体としては、上記最内層重合体(A)、架橋弾性重合体(B)層、最外層重合体(C)層を基本構造として有し、更に架橋弾性重合体(B)層と最外重合体(C)層の間に、中間重合体(D)層を少なくとも一層設けることが好ましい。
上記中間重合体(D)層は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(D1)と、グラフト交叉剤(D2)と、必要に応じて、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(D3)と多官能性単量体(D4)とを重合体の構成成分とし、かつ成分(D1)中のアルキルアクリレート成分量が、架橋弾性重合体(B)層から最外層重合体(C)層に向かって単調減少する。ここで単調減少するとは、中間重合体 (D)層が架橋弾性重合体 (B)層と最外重合体 (C)層の中間のある一点の組成を有するもの、架橋弾性重合体 (B)層から最外重合体 (C)層に組成が連続的に近づくもの、及び組成が段階的に近づくことをいい、特に、中間のある1点の組成を有するものが生産性の点でよい。
【0030】
上記成分(D1)〜(D4)の好ましい具体例は、それぞれ最内重合体(A)の成分(A1)〜(A4)で挙げたものと同様のもが適用される。特に、中間重合体(D)層に用いるグラフト交叉剤(D2)は、各重合体層を密に結合させ、優れた諸性質を得る為に必要な成分である。
また、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(D1)の使用量は、10〜90質量部が好ましい。
また、グラフト交叉剤(D2)の使用量は、0.1〜5質量部が好ましい。
また、上記共重合可能な二重結合を有する他の単量体(D3)の使用量は、0〜20質量部が好ましい。
また、上記多官能性単量体(D4)の使用量は、0〜10質量部が好ましい。これら使用量の範囲は、成分(D1)〜(D4)の合計100質量部を基準とする。
【0031】
上述した構成を有する中間重合体(D)層は、多層構造重合体中5〜35質量%含有されていることが好ましい。中間重合体(D)層は、その含有量が5質量%以上35質量%以下であれば、優れた柔軟性、加工性を有するアクリル樹脂フィルムを得ることができる。
【0032】
上述した構成要素から構成される多層構造重合体の平均粒子径としては、これを主成分とするアクリル樹脂フィルムの機械特性、透明性を考慮すると、0.08〜0.2μmであることが好ましい。
また、上記多層構造重合体を主成分とするフィルム組成物は、その熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が70℃以上であることが好ましく、より好ましくは80℃以上である。アクリル樹脂フィルムを表面に有する積層体を製造する際、熱変形温度が70℃未満であると、加熱後、表面荒れが発生しやすくなる。また、熱変形温度が80℃以上であれば、表面をエンボス加工等により粗面化処理した積層体を熱加工する際に、エンボス面の艶戻りによる意匠性低下を抑制することができる。
【0033】
以下、ASTM D648に基づく熱変形温度の測定方法を説明する。
半径3.175mm以上の接触端を有する金属製支持具上に、127×12.7×(3.18〜12.7)mmの試験片を水平に置き、室温の液浴につける。4.64kg/cm2±2.5%のファイバーストレスが作用するように中央部に垂直に5分間荷重をかけ、0点を記録して液温を2±0.2℃/minで上昇させ、0.254mmのたわみを生ずる温度を4.64kg/cm2± 2.5%におけるたわみ温度が熱変形温度である。
【0034】
このような多層構造重合体は、これを原料として製造されるアクリル樹脂フィルムの耐侯性、透明性及び耐ストレス白化性において非常に優れているため、アクリル樹脂フィルムの製造に好適に用いられる。
【0035】
上記多層構造重合体を原料として製造されるアクリル樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは15〜200μmであり、更に好ましくは40〜200μmである。10〜500μmであると、適度な剛性、ラミネート性、二次加工性等が良好になる。
【0036】
次に、本発明で用いられる濾過装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は濾過装置の模式図である。
上記濾過装置は円形構造を基本とし、濾材3と、ボトムボウル5とを備えた装置本体と、装置本体の下方に設けられた振動モーター7と、振動モーター7の下部に設けられたフライウエイト1とから概略構成されている。
また、濾材3の上部外周の一部には排出口が設けられ、ボトムボウル5の上部外周の一部にはラテックス排出口6が設けられている。更に、濾材3の上方には、ラテックス供給管2が、その吐出口2aが濾材3の中央部に位置するように設けられている。なお、装置本体はスプリング8により取り付けられている。
【0037】
濾過前のアクリル樹脂ラテックスは、制御弁、流量制御装置(図示略)によって適当な流量に調整され、ラテックス供給管2の端部にある吐出口2aから、濾材3のほぼ中央に供給され濾過される。濾材3を透過したアクリル樹脂ラテックスは、ボトムボウル5に受けられ、ラテックス排出口6から濾過装置外に排出され回収される。この際、上記フライウエイト1を適度に調整することによって、濾材3が濾材3面に対して水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動をする。
一方、濾材3上に残った凝縮物や浮遊物等は、後述する濾材3による円運動及び振幅運動により、濾材3上をらせん状に移動して、連続的に排出口4から排出される。
【0038】
本発明で用いられる濾過装置は、濾材3が該濾材面に対して、水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動をするものであり、濾材3の円運動及び振幅運動により、濾材3上に残った凝集物に50m/s2以上の加速度を与えることができる。濾材3上に残った凝集物にかかる加速度を50m/s2以上にすることで、凝集物を円滑に排出することができる。逆に、加速度が50m/s2未満の場合は、濾材3上に残った凝集物等の排出が困難になり、目詰まりを起こしやすくなる傾向がある。
また、濾材3上に残った凝集物にかかる加速度は下記の計算式で与えられる。
【0039】
【数1】
Figure 0004601239
K;最大加速度(m/s2)、r;スクリーン振幅(m)、ω;角速度(rad/sec)
N;モーター回転数(rpm)
例えば、スクリーン振幅3.5mm、モーター回転数1800rpmの場合
K= 3.5×10-3×(2π × 1800/60)2 = 124m/s2 となる。
【0040】
また、上記濾過装置は、直径をXとする円形の濾材3を有し、この濾材3面に対する垂直方向の振幅長がX/60〜X/200であることが望ましい。垂直方向の振幅長がX/200未満の場合は、濾材3上に残った凝集物の排出がされにくく、目詰まりを起こしやすくなる傾向にある。また、振幅がX/60より大きいと濾材3に対する負荷が大きく、耐久性が短くなりやすい。
【0041】
濾材3は、ステンレス鋼、あるいはポリエステル製の繊維で形成されていることが好ましく、特にステンレス鋼が好ましい。それは、上述した水洗装置による濾材3の洗浄において、ステンレス鋼材では比較的水圧を高くでき、目詰まりの防止効果を上げることができるためである。
また、濾材3の線径は10〜70μmであることが好ましい。線径が10μmより小さい場合は、濾材3の強度が弱いため破れを起こしやすい。一方、70μmより太いと、開口度が小さくなり濾過面積が狭くなるため、濾過効率が悪くなる傾向を示すためである。
【0042】
上記濾材3は、その目の大きさが100から600メッシュであることが好ましく、より好ましくは150〜400メッシュである。目の大きさが100メッシュより大きい場合は、乳化ラテックス中に含まれる凝集物及び浮遊物等の固形物が、濾過したアクリル樹脂ラテックス中に混入しやすくなるため、このアクリル樹脂ラテックスから得たポリマーを用いた樹脂成型板やフィルムに、ブツやフィッシュアイが発生しやすくなる傾向にある。一方、目の大きさが600メッシュを超えた範囲では、濾材3の目詰まりが起こりやすくなる傾向にある。
【0043】
また、本発明で用いられる濾過装置は、図2に示すように、水流により濾材3の表面を洗浄できる水洗装置10が付設されている。また、この濾過装置は、上述した濾過装置と基本的な構造は同じであるため、水洗装置のみについて説明する。
上記水洗装置の一例としては、濾材3を洗浄する水(洗浄水)を濾材3に対して吹きつけるノズル16と、このノズル16が設けられている円形導水管17と、水洗装置を固定するための接合部18と、円形導水管17と接合部18を連結している連結部19と、水洗装置外部から水を導入する導水管20とから概略構成された水洗装置を用いることができる。
上記水洗装置は、装置外部から導水管20に導入された水が、接合部18内に設けられた導管(図示略)を通って、連結部19内に設けられた導管(図示略)を通り、更に円形導水管17内に供給され、ノズル16から濾材3に吹き付けられるようになっている。
【0044】
上記ノズル16から噴射される水は、0.01〜2.0MPaの圧力で濾材3のアクリル樹脂ラテックスを濾過する側の面に対して吹き出され、これにより濾材3の細部にある異物が除かれ、安定的に目詰まりを防止できる。ノズル16から噴射される水の圧力が0.01MPa未満の場合、圧力が低く、目詰まりの防止効果が少ない。また、2.0MPaを超えると、濾材3の耐久性を損なう恐れがあるため好ましくない。
【0045】
このような濾過装置を用いて濾過を行うことにより、濾材3上に残った凝集物等の除去作業の必要がなくなり、濾材3が破損して交換する頻度を少なくすることができるため、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスの濾過を連続的に行うことが可能となる。
また、上記の水洗装置により、濾材3の微細な網目構造の目の中に残留した凝集物が除去されるため、安定に濾材3の目詰まりを防止することができる。
また、水洗装置から濾材3に対して水を吹き付ける間、濾材3を円運動及び振幅運動させておけば、濾材3の全面にまんべんなく水を吹き付けることができるので、洗浄効果が向上する。
【0046】
以下、本発明のアクリル樹脂フィルムの製造方法について説明する。
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造方法は、まず多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスを製造し、これを上述した濾過装置を用いて濾過後、その濾液を凝析して多層構造重合体を回収して、これをフィルム状に成形する。
【0047】
多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスの製造方法としては、例えば、多層構造重合体の中心部分となる最内重合体(A)を与える炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)、及びグラフト交叉剤(A2)を少なくとも含む単量体混合物を供給し、重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間重合体(D)層、及び最外重合体(C)層を与える単量体、あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応容器に供給し、多層構造重合体を重合して、アクリル樹脂ラテックスを得る方法がある。
また、多層構造重合体の中心部分となる最内重合体(A)を与える炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)、及びグラフト交叉剤(A2)を少なくとも含む単量体混合物を水および界面活性剤と混合して、乳化液を調製し、該乳化液を反応容器に供給し、重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間重合体(D)層、及び最外重合体(C)層を与える単量体、あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応容器に供給し、多層構造重合体を重合して、アクリル樹脂ラテックスを得る方法がある。
【0048】
上記乳化液を調製する方法としては、攪拌翼を備えた攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置、膜乳化装置等の混合装置に、水と単量体混合物を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、混合装置に水と界面活性剤を仕込んだ後、単量体混合物を投入する方法、混合装置に単量体混合物と界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。これらのうち、水中に単量体混合物を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、及び水中に界面活性剤を仕込んだ後、単量体混合物を投入する方法が、上述した多層構造重合体を得る方法として好適である。
【0049】
乳化液を調製する際の単量体混合物と水との質量比としては、単量体混合物100部に対し水10〜500部が好ましく、より好ましくは、単量体混合物100部に対し水100〜300部である。
【0050】
乳化液の調製に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン酸石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ヂオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0051】
また、乳化液は、W/O型、O/W型のいずれの分散構造でも使用することができるが、特に水中に単量体混合物の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは50μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。分散相の油滴の直径が100μmを超えると、得られるアクリル樹脂ラテックス中に含まれる1〜200μmの範囲に分布する巨大なポリマー粒子の数が増える傾向にあるため好ましくない。
【0052】
このようにして調製された乳化液を用いて、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスを製造するには、例えば、反応容器に重合開始剤を投入して、重合温度まで昇温した後、最内重合体(A)を形成する乳化液を供給して重合する。
次いで、過酸化物等の重合開始剤を含む架橋弾性重合体(B)層、中間重合体(D)層および最外重合体(C)層を与える単量体、あるいは単量体混合物を順次、反応容器に供給して、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスを製造することができる。
【0053】
上記重合開始剤としては、公知のものが使用できるが、その具体例としては、過酸化物、アゾ系開始剤、又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。また、これらの中でもレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0054】
以上説明したように、最内重合体(A)を形成する上記乳化液を反応容器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)、中間重合体(D)層、最外重合体(C)層を構成する単量体、あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応容器に供給して、多層構造重合体を重合する方法では、アクリル樹脂ラテックス中に存在する1〜200μmの範囲に分布する巨大ポリマー粒子を低減することができるため、印刷性に優れたアクリル樹脂フィルムを製造することができる。
【0055】
このようにして得られた多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスは、上述した濾過装置によって、その中に含まれる凝集物や浮遊物が除去される。以下、図1を用いて、アクリル樹脂ラテックスの濾過方法について説明する。
例えば、送液ポンプ(図示略)などで、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスをラテックス供給管2に送り、その吐出口2aから濾材3上に供給する。この際、流量制御装置や制御弁(図示略)によって、アクリル樹脂ラテックスの流量を適当に調整することができる。そして、濾材3を透過した濾液、即ち凝集物や浮遊物が除去されたアクリル樹脂ラテックスを、ボトムボウル5により回収することができる。
【0056】
濾過条件としては、流速0.1〜20m3/Hとし、濾材3による円運動及び振幅運動をアクリル樹脂ラテックスに与える加速度が50m/s2以上になるように設定することが好ましい。また、濾材3面に対する垂直方向の振幅長の好ましい範囲は、X/60〜X/200(Xは、濾材3の直径を示す)であり、水平方向の円運動の好ましい回転数の範囲は、60×(50/(X/60))1/2/2πrpm以上である。
このように濾過処理を行うことによって、短時間での目詰まりを防止でき、濾過性を損なうことなく、アクリル樹脂フィルムの品質に悪影響を及ぼす巨大ポリマー等を除去することができるので、フィッシュアイ等を低減し、印刷性に優れたアクリル樹脂フィルムを製造することができる。
【0057】
上記のように濾過処理を施したアクリル樹脂ラテックス中から多層構造重合体を回収する方法としては、特に限定されないが、塩析、酸析凝固、噴霧乾燥、又は凍結乾燥等が挙げられ、これらの方法により、多層構造重合体は粉状で回収される。
【0058】
上記多層構造重合体からアクリル樹脂フィルムを成形する方法としては、特に限定されるものではないが、公知の溶液流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等が挙げられ、これらの中でも、Tダイ法が経済性の点で最も好ましい。
【0059】
上記のようにして製造されるアクリル樹脂フィルムには、必要に応じて、一般の配合剤を添加することができる。上記配合剤としては、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、艶消剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。特に基材の保護の点では、耐候性を付与するために、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0060】
紫外線吸収剤を添加する場合は、その分子量は300以上であることが好ましく、特に好ましくは400以上である。分子量が300より小さな紫外線吸収剤を使用すると、フィルムを製造する際に転写ロール等に揮発し、ロール汚れを発生させることがある。
また、紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系または分子量400以上のトリアジン系のものが特に好ましく使用でき、前者の具体例としては、商品名チヌビン234(チバガイギー社製)、商品名アデカスタブLA−31(旭電化工業社製)、後者の具体例としては、商品名チヌビン1577(チバガイギー社製)等が挙げられる。
【0061】
配合剤の添加方法としては、多層構造重合体を用いてフィルムを製膜するための製膜機に、多層構造重合体とともに供給する方法と、予め多層構造重合体に配合剤を添加した混合物を各種混練機にて混練混合する方法がある。後者の方法に使用する混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0062】
本発明の製造方法によれば、フィッシュアイが少ないアクリル樹脂フィルムを製造することが可能ため、特に印刷抜けが発生し易い印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等の全面(ベタ塗り)のグラビア印刷を施した場合でも、印刷抜けが少なく、従来知られている多層構造重合体を原料として使用したアクリル樹脂フィルムでは決して得られない高いレベルの印刷性を有する。
一般に、グラビア印刷を施した時の印刷抜けの数が20個/m2以下の場合は、意匠性の観点より各種工業用途への使用が可能となるが、特に高いレベルの意匠性が必要となる車両内装用表皮用途等では、印刷抜けの数が1個/m2以下であることが印刷フィルムに求められる。本発明の製造方法によれば、印刷抜けの発生しやすい全面(ベタ刷り)印刷等の条件でも、印刷抜けの数が1個/m2以下のアクリル樹脂フィルムが得られるため、高いレベルの意匠性付与が可能であり、工業的利用価値が極めて高い。
【0063】
本発明の製造方法によって得られるアクリル樹脂フィルムには、各種基材に意匠性を付与するために、必要に応じて適当な印刷法により印刷を施し使用することできる。この場合、アクリル樹脂フィルムに片側印刷処理を施したものを用いることが好ましく、印刷面を基材樹脂との接着面に配する裏面印刷が、印刷面の保護や高級感の付与の点から好ましい。
また、基材の色調を生かし、透明な塗装の代替として用いる場合には、透明のまま使用することができる。特に、このように基材の色調を生かす用途に対し、アクリル樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニルフィルムやポリエステルフィルムに比べ、透明性、深み感や高級感の点で優れている。
【0064】
また、本発明の製造方法で得られたアクリル樹脂フィルムは、基材に積層することもできる。
積層する基材としては、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品が挙げられる。また、樹脂成形品のうち、本発明のアクリル樹脂フィルムと溶融接着可能な熱可塑性樹脂成形品としては、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられるが、接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂あるいはこれらの樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。ただし、ポリオレフィン樹脂等の熱融着しない基材樹脂でも接着性の層を用いることでアクリル樹脂フィルムと基材を接着させることは可能である。
【0065】
本発明のアクリル樹脂フィルムを表面に有する積層体の製造において、2次元形状の積層体に成形する場合は、熱融着できる基材に対しては熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。また、熱融着しない基材に対しては、接着剤を介して貼り合わせることが可能である。
【0066】
また、3次元形状の積層体に成形する場合は、予め形状加工したアクリル樹脂フィルムを射出成形用金型に挿入するインサート成形法や、金型内で真空成形後、射出成形を行うインモールド成形法等の公知の成形方法を用いることができる。インモールド成形法は、フィルムを加熱した後、真空引き機能を持つ型内で真空成形を行う。この方法によると、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。
加熱温度としては、アクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上、通常70℃以上であることが望ましい。これはアクリル樹脂フィルムの熱的性質、あるいは成形品の形状に左右される。また、あまり温度が高いと表面外観が悪化したり、離型性が悪くなる。これもフィルムの熱的性質、あるいは成形品の形状に左右されるが、通常170℃以下であることが好ましい。
インモールド成形法は、このように真空成形で三次元形状を付与した後、射出成形により、アクリル樹脂フィルムと基材樹脂を溶融一体化させることで、表層にアクリル樹脂フィルム層を有するアクリル積層成形品を得ることができる。
【0067】
また、本発明の製造方法で得られるアクリル樹脂フィルムは、必要に応じて、各種機能付与のための表面処理を施すことができる。
機能付与のための表面処理としては、シルク印刷、インクジェットプリント等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着、スパッタリング、湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止、あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、反射防止層形成、防眩処理等が挙げられる。
【0068】
また、本発明の製造方法で得られるアクリル樹脂フィルムの別の用途として、液晶ディスプレイ等の偏光板に使用される偏光膜保護フィルム、あるいは視野角補償、位相差補償のための位相差板に使用される位相差フィルムがある。これら偏光膜保護フィルム、及び位相差フィルムにおいては、光学的な均一性、透明性と同時に光学的欠陥となるフィッシュアイ由来の光学歪がないことが必要であり、本発明の製造方法で得られるアクリル樹脂フィルムは、従来にない高いレベルの低フィッシュアイ数を生かし、上記光学用フィルムへの使用が可能となる。
【0069】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル樹脂フィルムを表面に有する積層体の別の工業的利用分野として、道路標識、表示板あるいは視認性を目的とした安全器具に使用される高輝度反射材がある。
高輝度反射材の種類としては、アルミニウム蒸着を施したガラスビーズを基材に埋め込んだカプセル型反射材、プリズム加工した樹脂シートを反射体として使用したプリズム型反射材等があり、いずれのタイプにおいても、上述した多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムは、反射材の表面に積層して使用する保護フィルムとして好適に用いることができる。
即ち、本発明の製造方法で得られるアクリル樹脂フィルムを表面に有する高輝度反射材は、フィッシュアイに由来する高輝度反射材の視認性の低下が少ないため、高輝度反射材の保護フィルムとして工業的利用価値が極めて高い。
【0070】
【実施例】
実施例を用いて本発明を詳細に説明する。尚、製造例中の「部」は「質量部」を「%」は「質量%」をそれぞれ表す。また、略号は以下の通りである。
MMAはメチルメタクリレート、BAはブチルアクリレート、AMAはアリルメタクリレート、1.3BDは1.3−ブチレングリコールジメタクリレート、tBHはt−ブチルハイドロパーオキサイド、CHPはクメンハイドロパーオキサイド、nOMはn−オクチルメルカプタンを示す。
乳化剤(1):モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%とジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%混合物の水酸化ナトリウム部分中和物(商品名「フォスファノールLO529」、東邦化学(株)製)。
【0071】
後述する製造例で得られた多層構造重合体、アクリル樹脂ラテックス、及びアクリル樹脂フィルムについて、以下の試験法により諸物性を評価した。
(1) 固形分濃度の測定
アクリル樹脂ラテックス中の固形分は、アクリル樹脂ラテックス30mlをギアオーブン(300℃)で30分間乾燥させて、固形分を測定して求めた。
【0072】
(2) 平均粒子径の測定
多層構造重合体の平均粒子径は、吸光度法により求めた。
(3)凝集物量の測定
ラテックス中の凝集物量は、ラテックス100mlを330メッシュのナイロンフィルターで濾過し、濾材上に残った濾過物の質量を測定することで求めた。
【0073】
(4)濾過状況
濾過を12時間連続して実施し、運転安定性から判断した。
◎:濾材の状態が、濾過開始直後と変化なく、極めて良好
○:濾材上に若干泡があるが濾過性に変化無く良好
×:濾過不能
【0074】
(5)乳化液中の分散相の数平均粒子径測定
ガラス板上に乳化液を1滴滴下し、光学顕微鏡にて乳化液中の分散相20個の直径を計測し、これらの平均値より平均粒子径を求めた。
【0075】
(6)多層構造重合体のゲル含有率
秤量した多層構造重合体をアセトン溶媒中還流下で抽出処理、この処理液を遠心分離により分別、固形分を乾燥後、質量測定(抽出後質量)し、以下の式にて求めた。
ゲル含有率(%)=(抽出前質量(g)−抽出後質量(g))/抽出前質量(g)
(7)フィルム組成物の熱変形温度
フィルム組成物のペレットを、射出成形にてASTM D648にもとづく熱変形温度測定試片に成形し、80℃で24時間アニール後、低荷重(0.45MPa)でASTM D648に従って測定した。
【0076】
(8)フィルムの全光線透過率および曇価
JIS K6714に従って評価した。
(9)フィルムの表面光沢
フィルムの表面光沢は、グロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製 GM−26D型)を用い、60゜での表面光沢を測定した。
【0077】
(10)フィッシュアイ数
厚さ0.125mmのフィルム1m2中のフィッシュアイ数を、高速・高機能表面欠陥検査装置LSC−100(三菱レイヨン(株)製)で、光の透過率が75%以下となる1画素(0.4mm×0.5mm)以上の数を測定。
(11)印刷抜け数
フィルムに黒色全面(ベタ刷り)のグラビア印刷を行い、20m2のフィルム中の印刷抜けした数を目視にて測定し、1m2当たりの印刷抜け個数を求めた。
【0078】
(多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックス(1)の製造)
冷却器付き重合容器内に、イオン交換水195部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。
次いで、窒素下で撹拌しながら、MMA0.3部、BA4.5部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体混合物および乳化剤(1)1.3部からなる混合物を8分間かけて重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内重合体(A−1)の重合を完結した。
続いて、MMA1.5部、BA22.5部、BD1.0部、AMA0.25部からなる単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間で添加した後、60分間反応を継続させ、架橋弾性重合体(B−1)層を形成させた。
続いて、MMA6部、BA4部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の混合物を45分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(D−1)層を形成させた。
続いて、MMA55.2部、BA4.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部からなる単量体混合物を140分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外重合体(C−1)層を形成し、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックス(1)を得た。
【0079】
(多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックス(2)の製造)
攪拌機を備えた容器に、イオン交換水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、BA4.5部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体混合物を投入し、攪拌混合した。そこに乳化剤(1)1.3部を攪拌しながら投入し、更に20分間攪拌を継続し、乳化液(N−2)を調整した。得られた乳化液中の分散相の平均粒子径は10μmであった。
次に、冷却器付き重合容器内に、イオン交換水186.5部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。
続いて、窒素下で撹拌しながら、乳化液(N−2)を8分間かけて重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内重合体(A−2)の重合を完結した。
続いて、MMA1.5部、BA22.5部、BD1.0部、AMA0.25部からなる単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間で添加した後、60分間反応を継続させ、架橋弾性重合体(B−2)層を形成させた。
続いて、MMA6部、BA4部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の混合物を45分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(D−2)層を形成させた。
続いて、MMA55.2部、BA4.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部からなる単量体混合物を140分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外重合体(C−2)層を形成し、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックス(2)を得た。
【0080】
製造例1)
濾材にステンレス鋼製のメッシュ(線径 50μm、235メッシュ)を取り付けた図1の構成を有する濾過装置を用いて、アクリル樹脂ラテックス(1)を12時間、流速3m/Hで濾過した。この際、振幅長5.0mmの振幅運動、回転数を1000rpmの円運動により、濾材3上に残った凝集物に与える加速度を55m/sに調整した。本製造例で得られた多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックスの諸物性を表1に示す。なお、濾材3は、直径600mmであり、後述の製造例2〜8においても、同じ大きさの濾材3を使用した。
また、上記のごとく濾過して得られたアクリル樹脂ラテックス(1)に含有される多層構造重合体を酢酸カルシウム3部含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体を得た。多層構造重合体のゲル含有率は、60%であった。
【0081】
次に、上記多層構造重合体100部、配合剤として、アデカスタブLA−31RG(旭電化(株)製)2.1部、アデカスタブAO−50(旭電化(株)製)0.1部、アデカスタブLA−57(旭電化(株)製)0.3部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練してペレットを得た。得られたペレットの熱変形温度の結果を表1に示す。
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度70℃で、50μm厚みのアクリル樹脂フィルムを製膜した。得られたアクリル樹脂フィルムの諸物性を表1に示す。
【0082】
製造例2)
アクリル樹脂ラテックス(1)の代わりに、アクリル樹脂ラテックス(2)を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、アクリル樹脂フィルムを得た。
製造例で得られた多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックス、及びアクリル樹脂フィルムの諸物性を表1に示す。
【0083】
製造例3)
濾材にポリエステル製のメッシュ(線径 50μm、235メッシュ)を取り付けた図1の装置を用い、アクリル樹脂ラテックス(1)を12時間、流速3m/Hで濾過した。その際、濾材3の振幅長を3.5mm、回転数を1700rpmとし、凝集物に与える加速度を111m/sに調整した以外は、製造例1と同様の方法で、アクリル樹脂フィルムを得た。
製造例で得られた多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックス、及びアクリル樹脂フィルムの諸物性を表1に示す。
【0084】
製造例4)
濾材にポリエステル製のメッシュ(線径 48μm、282メッシュ)を取り付けた図1の構成を有する濾過装置を用いて、アクリル樹脂ラテックス(1)を12時間、流速3m/Hで濾過した。この際、振幅長3.5mmの振幅運動、及び回転数1200rpmの円運動により、濾材3上に残った凝集物に与える加速度を55m/sに調整した以外は製造例1と同様の方法により、アクリル樹脂フィルムを得た。
製造例で得られた多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックス、及びアクリル樹脂フィルムの諸物性を表1に示す。
【0085】
製造例5)
濾材にステンレス鋼製のメッシュ(線径50μm、235メッシュ)、及び濾材上部に水洗装置を取り付けた図の構成を有する濾過装置を用い、アクリル樹脂ラテックス(1)を12時間、流速3m/Hで、定期的に水洗(各ノズルの水圧0.7MPa、5分間隔で10秒間水洗)しながら濾過した。この際、振幅長5.0mmの振幅運動、及び回転数1000rpmの円運動により、濾材3上に残った凝集物に与える加速度を55m/sに調整して、多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックス(1)の諸物性を調べた。その結果を表1に示す。
また、上記のごとく濾過して得られたアクリル樹脂ラテックス(1)を用いて、製造例1と同様の方法で、アクリル樹脂フィルムを得た。得られたアクリル樹脂フィルムの諸物性を表1に示す。
【0086】
製造例6)
多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックス(1)の製造において、最外重合体(C−1)層を形成させるのに使用する単量体混合物をMMA58.2部、BA1.8部、n−OM0.19部、及びt−BH0.08部に変更する以外は、同様の方法で乳化重合を実施し、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックス(3)を得た。アクリル樹脂ラテックス(3)を用いたこと以外は、製造例1と同様の方法で、アクリル樹脂フィルムを得た。
製造例で得られた多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックス、及びアクリル樹脂フィルムの諸物性を表1に示す。
【0087】
製造例7
濾材にステンレス鋼製のメッシュ(線径 50μm、235メッシュ)を取り付けた図1の構成を有する濾過装置を用いて、アクリル樹脂ラテックス(1)を流速3m/Hで濾過した。この際、振幅長0mmの振幅運動、回転数1200rpmの円運動、即ち水平方向の円運動はあるが、垂直方向の振幅運動がない状態に調整して行った。
濾過開始後、濾材3上に残った凝集物の排出が不能になり、すぐに目詰まりが起こり濾過不能となった。
製造例で得られた多層構造重合体の評価、濾過後のアクリル樹脂ラテックスを表1に示す。
【0088】
製造例8
濾過処理しない以外は、製造例1と同様の方法で、アクリル樹脂フィルムを得た。
製造例で得られた多層構造重合体の評価、アクリル樹脂ラテックスを表1に示す。
【0089】
【表1】
Figure 0004601239
【0090】
表1から明らかなように、製造例1〜6で得られたアクリル樹脂フィルムは、透明性、表面光沢、および印刷性に優れている。
一方、製造例7では、濾材面に対して、垂直方向の振幅運動がなく、水平方向の円運動のみで濾過を行ったため、濾材上に残った凝集物の排出が不能となり、アクリル樹脂フィルムを製造することができなかった。
また、製造例8で得られたアクリル樹脂フィルムは、アクリル樹脂ラテックスの濾過処理を行わなかったために、フィッシュアイ数、印刷抜け数が多い品質に劣ったものであった。
【0091】
【発明の効果】
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造方法によれば、濾材上に残った凝集物等の除去作業の必要がなくなり、濾材が破損して交換する頻度を少なくすることができるため、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスの濾過を連続的に行うことが可能となる。
また、濾過装置に具備された水洗装置により、濾材の微細な網目構造の目の中に残留した凝集物が除去されるため、安定に濾材の目詰まりを防止することができる。
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造方法によれば、フィルム成形性、透明性、表面光沢、および印刷性に優れ、印刷後の印刷抜け等の外観不良が少ないアクリル樹脂フィルムを製造することができる。また、そのアクリル樹脂フィルムは各種工業材料、とりわけ積層用フィルム材料としての利用価値が高く、工業的に極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 濾過装置を側面から示す図である。
【図2】 水洗装置を付設した濾過装置を上面から示す図である。
【符号の簡単な説明】
1 フライウエイト
2 ラテックス供給管
2a 吐出口
3 濾材
4 排出口
5 ボトムボウル
6 ラテックス排出口
7 振動モーター
8 スプリング

Claims (7)

  1. 水平に設置された濾材が、該濾材の表面を基準として水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動する濾過装置を用いて、流量制御弁または流量制御装置によって流量を調整したアクリル樹脂ラテックスを、該ラテックス供給用の配管の吐出口から前記濾材のほぼ中央に供給し、濾過して、アクリル樹脂ラテックス中に含まれる凝集物を除去した後、該アクリル樹脂ラテックスを凝析して得られるアクリル樹脂をフィルム状に成形するアクリル樹脂フィルムの製造方法であって、
    前記濾過装置が水洗装置を具備し、該水洗装置から0.01〜2.0MPaの圧力の水が濾材のアクリル樹脂ラテックスを濾過する側の面に対して吹き出すことにより、濾材表面を洗浄することを特徴とするアクリル樹脂フィルムの製造方法。
  2. 前記濾材が円運動、及び振幅運動することにより、濾材上に残存した凝集物に、50m/s以上の加速度を与えることを特徴とする請求項1記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
  3. 前記濾過装置が直径をXとする円形の濾材を有し、該濾材による振幅運動の振幅長が、X/60〜X/200であることを特徴とする請求項1又は2記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
  4. 前記濾材が、線径10〜70μmのステンレス鋼又はポリエステル製の繊維から形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
  5. 前記濾材の目の大きさが、100〜600メッシュであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
  6. 前記アクリル樹脂が、内側から順に、最内重合体(A)、架橋弾性重合体(B)層、最外重合体(C)層を基本構造とする多層構造重合体であって、
    最内重合体(A)の構成成分として、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、及びグラフト交叉剤を含有し、
    架橋弾性重合体(B)層の構成成分として、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、及びグラフト交叉剤を含有し、
    最外重合体(C)層の構成成分として、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含有し、
    更に、架橋弾性重合体(B)層と最外重合体(C)層の間に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤を含み、かつ該アルキルアクリレート成分量が、架橋弾性重合体(B)層から最外重合体(C)層に向かって単調減少する中間重合体(D)層を少なくとも一層有することを特徴とする請求項1〜5記載のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
  7. 最内重合体(A)の構成成分である、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び/又は炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、及びグラフト交叉剤を含む単量体混合物を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応容器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間重合体(D)層、最外重合体(C)層を構成する単量体あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応容器に供給して、多層構造重合体を重合することを特徴とする請求項6に記載のアクリル樹脂フィルムの製造方法。
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